説明

長尺構造物の制振装置

【課題】地震発生時における長尺構造物の転倒または破損を適切に抑制できる制振装置を提供する。
【解決手段】長尺構造物の制振装置14において、制御プレート22は、長尺構造物の上端12aに弾性部材を介して取り付けられる。支柱28は、上端に質量30が付加され下端が制御プレート22の水平方向中央で固定される。梃子40において、第1ロッド44は、制御プレート22の縁部に回転端48を介して接続され、回転端48から離間する方向に延在する。第2ロッド46は、上端12aに固定されるボトムプレート20と第1ロッド44との間に介在し、第1ロッド44と回転端54を介して接続される。減衰機構38は、制御プレート22の回転端48と長尺構造物の上端12aとの相対変動を、梃子40を用いて当該相対変動よりも小さい変動に変換してダンパ42に減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺構造物の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電柱、広告塔、災害無線塔、煙突、電波塔などの塔状構造物が地震により損傷、倒壊すると、長期間にわたって生活インフラが失われることになる。そこで、このような長尺構造物のための多数の耐震、免震、制振技術が開発されている。これらのうち制振技術は、地盤の変動による加速度エネルギを、衝撃、熱、材料の塑性変形などにエネルギ変換して吸収する技術の総称である。
【0003】
制振装置は、パッシブ(Passive)型とアクティブ(Active)型に分類される。前者には、付加質量機構が含まれる。この付加質量機構は、構造物頂部に共振質量を設け、地震発生時にこの共振質量を振動させることで構造物本体の振動を抑制するもので、「TMD(Tuned Mass Damper)」または「動吸振器」とも呼ばれる。しかし付加質量機構は装置が大きくなりやすく、上記のような塔状構造物には一般的に不向きである。
【0004】
ここで、自由端に質量を付加した支柱と、支柱の片持ち振動を減衰させる減衰部材と、を有する長尺構造物の制振装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この制振装置では、付加する質量や支柱の固有振動数を調整するなどにより、長尺構造物の構造に適した制振装置を設けることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−344452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地震が起こると、長周期地震動が生じることが知られている。長周期地震動は、長周期成分が卓越した地震波形を多く含む。長尺構造物は固有周期が長いため、この長周期地震動の影響を受けやすい。しかしながら、上述の特許文献に記載される技術では、長周期地震動による振動を抑制すべく支柱の固有周期を長くさせようとすると、支柱の強度が低下し座屈などが発生する虞がある。このためこの支柱の強度低下を回避しつつ長周期地震動のような長周期の振動も適切に制振できる制振装置の開発が求められている。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、地震発生時における長尺構造物の転倒または破損を適切に抑制できる制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の長尺構造物の制振装置は、一端に質量が付加された支柱と、支柱の他端が第1の個所で固定される制御部材と、一端が固定端で他端が自由端の長尺構造物の自由端と、制御部材と、の間に介在する弾性部材と、制御部材の第2の個所と自由端との相対変動を、梃子を介してダンパに減衰させる減衰機構と、を備える。
【0009】
発明者による研究開発の結果、このように減衰機構を設けることで、支柱の固有周期を大幅に長くしなくても、長周期の振動が長尺構造物に与えられたときの当該構造物の振動を適切に抑制できることが判明した。このためこの態様によれば、地震発生時における長尺構造物の転倒または破損を適切に抑制できる。
【0010】
減衰機構は、相対変動を梃子を用いて当該相対変動よりも小さい変動に変換してダンパに減衰させてもよい。この態様によれば、ダンパのサイズを抑制することができる。このため、減衰機構を設けることによる制振装置の大型化を回避することができる。
【0011】
支柱は、制御部材のうち長尺構造物の延在方向と垂直な所定方向の中央に固定され、減衰機構は、制御部材のうち所定方向において対向する2つの縁部の各々に対応して設けられ、対応する縁部と自由端との相対変動を、梃子を介してダンパに減衰させてもよい。
【0012】
この態様によれば、制御部材のうち対向する2つの縁部を適切に減衰させることができる。このため、支柱が固定される第1の個所の変位を抑制でき、第1の個所を中心に支柱を揺動させて長尺構造物の振動を適切に緩和することができる。
【0013】
梃子は、制御部材の縁部に第1回転端により接続され、第1回転端から離間する方向に延在する第1部材と、自由端と第1部材との間に介在し、第1部材と第2回転端により接続される第2部材と、を有してもよい。ダンパは、第1部材のうち第2回転端から所定方向に離れた個所と、自由端と、の間に介在してもよい。
【0014】
この態様によれば、第1部材と第2部材を設けるという簡素な構成により梃子を構成することができる。このため、減衰機構の複雑化を回避でき、減衰機構のコストを抑制することができる。
【0015】
ダンパは、第1部材のうち第1回転端と第2回転端との間よりも短い距離で第2回転端から所定方向に離れた個所と、自由端と、の間に介在してもよい。
【0016】
この態様によれば、相対変位を小さい変位に簡易に変換してダンパに減衰させることができる。このため、ダンパのサイズを抑制することができ、減衰機構を設けることによる制振装置の大型化を回避することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、地震発生時における長尺構造物の転倒または破損を適切に抑制できる制振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る長尺構造物ユニットを示す図である。
【図2】(a)および(b)は、それぞれ制振装置の構成を模式的に示す図である。
【図3】実験に用いた長尺構造物ユニットの構成を示す図である。
【図4】図3の領域Rの拡大図である。
【図5】実験に用いた長尺構造物の形状や材質などを詳細に示す図である。
【図6】実験結果を示す図である。
【図7】(a)は、数値計算での制振の対象とする長尺構造物を示す図であり、(b)および(c)は、それぞれ(a)の視点Pおよび視点Qから長尺構造物を見た図である。
【図8】(a)は、長尺構造物ユニット全体の数値解析モデルを示す図である。(b)は、制振装置の数値解析モデルを示す図である。
【図9】(a)は、長尺構造物ユニットの各寸法などを示す図である。(b)は、制振装置14の回転バネ剛性Krやダンパ減衰係数Ceなどの値を示す図である。
【図10】(a)〜(c)は、解析モデルの頂部における絶対加速度の低減率を示す図である。
【図11】(a)は、解析モデルの長尺構造物の柱脚の曲げモーメントの低減率を示す図である。(b)は、解析モデルの長尺構造物の柱脚の剪断力の低減率を示す図である。
【図12】(a)〜(c)は、EL Centro 1940-NS成分の最大速度を0.75m/sに換算した加速度波が作用したときの、解析モデルの頂部と制振装置の質量の相対変位の時刻歴応答を示す図である。
【図13】(a)および(b)は、EL Centro 1940-NS成分の最大速度を0.75m/sに換算した加速度波が作用したときのダンパエネルギの時刻歴応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る長尺構造物ユニット10を示す図である。長尺構造物ユニット10は、長尺構造物12および制振装置14を有する。長尺構造物12は、下端12bが地面16に固定され、地面16から鉛直方向上方に延在している。このため長尺構造物12は、下端12bが固定端で上端12aが自由端となる。制振装置14は、長尺構造物12の上端12aに取り付けられ、地震発生時に長尺構造物12を制振する。制振装置14は、長尺構造物12の上端12aにあればよく、必ずしも、上端12aの中央に位置しなくてもよい。
【0021】
図1では、長尺構造物12として、上端12aに近づくほど径が小さくなる煙突を例示している。しかし長尺構造物12が煙突に限られないことは勿論であり、長尺構造物12は例えば電柱、広告塔、災害無線塔、電波塔など他の長尺構造物であってもよい。
【0022】
図2(a)および図2(b)は、それぞれ制振装置14の構成を模式的に示す図である。制振装置14は、ボトムプレート20、制御プレート22、弾性部材24、振り子26、および減衰機構38を有する。ボトムプレート20は金属などの硬質の材料によって形成される。ボトムプレート20の上面20aには、円柱状の弾性部材24の下端が接着などによって固着される。制御プレート22もまた、金属などの硬質の材料によって形成される。制御プレート22とボトムプレート20とが弾性部材24を介して互いに平行に配置されるよう、制御プレート22の下面22bに弾性部材24の上面が接着などによって固着される。ボトムプレート20は、上端12aにねじ止めなどによって固定される。このため制御プレート22は、上端12aに弾性部材24を介して取り付けられる。
【0023】
振り子26は、支柱28および質量30を有する。支柱28は、上端に質量30が付加され、下端が制御プレート22の上面22aの水平方向中央に固定される。
【0024】
減衰機構38は、梃子40およびダンパ42を有する。減衰機構38は、制御プレート22のうち水平方向において対向する2つの縁部の各々に対応して設けられる。減衰機構38は、対応する制御プレート22の縁部と長尺構造物12の上端12aとの相対変動を、梃子40を介してダンパ42に減衰させる。なお、減衰機構38が減衰するのが制御プレート22の縁部と長尺構造物12の上端12aとの相対変動に限られず、制御プレート22のうち支柱28が固定される中央以外の個所と長尺構造物12の上端12aとの相対変動を減衰させてもよい。
【0025】
上述のように長周期地震動による振動を抑制すべく支柱の固有振動数を低減させようとすると、支柱の強度が低下する虞がある。このため、本実施形態では、減衰機構38が設けられている。減衰機構38は、相対変動を梃子40を用いて当該相対変動よりも小さい変動に変換してダンパ42に減衰させる。後述するように、減衰機構38を設けることで、支柱28の固有振動数を大きく低下させなくても、長周期の振動が長尺構造物12に与えられたときに長尺構造物12を適切に制振できることが発明者による研究開発の結果判明した。このため制振装置14を用いることで、地震発生時における長尺構造物12の転倒または破損を適切に抑制できる。
【0026】
具体的には、梃子40は、第1ロッド44および第2ロッド46を有する。第1ロッド44は、一端が制御プレート22の縁部に回転端48により接続され、回転端48から離間する方向に延在する。第2ロッド46は、長尺構造物12の上端12aと第1ロッド44との間に介在し、第1ロッド44と回転端54により接続される。ダンパ42は、第1ロッド44の他端と回転端50により接続され、ボトムプレート20の端部と回転端52により接続される。回転端50は、回転端48と回転端54との間よりも短い距離で水平方向に回転端54から離れた個所に設けられる。回転端52もまた、回転端48と回転端54との間よりも短い距離で水平方向に回転端56から離れた個所に設けられる。なお、回転端50および回転端52の位置がこれに限られないことは勿論である。本実施例では回転端50および回転端52は、それぞれ回転端54および回転端56よりも弾性部材24から離れた位置に配置されている。しかし、回転端50および回転端52は、それぞれ回転端54および回転端56よりも弾性部材24に近い位置に配置されてもよい。
【0027】
地震が発生すると、下端12bから長尺構造物12に振動が与えられる。長尺構造物12は固有周期が長いため、長周期地震動のような周期の長い振動が継続すると、上端12aが水平方向に大きく変動する可能性がある。上端12aが水平方向に変動すると、下端が固定された固定個所P1を中心に支柱28が揺動する。
【0028】
このとき、制御プレート22とボトムプレート20との間に弾性部材24が介在していることから、この弾性部材24が変形して制御プレート22も固定個所P1を中心に揺動する。こうして、回転端48と長尺構造物12の上端12aとが相対変動する。このとき、この相対変動量よりも、回転端50と回転端52との間の相対変動量の方が小さい。このように減衰機構38は、回転端48と長尺構造物12の上端12aとの相対変動を、これよりも小さい回転端50と回転端52との間の相対変動に変換してダンパ42に減衰させる。また、ダンパ42には、梃子40の原理を用いて、小さな変位であるが、大きな力を与えることができる。これにより、回転端48と長尺構造物12の上端12aとの間にダンパを設けるよりもダンパ42のサイズを抑制でき、制振装置14の大型化を回避することができる。
【0029】
発明者による研究開発の結果、本実施形態に係る制振装置14によれば、長尺構造物12の1次の固有周期と、制振装置14を取り付けたときの長尺構造物12の2次の固有周期とを一致させた場合が、最も有効であることが、実験おより数値計算により確認された。このため、制振装置14を取り付けたときの長尺構造物12の動きと逆方向に振り子26を動かすことができる。このようにすると、長尺構造物12を適切に制振することができる。以下、発明者により実施された実験および数値計算について説明する。
【0030】
(実験的検討)
A.実験概要
図3は、実験に用いた長尺構造物ユニット100の構成を示す図である。長尺構造物ユニット100は、長尺構造物110および制振装置112を有する。長尺構造物110は、試験体120および複数の付加質量122を有する。試験体120は、アルミニウム管によって構成される。試験体120の下端120bは、振動台116に固定されている。振動台116は、図3の左右方向に振動可能に設けられている。実際の長尺構造物の固有周期に近づけるため、この試験体120の外周に複数の付加質量122が取り付けられる。複数の付加質量122は、試験体120の外周上に、周方向では振動台116によって振動が与えられる方向に対向する位置に、軸方向では上端120aから下端120bまで等間隔に配置される。こうして、長尺構造物110の固有周期が長くされている。
【0031】
制振装置112は、ボトムプレート130、制御プレート132、弾性部材134、振り子136、および減衰機構148を有する。ボトムプレート130は、金属板を円形に切り取った形状に形成される。制御プレート132もまた、金属板を円形に切り取った形状に形成される。弾性部材134は、本実施形態ではウレタンによって形成されている。なお、弾性部材134が他の弾性材料によって形成されていてもよい。この実験では、弾性部材134は、直径150mmと200mmの2種類を用いた。なお、高さはいずれも100mmのものを用いた。
【0032】
振り子136は、支柱138および質量140を有する。支柱138は、上端に質量140が付加され、下端が制御プレート132の上面の水平方向中央に固定される。
【0033】
減衰機構148は、梃子150およびダンパ152を有する。減衰機構148は、制御プレート22のうち水平方向において対向する2つの縁部の各々に対応して設けられる。減衰機構148は、対応する制御プレート22の縁部と長尺構造物12の上端12aとの相対変動を、梃子150を介してダンパ152に減衰させる。
【0034】
図4は、図3の領域Rの拡大図である。梃子150は、第1ロッド154、第2ロッド156、および第3ロッド157を有する。第3ロッド157は金属によって形成されており、ボトムプレート130の端部にねじ止めによって一端が固定されている。第1ロッド154は、制御プレート132の端部にヒンジの回転端158により一端が接続されている。第1ロッド154および第3ロッド157は、互いに平行となるよう制御プレート132およびボトムプレート130の各々に取り付けられる。
【0035】
第2ロッド156は、ヒンジの回転端164により第1ロッド154の中途部に上端が接続される。また、第2ロッド156は、ヒンジの回転端166により回転端162の中途部に下端が接続される。第2ロッド156は、鉛直方向に延在するよう第1ロッド154および第3ロッド157の各々に取り付けられる。
【0036】
ダンパ152は、2つのダンパを組み合わせて構成される。ダンパ152は、上端が回転端160により第1ロッド154の中途部に接続される。また、ダンパ152は、下端が回転端162により第3ロッド157の中途部に接続される。このときダンパ152は、鉛直方向に延在するよう第1ロッド154および第3ロッド157の各々に取り付けられる。
【0037】
回転端160は、回転端164よりも弾性部材134から離れた位置に配置される。また、回転端162は、回転端166よりも弾性部材134から離れた位置に配置される。このとき回転端160は、回転端158と回転端164との間よりも短い距離で水平方向に回転端164から離れた個所に設けられる。回転端162もまた、回転端158と回転端164との間よりも短い距離で水平方向に回転端166から離れた個所に設けられる。
【0038】
したがって、回転端158と第3ロッド157、すなわち回転端158と試験体120の上端120aとの間の相対変動量よりも、回転端50と回転端52との間の相対変動量の方が小さい。これにより減衰機構148は、回転端158と第3ロッド157との相対変動を、これよりも小さい回転端160と回転端162との間の相対変動に変換してダンパ152に減衰させる。ダンパ152には、小さな相対変動であるが、梃子154を介して、大きな力が作用する。この実験では、回転端158と回転端164との間の距離は150mmとした。また、回転端164と回転端160との距離は15mmとした。
【0039】
図5は、実験に用いた長尺構造物110の形状や材質などを詳細に示す図である。この長尺構造物110に上述の制振装置112を取り付けた場合と、長尺構造物110のみで制振装置112を取り付けていない場合と、の各々において、地震波として代表的なEL Centro 1940-NS成分の最大速度を0.5m/sに換算した加速度波を振動台116に与えた。地震波には、海溝型のEL Centro 1940-NS成分、直下型の兵庫県南部地震での神戸海洋気象台NS成分、サイト型の能登半島EW成分、および長周期型の苫小牧NS成分などの種類がある。試験体120の固有周期は、このうち能登半島EW以外の地震波の卓越領域にある。このため、この領域で制振効果を発揮できれば、様々な地震に対して対応可能な制振効果を期待できることになる。
【0040】
B.実験結果
図6は、実験結果を示す図である。この実験では、条件1−3の3種類の制振装置112を用いて実験を行った。条件1では、弾性部材134の外径を150mm、質量140が0.45kg、質量140の取付位置、すなわち支柱138の長さを600mmとした。条件2では、弾性部材134の外径を150mm、質量140が0.89kg、質量140の取付位置を450mmとした。条件3では、弾性部材134の外径を200mm、質量140が4.04kg、質量140の取付位置を600mmとした。質量140の取付位置を条件に応じて変更しているのは、長尺構造物110に制振装置112を取り付けたときの2次の固有周期と、長尺構造物110のみで制振装置112を取り付けていないときの1次の固有周期とを一致するよう調整したものである。
【0041】
加速度センサや歪みセンサは、試験体120の上端12aに取り付けた。結果の欄における「○」は、(制振装置112を取り付けたときの最大値)/(制振装置112を取り付けなかったときの最大値)<1となったことを示しており、制振装置112を取り付けることによって制振効果が認められたことを示している。このように条件1−3のすべてにおいて、地震波として代表的なEL Centro 1940-NS成分の最大速度を0.5m/sに換算した加速度波の振動が与えられたときに制振効果がすべての項目に対し認められた。したがって、制振装置112が地震発生時の長尺構造物110の倒壊や破損の抑制に効果があることが証明された。
【0042】
(数値計算的検討)
A.数値計算による実構造物への試設計
実構造物は高さが100mなど大きなものとなることが多く、実構造物を実際に振動させて制振装置の効果を確認することは困難である。このため、以下、数値計算を用いたシミュレーションにより、実構造物での効果を検証した。なお、上記実験における条件を数値計算においても再現して確認し、実験と数値計算が概ね一致するとの結果を予め得ている。
【0043】
図7(a)は、数値計算での制振の対象とする長尺構造物12を示す図であり、図7(b)および図7(c)は、それぞれ図7(a)の視点Pおよび視点Qから長尺構造物12を見た図である。長尺構造物12は、日本建築学会、「鋼製煙突構造計算規準・同解説、1965年制定」、1965年、丸善、PP.61−87の「鉄骨造」の煙突とした。高さh1は100mとした。上端12aでの外径d1は5.25m、厚さw1は0.06mとし、下端12bでの外径d2は8.6m、厚さw2は0.28mとした。
【0044】
図8(a)は、長尺構造物ユニット10全体の数値解析モデルを示す図である。上述のように、長尺構造物12の高さh1は100mとしている。
【0045】
図8(b)は、制振装置14の数値解析モデルを示す図である。2つの回転端48の間の距離、すなわち弾性部材24の直径は800mmとし、弾性部材24の高さh2を200mmとしている。また、回転端48から回転端54までの距離L1を400mm、回転端54から回転端50までの距離L2を200mmとしている。
【0046】
図9(a)は、長尺構造物ユニット10の各寸法などを示す図である。図9(b)は、制振装置14の回転バネ剛性Krやダンパ減衰係数Ceなどの値を示す図である。制振装置の集中質量の重量Mは、解析モデルとの重量比3%を限度として、1%、2%および3%となるようそれぞれM=3000kg、6000kg、9000kgとした。ダンパ減衰係数Ceは、1.0、5.0、10.0(kN/[mm/s])とした。回転バネ剛性Krは、0.1、1.0、10.0、100.0(kN・m/rad)とした。解析モデルの1次の固有周期と制振装置を取り付けた解析モデルの2次の固有周期を一致させるため、集中質量の取付位置を回転バネからの高さを2mとし、固有周期が合わないKrの値については高さを調整した。
【0047】
B.数値計算による結果
図10(a)〜図10(c)は、解析モデルの頂部における絶対加速度の低減率を示す図である。図10(a)は、ダンパ減衰係数Ce=1.0の場合、図10(b)は、ダンパ減衰係数Ce=5.0の場合、図10(c)は、ダンパ減衰係数Ce=10.0の場合を示している。図10(a)−図10(c)を見て分かるように、解析モデルの頂部の絶対加速度は、ダンパの減衰係数Ceと集中質量の重量Mの値が大きいほど良好な制振効果を示している。
【0048】
図11(a)は、解析モデルの長尺構造物12の柱脚の曲げモーメントの低減率を示す図である。図11(b)は、解析モデルの長尺構造物12の柱脚の剪断力の低減率を示す図である。図11(a)および図11(b)については、ダンパ減衰係数Ce=5.0の場合を示している。各集中質量の重量Mに対して最大、最小とは、入力地震波に対して応答が異なるため、すべての地震波における低減率が最大と最小の値を示している。
【0049】
解析モデルの柱脚の曲げモーメントと剪断力は、Ce=5.0で最も良好な結果を示し、質量30の値が大きいほど良好な制振効果を示した。全ての項目において、回転バネ剛性Krの値による制振効果への影響はほぼ無い。
【0050】
図12(a)〜図12(c)は、EL Centro 1940-NS成分の最大速度を0.75m/sに換算した加速度波が作用したときの、解析モデルの頂部と制振装置14の質量30の相対変位の時刻歴応答を示す図である。なお、質量Mは9000kg、回転バネ剛性Kr=10.0としている。図12(a)は、ダンパ減衰係数Ce=0.1の場合を示している。図12(b)は、ダンパ減衰係数Ce=1.0の場合を示している。図12(c)は、ダンパ減衰係数Ce=5.0の場合を示している。
【0051】
図12(a)より、Ce=0.1のときは、質量30が偏っていることが分かる。図12(b)では、Ce=1.0のときは、制振装置14の質量30が解析モデルの頂部に対して逆位相の挙動を示している。図12(c)では、Ce=5.0のときは、位相がずれ、制振装置の集中質量は頂部とは異なる挙動を示している。すべての質量Mと回転バネ剛性Krの値において、ダンパ減衰係数Ceの値が大きいほど質量30の相対変位は減少した。このことから、ダンパ42が質量30の挙動を抑制していることがわかる。
【0052】
図13(a)および図13(b)は、EL Centro 1940-NS成分の最大速度を0.75m/sに換算した加速度波が作用したときのダンパエネルギの時刻歴応答を示す図である。図13(a)は、回転バネ剛性Kr=1.0、質量M=9000kgのときを示している。図13(b)は、回転バネ剛性Kr=1.0、ダンパ減衰係数Ce=5.0のときを示している。
【0053】
図13(a)より、ダンパ減衰係数Ceが0.1〜5.0の間では、Ceの値が大きくなるほどダンパエネルギが増加し、Ceが10.0のときは、Ceが1.0および5.0のときよりダンパエネルギが減少したことが分かる。図13(b)より、質量Mの値が大きいほど、ダンパエネルギが増加する傾向にあることが分かる。本解析モデルにおける制振効果は、ダンパ減衰係数Ce=5.0で最も良好な結果を示し、質量Mの値が大きいほど制振効果が大きいことを示した。これに対しエネルギの計算結果は、ダンパ減衰係数Ce=5.0のときはダンパ減衰係数Ceが他の値のときに比べてダンパエネルギが大きく、質量Mの値が大きいほどダンパエネルギが大きいことを示した。以上より、制振装置14は、ダンパ42によるエネルギの消費が大きいほど、良好な制振効果を得ることができると言える。
【0054】
以上において、稀に発生する大地震において、塔状構造物の倒壊を抑制する新しい制振装置を提案した。実験的検討から、提案した制振装置の有効性を確認した。また、長周期の地震波における制振効果と試験体の柱脚における曲げモーメントの制振効果から、制振装置14は、長周期への対応が難しく曲げに弱いという塔状構造物の欠点を改善出来ると言える。また、数値計算による実構造物への試設計から、提案した制振装置は実大の塔状構造物に適応可能なことが明らかとなった。また、制振装置14は、構造物との重量比3%において良好な制振効果を確認できたことから、従来の制振装置より軽量であると言える。
【0055】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を本実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0056】
10 長尺構造物ユニット、 12 長尺構造物、 12a 上端、 12b 下端、 14 制振装置、 20 ボトムプレート、 22 制御プレート、 24 弾性部材、 26 振り子、 28 支柱、 30 質量、 38 減衰機構、 40 梃子、 42 ダンパ、 44 第1ロッド、 46 第2ロッド、 48,50,52,54,56 回転端、 100 長尺構造物ユニット、 110 長尺構造物、 112 制振装置、 120 試験体、 120a 上端、 120b 下端、 122 付加質量、 130 ボトムプレート、 132 制御プレート、 134 弾性部材、 136 振り子、 138 支柱、 140 質量、 148 減衰機構、 150 梃子、 152 ダンパ、 154 第1ロッド、 156 第2ロッド、 157 第3ロッド、 158,160,162,164,166 回転端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に質量が付加された支柱と、
前記支柱の他端が第1の個所で固定される制御部材と、
一端が固定端で他端が自由端の長尺構造物の前記自由端と、前記制御部材と、の間に介在する弾性部材と、
前記制御部材の第2の個所と前記自由端との相対変動を、梃子を介してダンパに減衰させる減衰機構と、
を備えることを特徴とする長尺構造物の制振装置。
【請求項2】
前記減衰機構は、前記相対変動を前記梃子を用いて当該相対変動よりも小さい変動に変換してダンパに減衰させることを特徴とする請求項1に記載の長尺構造物の制振装置。
【請求項3】
前記支柱は、前記制御部材のうち前記長尺構造物の延在方向と垂直な所定方向の中央に固定され、
前記減衰機構は、前記制御部材のうち前記所定方向において対向する2つの縁部の各々に対応して設けられ、対応する縁部と前記自由端との相対変動を、梃子を介してダンパに減衰させることを特徴とする請求項1または2に記載の長尺構造物の制振装置。
【請求項4】
前記梃子は、
前記制御部材の縁部に第1回転端により接続され、第1回転端から離間する方向に延在する第1部材と、
前記自由端と第1部材との間に介在し、第1部材と第2回転端により接続される第2部材と、
を有し、
前記ダンパは、第1部材のうち第2回転端から前記所定方向に離れた個所と、前記自由端と、の間に介在することを特徴とする請求項3に記載の長尺構造物の制振装置。
【請求項5】
前記ダンパは、第1部材のうち第1回転端と第2回転端との間よりも短い距離で第2回転端から前記所定方向に離れた個所と、前記自由端と、の間に介在することを特徴とする請求項4に記載の長尺構造物の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−247006(P2012−247006A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119413(P2011−119413)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年2月18日発行の「平成22年度修士公聴会予稿集」に発表
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】