説明

長寿命の電子デバイス

陽極と陰極とそれらの間の有機層とを有する有機発光ダイオードが提供される。有機活性層は重水素化合物を含み、そのデバイスは1000ニットでの計算半減期が少なくとも5000時間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願情報
本出願は、35 U.S.C.§119(e)に基づき、2009年12月21日に出願された米国特許出願第12/643,459号明細書、2008年12月22日に出願された米国仮特許出願第61/139,834号明細書、2009年2月27日に出願された米国仮特許出願第61/156,181号明細書、2009年4月3日に出願された米国仮特許出願第61/166,400号明細書、2009年5月7日に出願された米国仮特許出願第61/176,141号明細書、2009年5月19日に出願された米国仮特許出願第61/179,407号明細書、2009年7月27日に出願された米国仮特許出願第61/228,689号明細書、2009年8月13日に出願された米国仮特許出願第61/233,592号明細書、2009年9月3日に出願された米国仮特許出願第61/239,574号明細書、2009年9月29日に出願された米国仮特許出願第61/246,563号明細書、2009年10月29日に出願された米国仮特許出願第61/256,012号明細書、および2009年12月3日に出願された米国仮特許出願第61/267,928号明細書の優先権を主張するものであり、上記のそれぞれの全体を本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、重水素化合物を含む少なくとも1つの層を有し、かつ活性寿命の長い電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
光を発する有機電子デバイス(ディスプレイを構成する発光ダイオードなど)は、多くの種類の電子機器の中に存在する。そのようなデバイスすべてにおいて、有機活性層が2つの電気接触層の間に挟まれている。電気接触層の少なくとも1つは、光が電気接触層を通過できるように光透過性である。電気接触層から電気接触層にかけて電気を流すと、有機活性層は光透過性の電気接触層を通して光を発する。
【0004】
発光ダイオードの活性成分として有機エレクトロルミネセンス化合物を使用することはよく知られている。アントラセン、チアジアゾール誘導体、およびクマリン誘導体などの単純な有機分子は、エレクトロルミネセンスを示すことで知られている。半導体共役ポリマー(semiconductive conjugated polymers)もエレクトロルミネセンス成分として使用されてきたが、そのことは、例えば、米国特許第5,247,190号明細書、米国特許第5,408,109号明細書、および欧州特許出願公開第443861号明細書に開示されている。多くの場合、エレクトロルミネセンス化合物はホスト物質中にドーパントとして存在する。多くのデバイスでは、有機電荷注入層及び/または電荷輸送層が、発光層と陽極及び/または陰極との間に存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
寿命のいっそう長い電子デバイスが引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
陽極と陰極とそれらの間の有機活性層とを含む有機発光ダイオードであって、有機活性層が重水素化合物を含み、そのデバイスの1000ニットでの計算半減期が少なくとも5000時間である、有機発光ダイオードが提供される。
【0007】
有機活性層が重水素化導電性ポリマーおよびフッ素化酸ポリマーを含む、上記の有機発光ダイオードも提供される。
【0008】
また、少なくとも2つのジアリールアミノ部分を有する正孔輸送重水素化合物を有機活性層が含む、上記の有機発光ダイオードも提供される。
【0009】
また、有機活性層が、重水素化アミノアントラセン類、重水素化アミノクリセン類、重水素化金属キノレート(deuterated metal quinolate)錯体、および重水素化イリジウム錯体よりなる群から選択されるエレクトロルミネセンス化合物を含む、上記の有機発光ダイオードも提供される。
【0010】
有機活性層が、(a)重水素化アリールアントラセン類、重水素化アリールピレン類、重水素化アリールクリセン類、重水素化フェナントロリン類、重水素化インドロカルバゾール類、およびそれらの組合せよりなる群から選択されるホスト物質および(b)380から750nmの間に発光極大を有するエレクトロルミネセンスが可能な電気的活性ドーパントを含む、上記の有機発光ダイオードも提供される。
【0011】
有機活性層が、重水素化フェナントロリン類、重水素化インドロカルバゾール類、および重水素化金属キノレート類よりなる群から選択される電子輸送物質を含む、上記の有機発光ダイオードも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本明細書で提示する概念がいっそう理解されるように添付図で実施形態を説明する。
【0013】
【図1】有機電子デバイスの一例の説明図を含む。
【図2】有機電子デバイスの別の説明図を含む。
【0014】
図中の物体は、簡単にするためまた明快にするために例示されているのであり、必ずしも縮尺通り描かれてはいないことは、当業者なら理解することである。例えば、図中の一部の物体の大きさは、実施形態をいっそう理解するのを助けるために、他の物体との関係で誇張されていることがある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
多くの態様および実施形態が本明細書に開示されているが、それらは例示的なものであり、限定するものではない。本明細書を読むならば、本発明の範囲の中で他の態様および実施形態が可能であることは、当業者なら理解することである。
【0016】
実施形態のいずれか1つまたはそれ以上における他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および請求項から明らかであろう。詳細な説明では、最初に用語の定義と説明を扱い、その後、有機発光デバイス、正孔注入層、正孔輸送層、電気的活性層、電子輸送層、閉じ込め層、他のデバイス層、重水素化物質の合成、そして最後に実施例を扱う。
【0017】
1.用語の定義と説明
以下に説明する実施形態の詳細を扱う前に、一部の用語について定義し説明する。
【0018】
「脂肪族環(aliphatic ring)」という用語は、非局在パイ電子を持たない環状基(cyclic group)を意味することを意図する。実施形態によっては、脂肪族環に不飽和はない。実施形態によっては、その環は1個の二重結合または三重結合を有する。
【0019】
「アルコキシ」という用語は、RO−基[ここで、Rはアルキルである]を表す。
【0020】
「アルキル」という用語は、結合点が1つある脂肪族炭化水素に由来する基を意味することを意図しており、直鎖状基、分枝状基、または環状基(cyclic group)を含む。この用語はヘテロアルキルを含むことを意図する。「炭化水素アルキル」という用語は、ヘテロ原子を持たないアルキル基を表す。「重水素化アルキル」という用語は、少なくとも1個の利用可能なHがDと置換されている炭化水素アルキルである。実施形態によっては、アルキル基は1〜20個の炭素原子を有する。「分枝状アルキル」という用語は、少なくとも1個の第二級または第三級炭素を有するアルキル基を表す。「第二級アルキル」という用語は、第二級炭素原子を有する分枝状アルキル基を表す。「第三級アルキル」という用語は、第三級炭素原子を有する分枝状アルキル基を表す。実施形態によっては、分枝状アルキル基は第二級または第三級炭素を介して結合する。
【0021】
「アリール」という用語は、結合点が1つある芳香族炭化水素に由来する基を意味することを意図する。「芳香族化合物」という用語は、非局在パイ電子を有する少なくとも1個の不飽和環状基を含む有機化合物を意味することを意図する。この用語は、ヘテロアリールを含むことを意図する。「炭化水素アリール」という用語は、環の中にヘテロ原子を持たない芳香族化合物を意味することを意図する。アリールという用語は、1つの環を有する基、および縮合できるかまたは単結合で結合できる複数の環を有する基を含む。「重水素化アリール」という用語は、アリールに直接結合している少なくとも1個の利用可能なHがDと置換しているアリール基を表す。「アリーレン」という用語は、結合点が2つある芳香族炭化水素に由来する基を意味することを意図する。実施形態によっては、アリール基は3〜60個の炭素原子を有する。
【0022】
「アリールオキシ」という用語は、RO−基[ここで、Rはアリールである]を表す。
【0023】
「化合物」という用語は、分子で構成される帯電していない物質(分子は、原子からさらに構成され、物理的手段では原子を分離できない)を意味することを意図する。「隣接した」という語句は、デバイス中の層を表すのに用いられる場合、1つの層が別の層のすぐ隣にあることを必ずしも意味しない。その一方で、「隣接したR基」という語句は、化学式において隣同士のR基(すなわち、1つの結合でつながれた原子にあるR基)を表すのに用いられる。
【0024】
物質に関連している場合の「導電」または「導電性の」という用語は、カーボンブラックまたは導電金属粒子を添加しなくても本質的に(またはもともと)導電性のある物質を意味することを意図する。
【0025】
「重水素化」という用語は、少なくとも1個のHがDと置換されていることを意味することを意図する。重水素は、自然存在レベルの少なくとも100倍存在する。化合物Xの「重水素化誘導体」は、化合物Xと同じ構造を有するが、Hと置き換わっている少なくとも1個のDを含む。「重水素化された%」および「重水素化%」という用語は、重陽子と陽子および重陽子の合計との(百分率で表した)比率を表す。したがって、化合物C642の場合、重水素化%は以下のようになる:
2/(4+2)×100=33%の重水素化。
【0026】
「ドーパント」という用語は、ホスト物質を含む層の中の物質であって、そうした物質の非存在下での層の放射線の放出、受容、またはフィルタリングの電子的特性または波長と比べて、層の放射線の放出、受容、またはフィルタリングの電子的特性または目標波長が異なるようにする層の中の物質を意味することを意図する。
【0027】
接頭語の「フルオロ」および「フッ素化」という用語は、少なくとも1個の利用可能なHがFと置換されている物質を表す。
【0028】
「電気的活性」という用語は、層または物質に言及している場合、電子的または電気的放射性(electronic or electro−radiative properties)を示す層または物質を意味することを意図する。電子デバイスでは、電気的活性物質によりデバイスの動作が電子的に促進される。電気的活性物質の例としては、電荷の伝導、注入、輸送または遮断を行う物質(電荷は電子または正孔のいずれかであってよい)、および放射線を発するかまたは電子−正孔ペアの濃度の変化を示す(放射線を受けたとき)物質があるが、これらに限定されない。不活性物質の例としては、平坦化物質、絶縁物質、および環境障壁物質があるが、これらに限定されない。有機電気的活性層は、電気的活性物質として有機化合物を含む。本明細書で使用される「有機」という用語は、有機金属物質を包含する。
【0029】
「半減期」という用語は、デバイスの輝度が初期値の半分になるのに必要な時間を意味することを意図する。「観測半減期」という用語は、7mAの定電流で測定したデバイスの半減期である。「計算半減期」は、観測半減期から得られ、かつ1000ニットの初期輝度について計算された半減期である。半減期の測定単位は時間である。
【0030】
接頭語の「ヘテロ」は、1つまたは複数個の炭素原子が異なる原子で置換されていることを示す。実施形態によっては、異なる原子は、N、O、またはSである。
【0031】
「ホスト物質」という用語は、ドーパントを加える物質を意味することを意図する。ホスト物質は、放射線の放出、受容、またはフィルタリングを行う電子的特性またはその能力があってもなくても構わない。実施形態によっては、ホスト物質は高い濃度で存在する。
【0032】
「層」という用語は、「膜」という用語と同義語的に使用され、目的の領域を覆うコーティングを表す。この用語は大きさによって限定されるものではない。この領域は、デバイス全体と同じくらい大きくても、あるいは実際の表示装置など特定の機能領域と同じくらい小さくても、あるいは単一のサブピクセルと同じくらい小さくても構わない。層および膜は、蒸着、液体付着(連続技法および不連続技法)、および熱転写を含め、従来の任意の付着技法で形成できる。連続付着技法としては、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、浸漬被覆、スロットダイコーティング(slot−die coating)、吹付け塗り、および連続ノズルコーティングがあるが、これらに限定されない。不連続付着技法としては、インクジェット印刷、グラビア印刷、およびスクリーン印刷があるが、これらに限定されない。
【0033】
「有機電子デバイス」またはときにはただの「電子デバイス」という用語は、1種または複数種の有機半導体層または有機半導体物質を含むデバイスを意味することを意図する。
【0034】
すべての基は、特に記載のない限り、置換されていても非置換であってよい。実施形態によっては、置換基は、D、ハロゲン化物、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、シアノ、およびNR2[ここで、Rはアルキルまたはアリールである]よりなる群から選択される。
【0035】
特に定義されていない限り、本明細書に用いられている技術用語および科学用語はすべて、本発明が関係する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載する方法および物質と同様または同等の方法および物質を本発明の実施または試験に使用できるが、好適な方法および物質を以下に記載しておく。本明細書で挙げる刊行物、特許出願、特許、および他の文献はすべて、その全体を援用する。矛盾がある場合には、定義を含んでいる本明細書で調整されるであろう。さらに、そうした物質、方法、および実施例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0036】
全体を通してIUPAC番号付け方式(IUPAC numbering system)が使用されており、その方式では、周期律表の族は左から右に1〜18の番号が付けられる(CRC Handbook of Chemistry and Physics,81st Edition,2000)。
【0037】
2.有機発光ダイオード
有機発光ダイオード(「OLED」)デバイス構造の1つの説明図を図1に示す。デバイス100は、第1電気接触層である陽極層110と、第2電気接触層である陰極層160と、それらの間にあるエレクトロルミネセンス層140とを有する。陽極の隣には、正孔注入物質を含む正孔注入層120があってもよい。正孔注入層の隣には、正孔輸送物質を含む正孔輸送層130があってもよい。陰極の隣には、電子輸送物質を含む電子輸送層150があってもよい。デバイスでは、陽極110の隣の1つまたは複数の更なる正孔注入層または正孔輸送層(図示せず)及び/または陰極160の隣の1つまたは複数の更なる電子注入または電子輸送層(図示せず)を使用してよい。
【0038】
実施形態によっては、フルカラーを実現するためにするために、発光層はピクセル化(pixellated)されており、異なる各色のサブピクセル単位がある。ピクセル化されたデバイスの説明図を図2に示す。デバイス200は、陽極210、正孔注入層220、正孔輸送層230、エレクトロルミネセンス層240、電子輸送層250、および陰極260を有する。エレクトロルミネセンス層はサブピクセル241、242、243に分割されており、それらは層の端から端まで繰り返されている。実施形態によっては、サブピクセルは赤色、青色および緑色の発光を表す。3種類の異なるサブピクセル単位を図2に示しているが、2種類のサブピクセル単位または3種類より多くのサブピクセル単位を使用してもよい。
【0039】
種々の層については、図1を参照しながら本明細書でさらに説明する。ただし、その説明は図2および他の構成にも当てはまる。
【0040】
層120〜150は、個別にも集合的にも電気的活性層と呼ばれる。電気的活性層の少なくとも1つは、重水素化物質を含む有機電気的活性層である。重水素化物質は、単独で、あるいは他の重水素化物質または非重水素化物質と組み合わせて使用してよい。実施形態によっては、重水素化物質は少なくとも10%が重水素化されている。これは、少なくとも10%のHがDで置換されていることを意味する。実施形態によっては、重水素化物質は少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%重水素化されている。実施形態によっては、重水素化物質は100%が重水素化されている。
【0041】
実施形態によっては、重水素化物質は層120の正孔注入物質である。実施形態によっては、少なくとも1つの更なる層が重水素化物質を含む。実施形態によっては、更なる層は正孔輸送層130である。実施形態によっては、更なる層は電気的活性層140である。実施形態によっては、更なる層は電子輸送層150である。
【0042】
実施形態によっては、重水素化物質は層130の正孔輸送物質である。実施形態によっては、少なくとも1つの更なる層は重水素化物質を含む。実施形態によっては、更なる層は正孔注入層120である。実施形態によっては、更なる層は電気的活性層140である。実施形態によっては、更なる層は電子輸送層150である。
【0043】
実施形態によっては、重水素化重水素化物質は、電気的活性層140中のドーパント物質のホスト物質である。実施形態によっては、ドーパント物質も重水素化されている。実施形態によっては、少なくとも1つの更なる層が重水素化物質を含む。実施形態によっては、更なる層は正孔注入層120である。実施形態によっては、更なる層は正孔輸送層130である。実施形態によっては、更なる層は電子輸送層150である。
【0044】
実施形態によっては、重水素化物質は層150中の電子輸送物質である。実施形態によっては、少なくとも1つの更なる層は重水素化物質を含む。実施形態によっては、更なる層は正孔注入層120である。実施形態によっては、更なる層は正孔輸送層130である。実施形態によっては、更なる層は電気的活性層140である。
【0045】
実施形態によっては、電子デバイスは、正孔注入層、正孔輸送層、電気的活性層、および電子輸送層よりなる群から選択される層の任意の組合せに重水素化物質を有する。実施形態によっては、デバイスのすべての有機活性層が重水素化物質を含む。
【0046】
実施形態によっては、デバイスは、処理に役立つようにまたは機能を向上させるために、更なる層を有する。そうした層の一部または全部が重水素化物質を含むことができる。実施形態によっては、有機デバイスの層すべてが重水素化物質を含む。実施形態によっては、有機デバイスの層すべてが重水素化物質から本質的になる。
【0047】
実施形態によっては、有機発光ダイオードは、陽極および陰極を含み、さらにそれらの間に有機層を有するものであって、有機層は正孔注入層、正孔輸送層、エレクトロルミネセンス層、電子輸送層、および陰極であり、有機層の少なくとも2つが重水素化物質から本質的になる。実施形態によっては、有機層すべてが本質的に重水素化物質からなる。
【0048】
1つの実施形態では、種々の層の厚さの範囲は以下の通りである:陽極110は500〜5000Åで、1つの実施形態では1000〜2000Åであり;正孔注入層120は50〜2000Åで、1つの実施形態では200〜1000Åであり;正孔輸送層130は50〜2000Åで、1つの実施形態では200〜1000Åであり;電気的活性層140は10〜2000Åで、1つの実施形態では100〜1000Åであり;層150は50〜2000Åで、1つの実施形態では100〜1000Åであり;陰極160は200〜10000Åで、1つの実施形態では300〜5000Åである。デバイス中の電子−正孔再結合域の場所(したがってデバイスの発光スペクトル)は、各層の相対的厚さによって影響されうる。層の厚さの所望の比率は、使用する物質のまさにその性質によって異なるであろう。
【0049】
本明細書で説明するデバイスの観測半減期は、少なくとも200時間である。実施形態によっては、観測半減期は少なくとも400時間であり、実施形態によっては、少なくとも1000時間である。
【0050】
本明細書で説明するデバイスの計算半減期は、少なくとも5000時間である。所与の初期輝度での半減期の計算方法はよく知られている。その方法は、例えば、Chu et.al.,Appl.Phys.Lett.89,053503(2006)およびWellmann et.al.,SID Int.Symp.Digest Tech.Papers 2005,393に記載されている。実施形態によっては、計算半減期は少なくとも10,000時間、実施形態によっては、少なくとも20,000時間、実施形態によっては、少なくとも50,000時間である。
【0051】
2.正孔注入層
正孔注入層120は正孔注入物質を含み、有機電子デバイスにおいて1つまたは複数の役割を有しうる。その役割としては、下にある層の平坦化、電荷輸送特性及び/または電荷注入特性、不純物(酸素または金属イオンなど)の除去、および有機電子デバイスの性能を円滑化または向上させる他の側面があるが、それらに限定されない。正孔注入物質は、ポリマー、オリゴマー、または小分子でありうる。それらは、溶液、分散液、懸濁液、エマルジョン、コロイド状混合物、または他の組成物の形であり得る液体から付着させるか、あるいは蒸着させることができる。
【0052】
実施形態によっては、正孔注入層は重水素化物質を含む。実施形態によっては、重水素化物質は重水素化導電性ポリマーを含む。「重水素化導電性ポリマー」とは、導電性ポリマー自体(関連したポリマー酸を含まない)が重水素化されていることを意味する。実施形態によっては、重水素化物質は、重水素化ポリマー酸がドープされた導電性ポリマーを含む。実施形態によっては、重水素化物質は、重水素化ポリマー酸がドープされた重水素化導電性ポリマーを含む。
【0053】
実施形態によっては、重水素化導電性ポリマーは、重水素化ポリチオフェン類、重水素化ポリセレノフェン類、重水素化ポリテルロフェン類、重水素化ポリピロール類、重水素化ポリアニリン類、重水素化ポリ(4−アミノ−インドール類)、重水素化ポリ(7−アミノ−インドール類)、および重水素化多環式芳香族ポリマーよりなる群からそれぞれ選択される。「多環式芳香族」という用語は、複数の芳香環を有する化合物を表す。それらの環は、1つまたは複数の結合によって結合されていてよいか、または縮合していてよい。「芳香環」という用語は、ヘテロ芳香環を含むことを意図する。「多環式ヘテロ芳香族」化合物は少なくとも1つのヘテロ芳香環を有する。実施形態によっては、重水素化多環式芳香族ポリマーは、重水素化ポリチエノチオフェン類である。
【0054】
実施形態によっては、重水素化導電性ポリマーは、重水素化ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、重水素化ポリアニリン、重水素化ポリピロール、重水素化ポリ(4−アミノインドール)、重水素化ポリ(7−アミノインドール)、重水素化ポリ(チエノ(2,3−b)チオフェン)、重水素化ポリ(チエノ(3,2−b)チオフェン)、および重水素化ポリ(チエノ(3,4−b)チオフェン)よりなる群から選択される。
【0055】
実施形態によっては、重水素化導電性ポリマーは少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0056】
実施形態によっては、導電性ポリマーは、ポリ(D6−3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(D5−ピロール)、ポリ(D7−アニリン)、ポリ(ペルジュウテロ(perdeutero)−4−アミノインドール)、ポリ(ペルジュウテロ−7−アミノインドール)、ポリ(ペルジュウテロ−チエノ(2,3−b)チオフェン)、ポリ(ペルジュウテロ−チエノ(3,2−b)チオフェン)、およびポリ(ペルジュウテロ−チエノ(3,4−b)チオフェン)よりなる群から選択される。
【0057】
実施形態によっては、重水素化導電性ポリマーは、非フッ素化ポリマー酸がドープされている。イオン化性陽子または重陽子を持つ酸性基を有する任意のポリマーを使用できる。酸性基の例としては、カルボン酸基、スルホン酸基、スルホンイミド基、リン酸基、ホスホン酸基、およびそれらの組合せがあるが、これらに限定されない。酸性基はすべて同じであってもよく、あるいはポリマーは複数の種類の酸性基を有していてもよい。実施形態によっては、酸性基は、スルホン酸基、スルホンイミド基、およびそれらの組合せよりなる群から選択される。スルホンイミド基は次式を有する:
−SO2−NH−SO2−R
[式中、Rはアルキル基である]。好適な酸の例としては、ポリスチレンスルホン酸(「PSSA」)、ポリ(ペルジュウテロ−スチレンスルホン酸)(「D8−PSSA」)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)(「PAAMPSA」)、ポリ(ペルジュウテロ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)(「D13−PAAMPSA」)、およびそれらの混合物があるが、これらに限定されない。
【0058】
実施形態によっては、非フッ素化ポリマー酸がドープされている重水素化導電性ポリマーを、高度にフッ素化された酸ポリマー(「HFAP」)とさらに組み合わせる。
【0059】
実施形態によっては、フッ素化酸ポリマーは、炭素に結合した利用可能な水素の少なくとも80%がフッ素で置換されている、高度にフッ素化された酸ポリマー(「HFAP」)である。高度にフッ素化された酸ポリマー(「HFAP」)は、高度にフッ素化されかつ酸性基を有する、任意のポリマーであってよい。酸性基により、イオン化性の陽子(H+)または重陽子(D+)が供給される。実施形態によっては、酸性基はpKaが3未満である。実施形態によっては、酸性基はpKaが0未満である。実施形態によっては、酸性基はpKaが−5未満である。酸性基はポリマー骨格に直接結合していてよいか、またはポリマー骨格上の側鎖に結合していてよい。酸性基の例としては、カルボン酸基、スルホン酸基、スルホンイミド基、リン酸基、ホスホン酸基、およびそれらの組合せがあるが、これらに限定されない。酸性基はすべて同じであってもよく、あるいはポリマーは複数の種類の酸性基を有していてもよい。実施形態によっては、酸性基は、スルホン酸基、スルホンイミド基、およびそれらの組合せよりなる群から選択される。
【0060】
実施形態によっては、HFAPは酸性重陽子を持つジュウテロ酸(deutero−acid)である。
【0061】
実施形態によっては、HFAPは少なくとも90%がフッ素化されており、実施形態によっては、少なくとも95%がフッ素化されており、実施形態によっては、完全フッ素化されている。実施形態によっては、HFAPが完全フッ素化されていない場合、HFAPも重水素化される。
【0062】
実施形態によっては、酸性基は、スルホン酸基、スルホンイミド基、およびそれらの組合せよりなる群から選択される。実施形態によっては、酸性基はフッ素化側鎖上にある。実施形態によっては、フッ素化側鎖は、アルキル基、アルコキシ基、アミド基、エーテル基、およびそれらの組合せ(そのすべてが完全フッ素化されている)から選択される。
【0063】
実施形態によっては、HFAPは、高度にフッ素化されたオレフィン骨格を有し、それには、ペンダントの高度にフッ素化されたアルキルスルホネート基、高度にフッ素化されたエーテルスルホネート基、高度にフッ素化されたエステルスルホネート基、または高度にフッ素化されたエーテルスルホンイミド基が付いている。実施形態によっては、HFAPは、パーフルオロ−エーテル−スルホン酸側鎖を有するパーフルオロオレフィンである。実施形態によっては、ポリマーは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸とのコポリマー(「ポリ(TFE−PSEPVE)」)である。このジュウテロ酸類似体は、D−ポリ(TFE−PSEPVE)と略す。実施形態によっては、ポリマーは、1,1−ジフルオロエチレンと2−(1,1−ジフルオロ−2−(トリフルオロメチル)アリルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホン酸とのコポリマーである。実施形態によっては、ポリマーは、エチレンと2−(2−(1,2,2−トリフルオロビニルオキシ)−1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホン酸とのコポリマーである。こうしたコポリマーは、対応するスルホニルフルオリドポリマーとして作ることができ、次いでスルホン酸形態に変換できる。
【0064】
実施形態によっては、重水素化導電性ポリマーはHFAPがドープされる。そのような物質の非重水素化類似体は、例えば、米国特許出願公開第2004/0102577号明細書、米国特許出願公開第2004/0127637号明細書、米国特許出願公開第2005/0205860号明細書、および公開されたPCT出願の国際公開第2009/018009号パンフレットに記載されている。
【0065】
実施形態によっては、正孔注入層は、ポリスチレンスルホン酸(「PSSA」)がドープされた重水素化ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(「d−PEDOT」)を含む。実施形態によっては、正孔注入層は、重水素化ポリスチレンスルホン酸(「d−PSSA」)がドープされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(「PEDOT」)を含む。実施形態によっては、正孔注入層は、重水素化ポリスチレンスルホン酸がドープされた重水素化ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含む。実施形態によっては、d−PEDOT/d−PSSAは、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。実施形態によっては、正孔注入層は、d−PEDOT/PSSA、PEDOT/d−PSSA、およびd−PEDOT/d−PSSAよりなる群から選択される物質から本質的になる。実施形態によっては、正孔注入層は、D8−PSSAがドープされたポリ(D6−3,4−エチレンジオキシチオフェン)から本質的になる。
【0066】
実施形態によっては、正孔注入層は、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)(「PAAMPSA」)がドープされた重水素化ポリアニリン(「d−PANI」)を含む。実施形態によっては、正孔注入層は、重水素化ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)(「d−PAAMPSA」)がドープされたポリアニリン(「PANI」)を含む。実施形態によっては、正孔注入層は、重水素化ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)がドープされた重水素化ポリアニリンを含む。実施形態によっては、d−PANI/d−PAAMPSAは少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。実施形態によっては、正孔注入層は、d−PANI/PAAMPSA、PANI/d−PAAMPSA、およびd−PANI/d−PAAMPSAよりなる群から選択される物質から本質的になる。実施形態によっては、正孔注入層は、D13−PAAMPSAがドープされたポリ(D7−アニリン)から本質的になる。
【0067】
実施形態によっては、正孔注入層は、ポリスチレンスルホン酸(「PSSA」)がドープされた重水素化ポリピロール(「d−PPy」)を含む。実施形態によっては、正孔注入層は、重水素化ポリスチレンスルホン酸(「d−PSSA」)がドープされたポリピロール(「PPy」)を含む。実施形態によっては、正孔注入層は、重水素化ポリスチレンスルホン酸がドープされた重水素化ポリピロールを含む。実施形態によっては、d−PPy/d−PSSAは、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。実施形態によっては、正孔注入層は、d−PPy/PSSA、PPy/d−PSSA、およびd−PPy/d−PSSAよりなる群から選択される物質から本質的になる。実施形態によっては、正孔注入層は、D8−PSSAでドープされたポリ(D5−ピロール)から本質的になる。
【0068】
実施形態によっては、正孔注入層は、重水素化導電性ポリマーおよびHFAPを含む。実施形態によっては、正孔注入層は、HFAPがドープされた重水素化導電性ポリマーを含む。実施形態によっては、正孔注入層は、HFAPがドープされた重水素化導電性ポリマーから本質的になる。実施形態によっては、正孔注入層は、過フッ素化されたスルホン酸ポリマーがドープされた重水素化導電性ポリマーから本質的になる。実施形態によっては、正孔注入層は、D−ポリ(TFE−PSEPVE)がドープされた重水素化導電性ポリマーから本質的になり、その導電性ポリマーは、ポリ(D6−3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(D7−アニリン)およびポリ(D5−ピロール)よりなる群から選択される。
【0069】
実施形態によっては、正孔注入層は、銅フタロシアニン、テトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン系(TTF−TCNQ)およびそれらの重水素化類似体などの電荷移動化合物などを含む。
【0070】
3.正孔輸送層
正孔輸送層130は、正孔輸送物質を含む。層、物質、部材、または構造に言及している場合の「正孔輸送」という用語は、そのような層、物質、部材、または構造によって、比較的効率的かつ低電荷損失で、正電荷がそのような層、物質、部材、または構造の厚い部分を通って移動するのが促進されることを意味することを意図する。発光物質も幾らかの正孔輸送特性を有することがあるが、「正孔輸送の層、物質、部材、または構造」という用語は、主要機能が発光である層、物質、部材、または構造を含むことを意図していない。
【0071】
正孔輸送物質は、ポリマー、オリゴマー、または小分子でありうる。それらは、溶液、分散液、懸濁液、エマルジョン、コロイド状混合物、または他の組成物の形であり得る液体から付着させるか、あるいは蒸着させることができる。
【0072】
実施形態によっては、正孔輸送層が重水素化物質を含む。実施形態によっては、正孔輸送物質は、少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0073】
実施形態によっては、正孔輸送物質は、分子式単位当たり少なくとも2個のジアリールアミノ部分を有する重水素化合物である。実施形態によっては、正孔輸送物質は、重水素化トリアリールアミンポリマーである。そのような物質の非重水素化類似体は、例えば、公開されたPCT出願の国際公開第2009/067419号パンフレットに記載されている。実施形態によっては、正孔輸送物質は、重水素化フルオレン−トリアリールアミンのコポリマーである。そのような物質の非重水素化類似体は、例えば、米国特許出願公開第2008/0071049号明細書および米国特許出願公開第2008/0097076号明細書に記載されている。架橋性正孔輸送ポリマーの非重水素化類似体の例は、例えば、米国特許出願公開第2005/0184287号明細書および公開されたPCT出願の国際公開第2005/052027号パンフレット中に見出すことができる。
【0074】
実施形態によっては、正孔輸送物質は、重水素化トリアリールアミン、重水素化カルバゾール類、重水素化フルオレン類、それらのポリマー、それらのコポリマー、およびそれらの組合せよりなる群から選択される。実施形態によっては、正孔輸送物質は、重水素化高分子トリアリールアミン類、重水素化ポリカルバゾール類、重水素化ポリフルオレン類、非平面構成で結合している共役部分を有する重水素化高分子トリアリールアミン類、フルオレンとトリアリールアミンとの重水素化コポリマー、およびそれらの組合せよりなる群から選択される。実施形態によっては、高分子物質は架橋性である。
【0075】
実施形態によっては、正孔輸送物質は、式I、式II、または式IIIを有する:
【0076】
【化1】

【0077】
上式において、
Ar1は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、フェニレン、置換フェニレン、ナフチレン、および置換ナフチレンよりなる群から選択され;
Ar2は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、アリール基であり;
Mは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、共役部分であり;
1およびT2は、それぞれの出現箇所で独立に同一または異なっていて、共役部分であり;
aは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、1〜6の整数であり;
b、c、およびdは、b+c+d=1.0となるようなモル分率であるが、但し、cはゼロではなく、bおよびdの少なくとも1つがゼロではないこと、またbがゼロの場合、Mが少なくとも2個のトリアリールアミン単位を含むことを条件とし;
eは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、1〜6の整数であり;さらに
nは、1より大きい整数であり;
ここで、化合物は少なくとも10%が重水素化されている。
そのような物質の非重水素化類似体は、公開されたPCT出願の国際公開第2009/067419号パンフレットに記載されている。
【0078】
式I〜IIIの実施形態によっては、アリール環上の置換基が重水素化されている。実施形態によっては、置換基は、アルキル、アリール、アルコキシ、およびアリールオキシから選択される。式I〜IIIの実施形態によっては、アリール基Ar1およびAr2の任意の1つまたはそれ以上で重水素化されている。その場合、Ar1およびAr2の少なくとも1つが重水素化アリール基である。式I〜IIIの実施形態によっては、[T1−T2]基上で重水素化されている。実施形態によっては、T1とT2の両方が重水素化されている。式I〜IIIの実施形態によっては、置換基とAr1およびAr2基との両方で重水素化されている。式I〜IIIの実施形態によっては、[T1−T2]基とAr1およびAr2基との両方で重水素化されている。式I〜IIIの実施形態によっては、置換基、[T1−T2]基、およびAr1およびAr2基上で重水素化されている。
【0079】
実施形態によっては、少なくとも1つのAr1が、アルキル、アルコキシ、シリル、および架橋基付き置換基よりなる群から選択される置換基を有する置換フェニルである。実施形態によっては、aは1〜3である。実施形態によっては、aは1〜2である。実施形態によっては、aは1である。実施形態によっては、eは1〜4である。実施形態によっては、eは1〜3である。実施形態によっては、e=1である。実施形態によっては、少なくとも1つのAr1が、架橋基を持つ置換基を有する。
【0080】
実施形態によっては、少なくとも1つのAr2が式aを有する。
【0081】
【化2】

【0082】
上式において、
1は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、D、アルキル、アルコキシ、シロキサンおよびシリルよりなる群から選択されるか;または隣接したR1基が結合して芳香環を形成してよく;
fは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、0〜4の整数であり;
gは、0〜5の整数であり;さらに
mは、1〜5の整数である。
【0083】
実施形態によっては、少なくとも1つのAr2が式bを有する。
【0084】
【化3】

【0085】
上式において、
1は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、D、アルキル、アルコキシ、シロキサンおよびシリルよりなる群から選択されるか;または隣接したR1基が結合して芳香環を形成してよく;
fは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、0〜4の整数であり;
gは、0〜5の整数であり;さらに
mは、1〜5の整数である。
【0086】
式aまたはbの実施形態によっては、fおよびgの少なくとも1つがゼロではない。実施形態によっては、m=1〜3である。
【0087】
実施形態によっては、Ar2は、式aを有する基、ナフチル、フェニルナフチル、ナフチルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。実施形態によっては、Ar2は、フェニル、p−ビフェニル、p−テルフェニル、ナフチル、フェニルナフチル、ナフチルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。実施形態によっては、Ar2は、フェニル、ビフェニル、テルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0088】
式I〜III中のどの芳香環でも任意の位置で置換されていてよい。置換基は、化合物の1つまたは複数の物理的性質(溶解度など)を向上させるために存在させてよい。実施形態によっては、置換基は、C1~12のアルキル基、C1~12のアルコキシ基、シリル基、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。実施形態によっては、架橋置換基が少なくとも1つのAr2上に存在する。実施形態によっては、架橋置換基が少なくとも1つのM部分に存在する。
【0089】
1およびT2は共役部分である。実施形態によっては、T1およびT2は芳香族部分である。実施形態によっては、T1およびT2は重水素化芳香族部分である。実施形態によっては、T1およびT2は、フェニレン基、ナフチレン(napthylene)基、アントラセニル基、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0090】
実施形態によっては、T1−T2基により、化合物の骨格に非平面性がもたらされる。T2内の部分に直接結合しているT1内の部分は、T1部分が結合しているT2内の部分とは違う平面内にT1部分が置かれるように結合されている。T1単位の他の部位(例えば、置換基)は1つまたは複数の異なる平面内にありうるが、非平面性をもたらすのは、化合物骨格中のT1内の結合部分とT2内の結合部分の平面である。非平面のT1−T2結合のせいで、化合物はキラルである。一般に、それらはラセミ混合物として生じる。そうした化合物は鏡像異性的に純粋な形態でもありうる。非平面性は、約T1−T2結合を中心にした自由な回転を制限するものと見ることができる。その結合を中心にした回転により、ラセミ化がもたらされる。T1−T2のラセミ化の半減期は、非置換ビフェニルのそれよりも長い。実施形態によっては、半減期またはラセミ化は20℃で12時間かそれ以上である。
【0091】
実施形態によっては、[T1−T2]は置換ビフェニレン基またはその重水素化類似体である。「ビフェニレン」という用語は、化合物骨格との結合点が2つあるビフェニル基を意味することを意図する。「ビフェニル」という用語は、単結合によって結合したフェニル単位を2つ有する基を意味することを意図する。ビフェニレン基は、2位、3位、4位、または5位の1つで連結できるし、また2’位、3’位、4’位、または5’位の1つで結合できる。置換ビフェニレン基は、2位に少なくとも1つの置換基を有する。実施形態によっては、ビフェニレン基は少なくとも2位および2’位に置換基を有する。
【0092】
実施形態によっては、[T1−T2]はビナフチレン基、またはその重水素化類似体である。「ビナフチレン」という用語は、化合物骨格との結合点が2つあるビナフチル(binapthyl)基を意味することを意図する。「ビナフチル」という用語は、単結合によって結合したナフタレン単位を2つ有する基を意味することを意図する。
【0093】
実施形態によっては、[T1−T2]は、フェニレン−ナフチレン基、またはその重水素化類似体である。実施形態によっては、[T1−T2]は、フェニレン中の3位、4位、または5位の1つで、またナフチレン中の3位、4位、または5位の1つで化合物骨格と結合している、フェニレン−1−ナフチレン基である。実施形態によっては、[T1−T2]は、フェニレン中の3位、4位、または5位の1つで、またナフチレン中の4位、5位、6位、7位、または8位で化合物骨格と結合している、フェニレン−2−ナフチレン基である。
【0094】
実施形態によっては、ビフェニレン基、ビナフチレン基、およびフェニレン−ナフチレン基は、1つまたは複数の位置で置換されている。
【0095】
実施形態によっては、[T1−T2]は、4位および4’位で化合物骨格と結合している1,1−ビナフチレン基またはその重水素化類似体である(4,4’−(1,1−ビナフチレン)と呼ぶ)。実施形態によっては、4,4’−(1,1−ビナフチレン)は存在する唯一の異性体である。実施形態によっては、2種類以上の異性体が存在する。実施形態によっては、4,4’−(1,1−ビナフチレン)は、第2異性体が最大で50重量%まで存在する。実施形態によっては、第2異性体は、4,5’−(1,1−ビナフチレン)、4,6’−(1,1−ビナフチレン)、および4,7’−(1,1−ビナフチレン)よりなる群から選択される。
【0096】
式IIIは、少なくとも1種の[T1−T2]部分および少なくとも1種の他の共役部分があるコポリマーであって、ポリマー全体の少なくとも10%が重水素化されているコポリマーを表す。実施形態によっては、下付き文字「b」を有する第1モノマー単位において重水素化されている。実施形態によっては、下付き文字「c」を有する第2モノマー単位において重水素化されている。実施形態によっては、下付き文字「d」を有する第3モノマー単位において重水素化されている。実施形態によっては、2種類のモノマー単位において重水素化されている。実施形態によっては、2種類のモノマー単位のうちの1つが第1モノマー単位である。実施形態によっては、3種類のモノマー単位すべてにおいて重水素化されている。
【0097】
正孔輸送重水素化合物の非限定例の中には、以下の化合物HT1〜HT10がある。
化合物HT1:
【0098】
【化4】

【0099】
[式中、x+y+z+p+q+r=20〜28]
化合物HT2:
【0100】
【化5】

【0101】
[式中、xは0〜5であり、化合物によっては、Σ(x)=10〜44]
化合物HT3:
【0102】
【化6】

【0103】
[式中、xは0〜6であり、化合物によっては、Σ(x)=8〜36]
化合物HT4:
【0104】
【化7】

【0105】
[式中、xは0〜6であり、化合物によっては、Σ(x)=8〜36である]
化合物HT5:
【0106】
【化8】

【0107】
1=Dy−プロピル、R2=Dy−オクチル
[ここで、xは0〜5であり、Σ(x)=10〜50であり、
yは0〜17であり、Σ(y)=0〜32である]
化合物HT6:
【0108】
【化9】

【0109】
[式中、a=0.4〜0.8
b=0.2〜0.6
xは0〜5であり、化合物によっては、Σ(x)=10〜36である]
化合物HT7:
【0110】
【化10】

【0111】
[式中、a=0.3〜0.7
b=0.3〜0.5
c=0.1〜0.2
xは0〜5であり、化合物によっては、Σ(x)=10〜36である]
化合物HT8:
【0112】
【化11】

【0113】
[式中、a=0.9〜0.95
b=0.05〜0.10
xは0〜5であり、化合物によっては、Σ(x)=20〜62である]
化合物HT9:
【0114】
【化12】

【0115】
[式中、a=0.7〜0.99
b=0.01〜0.30
xは0〜5であり、化合物によっては、Σ(x)=20〜62である]
化合物HT10:
【0116】
【化13】

【0117】
[式中、xは0〜5であり、Σ(x)=15〜42である]
化合物HT11:
【0118】
【化14】

【0119】
[式中、nは1より大きい整数であり、
xは0〜5であり、Σ(x)=10〜32である]
【0120】
トリアリールアミンポリマーの別の例は、化合物HT12である。
化合物HT12
【0121】
【化15】

【0122】
層130の他の正孔輸送物質の非重水素化類似体の例は、例えば、Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,Fourth Edition,Vol.18,p.837−860,1996,by Y.Wangに要約されている。他の正孔輸送物質としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC)、N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]−4,4’−ジアミン(ETPD)、テトラキス−(3−メチルフェニル)−N,N,N’,N’−2,5−フェニレンジアミン(PDA)、a−フェニル4−N,N−ジフェニルアミノスチレン(TPS)、p−(ジエチルアミノ)ベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH)、トリフェニルアミン(TPA)、ビス[4−(N,N−ジエチルアミノ)−2−メチルフェニル](4−メチルフェニル)メタン(MPMP)、1−フェニル−3−[p−(ジエチルアミノ)スチリル]−5−[p−(ジエチルアミノ)フェニル]ピラゾリン(PPRまたはDEASP)、1,2−trans−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)シクロブタン(DCZB)、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TTB)、N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス−(フェニル)ベンジジン(NPB)、ポルフィリン化合物(porphyrinic compounds)(銅フタロシアニンなど)、および前述の物質のいずれかの重水素化類似体があるが、これらに限定されない。正孔輸送分子(上述のものなど)をポリスチレン、ポリカーボネート、およびそれらの重水素化類似体などのポリマーにドープすることによって、正孔輸送ポリマーを得ることも可能である。
【0123】
実施形態によっては、正孔輸送層は、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−二無水物、およびそれらの重水素化類似体などのp−ドーパントがドープされる。
【0124】
4.エレクトロルミネセンス層
エレクトロルミネセンス層140は、エレクトロルミネセンス物質を含む。「エレクトロルミネセンス物質」という用語は、印加電圧によって活性化されると光を発する物質を表す。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス層140はエレクトロルミネセンス物質から本質的になる。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス層140は、1種または複数種のドーパントおよび1種または複数種のホスト化合物を含む。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス層140は、1種または複数種のドーパントおよび1種または複数種のホスト化合物から本質的になる。エレクトロルミネセンスドーパントは、380から750nmの間に発光極大を有するエレクトロルミネセンスが可能な物質である。実施形態によっては、ドーパントは、赤色、緑色、または青色の光を発する。ホスト化合物は、普通は層の形の化合物であり、その中に1種または複数種のドーパントが分散されており、またその中で1種または複数種のドーパントが発光する。「ホスト物質」という用語は、存在するすべてのホスト化合物の全体を表す。ホスト物質は、放射線の放出、受容、または濾過を行う電子的特性またはその能力があってもなくても構わない。少なくとも1種のドーパントおよびホスト物質を含むエレクトロルミネセンス層では、発光はドーパントから生じる。実施形態によっては、ホスト物質は、すべてのドーパントの合計よりも高い濃度で存在する。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス層140は、1種または複数種のドーパントおよび1種または複数種のホスト化合物から本質的になる。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス層140は、1種類のドーパントおよび1種類のホスト化合物から本質的になる。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス層140は、1種類のドーパントおよび2種類のホスト化合物から本質的になる。
【0125】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス層は、重水素化エレクトロルミネセンス物質、重水素化ホスト物質、およびそれらの組合せよりなる群から選択される重水素化物質を含む。
【0126】
エレクトロルミネセンス層の物質は、ポリマー、オリゴマー、小分子、またはそれらの組合せであってもよい。それらは、溶液、分散液、懸濁液、エマルジョン、コロイド状混合物、または他の組成物の形であり得る液体から付着させるか、あるいは蒸着させることができる。
【0127】
ホストが存在する場合、エレクトロルミネセンス組成物中に存在する全ドーパントの量は一般に、組成物の全重量を基準にして3〜20重量%の範囲であり、実施形態によっては、5〜15重量%である。2種類のホスト化合物が存在する場合、第1ホストと第2ホストとの比率は一般に、1:20〜20:1の範囲であり、実施形態によっては、5:15〜15:5の範囲である。
【0128】
a.エレクトロルミネセンス物質
エレクトロルミネセンス物質は、小分子の有機エレクトロルミネセンス化合物、エレクトロルミネセンス金属錯体、エレクトロルミネセンス共役ポリマー、およびそれらの混合物から選択できる。
【0129】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は重水素化されている。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0130】
赤色発光物質の例としては、フェニルキノリンまたはフェニルイソキノリン配位子を有するIrの環状メタル化(cyclometalated)錯体、ペリフラテン類(periflanthenes)、フルオランテン類、ペリレン類、およびそれらの重水素化類似体があるが、これらに限定されない。非重水素化赤色発光物質は、例えば、米国特許第6,875,524号明細書、および米国特許出願公開第2005−0158577号明細書に開示されている。
【0131】
緑色発光物質の例としては、フェニルピリジン配位子を有するIrの環状メタル化錯体、ジアミノアントラセン類、ポリフェニレンビニレンポリマー、およびそれらの重水素化類似体があるが、これらに限定されない。非重水素化緑色発光物質は、例えば、公開されたPCT出願の国際公開第2007/021117号パンフレットに開示されている。
【0132】
青色発光物質の例としては、ジアリールアントラセン類、ジアミノクリセン類、ジアミノピレン類、ジアミノスチルベン類、フェニルピリジン配位子を有するIrの環状メタル化錯体、ポリフルオレンポリマー、およびそれらの重水素化類似体があるが、これらに限定されない。非重水素化青色発光物質は、例えば、米国特許第6,875,524号明細書、および米国特許出願公開第2007−0292713号明細書および第2007−0063638号明細書に開示されている。
【0133】
実施形態によっては、ドーパントは有機金属錯体である。実施形態によっては、ドーパントはイリジウムまたは白金の環状メタル化錯体である。重水素化されていない場合のそのような物質は、例えば、米国特許第6,670,645号明細書および公開されたPCT出願の国際公開第03/063555号パンフレット、国際公開第2004/016710号パンフレット、および国際公開第03/040257号パンフレットに開示されている。
【0134】
実施形態によっては、ドーパントは式Ir(L1)x(L2)y(L3)zを有する錯体であり、式中、
L1は、炭素および窒素を介して配位しているモノアニオン性の環状メタル化二座配位子であり、
L2は、炭素を介して配位していないモノアニオン性の二座配位子であり、
L3は単座配位子であり、
xは、1〜3であり、
yおよびzは独立に0〜2であり、
さらに、x、y、およびzは、イリジウムが六配位であり、錯体が電気的に中性となるように選択される。
この式の幾つかの例として、Ir(L1)3;Ir(L1)2(L2);およびIr(L1)2(L3)(L3’)[式中、L3は陰イオンであり、L3’は非イオン性である]があるが、これらに限定されない。
【0135】
L1配位子の例としては、フェニルピリジン類、フェニルキノリン類、フェニルピリミジン類、フェニルピラゾール類、チエニルピリジン類、チエニルキノリン類、チエニルピリミジン類、およびそれらの重水素化類似体があるが、これらに限定されない。本明細書で使用される「キノリン類」という用語は、特に明記されていない限り、「イソキノリン類」を含む。フッ素化誘導体は、1つまたは複数のフッ素置換基を有していてよい。実施形態によっては、1〜3個のフッ素置換基が配位子の非窒素環(non−nitrogen ring)上にある。
【0136】
モノアニオン性の二座配位子であるL2は、金属配位化学の技術分野において周知である。一般に、こうした配位子は配位原子としてN、O、P、またはSを有し、イリジウムに配位結合するとき5員環または6員環を形成する。好適な配位基としては、アミノ、イミノ、アミド、アルコキシド、カルボキシレート、ホスフィノ、チオレート、およびそれらの重水素化類似体があるが、これらに限定されない。こうした配位子の好適な親化合物の例として、β−ジカルボニル類(β−エノレート配位子)、およびそれらのNおよびS類似体;アミノカルボン酸類(アミノカルボキシレート配位子);ピリジンカルボン酸(イミノカルボキシレート配位子);サリチル酸誘導体(サリチレート配位子);ヒドロキシキノリン類(ヒドロキシキノリナート配位子)およびそれらのS類似体;ホスフィノアルカノール類(ホスフィノアルコキシド配位子);およびそれらの重水素化類似体がある。
【0137】
単座配位子であるL3は、陰イオンまたは非イオン性であってよい。陰イオン配位子としては、H-(「水素化物」)ならびに配位原子としてC、OまたはSを有する配位子があるが、これらに限定されない。配位基としては、アルコキシド、カルボキシレート、チオカルボキシレート、ジチオカルボキシレート、スルホネート、チオレート、カルバメート、ジチオカルバメート、チオカルバゾン陰イオン、スルホンアミド陰イオン、およびそれらの重水素化類似体があるが、これらに限定されない。場合によっては、L2として上に挙げた配位子(β−エノレート類およびホスフィノアルコキシド類(phosphinoakoxides)など)は、単座配位子として働くことができる。単座配位子は、ハロゲン化物、シアン化物、イソシアン化物、硝酸塩、サルフェート、ヘキサハロアンチモネート(hexahaloantimonate)などの配位陰イオンであってよい。これらの配位子は一般に市販されている。
【0138】
L3単座配位子は、非イオン性配位子(COなど)、単座ホスフィン配位子、または重水素化単座ホスフィン配位子であってよい。
【0139】
実施形態によっては、1種または複数種の配位子は、Fおよびフッ素化アルキルよりなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有する。
【0140】
イリジウム錯体ドーパントは、例えば、非重水素化類似体に関して米国特許第6,670,645号明細書に記載されているのと同様の標準的合成法を用いて作ることができる。
【0141】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は小さい有機化合物である。小分子のルミネセンス化合物の例としては、クリセン類、ピレン類、ペリレン類、ルブレン類、ペリフラテン類、フルオランテン類、スチルベン類、クマリン類、アントラセン類、チアジアゾール類、それらの誘導体、それらの重水素化類似体、およびそれらの混合物があるが、それらに限定されない。
【0142】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は以下の構造の1つを有する:
【0143】
【化16】

【0144】
ここで、構造は非置換であってもよく、あるいはアルキル基またはアリール基でさらに置換されていてもよい。化合物は、10%〜100%が重水素化されている。
【0145】
実施形態によっては、ドーパントは、高分子ではないスピロビフルオレン化合物およびフルオランテン化合物よりなる群から選択される。
【0146】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質はアリールアミン基を有する化合物である。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は、以下の式から選択される:
【0147】
【化17】

【0148】
上式において、
Aは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、3〜60個の炭素原子を有する芳香族基であり;
Q’は、単結合であるか、または3〜60個の炭素原子を有する芳香族基であり;
pおよびqは、同一または異なっており、それぞれは1〜6の整数である。
上記の式において、pおよびqの値は、核のQ’基上の利用可能な結合部位によって制限されうる。
【0149】
上記の式の実施形態によっては、化合物は少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0150】
上記の式の実施形態によっては、各式中のAおよびQ’の少なくとも一方が、少なくとも3個の縮合環を有する。実施形態によっては、pおよびqは1に等しい。
【0151】
実施形態によっては、Q’はスチリル基またはスチリルフェニル基である。
【0152】
実施形態によっては、Q’は、少なくとも2個の縮合環を有する芳香族基である。実施形態によっては、Q’は、ナフタレン、アントラセン、ベンズ[a]アントラセン、ジベンズ[a,h]アントラセン、フルオランテン、フルオレン、スピロフルオレン、テトラセン、クリセン、ピレン、テトラセン、キサンテン、ペリレン、クマリン、ローダミン、キナクリドン、ルブレン、それらの置換誘導体、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0153】
実施形態によっては、Aは、フェニル、ビフェニル、トリル、ナフチル、ナフチルフェニル、アントラセニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0154】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は次の構造を有する:
【0155】
【化18】

【0156】
上式において、Aは芳香族基であり、pは1または2であり、Q’は以下よりなる群から選択される:
【0157】
【化19】

【0158】
【化20】

【0159】
【化21】

【0160】
上式において、
Rは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、D、アルキル、アルコキシおよびアリールよりなる群から選択され、ここで、隣接したR基は結合して5員または6員の脂肪族環を形成してよく;
Arは、同一または異なっていて、アリール基よりなる群から選択され;
ここで、化合物は少なくとも1個のDを有する。
式中の破線は、R基(存在する場合)が核のQ’基上の任意の部位にあってよいことを示すことを意図する。
【0161】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は以下の式を有する:
【0162】
【化22】

【0163】
上式において、
Yは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、3〜60個の炭素原子を有する芳香族基であり;
Q’’は、芳香族基、二価のトリフェニルアミン残基、または単結合である。
【0164】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンスはアリールアセンまたはその重水素化類似体である。実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は、非対称のアリールアセンまたはその重水素化類似体である。
【0165】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は、式IVを有するアントラセン誘導体である:
【0166】
【化23】

上式において、
2は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、D、アルキル、アルコキシおよびアリールよりなる群から選択され、ここで、隣接したR2基は結合して5員または6員の脂肪族環を形成してよく;
Ar3〜Ar6は、同一または異なっていて、アリール基および重水素化アリール基よりなる群から選択され;
hは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、0〜4の整数であり;
ここで、少なくとも1個のDがある。
【0167】
実施形態によっては、エレクトロルミネセンス物質は式Vを有するクリセン誘導体である:
【0168】
【化24】

【0169】
上式において、
3は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、D、アルキル、アルコキシアリール、フルオロ、シアノ、ニトロ、−SO24[ここで、R4はアルキルまたはパーフルオロアルキルである]よりなる群から選択され、ここで、隣接したR3基は結合して5員または6員の脂肪族環を形成してよく;
Ar3〜Ar6は、同一または異なっていて、アリール基よりなる群から選択され;さらに
iは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、0〜5の整数であり;
ここで、少なくとも1個のDがある。
【0170】
式IVおよびVの実施形態によっては、アリール環上の置換基が重水素化されている。重水素化置換基を有するアリール基は、式IVのアントラセン核基または式Vのクリセン核基;あるいは窒素上のアリール;あるいは置換基のアリール基であってよい。実施形態によっては、アリール環上の重水素化置換基は、アルキル、アリール、アルコキシ、およびアリールオキシから選択される。実施形態によっては、置換基は少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%重水素化されている。
【0171】
式IVおよびVの実施形態によっては、任意の1つまたは複数のアリール基Ar3〜Ar6が重水素化されている。この場合、Ar3〜Ar6の少なくとも1つが重水素化アリール基である。実施形態によっては、Ar3〜Ar6は少なくとも10%が重水素化されている。このことは、Ar3〜Ar6中のアリールのCに結合した利用可能なすべてのHの少なくとも10%がDで置換されていることを意味する。実施形態によっては、各アリール環が幾らかのDを有することになる。実施形態によっては、アリール環の全部ではないが、その一部がDを有する。実施形態によっては、Ar3〜Ar6は、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されている。
【0172】
式IVおよびVの実施形態によっては、置換基(R2またはR3)およびアリール基の両方で重水素化されている。実施形態によっては、式IVおよびVの化合物は、少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0173】
式IVおよびVの実施形態によっては、化合物は、アミノ基を中心にして対称的である。この場合、Ar3=Ar5、およびAr4=Ar6であり、ここでAr3はAr4と同じであっても異なっていてもよい。
【0174】
式IVおよびVの実施形態によっては、化合物はアミノ基を中心にして対称的ではない。この場合、Ar3は、Ar5およびAr6の両方と異なっている。Ar3は、Ar4と同じであっても異なっていてもよく、Ar4は、Ar5およびAr6のそれぞれと同じであっても異なっていてもよい。
【0175】
式IVの実施形態によっては、両方のhが0である。
【0176】
式IVの実施形態によっては、少なくとも1つのhが0より大きい。実施形態によっては、少なくとも1つのR2が炭化水素アルキルである。実施形態によっては、R2は重水素化アルキルである。実施形態によっては、R2は、分枝状炭化水素アルキルおよび環状炭化水素アルキルから選択される。
【0177】
式IVの実施形態によっては、両方のhが4に等しく、R2はDである。
【0178】
式Vでは、(R3iとの結合は、R3基が2つの縮合環上の1つまたは複数の任意の部位にあってよいことを示すことを意図する。
【0179】
式Vの実施形態によっては、両方のiが0に等しい。
【0180】
式Vの実施形態によっては、少なくとも1つのiが0より大きい。実施形態によっては、少なくとも1つのR3が炭化水素アルキルである。実施形態によっては、R3は、分枝状炭化水素アルキルおよび環状炭化水素アルキルから選択される。
【0181】
式Vの実施形態によっては、両方のiが5と等しく、R3はDである。
【0182】
実施形態によっては、Ar3〜Ar6の少なくとも1つのが、上に示した式aまたは式bを有する。
【0183】
実施形態によっては、Ar3〜Ar6は、フェニル、ビフェニル、テルフェニル、ナフチル、フェニルナフチル(phenylnapthyl)、ナフチルフェニル、およびビナフチルよりなる群から選択される。
【0184】
実施形態によっては、Ar3〜Ar6は過重水素化(perdeuterated)されている。
【0185】
実施形態によっては、末端アリール上の1つまたは複数のアルキル基を除いて、Ar3〜Ar6は過重水素化されている。
【0186】
重水素化エレクトロルミネセンス物質の一部の非限定例を、以下にE1〜E13として示す:
化合物E1:
【0187】
【化25】

【0188】
化合物E2:
【0189】
【化26】

【0190】
化合物E3:
【0191】
【化27】

【0192】
化合物E4:
【0193】
【化28】

【0194】
化合物E5:
【0195】
【化29】

【0196】
化合物E6:
【0197】
【化30】

【0198】
化合物E7:
【0199】
【化31】

【0200】
化合物E8:
【0201】
【化32】

【0202】
化合物E9:
【0203】
【化33】

【0204】
化合物E10:
【0205】
【化34】

【0206】
化合物E11:
【0207】
【化35】

【0208】
E12:
【0209】
【化36】

【0210】
E13:
【0211】
【化37】

【0212】
b.ホスト
単一のホスト化合物または2種以上のホスト化合物が、ホスト物質として存在してよい。ホスト化合物の非重水素化の例は、例えば、米国特許第7,362,796号明細書、および米国特許出願公開第2006−0115676号明細書に開示されている。
【0213】
実施形態によっては、ホスト物質は少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%重水素化されている。実施形態によっては、ホスト物質は100%が重水素化されている。
【0214】
実施形態によっては、ホスト物質は、アントラセン類、クリセン類、ピレン類、フェナントレン類、トリフェニレン類、フェナントロリン類、ナフタレン類、アントラセン類、キノリン類、イソキノリン類、キノキサリン類、フェニルピリジン類、ジベンゾフラン類、ジフラノベンゼン類(difuranobenzenes)、金属キノリネート錯体、インドロカルバゾール類、ベンズイミダゾール類、トリアゾロピリジン類、ジヘテロアリールフェニル類、それらの置換誘導体、それらの重水素化類似体、およびそれらの組合せよりなる群から選択される。実施形態によっては、前述のホスト化合物は、アリール、アルキル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される置換基を有する。実施形態によっては、ヘテロアリール基は、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン類、テトラジン類、キナゾリン、キノキサリン、ナフチルピリジン類、それらのヘテロビアリール類似体、それらのヘテロトリアリール類似体、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0215】
実施形態によっては、ホストは、以下の構造1〜9またはそれらの重水素化類似体から選択される。
【0216】
【化38】

【0217】
上式において、Rは、アリール、ヘテロアリール、およびアルキルから選択される。実施形態によっては、ヘテロアリール基は、以下の構造10〜20、またはそれらの重水素化類似体から選択される。
【0218】
【化39】

【0219】
実施形態によっては、この基はヘテロビアリール誘導体またはヘテロトリアリール誘導体である。
【0220】
実施形態によっては、ホスト物質は以下に示す構造の1つを有する。
【0221】
【化40】

【0222】
上式において、Rは、アリール、ヘテロアリール、およびアルキルから選択され、化合物は重水素化されていてよい。実施形態によっては、上記の構造は、アリールまたはヘテロアリール基でさらに置換されている。実施形態によっては、ヘテロアリール基は、上記の構造10〜20、またはそれらの重水素化類似体から選択される。
【0223】
実施形態によっては、ホスト物質は式VIを有する:
【0224】
【化41】

【0225】
上式において、
Ar7は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、アリール基であり;
Qは、多価アリール基および
【0226】
【化42】

【0227】
よりなる群から選択され;
Tは、(CR’)a、SiR2、S、SO2、PR、PO、PO2、BR、およびRよりなる群から選択され;
Rは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、アルキル、およびアリールよりなる群から選択され;
R’は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、H、D、およびアルキルよりなる群から選択され;
aは、1〜6の整数であり;さらに
nは、0〜6の整数である。
nは0〜6の値を取りうるが、一部のQ基では、nの値は基の化学的性質による制約を受けることが理解されるであろう。実施形態によっては、nは0または1である。
【0228】
式VIの実施形態によっては、隣接したAr基が結合してカルバゾールなどの環を形成する。式VIでは、「隣接した」とは、それらのAr基が同じNに結合していることを意味する。
【0229】
実施形態によっては、Ar7は独立に、フェニル、ビフェニル、テルフェニル、クアテルフェニル、ナフチル、フェナントリル、ナフチルフェニル、フェナントリルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。クアテルフェニルより多い、5〜10個のフェニル環を有する類似体も使用できる。
【0230】
実施形態によっては、Ar7の少なくとも1つが少なくとも1種の置換基を有する。ホスト物質の物理特性または電子特性を変えるために、置換基を存在させることができる。実施形態によっては、置換基によりホスト物質の加工性が改善される。実施形態によっては、置換基により、ホスト物質の溶解度が増大し、かつ/またはそのTgが増大する。実施形態によっては、置換基は、D、アルキル基、アルコキシ基、シリル基、シロキサン、およびそれらの組合せよりなる群から選択される。
【0231】
実施形態によっては、Qは少なくとも2個の縮合環を有するアリール基である。実施形態によっては、Qは3〜5個の縮合芳香族環を有する。実施形態によっては、Qは、アントラセン類、クリセン類、ピレン類、フェナントレン類、トリフェニレン類、フェナントロリン類、ナフタレン類、アントラセン類、キノリン類、イソキノリン類、キノキサリン類、フェニルピリジン類、ジベンゾフラン類、ジフラノベンゼン類、インドロカルバゾール類、それらの置換誘導体、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0232】
実施形態によっては、ホスト化合物は式VIIを有する:
【0233】
【化43】

【0234】
上式において、
4〜R11は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、H、D、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、シロキサン、およびシリルよりなる群から選択され;
Ar8およびAr9は同一または異なっていて、アリール基よりなる群から選択され;さらに
Ar10およびAr11は同一または異なっていて、H、D、およびアリール基よりなる群から選択され、
ここで、少なくとも1個のDがある。
【0235】
式VIIの実施形態によっては、少なくとも1個のDがアリール環の置換基上にある。実施形態によっては、置換基はアルキルおよびアリールから選択される。
【0236】
式VIIの実施形態によっては、R4〜R11の少なくとも1つがDである。実施形態によっては、R4〜R11の少なくとも2つがDである。実施形態によっては、少なくとも3つがDであり;実施形態によっては、少なくとも4つがDであり;実施形態によっては、少なくとも5つがDであり;実施形態によっては、少なくとも6つがDであり;実施形態によっては、少なくとも7つがDである。実施形態によっては、R4〜R11のすべてがDである。
【0237】
実施形態によっては、R4〜R11はHおよびDから選択される。実施形態によっては、R4〜R11の1つがDであり、7つがHである。実施形態によっては、R4〜R11の2つがDであり、6つがHである。実施形態によっては、R4〜R11の3つがDであり、5つがHである。実施形態によっては、R4〜R11の4つがDであり、4つがHである。実施形態によっては、R4〜R11の5つがDであり、3つがHである。実施形態によっては、R4〜R11の6つがDであり、2つがHである。実施形態によっては、R4〜R11の7つがDであり、1つがHである。実施形態によっては、R4〜R11の8つがDである。
【0238】
実施形態によっては、R4〜R11の少なくとも1つが、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、シロキサン、およびシリルから選択され、R4〜R11の残りがHおよびDから選択される。実施形態によっては、R5は、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、シロキサン、およびシリルから選択される。実施形態によっては、R5はアルキルおよびアリールから選択される。実施形態によっては、R5は重水素化アルキルおよび重水素化アリールから選択される。実施形態によっては、R5は、少なくとも10%が重水素化されている重水素化アリールから選択される。実施形態によっては、R5は、少なくとも20%が重水素化されている重水素化アリールから、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されているものから、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されているものから、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されているものから、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されているものから、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されているものから、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されているものから、実施形態によっては、少なくとも90%重水素化されているものから選択される。実施形態によっては、R2は、100%が重水素化されている重水素化アリール類から選択される。
【0239】
式VIIの実施形態によっては、Ar8〜Ar11の少なくとも1つが重水素化アリールである。実施形態によっては、Ar10およびAr11は、Dおよび重水素化アリール類から選択される。
【0240】
式VIIの実施形態によっては、Ar8〜Ar11は少なくとも10%が重水素化されている。式VIIの実施形態によっては、Ar8〜Ar11は、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0241】
実施形態によっては、式VIIの化合物は、少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されている。実施形態によっては、化合物は100%が重水素化されている。
【0242】
実施形態によっては、Ar8およびAr9は、フェニル、ナフチル、フェナントリル、アントラセニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。実施形態によっては、Ar8およびAr9は、フェニル、ナフチル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0243】
実施形態によっては、Ar10およびAr11は、フェニル、ナフチル、フェナントリル、アントラセニル、フェニルナフチレン、ナフチルフェニレン、それらの重水素化誘導体、上に示した式aまたは式bを有する基よりなる群から選択される。
【0244】
実施形態によっては、Ar8〜Ar11の少なくとも1つがヘテロアリール基である。実施形態によっては、ヘテロアリール基は重水素化されている。実施形態によっては、ヘテロアリール基は、少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されている。実施形態によっては、ヘテロアリール基は100%が重水素化されている。実施形態によっては、ヘテロアリール基は、カルバゾール、ペンゾフラン、ジベンゾフラン、およびそれらの重水素化誘導体から選択される。
【0245】
式VIIの実施形態によっては、R4〜R11の少なくとも1つがDであり、Ar8〜Ar11の少なくとも1つが重水素化アリールである。実施形態によっては、化合物は少なくとも10%が重水素化されている。実施形態によっては、化合物は少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されている。実施形態によっては、化合物は100%が重水素化されている。
【0246】
実施形態によっては、ホスト化合物は式VIIIを有する。
【0247】
【化44】

【0248】
上式において、
12は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、D、アルキル、アルコキシ、シリル、およびシロキサンよりなる群から選択されるか、あるいは隣接したR12基が結合して5員または6員の脂肪族環を形成してよいか、
Ar12およびAr13は、同一または異なっていて、アリール基であり、
jは、0〜6の整数であり;
kは、0〜2の整数であり;さらに
lは、0〜3の整数であり;
ここで、少なくとも1個のDがある。
【0249】
実施形態によっては、R12はDであり、j、k、およびlの少なくとも1つは0より大きい。実施形態によっては、R12はDであり、j、k、およびlはすべて0より大きい。実施形態によっては、R12はDであり、j=5〜6、k=1〜2およびl=2〜3である。
【0250】
実施形態によっては、少なくとも1つのR12は分枝状アルキル基である。実施形態によっては、分枝状アルキル基は、2−プロピル基、t−ブチル基、またはそれらの重水素化類似体である。
【0251】
実施形態によっては、Ar12およびAr13は、D、アルキル、シリル、フェニル、ナフチル、N−カルバゾリル、およびフルオレニルよりなる群から選択される置換基を有するフェニル基である。
【0252】
実施形態によっては、Ar12およびAr13は、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントリル、アントラセニル、4−ナフチルフェニル、4−フェナントリルフェニル、それらの重水素化類似体、および上に示した式aまたは式bを有する基よりなる群から選択される。
【0253】
実施形態によっては、ホスト化合物は式IXを有する。
【0254】
【化45】

【0255】
上式において、
13は、同一または異なっていて、フェニル、ビフェニル、ナフチル、ナフチルフェニル、トリフェニルアミノ、カルバゾリルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択され;
さらに、以下の条件の1つを満たし:
(i)R14=R15であり、かつH、D、フェニル、ビフェニル、ナフチル、ナフチルフェニル、アリールアントラセニル(arylanthracenyl)、フェナントリル、トリフェニルアミノ、カルバゾリルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択されるか;
あるいは
(ii)R14が、H、D、フェニル、およびペルジュウテロフェニル(deutero−phenyl)よりなる群から選択される;
15が、フェニル、ビフェニル、ナフチル、ナフチルフェニル、アリールアントラセニル、フェナントリル、トリフェニルアミノ、カルバゾリルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択され;
ここで、少なくとも1個のDがある。
【0256】
実施形態によっては、フェナントロリン化合物は対称的であって、両方のR13が同じでありかつR14=R15である。実施形態によっては、R13=R14=R15である。実施形態によっては、フェナントロリン化合物は非対称であって、2つのR13基が異なっているか、R14≠R15、またはその両方である。
【0257】
実施形態によっては、R13基は同じであって、ビフェニル、ナフチル、ナフチルフェニル、トリフェニルアミノ、カルバゾリルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。実施形態によっては、R13基は、フェニル、トリフェニルアミノ、カルバゾリルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。実施形態によっては、R13基は、4−トリフェニルアミノ、m−カルバゾリルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0258】
実施形態によっては、R13=R14であって、トリフェニルアミノ、ナフチルフェニル、アリールアントラセニル、m−カルバゾリルフェニル、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。
【0259】
実施形態によっては、ホストは式Xまたは式XIを有する。
【0260】
【化46】

【0261】
上式において、
16は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、水素、重水素、フェニル、ビフェニル、ナフチル、ナフチルフェニル、フェナントリル、トリフェニルアミノ、カルバゾリル、カルバゾリルフェニル、およびそれらの重水素化誘導体よりなる群から選択され;
17は、HまたはDであり;さらに
Q’’’はアリール基であり;
ここで、少なくとも1個のDがある。
【0262】
実施形態によっては、Q’’’は、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ビナフチレン、およびそれらの重水素化誘導体よりなる群から選択される。実施形態によっては、Q’’’は、1,4−フェニレン、2,6−ナフチレン、4,4’−ビフェニレン、4,4’−(1,1’−ビナフチレン)、およびそれらの重水素化誘導体よりなる群から選択される。
【0263】
1つの実施形態では、ホストは、式XIIまたは式XIIIを有する重水素化インドロカルバゾールである:
【0264】
【化47】

【0265】
上式において、
Ar14は、芳香族電子輸送基であり;
Ar15は、アリール基および芳香族電子輸送基よりなる群から選択され;さらに
18およびR19はそれぞれの出現箇所で同一または異なっていて、H、Dおよびアリールよりなる群から選択され;
ここで、化合物は少なくとも1個のDを有する。
【0266】
式XIIおよび式XIIIの実施形態によっては、重水素が、インドロカルバゾール核、アリール環、アリール環上の置換基、およびそれらの組合せよりなる群から選択される部分に存在する。
【0267】
Ar14は、芳香族電子輸送基である。実施形態によっては、芳香族電子輸送基は含窒素ヘテロ芳香族基である。電子輸送を行う含窒素ヘテロ芳香族基の例の中には、以下に示すものがあるが、これらに限定されない。
【0268】
【化48】

【0269】
【化49】

【0270】
上式において、
Ar16はアリール基であり;
20は、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、D、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、シロキサン、およびシリルよりなる群から選択され;
mは、0〜4の整数であり;
nは、0〜3の整数であり;
oは、0〜2の整数であり;
pは、0〜5の整数であり;
qは、0または1であり;さらに
rは、0〜6の整数である。
基は、波線で示した位置のいずれでも核上の窒素と結合できる。
【0271】
実施形態によっては、同一または異なっている電子求引性置換基の2つ以上が結合してオリゴマー置換基を形成する。実施形態によっては、R20は、Dおよびアリールよりなる群から選択される。実施形態によっては、R20は含窒素ヘテロ芳香族の電子輸送基である。
【0272】
実施形態によっては、Ar15は、上述の芳香族電子輸送基である。実施形態によっては、Ar15は、フェニル、ナフチル、フェナントリル、アントラセニル、フェニルナフチレン、ナフチルフェニレン、それらの重水素化誘導体、および上述の式aまたは式bを有する基よりなる群から選択される。
【0273】
実施形態によっては、ホスト物質は、重水素化ジアリールアントラセン類、重水素化アミノクリセン類、重水素化ジアリールクリセン類、重水素化ジアリールピレン類、重水素化インドロカルバゾール類、重水素化フェナントロリン類、およびそれらの組合せよりなる群から選択される。
【0274】
重水素化ホスト化合物の非限定例の中には、以下に示す化合物H1〜H17がある。
化合物H1:
【0275】
【化50】

【0276】
[式中、x+y+z+n=1〜26]
化合物H5:
【0277】
【化51】

【0278】
[式中、x+y+z+p+n+q=1〜34]
化合物H8:
【0279】
【化52】

【0280】
化合物H9:
【0281】
【化53】

【0282】
化合物H13:
【0283】
【化54】

【0284】
化合物H14:
【0285】
【化55】

【0286】
化合物H15:
【0287】
【化56】

【0288】
化合物H16:
【0289】
【化57】

【0290】
[ここで、Σ(a−f)=1〜25]
化合物H17:
【0291】
【化58】

【0292】
[ここで、Σ(a−f)=1〜28]
【0293】
5.電子輸送層
電子輸送層150は電子輸送物質を含む。層、物質、部材、または構造に言及している場合の「電子輸送」という用語は、そのような層、物質、部材、または構造によって、比較的効率的かつ低電荷損失で、負電荷が、そのような層、物質、部材、または構造の厚い部分を通って移動するのが促進されることを意味することを意図する。発光物質も幾らかの電子輸送特性を有しうるが、「電子輸送の層、物質、部材、または構造」という用語は、主要機能が発光である層、物質、部材、または構造を含むことを意図しない。
【0294】
電子輸送物質は、ポリマー、オリゴマー、または小分子でありうる。それらは、溶液、分散液、懸濁液、エマルジョン、コロイド状混合物、または他の組成物の形であり得る液体から付着させるか、あるいは蒸着させることができる。
【0295】
実施形態によっては、電子輸送層は重水素化物質を含む。実施形態によっては、電子輸送物質は、少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0296】
実施形態によっては、電子輸送層150は、上述の式IX、式X、または式XIを有する重水素化フェナントロリン誘導体を含む。実施形態によっては、電子輸送層150は、式IX、式X、または式XIを有する重水素化フェナントロリン誘導体から本質的になる。
【0297】
実施形態によっては、電子輸送層150は、上述の式XIIまたは式XIIIを有する重水素化インドロカルバゾール誘導体を含む。実施形態によっては、電子輸送層150は、式XIIまたは式XIIIを有する重水素化インドロカルバゾール誘導体から本質的になる。
【0298】
実施形態によっては、電子輸送層は、重水素化ベンズイミダゾール類、重水素化トリアゾロピリジン類および重水素化ジヘテロアリールフェニル類よりなる群から選択される物質を含む。
【0299】
実施形態によっては、電子輸送層150は、重水素化金属キレート化オキシノイド(deuterated metal chelated oxinoid)化合物を含む。そのような物質の例として、重水素化トリス(8−ヒドロキシキノラト)アルミニウム(d−AlQ)、重水素化ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニルフェノラト)アルミニウム(d−BAlq)、重水素化テトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ハフニウム(d−HfQ)および重水素化テトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ジルコニウム(d−ZrQ)などの重水素化金属キノレート誘導体がある。
【0300】
実施形態によっては、電子輸送層は、重水素化フェナントロリン類、重水素化インドロカルバゾール類、重水素化ベンズイミダゾール類、重水素化トリアゾロピリジン類、重水素化ジヘテロアリールフェニル類、重水素化金属キノレート類、およびそれらの組合せよりなる群から選択される電子輸送物質を含む。実施形態によっては、電子輸送層は、重水素化フェナントロリン類、重水素化インドロカルバゾール類、重水素化ベンズイミダゾール類、重水素化トリアゾロピリジン類、重水素化ジヘテロアリールフェニル類、重水素化金属キノレート類、およびそれらの組合せよりなる群から選択される電子輸送物質から本質的になる。
【0301】
電子輸送層150に使用できる他の電子輸送物質の例として、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、および1,3,5−トリ(フェニル−2−ベンズイミダゾール)ベンゼン(TPBI)などのアゾール化合物;2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリンなどのキノキサリン誘導体;トリアジン類;フラーレン類;前述の物質のいずれかの重水素化類似体;およびそれらの混合物がある。実施形態によっては、電子輸送層はn−ドーパントをさらに含む。n−ドーパント物質はよく知られている。n−ドーパントとしては、1族および2族の金属;1族および2族の金属塩(LiF、CsF、およびCs2CO3など);1族および2族の金属有機化合物(Liキノレートなど);および分子のn−ドーパント(ロイコ染料など)、金属錯体(W2(hpp)4[ここで、hpp=1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−2H−ピリミド−[1,2−a]−ピリミジン]およびコバルトセンなど)、テトラチアナフタセン、ビス(エチレンジチオ)テトラチアフルバレン、複素環式基または複素環式二基(heterocyclic diradicals)、ならびに複素環式基または複素環式二基のダイマー、オリゴマー、ポリマー、ジスピロ化合物および多環体(polycycles)があるが、これらに限定されない。n−ドーパントも重水素化されていてよい。
【0302】
重水素化電子輸送化合物の非限定例の中には、以下に示す化合物ET1〜ET4がある。
ET1:
【0303】
【化59】

【0304】
ET2:
【0305】
【化60】

【0306】
ここで、Σ(x+y+z)=1〜54
ET3:
【0307】
【化61】

【0308】
ET4:
【0309】
【化62】

【0310】
6.化学的閉じ込め
フルカラーの画像のディスプレイを作るには、各ディスプレイピクセル(display pixel)を、それぞれが3種類の主要な表示色(赤色、緑色、および青色)の1つを発する3つのサブピクセルに分割する。異なる色を液体付着技法で施すとき、サブピクセルからサブピクセルへの液体着色物質(すなわち、インキ)の拡散および色の混合を防ぐ必要がある。
【0311】
色の混合を防ぐための1つの方法は、着色インキを施す前に、化学的閉じ込め層を設けることである。「化学的閉じ込め層」という用語は、物的障壁構造ではなく表面エネルギー効果によって液体物質の拡散を抑えるかまたは制限するパターン化層を意味することを意図する。層に言及している場合の「閉じ込め」という用語は、層を付着させた領域を著しく超えて層が拡散しないことを意味することを意図する。「表面エネルギー」という用語は、物質から単位面積の表面を作り出すのに必要なエネルギーである。表面エネルギーの特徴は、所与の表面エネルギーを持つ液体物質が、より小さい表面エネルギーを有する表面をぬらさないことである。
【0312】
実施形態によっては、化学的閉じ込め層は重水素化物質を含む。実施形態によっては、化学的閉じ込め物質は、少なくとも10%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0313】
実施形態によっては、陽極側から最初に作られるデバイスの場合、化学的閉じ込め層は正孔注入層を覆うように施され、正孔輸送層とエレクトロルミネセンス層の両方を閉じ込める。実施形態によっては、化学的閉じ込め層は正孔輸送層を覆うように施され、エレクトロルミネセンス層を閉じ込める。陰極側から最初に作られるデバイスの場合、化学的閉じ込め層は電子注入層または電子輸送層を覆うように施すことができる。
【0314】
実施形態によっては、化学的閉じ込め層は第1層の上に下塗層を用いて形成され、下塗層は、第1層の表面エネルギーとは著しく異なる表面エネルギーを有する。下塗層は第1層上の全体に施す。次いで、下塗層をあるパターンで放射線に暴露し、暴露領域と非暴露領域が生じるようにする。次いで、下塗層を現像(developed)して、暴露領域または非暴露領域から下塗層を効果的に除去する。その結果、第1層上にパターン化された下塗層ができる。そのパターン化された下塗層が化学的閉じ込め層である。「効果的に除去する」および「効果的除去」という用語は、暴露領域または非暴露領域のいずれかにおいて下塗層が基本的に完全に除去されることを意味する。下塗層は、他の領域で部分的に除去されることもありうる。その結果、下塗層の残りのパターンが元の下塗層より薄くなることがある。
【0315】
実施形態によっては、下塗層のパターンは、第1層の表面エネルギーより大きい表面エネルギーを有する。第2層は、第1層上の下塗層のパターンを覆うように液体を付着させて形成される。
【0316】
実施形態によっては、下塗層のパターンは、第1層の表面エネルギーより小さい表面エネルギーを有する。第2層は、下塗層が除去された領域中にある第1層を覆うように液体を付着させて形成される。この方法および非重水素化物質は、米国特許出願公開第2007/0205409号明細書に記載されている。
【0317】
相対表面エネルギーを求める方法の1つは、第1有機層での所与の液体の接触角と、暴露して現像した後の下塗層(以下、「現像下塗層」と呼ぶ)での同じ液体の接触角とを比較することである。接触角は、表面エネルギーが低下するにつれて増大する。さまざまな製造業者が、接触角を測定できる装置を作っている。
【0318】
実施形態によっては、第1層の表面エネルギーは、下塗層の表面エネルギーより低い。実施形態によっては、第1層は、アニソールとの接触角が40℃より大きく;実施形態によっては、50°より大きく;実施形態によっては、60°より大きく;実施形態によっては、70°より大きい。実施形態によっては、現像された下塗層は、アニソールとの接触角が30°より小さく;実施形態によっては、20°より小さく;実施形態によっては、10°より小さい。実施形態によっては、所与の溶媒において、現像された下塗層との接触角は第1層との接触角よりも少なくとも20°小さく;実施形態によっては、所与の溶媒において、現像された下塗層との接触角は第1層との接触角より少なくとも30°小さく、実施形態によっては、所与の溶媒において、現像された下塗層との接触角は第1層との接触角よりも少なくとも40°小さい。
【0319】
下塗層は、放射線に暴露されると反応して、暴露されていない下塗物質と比べて、下にある第1層から除去しやすくなるかまたは除去しにくくなる物質を生じる組成物を含む。この変化は、暴露領域と非暴露領域との物理的な差異ならびに現像を可能にするほど十分でなければならない。
【0320】
1つの実施形態では、下塗層は放射線硬化性組成物を含む。この場合、放射線に暴露されると、下塗層は、液状媒体への可溶性または分散性の低下、粘着性の低下、軟化性の低下、流動性の低下、剥離性の低下(less liftable)、または吸収性の低下が起こりうる。他の物理的性質も影響を受けうる。
【0321】
1つの実施形態では、下塗層は1種または複数種の放射線感受性(radiation−sensitive)物質から本質的になる。1つの実施形態では、下塗層は、放射線に暴露された場合に、硬化するか、あるいは液状媒体における可溶性の低下、膨潤性の低下、または分散性の低下、あるいは粘着性または吸収性の低下が起きる物質から本質的になる。1つの実施形態では、下塗層は、放射線重合可能な基を有する物質から本質的になる。そのような基の例としては、オレフィン、アクリレート、メタクリレートおよびビニルエーテルがあるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、下塗物質は、架橋を生じうる2種以上の重合可能な基を有する。
【0322】
1つの実施形態では、下塗層は、少なくとも1種の反応性物質および少なくとも1種の放射線感受性物質から本質的になる。放射線感受性物質は、放射線に暴露されると、反応性物質の反応を開始させる活性種を生じる。放射線感受性物質の例としては、フリーラジカル、酸、またはそれらの組合せを生じる物質があるが、これらに限定されない。
【0323】
1つの実施形態では、反応性物質は重合可能または架橋性である。物質の重合反応または架橋反応は、活性種によって開始されるか触媒される。1つの実施形態では、反応性物質はエチレン性不飽和化合物であり、放射線感受性物質はフリーラジカルを生じる。エチレン性不飽和化合物としては、アクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、およびそれらの組合せがあるが、これらに限定されない。フリーラジカルを生じる放射線感受性物質は、知られているどんな種類のものでも使用できる。フリーラジカルを生じる放射線感受性物質の例としては、キノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾインエーテル類、アリールケトン類、過酸化物類、イミダゾール類、ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシルアルキルフェニルアセトホン(hydroxyl alkyl phenyl acetophone)、ジアルコキシアセトフェノン(dialkoxy actophenone)、トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド誘導体、アミノケトン類、ベンゾイルシクロヘキサノール、メチルチオフェニルモルホリノケトン類、モルホリノフェニルアミノケトン類、アルファハロゲノアセトフェノン類、オキシスルホニルケトン類、スルホニルケトン類、オキシスルホニルケトン類、スルホニルケトン類、ベンゾイルオキシムエステル類、チオキサントロン類(thioxanthrones)、カンファキノン類、ケトクマリン類、およびミヒラー・ケトンがあるが、これらに限定されない。あるいはまた、放射線感受性物質は、化合物の混合物であってよく、その化合物の1種がフリーラジカルを生じる(放射線によって活性化される増感剤によりそのことが引き起こされたとき)。1つの実施形態では、放射線感受性物質は可視光線または紫外線放射に敏感である。
【0324】
放射線感受性物質は一般に、下塗層の全重量を基準にして0.001%〜10.0%の量だけ存在する。
【0325】
1つの実施形態では、反応性物質は、酸によって開始される重合が起こりうるものであり、放射線感受性物質は酸を生じる。そのような反応性物質の例としては、エポキシ化合物があるが、それらに限定されない。酸を生じる放射線感受性物質の例としては、スルホニウム塩およびヨードニウム塩(ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスファートなど)があるが、これらに限定されない。
【0326】
1つの実施形態では、下塗層は放射線軟化性組成物を含む。この場合、放射線に暴露されると、下塗層は、液状媒体への可溶性または分散性の増大、粘着性の増大、軟化性の増大、流動性の増大、剥離性の増大、または吸収性の増大が起こりうる。他の物理的性質も影響を受けうる。
【0327】
1つの実施形態では、下塗層は、放射線に暴露された場合に、軟化するか、あるいは液状媒体における可溶性の増大、膨潤性の増大、または分散性の増大が起きるか、あるいは粘着性または吸収性の増大が起きる物質から本質的になる。
【0328】
放射線軟化性組成物の1つの例では、反応性物質はフェノール樹脂であり、放射線感受性物質はジアゾナフトキノン(diazonaphthoquinone)である。
【0329】
放射線軟化性組成物の1つの例では、下塗層は、波長が200〜300nmの範囲である深紫外線に暴露されると骨格劣化が起きる少なくとも1種のポリマーから本質的になる。そのような劣化が起こるポリマーの例として、ポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリケトン類、ポリスルホン類、それらのコポリマー、およびそれらの混合物があるが、これらに限定されない。
【0330】
当該技術分野において知られている他の放射線感受性の系も使用できる。
【0331】
1つの実施形態では、下塗層は、放射線に暴露されると、下にある領域と反応する。この反応の正確なメカニズムは、使用する物質によって異なるであろう。放射線に暴露された後、下塗層は、好適な現像処理によって非暴露領域において効果的に除去される。実施形態によっては、下塗層は非暴露領域のみで除去される。実施形態によっては、下塗層は暴露領域でも部分的に除去され、そうした領域に薄い層が残る。実施形態によっては、暴露領域に残る下塗層は厚さが50Å未満である。実施形態によっては、暴露領域に残る下塗層は基本的に厚さが単分子層である。
【0332】
実施形態によっては、下塗物質が重水素化される。「重水素化」という用語は、少なくとも1個のHがDで置換されていることを意味することを意図する。「重水素化類似体」という用語は、1つまたは複数個の利用可能な水素が重水素で置換されている化合物または基の構造的類似体を表す。重水素化合物または重水素化類似体では、重水素が、自然の存在レベルの少なくとも100倍存在する。実施形態によっては、下塗物質は少なくとも10%が重水素化されている。これは、水素の少なくとも10%が重水素で置換されていることを意味する。実施形態によっては、下塗物質は少なくとも20%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも30%が重水素化されており、;実施形態によっては、少なくとも40%が重水素化されており、;実施形態によっては、少なくとも50%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも60%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも70%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも80%が重水素化されており、実施形態によっては、少なくとも90%が重水素化されており、実施形態によっては、100%が重水素化されている。
【0333】
下塗層は、任意の周知の付着法で施すことができる。1つの実施形態では、下塗層は溶媒に添加されることなく施される。1つの実施形態では、下塗層は蒸着によって施される。
【0334】
1つの実施形態では、下塗層は凝結法で施す。下塗層を蒸気相からの凝結で施す場合に、蒸気凝結の間に表面層温度があまりに高いと、下塗層は有機基板表面の細孔または自由体積に入り込むことがある。実施形態によっては、有機基板は、基板物質のガラス転移温度または溶融温度より下の温度に維持する。温度は、周知の任意の手法(流れる液体または気体によって冷却される表面上に第1層を置くなど)によって維持できる。
【0335】
1つの実施形態では、下塗層は、凝結ステップに先だって、一時的支持体に施されて下塗層の均一コーティングが形成される。これは、液体付着、蒸着、および熱転写を含め任意の付着法で実施できる。1つの実施形態では、下塗層は、連続液体付着技法で一時的支持体上に付着させる。下塗層を付着させるための液状媒体の選択は、下塗層自体のまさにその性質によって異なるであろう。1つの実施形態では、物質はスピンコーティングで付着させる。次いで、被覆された一時的支持体は、凝結ステップ用の蒸気を生じさせるための加熱源として使用する。
【0336】
下塗層を施すことは、連続法またはバッチ法のいずれかを利用して遂行できる。例えば、バッチ法では、1つまたは複数のデバイスを下塗層で同時に被覆し、その後、放射線源に同時に暴露するであろう。連続法では、ベルトまたは他のコンベア装置で輸送されるデバイスは、デバイスが連続的に下塗層で被覆されるステーションを通過し、その後、デバイスが連続的に放射線源に暴露されるステーションをそのまま通過するであろう。方法の一部は連続的であってよく、一方でその方法の他の部分はバッチ式であってもよい。
【0337】
1つの実施形態では、下塗物質は室温において液体であり、第1層を覆うように液体付着によって施す。液体の下塗物質は、膜を形成してよいか、または第1層の表面に吸収されるかまたは吸着されてよい。1つの実施形態では、第1層を覆うように第2層を形成させるために、液体の下塗物質をその融点より下の温度まで冷却する。1つの実施形態では、下塗物質は室温において液体ではなく、その融点より上の温度まで加熱して、第1層上に付着させ、室温まで冷却して第1層を覆うように第2層を形成させる。液体付着では、上述の方法のいずれを使用してもよい。
【0338】
1つの実施形態では、下塗層を第2液体組成物から付着させる。液体付着法は、上述したように連続でも不連続でもよい。1つの実施形態では、下塗り液体組成物は、連続液体付着法を用いて付着させる。下塗層を付着させるための液状媒体の選択は、下塗物質自体のまさにその性質によって異なるであろう。
【0339】
下塗層を形成した後、それを放射線に暴露する。使用する放射線のタイプは、上述した下塗層の敏感性によって異なるであろう。暴露はパターン状に行われる。本明細書で使用される「パターン状」という用語は、物質または層の選択部分のみが暴露されることを示す。パターン状暴露は、周知の任意の画像化技法(imaging technique)を用いて実現できる。1つの実施形態では、パターンはマスクを介して暴露することによって得られる。1つの実施形態では、パターンは、ラスターレーザー(rastered laser)で選択部分のみを暴露することで得る。暴露時間は、使用する下塗層の特定の化学的性質に応じて数秒間から数分間の範囲にすることができる。レーザーを使用する場合、レーザーの出力に応じて、それぞれの個別の領域に関して使用する暴露時間はずっと短くなる。暴露ステップは、物質の敏感性に応じて、空気中かまたは不活性雰囲気中で実施できる。
【0340】
1つの実施形態では、放射線は、紫外線(10〜390nm)、可視光線(390〜770nm)、赤外線(770〜106nm)、およびそれらの組合せ(同時処理および逐次処理を含む)よりなる群から選択される。1つの実施形態では、放射線は可視光線および紫外線放射から選択される。1つの実施形態では、放射線は300〜450nmの範囲の波長を有する。1つの実施形態では、放射線は深紫外線(200〜300nm)である。別の実施形態では、紫外線放射は300から400nmの間の波長を有する。別の実施形態では、放射線は400〜450nmの範囲の波長を有する。1つの実施形態では、放射線は熱放射である。1つの実施形態では、放射線への暴露は加熱によって実施される。加熱ステップの温度および継続時間は、発光領域のどんな下にある層にも損傷を与えることなく、下塗層の少なくとも1つの物理的性質を変化させるようなものである。1つの実施形態では、加熱温度は250℃未満である。1つの実施形態では、加熱温度は150℃未満である。
【0341】
放射線に対してパターン状暴露した後、下塗層を現像する。現像は周知の任意の技法で遂行できる。そのような技法は、フォトレジストおよび印刷の技術分野で広く使用されてきた。現像技法の例としては、加熱(蒸発)、液状媒体による処理(洗浄)、吸収物質による処理(ブロッティング)、粘着性物質による処理などがあるが、これらに限定されない。現像ステップにより、露出領域または非暴露領域のいずれかの下塗層が効果的に除去される。次いで、下塗層は、非暴露領域または暴露領域のいずれかにそれぞれ残る。下塗層は、非暴露領域または暴露領域において部分的に除去されてもよいが、暴露領域と非暴露領域との間に湿潤性の差があるようにするため、十分に残っていなければならない。例えば、下塗層は、非暴露領域において効果的に除去されてよく、また暴露領域において厚みの一部が除去されてよい。実施形態によっては、現像ステップにより非暴露領域の下塗層が効果的に除去される。
【0342】
1つの実施形態では、放射線への下塗層の暴露により、溶媒中への下塗層の溶解度または分散性が変化する。この場合、現像は湿式現像処理(wet development treatment)によって遂行できる。この処理は普通、一方のタイプの領域の溶解、分散、または剥離をもたらす溶媒による洗浄を含む。1つの実施形態では、放射線へのパターン状暴露により下塗層の暴露領域が不溶化し、溶媒による処理により下塗層の非暴露領域が除去される。
【0343】
1つの実施形態では、放射線への下塗層の暴露により、暴露領域の下塗層の揮発性を変化させる反応が起こる。この場合、現像は、熱現像処理によって遂行できる。この処理は、より揮発性のある物質の揮発温度または昇華温度より上で、かつその物質が熱反応する温度より下の温度まで加熱することを含む。例えば、重合可能なモノマーの場合、物質は、昇華温度より上でかつ熱重合温度より下の温度で加熱されるであろう。揮発温度に近いかまたはそれより低い熱反応温度を有する下塗物質は、このような仕方で現像することができないであろうことが理解されるであろう。
【0344】
1つの実施形態では、放射線に下塗層を暴露すると、物質が溶融、軟化または流動する温度が変化する。この場合、現像は乾式現像処理(dry development treatment)で遂行できる。乾式現像処理は、要素の最も外側の表面を吸着剤表面と接触させて、より軟らかい部分を吸収するかまたは吸い取ることを含みうる。この乾式現像は、残りの領域の特性にさらなる影響を及ぼさない限り、高温で実施できる。
【0345】
現像ステップにより、下塗層が残っている領域と、下にある第1層がむき出しにされた領域とが生じる。
【0346】
実施形態によっては、下塗層は正孔輸送物質を含む。実施形態によっては、下塗層は、トリアリールアミン類、カルバゾール類、フルオレン類、それらのポリマー、それらのコポリマー、それらの重水素化類似体、およびそれらの組合せよりなる群から選択される物質を含む。実施形態によっては、下塗層は、高分子トリアリールアミン類、ポリカルバゾール類、ポリフルオレン類、非平面構成で結合している共役部分を有する高分子トリアリールアミン類、フルオレンとトリアリールアミンとのコポリマー、それらの重水素化類似体、およびそれらの組合せよりなる群から選択される物質を含む。実施形態によっては、高分子物質は架橋性である。実施形態によっては、下塗層は電子輸送物質を含む。実施形態によっては、下塗層は、金属キレート化オキシノイド化合物を含む。実施形態によっては、下塗層は金属キノレート誘導体を含む。実施形態によっては、下塗層は、トリス(8−ヒドロキシキノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニルフェノラト)アルミニウム、テトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ハフニウム、およびテトラキス−(8−ヒドロキシキノラト)ジルコニウムよりなる群から選択される物質を含む。実施形態によっては、下塗層は、高分子トリアリールアミン類、ポリカルバゾール類、ポリフルオレン類、それらのコポリマー、および金属キノレート類よりなる群から選択される物質から本質的になる。
【0347】
実施形態によっては、正孔注入層は、フッ素化酸ポリマーがドープされた導電性ポリマーを含み、下塗層は正孔輸送物質から本質的になる。実施形態によっては、正孔輸送物質はトリアリールアミンポリマーである。そのようなポリマーは、例えば、公開されたPCT出願の国際公開第2008/024378号パンフレット、国際公開第2008/024379号パンフレット、および国際公開第2009/067419号パンフレットに記載されている。実施形態によっては、下塗物質は、非平面構成で結合している共役部分を有する高分子トリアリールアミン類、少なくとも1つのフルオレン部分と少なくとも2つのトリアリールアミン部分とを有する化合物、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択される。実施形態によっては、高分子トリアリールアミン類は、上述の式I、式II、または式IIIを有する。
【0348】
下塗層として用いることのできる例示的化合物の中には、重水素化フルオレン、重水素化ポリフルオレン、重水素化ポリビニルカルバゾール、化合物HT1〜HT12、ET3およびET4がある。
【0349】
7.デバイスの他の層
デバイス中の他の層は、そのような層に有用であることが知られている任意の物質で作ることができる。
【0350】
陽極110は、正の電荷担体を注入するのに特に効率的な電極である。それは、例えば、金属を含む物質、混合金属、合金、金属酸化物または混合金属酸化物で作ることができるか、またはそれは導電性ポリマーにすることができるか、あるいはそれらの混合物にすることもできる。好適な金属としては、11族の金属、4〜6族の金属、および8〜10族の遷移金属がある。陽極を光透過性にする場合、12族、13族および14族の金属の混合金属酸化物(インジウム−スズ−酸化物など)が一般的に使用される。陽極110は、“Flexible light−emitting diodes made from soluble conducting polymer,”Nature vol.357,pp 477−479(11 June 1992)に記載されているようにポリアニリンなどの有機物質を含むこともできる。生じた光を見ることができるように、陽極および陰極のうちの少なくとも1つが、望ましくは少なくとも部分的に透明である。
【0351】
陰極160は、電子または負の電荷担体を注入するのに特に効率的な電極である。陰極は、陽極よりも仕事関数の小さい任意の金属または非金属であってよい。陰極用の物質は、1族のアルカリ金属(例えば、Li、Cs)、2族の(アルカリ土類)金属、12族の金属(希土類元素およびランタニドを含む)、およびアクチニドから選択できる。アルミニウム、インジウム、カルシウム、バリウム、サマリウムおよびマグネシウムなどの物質、ならびにそれらの組合せを使用できる。動作電圧を下げるために、有機層と陰極層との間にLi含有またはCs含有の有機金属化合物、LiF、CsF、およびLi2Oを付着させることもできる。
【0352】
有機電子デバイス中に別の層を設けることが知られている。例えば、注入される正電荷の量を制御するため、かつ/または層のバンドギャップを一致させるため、あるいは保護層として機能するための、陽極110と正孔注入層120との間の層(図示せず)があってよい。当該技術分野において知られている層を使用でき、それには、銅フタロシアニン、酸窒化ケイ素、フルオロカーボン類、シラン類、または金属(Ptなど)の極薄層がある。あるいはまた、陽極層110、活性層120、130、140、および150、または陰極層160の一部または全部を表面処理して、電荷担体輸送効率を増大させることができる。各成分層の物質の選択は、好ましくは、デバイスが高いエレクトロルミネセンス効率となるように正電荷と負電荷を釣り合わせることにより決定する。こうした層のいずれかまたはすべてが重水素化物質を含むことができる。
【0353】
各機能層は、複数の層で構成できることが理解される。
【0354】
好適な基板上に個々の層を順次蒸着させることを含め、さまざまな技法でデバイスを作製できる。ガラス、プラスチック、および金属などの基板を使用できる。熱蒸発、化学蒸着などの従来の蒸着手法を使用できる。あるいはまた、スピンコーティング、浸漬塗装、ロール間技法(roll−to−roll techniques)、インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷などの従来のコーティング技法または印刷技法(但し、それらに限定されない)を用いて、適切な溶媒の分散液または溶液から有機層を施すことができる。
【0355】
実施形態によっては、有機発光デバイスを製造するための方法は、
パターン化陽極をその上に有する基板を用意することと;
(a)重水素化重水素化電気的活性物質と(b)液状媒体とを含む第1液体組成物を付着させることによって電気的活性層を形成することと;
陰極全体を形成することと
を含む。
【0356】
「液体組成物」という用語は、1種または複数種の物質を溶かして溶液にした液状媒体、1種または複数種の物質を分散させて分散液にした液状媒体、または1種または複数種の物質を懸濁させて懸濁液またはエマルジョンにした液状媒体を含むことを意図する。
【0357】
上記の方法の実施形態によっては、重水素化電気的活性物質は重水素化正孔注入物質である。上記の方法の実施形態によっては、重水素化電気的活性物質は重水素化正孔輸送物質である。上記の方法の実施形態によっては、重水素化電気的活性物質は重水素化エレクトロルミネセンス物質である。上記の方法の実施形態によっては、重水素化電気的活性物質は重水素化ホスト物質である。上記の方法の実施形態によっては、重水素化電気的活性物質は重水素化電子輸送物質である。上記の方法の実施形態によっては、重水素化電気的活性物質は重水素化化学的閉じ込め物質である。
【0358】
実施形態によっては、この方法は、
第2液状媒体中に第2重水素化電気的活性物質を含んでいる第2液体組成物を付着させることによって第2電気的活性層を形成すること
をさらに含む。
【0359】
実施形態によっては、第2重水素化電気的活性物質は、重水素化正孔注入物質、重水素化正孔輸送物質、重水素化エレクトロルミネセンス物質、重水素化ホスト物質、重水素化電子輸送物質、および重水素化化学的閉じ込め物質よりなる群から選択される。
【0360】
連続および不連続技法を含め任意の周知の液体付着技法または技法の組合せを使用できる。連続液体付着技法の例としては、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、浸漬被覆、スロットダイコーティング、吹付け塗り、および連続ノズル印刷(continuous nozzle printing)があるが、これらに限定されない。不連続付着技法の例としては、インクジェット印刷、グラビア印刷、およびスクリーン印刷があるが、これらに限定されない。実施形態によっては、電気的活性層は、連続ノズルコーティングおよびインクジェット印刷から選択される方法でパターン状に形成される。ノズル印刷は連続技法と見なすことができるが、パターンは、層を形成させる所望の領域の上だけにノズルを配置することによって形成できる。例えば、連続した列のパターンを形成できる。
【0361】
付着させる特定の組成物用の好適な液状媒体は、当業者が容易に決めることができる。用途によっては、化合物を非水溶媒に溶かすのが望ましい。そのような非水溶媒は、比較的極性でありうるか(C1〜C20のアルコール、エーテル、および酸エステルなど)、あるいは比較的非極性でありうる(C1〜C12のアルカンまたは芳香族化合物(トルエン、キシレン、トリフルオロトルエンなど)など)。新規の化合物を含む液体組成物を(本明細書に記載されている溶液または分散液のいずれかとして)作るのに好適な別の液体として、塩素化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンなど)、芳香族炭化水素(置換または非置換のトルエンまたはキシレンなどで、トリフルオロトルエンを含む)、極性溶媒(テトラヒドロフラン(THF)、N−メチルピロリドン(NMP)など)、エステル(酢酸エチルなど)、アルコール(イソプロパノールなど)、ケトン(シクロペンタトン(cyclopentatone)など)、またはそれらの任意の混合物があるが、それらに限定されない。エレクトロルミネセンス物質用の溶媒の混合物の例は、例えば、米国特許出願公開第2008−0067473号明細書に記載されている。
【0362】
付着後に、物質を乾燥させて層を形成させる。加熱、真空、およびそれらの組合せを含め、従来の任意の乾燥技法を使用できる。
【0363】
実施形態によっては、デバイスは、正孔注入層、正孔輸送層、および電気的活性層の液体付着、ならびに陽極、電子輸送層、電子注入層および陰極の蒸着によって製造される。
【0364】
8.重水素化物質の合成
本明細書に記載の化合物の非重水素化類似体は、周知のカップリングおよび置換反応で調製できる。次いで新規の重水素化合物は、重水素化前駆体物質を用いるか、あるいは、より一般的には、ルイス酸H/D交換触媒(三塩化アルミニウムまたはエチルアルミニウムクロライド(ethyl aluminum chloride)など)、または酸(CF3COOD、DClなど)の存在下で、非重水素化合物を重水素化溶媒(d6−ベンゼンなど)で処理することにより、同じような仕方で調製できる。例示的な調製物を実施例に示す。重水素化のレベルは、NMR分析および質量分析法(大気圧固体分析プローブ質量分析法(ASAP−MS)など)によって求めることができる。
【0365】
過重水素化または部分重水素化された芳香族化合物またはアルキル化合物の出発物質は、製品供給元から購入できるか、または周知の方法を用いて得ることができる。そのような方法の幾つかの例は、a)“Efficient H/D Exchange Reactions of Alkyl−Substituted Benzene Derivatives by Means of the Pd/C-H2-D2O System” Hiroyoshi Esaki,Fumiyo Aoki,Miho Umemura,Masatsugu Kato,Tomohiro Maegawa,Yasunari Monguchi,and Hironao Sajiki Chem.Eur.J.2007,13,4052−4063; b)“Aromatic H/D Exchange Reaction Catalyzed by Groups 5 and 6 Metal Chlorides” GUO,Qiao−Xia,SHEN,Bao−Jian;GUO,Hai−Qing TAKAHASHI,Tamotsu Chinese Journal of Chemistry,2005,23,341−344; c)“A novel deuterium effect on dual charge−transfer and ligand−field emission of the cis−dichlorobis(2,2’−bipyridine)iridium(III)ion” Richard J.Watts,Shlomo Efrima,and Horia Metiu J.Am.Chem.Soc.,1979,101(10),2742−2743; d)“Efficient H−D Exchange of Aromatic Compounds in Near−Critical D20 Catalysed by a Polymer−Supported Sulphonic Acid”Carmen Boix and Martyn Poliakoff Tetrahedron Letters 40(1999)4433−4436; e)US3849458; f)“Efficient C−H/C−D Exchange Reaction on the Alkyl Side Chain of Aromatic Compounds Using Heterogeneous Pd/C in D2O”Hironao Sajiki,Fumiyo Aoki,Hiroyoshi Esaki,Tomohiro Maegawa,and Kosaku Hirota Org.Lett.,2004,6(9),1485−1487の中に見出すことができる。
【0366】
本明細書に記載の化合物は、液体付着技法を用いて膜にすることができる。驚くべきことに、こうした化合物は、予想外にも類似の非重水素化合物と比べて非常に特性が向上している。本明細書に記載の化合物を持つ活性層を含んだ電子デバイスは、寿命が大幅に向上した。加えて、量子効率が高くかつ彩度が良好な状態で、その寿命の増大が達成されている。さらに、本明細書に記載の重水素化合物は、非重水素化類似体よりも空気露出耐性(air tolerance)が大きい。そのため、物質の調製および精製の両方における処理耐久性(processing tolerance )が増大しうるし、またその物質を用いた電子デバイスが形成されうる。
【実施例】
【0367】
以下の実施例は、本発明の特定の特徴および利点を示す。それらは、本発明を例示することを意図したものであり、限定するものではない。百分率はすべて、特に記載がない限り、重量百分率である。
【0368】
合成の実施例1
この実施例は、重水素化正孔注入物質であるD−HIJ−1の調製を例示する。
【0369】
a.重水(D2O)中にジュウテロHFAPを含む分散液の調製
テトラフルオロエチレン(「TFE」)とパーフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸(「PSEPVE」)とのコポリマーを、以下のようにして、重水素化しD2O中にコロイド分散させたものにした。最初に、987グラム(1つの酸性部位当たりのコポリマーの重量)ごとにスルホン酸の1個の陽子を有するポリ(TFE−PSEPVE)を、温度がおよそ270℃であること以外は米国特許第6,150,426号明細書の実施例1の第2部の手順と似た手順を用いて、水分散液にした。非重水素化ポリ(TFE−PSEPVE)分散液を、液体の深さが5/8″以下であるトレー上でポリ(TFE−PSEPVE)の易流動性固体フレークに変えた。次いでそのトレーを0℃未満にして、まず水分散液を凍結させた。凍結したなら、水の大部分が除去されるまで1mmHg以下の部分真空圧にした。次いで、部分乾燥させた固体を真空圧下で約30℃まで引き上げて、ポリマーを合体させることなく水分を完全に除去した。
【0370】
21gの固体フレークの非重水素化ポリ(TFE−PSEPVE)(水を除去するために真空オーブン中で事前乾燥させたもの)を、金属円筒管(窒素で事前洗浄したもの)の中に入れた。Cambridge Isotope Lab,Inc.から購入した150gのD2Oを直ちに、ポリ(TFE−PSEPVE)の入った管に加えた。圧力実験室において、その管に蓋をして約270℃まで加熱してから室温まで冷却して、固体フレークが、D2O中にポリ(TFE−PSEPVE)を含むコロイド分散液になるようにした。さらに、重水素よりも圧倒的に多いポリ(TFE−PSEPVE)中の陽子を、重水素と置き換えて、ポリ(TFE−PSEPVE)の重水素化を完了させた。D2O中に重水素化ポリ(TFE−PSEPVE)(「D−ポリ(TFE−PSEPVE)」)を含む分散液をさらに処理して大きな粒子を除去した。D2O分散液中のD−ポリ(TFE−PSEPVE)の重量%は、重量法で測定すると、分散液の全重量を基準にして11.34重量%であった。
【0371】
b.ジュウテロHFAP、および重水(D2O)中にジュウテロHFAPを含む分散液を作る直接的方法。
【0372】
テトラフルオロエチレン(「TFE」)とパーフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸(「PSEPVE」)とのコポリマーを、以下のようにして重水素化し、D2O中にコロイド分散させた液にすることができる。987グラム(1つの酸性部位当たりのコポリマーの重量)ごとにスルホン酸の1個の陽子を有するポリ(TFE−PSEPVE)樹脂を、温度がおよそ270℃であり、かつD2Oを使用すること以外は、米国特許第6,150,426号明細書の実施例1の第2部の手順と似た手順を用いてD2O分散液にすることができる。
【0373】
c.重水素化HFAPがドープされた重水素化導電性ポリマーの調製
重水素化ピロール(「D5−Py」)(式量:72.12)をAldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)から購入した。この褐色の液体を、使用前に減圧下で分別蒸留した。無色の留出液は、13C NMR分光法で特性を決定して構造を確認した。
【0374】
D−ポリ(TFE−PSEPVE)/D2O分散液中のD5−Pyの重合を、以下のようにして実施した。実施例1で調製した70.2gのD−ポリ(TFE−PSEPVE)/D2Oを秤量して500mLの樹脂反応がまに最初に入れ、それからさらに14gのD2Oを入れた。D−ポリ(TFE−PSEPVE)/D2Oの量は、8.14ミリモルの酸に相当する。反応がまに、オーバーヘッド撹拌機を有するガラスの蓋をした。D−ポリ(TFE−PSEPVE)/D2Oを攪拌しながら、0.135g(0.26ミリモル)の硫酸第二鉄および0.62g(2.6ミリモル)のNa228(事前に10mLに溶かしたもの)をD−ポリ(TFE−PSEPVE)/D2Oに加えた。その後すぐに、0.175g(2.43ミリモル)のD5−Py(7mLのD2Oに事前に溶かしたもの)を1分以内に混合物に加えた。D5−Pyが添加されるとすぐに、重合が開始した。重合を10分間進行させた。成分の追加および重合は窒素下で行った。10分間の終わりに、Dowex M−43樹脂を樹脂反応がまに加え、およそ5分間混合した。417濾紙による真空濾過の後、Dowex M−31 Na+樹脂を混合物に加え、5分間混合した。417濾紙を用いて、得られた物質をもう一度真空濾過した。D−ポリ(TFE−PSEPVE)がドープされた重水素化ポリピロール(「ポリ(D5−Py)/D−ポリ(TFE−PSEPVE)」)のD2O分散液をイオン交換された樹脂で再び処理して、分散液をさらに精製した。その分散液には、1.79ppmのサルフェート、および0.79ppmの塩化物が含まれているだけであった。分散液の固体の%は、測定すると4.3%となり、pHを測定すると5.2となった。ドライボックス中で30分間275℃においてベーキングされたキャストフィルムの電気伝導率は、測定すると室温において〜1×10-6S/cmとなった。
【0375】
合成の実施例2
この実施例は、重水素化正孔輸送物質(HT5)の製法を例示するものである。これを以下に示すが、ここで、R1=n−プロピル、R2=n−オクチル、y=0およびx=42である:
【0376】
【化63】

【0377】
この化合物は以下の方式に従って作られる。
【0378】
【化64】

【0379】
中間化合物Y1の合成:
窒素雰囲気下において、AlCl3(0.17g、1.29ミリモル)を、2,2’−ジオクチル−4,4’−ジブロモ−1,1’−ビナフチレン(2.328g、3.66ミリモル)のC66(100mL)溶液に加えた。得られた混合物を室温で30分間攪拌し、その後、D2O(50mL)を加えた。層を分離させてから、水層をCH2Cl2(2×30mL)で洗浄した。一緒にした有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、揮発分を回転蒸発で除去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製した。化合物Y1を白色粉末として得た(1.96g)。
【0380】
中間化合物Y2の合成:
【0381】
【化65】

【0382】
化合物Y2は、上記の中間化合物C1の製法と類似の手順を用いて化合物Y1から作ることができる。化合物Y2は、クロマトグラフィーを用いて精製する。
【0383】
中間化合物Y3の合成:
【0384】
【化66】

【0385】
窒素下で、100mLの丸底フラスコに、化合物Y2(2.100g、2.410ミリモル)およびジクロロメタン(30mL)を仕込んだ。それを5分間攪拌されるようにし、その後、トリフルオロ酢酸(1.793mL)を加え、反応を一晩攪拌放置した。反応が完了してから、飽和炭酸ナトリウム溶液を用いてそれを急冷した。水を除去し、CH2Cl2で洗浄し、一緒にした有機層を蒸発乾燥させた。残留物はジエチルエーテル中に溶解した。生成物を炭酸ナトリウム、ブラインおよび水で洗浄し、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。化合物Y3はクロマトグラフィーを用いて精製し、1.037gを得た。
【0386】
化合物の構造は、図2に示すように1H NMRで確認した。
【0387】
中間化合物Y4の合成:
【0388】
【化67】

【0389】
C6D6(20mL)中に4−ブロモ−4’−プロピルビフェニル(5.10g、18.53ミリモル)を含む溶液を、30分間窒素で洗浄した。ヘキサン中にエチルアルミニウムジクロリド溶液を含む1.0M溶液(4.0mL、4.0ミリモル)を注射器で滴加し、反応混合物を環流させながら1.75時間にわたって窒素雰囲気下で加熱した。窒素雰囲気下で室温まで冷却した後、重水(20mL)を加え、その混合物を振盪してから層を分離させる。水層をベンゼン(3×10mL)で抽出し、一緒にした有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、回転蒸発で濃縮した。こうして得られた生成物をさらに2回、上記の反応条件に繰り返しさらした。3回目の処理の後に、粗生成物をエタノール(20mL)から再結晶させて、化合物Y4(1.01g)を白色固体として得る。Mp 110.1〜111.6℃。純度(UPLC):100%。Y4の1H NMスペクトルは、芳香族の8個の陽子が重水素で置換された場合の平均7.64と一致していた。
【0390】
中間化合物Y5の合成:
【0391】
【化68】

【0392】
窒素雰囲気下において、化合物Y3(1.04g、1.55ミリモル)、Y4(0.80g、2.82ミリモル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(81mg、0.09ミリモル)、トリ−t−ブチルホスフィン(42mg、0.21モル%)およびトルエン(25mL)を混ぜ合わせた。ナトリウムt−ブトキシド(0.52g、5.41ミリモル)を加えて、反応を室温で40時間攪拌した。次いで、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(50mg、0,05ミリモル)、トリ−t−ブチルホスフィン(30mg、0.15ミリモル)およびY4(196mg、0.69ミリモル)を加え、さらに反応混合物を50℃まで温めた。さらに72時間たった後、反応混合物をセライトのパッドに通して濾過し、CH2Cl2(50mL)で洗った。濾過液をロータリーエバポレーターで濃縮し、真空下で乾燥させた。生成物は、シリカゲルによる中圧(medium pressure)液体クロマトグラフィー(0〜40%の勾配の塩化メチレン/ヘキサン)で精製して、0.99g(59%の収率)の白色固体を得た。NMR分析により、4,4’−および4,5’−位置異性体の混合物として中間化合物Y5の構造が確認された。純度(UPLC):99.3%。
【0393】
中間化合物Y6の合成:
【0394】
【化69】

【0395】
ステップ1:重水素化4−ブロモビフェニルの調製
C6D6(20mL)中に4−ブロモビフェニル(4.66g、20.0ミリモル)を含む溶液を窒素で30分間洗浄した。ヘキサン中にエチルアルミニウムジクロリド溶液を含む1.0M溶液(4.0mL、4.0ミリモル)を注射器で滴加し、反応混合物を環流させながら50分間にわたって窒素雰囲気下で加熱した。窒素雰囲気下で室温まで冷却した後、重水(20mL)を加え、その混合物を振盪してから層を分離させる。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、回転蒸発で濃縮する。こうして得られた生成物をさらに4回、上記の反応条件に繰り返しさらした。5回目の処理の後、粗生成物をエタノール(20mL)から再結晶させて、ステップ1の表題化合物(2.26g)を白色固体として得た。Mp 92.8〜94.1℃。純度(UPLC):98.14%。質量スペクトルは、6〜9個の重水素原子が取り込まれたことを示した。
【0396】
ステップ2:Y6の調製:
ステップ1の生成物(2.26g、9.36ミリモル)およびヨウ素酸(687mg)を酢酸(40mL)中に溶かした。ヨウ素チップ(1.56g)を加え、その後に濃硫酸(1.0mL)と水(2.0mL)を加えて、反応混合物を210分間加熱還流した。室温まで冷却した後、沈殿物を濾過で回収し、水で洗浄し、次いでメタノールで洗浄した(それぞれ20mL)。粗生成物をEtOH/EtOAc(1/1)で再結晶させて、Y6(1.31g)を白色固体として得た。Mp 179.0〜181.3℃。純度(UPLC):100%。質量スペクトルは、平均6〜7個の重水素原子が取り込まれたことを示した。
【0397】
中間化合物Y7の合成:
【0398】
【化70】

【0399】
窒素洗浄したグローブボックス内で、電磁撹拌機、温度計および還流凝縮器(閉鎖位置にされたガス注入アダプター(gas inlet adaptor)が上部にあるもの)を備えた三つ口丸底フラスコに、Y5(986mg、0.92ミリモル)、Y6(1.30g、3.55ミリモル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(124mg、14.8モル%)、ビス(ジフェニルホスホノフェロセン(bis(diphenylphosphinoferrocene))(151mg、29.6モル%)およびトルエン(20mL)を、開口部(open neck)から仕込んだ。ナトリウムt−ブトキシド(0.30g、3.12ミリモル)を加え、開口部に蓋をし、反応器をグローブボックスから取り出した。窒素バブラーホースをガス注入アダプターに取り付けて、やや正圧の窒素下でストップコックを回して開放位置にした。環流させながら反応を加熱した。21時間後に、反応は、アリコートのUPLC分析により完了したと判断されたので、反応を室温まで冷やした。反応混合物をセライトのパッドに通して濾過し、CH2Cl2で洗浄した。濾過液を回転蒸発で濃縮した。粗生成物を高真空下で乾燥させ、シリカゲルによる中圧液体クロマトグラフィー(0〜40%の勾配の塩化メチレン/ヘキサン)で精製して、1.21の白色固体を得た。その固体を沸騰メタノールと共に2時間すり砕いて0.975gのY7を得た。1H NMR分析により、中間化合物Y7の構造が4,4’−および4,5’−位置異性体混合物の混合物であることが確認され、また平均して14個の芳香族の陽子が残っていることが示された。このことは、50個のうち36個の芳香族の水素が重水素で置換されていることを確証している質量スペクトルの親イオン(m/z 1550.3)によって裏付けられた。純度(UPLC):>99%。
【0400】
正孔輸送化合物HT5の化合物の合成:
中間化合物Y7の重合を、比較Aに関して記載したようにして実施した。ポリマーが68%の収率(0.285g)で白色固体として得られた。ポリマーの分子量は、GPC(THF移動相、ポリスチレン標準物質)で求めた:Mw=325,740;Mn=139,748;Mw/Mn=2.33。
【0401】
合成の実施例3
この実施例は、重水素化正孔輸送物質である化合物HT11(ここで、Σ(x)=18)の製法を例示するものである。
【0402】
化合物2の合成
【0403】
【化71】

【0404】
窒素雰囲気下において、250mLの丸底に、9,9−ジオクチル−2,7−ジブロモフルオレン(25.0g、45.58ミリモル)、フェニルボロン酸(12.23g、100.28ミリモル)、Pd2(dba)3(0.42g、0.46ミリモル)、PtBu3(0.22g、1.09ミリモル)および100mLのトルエンを仕込んだ。反応混合物を5分間攪拌し、その後KF(8.74g、150.43ミリモル)を2回に分けて加え、得られた溶液を室温で一晩攪拌した。その混合物を500mLのTHFで希釈し、シリカとセライトのプラグを通過させ、揮発分を減圧下で濾過液から除去した。ヘキサンを溶離剤として用いてシリカゲルによるフラッシュカラムクロマトグラフィーで黄色油を精製した。白色固体として80.0%(19.8g)の生成物が得られた。NMR分析は、その物質が上に示した構造を有する化合物2であることを示した。
【0405】
化合物3の合成
【0406】
【化72】

【0407】
凝縮器および滴下漏斗を備えた250mLの三つ口丸底フラスコをN2で30分間洗浄した。9,9−ジオクチル−2,7−ジフェニルフルオレン(19.8g、36.48ミリモル)を加え、100mLのジクロロメタンに溶かした。透明な溶液を−10℃まで冷却し、臭素(12.24g、76.60ミリモル)を20mLのジクロロメタン中に含む溶液を滴加した。その混合物を0℃で1時間攪拌し、それから室温になるまで温まるままにし、一晩攪拌した。100mLの10%Na223水溶液を加え、反応混合物を1時間攪拌した。有機層を抽出し、水層を100mLのジクロロメタンで3回洗浄した。一緒にした有機層をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、乾燥するまで濃縮した。得られた油にアセトンを加えると、白色沈殿が生じた。濾過して乾燥させると、白色粉末が得られた(13.3g、52.2%)。NMR分析は、その物質が上記に示した構造を有する化合物3であることを示した。
【0408】
化合物4の合成
【0409】
【化73】

【0410】
窒素雰囲気下において、250mLの丸底に、3(13.1g、18.70ミリモル)、アニリン(3.66g、39.27ミリモル)、Pd2(dba)3(0.34g、0.37ミリモル)、PtBu3(0.15g、0.75ミリモル)および100mLのトルエンを仕込んだ。反応混合物を10分間攪拌し、その後NaOtBu(3.68g、38.33ミリモル)を加え、反応混合物を室温で1日間攪拌した。得られた反応混合物を3Lのトルエンで希釈し、シリカとセライトのプラグを通過させて濾過した。揮発分を蒸発させたなら、得られた暗褐色の油を、酢酸エチル:ヘキサンが1:10の混合物を溶離剤として用いて、シリカゲルによるフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製した。50.2%(6.8g)の生成物が淡黄色の粉末として得られた。NMR分析は、その物質が上に示した構造を有する化合物4であることを示した。
【0411】
化合物5の合成
【0412】
【化74】

【0413】
凝縮器を備えた250mLの三つ口丸底フラスコ中で、4(4.00g、5.52ミリモル)、1−ブロモ−4−ヨードベンゼン(4.68g、16.55ミリモル)、Pd2(dba)3(0.30g、0.33ミリモル)およびDPPF(0.37g、0.66ミリモル)を80mLのトルエンと一緒にした。得られた混合物を10分間攪拌した。NaOtBu(1.17g、12.14ミリモル)を加え、その混合物を4日間80℃に加熱した。得られた反応混合物を1Lのトルエンおよび1LのTHFで希釈し、シリカとセライトのプラグを通過させて不溶性塩を除去した。揮発分を蒸発させたなら、得られた褐色の油を、ジクロロメタン:ヘキサンが1:10の混合物を溶離剤として用いて、シリカゲルによるフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製した。乾燥後に黄色粉末が得られた(4.8g、84.8%)。NMR分析は、その物質が上に示した構造を有する化合物5であることを示した。
【0414】
化合物6の合成
【0415】
【化75】

【0416】
窒素雰囲気下において、1gの化合物5をC66(20mL)に溶かし、それにCF3OSO2D(1.4mL)を滴加した。その反応混合物は室温で一晩攪拌されるようにし、その後、飽和Na2CO3/D2Oで急冷した。有機層を分離し、MgSO4で乾燥させた。シリカクロマトグラフィー(20%CH2Cl2:ヘキサン)を用いて生成物を精製して、0.688gの物質を得た。分離された物質のMSスペクトルにより、18個の芳香族Dを有するその構造が確認された。
【0417】
化合物6の重合:
操作はすべて、特に記載のない限り、窒素洗浄されたグローブボックス中で実施した。化合物6(0.652g、0.50ミリモル)をシンチレーションバイアルに加え、16mLのトルエンに溶かした。清浄で乾燥した50mLのシュレンク管に、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(0.344g、1.252ミリモル)を仕込んだ。2,2’−ジピリジル(0.195g、1.252ミリモル)および1,5−シクロオクタジエン(0.135g、1.252ミリモル)を秤量してシンチレーションバイアルに入れ、3.79gのN,N’−ジメチルホルムアミドに溶かした。その溶液をシュレンク管に加えた。シュレンク管をアルミニウムブロックの中に挿入し、そのブロックを、内部温度が60℃になる設定点において熱板/撹拌機で加熱・攪拌した。触媒系を45分間60℃に保持してから、65℃に上昇させた。モノマーのトルエン溶液をシュレンク管に加え、その管を密閉した。トルエン(8mL)を加えることによって粘度を調節しながら、重合混合物を65℃で1だけ攪拌した。反応混合物を室温まで冷まし、20mLの濃HCLを加えた。その混合物を45分間、攪拌されるままにした。ポリマーを真空濾過で回収し、さらなるメタノールで洗浄し、高真空下で乾燥させた。トルエンからアセトンおよびMeOHへ移す連続沈殿によりポリマーを精製した。白色の繊維状ポリマー(0.437g、79%の収率)が得られた。ポリマーの分子量は、GPC(THF移動相、ポリスチレン標準物質)で求めた:Mw=1,696,019;Mn=873,259。NMR分析により、その構造がポリマーである化合物HT11であることが確認された。
【0418】
合成の実施例4
この実施例は、以下に示す重水素化エレクトロルミネセンス物質E4の製法を例示するものである。
【0419】
【化76】

【0420】
0.45gの2,6−ジ−t−ブチル−9,10−ジブロモアントラセン(1mM)(Muller,U.;Adam,M.;Mullen,K.Chem.Ber.1994,127,437−444)を、窒素で満たされたグローブボックス内にある丸底フラスコに入れ、0.38g(2.2mM)のジ(ペルジュウテロフェニル)アミンおよび0.2gのナトリウムtert−ブトキシド(2mM)を40mLのトルエンと共に加えた。0.15gのPd2DBA3(0.15mM)および0.07gのP(t−Bu)3(0.3mM)を10mLのトルエンに溶かして、攪拌しながら最初の溶液に加えた。すべての物質を混合すると、溶液はゆっくり発熱し、黄褐色になる。溶液を、グローブボックス内で、80Cで窒素下において1時間攪拌し加熱した。溶液はその時すぐには暗紫色であるが、〜80Cに達すると、それは人目を引く緑色ルミネセンスを伴う暗黄緑色である。室温まで冷やした後、溶液をグローブボックスから取り出し、塩基性アルミナの短いプラグを通過させて濾過し、トルエンで溶出させて、明るい黄緑色のバンドを得る。溶媒を蒸発させて、物質をトルエン/メタノールで再結晶させた。収量:0.55g。構造は1H NMRで確認した。
【0421】
合成の実施例5
この実施例は、重水素化ホスト化合物H14の製法を例示するものである。
【0422】
非重水素化類似体化合物(比較化合物A)を最初に作った。
【0423】
【化77】

【0424】
この化合物は以下の方式に従って調製できる:
【0425】
【化78】

【0426】
化合物2の合成
機械式撹拌器、滴下漏斗、温度計およびN2バブラーを取り付けた3Lのフラスコに、1.5Lの乾燥塩化メチレン中に含まれるアントロン54g(275.2ミリモル)を加えた。フラスコを氷浴で冷却し、83.7ml(559.7ミリモル)の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(「DBU」)を1.5時間にわたって滴下漏斗で加えた。溶液はオレンジに変わり、不透明になり、それから深紅に変わった。まだ冷たい溶液に、溶液の温度を5℃未満に保ちつつ、注射器で約1.5時間かけてトリフル酸無水物(triflic anhydride)を58ml(345.0ミリモル)加えた。室温で3時間反応を進行させ、その後、1mLのトリフル酸無水物をさらに加え、室温での攪拌を30分間継続した。500mLの水をゆっくり加えると、層が分離した。水層を3×200mLのジクロロメタン(「DCM」)で抽出し、一緒にした有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、回転蒸発で濃縮して赤色油を得た。シリカゲルによるカラムクロマトグラフィーに続いてヘキサンで結晶化すると、43.1g(43%)の黄褐色粉末が得られた。
【0427】
化合物3の合成
窒素充填グローブボックス内の磁気攪拌棒を備えた200mLのケルダール反応フラスコに、アントラセン−9−イルトリフルオロメタンスルホネート(6.0g、18.40ミリモル)、ナフタレン(Napthalen)−2−イル−ボロン酸(3.78g、22.1ミリモル)、三塩基性リン酸カリウム(17.50g、82.0ミリモル)、パラジウム(II)アセテート(0.41g、1.8ミリモル)、トリシクロヘキシルホスフィン(0.52g、1.8ミリモル)およびTHF(100mL)を加えた。ドライボックスから取り出した後、反応混合物を窒素で洗浄し、脱気水(50mL)を注射器で加えた。次いで、凝縮器を取り付けて反応を一晩還流させた。反応はTLCで監視した。反応が完了してから、混合物を室温まで冷却した。有機層を分離し、水層をDCMで抽出した。有機部分を一緒にし、ブラインで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧下で除去した。得られた固体をアセトンおよびヘキサンで洗浄し、濾過した。シリカゲルによるカラムクロマトグラフィーで精製すると、4.03g(72%)の生成物が淡黄色の結晶物質として得られた。
【0428】
化合物4の合成:
9−(ナフタレン−2−イル)アントラセン(11.17g(36.7ミリモル))を100mLのDCM中に懸濁させた。6.86g(38.5ミリモル)のN−ブロモスクシンイミドを加え、100Wのランプの照明をあてながら混合物を攪拌した。黄色の透明な溶液が形成され、その後に沈殿が生じた。反応はTLCで監視した。1.5時間後に、反応混合物を部分的に濃縮して塩化メチレンを除去し、その後、アセトニトリルで結晶化させて12.2gの淡黄色結晶(87%)を得た。
【0429】
化合物7の合成:
窒素が充填されたグローブボックス内にある攪拌子を備えた500mLの丸底フラスコに、ナフタレン−1−イル−1−ボロン酸(14.2g、82.6ミリモル)、1−ブロモ−2−ヨードベンゼン(25.8g、91.2ミリモル)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.2g、1.4ミリモル)、炭酸ナトリウム(25.4g、240ミリモル)、およびトルエン(120mL)を加えた。ドライボックスから取り出した後、反応混合物を窒素で洗浄し、脱気水(120mL)を注射器で加えた。次いで、反応フラスコに凝縮器を取り付け、反応を15時間還流させた。反応はTLCで監視した。反応混合物を室温まで冷却した。有機層を分離し、水層をDCMで抽出した。有機部分を一緒にし、溶媒を減圧下で除去して黄色油を得た。シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで精製すると、13.6gの透明な油(58%)が得られた。
【0430】
化合物6の合成:
磁気攪拌棒、還流凝縮器(窒素管路に接続されているもの)および油浴を備えた1リットルのフラスコに、4−ブロモフェニル−1−ナフタレン(28.4g、10.0ミリモル)、ビス(ピナコレート(pinacolate))ジボロン(40.8g、16.0ミリモル)、Pd(dppf)2Cl2(1.64g、2.0ミリモル)、酢酸カリウム(19.7g、200ミリモル)、およびDMSO(350mL)を加えた。混合物を窒素で15分間泡立たせてから、Pd(dppf)2Cl2(1.64g、0.002モル)を加えた。この過程の間に、混合物は暗褐色に徐々に変化した。反応を120℃(油浴)で窒素下において18時間攪拌した。冷却後に、混合物を氷水中に注ぎ、クロロホルム(3×)で抽出した。有機層を水(3×)および飽和ブライン(1×)で洗い、MgSO4で乾燥させた。濾過し、溶媒を除去した後、残留物をシリカゲルカラムによるクロマトグラフィーで精製した。生成物を含む部分を一緒にし、溶媒を回転蒸発によって除去した。得られた白色固体をヘキサン/クロロホルムで結晶化し、真空オーブン内において40℃で乾燥させて生成物を白色結晶フレークとして得た(15.0g、収率45%)。1Hおよび13C−NMRスペクトルは、予期された構造と一致する。
【0431】
比較化合物Aの合成
グローブボックス内の250mLのフラスコに、(2.00g、5.23ミリモル)、4,4,5,5−テトラメチル−2−(4−(ナフタレン−4−イル)フェニル)−1,3,2−ジオキサボロラン(1.90g、5.74ミリモル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(0.24g、0.26ミリモル)、およびトルエン(50mL)を加えた。反応フラスコをドライボックスから取り出し、窒素注入口付き凝縮器を取り付けた。脱気した炭酸ナトリウム水溶液(2M、20mL)を注射器で加えた。反応を一晩にわたって攪拌しかつ90℃に加熱した。反応はHPLCで監視した。室温まで冷却した後、有機層を分離した。水層をDCMで2回洗い、一緒にした有機層を回転蒸発で濃縮して、灰色の粉末を得た。中性アルミナによる濾過、ヘキサンによる沈殿、およびシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーによって精製すると、2.28gの白色粉末(86%)が得られた。
【0432】
米国特許出願公開第2008−0138655号明細書に記載されているようにして生成物をさらに精製して、HPLCでの純度を少なくとも99.9%および不純物の吸光度を0.01以下にした。
【0433】
化合物Aの1H NMRスペクトルを図2に示す。
【0434】
重水素化ホスト化合物H14を比較化合物Aから作った。
【0435】
【化79】

【0436】
窒素雰囲気下において、AlCl3(0.48g、3.6ミリモル)を、比較例Aの比較化合物A(5g、9.87ミリモル)のペルジュウテロベンゼン(perdeuterobenzene)またはベンゼン−D6(C66)(100mL)溶液に加えた。得られた混合物を室温で6時間攪拌し、その後、D2O(50mL)を加えた。層を分離させてから、水層をCH2Cl2(2×30mL)で洗浄した。一緒にした有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、揮発分を回転蒸発で除去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製した。重水素化生成物H1(x+y+n+m=21〜23)を白色粉末として得た(4.5g)。
【0437】
米国特許出願公開第2008−0138655号明細書に記載されているようにして生成物をさらに精製して、HPLCでの純度を少なくとも99.9%にし、不純物の吸光度を0.01以下にした。その物質は、上記から、比較化合物Aと同じレベルの純度であることが判明した。
【0438】
1H NMR(CD2Cl2)およびASAP−MSにより、化合物は以下に示す構造を有することが示された:
【0439】
【化80】

【0440】
上式において、「D/H」は、HまたはDがほぼ等しい確率でこの原子位置にあることを示す。構造は、1H NMR、13C NMR、2D NMRおよび1H−13C HSQC(異核種単一量子コヒーレンス法(Heteronuclear Single Quantum Coherence))で確認された。
【0441】
合成の実施例6
この実施例は、重水素化電子輸送物質(ET2)の製法を例示するものである。
【0442】
a)Yamada et al Bull Chem Soc Jpn,63,2710,1990の手順を用いて、トリメチレン架橋バソフェナントロリンを次のようにして調製した:2gのバソフェナントロリンを20gの1,3−ジブロモプロパンに入れ、空気下で還流させた。約30分間後に、濃いオレンジ色のスラリーを冷却した。メタノールを加えて固体を溶かしてから、アセトンを加えて明るいオレンジ色の固体を沈殿させた。これを濾過し、トルエンおよびジクロロメタン(「DCM」)で洗浄すると、結果として、オレンジ色の粉末が2.8gの収量で得られた。
【0443】
【化81】

【0444】
b)上記の生成物2.8gを12mLの水に溶かし、30mLの水の中に21gのフェリシアン化カリウムおよび10gの水酸化ナトリウムを含む氷冷溶液に約30分間にわたって滴下し、その後90分間攪拌した。これを再び氷で冷やし、pHが約8となるように60mLの4M HClで中和した。薄い黄褐色/黄色の固体を濾過して取り、吸引乾燥させた。濾過した固体をソックスレーに入れ、クロロホルムによる抽出によって褐色溶液を抽出した。これを茶色っぽい油状固体になるまで蒸発させてから、少量のメタノールで洗って薄い褐色固体(〜1.0g、47%)を得た。生成物は、混合物からクロロホルムを蒸発させることで、金色の小板としてクロロホルム/メタノールから再結晶させてもよい。構造は、NMRにより、以下のジケトンであると同定された。
【0445】
【化82】

【0446】
c)上記のステップ(b)のジケトンの各部分を一緒にしたもの(合計が5.5g(13.6mM))を39mLのPOCl3中に懸濁させ、5.4gのPCl5を加えた。これを脱気し、窒素下で8時間にわたって還流した。過剰のPOCl3を蒸発によって除去した。氷を加えて残っている塩化物を分解し、混合物をアンモニア溶液で中和した。褐色の沈殿物を回収し、真空下で乾燥させるとともに、母液を塩化メチレンで抽出した。褐色物質をすべて一緒にし、蒸発させて褐色のゴムにし、メタノールを加えた。振盪および攪拌後に、淡黄色の固体を分離し、それをオフホワイトの針状物としてCHCl3およびメタノール(1:10)から再結晶させた。NMRによる分析により、その構造が、以下に示す2,9−ジクロロ−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンであることが示された。
【0447】
【化83】

【0448】
d)非重水素化類似体化合物は、以下に示す2,9−ジクロロ−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンとボロン酸エステルとの鈴木カップリングを用いて調製した。
【0449】
【化84】

【0450】
1.0gのジクロロ−phen(2.5mM)をグローブボックス内に入れ、3.12g(6mM)のボロン酸エステルを加える。0.15gのPd2DBA3(DBA=ジベンジリデンアセトン)(0.15mM)、0.1gのトリシクロヘキシルホスフィン(0.35mM)および2.0gのリン酸カリウム(9mM)を加え、そのすべてを30mLのジオキサンおよび15mLの水に溶かす。グローブボックス内においてマントルで100Cにおいて1時間だけ混合加熱してから、窒素下で一晩穏やかに温める(加減抵抗器の最小設定)。溶液はその時すぐには暗紫色であるが、〜80℃に達すると、黄褐色(tan brown)のスラリーであり、それは高密度の沈殿が生じるとゆっくり透明な褐色になる。溶液が還流する(空気式凝縮器(air condensor))につれ、褐色のゴム状物質が形成される。グローブボックスから取り出すことにより、冷やして操作を進め、それから水を加える。DCM中に抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させる。シリカ/フロリジルのプラグでクロマトグラフィーによる分離を行い、DCMで、次いでDCM/メタノール(2:1)で溶出させる。蒸発させた淡黄色の溶液を回収し、メタノールを添加すると白色/淡黄色の固体が沈殿する。構造は、NMR分析により、以下の化合物であることが確認された。
【0451】
【化85】

【0452】
e)化合物ET2は、非重水素化類似体化合物から作った。
【0453】
【化86】

【0454】
窒素雰囲気下において、上のステップ(d)からの化合物(1.925g)をC66(200mL)に溶かし、それにCF3OSO2D(13.2mL)を滴加した。その反応混合物は室温で一晩攪拌されるようにし、その後、飽和Na2CO3/D2Oで急冷した。有機層を分離し、MgSO4で乾燥させた。シリカクロマトグラフィー(CH2Cl2:ヘキサン)を用いて生成物を精製して、1.70gの物質を得た。分離した物質のNMRスペクトルにより、構造が、Hと置換された32〜34個のDを有するET2であると確認された。
【0455】
合成の実施例7
この実施例は、重水素化電子輸送物質(ET4)の製法を例示するものである。
【0456】
配位子であるD6−8−ヒドロキシキノリンの合成
【0457】
【化87】

【0458】
8−ヒドロキシキノリン(93.00g、20.667ミリモル)とD2O(60mL)と10%Pd/C(0.200g)との混合物を、窒素雰囲気下にあるパー(Parr)反応器に入れ、16時間の間180Cに加熱した。得られた混合物をジエチルエーテル(200mL)に加え、層を分離させ、有機層をセライトに通して濾過した。揮発分を蒸発させた後、得られた固体を、クロマトグラフィー(20%DCM/ヘキサン)を用いて精製して、2.4g(収率77%)のD6−8−ヒドロキシキノリン生成物を得た。
【0459】
ET4の合成
1.0gの塩化ジルコニウム(IV)を10mLの乾燥メタノールと混合し、3.2gのD6−8−ヒドロキシキノリンを10mLの乾燥メタノール中に含む攪拌されている溶液に加えた。これは、窒素下で30分間攪拌し、還流させた。Zr反応物はすぐに濃い黄色の沈殿物を形成し、それを30分間、攪拌および加熱還流した。これに4.8gのトリ−n−ブチルアミンを加え、還流を15分間続けた。濃い黄色の沈殿物を濾過し、メタノールおよびアンモニア(1N)で洗浄した。それを乾燥させてから、淡黄色の溶液として塩化メチレンで抽出し、メタノールを加えて再沈殿させた。構造は1H NMRで確認した。
【0460】
合成の実施例8
この実施例は、重水素化エレクトロルミネセンス化合物E13の製法を例示するものである。
【0461】
a)以下に示す化合物を、Yan et.al.,J.Mater.Chem.,2004,14,2295−3000の手順に従って作った。
【0462】
【化88】

【0463】
b)非重水素化合物を以下の方式に従って調製した。
【0464】
【化89】

【0465】
1.0gのブロモスチルベン(2.3mM)をグローブボックス内に入れ、0.74g(2.3mM)の示されている第二アミンおよび0.24gのt−BuONa(2.4mM)を10mLのトルエンと一緒に加える。トルエンに溶かした40mgのP(t−Bu)3、100mgのPd2DBA3を加える。グローブボックス内においてマントルで窒素下において80Cで1時間混合加熱する。溶液は、その時すぐには暗紫色であるが、〜80Cに達すると、顕著な青色ルミネセンスを伴う暗黄色である。物質を冷却し、グローブボックスから取り出し、クロマトグラフィーで精製し、トルエンで溶出させる。青色ルミネセンスの物質は非常によく溶け、淡黄色の溶液として溶出する。溶液を蒸発させて、容積を小さくし、メタノールを加えて輝く青色の光ルミネセンスを伴う淡黄色の固体を沈殿させる。NMR分析により構造が確認された。
【0466】
c)化合物E13を、合成の実施例6の手順と似た手順を用いて、上記のステップ(b)からの化合物を重水素化することにより調製した。
【0467】
デバイスの実施例1〜6
以下の非重水素化物質を用いた。
【0468】
HIJ−AおよびHIJ−Bは、導電性ポリマーおよび高分子フッ素化スルホン酸の水性分散液である。そのような物質は、例えば、米国特許出願公開第2004/0102577号明細書、米国特許出願公開第2004/0127637号明細書、米国特許出願公開第2005/0205860号明細書、および公開されたPCT出願の国際公開第2009/018009号パンフレットに記載されている。
【0469】
ポリマーPol−Aは、非架橋のアリールアミンポリマー(20nm)である。
ELM−AおよびELM−Bは、青色発光するエレクトロルミネセンスのビス(ジアリールアミノ)クリセン化合物である。
【0470】
ホストAは、ジアリールアントラセン化合物である。
【0471】
ET−Aは、金属キノレート誘導体(10nm)である。
【0472】
装置の実施例1では、重水素化物質は正孔注入層中に存在した。正孔注入層は、合成の実施例1からのD5−PPy/D−ポリ(TFE−PSEPVE)であった。
【0473】
装置の実施例2では、重水素化物質は正孔輸送層中に存在した。正孔輸送層は合成の実施例2からのHT5であった。
【0474】
装置の実施例3では、重水素化物質はエレクトロルミネセンス層中に存在した。エレクトロルミネセンス物質は合成の実施例4からのE4であった。
【0475】
装置の実施例4では、重水素化物質はエレクトロルミネセンス層中に存在した。エレクトロルミネセンス層中のホストは、合成の実施例5からのH14であった。
【0476】
装置の実施例5では、重水素化物質は電子輸送層中に存在した。電子輸送層は合成の実施例6からのET2であった。
【0477】
装置の実施例6では、重水素化物質は電子輸送層中に存在した。電子輸送層は合成の実施例7からのET4であった。
【0478】
それぞれのデバイスで、陽極はインジウム・スズ・酸化物(ITO)であり、電子注入層はCsFであり、陰極はAl(100nm)であった。実施例1、2、4、5、および6では、陽極の厚さは50nmであり、実施例3では、陽極の厚さは180nmであった。実施例1〜4および6では、電子注入層の厚さは1nmであり、実施例5では電子注入の厚さは0.7nmであった。他の層の物質および厚さについては、以下の表1に要約してある。
【0479】
【表1】

【0480】
OLEDデバイスは、溶液処理と熱蒸発技法とを併用することによって作製した。パターン化インジウム・スズ・酸化物(ITO)で被覆されたガラス基板(Thin Film Devices,Incからのもの)を使用した。こうしたITO基板は、シート抵抗が30オーム/平方であり光透過率が80%であるITOで被覆されたCorning 1737ガラスをベースにしている。パターン化ITO基板を、洗浄剤水溶液中で超音波を使って清浄にし、蒸留水ですすいだ。その後、パターン化ITOをアセトン中で超音波を使って清浄にし、イソプロパノールですすぎ、窒素流で乾燥させた。
【0481】
デバイスの作製の直前に、清浄にしたパターン化ITO基板を紫外オゾンで10分間処理した。冷却直後に、正孔注入物質の水性分散液を、ITO表面を覆うようにスピンコーティングし、加熱して溶媒を除去した。冷却後、次いで基板を正孔輸送物質の溶液でスピンコーティングし、次いで加熱して溶媒を除去した。冷却後、基板をエレクトロルミネセンス層溶液でスピンコーティングし、加熱して溶媒を除去した。基板をマスキングし、真空チャンバーに入れた。電子輸送層を熱蒸発によって付着させ、その後、CsF層を電子注入層として付着させた。次いで真空中でマスクを変え、Al層を熱蒸発で付着させて陰極を形成させた。チャンバーのガス抜きを行い、ガラスの蓋、乾燥剤、および紫外線硬化性エポキシを用いてデバイスをカプセル化した。
【0482】
OLED試料は、(1)電流−電圧(I−V)曲線、(2)エレクトロルミネセンスの輝度 対 電圧、および(3)エレクトロルミネセンススペクトル 対 電圧を測定して特徴を決定した。3種類の測定はすべて同時にコンピュータで実行し制御した。ある一定電圧でのデバイスの電流効率は、LEDのエレクトロルミネセンス輝度を、デバイスを作動させるのに必要な電流で割ることによって求める。単位はcd/Aである。電力効率は、電流効率にpiを乗じ、動作電圧で割ったものである。単位はlm/Wである。デバイスのデータを、表2および表3に示す。
【0483】
【表2】

【0484】
【表3】

【0485】
この実施例では、半減期ではなく、70%の輝度に達する時間を求めた。しかし、計算半減期は、70%の輝度に達する計算された時間よりもはるかに長いであろう。したがって、1000ニットでの半減期は、明らかに10,000時間より長い。
【0486】
デバイスの実施例7
この実施例は、液体付着によって形成された重水素化下塗層を有する電子デバイスを例示する。ここでは、正孔輸送層とエレクトロルミネセンス層も液体付着によって形成される。
【0487】
デバイスは、ガラス基板上に以下の構造を有していた:
陽極=ITO:50nm
正孔注入層=HIJ−B(50nm)
下塗層:HT11(20nm)
正孔輸送層=Pol−A(20nm)
エレクトロルミネセンス層=ホストH14:ドーパントELM−Bが、13:1の重量比である(40nm)
電子輸送層=ET−A(10nm)
陰極=CsF/Al(1/100nm)
【0488】
OLEDデバイスは、溶液処理と熱蒸発技法とを併用することによって作製した。パターン化インジウム・スズ・酸化物(ITO)で被覆されたガラス基板(Thin Film Devices,Incからのもの)を使用した。このITO基板は、シート抵抗が30オーム/平方であり光透過率が80%であるITOで被覆されたCorning 1737ガラスをベースにしている。パターン化ITO基板を、洗浄剤水溶液中で超音波を使って清浄にし、蒸留水ですすいだ。その後、パターン化ITOをアセトン中で超音波を使って清浄にし、イソプロパノールですすぎ、窒素流で乾燥させた。
【0489】
デバイスの作製の直前に、清浄にしたパターン化ITO基板を紫外オゾンで10分間処理した。冷却直後に、HIJ−Bの水性分散液を、ITO表面を覆うようにスピンコーティングし、加熱して溶媒を除去した。冷却後に、HT11のトルエン溶液を正孔注入層の上にスピンコーティングすることによって、下塗層を形成させた。下塗層は、100mJ/cm2の放射線量を用いて248nmで画像状に暴露した。暴露後に、下塗層は、2000rpmで60秒間スピンさせながらアニソールを吹き付け、30秒間スピンさせて乾燥させることにより、現像した。次いで、基板を正孔輸送物質の溶液でスピンコーティングし、その後、加熱して溶媒を除去した。エレクトロルミネセンス層は、スピンコーティングにより安息香酸メチル溶液から付着させ、その後加熱して溶媒を除去した。冷却後に、基板をマスキングし、真空チャンバーに入れた。次いで電子輸送物質を熱蒸発で付着させ、その後CsF層を付着させた。次いで真空中でマスクを変え、Al層を熱蒸発で付着させた。チャンバーのガス抜きを行い、ガラスの蓋、乾燥剤、および紫外線硬化性エポキシを用いてデバイスをカプセル化した。
【0490】
OLED試料は、上述のような特徴を有していた。
【0491】
得られたデバイスのデータを表4に示す。
【0492】
【表4】

【0493】
デバイスの実施例8
この実施例は、重水素化ホストと重水素化エレクトロルミネセンスドーパントとを含むエレクトロルミネセンス層を有する電子デバイスを例示するものである。
【0494】
デバイスは、ガラス基板上に以下の構造を有していた:
陽極=ITO:50nm
正孔注入層=HIJ−B(50nm)
正孔輸送層=Pol−A(20nm)
エレクトロルミネセンス層=ホストH14:ドーパントE13が86:14の重量比である(40nm)
電子輸送層=ET−A(10nm)
陰極=CsF/Al(0.7/100nm)
【0495】
OLEDデバイスは、デバイスの実施例1に記載したようにして作製した。結果を表5に示す。
【0496】
【表5】

【0497】
表中のデータで示されているように、重水素化物質を含む少なくとも1種の層を持つデバイスは、計算半減期が5000時間より長かった。デバイスの実施例3では、計算半減期が50,000時間より長かった。
【0498】
概要および実施例において上で述べた作業のすべてが必要であるわけではないこと、特定作業の一部は必要ではないことがあること、また説明したものに加えて1つまたは複数の更なる作業が実行されうることに留意されたい。またさらに、列挙されている作業の順序は、必ずしもそれらが実行される順序ではない。
【0499】
上記の明細書により、各概念が特定の実施形態に関連して説明された。しかし、以下の請求項に記載した本発明の範囲から逸脱することなく様々な修正および変更を行うことができることは、当業者により理解される。したがって、明細書および図は、制限的な意味ではなく例示的なものと見なすべきであり、そのような修正はすべて本発明の範囲に含まれることが意図される。
【0500】
上記において、便益、他の利点、および問題の解決法は、特定の実施形態に関連して説明されている。しかし、便益、利点、問題の解決法、ならびにいずれかの便益、利点、または解決法をもたらしうるかまたはより顕著なものにしうるどの特徴も、いずれかまたはすべての請求項の重要な特徴、必須の特徴、または基本的特徴と解釈すべきではない。
【0501】
明快にするために別々の実施形態の文脈において本明細書で説明されている特定の複数の特徴を、1つの実施形態で兼ね備えさせることもできることを理解すべきである。その逆に、簡潔にするために1つの実施形態の文脈で説明されている様々な特徴を、別個に、あるいは任意の副次的な組合せで備えさせることもできる。
【0502】
本明細書に明記されている様々な範囲内の数値が使用されている場合、近似値として示されており、これは、示されている範囲内の最小値および最大値の両方に「約」という言葉が付けられているかのようである。こうして、示されている範囲より上および下のわずかな変化値は、その範囲内の値と実質的に同じ結果を得るのに使用できる。また、開示されているこうした範囲は、最小平均値と最大平均値の間のすべての値(ある値の成分の幾つかを別の値の成分と合わせた場合に生じうる小数値を含む)を含む連続範囲であることを意図する。さらに、広い範囲および狭い範囲が開示されている場合、ある範囲の最小値と別の範囲の最大値を組み合わせることおよびその逆も、本発明において企図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極とそれらの間の有機活性層とを含む有機発光ダイオードであって、前記有機活性層が重水素化合物を含み、前記デバイスの1000ニットでの計算半減期が少なくとも5000時間である、有機発光ダイオード。
【請求項2】
前記有機活性層が重水素化導電性ポリマーおよびフッ素化酸ポリマーを含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項3】
前記有機活性層が、分子式単位当たり少なくとも2個のジアリールアミノ部分を有する正孔輸送重水素化合物を含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項4】
前記有機活性層が、重水素化高分子トリアリールアミン類、重水素化ポリカルバゾール類、重水素化ポリフルオレン類、非平面構成で結合している共役部分を有する重水素化高分子トリアリールアミン類、フルオレンとトリアリールアミンとの重水素化コポリマー、およびそれらの組合せよりなる群から選択される物質を含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項5】
前記有機活性層が、重水素化クリセン類、重水素化ピレン類、重水素化ペリレン類、重水素化ルブレン類、重水素化ペリフランテン類、重水素化フルオランテン類、重水素化スチルベン類、重水素化クマリン類、重水素化アントラセン類、重水素化チアジアゾール類、重水素化スピロビフルオレン類、それらの誘導体、およびそれらの混合物よりなる群から選択されるエレクトロルミネセンス化合物を含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項6】
前記有機活性層が、次式:
【化1】

[式中、
Aは、それぞれの出現箇所で同一または異なっていて、3〜60個の炭素原子を有する芳香族基であり;
Q’は、ナフタレン、アントラセン、ベンズ[a]アントラセン、ジベンズ[a,h]アントラセン、フルオランテン、フルオレン、スピロフルオレン、テトラセン、クリセン、ピレン、テトラセン、キサンテン、ペリレン、クマリン、ローダミン、キナクリドン、ルブレン、それらの置換誘導体、およびそれらの重水素化類似体よりなる群から選択され、
pおよびqは、同一または異なっていて、それぞれが1〜6の整数である]
の1つを有するエレクトロルミネセンス化合物を含み、
前記化合物の少なくとも10%が重水素化されている、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項7】
前記有機活性層が、重水素化アミノアントラセン類、重水素化アミノクリセン類、重水素化アミノスチルベン類、重水素化金属キノレート錯体、および重水素化イリジウム錯体よりなる群から選択されるエレクトロルミネセンス化合物を含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項8】
前記有機活性層が、(a)重水素化アントラセン類、重水素化クリセン類、重水素化ピレン類、重水素化フェナントレン類、重水素化トリフェニレン類、重水素化フェナントロリン類、重水素化ナフタレン類、重水素化キノリン類、重水素化イソキノリン類、重水素化キノキサリン類、重水素化重水素化フェニルピリジン類、重水素化ジベンゾフラン類、重水素化ジフラノベンゼン類、重水素化金属キノリネート錯体、重水素化インドロカルバゾール類、重水素化ベンズイミダゾール類、重水素化トリアゾロピリジン類、重水素化ジヘテロアリールフェニル類、それらの置換誘導体、およびそれらの組合せよりなる群から選択される少なくとも1種のホスト物質と、(b)380から750nmの間に発光極大を有するエレクトロルミネセンスが可能な少なくとも1種のドーパントとを含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項9】
前記ホスト物質が、重水素化ジアリールアントラセン類、重水素化アミノクリセン類、重水素化ジアリールクリセン類、重水素化ジアリールピレン類、重水素化インドロカルバゾール類、重水素化フェナントロリン類、およびそれらの組合せよりなる群から選択される、請求項8に記載の有機発光ダイオード。
【請求項10】
前記有機活性層が、重水素化フェナントロリン類、重水素化インドロカルバゾール類、重水素化ベンズイミダゾール類、重水素化トリアゾロピリジン類、重水素化ジヘテロアリールフェニル類、重水素化金属キノレート類、およびそれらの組合せよりなる群から選択される電子輸送物質を含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項11】
前記活性層が、下塗層を用いて形成された化学的閉じ込め層であって、前記下塗層が、重水素化高分子トリアリールアミン類、重水素化ポリカルバゾール類、重水素化ポリフルオレン類、非平面構成で結合している共役部分を有する重水素化高分子トリアリールアミン類、フルオレンとトリアリールアミンとの重水素化コポリマー、重水素化金属キノレート誘導体、およびそれらの組合せよりなる群から選択される物質を含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項12】
第2活性層をさらに含み、前記第2活性層が重水素化合物を含む、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項13】
前記1000ニットでの計算半減期が少なくとも10,000時間である、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項14】
前記1000ニットでの計算半減期が少なくとも20,000時間である、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項15】
前記1000ニットでの計算半減期が少なくとも50,000時間である、請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項16】
陽極と陰極とそれらの間の有機層とを含む有機発光ダイオードであって、前記有機層が、正孔注入層、正孔輸送層、エレクトロルミネセンス層、電子輸送層、および陰極であり、また前記有機層の少なくとも2種類が重水素化物質から本質的になる、有機発光ダイオード。
【請求項17】
前記有機層のすべてが重水素化物質から本質的になる、請求項16に記載の有機発光ダイオード。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−513688(P2012−513688A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543651(P2011−543651)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/069255
【国際公開番号】WO2010/075421
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】