説明

長尺化無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法

【課題】特に有機酸の存在下、あるいは高含水条件で適用可能な、有機物を含む気体または液体の混合物の分離・濃縮することができ、また高いエネルギーコストを要することなく経済的で、かつ適用範囲が限定されない、実用上十分な処理量と分離性能を両立するゼオライト膜複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】特定の長さの無機多孔質支持体に対して、特定量のゼオライト膜原料を付着させて焼成し、特定量のゼオライト結晶層を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機物を含有する気体または液体の混合物の分離、濃縮に好適である無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を、透過流束を向上させるため長尺化した無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物を含有する気体または液体の混合物の分離、濃縮においては、それぞれ分離、濃縮の対象とする物質の性質に応じて蒸留法、共沸蒸留法、溶媒抽出/蒸留法、吸着剤による分離法などが行われている。しかしながらこれらの従来方法は、多くのエネルギーを必要とする、あるいは分離、濃縮対象の適用範囲が限定的であるといった欠点がある。
近年、これら従来の分離方法にかわる分離方法として、高分子膜などの膜を用いた膜分離、濃縮方法が提案されている。高分子膜は加工性に優れるものであり、例えば平膜や中空糸膜などがある。しかし高分子膜は耐熱性が低いという欠点がある。また高分子膜は耐薬品性が低く、特に有機溶媒や有機酸といった有機物との接触で膨潤するものが多いため、分離、濃縮対象の適用範囲が限定的である。
【0003】
一方、ゼオライト膜などの無機材料の膜を用いた膜分離、濃縮方法が提案されている。
ゼオライト膜は、一般的には支持体上に膜状にゼオライトを形成させたゼオライト膜複合体として分離、濃縮に用いる。例えば有機物と水との混合物を、ゼオライト膜複合体に通じさせ、水を選択的に透過させることにより、有機物を分離し、濃縮することができる。無機材料の膜を用いた膜分離、濃縮は、蒸留や吸着剤による分離に比べ、エネルギーの使用量を削減できるほか、高分子膜よりも広い温度範囲で分離、濃縮を実施でき、更に有機物を含む混合物の分離にも適用できる。
【0004】
ゼオライト膜を用いた分離では、親水性を有するゼオライトを水の選択的な透過に利用する方法が提案されている。例えばA型ゼオライト膜複合体を用いて水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献1)、モルデナイト型ゼオライト膜複合体を用いてアルコールと水の混合系から水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献2)や、フェリエライト型ゼオライト膜複合体を用いて酢酸と水の混合系から水を選択的に透過させて酢酸を分離・濃縮する方法(特許文献3)などが提案されている。
これに対し、本願出願人は、有機物を含む気体または液体の混合物から特定の化合物を分離、濃縮する際に、大きい処理量を有し、かつ良好な分離性能を有する分離、濃縮用ゼオライト膜複合体であり、ゼオライト膜を用いた有機物を含む気体または液体の混合物からの分離、濃縮が可能となるゼオライト膜複合体を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−185275号公報
【特許文献2】特開2003−144871号公報
【特許文献3】特開2000−237561号公報
【特許文献4】国際公開WO2010/098473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ゼオライト膜による分離、濃縮の処理量(透過流量)は、一般的に単位時間、単位平面積あたりの透過物質の重量を表した透過流束で表される。この場合の水の透過流束については、ゼオライト膜を実用化するには透過流束は大きいほど望ましく、最低でも1kg/(m・h)以上であることが望ましいといわれている。
特許文献4記載のゼオライト膜複合体の透過流束は、透過した水の濃度が50質量%の場合、70℃において、水/N−メチル−2−ピロリドン系で最大5.6kg/(m・h)、水/テトラハイドロフラン系で、50℃において、3.1kg/(m・h)であり、実用化に要する処理量には、さらなる処理量の向上を求められていた。
【0007】
本発明は、高いエネルギーコストを要することなく経済的で、かつ適用範囲が限定されることが無く、有機物、特に有機酸の存在下で適用可能な、有機物を含む気体または液体の混合物の分離・濃縮することができ、実用化に十分な処理量と分離性能を両立し、長尺化して透過流束が向上したゼオライト膜複合体の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の製造方法でゼオライト膜複合体を製造することにより、前記課題を解決し得ることを見出し以下の発明に到達した。
本発明の具体的な製造方法は、以下のとおりである。
(1)有機テンプレート、Si元素源及びAl元素源を含有する反応液に無機多孔質支持体を浸漬させ、該無機多孔質支持体を水熱処理し無機多孔質支持体上に結晶層を生成した後、350℃以上で焼成するゼオライト膜の製造方法であって、無機多孔質支持体が30cm以上であり、支持体上に形成したゼオライト膜の重量が100g/m以下、ゼオライト膜の結晶層の厚さが5〜40μmであることを特徴とする、無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法。
(2)焼成により有機テンプレートを取り除くことを特徴とする、(1)に記載のゼオライト膜の製造方法。
(3)無機多孔質支持体に対して、ディップ法で種結晶を付着させた後、Si元素源及びAl元素源を含有する反応液に無機多孔質支持体を浸漬させることを特徴とする、(1)または(2)に記載のゼオライト膜の製造方法。
(4)無機多孔質支持体に対して、種結晶を0.1〜1.8g/m付着させることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のゼオライト膜の製造方法。
(5)無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体が、無機多孔質支持体の表面層に、CHA型ゼオライト結晶層を有するものであることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のゼオライト膜の製造方法。
(6)焼成時の昇温過程の昇温速度を2℃/分以下とすることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法。
(7)焼成時の保持時間と焼成時の昇温過程の昇温時間が下記式(1)を満たすことを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法。
焼成時の保持時間/焼成時の昇温過程の昇温時間≦1.5 (1)
(8)前記多孔質管状支持体が多孔質セラミック管であることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
また本発明のゼオライト膜複合体の製造方法によれば高いエネルギーコストを要することなく経済的で、かつ適用範囲が限定されることが無く、有機物、特に有機酸の存在下で適用可能な、有機物を含む気体または液体の混合物の分離・濃縮することができ、実用化に十分な処理量と分離性能を両立し、長尺化して透過流束が向上したゼオライト膜複合体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法に用いるゼオライト膜の製造装置の好ましい一例を示す断面図である。
【図2】合成されたCHA型ゼオライトと焼成済みの粉末ハイシリカCHA型ゼオライトのX線回折図である。
【図3】合成されたゼオライト膜の透過分離性能を測定したパーベーパーレーション装置の概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明は、有機テンプレート、Si元素源及びAl元素源を含有する反応液に無機多孔質支持体を浸漬させ、該無機多孔質支持体を水熱処理し無機多孔質支持体上に結晶層を生成した後、350℃以上で焼成するゼオライト膜の製造方法であって、無機多孔質支持体が30cm以上であり、支持体上に形成したゼオライト膜の重量が100g/m以下、ゼオライト膜の結晶層の厚さが5〜40μmであることを特徴とする、無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法である。
本発明の製造方法で製造される無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体(以下、単に「ゼオライト膜複合体」ということがある。)は、セラミックス焼結体を含む無機多孔質支持体の表面層に、CHA型ゼオライトが膜状に結晶化してなるものであることが好ましい。
先ず、本発明の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を構成する各成分について、具体的に説明する。
【0013】
(無機多孔質支持体)
本発明において用いられる無機多孔質支持体としては、表面層にゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、多孔質であれば特に制限されるものではない。たとえばシリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0014】
本発明において用いられるセラミックス焼結体を含む無機多孔質支持体とは、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む多孔質の支持体をいう。
具体的にはα−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体が挙げられる。これらは単独で用いても複数のものを混合して用いてもよい。これらセラミックス焼結体は、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果があるためである。
【0015】
その中でもアルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体は、無機多孔質支持体の部分的なゼオライト化が容易であるため、無機多孔質支持体とCHA型ゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる点でより好ましい。
【0016】
本発明において用いられる無機多孔質支持体の長さは、30cm以上であることを特徴としている。中でも、膜面積が実用的な大きさである必要性の点から、好ましくは40cm以上、さらに好ましくは80cm以上、特に好ましくは100cm以上であり、上限としては、特に制限されないが、長すぎるとたわみに基づく障害が生じる恐れのある点から、好ましくは400cm以下、さらに好ましくは300cm以下、特に好ましくは200cm以下である。
本発明において用いられる無機多孔質支持体の形状は、気体混合物や液体混合物を有効に分離できるものであれば制限されるものではなく、具体的には平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられ、いずれの形状のものでも良い。
【0017】
本発明において用いられる無機多孔質支持体は、その表面層(以下「無機多孔質支持体表面層」ともいう。)においてゼオライトを結晶化させる。
【0018】
前記無機多孔質支持体表面層が有する平均細孔径は特に制限されるものではないが、細孔径が制御されているものが好ましく、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下の範囲が好ましい。
【0019】
また無機多孔質支持体の表面は滑らかであることが好ましく、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。
なお、無機多孔質支持体表面層とはCHA型ゼオライトを結晶化させる無機多孔質支持体表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であっても良い。たとえば円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0020】
また、本発明において用いられる無機多孔質支持体の、無機多孔質支持体表面層以外の部分の細孔径は制限されるものではなく、また特に制御される必要は無いが、その他の部分の気孔率は通常20%以上、60%以下であることが好ましい。無機多孔質支持体表面層以外の部分の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、前記下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、前記上限超過では無機多孔質支持体の強度が低下する傾向がある。
【0021】
(CHA型ゼオライト)
本発明において用いられるゼオライトは特に限定されないが、最大水吸着量がLTA型など典型的な親水性ゼオライトより大きい点からCHA型ゼオライトが好ましい。CHA型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0022】
本発明において用いられるCHA型ゼオライトのフレームワーク密度は、14.5T/1000Åである。フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Åあたりの酸素以外の骨格を構成する元素の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 ELSEVIER に示されている。
【0023】
本発明において用いられるCHA型ゼオライトのSiO/Alモル比は、特に限定されるものではないが、通常5以上であり、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。前記モル比の上限としては通常2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下である。これは後述するゼオライト膜のSiO/Alモル比と同じである。
【0024】
(ゼオライト膜)
本発明におけるゼオライト膜とは、ゼオライトにより構成される膜状物のことであり、好ましくは、前記無機多孔質支持体の表面層にゼオライトを結晶化させて膜にしたものである。膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。
【0025】
本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。具体的にはCHA型のゼオライトを主成分とするゼオライト膜であり、一部、モルデナイト型、MFI型などの他の構造のゼオライトが含まれていても、アモルファス成分などが含有されていてもよく、好ましくは、実質的にCHA型のゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
焼成後の膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したゼオライトの重量を測定することができる。本発明の製造方法において、結晶化したゼオライトの重量は100g/m以下であることを特徴としている。結晶化したゼオライトの重量が、100g/m以下であれば、適切な膜厚を実現できるゼオライト量に対し充分あり、かつ、支持体内部に入り込んでいるゼオライト結晶が少ない。また、好ましくは99g/m以下、さらに好ましくは98g/m以下、特に好ましくは97g/m以下である。下限としては、特に制限されないが、支持体内部に入り込んでいるゼオライト結晶が少ない方が透過抵抗が低いという分離透過膜の機能性の観点から、好ましくは12g/m以上、さらに好ましくは20g/m以上、特に好ましくは40g/m以上である。
【0026】
本発明において用いられるゼオライト膜の厚さは、水熱処理後の無機多孔質支持体上の結晶層の厚さと相関している。従って、本発明において用いられるゼオライト膜の厚さとしては、5〜40μmであることを特徴としている。中でも、焼成時の温度の上昇と降下による多結晶体の膨張と収縮における破損をさける点から、好ましくは6μm以上、さらに好ましくは8μm以上、特に好ましくは10μm以上であり、上限としては、特に制限されないが、膜が厚すぎると透過抵抗が増大し透過流束が減少する点から、好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下である。
なお本発明におけるゼオライト結晶層とは、前記ゼオライト膜の厚みを有するゼオライト膜状物をいう。
【0027】
本発明におけるゼオライト膜を形成するゼオライトの粒子径は特に限定されるものではないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向があることから、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに好ましくはゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合である。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなるためである。水熱合成で得られたゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径と膜の厚さが同じになる場合があるので好ましい。
【0028】
本発明におけるゼオライト膜のSiO/Alモル比は、特に限定されるものではないが、通常5以上であり、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。上限としては通常2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは100以下である。SiO/Alモル比が前記下限未満では耐久性が低下する傾向があり、前記上限を超過すると疎水性が強すぎるため、透過流束が小さくなる傾向がある。
【0029】
なお、本発明におけるSiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVで測定する。
本発明におけるゼオライト膜は、ゼオライトにより構成される膜状物をそのまま用いることもできるが、通常は各種支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体として使用し、好ましくは以下詳述する無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体として用いる。
【0030】
(無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体)
本発明の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体とは、無機多孔質支持体の表面層にゼオライトが膜状に固着しており、場合によっては一部無機多孔質支持体の内部にまで固着している状態のものである。
【0031】
このようなゼオライト膜複合体を形成するためには、無機多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させて形成させる方法、無機多孔質支持体にゼオライトを無機バインダー、あるいは有機バインダーなどで固着させる方法、ゼオライトを分散させたポリマーを固着させる方法、ゼオライトのスラリーを無機多孔質支持体に含浸させ、場合によっては吸引させることによりゼオライトを無機多孔質支持体に固着させる方法などがある。
【0032】
本発明において好ましい様態は、無機多孔質支持体表面層にゼオライトを膜状に結晶化させたものである。
具体的には無機多孔質支持体表面層にCHA型ゼオライトを膜状に結晶化させたものであり、通常は水熱合成により、結晶化させたものである。
本発明において用いられるゼオライト膜の無機多孔質支持体表面上の位置は特に限定されるものではないが、管状無機多孔質支持体を用いる場合、外表面にゼオライト膜をつけてもよいし、内表面につけてもよく、さらに適用する系によっては両面につけてもよい。また、無機多孔質支持体の表面に積層させてもよいし、多孔質支持体の表面層の細孔内を埋めるように結晶化させてもよい。この場合、結晶化した膜層の内部に亀裂や連続した微細孔が無いことが重要であり、いわゆる緻密膜を形成させることが分離性を向上することになる。
【0033】
本発明の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、X線回折のパターンにおいて2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の0.5倍以上の大きさであることが好ましい。
ここでいうピークの強度とは測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比でいえば、望ましくは0.5以上、好ましくは1以上、さらに好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上である。上限は特に限定はないが、通常は1000以下である。
【0034】
本発明の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、X線回折のパターンにおいて2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=9.6°付近のピークの強度の0.2倍以上の大きさであることが好ましい。
ここでいうピークの強度とは測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=9.6°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比でいえば、望ましくは0.2以上、好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.6以上である。上限は特に限定はないが、通常は10以下である。
【0035】
ここでいう、X線回折パターンとはゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、膜複合体のゼオライトが主として付着している側の表面にX線が照射できるような形状なら何でもよく、膜複合体の特徴をよく表すものとして、作成した膜複合体そのままのもの、あるいは装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
【0036】
ここでいうX線回折パターンは、膜複合体の表面が曲面である場合には自動可変スリットを用いて照射幅を固定して測定してもかまわない。自動可変スリットを用いた場合のX線回折パターンとは、可変→固定スリット補正を実施したパターンを指す。
【0037】
ここでいう2θ=17.9°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち17.9°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指し、2θ=20.8°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち20.8°±0.6°の範囲に存在するピークで最大のものを指す。
また2θ=9.6°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち9.6°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
【0038】
X線回折パターンで2θ=9.6°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0039】
【数1】

【0040】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1 0 0)の面に由来するピークである。
【0041】
またX線回折パターンで2θ=17.9°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0042】
【数2】

【0043】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1 1 1)の面に由来するピークである。
【0044】
X線回折パターンで2θ=20.8°付近のピークはCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0045】
【数3】

【0046】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(2 0 −1)の面に由来するピークである。
【0047】
(1 0 0)面由来のピークの強度と(2 0 −1)の面に由来のピーク強度の典型的な比は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによれば2.5である。そのためこの比が4以上であるということは例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1 0 0)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
【0048】
(1 1 1)面由来のピークの強度と(2 0 −1)の面に由来のピーク強度の典型的な比はCOLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによれば0.3である。そのためこの比が0.5以上であるということは例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1 1 1)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
【0049】
(ゼオライト膜の製造方法)
本発明のゼオライト膜の製造方法は、有機テンプレート、Si元素源及びAl元素源を含有する反応液に無機多孔質支持体を浸漬させ、該無機多孔質支持体を水熱処理し無機多孔質支持体上に結晶層を生成した後、350℃以上で焼成するゼオライト膜の製造方法であって、無機多孔質支持体が30cm以上であり、支持体上に形成したゼオライト膜の重量が100g/m以下、ゼオライト膜の結晶層の厚さが5〜40μmであることを特徴とする、無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法である。
【0050】
具体的に好ましい方法として、無機多孔質支持体表面層にCHA型ゼオライトを膜状に結晶化させる方法としては、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、無機多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して加熱する。
【0051】
(反応混合物)
前記反応混合物の例としてはSi元素源、Al元素源、(必要に応じて)有機テンプレート、および水を含み、さらに必要に応じアルカリ源を加えるのが好ましい。
【0052】
前記反応混合物に用いるSi元素源、Al元素源は特に限定されるものではない。Si元素源としては無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等のいずれでも用いることができる。Al元素源としてはアルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等のいずれでも用いることができる。
【0053】
本発明の製造方法は、有機テンプレート(構造規定剤)を用いる。有機テンプレートを用いて合成する方が結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性が向上するためである。有機テンプレートとしては、CHA型を形成しうるものであれば種類は問わず、特に限定されるものではない。
【0054】
またテンプレートは1種類使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよく、例えばUSP4544538号公報、US2008/0075656A1号公報記載の有機テンプレートを好適に組み合わせて使用してもよい。具体的には、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3−キナクリジナールから誘導されるカチオン、3−exo−アミノノルボルネンから誘導されるカチオン、等の脂環式アミンから誘導されるカチオンであり、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライトが結晶化する。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成しうるほか耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られるためである。
【0055】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンの場合の3つのアルキル基は、3つの独立したアルキル基であり、通常低級アルキル基であり、好ましくはメチル基である。具体的に好ましいものは、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンである。このようなカチオンはCHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。水酸化物イオンは特に好適に用いられる。またその他の有機テンプレートとしてはN,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキルは3つの独立したアルキルであり、通常低級アルキルである。好ましくはメチルである。最も好ましいのは、N,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。
【0056】
前記反応混合物に用いるアルカリ源としては有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオンやNaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
アルカリの種類は特に限定されるものではないが、通常Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baであり、好ましくはNa、Kであり、より好ましくはKである。アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的にはNaとKを併用するのが好ましい。
【0057】
反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、SiO/Alモル比(以下単にSiO/Al比ということがある。)として表わす。SiO/Al比は特に限定されるものではないが、通常5以上であり、好ましくは8以上であることがCHA型ゼオライト膜が緻密に生成しうる点で好ましく、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上が好ましい。また通常10000以下であり、好ましくは1000以下であり、より好ましくは300以下であり、更に好ましくは100以下である。
【0058】
SiO/Al比がこの範囲内にあるときCHA型ゼオライト膜が緻密に生成しうるため好ましく、更に生成したCHA型ゼオライトが強い親水性を示し、有機物を含有する混合物中から親水性の化合物、特に水を選択的に透過することができる点で好ましい。また耐酸性に強く脱AlしにくいCHA型ゼオライトが得られる。なお、Al以外に他の元素、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素を含んでいてもかまわない。
【0059】
SiO/Al比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライトが結晶化するので好ましい。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成しうるほか耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる点で好ましい。
【0060】
反応混合物中のSi元素源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO比)が通常、0.005以上1以下であり、0.01以上0.4以下が好ましく、さらに好ましくは0.02以上0.2以下である。この範囲にあるとき緻密なCHA型ゼオライト膜が生成しうることに加えて生成したCHA型ゼオライトが耐酸性に強くAlが脱離しにくい。
【0061】
Si元素源とアルカリ源の比はアルカリ金属またはアルカリ土類金属をMであらわし、その価数をn(1または2)であらわすと、M(2/n)O/SiOのモル比で通常、0.02以上0.5以下であり、好ましくは0.04以上0.4以下、さらに好ましくは0.05以上0.3以下である。
【0062】
また、アルカリ金属の中でKが含まれる場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は通常、0.01〜1、好ましくは0.1〜1、さらに好ましくは0.3〜1である。また、Kの添加は、rhombohedral settingで空間群を
【0063】
【数4】

【0064】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである2θ=9.6°付近のピーク強度、または(1,1,1)の面に由来するピークである2θ=17.9°付近のピーク強度と、(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピーク強度の比を大きくする傾向がある。
【0065】
Si元素源と水の比はSiOに対する水のモル比で通常10以上1000以下であり、好ましくは、30以上500以下、さらに好ましくは40以上200以下、特に好ましくは50以上150以下である。反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なCHA型ゼオライト膜が生成しうる。水の量は緻密なCHA型ゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが細かい結晶が生成して緻密な膜ができやすい傾向にある。粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は一般的にはHO/SiOモル比で15〜50程度であるが、HO/SiOモル比が高い、水が多い条件にすることが好ましく、具体的に好ましくは50以上150以下といった条件下であると、無機多孔質支持体表面層にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化し分離性能の高い膜複合体が得られる点で好ましい。
【0066】
(複合体の製造方法)
支持体表面層に、気体や液体混合物の分離に適用可能な緻密で、かつ十分な透過流量が達成できるような膜状のCHA型ゼオライトを結晶化させるには、単に上記の文献をそのまま適用するだけでは不十分であり、これらの方法から膜状にする条件を種々検討する必要がある。
【0067】
本発明における無機多孔質支持体表面層に膜状にCHA型ゼオライトを結晶化させる際に、種結晶が存在しなくてもかまわないが、反応系内に種結晶を加えることでCHA型ゼオライトの結晶化を促進できるという点で好ましい。種結晶を加える方法としては特に限定されるものではないが、粉末のCHA型ゼオライトの合成時のように反応混合物中に種結晶を加える方法や、無機多孔質支持体表面上に種結晶を付着させておく方法が可能であり、膜複合体の製造方法として無機多孔質支持体表面上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体表面上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0068】
本発明において使用する種結晶は、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためにはCHA型ゼオライトであることが好ましい。種結晶として用いられるCHA型ゼオライトは特に限定されるものではないが、その粒子径は小さいほうが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。通常、0.5nm以上であり、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは2nm以上であり、通常5μm以下であり、好ましくは、3μm以下であり、さらに好ましくは2μm以下である。
【0069】
本発明における無機多孔質支持体表面上に種結晶を付着させる方法は特に限定されるものではないが、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを無機多孔質支持体表面上に塗りこむ方法などがある。種結晶の付着量を制御し、再現性良く膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
【0070】
本発明において種結晶を分散させる溶媒は、特に限定されるものではないが、水が好ましい。分散させる種結晶の量は、特に限定されるものではないが、分散液の全重量に対して通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上が好ましく、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。分散させる種結晶の量が少なすぎると無機多孔質支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体表面に部分的にCHA型ゼオライトが生成しない箇所ができることがあり欠陥のある膜となる可能性がある。分散液中の種結晶の量が多すぎるとディップ法によって無機多孔質支持体表面上付着する種結晶の量はほぼ一定となるため、分散させる種結晶の量が多すぎると種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0071】
本発明における無機多孔質支持体はディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させた後、乾燥した後に膜の合成を行うことが望ましい。
支持体表面上に予め付着させておく種結晶の重量は、特に限定されるものではないが、基材1mあたりの重量で、通常、0.1g以上、好ましくは0.15g以上、より好ましくは0.2g以上であり、通常1.8g以下であり、好ましくは1.7g以下であり、より好ましくは1.6g以下であり更に好ましくは1.5g以下である。種結晶の量が前記下限未満の場合には結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向があるために緻密な膜が生成しにくくなることがある。また種結晶の量が前記上限超過の場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、種結晶が支持体表面から落ち、反応液中に飛散する可能性がある。この場合反応用液内において種結晶から結晶が成長しやすくなる。この液中で生成した結晶が逆に支持体上の膜成長を阻害したりする場合があり、緻密な膜が生成しにくくなることがある。一方、種結晶の担持量が多いということは支持体内部への種結晶の入り込みを意味し、その種結晶が支持体内部で結晶成長すると透過抵抗を高めることになる。その場合透過流束の低下を結果する。これは膜の透過性能向上の観点から好ましくない場合がある。
水熱合成により結晶化させる場合、無機多孔質支持体を固定化するに際しては、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法で結晶化させてもよいし、反応混合物を攪拌させて結晶化させてもかまわない。
【0072】
ゼオライトを結晶化させる際の水熱合成の温度は特に限定されるものではないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下であり、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎる場合、CHA型ゼオライトが結晶化しないことがあり好ましくない。反応温度がこの範囲より高すぎる場合はCHA型とは異なるタイプのゼオライトが生成しうるので好ましくない。
【0073】
加熱時間は特に限定されるものではないが、通常1時間以上であり、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常は10日間以下であり、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎる場合はCHA型ゼオライトが結晶化しないことがあり好ましくない。反応時間が長すぎる場合はCHA型とは異なるタイプのゼオライトが生成しうるため好ましくない。
【0074】
結晶化時の圧力は特に限定されるものではないが、密閉容器中に入れた反応混合物をこの温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分であるが、窒素などの不活性ガスを加えてもかまわない。
【0075】
水熱合成により得られた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は水洗した後に、ゼオライト中の有機テンプレートを取り除く。本発明において、有機テンプレートを取り除く方法としては350℃以上で焼成することを特徴としている。また、焼成温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。焼成温度が低すぎる場合には有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離濃縮の際の透過流束が減少する可能性があり好ましくない。焼成温度が高すぎる場合には支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなりやすくなることがある。
本発明の製造方法における焼成時の昇温過程の昇温速度としては、特に限定されないが、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。通常、5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。通常、5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0076】
焼成時間は有機テンプレートが十分に取り除かれれば特に限定されるものではないが、1時間以上が好ましくさらに好ましくは5時間以上である。上限は特に限定されるものではないが通常24時間以内である。焼成は空気雰囲気で行われることが一般的であるが、酸素が含まれる雰囲気で行うことができる。 本発明の製造方法において、焼成時の保持時間と焼成時の昇温過程の昇温時間は、特に限定されないが昇温過程と降温過程における焼成の進行も考慮し、かつ熱処理をする総時間が少ない方が膜試料へのダメージを抑制する点から下記式(1)を満たすことが好ましい。より好ましくは、焼成時の保持時間/焼成時の昇温過程の昇温時間が、1以下であることがより好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。
焼成時の保持時間/焼成時の昇温過程の昇温時間≦1.5 (1)
【0077】
無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を必要に応じてイオン交換しても良い。イオン交換はテンプレートを用いて合成した場合は通常、焼成などのテンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしてはプロトン、およびNa、K、Liなどのアルカリ金属イオン、およびCa2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどがあげられる。この中でプロトン、およびNa、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。
【0078】
イオン交換の方法としては、焼成後(テンプレートを使用した場合など)の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体をNHNO、NaNOなどアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗し、必要に応じて200℃〜500℃で焼成する。
【0079】
(ゼオライト膜の製造装置)
本発明の製造方法に用いるゼオライト膜の製造装置としては、特に限定されないが多孔質管状支持体の表面に水熱合成法によりゼオライト膜を製造するもので、(a)前記多孔質管状支持体より長く、シリカ源及びアルミナ源を含有する反応液と前記多孔質管状支持体とを収容する反応容器と、(b)前記多孔質管状支持体を包囲する加熱手段と、(c)前記多孔質管状支持体を前記反応容器内に縦に保持する手段とを具備し、前記多孔質管状支持体は前記反応液内に完全に浸漬するとともに、前記反応容器の内面から実質的に離隔しており、前記加熱手段により前記反応液を加熱することにより前記多孔質管状支持体の表面にゼオライト膜を形成できる装置が好ましい。
【0080】
多孔質管状支持体を反応容器内に縦にかつ反応容器の内面から実質的に離隔するように配置するために、前記反応容器の下端部に位置する多孔質管状支持体を屹立させるジグにより前記多孔質管状支持体を前記反応液中に屹立させるのが好ましい。
前記多孔質管状支持体を前記反応容器の下端部に設けた支持部材上に載置しても良い。ただし、前記支持部材は前記多孔質管状支持体の下端を実質的に密封しない構造を有する必要がある。
【0081】
前記多孔質管状支持体は前記反応容器になるべく密に入れるのが、生産効率上、好ましい。前記多孔質管状支持体の全長にわたって前記反応液の対流がなるべく生じないように前記反応液をゆっくり加熱するのが好ましい。前記反応容器の外周にジャケットが設けられており、前記ジャケットに熱媒体を供給することにより前記反応液を加熱するのが好ましい。あるいは、前記反応容器を空気の熱媒を有する槽に入れて、ゆっくり加熱するのが好ましい。
【0082】
前記反応液の液面は前記多孔質管状支持体の上端より2〜30cm上にあるのが好ましい。前記反応容器の内面から前記多孔質管状支持体の外面までの距離は2〜25mmであるのが好ましい。ここで、多孔質管状支持体の外面とは、前記反応容器の内面にもっとも近い点を意味する。
【0083】
本発明のゼオライト膜の製造方法の好ましい一実施例においては、前記反応液として濁度300NTU以下の透明溶液を調製し、前記透明溶液は35℃未満の温度で前記反応容器に入れ、1℃/minの速度で昇温するのが好ましい。
【0084】
本発明のゼオライト膜の製造装置は、両端が開口した多孔質管状支持体の表面に水熱合成法によりゼオライト膜を製造するもので、(a)前記多孔質管状支持体より長く、シリカ源及びアルミナ源を含有する反応液と前記多孔質管状支持体とを収容する反応容器と、(b)前記多孔質管状支持体を包囲する加熱手段と、(c)前記多孔質管状支持体を前記反応容器内に縦に保持する手段とを具備し、前記多孔質管状支持体は前記反応液内に完全に浸漬するとともに、前記反応容器の内面から実質的に離隔しており、前記加熱手段により前記反応液を加熱することにより前記多孔質管状支持体の表面にゼオライト膜を形成することを特徴とする。
【0085】
前記反応容器の内面から前記多孔質管状支持体の外面までの距離は2〜25mmであるのが好ましい。前記反応容器の高さは前記多孔質管状支持体の縦方向長さより4〜90cm大きいのが好ましい。
【0086】
本発明のゼオライト膜の製造装置の好ましい一実施例では、前記保持手段は支柱であり、前記支柱により前記多孔質管状支持体の下端部から前記多孔質管状支持体を貫通することにより、前記多孔質管状支持体が前記反応液内に屹立する。
膜・支持体を懸垂する方法でもよい。その場合、支持体の上下に栓をして、反応用液が支持体内側に侵入しないようにする。
【0087】
好ましい別の装置では、前記保持手段は前記多孔質管状支持体を載置するための支持部材であり、前記支持部材は前記多孔質管状支持体の下端を実質的に密封しない構造を有する。
上述のような製造装置の一例を以下に記載する。
図1は、本発明のゼオライト膜の製造装置の一例を示す。この装置は多孔質管状支持体3を縦に収容する縦長の反応容器1と、反応容器1の内に設けられた屹立用ジグ2とを具備する。反応容器1は円筒状の本体部11と、本体部11の下端に取り付けられた下部12とを有する。
【0088】
(本発明の製造方法が効果を奏する理由)
本願発明の製造方法において、長尺化された無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体が製造できる理由としては、以下のように推察される。
すなわち、本発明において、30cm以上の長さの無機多孔質支持体上に形成するゼオライトの膜の重量を調整しているため、その後の焼成工程においてもゼオライトが割れるなどの問題を起こさないで長尺化された無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体が製造できる。また、その製造された長尺化された無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、良好な性能を効することができる。
【0089】
(分離・濃縮方法)
本発明の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いて有機物を含有する気体または液体混合物を分離、濃縮する方法は、ゼオライト膜を備えた無機多孔質支持体を介し支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に有機物を含む気体または液体の混合物を接触させ、その逆側を混合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって混合物からCHA型ゼオライト膜に透過性がある物質(混合物中の透過性が高い物質)を選択的に透過させる方法である。これにより、混合物から透過性の高い物質を分離することができる。そしてその結果、有機物を含む混合物中の特定の有機物(混合物中の透過性が低い物質)の濃度を高めることで、特定の有機物を分離回収、あるいは濃縮する方法である。具体的に言えば、水と有機物の混合物の場合、通常水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水と有機物とが分離され、有機物は元の混合物中で濃縮される。透過性パーベーパレーション、ベーパーパーミエーションと呼ばれる分離・濃縮方法はひとつの形態である。
【0090】
本発明の製造方法で得られるゼオライト膜複合体の形状は特に限定されるものでなく、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されないが、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.5cm以上から2cm以下、厚さ0.5mm以上から4mm以下が実用的で好ましい。
【0091】
本発明の製造方法で得られるゼオライト膜複合体の分離機能の一つは、分子ふるいとしての分離であり、CHA型ゼオライトの有効細孔径3.8Å以上の大きさを有する気体分子または液体分子とそれ以下の気体または液体分子との分離に好適に使用される。なお分離に供される分子に上限はないが、分子の大きさは通常、100Å以下程度である。
【0092】
また、本発明の製造方法で得られるゼオライト膜複合体のもう一つの分離機能は親水性の差を利用した分離である。ゼオライトの種類にもよるが、一般にはゼオライト骨格中Alが一定量含有されることにより、親水的性質が現れる。CHA型ゼオライト膜の結晶化条件を制御すれば結晶中のSiO/Alモル比を制御することは可能である。このような親水性膜を用いれば有機物と水の混合溶液から水分子を選択的に膜透過させることにより有機物を分離、濃縮することができる。すなわち、有機酸類/水、アルコール類/水、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類/水、アルデヒド類/水、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類/水、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機物)/水、酢酸エステル等のエステル類/水等の、有機物と水の混合水溶液から水を選択的に透過して有機物を分離、濃縮することができる。この場合に有機物と水との混合物における水の含有量はとくに制限は無く、A型ゼオライトでは構造が壊れてしまう高い水含有量、例えば20質量%以上の水含有量の混合物においても構造が壊れることなく高い選択率と透過量を実現することができる。
また、有機酸/水以外の系においても、有機酸や無機酸が存在していても耐酸性が高いので使用することができる。
【0093】
このように、本発明の製造方法で得られるゼオライト膜複合体は、高い水含有量の有機物との混合物からの分離や、酸性条件での分離においても高い選択率と透過量が実現できる。そのため通常蒸留で分離している混合物を本発明のゼオライト膜複合体を用いて分離することにより、蒸留に比べて分離に必要なエネルギーを小さくすることができる。本発明のゼオライト膜複合体は、広い範囲の水含有量の混合物からの分離が可能であるので、これまでできなかった系においても分離が可能となる。例えば、これまでA型のゼオライト膜では、高い水含有量の有機物との混合物からの分離ができなかったので、蒸留により90%程度まで有機物を濃縮してからA型ゼオライト膜を使用する必要があった。しかし、本発明のゼオライト膜複合体を用いれば、例えば50%以上の高い水含有量の有機物との混合物からであっても水と有機物を分離し、有機物を濃縮することができる。本発明のゼオライト膜複合体を用いて水と有機物を分離する場合に、所望の濃度まで有機物を濃縮するにあたり、すべての工程をゼオライト膜複合体を用いて行ってもよいし、ゼオライト膜複合体と蒸留や圧力スイング吸着(PSA)、温度スイング吸着(TSA)などの分離方法とを好適に組み合わせることも可能であり、条件を合わせることによって、最適なエネルギー効率による分離が可能となる。
【0094】
本発明の製造方法で得られるゼオライト膜複合体により分離可能な有機物の例としては、酢酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸や、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機物)、酢酸エステル等のエステル類などがあげられる。これらの中から、分子ふるいと親水性の両方の特徴を生かすことのできる有機酸と水との混合物から有機酸を分離するときに無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の効果が際立って発現する。好ましくはカルボン酸類と水との混合物、特に好ましくは酢酸と水の分離などがより好適な例である。また、有機酸以外の有機物と水との混合物から有機物と水を分離する場合の有機物は炭素数が2以上であることが好ましく、炭素数が3以上であることがより好ましい。
【0095】
本発明の製造方法で得られる無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いると分離膜として、好ましくは浸透気化分離膜として機能し有機物を含む気体または液体の混合物から特定の化合物を分離し、さらに濃縮する、実用上も十分な処理量をもち分離の性能も十分な膜分離が可能となる。ここでいう十分な処理量とは膜を透過する物質の透過流束が1kg/(m・h)以上であることをいう。また十分な分離の性能とは膜分離で一般的に用いられる分離の性能を表す、分離係数=(Pα/Pβ)/(Fα/Fβ)[ここでPαは透過液中の主成分の重量パーセント濃度、Pβは透過液中の副成分の重量パーセント濃度、Fαは透過液において主成分となる成分の被分離混合物中の重量パーセント濃度、Fβは透過液において副成分となる成分の被分離混合物中の重量パーセント濃度]が20以上であることあるいは透過液中の主成分の濃度が95質量%以上であることをいう。
【0096】
本発明の製造方法で得られる無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、高いSiO/Alモル比を持つCHA型ゼオライトがA型ゼオライトやモルデナイト型ゼオライトと異なり耐酸性に優れるため有機酸を含む混合物の分離に好適である。高いSiO/Alモル比でかつ有機テンプレートを含む反応混合液から結晶化するCHA型ゼオライトは酸性条件下でもAlが抜けにくく、構造も安定である。一方、モルデナイト型ゼオライトは酸性条件下で脱Alが進行する。脱Alが進行することによるモルデナイト型ゼオライトの結晶構造の変化は少ないものの結晶のSiO/Alモル比は大きくなる方向に変化することが予想されるのでモルデナイト型ゼオライト膜中の結晶の親水性は低くなって親水性を利用した分離では分離性能が低下する可能性がある。またA型ゼオライトは酸によって構造が破壊されるので有機酸の存在下では膜として機能しなくなると推測する。
【0097】
本発明のゼオライト膜複合体は耐酸性を有するため有機酸を含む混合物からの分離・濃縮、特に酢酸などの有機酸と水との混合物から水を選択的に透過することによる有機酸の分離・濃縮、エステル化反応促進のための水分離などに有効に利用できる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが本発明はその要旨を越えない
限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
・X線回折(XRD)の測定方法
XRD測定は以下の条件に基づきおこなった。
・装置名:(株)リガク製 RINT-UltimaIII
・光学系:高分解能平行ビーム光学系
・入射側仕様
封入式1.5kW Cu X線管球(Cu Kα線)
多層膜ミラー:入射X線を平行、圧縮、単色化して使用
発散スリット:1mm
Sollerスリット:開口角度5°
発散縦制限スリット(X線照射幅):5mm
・受光側使用
長尺平行スリット(PSA):開口角度0.114°
検出器:シンチレーションカウンター
・測定条件
管電圧:40kV
管電流:30mA
走査軸:2θ/θ
走査範囲(2θ):5〜50°
サンプリング幅:0.01°
走査速度:1°/min
測定方法:連続
・X線照射方法
円筒管の軸方向に平行に照射
【0100】
・SEM−EDXの測定方法
装置:
SEM:FE−SEM Hitachi:S−4800
EDX:EDAX Genesis
加速電圧:10kV
倍率5000倍での視野全面(25μm×18μm)を走査し、X線定量分析を行った。
【0101】
(実施例1)
「80cm丈膜合成例」
無機多孔質支持体−(CHA型)ゼオライト膜複合体はCHA型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することで作製した。
水熱合成のための反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液95.14gと1mol/L−KOH水溶液142.7gと水1328.46gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)11.44gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(TMADOH)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)35.34gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)190.28gを加えて2.5時間撹拌し、水熱合成用混合物を調製した。
【0102】
無機多孔質支持体としては管状アルミナ(外径12mm、内径9mm)を80cmの長さにして、用いた。支持体上には水熱合成に先立ち、ディップ法により、上記の方法と同様の方法によりSiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADOH=1/0.033/0.1/0.06/40/0.1のゲル組成で160℃、2日間水熱合成して結晶化させたCHA型ゼオライトの種結晶を付着させた。
【0103】
具体的には、上記の種結晶を約1質量%水中に分散させたものに支持体を所定時間浸した後、120℃で2時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の重量は約0.43g/mであった。
この種結晶を付着させた支持体を上記反応混合物の入った内径5cmのSUS製反応缶にジグを用いて4本のアルミナ支持体垂直方向に屹立させ、反応液に浸漬してオートクレーブを密閉し160℃で48時間、自生圧力下で加熱した。
この際、支持体の外壁と反応缶内壁の距離は、5mmであった。
所定時間経過後、放冷した後に支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し洗浄後120℃で2時間以上乾燥させた。乾燥後、テンプレート焼成前のゼオライト(以下as−madeということがある)の状態で円筒管状の膜複合体の一端を封止し、他の一端を真空ラインに接続することで管内を減圧とし、真空ライン設置した流量計で空気の透過量を測定したところ透過量は0ml/(m・分)であった。
テンプレート焼成前のゼオライト(as−made)の膜複合体を電気炉で500℃、10時間焼成した。このときの昇温速度と降温速度はともに0.5℃/分とした。焼成後の膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの重量は96g/mであった。SEM観察から膜厚は13μmであった。
【0104】
生成した膜のXRDを測定したところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRD測定は前記の条件によりおこなった。(2θ=17.9°付近の(1 1 1)面からのピークの強度)/(2θ=9.6°付近の(1 0 0)面からのピークの強度)=0.75であり、rhombohedral settingにおける(1 1 1)面が発達した膜におけるチャバサイト型ゼオライトの結晶の配向が推測された。
【0105】
テンプレート焼成後のゼオライト粉末のXRDを測定した。得られたXRDパターンは公知のCHA型ゼオライト、およびSSZ‐13と一致した。その粉末試料のXRDパターンにおいて、(2θ=17.9°付近の(1 1 1)面からのピークの強度)/(2θ=9.6°付近の(1 0 0)面からのピークの強度)は、0.2であった。
【0106】
無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を切り出してその表面をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
また、SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO/Alモル比を測定したところ、17であった。
【0107】
(実施例2)
「1m丈膜合成」
無機多孔質支持体CHA型ゼオライト膜複合体はCHA型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することで作製した。
水熱合成のための反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液10.5gと1mol/L−KOH水溶液7.0gと水100.0gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.88gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(TMADOH)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.95gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.5gを加えて2時間撹拌し、水熱合成用混合物を調製した。
【0108】
無機多孔質支持体としては実施例1と同様に処理したものを用いた。1m丈の支持体上には水熱合成に先立ち、実施例1と同様に粒径1.0μm程度のCHA型ゼオライトの種結晶を付着させた。付着した種結晶の重量は1.4g/mであった。
この種結晶を付着させた支持体を上記反応混合物の入った内径5cm、高さ115cmのSUS製反応缶にジグを用いて4本のアルミナ支持体垂直方向に屹立させ、反応液に浸漬してオートクレーブを密閉し160℃で48時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し洗浄後120℃で2時間以上乾燥させた。乾燥後のas−madeの状態で円筒管状の膜複合体の一端を封止し、他の一端を真空ラインに接続することで管内を減圧とし、真空ライン設置した流量計で空気の透過量を測定したところ透過量は0ml/(m・min)であった。テンプレート焼成前のゼオライトの膜複合体を電気炉で500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の重量と支持体の重量の差から支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの重量は84g/mであった。SEM観察から膜厚は約13μmであった。
【0109】
生成したゼオライト膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRD測定は実施例1と同様に行った。生成した膜のXRDと種結晶として使用した粉末を焼成したCHA型ゼオライト(USP4544538号公報においてSSZ−13と一般に呼称されるゼオライト、以下SSZ−13として表わす。)であるSSZ−13のXRDの比較を図2に示す。図2において、a)は実施例1の膜の、b)はSSZ−13粉末のXRDを示す。また、図中の●は支持体由来のピークである。生成した膜のXRDでは、粉末のCHA型ゼオライトである焼成処理したSSZ−13のXRDにくらべ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きいことがわかる。粉末のCHA型ゼオライトであるSSZ−13の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=9.6°付近のピークの強度)=0.2に対し、生成した膜の(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=9.6°付近のピークの強度)=0.60であり、rhombohedral settingにおける(111)面への配向が推測された。
【0110】
また、SEM−EDXにより、ゼオライト膜のSiO/Alモル比を測定したところ、17であった。
【0111】
(測定例1)
実施例1で得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いてパーベーパレーション法により75℃の水/N‐メチル ピロリドン(NMP)溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0112】
パーベーパレーションに用いた装置の概略図を図3に示す。図3において5のゼオライト膜複合体は12の真空ポンプによって内側が減圧され、8の被分離液が接触している外側と圧力差が約1気圧になっている。この圧力差によって8の被分離液中透過物質の水がゼオライト膜複合体に浸透気化して透過する。一方、供給液であるN−メチル ピロリドンはゼオライト膜の外側を循環している。供給液タンクが充分に大きく、供給循環ポンプ7により、充分な供給速度で供給液は流動しているので、膜の透過の最中でも事実上供給液組成は変らない。膜を透過した物質は10の透過液タンクで捕集される。一定時間ごとに10の分離透過液の重量と濃度を測定し、透過流束と分離性性能を決定した。
【0113】
トラップに捕集した透過液、被分離液の組成分析はガスクロマトグラフによって行った。1つの反応缶において同時に合成された4試料の透過流束は8.4−9.0kg/(m・h)、分離係数は107−204、透過液中の水の濃度は99.79質量%−99.60質量%であった。測定結果を表1に示す。
【0114】
(測定例2)
実施例2で得られた無機多孔質支持体−CHA型ゼオライト膜複合体を用いて実施例1と同様にパーベーパレーション法により70℃の水/N−メチル ピロリドン混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は7.3−8.4kg/(m・h)、分離係数は21−33、透過液中の水の濃度は98.70質量%−98.00質量%であった。測定結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば有機物を含む気体または液体の混合物から特定の化合物を濃縮する際に実用に耐える大きな処理量を有し、かつ十分な分離性能を有する分離、濃縮用ゼオライト膜複合体が得られ、ゼオライト膜を用いた有機物を含む気体または液体の混合物からの分離、濃縮が可能となる。
また本発明によれば耐酸性に優れた分離、濃縮用ゼオライト膜複合体が得られ、酢酸などの有機酸を含有する混合物の分離・濃縮が可能となる。特に有機酸と水との混合物から水を選択的に透過することによる有機酸の分離・濃縮、エステル化反応促進のための水分離などに有効に利用できる。
【符号の説明】
【0117】
1.反応容器
2.支持体上部ジグ
3.反応液
4.ゼオライト膜支持体
5.支持体屹立用支柱ジグ
6.供給液タンク
7.供給循環ポンプ
8.膜モジュール
8’.膜モジュール詳細
9.透過液凝縮器
10.透過液タンク
11.供給液ヒーター
12.透過系真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機テンプレート、Si元素源及びAl元素源を含有する反応液に無機多孔質支持体を浸漬させ、該無機多孔質支持体を水熱処理し無機多孔質支持体上に結晶層を生成した後、350℃以上で焼成するゼオライト膜の製造方法であって、無機多孔質支持体が30cm以上であり、支持体上に形成したゼオライト膜の重量が100g/m以下、ゼオライト膜の結晶層の厚さが5〜40μmであることを特徴とする、無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項2】
焼成により有機テンプレートを取り除くことを特徴とする、請求項1に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項3】
無機多孔質支持体に対して、ディップ法で種結晶を付着させた後、Si元素源及びAl元素源を含有する反応液に無機多孔質支持体を浸漬させることを特徴とする、請求項1または2に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項4】
無機多孔質支持体に対して、種結晶を0.1〜1.8g/m付着させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項5】
無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体が、無機多孔質支持体の表面層に、CHA型ゼオライト結晶層を有するものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のゼオライト膜の製造方法。
【請求項6】
焼成時の昇温過程の昇温速度を2℃/分以下とすることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項7】
焼成時の保持時間と焼成時の昇温過程の昇温時間が下記式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法。
焼成時の保持時間/焼成時の昇温過程の昇温時間≦1.5 (1)
【請求項8】
前記多孔質管状支持体が多孔質セラミック管であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−94752(P2013−94752A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241576(P2011−241576)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願「(平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/研究開発項目3−2 規則性ナノ多孔体精密分離膜部材基盤技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】