説明

鑑別方法

【課題】化粧料等(但し、医薬部外品を含む)の有効成分として好適な、外用で投与すべき素材の鑑別方法、当該鑑別方法により鑑別された素材、当該素材を含有してなる組成物を提供する。
【解決手段】外用で投与すべき素材の鑑別方法において、抗菌ペプチド産生促進作用、取り分け、β−ディフェンシン1産生遺伝子(hBD1mRNA)発現促進作用を指標とする外用で投与すべき素材の鑑別方法を確立することにより、皮膚バリア機能向上用に好適な、新規な作用機序を有する抗菌ペプチド産生促進作用による皮膚バリア機能向上作用を有する素材、当該素材を含有してなる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料等(但し、医薬部外品を含む)の有効成分として好適な、外用で投与すべき素材の鑑別方法、当該鑑別方法により鑑別された素材、当該素材を含有してなる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚には、熱や痛みなどの外部刺激を生体内に伝える働きに加え、水分の蒸散を防いだり、外部刺激や物理的刺激から体内を保護する皮膚バリア機能が存し、生体の機能維持に重要な役割を果たしている。皮膚バリア機能は、温度、湿度、過度の摩擦、生活リズムの変調、ストレスなどによりその機能が低下することが知られている。皮膚バリア機能が低下すると、皮膚の乾燥が進み、刺激に対し過敏になり、刺激を受け易くなる等の皮膚症状の悪化が生じる。この様な皮膚症状の悪化がさらに進行すると、体外からの細菌や有害物質の侵入による直接的な障害、アレルギ−反応などが生じ易くなり、アトピ−性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹等の皮膚障害の発症に繋がる。また、皮膚は、人目に触れ、見た目の美しさに直接影響するため、多くの人にとって大きな関心事である。肌状態を健康に保つことを目的とし、皮膚バリア機能改善剤(例えば、特許文献1を参照)、肌荒れ改善剤(例えば、特許文献2を参照)、セラミド合成促進剤(例えば、特許文献3を参照)等を含有する皮膚外用剤などの様々な試みがなされている。しかしながら、これらは何れもそれなりに効果を奏するものの、十分に満足のいく効果とは言い難く、新たな作用機序を有する皮膚バリア機能向上作用を有する成分の登場が望まれている。
【0003】
皮膚バリア機能は、文字通り、外部刺激より身体を守るバリアの役割を果たす皮膚の機能であり、皮膚の最外層の角層及び角層細胞間脂質がバリア機能の中心となる。皮膚バリア機能の不全は、皮膚の乾燥、肌荒れなどの皮膚症状の悪化として現れ、その予防又は改善策は化粧料分野においては一大課題となっている。皮膚バリア機能の低下は、セラミド、ヒアルロン酸、コラ−ゲン等の皮膚中に存在する細胞間マトリックスを構成する成分の減少と深く関係することが知られている。また、最近では、角層細胞の形状や接合状態等による角層バリア機能の低下に注目が集まっている。特に、表皮顆粒層に存在するタイトジャンクション(TJ: Tight juction)は、細胞の周囲にベルト状に存在し、隣り合った細胞同士を密着することにより隙間を防ぐと共に、連続的に細胞を繋ぎ止める細胞間接着構造体であり、皮膚における物質透過性等に関与し、皮膚バリア機能発現に大きく影響する(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照)ことが報告されている。また、皮膚バリア機能の低下は、単一の要因によるものではなく、多くの因子が絡み合うことにより生じるとされており、皮膚バリア機能の低下、特に、TJ形成促進作用は、経上皮電気抵抗値(TER値:Transepitherial Electrical Resistance)等を測定することにより評価することが出来ること(例えば、特許文献4を参照)が明らかにされている。この様に、皮膚バリア機能による皮膚症状の悪化には、細胞外マトリックス成分の減少、角層細胞の形状や接合状態の悪化・崩壊等による皮膚症状の悪化が深く関与し、皮膚症状の悪化が起こった後、細菌や微生物により生じる炎症反応、免疫反応による更なる皮膚症状の悪化過程とは段階的に全く異なるものである。
【0004】
さらに、皮膚バリア機能が低下又は崩壊した後に生じる細菌又は微生物などに対する先天的な防御機構としては、生体における種々の抵抗因子産生による先天的な防除機構が知られている。この様な抵抗因子(非特許文献3を参照)としては、広い抗微生物活性を有し、ケモカイン様の働きをする抗菌ペプチドが知られている。抗菌ペプチドは、大きくは、好中球が主に産生する6種類のα−ディフェンシン(HNP1〜6: human neutrophil peptide 1〜6)、並びに、上皮系の細胞が主に産生する6種類のβ−ディフェンシン(hBD1〜6: human β−defensin 1〜6)に分類される。また、これ以外の抗菌ペプチドとしては、好中球及び上皮系の細胞などに広く産生が認められるLL−37、唾液中に存在し抗真菌活性を有するヒスタチン等が報告されている。抗菌ペプチドは、その名の通り、細菌・真菌等に対する抗菌活性を有しており、生体が細菌や炎症性サイトカインに暴露されたときに著しく誘導的に産生され、生体内における局所感染防御などの免疫系に関する生体防衛機構に深く関与している。僅かに知られている抗菌ペプチドの生物活性としては、β−ディフェンシン2が、歯周炎症原因菌抑制作用(例えば、特許文献4を参照)を示し歯周病炎症の予防又は治療に利用されていること、殺菌作用により炎症又は免疫反応を抑制し皮膚を保護することが知られている。しかしながら、抗菌ペプチドの免疫増強作用以外の生物活性は、ほとんど明らかにされておらず、この様な抗菌ペプチドが、皮膚の細胞形状や接合状態を変化させることにより皮膚バリア機能向上作用を有することは、全く知られていない。本発明者等は、抗菌ペプチドが、抗菌作用を示すと共に、TJ形成促進作用による皮膚バリア機能を向上させることを見出した。このことは、抗菌ペプチド、又は、抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分が、TJ形成促進作用による皮膚バリア機能向上作用を有し、新たな肌改善剤として期待することが出来る。さらに、抗菌ペプチド産生促進作用を指標とした肌改善剤を鑑別する方法は、新たな作用機序を有する肌改善剤の鑑別方法として有効であることを意味している。また、この様な抗菌ペプチドには、従来の細菌や炎症等に対する免疫系生体防御反応も同時に期待出来るため、皮膚状態の悪化の前段階における皮膚バリア機能向上作用、悪化進行段階の抗菌作用を併せ持つことが期待される。特に、過敏な肌においては、細菌類が常に皮膚に刺激を与え、過敏性を亢進させていると言われている。このため、抗菌ペプチド産生促進作用を指標とした外用で投与される素材の鑑別方法は、過敏症などこれまで対象にし得なかった肌の改善に寄与すると共に、肌改善剤の鑑別方法として非常に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−001914号公報
【特許文献2】特開2008−044857号公報
【特許文献3】特開2006−232769号公報
【特許文献4】特開2002−114704号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Furuse M.,Biocimica et Biophysica Acta(BBA) Biomembranes,1788(4),813−819(2009)
【非特許文献2】Furuse M. et al.,J. Cell. Biol.,156,1099−1111(2002)
【非特許文献3】R.I.Lehrer、 et al.、 Cell、 64、 229−230(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な状況下において為されたものであり、化粧料原料(但し、医薬部外品を含む)として好適な外用で投与すべき素材を見出し、化粧品や医薬品に応用可能である、肌改善用に好適な、抗菌ペプチド産生促進作用を指標とする外用で投与すべき素材の簡便、且つ、確実な鑑別方法を提供することを課題とする。
【0008】
この様な実情に鑑みて、本発明者等は、肌改善用に好適な、外用で投与すべき素材の作用機序に着目し、かかる素材を簡便、効率的、且つ、精度よく鑑別する方法を求め鋭意努力を重ねた結果、抗菌ペプチドが、皮膚バリア機能向上作用を有することを見出した。このことは、皮膚における抗菌ペプチド又は抗菌ペプチド量を増加させる作用を有する素材が、皮膚バリア機能を向上させ、肌改善用の素材として有用であることを意味する。皮膚バリア機能向上作用は、皮膚症状が悪化する前の段階において働くものであり、従来の抗菌ペプチドに作用が認められている抗菌作用による炎症抑制又は免疫系の生体防御反応とは全く異なるものである。さらに、抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分は、皮膚バリア機能向上作用による皮膚症状の悪化の前段階における肌改善効果に留まらず、皮膚症状の悪化進行過程における抗菌作用による炎症又は免疫反応に起因する皮膚症状の悪化を防止する効果も期待出来る。このため、抗菌ペプチド産生促進作用を指標とした外用で投与すべき素材、取り分け、皮膚バリア機能向上作用を有する成分を簡便、効率的、且つ、精度のよく見出すことが出来る鑑別方法は、肌改善用として好適な外用で投与すべき素材の鑑別方法として有用である。本発明は、以下に示す通りである。
<1> 刺激感受性の高い人のための肌状態を改善するために外用で投与すべき素材の鑑別方法であって、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞に対する、抗菌ペプチドの産生促進作用の度合いを計測し、該促進作用が大きい場合には、肌改善作用が大きい素材であると鑑別し、小さい場合には肌改善作用が低いと鑑別することを特徴とする、外用で投与すべき素材の鑑別方法。
<2> 前記の抗菌ペプチドは、β−ディフェンシン1〜4(hBD1〜4:human β−defensin−1〜4)、又は、LL−37であることを特徴とする、<1>に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
<3> 前記の抗菌ペプチドが、上皮細胞由来の抗菌ペプチドであることを特徴する、<1>又は<2>に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
<4> 前記の上皮系細胞が、表皮細胞であることを特徴とする、<1>〜<3>に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
<5> 前記上皮系細胞由来の抗菌ペプチドが、β−ディフェンシン1(hBD1:human β−defensin−1)であることを特徴とする、<1>〜<4>の何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
<6> 前記hBD1の産生量が、hBD1産生遺伝子発現量で換算されることを特徴とする、<1>〜<5>の何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
<7> 前記外用で投与すべき素材が、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ:Tight junction)の形成促進作用を更に有することを特徴とする、<1>〜<6>の何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
<8> 前記刺激感受性の高い人は、テ−プストリッピングで回収された角層において、皮膚における炎症を認めず、重層剥離が10%以上認められる人であることを特徴とする、<1>〜<7>何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法 。
<9> <1>〜<8>に記載の 外用で投与すべき素材の鑑別方法であって、外用で投与すべき素材としての的確性を認められた素材を含有してなる組成物。
<10> 化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、<9>に記載の組成物。
<11> 皮膚外用剤であることを特徴とする、<9>又は<10>に記載の組成物。
<12> 炎症を有しない人であって、肌荒れ状態が存在し、該肌荒れが無処置においては炎症を誘起すると印象を持った人が使用すべき皮膚外用剤であることを特徴とする、<9>〜<11>の何れか1項に記載の組成物。
<13> 肌に適した化粧料の選択方法であって、被験者からテ−プストリッピングにより採取された皮膚角層を顕微鏡で観察し、その形状より皮膚の刺激性感受性を判定し、感受性が高いと認められた場合に、<9>〜<12>の何れか一項に記載の組成物を選択することを特徴とする、化粧料の選択方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、肌改善用に好適な、外用で投与すべき素材を簡便に、効率的、且つ精度よく鑑別する方法を提供することが出来る
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の抗菌ペプチドによる皮膚バリア機能向上作用評価に関する結果を示す図である。
【図2】本発明の抗菌ペプチド以外のペプチドによる皮膚バリア機能向上作用評価に関する結果を示す図である。
【図3】本発明の植物抽出物の抗菌ペプチド産生促進作用評価に関する結果を示す図である。
【図4】本発明の植物抽出物(アマチャ、ムラサキバレンギク、シソ)によるヒト抗菌ペプチドのディフェンシン1産生遺伝子(hBD1mRNA)発現量を示す図である。
【図5】本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する植物抽出物(アマチャ、サンショウ)の皮膚バリア機能向上作用評価に関する結果を示す図である。
【図6】本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する植物抽出物(スイカズラ、ダイダイ(トウヒ))の皮膚バリア機能向上作用評価に関する結果を示す図である。
【図7】本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する植物抽出物(ショウキョウ、ヒキオコシ)の皮膚バリア機能向上作用評価に関する結果を示す図である。
【図8】本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する植物抽出物(ボタン)の皮膚バリア機能向上作用評価に関する結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の外用で投与すべき素材の鑑別方法>
本発明の外用で投与すべき素材の鑑別方法は、刺激感受性の高い人の肌状態を改善するために外用で投与すべき素材の鑑別方法であって、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞に対する、抗菌ペプチド産生促進作用の度合いを計測し、該作用が大きい場合には、肌改善作用が大きい素材であると鑑別し、小さい場合には、肌改善作用が小さいと鑑別することを特徴とする、外用で投与すべき素材の鑑別方法である。皮膚バリア機能には、皮膚の最外層の角層及び角層細胞間脂質における角層細胞の形状特性、並びに、連続的に細胞を繋ぎ止める細胞間接着構造体であるTJ及びAJ(Adherens junction)等の細胞間接着構造体が大きな役割を果たしている。特に、細胞と細胞の接合部分の結合状態に重要な役割を果たすTJ形成状態は、肌の刺激感受性と深く関与することが知られている(例えば、特開2005−345191号公報参照)。本発明における刺激感受性の高い人とは、温度、湿度、過度の摩擦、生活リズムの変調、ストレスなどの要因により角層細胞間におけるTJ等の細胞接着構造体の形成状態の悪化又は崩壊により皮膚バリア機能が低下し、外的刺激や物理的刺激に対する刺激感受性が高くなっており、炎症が認められない人であれば、特段の限定なく適応することが出来る。この様な刺激感受性の高い人に関し、具体例を挙げれば、テ−プストリッピングにより回収された角層において、皮膚における炎症を認めず、重層剥離が10%以上認められる人が好適に例示出来る。
【0012】
また、ヒト由来の抗菌ペプチドとしては、好中球により産生されるα−ディフェンシン1〜6(HNP1〜6)、上皮細胞に存在するβ−ディフェンシン1〜6(hBD1〜6)、上皮細胞又は好中球により産生されるLL−37、唾液中に存在し抗真菌活性を有するヒスタチン等が知られている。本発明の外用で投与すべき素材の鑑別方法における指標となり得る抗菌ペプチド産生促進作用は、皮膚に存在する抗菌ペプチドの産生促進作用であれば特段の限定なく適応することが出来、より好ましくは、上皮由来の細胞より産生される抗菌ペプチドの産生促進作用が好適に例示出来、さらに好ましくは、表皮細胞由来の抗菌ペプチドの産生促進作用が好適に例示出来る。これらの抗菌ペプチド産生促進作用の内、好ましいものを具体的に例示すれば、β−ディフェンシン1〜4(hBD1〜4)又はLL−37の産生促進作用が好適に例示出来、さらに好ましくは、β−ディフェンシン1(hBD1)の産生促進作用が好適に例示出来る。本発明のヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞に対する抗菌ペプチドの産生促進作用を有する成分としては、抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分のみならず、抗菌ペプチド分解抑制作用を有する成分、抗菌ペプチドの角層への分泌を促進する作用を有する成分も包含する。また、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞における抗菌ペプチドの産生作用の度合いを評価する方法としては、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞に対する抗菌ペプチドの産生促進作用を評価出来る方法であれば、特段の限定なく適応することが出来る。前記の抗菌ペプチド産生促進作用評価としては、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞において産生される抗菌ペプチド量や角層に分泌される抗菌ペプチド量を直接測定する方法のほか、抗菌ペプチドを産生する酵素の活性化作用測定方法、抗菌ペプチド産生遺伝子の発現促進作用測定方法、抗菌ペプチドの角層への分泌を促進する作用を評価する方法等が好適に例示出来るが、測定感度、操作の簡便性、測定精度等を考慮し、好ましいものとしては、抗菌ペプチド産生遺伝子の発現促進作用を測定する方法が好適に例示出来る。
【0013】
抗菌ペプチド産生遺伝子の発現促進作用を評価する方法としては、例えば、後記の「抗菌ペプチド発現遺伝子(hBD1mRNA)発現量の測定」に記載のβ−ディフェンシン1(DEF1)遺伝子発現促進作用評価方法、更には、特開1999−286496号公報に記載のβ−ディフェンシン2(DEF2)遺伝子の発現促進作用評価方法等が好適に例示出来る。また、この様な抗菌ペプチド遺伝子発現促進作用評価方法は、残りの抗菌ペプチド産生促進作用評価方法として応用することが出来る。本発明のhBD1産生遺伝子発現促進作用評価においては、ポリメラ−ゼ連鎖反応(PCR: polymerase chain reaction)を利用したPCR法が好適に例示出来る。具体的には、hBD1産生遺伝子発現量の測定には、FastLine Cell RT−PCR Kit(QIAGEN社)を用いてmRNAを抽出し、QuantiTect Multiplex RT−PCR Kit(QIAGEN社)による1ステップ・リアルタイムRT−PCRの手法を用いてhBD1mRNA発現量を測定した。RT−PCR反応と結果解析は、StepOnePlus.TMReal−Time PCR System(アプライドバイオシステムズ社)を用いて行った。また、hBD1産生遺伝子発現量は、内在性コントロ−ルのTATA Binding Protein(TBP)との比率で算出した。hBD1遺伝子のPCRでは、hBD1fプライマ−(配列表1に記載)とhBD1rプライマ−(配列表2に記載)に示すプライマ−を用いcDNAを合成し、hBD1プロ−ブ(配列表3に記載)に示すプロ−ブにより蛍光標識したものを検出した。合成されたcDNA配列は配列表4に示した。またTBP遺伝子のPCRでは、TBPfプライマ−(配列表5に記載)とTBPrプライマ−(配列表6に記載)に示すプライマ−を用いてcDNAを合成し、TBPプロ−ブ(配列表7に記載)に示すプロ−ブにより蛍光標識したものを検出した。合成されたcDNA配列は配列表8に示した。本発明における抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分、取り分け、後記の「抗菌ペプチド遺伝子(hBD1mRNA)発現量の測定」におけるβ−ディフェンシン1(DEF1)産生遺伝子発現促進作用を有する成分とは、β−ディフェンシン1mRNA産生促進作用がコントロ−ル群に比較し、1.4倍以上の増加を示す成分が好適に例示出来、より好ましくは、2.0倍以上の増加を示す成分、さらに好ましくは、統計的な有意差を持ってβ−ディフェンシン1mRNA産生促進作用を有する成分が好適に例示出来る。また、同様の基準を残りの抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分の基準として使用することが出来る。
【0014】
一方、皮膚バリア機能は、外部刺激より身体を守るバリアの役割を果たす皮膚の機能であり、セラミド、ヒアルロン酸、コラ−ゲン等の角質細胞間脂質の構成成分の減少とは別に、角層細胞の形状及び細胞間接合状態等の要因に大きく影響を受ける。皮膚バリア機能を評価する方法としては、例えば、特開2005−189011号公報に記載の経皮的散逸水分量(TEWL値:Transepidermal Water Loss)、前記特許文献4に記載の経上皮電気抵抗値(TER値:Transepitherial Electrical Resistance)等の測定による評価方法が広く知られている。特に、表皮細胞に存在し、細胞同士を密接に結び付けることにより細胞間の隙間を塞ぎ物質の透過性に影響を与えるTJ等の細胞間接着構造体の形成状態は、TER値を測定することにより評価可能である(例えば、特開2007−174931号公報参照)。また、皮膚における刺激感受性の高さは、TJ等の細胞間接着構造体の形成状態と密接に関係するため、TER値を測定することによりTJ形成促進作用による皮膚バリア機能の向上効果、即ち、刺激感受性の高い人の肌改善作用を評価することが出来る。
【0015】
これまで抗菌ペプチドには、抗菌作用が存すること、炎症又は免疫反応を抑制することは知られていたが、皮膚バリア機能向上作用が存することは、全く知られていなかった。本発明者等は、従来の抗菌ペプチドが示す抗菌作用とは全く別の作用機序により、抗菌ペプチドが皮膚バリア機能を向上させることを見出した。この作用機序は、抗菌ペプチドの添加により、TER値が上昇することで確認され、TJ等の細胞接着構造体の構造強化がその一因となっていることが判明した。具体的には、皮膚のTJ等の細胞間接着構造体の形成が促進され皮膚バリア機能向上効果を創出していることを見出した。また、皮膚バリア機能発現における下流の評価においても経皮的水分損失を抑制することも見出している。このことは、抗菌ペプチド、又は、抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分は、皮膚バリア機能向上作用、取り分け、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用による皮膚バリア機能向上効果に優れる成分として肌改善用の成分として有用であることを示している。本発明における皮膚バリア機能向上作用を有する成分は、皮膚バリア機能向上作用を有する成分であれば特段の限定なく適応することが出来、より好ましくは、前記のTJ等の細胞接着構造体の形成促進作用により皮膚バリア機能を向上させる成分が好ましい。
【0016】
前記の抗菌ペプチド又は抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分に関し、皮膚バリア機能向上作用に優れる成分、取り分け、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用に優れる成分としては、後述する「抗菌ペプチドの皮膚バリア機能向上作用の検討」において、皮膚バリア機能向上作用を有する成分、即ち、コントロ−ル群に比較し、TER値の上昇が認められる成分が好適に例示出来る。さらに、前記TER値の上昇が認められる皮膚バリア機能向上作用を有する成分の内、より好ましいものとしては、各TER値測定時間の何れかにおいて、被検試料を添加したサンプルのTER値が、コントロ−ルのTER値に比較し高かった場合、その成分を皮膚バリア機能向上作用が存する成分が好適に例示出来、さらに好ましいものとしては、TER値を測定した何れかの濃度において、全ての測定時間(初期値を除く)において、被検試料を添加したサンプルのTER値が、コントロ−ルのTER値に比較し高い物質が好適に例示出来る。この様に、前記抗菌ペプチド又は抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分は、表皮細胞に存在するTJ等の細胞接着構造体の形成を促進することにより皮膚バリア機能を向上させるため、抗菌ペプチド産生促進作用を指標として外用で投与すべき素材の鑑別方法は、刺激感受性の高い人のための肌状態を改善するために外用で投与すべき素材の鑑別方法として有用である。また、この様な刺激感受性の高い人は、炎症が存在しない、化粧料などの皮膚外用剤の投与可能な状況においても、わずかな刺激性物質に反応し、刺激を感じる場合が多い。本発明の鑑別方法により鑑別される外用で投与すべき素材は、刺激性物質による、刺激感の感受を抑制することが出来る。また、この様な刺激性の高い人は、角層細胞の重層剥離の程度が高く、全角層細胞の10%を超えていることが少なくなく、この重層剥離の程度を指標に使用者を選択することが出来る。
【0017】
<本発明の外用で投与すべき素材の鑑別方法により鑑別される抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分>
本発明の外用で投与すべき素材の鑑別方法は、刺激感受性の高い人のための肌状態を改善するために外用で投与すべき素材の鑑別方法であって、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞に対する、抗菌ペプチド産生促進作用の度合いを計測し、該作用が大きい場合には、肌改善作用が大きい素材であると鑑別し、小さい場合には、肌改善作用が小さいと鑑別することを特徴とする、外用で投与すべき素材の鑑別方法である。本発明の外用で投与すべき素材の鑑別方法により外用で投与すべき的確性を有する素材としては、鑑別における指標となる抗菌ペプチド産生促進作用が大であると鑑別された成分が好適に例示出来る。抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分には、抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分に加え、抗菌ペプチドの分解を抑制する作用を有する成分、抗菌ペプチドの角層への分泌を促進する作用を有する成分も包含される。また、前記抗菌ペプチド産生促進作用を評価する方法としては、抗菌ペプチド産生量の増加を確認することが出来る評価方法であれば特段の限定なく適応することが出来、具体例を挙げれば、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞において産生される抗菌ペプチド量や角層に分泌される抗菌ペプチド量を直接測定する方法のほか、抗菌ペプチド産生酵素の活性化作用を評価する方法、抗菌ペプチド産生遺伝子の発現促進作用を評価する方法、抗菌ペプチドの角層への分泌を促進する作用を評価する方法等が好適に例示出来る。これらの内、好ましいものを具体的に例示すれば、後記の「抗菌ペプチド遺伝子(hBD1mRNA)発現量の測定」に記載されたβ−ディフェンシン1(DEF1)遺伝子発現促進作用評価方法が好適に例示出来る。本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を指標とした鑑別方法において、抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される素材としては、抗菌ペプチド産生促進作用を示す素材であれば特段の限定なく適応出来る。前述した「抗菌ペプチド遺伝子(hBD1mRNA)発現量の測定」を例に挙げれば、前記評価系において抗菌ペプチド産生促進作用が大である判別される成分としては、β−ディフェンシン1mRNA発現促進作用がコントロ−ル群に比較し、1.4倍以上の増加を示す成分が好適に例示出来、より好ましくは、2.0倍以上の増加を示す成分、さらに好ましくは、統計的な有意差を持ってβ−ディフェンシン1mRNA産生促進作用を有する成分が好適に例示出来る。さらに、同様の基準は、残りの抗菌ペプチド産生促進作用評価におけるmRNA発現促進作用の評価基準として適応することが出来る。
【0018】
本発明の抗菌ペプチド産生促進剤としては、単純な化学物質、動植物由来の抽出物が好適に例示出来、かかる成分を唯1種のみ含有することも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。ここで、動植物由来の抽出物とは、動物又は植物由来の抽出物、具体的には、抽出物自体、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。かかる成分の内、好ましいものとしては、ユキノシタ科アジサイ属、シソ科ムラサキバレンギク属、オトギリソウ科オトギリソウ属、オミナエシ科カノコソウ属、ミカン科サンショウ属、カバノキ科カバノキ属、スイカズラ科スイカズラ属、シソ科アキギリ属、ミカン科ミカン属、フトモモ科ユ−カリ属、ミカン科キハダ属、ショウガ科ショウガ属、ドクダミ科ドクダミ属、セリ科ニンジン属、シソ科ヤマハッカ属、ボタン科ボタン属、ナス科トウガラシ属、サルノコシカケ科、シソ科タツミソウ属、キンポウゲ科オウレン属、シソ科シソ属に属する植物より得られる植物抽出物が好適に例示出来、より好ましくは、ユキノシタ科アジサイ属アマチャ、シソ科ムラサキバレンギク属エチナシ、オトギリソウ科オトギリソウ属オトギリソウ、オミナエシ科カノコソウ属カノコソウ、ミカン科サンショウ属サンショウ、カバノキ科カバノキ属シラカバ、スイカズラ科スイカズラ属スイカズラ、シソ科アキギリ属セ−ジ、ミカン科ミカン属ダイダイ、フトモモ科ユ−カリ属ユ−カリ、ミカン科キハダ属キハダ、ショウガ科ショウガ属ショウガ、ドクダミ科ドクダミ属ドクダミ、セリ科ニンジン属ニンジン、シソ科ヤマハッカ属ヒキオコシ、ボタン科ボタン属ボタン、ナス科トウガラシ属トウガラシ、サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核(チョレイ)、シソ科タツミソウ属コガネバナ、キンポウゲ科オウレン属オウレン、シソ科シソ属シソより得られる植物抽出物が好適に例示、さらに好ましくは、シソ科ムラサキバレンギク属エチナシ、オトギリソウ科オトギリソウ属オトギリソウ、オミナエシ科カノコソウ属カノコソウ、ミカン科サンショウ属サンショウ、カバノキ科カバノキ属シラカバ、スイカズラ科スイカズラ属スイカズラ、シソ科アキギリ属セ−ジ、ミカン科ミカン属ダイダイ、ミカン科キハダ属キハダ、ショウガ科ショウガ属ショウガ、ドクダミ科ドクダミ属ドクダミ、セリ科ニンジン属ニンジン、シソ科ヤマハッカ属ヒキオコシ、ボタン科ボタン属ボタン、ナス科トウガラシ属トウガラシ、サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核(チョレイ)、キンポウゲ科オウレン属オウレンより得られる植物抽出物が好適に例示出来る。かかる植物抽出物は、優れた抗菌ペプチド産生促進作用、取り分け、ディフェンシン1産生遺伝子(hBD1mRNA)発現促進作用を有し、皮膚バリア機能向上作用を発現する。
【0019】
前記のユキノシタ科アジサイ属アマチャは、日本、中国などを原産の落葉小低木であり、本州、四国、九州等の日本全国で生育し、甘味飲料や加工食品の甘味原料として使用されている。シソ科ムラサキバレンギク属エチナシ(ムラサキバレンギク)は、キク科ムラサキバレンギク属ムラサキバレンギクは、北アメリカ原産の多年草であり、大正時代に日本に輸入されている。ムラサキバレンギクは、エチナシとも呼ばれ、炎症作用などが存することが知られている。オトギリソウ科オトギリソウ属オトギリソウは、日本を原産地とする多年草であり、日本全土において生育する。全草の乾燥物は生薬として利用されている。オミナエシ科カノコソウ属カノコソウは、日本を原産地とする多年草であり、北海道、本州、四国、九州などの山地の湿り気のある草地に自生する。カノコソウの根は、精神安定作用をもたらすとされ、鎮静や眠りを深めるために利用されている。ミカン科サンショウ属サンショウは、東アジア、日本を原産地とする落葉低木である。日本においては、関東以西の本州、四国、九州などに生育し、古くから葉や果実が香辛料として利用されている。カバノキ科カバノキ属シラカバは、日本を原産地とする落葉広葉樹であり、国内においては、中部地方から北海道において生育する。スイカズラ科スイカズラ属スイカズラ、日本、朝鮮半島、中国、台湾を原産地とし、日本全土に生育する。花は、薬用酒とし、茎葉は、煎じて関節痛の治療に用いる。シソ科アキギリ属セ−ジは、サルビアとも呼ばれ、中央アメリカ、カリブ諸島、ブラジルなどを原産地とする一年草である。明治時代に日本に入ってきており、現在では、観賞用などとして栽培されている。ミカン科ミカン属ダイダイは、インドを原産地とする常緑低木であり、日本では、本州、九州、四国等の広い地域に生育する。果皮を乾燥したものは、橙皮(トウヒ)と呼ばれ、香料や調味料として使用されている。フトモモ科ユ−カリ属ユ−カリは、オ−ストラリア、タスマニア、ニュ−ジ−ランドを原産地とする緑陰木であり、葉を水蒸気蒸留して得られる芳香性の精油は、清涼、防腐作用が存し、リュ−マチ、神経痛等を和らげる作用がある。ミカン科キハダ属キハダは、日本、中国、北朝鮮等を原産地とする落葉高木であり、日本全土に生育する。キハダの黄色い内皮はオウバク(黄柏)と呼ばれ、生薬として利用される。ショウガ科ショウガ属ショウガは、熱帯アジア原産の多年生草本であり、日本には、弥生時代に渡来した。日本においては、北海道又は長野県等において栽培されている。ショウガには、殺菌作用や食欲増進作用が知られ、薬味などとして使用されている。また、ショウガを乾燥したものは、ショウキョウと呼ばれ、生薬等に利用されている。ドクダミ科ドクダミ属ドクダミは、日本、中国、東南アジア原産の多年草であり、北海道から沖縄までの全国各地に生育する。ドクダミの生の葉の特有な悪臭成分には、抗菌作用、抗カビ作用などが知られている。セリ科ニンジン属ニンジンは、アフガニスタンが原産の植物であり、江戸時代に日本に伝来した。日本各地で栽培され、薬用又は食用に利用されている。シソ科ヤマハッカ属ヒキオコシ、日本原産の多年草であり、北海道の南部から本州及び四国、九州の草地の日当たりのよい場所に自生している。全草を乾燥し、腹痛、下痢などの健胃薬として利用されている。ボタン科ボタン属ボタンは、中国を原産地とする耐寒性落葉樹であり、日本においては園芸用、観賞用として広く栽培される。ナス科トウガラシ属トウガラシは、ブラジルを原産とする一年草であり、16世紀に日本に渡り、国内において栽培されている。果実は、野菜、薬味、香辛料として食用に利用されるほか、薬用にも用いられる。サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核(チョレイ)、日本、韓国、中国を産地とするサルノコシカケ科チョレイマツタケの菌核を乾燥したものである。生薬としては、利尿、解熱、制癌作用などがあるとされている。シソ科タツミソウ属コガネバナは、中国北部からシベリアを原産地とする多年草であり、享保年間に日本に渡来した。根を乾燥したものをオウゴンと言い、抗炎症作用、解毒作用がある。キンポウゲ科オウレン属オウレンは、日本原産の多年草であり、本州、四国に自生する。根は黄連と呼ばれ、苦味健胃に用いる。シソ科シソ属シソは、ヒマラヤ、ビルマ、中国を原産とする一年草であり、日本においては、本州、九州、四国などの広い範囲において生育する。梅干や漬物の着色料に利用されている。
【0020】
本発明の前記植物より得られる植物抽出物は、日本においては、自生又は生育された植物、漢方生薬原料等として販売される日本産のものを用い抽出物を作製することも出来るし、丸善株式会社などの植物抽出物を取り扱う会社より販売されている市販の抽出物を購入し、使用することも出来る。前記植物より得られる抽出物の作製に用いる植物部位には、特段の限定がなされず、全草を用いることが出来るが、勿論、植物体、地上部、根茎部、木幹部、葉部、茎部、花穂、花蕾等の部位のみを使用することも可能である。抽出に際し、植物体などの抽出に用いる部位は、予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出物製造においては、植物体等の抽出に用いる部位乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1〜30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不溶物を除去した後、溶媒を減圧濃縮するなどにより除去することが出来る。しかる後、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィ−などで分画精製し、所望の抽出物を得ることが出来る。
【0021】
前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ブタノ−ルなどのアルコ−ル類、1,3−ブタンジオ−ル、ポリプロピレングリコ−ルなどの多価アルコ−ル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示出来る。
【0022】
本発明の外用で投与されるべき素材の鑑別方法により抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別あれる成分は、組成物全量に対し、0.00001質量%〜10質量%、より好ましくは、0.0001質量%〜5質量%、さらに好ましくは、0.001質量〜3質量%含有させることが好ましい。これは、抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分の含有量が、少なすぎると抗菌ペプチド産生促進作用、並びに、抗菌ペプチド産生促進作用による皮膚バリア機能向上作用が発揮されず、多すぎても、効果が頭打ちになり、この系の自由度を損なう場合が存するためである。また、かかる成分は、表皮における抗菌ペプチド産生促進作用の内、特に、β−ディフェンシン1産生遺伝子発現促進作用、取り分け、β−ディフェンシン1産生遺伝子産生促進作用、更には、標的部位への集積性及び選択性に優れ、高い安全性及び安定性を有するために、医薬品、化粧料などへの使用が好ましい。
【0023】
<本発明の組成物>
本発明の組成物は、前記の外用で投与すべき素材の鑑別方法により抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別された成分を含有することを特徴とする。本発明の鑑別方法において指標となる抗菌ペプチド産生促進作用としては、上皮系細胞由来の抗菌ペプチド産生促進作用が好適に例示出来、より好ましくは、表皮細胞由来の抗菌ペプチド産生促進作用が好適に例示出来る。前記抗菌ペプチドを具体的に例示すれば、β−ディフェンシン1〜4(DEF1〜4)又はLL−37が好適に例示出来、より好ましいものとしては、β−ディフェンシン1(DEF1)が好適に例示出来る。本発明の抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分は、本発明において抗菌ペプチド産生促進作用を有すると判別される抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分であれば特段の限定なく適応すること出来、より好ましくは、後述する「抗菌ペプチド遺伝子(hBD1mRNA)発現量の測定」にいて抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分が好適に例示出来る。前記「抗菌ペプチド遺伝子(hBD1mRNA)発現量の測定」において、抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分、即ち、β−ディフェンシン1(DEF1)遺伝子発現促進作用が大であると判別される成分としては、β−ディフェンシン1mRNA産生促進作用がコントロ−ル群に比較し、1.3倍以上の増加を示す成分が好適に例示出来、より好ましくは、1.5倍以上の増加を示す成分、さらに好ましくは、統計的な有意差を持ってβ−ディフェンシン1mRNA産生促進作用を有する成分が好適に例示出来る。
【0024】
本発明の抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分としては、単純な化学物質、動植由来の抽出物とその分画生精製物などの混合精製物のいずれでもよい。本発明の組成物には、前記の抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分を、唯1種含有させることも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。本発明の組成物は、前記の抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分を配合することにより、抗菌ペプチド産生量、取り分け、ディフェンシン1産生量を増加させることにより皮膚バリア機能向上作用を発揮する。本発明の組成物は、抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分を配合することにより、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上効果を発揮する。
【0025】
また、前記の外用で投与すべき素材の鑑別方法により鑑別された素材の製剤化にあたっては、通常の食品、医薬品、化粧料などの製剤化で使用される任意成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、経口投与組成物であれば、例えば、乳糖や白糖などの賦形剤、デンプン、セルロ−ス、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロ−スなどの結合剤、カルボキシメチルセルロ−スナトリウム、カルボキシメチルセルロ−スカルシウムなどの崩壊剤、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤、マルチト−ルやソルビト−ルなどの甘味剤、クエン酸などの酸味剤、リン酸塩などの緩衝剤、シェラックやツェインなどの皮膜形成剤、タルク、ロウ類などの滑沢剤、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲルなどの流動促進剤、生理食塩水、ブドウ糖水溶液などの希釈剤、矯味矯臭剤、着色剤、殺菌剤、防腐剤、香料など好適に例示出来る。経皮投与組成物であれば、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリ−ブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、オクチルドデカノ−ル等の高級アルコ−ル、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコ−ル、グリセリン、1,3−ブタンジオ−ル等の多価アルコ−ル類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を含有することができる。製造は、常法に従い、これらの成分を処理することにより、困難なく、為しうる。
【0026】
本発明の組成物としては、医薬品、化粧品、食品、飲料などが好適に例示出来、日常的に摂取出来ることから、食品、化粧品などに適応することが好ましい。その投与経路も、経口投与、経皮投与の何れもが可能であるが、関連臓器への到達効率のよい経皮投与を採用することが好ましい。
【0027】
また、前記の外用で投与すべき素材の鑑別方法により鑑別された素材を皮膚外用剤として使用する場合には、前記必須成分、任意成分を常法に従って処理し、ロ−ション、乳液、エッセンス、クリ−ム、パック化粧料、洗浄料などに加工することにより、本発明の皮膚外用剤は製造できる。皮膚に適応させることの出来る剤型であれば、いずれの剤型でも可能であるが、有効成分が皮膚に浸透して効果を発揮することから、皮膚への馴染みの良い、ロ−ション、乳液、クリ−ム、エッセンスなどの剤型がより好ましい。
【0028】
以下に、実施例をあげて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ、限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0029】
<試験例1: 抗菌ペプチドの皮膚バリア機能向上作用の検討>
下記の手順に従い、ヒト抗菌ペプチドの経皮上電気抵抗値(TER値)を測定することにより、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用による皮膚バリア機能向上作用を評価した。本試験に用いた抗菌ペプチドは、β−ディフェンシン1(DEF1、(株)ペプチド研究所)、β−ディフェンシン2(DEF2、(株)ペプチド研究所)、β−ディフェンシン3(DEF3、(株)ペプチド研究所)、β−ディフェンシン4(DEF4、(株)ペプチド研究所)、LL−37((株)ペプチド研究所)より購入した抗菌ペプチドを用いた。また、ヒト抗菌ペプチドには分類されないペプチドとして、皮膚において発現が確認され抗菌作用を有するメラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH: α−melanocyte stimulating hormone、(株)ペプチド研究所)、皮膚において発現が確認されているが抗菌作用を有さないプロラクチン放出ホルモン(PRH: Prolactin releasing hormone、(株)ペプチド研究所)に関し、同様にTER値を測定した。試験操作方法を以下に示す。
【0030】
1)75cm培養フラスコに正常ヒト表皮細胞(NHEK)(倉敷紡績株式会社)をHumedia-KG2でサブコンフルエントになるまで培養した。
2)トリプシン処理により、12穴、或いは、24穴のトランズウェルに1×10(cells/cm)となるよう播種した。
3)播種3日目にTER値を測定し、培地を1.45mM Ca2+ Humedia-KG2に被験物質を添加した溶液と交換した。但し、被験物質としては、前記抗菌ペプチド、α−MSH又はPRHが含まれ、抗菌ペプチドを溶解する溶媒としては、0.1% CH3COOHもしくは純水を使用し、被験物質の最終濃度は、0.5又は5(μg/mL)に設定した。
4)被験物質添加後24、48、72、96、120時間後のTER値を測定した。結果を図1及び図2に示す。
【0031】
図1及び図2の結果より、被験物質(DEF1、DEF2、DEF3、DEF4、LL-37)添加時のTER値は、コントロ−ル群のTER値に比較し上昇が認められ、皮膚バリア機能向上作用が存することが判った。一方、皮膚に存在し抗菌作用を有するα−MSH及び抗菌作用を有さないPRHには、TER値の上昇は認められなかった。以上の結果は、抗菌ペプチドが、皮膚バリア機能向上作用を有することを示している。また、前記皮膚バリア機能向上作用は、TJ形成促進作用によるものと考えられる。このことは、抗菌ペプチド又は抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分が、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用による皮膚バリア機能向上効果を有し、肌改善用の素材として有用であることを示している。
【実施例2】
【0032】
<試験例2: 抗菌ペプチド遺伝子(hBD1mRNA)発現量の測定>
以下の手順に従い、β−ディフェンシン1mRNA発現促進作用を評価した。本試験に用いた植物抽出物は、丸善製薬株式会社等より購入した植物抽出物を用いた。以下に試験手順を示す。
1)正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)(倉敷紡績株式会社)をHumedia-KG2(倉敷紡績株式会社)でサブコンフルエントになるまで培養した。
2)トリプシン処理により、NHEKを96well plateに1×10(cells/well)播種した。
3)被験物質(植物抽出液の固形分)をジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業株式会社)により溶解し、10(w/v%)、或いは0.1(w/v%)エキス液を作成した。それらを1.45M Ca2+ Humedia-KG2に1/1000量ずつ添加した培地を作成し、播種3日後にその培地と置換し、さらに48時間培養した(各被験物質の最終固形分濃度は1×10−2(w/v%)、或いは1×10−4(w/v%))。また、1.45M Ca2+ Humedia-KG2にDMSOのみを1/1000量添加した培地も作成し、それによって培養した細胞をベヒクルコントロール群とした。
4)FastLane Cell Multiplex Kit(QIAGEN社)を用い、mRNAを安定化したライセ−トを調製した。
5)前記4)にて調製したライセ−トをテンプレ−トとし、QuantiTect Multiplex RT-PCR Kit(QIAGEN社)を用いたリアルタイム(RT-PCR)により、各被験物質添加時のhBD1 mRNA発現量を検出し、ddCt法にて相対定量値を算出した。また、内在性コントロ−ルとしてTBP(TATA Binding Protein (TATA box結合因子で、ハウスキ−ピング遺伝子の一種))のmRNA発現量も同時に測定し、ddCt法にて相対定量値を算出した。結果を図3及び図4に示す。
【0033】
図3及び図4の結果より、本発明の評価に用いた植物抽出物には、何れも顕著なhBD1mRNA発現促進作用が認められた。本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分には、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用による皮膚バリア機能向上作用が期待される。
【実施例3】
【0034】
<試験例3: 本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分の皮膚バリア機能向上作用評価>
試験例1に記載の方法に従い、前記試験においてヒト抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分に関し、TER値を測定することにより皮膚バリア機能を評価した。結果を図5〜8に示す。
【0035】
図5〜8の結果より、本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分には、TER値の上昇が認められ、皮膚バリア機能向上作用が存することが判かった。このことは、抗菌ペプチド産生促進作用を指標とした外用で投与すべき素材の鑑別方法が、肌改善用の素材の鑑別方法として有用であることを示している。
【実施例4】
【0036】
<製造例1: 本発明の皮膚外用剤の製造1>
表1に示す処方に従って、本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分を含有する皮膚外用剤(ロ−ション化粧料)を作製した。即ち、処方成分を80℃で攪拌し、可溶化し、しかる後に、攪拌下冷却して、ロ−ション化粧料(化粧料1〜21)を得た。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【実施例5】
【0039】
<製造例2: 本発明の皮膚外用剤の製造2>
表3及び表4に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤である乳化剤形の化粧料を製造した。即ち、イ、ロ、ハの成分を80℃に加温し、イの中にニを加えて溶解させ、混練りしてゲルを形成させ、これにロを加え希釈し、これに攪拌下、徐々にハを加えて乳化し、攪拌冷却し、「本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分」を含有する皮膚外用剤である油中水乳化剤形の化粧料22〜25を得た。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【実施例6】
【0042】
<本発明の皮膚外用剤の肌荒れ改善試験>
パネラ−を使用し、化粧料(化粧料7、9、15及び20)及び比較例1に付いて、テ−プストリッピングによって作成した肌荒れモデルでの、肌荒れ改善作用を評価した。即ち、左右の前腕に3cm×5cmの部位を3つずつ作成し、テ−プストリッピングを各部位15回行い、経皮的散逸水分量(TEWL)をC+K社製の「テヴァメ−タ−」で計測した。その後、一日一度検体を50μL塗布し、この作業を6日間続け、7日目に再度TEWLを計測した。最初の日のTEWL値から7日目のTEWL値を減じ、最初の日のTEWL値で除し、100を乗じてTEWL改善率(%)を算出した。n数は15とした。結果を表4に示す。これより、本発明の皮膚外用剤は肌荒れ改善作用に優れることがわかる。
【0043】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、化粧料(但し、医薬部外品を含む)等に応用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺激感受性の高い人のための肌状態を改善するために外用で投与すべき素材の鑑別方法であって、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞に対する、抗菌ペプチドの産生促進作用の度合いを計測し、該促進作用が大きい場合には、肌改善作用が大きい素材であると鑑別し、小さい場合には肌改善作用が低いと鑑別することを特徴とする、外用で投与すべき素材の鑑別方法。
【請求項2】
前記の抗菌ペプチドは、β−ディフェンシン1〜4(hBD1〜4:human β−defensin−1〜4)、又は、LL−37であることを特徴とする、請求項1に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
【請求項3】
前記の抗菌ペプチドが、上皮細胞由来の抗菌ペプチドであることを特徴する、請求項1又は2に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
【請求項4】
前記の上皮系細胞が、表皮細胞であることを特徴とする、請求項1〜3に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
【請求項5】
前記上皮系細胞由来の抗菌ペプチドが、β−ディフェンシン1(hBD1:human β−defensin−1)であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
【請求項6】
前記hBD1の産生量が、hBD1産生遺伝子発現量で換算されることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
【請求項7】
前記外用で投与すべき素材が、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ:Tight junction)の形成促進作用を更に有することを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
【請求項8】
前記刺激感受性の高い人は、テ−プストリッピングで回収された角層において、皮膚における炎症を認めず、重層剥離が10%以上認められる人であることを特徴とする、請求項1〜7何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法 。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の 外用で投与すべき素材の鑑別方法であって、外用で投与すべき素材としての的確性を認められた素材を含有してなる組成物。
【請求項10】
化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
皮膚外用剤であることを特徴とする、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
炎症を有しない人であって、肌荒れ状態が存在し、該肌荒れが無処置においては炎症を誘起すると印象を持った人が使用すべき皮膚外用剤であることを特徴とする、請求項9〜11何れか1項に記載の組成物。
【請求項13】
肌に適した化粧料の選択方法であって、被験者からテ−プストリッピングにより採取された皮膚角層を顕微鏡で観察し、その形状より皮膚の刺激性感受性を判定し、感受性が高いと認められた場合に、請求項9〜12の何れか一項に記載の組成物を選択することを特徴とする、化粧料の選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−168555(P2011−168555A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35489(P2010−35489)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】