説明

長さ依存性神経障害の処置

全身投与の必要性が最小化されるように、α2アドレナリン受容体と相互作用する化合物、特にクロニジンなどのα2アドレナリンアゴニストを有痛全領域へ局部的にまたは局所的に送達することによる、有痛性の神経障害の処置のための組成物およびその使用方法が提供される。化合物は、有痛性の長さ依存性神経障害および皮膚の疼痛シグナル伝達線維に影響を及ぼす他の神経障害の患者の、有痛領域にまたはそれに隣接して送達される。長さ依存性神経障害患者の処置のための好ましい化合物は、経皮パッチ、ゲル、軟膏、ローション、リポソーム処方物、クリームまたはエマルションで投与されるクロニジンであり、その場合、その濃度は、有痛領域またはそのすぐ隣りの領域に有効用量を提供するのに十分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
この出願は、米国特許法§119の下、James N.Campbellによって2005年11月8日に出願された、米国特許出願第60/734,423号に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、長さ依存性神経障害ならびに糖尿病および他の状態などから生じる可能性のある他の神経障害に伴う疼痛の処置を目的とする。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
疼痛は、体性感覚系に影響を及ぼす疾患からしばしば発生する。しばしば関係が示唆される一疾患は、糖尿病である。糖尿病は異なる方法で神経系に影響を及し得るが、古典的な障害の1つは、長さ依存性神経障害(length dependent neuropathy)である。ここでは、より長い軸索を有する軸索が、侵害受容器の変性および感作と関連する神経障害に優先的に関与する。足への軸索が体内で最も長い一次求心性であることを考慮すると、古典的な特徴は、足に一般に関係する灼熱痛である。この問題はその疾患で早晩起こり得、実際、糖尿病の基準を厳格に満たすことなく、グルコース代謝の障害を表す状態であるいわゆる糖尿病前症で起こることがある。現在では、糖尿病が長さ依存性神経障害の原因に他ならないと理解される。これらの障害に付随する有痛性の症状は、特発性の小線維神経障害を含めて、糖尿病で見られるものとほとんど同一である。糖尿病自体の治療を目的とする処置は、神経障害の進行を遅くするのに役立つが、必ずしも疼痛に対処するわけではない。特発性の長さ依存性の小線維神経障害の処置法は、全く知られていない。ある化学療法薬は、疼痛を伴う長さ依存性神経障害を誘導する。この疼痛は投薬を制限する可能性があり、したがって、癌治療の妥当性に影響を及ぼす可能性がある。疼痛の全身の処置には、オピオイド、抗痙攣剤、抗うつ薬および膜安定化薬の使用が含まれる。これらの療法の全てはしばしば無効であり、一般的に、それらの使用は実質的な有害副作用プロフィールが付随する。全身の療法は、経口経路によって、または、皮膚に貼るパッチによって投与することができる。リドカインパッチは、皮膚に適用することができる。長さ依存性神経障害に伴う疼痛の処置におけるそれらの価値は、皮膚の麻痺のために制限される。カプサイシンは皮膚に局部的に投与することができるが、投与はかなりの疼痛を伴い、カプサイシンは侵害受容器機能を破壊する。
【0004】
高血圧症治療のために主に用いられる強力なαアドレナリン作用性部分アゴニストであるクロニジンで、有痛性糖尿病性神経障害を処置するために、先立ついくつかの試みもされた(非特許文献1)。クロニジンは、全身への送達のために、経口送達に代わるものとして、有痛領域から離れた領域に局所的に投与されている。例えば、有痛性糖尿病性神経障害患者でのプラセボ対照クロスオーバー疼痛試験において、経皮パッチで投与された全身性のクロニジンを投与された患者とプラセボパッチを投与された患者との間で、統計学的な有意差は観察されなかった(非特許文献2)。類似の有痛性糖尿病性神経障害患者におけるフォローアッププラセボ対照疼痛研究において、全身レベルのクロニジンを送達する経皮パッチを、2段階強化エンロールメントデザインを用いて評価した(非特許文献3)。処置の最初の過程を完了した41人の患者のうちのわずか12人(29%)が、クロニジン応答者と考えられた。これらの12人のクロニジン応答者は、次いで、経皮パッチ系で利用できる最高投薬量を用いた第2のプラセボ対照研究で、再投与された。プラセボと比較した疼痛の減少は、統計学的に有意(p<0.015)であったものの、ささやかな傾向であった。クロニジンの作用部位は、この研究において研究されなかった。主に、作用部位は中枢神経性または末梢性であろう。他の疼痛状態では、クロニジンの中枢神経系の鎮痛作用が確定された。この処置は、有痛領域から離れて経皮パッチを投与することによるクロニジンの全身送達を含み、0.2ng/mlを超える全身血中レベルがもたらされた。
【非特許文献1】Jarrottら、「Clonidine: Understanding its disposition, sites, and mechanism of action」、Clin.Exp.Pharm.Physiol.(1987年)14、471〜479頁
【非特許文献2】Zeiglerら、Pain(1992年)48:403〜408頁
【非特許文献3】Byas−Smithら、Pain(1995年)60:267〜274頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、有痛領域へのα2アドレナリンアゴニストの局所局部送達によって、糖尿病に伴う可能性がある長さ依存性または他の神経障害における疼痛を、効果的に処置または軽減する方法および組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
α2アドレナリン受容体と相互作用する化合物、特にクロニジンなどのαアドレナリンアゴニストの濃度の有痛領域への局部または局所の送達により、クロニジンの全身効果レベルをもたらすことなく、長さ依存性または他の神経障害に起因する疼痛を処置するための組成物およびその使用方法が提供される。化合物は、疾患または疼痛シグナル伝達一次求心性(感覚の)線維およびそれらの受容体への損傷に伴う、交感神経により維持される疼痛ではない疼痛をもたらす長さ依存性の神経障害または他の神経障害の患者において、有痛領域にまたはそれに隣接して送達される。例えば、病訴が足の灼熱痛である有痛性糖尿病性神経障害患者において、α2アゴニストは、足の有痛領域に局所投与される。糖尿病性神経障害患者の処置のための好ましい化合物は、軟膏、ゲル、ローションまたは経皮パッチで適用されるクロニジンであり、その場合、投薬量は、好ましくは薬理的に活性な全身性血中レベルをもたらすことなく、有痛領域またはそのすぐ隣りの領域に有効用量を提供するのに十分である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(発明の詳細な説明)
I.処方
A.αアドレナリン作用性アゴニスト
長さ依存性神経障害に伴う症状(すなわち灼熱痛)を処置または緩和する方法は、局部的にまたは局所的に、αアドレナリンアゴニストまたはその組合せの有効量を投与することを含む。αアドレナリンアゴニストは、当業者には公知である。例えば、The Pharmacological Basis of Therapeutics、第8版、Gill, A.G.、T.W.Rail、A.S.Nies、P.Taylor編(Pergamon Press, Co., Inc.、NY 1990年)を参照されたい。
【0008】
α2アドレナリン受容体アゴニスト活性を有する物質は、式I
【0009】
【化3】

によって表されるか、または、薬学的に許容されるその塩であり、上式で、Aは、アリールおよびヘテロアリールから選択することができ、それらは、アルキル、分枝アルキル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシ、シクロアルキルアルキル、アルコキシアルキル、アリール、アルカノイル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、アミノ、シアノ、ハロゲン、チオアルキル、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルフィニルまたはアリールスルホニルから選択される1つまたは複数の基によって置換されていてもよく、Xは、チオ、イミノまたはメチレンから選択され、Rは、水素、低級アルキルまたは酸素含有複素環から選択され、nは2または3である。
【0010】
式Iの化合物の好ましいクラスは、Aが、フェニルであり、Aが、フェニル環の2位および6位が水素、クロロ、メチル、エチルまたはシクロアルキルから選択される基によって独立して置換されていてもよく、3位、4位および5位が水素、メチル、トリフルオロメチル、フルオロまたはシアノから選択される基によって独立して置換されていてもよい置換されたフェニルであり、Aが、2位および4位が水素、クロロ、メチル、エチルまたはシクロアルキルから選択される基によって独立して置換されている3−チエニルであり、Aが、1−ナフチル、5,6,7,8−テトラヒドロナフチル−1−イル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、インドール−3−イル、インダゾール−3−イル、キノリニル、キナゾリニル、キノキサゾリニル、ベンゾオキサゾリルおよびベンゾチオフェン−3−イルであり、Aが、3位および5位が水素、クロロ、メチル、エチル、シクロアルキルまたはメトキシによって独立して置換されているピリミジン−4−イルであり、Rが、水素またはテトラヒドロピラン−2−イルであり、Xが、チオまたはイミノであり、nが2である化合物からなる。
【0011】
式Iの化合物の特に好ましいクラスは、Aが、フェニル、2,6−ジクロロフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジエチルフェニル、3,4−ジヒドロキシフェニル、3−フルオロ−6−メチルフェニル、2−クロロ−5−トリフルオロメチルフェニル、2−クロロ−4−メチルフェニル、3−クロロ−4−メチルチエン−3−イル、5,6,7,8−テトラヒドロナフト−1−イルおよび4−クロロ−5−メトキシ−2−メチルピリミジン−4−イルから選択され、Rが、水素またはテトラヒドロピラン−2−イルであり、Xが、チオまたはイミノであり、nが2である化合物からなる。
【0012】
式Iの化合物の特に好ましいクラスは、キシラジン、フルトニジン、モキソニジン、トラマゾリン、トロニジン、ピクロニジン、チアメニジンおよびクロニジンからなる。
【0013】
具体的な化合物に関して上に記載したが、それら活性化合物の鏡像異性体、立体異性体、代謝産物、誘導体および塩を利用することもできる。これらの化合物の合成方法は、当業者には公知である。薬学的に許容される塩の例には、それらに限定されないが、アミンなどの塩基性残基の無機または有機の酸性塩、および、カルボン酸などの酸性残基のアルカリまたは有機の塩が含まれる。薬学的に許容される塩には、従来の無毒性の塩または、例えば、無毒性の無機もしくは有機の酸から形成された親化合物の第四級アンモニウム塩が含まれる。従来の無毒性塩には、塩酸、臭酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸および硝酸などの無機酸に由来するもの、ならびに、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸およびイセチオン酸などの有機酸から調製される塩が含まれる。薬学的に許容される塩は、塩基性または酸性の部分を含む親化合物から、従来の化学的方法によって合成することができる。一般に、そのような塩は、これらの化合物の遊離の酸または塩基の形態と適当な塩基または酸の化学量論量とを、水中で、または有機溶媒中で、あるいは2つの混合物中で反応させることによって調製することができ、一般には、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルのような非水性の媒体が好ましい。適当な塩の一覧は、Remington ’s Pharmaceutical Sciences、第17版(Mack Publishing Company、Easton、PA、1985年、1418頁)で見られる。
【0014】
プロドラッグは、in vivoで活性親薬剤を放出する、共有結合で結合した物質である。プロドラッグは、その修飾が常用の操作でまたはin vivoで切断されて親化合物を生成するように、化合物中の官能基を修飾することによって調製される。プロドラッグには、ヒドロキシまたはアミノ基が任意の基に結合され、プロドラッグが哺乳動物の対象に投与されると、その任意の基が切断されてそれぞれ遊離のヒドロキシルまたは遊離のアミノを形成する化合物が含まれる。プロドラッグの例には、それらに限定されないが、アルコールおよびアミン官能基の酢酸、ギ酸および安息香酸誘導体が含まれる。
【0015】
前述の化合物の代謝産物は、生細胞がin vivoで本発明の活性親薬剤または他の処方物または化合物と相互作用する、生物化学過程から生じる。代謝産物には、任意の代謝経路からの生成物または中間体が含まれる。
【0016】
B.賦形剤
・これらの化合物は、以前は、全身的に(経口的、皮膚パッチまたは注射により)投与されていた。全身投与は効果がないかまたは高用量を必要とし、したがって、倦怠、めまい、疲労、頭痛、便秘、吐き気、嘔吐、下痢、不眠症および口渇などの全身性副作用が付随する。局所投与は、Campbellに対して1995年9月5日に公布された米国特許第5,447,947号、ならびに、Borgmanに対して2003年3月18日に公布された米国特許第6,534,048号およびBorgmanに対して2000年11月15日に公布された米国特許第6,147,102号において、交感神経によって維持される疼痛の処置のために記載されている。
【0017】
・本明細書で記載した方法では、化合物は、その多くは当業者に公知である適当な医薬品担体と一緒に、有痛領域に直接的にまたは隣接して、局部的にまたは局所的に投与される。担体は、ローション、軟膏、ゲル、溶液または経皮パッチの形であることができる。局所投与は、電流が薬剤を薬学的に許容される塩などのイオンの形で皮膚に押し込む、イオン導入法も含む。局所投与は、有痛領域またはそのすぐ隣りの組織で薬剤が高濃度に到達することを可能にし、全身投与の後に観察されるこれらの化合物の副作用の多くを回避することができる。
【0018】
薬剤の処方物は、例えば、Hoover, John E.、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.、Easton、Pennsylvania(1975年)およびLiberman, H.A.およびLachman, L.編、Pharmaceutical Dosage Forms、Marcel Decker、New York、N.Y.(1980年)で述べられる。活性化合物(または薬学的に許容されるその塩)はそれ自体で、または、活性化合物が1つまたは複数の薬学的に許容される担体、賦形剤もしくは希釈剤と配合もしくは混合される医薬組成物の形で投与することができる。医薬組成物は、活性化合物を薬剤として用いることができる調製物に加工するのを促進する賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の生理的に許容される担体を用いて、従来の方法で処方することができる。
【0019】
C.併用療法
投薬処方物は、単独で、または、オピオイド、抗痙攣剤、膜安定化薬および/または精神作用薬(例えば抗うつ薬)などの療法と併用投与することができる。
【0020】
これらは、局所投与もしくは局部投与のために薬学的に許容される担体中でアゴニストと一緒に処方することができ、または、別個の処方物で投与することができ、その場合、他の療法は、局部的に(皮下もしくは筋肉内の注射によって)、局所的にまたは全身的に患者に投与される。
【0021】
II.投与の方法
A.処置される患者
様々な疾患が、末梢神経系に影響を及ぼすことができる。これらの障害の多くは有痛性ではないが、疼痛シグナル伝達系が冒されるならば、疼痛が生じることがある。原型の有痛性神経障害は、糖尿病から生じる。神経系に及ぼす最も一般的な影響は、長さ依存性神経障害から生じる。このことは、感覚軸索が長いほど、軸索が影響を受ける可能性が高いことを意味する。足へ伸びる軸索が体内で最も長い一次求心性であることを考慮すると、これらの線維が最初に影響を受ける。疾患が進行するに従い、長さがより短い他の軸索が冒される。長さ依存性神経障害は、様々な疾患に起因することができる。最も一般的(60〜70%)なものは、糖尿病である。これらの神経障害は、腎臓疾患、ホルモンのアンバランス、ビタミン欠乏、アルコール依存症、自己免疫疾患、毒素、化学療法および感染症(例えばエイズ)によって起こる可能性もある。
【0022】
好ましい一実施形態では、この処置は、糖尿病から生じる神経障害患者に与えられる。他の好ましい実施形態では、この処置は末梢感覚神経障害患者の有痛領域に投与される。他の実施形態では、この処置は小線維神経障害患者の有痛領域に投与される。
【0023】
B.投薬量および処置レジメン
投薬処方物は、患者により、週1度から1日に数回投与される。一実施形態では、治療剤は、0.1から10%のクロニジンの濃度で投与されるクロニジンである。用量は、疼痛領域別に決定される。クロニジンの影響は局部的であるので、それは有痛領域に投与されなければならない。したがって、より広い疼痛領域を有する患者においては、%濃度は一定であるがより高い用量のクロニジンが必要となる。治療する領域は、全身性投薬によって制約される。0.5%クロニジンを両足に適用する場合は、血中レベルが高血圧症の治療で観察されるものに接近するので、全身的効果が出現する可能性がある。下記の0.1%および0.2%のクロニジンで実施した試験では、平均血中レベルは0.1ng/mgを十分下回ったが(患者の3分の1では、血液中に検出可能なクロニジンは存在しなかった)、全身性の送達では血中レベルは0.2ng/mlを超える。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
Neuclon(商標)(クロニジン)0.1%局所ゲルの処方物
Neuclon(商標)(クロニジン)0.1%局所ゲルは、1.0グラムのゲルにつき塩酸クロニジンを0.1mg含有する。ゲルは、製品中のクロニジン遊離塩基の量を最大にするために、pH8.0で処方される。塩酸クロニジンは、8.2のpKaを有する。処方物を、表1に示す。
【0025】
【表1】

(実施例2)
有痛性糖尿病性神経障害患者の処置
この研究の目的は、慢性の下肢の有痛性糖尿病性神経障害患者で、プラセボゲルと比較した0.1%および0.2%の局所クロニジンゲルの鎮痛効果を試験することであった。
【0026】
材料および方法
研究加入要件を満たした慢性の下肢の有痛性糖尿病性神経障害を有する166人の成人患者が、この多施設研究に登録された。神経障害疼痛と臨床診断された糖尿病患者は、11ポイントのNumerical Graphic Painスケール(NGPS)で5以上の日平均疼痛スコアを有する必要があった。患者は、それらの医薬品による投薬が登録前の30日間および研究期間中不変ならば、神経障害性疼痛のために他の医薬品を使い続けることが許された。
【0027】
患者を、この盲検的平行デザインの10週研究のために、0.1%または0.2%の局所クロニジンゲルまたはプラセボゲルに無作為化した。1日2回の投薬を2週間から始め、残りの6週間は1日3回に増加させ、薬物療法を8週間続けた。
【0028】
鎮痛効力は、以下の評価手段、Numerical Graphic Painスケール(NGPS)、Pain Relief(疼痛寛解)スケール、接触および冷却のためのAllodyniaスケール、Patient and Investigator Global ImprovementアセスメントおよびFunctional Interference(機能的干渉)スケールを使用して、最初の1カ月は毎週、2カ月目は隔週評価した。患者は、研究期間中、毎日の結果評価日誌に記入した。
【0029】
表2で示すように、3つ全ての処置群の患者人口統計は類似していた。
【0030】
【表2】

C=コーカサス系、B=黒色人種、H=ヒスパニック系、O=その他。
【0031】
合計14人の患者が研究から脱落した:0.1%ゲル8人、0.2%ゲル5人およびプラセボ1人。3因子(試験官、時間および処置)反復測定分散分析法の結果は、時間(p=1.00)または試験官(p=0.598)に関していかなる有意差も示さず、時間と処置(p=0.817)および処置と試験研究者(p=0.805)との間のいかなる有意な相互作用も示さなかった。
【0032】
結果
0.1%クロニジンゲルに無作為化された患者は、プラセボの患者と比較して、時間平均のNGPSの有意により大きな減少を示した(あらゆる欠測値についての繰越最終観察(last observation carried forward[LOCF])による反復測定分析p=0.015)。プラセボと比較した0.2%群の患者からの経時的平均NGPSの分析結果は、有意境界域にあった(LOCFによる反復測定分析p=0.054)。クロニジン処置群の二次的効力変数のいずれも、プラセボと有意差はなかった。しかし、患者日誌からのNGPSスコア、疼痛寛解スコアおよび機能的干渉スコアの週平均は、活性クロニジン処方物を支持した。
【0033】
0.1%クロニジンゲルから生じる痛覚消失は、プラセボと比較して、処置の第1週という早い時期に実証された。1週において、ベースラインからの変化の平均は、0.1%クロニジン群では−1.87で、プラセボ群では−0.59であった(p=0.003)。処置の中止から1週後(9週)、痛覚消失は継続し、ベースラインからの変化の平均は0.1%クロニジン群で−2.43、プラセボ群で−0.95であった(p=0.009)。脱落または来院の欠落を計上する、繰越最終観察によるベースラインから最終検査来院へのNGPSの変化の平均は、プラセボでは−1.96、0.2%処方物では−2.52、0.1%処方物では−2.96であった。図1は、週別の平均のNGPS減少を示す。
【0034】
処置前、処置中および処置後を比較すると、平均血圧および脈の観察値に患者内の有意差はなかった。同様に、3つの処置群間にも有意差はなかった。処置の急な中止後に、いかなるリバウンド高血圧症も見られなかった。
【0035】
試験を完了した患者の群で、クロニジン血漿中濃度を分析した。0.05%クロニジンの以前の試験からの類似した数の試料も、同時に分析した。表3に、これらの結果を要約する。
【0036】
【表3】

結論として、0.1%クロニジンゲルで処置した有痛性糖尿病性神経障害患者は、プラセボ群の応答と比較して、時間平均で統計学的に有意に優れた鎮痛応答を示した(p=0.015)。0.2%クロニジンゲルはプラセボゲルより統計学的に優れていなかった(p=0.054)が、優れる傾向が見られたことは、局所クロニジンによる痛覚消失を裏づけるものである。
【0037】
さらに、血漿クロニジン濃度は、抗高血圧効果のために必要とされるしきい値(0.2ng/ml)のはるか下である傾向があった。患者内または群間の血圧の有意な変化の欠如、およびリバウンド高血圧症の欠如は、クロニジンの局所投与が、一般的な全身性のクロニジン有害事象を比較的伴わないことを示す。
【0038】
(実施例3)
0.1%クロニジンゲルによる単一用量薬物動態学的研究
材料および方法
6人のボランティアは、1日につきクロニジンHClを最高2mgまでの、0.1%クロニジンゲルの単一用量を適用した。クロニジン血漿中濃度分析を行い、それは、0.025%ng/mlの定量限界を有する、検証済みのガスクロマトグラフィー/質量分析方法からなった。
【0039】
結果
6人のボランティアの群におけるクロニジン血漿中濃度分析は、全ての試料が定量限界未満であることを示した。したがって、0.1%局所クロニジンゲルの2.0mg/日の高さの単一用量でさえ、抗高血圧効果を有するかまたは臨床的帰結を示すのに十分には吸収されない。
【0040】
(実施例4)
0.1%クロニジンゲルによる複数回用量薬物動態学的研究
材料および方法
この調査は、8人の成人ボランティアを用いる、非盲検無作為化複数回用量の、2処置クロスオーバーデザイン研究として実施した。2つの処置は、1)右下腿の上に14日間、3分割用量で送達した0.1%クロニジンゲルの3.15グラム/日(3.1mgクロニジンHCl/日)(処置A)の適用、および2)両下腿の上に14日間、3分割用量で送達した0.1%クロニジンゲルの6.23グラム/日(6.2mgクロニジンHCl/日)(処置B)の適用であった。処置は14日間継続され、その後、7日間の無処置観察期間をおいた。クロニジン血漿中濃度分析は、実施例3のとおりに実施した。
【0041】
結果
正常なボランティアにおける14日間の対照処置の後のクロニジン血漿中濃度データは、局所適用が遅く、不完全で、対象間で変動した後、クロニジンの全身吸収を示した。0.1%局所クロニジンゲルによる療法の開始からクロニジンの全身吸収が血漿で観察されるまでに、48〜96時間のタイムラグが発生した。平均の(CV)tlagは、処置Aでは93.0時間であり、処置Bでは78.0時間であった(p>0.1、A対B)。ラグタイムの後、クロニジン血漿中濃度は、研究の11日目と13日目との間に定常状態に到達するまで、徐々に増加した。最終投薬の後、クロニジン血漿中濃度は、処置Aでは38.5時間、処置Bでは35.3時間の平均(CV)消滅t1/2とともに低下した(p>0.1)。クロニジン濃度が検出レベル未満に低下するまでに、7日間かかった。図2は、時間の関数としての、平均血漿中濃度のプロットを示す。
【0042】
局所クロニジンゲルの見かけの用量依存的薬物動態は、経口および経皮クロニジンの臨床的に適用可能な投薬用量に続いて報告されたものと比較してかなり低い定常状態の血漿中濃度を考慮すると、臨床上の重要性は限定的である。処置Aの間の0.067ng/mlの平均Cmaxおよび処置Bの間の0.181ng/mlの平均Cmaxの両方は、薬剤の抗高血圧効果と関連するクロニジン血漿中濃度のしきい値(0.2ng/ml)未満である。さらに、研究期間中、臨床的に重要な血圧または心拍数の変化は、いかなる対象でも起こらなかった。
【0043】
特に定義されていない場合は、本明細書で用いる全ての技術用語および専門用語は、開示される発明が属する分野の技術者が通常理解するのと同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書で記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料を使用できるが、好ましい方法、装置および材料は記載されるとおりである。
【0044】
当業者は、日常の実験を用いるだけで、本明細書に記載する発明の特定の実施形態の多くの同等物を認識するか、または確認することができるようになる。そのような同等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、週別の平均NGPS減少を経時的(1〜9週)に示す疼痛スコアのグラフであり、ダイヤモンドは0.1%クロニジン、正方形は0.2%クロニジン、丸印はプラセボを示す。
【図2】図2は、処置A(黒円):3.15g/日(3.1mgクロニジンHCl)および処置B(白円):6.23g/日(6.2mgクロニジンHCl)のための0.1%クロニジンの最初の投薬から経時的に(日単位で)示す平均クロニジン血漿中濃度のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする患者における有痛性の長さ依存性神経障害の処置のための方法であって、全身にではなく処置部位に式I
【化1】

によって表される構造を有する化合物または薬学的に許容されるその塩の有効量を局部的にまたは局所的に投与することを含み、上式で、Aは、アリールおよびヘテロアリールから選択することができ、それらは、アルキル、分枝アルキル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシ、シクロアルキルアルキル、アルコキシアルキル、アリール、アルカノイル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、アミノ、シアノ、ハロゲン、チオアルキル、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルフィニルまたはアリールスルホニルから選択される1つまたは複数の基によって置換されていてもよく、Xは、チオ、イミノまたはメチレンから選択され、Rは、水素、低級アルキルまたは酸素含有複素環から選択され、nは2または3である、方法。
【請求項2】
式Iの化合物が、Aが、フェニルであり、Aが、フェニル環の2位および6位が水素、クロロ、メチル、エチルまたはシクロアルキルから選択される基によって独立して置換されていてもよく、3位、4位および5位が水素、メチル、トリフルオロメチル、フルオロまたはシアノから選択される基によって独立して置換されていてもよい置換されたフェニルであり、Aが、2位および4位が水素、クロロ、メチル、エチルまたはシクロアルキルから選択される基によって独立して置換されている3−チエニルであり、Aが、1−ナフチル、5,6,7,8−テトラヒドロナフチル−1−イル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、インドール−3−イル、インダゾール−3−イル、キノリニル、キナゾリニル、キノキサゾリニル、ベンゾオキサゾリルおよびベンゾチオフェン−3−イルであり、Aが、3位および5位が水素、クロロ、メチル、エチル、シクロアルキルまたはメトキシによって独立して置換されているピリミジン−4−イルであり、Rが、水素またはテトラヒドロピラン−2−イルであり、Xが、チオまたはイミノであり、nが2である化合物からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物が、Aが、フェニル、2,6−ジクロロフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジエチルフェニル、3,4−ジヒドロキシフェニル、3−フルオロ−6−メチルフェニル、2−クロロ−5−トリフルオロメチルフェニル、2−クロロ−4−メチルフェニル、3−クロロ−4−メチルチエン−3−イル、5,6,7,8−テトラヒドロナフト−1−イルおよび4−クロロ−5−メトキシ−2−メチルピリミジン−4−イルから選択され、Rが、水素またはテトラヒドロピラン−2−イルであり、Xが、チオまたはイミノであり、nが2である化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が、キシラジン、フルトニジン、モキソニジン、トラマゾリン、トロニジン、ピクロニジン、チアメニジンおよびクロニジンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、経皮パッチ、ゲル、軟膏、ローション、リポソーム処方物、クリームおよびエマルションからなる群から選択される局所担体で処方される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
0.01%〜1.0%のクロニジンが前記神経障害に冒された有痛領域に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記クロニジンが、週一度から1日に数回与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記処置が、糖尿病から生じる神経障害患者に与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記処置が、末梢感覚神経障害患者の有痛領域に施される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記処置が、小線維神経障害患者の有痛領域に施される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
オピオイド、抗痙攣剤、膜安定化薬および抗うつ薬などの精神作用薬からなる群から選択される療法を施すことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
処置を必要とする患者で有痛性の長さ依存性神経障害を処置するための量の化合物を含む投薬処方物であって、経皮パッチ、ゲル、軟膏、ローション、リポソーム処方物、クリームおよびエマルションからなる群から選択される局部的または局所的投与のための薬学的に許容される担体中に、式I
【化2】

によって表される構造を有する化合物、または薬学的に許容されるその塩を含み、上式で、Aは、アリールおよびヘテロアリールから選択することができ、それらは、アルキル、分枝アルキル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシ、シクロアルキルアルキル、アルコキシアルキル、アリール、アルカノイル、アルコキシカルボニル、カルボキシル、アミノ、シアノ、ハロゲン、チオアルキル、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルフィニルまたはアリールスルホニルから選択される1つまたは複数の基によって置換されていてもよく、Xは、チオ、イミノまたはメチレンから選択され、Rは、水素、低級アルキルまたは酸素含有複素環から選択され、nは2または3である投薬処方物。
【請求項13】
式Iの化合物が、Aが、フェニルであり、Aが、フェニル環の2位および6位が水素、クロロ、メチル、エチルまたはシクロアルキルから選択される基によって独立して置換されていてもよく、3位、4位および5位が水素、メチル、トリフルオロメチル、フルオロまたはシアノから選択される基によって独立して置換されていてもよい置換されたフェニルであり、Aが、2位および4位が水素、クロロ、メチル、エチルまたはシクロアルキルから選択される基によって独立して置換されている3−チエニルであり、Aが、1−ナフチル、5,6,7,8−テトラヒドロナフチル−1−イル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、インドール−3−イル、インダゾール−3−イル、キノリニル、キナゾリニル、キノキサゾリニル、ベンゾオキサゾリルおよびベンゾチオフェン−3−イルであり、Aが、3位および5位が水素、クロロ、メチル、エチル、シクロアルキルまたはメトキシによって独立して置換されているピリミジン−4−イルであり、Rが、水素またはテトラヒドロピラン−2−イルであり、Xが、チオまたはイミノであり、nが2である化合物からなる、請求項12に記載の投薬処方物。
【請求項14】
前記化合物が、Aが、フェニル、2,6−ジクロロフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジエチルフェニル、3,4−ジヒドロキシフェニル、3−フルオロ−6−メチルフェニル、2−クロロ−5−トリフルオロメチルフェニル、2−クロロ−4−メチルフェニル、3−クロロ−4−メチルチエン−3−イル、5,6,7,8−テトラヒドロナフト−1−イルおよび4−クロロ−5−メトキシ−2−メチルピリミジン−4−イルから選択され、Rが、水素またはテトラヒドロピラン−2−イルであり、Xが、チオまたはイミノであり、nが2である化合物からなる群から選択される、請求項12に記載の投薬処方物。
【請求項15】
前記化合物が、キシラジン、フルトニジン、モキソニジン、トラマゾリン、トロニジン、ピクロニジン、チアメニジンおよびクロニジンからなる群から選択される、請求項12に記載の投薬処方物。
【請求項16】
0.1%〜1.0%のクロニジンを含む、請求項12に記載の投薬処方物。
【請求項17】
オピオイド、抗痙攣剤、膜安定化薬および精神作用薬からなる群から選択される治療薬をさらに含む、請求項12に記載の投薬処方物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−514970(P2009−514970A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540162(P2008−540162)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/043499
【国際公開番号】WO2007/056460
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(508137556)アルション セラピューティクス, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】