説明

鎖骨骨折治療用髄内固定金具

【課題】手術創が目立つことなく、簡単で、患者の負担が小さく、骨折部位を確実に固定して完全に治癒しうる鎖骨骨折治療用髄内固定金具を提供すること。
【解決手段】可撓性材料から構成される屈曲自在の棒状部材1からなり、棒状部材1の一方の端部には固定部2を備え、固定部2には螺子部材を挿通するための挿通孔3が設けられ、棒状部材1の他方の端部には螺子部4が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鎖骨骨折治療用髄内固定金具に関する。
【背景技術】
【0002】
鎖骨は胸骨と肩峰との間に介在する平面視S字状に湾曲した骨であり、片甲骨が前に倒れるのを防止している。鎖骨は比較的細長く、大腿骨、橈骨及び上腕骨等の長骨と同様に骨折頻度の高い骨として知られている。骨折治療の基本は骨折箇所を接合して強固に固定することであり、鎖骨においても同様である。鎖骨骨折のほとんどは、中央1/3部分(いわゆる骨幹部)や肩峰側で生じ、胸骨側では稀である。
【0003】
鎖骨骨折に対する治療法として、保存療法や手術療法が知られている。このうち、保存療法は骨折部を必要に応じて整復した後に鎖骨バンド等を用いて肩甲帯を固定したり、三角巾を用いて上腕骨を吊るしておく方法であり、主に小児において頻繁に行われている。
【0004】
手術療法として、プレートを骨表面に沿わせて固定するプレート固定法と、キルシュナー鋼線や中空螺子を経皮的または小切開にて髄内に挿入して固定する髄内固定法がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、図3に示すように、部分的に骨11の周囲に巻き付くように構成され、締結具12を収容するように構成された1対の位置合わせをした孔13、14を含む一体クリップ部分15、16を備え、前記締結具12が、前記位置合わせをした孔13、14の少なくとも1つの周囲で前記クリップ部分15、16に係合することによって前記クリップ部分15、16にロックされるようになっている骨プレート17が開示されている。
【0006】
特許文献2には、図4に示すように、骨折した鎖骨21の上面に沿って遠位部分22と近位部分23とに亘って当がわれる鎖骨固定用プレートが鎖骨21の上方から螺入される複数の固定スクリュー24、25を挿入する固定スクリュー孔が形成された本体プレートからなるものであり、本体プレートの遠位部分22から前垂れ26が垂下しており、この前垂れ26に鎖骨21の遠位部分22に前方から螺入される前方固定スクリュー27を挿入する前方固定スクリュー孔が形成されているとともに、本体プレートのほぼ中央に肩甲骨28の烏口突起29に上方から螺入される烏口突起固定スクリュー30を挿入する烏口突起固定スクリュー孔が形成されている鎖骨固定用プレートが開示されている。
【0007】
特許文献3には、図5(a)(b)に示すように、骨折した一の骨片部および一の骨片部と異なる他の骨片部に跨るように取り付け固定される固定部材であって、前記一の骨片部の表面に配設される第1片部31と、前記第1片部31の一端部に連続して形成され、前記他の骨片部の表面に配設される第2片部32とを具備し、前記第1片部31には前記一の骨片部に埋め込まれる第1埋込部材が挿通される第1挿通孔33が設けられ、前記第2片部32は前記他の骨片部表面の一面から当該一面と異なる他面に亘るように配設され、当該第2片部32の前記他の骨片部の前記一面及び前記他面に対向する一面対向部34及び他面対向部35の各々には、前記他の骨片部に埋め込まれる第2埋込部材が挿通される第2挿通孔36が少なくとも一つずつ設けられている骨固定部材が開示されている。
【0008】
特許文献4には、図6に示すように、長骨41の骨折の手術による処置のための軸方向髄内ネジ42であって、該ネジ42が2つの先端部および外面を含み、該外面が実質的に該外面の全長に沿って伸びるネジ山を備え、該ネジが各先端部において、ネジ回し用の連結部分を備え、自己タッピング先端部をその各先端部に備える軸方向髄内ネジ42が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2005/020800号パンフレット
【特許文献2】特開2011−19710号公報
【特許文献3】実用新案登録第3146826号明細書
【特許文献4】特許第4167398号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
保存療法は、人体を傷つけず、出血させずに治療する方法であるが、それゆえに、骨折部の癒合プロセスが正常に進行せずに停止してしまうことによる偽関節が発生したり、骨折時の骨のずれがきちんと整復・矯正されないとか、固定が不十分で整復された骨が後でずれてしまうことによって骨が曲がったまま癒合する変形治癒に至る可能性がある。
特許文献1ないし3に開示されたプレート固定法は、プレートと螺子によってしっかりと固定し、複雑な形状をした骨の形状に適合させる自由度が比較的高いという利点がある一方、切開が大きくなって手術創が目立ったり、プレートが破損する可能性もある。また、特許文献4に開示された髄内固定法は、骨髄内にねじ込むだけであり、髄内は骨に比して比較的軟らかいので固定力が弱いという欠点がある。また、骨髄中心部に関節部末端から挿入する必要があり、施術時に当該関節部位をはずすとともに、完治時に螺子を取り出す場合にも関節部位をはずす必要があり、患者の負担が大きい。さらに、施術が複雑で長時間を要するという欠点がある。さらに、キルシュナー鋼線による髄内固定では、鋼線の逸脱や短縮転位(短縮による骨のずれ)の可能性がある。
【0011】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、手術創が目立つことなく、簡単で、患者の負担が小さく、骨折部位を確実に固定して完全に治癒しうる鎖骨骨折治療用髄内固定金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、骨折した鎖骨内に挿入される鎖骨骨折治療用髄内固定金具であって、可撓性材料から構成される屈曲自在の棒状部材からなり、当該棒状部材の一方の端部には固定部を備え、当該固定部には螺子部材を挿通するための挿通孔が設けられ、上記棒状部材の他方の端部には螺子部が形成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明の髄内固定金具は、湾曲した鎖骨の軟らかい髄内に挿入されるものであるから、螺子部が形成された棒状部材の他方の端部は湾曲した鎖骨の髄内に沿って形状に順応して挿入し得るような柔軟性が要求される。他方、一方の端部は手元の操作を他方の端部に伝えるためのトルク伝達性が要求され、比較的剛性が大きいことが好ましい。このような特性を有する可撓性材料としては、例えば、ステンレス鋼を用いることができる。ステンレス鋼は比較的安価であるが、塑性変形しやすく、挿入中に座屈することがある。このような座屈による変形を回避しうる可撓性材料としては、超弾性合金(例えば、Ni−Ti合金)を用いることができる。超弾性合金は相当量の変形(約8%の歪)に対しても復元性を有するため、操作中、折れ曲がり難く、曲り癖がつきにくいなどの利点を有する。しかし、超弾性合金は弾性が大きく、柔軟性の点で必ずしも十分に満足できる素材とは言えない。
【0014】
その点で、Ti合金は鉄鋼材料に比べて比強度(強度/密度)が高く、生体親和性にも優れるなどの特長を有することから、インプラントなどの生体材料を中心にその適用範囲が広がっている。生体用チタン合金としては、Ti−6Al−4Vや細胞毒性の指摘があるバナジウムをニオブに置き換えたTi−6Al−7Nbが主に用いられている。また、近年、骨組織に近い低弾性率を有するTi−29Nb−13Ta−4.6Zr(TNTZ)が開発され、適用研究が行われている。TNTZは生体用材料としてより高い適性を有するものの、タンタルやニオブなどの高融点材料を多く含有していることから、溶解の際に偏析が生じやすいという欠点がある。その点で、復元性、可撓性、柔軟性を備えた素材として、Ti−6Al−7Nbは本発明の目的を達成するための好ましい素材の一例である。
【0015】
棒状部材の一方の端部側から他方の端部側にかけて次第に断面積が小さくなるようにすることによって、棒状部材の一方の端部側の剛性を比較的大きくし、他方の端部側を比較的柔軟にすることができる。
さらに、棒状部材の一方の端部の剛性を比較的大きくし、他方の端部を比較的柔軟にするために、一方の端部側から他方の端部側にかけて柔軟性が徐々に増すように熱処理することもできる。
また、棒状部材の一方の端部の剛性を比較的大きくし、他方の端部を比較的柔軟にするために、一方の端部側を弾性率の大きい材料とし、他方の端部側を弾性率の小さい材料とすることもできる。
【0016】
また、髄内挿入時の摩擦抵抗を低減して摺動性を向上するために、棒状部材に被覆層を設けることもできる。この場合において、棒状部材の一方の端部の剛性を比較的大きくし、他方の端部を比較的柔軟にするために、他方の端部側を被覆する材料は一方の端部側を被覆する材料よりも柔軟性に富む材料が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー等の熱可塑性エラストマー、ラテックスゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料、またはこれらのうちの2種以上を組み合わせた複合材料を他方の端部側を被覆する材料として挙げることができる。一方の端部側を被覆する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、またはこれらのうちの2種以上を組み合わせた複合材料を挙げることができる。さらに、係る被覆層と棒状部材との接着性を増すために、被覆層と棒状部材との間に下地層を設けることもできる。例えば、下地層としては、熱硬化性樹脂と被覆層構成樹脂とを含む樹脂からなるのが好ましい。下地層に被覆層構成樹脂が含まれていることにより下地層と被覆層の接着力が向上し、下地層に熱硬化性樹脂が含まれていることにより下地層と棒状部材との接着力が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、可撓性材料から構成される屈曲自在の棒状部材の他方の端部には螺子部が形成されているので、当該螺子部を回動することによって狭い鎖骨髄内を進行し、螺子部先端を鎖骨中枢端に固定することができる。また、棒状部材の一方の端部には固定部を備え、当該固定部には螺子部材を挿通するための挿通孔が設けられているので、当該挿通孔に螺子部材を挿通して螺着することにより固定することができる。このようにして、鎖骨のほぼ全長に亘って棒状部材を挿入して固定することにより、鎖骨の短縮転位は起こらず、棒状部材の逸脱も起こりにくくなる。また、手術操作は鎖骨遠位後方から3cm程度の小皮節で行うことができ、手術創が目立つことなく、簡単で、患者の負担が小さく、美容的にも優れている。このように、本発明によれば、関節を外すことなく施術することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の鎖骨骨折治療用髄内固定金具の斜視図である。
【図2】図2は、本発明の髄内固定金具を骨折した鎖骨髄内に挿入して固定する方法を説明する、断面を含む斜視図である。
【図3】図3は、従来のプレート固定法に使用される骨プレートの一例の斜視図である。
【図4】図4は、従来のプレート固定法に使用される鎖骨固定用プレートの一例の縦断面図である。
【図5】図5(a)は従来のプレート固定法に使用される骨固定部材の一例の平面図、図5(b)はその側面図である。
【図6】図6は、軸方向髄内ネジを髄内に挿入した状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施が可能な実施形態について説明する。当然のことながら、本発明の範囲を逸脱することなく、他の実施形態を利用することもできる。
図1において、1は可撓性材料から構成される屈曲自在の棒状部材であり、棒状部材1の断面は円形である。棒状部材1の一方の端部にはプレート状の固定部2を備え、固定部2には螺子部材を挿通するための挿通孔3が3個設けられ、棒状部材1の他方の端部には螺旋状の螺子部4が形成されている。
【0020】
本実施形態における棒状部材1はTi−6Al−7Nbからなる。鎖骨は三次元的に湾曲しており、そのために棒状部材は可撓性材料から構成される屈曲自在の特性を備えているものが好ましく、そのような特性を備えている材料であれば、棒状部材として用いることができる。棒状部材の直径は2ないし2.4mmのものが多いが、もちろん、これより大きい直径のものや小さい直径のものが使用されることもある。固定部2および螺子部4を含む棒状部材1の長さは150ないし200mmのものが多いが、もちろん、これより長いものや短いものが使用されることもある。
【0021】
鎖骨は三次元的に湾曲した骨で、長手方向中央部の断面は円形であるが、遠位端は扁平で薄く平べったい形状である。固定部2は、扁平である鎖骨遠位端に螺子で固定するためのもので、本実施形態では螺子部材を挿通するための挿通孔3は3個設けられているが、もちろん挿通孔の個数はこれに限定されるものではない。
【0022】
螺旋状の螺子部4は鎖骨髄内へ挿入しやすくするための形態を備えた部分であって、螺子のピッチ、有効径、ねじ山の角度などは必要に応じて様々な数値をとることができる。螺子部4が存在することによって、髄内へ挿入しやすく、鎖骨内に固定しやすく、本発明の固定金具の逸脱が起こりにくくなる。
【0023】
図2において、5は骨折部、6は本発明の固定金具を鎖骨7内に挿入するための小孔で、この小孔6を経て本発明の固定金具を鎖骨7の髄8内に挿入することができる。そして、固定部2の挿通孔3に螺子部材9を挿通して螺着することにより、本発明の固定金具を固定することができる。この固定金具は、骨折が完全に治癒した後は体外に取り出すことができる。しかし、骨折治療用固定金具を体外に取り出すには、麻酔と手術という処置が再度必要であり、患者への負担が大きいので固定金具は取り出さないというのが一般的である。そこで、係る固定金具による違和感があり、取り出して欲しいという患者の要望がある場合にのみ、固定金具を取り出す手術が行われている。なお、鎖骨は特に異物の存在に対する違和感を強く感じる骨であるが、本発明の固定金具は違和感が極めて小さいという特徴があり、本発明の固定金具で鎖骨骨折治療を受けた患者が骨折治癒後に体外に取り出して欲しいという要望を発する可能性は極めて小さいと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、鎖骨骨折治療用髄内固定金具として有用である。
【0025】
1 棒状部材
2 固定部
3 挿通孔
4 螺子部
5 骨折部
6 小孔
7 鎖骨
8 髄
9 螺子部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨折した鎖骨内に挿入される鎖骨骨折治療用髄内固定金具であって、可撓性材料から構成される屈曲自在の棒状部材からなり、当該棒状部材の一方の端部には固定部を備え、当該固定部には螺子部材を挿通するための挿通孔が設けられ、上記棒状部材の他方の端部には螺子部が形成されていることを特徴とする鎖骨骨折治療用髄内固定金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−52114(P2013−52114A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192327(P2011−192327)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】