説明

錫電気めっき浴、錫めっき皮膜、錫電気めっき方法及び電子機器構成部品

【解決手段】水溶性錫塩と、無機酸及び有機酸並びにその水溶性塩から選ばれる1種又は2種以上と、水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩及び水溶性マンガン塩から選ばれる1種又は2種以上とを含有する錫電気めっき浴。
【効果】チップ部品、水晶発振子、バンプ、コネクタ、リードフレーム、フープ材、半導体パッケージ、プリント基板等の電子機器を構成する部品などに、錫−鉛合金めっき材料の代替としてウィスカ抑制効果の高い錫めっき皮膜を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫−鉛合金めっきの代替として有用な錫電気めっき浴、錫めっき皮膜、錫電気めっき方法及び電子機器構成部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、はんだ付けを必要とする部品、例えばチップ部品、水晶発振子、バンプ、コネクタ、リードフレーム、フープ材、半導体パッケージ、プリント基板などの電子機器を構成する部品等に対しては、錫−鉛合金めっきを施すことが行われ、プリント基板の製造などにおいて、錫−鉛合金めっき皮膜は、エッチングレジスト用としても広く使用されてきた。
【0003】
しかし近年、環境保護問題対策として鉛の使用規制が強まり、錫−鉛合金めっき材料の代替として鉛フリーのめっきが望まれるようになり、その一つとして鉛フリー錫合金めっきの開発が種々行われている。鉛フリーめっきとしては、例えば錫めっき、錫−銅合金めっき、錫−銀合金めっき、錫−ビスマス合金めっき等が挙げられる。しかし、従来の錫めっき皮膜にはウィスカと呼ばれるひげ状の結晶が発生しやすいことが知られており、このウィスカによって回路がショートするなどの問題が発生する。また、これまで開発されてきた鉛フリー錫合金めっき皮膜は、錫めっき皮膜に比べてウィスカの発生の抑制効果が見られるものの十分ではない。
【0004】
更に、鉛フリー錫合金めっきの場合、ウィスカ発生の抑制効果はあっても合金めっきであるため、2種以上の金属元素を管理する必要があるので、めっき浴管理が煩雑になりやすい。特に錫−銀合金めっき浴および錫−ビスマス合金めっき浴はめっき浴中での二金属元素間の電位差が大きいので、錫陽極板表面やめっきを施した被めっき物が無通電中にめっき浴中に浸漬したままの状態であると、それぞれ銀およびビスマスがそれらの表面に置換析出してしまい、使用できなくなる場合がある。
【0005】
ウィスカの発生を抑制するために、従来、以下のような方法(三菱電機技報,1979年,vol.53,No.11(非特許文献1)参照)が用いられているが、それぞれに問題がある。
(1)錫及び錫合金めっきの下地にニッケルめっきを実施する:ニッケル皮膜が素材の銅とめっきの錫との金属間化合物形成のバリアーとなり、ウィスカの発生を抑える。但し、必要な特性によりニッケルめっきができない部品が多数ある。
(2)錫及び錫合金めっきの膜厚を厚くする(10〜20μm以上):膜厚を厚くすると、金属間化合物の形成により生じた内部応力の影響が表面まで及ばないため、ウィスカの発生が抑制される。但し、電子部品によっては膜厚を厚くできない部品も多い。
(3)錫及び錫合金めっき後の熱処理、リフローの実施:錫及び錫合金めっき後に熱処理、リフローを実施することにより、予め安定な金属間化合物層(Cu3Sn等)を形成させるとともにめっき皮膜の内部応力を緩和し、ウィスカの発生を抑制する。但し、熱処理、リフローにより錫皮膜上に酸化皮膜が形成され、はんだ濡れ性の劣化が生じる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−293185号公報
【特許文献2】特開2005−2368号公報
【非特許文献1】三菱電機技報,1979年,vol.53,No.11
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、錫−鉛合金のめっきの代替として、はんだ付けの必要な各部品に対して良好なはんだ付け性を与え、あるいはエッチングレジスト用としても有効であると共に、ウィスカの発生を効果的に抑制することができ、錫めっき皮膜を高い生産性で形成し得る管理が容易で作業性の良い錫電気めっき浴、これを用いて形成した錫めっき皮膜、この錫電気めっき浴を用いた錫電気めっき方法、及び電子機器構成部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、錫電気めっき浴に水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩又は水溶性マンガン塩を添加することで、錫めっき皮膜へのウィスカの発生を抑制できること、また、素材銅合金とめっきの錫との金属間化合物のバリアー層としてニッケルや銀などの皮膜を設けることなくウィスカの発生を抑制できること、更に、熱処理やリフロー処理などを施さずにウィスカの発生を抑制できることから、はんだ濡れ性の劣化を防ぐことが可能であり、錫めっき皮膜のウィスカの発生を簡便な方法で効果的に抑制できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の錫電気めっき浴、錫めっき皮膜、錫電気めっき方法及び電子機器構成部品を提供する。
[1] 水溶性錫塩と、無機酸及び有機酸並びにその水溶性塩から選ばれる1種又は2種以上と、水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩及び水溶性マンガン塩から選ばれる1種又は2種以上とを含有することを特徴とする錫電気めっき浴。
[2] pHが1未満であることを特徴とする[1]記載の錫電気めっき浴。
[3] 水溶性錫塩が、アルカンスルホン酸錫(II)又はアルカノールスルホン酸錫(II)であることを特徴とする[1]又は[2]記載の錫電気めっき浴。
[4] 有機酸が、アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の錫電気めっき浴。
[5] 更に、非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の錫電気めっき浴。
[6] 非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型界面活性剤であることを特徴とする[5]記載の錫電気めっき浴。
[7] 更に、チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物を含有することを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載の錫電気めっき浴。
[8] チオアミド化合物が、チオ尿素、ジメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’−ジイソプロピルチオ尿素、アセチルチオ尿素、アリルチオ尿素、エチレンチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジド又はテトラメチルチオ尿素であり、非芳香族チオール化合物が、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、メルカプト乳酸又はそれらの水溶性塩であることを特徴とする[7]記載の錫電気めっき浴。
[9] [1]乃至[8]のいずれかに記載の錫電気めっき浴を用いて形成した炭素吸蔵量が0.1質量%C以下であることを特徴とする錫めっき皮膜。
[10] [1]乃至[8]のいずれかに記載の錫電気めっき浴を用いて被めっき物をめっきすることを特徴とする錫電気めっき方法。
[11] [1]乃至[8]のいずれかに記載の錫電気めっき浴を用いて錫めっき皮膜を形成した電子機器構成部品。
【0010】
錫電気めっき浴に水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩又は水溶性マンガン塩を添加した本発明の錫電気めっき浴では、タングステンイオン、モリブデンイオン、マンガンイオンは、錫めっき皮膜を形成する際に界面活性剤等と同様に主にインヒビタとして作用すると考えられる。そして、タングステンイオン、モリブデンイオン、マンガンイオンを含有する電気錫めっき浴でめっきされた皮膜は、それらを含有しない電気錫めっき浴から得られためっき皮膜と比べて効果的にウィスカの発生を抑制できる。但し、めっき条件等によっては、添加したタングステンイオン、モリブデンイオン、マンガンイオンが微量、電気化学的あるいは物理的に共析することは有り得る。
【0011】
本発明の錫電気めっき浴は、はんだ付け用あるいはエッチングレジスト用の従来の錫めっきや錫−鉛合金めっきの代替として、鉛フリーはんだめっきを必要とするチップ部品、水晶発振子、バンプ、コネクタ、リードフレーム、フープ材、半導体パッケージ、プリント基板などの電子機器等を構成するあらゆる部品に対して適用することができる。
【0012】
また、この錫電気めっき浴は、適用できる陰極電流密度範囲が広く、特に0.01〜100A/dm2の広い範囲でバレル、ラック、ラックレス、リール・ツー・リール、ロール・ツー・ロール(噴流、フロー等の高速めっき)などの各めっき方法により良好な錫めっき皮膜を得ることができ、また、セラミック、鉛ガラス、プラスチック、フェライト等の絶縁性材料を複合化した電子機器構成部品の該絶縁性材料に侵食、変形、変質等を生じさせることなく錫めっきを行うことができる。
【0013】
更に、この錫めっき浴は、高温での使用が可能で、浴中の2価錫イオンの濃度も高くできることから高速めっきが可能であり、高い生産性で錫めっき皮膜を形成でき、従来の錫−銀合金めっき浴や錫−ビスマス合金めっき浴のように置換析出の懸念も無く、管理が容易で作業性の高いものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チップ部品、水晶発振子、バンプ、コネクタ、リードフレーム、フープ材、半導体パッケージ、プリント基板等の電子機器を構成する部品などに、錫−鉛合金めっき材料の代替としてウィスカ抑制効果の高い錫めっき皮膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明の錫電気めっき浴は、水溶性錫塩と、無機酸及び有機酸並びにその水溶性塩から選ばれる1種又は2種以上と、水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩及び水溶性マンガン塩から選ばれる1種又は2種以上とを含有する。
【0016】
ここで、錫塩としては第1錫塩と第2錫塩があり、第1錫塩(錫塩(II))としては、メタンスルホン酸錫(II)等のアルカンスルホン酸錫(II)、イセチオン酸錫(II)等のアルカノールスルホン酸錫(II)などの有機スルホン酸錫(II)、硫酸錫(II)、ホウフッ化錫(II)、塩化錫(II)、臭化錫(II)、ヨウ化錫(II)、酸化錫(II)、リン酸錫(II)、ピロリン酸錫(II)、酢酸錫(II)、クエン酸錫(II)、グルコン酸錫(II)、酒石酸錫(II)、乳酸錫(II)、コハク酸錫(II)、スルファミン酸錫(II)、ホウフッ化錫(II)、ギ酸錫(II)、ケイフッ化錫(II)等が挙げられ、第2錫塩(錫塩(IV))としては、錫酸ナトリウム、錫酸カリウム等が挙げられるが、特にメタンスルホン酸錫(II)等のアルカンスルホン酸錫(II)、イセチオン酸錫(II)等のアルカノールスルホン酸錫(II)などの有機スルホン酸錫(II)が好ましく挙げられる。
【0017】
この場合、上記水溶性錫塩のめっき浴中での含有量は、錫として5〜100g/L、特に10〜70g/Lであることが好ましい。
【0018】
水溶性錫塩が、特にアルカンスルホン酸錫(II)又はアルカノールスルホン酸錫(II)であると、錫電気めっき浴に水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩又は水溶性マンガン塩を添加することによる錫めっき皮膜へのウィスカ抑制効果をさらに増大させることが出来る。
【0019】
また、めっき浴中の2価錫イオンを高濃度にすることが出来るので、ラックレスやリール・ツー・リール及びロール・ツー・ロール等への高速めっき法に適する。
【0020】
さらには、2価錫イオンの4価錫イオンへの酸化が硫酸錫(II)に比べて、進みにくいので、めっき浴の安定性が良く、浴寿命が長いなどの利点を有する。
【0021】
次に、無機酸及び有機酸並びにその水溶性塩としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、スルファミン酸、有機スルホン酸(脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸)、カルボン酸(脂肪族飽和カルボン酸、芳香族カルボン酸、アミノカルボン酸等)、縮合リン酸、ホスホン酸から選ばれる酸若しくはそれらの塩又はラクトン化合物が挙げられる。
【0022】
ここで、脂肪族スルホン酸又は芳香族スルホン酸としては、置換又は未置換のアルカンスルホン酸、ヒドロキシアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などが挙げられる。未置換アルカンスルホン酸は、Cn2n+1SO3H(但し、nは1〜5の整数、好ましくは1又は2である。)で示されるものが使用できる。
【0023】
未置換のヒドロキシアルカンスルホン酸は、下記式で示されるものが使用できる。
【0024】
【化1】

(但し、mは0,1又は2、kは1,2又は3である。)
【0025】
置換のアルカンスルホン酸、ヒドロキシアルカンスルホン酸は、そのアルキル基の水素原子の一部がハロゲン原子、アリール基、アルキルアリール基、カルボキシル基、スルホン酸基などで置換されたものが使用できる。
【0026】
一方、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸は、下記式で示されるものである。
【0027】
【化2】

【0028】
置換ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸は、ベンゼン環、ナフタレン環の水素原子の一部が水酸基、ハロゲン原子、アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、メルカプト基、アミノ基、スルホン酸基などで置換されたものが使用できる。
【0029】
具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、1−プロパンスルホン酸、2−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、2−ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、クロルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、3−ヒドロキシプロパンスルホン酸、1−ヒドロキシ−2−プロパンスルホン酸、2−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシペンタンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−スルホ酢酸、2−スルホプロピオン酸、3−スルホプロピオン酸、スルホコハク酸、スルホマレイン酸、スルホフマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホサリチル酸、ベンズアルデヒドスルホン酸、p−フェノールスルホン酸などが例示される。
【0030】
一方、カルボン酸は、脂肪族二重結合を有さないものが好ましい。具体的に脂肪族飽和カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸、グルコン酸等のモノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等のジカルボン酸、クエン酸、トリカルバリル酸等のトリカルボン酸などを挙げることができ、芳香族カルボン酸としては、フェニル酢酸、安息香酸、アニス酸などが挙げられる。また、アミノカルボン酸としては、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸などが挙げられる。
【0031】
縮合リン酸としては、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ポリリン酸(重合度5以上)、ヘキサメタリン酸などが挙げられ、ホスホン酸としては、アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸などが挙げられる。
【0032】
塩としては、上記酸のアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム、リチウム塩等)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム、カルシウム、バリウム塩等)、2価の錫塩、4価の錫塩、アンモニウム塩、有機アミン塩(モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等)などが挙げられる。また、ラクトン化合物としては、グルコノラクトン、グルコノヘプトラクトンなどが挙げられる。
【0033】
これら無機酸及び有機酸並びにその水溶性塩のめっき浴中の含有量は50g/L以上、特に100g/L以上が好ましく、また600g/L以下、より好ましくは400g/L以下であることが好ましい。少なすぎるとめっき浴の安定性が悪くなり、沈殿物が発生しやすくなる傾向となり、多すぎると効果のない過剰量となる傾向となる。
【0034】
無機塩及び有機酸並びにその水溶性塩が、特にアルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸であると、錫電気めっき浴に水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩又は水溶性マンガン塩を添加することによる錫めっき皮膜へのウィスカ抑制効果をさらに増大させることが出来る。
【0035】
また、めっき浴中の2価錫イオンを高濃度にすることが出来るので、ラックレスやリール・ツー・リール及びロール・ツー・ロール等への高速めっき法に適する。
【0036】
さらには、2価錫イオンの4価錫イオンへの酸化が硫酸やホウフッ化水素酸のような通常錫電気めっき浴に用いられる酸と比べて進みにくいので、めっき浴の安定性が良く、浴寿命が長いなどの利点を有する。
【0037】
また、本発明のめっき浴は、結晶調整剤として水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩及び水溶性マンガン塩から選ばれる1種又は2種以上を含有する。水溶性タングステンとしてはタングステン酸、タングステン(VI)酸ナトリウム・2水和物、タングステン酸カリウム、パラタングステン酸アンモニウムなど、水溶性モリブデン塩としてはモリブデン酸、モリブデン酸ナトリウム・2水和物、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム・4水和物など、水溶性マンガン塩としては硝酸マンガン(II)・6水和物、酢酸マンガン(II)・4水和物、塩化マンガン(II)・4水和物、硫酸マンガン(II)アンモニウム・6水和物などが挙げられる。
【0038】
これら水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩及び水溶性マンガン塩のめっき浴中の含有量はタングステン、モリブデン、マンガンとして0.01〜10g/L、好ましくは0.1〜2g/Lであることが好ましい。少なすぎると得られる錫めっき皮膜に対してウィスカの発生を抑制する効果が少なくなり、多すぎると得られる錫めっき皮膜の外観を劣化させ、皮膜物性を損なうことがある。
【0039】
本発明のめっき浴には、めっき皮膜表面を平滑緻密化させる作用とともに、他の平滑剤、光沢剤等の疎水性有機化合物を適切に分散させる目的で、必要に応じて非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤の1種又は2種以上を配合することができる。特に発泡性が低い非イオン界面活性剤を配合することにより、めっき処理の作業性が向上する。
【0040】
非イオン界面活性剤としては、アルキレンオキサイド系のものが好適であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコールエーテル、酸化エチレン酸化プロピレンブロック重合型、酸化エチレン酸化プロピレンランダム重合型、酸化プロピレン重合型などを使用することができるが、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが好ましく用いられる。また、界面活性剤の配合量は、めっき浴中0.01〜100g/L、特に5〜50g/Lであることが好ましく、少なすぎると高電流密度でヤケやコゲが発生する場合があり、多すぎるとめっき皮膜が黒っぽくなったり、色むらが発生するなどの不良を生じる場合がある。
【0041】
非イオン界面活性剤が、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであると、錫電気めっき浴に水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩及び水溶性マンガン塩を添加することによる錫めっき皮膜へのウィスカ抑制効果をさらに増大させることが出来る。
【0042】
また、めっき皮膜表面の平滑剤として使用される、チアゾール化合物、メルカプト基含有芳香族化合物、ジオキシ芳香族化合物や、光沢剤として使用される、アルデヒド化合物及び不飽和カルボン酸化合物などは疎水性のものが多いので、予め有機溶媒に溶解させてからめっき浴に添加するが、非イオン界面活性剤の内、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを有機溶媒とともにそれらの疎水性化合物を溶解させる目的で使用すると、その溶解性を著しく増大させることが出来る。
【0043】
また、本発明のめっき浴は、更に、チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物を添加することで、ウィスカ抑制効果が更に増大する。
【0044】
チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物としては、チオ尿素、ジメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’−ジイソプロピルチオ尿素、アセチルチオ尿素、アリルチオ尿素、エチレンチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジド、テトラメチルチオ尿素等の炭素数1〜15のチオアミド化合物又はメルカプト酢酸(チオグリコール酸)、メルカプトコハク酸(チオリンゴ酸)、メルカプト乳酸等の酸若しくはそれらの水溶性塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩など)などの炭素数2〜8の非芳香族チオール化合物を用いることができ、特に、チオ尿素、ジメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’−ジイソプロピルチオ尿素、アセチルチオ尿素、アリルチオ尿素、エチレンチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジド、テトラメチルチオ尿素又はメルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、メルカプト乳酸若しくはそれらの水溶性塩が好ましい。
【0045】
上記チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物のめっき浴中の含有量は1〜50g/L、特に2〜20g/Lとすることが好ましい。少なすぎるとその添加効果が十分に発揮し得ない場合があり、多すぎると析出するめっき皮膜の結晶の微細化を阻害する場合がある。
【0046】
本発明のめっき浴には必要に応じ、有機溶媒の1種又は2種以上を配合することができる。この場合、有機溶媒の例としては、2−プロパノールなどの1価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの2価アルコール(グリコール)類などが挙げられる。これら有機溶媒の配合量は、めっき浴中1〜200g/L、特に5〜100g/Lが好ましい。
【0047】
また、本発明のめっき浴には、めっき皮膜表面の平滑剤として、チアゾール化合物、メルカプト基含有芳香族化合物及びジオキシ芳香族化合物から選ばれる1種又は2種以上を添加することができる。チアゾール化合物、メルカプト基含有芳香族化合物及びジオキシ芳香族化合物としては、チアゾール、ベンゾチアゾール、6−アミノベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプト安息香酸、メルカプトフェノール、メルカプトピリジン、ヒドロキノン、カテコール等が挙げられる。
【0048】
これらチアゾール化合物、メルカプト基含有芳香族化合物及びジオキシ芳香族化合物のめっき浴中の配合量は0.001〜20g/L、特に0.001〜5g/Lとすることが好ましい。少なすぎると十分な効果が得られない場合があり、多すぎるとめっき浴中での溶解度を超えてしまい、めっき浴が不安定になり、濁りや沈殿を発生する場合が生ずる。
【0049】
更に、本発明のめっき浴には、めっき皮膜表面の光沢剤として、アルデヒド化合物及び不飽和カルボン酸化合物から選ばれる1種又は2種以上を添加することができる。アルデヒド化合物及び不飽和カルボン酸化合物としては、1−ナフトアルデヒド、2−ナフトアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、2,4−ジクロロベンズアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、サリチルアルデヒド、2−チオフェンアルデヒド、3−チオフェンアルデヒド、o−アニスアルデヒド、m−アニスアルデヒド、p−アニスアルデヒド、サリチルアルデヒドアリルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、安息香酸、フマル酸、フタル酸、シトラコン酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0050】
これらの成分をめっき浴に添加することにより、めっき皮膜外観に半光沢乃至光沢感を与え、緻密な表面にすることができ、プレシャー・クッカー・テスト等の高温高湿試験でのはんだ濡れ性を向上させることができる。これら不飽和カルボン酸及びアルデヒド化合物のめっき浴中の添加量は0.001〜50g/L、特に0.01〜10g/Lとすることができる。
【0051】
なお、有機物成分、特に光沢剤成分がめっき皮膜に吸蔵され、炭素化合物の吸蔵量が多くなると、錫めっき皮膜中の結晶格子を歪めてしまうことになり、めっき皮膜の内部応力が高くなる。その結果、その影響を受けてウィスカが発生しやすくなる。錫めっき皮膜への光沢剤の影響は、陰極電流密度など種々のめっき条件で変化するが、光沢剤成分を添加することにより吸蔵される皮膜中の炭素量を測定することで指標とすることができる。皮膜中の炭素吸蔵量は、めっき皮膜を高周波で燃焼させ、発生した二酸化炭素(CO2)量を赤外線分析することにより、容易に測定することができる。皮膜中の炭素吸蔵量が0.1質量%Cを超えると、ウィスカの抑制に悪影響を及ぼし始めるので、皮膜中の炭素吸蔵量が0.1質量%C以下、特に0.01質量%C以下となるように光沢剤等の有機物成分の種類及び量を選択することが好ましい。なお、本発明の錫電気めっき浴は光沢剤を用いない場合、又は光沢剤の配合量が1.0g/L以下、特に0.1g/L以下とした場合は、通常、皮膜中の炭素吸蔵量が0.1質量%C以下、特に0.01質量%C以下の錫めっき皮膜を形成することができる。
【0052】
本発明の錫電気めっき浴は酸性であることが好ましく、特にpHが1未満であることが好ましい。
【0053】
本発明のめっき浴を用いて電気めっきする方法としては常法が採用し得、ラック法でもバレル法でもよく、ラックレスやリール・ツー・リール及びロール・ツー・ロール等の高速めっき法を採用することもできる。陰極電流密度は、これらめっき法によって0.01〜100A/dm2、特に0.1〜30A/dm2の範囲で適宜選定されるが、バレルめっき法の場合は通常0.01〜1A/dm2、特に0.05〜0.5A/dm2であり、ラックめっき法の場合は通常0.5〜5A/dm2、特に1〜4A/dm2であり、高速めっき法の場合は通常5〜100A/dm2、特に5〜30A/dm2である。めっき温度は10〜60℃、特に20〜50℃とすることができ、撹拌は無撹拌でもよいが、カソードロッキング、スターラーによる撹拌、自動搬送装置による素材走行、ポンプによる液流動などの方法が採用し得る。陽極としては、可溶性陽極、即ち、通常錫を用いることが好ましいが、炭素、白金等の不溶性陽極でもよい。なお、本発明のめっき浴の陰極電流効率は、通常80〜99%である。
【0054】
一方、被めっき物の種類は、特に制限されず、電気めっき可能な導電性部分を有するものであればよく、銅等の金属等の導電性材料、又はこのような導電性材料とセラミック、鉛ガラス、プラスチック、フェライト等の絶縁性材料とが複合したものであってもよい。これら被めっき物は、その材質に応じた適宜な前処理を施した後、めっきに供される。
【0055】
具体的には、被めっき物として、チップ部品、水晶発振子、バンプ、コネクタ、リードフレーム、フープ材、半導体パッケージ、プリント基板等のあらゆる電子機器構成部品やその他の製品のはんだ材料を必要とする部分にウィスカ抑制効果の高い錫めっき皮膜を形成し得る。
【実施例】
【0056】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0057】
[実施例1〜24,比較例1〜12]
表1〜3に示す組成の錫めっき浴を調製した。このめっき浴に、常法によって前処理を施したりん青銅(C5191)製リードフレームを浸漬し、これを陰極とし、錫板を陽極として、浴温45℃、表1〜3に示す陰極電流密度でそれぞれ電気錫めっきを施し、膜厚2〜3μmの錫めっき皮膜を形成した。
【0058】
次いで、錫めっき皮膜を形成したリードフレームを温度30℃、相対湿度60%RHの恒温恒湿下で1週間放置した後、リードフレームの錫めっき皮膜表面を走査型電子顕微鏡によって微視観察し、単位面積(0.51mm×0.42mm≒0.21mm2)当たりの10μm以上のウィスカ本数を計測した。また、最長のウィスカ長さも測定した。10μm以上のウィスカのみを計測した理由は、電子情報技術産業協会規格の電気・電子機器用部品のウィスカ試験方法(JEITA ET−7410)のウィスカの定義に基づく。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】


上記結果から、本発明の錫電気めっき浴がウィスカの抑制効果が高い錫めっき皮膜を形
【0062】
成できるものであることがわかる。更に、チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物を添加しておらず、炭素吸蔵量が0.1質量%Cを超えるもの(実施例18、実施例24)に比べ、チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物を添加したもの(実施例13〜15、実施例19〜21)、チオアミド化合物及び非芳香族チオール化合物のいずれも添加していないが、炭素吸蔵量が0.1質量%C以下のもの(実施例16,17、実施例22,23)のいずれもウィスカ抑制効果が高いことがわかる。
【0063】
また、チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物の有無にかかわらず、炭素吸蔵量が増大すると、ウィスカ発生数、最長ウィスカ長さ共に増大することがわかる(実施例13〜15、実施例16〜18、実施例19〜21又は実施例22〜24を各々比較)。
【0064】
特に、チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物を添加し、かつ炭素吸蔵量が0.1質量%C以下のもの(実施例13、実施例19)は、ウィスカ抑制効果が最も高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性錫塩と、無機酸及び有機酸並びにその水溶性塩から選ばれる1種又は2種以上と、水溶性タングステン塩、水溶性モリブデン塩及び水溶性マンガン塩から選ばれる1種又は2種以上とを含有することを特徴とする錫電気めっき浴。
【請求項2】
pHが1未満であることを特徴とする請求項1記載の錫電気めっき浴。
【請求項3】
水溶性錫塩が、アルカンスルホン酸錫(II)又はアルカノールスルホン酸錫(II)であることを特徴とする請求項1又は2記載の錫電気めっき浴。
【請求項4】
有機酸が、アルカンスルホン酸又はアルカノールスルホン酸であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の錫電気めっき浴。
【請求項5】
更に、非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の錫電気めっき浴。
【請求項6】
非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型界面活性剤であることを特徴とする請求項5記載の錫電気めっき浴。
【請求項7】
更に、チオアミド化合物又は非芳香族チオール化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の錫電気めっき浴。
【請求項8】
チオアミド化合物が、チオ尿素、ジメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’−ジイソプロピルチオ尿素、アセチルチオ尿素、アリルチオ尿素、エチレンチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジド又はテトラメチルチオ尿素であり、非芳香族チオール化合物が、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、メルカプト乳酸又はそれらの水溶性塩であることを特徴とする請求項7記載の錫電気めっき浴。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の錫電気めっき浴を用いて形成した炭素吸蔵量が0.1質量%C以下であることを特徴とする錫めっき皮膜。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の錫電気めっき浴を用いて被めっき物をめっきすることを特徴とする錫電気めっき方法。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の錫電気めっき浴を用いて錫めっき皮膜を形成した電子機器構成部品。

【公開番号】特開2007−284733(P2007−284733A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111702(P2006−111702)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】