説明

長尺材の転回装置

【課題】長尺材の断面形状に応じた適切な方法で転回させることができる転回装置を提供する。
【解決手段】転回装置10は、第1搬送ラインL1から受け入れた長尺材Wを湾曲させつつ転回して第2搬送ラインL2へ送出する湾曲転回手段16と、第1位置に受け入れた長尺材Wを第2位置へ平行移動させて、第2搬送ラインL2へ送出する直線転回手段18とを備える。湾曲転回手段16には、第1搬送ラインL1の延長線上で開口した第1通過口20および第2搬送ラインL2の延長線上で開口した第2通過口22が形成される。また、第1および第2通過口20,22を開閉する切替手段24が設けられる。長尺材Wの断面形状が第1条件を満たす場合、切替手段24が第1姿勢とされ、また、長尺材Wの断面形状が第2条件を満たす場合、切替手段24が第2姿勢とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、平鋼材や棒鋼材等の長尺材を転回させる転回装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺材の圧延施設では、複数の圧延機を一列に配列し、長尺材を1つの搬送ラインで搬送して圧延を行う直送圧延が一般的に行われている。しかしながら、このような直送圧延は、一方向に長い広大な敷地を必要とするため、敷地面積を確保し得ない場所では実施できない難点がある。そこで、圧延機列を並列に配列して2以上の平行な搬送ラインを形成し、長尺材を転回装置で転回させながら搬送するようにした圧延施設が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、並列な2つの搬送ライン(圧延機列)を備え、両搬送ラインの一端側に設けた転向部(転回装置)により長尺材を転回させる圧延設備が開示されている。すなわち、上流側の搬送ラインを搬送された長尺材は、転向部で湾曲しながら約180°転回されて、下流側の搬送ラインに移されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−314810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1では、長尺材を転向部で湾曲させる必要があるため、断面寸法の大きな長尺材については、転向部で湾曲させることができない場合がある。すなわち、特許文献1の構成では、湾曲可能な長尺材しか転回させることができず、汎用性に欠ける難点があった。
【0006】
すなわち、本発明は、従来技術に係る長尺材の転回装置に内在する前記問題に鑑み、これらを解決するべく提案されたものであって、汎用性の高い長尺材の転回装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、請求項1に係る長尺材の転回装置は、
並列に並ぶ2つの搬送ラインの一端側に配設され、上流側の搬送ラインから下流側の搬送ラインへ長尺材を転回させる長尺材の転回装置において、
上流側の搬送ラインから受け入れた長尺材を湾曲させつつ転回して下流側の搬送ラインへ送出する湾曲転回手段と、
前記湾曲転回手段に設けられ、上流側の搬送ラインの延長線上で開口した第1通過口および下流側の搬送ラインの延長線上で開口した第2通過口と、
前記湾曲転回手段を挟んで前記搬送ラインとは反対側に設けられ、上流側の搬送ラインの延長線上にある第1位置に前記第1通過口を介して受け入れた長尺材を下流側の搬送ラインの延長線上にある第2位置へ平行移動させて前記第2通過口を介して下流側の搬送ラインへ送出する直線転回手段と、
前記第1および第2通過口を閉成して、前記湾曲転回手段で長尺材を転回させる第1姿勢と、第1および第2通過口を開放して、前記直線転回手段で長尺材を転回させる第2姿勢とに姿勢変化する切替手段とを備えたことを要旨とする。
請求項1の発明によれば、切替手段の切り替えによって長尺材を湾曲転回手段または直線転回手段の何れかで転回させるようにしたので、長尺材の断面形状に応じた適切な方法で長尺材を転回することが可能となる。従って、各種断面形状の長尺材を転回することができ、汎用性を高めることができる。
【0008】
請求項2に係る長尺材の転回装置では、前記直線転回手段は、長尺材が摺動自在に載置される搬送テーブルと、該搬送テーブルから上方に突出する押送部とを備え、該押送部が直線移動して長尺材を押送することで、長尺材を第1位置から第2位置へ平行移動させることを要旨とする。
請求項2の発明によれば、押送部で長尺材を押送して平行移動させるので、長尺材を湾曲させることなく転回することができる。
【0009】
請求項3に係る長尺材の転回装置では、前記湾曲転回手段の入側に設けられ、長尺材の長手方向に延在する軸を中心として該長尺材を湾曲に適した姿勢に回転させる回転手段を備えることを要旨とする。
請求項3の発明によれば、回転手段により長尺材を湾曲に適した姿勢に回転させるので、湾曲転回手段で長尺材をスムーズに湾曲させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る長尺材の転回装置によれば、長尺材の断面形状に応じた適切な方法で長尺材を転回することができるから、汎用性を高め得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る転回装置が実施された圧延ラインの一部を示す説明図である。
【図2】実施例に係る転回装置の要部を示す平面図であって、(a)は長尺材が第1位置にある状態を示し、(b)は長尺材が第2位置にある状態を示す。
【図3】図2(a)のI−I線断面図である。
【図4】長尺材の断面形状を示す断面図であって、(a)は平鋼材を示し、(b)は棒鋼材を示し、(c)はオーバル鋼材を示す。
【図5】第1回転手段で長尺材を回転させる様子を示す説明図であって、(a)は長尺材を回転させる前の状態の斜視図およびA−A線側から見た側面図を示し、(b)は長尺材を回転させた後の状態の斜視図およびB−B線側から見た側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る長尺材の転回装置につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。なお、以下の説明では、断面矩形状の平鋼材や断面円形状の棒鋼材、断面楕円形状のオーバル鋼材等の長尺材を圧延する圧延ラインに、本発明の転回装置を実施した場合で例示する。また、以下の説明では、図1の矢印を基準として「前」、「後」、「左」、「右」と指称し、また図3の矢印を基準として「上」、「下」と指称する。
【実施例】
【0013】
図1は、実施例に係る転回装置10および該転回装置10が設置された圧延ラインLの一部を示す概略図である。この圧延ラインLは、図示しない加熱炉で加熱された長尺材Wを一方向(右から左)へ搬送する上流側の第1搬送ラインL1と、該第1搬送ラインL1に対し前方に所要間隔離間して並列(平行)に配設され、長尺材Wを第1搬送ラインL1とは反対方向(左から右)へ搬送する下流側の第2搬送ラインL2とを備えている。なお、第1および第2搬送ラインL1,L2で搬送される長尺材Wは、高温状態を維持しており湾曲可能とされる。実施例の転回装置10は、第1および第2搬送ラインL1,L2の一端側(図1の左端側)に設置されて、長尺材Wを第1搬送ラインL1から第2搬送ラインL2へ転回させるよう構成されている。なお、第1搬送ラインL1には、搬送方向に並んで複数の送りローラ12が配設されると共に、第2搬送ラインL2には、一対の圧延ロール14,14が回転軸を90°ずつ相違させながら搬送方向に複数配列されている。
【0014】
前記転回装置10は、長尺材Wを湾曲させつつ転回する湾曲転回手段16と、該湾曲転回手段16を挟んで第1,第2搬送ラインL1,L2とは反対側に設けられ、長尺材Wを湾曲することなく(直線のまま)転回する直線転回手段18と、湾曲転回手段16に開設した第1通過口20および第2通過口22と、第1および第2通過口20,22を開閉する切替手段24とから基本的に構成される。また、実施例の転回装置10は、湾曲転回手段16の入側および出側に、長手方向に延在する軸を中心として長尺材Wを回転させる第1回転手段(回転手段)26および第2回転手段28が設けられている。
【0015】
前記湾曲転回手段16は、略U字状に延在する内側弧状壁30と、該内側弧状壁30を外側から囲繞するよう設けられた略U字状の外側弧状壁32と、両弧状壁30,32の間に画成される弧状案内路34とを備えている。前記内側弧状壁30の後側の端部および外側弧状壁32の後側の端部は、前記第1搬送ラインL1の一端側に臨んでおり、両端部の間に第1搬送ラインL1から搬送された長尺材Wを受け入れる導入口36が形成されている。また、前記内側弧状壁30の前側の端部および外側弧状壁32の前側の端部は、前記第2搬送ラインL2の一端側に臨んでおり、両端部の間に長尺材Wを第2搬送ラインL2へ送出する導出口38が形成されている。前記内側弧状壁30および外側弧状壁32の前記導入口36側には、前後に対応するよう第1設置凹部40,40が夫々形成されており、各設置凹部40に導入ピンチローラ42が回転自在に配設されている。この導入ピンチローラ42,42は、図示しない駆動源により回転されるようになっており、長尺材Wを導入ピンチローラ42,42で挟持した状態で転回装置10側へ送り込むよう構成される。また、前記内側弧状壁30および外側弧状壁32の前記導出口38側には、前後に対応するよう第2設置凹部44,44が夫々形成されており、各設置凹部44に導出ピンチローラ46,46が回転自在に配設されている。この導出ピンチローラ46,46は、導入ピンチローラ42,42と同様に、図示しない駆動源により回転されるようになっており、長尺材Wを導出ピンチローラ46,46で挟持して第2搬送ラインL2へ送り出すよう構成される。
【0016】
図1に示すように、前記弧状案内路34は、U字状(円弧状)に延在しており、該案内路34を長尺材Wが湾曲しながら移動することで、該長尺材Wが180°転回されるようになっている。すなわち、弧状案内路34に導入された長尺材Wは、外側弧状壁32の内側面(内側弧状壁30に対向する側面)に沿って摺動することで、弧状案内路34を湾曲しながら転回される。前記第1通過口20は、外側弧状壁32における第1搬送ラインL1の延長線上に位置するよう形成されている。また、前記第2通過口22は、外側弧状壁32における第2搬送ラインL2の延長線上に位置するよう形成されている。すなわち、第1通過口20は、前記第1搬送ラインL1から前記直線転回手段18へ直線的に送られる長尺材Wが通過し得る位置および寸法で外側弧状壁32に形成されている。また、第2通過口22は、前記直線転回手段18から第2搬送ラインL2へ直線的に送られる長尺材Wが通過し得る位置および寸法で外側弧状壁32に形成されている。
【0017】
図1,図3に示すように、前記直線転回手段18は、長尺材Wを支持する搬送テーブル48と、長尺材Wを平行移動させる搬送機構50とから基本的に構成される。前記搬送テーブル48は、左右方向に長尺な矩形状に形成され、前記湾曲転回手段16の左方に位置するよう配設されている。搬送テーブル48の載置面(上面)は、長尺材Wが摺動し得るよう摩擦抵抗の少ない平坦面をなしている。搬送テーブル48の前後の縁部には、矩形状の設置孔52が左右方向に並んで複数(実施例では4つずつ)形成されている。後側の設置孔52は、前記第1搬送ラインL1の延長線上に並んでおり、後側の設置孔52に、前後方向に延在する回転軸を介して第1ローラ54が回転自在に配設される。前側の設置孔52は、前記第2搬送ラインL2の延長線上に並んでおり、前側の各設置孔52に、前後方向に延在する回転軸を介して第2ローラ56が回転自在に配設されている。第1ローラ54および第2ローラ56は、何れも、搬送テーブル48の載置面から周面が僅かに突出しており、長尺材Wを支持した状態で左右方向へ直線的に送るようになっている。第1ローラ54は、長尺材Wを左方向へ、また、第2ローラ56は、長尺材Wを右方向へ送るよう構成される。なお、第1ローラ54および第2ローラ56は、何れも図示しない駆動源により回転される。
【0018】
図2(a)に示すように、長尺材Wの全体が第1ローラ54に支持されて、搬送テーブル48の後縁に沿って延在する第1位置に長尺材Wが位置すると、第1ローラ54の回転が停止されるようになっている。図1に示すように、この第1位置は、第1搬送ラインL1の延長線上に位置している。前記第2ローラ56は、搬送機構50により移動される長尺材Wを停止した状態で待ち受けて、図2(b)に示すように、搬送テーブル48の前縁に沿って延在する第2位置に長尺材Wが到来したときに、該長尺材Wを支持するようになっている。なお、第2ローラ56の後側の端部は、後側から前側に向けて緩やかに上方傾斜するテーパ(図示せず)が付されており、第2位置に到来した長尺材Wが第2ローラ56上にスムーズに載置されるよう構成される。図1に示すように、この第2位置は、第2搬送ラインL2の延長線上に位置している。そして、第2ローラ56が回転することで、長尺材Wが他方向(左から右)へ直線的に送られて、前記第2通過口22を通過させるよう構成される。前記搬送テーブル48には、第1および第2ローラ54,56を避けた位置に前後方向に延在する長孔58が複数(実施例では3つ)形成されている。長孔58の後端は、第1ローラ54(第1位置)より後方に位置すると共に、長孔58の前端は、第2ローラ56(第2位置)より前方に位置している。
【0019】
図2(a),(b),図3に示すように、長尺材Wを前方へ移動させる搬送機構50は、搬送テーブル48の下方に前後に離間して設けられた一対の回転部材60,60と、該回転部材60,60に巻き掛けられた複数(実施例では3つ)の無端チェーン62と、各無端チェーン62に取り付けられた押送部64とから基本的に構成される。前記回転部材60,60は、左右方向に長尺な柱状体であって、左右方向に延在する軸を中心として正逆方向に回転される。両回転部材60,60は、図示しない駆動源により同期的に回転される。前記無端チェーン62は、図1に示すように、各長孔58に対応するよう回転部材60,60に巻き掛けられており、前記回転部材60,60が回転することで周回するようになっている。前記押送部64は、上下方向に延在する棒状体であって、その上部が前記長孔58を介して搬送テーブル48の搬送面側に突出し、長尺材Wに当接し得るよう構成される。押送部64は、無端チェーン62が周回することで、長孔58の略全体を前後に往復移動するようになっている。ここで、図2(a)に示すように、押送部64は、回転部材60,60が停止した状態では、長孔58の後端に位置し、第1位置の長尺材Wの後方で待機している。そして、回転部材60,60が回転すると、全ての押送部64が一斉に移動を開始して、同一の速度で前方へ移動するよう構成される。これにより、押送部64が長尺材Wを押送し、該長尺材Wを第1位置から第2位置へ平行移動させる。なお、押送部64が長孔58の後端側へ復帰する際には、前記回転部材60,60が反対方向へ回転されて、押送部64が各長孔58を後進するよう構成される。このとき、押送部64は、軸部64aを軸として搬送テーブル48の搬送面より下方へ傾動するよう構成されている。このため、図3の2点鎖線に示すように、押送部64は、第2位置から第1位置に復帰する際に下方へ傾動することで、第1位置に待機する次の長尺材Wに押送部64が干渉することなく長孔58の後端に移動し得るようになっている。
【0020】
実施例の切替手段24は、第1通過口20に設けられた第1揺動部材66と、第2通過口22に設けられた第2揺動部材68とで構成される。第1揺動部材66は、外側弧状壁32における第1通過口20を画成する左側前方の縁部側で、上下方向に延在する第1揺動軸66aに軸支されている。そして、第1揺動部材66は、図示しない駆動源により第1揺動軸66aを中心として揺動されて、第1姿勢(図1の実線)および第2姿勢(図1の2点鎖線)に姿勢変化するようになっている。第1姿勢の第1揺動部材66は、第1通過口20を閉成すると共に弧状案内路34から退避するよう構成される。これにより、長尺材Wが第1通過口20を通過するのを規制して、長尺材Wが湾曲転回手段16で転回される。また、第1姿勢における第1揺動部材66は、弧状案内路34側の側面が外側弧状壁32の円弧形状に整合して、弧状案内路34を移動する長尺材Wを摺動案内するよう構成される。また、第2姿勢の第1揺動部材66は、第1通過口20を開放すると共に弧状案内路34側へ臨むよう構成される。これにより、長尺材Wが第1通過口20を通過するのが許容されて、長尺材Wが直線転回手段18で転回される。
【0021】
前記第2揺動部材68は、外側弧状壁32における第2通過口22を画成する左側後方の縁部で、上下方向に延在する第2揺動軸68aに軸支されている。そして、第2揺動部材68は、図示しない駆動源により第2揺動軸68aを中心として揺動されて、第1姿勢(図1の実線)および第2姿勢(図1の2点鎖線)に姿勢変化するようになっている。第1姿勢の第2揺動部材68は、第2通過口22を閉成すると共に弧状案内路34から退避するよう構成される。これにより、長尺材Wが第2通過口22を通過するのを規制するようになっている。また、第1姿勢における第2揺動部材68は、弧状案内路34側の側面が外側弧状壁32の円弧形状に整合して、弧状案内路34を移動する長尺材Wを摺動案内するよう構成される。また、第2姿勢の第2揺動部材68は、第2通過口22を開放すると共に弧状案内路34側へ臨むよう構成される。これにより、長尺材Wが第2通過口22を通過するのが許容されて、長尺材Wが直線転回手段18から第2通過口22を介して第2搬送ラインL2へ送ることが可能となる。
【0022】
ここで、第1および第2揺動部材66,68は、長尺材Wの短手方向の断面形状に基づいて姿勢変化されるようになっている。すなわち、長尺材Wの断面形状が湾曲転回手段16で転回するのに適した第1条件を満たす場合、第1および第2揺動部材66,68は、第1姿勢とされる。一方、長尺材Wの断面形状が直線転回手段18で転回するのに適した第2条件を満たす場合、第1および第2揺動部材66,68は、第2姿勢とされる。具体的には、第1条件は、長尺材Wが湾曲転回手段16で円滑に湾曲し得る断面形状であって、例えば、長尺材Wが平鋼材の場合(図4(a)参照)、上下方向の厚みaが9mm<a<40mm、かつ前後方向の幅bがb<90mmを満たす断面形状をいい、長尺材Wが丸鋼材の場合(図4(b)参照)、直径cがc<50mmを満たす断面形状をいう。また、長尺材Wがオーバル鋼材の場合(図4(c)参照)、平鋼材の場合と同様に、上下方向の厚みdが9mm<d<40mm、かつ前後方向の幅eがe<90mmを満たす断面形状をいう。また、第2条件は、長尺材Wが湾曲するのが困難または不能な断面形状であって、実施例では、長尺材Wが平鋼材の場合で、厚みaがa≦9mmまたは40mm≦a、若しくは幅bがb≧90mmを満たす断面形状をいい、長尺材Wが丸鋼材の場合では、直径cがc≧50mmを満たす断面形状をいう。また、オーバル鋼材の場合では、平鋼材の場合と同様に、厚みdがd≦9mmまたは40mm≦d、若しくは幅eがe≧90mmを満たす断面形状をいう。但し、ここに示した第1条件および第2条件の具体的な数値範囲は、一例を示したものであり、長尺材Wの材質や温度、搬送速度等に応じて第1条件および第2条件は適宜変更可能である。
【0023】
前記第1回転手段26および第2回転手段28は、何れも同一構造をなしている。従って、以下の説明では、主として第1回転手段26について説明し、第2回転手段28については、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。図5(a),(b)に示すように、第1回転手段26は、円盤状の回転基体70と、該回転基体70における第1,第2搬送ラインL1,L2側(右面)に設けられた一対の固定ローラ72,72とから基本的に構成される。前記回転基体70は、長尺材Wの長手方向に沿う軸を中心として90°回転するよう構成される。また、回転基体70には、該回転基体70の中心を通る挿通孔70aが左右方向に貫通形成されており、該挿通孔70aを長尺材Wが通過し得るよう構成される。
【0024】
前記固定ローラ72,72は、長尺材Wの長手方向に対し直交する方向の軸を介して回転自在に構成される。また、固定ローラ72,72は、回転基体70が回転する際に、該回転基体70と共に回転するようになっている。両固定ローラ72,72の離間距離は、図示しない作動手段により変更し得るよう構成されている。すなわち、長尺材Wを通過させる際には、両固定ローラ72,72の離間距離が大きくなって、両ローラ72,72で長尺材Wを送るよう構成される。一方、長尺材Wを回転させる際には、両固定ローラ72,72が互いに近接し、長尺材Wを固定ローラ72,72で保持するよう構成される(図5(a)参照)。そして、固定ローラ72,72で長尺材Wを保持した状態で回転基体70が回転することで、長尺材Wを回転させるよう構成される(図5(b)参照)。なお、実施例の第1回転手段26は、図5(a),(b)に示すように、長尺材Wを第1搬送ラインL1の上流側から見た場合において、反時計回り方向へ長尺材Wを回転させるようになっている。
【0025】
ここで、第1回転手段26(第2回転手段28)は、次の条件を満たす場合に長尺材Wを回転させるよう設定される。すなわち、第1搬送ラインL1を搬送される(転回装置10に到来する前)長尺材Wの断面形状が湾曲可能な前記第1条件を満たす場合であって、かつ第3条件を満たす場合に、第1回転手段26が長尺材Wを回転させるようになっている。この第3条件とは、図5(a)に示すように、第1回転手段26に到来したときの長尺材Wの断面形状が前後方向(幅方向)に長尺で、このままの姿勢では湾曲転回手段16で転回する際に長尺材Wに負荷が掛かり、長尺材Wをスムーズに湾曲し得なくなる条件をいう。すなわち、図5(a),(b)に示すように、前後方向に長尺な姿勢の長尺材Wを第1回転手段26で90°回転させて、上下方向に長尺な姿勢(湾曲に適した姿勢)にすることで、湾曲転回手段16で長尺材Wがスムーズに湾曲することが可能となる。具体的には、第3条件は、図4(a)に示すように、長尺材Wが平鋼材の場合、第1回転手段26に到来した状態での長尺材Wの断面形状において、前後方向の幅bに対する上下方向の厚みaの比が、好ましくは1/8未満下の場合、更に好ましくは1/9未満となる場合をいう。また、図4(c)に示すように、長尺材Wがオーバル鋼材の場合、前後方向の幅eに対する上下方向の厚みdの比が、好ましくは1/8未満の場合、更に好ましくは1/9未満となる場合をいう。但し、ここに示した第3条件の具体的な数値は、一例を示したものであり、長尺材Wの材質や温度等に応じて第3条件を適宜変更することが可能である。なお、長尺材Wが棒鋼材(図4(b)参照)の場合や、長尺材Wの断面形状が第2条件を満たす場合、長尺材Wを回転させる必要はなく、第1回転手段26は長尺材Wを通過させる。
【0026】
前記第2回転手段28は、第1回転手段26で長尺材Wが回転された場合に、該長尺材Wを90°回転させて、長尺材Wを元の姿勢に復帰させるものである。従って、第1回転手段26で回転されなかった長尺材Wは、第2回転手段28においても回転されることはなく、この場合、第2回転手段28は長尺材Wを通過させる。なお、第2回転手段28の回転基体70は、第1回転手段26の回転基体70と同一方向に回転されるようになっている。すなわち、第2回転手段28は、第2搬送ラインL2の下流側から長尺材Wを見た状態で、反時計回り方向へ長尺材Wを回転させる(図5(a),(b)参照)。従って、第2回転手段28で回転された長尺材Wは、第1回転手段26で回転される前の状態に戻される(すなわち、長尺材Wの上下の面が裏返しになることはない)。
【0027】
次に、実施例に係る転回装置10によって長尺材Wを転回する方法について説明する。
【0028】
(長尺材Wの断面形状が第1条件および第3条件を満たす場合)
長尺材Wの断面形状が第1条件の場合、第1揺動部材66および第2揺動部材68は、第1姿勢とされる。このとき、図1に示すように、第1通過口20は第1揺動部材66によって閉成されると共に、第2通過口22は第2揺動部材68によって閉成される。また、第1および第2揺動部材66,68は、弧状案内路34から退避した状態となる。第1搬送ラインL1を搬送される長尺材Wが第1回転手段26に到来すると、固定ローラ72,72により長尺材Wが送られて挿通孔70aを挿通する。長尺材Wの断面形状は、第3条件を満たしているから、第1回転手段26は、長尺材Wを90°回転させて湾曲に適した姿勢とする。すなわち、固定ローラ72,72が回転を停止させると共に、両固定ローラ72,72が互いに近接して、長尺材Wを保持する図(5(a)参照)。そして、図5(b)に示すように、回転基体70が固定ローラ72,72と共に90°回転し、長尺材Wを前後方向(幅方向)に長尺な姿勢から上下方向に長尺な姿勢(湾曲に適した姿勢)に変更する。
【0029】
次に、固定ローラ72,72が回転を再開し、長尺材Wが第1回転手段26を通過すると、導入口36を介して弧状案内路34内へ導入される。そして、長尺材Wは、導入ピンチローラ42,42により送られ、長尺材Wの先端部が第1揺動部材66に到来すると、該第1揺動部材66に沿って長尺材Wが湾曲する。このとき、第1姿勢の第1揺動部材66の側面は、外側弧状壁32に整合するよう湾曲しているから、長尺材Wは、第1揺動部材66に沿ってスムーズに案内される。そして、長尺材Wは、外側弧状壁32の側面に沿って円弧状に湾曲しながら、弧状案内路34を移動する。ここで、長尺材Wは、第1回転手段26により上下方向に長尺な姿勢とされているから、弧状案内路34でスムーズに湾曲することができ、湾曲時に加わる長尺材Wの負荷を低減することができる。従って、長尺材Wの品質低下を抑制することができる。更に長尺材Wが弧状案内路34を移動して、第2揺動部材68に到来すると、該第2揺動部材68に長尺材Wが摺動案内されて、長尺材Wが第2搬送ラインL2側(右方)へ湾曲される。このとき、第1姿勢の第2揺動部材68の側面は、外側弧状壁32に整合するよう湾曲しているから、長尺材Wは第2揺動部材68に引っ掛かることなくスムーズに案内される。
【0030】
長尺材Wの先端部が導出ピンチローラ46,46に到来すると、該導出ピンチローラ46,46により長尺材Wが送られて、湾曲転回手段16から第2搬送ラインL2へ送出される。長尺材Wが第2回転手段28に到来すると、該第2回転手段28により長尺材Wが90°回転されて、元の姿勢(第1回転手段26で回転される前の姿勢)に復帰する。そして、長尺材Wが第2搬送ラインL2に移されて、圧延ロール14,14による圧延が行われる。このように、湾曲転回手段16では、長尺材Wが弧状案内路34を移動する間に第1搬送ラインL1から第2搬送ラインL2に向けて180°転回されて、第1搬送ラインL1から第2搬送ラインL2に長尺材Wを移すことが可能となる。
【0031】
(長尺材Wの断面形状が第1条件を満たし、第3条件を満たさない場合)
長尺材Wの断面形状が第1条件のみを満たす場合、長尺材Wは、第1搬送ラインL1における搬送時の姿勢で湾曲することが可能である。このため、長尺材Wを第1回転手段26で回転する必要がなく、第1回転手段26は、長尺材Wをそのまま通過させる。第1回転手段26を通過した長尺材Wは、導入口36を介して弧状案内路34に導入されて、該弧状案内路34を湾曲しながら移動する。そして、前述と同様に、長尺材Wは、弧状案内路34を移動する間に180°転回されて、湾曲転回手段16から第2搬送ラインL2へ送出される。長尺材Wが第2回転手段28に到来すると、第2回転手段28は、長尺材Wを回転させることなく通過させ、長尺材Wは第2搬送ラインL2へ移される。このように、長尺材Wの断面形状が第1条件のみを満たす場合、第1回転手段26によって回転されることなく湾曲転回手段16へ送られるから、該長尺材Wを効率よく第1搬送ラインL1から第2搬送ラインL2へ転回させることができる。なお、長尺材Wの断面形状は、第1条件を満たしているから、湾曲転回手段16で支障なく湾曲することができ、長尺材Wに過剰な負荷が掛かることはない。
【0032】
(長尺材Wの断面形状が第2条件を満たす場合)
長尺材Wの断面形状が第2条件を満たす場合、第1揺動部材66および第2揺動部材68は、第2姿勢とされる。すなわち、図2(a),(b)に示すように、第1揺動部材66は第1揺動軸66aを中心として揺動し、第1通過口20を開放させると共に弧状案内路34内に臨んだ状態となる。また、第2揺動部材68は第2揺動軸68aを中心として揺動し、第2通過口22を開放させると共に、弧状案内路34内に臨んだ状態となる。また、搬送機構50の押送部64は、長孔58の後端側に位置し、第1位置の後方で待機している。第1搬送ラインL1を搬送された長尺材Wが、第1回転手段26に到来すると、第1回転手段26は、長尺材Wを回転させることなく通過させる。長尺材Wは、導入口36を介して弧状案内路34に侵入し、導入ピンチローラ42,42により左方へ送られる。そして、図2(a)に示すように、長尺材Wは、第1通過口20を直線的に通過して、搬送テーブル48上に移される。
【0033】
第1通過口20を通過した長尺材Wは、第1ローラ54によって左方へ送られる。そして、図2(a)に示すように、長尺材Wが第1位置に到来すると、第1ローラ54の回転が停止されて、長尺材Wを第1位置で停止させる。このように、第1通過口20および第1位置は、第1搬送ラインL1の延長線上に位置するから、第1搬送ラインL1から第1通過口20を介して第1位置へ長尺材Wを直線的に送ることができる。図2(a)に示すように、第1位置の長尺材Wは、前記押送部64の前方で延在した状態となる。次いで、回転部材60,60が回転して無端チェーン62を周回させ、押送部64が一斉に前方へ移動し始める。そして、図3に示すように、押送部64が長尺材Wに後方から当接することで、該長尺材Wを前方へ移動させる。ここで、全ての押送部64が同一の速度で長孔58を移動するから、長尺材Wは、平行姿勢のまま搬送テーブル48上を移動する。
【0034】
図2(b)に示すように、長尺材Wが第2位置に到来すると、回転部材60,60が停止して、長尺材Wは、第2ローラ56に支持された状態で停止する。なお、第2ローラ56は、後側の端部をテーパ形状としてあるから、長尺材Wが第2ローラ56に引っ掛かることなく該第2ローラ56上に移載されて、第2位置にスムーズに到来することができる。次に、第2ローラ56が回転して長尺材Wが右方へ直線的に送られ、長尺材Wが第2通過口22を通過する。第2通過口22を介して弧状案内路34内に侵入した長尺材Wは、導出ピンチローラ46,46により左方へ送られて、第2回転手段28に到来する。ここで、長尺材Wは、第1回転手段26で回転されていない(第3条件を満たしていない)から、第2回転手段28は、長尺材Wを回転することなく通過させる。そして、第2回転手段28を通過した長尺材Wは、第2搬送ラインL2に移され、圧延ロール14,14により圧延される。このように、第2位置および第2通過口22は、第2搬送ラインL2の延長線上に位置するから、長尺材Wは、第2位置から第2通過口22を介して直線的に第2搬送ラインL2へ送ることができる。また、直線転回手段18では、長尺材Wを平行移動させることで転回させるから、湾曲するのが困難な長尺材Wであっても支障なく転回させることができる。なお、押送部64が長孔58の前端に到来すると、回転部材60,60が逆回転されて押送部64を長孔58へ向けて後進させる。このとき、押送部64は、搬送テーブル48の搬送面より下方に傾動した状態とされるので、第1位置に待機する次の長尺材Wに干渉することなく、押送部64が長孔58の後端まで移動することができる。このように、押送部64を後進させて長孔58の後端に復帰させるので、押送部64を周回させて長孔58の後端に復帰させる場合に較べ移動距離を短縮し得る。従って、押送部64のサイクルタイムを短かくし得るから、長尺材Wを効率的に平行移動させることができる。
【0035】
以上に示したように、実施例に係る長尺材Wの転回装置10によれば、切替手段24を切り替えることで、長尺材Wの断面形状に応じた方法で転回させることができるので、各種断面形状の長尺材Wを適切に転回することができ、汎用性を高め得る。また、長尺材Wの断面形状に最適な方法で長尺材Wを転回させるから、該長尺材Wに負荷を与えることなくスムーズに転回させることが可能となる。
【0036】
なお、実施例で示した転回装置は、以下に示す如き、種々の変更が可能である。
(1) 実施例では、切替手段として、揺動することで第1姿勢および第2姿勢に姿勢変化する第1および第2揺動部材を例示したが、切替手段としては、必ずしも揺動する構成を採用する必要はない。例えば、切替手段が第1姿勢から第2姿勢にスライドする構成や平行移動する構成を採用してもよい。
(2) 実施例では、湾曲転回手段の導出口側に第2回転手段を配設して、長尺材を元の姿勢に戻すようにしたが、必ずしも、第2回転手段を設ける必要はなく、第1回転手段で回転された姿勢で、そのまま長尺材を第2搬送ラインへ送出するようにしてもよい。
(3) 実施例では、長尺材として、平鋼材や棒鋼材、オーバル鋼材を例示したが、断面形状が三角形等、他の多角形をなす長尺材を本発明に適用することが可能である。
(4) 実施例では、外側弧状壁および内側弧状壁により弧状案内路を画成したが、内側弧状壁を省略して、外側弧状壁の搬送ライン側の側面で長尺材を案内する構成としてもよい。
(5) 実施例では、直線転回手段は、搬送テーブルおよび搬送機構により長尺材を平行移動させる構成としたが、長尺材を平行移動して転回させ得る構成であれば、直線転回手段として他の構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0037】
16 湾曲転回手段,18 直線転回手段,20 第1通過口,22 第2通過口
24 切替手段,26 第1回転手段(回転手段),48 搬送テーブル,64 押送部
L1 第1搬送ライン(上流側の搬送ライン)
L2 第2搬送ライン(下流側の搬送ライン),W 長尺材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に並ぶ2つの搬送ライン(L1,L2)の一端側に配設され、上流側の搬送ライン(L1)から下流側の搬送ライン(L2)へ長尺材(W)を転回させる長尺材の転回装置において、
上流側の搬送ライン(L1)から受け入れた長尺材(W)を湾曲させつつ転回して下流側の搬送ライン(L2)へ送出する湾曲転回手段(16)と、
前記湾曲転回手段(16)に設けられ、上流側の搬送ライン(L1)の延長線上で開口した第1通過口(20)および下流側の搬送ライン(L2)の延長線上で開口した第2通過口(22)と、
前記湾曲転回手段(16)を挟んで前記搬送ライン(L1,L2)とは反対側に設けられ、上流側の搬送ライン(L1)の延長線上にある第1位置に前記第1通過口(20)を介して受け入れた長尺材(W)を下流側の搬送ライン(L2)の延長線上にある第2位置へ平行移動させて前記第2通過口(22)を介して下流側の搬送ライン(L2)へ送出する直線転回手段(18)と、
前記第1および第2通過口(20,22)を閉成して、前記湾曲転回手段(16)で長尺材(W)を転回させる第1姿勢と、第1および第2通過口(20,22)を開放して、前記直線転回手段(18)で長尺材(W)を転回させる第2姿勢とに姿勢変化する切替手段(24)とを備えた
ことを特徴とする長尺材の転回装置。
【請求項2】
前記直線転回手段(18)は、長尺材(W)が摺動自在に載置される搬送テーブル(48)と、該搬送テーブル(48)から上方に突出する押送部(64)とを備え、該押送部(64)が直線移動して長尺材(W)を押送することで、長尺材(W)を第1位置から第2位置へ平行移動させる請求項1記載の長尺材の転回装置。
【請求項3】
前記湾曲転回手段(16)の入側に設けられ、長尺材(W)の長手方向に延在する軸を中心として該長尺材(W)を湾曲に適した姿勢に回転させる回転手段(26)を備える請求項1または2記載の長尺材の転回装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−91084(P2013−91084A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235249(P2011−235249)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】