説明

長い加工時間(プロセスタイム)と高い初期強度をもつ水硬性結合材のための混和剤

本発明は、多価アルコールと酸とのエステル及び/又はその塩のうちの少なくとも1種を含む、水硬性結合剤のための固化促進剤及び硬化促進剤に関するものであり、前記の酸はリン酸、亜リン酸、又はC〜C20カルボン酸である。本発明による促進剤は、道路又は橋梁建設、コンクリート及び鋼強化コンクリート仕上げ部材のためのコンクリート要素の前もっての作製、又は滑走路の更新において特に適しており、この場合、わずか数時間後にその仕上げられた部材から型が取り除かれ、前記部材が輸送され、積み重ねられ、又は圧縮応力が加えられ、あるいは道路もしくは滑走路は使用されなければならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性バインダー(水硬性結合材)のための混和剤、それから作られるシステム、例えば、コンクリート及びモルタル、に関する。より特に、本発明は、少なくとも1種の、多価アルコールと酸のエステル及び/又はその塩を含む、水硬性バインダーのための固化及び硬化促進剤に関し、ここで前記の酸はリン酸、亜リン酸、又はC〜C10カルボン酸である。本発明は、加えて、本発明の促進剤の少なくとも1つを含むか又はそれのみからなる組成物の、水硬性バインダー及びそれから作られたモルタル又はコンクリート、特に速硬性セメントの固化及び硬化を促進するための使用、並びに水硬性バインダー及びそれから作られたモルタル又はセメントの固化及び硬化を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレキャストコンクリート又は強化コンクリート部材において、又は道路の表面もしくは滑走路の更新においては、高い初期強度に対するますます増大する要求があり、それはプレキャスト部材がわずか数時間後に脱型され、輸送され、積み重ねられ、又はプレストレスを与えることができ、あるいは道路表面もしくは滑走路上を走行できるようにするためである。実際にこの目的を達成するためには、高性能コンクリート配合、例えば、低いw/c比、又は高いセメント含量のみならず、しばしば熱又は蒸気処理が用いられる。これらの処理は多量のエネルギーを必要とし、したがってこの処理はエネルギーコストの上昇、かなりの資本コスト、並びに耐久性及び曝露されたコンクリートに伴う問題によってしだいに放棄されつつあり、この硬化工程を促進させる別の方法が望まれている。
【0003】
促進添加剤は、これまで、熱又は蒸気処理に対する満足いく代替法を構成してはいない。コンクリートの固化及び硬化を促進する多くの公知の物質がある。一般に用いられる例は、強アルカリ性物質、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属シリケート、アルカリ金属アルミネート、及びアルカリ土類金属塩化物である。強アルカリ性物質の場合には、しかしながら、使用者に対する望ましくない危険、例えば、化学火傷が起こるおそれがあり、またそれらはコンクリートの最終強度及び耐久性を低下させる。
【0004】
欧州特許第0076927B1及び欧州特許第0946451B1は、水硬性バインダーのための無アルカリ固化促進剤を開示しており、これはそれら欠点を避けると言われている。硬化性バインダー、例えば、セメント、石灰、水硬性石灰、及び石膏、並びにそれらから作られたモルタル及びコンクリートの固化及び硬化を促進させるためには、無アルカリの固化及び硬化促進剤が添加され、その促進剤は水酸化アルミニウム及び任意選択で場合によってはアルミニウム塩及び有機カルボン酸を含む。
【0005】
そのような公知の促進剤は水硬性硬化システムの固化及び硬化を促進するが、それらは高価であり、不足する耐久性及び不十分な有効性のせいでその使用は限定されており、それらは同時に加工時間(プロセスタイム)も短くし、コンクリートの最終強度へ悪影響を及ぼす。そのような固化及び硬化促進剤のさらなる欠点は、さらに加えて、最初の数時間及び数日における比較的低い初期強度と、その溶液の不十分な安定性である。
【0006】
コンクリートの水和が硬化促進剤の添加によって促進される、現在知られているシステムは、ほとんどがスプレーコンクリートに関連する。水和を制御する公知の方法は、促進剤の添加後にセメント混合物が非常に急速に硬化するという欠点を有している。これは通常、特にスプレーコンクリートとして用いる場合に実際に望ましい。しかし、セメント混合物が活性化後にさらに加工されなければならない場合、あるいは処理したコンクリートに短時間の後に応力がかけられる必要がある場合には、そのような公知のシステムは適していない。しかし、スプレーコンクリート用途のための公知のシステムの場合には、活性化後のさらなる加工性はない。
【0007】
したがって、水硬性バインダーを含む組成物の固化及び硬化を促進するための混和剤を開発する必要があり、その混和剤はスプレーコンクリートでの使用を可能にするだけでなく、それを用いて、高い初期強度とそれにもかかわらず良好な加工(プロセシング)特性を有し、それによって早い脱型又は早い応力を可能にする速硬化性のモルタル又はコンクリート組成物を作り出すことが可能であるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第0076927B1明細書
【特許文献2】欧州特許第0946451B1明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[本発明のまとめ]
一方では硬化を促進するが、他方ではセメント又はコンクリート混合物に添加した後、所定の時間、セメント又はコンクリート混合物のさらなる加工性を可能にする、固化及び硬化促進剤あるいは混和剤を提供することが本発明の目的である。その促進剤または混和剤を用いて最大の初期強度を達成することが、加えて望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、このことは最初の請求項の特徴によって達成される。
【0011】
本発明の利点には、水硬性組成物、例えばセメント又はコンクリート混合物が、本発明の促進剤と混合した後で加工性を保っているという事実が含まれる。その活性化は硬化の顕著な促進を引き起こし、これは、活性化されていないコンクリートとは対照的に、大いに早い強度をもたらし、例えば、より早い脱型又は応力をも可能にする。しかし、コンクリートの活性化の後、加工可能性は、所望の期間、完全に保たれている。
【0012】
本発明のさらなる有利な構成は、明細書及び従属請求項から明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
水硬性バインダーのための本発明の固化及び硬化促進剤は、多価アルコールと酸とのエステル及び/又はその塩の少なくとも1種を含有し、この酸はリン酸、亜リン酸、又はC〜C20カルボン酸である。
【0014】
このエステルは、多価アルコール(polyhydric alcohol)と、酸又はその塩とのエステル化によって得られる。このエステルは、多価アルコールの部分エステル、好ましくは2価又は3価アルコールの部分エステルであることが好ましい。「多価アルコールの部分エステル」という表現は、その多価アルコールが1つ以上のエステル結合とともに、1つ以上のフリーの水酸基をも有することを意味すると理解される。このエステルは、モノ、ジ、又はトリエステルであってもよい。特に好ましいエステルは、モノエステルであり、2価又は3価アルコール(di-又はtrihydric alcohol)のモノエステルであることが好ましい。
【0015】
「多価アルコール(polyhydric alcohol)」の表現は、1つより多いヒドロキシル基を有するアルコール、例えば、2、3、4、又は5つのヒドロキシル基を有するアルコールを意味することが理解される。特に好ましいのは、2つ又は3つのヒドロキシル基を有するアルコール、すなわち、2価又は3価アルコールである。好適なアルコールは、例えば、多価アルキルアルコール、例えば、プロパンジオール、ブタンジオール、あるいは、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-ペンタン-トリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、又はイソソルビドである。特に好ましいのは、グリセロール、プロパンジオール、特にグリセロールである。
【0016】
上記エステルを調製するための特に好ましい酸又はその塩は、特に、リン酸又はその塩である。同様に、亜リン酸又はC〜C20カルボン酸が適している。有用なカルボン酸は、特に、モノカルボン酸、好ましくはC〜C20モノカルボン酸、特に好ましくは脂肪酸である。特に良好な結果は、不飽和酸、特にオレイン酸を用いて達成される。
【0017】
この酸は、フリーの酸の形態、あるいは塩もしくは部分塩の形態であってよく、「塩」の用語は、ここ及び以下において、塩基での中和によって得られる従来の塩のみならず、金属イオンと配位子としてのカルボキシレートもしくはカルボキシル基との間の錯体をも含む。
【0018】
上記エステルのフリーの酸基の全て又はいくらかが中和されていることが好ましく、その塩はアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、すなわち、一価又は多価のカチオンの塩、好ましくは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、又はアルミニウム塩、好ましくは、ナトリウム又はアルミニウム塩である。
【0019】
好適な本発明の固化及び硬化促進剤は、例えば、グリセリルホスフェート、グリセリルブチレート、グリセリルオクタノエート、グリセリルデカノエート、グリセリルラウレート、グリセリルミリステート、グリセリルパルミテート、グリセリルステアレート、及びグリセリルオレエートからなる群から選択されるエステル類、特にモノエステルである。特に好ましいのは、グリセリルモノオレエート又はグリセリルモノホスフェートである。特に好ましいのは、グリセリル2−ホスフェート又はグリセリル3−ホスフェートである。
【0020】
本発明の固化及び硬化促進剤は様々な分野、特に、コンクリート及びセメント技術での用途がある。この促進剤は、水硬性組成物のための促進剤として特に良好な性質をもっており、すなわち、それは水硬性バインダー、特に速硬性セメント、並びにそれらから作られるモルタル又はコンクリートの固化及び硬化を促進するために用いることができる。加えて、本発明の促進剤は、高い初期及び最終強度を有するモルタル又はコンクリートを製造するために用いることができる。したがって、本発明の固化及び硬化促進剤は、水硬性組成物に適用後非常に早く応力がかけられ又はその上を歩くことが必要とされる場合、例えば、道路又は橋梁建設に、プレキャストコンクリート及び強化コンクリート部材におけるコンクリート要素の前もっての作製に、あるいは飛行場(runway)の更新、特に滑走路(airstrip)の場合に特に好適であり、それはそのプレキャスト部材がわずかな時間の後に脱型し、輸送し、積み重ね、あるいは圧縮応力を与えることができるためであり、あるいはその道路表面又は滑走路の上を移動できるからである。意外なことに、本発明の固化及び硬化促進剤は、従来の促進剤と比較して特に急速な促進剤であることが判明している。加えて、本発明の促進剤は、加工処理時間にも、それらを用いて製造したモルタル又はコンクリートの最終強度にも悪影響を及ぼさない。
【0021】
用いる水硬性システム又は組成物は、原理的に、コンクリート分野の当業者に公知の任意の水硬性物質であってよい。より特には、これらは水硬性バインダー、例えば、セメント、例えばポルトランドセメント若しくは高アルミナセメント、及びそれらと、フライアッシュ、ヒュームドシリカ、スラグ、スラグサンド、及び石灰石フィラーとの各混合物である。本発明との関連におけるさらなる水硬性物質は生石灰である。好ましい水硬性組成物はセメントである。加えて、骨材、例えば、砂、砂利、石、石英粉末、石灰粉(チョーク)が可能であり、さらに、添加剤として従来の成分、例えば、その他のコンクリート減水剤、例えば、リグノスルホネート、スルホン化されたナフタレン−ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物、又はポリカルボキシレートエーテル、促進剤、腐食防止剤、遅延剤、収縮低減剤、消泡剤、又は細孔形成剤が可能である。
【0022】
本発明の促進剤は、液体又は固体の形態のいずれかで、単独又は混和剤の成分として、本発明の使用に用いることができる。したがって本発明はさらに、少なくとも1種の本発明の促進剤を含む、液体又は固体形態の混和剤にも関する。
【0023】
加工性を向上させ、水硬性バインダーに本発明の促進剤を添加した後の加工処理時間を延ばすために、混和剤は上記促進剤に加えて減水剤を含むことが好ましい。有用な減水剤には、コンクリート工業において例えば高性能減水剤として公知の、例えば、リグノスルホネート、スルホン化されたナフタレン−ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化されたビニルコポリマー、又はポリカルボキシレート減水剤、あるいはそれらの混合物が含まれる。特に、例えば、欧州特許第0056627号明細書、同0840712号明細書、欧州特許出願公開第1136508号、欧州特許第1138697号明細書、又は欧州特許出願公開第1348729号公報に記載されているポリカルボキシレート減水剤が好ましい。例えば、欧州特許1138697号又は欧州特許出願公開第1348729号公報に記載されているポリマー類似反応によって調製される減水剤が特に好ましい。
【0024】
上記促進剤又は上記促進剤を含有する混和剤は、さらなる成分を含んでいることもできる。さらなる成分の例は、溶媒、特に水、あるいは添加剤、例えば、さらなる硬化促進物質、例えば、チオシアネート、ナイトレート、又はアルミニウム塩、酸もしくはその塩、あるいはアミン含有物質、例えば、アルカノールアミン、遅延剤、収縮低減剤、消泡剤、又は気泡形成剤である。
【0025】
本発明の促進剤又はその促進剤を含む混和剤が液状で用いられる場合は、反応のための溶媒を用いることが好ましい。好ましい溶媒は、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、又はジオキサン、並びにまた、アルコール類、特にエタノールもしくはイソプロパノール、及び水であり、水が最も好ましい溶媒である。
【0026】
本発明の促進剤又はその促進剤を含む混和剤は、固体状態、例えば、粉末、フレーク、ペレット、顆粒、又はスラブ(板状)の形態で存在してもよく、何ら問題なくこの形態で輸送及び貯蔵することができる。
【0027】
本発明の促進剤は、例えば固体状態で存在していてもよく、同様に固体状態の減水剤と混合してもよく、この形態で長期間にわたり貯蔵又は輸送できる。しかし、本発明の促進剤は液状の減水剤と混合することもでき、液状混和剤の形態で用いることもできる。この液状混合物は、続いて、固体状態、例えば、粉末形態に、例えば、保護コロイドもしくはその他の乾燥助剤を用いて、スプレー乾燥によって再び変換することもできる。
【0028】
本発明の促進剤もしくはこの促進剤を含む混和剤は、固体状態で、セメント組成物の一部である、いわゆるドライミックスであることもでき、これは長期間貯蔵可能であり、典型的にはバッグ中に包装され又はサイロに貯蔵され、用いられる。
【0029】
本発明の促進剤又はこの促進剤を含む混和剤は、水の添加とともに、又は水の添加の少し前もしくは少し後に、慣用されているコンクリート組成物に添加することもできる。水溶液又は水性分散液の形態の本発明の促進剤を、特に、混合する水としてもしくは混合する水の一部として、又は混合する水とともに水硬性バインダーに添加する液状混和剤の一部として添加することが、ここでは特に適していることが判明している。
【0030】
本発明の促進剤又は混和剤は、バインダー、コンクリート、モルタル、及び非水硬性混和剤の上に、その水硬性バインダー又は潜在的水硬性バインダーの粉砕の前又は後で、液状でスプレーすることもできる。例えば、水硬性バインダーは、促進剤又は促進剤を含有する混和剤で部分的にコーティングされてもよい。これは、促進剤又は促進剤を含有する混和剤を既に含んでいる水硬性バインダー、特にセメント又は潜在的水硬性スラグの製造を可能にし、そのため、完成された混合物、例えば、いわゆる急結セメントとして貯蔵され、販売されることができる。混合水の添加後、このセメントは、建築現場における混合水の添加に加えてさらなる混和剤を添加する必要なしに、速硬化と大きな初期強度という所望の特性を有する。
【0031】
さらなる側面では、本発明は、少なくとも1種の水硬性バインダーと少なくとも1種の本発明の固化及び硬化促進剤とを含む、バインダー含有混合物に関する。有用なバインダーには、例えば、セメント、特にポルトランドセメント、又は高アルミナセメント、及びそれぞれとフライアッシュ、ヒュームドシリカ、スラグ、スラグサンド、石膏及び石灰石フィラー又は生石灰、潜在的な水硬性粉末又は不活性微粉末との混合物が含まれる。有用なバインダー含有混合物は、コンクリート組成物であることが好ましい。
【0032】
加えて、上記混合物は、さらなる骨材、例えば、砂、砂利、石、石英粉末、石灰(チョーク)と、添加剤として、慣用成分、例えば、コンクリート減水剤、例えば、リグノスルホネート、スルホン化されたナフタレンホルムアルデヒド縮合物、スルホン化されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物、又はポリカルボキシレートエーテル(PCE)、促進剤、腐食防止剤、遅延剤、収縮低減剤、消泡剤、又は気泡形成剤とを含んでいてもよい。
【0033】
好ましくは、バインダー含有混合物は、上記促進剤に加えて、少なくとも1種の減水剤、好ましくはポリカルボキシレートエーテル(PCT)に基づく減水剤を含有する。
【0034】
本発明の促進剤は、所望の効果を達成するために、バインダーの質量を基準にして0.001〜10質量%の量で用いることが好ましい。所望の効果を達成するために、混合物中に複数の促進剤を用いることも可能である。
【0035】
さらなる側面では、本発明は、バインダー含有混合物を製造するための方法に関し、この方法では少なくとも1種の本発明の促進剤が、混和剤として、固体又は液状で、別途バインダーに添加されるか又は予め混合(プレミックス)される。
【0036】
さらなる側面では、本発明は、水硬性バインダー及びそれから作られるモルタル又はコンクリートの固化及び硬化を促進させる方法に関し、この方法では本発明の固化及び硬化促進剤が、セメントの質量を基準にして、水硬性バインダーを含む混合物に0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.01〜0.1質量%の量で添加される。本発明の促進剤と好ましくは追加で少なくとも1種の減水剤とを含む混和剤が水硬性バインダーに添加される場合、添加される全体の混和剤の量は水硬性バインダーの質量を基準にして0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜10質量%、なおさらに好ましくは1〜5質量%である。
【0037】
本発明は水硬性バインダーのための混和剤を提供し、それは、それを用いて製造したモルタル又はコンクリート組成物の加工処理時間、強度の発現、又は耐久性に悪影響を及ぼすことなく、水硬性バインダーの固化及び硬化工程を促進させる。本発明の混和剤、及び特に本発明の固化及び硬化促進剤は、したがって、適用後に再び非常に速やかにその水硬性組成物に応力をかける又はその上を歩くことを可能にしなければならない場合、例えば、道路もしくは橋梁建設に、プレキャストコンクリート及び強化コンクリート部材におけるコンクリート要素の前もっての作製に、あるいは飛行場(runway)の更新、特に滑走路(airstrip)の場合に、特に適している。これは、わずか数時間の後にそのプレキャスト部材を脱型し、輸送し、積み重ね、又は圧縮応力を与え、あるいは道路表面又は滑走路の上を移動することを可能にする。
【0038】
驚くべきことに、本発明の固化及び硬化促進剤は、従来の促進剤と比較して特に速い促進剤であることが判明している。加えて、本発明の促進剤は、それを用いて製造したモルタル又はコンクリートの加工処理時間にも最終強度にも悪影響がない。
【実施例】
【0039】
1.混和剤の製造
【0040】
〔混和剤Z1〕
5.0gのグリセリル2−モノホスフェート(例えば、スイス国、Fluka社から得られる、グリセリルホスフェート2ナトリウム塩・5水和物)を、160.0gの液状ポリカルボキシレートエーテル減水剤(Sika Schweiz AGから入手可能なSika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)20 HE)中に溶かした。セメントを基準にして1.6質量%又は1.65質量%のこの溶液を、混合水とともにモルタル混合物に添加した。
【0041】
〔混和剤Z2〕
0.43gのグリセリル2−モノホスフェート(例えば、スイス国、Fluka社から得られる、グリセリルホスフェート2ナトリウム塩・5水和物)と13.6gの液状ポリカルボキシレートエーテル減水剤(Sika Schweiz AGから入手可能なSika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)20 HE)とを混合水と同時にモルタル混合物に添加し、これはセメントを基準にして、1.6質量%の量の減水剤、及び0.05質量%の量の促進剤に相当する。
【0042】
〔混和剤Z3〕
19.0gのグリセリル1−モノオレエート(例えば、スイス国、Fluka社から入手可能である)を、Sika Schweiz AGから入手可能な液状ポリカルボキシレートエーテル減水剤(Sika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)20 HE)160.0gに溶かした。セメントを基準にしてこの溶液1.6質量%を、混合水とともにモルタル混合物に添加した。
【0043】
〔混和剤Z4〕
1.77gの85%グリセロール溶液(例えば、スイス国、Fluka社より入手可能)と、6.21gのリン酸3ナトリウム(例えば、スイス国、Fluka社より入手可能)とを、160.0gの液状ポリカルボキシレートエーテル減水剤(Sika Schweiz AGから入手可能なSika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)20 HE)に溶かした。セメントを基準にして1.68質量%のこの溶液を、混合水とともにモルタル混合物に添加した。
【0044】
〔混和剤Z5〕
1.77gの85%グリセロール溶液(例えば、スイス国、Fluka社より入手可能)を、160.0gの液状ポリカルボキシレートエーテル減水剤(Sika Schweiz AGから入手可能なSika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)20 HE)に溶かした。セメントを基準にして1.62質量%のこの溶液を、混合水とともにモルタル混合物に添加した。
【0045】
〔混和剤Z6〕
6.21gのリン酸3ナトリウム(例えば、スイス国、Fluka社より入手可能)を160.0gの液状ポリカルボキシレートエーテル減水剤(Sika Schweiz AGから入手可能なSika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)20 HE)に溶かした。セメントを基準にして1.66質量%のこの溶液を、混合水とともにモルタル混合物に添加した。
【0046】
〔混和剤Z7〕
13.6gの液状ポリカルボキシレートエーテル減水剤(Sika Schweiz AGから入手可能なSika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)20 HE)を用いた。これを混合水とともにモルタル混合物に添加し、これはセメントを基準にして1.6質量%の量に相当する。
【0047】
〔混和剤Z8〕
13.6gの液状ポリカルボキシレートエーテル減水剤(BASF Admixtures Deutschland GmbHから入手可能なGlenium(登録商標)ACE 30)を用いた。これを混合水とともにモルタル混合物に添加したが、これはセメントを基準にして1.6質量%の量に相当する。
【0048】
【表1】

【0049】
1.モルタル試験
本発明の促進剤又は本発明の促進剤を含有する混和剤、及び慣用の混和剤の効果をモルタルで試験した。
【0050】
【表2】

【0051】
用いたセメントは様々な微粉度をもつCEM I 52.5R速硬性セメントだった。モルタル混合物MM1は、速硬性セメントS1を用いて製造し、S1は7000cm/gのブレイン(Blaine)微粉度をもっている。モルタル混合物MM2は速硬性セメントS2を用いて製造し、S2は5000cm/gのブレイン(Blaine)微粉度をもっている。
【0052】
砂、フィラー、及びセメントをホバート(Hobart)ミキサー中で1分間混合した。30秒以内に、混和剤を溶かしたか又は分散させた混合水を添加し、次いでさらに2.5分間混合した。合計の湿潤混合時間は3分間だった。水/セメント比(w/c比)は0.4だった。
【0053】
本発明の促進剤又は混和剤の効果を測定するために、モルタル混合物MM1及びMM2を様々な混和剤と混合した(表2及び3を参照されたい)。混和剤Z1、Z2、及びZ3を含む例B1〜B6は本発明の例であるが、混和剤Z4〜Z8を含む例V7〜V12は比較例である。
【0054】
本発明の促進剤又は混和剤の効果を測定するために、スランプ(表2)及び圧縮強度(表3)を測定した。
【0055】
【表3】

【0056】
モルタルのスランプはEN1015−3にしたがって測定した。
【0057】
表2は、混和剤中の本発明の促進剤は、モルタル組成物のスランプに悪影響を及ぼさないこと、及び、モルタル組成物は、本発明の促進剤なしの従来の混和剤を用いたものと同程度の間、加工処理可能(processable)であることを示している。プレハブにおけるプレキャスト部材の製造、あるいは道路建設のためには、特に20又は40分後のスランプの値が重要である。20分後の220mmより大きなスランプ値、あるいは40分後の190mmより大きなスランプ値は、いずれにしても優れた値である。
【0058】
道路又は橋梁建設において、コンクリート部材のプレハブにおいて、プレキャストコンクリート及び強化コンクリート部材において、又は滑走路の更新において用いるためには、この場合、プレキャスト部材はわずか数時間後には脱型され、輸送され、積み重ねられ、又は圧縮応力が加えられなければならず、あるいは道路もしくは滑走路はその上を移動できなければならないが、4又は6時間後の高い強度値は良好なスランプよりもより大きな意義がある。
【0059】
圧縮強度(N/mm単位)を測定するための試験は、4時間、6時間、及び8時間後に、針入度計(Mecmesin BFG500)を使用して、プリズム(40×40×160mm)を用いて行った(表3を参照されたい)。
【0060】
【表4】

【0061】
表3は、本発明の促進剤を含む混和剤Z1、Z2、又はZ3を、溶液として(Z1、Z3)又は別個の成分として(Z2)のいずれかで添加したモルタル組成物が、非常に良好な初期強度を有することを示している。強度は4時間後(Z1、Z2)、特に6時間後(Z1、Z2、Z3)で、従来の混和剤を用いたものよりも顕著に高い。いくつかはほとんど2倍の強度さえ有する(混和剤Z1又はZ2を含むB1〜B5)。
【0062】
優れた結果は、グリセリルホスフェートとポリカルボキシレートエーテル減水剤(B1〜B5)で達成された。個別のグリセリル及び3ナトリウムホスフェート成分を別個に用い、グリセロールとリン酸とのエステルを用いない場合は、達成された強度はより劣る(V7〜V9)。
【0063】
グリセリルモノオレート(B6)でもまた、従来の混和剤よりも良好な強度が6及び8時間後に達成された。
【0064】
減水剤のみ(V10)又は従来の混和剤(Glenium(登録商標)ACE 30、これは速硬性セメントに一般に用いられる)(V11、V12)のみでは、顕著に低い強度しか達成されなかった。
【0065】
これらの結果は、本発明の促進剤を用いることで、水硬性バインダーの固化及び硬化工程が顕著に促進されることができ、それらを用いて製造したモルタルもしくはコンクリート組成物の加工時間、強度の発現、又は耐久性への悪影響なしに、優れた初期強度が達成できることを明らかにしている。
【0066】
もちろん本発明は、示し且つ説明した実施例に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコールと酸とのエステル及び/又はその塩のうち少なくとも1種を含有し、前記酸がリン酸、亜リン酸、又はC〜C20カルボン酸である、水硬性バインダーのための固化及び硬化促進剤。
【請求項2】
前記酸がリン酸であることを特徴とする、請求項1に記載の促進剤。
【請求項3】
前記酸がモノカルボン酸、好ましくはC〜C20モノカルボン酸であることを特徴とする、請求項1に記載の促進剤。
【請求項4】
前記酸が不飽和酸、好ましくはオレイン酸であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項5】
前記エステルのフリーの酸基の全て又はいくらかが中和されており、その塩がアルカリ金属塩又は多価カチオンの塩、好ましくは、ナトリウム、カルシウム、又はアルミニウム塩であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項6】
前記エステルが多価アルコールの部分エステル、好ましくは2価又は3価アルコールのモノエステルであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項7】
前記多価アルコールがグリセロールであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項8】
前記エステルがグリセリルホスフェートであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項9】
前記エステルがグリセリルオレエートであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の促進剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の促進剤と、少なくとも1種の減水剤とを含有する、水硬性システムのための混和剤。
【請求項11】
前記減水剤が、リグノスルホネート、スルホン化されたナフタレン−ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化されたメラミン−ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化されたビニルコポリマー、ポリカルボキシレート、又はそれらの混合物を含むか、あるいはそれらのみからなることを特徴とする、請求項10に記載の混和剤。
【請求項12】
少なくとも1種の水硬性バインダーと、前記バインダーの質量を基準にして0.001〜10質量%の量の請求項1〜9のいずれか一項に記載した少なくとも1種の促進剤又は請求項10もしくは11のいずれかに記載した混和剤とを含むバインダー含有混合物。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の促進剤を、固体又は液状の混和剤として、別個に添加するか又はプレミックスすることを特徴とする、請求項12に記載のバインダー含有混合物の製造方法。
【請求項14】
水硬性バインダー、及びそれから作られたモルタル又はコンクリート、特に速硬性セメントの固化及び硬化を促進させるための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の少なくとも1種の促進剤を含むか又は前記促進剤のみからなる組成物の使用。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の促進剤又は請求項10もしくは11のいずれかに記載の混和剤を、水硬性バインダーの質量を基準にして0.001〜10質量%の量で、水硬性バインダーを含有する混合物に添加することを特徴とする、水硬性バインダー及び水硬性バインダーから作られるモルタルもしくはコンクリートの固化及び硬化を促進させる方法。

【公表番号】特表2011−522768(P2011−522768A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511018(P2011−511018)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056586
【国際公開番号】WO2009/144293
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】