説明

鏡及びその製造方法

【課題】切断、面取り等において優れた加工性を有するほか、通常の環境下で考えられる様々な使用条件下において優れた耐薬品性や耐食性、特にキャス試験において優れた性能を発揮し、しかも、裏止め塗膜を形成するための塗料組成物が有機溶剤を含まない環境問題をクリアした鏡及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板1上に銀鏡面膜2と、銅保護膜3と、裏止め塗膜4とを順次形成してなる鏡であって、裏止め塗膜4が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びクレゾールノボラックエポキシ樹脂から選ばれた1種又は2種以上のエポキシ樹脂を含む粉体塗料組成物を用いた粉体塗装により形成されている鏡である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性や耐食性、特にキャス試験において格段に優れ、かつ切断、面取り等の加工性にも優れており、しかも、製造時における環境問題をクリアした鏡及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板の裏面に銀鏡面膜が鍍金された鏡については、この鏡が用いられる環境下での水蒸気、各種の耐食性ガス、各種の薬品等に起因する銀鏡面膜の変色や剥離を防止し、また、銀鏡面膜の機械的損傷を防止するために、この銀鏡面膜上に金属保護膜を形成し、更にその上に、光明丹、弁柄、鉛シアナミド、炭酸カルシウムやアルキッド系樹脂塗料を塗布して裏止め塗膜を形成することが行なわれていた。しかしながら、このような裏止め塗膜を形成した鏡においては、鏡が用いられる環境によってはその耐薬品性、耐食性等において必ずしも満足できる性能が得られていなかった。
【0003】
そこで、この問題を解決するために、従来においても幾つかの提案が行われている。例えば、特許文献1には、裏止め塗膜を、二塩基酸でエステル化したビスフェノール型エポキシエステル樹脂を主成分とするビヒクル(B)と顔料(P)とを重量比(P/B)0.5〜4.2の割合で含む塗料組成物で形成し、これによって鏡の耐蝕性、耐久性、及び加工性を改良することが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、金属保護膜の露出した鏡の端縁を被覆する乾燥が短時間で済み、ガラス基板端縁のガラス面、銀鏡膜、銅等からなる金属保護膜、裏面保護膜へ強固に付着し、これによって耐食性に優れ長期にわたり優れた防食効果を有する鏡用縁塗り液が提供されている。
【0005】
また、特許文献3には、銅保護膜と裏止め塗膜との間に、ベンゾトリアゾール及び/又はその誘導体を塗布して形成された被膜を設け、耐アルカリ性、耐酸性等の化学的耐久性に優れていると共に、厳しい使用条件下でも耐久性に優れ、しかも、切断、面取り等の加工性にも優れた鏡が提案されている。
【0006】
更に、特許文献4には、ガラスシート上に銀めっきして銀の反射層(銀鏡面膜)を形成し、この反射層の上に塩化錫の酸性溶液をスプレーし、更に、0.1容量%-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン溶液をスプレーした後、エポキシポリエステル樹脂の熱硬化性粉末塗料を静電投射により塗布し、次いで加熱硬化させて反射層の保護層を形成することが開示されている。この反射層の保護層は、銀鏡面膜を保護するために用いられる銅保護膜とこの銅保護膜を保護するために塗料中に配合される鉛顔料の使用を回避するためのものである。なお、この特許文献3には、銀の反射層の上に銅保護層を有する鏡に対しては、銅の存在が塗料粉末の接着性を低減するので、この特許文献3に記載の方法を適用できないことが記載されている。
【0007】
なお、特許文献5には鉛系顔料の含有量を低減した裏止め塗膜用組成物が開示されており、また、特許文献6には、鉛系顔料に代えて、無鉛防錆顔料としてモリブデン酸カルシウムを用いた裏止め塗膜用組成物が開示されており、いずれも環境負荷物質の使用を低減した裏止め塗膜用組成物として提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05-161,531号公報
【特許文献2】特開2005-307,179号公報
【特許文献3】特開平07-234,306号公報
【特許文献4】特開平09-150,110号公報
【特許文献5】特開2006-028,462号公報
【特許文献6】特開2007-041,479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような従来の鏡においては、それぞれその裏止め塗膜に基づく効果は達成されるものの、優れた加工性を維持しながら、様々な環境下で使用される鏡の多くの使用条件下に存在する悪条件に対しては必ずしも充分に満足のゆく性能は得られておらず、しかも、特許文献3を除く他の特許文献に記載された裏止め塗膜用塗料組成物は、環境負荷物質であるキシレン等の有機溶剤を用いる溶剤系塗料であって、環境汚染の低減や作業環境の改善を目的としてその使用を自粛することと逆行するものであり、環境への影響も懸念されていた。
【0010】
そこで、本発明者らは、このような裏止め塗膜を有する鏡における従来の問題を解決することについて鋭意検討した結果、意外なことには、粉体塗料組成物に配合されるエポキシ樹脂として特定のエポキシ樹脂を用いることにより、銀鏡面膜の保護層として銅保護膜を用いても粉体塗料の接着性が低下することがなく、従来のこの種の裏止め塗膜を有する鏡の問題点を解決することができ、切断、面取り等において優れた加工性を維持しながら、通常の環境下で考えられる様々な使用条件下において裏止め塗膜が本来有するべき耐薬品性、耐食性、特にキャス試験において充分に満足し得る性能が得られ、しかも、有機溶剤を含まない環境問題をクリアした鏡及びその製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、切断、面取り等において優れた加工性を有するほか、通常の環境下で考えられる様々な使用条件下において優れた耐薬品性や耐食性、特にキャス試験において優れた性能を発揮し、しかも、裏止め塗膜を形成するための塗料組成物が有機溶剤を含まない環境問題をクリアした鏡を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、このような従来のこの種の裏止め塗膜を有する鏡の様々な問題点を解決することができる鏡の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、ガラス基板上に銀鏡面膜と、銅保護膜と、裏止め塗膜とを順次形成してなる鏡において、前記裏止め塗膜が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びクレゾールノボラックエポキシ樹脂から選ばれた1種又は2種以上のエポキシ樹脂を含む粉体塗料組成物を用いた粉体塗装により形成されていることを特徴とする鏡である。
【0014】
また、本発明は、ガラス基板上に銀鏡面膜と、銅保護膜と、裏止め塗膜とを順次形成する鏡の製造方法において、前記銅保護膜上には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びクレゾールノボラックエポキシ樹脂から選ばれた1種又は2種以上のエポキシ樹脂を含む粉体塗料組成物を用いた粉体塗装により裏止め塗膜を形成することを特徴とする鏡の製造方法である。
【0015】
本発明において、ガラス基板上に形成される銀鏡面膜としては、通常、無電解メッキ法によりガラス基板面に膜状に析出させて形成させる銀膜が使用されるが、必ずしもこれに限定されることはなく、真空蒸着法、スパッター法、その他各種の被膜形成法により形成される銀膜も鏡鏡面膜として使用することができる。係る銀鏡面膜は、鏡として要求される反射率が充分に得られ、かつ耐久性に優れた銀鏡面膜が得られるように、通常その膜厚が0.5g/m2以上2g/m2以下、好ましくは0.7g/m2以上1.2g/m2以下の範囲に形成される。
【0016】
また、本発明において、上記の銀鏡面膜の上に形成される銅保護膜は、化学的に変質し易い銀鏡面膜の化学的耐久性を高める目的で形成されるものであり、銀鏡面膜との密着性に優れ、化学的安定性が高く、しかも、銀鏡面膜と同様な被膜形成方法、例えば無電解メッキ法により容易に形成し得るものである。係る銅保護膜の膜厚については、銀鏡面膜に対する充分な化学的耐久性の向上効果が得られ、かつ銀鏡面膜との密着性も損なわれないように、通常0.1g/m2以上1g/m2以下、好ましくは0.2g/m2以上0.6g/m2以下の範囲に形成される。
【0017】
更に、本発明において、上記の銅保護膜の上に形成される裏止め塗膜は、上記の銀鏡面膜及び銅保護膜に対して耐蝕性や機械的耐久性を付与するものであって、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びクレゾールノボラックエポキシ樹脂から選ばれたエポキシ樹脂を含む粉体塗料組成物を用いた粉体塗装により形成され、エポキシ樹脂としてはその1種のみを用いることができるほか、必要により2種以上を用いることもできる。このようなエポキシ樹脂を用いることにより、銀鏡面膜の上に銅保護膜が存在しても、塗料粉末の接着性を低減することが無く、銅保護膜の上に裏止め塗膜を接着性良く形成することができる。
【0018】
本発明において、上記粉体塗料組成物には、エポキシ樹脂以外に、通常、硬化剤及び顔料が配合され、更に必要に応じて、通常の粉体塗料組成物に使用される表面調整剤、カップリング剤、硬化促進剤等の添加剤が配合される。
【0019】
ここで、本発明の粉体塗料組成物に配合される硬化剤については、特に制限されるものではないが、例えば、この種の粉体塗料において一般的に使用されるジシアンジアミド等のようなアミン類、アジピン酸ヒドラジト等のような有機酸ヒドラジド類、環状アミジン、フェノール性水酸基含有エポキシ樹脂等が挙げられる。このような硬化剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基に対し当量比で0.5以上1.5以下、好ましくは0.6以上1.2以下の範囲で使用される。この硬化剤の配合割合は、この粉体塗料組成物を用いて形成される裏止め塗膜の塗膜性能及び切削性を左右し、当量比1.5より多くなると製造時の作業性が悪くなり、反対に、当量比0.5より少ないと裏止め塗膜としての十分な性能が得られない。
【0020】
また、本発明の粉体塗料組成物に配合される顔料についても、特に制限されるものではなく、代表的なものとして、二酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料等の着色顔料や、シリカ、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔料等が挙げられる。このような顔料の配合割合は、粉体塗料組成物全体の重量に対して、通常20重量%以上50重量%以下、好ましくは30重量%以上40重量%以下の範囲であり、20重量%より少ないと得られる裏止め塗膜の柔軟性がよくなり過ぎ、最終的に切断加工を行って外形を整える際に切れ端の切離れ性が悪くなり、反対に、50%重量より多くなると仕上り外観が悪くなる。
【0021】
更に、本発明の粉体塗料組成物中に必要により配合される添加剤について、表面調整剤としては例えばレジフローP67、アクロナール4F、モダフローパウダー、ポリフロー95等のアクリルオリゴマーが例示され、また、カップリング剤としては例えばシランカップリング剤等が例示され、更に、硬化促進剤としては例えばイミダゾール化合物、トリフェニルフォスフィン、N,N-ジメチルベンジルアミン等の第三級アミン、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の第四級アンモニウム塩等が例示される。
【0022】
本発明の粉体塗料組成物は、従来から採用されている一般的な方法に従って、配合成分を混合し、混練して全体を均一に分散させた後、微粉砕処理を行うことによって調製することができる。
【0023】
また、本発明の粉体塗料組成物は、通常の粉体塗料組成物と同様の方法で銅保護膜上に塗布することができる。最も好適な塗布方法は静電粉体スプレー法である。また、塗布後の焼付け条件は、焼付温度が通常140℃以上200℃以下で、好ましくは140℃以上160℃以下であって、焼付時間はその温度や設備に応じて通常3分以上20分以下である。
【0024】
本発明において、上記の鏡を製造する方法については、これまでこの種の鏡の製造において採用されてきた方法を適用できるものであるが、代表的には、先ず、表面が平滑で、かつ表面欠点が可及的に少ないガラス基板を用意し、このガラス基板を例えば酸化セリウムにて充分に洗滌した後、銀鏡面膜の形成される面を例えば塩化錫(II)を含む増感溶液と接触させた後、ビスマス(III)、クロム(II)、金(III)、インジウム(III)、ニッケル(II)、パラジウム(II)、白金(II)、ロジウム(III)、ルテニウム(III)、チタン(III)、バナジウム(III)及び亜鉛(II)の少なくとも1種のイオンを含有する活性化溶液で活性化処理し、その表面に例えば無電解メッキ法(いわゆる、銀鏡反応により銀を析出する銀メッキ液をガラス基板上にスプレーする方法)によって銀鏡面膜を形成し、次に、形成された銀鏡面膜上に無電解メッキ法により銅又は銅合金を析出する銅メッキ液をスプレーして銅保護膜を形成し、次いで洗滌し、乾燥してガラス基板上に銀鏡面膜及び金属保護膜が形成された鏡基材を製造し、この鏡基材の銅保護膜上に、上記銀鏡面膜及び金属保護膜の耐蝕性や機械的耐久性を高めるために、上記の粉体塗料組成物を塗布し、硬化処理して裏止め塗膜を形成する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の鏡は、その裏止め塗膜が特定のエポキシ樹脂を含む粉体塗料組成物の粉体塗装により形成され、たとえ銀鏡面膜に対して銅保護膜を用いても優れた接着性が確保されており、切断、面取り等の加工性に優れているだけでなく、通常の環境下で考えられる様々な使用条件下において優れた耐薬品性や耐食性、特にキャス試験において優れた性能を発揮し、しかも、有機溶剤による環境問題もないものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の実施の一例に係る鏡を示す部分断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
先ず、図1において、本発明の実施の一例に係る鏡の具体例が示されている。
この実施例の鏡は、ガラス基板1の上に銀鏡面膜2が形成されており、また、この銀鏡面膜2の上に銀鏡面膜2の化学的耐久性を高めてこの銀鏡面膜2を保護するための銅保護膜3が形成されており、更に、この銅保護膜3の上に上記銀鏡面膜2及び銅保護膜3を保護し、鏡としての耐蝕性及び耐久性を向上させるための裏止め塗膜4が形成されている。
【実施例】
【0029】
[実施例1〜10]
先ず、常法に従って、充分に洗浄されたガラス基板(サイズ;72mm×36mm×5mm)面上に、銀鏡反応によって銀を析出する硝酸銀を含む溶液と銀を還元させる還元液との銀メッキ液をスプレーし、1g/m2厚の銀鏡面膜を形成した。次に、この銀鏡面膜を水洗した後、この銀鏡面膜上に、無電解メッキ法により銅を析出する硫酸銅を含む溶液と銅を還元させる還元液との銅メッキ液をスプレーし、0.30g/m2厚の銅保護膜を形成し、次いで水洗した後に乾燥し、ガラス基板上に銀鏡面膜及び銅保護膜が積層された鏡基材を形成した。この鏡基材については実施例及び比較例の数だけ用意した。
【0030】
[粉体塗料組成物の調製]
エポキシ樹脂としてエポキシ樹脂A〔ジャパンエポキシレジン社製商品名:エピコート1003;エポキシ当量:706〕、エポキシ樹脂B〔ジャパンエポキシレジン社製商品名:エピコート1004AF;エポキシ当量:950〕、エポキシ樹脂C〔ジャパンエポキシレジン社製商品名:エピコート1005HL;エポキシ当量:1278〕、エポキシ樹脂D〔ジャパンエポキシレジン社製商品名:エピコート1001;エポキシ当量:650〕、及びエポキシ樹脂E〔ジャパンエポキシレジン社製商品名:エピコート1007;エポキシ当量:1550〕を用い、また、表面調整剤としてアクリル系レベリング剤(共栄社化学社製商品名:ポリフロー#95)を用い、更に、硬化剤としてアジピン酸ヒドラジド(日本ヒドラジン工業社製商品名:ADH)、ジシアンジアミド(SKW社製商品名:Dyhard 100S)、フェノール性水酸基含有エポキシ樹脂(エポキシフェノール1;ダウ社製商品名:DEH81)、及びフェノール性水酸基含有エポキシ樹脂(エポキシフェノール2;東都化成社製商品名:TH2000)を用い、また、硬化促進剤として2-ヘプタデシルイミダゾール(四国化成工業社製商品名:キュアゾールC17Z)、及び2-メチルイミダゾール(四国化成工業社製商品名:キュアゾール2MZ)を用い、更に、顔料として炭酸カルシウム(清水工業社製)、及びカーボンブラック(三菱化学社製商品名:MA100)を用い、下記の表1に示す割合で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて粗混合を行い、粉体塗料成分の粗混合物を得た。
【0031】
次に、上記のようにして得られた粉体塗料成分の粗混合物を二軸押出機により
100℃で溶融混練し、得られた混練物を冷却ロールで冷却した後、粉砕機にかけて微粉砕し、150メッシュパスの粉体塗料組成物を調製した。
【0032】
このようにして得られた各実施例1〜10及び比較例1の各粉体塗料組成物について、静電粉体スプレー塗装機を用い、先に調製した鏡基材の鏡基材の銅保護膜上に乾燥後の膜厚が約60μmとなるように粉体塗装を行い、その後に160℃で20分間焼付けし、各実施例1〜10及び比較例1の鏡試験片を形成した。
得られた各実施例1〜10の鏡試験片について、以下の性能試験を行った。結果を表2に示す。
【0033】
[碁盤目試験]
JIS K 5400 6.15に準拠して行った。判定は、評価点が10点の場合を合格とした。
【0034】
[温水浸漬試験]
鏡試験片を60℃の純水中に240時間浸漬し、純水中から取出した際に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0035】
[水蒸気暴露試験]
鏡試験片を純水に浸漬し、60℃の温度に加温し、240時間曝露し、その後に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0036】
[硫化水素ガス曝露試験]
鏡試験片についてその4辺をエポニックス#3100SMクリアー(大日本塗料(株)製)でシーリングし、このシーリング後の鏡試験片を硫化水素ガス雰囲気下のデシケーター中に入れて30℃で168時間曝露し、デシケーター中から取出した際に、銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0037】
[塩酸浸漬試験]
鏡試験片についてその4辺をエポニックス#3100SMクリアー(大日本塗料(株)製)でシーリングし、このシーリング後の鏡試験片を20wt%-塩酸(試薬1級)水中に20℃で72時間浸漬し、この塩酸水中から取出した際に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0038】
[苛性ソーダ水浸漬試験]
鏡試験片についてその4辺をエポニックス#3100SMクリアー(大日本塗料(株)製)でシーリングし、このシーリング後の鏡試験片を4wt%-苛性ソーダ(試薬1級)水中に20℃で96時間浸漬し、この苛性ソーダ水中から取出した際に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0039】
[アンモニア水浸漬試験]
鏡試験片についてその4辺をエポニックス#3100SMクリアー(大日本塗料(株)製)でシーリングし、このシーリング後の鏡試験片をアンモニア水(試薬1級)50重量部と純水50重量部を混合して濃度14重量%の試験用アンモニア水を調製し、鏡試験片をこの試験用アンモニア水中に20℃で96時間浸漬し、その後に試験用アンモニア水中から取出した際に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0040】
[ホルマリン液浸漬試験]
鏡試験片についてその4辺をエポニックス#3100SMクリアー(大日本塗料(株)製)でシーリングし、このシーリング後の鏡試験片を事前にホルマリン(試薬1級)中に20℃で312時間浸漬し、このホルマリン中から取出した際に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0041】
[漂白剤浸漬試験]
鏡試験片についてその4辺をエポニックス#3100SMクリアー(大日本塗料(株)製)でシーリングし、このシーリング後の鏡試験片を家庭用の漂白剤(ライオン社製商品名:キッチンブライト)中に20℃で96時間浸漬し、この漂白剤中から取出した際に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0042】
[洗剤浸漬試験]
鏡試験片についてその4辺をエポニックス#3100SMクリアー(大日本塗料(株)製)でシーリングし、このシーリング後の鏡試験片を家庭用の洗剤〔サンポール社製商品名:サンポール(特許第1,249,719号製品)〕中に20℃で72時間浸漬し、この洗剤中から取出した際に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0043】
[塩水噴霧試験]
JIS Z 2371に準拠して塩水噴霧試験を行い、500時間後に銀鏡面膜のエッジから5mm以内に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0044】
[促進耐候試験]
JIS K 5400 6.17に準拠して促進耐候試験を240時間行った後、銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察すると共に、裏止め塗膜に「しわ、脹れ、割れ、剥れ、及び白亜化」が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、銀鏡面膜に異常が認められず、また、しわ、脹れ、割れ、剥れがない場合を合格とした。
【0045】
[切離れ性試験]
クロス切機を用いて鏡試験片を縦横十文字に4分割する際に、切込み線を入れた後にこの切込み線の下に爪楊枝を置き、この爪楊枝をその上から押えて鏡試験片を4つ折りし、その後に爪楊枝を持ち上げた際に、この爪楊枝から裏止め塗膜が離れた時の高さを測定して評価した。評価は○:0〜10mmの範囲、△:10〜20mmの範囲、及び×:20mm以上の4段階で行った。
【0046】
[面取り加工試験]
鏡試験片を120℃で1時間加熱処理した後、裏面取幅3mm、25mm/分の速度で面取り加工を行い、形成されたエッジ部における剥離の有無を目視で観察した。判定は、◎:剥離が全く認められない(合格)、○:剥離が極く部分的に認められる(合格)、×:剥離が認められる(不合格)の3段階で評価した。
【0047】
[沸騰水浸漬試験]
鏡試験片を98℃の純水中に18時間浸漬し、この沸騰水中から取出した際に銀鏡面膜に何らかの異常が発生しているか否かを目視で観察した。判定は、異常が認められない場合を合格とした。
【0048】
[外観観察]
鏡試験片について、ハロゲンランプの下で外観観察を行った。目視で穴、塗ブツが無く、指触でもザラツキ等が無い場合を合格とした。
【0049】
[比較例1]
エポキシ樹脂として下記の方法で調製された溶剤型のビスフェノール型エポキシエステル樹脂〔エポキシ樹脂F;エポキシ当量:900〜1000〕を用い、このエポキシ樹脂Fと、顔料の弁柄、鉛丹、及びタルクと、溶剤のエチルセロソルブ、及びキシレンとを表1に示す割合で配合し、ガラスビーズを用いて均一に分散し、比較例1の溶剤型塗料組成物を得た。
【0050】
次に、実施例1で用いたものと同じ鏡基材の銅保護膜上に、上記比較例1の溶剤型塗料組成物をフローコーターで塗布し、被塗物温度150℃で10分の強制乾燥を行い比較例1の鏡試験片を形成した。得られた比較例1の鏡試験片について、実施例1と同様に性能試験を行った。結果を表2に示す
【0051】
なお、上記のエポキシ樹脂Fは、以下のようにして調製した。
加熱装置、撹拌機、温度計及び水分離器を備えた反応容器に、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂〔大日本インキ化学工業社製商品名:エピクロン4050;エポキシ当量900〜1000〕950重量部と、コハク酸50重量部と、キシレン430重量部とを仕込み、不活性ガス雰囲気下に加熱した。原料が溶融して撹拌が可能になった段階で撹拌を開始し、2-メチルイミダゾール25重量部を加えて140℃まで昇温させ、同温度で5時間反応を継続し、酸価が5になった時点で反応を終了し、反応系を冷却した。反応系を冷却した後、プロピレングリコールモノメチルエーテル800重量部を添加し、不揮発分45重量%、ビスフェノール型エポキシエステル樹脂溶液(エポキシ樹脂F)を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
上記の表1及び表2の結果から明らかなように、本発明の各実施例に係る鏡は、銅保護膜との密着性が良く、かつ、耐水蒸気性、耐水性、耐アンモニア性、耐アルカリ性、耐酸性、耐ホルマリン性、耐硫化水素性等の化学的耐久性に優れ、更に、接着強度、破断強度、耐衝撃性等の機械的特性にも優れている。また、本発明の各実施例に係る鏡においては、その裏止め塗膜が粉体塗装により形成されているので、この裏止め塗膜には適度の柔軟性、弾力性、伸張性、切離れ性が付与され、その硬さ、銅保護膜との接着強度、残留応力、熱膨張率等が改善され、結果として、鏡の切断加工時や面取り加工時に、切断部や面取り部において裏止め塗膜、銅保護膜、あるいは銀鏡面膜が剥離することがなく、また、鏡の切断加工後の切離れ性が良好であって、更には機械的な損傷も少ない。
【符号の説明】
【0055】
1…ガラス基板、2…銀鏡面膜、3…金属保護膜、4…裏止め塗膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に銀鏡面膜と、銅保護膜と、裏止め塗膜とを順次形成してなる鏡において、前記裏止め塗膜が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びクレゾールノボラックエポキシ樹脂から選ばれた1種又は2種以上のエポキシ樹脂を含む粉体塗料組成物を用いた粉体塗装により形成されていることを特徴とする鏡。
【請求項2】
粉体塗料組成物が、樹脂以外の成分として、硬化剤、硬化促進剤、及び顔料を含むことを特徴とする請求項1に記載の鏡。
【請求項3】
粉体塗料組成物中の硬化剤が、アジピン酸ヒドラジド、ジシアンジアミド、及びフェノール性水酸基含有エポキシ樹脂から選ばれた1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鏡。
【請求項4】
ガラス基板上に銀鏡面膜と、銅保護膜と、裏止め塗膜とを順次形成する鏡の製造方法において、前記銅保護膜上には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びクレゾールノボラックエポキシ樹脂から選ばれた1種又は2種以上のエポキシ樹脂を含む粉体塗料組成物を用いた粉体塗装により裏止め塗膜を形成することを特徴とする鏡の製造方法。
【請求項5】
粉体塗料組成物が、樹脂以外の成分として、硬化剤、硬化促進剤、及び顔料を含有することを特徴とする請求項4に記載の鏡の製造方法。
【請求項6】
粉体塗料組成物中の硬化剤が、アジピン酸ヒドラジド、ジシアンジアミド、フェノール性水酸基含有エポキシ樹脂から選ばれた1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項5に記載の鏡の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−213943(P2012−213943A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81476(P2011−81476)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】