説明

鎖延長剤を有する二軸延伸ポリエステルフィルム及びその製造方法

【課題】安定で高い粘度が達成でき、大きな影響を及ぼすようなゲルの形成がなく、経済的で容易に実現可能な手法で製造でき、押出機内での粘度の変化が最小程度であり、フィルムの他の性能が同じである二軸延伸ポリエステルフィルムの提供。
【解決手段】ポリエステルと鎖延長剤とから成る二軸延伸ポリエステルフィルムおよびその製造方法であって、好ましくは鎖延長剤が少なくとも2つの反応性基を有し、当該反応性基はポリエステルの押出工程時に反応してポリエステル鎖同士を結合することが出来、更に当該反応性基は実質的にポリエステルの押出工程中に消耗され、製造後のポリエステルフィルムの使用時において鎖延長の効果を有していない二軸延伸ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ポリエステルフィルム(好ましくはその厚さが6〜500μm)に関するものであり、詳しくは、少なくとも1つの鎖延長剤を有し、フィルム生産性に優れ、ゲルの生成が少なく、耐加水分解性が良好で、鎖延長剤による他のフィルム性能への影響の少ない二軸延伸ポリエステルフィルムに関するものである。本発明は、更にその製造方法およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
特定の厚さを有する二軸延伸ポリエステルフィルムはよく知られている。そのようなポリエステルフィルムの製造において、例えば切取られたフィルムの端部などの製品スクラップが製造過程で常に生じ、その量は使用された原料の10重量%未満であるが、代表的には使用された原料の30〜70重量%に匹敵する量である。
【0003】
代表的には、これらの量で再利用される。ここで再利用とは、フィルムスクラップを粉砕し、溶融し、押出し、そしてペレット化したものをこのペレットの状態でフィルム製造工程に再使用することである。
【0004】
それぞれの押出工程(フィルムの製造工程における場合の押出工程とフィルム残渣を再利用する際の押出工程)において、ポリエステルは通常分子鎖長が短くなり、再利用品の粘度低下となる。分子鎖長の低下は分子鎖の加水分解による切断や、押出工程における剪断力によって起こる。
【0005】
二軸延伸ポリエステルの製造のためのファクターとして、十分な長さの分子鎖、すなわち粘度が必要であり、そうでない場合、すなわち粘度が低い場合ではフィルムの破断が生じ、フィルム製造における経済性が悪くなる。
【0006】
更にもう1つのファクターとして、製造時間と共に溶融粘度がより安定であれば、より変動の少ないフィルムの製造が可能となる。従って、原料の粘度が非常に異なると、フィルム製造における押出工程での条件が不規則に変動するために好ましくない。
【0007】
上記の両ファクターにより、再利用品(再生品)の最大使用量が制限される。そのため、再生品の粘度が原料として使用される程度であることが望ましい。
【0008】
粘度を上昇させる方法、特に押出工程中に粘度を上昇させる方法としては、鎖延長剤を使用する方法が挙げられる。
【0009】
ポリエステル用鎖延長剤としては、文献に記載されて公知である(例えば、特許文献1参照)。このような文献において、無水物、特にピロメリット酸無水物を有効成分とする鎖延長剤が記載されている。
【0010】
また、ポリエステル用鎖延長剤として、オキサゾリン又はカプロラクタム系鎖延長剤が「Allinco」の商品名でDSM社(オランダ)より市販されている。
【0011】
また、エポキシ官能基系鎖延長剤も文献に記載されており(例えば、特許文献2参照)、「Joncryl」の商品名でBASF社(独国)より市販されている。
【0012】
また、原則的にポリエステル用鎖延長剤として好適であるグリシジル末端基を有するポリマーが、「Epon」の商品名でHexion社(米国)より、又、「Lotader」の商品名でArkema社(仏国)より夫々市販されている。
【0013】
以上の鎖延長剤は公知であるものの、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造に使用したという意味のある報告は無い。
【0014】
その理由の一つとして鎖延長剤はゲルを形成する傾向があるからである。ゲルは架橋ポリマーであり、それを取囲むポリマーと機械的に非常に大きく分離されてしまい、延伸工程にもはや準じることが出来るポリマーではなく、フィルム中では大きな粒子と同様に振る舞うからである。
【0015】
未延伸フィルムまたは射出成型品においては、ゲルの形成はそれほど問題とは成らず、極端に大きいゲルが形成されると、最悪の場合でも、ある状況下で外観に不満が生じ、不良品となるぐらいである。一方、延伸フィルムにおいてはゲルの形成は非常に大きな問題となる。これは、製造されるフィルムの厚さが、通常400μ未満であり、小さなゲル粒子でも明確に目で見ることが出来るだけでなく、延伸工程においてフィルムの破断の原因となるからである。
【0016】
更に、鎖延長剤は黄変度を上昇させ、フィルム製造工程におけるロール上に付着し、ポリエステル鎖の加水分解安定性を減少させるという欠点も有する。特に後者の欠点は、鎖延長剤による粘度上昇の効果が、押出工程以下の工程において急速に全て失われてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1054031号明細書
【特許文献2】米国特許第6984694号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、上記の先行技術における問題点を解消した二軸延伸ポリエステルフィルムを提供することにある。すなわち本発明の目的は、(1)安定で高い粘度が達成できること、(2)大きな影響を及ぼすようなゲルの形成がないこと、(3)経済的で容易に実現可能な手法で製造できること、(4)押出機内での粘度の変化が最小程度であること、(5)以上の目的を達成しつつフィルムの他の性能は、粘度の上昇のための手段によりわずかに悪影響を受けるか、又は、理想的に何の悪影響も受けないこと、の各目的を達成し得る二軸延伸ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち、本発明の第1の要旨は、ポリエステルと鎖延長剤とから成る二軸延伸ポリエステルフィルムに存する。
【0020】
本発明の第2の要旨は、上記の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成り、二軸延伸ポリエステルフィルムは上記鎖延長剤を含有していることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法に存する。
【0021】
本発明の第3の要旨は、上記の二軸延伸ポリエステルフィルムから成るリボンケーブル、太陽電池モジュールの裏面積層体および電気絶縁体に存する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、(1)安定で高い粘度が達成できること、(2)大きな影響を及ぼすようなゲルの形成がないこと、(3)経済的で容易に実現可能な手法で製造できること、(4)押出機内での粘度の変化が最小程度であること、(5)以上の目的を達成しつつフィルムの他の性能は、粘度の上昇のための手段によりわずかに悪影響を受けるか、又は、理想的に何の悪影響も受けないこと、の各目的を達成し得る二軸延伸ポリエステルフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のフィルムの主成分はポリエステルである。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ビベンゾイル変成ポリエチレンテレフタレート(PETBB)、ビベンゾイル変成ポリブチレンテレフタレート(PBTBB)、ビベンゾイル変成ポリエチレンナフタレート(PENBB)及びこれらの混合物が例示される。中でも、PET、PBT、PEN、PTT、これらの混合物およびこれらの共重合ポリエステルが好ましい。
【0024】
ポリエステルを製造する際、ジメチルテレフタレート(DMT)、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸(TA)、ベンゼンジカルボン酸および/またはナフタレン−2,6−ジカルボン酸(NDA)等の主モノマーに加えて、イソフタル酸(IPA)、trans−及び/又はcis−1,4−シクロヘキサンジメタノール(c−CHDM、t−CHDM又はc/t−CHDM)、ネオペンチルグリコール及び他の好適なジカルボン酸成分(またはジカルボン酸エステル)並びにジオール成分を使用することが出来る。
【0025】
ジカルボン酸成分は、ジカルボン酸成分の重量に対しTAが90重量%以上、好ましくは95重量%以上であることが好ましい。ジオール成分は、ジオール成分の重量に対しEGが90重量%以上、好ましくは93重量%以上であることが好ましい。更に、ポリマー総重量中のジエチレングリコールの割合が0.25〜3重量%であることが好ましい。なお、上記重量割合において鎖延長剤の重量は無視する。
【0026】
本発明のフィルムは、更に、表面形状や外観(グロス、ヘーズ等)を調節するために無機粒子または有機粒子を添加してもよい。添加粒子としては、炭酸カルシウム、アパタイト、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子、ゼオライト、及びアルミニウムシリケート等のシリケート等が挙げられる。これらの粒子は、フィルムの重量に対して通常0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜0.6重量%含有される。これらの粒子の中でも、炭酸カルシウム及び二酸化ケイ素が特に好ましい。
【0027】
フィルム製造工程における良好な走行性を達成するために、添加粒子の平均粒径d50は、通常0.1〜20μm、好ましくは0.3〜7μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。ガラス繊維などの繊維状無機添加剤は、フィルム製造中にフィルムの破断が多くなり不経済となるため好ましくない。なお、添加粒子の平均粒径d50は、ポリマー中に添加する前の粒径である。
【0028】
好ましい実施態様において、フィルムは白色フィルムである。好ましい白色顔料は、二酸化チタン、硫酸バリウム、又は、ポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィン共重合体(COCs)等のポリエステルと非相溶性ポリマー、並びにこれらの組合せである。これらの白色顔料の含有量は、フィルムの重量に対して通常1〜35重量%、好ましくは2〜20重量%、更に好ましくは3〜10重量%である。良好なフィルム走行性および白色性を達成するに、白色顔料の平均粒径d50(上記の無機白色顔料についてのみ)は、通常0.05〜5μm、好ましくは0.1〜1μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。
【0029】
更に、上記の添加剤に加えて、本発明のフィルムは、難燃剤、酸化防止剤、IR吸収剤およびUV安定剤の1つ以上の添加剤を含有してもよい。難燃剤としては有機リン酸エステルが好ましい。酸化防止剤およびUV安定剤としては、仏国特許出願公開第2812299号明細書に記載の物を選択することが出来る。
【0030】
更に、押出工程におけるフリーラジカルの副反応による活性オキシラン基の消費の影響を弱めるため、フリーラジカル捕捉剤として安定剤をフィルムに添加することが好ましい。フリーラジカル捕捉剤、熱安定剤などの安定剤の含有量は、フィルムの重量に対しておおよそ50〜15000ppm、好ましくは100〜5000ppm、更に好ましくは300〜1000ppmである。ポリエステル原料に添加する安定剤としては、立体障害性フェノール、2級芳香族アミン等の第1の安定剤の群、または、チオエーテル、ホスファイト、ホスホナイト、ジブチルジチオカルバメート亜鉛などの第2の安定剤の群、相乗効果が期待できる第1の安定剤の群と第2の安定剤の群との組合せ等から選択できる。中でも好ましい安定剤は上記フェノール系安定剤である。フェノール系安定剤としては、立体障害性フェノール(ヒンダードフェノール)、チオビスフェノール、アルキリデンビスフェノール、アルキルフェノール、ヒドロキシベンジル化合物、アシルアミノフェノール、ヒドロキシフェニルプロピオネート等が挙げられ、これらは類「Kunststoffadditive」(プラスチック添加剤、第2版、Gachter Muller著、Carl Hanser−Verlag社)および「Plastics Additives Handbook」(第5版、Dr. Hans Zweifel著、Carl Hanser−Verlag社)に記載されている。好ましい安定剤としては、Ciba Specialties社(Basle、スイス)のCAS番号6683−19−8、36443−68−2、35074−77−2、65140−91−2、23128−74−7、41484−35−9、2082−79−3及び「Irganox」1222であり、特に好ましくは「Irganox」1010、1222、1330、1425及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0031】
本発明のフィルムは少なくとも1種の鎖延長剤を含有する。
【0032】
鎖延長剤は、少なくとも2つの反応性基を有し、当該反応性基はポリエステルの押出工程時に反応してポリエステル鎖同士を結合することが出来、更に当該反応性基は実質的にポリエステルの押出工程中に消耗され(75%以上の量が消費)、製造後のポリエステルフィルムの使用時において鎖延長の効果を有していないことが特徴である。
【0033】
本発明において好ましい鎖延長剤はとしては、2官能性エポキシドであり、更に好ましくは多官能性エポキシドである。なお、ここで「−−官能性」とは、エポキシ官能基の数である。エポキシ基はエポキシド分子鎖の末端または側鎖に位置する(エポキシ化鎖延長剤)。末端エポキシ官能基は鎖延長剤が下記式[1]で示される。
【0034】
【化1】

【0035】
上記式中、Rは水素、脂肪族有機基または芳香族有機基を表し、Rは脂肪族有機基または芳香族有機基を表し、Rは好ましくは水素である。
【0036】
多官能性エポキシドは2官能性エポキシドよりも好ましく、これは、より少ない使用量が要求される場合には、より高分子量の最終生成物が形成されるためであり、更にガス状の分解物の量がより少ないからである。1分子中のエポキシ基の数は1を超え、好ましくは2以上、更に好ましくは5以上である。1分子中のエポキシ官能基の数は、通常100以下、好ましくは20以下、理想的には10以下である。エポキシ官能基の数は大きいほど鎖延長効果が大きくなるがゲルを形成する可能性も増大する。
【0037】
鎖延長剤分子のエポキシ価(重量価、分子量/エポキシ官能基数)は、通常200g/モル以上、好ましくは300g/モル以上、理想的には425g/モル以上である。また、鎖延長剤分子のエポキシ価は、通常2000g/モル以下、好ましくは1000g/モル以下である。鎖延長剤分子のエポキシ価が高いほど、ゲルを形成する可能性が低くなる。一方、鎖延長剤分子のエポキシ価が高くなると、効果的な粘度上昇を達成するのに化合物の含有量(重量%)をより高くする必要がある。
【0038】
エポキシ化鎖延長剤の分子量は、通常1500以上、好ましくは2000以上、理想的には3000以上である。また、エポキシ化鎖延長剤の分子量は、通常15000以下、好ましくは10000以下、更に好ましくは5000以下である。このようなエポキシ化鎖延長剤の分子量範囲内において、ポリエステルマトリックス中へのもっとも良好な取込みが達成される。
【0039】
エポキシ化鎖延長剤は、室温(25℃)において液体であることが好ましく、これにより、ポリエステルマトリックス中へ取込み容易となる。
【0040】
エポキシ化鎖延長剤の分子量、エポキシ基数および重量エポキシ基価は個別に独立して選択することが出来る。理想的には、これら3つのパラメーターがそれぞれの理想的な範囲であることが好ましい。
【0041】
アラルダイト(接着剤)シリーズや対応するEpon製品などのビスフェノール含有エポキシ化合物はあまり好ましくない。これは、通常の使用雰囲気中に検出可能な量のビスフェノールAを放出するからである。
【0042】
本発明において特に好ましい鎖延長剤は、下記式[2]で示されるポリマーである。
【0043】
【化2】

【0044】
上記式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1〜12のアルキル基を表し、好ましくはメチル基である。Rは炭素数1〜12のアルキル基を表し、好ましくはメチル基である。x及びyはそれぞれ独立して0〜100、好ましくは1〜20である。x+yは0より大きく、好ましくは10より大きい。zは2〜100、好ましくは3〜20、更に好ましくは3〜10である。なお、各構成単位は任意の順序で結合できる。
【0045】
個々のポリマー鎖はランダムに分布した好ましい範囲と異なるモノマー成分を有してもよいため、これらの範囲は使用するポリマーの平均に基づく。
【0046】
これらの化合物は、ポリエステルマトリックス中へ良好に取込まれると同時に、鎖延長反応に優れ且つゲルの形成が少ないことが特に顕著である。特に、3種のモノマーのz、y及びzのうちの少なくとも2つを同時に好ましい範囲内にある場合は、その効果が顕著である。
【0047】
上記のポリマーの市販品としては、BASF社製「Joncryl ADR」が挙げられ、特に液状製品として好ましい。
【0048】
これらのポリマーの添加量は、フィルムの重量に対して通常2重量%以下、好ましくは1.2重量%以下あり、通常0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.2重量%以上である。
【0049】
好ましいエポキシ化合物は、原則として、グリシジルメタクリレート、エチレン及び/又はアクリル酸エステルのコポリマー(共重合体)またはターポリマー(3元共重合体)である。このようなエポキシ化合物は、例えば、Arkema社製「Lotader」(フランス)が市販されている。これに関して、特に、Lotader AX8840、AX8900及びAX8950が好ましい。しかしながら、この、Lotaderシリーズにおいて、グリシジル基を含まないものは好ましくない。特に、グリシジル基の代りに無水マレイン酸含有モノマー単位を含むものは好ましくない。一般的に、ゲル形成の可能性が大きく鎖延長効果が低いために、無水マレイン酸含有モノマー単位を含むポリマーはあまり好ましくない。Lotaderシリーズの他の好ましい化合物におけるフィルム製造上の技術的問題点は、室温において固体であるという点である。すなわち、反応させるためには一旦融解させる必要があり、さらにポリエステルとの混和性も良くない。そのため、良好な粘度の安定性を達成するためには、フィルムの重量に対して2重量%以上の量、好ましくは4重量%以上の量のような比較的多い量を使用する必要がある。しかしながら、添加量を大きくすれば、ゲルの形成や突然の粘度上昇のリスクが生じ、製造の運転中止や、最悪の場合、押出機の破損もあり得る。特に添加量が10重量%を超えるとゲルの形成が顕著となる。
【0050】
また、鎖延長剤の使用量が2重量%を超えると、通常フィルムにヘーズが認められた。したがって、通常、フィルムは白色フィルム又は艶消しフィルムとしては好適であるが、透明フィルムとしては不利である。
【0051】
驚くべきことに、本発明の鎖延長剤以外の通常のポリエステルに使用されている全ての鎖延長剤は実質的に二軸延伸ポリエステルフィルムには不適であるということが明らかになった。
【0052】
ビスオキサゾリン(例えば、1,3−PBO(商品名「Allinco」、DSM社製、オランダ)は粘度上昇をもたらすが、同時にフィルムの黄変およびフィルムから染出したオキサゾリンのフィルム製造におけるローラーへの付着などの問題がある。使用量が2重量%を超えると、安定したフィルム製造が困難となる。従って、ビスオキサゾリンは本発明の鎖延長剤としては不適当である。
【0053】
カルボニルビスカプロラクタム(CBC)も、鎖延長剤として「Allinco」、DS社製、オランダ)の商品名で市販されている。CBCは、フィルムの重量に対しで0.1〜1.3重量%の添加量で有効である。この添加量よりも少ないと添加効果は低く、また、この添加量よりも多いと押出工程におけるゲル化や突然の粘度上昇が生じる。予想に反して、CBCは染出してローラーに付着し、フィルムの黄変をもたらす。従って、CBCは及び他のカルボニルラクタムは本発明の鎖延長剤としては不適当である。
【0054】
多官能無水物(ここで、多官能無水物とは無水物基が複数ある化合物を意味する)は、単独で又は多官能アルコールと組合せて鎖延長剤として知られている。具体的な多官能無水物および多官能アルコールは欧州特許出願公開第1054031号明細書に記載されている。好ましい化合物としては、テトラカルボン酸二無水物である。特に好ましくは、ピロメリット酸無水物であり、更に多官能アルコールとしてはグリコール、ペンタエリスリトール、ホスホネート(ホスホン酸塩)である。
【0055】
上記の多官能無水物単独および多官能アルコールとの組合せは鎖延長効果が知られている。驚くべきことに、欧州特許出願公開第1054031号明細書に記載されている濃度で使用するとゲルが生じた。更に、驚くべきことに、フィルムの加水分解速度が速いことが明らかとなった。すなわち、約15%の加水分解率に到達するのが、上記の好ましいとされる鎖延長剤を使用した方が使用しないものに比べて速いのであった(同様の有効濃度において)。
【0056】
従って、上記の多官能無水物単独および多官能アルコール、ホスホネート等との組合せは、本発明の鎖延長剤としては不適当である。
【0057】
本発明において、鎖延長剤はフィルム製造過程で直接押出機に計量投入することが好ましい。更に、溶融粘度をフィルムの製造中に(オンラインで)計測し、押出工程において一定の粘度を達成するように鎖延長剤を計量投入できることが好ましい。
【0058】
しかしながら、鎖延長剤は原料製造工程で添加してもよい。好ましい添加時はフィルム製造の製品残渣(フィルムの端部など)を再生する際の製造工程の押出工程での添加である。連続フィルム製造において他の原料の平均SVに一致するように鎖延長剤を計量添加して再生品のSVを適切に調節する。
【0059】
好ましくは多軸押出機(少なくとも2軸)を使用する。
【0060】
鎖延長剤はマスターバッチ法により導入してもよい。換言すれば、鎖延長剤は(複数の鎖延長剤の場合は一緒にまたは別々に)、押出機(好ましくは多軸押出機)内のポリマー中に導入する。フィルム製造の過程において、ポリマー(又は複数のポリマー)は混合され、単独のポリマー又は他のポリマーと混合した状態で再度押出される。しかしながら、この方法は最初の押出工程において鎖延長剤が既に消費され、フィルム中にアクティブな状態で存在していないので、あまり好ましい方法とはいえない。従って、穏やかな押出条件を選択すべきであり、フィルムの製造とは異なって、活性基の消費が完全でないような程度(例えば75%以上)を選択すべきである。これは、より融点の低い共重合ポリエステルを選択すること(例えば、5重量%以上、好ましくは10重量%以上のイソフタル酸(IPA)を使用する)及び/又は押出機の注入口に直接鎖延長剤を投入するのではなく後の位置で投入する等により達成できる。
【0061】
本発明のフィルムは、本質的に公知の押出法により製造でき、1層以上から成る。鎖延長剤は全層に添加することも出来るし、全層を改質しないで特定の層に添加することも出来る。
【0062】
本発明のフィルムの厚さは、通常6〜500μm、好ましくは12〜300μm、更に好ましくは36〜200μmである。
【0063】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法は、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸(配向)してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成る。押出工程において、押出機のインテイクゾーン(原料供給ゾーン)は260℃を超えて加熱しない方が好ましいことが明らかになった。これは、鎖延長剤が初期の段階で不必要な反応を起こさせないためである。
【0064】
通常、二軸延伸は連続的に行われる。このため、初めに長手方向(機械方向:MD)に延伸し、次いで横方向(機械方向に対し直角方向:TD)に延伸するのが好ましい。これにより分子鎖が配向する。通常、長手方向の延伸は、延伸比に対応する異なる回転速度を有するロールを使用して行われ、横手方向の延伸はテンターフレームを使用し、フィルムの両端を把持して行われる。
【0065】
延伸時の温度は、所望とするポリエステルフィルムの物性によって決定され、広い範囲で選択できる。通常、長手方向および横方向の延伸はTg+10℃〜Tg+60℃(Tg:フィルムのガラス転移温度)の温度で行われる。長手方向の延伸比は、通常2.0〜6.0、好ましくは3.0〜4.5である。横方向の延伸比は、通常2.0〜5.0、好ましくは3.0〜4.5である。2回目の長手方向および横方向の延伸を行う場合は、その延伸比は通常1.1〜5.0である。
【0066】
長手方向の延伸において同時に横方向の延伸を行う2軸延伸法(同時延伸)で延伸を行ってもよい。長手方向および横方向の延伸比は夫々3.0を超えることが好ましい。
【0067】
熱固定は、通常150〜260℃、好ましくは200〜245℃で0.1〜10秒行う。熱固定の工程に引き続き又は熱固定の過程中に、横方向に対し又任意に長手方向に対しても、通常0〜15%、好ましくは1.5〜8%の弛緩処理を行う。次いで、通常の方法により、フィルムを冷却し、巻取る。
【0068】
鎖延長剤を有する本発明のフィルムは、リボンケーブル、太陽電池用モジュールの裏面積層体、電気絶縁体としての電気絶縁性フィルムや包装フィルム等の二軸延伸フィルムの応用分野の全てに好ましく使用することが出来る。そして、フィルムの製造の安定性に影響を及ぼすこと無く、フィルムの端材などの再生品をかなりの高割合で添加することが出来る。フィルムの押出工程中に直接鎖延長剤を添加した場合、さらにフィルム製造の安定性が改良される。これらの利点により、フィルムの製造コストを削減することが出来る。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。評価方法を以下に示す。
【0070】
(1)標準粘度:
ポリエステルの標準粘度SV(DCA)は、DIN 53726に従い、ウベローデ型粘度系を使用し、25℃で測定したジクロロ酢酸1%溶液の比粘度(ηrel)から求めた。ポリエステルの標準粘度SVは、以下の式より算出した。
【0071】
SV=(ηrel−1)×1000
【0072】
(2)収縮率:
熱収縮率は、1辺10cmの正方形のフィルムについて測定した。試料フィルム片は、一辺が長手方向に平行に、もう一辺が長手方向と垂直に(横方向に)なるように切り出して作成した。試料フィルムの長さは正確に測定し(長手方向の辺の初期長さをL0 MD、横方向の辺の初期長さをL0 TDとする)、強制空気乾燥機の中で、収縮温度において(200℃前後)15分間熱処理を行った。試料フィルムを取出し室温にて名がD差を正確に測定する(長手方向の辺の熱処理後の長さをLMD、横方向の辺の熱処理後の長さをLTDとする)。収縮率は以下の式から算出した。
【0073】
長手方向収縮率(%)=100×(L0 MD−LMD)/L0 MD
【0074】
横方向収縮率(%)=100×(L0 TD−LTD)/L0 TD
【0075】
(3)透明度(透過度):
「Haze−gard Plus」(BYK Gardner Instrument社製)を使用し、ASTM D1003に従って測定した。
【0076】
(4)370nmの波長における透過度:
「Lambda 3 UV/Vis」分光計(Perkin Elmer社製)を使用して測定した。
【0077】
(5)密度:
密度は、密度勾配管法(溶媒:四塩化炭素/ヘキサン)、又はガスピクノメーター(ヘリウム又は窒素)法により測定した。
【0078】
(6)原料ポリマー中に添加する前の粒子の平均粒径d50
粒子の平均粒径d50は、「Master Sizer」(Malvern Instruments社製(英国))を使用して乗法により測定した。(「Horiba LA 500」(堀場製作所社製)又は「Helos」(Sympathec GmbH社製(独国))でも基本的に同一の測定である)。水を入れたセルにサンプルを入れ、試験装置にセットする。試験は自動的に行われ、粒径d50の数学的な計算も一緒に行われる。粒径d50の値は、累積粒径分布曲線から決定する。すなわち、縦軸50%と累積粒径分布曲線の交点を横軸上のd50の値とした。
【0079】
(7)フィルムの機械的性質:
フィルムの機械的性質は、DIN EN ISO 527−1〜−3に従って測定した。
【0080】
(8)オートクレーブによる試験加水分解試験:
フィルム(10cm×2cm)をワイヤーで吊るしてオートクレーブ(Adolf Wolf SANOklav社製 ST−MCS−204)中に入れ、オートクレーブの中に水を2L入れた。オートクレーブを密封し、100℃に加熱した。水蒸気によって中の空気は排出口から送出された。約5分後にバルブを閉じ、温度を110℃に上昇させ、圧力を1.2〜1.5気圧に上昇させた。設定時間が過ぎるとオートクレーブは自動的にスイッチが切れ、排出口が開放され、フィルムを取出した。そして、そのフィルムのSV値を測定した。
【0081】
使用した原料を以下に示す。
【0082】
鎖延長剤1:
Joncryl 4380(室温で液体、分子量:3300、エポキシ価(重量価、分子量/エポキシ基数):450g/モル)。Joncryl 4380は、種々の化合物を含む化学式[2]においてその大きさを規定したものである。
【0083】
鎖延長剤2:
1,3−PBO(1,3−フェニレンビスオキサゾリン、DSM社製「Allinco」(オランダ))。
【0084】
ポリエステルR1:
PET(Invista社製(独国)、SV:790、末端カルボキシ基含有量:22mモル/kg、ジエチレングリコール単位含有量0.75重量%)。
【0085】
マスターバッチMB1:
TiO(「Hombitan LW−SU」、Sachtleben社製(独国))20重量%、及びPET(SV:790、ジエチレングリコール単位含有量:1重量%、末端カルボキシ基含有量:42mモル/kg)80重量%から成るマスターバッチ。二軸押出機中でPETにTiOを添加して調製。
【0086】
実施例1及び比較例1〜2:
フィルムの製造は以下の方法で行った。表1に示す組成で熱可塑性チップ(MB1及びR1)を混合し、二軸押出機(日本製鋼社製)を使用して278℃で押出した。鎖延長剤は計量し、蠕動ポンプを使用して(鎖延長剤1の場合)または振動溝を使用して(鎖延長剤2の場合)押出機の投入口に直接供給した。溶融状態のポリマーの粘度を測定し、ポリマーの粘度が±15%以内の変動になるように鎖延長剤の添加量を調節して計量供給した。溶融ポリマーはダイから引取ロールによって引取られた。得られたシートは、116℃で長手方向に延伸比3.4で延伸され、更に、110℃で横方向に延伸比3.3で延伸された。引続き得られたフィルムを225℃で熱固定し、200〜180℃で横方向に6%の弛緩処理を行った。得られたフィルムの厚さは50μmであった。
【0087】
表1に、各実施例および比較例における組成および評価結果について示す。
【0088】
実施例1と比較例1とを比較すると比較例1のフィルムでは明確に黄変が肉眼で認められ、フィルム製造工程におけるいくつかのロール(引取ロール及び延伸ロール)上に、1,3−PBO及び分解生成物と特定可能である付着物が形成されていた。
【0089】
実施例1では粘度の変動を±15%以内に自動制御しているため溶融粘度が極めて均一であったが、比較例1ではしばしば粘度の急上昇が起こり、それにより製造中にフィルムの破断が生じた。実施例1における加水分解速度(オートクレーブ中の処理時間対SVの減少量)は、鎖延長剤を添加しないで同じ原料から製造したフィルム(比較例2)のそれと同じであった。一方、比較例1のフィルムの加水分解速度は10%ほど高かった。
【0090】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルと鎖延長剤とから成る二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
白色である請求項1に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項3】
更に、無機粒子、有機粒子、難燃剤、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤、IR吸収剤およびUV安定剤から成る群より選択される1つ以上の添加剤を含有する請求項1又は2に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項4】
鎖延長剤が少なくとも2つの反応性基を有し、当該反応性基はポリエステルの押出工程時に反応してポリエステル鎖同士を結合することが出来、更に当該反応性基は実質的にポリエステルの押出工程中に消耗され、製造後のポリエステルフィルムの使用時において鎖延長の効果を有していない請求項1〜3の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項5】
鎖延長剤が2官能性以上のエポキシドであり、エポキシ基がエポキシド分子鎖の末端または側鎖に位置する請求項1〜4の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項6】
鎖延長剤分子のエポキシ基の数が1を超えて100未満である請求項1〜5の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項7】
鎖延長剤分子のエポキシ価(重量価、分子量/エポキシ基数)が200〜2000g/モルである請求項1〜6の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項8】
鎖延長剤の分子量が1500〜15000である請求項1〜7の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項9】
鎖延長剤が室温(25℃)において液体である請求項1〜8の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項10】
鎖延長剤が下記式[1]で示される化合物である請求項1〜9の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化1】

上記式中、Rは水素、脂肪族有機基または芳香族有機基を表し、Rは脂肪族有機基または芳香族有機基を表す。
【請求項11】
鎖延長剤が下記式[2]で示されるポリマーである請求項1〜10の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化2】

上記式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜12のアルキル基を表し、x及びyはそれぞれ独立して0〜100であり、x+yは0より大きく、zは2〜100であり、各構成単位は任意の順序で結合してもよい。
【請求項12】
フィルム中の鎖延長剤の含有量がフィルムの重量を基準として0.05〜2重量%である請求項1〜11の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成り、二軸延伸ポリエステルフィルムは上記鎖延長剤を含有していることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成るリボンケーブル。
【請求項15】
請求項1〜12に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成る太陽電池モジュールの裏面積層体。
【請求項16】
請求項1〜12に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成る電気絶縁体。

【公開番号】特開2010−116558(P2010−116558A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257255(P2009−257255)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(596099734)ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ (29)
【Fターム(参考)】