説明

鎮静下内視鏡手技を受ける患者に使用するマスク

鎮静下内視鏡手技を受ける患者用のフェイスマスク(10)である。このフェイスマスク(10)は、鼻への気道陽圧供給手段(16、17)と、咬合阻止器(18)であって、その中に開口(20)を有する咬合阻止器(18)と、一方向弁(22)とを含む。一方向弁(22)は、内視鏡装置が一方向弁(22)の中を通って孔(20)内を通過することができるように適合された開位置と、孔(20)を実質的に封止する閉位置とを持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、鎮静下内視鏡手技(胃鏡検査、汎内視鏡検査、食道-胃-十二指腸鏡検査、または気管支鏡検査と様々に呼ばれる)を受ける患者に使用するマスクに関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、内視鏡鎮静の間、ガスを送達しやすくし、かつ過剰鎮静状態にある患者を陽圧換気することが可能なマスクに関する。好ましい形態では、このマスクはまた、患者の酸素およびCO2の測定が可能である。
【背景技術】
【0003】
患者は、症状を生じさせ得る胃の状態を診断するために、内視鏡装置を用いて調べられることがしばしばある。かかる状態には、他の数多くの診断の中でもとりわけ、消化性潰瘍、逆流性食道炎、胃癌、肺疾患が含まれ得る。
【0004】
胃鏡検査とも呼ばれる食道胃-十二指腸鏡検査では、一般に、内視鏡検査中、患者を(1)鎮静状態にする、(2)特殊な咬合阻止器によって患者の口を開口しておく、かつ(3)酸素投与する、必要があり、というのは、この手技では、時によって低酸素症(血液および組織中の酸素分圧の低下)が誘発されるからである。上記は、気管支鏡検査手技にも同様にあてはまる。
【0005】
低酸素症は、患者が適切に呼吸して酸素分圧を維持していない場合、酸素分圧が低い状態が長引くと、心拍の異常、心停止、および呼吸停止に陥り、死に至る可能性があるため、非常に重大なものとなり得る。酸素分圧は、現在パルスオキシメトリによって測定され、換気は深睡眠時の患者の自発的な呼吸によって行われる。
【0006】
臨床レベルでは、内視鏡手技中、90%を十分超える酸素分圧を維持する目的で、鎮静下にある患者が、確実に適切に換気されるように、あらゆる努力が尽くされる。しかし、患者による臨床的多様性が知られている(短頚などの解剖学的構造上の相違、気腫などの介入疾患、および過去の鎮静剤の使用)ため、鎮静要件は、患者ごとに大幅に変動する。したがって、より高い薬剤投与量を使用する際、患者を適切に鎮静状態にし、なおかつ酸素分圧が90%を超えるレベルの自発呼吸を期待することは極めて困難であることが非常に多い。その結果、往々にして、患者の酸素分圧が90%を大きく下回って降下し、状況によっては、患者は、内視鏡鎮静の合併症として呼吸停止に至ることがある。実際に、内視鏡検査中の低酸素症は、一部では「医原性睡眠中無呼吸」と呼ばれてきている。
【0007】
特発性睡眠中無呼吸(または閉塞性睡眠中無呼吸、すなわちOSA)は、睡眠中、患者の呼吸があまり頻繁でなく、かつ/または必要量よりも深く、酸素分圧が70%程度の危険な低レベルまで、まれには55%まで降下することがある患者群に共通の状態である。エピソード当たり10秒を超える(かつ、最高2分間の無呼吸)反復性の夜間無呼吸が、かかる患者の睡眠研究で記録されることがある。こうした無呼吸は危険なレベルであり、とりわけ高血圧症、日中傾眠、肺高血圧症、冠疾患および脳血管疾患、ならびに心不整脈を含めて、多様な長期的影響を有し得る。
【0008】
内視鏡検査または気管支鏡検査中、罹患した患者は、調べられ、鎮静によって誘発される急性低酸素症によって、「睡眠中無呼吸」が再現されることがあり、この急性低酸素症は、呼吸停止、心停止、および/または死亡を含めて、深刻な合併症を有し得る。
【0009】
したがって、患者を確実に十分換気し、酸素投与すること、また、可能な限り気道閉塞を防止することが重要である。場合によっては、過剰な鎮静によって、長期間にわたる無呼吸が誘発されることがあり、その場合には用手呼吸が必要となる。これは、一般に緊急事態に陥るのに十分な合併症であり、まれに、内視鏡検査を受けている患者が死亡する結果となることがある。
【0010】
オーストラリア特許第634847号は、内視鏡鎮静の低酸素合併症を低減させるために、患者に酸素投与する咬合阻止器を開示している。PCT公報第WO2001/095971号は、主に鼻を介して酸素を送達する別の酸素投与装置を開示している。しかし、これらの装置のどちらも、しばしば長引くことのある手技を受けている間、患者が深い鎮静状態にあるときに、患者を適切に換気することが可能でない。米国特許第6,792,943号は、患者が迅速に挿管される間、患者を短時間の間換気することができるフェイスマスクを開示している。この開示のマスクは、2つのポートを有し、一方は気管に挿管するためのものであり、もう一方は加圧下で鼻および口の両方に酸素投与ガスを供給するためのものである。しかし、顔の構造および形状の多様性を考慮すると、この開示のマスクでは、陽圧換気を実現するのに十分緊密な封止を得る能力に欠け、こうした封止は、挿管では非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】オーストラリア特許第634847号
【特許文献2】PCT公報第WO2001/095971号
【特許文献3】米国特許第6,792,943号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の欠点の1つまたは複数を実質的に克服する、または少なくとも改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、鎮静下内視鏡手技を受ける患者用のフェイスマスクであって、
鼻への気道陽圧供給手段と、
咬合阻止器であって、当該咬合阻止器の中に孔を有する前記咬合阻止器と、
一方向弁であって、内視鏡装置が当該一方向弁の中を通って前記孔内を通過することができるように適合された開位置と、前記孔を実質的に封止する閉位置と、を持つ前記一方向弁と
を含む、フェイスマスクを提供する。
【0014】
一形態では、フェイスマスクは、患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で患者の鼻および口を被覆するように適合された本体を含む。この形態では、鼻への気道陽圧供給手段と咬合阻止器とは、本体に取り付けられるか、または本体の一部を成す。
【0015】
別の形態では、フェイスマスクは、患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で患者の鼻を被覆するように適合された第1の本体と、患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で患者の口を被覆するように適合された第2の本体とを含む。この形態では、鼻への気道陽圧供給手段は、第1の本体に取り付けられるか、または第1の本体の一部を成し、咬合阻止器は、第2の本体に取り付けられるか、または第2の本体の一部を成す。
【0016】
マスクは、好ましくは、マスクを患者の頭部に固定する1つまたは複数のストラップを含む。ストラップは、好ましくは、マスクを患者の皮膚に押し付けて密封性を高めることが可能となるように、長さが調節可能であるか、または弾性である。
【0017】
マスクは、好ましくは、患者の皮膚との関係で実質的に封止されるように適合された1つまたは複数の封止要素をその周囲に含む。一形態では、封止要素は、中空の管状ゴムリム、または同様の複数の軟質ゴムリムを含む。封止要素はまた、封止要素の内部で負圧を維持することによって、患者の皮膚に吸着することを可能にする孔を含むことができる。
【0018】
鼻への気道陽圧供給手段は、好ましくは、使用時に、患者の鼻、または患者の顔の右側に隣接するポートまたは開口部を含み、このポートまたは開口部は、陽圧の手動源、または自動源と流体連通するように適合されている。ポートまたは開口部は、好ましくは、持続的気道陽圧(CPAP)自動換気装置、またはベントもしくはバッグバルブマスク換気システム(例えばレールダルバッグ)に直接接続するように適合されている。CPAP装置は、好ましくは、流量および圧力が調節可能である。CPAP装置は、使い捨ての鼻腔内CPAPバンパを含むことができる。
【0019】
陽圧源は、好ましくは、呼気を可能とする再呼吸弁システムを含む。陽圧源は、好ましくは、予め定められた換気頻度、酸素分圧、および/またはCO2レベルの起動点で、用手呼吸の必要を知らせるように、またはCPAP装置を自動的に起動させるように適合された感知装置を含む。陽圧源は、好ましくは、手動および自動のCPAPオーバーライド(override)を備えた受動換気経鼻システムとして使用されるCPAP装置を含む。
【0020】
咬合阻止器の孔は、好ましくは、内視鏡を収容するように適合される。咬合阻止器は、使い捨て、または再使用可能でよい。
【0021】
一方向弁は、好ましくは、実質的に円形のドーナツ状バルーンを含む。あるいは、一方向弁は、内視鏡が入るように寸法決めされた中央の円形の孔を備えたゴム膜でよい。ゴム膜の孔は、好ましくは、内視鏡よりも僅かに小さい寸法のものである。ゴム膜の孔はまた、より大きい器具、例えば拡張が必要な食道構造を有する患者用の60フレンチブギーまたは拡張器に合わせて寸法決めすることができる。孔は、内視鏡の挿入をより円滑にし、かつ/または患者の陽圧酸素投与中の酸素の逆流漏出を防止するように、潤滑にすることができる。孔の封止はまた、内視鏡検査中、酸素が不足した室内空気の吸入を防止する。
【0022】
一方向弁は、ハイムリッチ型弁を含めて、いくつかの種類のものでよい。ハイムリッチ型弁は、咬合阻止器の孔に隣接して取り付けられる、使い捨てのコンドーム型装置の形でよい。この場合、一方向弁を加圧滅菌する必要はないが、患者ごとに交換することができ、再使用によって損傷することもない。固定式のハイムリッチ型弁を使用し、洗い直すこともできるが、交差感染を低減させるために、使い捨てのコンドーム型装置を使用することが好ましい。
【0023】
あるいは、一方向弁は、再使用可能な固定式のドーナツ形バルーン構造でもよい。
【0024】
一実施形態では、マスクは、比較的安価なプラスチック材料製であり、使い捨てである。
【0025】
別の実施形態では、咬合阻止器は、マスク本体と一体形成されるか、またはマスク本体に分離不可能に取り付けられる。
【0026】
さらに別の実施形態では、咬合阻止器は、1つまたは複数の指または吸引器を入れることが可能な大径ポートが残るように、マスク本体から切離し可能である。このようにすると、咬合阻止器を患者の口内に維持したまま、マスクを患者から取り外すことができる。咬合阻止器は、好ましくは、何らかの状況において、特に緊急時に、フェイスマスクを取り外す場合に、咬合阻止器を患者の口内に残したまま、マスクを容易に取り外すことが可能な形で、フェイスマスク本体に切離し可能に装着される。咬合阻止器は、好ましくは、換気の間、いかなる酸素漏出も封止し、かつ陽圧の損失を防止することが可能となるように、フェイスマスク本体にぴったりと嵌合するように成型されたクリップ領域を含む。マスクは、好ましくは、咬合阻止器がない場合に、ポートを実質的に封止して、マスクを結腸鏡検査中に使用することを可能とするクリップ留めの分離可能なカバーを含む。
【0027】
フェイスマスクはまた、好ましくは1つまたは複数の吸引ポートを含む。通常、ヤンカー吸引器を咬合阻止器の孔から挿入し、その中を通して内視鏡を挿入することができる。あるいは、必要に応じて、鼻開口部に向かう追加の、より小径のポートを含めて、微細な鼻吸引カテーテルの挿入を可能とすることもできる。
【0028】
フェイスマスクは、好ましくは、鼻および上唇に沿い、次いで患者の下唇の下、または顎下を包み、かつ口が開いた顔の形状に沿うように輪郭形成される。
【0029】
フェイスマスクはまた、好ましくは、感知装置を収容するポートまたは孔を含む。例えば、感知装置には、パルスオキシメトリ、呼吸数測定器、カプノグラフィ、または呼吸終期CO2濃度測定器(経口および経鼻)が含まれ得、こうした装置は、次いで人工呼吸器、または他のCPAP装置に無呼吸警告起動換気を行わせることができる。吸気深度/ガス流量センサ、および呼吸数センサもやはり、含めることができる。フェイスマスクはまた、好ましくは、貼付け式の使い捨てパルスオキシメータ検出器を鼻に取り付け、感知装置に接続可能となるようにフェイスマスクを貫通したプローブによるアクセスが可能である。フェイスマスクと共に使用できる別の代替策に、唇または耳朶式のオキシメトリがある。
【0030】
次に、添付の図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を単なる例によって説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】フェイスマスクの第1の実施形態の正面図である。
【図2】図1に示すフェイスマスクの側面図である。
【図3】フェイスマスクを患者に取り付けた、第2の実施形態の側面図である。
【図4】フェイスマスクを患者に取り付けた、第3の実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1および図2は、鎮静下内視鏡手技を受ける患者に使用するフェイスマスク10の第1の実施形態を示す。内視鏡手技はすべて、患者が左側臥位で横になった状態で実行されるので、フェイスマスク10では、患者が身体の左側を下にして横になることが可能となっている。フェイスマスク10は、プラスチック材料製の、患者の鼻および口を被覆するように成形された本体12を含む。本体12の周囲は、ゴム封止部14によって取り囲まれ、このゴム封止部は、使用時に、患者の皮膚に対して実質的に気密封止を成す。
【0033】
マスク10はまた、鼻への気道陽圧供給手段を、ダクト16の形で含み、このダクト16は開口部17と連通している。ダクト16は、電力供給された(経鼻)CPAP換気装置、または手動ベントもしくはバッグ換気装置、レールダルバッグなどに接続することができる。
【0034】
マスク10はまた、貫通した孔20を有する咬合阻止器18を含む。咬合阻止器18は、使用後に廃棄し、新しい患者用に交換できるように、マスク本体12に分離可能に取り付けることができる。咬合阻止器18はまた、開位置および閉位置を持つ一方向弁22を孔20にわたって含む。一方向弁22は、好ましくは、ハイムリッチ型弁を形成する、重なり合った弾性ゴムセグメントの形である。開位置では、一方向弁は、内視鏡装置が孔20の中を通過して通り抜けることが許容する。閉位置では、一方向弁22は、孔20を実質的に(気密)封止する。
【0035】
マスク10はまた、ひだ状の伸長可能領域24を含み、この領域によって、マスク10の咬合阻止器18付近の領域が、口を開くことが可能となるように破線で示す位置まで伸長することが可能となる。
【0036】
マスク10また、マスク10を患者の顔にしっかりと固定するために、長さが調節可能なストラップ、または弾性のストラップに連結するのに適した4つの取付け点26を含む。
【0037】
マスク10はまた、カプノグラフィおよびパルスO2センサ31用の呼気出口28およびCO2出口30を含む。
【0038】
使用時には、酸素が、矢印32によって示すようにダクト16および開口部17を介して患者の鼻に送達される。それと同時に、内視鏡を、矢印34によって示すように一方向弁22に通し、咬合阻止器18の孔20中を通して進めて、内視鏡手技を実施することが可能である。孔20は、内視鏡の外面にぴったりと、実質的に気密封止となるように寸法決めされ、したがって内視鏡手技中、ダクト16を介して供給される酸素は、マスク10から孔20を通り抜けて漏出することはできない。ゴム封止部14は、使用中に酸素がマスク10から漏出するのを別の形で防止する。内視鏡を咬合阻止器18の孔20から除去した後も、孔20は一方向弁22によって自動的に閉じ、気密封止されるので、酸素を供給し続けることができる。
【0039】
図3は、フェイスマスク50の第2の実施形態を示す。フェイスマスク50は、先に説明したフェイスマスク10の第1の実施形態と共通のいくつかの特徴を有し、かかる同じ特徴は、同じ参照番号で示す。しかし、フェイスマスク50では、酸素は、領域54でマスク本体12に入り、1対の鼻カニューレ56で終端する管52を介して供給される。図3はまた、マスクストラップ58、および管52を位置決めする追加のストラップ60を示す。
【0040】
図4は、フェイスマスク70の第3の実施形態を示す。フェイスマスク70は、先に説明したフェイスマスク10および50の第1の実施形態および第2の実施形態と共通のいくつかの特徴を有し、かかる同じ特徴は、同じ参照番号で示す。しかし、フェイスマスク70は、ドーナツ形バルーン構造72の形の一方向弁を含む。図4にはまた、咬合阻止器18の孔20から一方向弁72を介して挿入された内視鏡74を示す。
【0041】
フェイスマスク10、50、および70によってもたらされる主な利点には、(1)低酸素症「降下(dip)」をなくすプレオキシゲネーション能力(pre-oxygenation capacity)を生じることが可能(以下でより詳細に説明する)、(2)鼻からCPAP陽圧換気を送達して、一般的な医原性「睡眠中無呼吸」を克服することが可能、(3)咬合阻止器の孔へのアクセスを一方向弁とすることによって、内視鏡検査中、吹送ガスが口から漏出することを防止すること、が含まれる。追加の利点には、(4)様々な生体パラメータを連続して感知することが可能、(5)吸引および拡張のためのアクセス、(6)フェイスマスクが患者にストラップで固定されるため、手を使わずに操作可能、(7)胃鏡検査後に引き続き行われることがある結腸境検査中も、フェイスマスクを使用し続けることが可能、(8)マスク内圧力の損失がほとんどなく、内視鏡をマスクに通すことが可能であり、したがって食道拡張も容易とすることが可能、(9)流体トップ(fluid top)を患者の肺から喉頭を介して吸引する、または咽頭から分泌物を吸引することが可能、という利点が含まれる。
【0042】
上述のマスク10、50、および70が、胃鏡/気管支鏡手技中、過剰鎮静下にある患者の換気をどのようにして有利に可能とし、早期の低酸素症「降下」をどのようにして克服するかは、以下の通りである。内視鏡検査前の鎮静時、酸素飽和度の自然歴は、100%飽和度に近い平坦な酸素分圧線から、その後患者がミダゾラムおよびプロポフォールなどの薬剤で誘導されるにつれて、約88〜92%の最下点まで降下することを特徴とする。鎮静剤の投与量がより増大すると、酸素飽和度の降下は、70〜90%のレベルまで達することがある。標準の、90%の飽和度低下まで達しない低投与量の鎮静剤では、全体の飽和度降下は、約1分よりも長く続くことはない。マスク10、50、および70では、有利にはプレオキシゲネーションによって早期の酸素飽和度低下トラフを克服し、95%から100%の間の一定レベルの酸素飽和度を維持することが可能である。さらに、マスク10、50、および70では、有利には内視鏡検査の前に、100%のプレオキシゲネーションが行われ、窒素の排出が可能である。上記によって、患者の体内に酸素貯蔵部が構築され、上述の酸素分圧の通常の過渡的な早期鎮静降下を患者が乗り切る一助となる。約80%の深い飽和度最下点に達することなく、患者は1分から3分間の間、時にはそれよりも長い間、100%に近い飽和度を維持することができる。内視鏡検査手技時間の大部分は、3〜5分までに完了するものであり、したがって、手技が長引く患者、または臨床的に危険な、低酸素症の傾向がある状態の患者には換気の援助が必要となることがある。
【0043】
マスク10、50、および70はまた、有利には、より深い鎮静時には、内蔵された感知装置によって換気の必要性、および換気のタイミングを判定し、任意選択で、(例えば、レールダルバッグマスクを使用した)用手呼吸、または自動的に換気を増大させることができる市販のCPAP装置によって、口からガスを損失することなく患者を換気することが可能である。
【0044】
好ましい実施形態を参照しながら本発明について説明してきたが、本発明は、他の多くの形で実施できることが当業者には理解されよう。
【符号の説明】
【0045】
10 フェイスマスク
12 本体
14 ゴム封止部
16 ダクト
17 開口部
18 咬合阻止器
20 孔
22 一方向弁
24 伸長可能領域
26 取付け点
28 呼気出口
30 CO2出口
31 パルスO2センサ
32 矢印
34 矢印
50 フェイスマスク
52 管
54 領域
56 鼻カニューレ
58 マスクストラップ
60 追加のストラップ
70 フェイスマスク
72 ドーナツ形バルーン構造
74 内視鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎮静下内視鏡手技を受ける患者用のフェイスマスクであって、
鼻への気道陽圧供給手段と、
咬合阻止器であって、当該咬合阻止器の中に孔を有する前記咬合阻止器と、
一方向弁であって、内視鏡装置が当該一方向弁の中を通って前記孔内を通過することができるように適合された開位置と、前記孔を実質的に封止する閉位置と、を持つ前記一方向弁と
を含む、フェイスマスク。
【請求項2】
前記フェイスマスクが、前記患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で前記患者の鼻および口を被覆するように適合された本体を含む、請求項1に記載のフェイスマスク。
【請求項3】
前記鼻への気道陽圧供給手段と前記咬合阻止器とが、前記本体に取り付けられるか、または前記本体の一部を成す、請求項2に記載のフェイスマスク。
【請求項4】
前記フェイスマスクが、前記患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で前記患者の鼻を被覆するように適合された第1の本体と、前記患者の皮膚との関係で実質的に封止された状態で前記患者の口を被覆するように適合された第2の本体と、を含む、請求項1に記載のフェイスマスク。
【請求項5】
前記鼻への気道陽圧供給手段が、前記第1の本体に取り付けられるか、または前記第1の本体の一部を成し、前記咬合阻止器が、前記第2の本体に取り付けられるか、または前記第2の本体の一部を成す、請求項4に記載のフェイスマスク。
【請求項6】
前記マスクが、前記マスクを前記患者の頭部に固定する1つまたは複数のストラップを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項7】
前記ストラップが、前記マスクを前記患者の皮膚に押し付けて密封性を高めることが可能となるように、長さが調節可能であるか、または弾性である、請求項6に記載のフェイスマスク。
【請求項8】
前記マスクが、当該マスクの周囲に、前記患者の皮膚との関係で実質的に封止されるように適合された1つまたは複数の封止要素を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項9】
前記封止要素が、中空の管状ゴムリム、または同様の複数の軟質ゴムリムを含む、請求項8に記載のフェイスマスク。
【請求項10】
前記封止要素が、前記封止要素の内部で負圧を維持することによって、前記患者の皮膚に吸着することを可能にする孔を含む、請求項8または9に記載のフェイスマスク。
【請求項11】
前記鼻への気道陽圧供給手段が、使用時に、前記患者の鼻、または前記患者の顔の右側に隣接するポートまたは開口部を含み、前記ポートまたは開口部が、陽圧の手動源、または自動源と流体連通するように適合される、請求項1から10のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項12】
前記ポートまたは開口部が、持続的気道陽圧(CPAP)自動換気装置、またはベントもしくはバッグバルブマスク換気システムに直接接続するように適合される、請求項11に記載のフェイスマスク。
【請求項13】
前記CPAP装置は、流量および圧力が調節可能である、請求項12に記載のフェイスマスク。
【請求項14】
前記CPAP装置が、使い捨ての鼻腔内CPAPバンパを含む、請求項12または13に記載のフェイスマスク。
【請求項15】
前記陽圧源が、呼気を可能とする再呼吸弁システムを含む、請求項11から14のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項16】
前記陽圧源が、好ましくは、予め定められた換気頻度、酸素分圧、および/またはCO2レベルの起動点で、用手呼吸の必要を知らせるように、または前記CPAP装置を自動的に起動させるように適合された感知装置を含む、請求項11から15のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項17】
前記陽圧源が、手動および自動のCPAPオーバーライドを備えた受動換気経鼻システムとして使用されるCPAP装置を含む、請求項11に記載のフェイスマスク。
【請求項18】
前記咬合阻止器の前記孔が、内視鏡を収容するように適合される、請求項1から17のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項19】
前記咬合阻止器が、使い捨て、または再使用可能である、請求項1から18のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項20】
前記一方向弁が、実質的に円形のドーナツ状バルーンを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項21】
前記一方向弁が、内視鏡が入るように寸法決めされた中央の円形の孔を備えたゴム膜である、請求項1から19のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項22】
前記ゴム膜の前記孔が、内視鏡よりも僅かに小さい寸法のものである、請求項21に記載のフェイスマスク。
【請求項23】
前記ゴム膜の前記孔が、内視鏡よりも大きい器具に合わせた寸法のものである、請求項21に記載のフェイスマスク。
【請求項24】
前記孔が、潤滑である、請求項21、22、または23に記載のフェイスマスク。
【請求項25】
前記一方向弁が、ハイムリッチ型弁である、請求項21から24のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項26】
前記ハイムリッチ型弁が、前記咬合阻止器の前記孔に隣接して取り付けられる、使い捨てのコンドーム型装置の形である、請求項25に記載のフェイスマスク。
【請求項27】
前記一方向弁が、再使用可能な固定式のドーナツ形バルーン構造である、請求項21から24のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項28】
前記マスクが、比較的安価なプラスチック材料製であり、使い捨てである、請求項1から27のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項29】
前記咬合阻止器が、前記マスク本体と一体に形成されるか、または前記マスク本体に分離不可能に取り付けられる、請求項1から28のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項30】
前記咬合阻止器が、1つまたは複数の指または吸引器を入れることが可能な大径ポートが残るように、前記マスク本体から切離し可能である、請求項1から28のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項31】
前記咬合阻止器が、前記フェイスマスクを取り外す場合に、前記咬合阻止器を前記患者の口内に残したまま、前記マスクを容易に取り外すことが可能な形で、前記フェイスマスク本体に切離し可能に装着される、請求項1から28のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項32】
前記咬合阻止器が、換気の間、いかなる酸素漏出も封止し、かつ陽圧の損失を防止することが可能となるように、前記フェイスマスク本体にぴったりと嵌合するように成型されたクリップ領域を含む、請求項30または31に記載のフェイスマスク。
【請求項33】
前記マスクが、前記咬合阻止器がない場合に、前記ポートを実質的に封止して、前記マスクを結腸境検査中に使用することを可能とする分離可能なカバーを含む、請求項1から32のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項34】
前記分離可能なカバーが、クリップ留めのカバーである、請求項33に記載のフェイスマスク。
【請求項35】
前記フェイスマスクが、1つまたは複数の吸引ポートを含む、請求項1から34のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項36】
前記フェイスマスクが、鼻および上唇に沿い、次いで患者の下唇の下、または顎下を包み、かつ口が開いた顔の形状に沿うように輪郭形成される、請求項1から35のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項37】
前記フェイスマスクが、感知装置を収容するポートまたは孔を含む、請求項1から36のいずれか一項に記載のフェイスマスク。
【請求項38】
前記感知装置が、パルスオキシメトリ、呼吸数測定器、カプノグラフィ、または呼吸終期CO2濃度測定器(経口および経鼻)を含む、請求項37に記載のフェイスマスク。
【請求項39】
前記感知装置が、吸気深度/ガス流量センサまたは呼吸数センサを含む、請求項37または38に記載のフェイスマスク。
【請求項40】
前記フェイスマスクは、感知装置に接続可能となるように当該フェイスマスクを貫通したプローブによるアクセスが可能である、請求項37、38、または39に記載のフェイスマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−517016(P2013−517016A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548309(P2012−548309)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際出願番号】PCT/AU2010/001583
【国際公開番号】WO2011/085427
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512073828)