説明

鑑別方法

【課題】化粧料(但し、医薬部外品を含む)等に好適な、皮膚に作用する物質を鑑別する方法、並びに、当該成分を含有する皮膚外用剤、詳しくは、被験物質の投与部位とは異なる部位における生理作用に影響を及ぼす遠隔性刺激因子の分泌促進作用を促す物質を鑑別する方法、並びに、当該成分を含有する皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】被験物質の投与により投与部位とは異なる部位における生理作用に影響を及ぼす遠隔性刺激因子の分泌促進作用を促す物質、より好ましくは、皮膚を表皮と真皮に分け、表皮又は真皮に投与した被験物質により放出される遠隔性刺激因子の投与部位とは異なる部位における影響を測定し、その影響の大小を指標とし判別することにより皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有する物質を鑑別する方法、並びに、当該成分を含有する皮膚外用剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に作用する物質の鑑別方法に関し、詳しくは、表皮又は真皮など互いの部位を超えて生理作用に影響を及ぼす遠隔性刺激因子の分泌促進作用を促す物質、より好ましくは、皮膚を表皮と真皮に分け、表皮又は真皮に投与した被験物質の表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与える影響を測定し、その影響の大小を指標とし判別することにより皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有する物質を鑑別する方法、並びに、当該成分を含有する皮膚外用剤に関する。ここで、遠隔性刺激因子とは、遠隔性刺激因子を分泌する細胞の存在する部位と隣接する部位乃至は該部位と接しないで存在する遠隔する部位の細胞の生理活性に影響を与える生体成分を意味する。遠隔性刺激因子は分泌する細胞の存在する部位にも同様の作用を促すこともあるし、促さないこともある。本発明において、疑義が生じにくい場合には、遠隔性刺激因子を単に刺激因子と称する場合も存する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、角質層、表皮及び真皮に分かれ、外界と体内の境界にあり、身体を保護する役割を担っている。真皮は、真皮細胞(線維芽細胞)、並びに、膠原線維(コラ−ゲン線維)、弾性線維(エラスチン線維)等の線維成分、更には、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸等の基質成分である細胞外マトリックスにより構成される。また、細胞外マトリックスは、細胞と細胞を結び付けることにより皮膚構造を維持するほか、細胞への必要な成分を補給、細胞からの不要物を運搬、加えて、細胞表面レセプタ−と相互作用し細胞分化等のシグナル伝達物質として働くなどの細胞間の調節機能の維持及び発現に重要な役割を果たしている。特に、細胞外マトリックスの主要な成分のヒアルロン酸は、D−グルクロニル−β(1−3)−N−アセチル−D−グルコサミニル−β(1−4)二糖単位の繰り返しより構成されるムコ多糖類であり、その分子量は1000Da程度〜1000万Daに及ぶ多分散性を有する生体高分子である。ヒアルロン酸は、全体の約50%が皮膚に存在し、皮膚の弾力性又は粘弾性、保湿性等に深く関係している。また、ヒアルロン酸は、紫外線暴露等の外的環境因子、更には、加齢等の内的因子により減少することが報告されており、皮膚におけるヒアルロン酸量の低下は、皮膚のハリが衰え、シワ、たるみなどの皮膚老化現象を引き起こすとされている。
【0003】
前記の皮膚老化現象とヒアルロン酸との知見を基に、肌を若返らせるという観点より、優れた保湿性、肌の角質を柔らかくする作用及び潤いのある肌にする作用が存するとされるヒアルロン酸を、化粧料(基礎化粧品、化粧水、乳液、洗顔料、パック等)、食品等の形態で外部より補充する方法が盛んに行われている。しかしながら、これらの試みにおいては、ヒアルロン酸の経皮及び経口投与による吸収性の低さにより、十分な効果が得られていない。一方、皮膚中におけるヒアルロン酸産生を増加させる試みも盛んに行われている。皮膚中のヒアルロン酸は、真皮、表皮及び角層に存することが報告されている。皮膚中にて合成・分泌されるヒアルロン酸は、様々な生物活性を示すほか、皮膚の構造及び機能を保つことにより、健やかな肌状態の維持に深く関与している。ヒアルロン酸は、その分子量が1000Da程度〜1000万Daに及ぶ多分散性を有する生体高分子であり、角層、表皮又は真皮のそれぞれの部位により、ヒアルロン酸の分布が異なる。また、ヒアルロン酸は、分子量により、大まかには低分子量ヒアルロン酸(10Da〜)及び高分子ヒアルロン酸(〜10Da)に分類され、その分子量の違いにより多様な生物学的又は物理学的な性質を示すことが知られている。特に、高分子ヒアルロン酸は、血管新生抑制作用、抗炎症作用、免疫抑制作用等を有するのに加え、高い保湿性を有するため、皮膚のハリが衰え、シワやたるみなどの皮膚老化現象の予防又は改善に有用である。また、ヒアルロン酸は、3種類のヒアルロン酸合成酵素(HAS1、HAS2、HAS3)により産生されることが報告され、特に、高分子ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)により合成されることが知られているため、HAS2の活性を高めることは、皮膚老化現象の予防又は改善に有効であると考えられる。
【0004】
皮膚におけるヒアルロン酸産生量を高める物質としては、β−シトステロ−ル及び/又はその脂肪酸エステルを有効成分とするヒアルロン酸産生促進剤(例えば、特許文献1を参照)、アロエ抽出物等の植物抽出物を有効成分とするヒアルロン酸合成促進剤(例えば、特許文献2を参照)、(−)−ムスコンを有効成分とする真皮(線維芽細胞)のヒアルロン酸合成酵素遺伝子活性化剤等が存在する。しかしながら、前記のヒアルロン酸産生促進作用を有する物質は、何れも真皮に直接作用することにより真皮中のヒアルロン酸合成又は分泌を促進しヒアルロン酸産生量を増加する物質である。一方、表皮又は真皮に作用することにより遠隔した部位の細胞を刺激しヒアルロン酸産生量を増加させる成分は全く知られていない。この様な被験物質を投与することにより表皮又は真皮における遠隔した部位の細胞を刺激する物質は、新たな作用機序を有するヒアルロン酸産生刺激因子としてシワ、たるみ等の皮膚老化現象に対する予防又は治療効果が期待出来る。また、表皮又は真皮におけるヒアルロン酸産生促進剤に付いては、そのほとんどが総ヒアルロン酸産生量を増加させる物質に分類されるものであり、ヒアルロン酸産生促進剤が増加させるヒアルロン酸の分子量等の違いに関する検討は、ほとんどなされていない。さらに、隣接する細胞を刺激する物質の高分子ヒアルロン酸産生量に関する検討は全く知られていない。当然のことながら、分子量の異なるヒアルロン酸においては、物理及化学的性質、生物学的活性が異なるため、高い保水性を有する高分子ヒアルロン酸には、表皮におけるシワ、たるみ等の皮膚老化現象に対する予防又は治療効果が期待出来る。
【0005】
前述の通り、表皮又は真皮に被験物質を投与した場合、様々な生物活性が生じることが報告されているが、これらは、ほとんどが投与した部位(表皮又は真皮中)において起こる生物活性に限定されている。取り分け、表皮に投与した被験物質が表皮を介して真皮に与えるヒアルロン酸産生刺激作用、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与えるヒアルロン酸産生刺激作用に付いては、全く知られてない。このため、本発明に記載の「表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法」、取り分け、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法は、新たな作用機作を有する皮膚に作用する物質を探索する方法として非常に有用である。さらに、該鑑別方法は、表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与えるヒアルロン酸産生量の増加させる物質、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与えるヒアルロン酸産生量を増加させる物質を精度よく、効率的に見出す鑑別方法であると言える。この様な有用性にも関わらず、前記遠隔性刺激因子誘発作用を有する成分の検討がなされていなかった理由としては、皮膚の基本機能がバリア機能であり、体外より物質が体内に移行するのを防ぐことこそが、その本質的な性質と考えられていたためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−057290号公報
【特許文献2】特開2004−051533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な状況下において為されたものであり、遠隔性刺激因子、特に皮膚における遠隔性刺激因子を誘発する成分、具体的には、皮膚を表皮と真皮に分け、表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与える影響を測定し後、その影響の大小を指標として判別することにより皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有する物質を鑑別することにより、化粧品(但し、医薬部外品を含む)、医薬品等に好適な、皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有する成分を見出すための簡便、且つ、確実な鑑別方法、並びに、当該成分を含有する皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この様な状況に鑑みて、本発明者等は、皮膚を表皮と真皮に分け、表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与える影響を測定し、その影響の大小を指標として判別することにより皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有する物質を簡便、効率的、且つ、精度よく鑑別する方法を求めて鋭意努力を重ねた結果、皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有する物質、取り分け、表皮又は真皮に被験物質を投与することにより異なる部位である表皮又は真皮におけるヒアルロン酸産生促進作用を有する物質を簡便、効率的、且つ、精度よく見出す鑑別方法を見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は、以下に示す通りである。
<1> 皮膚に作用する物質の鑑別方法において、皮膚を表皮と真皮に分け、表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与える影響を測定し、その影響の大小を指標として判別することを特徴とする、表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法。
<2> 前記の投与した被験物質の与える影響が、ヒアルロン酸産生促進作用であり、遠隔性刺激因子が、ヒアルロン酸産生促進因子であることを特徴とする、<1>に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法。
<3> 前記の表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与える影響を測定した後、その影響が大きいと認められた場合、被験物質が皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有すると判別することを特徴とする、<1>又は<2>に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法。
<4> 前記皮膚の内、表皮として培養表皮細胞を用い、真皮として培養真皮細胞を用い、前記表皮細胞を培養した上清を添加した培地を用い培養された真皮細胞における影響として、ヒアルロン酸産生促進作用が存することを特徴とする、<1>〜<3>の何れか一項に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生促進因子の鑑別方法。
<5> 前記ヒアルロン酸産生促進作用が、表皮細胞又は真皮細胞における総ヒアルロン酸産生量の増加作用、又は、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用であることを特徴とする、<1>〜<4>の何れか一項に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法。
<6> 前記ヒアルロン酸産生促進作用により産生されるヒアルロン酸が、高分子ヒアルロン酸であることを特徴とする、<1>〜<5>の何れか一項に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法。
<7> 前記ヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用が、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)遺伝子発現促進作用であることを特徴とする、<5>に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法。
<8> 前記ヒアルロン酸合成酵素(HAS)が、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)であることを特徴とする、<5>又は<7>に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生因子の鑑別方法。
<9> <1>〜<8>に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法により、ヒアルロン酸産生刺激作用を有する成分と判別された、ヒアルロン酸産生促進刺激因子を含有することを特徴とする、老化防止又は改善用、シワ改善用の皮膚外用剤。
<10> 化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、<9>に記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便、効率的、且つ、精度よく皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有する成分、取り分け、表皮又は真皮を介し互いに異なる部位におけるヒアルロン酸産生促進作用を有する成分を鑑別する方法、並びに、当該成分を含有する皮膚外用剤を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物の表皮細胞を介する真皮細胞におけるヒアルロン酸産生促進作用を示す図である。
【図2】ホ発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物の表皮細胞を介する真皮細胞におけるヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現促進作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の皮膚に作用する物質の鑑別方法>
本発明の鑑別方法は、皮膚に作用する物質の鑑別方法であり、より詳細には、皮膚における遠隔性刺激因子誘発作用を有する成分の鑑別方法であり、更に詳しくは、皮膚を表皮と真皮に分け、表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介し表皮に与える影響を測定し、その影響の大小を指標とし判別することを特徴とする、表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法に関する。前記の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、より好ましいものとしては、投与した物質の与える影響が、ヒアルロン酸産生促進作用であり、遠隔性刺激因子が、ヒアルロン酸産生促進因子である、表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法が好適に例示出来る。ヒアルロン酸は、全体の約50%が皮膚に存在し、紫外線暴露等の外的環境因子、更には、加齢等の内的因子により減少することが報告されており、皮膚におけるヒアルロン酸量の低下は、皮膚のハリが衰え、シワ、たるみなどの皮膚老化現象に深く関与する。このため、皮膚中におけるヒアルロン酸産生を促進させる成分は、シワ、たるみなどの皮膚老化現象の予防又は改善剤として期待されるため、該成分を鑑別する方法は、化粧料、医薬部外品等の有効成分を見出す方法として有効である。遠隔性刺激因子は、当該因子を分泌する表皮又は真皮とは異なる部位に存在する細胞に対し生理活性を発現させる成分であり、それ自身はその生物体の産生成分である。その生体の産生成分であるということは、その生物体の恒常性維持機能のために働く成分であり、生体成分ではない外因的成分と異なり生体からフィ−ドバックを受ける。これは、過剰反応を起こし難く、不足を補う適切な用量設定が自動的になされることを意味し、その有用性は、通常の外因成分に比較し非常に大きいものと言える。
【0012】
前記の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法に関し、好ましいものを具体例に例示すれば、表皮として培養表皮細胞、真皮として培養真皮細胞を用い、前記の表皮細胞を培養した上清を添加した培地を利用し培養された真皮細胞におけるヒアルロン酸産生促進作用を測定し、ヒアルロン酸産生促進作用の大小を指標とし判別することを特徴とする、表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法が好適に例示出来る。前記のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分としては、表皮又は真皮における被験物質の投与により投与部位とは異なる表皮又は真皮におけるヒアルロン酸産生促進作用を示す物質であれば、特段の限定なく適応することが出来るが、より好ましくは、表皮又は真皮における総ヒアルロン酸産生量の増加作用、又は、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用を有する成分が好ましい。本発明のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分は、従来の表皮又は真皮に作用することにより直接作用部位のヒアルロン酸産生を促進させる成分とは異なり、表皮又は真皮に被験物質を投与することによりサイトカイン等の情報伝達物質を介し投与した部位とは異なる部位に存在する細胞のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分意味する。
【0013】
前記の被験物質を投与した部位とは異なる部位におけるアルロン酸産生量を増加される成分としては、ヒアルロン酸産生量を増加させる成分であれば特段の限定なく適応することが出来、より好ましくは、総ヒアルロン酸産生量を増加させる成分が好適に例示出来る。本発明の皮膚に作用する物質の鑑別方法の内、表皮又は真皮における総ヒアルロン酸産生量を増加させる作用を有する成分としては、具体的には、後述する「ヒアルロン酸産生促進作用評価」においてヒアルロン酸産生促進作用を示す成分が好適に例示出来る。また後記の「ヒアルロン酸産生促進作用評価」において、表皮又は真皮を介した遠隔性刺激因子により総ヒアルロン酸産生促進作用を有する成分とは、被験物質無処置群(コントロ−ル群)に比較し、総ヒアルロン酸産生量を増加させる作用を有する成分が好適に例示出来、より好ましくは、統計的な有意差を持って総ヒアルロン酸産生量が増加している成分が好ましい。また、本発明のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分のヒアルロン酸産生促進作用を評価する方法としては、細胞中のヒアルロン酸、取り分け、表皮又は真皮細胞における総ヒアルロン酸量を評価出来る方法であれば、特段の限定なく適応することが出来る。一般的に、生体中の微量成分の測定には、抗原抗体反応の特性を利用し、更に、放射性同位元素、結合タンパク質、或いは、酵素反応を用いた生化学的な測定方法が知られており、本発明の表皮又は真皮中におけるヒアルロン酸量の測定に付いてもこの様な生物化学的な測定方法を利用することが出来る。また、細胞中における生物化学的測定法以外のヒアルロン酸測定方法としては、高速液体クロマトグラフィ−による測定(HPLC法)、カルバゾ−ル硫酸法等が存するが、感度、測定の簡便性等より生物化学的な測定方法が好ましい。本発明の表皮又は真皮中のヒアルロン酸を測定する生物化学的な測定方法としては、例えば、特開 2004−208693号公報に記載されている様に、低分子量化させたヒアルロン酸ナトリウムにヘモシアニン、ホスハチジルエタノ−ルアミン又はホスファチジルセリンを導入して形成される共有結合体を動物に免疫して得られるモノクロ−ナル抗体を用い、競合測定方法及びサンドイッチ測定法等により標識化合物を定量するヒアルロン酸量の定量方法を好適に例示することが出来る。標識化合物としては、蛍光物質、化学発光化合物等が存し、蛍光物質の場合には、適当な波長の励起光の照射により生じる蛍光量を光電子倍増管により定量することが出来るし、化学発光物質の場合には、例えば、アクリジニウムエステルのアルカリ溶液を加えることにより生じる発光量を光電子倍増管により定量することが出来る。また、標識化合物が酵素の場合には、適当な基質を反応させることにより酵素活性を吸光度(吸光度測定法)、蛍光量(蛍光量測定法)又は発光量(化学発光測定法)により測定出来る。これ以外のヒアルロン酸産生量の測定方法としては、例えば、WO2005114186号公報に記載されている様に、ヒアルロン酸バインディングプロテイン(HABP)に対するモノクロ−ナルを予めラテックス粒子等に感作させ、そこにヒアルロン酸とHABPとの複合体を反応させ、該反応により生じた凝集物による光学的変化を測定(逆受身凝集反応法、免疫比ろう法、免疫比濁法等)し、該測定値よりヒアルロン酸量を算出する測定方法が好適に例示出来る。勿論、標識化抗体を用いて、該標識を指標に検知することも出来る。該標識としては、ペルオキシダ−ゼ、蛍光標識、放射性同位元素等による標識などが好適に例示出来る。HABPとしては、プロテオグリカン、リンクプロテイン、ヒアルロネクチン及びCD44(細胞膜貫通型蛋白)等の様にヒアルロン酸と結合する性質を有する蛋白質であれば、特に限定されない。また、抗HABP抗体としては、モノクロ−ナル抗体であってもポリクロ−ナル抗体の何れでもよいが、単一エピト−プのアフィニティ−精製をしたポリクロ−ナル抗体又はモノクロ−ナル抗体が好ましく、効率よくヒアルロン酸と結合出来るモノクロ−ナル抗体が特に好ましい。中でも、ペプシン、パパイン等の酵素を用い、適宜消化し、Fab、Fab’、(Fab’)等として用いることが好ましい。この様なヒアルロン酸産生量を測定する方法を利用した市販のヒアルロン酸測定キットとしては、例えば、ヒアルロン酸測定キット(Hyaluronan Assay Kit、生化学バイオビジネス社製)、ヒアルロン酸(HA)ELISAキット(コスモ・バイオ株式会社製)、ヒアルロン酸キット(エルピアエ−スHA(商標登録)、富士レビオ株式会社製)等が好適に例示出来、適宜、購入しヒアルロン酸量の測定に使用することが出来る。
【0014】
また、前記の被験物質を投与した部位とは異なる部位におけるヒアルロン酸産生量を増加される成分としては、ヒアルロン酸産生量を増加させる成分であれば特段の限定なく適応することが出来、より好ましくは、高分子ヒアルロン酸産生量を増加させる成分が好適に例示出来る。さらに、高分子ヒアルロン酸産生促進作用を有する成分の内、好ましいものとしては、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)を活性化する成分、さらに好ましくは、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)を活性化する成分が好適に例示出来る。ヒアルロン酸合成酵素には、3種類のヒアルロン酸合成酵素(HAS1、HAS2、HAS3)が存し、特に、高分子ヒアルロン酸は、HAS2により合成される。また、ヒアルロン酸産生量は、紫外線暴露等の外的環境因子、更には、加齢等の内的因子により減少することが報告されており、シワ、たるみ等の皮膚老化現象に大きく影響する。このため、表皮又は真皮中のヒアルロン酸産生量、取り分け、高い保湿作用を有する高分子ヒアルロン酸産生量を増加させる作用を有する成分は、皮膚老化現象の予防又は改善剤の有効成分として有用である。前記の高分子ヒアルロン酸産生促進作用を有する成分に関し、好ましいものを具体的に例示すれば、後述する「高分子ヒアルロン酸産生促進作用評価」において、表皮又は真皮を介する遠隔性刺激因子の作用により投与部位とは異なる部位の高分子ヒアルロン酸産生促進作用を示す成分が好適に例示出来る。前記の表皮又は真皮を介する遠隔性刺激因子の作用により投与部位とは異なる部位の高分子ヒアルロン酸産生量を増加させる成分とは、被験物質無処置群(コントロ−ル群)に比較し、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現量が増加している成分が好適に例示出来、より好ましくは、統計的な有意差を持ってHAS2mRNA発現量が増加している成分が好適に例示出来る。
【0015】
本発明の表皮又は真皮を介する遠隔性刺激因子による投与部位とは異なる部位におけるヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用を評価する方法としては、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用を評価することが出来る方法であれば、特段の限定なく適応することが出来るが、より好ましくは、高分子ヒアルロン酸の産生に関与するヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)活性化作用を評価すること出来る方法が好適に例示出来、さらに好ましくは、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)遺伝子発現促進作用を評価する方法が好適に例示出来る。表皮又は真皮中の高分子ヒアルロン酸は、主にヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)により産生されるため、表皮又は真皮における高分子ヒアルロン酸産生促進作用は、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)の活性を測定することにより代替することが出来る。本発明のヒアルロン酸合成酵素活性化作用に関し、好ましいものを具体的に例示すれば、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現量を測定する方法が好適に例示出来る。ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現量を測定する方法としては、ポリメラ−ゼ連鎖反応(polymerase chain reaction、PCR)を利用したPCR法が好適に例示出来る。また、本発明におけるHAS2mRNA発現量の測定には、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いmRNAを抽出し、SuperScript VILO cDNA synthesis Kit(Invitrogen社製、配列非公開)を用いcDNAを合成し、リアルタイムPCR(アプライドバイオシステムズ社製)にてヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現量を測定することが出来る。ここで、表皮細胞より分泌され、真皮細胞に影響を与える成分が複数存在することは、表皮から真皮に向かう遠隔性の刺激因子が複数存在し、この様な遠隔性刺激因子の鑑別が普遍性を有することを証している。逆に言えば、真皮細胞における生理活性の変化は、それに応じた遠隔性刺激因子が皮膚に存在することを推認出来、この方法によって種々の遠隔性刺激因子の存在の証明と、遠隔性刺激因子誘発成分の鑑別がなし得ることを意味する。この様な生理活性としては、メラニン等の色素産生、ステロイドホロモンなどのホルモン産生、FGF等の成長因子産生に関わるものが例示出来る。この様な遠隔性刺激因子誘発成分の鑑別も本発明の技術的範囲に属する。
【0016】
本発明のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分を鑑別するためのヒアルロン酸産生促進作用を有する成分を評価する方法は、表皮又は真皮における総ヒアルロン酸産生量の増加作用評価方法、又は、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用評価方法は、単独で使用することも出来るし、併用することも出来る。この様な、表皮又は真皮における総ヒアルロン酸産生量の増加作用、又は、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用の程度を測定し、これらの影響の大小を指標とし判別された成分としては、トクサ科トクサ属に属する植物より得られる抽出物、より好ましくは、トクサ科トクサ属スギナより得られる抽出物が好適に例示出来る。
【0017】
ここで、本発明の植物由来の抽出物とは、植物由来の抽出物自体、抽出物の分画、精製した分画、抽出物乃至は分画、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。トクサ科トクサ属スギナは、北半球を原産地とする多年草であり、北半球の温帯からやや寒い地方に掛けて広く分布し、日本においても、ごくありふれた雑草として幅広い地域に自生する。早春に出てくる胞子茎をツクシ、栄養茎をスギナと呼ぶ。また、スギナを乾燥させたもの「問荊」と呼び、利尿などに用いることが知られている。
【0018】
本発明におけるトクサ科トクサ属に属する植物より得られる抽出物は、日本において自生又は生育した植物、漢方生薬原料などとして販売される日本産のものを用い抽出物を作製することも出来るし、丸善製薬株式会社などの植物抽出物を取り扱う会社より販売されている市販の抽出液を購入し、使用することも出来る。本発明のトクサ科トクサ属に属する植物より得られる植物抽出物の抽出に際しては、植物体、地上部又は木幹部は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出物は、植物体、地上部、木幹部乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1〜30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不溶物を除去した後、溶媒を減圧濃縮するなどにより除去することにより植物抽出物を得ることが出来る。また、この様にして得られる植物抽出物に関し、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィ−等により分画精製することにより、所望の活性を向上させた植物抽出物を得ることが出来る。尚、本発明においては、抽出物とは、抽出物自体、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。かかる成分の組成物における好ましい含有量は、0.000001〜20質量%、より好ましくは、0.00001質量%〜10質量%であり、さらに好ましくは、0.0001質量%〜5質量%である。これは、あまり濃すぎると効果が頭打ちになる場合があり、少なすぎると有効濃度とならない場合があるからである。また、かかる成分は、表皮細胞又は表皮細胞を介する真皮細胞におけるヒアルロン酸産生促進作用、取り分け、高分子ヒアルロン酸産生促進作用(HAS2mRNA発現促進作用)に優れ、高い安全性及び安定性を有するため、化粧料、医薬部外品、医薬品等への使用が好ましい。
【0019】
前記の抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ブタノ−ル等のアルコ−ル類、1,3−ブタンジオ−ル、ポリプロピレングリコ−ル等の多価アルコ−ル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示出来る。前記抽出溶媒の内、より好ましいものとしては、エタノ−ル等のアルコ−ル類又は含水アルコ−ル類、1,3−ブタンジオ−ル等の多価アルコ−ル類又は含水多価アルコ−ル類が好適に例示出来る。また、前記含水アルコ−ル類又は多価アルコ−ル類の含水率は、70%(アルコ−ル類又は多アルコ−ル類:水=30:70)以上、より好ましくは、含水率が50%以上、さらに好ましくは、含水率が70%以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物は、以下に記載の方法により製造することも出来るし、市販の植物抽出物として、丸善製薬株式会社等の植物抽出物を取り扱う会社より購入し使用することも出来る。
【0021】
<本発明の皮膚外用剤>
本発明の皮膚外用剤は、前記の皮膚に作用する物質の鑑別方法において、皮膚を表皮と真皮に分け、表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与える影響を測定し、その影響が大小を指標とし判別することを特徴とする、被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法により鑑別された皮膚に作用する物質を含有することを特徴とする。本発明の皮膚外用剤には、前記の皮膚に作用する物質を、唯1種含有させることも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。この様な成分の内、特に好ましいものは、表皮細胞、例えば、表皮ケラチノサイトに被験物質を作用させ遠隔性刺激因子を放出させ、ヒアルロン酸産生促進作用を真皮細胞、例えば、真皮ファイブロブラストにおいて発揮させる成分である。この様な成分としては、具体的には、トクサ科トクサ属に属する植物、好ましくは、スギナの抽出物が好適に例示出来る。かかる成分を含有する、本発明の皮膚外用剤は、前記の皮膚に作用する物質、取り分け、被験物質の投与により表皮又は真皮を介し遠隔性刺激因子を放出し、投与部位とは異なる部位におけるヒアルロン酸産生促進作用を有する物質を配合することにより、シワ、シミなどの皮膚老化現像に対する予防又は改善作用を発揮する。
【0022】
本発明の皮膚外用剤においては、前記必須成分以外に、通常化粧料で使用される任意成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリ−ブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、オクチルドデカノ−ル等の高級アルコ−ル、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコ−ル、グリセリン、1,3−ブタンジオ−ル等の多価アルコ−ル類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を含有することができる。製造は、常法に従い、これらの成分を処理することにより、困難なく、為しうる。
【0023】
これらの必須成分、任意成分を常法に従って処理し、ロ−ション、乳液、エッセンス、クリ−ム、パック化粧料、洗浄料などに加工することにより、本発明の皮膚外用剤は製造できる。皮膚に適応させることの出来る剤型であれば、いずれの剤型でも可能であるが、有効成分が皮膚に浸透して効果を発揮することから、皮膚への馴染みの良い、ロ−ション、乳液、クリ−ム、エッセンスなどの剤型がより好ましい。
【0024】
以下に、本発明に付いて、実施例を挙げて更に詳しく説明を加えるが、本発明がかかる実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0025】
<試験例1: 表皮細胞を介した真皮細胞のヒアルロン酸産生促進作用評価>
本発明のヒアルロン酸産生促進剤であるトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物に関し、表皮細胞を介した真皮細胞のヒアルロン酸産生促進作用を下記の評価方法に従い評価した。正常ヒト表皮ケラチノサイト(NHEK、倉敷紡績株式会社製)を24 well plateに5×10(cell/well)播種し、KG2培地(倉敷紡績株式会社製)で4日間培養した。培養後に2%FBS/DMEM(FBS:株式会社ハナ・ネスコバイオ製、DMEM:株式会社シグマアルドリッチ社製)1mLに培地を交換し、被験物質(本発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物)又は1,3−ブチレングリコ−ル(1,3−BG、溶媒コントロ−ル)を添加し、24時間後の培養を回収し、あらかじめ2.5×10(cell/well)で播種し4日間培養した正常ヒト真皮ファイブロブラスト(ccd−1113sk、ATCC)に900μL添加した。48時間培養後、無血清DMEMに培地を交換し、2時間後に培養上清を回収し、培地中のヒアルロン酸量を、ヒアルロン酸測定キット(生化学バイオビジネス社製)を用い測定した。結果を図1に示す。図1には、被験物質添加時のヒアルロン酸産生量を、コントロ−ル群のヒアルロン酸産生促進作用を1とした場合の、コントロ−ル群のヒアルロン酸産生量に対する比率として表示した。図1の結果より、本発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物には、表皮細胞を介し真皮細胞のヒアルロン酸産生促進作用が認められた。
【実施例2】
【0026】
<試験例2: 表皮細胞を介した真皮細胞の高分子ヒアルロン酸産生促進作用評価>
ヒアルロン酸合成酵素の内、高分子ヒアルロン酸を産生することが知られているヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)のmRNA発現量を指標とし、表皮細胞を介した真皮細胞の高分子ヒアルロン酸産生促進作用を評価した。即ち、即ち、正常ヒト表皮ケラチノサイト(NHEK、倉敷紡績株式会社製)を24 well plateに5×10(cell/well)播種し、KG2培地(倉敷紡績株式会社製)で4日間培養した。培養後に2%FBS/DMEM(FBS:株式会社ハナ・ネスコバイオ製、DMEM:株式会社シグマ製) 1mLに培地を交換し、被験物質(本発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物)又は1,3−ブチレングリコ−ル(1,3−BG、溶媒コントロ−ル)を添加し、添加後24時間後の培養を回収し、あらかじめ2.5×10(cell/well)で播種し4日間培養した正常ヒト真皮ファイブロブラスト(ccd−1113ks、ATCC)に900μL添加した。添加後24時間の細胞からRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いmRNAを抽出し、SuperScript VILO cDNA synthesis Kit(Invitrogen社製、配列非公開)を用いcDNAを合成し、リアルタイムPCR(アプライドバイオシステムズ社製)にてヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現量を測定した。結果を図2に示す。図2には、被験物質添加時のヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現量を、コントロ−ル群のヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現量を1とした場合の、コントロ−ル群のヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)mRNA発現量に対する比率として表示した。図2の結果より、本発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物には、表皮細胞を介した真皮細胞における高分子ヒアルロン酸産生促進作用が認められた。
【実施例3】
【0027】
<製造例1: 本発明のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分を含有する皮膚外用剤の製造>
表1に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤である乳化剤形の化粧料を製造した。即ち、イ、ロ、ハの成分を80℃に加温し、イの中にニを加えて溶解させ、混練りしてゲルを形成させ、これにロを加え希釈し、これに攪拌下、徐々にハを加えて乳化し、攪拌冷却し、「本発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物」(本発明のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分)を含有する皮膚外用剤である油中水乳化剤形の化粧料1を得た。さらに、処方中、「本発明のトクサ科トクサ属スギナより得られる植物抽出物」を「水」に置換した比較例1を作製した。
【0028】
【表1】

【実施例4】
【0029】
<製造例2: 本発明のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分を含有する皮膚外用剤の製造>
以下に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤である化粧料2(ロ−ション)を作製した。即ち、処方成分を80℃に加熱し、攪拌可溶化し、攪拌冷却して本発明の皮膚外用剤を作製した。
【0030】
【表2】

【実施例5】
【0031】
<本発明のヒアルロン酸産生促進因子を含有する皮膚外用剤のシワ改善テスト>
化粧料1、化粧料2及び比較例1を用い、以下の方法で、シワ改善効果を調べた。即ち、目尻のシワが気になるパネラ−24名(女性、年齢層40〜60歳)を8名ずつ3群に分け、1群には化粧料1を、1群には化粧料2、1群には比較例1を渡し、1日朝晩2回、連日8週間使用してもらい、試験の前後の目尻のレプリカの比較からシワ改善効果を調べた。レプリカは、光を透過させない白色のものを用い、これに皮膚表面形態をうつしとり、このレプリカを実体顕微鏡の標本台に固定し、45度の角度で光を照射し、レプリカを回転させて、皮溝の陰影が強く観察される方向の陰影画像(1×1cm2)を画像解析装置に取り込んだ。この画像はシワの凹凸に従って、シワの深いところは輝度が低く、シワのないところは輝度が高く、陰影を形成する。陰影画像における輝度の分布を求め、輝度のメジアン値を境に、メジアン値以上の輝度の輝点は最大輝度に、メジアン値未満の輝度の輝点は輝度0に変換して、二値化を行い、陰影部分(輝度0の部分)の面積率を求めた。(試験前の陰影の面積率−試験後の陰影の面積率)/(試験前の陰影の面積率)×100でシワ改善度(%)を求めた。結果を各群8名の平均値±標準偏差として表3に示す。これより本発明の皮膚外用剤はシワ改善効果に優れることがわかる。
【0032】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、化粧料等の製造や製剤設計に応用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に作用する物質の鑑別方法において、皮膚を表皮と真皮に分け、表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与える影響を測定し、その影響の大小を指標として判別することを特徴とする、表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法。
【請求項2】
前記の投与した被験物質の与える影響が、ヒアルロン酸産生促進作用であり、遠隔性刺激因子が、ヒアルロン酸産生促進因子であることを特徴とする、請求項1に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法。
【請求項3】
前記の表皮に投与した物質が表皮を介して真皮に与える影響、及び/又は、真皮に投与した物質が真皮を介して表皮に与える影響を測定した後、その影響が大きいと認められた場合、被験物質が皮膚への遠隔性刺激因子誘発作用を有すると判別することを特徴とする、請求項1又は2に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法。
【請求項4】
前記皮膚の内、表皮として培養表皮細胞を用い、真皮として培養真皮細胞を用い、前記表皮細胞を培養した上清を添加した培地を用い培養された真皮細胞における影響として、ヒアルロン酸産生促進作用が存することを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生促進因子の鑑別方法。
【請求項5】
前記ヒアルロン酸産生促進作用が、表皮細胞又は真皮細胞における総ヒアルロン酸産生量の増加作用、又は、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸産生促進作用により産生されるヒアルロン酸が、高分子ヒアルロン酸であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸合成酵素(HAS)活性化作用が、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)遺伝子発現促進作用であることを特徴とする、請求項5に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法。
【請求項8】
前記ヒアルロン酸合成酵素(HAS)が、ヒアルロン酸合成酵素2(HAS2)であることを特徴とする、請求項5又は7に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生因子の鑑別方法。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の表皮又は真皮における被験物質の遠隔性刺激因子誘発作用の鑑別方法の内、ヒアルロン酸産生刺激因子の鑑別方法により、ヒアルロン酸産生刺激作用を有する成分と判別された、ヒアルロン酸産生促進刺激因子を含有することを特徴とする、老化防止又は改善用、シワ改善用の皮膚外用剤。
【請求項10】
化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、請求項9に記載の皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−196805(P2011−196805A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63456(P2010−63456)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】