説明

長尺物の内面めっき用の補助電極

【課題】屈曲した管状物品にも挿入が容易で、管状物品の内面のめっきを良好に行うことのできる、安価な長尺物の内面めっき用の補助電極を提供する。
【解決手段】管状物品20の内面に電気めっきを施すために管状物品の内部に挿入されて使用される補助電極10において、補助電極10は、線状の補助陽極11と、補助陽極に取付けられる補助電極スペーサ50と補助電極バネ部材40から構成される。補助電極スペーサ50は、非導電性材料で形成されるとともに、外形の中央部が外径方向に張り出したそろばん玉状、球状又は楕円球状で形成され、中心部に中心孔51が形成される。補助電極バネ部材40は、非導電性材料で形成されるとともに、コイル状に形成される。補助電極スペーサ50と補助電極バネ部材40は、補助陽極11に交互に挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状物品の内面に電気めっきを施すために使用される内面めっき用の補助電極に関するものである。特に、屈曲した管状物、例えば自動車のフィラーパイプ等の内面に電気めっきを施すために管状物品の内部に挿入されて使用される内面めっき用の補助電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の物品に電気めっきを施すには、めっき槽内のめっき液に電極と被めっき物を浸漬して、電極を陽極、被めっき物を陰極にしてその間に通電して、めっき液中のイオン化した金属を被めっき物に析出させ、めっきを行っていた。
しかしながら、長尺の管状物品の内面側では、電気の流れが悪く、管状物品の内面へのめっき金属の析出状態はよくなかった。
【0003】
そのため、図8に示すように、中空状の被めっき物120の内部に補助陽極110を挿入し、補助陽極110を補助陽極スペーサ111でカバーして補助陽極110が被めっき物120に接触しないようにするものがある。補助陽極スペーサ111は、めっき液が補助陽極110と被めっき物120の内面との間で流通し、電流が流れるように孔112が多数設けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、この場合には、被めっき物120は直線状に形成されたものを対象としており、複雑に屈曲し、内面に突起等を有する被めっき物120は、補助陽極スペーサ111の孔112やその周囲の突起に引っかかり、補助陽極110と補助陽極スペーサ111の挿入と、取出しがスムースにできなかった。
【0005】
また、図9と図10に示すように、中空状の被めっき物220の内部に補助陽極210を挿入し、補助陽極210を複数個の筒体211でカバーして補助陽極210が被めっき物220に接触しないようにするものがある(例えば、特許文献2参照。)。この補助陽極210は柔軟性を有し、多数の筒体211を隙間なく補助陽極210に被せて、多数の筒体211が相互に曲がることにより、補助陽極210が屈曲可能に形成されている。
【0006】
この筒体211は、図9に示すように、4枚の枠板214と、枠板214の間の開口212が周面に形成され、筒体211の両端は板状の端部213が形成され、枠板214を保持している。開口212によりめっき液が補助陽極210に接するように出入することができ、端部213の中心には孔が形成され、孔に補助陽極210が挿入されている。枠板214の先端が中空状の被めっき物220の内面と接触し、補助陽極210を被めっき物220の内部の中心位置に保持している。
【0007】
端部213は、隣接する筒体211の端部213と当接し、筒体211は互いに屈曲可能に補助陽極210に取付けられているため、補助陽極210は、被めっき物220の屈曲に対応して屈曲することができる。しかしながら、被めっき物220の屈曲の曲率半径が小さい場合には、筒体211は互いに急角度で曲がることが困難であったり、筒体211相互の間に隙間ができたりすることとなる。
【0008】
このとき、屈曲した被めっき物220の内面に突起を有する場合には、屈曲部分に位置する筒体211と筒体211の間に隙間が生じて、突起がその隙間に引っかかる場合があり、補助陽極210を被めっき物220の内部に挿入あるいは取り出す作業に手間がかかることとなる。
【0009】
また、中空状の被めっき物220の内面との接触面積を減らすためと、補助陽極210付近のめっき液の循環を良くする為に、枠板214の肉厚を薄く形成している場合がある。この場合には、枠板214が変形し易い。枠板214が変形すると、筒体211の内部で補助陽極210の位置が所定位置からずれて、被めっき物220の内面のめっきの付き具合いがばらつくことになる。
【0010】
また、枠板214の先端部分は、薄肉で形成されているため、図10に示すように、屈曲した被めっき物220であるフィラーパイプに挿入された場合には、枠板214の先端部分が磨耗しやすく、磨耗した枠板214の粉末がめっき液中に浮遊して、被めっき物220のめっき表面に付着したり、めっき膜に巻き込まれたりして、表面状態に問題が生じることがある。
【0011】
そのため、図11と図12に示すように、補助電極310の外周に複数のコイル状の補助陽極スペーサ311を挿入するものもある。このコイル状の補助陽極スペーサ311は、コイル状の鋼線312に樹脂チューブ313を挿入したものである。この場合においても、屈曲した被めっき物の内面に突起を有する場合には、補助陽極スペーサ311のコイル状の間に隙間があり、その隙間に突起が引っかかる場合があり、補助陽極210を被めっき物220の内部に挿入あるいは取り出す作業に手間がかかることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−39779号公報
【特許文献2】特許第3081558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そのため、本発明は、屈曲した管状物品にも挿入が容易で、管状物品の内面のめっきを良好に行うことのできる、安価な長尺物の内面めっき用の補助電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための請求項1の本発明は、管状物品に電気めっきを行うときに、管状物品の内面に電気めっきを施すために管状物品の内部に挿入されて使用される補助電極において、
補助電極は、線状の可撓性を有する導電体で形成される補助陽極と、補助陽極に取付けられる複数の補助電極スペーサと複数の補助電極バネ部材から構成され、
補助電極スペーサは、非導電性材料で形成されるとともに、外形の中央部が外径方向に張り出したそろばん玉状、球状又は楕円球状で形成され、中心部に補助陽極が挿入される中心孔が形成され、
補助電極バネ部材は、非導電性材料で形成されるとともに、コイル状に形成され、
補助電極スペーサと補助電極バネ部材は、補助陽極に交互に挿入されたことを特徴とする長尺物の内面めっき用の補助電極である。
【0015】
請求項1の本発明では、補助電極は、線状の可撓性を有する導電体で形成される補助陽極と、補助陽極に取付けられる複数の補助電極スペーサと複数の補助電極バネ部材から構成される。このため、補助電極を、屈曲部を有する管状物品の内部に挿入すると、補助陽極が管状物品の形状に応じて屈曲して、管状部品に補助電極を沿わせることができる。また、補助電極スペーサは、補助陽極が管状物品の内面に接触することを防止して、管状物品の内面に確実にめっきを施すことができ、補助電極バネ部材は、補助電極スペーサの間隔を維持するとともに、補助電極バネ部材が屈曲して、補助電極の柔軟性を向上させて、管状部品の屈曲部に応じて、補助電極を屈曲させることができる。
【0016】
補助電極スペーサは、非導電性材料で形成されるとともに、外形の中央部が外径方向に張り出したそろばん玉状、球状又は楕円球状で形成され、中心部に補助陽極が挿入される中心孔が形成されている。このため、補助電極が管状物品の内部に挿入されたときに、非導電性で外形の中央部が外径方向に張り出したそろばん玉状、球状又は楕円球状のスペーサ当接部が管状物品の内面に当接して、補助陽極が管状物品の内面に接触することを防止するとともに、そろばん玉状、球状又は楕円球状の表面が円滑で板状の突起がなく、管状物品の内面に対して摺動しやすく、補助電極を管状物品に挿入と引き抜きをする作業が容易である。さらに、補助電極スペーサの中心部に補助陽極が挿入される中心孔が形成されているため、補助電極スペーサが補助陽極を摺動自在にずれることができ、補助電極バネ部材の弾性と共に、補助電極の柔軟性を向上させている。
【0017】
また、補助電極スペーサの表面の管状物品の内面に当接する部分であるスペーサ当接部は、そろばん玉状、球状又は楕円球状であり、中実で板状の突起や突出部分がないため、エッジ部分がなく、補助電極を管状物品の内部に挿入するときに、補助電極スペーサの表面が管状物品の内面と接触して磨耗することがなく、スペーサ当接部の摩耗したものがめっき表面に付着することがなく、めっき表面を良好にすることができる。上記補助電極スペーサの表面は、そろばん玉状、球状又は楕円球状の外周部の最も張り出した部分であるため、補助電極スペーサの表面が管状物品の内面と接触する面積が少なく、管状物品の内面のめっき状態を均一にすることができる。補助電極スペーサの表面は、円錐台状又は球状であり、また、表面が円滑であるため、管状物品の内面と接触しても変形しにくく、管状物品の内面に対する補助陽極の位置が変化しないため、管状物品の内面のめっきの付き具合を均一にすることができる。
【0018】
補助電極バネ部材は、非導電性材料で形成されるとともに、コイル状に形成されているため、補助電極スペーサを両側から弾性力で押圧して、補助電極スペーサの間隔を均一に維持することができる。また、補助電極が屈曲された場合においても、補助電極バネ部材の弾性力が補助電極スペーサの間隔を維持するとともに、補助電極バネ部材が屈曲して補助電極の柔軟性を向上させることができる。
【0019】
また、補助電極バネ部材は、非導電性材料で形成されるため、万一管状物品の内面に補助電極バネ部材が当接しても、絶縁性を維持することができる。
さらに、補助電極バネ部材は、コイル状に形成されており、補助電極バネ部材のコイル状の部分の間に隙間があり、その隙間からめっき液が流入して、補助陽極と接することができ、補助陽極から電気が流れるため、補助電極スペーサにめっき液を流入させる隙間が不要となり、補助電極スペーサの表面を円滑にして、孔やヒレを設けることなく、表面積を最小限にすることができる。そのため、補助電極スペーサにめっき液が付着する量を最小限にすることができる。
【0020】
補助電極スペーサと補助電極バネ部材は、補助陽極に交互に挿入されたため、補助電極バネ部材で隣り合う補助電極スペーサを両側から1つずつ保持して、補助電極スペーサの位置のバランスを保ち、補助陽極が管状物品の内面に接触することを防止するとともに、補助電極の柔軟性を全長に亘り均一にして、補助電極のどの部分においても、柔軟性を向上させることができる。また、めっき液と補助陽極との接触を均一にして、めっきの付着を均一にすることができる。
【0021】
請求項2の本発明は、補助電極スペーサは、長手方向の両側端面は平面状で中心部に孔の明いた円状に形成され、補助電極バネ部材は、長手方向の両側端面は平面状で中心部に孔の明いた環状に形成され、補助電極スペーサと補助電極バネ部材が補助陽極に交互に挿入されたときに、補助電極スペーサの端面と補助電極バネ部材の端面が当接する長尺物の内面めっき用の補助電極である。
【0022】
請求項2の本発明では、補助電極スペーサは、長手方向の両側端面は平面状で中心部に孔の明いた円状に形成され、補助電極バネ部材は、長手方向の両側端面は平面状で中心部に孔の明いた環状に形成されている。このため、補助電極スペーサの端面と補助電極バネ部材が交互に補助陽極に挿入されたときに、補助電極スペーサの端面と補助電極バネ部材の端面とが密着することができる。
【0023】
補助電極スペーサと補助電極バネ部材が補助陽極に交互に挿入されたときに、補助電極スペーサの端面と補助電極バネ部材の端面が密着するため、補助電極スペーサの端面と補助電極バネ部材の端面との間に隙間が生じることがなく、補助電極を屈曲した管状物品の内面に挿入したときに、補助電極が屈曲しても、補助陽極が管状物品の内面に接触することがなく、補助電極スペーサと補助電極バネ部材との間に、管状物品の内面が引っ掛かることがなく、補助電極の挿入と引き抜きがスムースにできる。
【0024】
請求項3の本発明は、補助電極スペーサは、合成樹脂又はセラミックスで形成され、補助電極バネ部材は、合成樹脂で形成された長尺物の内面めっき用の補助電極である。
【0025】
請求項3の本発明では、補助電極スペーサは、合成樹脂又はセラミックスで形成されたため、管状物品の内面に接触しても摩擦が少なく挿入性に優れるとともに、めっき液に浸漬しても腐食することが少なく、耐久性に優れている。
補助電極バネ部材は、補助電極バネ部材は、合成樹脂で形成されたため、弾性を有して、バネ作用により、補助電極スペーサを押圧するとともに、めっき液に浸漬しても腐食することが少なく、耐久性に優れている。
【0026】
請求項4の本発明は、補助陽極は、金属製の多数のワイヤーを編んで形成された請長尺物の内面めっき用の補助電極である。
【0027】
請求項4の本発明では、補助陽極は、金属製の多数のワイヤーを編んで形成されたため、可撓性と強度に優れ、屈曲した管状物品の内部に補助電極を挿入するときに一方の端から挿入して他方の端まで押し込むことが容易である。
【0028】
請求項5の本発明は、補助電極バネ部材は、補助陽極に圧縮して取付けられた長尺物の内面めっき用の補助電極である。
【0029】
請求項5の本発明では、補助電極バネ部材は、補助陽極に圧縮して取付けられたため、補助電極バネ部材のバネ作用により、補助電極スペーサを適切な押圧力で押すことができ、補助電極を長尺物の内部に挿入して、屈曲させても、補助電極スペーサと補助電極バネ部材との間に隙間が生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態で使用するめっき装置の概念図である。
【図2】本発明の実施の形態で使用するめっきハンガーの側面図である。
【図3】本発明の実施の形態で使用する補助電極の使用状態を示す断面図であり、フィラーパイプに補助電極を挿入した状態の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態である補助電極の正面図である。
【図5】本発明の実施の形態である補助電極の補助電極スペーサの斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態である補助電極の補助電極バネ部材の斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態である補助電極の補助電極バネ部材の部分を曲げた状態の一部平面図である。
【図8】従来の補助電極の使用状態を示す断面図である。
【図9】従来の他の補助電極に使用される筒体の斜視図である。
【図10】従来の他の補助電極の使用状態を示す断面図である。
【図11】従来の他の補助電極の斜視図である。
【図12】従来の他の補助電極に使用するコイル状の補助電極スペーサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施の形態について、管状物品である自動車用のフィラーパイプ20の内面に亜鉛めっきをする場合を例に取り、そのめっきに使用する補助電極10とめっきについて、図1〜図7に基づき説明する。
なお、本発明の補助電極10は、フィラーパイプ20以外でも、管状物品の内面にめっきをする場合に広く使用することができる。また、亜鉛めっき以外の他のめっきにも使用することができる。
【0032】
フィラーパイプ20等の管状物品のめっきは、図1に示すように行われる。
めっき槽1内にめっき液2が入れられて、めっき液2内には水酸化ナトリウム及びシアン化ナトリウムと亜鉛イオンが含まれている。さらに、めっき槽1内には亜鉛板で形成される陽電極3、4が挿入され、被めっき物であるフィラーパイプ20の内部には補助電極10が挿入されている。補助電極10については後述する。
なお、フィラーパイプ20は、めっき工程の前に、脱脂工程、洗浄工程により表面を清浄にされる。
【0033】
陽電極3、4には、陽極リード線5が取り付けられ、補助電極10には補助陽極リード線6が取り付けられている。フィラーパイプ20には陰極リード線7が取り付けられている。陽極リード線5と補助陽極リード線6はめっき電流の供給装置(図示せず)の陽極に、陰極リード線7はめっき電流の供給装置の陰極に接続されて、供給装置から電流が供給されてめっきが行われる。
【0034】
このとき、フィラーパイプ20は、めっき槽1内に並んで多数浸漬されて、めっきが行われるが、めっき槽1内のフィラーパイプ20の保持は図2に示すように行われる。
フィラーパイプ20は、めっきハンガー30に取り付けられてめっき槽1内に浸漬される。めっきハンガー30は、陰極板31と陽極板35から構成され、陰極板31と陽極板35は中央付近で相互に絶縁されて接合されている。
【0035】
陰極板31の上方の先端は、断面略U字形に曲げられて陰極板係合部32を形成している。陰極板係合部32は、めっき槽1に設けられた陰極バー8に係合され、めっきハンガー30とフィラーパイプ20は、めっき槽1内に保持される。陰極バー8には供給装置から陰極電流が供給され、めっきハンガー30の陰極板31と電気的に接続される。
【0036】
陰極板31の下方の先端には陰極板保持部33が形成され、管状物品であるフィラーパイプ20が保持される。陰極板保持部33は、フィラーパイプ20を保持するとともに、フィラーパイプ20に陰極電流を供給し、フィラーパイプ20の外周面部と内面(フィラーパイプ内面21)を電気めっきすることができる。
フィラーパイプ20の保持は、開口部を有するリング状に形成された陰極板保持部33に嵌め込んで保持したり、フィラーパイプ20の外面に形成されたブリーザーパイプ等に引っ掛けたりしてもよい。
【0037】
陽極板35の上方の先端は、陽極板接続部36を形成し、陽極板接続部36を介して供給装置から陽極電流が供給される。陽極板35の下方の先端は、陽極板端部37が形成され、陽極板端部37には、後述する補助電極10の先端に形成される補助電極端部15が補助電極止め具16に取りつけられる。これにより、陽極板35から陽電流が補助電極10に供給される。
【0038】
次に、補助電極10とフィラーパイプ20について、図3と図4に基づき説明する。
フィラーパイプ20は、図3に示すように、フィラーパイプ内面21の上部に燃料を注入する注入部22が設けられ、下方には自動車の車体の形状に沿って、屈曲部23が2箇所形成されている。屈曲部23の数は、自動車の車体に形状に応じて変化する。注入部22は燃料注入ガン(図示せず)を保持するために内部に張出した注入張出部24が形成され、注入張出部24の中央には注入口25が形成されている。
【0039】
補助電極10は、図4に示すように、線状の可撓性を有する導電体で形成される補助陽極11と、補助陽極11に取付けられる補助電極スペーサ50及び補助電極バネ部材40から構成される。
補助電極スペーサ50と補助電極バネ部材40は、補助陽極11に1つずつ交互に挿入されている。このため、補助電極バネ部材40のバネ作用で隣り合う補助電極スペーサ50を両側から1つずつ保持して、補助陽極11における補助電極スペーサ50の位置のバランスを保ち、補助陽極11がフィラーパイプ20の内面に接触することを防止するとともに、補助陽極11の柔軟性を全長に亘り均一にして、補助電極11のどの部分においても、柔軟性を向上させることができ、フィラーパイプ20がどのように屈曲しても、補助電極10を挿入し取出すことが容易である。
【0040】
補助陽極11は、ステンレススチール等の導電性の金属製の多数のワイヤーを編んで形成される。このため、可撓性と強度に優れ、管状物品であるフィラーパイプ20の内部に補助電極10を挿入するときに注入部22の注入口25から挿入して、屈曲部23が複数個存在しても、フィラーパイプ20の形状に応じて、フィラーパイプ内面21に沿って、他方の出口端まで押し込むことが容易である。また、めっき液2のアルカリ性にも耐久性を有することができる。
【0041】
補助陽極11は、金属製の多数のワイヤー以外でも、可撓性と導電性を有するものであれば使用することができる。
なお、補助陽極11の上側の先端には、上述したように補助電極端部15が形成され、補助電極端部15には、貫通孔又は切欠き孔が形成され、この貫通孔又は切欠き孔に補助陽極止め具16が挿入され、陽極板端部37の孔にネジ、クリップ等で取り付けられる。
また、補助陽極11の下側の先端には、補助電極先端部13が形成され、補助電極スペーサ50や補助電極バネ部材40が先端から外れないように止めている。
【0042】
図5に示すように、補助電極スペーサ50は、非導電性材料で形成されるとともに、外形の中央部が外径方向に張り出したそろばん玉状、球状又は楕円球状で形成され、中心部に補助陽極11が挿入される補助電極スペーサ中心孔51が形成されている。補助電極スペーサ中心孔51以外は、補助電極スペーサ50は、中実に形成されている。
【0043】
図5の実施の形態では、補助電極スペーサ50は、円錐台形状のものを底面同士接合したそろばん玉状に形成され、中心部に補助電極スペーサ中心孔51が形成されている。補助電極スペーサ50の表面54の中央部が最も外周側に張り出した補助電極スペーサ当接部53を形成している。補助電極スペーサ当接部53の幅方向の断面は、円形に形成され、補助電極スペーサ50の表面54である外周には凹凸はない。このため、補助電極スペーサ50の表面積は最小であり、めっき液の付着が少ない。
【0044】
補助電極スペーサ50は、そろばん玉状以外にも、球状や楕円球状に形成することができる。この場合においても、中央部が最も外周側に張り出した補助電極スペーサ当接部53を形成している。そして、補助電極スペーサ当接部53の外周は、凹凸がなく、スムースな面を形成している。
【0045】
フィラーパイプ20の内部に補助電極10を挿入すると、そろばん玉状、球状又は楕円球状の補助電極スペーサ50の表面54に形成された、非導電性で外形の中央部が外径方向に張り出した補助電極スペーサ当接部53が、フィラーパイプ20の内面に当接して、補助陽極11がフィラーパイプ20の内面に接触することを防止するとともに、補助電極スペーサ当接部53がフィラーパイプ20の内面に対して摺動しやすく、補助電極10をフィラーパイプ20に挿入と引き抜きをする作業が容易である。さらに、中心部に補助陽極11が挿入される補助電極スペーサ中心孔51が形成されているため、補助陽極11がフィラーパイプ20の屈曲に応じて屈曲しても、補助電極スペーサ50が補助陽極11を摺動自在にずれることができ、補助電極10の柔軟性を向上させている。
【0046】
また、補助電極スペーサ50は、そろばん玉状、球状又は楕円球状であるため、表面54がスムースで板状の部分やエッジ部分がなく、補助電極10をフィラーパイプ20の内部に挿入するときに、フィラーパイプ20の内部に注入張出部24があっても、補助電極10を挿入したり、引き抜いたりするときに、最も張り出した補助電極スペーサ当接部53が注入張出部24に引っ掛かることがなく、補助電極10の挿入、引き抜きの作業性がよい。また、補助電極スペーサ当接部53が、板状の部分や突起がなく、フィラーパイプ20の内面と接触して磨耗することがなく、補助電極スペーサ当接部53が摩耗してめっき表面に磨耗したものが付着することがなく、めっき表面を良好にすることができる。
【0047】
補助電極スペーサ50は、そろばん玉状、球状又は楕円球状であるため、補助電極スペーサ当接部53がフィラーパイプ20の内面と接触する面積が少なく、めっきができない部分を少なくして、フィラーパイプ20の内面のめっき状態を均一にすることができる。補助電極スペーサ50は、そろばん玉状、円錐台状又は球状であるため、フィラーパイプ20の内面と接触しても変形しにくく、フィラーパイプ20の内面に対する補助陽極11の位置が変化しないため、フィラーパイプ20の内面のめっきの付き具合を均一にすることができる。
【0048】
補助電極スペーサ50は、非導電性の合成樹脂又はセラミックで形成されることが好ましい。例えば、合成樹脂では、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等を使用することができる。合成樹脂又はセラミックを使用することができるためフィラーパイプ内面21に接触しても摩擦が少なく挿入性に優れるとともに、めっき液2に浸漬しても腐食することが少なく、耐久性に優れている。
【0049】
図6に示すように、補助電極バネ部材40は、弾性を有するとともに、非導電性材料で形成されるとともに、コイル状に形成されている。コイル状の補助電極バネ部材40は、補助電極バネ部材本体43の断面が円形でも角形でもいずれでもよい。非導電性材料は、例えば、合成樹脂を使用することができる。合成樹脂ではポリエチレン、ポリプロピレン等を使用することができる。このため、可撓性に優れ、弾性が大きくバネ力が大きく、めっき液に浸漬しても強度が低下することが少なく、耐久性に優れている。
【0050】
補助電極バネ部材40のコイル状の中心に補助陽極11が挿入されている。
また、補助電極バネ部材40は、非導電性材料で形成されるため、万一、フィラーパイプ20の内面に補助電極バネ部材40が当接しても、補助陽極11が直接接触することがなく、絶縁性を維持することができる。
【0051】
補助電極スペーサ50と補助電極バネ部材40は、補助陽極11に1つずつ交互に挿入されている。このため、補助電極バネ部材40で両方の隣り合う補助電極スペーサ50を1つずつ保持して、補助電極スペーサ50の位置のバランスを保ち、補助陽極11がフィラーパイプ20の内面に接触することを防止するとともに、補助電極10のどの部分においても、柔軟性を向上させることができる。
【0052】
また、図7に示すように、補助電極10を曲げた場合には、補助陽極11の曲げに応じて補助電極バネ部材40が曲がることができる。そのため、補助電極スペーサ50と補助電極スペーサ50の間隔を維持して、補助電極10の柔軟性を大きくすることができる。そのため、フィラーパイプ20のような複雑に屈曲した管状物品においても容易に挿入することができる。また、補助電極バネ部材40が曲がっている場合でも、バネ作用により補助電極スペーサ50を押圧しているため、補助電極バネ部材40と補助電極スペーサ50の間に隙間が生じることがなく、補助陽極11とフィラーパイプ20の内面との接触を防止することができる。
【0053】
図5に示すように、補助電極スペーサ50は、長手方向の両側の端面が補助電極スペーサ中心孔51に対して直角に形成され、平面状で中心部に孔の明いた円状の補助電極スペーサ端面52として形成されている。
図6に示すように、補助電極バネ部材40は、コイル状に形成された補助電極バネ部材本体43の長手方向の両側端部には、平面状で中心部に孔の明いた環状の補助電極バネ部材端部41が形成されて、補助電極スペーサ50と当接する面は、補助電極バネ部材端面42として、補助電極バネ部材40の長手方向に対して直角に環状に形成されている。このため、補助陽極11に挿入されたときに、補助電極スペーサ端面52と補助電極バネ部材端面42とが密着することができる。
【0054】
補助電極スペーサ50と補助電極バネ部材40は、補助陽極11に1つずつ交互に挿入されている。このとき、上記のように、補助電極スペーサ端面52と補助電極バネ部材端面42が当接するため、補助電極スペーサ端面52と補助電極バネ部材端面42との間に隙間が生じることがない。また、補助電極10をフィラーパイプ20の内部に挿入したときに、補助陽極11がフィラーパイプ20の内面に接触することがない。補助電極スペーサ50の直径の方が補助電極バネ部材40の直径よりも大きいため、補助電極スペーサ50がフィラーパイプ20の内面に引っ掛かることがなく、補助電極10の挿入と引き抜きがスムースにできる。
【0055】
また、補助電極バネ部材40は、補助陽極11に挿入されるときに、圧縮して取付けられたため、補助電極バネ部材40で隣接するそれぞれの補助電極スペーサ50を適切な押圧力で押すことができ、補助電極スペーサ50の位置を均等に保つことができ、補助電極10をフィラーパイプ20の内部に挿入して、屈曲させても、補助電極スペーサ50と補助電極バネ部材40との間に隙間が生じることがない。
【符号の説明】
【0056】
1 めっき槽
2 めっき液
10 補助電極
11 補助陽極
20 フィラーパイプ(管状部材)
40 補助電極バネ部材
50 補助電極スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状物品に電気めっきを行うときに、該管状物品の内面に電気めっきを施すために上記管状物品の内部に挿入されて使用される補助電極において、
該補助電極は、線状の可撓性を有する導電体で形成される補助陽極と、該補助陽極に取付けられる複数の補助電極スペーサと、複数の補助電極バネ部材から構成され、
該補助電極スペーサは、非導電性材料で形成されるとともに、外形の中央部が外径方向に張り出したそろばん玉状、球状又は楕円球状で形成され、中心部に上記補助陽極が挿入される中心孔が形成され、
上記補助電極バネ部材は、非導電性材料で形成されるとともに、コイル状に形成され、
上記補助電極スペーサと上記補助電極バネ部材は、上記補助陽極に交互に挿入されたことを特徴とする長尺物の内面めっき用の補助電極。
【請求項2】
上記補助電極スペーサは、長手方向の両側端面は平面状で中心部に孔の明いた円状に形成され、上記補助電極バネ部材は、長手方向の両側端面は平面状で中心部に孔の明いた環状に形成され、上記補助電極スペーサと上記補助電極バネ部材が上記補助陽極に交互に挿入されたときに、上記補助電極スペーサの端面と上記補助電極バネ部材の端面が当接する請求項1に記載の長尺物の内面めっき用の補助電極。
【請求項3】
上記補助電極スペーサは、合成樹脂又はセラミックスで形成され、上記補助電極バネ部材は、合成樹脂で形成された請求項1又は請求項2に記載の長尺物の内面めっき用の補助電極。
【請求項4】
上記補助陽極は、金属製の多数のワイヤーを編んで形成された請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の長尺物の内面めっき用の補助電極。
【請求項5】
上記補助電極バネ部材は、上記補助陽極に圧縮して取付けられた請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の長尺物の内面めっき用の補助電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−60623(P2013−60623A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199448(P2011−199448)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(308039414)株式会社FTS (60)
【Fターム(参考)】