説明

長寿命の弱酸性次亜塩素酸水溶液とその製造方法

【課題】最近注目されてきた次亜塩素酸は次亜塩素酸ソーダよりはるかに優れた殺菌消臭力があり、かつ弱酸性で人体にも優しい殺菌消臭剤として利用され始めているが、希釈水として水道水または地下水を利用していることより、不純物と反応し有機塩素化合物を生成し、また自己分解によっても消費されるため高濃度にすることにより、低濃度で使用することができ、その上有害な有機塩素化合物の生成量も少なくできる次亜塩素酸水溶液を提供する。
【解決手段】比抵抗18MΩ・cm以上の超純水に約12%の次亜塩素酸ソーダを添加・希釈し、同様の超純水に約9%の塩酸を添加・希釈し、両者を混合して得られる次亜塩素酸水溶液で有効塩素濃度50〜15mg/Lで、かつpH5前後の次亜塩素酸水溶液を調製する。環境や人体に優しくかつ殺菌消臭力の効能が減少し難い次亜塩素酸水溶液を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長寿命の弱酸性次亜塩素酸水溶液とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ここで取り上げる殺菌消毒剤の弱酸性次亜塩素酸水溶液(HClO)は、良く知られている食塩水を電気分解して製造する強電解酸性酸化水ではなく、次の化学反応により次亜塩素酸ソーダ(NaClO)と塩酸(HCl)の反応により製造する弱酸性次亜塩素酸水溶液(HClO)を意味する。
NaClO + HCl = HClO + NaCl
【0003】
具体的には原水の希釈水に次亜塩素酸ソーダを添加・希釈し、次に同様の希釈水に希塩酸を添加・希釈し、両者を混合または同様の希釈水でさらに希釈して製造されたpH5前後の弱酸性次亜塩素酸水溶液である。
【0004】
従来より次亜塩素酸ソーダは殺菌剤や漂白剤として広く用いられており、その酸化力に基づく優れた殺菌、漂白、消臭力があることは公知の事実である。一方最近注目されてきた弱酸性次亜塩素酸は次亜塩素酸ソーダよりもはるかに優れた酸化力に基づく殺菌、漂白、消臭力があり、同一濃度で比較すると次亜塩素酸ソーダの少なくとも10倍以上の酸化力があり、しかも低濃度で殺菌効果がある。その上酸性であることから特に人体に対して次亜塩素酸ソーダよりはるかに優しいのである。
【0005】
一般的に次亜塩素酸ソーダの使用濃度が100mg/L以上であるため、次亜塩素酸水溶液も100mg/Lという非常に高い濃度での使用が試みられており、次亜塩素酸の持つ優れた特性が十分生かされていないのが現状である。次亜塩素酸ソーダはもちろんのこと次亜塩素酸の場合も高濃度での使用は人体を傷つけまた有害な有機塩素化合物の生成を加速する。
【0006】
したがって人体や環境のことを考慮すれば可能な限り低濃度で使用することが極めて重要なことである。これが出来ない最大の理由の一つは、低濃度にすると次亜塩素酸水溶液の寿命が短くなるという事象のためである。
【0007】
次亜塩素酸ソーダや次亜塩素酸のような塩素系の殺菌剤の製造時や使用時には有効な塩素と水中や空気中に必ず存在する有機物が反応して有機塩素化合物が生成する。有機塩素化合物は低濃度で毒性が強くかつ発がん性のものが多い。このことは、かつての代表的な農薬であり、現在製造禁止や使用禁止になっているDDTやBHC、その他近年問題になっているダイオキシンなどいずれも有機塩素化合物であることからも明らかである。有機塩素化合物は現在の土壌汚染、河川水や地下水汚染、海洋汚染など地球環境問題発生の一つの大きな元凶になっている。
【0008】
有機塩素化合物は有機物であり本来なら土壌に投棄すれば土壌中の微生物が食べて分解してくれるはずのものである。ところが有毒な有機塩素化合物を食べると微生物がやられてしまうため食べてくれない。そのため、いつまでも土壌中に残ることになり、雨が降れば河川に流れ出て河川水汚染、地下に浸透して地下水汚染を引き起こす。現状では一旦有機塩素化合物になると放射性元素より質が悪い。放射性元素には半減期があるが有機塩素化合物にはない。
【0009】
このような有機塩素化合物の生成量は塩素の濃度、すなわち次亜塩素酸ソーダや次亜塩素酸の濃度に比例して生成する。したがって製造や使用に当たっては塩素系殺菌剤の濃度は低いほど望ましいのである。このことからも低濃度で殺菌効果の高い次亜塩素酸の方が次亜塩素酸ソーダより有毒な有機塩素化合物の生成量が少なく出来る点でも優れている。さらに使用する次亜塩素酸の濃度を低く出来れば申し分ないのである。
【0010】
図1の『pHによる次亜塩素酸の変化』に示すように、pH5前後で次亜塩素酸の割合が最大になる。
【0011】
ところで従来の弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造に当っては原水の希釈水に水道水を使用していた。しかし通常の水道水にはミネラル、有機物、微粒子、細菌やその死骸、窒素、酸素、炭酸ガスなど多くのものが含まれている。次亜塩素酸は次亜塩素酸ソーダに比べ酸化力が強いため水中の有機物などと反応し有機塩素化合物を作り易かったり、ミネラル類は次亜塩素酸の自己分解の触媒になったりするため次亜塩素酸の寿命が短くなってしまう。特にこの傾向は次亜塩素酸の濃度が低くなればなるほど顕著になってくる。そのためどうしても高濃度の次亜塩素酸水溶液にせざるを得なかった。図3に『希釈水の種類と次亜塩素酸濃度の経時変化』を示すように、原水である希釈水の純度が水道水、純水、超純水と高くなるほど次亜塩素酸の寿命が長くなる。
【0012】
ここで取り上げる希釈水の『水道水』、『純水』、『超純水』の一般的な定義を表1および表2に示す。ところで「純水」は製造方法に特別な規定はない。つまり、「蒸留水」、「イオン交換水」、「RO水」のいずれも「純水」である。当然製法により水質は異なるが、一般的には比抵抗値で1MΩ・cm以上のように定義されており、これまで電解質以外の特別な規定はない。一方「超純水」は、表2に一例を示すように、比抵抗値で18MΩ・cm(25℃)以上のほかに溶解や分散している有機物(TOC)、微粒子、細菌類、ミネラル類、酸素や窒素等のガス成分なども徹底的に除去し限りなく純度100%の水に近づけた超高純度水を意味する。尚、「超純水」は通常図2『超純水の製造フロー』のような方法で得られる。
【0013】
図4に希釈水に水道水を使用した場合の初期次亜塩素酸濃度の違いによる次亜塩素酸の経時変化を示した。初期次亜塩素酸濃度が低いほど保存中にその濃度が激減してしまうことが分かる。このため低濃度の次亜塩素酸水溶液を保管し使用出来ない問題があった。
【先行技術文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4570922号 『殺菌水の製造方法及びその装置』
【特許文献2】特許第4388550号 『殺菌水製造装置』
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、以上のような従来の欠点に鑑み、超純水で希釈した次亜塩素酸ソーダに、同様に超純水で希釈した希塩酸を混合して得られた溶液を更に必要に応じ超純水で希釈し、その殺菌消臭力の効能を長期間永続させる最適な濃度の水溶液を生成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明には、比抵抗18MΩ・cm以上の超純水に約12%の次亜塩素酸ソーダを添加・希釈した溶液と同様の超純水に約9%の塩酸を添加・希釈して得られる溶液を混合、またはさらに超純水で希釈して、その有効塩素濃度が50mg/L、かつpH5前後の次亜塩素酸水溶液を生成する。
【0017】
一方、比抵抗18MΩ・cm以上の超純水に約6%の次亜塩素酸ソーダを添加・希釈した溶液と同様の超純水に約4.5%の塩酸を添加・希釈して得られる溶液を混合、またはさらに超純水で希釈して、その有効塩素濃度が25mg/L、かつpH5前後の次亜塩素酸水溶液を生成する。
【0018】
図5に『弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造フロー』を示すように、先ず比抵抗18MΩ・cm以上の超純水製造装置により製造した超純水に、約12%の次亜塩素酸ソーダを添加・希釈する。一方同様の超純水に約9%の塩酸を添加・希釈し、両者を混合、必要に応じさらに超純水で希釈して有効塩素濃度120mg/L以下の次亜塩素酸水溶液を生成する。有効塩素濃度が60mg/L以下の次亜塩素酸水の製造には約6%の次亜塩素酸ソーダと約4.5%の塩酸から製造する。有効塩素濃度30mg/L以下の次亜塩素酸水溶液の製造には約4%の次亜塩素酸ソーダと約3%の塩酸を用いて製造する。
【発明の効果】
【0019】
これまでの説明から明らかなように、本発明により次に列挙する効果が得られる。
(1)pH5前後でかつ比抵抗が18MΩ・cm以上の超純水で希釈することにより、その殺菌消臭力の有効期限を永続させることができる。
(2)希釈水に超純水を使用する関係上、調製した次亜塩素酸水溶液中の有機塩素化合物が極めて少なく、かつ次亜塩素酸濃度がたとえば30mg/Lと低い関係上、殺菌消毒に使用しても有機塩素化合物の生成量が少なく環境にも優しい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】pHによる次亜塩素酸割合の変化
【図2】超純水の製造フロー
【図3】希釈水の種類と次亜塩素酸濃度の経時変化
【図4】水道水を用いた場合の濃度の違いによる次亜塩素酸濃度の経時変化
【図5】弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造フロー
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図5『弱酸性次亜塩素酸水溶液の製造フロー』に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
図3に、図5に示す次亜塩素酸水溶液を製造する装置を用い希釈水として水道水、純水、比抵抗18MΩ・cm(25℃)の超純水を用いた場合の有効塩素濃度30mg/Lの次亜塩素酸水溶液の経時変化を示した。水道水に比べ純水、さらに超純水では次亜塩素酸の持ちがはるかに良いことが分かる。
【実施例2】
【0023】
図4に、図5に示す次亜塩素酸ソーダと塩酸から次亜塩素酸水溶液を製造する装置を用い原水である希釈水に水道水を使用した場合の次亜塩素酸の有効塩素濃度を10、20,30,50mg/Lと変えた時の次亜塩素酸濃度の経時変化を示した。濃度が低いほど寿命が顕著に短くなることが分かる。
【実施例3】
【0024】
ウイルスなどを感染させた細胞を用いて有効塩素濃度を100mg/Lの次亜塩素酸で実験するとウイルスだけでなく肝心の細胞まで破壊されてしまい殺菌消毒試験が上手くいかない。次亜塩素酸の濃度を半分の50mg/Lにすると試験が可能になり、20mg/Lでも容易に殺菌できた。一方次亜塩素酸の濃度が10mg/Lになると細菌の存在環境の汚染状況により汚染物に次亜塩素酸が食われてしまい十分殺菌が行われない場合が多かった。
【実施例4】
【0025】
表3に各種細菌に対する次亜塩素酸水溶液の殺菌効果の試験結果をまとめた。表3中VIV水は今回開発した弱酸性次亜塩素酸水溶液を意味する。有効塩素濃度25mg/Lの次亜塩素酸水溶液で大腸菌を始め通常の細菌は極めて容易に殺菌される。枯草菌のような芽胞を持つ菌は外の殺菌剤でも殺菌し難い菌であるが次亜塩素酸水溶液ではかなり容易に殺菌が進む特性がある。
【実施例5】
【0026】
次亜塩素酸の濃度が高くなると殺菌と同時に菌が存在する環境に必ず存在する有機物と次亜塩素酸が反応して有機塩素化合物を生成する。したがって殺菌が可能なレベルで次亜塩素酸の濃度は低い方が望ましい。一般的には上限濃度は35mg/Lくらいが適当と思われる。一方濃度が低過ぎると有機物などに次亜塩素酸が食われてしまい殺菌が不完全になる可能性が出てくる。したがって下限は15mg/Lくらいが適当と予想される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、長寿命の弱酸性殺菌消臭水溶液であるため水溶液の形で運搬して利用することができる。またある期間保管や保存し利用することも可能である。したがって高価な製造装置を持たなくても次亜塩素酸水溶液を使用することが出来て多くの病院、介護施設、学校、企業などでの消毒や消臭、また最近社会問題化してきたウイルスに起因する口蹄疫、鳥インフルエンザを始めとした動物の疫病対策や飼育環境の消毒分野でも利用出来る。
【表の簡単な説明】
【0028】
[表1]水の純度による分類
[表2]超純水水質の一例
[表3]次亜塩素酸水溶液による殺菌試験結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比抵抗18MΩ・cm(25℃)以上の超純水に約12%の次亜塩素酸ソーダを添加・希釈する。一方同様の超純水に約9%の塩酸を添加・希釈し、両者を混合または更に超純水で希釈することにより調製された有効塩素濃度150〜50mg/L、pH4〜6の次亜塩素酸水溶液とその製造方法。
【請求項2】
比抵抗18MΩ・cm(25℃)以上の超純水に約6%の次亜塩素酸ソーダを添加・希釈する。一方同様の超純水に約4.5%の塩酸を添加・希釈し、両者を混合または更に超純水で希釈することにより調製された有効塩素濃度50〜20mg/L、pH4〜6の次亜塩素酸水溶液とその製造方法
【請求項3】
比抵抗18MΩ・cm(25℃)以上の超純水に約4%の次亜塩素酸ソーダを添加・希釈する。一方同様の超純水に約3%の塩酸を添加・希釈し、両者を混合または更に超純水で希釈することにより調製された有効塩素濃度30〜10mg/L、pH4〜6の次亜塩素酸水溶液とその製造方法

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

image rotate

image rotate

image rotate


【公開番号】特開2013−39553(P2013−39553A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187954(P2011−187954)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(511211966)株式会社アダプトンジャパン (1)
【出願人】(511211944)株式会社TTNジャパン (1)
【出願人】(511211955)ヴィーダ株式会社 (1)
【出願人】(595084737)株式会社ウォーターデザイン研究所 (5)
【Fターム(参考)】