説明

鍵盤楽器の鍵盤蓋装置

【課題】鍵盤蓋を容易に開閉でき、開閉時の雑音を抑制することができる鍵盤楽器の鍵盤蓋装置を提供する。
【解決手段】左右の腕木3,3の間に配置された演奏部6を開閉する鍵盤楽器1の鍵盤蓋装置7であって、開放位置と閉鎖位置との間で前後方向にスライド自在の鍵盤蓋25と、前後方向に延びる第1ラック23と、後蓋27の左右の端部に前後方向に沿ってそれぞれ設けられた第2ラック33と、後蓋27に回転自在かつ前後方向に移動自在に取り付けられた回転軸38と、回転軸38の左右の端部にそれぞれ一体に設けられ、第1ラック23と第2ラック33の間に配置され、第1ピニオン41および第2ピニオン42を有し、第1および第2ピニオン41,42がそれぞれ第1および第2ラック23,33に噛み合う回転体と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器本体の左右の腕木の間に配置された鍵盤を含む演奏部を開閉する鍵盤楽器の鍵盤蓋装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鍵盤蓋装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵盤蓋装置は、電子ピアノに適用されたものであり、スライド式の鍵盤蓋を有している。鍵盤蓋は、前蓋および後蓋を有しており、左右の腕木の間に配置され、鍵盤を含む演奏部を開閉する。前蓋と後蓋は、それぞれ左右方向に延びるとともに、互いに回動自在に連結されている。
【0003】
また、鍵盤蓋は、回転軸、ピニオンおよびラックなどを介して、左右の腕木にスライド自在に支持されている。回転軸は、後蓋の後端部に回転自在に取り付けられており、その左右の端部にはそれぞれピニオンが一体に設けられている。ラックは、左右の腕木の内側面にそれぞれ設けられており、上面に多数の歯を有し、前後方向にほぼ水平に延びる水平部と、その後端から後ろ下がりに傾斜した状態で延びる傾斜部を有している。このラックにピニオンが係合している。
【0004】
以上の構成により、鍵盤蓋を閉鎖位置から後方に押すと、ピニオンは、ラックに噛み合った状態で回転しながら、ラックの後端まで後方にスライドし、ストッパ壁に当接することによって停止する。その後、鍵盤蓋をさらに後方に押すと、後蓋が下方に回動することにより、鍵盤蓋が、山形に折れ曲がることによって、所定の開放位置まで達し、演奏部を開放する。また、鍵盤蓋を開放位置から前方に引くことにより、上記と逆の動作によって、鍵盤蓋が所定の閉鎖位置まで移動し、演奏部を閉鎖する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−345357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この鍵盤蓋装置では、鍵盤蓋を開放する際、鍵盤蓋のスライド動作の後、回動動作を行われるため、鍵盤蓋の開放動作が2アクションになる。鍵盤蓋を閉鎖する際は、上記と逆の動作になる。以上のように鍵盤蓋の開閉動作が2アクションになるため、鍵盤蓋を開閉する際、必要な鍵盤蓋の操作力が変化する結果、鍵盤蓋の開閉動作を容易に行うことができない。
【0007】
また、鍵盤蓋の開閉動作が2アクションであるため、スライド動作の終了時に、ピニオンがストッパ壁に当接することによって雑音が発生するとともに、回動動作の終了時、後蓋が停止する際にも雑音が発生することによって、雑音が大きくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鍵盤蓋を容易に開閉でき、開閉時の雑音を抑制することができる鍵盤楽器の鍵盤蓋装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、楽器本体の左右の腕木の間に配置された鍵盤を含む演奏部を開閉する鍵盤楽器の鍵盤蓋装置であって、互いに回動自在に連結された前蓋および後蓋を有し、左右の腕木の間に配置され、演奏部を開放する開放位置と演奏部を閉鎖する閉鎖位置との間で前後方向にスライド自在の鍵盤蓋と、左右の腕木の内側面にそれぞれ設けられ、前後方向に延び、上面または下面に複数の歯を有する第1ラックと、後蓋の左右の端部に前後方向に沿ってそれぞれ設けられ、下面または上面に複数の歯を有する第2ラックと、左右方向に延び、後蓋に回転自在かつ前後方向に移動自在に取り付けられた回転軸と、回転軸の左右の端部にそれぞれ一体に設けられ、第1ラックと第2ラックの間に配置され、それぞれ回転軸の長さ方向に沿って配置された第1ピニオンおよび第2ピニオンを有し、第1ピニオンが第1ラックに噛み合い、第2ピニオンが第2ラックに噛み合う回転体と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この鍵盤楽器の鍵盤蓋装置によれば、鍵盤蓋に回転体が設けられており、この回転体は、回転軸の長さ方向に沿って配置された第1ピニオンおよび第2ピニオンを有するダブルピニオン式のものである。鍵盤蓋が閉鎖位置から後方に押されると、回転体は、第1ピニオンが第1ラックに噛み合い、第2ピニオンが第2ラックに噛み合った状態で、回転軸とともに回転しながら後方に移動する。それに伴い、鍵盤蓋が、所定の開放位置までスライドし、演奏部を開放する。また、鍵盤蓋は、開放位置から前方に引かれることにより、上記と逆の動作によって、所定の閉鎖位置までスライドし、演奏部を閉鎖する。
【0011】
また、鍵盤蓋が第1ラックに沿ってスライドする間に鍵盤蓋の開閉動作が終了するため、鍵盤蓋の開閉動作が1アクションになる。このため、鍵盤蓋をその開放動作の全体にわたってほぼ一定の操作力でスライドさせることができ、鍵盤蓋を容易に開閉することができる。また、鍵盤蓋の開閉動作が1アクションであるため、開閉動作に伴って発生する雑音を抑制することができる。
【0012】
また、鍵盤蓋を開放する際、回転体は、第1ピニオンが第1ラックに噛み合った状態で、回転しながら後方に移動するのに伴い、第2ピニオンおよびこれに噛み合う第2ラックを介して、鍵盤蓋を後方に駆動し、送り出す。一方、鍵盤蓋を閉鎖する際には、上記と逆の動作により、回転体は、前方に移動するのに伴い、鍵盤蓋を前方に送り出す。このような回転体による鍵盤蓋の送出し長さの分、鍵盤蓋の操作ストロークを短くすることができ、それにより、鍵盤蓋を効率良く開閉することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、後蓋の前後方向の全体にわたって配置されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第2ラックが後蓋の前後方向の全体にわたって配置されているので、後蓋の前後方向の長さとほぼ等しい鍵盤蓋の送出し長さを得ることができ、鍵盤蓋の送出し機能を効果的に発揮させることができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の鍵盤がきっきの鍵盤蓋装置において、第1ピニオンの径と第2ピニオンの径との比は、第1ラックの長さと第2ラックの長さとの比にほぼ等しく、鍵盤蓋は、閉鎖位置に位置するときに、第2ラックの後端部が前後方向において第1ラックの前端部とほぼ同じ位置に位置するように配置されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、鍵盤蓋が閉鎖位置にあるときに、回転体は、第1ラックの前端部および第2ラックの後端部に位置している。この閉鎖位置から鍵盤蓋を開放位置まで移動させると、上述したような第1および第2ピニオンの径の比と第1および第2ラックの長さの比との関係から、回転体は、第1ラックの前端部から後端部に移動するのと同時に、第2ラックの後端部から前端部に移動する。このときの第2ラックに対する回転体の移動距離は、回転体による鍵盤蓋の送出し長さに等しい。以上のように、第2ラックの長さとほぼ等しい鍵盤蓋の送出し長さを得ることができ、第2ラックの長さを最大限に活用しながら、鍵盤蓋の送出し機能をより確実に発揮させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、後蓋の後側の左右の端部から側方に突出する後ガイド突起をさらに備え、左右の腕木には、後ガイド突起に係合し、鍵盤蓋が開放位置に近づくにつれて、後蓋を下方に案内する後蓋案内溝が形成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、鍵盤蓋が移動する際、後蓋が、後ガイド突起を介して、後蓋案内溝で案内されることによって、鍵盤蓋の円滑な開閉動作を確保することができる。また、鍵盤蓋を開放する際、鍵盤蓋が開放位置に近づくにつれて、後蓋が、後蓋案内溝で案内され、下方に回動することにより、鍵盤蓋が山形に折れ曲がる。それにより、鍵盤蓋の前後方向の長さが短くなるため、鍵盤蓋をコンパクトに収納することができる。このため、鍵盤蓋の短縮長さ分、鍵盤楽器の前後方向の長さを短くすることができ、鍵盤楽器をコンパクト化することができる。
【0019】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、前蓋の前側の左右の端部から側方に突出する前ガイド突起をさらに備え、左右の腕木には、前後方向に延び、前ガイド突起に係合し、前ガイド突起を介して前蓋を案内する前蓋案内溝が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、鍵盤蓋が移動する際、前蓋が、前ガイド突起を介して、前蓋案内溝によって案内されるので、鍵盤蓋の円滑な開閉動作を確保することができる。また、前蓋案内溝が前後方向に延びているため、例えば、鍵盤蓋を開放する際、前蓋が誤って上方に持ち上げるように操作された場合でも、鍵盤蓋の動きが前蓋案内溝で規制されることによって、鍵盤蓋の損傷・破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の鍵盤蓋装置を含む電子ピアノを、模式的に示す側断面図である。
【図2】後蓋ガイドの周辺部分を示す部分拡大斜視図である。
【図3】鍵盤蓋を示す斜視図である。
【図4】鍵盤蓋装置のリバースラックブロックおよびダブルピニオンを含む部分を示す部分拡大斜視図である。
【図5】鍵盤蓋装置の動作を説明するための図であり、鍵盤蓋が(a)開放位置に位置する状態、(b)開放位置から1/3程度、開放した状態を示す。
【図6】鍵盤蓋装置の動作を説明するための図であり、鍵盤蓋が(a)開放位置から2/3程度、開放した状態、(b)開放位置に位置する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の鍵盤蓋装置を含む電子ピアノ(以下「ピアノ」という)1を示している。この電子ピアノ1は、棚板2上に設けられた左右の腕木3,3(1つのみ図示)と、鍵盤4およびその後方の操作パネル5を含み、腕木3,3の間に配置された演奏部6と、この演奏部6を開閉するための鍵盤蓋装置7を備えている。
【0023】
各腕木3は、前後方向および上下方向に延びる板状のものであり、その上面は、前部では後ろ上がりに傾斜し、中央部では水平になっており、後部では中央部よりも一段高く水平になっている。腕木3,3の後端部には、これらを上方から覆う、水平な屋根8と、後方から覆う、鉛直な背板9が取り付けられている。これらの左右の腕木3,3、屋根8、背板9および棚板2によって、演奏部6の後方に空間が形成されている。この空間には、スピーカ10(図2参照)、制御装置および放熱板(いずれも図示せず)などが収容され、それらは棚板2に取り付けられている。また、腕木3,3の前端部間には、左右方向に延びる口棒11が取り付けられている。
【0024】
図1〜図3に示すように、鍵盤蓋装置7は、前蓋ガイド21、後蓋ガイド22、鍵盤蓋25、リバースラックブロック31、回転軸38およびダブルピニオン39を備えている。これらのうち、前蓋ガイド21、後蓋ガイド22、リバースラックブロック31およびダブルピニオン39はいずれも、合成樹脂の成形品によって一体に形成され、左右一対で構成されている。
【0025】
図1に示すように、前蓋ガイド21は、各腕木3の内側面の前部の上端部にねじ止めされている。前蓋ガイド21は、後方に向かって斜め上方に直線的に延びる傾斜部21aと、この傾斜部21aの前端から下方に若干延びる鉛直部21bと、傾斜部21aの後端から後方に若干延びる水平部21cを有している。鉛直部21bは、鉛直に対して後ろ倒れに若干傾斜し、水平部21cは、水平に対して後ろ下がりに若干傾斜している。前蓋ガイド21には、その長さ方向の全体にわたって、内方に開口する前蓋案内溝21dが形成されている。
【0026】
後蓋ガイド22は、各腕木3の内側面の前蓋ガイド21よりも後ろ側にねじ止めされている(図2参照)。後蓋ガイド22は、第1ラック23を備えており、この第1ラック23は、所定の長さL1を有し、後蓋ガイド22の全体にわたって前後方向に直線的に延びており、その上面には多数の歯23aが並設されている。また、後蓋ガイド22の第1ラック23よりも下方には、後蓋案内溝24が形成されている。この後蓋案内溝24は、前後方向に延びる直線部24aと、この直線部24aの後端から後ろ下がりに円弧状に湾曲して延びる湾曲部24bで構成されている。
【0027】
図3に示すように、鍵盤蓋25は、前後方向および左右方向に延び、一定の厚さを有する板状のものである。また、鍵盤蓋25は、前蓋26と、その後ろ側の後蓋27を備えており、これらの前蓋26と後蓋27は、蝶番28によって回動自在に連結されている。蝶番28は、鍵盤蓋25の下面の左右の端部および中央の2箇所に、計4つ配置されている。
【0028】
また、前蓋26の前端部には、左右方向に延びるガイドピン取付部29が取り付けられ、このガイドピン取付部29の左右の各端部にはさらに、前蓋ガイドピン30が一体に取り付けられている。ガイドピン取付部29は、アルミニウムの押出成形品で構成されている。また、前蓋ガイドピン30は、鍵盤蓋25の左右の各端部から側方に突出し、前蓋ガイド21の前蓋案内溝21dに係合している(図1参照)。
【0029】
図4に示すように、リバースラックブロック31は、後蓋27の左右の端部に取り付けられている。また、リバースラックブロック31は、回転軸案内長孔32、第2ラック33、固定部34およびガイドシャフト取付部35を有している。回転軸案内長孔32は、リバースラックブロック31の左右方向の中央に配置され、左右方向に貫通し、前後方向に延びている。
【0030】
第2ラック33は、回転軸案内長孔32の上壁の外側に並設され、前後方向に延び、その長さL2は、後蓋27の前後方向の長さとほぼ同じであり、第1ラック23の長さL1よりも短い。また、第2ラック33の下面には、多数の歯33aが前後方向に並設されている。この歯33aのピッチは、第1ラック23の歯23aのピッチと同じである。
【0031】
固定部34は、回転軸案内長孔32の上壁の内側に並設されており、前後方向に延びる板状のものである。この固定部34には3つの孔(図示せず)が形成されており、リバースラックブロック31は、これらの孔に通されたねじ(図示せず)によって、鍵盤蓋25の下面に固定されている。
【0032】
ガイドシャフト取付部35は、リバースラックブロック31の後ろ側の下部に配置されており、左右方向に貫通するガイドシャフト取付孔35aを有している。このガイドシャフト取付孔35aには、後蓋ガイドシャフト36が固定されている(図2参照)。この後蓋ガイドシャフト36は、ガイドシャフト取付部35から外方に突出し、後蓋ガイド22の後蓋案内溝24に係合している。なお、後蓋27の後端部の中央部には、ガイドブロック37が取り付けられている(図3参照)。このガイドブロック37は、左側用または右側用のリバースラックブロック31をそのまま用いたものである。
【0033】
回転軸38は、リバースラックブロック31およびガイドブロック37の回転軸案内長孔32に通された状態で、左右方向に延びており、リバースラックブロック31を介して、後蓋27に回転自在かつ前後方向に移動自在に取り付けられている。
【0034】
ダブルピニオン39は、回転軸38の両端部に取り付けられている。ダブルピニオン39は、回転軸取付孔40aが形成された軸40を有し、この回転軸取付孔40aを介して回転軸38に固定されている。
【0035】
また、ダブルピニオン39は、軸40の長さ方向に沿って並設された第1ピニオン41および第2ピニオン42を有している。第1ピニオン41は、後蓋ガイド22の第1ラック23に載置された状態で噛み合い、第2ピニオン42は、リバースラックブロック31の第2ラック33に噛み合っている。また、第1ピニオン41の径D1および歯41aの数N1は、第2ピニオン42の径D2および歯42aの数N2よりもそれぞれ大きく、それらの比D1/D2(=N1/N2)は、第1ラック23の長さL1と第2ラック33の長さL2との比L1/L2にほぼ等しい。
【0036】
次に、図5および図6を参照しながら、鍵盤蓋装置7による鍵盤蓋25の開閉動作を説明する。図5(a)は、鍵盤蓋25が閉鎖位置にある状態を示しており、鍵盤蓋25は、演奏部6を上方から覆い、閉鎖している。また、この閉鎖状態では、第2ラック33の後端部は、前後方向において第1ラック23の前端部とほぼ同じ位置に位置しており、この部分にダブルピニオン39が位置している。さらに、前蓋26の前蓋ガイドピン30は、前蓋ガイド21の鉛直部21bの下縁に当接し、後蓋ガイドシャフト36は、後蓋案内溝24の直線部24aの前端部に位置している。
【0037】
この閉鎖状態から、鍵盤蓋25の前端部をつかみ、若干持ち上げた後、鍵盤蓋25を後方に押すと、ダブルピニオン39は、第1ピニオン41が第1ラック23に噛み合い、第2ピニオン42が第2ラック33に噛み合った状態で、回転軸38とともに同図の時計方向に回転しながら、後方に移動する。このダブルピニオン39の移動に伴い、鍵盤蓋25が後方にスライドし、演奏部6を開放し始める(図5(b)参照)。
【0038】
このスライドの際、鍵盤蓋25は、その前側の部分が、前蓋ガイドピン30を介して前蓋ガイド21の鉛直部21bおよび傾斜部21aによって案内され、後ろ側の部分が、後蓋ガイドシャフト36を介して後蓋案内溝24の直線部24aによって案内される。
【0039】
また、ダブルピニオン39は、第1ピニオン41が第1ラック23に噛み合った状態で、回転しながら後方に移動するのに伴い、第2ピニオン42およびこれに噛み合う第2ラック33を介して、鍵盤蓋25を後方に送り出す。
【0040】
その後、図5(b)に示すように、後蓋ガイドシャフト36が後蓋案内溝24の直線部24aに位置している間は、鍵盤蓋25はほぼ平板状に保持される。その後、鍵盤蓋25がさらにスライドし、後蓋ガイドシャフト36が後蓋案内溝24の直線部24aから湾曲部24bに移行すると、図6(a)に示すように、後蓋27が湾曲部24bに沿って下方に案内され、前蓋26に対して下方に回動することにより、鍵盤蓋25が山形に折れ曲がる。
【0041】
その後、鍵盤蓋25がさらにスライドし、ダブルピニオン39が第1ラック23の後端部まで移動したときに、鍵盤蓋25が開放位置に達し、演奏部6が開放される(図6(b))。この開放状態では、第2ラック33の前端部は第1ラック23の後端部付近に位置しており、この部分にダブルピニオン39が位置している。これは、前述したように、第1および第2ピニオン41,42の径の比D1/D2と第1および第2ラック23,33の長さの比L1/L2がほぼ等しいという関係から、ダブルピニオン39による鍵盤蓋25の送出し長さが、第2ラック33の長さとほぼ等しいためである。
【0042】
また、この開放状態では、後蓋ガイドシャフト36は後蓋案内溝24の湾曲部24bの下縁に当接し、前蓋ガイドピン30は前蓋ガイド21の水平部21cに位置している。前述したように、水平部21cは水平に対して若干後ろ下がりに傾斜しているため、鍵盤蓋25は、前方にスライドすることなく、開放位置に安定して保持される。
【0043】
一方、この開放状態から鍵盤蓋25を前方に引くと、上記と逆の動作によって、鍵盤蓋25は、閉鎖位置までスライドし、演奏部6を閉鎖する。
【0044】
以上のように、本実施形態によれば、第1ラック23が前後方向に直線的に延びるとともに、鍵盤蓋25が第1ラック23に沿ってスライドする間に、その開閉動作が終了するので、鍵盤蓋23の開閉動作が1アクションで滑らかになる。このため、鍵盤蓋25をその開放動作の全体にわたってほぼ一定の操作力で前後方向にスライドさせることができ、鍵盤蓋25を容易に開閉することができる。
【0045】
また、ダブルピニオン39は、鍵盤蓋25を開放する際、鍵盤蓋25を後方に駆動し、送り出すとともに、鍵盤蓋25を閉鎖する際には、鍵盤蓋25を前方に送り出す。このようなダブルピニオン39による鍵盤蓋25の送出し長さの分、鍵盤蓋25の操作ストロークを短くすることができ、それにより、鍵盤蓋25を効率良く開閉することができる。
【0046】
また、第2ラック33が後蓋27の前後方向の全体にわたって配置されているので、後蓋27の前後方向の長さとほぼ等しい鍵盤蓋25の送出し長さを得ることができ、鍵盤蓋25の送出し機能を効果的に発揮させることができる。
【0047】
また、前述したような第1および第2ピニオン41,42の径の比と第1および第2ラック23,33の長さの比がほぼ等しいという関係から、鍵盤蓋25が閉鎖位置と開放位置の間で移動したときに、第2ラック33の長さとほぼ等しい鍵盤蓋25の送出し長さを得ることができ、第2ラック33の長さを最大限に活用しながら、鍵盤蓋25の送出し機能をより確実に発揮させることができる。
【0048】
また、前蓋35が前蓋案内溝21dで案内されるとともに、後蓋27が後蓋案内溝24で案内されるので、鍵盤蓋25の円滑な開閉動作を確保することができる。さらに、前蓋ガイド21の傾斜部21aが前後方向に斜めに延びているため、例えば、鍵盤蓋25を開放する際、前蓋26が誤って上方に持ち上げるように操作された場合でも、鍵盤蓋25の動きが前蓋案内溝21dで規制されることによって、鍵盤蓋25の損傷・破損を防止することができる。
【0049】
また、鍵盤蓋25を開放する際、後蓋27が、湾曲部24bで案内され、下方に回動することにより、鍵盤蓋25の前後方向の長さが短くなるため、鍵盤蓋25をコンパクトに収納することができる。このため、鍵盤蓋25の短縮長さ分、ピアノ1の前後方向の長さを短くすることができ、ピアノ1をコンパクト化することができる。
【0050】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、上面に歯23aを有する第1ラック23が下側に、下面に歯33aを有する第2ラック33が上側に配置されているが、この配置を上下逆にしてもよい。
【0051】
また、実施形態は、本発明を電子ピアノに適用した例であるが、これに限らず、スライド式の鍵盤蓋を有する他の鍵盤楽器、例えば、電子オルガンやシンセサイザなどにも適用することができる。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 電子ピアノ(鍵盤楽器)
3 腕木
4 鍵盤
6 演奏部
7 鍵盤蓋装置
21d 前蓋案内溝
23 第1ラック
23a 歯
24 後蓋案内溝
25 鍵盤蓋
26 前蓋
27 後蓋
30 前蓋ガイドピン(前ガイド突起)
33 第2ラック
33a 歯
36 後蓋ガイドシャフト(後ガイド突起)
38 回転軸
39 ダブルピニオン(回転体)
41 第1ピニオン
42 第2ピニオン
L1 第1ラックの長さ
L2 第2ラックの長さ
D1 第1ピニオンの径
D2 第2ピニオンの径
D1/D2 第1ピニオンの径と第2ピニオンの径との比
L1/L2 第1ラックの長さと第2ラックの長さとの比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器本体の左右の腕木の間に配置された鍵盤を含む演奏部を開閉する鍵盤楽器の鍵盤蓋装置であって、
互いに回動自在に連結された前蓋および後蓋を有し、前記左右の腕木の間に配置され、前記演奏部を開放する開放位置と前記演奏部を閉鎖する閉鎖位置との間で前後方向にスライド自在の鍵盤蓋と、
前記左右の腕木の内側面にそれぞれ設けられ、前後方向に延び、上面または下面に複数の歯を有する第1ラックと、
前記後蓋の左右の端部に前後方向に沿ってそれぞれ設けられ、下面または上面に複数の歯を有する第2ラックと、
左右方向に延び、前記後蓋に回転自在かつ前後方向に移動自在に取り付けられた回転軸と、
当該回転軸の左右の端部にそれぞれ一体に設けられ、前記第1ラックと前記第2ラックの間に配置され、それぞれ前記回転軸の長さ方向に沿って配置された第1ピニオンおよび第2ピニオンを有し、前記第1ピニオンが前記第1ラックに噛み合い、前記第2ピニオンが前記第2ラックに噛み合う回転体と、
を備えることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。
【請求項2】
前記第2ラックは、前記後蓋の前後方向の全体にわたって配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。
【請求項3】
前記第1ピニオンの径と前記第2ピニオンの径との比は、前記第1ラックの長さと前記第2ラックの長さとの比にほぼ等しく、前記鍵盤蓋は、前記閉鎖位置に位置するときに、前記第2ラックの後端部が前後方向において前記第1ラックの前端部とほぼ同じ位置に位置するように配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。
【請求項4】
前記後蓋の後側の左右の端部から側方に突出する後ガイド突起をさらに備え、
前記左右の腕木には、前記後ガイド突起に係合し、前記鍵盤蓋が前記開放位置に近づくにつれて、前記後蓋を下方に案内する後蓋案内溝が形成されていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。
【請求項5】
前記前蓋の前側の左右の端部から側方に突出する前ガイド突起をさらに備え、
前記左右の腕木には、前後方向に延び、前記前ガイド突起に係合し、当該前ガイド突起を介して前記前蓋を案内する前蓋案内溝が形成されていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−70110(P2011−70110A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223051(P2009−223051)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】