説明

長尺状プライマーレスチューブ

【課題】 多大な不利益をもたらすプライマー処理を省き、更に、カットチューブ内はもちろんカットチューブ間でも均一な濡れ性ないし接着性が確保されたカットチューブ群を高生産性の下に提供することにある。
【解決手段】 フッ素系樹脂からなる長尺状チューブの脱フッ素化された内壁面に特殊な連続処理を施すことにより、長尺状チューブにおいて初めて“プライマーレス”を実現することに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂からなる長尺状プライマーレスチューブに関する。更に詳しくは、本発明は、特にプリンタや複写機等の画像形成装置の定着または加圧ロールに採用されるフッ素系樹脂カットチューブを得るのに有用な長尺状プライマーレスチューブに関する。
ここに、“長尺状”の語句は、連続的に押し出し成形された、実質的にエンドレス状のフレキシブルチューブを意味し、また、“カットチューブ”の語句は、該エンドレス状のフレキシブルチューブを切断して得た所望長さのチューブを意味する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、フッ素系樹脂カットチューブは、定着または加圧ロールの離型層として多用されている。その際、該カットチューブは、芯金外周に直接、または、芯金の外周に形成したシリコーンゴム層に被せられた状態で該芯金及び該ゴムに接着・固定されることは衆知である。ただ、フッ素系樹脂自体、濡れ性ないし接着性に乏しく、前述のシリコーンゴムのような異種材料との界面接着強度を確保するのは極めて困難である。そのため、該チューブの内壁面には事前に該異種材料に応じたプライマーが適宜選択され、塗布される。
このプライマー処理に際しては、カットチューブ−中空円筒体内壁間が真空状態に保持されるような中空円筒体を含む処理装置が不可欠である。該チューブは該中空円筒体の中空部に装着され、次いで該チューブ−該中空円筒体内壁間を真空引きすることにより、該チューブは拡径されて該中空円筒体内壁に密着する。この状態でプライマーは塗布治具により該チューブ内壁面に塗布され、必要に応じて熱処理される。
しかしながら、このプライマー処理には次のような問題点がある。
(a)カットチューブは真空引きにより拡径され、中空円筒体の内壁に密着した状態でプライマー処理されるので、その長手方向および円周方向に亘って均一な塗布状態が得にくい。そのため、プライマーの塗布斑発生は避けられない。
(b)カットチューブ毎にプライマー処理が施されるので、該チューブ間での接着性のバラツキが発生する。
(c)カットチューブ毎のプライマー処理であるので、生産性が極めて悪い。
(d)接着剤の塗布治具先端に液溜まり等が発生し易く、該液溜まりが固化し、異物となって塗布面に付着してしまう。
上述した多大の不利益があるにもかかわらず、プライマー処理が不可欠であった理由は、ひとえに、該チューブの剥離という致命的欠陥を極力防止することが大命題であったからにほかならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決し、カットチューブ内はもちろん、カットチューブ間でも均一な濡れ性ないし接着性が確保されたカットチューブ群を高生産性の下に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、フッ素系樹脂からなる長尺状チューブの脱フッ素化された内壁面にさらに特殊な連続処理を施すことにより、長尺状チューブにおいて初めて“プライマーレス”を実現することに成功した。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、以下のような顕著な作用・効果が奏される。
a.長尺状チューブの内壁面は、異種材料に対してその濡れ性ないし接着性を改善する。
b.このような長尺状チューブを所望長さに切断するだけで、ロット斑のないカットチューブが連続的に得られる。したがって、これらのカットチューブには、もはや従来の煩雑なプライマー処理を施す必要もない。ここに、本発明の長尺状チューブを“プライマーレス”と称する所以がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の長尺状プライマーレスチューブ(以下、“チューブ“と略記する)の製造例について、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、上記のチューブを製造する一連の工程を示すブロック図である。
図2は、上記のチューブの製造に用いられる装置の一例を示す概略側面図である。
図1を参照するに、本発明のチューブは、以下の工程を経て得られる。
フッ素系樹脂を押出機に投入してチューブに押出成形する工程;
押出成形されたチューブを巻き取って、事後の処理のための供給リールを準備する工程;
該供給リールから引き出されたチューブの一定長さに亘ってその内部にアルカリ金属の液体アンモニア溶液(以下、“処理液1”と称する)を充填した後、アンモニアの沸点以下に冷却し、脱フッ素処理を行う工程;
好ましくは、脱フッ素処理後のチューブ内部を酸欠状態に維持する工程;
酸欠状態に維持したチューブ内部に、フッ素樹脂に結合し且つ該フッ素樹脂以外の異種材料の濡れ性ないし接着性を改善するような機能性化合物の溶液(以下、“処理液2”と称する)を充填する工程;
上記の充填状態で、該チューブ外方から、処理液が接触したチューブ内部に向けて電子線やUVを照射、又は加熱し、上記の機能性化合物をチューブ内壁面に結合させる工程;
チューブ内部を洗浄する工程;及び
洗浄されたチューブを巻き取る工程。
図2において、1は供給リール、2は供給リールから解除されたチューブ、3、7はテンションロール、4、6、8、10、12及び14はピンチロール(閉塞部材)、5は該チューブ2の内部に充填された処理液1、9及び13は、該チューブ2の内部に充填された洗浄液、11は該チューブ2の内部に充填された処理液2、15は処理されたチューブの巻取りリール、16は処理液1を冷却する槽、そして、Aは電子線やUV照射または加熱処理による反応帯域である。
この例においては、未処理のチューブ2の内壁面は以下の手順で処理される。
先ず、供給リール1から取り出した未処理のチューブ2を、テンションロール3、ピンチロール4、6の順に通し、その際、ピンチロール4は閉塞状態、ピンチロール6は開放状態に維持する。この状態でチューブ2の先端から処理液1を入れ、ピンチロール4と6の間のチューブ2に処理液1が充填された時点でピンチロール6を閉塞させる。これにより処理液1は、ピンチロール4と6との間に封入される。その後、冷却媒体として、アルコール類やフッ素系不活性液体等を槽16に入れ温度を下げる。
次いで、ピンチロール6以降に滞留していた処理液1を取り除いてから、チューブ2をテンションロール7に回して、ピンチロール8、10に通す。その際、ピンチロール8は閉塞状態、ピンチロール10は開放状態に維持する。この状態でチューブ2の先端から洗浄液9を注入し、ピンチロール8と10の間のチューブ2に洗浄液9が充填された時点でピンチロール10を閉塞させる。これにより、洗浄液9は、ピンチロール8と10との間に封入され、チューブ内壁面は酸欠状態に維持される。
次いで、同様に、ピンチロール10と12および12と14の間にそれぞれ処理液2および洗浄剤13を封入する。
最後に、チューブ2の先端を処理チューブ巻取りリール15に巻き取る。
この状態で、巻取りリール15を一定の速度で回転駆動させてチューブ2を走行させながら、処理帯域Aで電子線やUVを該チューブ2の外方から照射するか、該チューブを加熱し、引き続き洗浄してから、巻取りリール15に連続的に巻き取っていく。
上記の態様に特徴的なことは、脱フッ素処理を施したチューブ内壁面を一旦酸欠状態に維持すること、そして、事後に該内壁面に処理液2を接触させた状態で加熱し、または、電子線やUVを照射して、該機能性化合物を結合させることにある。このとき、酸欠処理は、チューブ内壁面にC−HやC=Cをより安定に発生させるために有用な工程である。このような基は事後に機能性化合物の官能基の受容基として機能する。
さらに、本発明について更に詳細に述べる。
処理液1は、アルカリ金属の液体アンモニア溶液である。液体アンモニアに対するアルカリ金属の濃度が、0.1〜5重量%であることが好ましく、特に、0.2〜2重量%であることが好ましい。中でも、ナトリウムの液体アンモニア溶液が好ましい。
処理液2は、基本的に機能性化合物とその溶剤とから構成される。前者の化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、およびビニールアルコールなどの、分子中にビニール基と親水基とを併有する重合性(グラフト性)モノマーのほか、さらに好ましくは、分子中にアルコキシ基と、ビニール基、エポキシ基、アクリロキシ基、およびメタクリロキシ基などの有機官能基の一種とを併有するシランカップリング剤が用いられる。このようなシランカップリング剤の例としては、例えば、ビニールトリクロルシラン、ビニールトリメトキシシラン、ビニールトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、および3−アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。また、非官能性有機シランであるBTSEも異種材料の種類によっては有利に用いられる。後者の溶剤としては、メチルアルコールが用いられる。溶液の濃度は、0.01〜10%程度であり、好ましくは0.5〜2%である。また、溶液には、アルコキシ基の加水分解および縮合反応用のチタン系や白金系の触媒を添加してもよい。
洗浄液9及び13としては、n−ヘキサン、ベンゼン、四塩化炭素、エチルアルコール、及びメチルアルコール等のアルコール類、水、及びアセトン、エーテル等を挙げることができる。中でも、洗浄剤9については、酸欠状態を維持して脱フッ素処理後のチューブ内壁面に酸化物の付着が起きないように機能する必要があるので、極性の小さいn−ヘキサン、ベンゼン、及び四塩化炭素が好ましく用いられる。
処理液2が接触したチューブ2の内壁面に照射する電子線の照射線量またはUVの照射強度について述べる。前者の場合は、1〜200kGyの範囲、好ましくは50〜100kGyの範囲にあればよい。照射線量が50kGy未満では、処理に斑が発生し易く100kGyを超えると、フッ素樹脂の劣化の懸念がある。後者については、1〜500mWの範囲、好ましくは10〜100mW/cm2の範囲にあればよい。照射線量が1未満では、機能性化合物を結合させるための反応時間が長くなり他方、500mW/cm2を超えると、内壁面に発生したC−HやC=Cなどの官能基が分解される懸念がある。このときのUV波長は200〜420nmの範囲にあればよい。また、加熱処理の条件は、例えば、温度は30〜50℃、時間は0.5〜3秒程度であればよい、このような電子線、UV照射および/また加熱処理によって、脱フッ素処理時にチューブ内壁面に発生していたC=CやC−H部分に、機能性化合物が結合する。このとき、電子線照射と前記の重合性モノマーの組合せにおいては、ビニール基がC=CやC−H部分に付加結合する。他方、UV照射とシランカップリング剤との組合せにおいては、主としてC=CやC−H部分にアルコキシ基が加水分解されて結合する。このようにしてチューブ内壁面は恒久的に改質され、その際、該重合性モノマーの一方の末端にあるフリーのカルボキシル基は異種材料に対して濡れ性を呈し、また、シランカップリング剤の一方の末端にあるビニール基やエポキシ基等は、異種材料に対して接着性を発揮する。チューブ自体については、その肉厚が、特に30〜200μmの範囲にあるものが好ましく供される。このようなチューブを構成するフッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)等の一種、又は二種以上のブレンド体が挙げられる。
【実施例】
【0007】
先ず、フッ素系樹脂からなるチューブ2を、以下のようにして形成した。
PFA樹脂「451HP−J」(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)を用意し、これを通常の横型押出機にて押出成形して、長さ1000m、外径φ30mm、厚さ100μmのチューブを供給リール1に巻き取った。
次に、得られたチューブ2の内壁面を図2に示した装置にて改質処理した。このときのピンチロール4と6、8と10、10と12、12と14の間の距離は、夫々100cmとした。また、処理液1としては、液体アンモニアに対するアルカリ金属の濃度が、1.1重量%のアンモニア溶液を、処理液2としては、シランカップリング剤であるビニルメトキシシラン「SZ6300」(東レダウコーニングシリコーン株式会社製)を、そして、洗浄液9及び13としてはエチルアルコールを用いた。更に、反応帯域Aでは、UVを照射強度は50mW/cm2で60秒間照射した。処理されたチューブは巻取りリール15に1m/分の線速度で巻き取った。その際の巻取り長さは、500mとした。
【0008】
このようにして得られたチューブの両端部および中央部から、45cmのカット長のカットチューブを10本採取した。さらに、それぞれのチューブについて、シリコーンゴムとの接着性を、以下により確認した。
先ず、夫々のチューブをその長手方向に開いてシート状にし、液状シリコーンゴム「DY35−1107」(東レダウコーニングシリコーン株式会社製)を0.3mm厚で塗布し、シート同士を貼りあわせた。さらに150℃のオーブンに20分入れ、該ゴムの硬化反応を行った。
反応後の各シートについて剥離試験を行ったところ、全て該ゴムの均一な凝集破壊が確認された。これによってチューブロット内に接着斑が発生していないことが確認された。
【0009】
以上の結果から、長尺状プライマーレスチューブの長手方向の内壁面には、機能性化合物が均一に結合していること、したがって、該長尺状チューブから、互いに接着性に斑のないカットチューブ群が効率良く得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の長尺状プライマーレスチューブから切断して得たカットチューブは、プリンタ、複写機等の画像形成装置に使用されるロールまたはベルトとして特に有用である。さらに、実施例に示したように、必要に応じて該カットチューブを切り開くことによってシート状体とし、これをガラス板や異種樹脂板などに接着することもできる。また、チューブ状のままであれば、ガラスパイプ、異種樹脂パイプに転用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の長尺状プライマーレスチューブを製造する一連の工程を示すブロック図である。
【図2】上記のチューブを製造工程で使用する装置の一例を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0012】
1 供給リール
2 フッ素系樹脂からなる長尺状チューブ(未処理チューブ)
3 テンションローラ
4 ピンチロール(閉塞部材)
5 処理液1
6 ピンチロール
7 テンションローラ
8 ピンチローラ
9 洗浄液
10 ピンチロール
11 処理液2
12 ピンチローラ
13 洗浄液
14 ピンチローラ
15 巻取りリール
16 冷却層
A 反応帯域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂からなる長尺状チューブの内壁面に、該フッ素樹脂以外の異種材料との濡れ性ないし接着性を改善するような機能性化合物が結合していることを特徴とする、長尺状プライマーレスチューブ。
【請求項2】
該異種材料がシリコーンゴムである、請求項1に記載の長尺状プライマーレスチューブ。
【請求項3】
該異種材料が金属である、請求項1に記載の長尺状プライマーレスチューブ。
【請求項4】
該機能性化合物がシランカップリング剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の長尺状プライマーレスチューブ。
【請求項5】
該機能性化合物がフッ素系樹脂の脱フッ素部位に結合している、請求項1〜4のいずれかに記載の長尺状プライマーレスチューブ。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−70106(P2006−70106A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253000(P2004−253000)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】