説明

鏡板を備えた圧力容器

【課題】容器内の充填物の荷重を鏡板で支持するため剛性な梁が必要なく、さらに前記充填物の加重を鏡板に伝える部材と鏡板との溶接固定部近傍への応力の集中を低減し、前記溶接固定部近傍での鏡板の損傷を防止することができる圧力容器を提供する。
【解決手段】下端部に設けた鏡板16中央部に排出路24を備え、内部に充填剤20を充填してなる圧力容器において、前記容器外側の鏡板面に、前記排出路24を取り囲むようにリング状の補強材36を設け、前記容器内側の鏡板面に、前記充填剤の荷重を支持する支持部材34を複数個溶接固定する。また、前記支持部材34のうち一部又は全部を円筒状の形状とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中央部に排出口を有する鏡板を容器下端部に備え、内部に充填剤を充填してなる圧力容器に関するものであり、詳しくは支持部材を容器内側の鏡板面に溶接固定して該支持部材を介して鏡板によって充填剤の荷重を支持するとともに、鏡板で充填剤の荷重を支持することによる鏡板の変形や、前記溶接部への応力集中を防止することができる圧力容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば空気から酸素ガスを回収する酸素製造装置においては、下端部に鏡板を有し、吸着材が充填された吸着塔の下部から高圧空気を供給することによって酸素濃縮ガスを生成することと、吸着塔内の圧力を減じて吸着剤に吸着された窒素を排気することで吸着剤を再生することとを交互に繰り返し行うことによって、酸素ガスを連続的に生成するよう構成されている。
【0003】
このような酸素製造装置として用いられる吸着塔は内部に吸着剤が充填されており、該吸着剤は相当の重量を有するためその荷重を支持する必要がある。
【0004】
そこで、前記吸着剤の荷重を支持するために、吸着材の充填部の下側に梁を設け、該梁によって前記吸着剤の荷重を支持することが考えられるが、前記梁によって充填物の荷重を支持する場合には剛性の高い梁を吸着塔内部に設ける必要があり、梁も含めた吸着塔全体の重量が大幅に増加してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、前記吸着剤の荷重を支持するために、吸着材の充填部の下側に放射状に複数(例えば8つ)の板状の支持板を取り付けるとともに、該支持板の下側を吸着塔下端部の鏡板の容器内側表面に溶接固定し、前記支持板を介して鏡板で前記吸着剤の荷重を支持することが行われている(従来技術1)。
【0006】
しかしながら、従来技術1においては、前記支持板を介して鏡板で前記吸着剤の荷重を支持するため、支持板と鏡板の溶接部分近傍での鏡板の変形が大きくなり、前記溶接部分に応力が集中し、前記鏡板の前記溶接部分近傍部分が損傷しやすいという問題がある。
【0007】
さらに、前記鏡板の下端部に排出路を備えている場合には、排出路近傍では吸着剤の荷重を支持することができず、鏡板が支持する荷重は内側と外側でその差が大きく、さらに前記溶接部分に応力が集中しやすい。
【0008】
鏡板の補強構造としては例えば特許文献1に、鏡板が繊維強化プラスチック製の板状材、該板状材と一体化した補強リブとよりなるものであって、該各補強リブは、前記板状材の少なくとも片側表面に、該板状材周辺部に形成された補強リングの少なくとも3箇所から、容器の設置時に鏡板の中心から下方に位置する該補強リブの結合部に向かって直線的に延びるように形成されている補強リング一体型鏡板が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第3674456公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、一般的な鏡板の補強を対象としており、鏡板に溶接固定した支持板を介して鏡板で、容器内の充填物の荷重を支持するものではない。従って、特許文献1に開示された鏡板を容器内の充填物の荷重を支持するように構成した鏡板として使用しても、前記従来技術1における問題点を解決することは困難である。
【0011】
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、容器内の充填物の荷重を鏡板で支持するため剛性な梁が必要なく、さらに前記充填物の加重を鏡板に伝える部材と鏡板との溶接固定部近傍への応力の集中を低減し、前記溶接固定部近傍での鏡板の損傷を防止することができる圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明においては、
中央部に排出口を有する鏡板を容器下端部に備え、内部に充填剤を充填してなる圧力容器において、前記容器外側の鏡板面に、前記排出口を取り囲むようにリング状の補強材を設け、前記容器内側の鏡板面に、前記充填剤の荷重を支持する支持部材を複数個溶接固定したことを特徴とする。
【0013】
前記鏡板に前記支持部材を複数個溶接することで、前記充填剤の荷重を前記支持部材を介して前記鏡板で支持することができる。
さらに、前記リング状の補強材を容器外側の鏡板面、即ち容器底部に前記排出路を取り囲むように設けることで、該補強材近傍の鏡板の変形を抑制することができ、このことにより前記支持部材と鏡板との溶接部への応力の集中を低減し、前記溶接部における鏡板の損傷の可能性を低減することができる。
前記溶接部近傍の鏡板の変形を効率的に抑制するためには、前記リング状の補強材の取り付け位置を、前記支持部材を溶接固定した位置と前記鏡板を挟んで対向する位置、またはその近傍とすることが好ましい。
さらに、前記補強材は容器外側から取り付けることができるため、取り付けが容易であり、既存の容器にも容易に適用することができる。
さらにまた、前記鏡板は下端部に排出口が備えられているため、排出口を備えない鏡板よりも強度が弱いが、前記補強材を取り付けることで鏡板全体の強度を上げることができる。
【0014】
また、前記複数の支持部材のうち一部又は全部を円筒状の形状としたことを特徴とする。
前記支持部材を円筒状の形状とすることで、前記支持部材の断面積が支持部材を板状とする場合よりも大きくなって荷重が分散し、また溶接範囲も大きくなるため、前記溶接部への応力集中が起きにくくなり、前記溶接部近傍の鏡板の損傷の可能性をさらに低減することができる。
【0015】
また、前記リング状の補強材を同心円状に3つ設け、前記リング状の補強材のうち、中心から2番目の円を形成するリング状の補強材と前記鏡板を挟んで対向する位置で、前記複数の支持部材を前記鏡板に溶接固定したことを特徴とする。
【0016】
前記補強材を同心円状に3つ設けることで、鏡板の変形をさらに小さく抑制することができる。
さらに、内側から1番目と2番目の補強材間の間隔と、内側から2番目と3番目の補強材の間隔を略同じとする、即ち前記3つの補強材を略等間隔に同心円状に設けると、鏡板の変形を鏡板全体に渡って均等に抑制することができる。
【0017】
また、前記リング状の補強材を同心円状に2つ設けるとともに、前記2つのリング状の補強材の間に、前記補強材の半径方向にリブを複数個取り付け、前記2つの補強材の間と前記鏡板を挟んで対向する位置で、前記複数の支持部材を前記鏡板に溶接固定したことを特徴とする。
【0018】
前記補強材を2つ設けて、該補強材の間に半径方向にリブを取り付けることで、前記支持板近傍の鏡板の変形を小さくして、前記溶接部分の応力の集中をさらに効率よく低減することができる。
【0019】
また、前記リブと、前記支持部材とを鏡板を挟んで対向する位置に設けることを特徴とする。
これにより、さらに効率よく前記溶接部分近傍の鏡板の変形を抑制することができるため、前記溶接部分の応力の集中をさらに効率よく低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上記載のごとく本発明によれば、容器内の充填物の荷重を鏡板で支持するため剛性な梁が必要なく、さらに前記充填物の荷重を鏡板に伝える部材と鏡板との溶接固定部近傍への応力の集中を低減し、前記溶接固定部近傍での鏡板の損傷を防止することができる圧力容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0022】
図1は、実施例1における圧力容器である吸着塔の縦断面図である。
まず図1を用いて実施例1における吸着塔全体の構成について説明する。
吸着塔10は、吸着塔外壁12、上部鏡板14、下部鏡板16、吸着剤20で概略構成されており、さらに筒状の内壁13を立設し、内壁13下部には中央部にガス排出路24を設けた内部鏡板21が設けられている。
【0023】
また、吸着塔10の下部鏡板16にはガス入口22が設けられており、上部鏡板14には吸着剤を充填するためのマンホール26が設けられている。
また、吸着塔10は複数の支柱30(図1においては1つのみ図示)によって地表面等に固定される。
【0024】
また、内壁13外部で、前記吸着剤支持構造物18の下部には支持部材34が複数取り付けられており、該支持部材34はその下部で下部鏡板16に溶接固定されている。
支持部材34は図2に斜視図を示したように円筒状の形状である。
【0025】
図3は実施例1における図1のB方向矢視図であり、図4は実施例1における図1のA部拡大図である。なお図3においては支柱30の記載を省略している。
図1、図3及び図4を用いて支持部材34付近の構成について説明する。
図3、4に示すように吸着剤支持構造物18の下部には板状の支持板32を介して円筒状の支持部材34が8つ取り付けられており、該支持部材34はその下部で鏡板16に溶接固定されている。
【0026】
また、前記支持部材34と下部鏡板16を挟んで対向する位置には、ガス排出路24と内部鏡板21との接続部25を取り囲むように、リング状の補強材36が設けられている。
【0027】
これにより、吸着塔10内に吸着剤が充填されると、その荷重は、吸着剤支持構造物18、支持板32及び円筒状の支持部材34を介して下部鏡板16で支持される。
このとき、支持部材34と下部鏡板16を挟んで対向する位置にはリング状の補強材36が設けられているため、補強材36近傍、即ち支持部材34近傍での下部鏡板16の前記吸着剤の荷重による変形を抑制することができ、前記支持部材34と下部鏡板16との溶接部への応力の集中を抑制し、該溶接部近傍における下部鏡板16の損傷の可能性を低減することができる。
【0028】
さらに、前記支持部材34を円筒状の形状としているため、前記支持部材34の断面積が支持部材34を板状とする場合よりも大きくなって荷重が分散し、また溶接範囲も大きくなるため、前記溶接部への応力集中が起きにくくなり、前記溶接部近傍の下部鏡板16の損傷の可能性をさらに低減することができる。
【0029】
前記の構成において、前記吸着塔10に原料ガスとして空気を供給し、酸素を分離回収する場合について説明する。
【0030】
吸着剤充填用に設けたマンホール26から吸着塔10内へ吸着剤を充填する。
【0031】
その後、ガス入口22から高圧空気を導入すると、該空気は吸着塔10内の外壁12から内壁13に向かって流れ、吸着剤20を通過する間に窒素が吸着剤に吸着される。
【0032】
吸着塔10内の吸着剤20を通過した空気は、内壁13外部を下降し、ガス排出路24より酸素ガスとして排出される。
その後、ガス入口22から真空ポンプなどを用いて吸着塔10内を減圧すると、吸着剤に吸着された水分及び窒素が脱着されて排出され、吸着剤が再生される。
こうして、吸着と脱着による再生を交互に繰り返し行うことによって酸素ガスが連続的に生成される。
【0033】
吸着剤の吸着と脱着による再生を交互に繰り返すことで、吸着塔10内は加圧と減圧とが交互に繰り返され、下部鏡板16に変形が生じる可能性があるが、リング状の補強材36を円筒状の支持部材34と下部鏡板16を挟んで対向する位置に設けていることにより、補強材36近傍即ち支持部材34近傍の下部鏡板16の変形を抑制することができ、支持部材34と下部鏡板16との溶接部への応力の集中を抑制し、該溶接部近傍における下部鏡板16の損傷の可能性を低減することができる。
【実施例2】
【0034】
実施例2においては、図1〜図4で説明した実施例1の吸着塔10とリング状の補強材36の形状及び設置数のみが異なるため、支持部材及び補強材付近の構成について説明し、その他については説明を省略する。
図5及び図6を用いて支持部材34及び補強材36a、36b、36c付近の構成について説明する。
図5は実施例2における図1のB方向矢視図であり、図6は実施例2における図1のA部拡大図である。なお、図5及び図6において、図1〜4と同一符号は同一物を表し説明を省略する。
【0035】
図5、6に示すように吸着剤支持構造物18の下部には板状の支持板32を介して円筒状の支持部材34が8つ取り付けられており、該支持部材34はその下部で下部鏡板16に固定されている。
【0036】
また、前記支持部材34と下部鏡板16を挟んで対向する位置には、ガス排出路24と内部鏡板21との接続部25を取り囲むように、リング状の補強材36aが設けられている。さらに補強材36aと同心円状に2つのリング状の補強材36bと36cが設けられており、補強材36bは前記支持部材34の最も容器中心に近い端部よりもさらに容器中心側に、また補強材36cは前記支持部材34の最も容器中心から遠い端部よりもさらに容器中心から遠い側に位置している。
つまり、補強材は、容器中心側から補強材36c、36a、36bの順に同心円に下部鏡板16の下側に設けられている。
【0037】
このように補強材を同心円状に3つ設けることで、鏡板の変形をさらに小さく抑制することができる。
さらに、補強材36bと補強材36aとの間隔と、補強材36aと補強材36cとの間隔とを略同じとする、即ち前記3つの補強材36a、36b、36cを略等間隔に同心円状に設けることで、鏡板の変形を鏡板全体に渡って均等に抑制することができる。
【実施例3】
【0038】
実施例3においては、図1〜図4で説明した実施例1の吸着塔10とリング状の補強材36の形状及び設置数のみが異なるため、支持部材及び補強材付近の構成について説明し、その他については説明を省略する。
図7及び図8を用いて支持部材34及び補強材36d、36e付近の構成について説明する。
図7は実施例3における図1のB方向矢視図であり、図8は実施例2における図1のA部拡大図である。なお、図7及び図8において、図1〜4と同一符号は同一物を表し説明を省略する。
【0039】
図7、8に示すように吸着剤支持構造物18の下部には板状の支持板32を介して円筒状の支持部材34が8つ取り付けられており、該支持部材34はその下部で下部鏡板16に固定されている。
【0040】
また、下部鏡板16外表面にはガス排出路24と内部鏡板21との接続部25を取り囲むように、同心円状の2つのリング状の補強材36d、36eが設けられている。補強材36eは前記支持部材34の最も容器中心に近い端部よりもさらに容器中心側に、また補強材36dは前記支持部材34の最も容器中心から遠い端部よりもさらに容器中心から遠い側に位置している。
さらに、補強材36dと補強材36eとの間には8つのリブ36fが、それぞれ補強材36d、36eが形成する同心の半径方向に、支持部材34と下部鏡板16を挟んで対向する位置に設けられている。
【0041】
このように2つのリング状の補強材36d、36eを設け、該補強材36dと36eとの間に半径方向にリブ36fを取り付けることで、支持部材34近傍の下部鏡板16の変形を小さくして、支持部材34と下部鏡板16との溶接部分の応力の集中を効率よく低減することができる。
また、前記リブ36fと前記支持部材34とを下部鏡板16を挟んで対向する位置に設けることにより、さらに効率よく前記溶接部分近傍の下部鏡板16の変形を抑制することができるため、前記溶接部分の応力の集中をさらに効率よく低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
容器内の充填物の荷重を鏡板で支持するため剛性な梁が必要なく、さらに前記充填物の加重を鏡板に伝える部材と鏡板との溶接固定部近傍への応力の集中を低減し、前記溶接固定部近傍での鏡板の損傷を防止することができる圧力容器として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1における圧力容器である吸着塔の縦断面図である。
【図2】支持部材の斜視図である。
【図3】実施例1における図1のB方向矢視図である。
【図4】実施例1における図1のA部拡大図である。
【図5】実施例2における図1のB方向矢視図である。
【図6】実施例2における図1のA部拡大図である。
【図7】実施例3における図1のB方向矢視図である。
【図8】実施例3における図1のA部拡大図である。
【符号の説明】
【0044】
10 吸着塔
16 下部鏡板
20 吸着剤
24 ガス排出路
34 支持部材
36、36a、36b、36c、36d、36e 補強材
36f リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に排出口を有する鏡板を容器下端部に備え、
内部に充填剤を充填してなる圧力容器において、
前記容器外側の鏡板面に、前記排出口を取り囲むようにリング状の補強材を設け、
前記容器内側の鏡板面に、前記充填剤の荷重を支持する支持部材を複数個溶接固定したことを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記複数の支持部材の一部又は全部を円筒状の形状としたことを特徴とする請求項1記載の圧力容器。
【請求項3】
前記リング状の補強材を同心円状に3つ設け、
前記リング状の補強材のうち、中心から2番目の円を形成するリング状の補強材と前記鏡板を挟んで対向する位置で、前記複数の支持部材を前記鏡板に溶接固定したことを特徴とする請求項1又は2記載の圧力容器。
【請求項4】
前記リング状の補強材を同心円状に2つ設けるとともに、前記2つのリング状の補強材の間に、前記補強材の半径方向にリブを複数個取り付け、
前記2つの補強材の間と前記鏡板を挟んで対向する位置で、前記複数の支持部材を前記鏡板に溶接固定したことを特徴とする請求項1又は2記載の圧力容器。
【請求項5】
前記リブと、前記支持部材とを鏡板を挟んで対向する位置に設けることを特徴とする請求項4記載の圧力容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−30634(P2010−30634A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195261(P2008−195261)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】