説明

鍵盤楽器の鍵盤装置

【課題】押鍵時や離鍵時における鍵の横振れを防止でき、それにより、鍵の安定した回動を確保することができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供する。
【解決手段】鍵盤シャーシ2と、鍵盤シャーシ2に回動自在に支持された複数の鍵5と、複数の鍵5の上限位置を規制するための鍵ストッパ24と、を備え、複数の鍵5のうちの所定の鍵4は、前後方向に延びるとともに、後端部において鍵盤シャーシ2に回動自在に支持された鍵本体4aと、鍵本体4aの前端部の下方に、鍵本体4aの前面よりも前方に突出した状態で、鍵本体4aと一体に設けられ、離鍵時に鍵ストッパ24に下方から当接することにより、鍵4の上限位置を規制する上限位置規制凸部4cと、を有しており、鍵盤シャーシ2に所定の鍵4に対応して設けられ、上限位置規制凸部4cを左右方向に不動な状態で上下方向に案内する鍵ガイド25を、さらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどに用いられる鍵盤楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ピアノの鍵盤装置として、例えば、本出願人がすでに出願した特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵盤装置は、樹脂成形品からなるシャーシと、このシャーシに回動自在に支持され、白鍵および黒鍵からなる複数の鍵とを備えている。各鍵は、前後方向に延びるとともに、断面が下方に開放する逆U字状に形成され、後端部においてシャーシに回動自在に支持されている。また、各鍵の前半部の所定位置には、下方に所定長さ突出しかつその下端部が後方に屈曲するように形成された、側面形状がL字状のストッパ部が設けられている。一方、シャーシには、鍵のストッパ部が貫通する鍵通過孔が、鍵ごとに形成されるとともに、鍵通過孔の直ぐ後ろ側の上下にそれぞれ、鍵下限ストッパおよび鍵上限ストッパが設けられている。また、シャーシには、各白鍵および黒鍵にそれぞれ対応する位置に、白鍵用および黒鍵用の鍵ガイドが立設されている。これらの鍵ガイドは、対応する鍵の内側の横幅とほぼ同じ幅寸法を有しており、鍵の内側に下方から挿入されている。そして、これらの鍵ガイドのうち、白鍵用の鍵ガイドは、白鍵の内側前面付近に配置される一方、黒鍵用の鍵ガイドは、黒鍵のストッパ部よりも後方でかつ鍵下限ストッパの直ぐ後ろ側に配置されている。
【0003】
このように構成された鍵盤装置では、鍵が押鍵されると、その鍵は、鍵ガイドで案内されることで、左右方向のぶれ(以下「横振れ」という)が抑制されながら、下方に回動し、鍵下限ストッパに上方から当接する。この状態から鍵が離鍵されると、その鍵は、押鍵時と同様に鍵ガイドで横振れが抑制されながら、上方に回動し、鍵のストッパ部が鍵上限ストッパに下方から当接することによって停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−122654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の鍵盤装置の各鍵は、鍵ガイドに係合する前側部分と、回動自在に支持された後端部とによる前後2箇所で、シャーシに支持されることによって、押鍵時および離鍵時に回動する際の横振れが抑制されている。しかし、鍵ガイドは、各鍵の前端よりも後方に位置しているため、鍵の前端付近の横振れを十分に抑制できないことがある。特に、黒鍵用の鍵ガイドは、黒鍵のストッパ部よりも後方で、黒鍵の前端から比較的大きく離れた位置に配置されているため、黒鍵において横振れが生じやすい。このような横振れが押鍵時や離鍵時に発生すると、鍵ががたつき、安定した回動が得られなくなる。したがって、上記の鍵盤装置には改善の余地がある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、押鍵時や離鍵時における鍵の横振れを防止でき、それにより、鍵の安定した回動を確保することができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵盤シャーシと、この鍵盤シャーシに回動自在に支持されるとともに左右方向に並設された複数の鍵と、鍵盤シャーシに設けられ、複数の鍵の上限位置を規制するための鍵ストッパと、を備え、複数の鍵のうちの所定の鍵は、前後方向に延びるとともに、後端部において鍵盤シャーシに回動自在に支持された鍵本体と、この鍵本体の前端部の下方に、鍵本体の前面よりも前方に突出した状態で、鍵本体と一体に設けられ、離鍵時に鍵ストッパに下方から当接することにより、鍵の上限位置を規制する上限位置規制凸部と、を有しており、鍵盤シャーシに所定の鍵に対応して設けられ、上限位置規制凸部を左右方向に不動な状態で上下方向に案内する鍵ガイドを、さらに備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、複数の鍵が、鍵盤シャーシに回動自在に支持されるとともに左右方向に並設されている。また、これらの鍵のうちの所定の鍵は、前後方向に延びるとともに後端部において回動自在に支持された鍵本体の前端部の下方に、上限位置規制凸部を有している。この上限位置規制凸部は、鍵本体の前面よりも前方に突出した状態で、鍵本体と一体に設けられている。したがって、所定の鍵は、押鍵された状態から離鍵されると、元の離鍵状態に復帰回動し、上限位置規制凸部が鍵盤シャーシに設けられた鍵ストッパに下方から当接して停止する。これにより、所定の鍵は、その上限位置が規制される。
【0009】
また、所定の鍵の上限位置規制凸部は、鍵盤シャーシに設けられた鍵ガイドにより、左右方向に不動な状態で上下方向に案内される。前述したように、上限位置規制凸部は、鍵本体の前面よりも前方に突出しているので、この上限位置規制凸部の横振れが鍵ガイドで防止されることによって、鍵本体の前端付近の横振れを確実に防止でき、それにより、鍵の安定した回動を確保することができる
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、所定の鍵は、黒鍵であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、従来の鍵盤装置において横振れが生じやすかった黒鍵の横振れを、確実に防止することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、鍵ガイドは、上限位置規制凸部の両側に、互いに対向しかつ上下方向に延びるように配置された左右2つのガイド部を有していることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、上記のように構成された左右2つのガイド部によって、上限位置規制凸部を左右方向に不動な状態で上下方向に案内する鍵ガイドを、簡単な構成で容易に実現することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、鍵ガイドは、鍵盤シャーシと一体に成形されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、鍵盤シャーシの製造時に、鍵ガイドが鍵盤シャーシと一体に成形されるので、鍵ガイドが鍵盤シャーシと別体に構成され、鍵盤シャーシの製造後に後付けされる場合に比べて、鍵ガイドを有する鍵盤シャーシを効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示す図であり、(a)は白鍵を中心とする側面図、(b)は黒鍵を中心とする側面図、(c)は黒鍵の上限位置規制凸部を中心とする拡大図、(d)は(c)のd−d線に沿って切断した断面図である。
【図2】鍵盤装置の一部を示す平面図である。
【図3】図1の鍵盤装置を、黒鍵の押鍵状態において示す図であり、(a)は側面図、(b)は上限位置規制凸部を中心とする拡大図、(c)は(b)のc−c線に沿って切断した断面図である。
【図4】黒鍵用鍵ガイドの変形例を説明するための図であり、(a)および(b)は図1(c)および(d)にそれぞれ対応する離鍵状態を示し、(c)および(d)は図3(b)および(c)にそれぞれ対応する押鍵状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1(a)、(b)および図2は、本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を示している。これらの図に示すように、この鍵盤装置1は、鍵盤シャーシ2と、この鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた白鍵3および黒鍵4から成る複数(例えば88個)の鍵5と、鍵5ごとに鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた複数のハンマー6(図1(a)、(b)では1つのみ図示)などを備えている。なお、以下の説明では、白鍵3と黒鍵4を特に区別しない場合には、単に「鍵5」というものとする。
【0018】
鍵盤シャーシ2は、所定の樹脂材料(例えばABS樹脂)を射出成形することなどにより、所定形状に成形された樹脂成形品で構成されている。鍵盤シャーシ2の前部(図1(a)、(b)の右部)11、中間部12および後部(図1(a)、(b)の左部)13は、互いにリブ(図示せず)によって連結された状態で、一体に構成されている。また、これらの前部11、中間部12および後部13はそれぞれ、左右方向(図1(a)、(b)の表裏方向)に延びる前側取付けレール14、中間取付けレール15および後側取付けレール16を介して、電子ピアノの図示しない棚板上に固定されている。なお、以下の説明では、鍵盤シャーシ2の前部11、中間部12および後部13をそれぞれ、「シャーシ前部11」、「シャーシ中間部12」および「シャーシ後部13」というものとする。
【0019】
シャーシ前部11には、上下方向に貫通する左右2つの係合孔21(図1(a)、(b)では1つのみ図示)を一組として、白鍵3ごとに設けられた複数組の係合孔21を有しており、各組の両係合孔21に、対応する白鍵3の後述する左右の上限位置規制部3cが貫通した状態で係合している。また、シャーシ前部11には、係合孔21の前側の下縁部に、白鍵3の上限位置を規制するための白鍵用鍵ストッパ22が取り付けられている。この白鍵用鍵ストッパ22は、フェルトなどで構成され、シャーシ前部11の左右方向の全体にわたる1本の帯状のものとして形成されている。離鍵状態において、白鍵3の上限位置規制部3cが白鍵用鍵ストッパ22に下方から当接することで、白鍵3の上限位置が規制される。さらに、シャーシ前部11には、白鍵3が回動する際に、それを上下方向に案内するとともに横振れを防止するための複数の白鍵用鍵ガイド23(図1(a)、(b)では1つのみ図示)が、白鍵3ごとに立設されている。各白鍵用鍵ガイド23は、白鍵3の内側の横幅(左右方向の幅)とほぼ同じ幅寸法を有していて、白鍵3の内側に下方から挿入されている。
【0020】
また、シャーシ前部11の後部には、図1(c)、(d)に示すように、ストッパ取付け部11aが設けられており、このストッパ取付け部11aの下面に、黒鍵4の上限位置を規制するための黒鍵用鍵ストッパ24(鍵ストッパ)が取り付けられている。この黒鍵用鍵ストッパ24は、前記白鍵用鍵ストッパ22と同様、フェルトなどで構成されるとともに、シャーシ前部11の左右方向の全体にわたる1本の帯状に形成されている。離鍵状態において、黒鍵4の後述する上限位置規制凸部4cが、黒鍵用鍵ストッパ24に下方から当接することで、黒鍵4の上限位置が規制される。
【0021】
また、シャーシ前部11の黒鍵用鍵ストッパ24の下方には、黒鍵4の上限位置規制凸部4cを上下方向に案内する黒鍵用鍵ガイド25(鍵ガイド)が設けられている。図1(c)および(d)に示すように、黒鍵用鍵ガイド25は、黒鍵4の上限位置規制凸部4cの両側に、互いに対向しかつ上下方向に延びるように配置された左右2つのガイド部25a、25aで構成されている。両ガイド部25a、25aは、シャーシ前部11と一体に構成されており、鍵盤シャーシ2の製造時に一体に成形される。
【0022】
シャーシ中間部12は、左右方向に延びる支軸12aを有しており、この支軸12aにハンマー6が回動自在に支持されている。また、シャーシ中間部12には、シャーシ前部11との間に、各鍵5の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ27が取り付けられている。この鍵スイッチ27は、プリント基板27aと、このプリント基板27a上に鍵5ごとに取り付けられたゴムスイッチからなるスイッチ本体27bとで構成されている。そして、この鍵スイッチ27は、プリント基板27aの後端部がシャーシ中間部12に差し込まれるとともに、プリント基板27aの前端部がシャーシ前部11にねじ止めされた状態で、鍵盤シャーシ2に取り付けられている。
【0023】
シャーシ後部13は、鍵5の後端部に設けられた後述する支点軸5aを支持することにより、この支点軸5aを中心として、鍵5を回動自在に支持する鍵支持部28を有している。また、鍵支持部28の下面後端部には、フェルトなどで構成されたハンマーストッパ29が取り付けられている。さらに、鍵支持部28の前端部には、隣り合う鍵5、5の後端部間ごとに、後側鍵ガイド28aが立設されており、2つの後側鍵ガイド28a、28aによって、それらの間に位置する鍵5の後端部の横振れが防止される。
【0024】
また、シャーシ後部13とシャーシ中間部12との間には、鍵5とハンマー6の間に、ほぼ水平な平板部31が設けられている。この平板部31の前端部には、黒鍵4が回動する際に、それを上下方向に案内するとともに横振れを防止するための複数の中間鍵ガイド32(図1(a)、(b)では1つのみ図示)が、黒鍵4ごとに立設されている。この中間鍵ガイド32は、白鍵3の前記白鍵用鍵ガイド23と同様、対応する黒鍵4の内側の横幅と同じ幅寸法を有し、黒鍵4の内側に下方から挿入されている。
【0025】
なお、平板部31には、ハンマー6ごとに、平板部31の下面から斜め下前方に突出し、弾性材料で構成されたレットオフ部材33が取り付けられている。このレットオフ部材33は、押鍵に伴って回動するハンマー6が、その回動中に一時的に係合することにより、鍵5のタッチ感にレットオフ感を付与するためのものである。
【0026】
鍵5は、所定の樹脂材料(例えばASなど)を射出成形することなどによって成形されており、前後方向に延びるとともに、断面が下方に開放する逆U字状に形成され、後端部の左右両側に突設された支点軸5aを中心として鍵盤シャーシ2に回動自在に支持された鍵本体(白鍵3の鍵本体3a、黒鍵4の鍵本体4a)を有している。
【0027】
白鍵3は、図1(a)に示すように、鍵本体3aの前後方向の中央よりも前寄りの所定位置に、下方に所定長さ突出するアクチュエータ部3bを有しており、このアクチュエータ部3bが、ハンマー6の後述する係合凹部36bに収容された状態で、これに係合している。また、白鍵3は、鍵本体3aの前端部から下方に所定長さ突出しかつその下端部が前方に屈曲するように形成された左右一対の上限位置規制部3c、3c(図1(a)では1つのみ図示)を有しており、両上限位置規制部3c、3cが、シャーシ前部11の対応する前記係合孔21、21にそれぞれ貫通した状態で係合している。
【0028】
一方、黒鍵4は、図1(b)に示すように、鍵本体4aの前端部から下方に所定長さ突出するアクチュエータ部4bを有しており、このアクチュエータ部4bが、白鍵3のアクチュエータ部3bと同様、ハンマー6の係合凹部36bに係合している。また、黒鍵4は、鍵本体4aの前端部の下方に、アクチュエータ部4bの所定位置から鍵本体4aの前面よりも前方に突出する上限位置規制凸部4cを有している。この上限位置規制凸部4cは、黒鍵用鍵ガイド25の左右のガイド部25a、25a間に位置し、左右方向に不動にかつ上下方向に摺動自在な状態で、黒鍵用鍵ガイド25に係合している。
【0029】
図1(a)、(b)に示すように、ハンマー6は、ハンマー本体34と、このハンマー本体34に着脱自在に取り付けられた錘35とで構成されている。ハンマー本体34は、所定の樹脂材料(例えばポリアセタール)を射出成形することなどにより、所定形状に成形された樹脂成形品で構成されている。このハンマー本体34は、前後方向に延び、その前半部(図1(a)、(b)の右半部)36の所定位置に、側面形状が下方に開放するU字状の軸受部36aを有しており、この軸受部36aが、シャーシ中間部12の支軸12aに回動自在に係合している。また、ハンマー本体34の前半部36には、軸受部36aの前方に、白鍵3または黒鍵4のアクチュエータ部3bまたは4bに係合する係合凹部36bが設けられている。この係合凹部36bは、上方および前方に開放しており、白鍵3または黒鍵4のアクチュエータ部3bまたは4bの下端が係合凹部36b内の底面に当接した状態で、アクチュエータ部3bまたは4bの下部を収容している。さらに、ハンマー本体34の前半部36には、係合凹部36bの下側に、鍵スイッチ27のスイッチ本体27bを押圧するためのスイッチ押圧部36cが設けられている。
【0030】
ハンマー本体34の後半部である錘取付け部37は、左方(図1(a)、(b)の表側)に開放する開口部37aを有しており、この開口部37aを介して、錘35がハンマー本体34に着脱自在に取り付けられている。また、ハンマー本体34の錘取付け部37の所定位置には、上方に突出し、押鍵時に、前記レットオフ部材33に係合する係合突起37bが設けられている。
【0031】
一方、錘35は、ハンマー本体34よりも比重の大きな材料(例えば鉄などの金属)で構成され、ハンマー本体34の厚さ(図1(a)、(b)の表裏方向の厚さ)よりも薄い金属板をプレス加工することなどによって、所定形状に形成されている。この錘35は、前後方向に延び、その前半部が、ハンマー本体34の錘取付け部37に取り付けられ、後半部が、シャーシ後部13の後端付近まで後方に延びている。
【0032】
以上のように構成された鍵盤装置1では、図1(a)、(b)に示す離鍵状態において、鍵5を押鍵すると、例えば黒鍵4を押鍵した図3(a)に示すように、押鍵された鍵5が後端部の支点軸5aを中心として時計方向に回動する。これに伴い、鍵5のアクチュエータ部3bまたは4bが、ハンマー6の係合凹部36bを下方に押圧する。それにより、ハンマー6は、シャーシ中間部12の支軸12aを中心として時計方向に回動しながら、スイッチ押圧部36cで鍵スイッチ27のスイッチ本体27bを上方から押圧する。またこの場合、ハンマー6は、その後端部(錘35の後端部)がシャーシ後部13のハンマーストッパ29に下方から当接することによって、それ以上の回動が阻止される。以上の押鍵動作により、ハンマー6の重量およびトルクに応じた所定のタッチ重さが、鍵5に付与されるとともに、鍵5の押鍵情報が鍵スイッチ27を介して検出される。
【0033】
一方、押鍵した鍵5を離鍵すると、ハンマー6が上記と逆方向に回動し、それに伴い、鍵5が、アクチュエータ部3bまたは4bを介して押し上げられることにより、上記と逆方向に回動する。そして、白鍵3の場合には、上限位置規制部3cが白鍵用鍵ストッパ22に下方から当接する一方、黒鍵4の場合には、上限位置規制凸部4cが、黒鍵用鍵ガイド25で案内されながら、黒鍵用鍵ストッパ24に下方から当接する。これにより、鍵5のそれ以上の回動が阻止され、図1(a)および(b)に示すように、鍵5およびハンマー6が元の離鍵状態に復帰する。
【0034】
以上詳述したように、本実施形態の鍵盤装置1によれば、黒鍵4が押鍵および離鍵される場合、鍵本体4aの前面よりも前方に突出する上限位置規制凸部4cが、黒鍵用鍵ガイド25によって、左右方向に不動な状態で上下方向に案内される。これにより、上限位置規制凸部4cの横振れが防止されることによって、鍵本体4aの前端付近の横振れを確実に防止でき、それにより、従来の鍵盤装置と異なり、黒鍵4の安定した回動を確保することができる。また、黒鍵用鍵ガイド25は、鍵盤シャーシ2の成形時に一体に成形されるので、黒鍵用鍵ガイドが鍵盤シャーシと別体に構成され、鍵盤シャーシの製造後に後付けされる場合に比べて、黒鍵用鍵ガイド25を有する鍵盤シャーシ2を効率良く製造することができる。
【0035】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。図4は、黒鍵用鍵ガイド25の変形例を示しており、(a)および(b)は離鍵状態、(c)および(d)は押鍵状態を示している。同図(b)および(d)に示すように、この黒鍵用鍵ガイド25では、左右2つのガイド部25a、25aの対向面間の距離Wが、下方に向かって次第に大きくなるように形成されている(W1<W2)。例えば、黒鍵4が中間鍵ガイド32および黒鍵用鍵ガイド25によって案内される場合、その黒鍵4自体に変形やねじれが生じていると、押鍵時や離鍵時に両鍵ガイド32および25との摺接部分における摩擦が大きくなりやすく、黒鍵4の円滑な回動が損なわれるおそれがある。したがって、黒鍵用鍵ガイド25を、上述したように形成することにより、黒鍵4に変形やねじれが生じていても、黒鍵用鍵ガイド25による摩擦を低減でき、それにより、黒鍵4の円滑な回動を確保することができる。なお、同図(b)に示すように、離鍵状態では、黒鍵4の上限位置規制凸部4cが、左右の両ガイド部25a、25aによって、左右方向に不動な状態にしっかりと保持されているので、押鍵の開始時に、黒鍵4は、がたつくことなく、下方に円滑に回動し始める。
【0036】
また、実施形態では、本発明の上限位置規制凸部および鍵ガイドをそれぞれ、黒鍵4の上限位置規制凸部4cおよび黒鍵用鍵ガイド25に適用したが、本発明の上限位置規制凸部および鍵ガイドを、白鍵3側に適用することも可能である。また、実施形態では、単一の上限位置規制凸部4cの左右両側に、黒鍵用鍵ガイド25の2つのガイド部25a、25aを配置したが、これらの構成は、上限位置規制凸部4cが左右方向に不動な状態で上下方向に案内される構成であればよく、種々の構成を採用することが可能である。例えば、上限位置規制凸部4cに、黒鍵用鍵ガイド25側に開放する凹部を形成し、その凹部に係合するように、単一のガイド部25aを上下方向に延びるように配置してもよい。さらに、実施形態では、鍵盤シャーシ2に、従来の黒鍵用の鍵ガイドと同様の中間鍵ガイド32を設けたが、この中間鍵ガイド32を省略してもよい。
【0037】
また、実施形態で示した鍵盤シャーシ2、白鍵3、黒鍵4およびハンマー6の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 鍵盤装置
2 鍵盤シャーシ
3 白鍵
4 黒鍵
4a 鍵本体
4b アクチュエータ部
4c 上限位置規制凸部
5 鍵
6 ハンマー
24 黒鍵用鍵ストッパ(鍵ストッパ)
25 黒鍵用鍵ガイド(鍵ガイド)
25a ガイド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤シャーシと、
この鍵盤シャーシに回動自在に支持されるとともに左右方向に並設された複数の鍵と、
前記鍵盤シャーシに設けられ、前記複数の鍵の上限位置を規制するための鍵ストッパと、
を備え、
前記複数の鍵のうちの所定の鍵は、
前後方向に延びるとともに、後端部において前記鍵盤シャーシに回動自在に支持された鍵本体と、
この鍵本体の前端部の下方に、当該鍵本体の前面よりも前方に突出した状態で、当該鍵本体と一体に設けられ、離鍵時に前記鍵ストッパに下方から当接することにより、当該鍵の上限位置を規制する上限位置規制凸部と、
を有しており、
前記鍵盤シャーシに前記所定の鍵に対応して設けられ、前記上限位置規制凸部を左右方向に不動な状態で上下方向に案内する鍵ガイドを、さらに備えていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記所定の鍵は、黒鍵であることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項3】
前記鍵ガイドは、前記上限位置規制凸部の両側に、互いに対向しかつ上下方向に延びるように配置された左右2つのガイド部を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項4】
前記鍵ガイドは、前記鍵盤シャーシと一体に成形されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−189872(P2012−189872A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54297(P2011−54297)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】