説明

長尺先受工法用の先受け鋼管

【課題】地山に打設し、予め設けた貫通孔を介してセメント系又は樹脂系の注入材を浸透固化させた場合に、固化した注入材との付着強度が高く、地山と鋼管の一体化を図り鋼管の支持力を一層発揮できる長尺先受工法用の先受け鋼管を提供する。
【解決手段】先受け鋼管10が、中空円筒形の鋼管からなり、その外表面に、セメント系又は樹脂系の注入材との付着強度を高める凹凸部12を有する。この凹凸部12は、ショットブラストにより鋼管表面の酸化皮膜を除去し、Ry55μm以上の最大高さに面粗さを高めた凹凸面である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山に打設し、予め設けた貫通孔を介してセメント系又は樹脂系の注入材を浸透固化させる長尺先受工法用の先受け鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺先受工法(All Ground Fastening Methods:AFG工法)とは、トンネル入口部など地山の地質条件が悪い場合に、切羽天端部に斜め上向きに複数の長尺の補強鋼管(以下、「先受け鋼管」と呼ぶ)を打設し、この先受け鋼管から地山中にセメント系又は樹脂系の注入材を浸透固化させ、地質の改善を図ると共に、鋼管と地山との付着力を増し、地山が鋼管と鋼管の間から抜け落ちないようにしながらトンネル掘削を進行する工法である。
【0003】
かかる長尺先受工法は、例えば、特許文献1、2に開示されている。
【0004】
特許文献1の「長尺先受け工法」は、トンネル切羽後方地山に打設された先受け鋼管を効率よく取り除けるようにすることを目的とする。
このため、この発明は、図4に示すように、トンネル切羽51奥部の地山に、複数本の単位管を連結してなる長尺の先受け鋼管52を、トンネルのアーチ周方向に沿って所定間隔をあけてトンネル軸線から所定仰角θをなして打設し、先受け鋼管52に形成された注入材吐出孔を介して先受け鋼管52の周辺地山に注入を行って連続した改良体53を形成し、改良体53によりトンネル切羽51の奥部の地山の先行補強を行うようにした長尺先受け工法において、先受け鋼管10の口元からの所定範囲がトンネル断面内に残置されるような打設仰角θをなしてトンネル切羽4表面から先受け鋼管52が打設される際に、単位管のうちの末端管に樹脂製管を用いるものである。
【0005】
特許文献2の「削孔ロッド埋設型の無拡幅長尺先受工法」は、トンネル掘削時に実施される長尺先受け型地山先行補強工法において、作業を簡略化して工事速度を改善させることにより、全体的な経済性の向上を図ると共に先行地山補強効果を高めることを目的とする。
そのため、この発明は、図5に示すように、削孔ロッド61の先端部に削孔用ビット63を接続し、削孔ロッド61を補強鋼管62で内包するようにして、トンネル切羽の地山内を掘削方向よりやや上向きに当該削孔ロッド61と当該補強鋼管62を順次継ぎ足しながら、先端部の削孔ビット63で削孔打設され、打設完了後に補強鋼管62の基端部より注入材を充填し、補強鋼管62周辺の地山を改善する無拡幅長尺先受工法において、当該補強鋼管62のトンネル切羽前方の掘削領域外に永久埋設される部分に沿って、内包設置された当該削孔ロッド61の回収を行わずに埋設するものである。
【0006】
【特許文献1】特開2001−20657号公報、「長尺先受け工法」
【特許文献2】特開2003−155888号公報、「削孔ロッド埋設型の無拡幅長尺先受工法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の長尺先受工法に使用される先受け鋼管には、外面に黒い酸化皮膜が残る鋼管(以下、黒皮付き鋼管)がそのまま用いられている。
しかし、黒皮付き鋼管からなる先受け鋼管は、地山に打設後に先受け鋼管に設けた貫通孔を介してセメント系又は樹脂系の注入材を地山に浸透固化させても、固化した注入材と先受け鋼管の外面との付着強度が小さいため、トンネル掘削中に振動等により地山が鋼管と鋼管の間から抜け落ち易い問題点があった。
【0008】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、地山に打設し、予め設けた貫通孔を介してセメント系又は樹脂系の注入材を浸透固化させた場合に、固化した注入材との付着強度が高く、地山と鋼管の一体化を図り鋼管の支持力を一層発揮できる長尺先受工法用の先受け鋼管を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、先受け鋼管の表面が地山に密着するような場合でも、表面に凹凸ができるため、先受け鋼管に設けた貫通孔を通してその表面及びこれに接する地山にセメント系又は樹脂系の注入材を容易に浸透固化させることができ、これにより、隣接する間隔を広げ、必要数を低減することが可能となる長尺先受工法用の先受け鋼管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、中空円筒形の鋼管からなり、その外表面に、セメント系又は樹脂系の注入材との付着強度を高める凹凸部を有する、ことを特徴とする長尺先受工法用の先受け鋼管が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記凹凸部は、ショットブラストにより鋼管表面の酸化皮膜を除去し、Ry55μm以上の最大高さに面粗さを高めた凹凸面である。
【0011】
また、鋼管の内面から外面まで貫通しセメント系又は樹脂系の注入材を鋼管の外側に流すための複数の貫通孔と、
前記外面に沿って形成され、前記貫通孔と連通する複数の溝とを有する。
【0012】
前記溝は、鋼管外面に周方向に延びる周方向溝、又は鋼管外面に螺旋状に延びる螺旋溝である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の先受け鋼管によれば、外表面に凹凸部を有するので、セメント系又は樹脂系の注入材との付着強度を高めることができる。
特に、この凹凸部が、ショットブラストにより鋼管表面の酸化皮膜を除去し、Ry55μm以上の最大高さに面粗さを高めた凹凸面である場合に、付着強度が従来の黒皮付き鋼管と比較して、約5〜6倍増大することが後述する実施例により確認された。
【0014】
また、複数の貫通孔とこの貫通孔の外表面と連通する複数の溝とを鋼管外面に有することにより、先受け鋼管の表面が地山に密着するような場合でも、貫通孔を通して先受け鋼管の表面及びこれに接する地山にセメント系又は樹脂系の注入材を容易に浸透固化させることができる。
従って、隣接する先受け鋼管間の間隔を従来より広げ、必要数を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の先受け鋼管を用いた長尺先受工法の模式図である。この図において、1は掘削中のトンネル、2はトンネル上部の地山、3は鏡部である。
本発明の先受け鋼管10は、図示しない連結部(ジョイント部)で直列に連結して所望の長さにできるようになった中空円筒形の鋼管からなる。
この先受け鋼管10は、トンネル入口部など地山の地質条件が悪い場合に、切羽天端部に斜め上向きに打設される。この打設は、図に示すような掘削機4を用い、先受け鋼管10の内側を軸方向に通した削孔ロッド5を回転しながら押圧し、その先端の削孔ビット6で先端の地山を掘削する。削孔ロッド5と削孔ビット6は先受け鋼管10の打設後に回収するのが好ましいがそのまま埋設してもよい。
【0017】
先受け鋼管10の打設後、先受け鋼管の内側を通してセメント系又は樹脂系の注入材を圧送し、予め設けた貫通孔からそのまわりに位置する地山に注入材を浸透固化させる。
先受け鋼管10は、切羽天端部に適切な間隔で打設されるので、注入材の浸透固化により、鋼管間の地山が注入材で連結された状態で補強され、切羽天端部全体の地質を改善することができる。
【0018】
なお、本発明の先受け鋼管を図1に10’で示すように、鏡ボルトとして用いることもできる。
【0019】
図2は、本発明の先受け鋼管の模式的斜視図であり、(A)は第1実施形態図、(B)は第2実施形態図である。
【0020】
図2Aにおいて、本発明の先受け鋼管10は、中空円筒形の鋼管であり、その外表面に、セメント系又は樹脂系の注入材との付着強度を高める凹凸部12を有する。
凹凸部12は、ショットブラストにより鋼管表面の酸化皮膜を除去し、Ry55μm以上の最大高さに面粗さを高めた凹凸面である。
また、この先受け鋼管10は、鋼管の内面から外面まで貫通しセメント系又は樹脂系の注入材を鋼管の外側に流すための複数の貫通孔14を有する。
【0021】
先受け鋼管10を構成する鋼管は、後述する実施例では、外径4in(100A)の配管用鋼管であるが、本発明はこれに限定されない。
注入材は、後述する実施例では、セメントを主成分とするB液と、急硬材を主成分とするA液の混合物である。しかし本発明はこれらに限定されず、ウレタン系注入材、懸濁型注入材、水ガラス系溶液型注入材、等を用いることができる。
【0022】
凹凸部12は、ショットブラスト以外の手段(例えば、サンドブラスト、薬剤処理)により、酸化皮膜を除去し、Ry55μm以上の最大高さに形成してもよい。
表面粗さは、後述する実施例では、Ry55μm、Ry85μm、Ry100μmの3種であり、付着強度がRy55μmで従来の約5倍、Ry100μmで従来の約6倍に達している。従って、表面粗さは少なくともRy55μm以上であり、Ry100μmが実施例では最適であるが、これを超える粗さでも同等以上の効果が予想できる。
【0023】
貫通孔14は、上述した注入材を適量流出できり限りで、直径や配列を任意に設定することができる。
凹凸部12の領域はこの例では、鋼管外表面全体であるが、貫通孔14を含む領域のみに限定してもよい。また、連結する複数の先受け鋼管の一部のみに、本発明の先受け鋼管10を用いてもよい。
【0024】
図2Bにおいて、本発明の先受け鋼管10は、更に複数の溝16を有する。この溝16は、鋼管の外面に沿って形成され、貫通孔14の外表面と連通するように設定されている。
また、この例で、溝16は、鋼管外面に周方向に延びる周方向溝であるが、鋼管外面に螺旋状に延びる螺旋溝であってもよい。
【0025】
上述した本発明の先受け鋼管10によれば、外表面に凹凸部12を有するので、セメント系又は樹脂系の注入材との付着強度を高めることができる。
特に、この凹凸部12が、鋼管表面からショットブラストにより酸化皮膜を除去し、Ry55μm以上の最大高さに形成された外面の凹凸面である場合に、付着強度が従来の黒皮付き鋼管と比較して、約5〜6倍増大する。
【0026】
また、複数の貫通孔14とこの貫通孔の外表面と連通する複数の溝16とを鋼管外面に有することにより、先受け鋼管の表面が地山に密着するような場合でも、貫通孔を通して先受け鋼管の表面及びこれに接する地山にセメント系又は樹脂系の注入材を容易に浸透固化させることができる。
従って、隣接する先受け鋼管間の間隔を従来より広げ、必要数を低減することが可能となる。
【0027】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0028】
(試験体)
試験体として、外径4in(100A)、長さ30cmの配管用鋼管を4本用意した。そのうち、3本の鋼管の表面をショットブラストで処理し、鋼管表面から酸化皮膜を除去し、外面に凹凸面を形成した。
【0029】
試験体No.1(以下G100と呼ぶ)は、ショット材(研削材)として粒径約100μmの粉砕粒子を用い、Ry55μm±5μmの最大高さの凹凸面を形成した。
試験体No.2(以下G200と呼ぶ)は、ショット材(研削材)として粒径約200μmの粉砕粒子を用い、Ry100μm±10μmの最大高さの凹凸面を形成した。
試験体No.3(以下NB170と呼ぶ)は、ショット材(研削材)として粒径約170μmの球形粒子を用い、Ry85μm±10μmの最大高さの凹凸面を形成した。
試験体No.4(以下ブランクと呼ぶ)は、従来例であり、ショットブラスト処理を実施せず、外面に黒い酸化皮膜が残る鋼管(黒皮付き鋼管)のままとした。
【0030】
(試験方法)
図3は実施した試験方法を示す模式図であり、(A)は供試体成型、(B)は付着強度測定を示す。
【0031】
図3Aに示すように、試験体の外側と型枠との間に注入材を充填し硬化させた。型枠には、外径150mm、長さ265mmの鋼管を用いた。この状態は、先受け鋼管10の打設後、先受け鋼管の内径を通して注入材を圧送し、予め設けた貫通孔14からそのまわりに位置する地山に注入材を浸透固化させた状態を模擬している。
試験体と型枠の下面は、ほぼ同一であり、上面は試験体が型枠より約35mm突出している。この状態で、注入材を十分養生させ、注入材で試験体と型枠を強固に連結した供試体を成型した。
【0032】
次に、図3Bに示すように、内径が試験体の外径より大きい中空円筒形の治具の上に、供試体を載せ、圧縮試験機で上部から加圧して、試験体が型枠から外れて下方に移動するのに必要な圧縮荷重を測定した。
試験結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1Cの付着強度は、最大荷重をP(N)、試験体の付着面積をA(約96524mm2)としてP/Aとして求めた。
【0035】
この試験結果から、凹凸部12が、鋼管表面からショットブラストにより酸化皮膜を除去し、Ry55μm以上の最大高さに形成された外面の凹凸面である場合に、付着強度が従来の黒皮付き鋼管と比較して、約5〜6倍に増大することが確認された。
従来の黒皮付き鋼管と比較して付着力が格段に高いのは、表面の凹凸面が酸化皮膜を除去した面に形成されているため、注入材との親和性(付着性)が特に高まったものと考えられる。
【0036】
また、表面の凹凸面の存在により、上述した図2Bの溝16がない場合でも、貫通孔を通して先受け鋼管の表面及びこれに接する地山にセメント系又は樹脂系の注入材を容易に浸透固化させることができる。
従って、この場合でも隣接する先受け鋼管間の間隔を従来より広げ、必要数を低減することが可能となる。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の先受け鋼管を用いた長尺先受工法の模式図である。
【図2】本発明の先受け鋼管の模式的斜視図である。
【図3】実施した試験方法を示す模式図である。
【図4】特許文献1の「長尺先受け工法」の模式図である。
【図5】特許文献2の「削孔ロッド埋設型の無拡幅長尺先受工法」の模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1 トンネル、2 トンネル上部の地山、3 鏡部、
4 掘削機、5 削孔ロッド、6 削孔ビット、
10 先受け鋼管、12 凹凸部、
14 貫通孔、16 溝(周方向溝、螺旋溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒形の鋼管からなり、その外表面に、セメント系又は樹脂系の注入材との付着強度を高める凹凸部を有する、ことを特徴とする長尺先受工法用の先受け鋼管。
【請求項2】
前記凹凸部は、ショットブラストにより鋼管表面の酸化皮膜を除去し、Ry55μm以上の最大高さに面粗さを高めた凹凸面である、ことを特徴とする請求項1に記載の長尺先受工法用の先受け鋼管。
【請求項3】
鋼管の内面から外面まで貫通しセメント系又は樹脂系の注入材を鋼管の外側に流すための複数の貫通孔と、
前記外面に沿って形成され、前記貫通孔と連通する複数の溝とを有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の長尺先受工法用の先受け鋼管。
【請求項4】
前記溝は、鋼管外面に周方向に延びる周方向溝、又は鋼管外面に螺旋状に延びる螺旋溝である、ことを特徴とする請求項3に記載の長尺先受工法用の先受け鋼管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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