説明

鏡像異性的に純粋な1−置換−3−アミノアルコールの調製方法

【課題】下式の鏡像異性的に純粋な1−置換−3−アミノアルコール、特に(S)−(−)−および(R)−(+)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールを調製するためのエコロジカルで経済的な方法の提供。


【解決手段】遷移金属およびジホスフィン配位子を含む触媒の存在下で、対応するアミノケトンとカルボン酸との塩を、特に3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンとカルボン酸との塩を不斉水素化する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、鏡像異性的に純粋な1−置換−3−アミノアルコール、特に(S)−(−)−および(R)−(+)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールの調製のための方法に関する。これは、遷移金属およびジホスフィン配位子を含む触媒の存在下で、対応するアミノケトンとカルボン酸との塩を、特に3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンとカルボン酸との塩を不斉水素化することにより得ることができる。
【0002】
(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールは、うつ病および尿失禁の治療のための薬剤である(S)−(+)−メチル−[3−(1−ナフチルオキシ)−3−(2−チエニル)−プロピル]−アミン(デュロキセチン(duloxetine))の調製のための中間体である(Huiling 等, Chirality 2000, 12, 26-29、Sorbera 等, Drugs of the Future 2000, 25(9), 907-916 )。
【0003】
チエニルアミノケトンのラセミ型(WO2004/005239)および不斉(Sorbera 等、下記参照)水素化のためのいくつかの方法が知られており、また、生じる3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールのキラル分割のための方法も知られている(WO-A 2004/005220、WO-A 2004/005307)。さらに、遷移金属−配位子錯体を用いる直接的な不斉水素化の方法が、EP-A 0 647 648、EP-A 0 926 152、EP-A 0 945 457、EP-A 0 955 303、および WO-A 02/40492 に開示されている。
【0004】
Huiling 等は、チオフェンからの(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールの調製を記載している。チオフェンは、ベンゼン中、四塩化物の存在下で、3−クロロプロパノイルクロライドと共に、3−クロロ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンに変換され、これは、3−クロロ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールへと、エタノール中で水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元される。ヘキサン中、触媒としてブタン酸ビニルとカンジダアンタークチカ(Candida antarctica)由来のリパーゼBを用いるエステル交換による動力学的分割は、(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールを与え、これは、アセトン中、ヨウ化ナトリウムを用いて、(S)−3−ヨード−1−(2−チエニル)−1−プロパノールに変換される。テトラヒドロフラン中、メチルアミンを用いる続く処理は、(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールを与えた。
【0005】
Sorbera 等は、チオフェンからの(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールの他の調製を記載し、これは、3−クロロ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンを、THF中、ボランと触媒量の(R)−3,3−ジフェニル−1−メチルテトラヒドロ−3H−ピロロ[1,2−c][1,3,2]オキサザボロールを用いて、(S)−3−クロロ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールへと不斉還元することを除いては、Huiling 等により記載されたものと実質的に同じである。この不斉還元は、3−クロロ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンから、(S)−3−クロロ−1(2−チエニル)−1−プロパノールを、86%の収率で与えた(Wheeler 等、J. Label. Compd. Radiopharm. 1995, 36, 213-223)。
【0006】
上記の(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールの調製の欠点は、四塩化スズおよびベンゼンのような毒性の若しくは発ガン性の化合物を使用すること、並びに/またはボラン若しくはヨウ化ナトリウムのような高価な化合物を使用することであり、後者は、加えて、処理が難しい。開示されるジホスフィンを用いる不斉水素化法は、3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンの水素化に関して満足のいくものでない。
【0007】
鏡像異性的に純粋な1−置換−3−アミノアルコール、特に(S)−(−)−、および(R)−(+)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールの調製のためのエコロジカルで経済的な方法を提供することが、本発明の目的である。
【0008】
これらの目的は、請求項1に記載の方法により達成される。
【0009】

【化1】

【0010】
(式中、Rは、2−チエニル、2−フラニル、およびフェニルから成る群から選択され、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/または1以上のC1−4−アルキル基若しくはC1−4−アルコキシ基により置換されており、並びにRは、C1−4−アルキルまたはフェニルであり、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/または1以上のC1−4−アルキル基若しくはC1−4−アルコキシ基により置換されている)のアミノアルコールとカルボン酸との塩の調製のための方法であって、ジホスフィン配位子の遷移金属錯体の存在下で、式
【化2】

【0011】
(式中、RおよびRは、上記した通りである)のアミノケトンとカルボン酸との塩を不斉水素化することを含む方法を提供する。
【0012】
サクラバ等、Chem. Pharm. Bull. 1995, 43, 748-753、およびJP-A 50-70412 において、3−N−メチルアミノ−1−フェニル−1−プロパノールおよび3−アミノ−1−フェニル−1−プロパノンのHCl塩の不斉水素化が開示されている。EP-A-457559 は、3−ジメチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンおよび(S)−(−)−N,N−ジメチル−3−(2−チエニル)−3−ヒドロキシプロパンアミンのHCl塩、並びに(S)−(+)−N,N−ジメチル−3−(1−ナフタレニルオキシ)−3−(2−チエニル)−プロパンアミンおよび(S)−(−)−N,N−ジメチル−3−(1−ナフタレニルオキシ)−3−(2−チエニル)プロパンアミンのシュウ酸塩の調製を開示している。後者の2つは、式Iの化合物の芳香族エーテルである。各有機酸塩の直接的な調製は、従来技術には開示されていない。驚くべきことに、これらの化合物を、副生成物の量を増加させることなく、同じように水素化反応において用いることができる。有機酸を用いることが好ましい。これらは、HClほど酸性ではなく、従って、生成物の回収中の濃縮時の分解の危険性が低下するためである。本発明の方法により得られる化合物を、アニオン交換することなく、直接的に用いることができる。
【0013】
好ましい態様において、ジホスフィン配位子は、
【化3】

【0014】
である。
【0015】
ジホスフィン−遷移金属錯体を用いる、1−置換−3−N−アルキルアミノ−1−プロパノン塩酸塩の不斉水素化は、酸性塩を中和することにより遊離アミンを発生することなしには可能でない。遊離1−置換−3−N−アルキルアミノ−1−プロパノンは、分解する傾向を有するという事実のために、生じる1−置換−3−N−アルキルアミノ−1−プロパノールは、副生成物によって汚染される。塩酸塩をカルボン酸塩と交換すると、生じる、任意には精製される、1−置換−3−N−アルキルアミノ−1−プロパノンの塩の、高収率、高純度、および高いエナンチオマー過剰率(ee)での直接的な水素化が可能である。塩基の存在下での遊離アミノケトンの分解を回避することは、本発明の他の有利な側面である。
【0016】
本発明の意図におけるカルボン酸とは、式IIおよび/またはIのアミノ化合物と塩を形成することができる1つの遊離カルボキシル基を有するカルボン酸である。特に好ましいカルボン酸は、モノカルボン酸である。フマル酸、マレイン酸またはアジピン酸のように内部塩を形成しないジカルボン酸またはトリカルボン酸は、好ましくない樹脂状の沈殿物を与える傾向がある。しかしながら、内部塩を形成し、なお1つの遊離カルボキシ基を有するカルボン酸は、本発明の意図におけるカルボン酸の定義に包含される。1を超えるカルボキシ基を有し、但し、1つのみの遊離カルボキシ基を有する上記カルボン酸の例は、アスパラギン酸またはグルタミン酸のようなアミノ酸である。
【0017】
好ましい方法において、カルボン酸は、任意に置換されたC1−18−アルカン酸、並びに任意に置換された単環式および二環式の芳香族酸から成る群から選択される。
【0018】
好ましい態様において、カルボン酸は、1以上のC1−6−アルキル基、C1−6−アルコキシ基、アリール基、アミノ基、任意に保護されたカルボニル基、ハロゲンまたはヒドロキシ基、および任意にさらなるカルボン酸基により置換されている。
【0019】
本発明の方法の意図におけるC1−18−アルカン酸の例は、酪酸、バレリアン酸、カプロン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−4−フェニル酪酸、L−アスパラギン酸、D−アスパラギン酸、DL−アスパラギン酸、2−ケト−L−グロン酸、2−ケト−D−グロン酸、(−)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−L−グロン酸、および(+)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−D−グロン酸である。
【0020】
さらに好ましい方法において、カルボン酸は、1以上のC1−6−アルキル基、C1−6−アルコキシ基、ハロゲン、またはヒドロキシ基により任意に置換された単環式または二環式の芳香族酸である。
【0021】
本発明の方法の意図における単環式または二環式の芳香族カルボン酸の例は、安息香酸、サリチル酸、3−メチル安息香酸、1−または2−ナフタレンカルボン酸である。
【0022】
本明細書中において、「鏡像異性的に純粋な化合物」という語は、少なくとも90%のエナンチオマー過剰率(ee)を有する光学活性な化合物を含む。
【0023】
本明細書中において、「C1−n−アルキル」、例えば「C1−6−アルキル」という語は、1〜n個の炭素原子を有する直鎖のまたは分岐のアルキル基を意味する。任意に1以上のハロゲン原子により置換されているC1−6−アルキルは、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを意味する。
【0024】
本明細書中において、「C1−n−アルコキシ」、例えば「C1−6−アルコキシ」という語は、1〜n個の炭素原子を有する直鎖のまたは分岐のアルコキシ基を意味する。任意に1以上のハロゲン原子で置換されているC1−6−アルコキシは、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシおよびヘキシルオキシを意味する。
【0025】
本明細書中において、「C3−n−シクロアルキル」、例えば「C3−10−シクロアルキル」という語は、3〜n個の炭素原子を有する脂環式基を表す。任意に1以上のハロゲン原子により置換されているC3−10−シクロアルキルは、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンチル、またはノルボルニルのような単環のまたは多環の環構造を意味する。
【0026】
本明細書中において、「C3−n−シクロアルコキシ」、例えば「C3−10−シクロアルコキシ」という語は、3〜n個の炭素原子を有するシクロアルコキシ基を意味する。任意に1以上のハロゲン原子により置換されているC3−10−シクロアルキルは、例えば、シクロプロポキシ、シクロブトキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロヘプチルオキシ、シクロオクチルオキシ、およびシクロデシルオキシを意味する。
【0027】
本明細書中において、「アリール」という語は、1以上のハロゲン原子、ニトロ基および/若しくはアミノ基、並びに/または任意に置換されたC1−6−アルキル、C1−6−アルコキシ、若しくはジ−C1−6−アルキルアミノ基(ここで、アルキル部位は、1以上のハロゲン原子により任意に置換されている)により任意に置換されている芳香族基、好ましくはフェニルまたはナフチルを意味する。
【0028】
好ましい態様において、Rは、1以上のハロゲン原子により任意に置換された2−チエニルであり、およびRは、メチルまたはエチルである。
【0029】
さらに好ましい態様において、式IIの化合物は、(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノール、(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(3−クロロ−2−チエニル)−1−プロパノール、(R)−(+)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノール、および(R)−(+)−3−N−メチルアミノ−1−(3−クロロ−2−チエニル)−1−プロパノールから成る群から選択される。
【0030】
好ましい方法において、遷移金属は、ロジウム、ルテニウムおよびイリジウムから成る群から選択され、好ましくはロジウムである。
【0031】
さらに好ましい方法において、ジホスフィン配位子は、
【化4】

【0032】
から成る群から選択される。
【0033】
全ての上記配位子は市販されており、例えば、Chiral Quest, Inc, Monmouth Junction, NJ,USA から市販されている。
【0034】
好ましい方法において、式IaおよびIbの化合物は、カルボン酸とそれらの対応する塩から、アルカリ水酸化物またはアルカリ土類水酸化物の存在下での加水分解により得られる。
【0035】

【化5】

【0036】
(式中、Rは、2−チエニル、2−フラニルおよびフェニルから成る群から選択され、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/若しくは1以上のC1−4−アルキル基またはC1−4−アルコキシ基により置換されており、並びにRは、C1−4−アルキルまたはフェニルであり、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/若しくは1以上のC1−4−アルキル基またはC1−4−アルコキシ基により置換されている)のアミノケトンとカルボン酸との塩を提供する。
【0037】
特に好ましくは、カルボン酸は、C1−18−アルカン酸、(−)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−L−グロン酸、(+)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−D−グロン酸、2−ケト−L−グロン酸、2−ケト−D−グロン酸、L−アスパラギン酸、D−アスパラギン酸、安息香酸、3−メチル安息香酸、サリチル酸、および2−ナフタレンカルボン酸から成る群から選択される。
【0038】

【化6】

【0039】
(式中、Rは、2−チエニル、2−フラニルおよびフェニルを含む群から選択され、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/若しくは1以上のC1−4−アルキル基またはC1−4−アルコキシ基により置換されており、並びにRは、C1−4−アルキルまたはフェニルであり、それぞれは、1以上のハロゲン原子および/若しくは1以上のC1−4−アルキル基またはC1−4−アルコキシ基により置換されている)のアミノアルコールとカルボン酸との塩がさらに提供され、但し、酸が、(−)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−L−グロン酸、または(+)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−D−グロン酸である塩は除く。
【0040】
本発明を、以下の制限されない例により示す。
【0041】

例1:3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノン塩酸塩(PRON−HCl)の調製
2−アセチルチオフェン(25.5g、200mmol)、メチルアミン塩酸塩(14.9g、220mmol)、パラホルムアルデヒド(8.2g、280mmol)およびエタノール(100mL)の混合物を、オートクレーブ中、120〜130℃で9時間加熱する。得られる淡褐色の溶液を、20℃にまで冷却し、エタノールの一部(50mL)を真空中で蒸留することにより除去する。酢酸エチル(200mL)を残渣に加えると濃い懸濁液を与え、これを0℃にまで冷却して45分間この温度に保つ。得られた沈殿を、ろ過により単離し、乾燥させると、29.3gの3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノン塩酸塩(PRON−HCl、71%)が、わずかに黄色の粉末として得られる。
【0042】
比較例1:3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノール(PROL−HCl)の調製
水酸化ナトリウム(4.0gの50%水溶液)を、PRON−HCl(10.3g、50mmol)およびエタノール(35mL)の混合物に、4℃で約5分間で加える。ニートな水素化ホウ素ナトリウム(0.95g、25mmol)を、数回に分けて、約30分で加えると、ベージュ色の懸濁液を与え、これを4℃でさらに4時間攪拌する。アセトン(10mL)を5分間で滴下して加え、この混合物を、さらに10分間攪拌した後に水(20mL)を加える。混合物を真空中で約5分間濃縮し、得られる残渣を、tert−ブチルメチルエーテル(MTBE)(2×20mL)を用いて抽出する。集めた有機相を真空中で濃縮すると、7.2gのラセミ体の3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノール(PROL−HCl、84%)をオレンジ色のオイルとして与え、これは、数時間後に自然に結晶化する。H−NMR(DMSO−d,400MHz):7.35(1H,dd,J=4.8,1.0),6.94(1H,dd,J=4.8,3.6),6.90(1H,dd,J=3.6,1.0),4.90(1H,t),3.7(2H,m),2.56(2H,m),2.25(3H,s),1.79(2H,q);13C−NMR(DMSO−d,100MHz):150.9,126.3,123.7,122.3,67.8,48.5,38.7,36.0。
【0043】
比較例2:(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノール((S)−PROL−HCl)の調製
50mlのオートクレーブ中に、メタノール(5mL)中のPRON−HCl(250mg、0.56mmol)の溶液と当量のNaOH混合物を、窒素下で仕込む。その後、窒素下で調製したメタノール(2mL)中の[Rh((S,S)−Me−Duphos]BF(2.7mg)の溶液を、シリンジで加える。その後オートクレーブを閉じ、窒素で数回パージし、50℃にまで加熱した後、水素を、圧力が30barに到達するまで加える。5時間、この温度で攪拌した後、オートクレーブを室温にまで冷却する。冷却したら、黄褐色の溶液を、50mLの丸底フラスコ中に移し変え、乾燥するまで濃縮すると、ベージュ色の固体(0.23g、92%ee:HPLCによれば約97%)を与える。
【0044】
比較例3:(S)−PROLの調製
メタノール(5mL)中のPRON−HCl(250mg、0.56mmol)の溶液を、50mlのオートクレーブ中に、窒素下で仕込む。その後、窒素下で、15分間成分を攪拌することにより予め調製しておいた、メタノール(2mL)中の1.8mgのRh(cod)BF、および2.7mgの式IIIの配位子(R=OMe、R=R=ジシクロヘキシルホスフィニル、およびR=R=ジフェニルホスフィニル)の溶液を、シリンジで加える。水素化を上記したように行うと、(S)−PROLをベージュ色の固体(0.21g、84%ee;HPLCによれば約11%)として与える。
【0045】
例2:3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノン、およびその(−)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−L−グロン酸塩(PRON−diketegulac)の調製
PRON−HCl(15.0g、47.5mmol)、MTBE(170mL)および水(20mL)の混合物を0℃に冷却した後、水酸化ナトリウム(12.8gの20%水溶液)を15分で滴下して加え、10分攪拌する。その後、攪拌を停止し、2相に分離させ、有機層を水(60mL)を用いて洗浄する。その後、集めた水相をMTBE(2×50mL)を用いて抽出する。2つの集めた有機相に、MTBE(400mL)中の(−)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−L−グロン酸((−)−DAG、13.1g、4.48mol)の溶液を滴下して加える。生成物は、滴下中すぐに沈殿する。滴下が終了したら、懸濁液を真空中で半分の体積にまで濃縮し、残渣を50〜60℃に加熱し、およびヘプタン(250mL)を加える。その後、懸濁液を5℃にまで冷却し、沈殿をろ過し、MTBE/ヘプタン(1:2、v:v、2×60mL)を用いて洗浄する。30℃で15時間、30mbarで乾燥すると、白色固体(13.2g、66%)を与える(HPLCによれば、アッセイは96.1重量%、純度は99.6エリア%)。
【0046】
例3:PRON−diketegulacの調製
5.5LのMTBEと0.9Lの水中の675g(2.13mol)PRON−HClの粘性の懸濁液を、10L容器中で、0〜5℃の温度で攪拌する。0.5時間で、576g(2.88mol)の20%NaOH溶液を加え、この反応混合物を、さらに30分間、同じ温度で攪拌する。相を分離した後、水(1.3L)を用いて有機層を洗浄し、MTBE(2×1.3L)を用いて水相を抽出し、集めた有機相を10Lの容器中で10℃以下にまで冷却する。15分で590gの(−)−DAG(2.02mol)の溶液を滴下した後、黄色がかった混合物が得られ、自然に結晶化が起こるか、あるいは、生成物の小さな結晶のような結晶種を加えた後に結晶化が起こる。2時間、0〜5℃でさらに攪拌した後、MTBE(2×1.5L)を用いて洗浄し、真空中、50〜55℃で乾燥すると、生成物(740gのオフホワイト色の結晶体)が得られる。
【0047】
例4:PRON−diketegulacの再結晶
738gの例3の生成物、5.3LのMTBE、および2.7Lのメタノールの懸濁液を、還流下で加熱する。さらに1.8Lのメタノールを同じ温度で加えた後に、明るい黄色がかった溶液を得る。3時間で0〜5℃にまで冷却する間に、生成物が沈殿する。さらに0〜5℃で2時間攪拌した後に、ろ過し、MTBE(2×1L)を用いて洗浄し、真空中50〜55℃で乾燥すると、生成物(538gの白色固体)が得られる。
【0048】
例5:(S)−PRON−diketegulacの水素化
メタノール(5mL)中の例4のPRON−diketegulac(250mg、0.56mmol)の溶液を、50mLのオートクレーブ中に、窒素下で仕込む。メタノール(2mL)中の[Rh((R,R,S,S)−Tangphos)(ノルボルナジエン)]BF(3mg)の溶液を、先の混合物にシリンジで加える。水素化を上記したように行うと、(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノールと(−)−DAG((S)−PROL−diketegulac)の塩を、ベージュ色の固体(0.22g、92%)として与える。変換率は、HPLCによれば100%であり、eeは、95%(S異性体id(S isomer id)を好ましく形成した)。
【0049】
例6:(S)−PROL−diketegulacの加水分解
9.0g(20.2mmol)の例5の固体のPROL−diketegulacを、水(22mL)、CHCl(18mL)および水酸化ナトリウムの水溶液(30%、2.07g、25.9mmol)の混合物に少しずつ加え、この反応混合物(2相)を、15分間攪拌する。相分離後、水相をCHCl(12mL)を用いて抽出する。集めた有機相を、水(13mL)を用いて洗浄する。溶媒を20℃、真空中で、9mLの体積にまで除去する。ヘプタン(18mL)を残渣に加え、生じる溶液をさらに、真空中、20℃で、約18mLの体積にまで濃縮する。自然に結晶化が起こるか、あるいは、結晶種を入れた後結晶化が起こり、この懸濁液を、30分間20℃でさらに攪拌する。沈殿をろ過し、ヘプタン(7mL)を用いて洗浄し、40℃で15時間、25mbarで乾燥させると、(S)−PROL(3.0gの白色固体、87%)を与える。
【0050】
例7:PRON−2−ケト−L−グロン酸塩の調製
15.0g(47.5mmol)のPRON−HCl、170mlのMTBEおよび20mLの水の混合物を、250mLの容器中で5〜10℃に冷却する。12.8gの20%NaOH溶液を添加した後、混合物をさらに15分間攪拌する一方で相分離が起こる。有機相を水(60mL)を用いて洗浄し、水相をMTBE(2×50mL)を用いて抽出する。集めた有機相を、10℃以下に冷却し、15分で、400mLのMTBE中の8.7g(45mmol)の2−ケト−L−グロン酸の懸濁液を加える。粘性の懸濁液が生成する。溶媒の体積を、約半分にまで減らす。反応混合物を還流下で加熱し、250mLのヘプタンを加える。300mLのメタノールをさらに加えた後、還流下で30分間加熱し、この混合物を室温(RT)にまで冷却し、溶媒を除去する。樹脂状の残渣を100mLのメタノールと混合し、固体をろ過し、真空中50〜55℃で乾燥させると、8.3gの黄褐色の固体を与える。
【0051】
例8:PRON−2−ケト−L−グロン酸塩の再結晶
8.2gの例7の固体生成物を、100mLのエタノールと共に、還流下で加熱する。攪拌しながら、透明な溶液をRTにまで冷却し、樹脂が沈殿する。混合物を1時間RTで攪拌する。湿った樹脂を真空中、50〜55℃で乾燥すると、4.5gの黄褐色の固体を与える。
【0052】
例9:PRON−安息香酸塩の調製
15.0g(47.5mmol)のPRON−HCl、170mLのMTBE、および20mLの水の混合物を、250mLの容器中で5〜10℃に冷却する。12.8gの20%NaOH溶液を加えた後、この混合物をさらに15分間攪拌する一方で相分離が起こる。有機相を水(60mL)を用いて洗浄し、水相をMTBE(2×50mL)を用いて抽出する。集めた有機相を10℃以下にまで冷却し、15分で400mLのMTBE中の5.5g(45mmol)の安息香酸の懸濁液を加える。オイル状の懸濁液が生成する。溶媒の体積を約半分にまで減らす。反応混合物を還流下で加熱し、250mLのヘプタンを加える。混合物をRTに冷却し、1時間攪拌する。固体をろ過し、ヘプタン/MTBE(2×60ml)を用いて洗浄し、真空中50〜55℃で乾燥させる。収量:10.4gの黄褐色の固体生成物。
【0053】
例10:PRON−安息香酸塩の再結晶
10.3gの例9の固体生成物を、50mLの酢酸エチルと共に還流下で加熱する。攪拌しながら、透明な溶液をRTにまで冷却し、固体を析出させる。混合物を1時間RTで攪拌する。樹脂を、真空中50〜55℃で乾燥させると、6.1gの淡褐色の固体を与える。
【0054】
例11:PRON−安息香酸塩の水素化
メタノール(5mL)中の例10のPRON−安息香酸塩(146mg)の溶液を、50mLのオートクレーブ中、窒素下で仕込む。その後、メタノール(2mL)中の3mgの[Rh((S,S)−Me−Duphos)(1,4−シクロオクタジエン)]BFの溶液を、シリンジで加える。混合物を上記したように水素化すると、0.12gの固体((S)−PROL−安息香酸塩)を与える。変換率は、HPLCによれば99%であり、eeは96.7%、S異性体を好ましく生成した。
【0055】
比較例4:PRON−p−トルエンスルホン酸塩の調製
15.0g(47.5mmol)のPRON−HCl、170mLのMTBE,および20mLの水の混合物を、250mLの容器中で5〜10℃に冷却する。12.8gの20%NaOH溶液を加えた後、混合物をさらに15分間攪拌する一方で、相分離が起こる。有機層を水(60mL)を用いて洗浄し、水相をMTBE(2×50mL)を用いて抽出する。集めた有機相を10℃以下に冷却し、15分で400mLのMTBE中の8.6g(45mmol)のp−トルエンスルホン酸一水和物の懸濁液を加える。オイル状の懸濁液を生成する。溶媒の体積を約半分にまで減らす。反応混合物を還流下で加熱し、250mLのヘプタンを加える。混合物をRTにまで冷却し、30分間攪拌する。固体をろ過し、MTBE(2×60mL)を用いて洗浄し、真空中50〜55℃で乾燥すると、14.3gの生成物(黄褐色の固体)を与える。
【0056】
比較例5:PRON−p−トルエンスルホン酸塩の再結晶
14.2gの比較例4の固体生成物を、50mLのイソプロパノールと還流下で加熱する。攪拌しながら、透明な溶液をRTにまで冷却し、固体を析出させる。混合物を1時間RTで攪拌する。樹脂を、真空中50〜55℃で乾燥させると、12.5gの黄褐色の固体を与える。
【0057】
比較例6:PRON−p−トルエンスルホン酸塩の水素化
メタノール(5mL)中の比較例5のPRON−p−トルエンスルホン酸塩(155mg)の溶液を、50mLのオートクレーブ中に窒素下で仕込む。その後、メタノール(2mL)中の3mgの[Rh(Me−Duphos)(1,4−シクロオクタジエン)]BFの溶液をシリンジで加える。水素化を上記したように行うと、0.12gの固体生成物((S)−PROL−p−トルエンスルホン酸塩)を与える。変換率はHPLCによれば5%であり、eeは>90%であり、S異性体が好ましく形成した。
【0058】
例12:PRON−ラウリン酸塩の調製
15.0g(47.5mmol)のPRON−HCl、170mLのMTBE、および20mLの水の混合物を、250mLの容器中で5〜10℃に冷却する。12.8gの20%NaOH溶液を加えた後、混合物をさらに15分間攪拌する一方で、相分離が起こる。有機層を水(60mL)を用いて洗浄し、水相をMTBE(2×50mL)を用いて抽出する。集めた有機相を10℃以下にまで冷却し、15分で200mLのMTBE中の9.0g(45mmol)のドデカン酸の懸濁液を加える。1時間攪拌後、生成物は全く固化しなかった。溶媒を真空中で除去し、オイル状の残渣を50mLのアセトニトリル中に溶解させ、還流下で加熱する。混合物をRTにまで冷却し、30分間攪拌する。当初オイル状のものが、30℃以下の温度で結晶化する。懸濁液を30分間RTでさらに攪拌した後、30mLのアセトニトリルを、この濃い懸濁液に加える。固体をろ過し、冷アセトニトリル(2×10mL)を用いて洗浄し、真空中30℃以下で乾燥させると、10.9gの生成物を与える。収量:10.9gの白色固体。
【0059】
例13:PRON−ラウリン酸塩の再結晶
10.7gの例12の固体生成物を、70mLのアセトニトリルと共に還流下で加熱する。攪拌しながら、透明な溶液をRTにまで冷却するとオイルが生成し、これは、30℃以下で結晶化する。混合物を30分間10〜15℃で攪拌し、30mLのアセトニトリルを濃い懸濁液に加える。固体をろ過し、冷アセトニトリル(2×20mL)を用いて洗浄し、真空中30℃以下で乾燥させる。収量:6.3gの白色固体。
【0060】
例14:PRON−ラウリン酸塩の水素化
メタノール(5mL)中の例13のPRON−ラウリン酸塩(184mg)の溶液を、50mLのオートクレーブ中に窒素下で仕込む。その後、メタノール(2mL)中の3mgの[Rh((R,R,S,S)−Tangphos)(ノルボルナジエン)]BFの溶液をシリンジで加える。この混合物を上記したように水素化すると、0.16gの固体生成物((S)−PROL−ラウリン酸塩)を与える。変換率は、HPLCによれば100%であり、eeは93.6%で、S異性体が好ましく形成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

(式中、Rは、2−チエニル、2−フラニル、およびフェニルから成る群から選択され、それぞれは、任意に、1以上のハロゲン原子および/または1以上のC1−4−アルキル基若しくはC1−4−アルコキシ基により置換されており、並びにRは、C1−4−アルキルまたはフェニルであり、それぞれは、任意に、1以上のハロゲン原子および/または1以上のC1−4−アルキル基若しくはC1−4−アルコキシ基により置換されている)のアミノアルコールとカルボン酸との塩を調製するための方法であって、ジホスフィン配位子、好ましくはアリールジホスフィン配位子またはビアリールジホスフィン配位子の遷移金属錯体の存在下で、式
【化2】

(式中、RおよびRは上記した通りである)のアミノケトンとカルボン酸の塩を不斉水素化することを含む方法。
【請求項2】
前記カルボン酸が、任意に置換されたC1−18−アルカン酸、並びに任意に置換された単環式および二環式の芳香族酸から成る群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
が、任意に1以上のハロゲン原子により置換された2−チエニルであり、およびRがメチルまたはエチルである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式IIの化合物が、(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノール、(S)−(−)−3−N−メチルアミノ−1−(3−クロロ−2−チエニル)−1−プロパノール、(R)−(+)−3−N−メチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノール、および(R)−(+)−3−N−メチルアミノ−1−(3−クロロ−2−チエニル)−1−プロパノールから成る群から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記遷移金属が、ロジウム、ルテニウム、またはイリジウムから成る群から選択され、好ましくはロジウムである請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ジホスフィン配位子が、
【化3】

から成る群から選択される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式IaおよびIbの化合物が、カルボン酸とのそれらの対応する塩から、アルカリ水酸化物またはアルカリ土類水酸化物の存在下での加水分解により得られる請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】

【化4】

(式中、Rは、2−チエニルまたは2−フラニルであり、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/若しくは1以上のC1−4−アルキル基またはC1−4−アルコキシ基により置換されており、並びにRは、C1−4−アルキルまたはフェニルであり、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/若しくは1以上のC1−4−アルキル基またはC1−4−アルコキシ基により置換されている)のアミノケトンとカルボン酸との塩。
【請求項9】
前記酸が、C1−18−アルカン酸、(−)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−L−グロン酸、(+)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−D−グロン酸、2−ケト−L−グロン酸、2−ケト−D−グロン酸、L−アスパラギン酸、D−アスパラギン酸、DL−アスパラギン酸、安息香酸、3−メチル安息香酸、サリチル酸、および1−ナフタレンカルボン酸または2−ナフタレンカルボン酸から成る群から選択される請求項8に記載の塩。
【請求項10】

【化5】

(式中、Rは、2−フラニルまたはフェニルであり、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/若しくは1以上のC1−4−アルキル基またはC1−4−アルコキシ基により置換されており、およびRは、C1−4−アルキルまたはフェニルであり、それぞれは任意に、1以上のハロゲン原子および/若しくは1以上のC1−4−アルキル基またはC1−4−アルコキシ基により置換されている)のアミノアルコールとカルボン酸との塩(但し、酸が、(−)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−L−グロン酸、または(+)−2,3:4,6−ジ−O−イソプロピリデン−2−ケト−D−グロン酸である塩は除く)。

【公開番号】特開2012−229223(P2012−229223A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−134968(P2012−134968)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【分割の表示】特願2006−553562(P2006−553562)の分割
【原出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(398075600)ロンザ アーゲー (58)
【Fターム(参考)】