説明

長尺削孔装置

【課題】延伸方式のガイドセルによる長尺削孔装置を、別個の駆動源を要することなくドリルジャンボに装備可能とする。
【解決手段】ドリルジャンボ11のブーム12先端に組み付けられるアウターチューブ22と、ドリルジャンボ11からの作動油の供給排出により伸縮動作するエクステンションシリンダ21と、このシリンダ21に組み付けられたインナーチューブ23と、このチューブ23上に組み付けられたガイドレール31と、このガイドレール31に沿って前進後退自在に組み付けられたガイドセル32と、このガイドセル32に沿って前進後退自在に組み付けられたドリフタ33と、インナーチューブ23の先端部に設けた同軸上のダブルプーリ42(45)と、アウターチューブ22に設けた支点プーリ41と、アウターチューブ22とガイドセル32との間に架設され、かつ、ダブルプーリ42(45)と支点プーリ41とに4本掛けされたワイヤ43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドセル延伸方式の長尺削孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルにおける補助工法の一つとして約12.5mに及ぶ長尺削孔が必要となる長尺先受け工法(例えば、長尺フォアパイリング工や長尺鏡ボルト工を指す)がある。その代表的な工法の一つであるAGF工法では、図6に示すような状況で施工が実施される。図6において、10は約10cmの厚さの鏡吹付けコンクリートを施した切羽である。
作業手順としては、切羽10近傍に設置した施工重機であるドリルジャンボ61のブーム62先端に備えられる標準長さ5.3mのガイドセル64に、図7に示した削岩機65により、通常、計四本打設する二重管による鋼管1・2・3・4のうち、先頭管1およびインナーロッドのみをセットし、最初の削孔・打設工を行う。
打設終了後、図7に示すように、ガイドセル64の位置を切羽10近傍の高所に固定したまま、ドリルジャンボ1のバスケット66に長さ約3.0mで重量約50kgの中間管2と重量約20kgのロッドを載せて上方へ移動し、作業員の手で鋼管2およびロッドのノミ継ぎ作業を行った後に削孔・打設工を実施する。以降、残りの二本分の鋼管3・4のノミ継ぎ作業および削孔・打設工を繰り返し、打設工が終了した時点でビット、ロッドを回収した後、鋼管1・2・3・4内から地山への注入工を行う。
従って、図6において、一般的な1打設長は12.5m、ラップ長は3.5m、1シフト長は9mとなる。
【0003】
なお、長い削孔ロッドであってもロッドの継ぎ足しを行なうことなく一気に所定長の削孔が可能となる発明として、削孔機械であるドリルジャンボではなく、バックホーもしくはトラッククレーンのブーム先端に取り付ける長尺削孔装置がある(特許文献1参照)。
特許文献1の長尺削孔装置は、本体の架台に対して設けられた第1ガイドセルと、この第1ガイドセルの長手方向に沿って設けられたチェーンに噛合し、装備された第1フィードモータにより前後進自在に設けられた第2ガイドセルと、この第2ガイドセルの長手方向に沿って設けられたチェーンに噛合する前記第1フィードモータとは別の、装備された第2フィードモータにより前後進する削孔機本体とを備え、第2ガイドセルは、その後退時において、第1フィードモータにより第1ガイドセルの後端より後方に延在するように構成され、この第2ガイドセルの後退作動と独立して削孔機本体が第2フィードモータにより後退自在とされたものである。
【特許文献1】特許第2922142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述したAGF工法では、約12.5mに及ぶ長尺削孔による1打設を行うまでに三回の切羽近傍高所での重量物である二重管による鋼管・ロッドのノミ継ぎ作業が不可欠であることから、1)削孔・打設工に多大な時間・労力を要し、作業効率が悪くコストがかさむ、2)ノミ継ぎ作業時において、切羽近傍でしかも上空に持ち上げられたバスケット内という高所で狭い作業スペースの中で鋼管およびインナーロッドという重量物を人力で持ち上げ、ガイドセル上にセットするという危険作業を伴う、という問題点があった。
これを解決する手段として、補助工法実施時には山岳トンネルの支保工として不可欠なロックボルトの削孔・打設、あるいは発破孔の削孔にも使用するドリルジャンボ以外に、補助工法実施用の専用重機(例えば、トレビチューブ工法用重機)を別途用意する必要があるが、コストがかさむ欠点があった。
【0005】
また、特許文献1の長尺削孔装置は、ドリルジャンボとは別のバックホーもしくはトラッククレーンのブーム先端に取り付けるもので、ガイドセルを二段のモータ駆動のチェーン機構による延伸機構で構成したものである。従って、ガイドセルの延伸駆動のために二個のモータを装備しなければならず、その分、コストがかさむ。
【0006】
本発明の課題は、延伸方式のガイドセルによる長尺削孔装置を、別個の駆動源を要することなくドリルジャンボに装備可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、アウターチューブと、このアウターチューブに組み付けられたエクステンションシリンダと、このエクステンションシリンダに組み付けられたインナーチューブと、このインナーチューブ上に組み付けられたガイドレールと、このガイドレールに沿って前進後退自在に組み付けられたガイドセルと、このガイドセルに沿って前進後退自在に組み付けられたドリフタと、前記インナーチューブの左右両側面にそれぞれ設けた同軸上のダブルプーリと、前記アウターチューブの左右両側面にそれぞれ設けた同軸上のダブルプーリによる支点プーリと、左右それぞれの側面において前記アウターチューブとガイドセルとの間に架設され、かつ、前記インナーチューブに設けたダブルプーリと支点プーリとに4本掛けされたワイヤとを備える長尺削孔装置を特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の長尺削孔装置であって、前記インナーチューブの前端部左右両側面にそれぞれ設けた前記ダブルプーリによるフロントプーリと、前記インナーチューブの後端部左右両側面にそれぞれ設けた前記ダブルプーリによるリアプーリと、左右それぞれの側面において前記フロントプーリと支点プーリとに4本掛けされたフロントワイヤと、左右それぞれの側面において前記リアプーリと支点プーリとに4本掛けされたリアワイヤとを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の長尺削孔装置であって、前記エクステンションシリンダ及び前記インナーチューブを組み込む前記アウターチューブは、前記ドリルジャンボのブーム先端に組み付けられるとともに、前記エクステンションシリンダは、前記ドリルジャンボからの作動油の供給排出により伸縮動作することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダブルプーリによるフロントプーリと支点プーリとに、あるいはダブルプーリによるリアプーリと支点プーリとにワイヤを4本掛けしたことで、エクステンショシリンダのストロークに対しガイドセルの移動量を4倍にできる。
しかも、エクステンションシリンダを、ドリルジャンボからの作動油の供給排出により伸縮動作できるため、別個の駆動源を必要とせず、コストを抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1は本発明を適用した長尺削孔装置の一実施形態の構成を示すもので、前述と同様、1・2・3・4は鋼管(二重管)、10は切羽であり、11はドリルジャンボ、21はエクステンションシリンダ、22はアウターチューブ、23はインナーチューブ、31はガイドレール、32はガイドセル、33はドリフタ、41は支点プーリ、42はフロントプーリ、45はリアプーリである。
【0012】
この実施形態において、作業の効率化とコストダウンおよび安全性向上を図るために、汎用機であるドリルジャンボ11を使って12.5m程度の長尺鋼管1・2・3・4を高所でのノミ継ぎ作業なしに削孔・打設が可能な延伸機構を組み込んだ収縮時長さ6m程度の長尺削孔装置を構成する。
【0013】
ドリルジャンボ11には、ブーム12の先端に長尺削孔装置が備えられている。この長尺削孔装置は、図示のように、エクステンションシリンダ21、アウターチューブ22、インナーチューブ23、ガイドレール31、ガイドセル32、ドリフタ33、支点プーリ41、フロントプーリ42、フロントワイヤ43、リアプーリ45及び図略のリアワイヤから構成される。
【0014】
アウターチューブ22は、ドリルジャンボ11に搭載され、このアウターチューブ22に組み込まれたエクステンションシリンダ21は、ブーム12を油圧により揺動動作するための図略の油圧源からの作動油の供給排出により伸縮動作するもので、油圧源から図略の油圧配管が接続されている。
インナーチューブ23は、このエクステンションシリンダ21と接続連動して前方に伸縮動作するもので、このインナーチューブ23には前方に延びるブラケット25が伸縮可能に組み付けられている。このブラケット25の先端にロッドガイド26が備えられている。
【0015】
そして、インナーチューブ23の上には、アウターチューブ22と接触しないようにガイドレール31が組み付けられている。さらに、ガイドレール31上には、このガイドレール31に沿って前進後退自在にガイドセル32が組み付けられている。
ガイドセル32上には、このガイドセル32に沿って前進後退自在にドリフタ33が組み付けられている。ドリフタ33は、前方に延びる削孔ロッド34を備えるとともに、その先端にビット35を備えている。このドリフタ33は、既知のように、ドリルジャンボ11に搭載された駆動源から配管を介して空気圧、油圧または電力により前進後退動作するとともに、削孔ロッド34の回転及び打撃力を発生する。
【0016】
また、アウターチューブ22の左右両側面には、それぞれ支点プーリ41が備えられている。具体的には、アウターチューブ22の側面の前方寄り部に支点プーリ41が取り付けられている。この支点プーリ41は同軸上のダブルプーリである。
そして、インナーチューブ23の左右両側面には、それぞれフロントプーリ42が備えられている。具体的には、インナーチューブ23の側面の前端部にフロントプーリ42が取り付けられている。このフロントプーリ42は同軸上のダブルプーリである。
【0017】
以上の支点プーリ41及びフロントプーリ42には、図3に示すように、フロントワイヤ43が架け渡されている。すなわち、フロントワイヤ43は、アウターチューブ22の前端部とガイドセル32の後端部との間に架設されるもので、図4に示したように、ダブルプーリである支点プーリ41の例えば内側プーリとダブルプーリによるフロントプーリ42とに左右それぞれ4本掛けされている。
【0018】
また、同様にインナーチューブ23の左右両側面には、それぞれリアプーリ45が備えられている。具体的には、インナーチューブ23の側面の後端部にリアプーリ45が取り付けられている。このリアプーリ45は同軸上のダブルプーリである。
なお、以上のリアプーリ45及び支点プーリ41には、図略のリアワイヤが架け渡されている。すなわち、リアワイヤは、フロントワイヤ43と同様、アウターチューブ22とガイドセル32の前端部との間に架設されるもので、ダブルプーリである支点プーリ41の例えば外側プーリとダブルプーリによるリアプーリ45とに左右それぞれ4本掛けされている。
【0019】
図2は本発明によるAGF工法における作業フローを示すものである。
まず、図2(a)に示したように、ドリルジャンボ11のブーム12先端に対し長尺削孔装置を組み込む。すなわち、アウターチューブ22をドリルジャンボ11のブーム12先端に取り付けて固定する。
そして、図2(b)に示したように、ガイドセル32を後退位置に保持することで長尺削孔装置を延伸して鋼管1・2・3・4を予め地組みしておく。このとき、削孔ロッド34は鋼管1・2・3・4内を貫通し、その先頭管1がロッドガイド26で支持されている。
その後、ドリルジャンボ11のブーム12の姿勢制御により、図2(c)に示したように、切羽10に対する連続削孔を開始する。
【0020】
図3は図1の長尺削孔装置を拡大して示すもので、図3(a)はガイドセル32が後退位置にある状態を示しており、図3(b)はガイドセル32が前進位置にある状態を示している。
【0021】
図4は図3の支点プーリ41、フロントプーリ42及びフロントワイヤ43の動作を示すもので、図4(a)はガイドセル32が後退位置にある状態を示しており、図4(b)はガイドセル32が前進位置にある状態を示している。
すなわち、エクステンションシリンダ21への作動油の供給により、インナーチューブ23の前進に合わせてフロントプーリ42が、図4(a)から図4(b)に示すように前進する。
【0022】
ここで、フロントプーリ42はダブルプーリなので、支点プーリ41を含んで4本掛けしたフロントワイヤ43により、アウターチューブ22に対しガイドレール31を介してガイドセル32が前進する。このガイドセル32の前進距離は、インナーチューブ23の前進距離の4倍となる。従って、インナーチューブ23が2m前進すると、ガイドセル32は8m前進する。
そして、ガイドセル32上をドリフタ33が5m前進することで、最長13mの削孔が可能となる。
【0023】
なお、ガイドセル32の後退は、支点プーリ41とダブルプーリによるリアプーリ45とに4本掛けされた図略のリアワイヤにより、前進と同様の原理で行なわれる。
【0024】
以上の長尺削孔装置を使用することで、図2に示すように、予め12.5m以上に延伸したガイドセル32上に鋼管1・2・3・4およびインナーロッドを予め地組みしておくことが可能となる。
従って、1)削孔・打設時間短縮によるサイクルタイムの削減、2)一本物の長尺鋼管1・2・3・4が使用可能となり、鋼管継ぎ手ネジ部の加工費等、消耗部材のコストダウン、3)切羽近接作業の軽減、高所作業の撤廃に伴う安全性の向上、が見込まれる。
【0025】
また、図5に示すように、長尺削孔装置をガイドセル32の長さ6m程度に短縮させることで、ドリルジャンボ11のブーム12の姿勢制御により、水平方向のみならず鉛直方向のロックボルトの打設が可能となる。
すなわち、トンネルの断面内に長尺削孔装置が収まるものとなるので、汎用機としてのドリルジャンボ11の特性が活用できる。さらに、長尺削孔装置をドリルジャンボ11に設置・撤去する際の図略のダンプトラックを利用した運搬時にも問題が生じない。
【0026】
しかも、長尺削孔装置はできるだけ軽量化を図り、一般的なドリルジャンボ11のブーム12先端に着脱が可能で、その駆動はドリルジャンボ11から供給される油圧式であることから、長尺削孔装置を作動させるために特に別途、用意しなければならない物はない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を適用した長尺削孔装置の一実施形態の構成を示すもので、ドリルジャンボに搭載した削孔開始状態を示す全体側面図(a)と、長尺削孔装置の削孔終了状態を示した部分側面図(b)である。
【図2】本発明によるAGF工法における作業フローを示すもので、図1のドリルジャンボのブーム先端に対する長尺削孔装置の組み込みを示す概略側面図(a)と、ガイドセルを延伸して鋼管を予め地組みしておく状態を示した概略側面図(b)と、切羽に対する連続削孔の開始状態を示した概略側面図(c)である。
【図3】図1の長尺削孔装置を拡大して示すもので、ガイドセルが後退位置にある状態を示した側面図(a)と、ガイドセルが前進位置にある状態を示した側面図(b)である。
【図4】図3のプーリ及びワイヤの動作を示すもので、ガイドセルが後退位置にある状態を示した説明図(a)と、ガイドセルが前進位置にある状態を示した説明図(b)である。
【図5】本発明を適用したドリルジャンボによる鉛直ロックボルト打設状態(ガイドセル短縮状態)を示した全体側面図である。
【図6】従来のAGF工法による打設を概念的に示した図である。
【図7】従来のAGF工法によるノミ継ぎ作業状況を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
1・2・3・4 鋼管(二重管)
10 切羽
11 ドリルジャンボ
12 ブーム
21 エクステンションシリンダ
22 アウターチューブ
23 インナーチューブ
25 ブラケット
26 ロッドガイド
31 ガイドレール
32 ガイドセル
33 ドリフタ
34 削孔ロッド
35 ビット
41 支点プーリ(ダブルプーリ)
42 フロントプーリ(ダブルプーリ)
43 フロントワイヤ
45 リアプーリ(ダブルプーリ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターチューブと、
このアウターチューブに組み付けられたエクステンションシリンダと、
このエクステンションシリンダに組み付けられたインナーチューブと、
このインナーチューブに組み付けられたガイドレールと、
このガイドレールに沿って前進後退自在に組み付けられたガイドセルと、
このガイドセルに沿って前進後退自在に組み付けられたドリフタと、
前記インナーチューブの左右両側面にそれぞれ設けた同軸上のダブルプーリと、
前記アウターチューブの左右両側面にそれぞれ設けた同軸上のダブルプーリによる支点プーリと、
左右それぞれの側面において前記アウターチューブとガイドセルとの間に架設され、かつ、前記インナーチューブに設けたダブルプーリと支点プーリとに4本掛けされたワイヤとを備えることを特徴とする長尺削孔装置。
【請求項2】
前記インナーチューブの前端部左右両側面にそれぞれ設けた前記ダブルプーリによるフロントプーリと 、
前記インナーチューブの後端部左右両側面にそれぞれ設けた前記ダブルプーリによるリアプーリと、
左右それぞれの側面において前記フロントプーリと支点プーリとに4本掛けされたフロントワイヤと、
左右それぞれの側面において前記リアプーリと支点プーリとに4本掛けされたリアワイヤとを備えることを特徴とする請求項1に記載の長尺削孔装置。
【請求項3】
前記エクステンションシリンダ及び前記インナーチューブを組み込む前記アウターチューブは、前記ドリルジャンボのブーム先端に組み付けられるとともに、
前記エクステンションシリンダは、前記ドリルジャンボからの作動油の供給排出により伸縮動作することを特徴とする請求項1または2に記載の長尺削孔装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−127848(P2008−127848A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313904(P2006−313904)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】