説明

長期サイクル性能を備えるリチウムイオン電池

高エネルギーおよび高容量を有し、中速の放電速度でのサイクル時に長サイクル寿命を有する電池を記載する。具体的には、電池は、5回目のサイクルで、4.2Vから2.5Vへ放電速度C/3で放電すると、室温での放電比エネルギーが少なくとも約175Wh/kgになることがある。さらに、電池は、5回目のサイクルから1000回目のサイクルまで速度C/2で4.2Vから2.5Vに放電するとき、1000サイクル後に5回目のサイクルに対して少なくとも約70%の放電容量を維持することができる。いくつかの実施形態では、電池の正極は、リチウムインターカレーション組成物を含み、任意選択の金属フッ化物コーティングを備える。電池の性能をさらに改良するために、電池の電解質に安定化添加剤を添加することができる。これらの電池は特に電気自動車での使用に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い比放電容量および長期サイクル寿命を提供するリチウム二次電池に関する。さらに、本発明は、高い比放電容量の正極組成物、およびそれらの組成物を生成する方法に関する。一般に、正極材料および組成物は、層状構造で高い比容量を有する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は、それらの比較的高いエネルギー密度により、家庭用電化製品で広く使用されている。再充電可能な電池は二次電池とも呼ばれ、リチウムイオン二次電池は一般に、リチウムをインターカレートする負極材料を有する。いくつかの現在市販されている電池では、負極材料は黒鉛であることがあり、正極材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO)を含むことがある。実用上は、理論的なカソード容量の約50%、例えば約140mAh/gしか使用することができない。また、現在、少なくとも2種の他のリチウムベースのカソード材料も商業利用されている。これら2つの材料は、スピネル構造を有するLiMnと、オリビン構造を有するLiFePOである。これら他の材料は、エネルギー密度を大幅には改良していない。
【0003】
一般に、リチウムイオン電池は、それらの用途に基づいて2種類に分類される。第1の種類は、高出力電池に関わり、リチウムイオン電池セルが、電動工具およびハイブリッド電気自動車(HEV)などの用途のために高電流(アンペア)を供給するように設計される。しかし設計上、高電流を提供する設計は、一般に、電池から供給することができる総エネルギーを減少させるので、これらの電池セルのエネルギーは比較的低い。第2の設計カテゴリーは、高エネルギー電池に関わり、リチウムイオン電池セルが、セル式電話、ラップトップコンピュータ、電気自動車(EV)、およびプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)などの用途のための低〜中電流(アンペア)を供給するように設計され、しかもより高い総容量を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の態様では、本発明は、負極と、正極と、負極と正極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む非水性電解質とを備える電池に関する。電池の負極が黒鉛を備え、正極がリチウムインターカレーション組成物を備える。この電池は、5回目のサイクルで、4.2Vから2.5Vへ放電速度C/3で放電すると、室温での放電比エネルギーが少なくとも約175Wh/kgである。さらに、この電池は、5回目のサイクルから1000回目のサイクルまで速度C/2で4.2Vから2.5Vに放電するとき、1000サイクル後に5回目のサイクルに対して少なくとも約70%の放電容量を維持する。いくつかの実施形態では、正極に関するリチウムインターカレーション組成物が、リチウムリッチ層状リチウム金属酸化物を含むことができる。
【0005】
いくつかの実施形態では、リチウムインターカレーション組成物は、組成式Li1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.3331−xによってほぼ表すことができ、ここでxは約0.05〜0.3の間である。追加または代替の実施形態では、リチウムインターカレーション組成物は、組成式Li1.2Ni0.15Mn0.55Co0.10によってほぼ表される。正極のリチウムインターカレーション組成物は、金属フッ化物を含むコーティングを有することができる。また、電池の電解質は安定化添加剤を含むこともできる。
【0006】
いくつかの実施形態では、電池は円筒形金属ケースを備える。別の実施形態では、電池は、箔ケースおよびプリズム形状を有し、プリズム電池を形成する。プリズム電池は、5回目のサイクルで、4.2Vから2.5Vへ放電速度C/3で放電すると、室温での放電比エネルギーが少なくとも約195Wh/kgになることがある。いくつかの実施形態では、この電池は、5回目のサイクルから1100回目のサイクルまで速度C/2で4.2Vから2.5Vに放電するとき、1100サイクル後に5回目のサイクルに対して少なくとも約70%の放電容量を維持することができる。さらに、この電池は、5回目のサイクルで、4.2Vから2.5Vへ速度C/3で放電すると、室温での放電エネルギー密度が少なくとも約425Wh/Lになることがある。
【0007】
別の態様では、本発明は、負極と、正極と、負極と正極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む非水性電解質とを備える電池に関する。電池の負極が黒鉛を備え、正極が、リチウムリッチ層状リチウム金属酸化物を含むリチウムインターカレーション組成物を備える。この電池は、5回目のサイクルで、4.2Vから2.5Vへ速度C/3で放電すると、室温での放電比エネルギーが少なくとも約175Wh/kgになることがあり、また、この電池は、5回目のサイクルから600回目のサイクルまで速度C/2で4.2Vから2.5Vに放電するとき、600サイクル後に5回目のサイクルに対して少なくとも約70%の放電容量を維持する。
【0008】
いくつかの実施形態では、リチウムリッチ層状金属酸化物が、組成式Li1+xNiαMnβCoγによって表され、ここでxは約0.05〜約0.25の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0.05〜約0.4の範囲内である。追加の実施形態では、リチウムリッチ層状金属酸化物が、組成式Li1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.3331−xによってほぼ表され、ここでxは約0.05〜0.3の間である。正極のリチウムリッチ層状金属酸化物は、金属フッ化物を含むコーティングを有することがあり、電解質は安定化添加剤を含むことがある。いくつかの実施形態では、この電池は、5回目のサイクルから850回目のサイクルまで4.2Vから2.5Vへ速度C/2で放電するとき、850サイクル後に5回目のサイクルに対して少なくとも約70%の放電容量を維持する。
【0009】
さらなる態様では、本発明は、電動機と、電動機によって駆動される車軸に取り付けられた車輪を備えるドライブトレインと、座席を備える車室と、制御機構とを備える電気自動車に関する。電気自動車の車室が、ドライブトレインによって少なくとも一部支持され、電動機が、複数のリチウムイオン電池を備える電力パックによって電力供給される。電力パックは、少なくとも約40kWhの電力を提供することができ、約128リットル以下の体積を有することがあり、室温で5回目のサイクルから1000回目のサイクルまで4.2Vから2.5Vへ速度C/2で放電するとき、1000サイクル後に5回目のサイクルに対して少なくとも約70%の放電容量を維持することができる。いくつかの実施形態では、電力パック内の複数のリチウムイオン電池が、円筒形の26700セルを備える。別の実施形態では、複数のリチウムイオン電池が、ポリマーポーチケースを有するプリズム形状の電池を備えることができる。いくつかの実施形態では、電力パックの複数のリチウムイオン電池が、組成式Li1+xNiαMnβCoγによって表される活性組成物を含む正極を備え、ここでxは約0.05〜約0.25の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0.05〜約0.4の範囲内である。いくつかの実施形態では、正極の活性組成物が、金属フッ化物を含むコーティングを有することができ、複数のリチウムイオン電池が、安定化添加剤を含む電解質を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】容器から分離された電池構造の概略図である。
【図2】実施例1で説明する試料のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例1で説明する試料材料を用いて作製された電池の比容量に対する電圧のプロットである。
【図4】実施例2で説明する試料のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例2におけるプロセスを使用して合成され、次いで実施例3で説明するプロセスを使用してAlFでコーティングした正の電気活性の材料からなる試料を用いて作製された電池のサイクル数に対する比容量のプロットを示す図である。
【図6】2.5V〜4.2Vの電圧範囲内でそれぞれ1/3C、1C、2C、および3Cの放電速度でサイクルさせた実施例4の円筒形電池の放電容量に対する放電電圧のプロットを示す図である。
【図7】50mAのカットオフで22℃で4.2Vまで充電し、次いで2.5V〜4.2Vの電圧範囲内でそれぞれ−20℃、0℃、22℃、および45℃で放電した実施例4の円筒形電池の放電容量に対する放電電圧のプロットを示す図である。
【図8】0.5Cの速度で充填し、2.5V〜4.2Vの電圧範囲内でそれぞれ(a)0.33C;(b)0.5C;および(c)1Cで放電した実施例4の円筒形電池に関するサイクル数に対する放電容量のプロットを示す図である。
【図9】2.5V〜4.2Vの電圧範囲内で、0.5Cの充電および放電速度で45℃でサイクルさせた実施例4の円筒形電池のサイクル数に対する放電容量のプロットを示す図である。
【図10】0.5Cの充電速度で23℃でサイクルさせた実施例4の円筒形電池に関する(a)充電時間に対する充電電圧のプロットと、(b)充電時間に対する充電された容量のパーセンテージのプロットを示す図である。
【図11】4.2Vまで充電し、20%の充電状態(80%消耗)まで放電し、次いで23℃で30秒間、2.1Vの一定の電位で放電した、実施例4の円筒形電池の放電時間に対する放電電流のプロットを示す図である。
【図12】4.2Vまで充電し、次いで1秒、5秒、10秒、18秒、および30秒のパルスで23℃での1Cパルス試験にかけた実施例4の円筒形電池の充電状態のパーセントに対するDC放電抵抗のプロットを示す図である。
【図13】4.2Vまで充電し、次いで1秒、5秒、10秒、18秒、および30秒のパルスで23℃での1Cパルス試験にかけた実施例4の円筒形電池の充電状態のパーセントに対するDC充電抵抗のプロットを示す図である。
【図14】誤用試験、すなわち(a)釘刺し試験;(b)圧壊試験;および(c)ホットボックス試験:150℃ホットボックス内で3時間にかけた実施例4の円筒形電池の1組の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で説明するリチウムイオン電池は、多数回の充電および放電サイクル時の性能を改良する特徴を組み合わせる。特に、この電池は、適当な性能レベルを維持しながら1000サイクルを超えて深い放電サイクルを示すような非常に優れたサイクル性能を有する。本明細書で説明する電池は、電動機を備える車両、例えばハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、および電気自動車での使用に特に適している。多数回の放電−再充電サイクルにわたって性能を維持することができる能力は、それにより電池パックを度々交換する必要がなくなるので、電動機を備える車両の実用性を大幅に高めることができる。電池パックは相当なコストがかかることがあるので、電池のサイクル寿命を延ばすことによって、それに対応して、電動機を備える車両の使用コストをその車両の寿命にわたって削減することができる。さらに、本明細書で説明する電池は、比較的高い容量を有する。比較的高い容量に基づいて、充電から次の充電までの間の車両の走行可能距離を減少させることなく、車両用の電池パックの体積および重量を減少させることができ、または電池パックの特定のパラメータに基づいて車両の走行可能距離を伸ばすことができる。これらの望ましい性能特性は、他の電池用途でも活用することができる。
【0012】
本明細書で説明するリチウムイオン電池は、高い比容量および高い全体容量を示すと共にサイクル性能の改良を実現している。本明細書で説明する長サイクル寿命電池のための高容量正極材料は、商業生産の規模に拡張可能な技法を使用して製造することができる。適した合成技法としては、例えば共沈手法やゾルゲル合成が挙げられる。金属フッ化物コーティングまたは他の適切なコーティングの使用によりサイクル性能が向上する。また、この正極材料は、放電サイクルにわたって高い平均電圧を示し、したがって電池は、高い比容量と共に高い電力出力を有する。比較的高いタップ密度および優れたサイクル性能により、この電池は、サイクル時に持続的な高い総容量を示す。さらに、正極材料は、電池の初回の充電および放電後の不可逆容量損失の割合が低く、したがって、それに対応して負極材料を減少させることができる。完成したこれらのリチウムイオン電池は、優れたサイクル性能、高い比容量、および高い全体容量の組合せにより、特に例えば電気自動車やプラグインハイブリッド車など高エネルギー用途のための改良された電源となる。
【0013】
本明細書で説明する電池は、非水性電解質溶液がリチウムイオンを含むリチウムイオン電池である。二次リチウムイオン電池に関して、放電中にリチウムイオンが負極から解放され、したがって負極は放電中にアノードとして働き、電極からのリチウムの解放時、リチウムの酸化により電子が生成される。それに対応して、正極は、放電中にインターカレーションまたは同様のプロセスによってリチウムイオンを取り込み、したがって正極は、放電中に電子を消費するカソードとして働く。二次電池の再充電時、電池を通るリチウムイオンの流れは逆になり、負極がリチウムを取り込み、正極がリチウムイオンとしてリチウムを解放する。
【0014】
本明細書では、用語「元素」は、従来の用法で周期表の要素を表すものとして使用し、元素は、組成物中にある場合には適切な酸化状態であり、元素形態であることが明記されているときにのみその元素形態Mである。したがって、金属元素は一般に、その元素形態、または金属の元素形態の対応する合金でのみ、金属状態である。すなわち、金属合金以外の金属酸化物または金属組成物は、一般に金属性ではない。
【0015】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池は、基準となる均質な電気活性リチウム金属酸化物組成物に対してリチウムリッチである正極活性材料を使用することができる。理論に拘束されることを望まないが、適切に生成されたリチウムリッチのリチウム金属酸化物は複合結晶構造を有すると考えられる。例えば、リチウムリッチ材料のいくつかの実施形態では、LiMnO材料を、層状LiMnO成分、または適切な酸化状態での他の遷移金属カチオンでマンガンカチオンが置換された同様の複合組成物と構造的に一体化させることができる。いくつかの実施形態では、正極材料は、xLiMO・(1−x)LiM’Oとして2成分表記で表すことができ、ここで、M’は、平均原子価が+3の1つまたは複数の金属カチオンであり、少なくとも1つのカチオンがMn+3またはNi+3であり、Mは、平均原子価が+4の1つまたは複数の金属カチオンである。これらの組成は、例えば、参照により本明細書に援用するThackerayらの「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号明細書にさらに説明されている。特に興味深い正極活性材料は、組成式Li1+xNiαMnβCoγδを有し、ここで、xは約0.05〜約0.25の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0.05〜約0.4の範囲内であり、δは約0〜約0.1の範囲内であり、Mは、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、またはそれらの組合せである。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0016】
以下の実施例では、高い容量と共に驚くほど良好なサイクル性能が、Li1.2[Ni0.333Co0.333Mn0.333]Oを用いて得られる。さらに、参照により本明細書に援用する本願と同時係属中のLopezらの「Positive Electrode Material for High Specific Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/332,735号明細書(‘735出願)に記載されているように、Li[Li0.2Ni0.175Co0.10Mn0.525]Oに関して、驚くほど高い容量が得られている。‘735出願における材料は、炭酸塩共沈プロセスを使用して合成された。また、参照により本明細書に援用するVenkatachalamらの「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願第12/246,814号明細書(‘814出願)に記載されているように、水酸化物共沈およびゾルゲル合成手法を使用してこの組成物に関して非常に高い比容量が得られた。これらの組成物は、層状構造を有しており、いくつかの他の高容量のカソード材料に比べてニッケル量が少ないというそれら特有の組成により、安全性の改善の面で発火の危険性が低い。これらの組成物は、環境への観点からあまり望ましくない元素の使用量が少なく、また、商業規模での生産に手頃なコストの開始材料から製造することができる。
【0017】
所望のリチウムリッチ金属酸化物材料を得るために共沈プロセスが行われており、得られる材料は、本明細書で説明する電池型式に組み込まれるときに性能特性の改良を示す。これらの材料は、高い比活性に加えて良好なタップ密度を示し、これは、固定体積用途において材料の高い全体容量をもたらす。以下の実施例で実証されるように、共沈プロセスによって生成されるリチウムリッチ金属酸化物材料は優れた性能特性を有し、この特性を、改良された電池に組み込むことができる。
【0018】
また、本明細書で説明する材料は高いタップ密度も示す。一般に、比容量が同等であるとき、正極材料のタップ密度が高ければ高いほど、電池の全体容量も高くなる。また、高いタップ密度は、大きな比エネルギーおよび比出力を生み出すこともできる。一般に、より大きな容量を有する電池は、特定の用途に関して、より長い放電時間を提供することができる。したがって、これらの電池は性能の改良を示すことができる。充電/放電測定中、材料の比容量は放電速度に応じて決まることに留意することが重要である。特定の材料の最大比容量は、非常に遅い放電速度で測定される。実用上は、放電が有限速度であるので、実際の比容量は最大値未満である。より現実的な比容量は、使用中の速度により近い適当な放電速度を使用して測定することができる。低〜中速の適用例では、適当な試験速度は、3時間にわたる電池の放電を含む。慣例的な表記では、これは、C/3または0.33Cと書かれる。
【0019】
インターカレーションベースの正極活性材料を有する対応する電池が使用されるとき、リチウムイオンのインターカレーションおよび格子からの解放が、電気活性材料の結晶格子の変化を誘発する。これらの変化が実質的に可逆である限り、材料の容量は変化しない。しかし、活性材料の容量は、多かれ少なかれサイクルと共に減少することが観察される。したがって、ある回数のサイクル後、電池の性能は許容値未満に低下し、電池が交換される。また、電池の初回のサイクルにおいて、一般に、後続のサイクルでの1サイクル当たりの容量損失よりもかなり大きい不可逆の容量損失が生じる。この不可逆の容量損失は、新しい電池の電荷容量と初回の放電容量の差である。この初回のサイクルでの不可逆容量損失を補償するために、余剰の電気活性材料が負極に含まれ、それにより、その損失した容量は戻らないにせよ、負極材料が実質的に消耗されるまで電池の寿命の大半にわたって、完全に電池を充電することができる。初回のサイクルでの不可逆容量損失の大部分は、一般に正極材料に起因する。
【0020】
適切なコーティング材料が、材料の長期サイクル性能を改良し、かつ初回のサイクルでの不可逆容量損失を減少させることができる。理論に拘束されることを望まないが、コーティングは、リチウムイオンの取込みおよび解放中に結晶格子を安定させることができ、それにより結晶格子の不可逆変化が大幅に減少される。特に、有効なコーティングとして金属フッ化物組成物を使用することができる。カソード活性材料用のコーティングとしての金属フッ化物組成物、具体的にはLiCoOおよびLiMnの一般的な使用は、参照により本明細書に援用するSunらの「Cathode Active Material Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930A号パンフレットに記載されている。
【0021】
金属フッ化物コーティングは、リチウムリッチ層状正極活性材料に関して大きな改良をもたらすことが発見されている。これらの改良は、容量劣化の大幅な減少、初回のサイクルでの不可逆容量損失の大幅な減少、および全体的な容量の改良を伴う長期サイクルに関係する。セルサイクル中にコーティング材料は不活性であるので、コーティング材料が活性材料の比容量を高めることができることは驚きである。コーティング材料の量は、観察される性能改良が顕著になるように選択することができる。リチウムリッチ正極活性材料に関するコーティング材料の改良は、‘735出願および‘814出願でさらに説明されている。
【0022】
サイクル性能は放電深度に応じて決まる。特に、一般に、より深い放電はサイクル性能を大幅に低下させる。本明細書で述べる結果では、セルは、総容量の100%に近い深い放電でサイクルされる。一般に、使用される用語は放電深度またはDODであり、これは、セルサイクル中に基準となる電池容量の一部分を表す。本明細書で説明する改良されたセルに関しては、セルは始めに大きな容量を有し、この容量が長期サイクルにわたって良く維持される。80%DODでサイクルされるより低容量の正極材料に関する良好なサイクルは、参照により本明細書に援用するAmineらに付与された「Long Life Lithium Batteries with Stabilized Electrodes」という名称の米国特許第7,507,503号明細書(‘503特許)に記載されている。‘503特許は、リチウムマンガン酸化物スピネル組成物、および炭素でコーティングしたオリビン金属リン酸塩に関して、安定した長期サイクルを記載している。
【0023】
本明細書で述べる結果は、電流、電力、およびエネルギーに関して優れた容量を有し、かつ100%に近いDODで1000サイクルまで優れたサイクルを有する電池を提供する複数の異なる手法の相乗効果の発見に基づく。特に、この電池は一般に、特に開発されている合成手法に基づくときに大きな容量を提供することができるリチウムリッチ正極材料を備える。金属フッ化物コーティングは、材料の容量を維持または増加しながら、サイクルに関する安定性を与え、初回のサイクルでの不可逆容量損失を減少させる。また、電解質のための安定化添加剤が、サイクル性能のさらなる相乗効果的な改良を提供する。したがって、本明細書で説明する非常に優れた性能は、特に電気自動車の用途に関して性能を大幅に改良することができる非常に優れた電池を提供する特徴の相乗効果的な組合せから得られる。
【0024】
一般に、電池性能の相乗効果的な改良の結果、本明細書における特に興味深い電池は、サイクル5からサイクル1000まで少なくとも95%のDODで放電速度C/2で、1000サイクル後にサイクル5に対して少なくとも約70%の電池容量を電池が保つというサイクル寿命を示す。これらのサイクル結果は、大きな比エネルギーと共に得ることができる。例えば、いくつかの実施形態では、4.2Vから2.5Vへ速度C/3で、室温での放電比エネルギーが少なくとも約175Wh/kgになることがある。多くの用途では、電池は、ある温度範囲にわたって動作するように意図されており、それに対応して、これらの温度範囲にわたって電池が適当な性能を保つべきである。いくつかの実施形態では、電池は、−20℃〜45℃の温度範囲にわたって、4.2Vから2.5Vへ速度C/3で放電されるときに、少なくとも約135Wh/kgの比エネルギーを有する。
【0025】
再充電可能な電池には様々な用途があり、例えば、電話などの移動体通信デバイス、MP3プレーヤやテレビジョンなどのモバイルエンターテインメントデバイス、ポータブルコンピュータ、広い用途があるこれらのデバイスの組合せ、ならびに自動車やフォークリフトなどの輸送デバイスである。これらの電子デバイスで使用される電池のほとんどが固定体積を有する。したがって、これらの電池で使用される正極材料が高いタップ密度を有し、それにより実質的により多くの充電可能な材料が正極内に存在して、電池のより高い総容量を生み出すことが非常に望ましい。比容量、タップ密度、およびサイクルに関して改良された正極活性材料を組み込む本明細書で説明する電池は、特に中電流用途で、改良された性能を消費者に提供することができる。
【0026】
本明細書で説明する電池は車両用途に適している。特に、これらの電池は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、および純電気自動車用の電池パックで使用することができる。これらの車両は、一般に、重量、体積、および容量の均衡を図るように選択された電池パックを有する。より大きな電池パックは、より広範囲の電気的動作を提供することができるが、より場所を取り、したがって他の目的では利用できず、また重量がより重く、これは性能を低下させることがある。したがって、本明細書で説明する電池の高い容量により、所望の総電力量を生み出す電池パックを適当な体積で形成することができ、またそれに対応して、これらの電池パックは、本明細書で説明する優れたサイクル性能を実現することができる。いくつかの実施形態では、電力パックは、約128リットル以下の体積で、少なくとも約40kWhの電力を提供することができる。
【0027】
(電池構造)
本明細書において特に興味深い電池は、一般に非水性電解質がリチウムイオンを含むリチウムイオン電池である。二次リチウムイオン電池に関して、放電中にリチウムイオンが負極から解放され、したがって負極は放電中にアノードとして働き、電極からのリチウムの解放時、リチウムの酸化により電子が生成される。それに対応して、正極は、放電中にインターカレーションまたは同様のメカニズムによってリチウムイオンを取り込み、したがって正極は、電子を消費すると共にリチウムイオンを中性化するカソードとして働く。二次セルの再充電時、セルを通るリチウムイオンの流れは逆にされ、負極がリチウムを取り込み、正極がリチウムイオンとしてリチウムを解放する。
【0028】
本明細書で説明する電池は、全体的な電池性能に関する相乗効果的な改良を提供する特徴の組合せを含む。特に、電池性能は、電気自動車での電池の使用に重要なパラメータに関して評価することができる。これらの用途では、電池パックの交換が大きな出費となるので、電池のサイクル寿命が重要である。また、電池パックが同じ容量を提供することができる場合、より軽量の電池パックが望ましいので、電池のエネルギー密度が重要である。さらに、本明細書で説明する電池は優れた体積性能を提供し、これは、正極材料に関する高いタップ密度および大きな装填レベルによって容易に実現される。本明細書で説明するように、望ましい電池性能は、特に望ましい材料特性をもたらすプロセスで合成される高いエネルギー密度の正極活性材料の使用によって実現される。正極活性材料は、材料のサイクルを安定させるためにコーティングすることができる。電解質中の添加剤が、電池のサイクルをさらに安定させることができる。また、正極活性材料の特性により、タップ密度を高くすることができ、それに対応して電極内への活性材料の装填量が高くなる。
【0029】
リチウムは、一次電池と二次電池との両方に使用されている。リチウム金属の魅力的な特徴は、それが軽量であること、および最も陽性の強い金属であることであり、有利には、これらの特徴のいくつかの側面をリチウムイオン電池にも取り入れることができる。特定の形態の金属、金属酸化物、および炭素材料が、インターカレーション、合金化、または同様のメカニズムによってリチウムイオンをその構造内に取り込むものとして知られている。二次リチウムイオン電池における正極用の電気活性材料として機能する望ましい混合金属酸化物を本明細書でさらに説明する。リチウムイオン電池とは、負極活性材料もリチウムインターカレーション材料または合金化材料である電池を表す。リチウム金属自体がアノードとして使用される場合、得られる電池は、一般に単にリチウム電池と呼ばれる。
【0030】
生じる電池電圧はカソードとアノードでのハーフセル電位の差であるので、正極活性材料と負極活性材料の組成がこの電圧に影響を及ぼす。適した負極リチウムインターカレーションまたは合金化組成物としては、例えば黒鉛、人造黒鉛、コークス、フラーレン、五酸化ニオブ、スズ合金、シリコン、酸化チタン、酸化スズ、およびリチウムチタン酸化物、例えばLiTiO(0.5<x≦1)やLi1+xTi2−x(0≦x≦1/3)を挙げることができる。さらなる負極材料は、本願と同時係属中の2009年7月14日に出願されたKumarの「Composite Compositions, Negative Electrodes with Composite Compositions and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願第12/502,609号明細書、およびKumarらの「Lithium Ion Batteries with Particular Negative Electrode Compositions」という名称の米国特許出願第12/429,438号明細書に記載されており、どちらの特許出願も参照により本明細書に援用する。
【0031】
しかし、本明細書で説明する優れたサイクル特性に関して、一般には、炭素材料、例えば黒鉛、人造黒鉛、コークス、および/またはフラーレン、ならびにリチウムチタン酸化物が所望の長期サイクルを実現することができると予想される。チタン酸リチウムアノードを有する電池は、一般に比較的低い電圧で動作し、したがってこれらの材料からは低いエネルギー密度の電池が形成されると予想される。したがって、特に興味深い長期サイクルの高エネルギー密度の電池に関して、負極は一般に、活性炭材料、例えば黒鉛、人造黒鉛、コークス、フラーレン、カーボンナノチューブ、または他の黒鉛状炭素を含む。黒鉛状炭素は、一般にsp結合炭素原子のグラフェンシートを含む。便宜上、本明細書で使用するとき、「黒鉛状炭素」は一般に、かなりのグラフェンシート領域を含む元素状炭素材料を表す。
【0032】
正極活性組成物と負極活性組成物は、一般に、それぞれの電極内にポリマーバインダによって一体に保持された粉末組成物である。バインダは、電解質と接触すると、活性粒子にイオン伝導性を与える。適したポリマーバインダとして、例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ゴム、例えばエチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)ゴム、エチレン−(プロピレン−ジエンモノマー)共重合体(EPDM)、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)、それらの共重合体、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0033】
バインダ中の活性粒子担持量は大きくすることができ、例えば約80重量パーセント超、さらなる実施形態では少なくとも約83重量パーセント、他の実施形態では約85〜約97重量パーセントの活性材料にすることができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲の粒子担持量が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。電極を形成するために、粉末を、ポリマー用の溶媒など適切な液体中でポリマーとブレンドすることができる。得られたペーストを電極構造に押し入れることができる。
【0034】
また、正極組成物、およびいくつかの実施形態では負極組成物は、一般に電気活性組成物とは異なる導電性粉末も含む。適した補助導電性粉末として、例えば、黒鉛、カーボンブラック、金属粉末、例えば銀粉末、金属繊維、例えばステンレス鋼繊維など、およびそれらの組合せが挙げられる。一般に、正極は、約1重量パーセント〜約25重量パーセント、さらなる実施形態では約1.5重量パーセント〜約20重量パーセント、他の実施形態では約2重量パーセント〜約15重量パーセントの異なる導電性粉末を含むことができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の導電性粉末量が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0035】
電極は、一般に、電極と外部回路の間の電子の流れを促進するために導電性集電体と関連付けられる。集電体は、金属箔や金属グリッドなど金属を含むことができる。いくつかの実施形態では、集電体は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などから形成することができる。集電体上に電極材料を薄膜として鋳造することができる。次いで、電極から溶媒を除去するために、電極材料と集電体を例えばオーブン内で乾燥させることができる。いくつかの実施形態では、電池内に組み入れられるように電極構造を形成するために、集電体箔または他の構造と接触している乾燥済みの電極材料に、約2〜約10kg/cm(キログラム/平方センチメートル)の圧力をかけることができる。
【0036】
隔離板を正極と負極の間に位置させることができる。隔離板は、電気絶縁性であると同時に、2つの電極間での少なくとも選択されたイオンの伝導を可能にする。様々な材料を隔離板として使用することができる。市販の隔離板材料は、一般に、例えばイオン伝導を可能にする有孔シートであるポリエチレンおよび/またはポリプロピレンなどのポリマーから形成される。市販のポリマー隔離板としては、例えば、Hoechst Celanese, Charlotte, N.C.からのCelgard(登録商標)系列の隔離板材料が挙げられる。適した隔離板材料としては、例えば、厚さ12ミクロン〜40ミクロンの3層ポリプロピレン−ポリエチレン−ポリプロピレンシートが挙げられ、例えば厚さ12ミクロンのCelgard(登録商標)M824である。また、セラミックポリマー複合材料が隔離板用に開発されている。これらの複合材隔離板は、より高温で安定であることがあり、この複合材料は発火の危険を大幅に減少させることができる。隔離板材料用のポリマーセラミック複合材は、参照により本明細書に援用するHennigeらの「Electric Separator, Method for Producing the Same and the Use Thereof」という名称の米国特許出願公開第2005/0031942A号明細書にさらに記載されている。リチウムイオン電池の隔離板用のポリマーセラミック複合材は、Evonik Industries, Germanyによって商品名Separion(登録商標)の下で販売されている。
【0037】
リチウムイオン電池用の電解質は、1種または複数種の選択されたリチウム塩を含むことができる。適切なリチウム塩は、一般に不活性アニオンを有する。適したリチウム塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ素リチウム、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラクロロアルミン酸リチウム、塩化リチウム、およびそれらの組合せが挙げられる。いくつかの実施形態では、電解質は、濃度1Mのリチウム塩を含むが、他のより高いまたは低い濃度を使用することもできる。
【0038】
特に興味深いリチウムイオン電池に関して、リチウム塩を溶解するために一般に非水性液体が使用される。溶媒は、一般に不活性であり、電気活性材料を溶解しない。適した溶媒としては、例えば、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、トリグライム(トリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DME(グライムまたは1,2−ジメチルオキシエタンまたはエチレングリコールジメチルエーテル)、ニトロメタン、およびそれらの混合物が挙げられる。電解質中の添加剤が、電池のサイクルをさらに安定させることができることが判明しており、これらの添加剤については以下の段で詳細に説明する。
【0039】
本明細書で説明する電極は、様々な市販の電池設計に組み込むことができる。例えば、カソード組成物は、プリズム形状の電池、巻型円筒形電池、コイン電池、または他の適当な電池形状に使用することができる。これらの電池は、単一のカソード構造、または並列および/または直列電気接続で組み立てられた複数のカソード構造を備えることができる。正極活性材料は一次電池、すなわち一回使用の電池で使用することもできるが、得られる電池は、一般に、二次電池用途において電池の複数回のサイクルにわたって望ましいサイクル特性を有する。
【0040】
いくつかの実施形態では、正極と負極を、それらの間に隔離板を挟んで積層することができ、得られた積層構造を円筒形またはプリズム形状に丸めて電池構造を形成することができる。適切な導電性タブを集電体に溶接などで接続することができ、得られたゼリーロール構造を金属キャニスタまたはポリマーパッケージ内に配置することができ、負極タブおよび正極タブが適切な外部接点に溶接する。電解質を筐体に加え、筐体を封止して電池が完成させる。いくつかの現在使用されている再充電可能な市販の電池としては、例えば、円筒形の18650電池(直径18mm、長さ65mm)や26700電池(直径26mm、長さ70mm)が挙げられるが、他の電池サイズを使用することもできる。
【0041】
図1を参照すると、電池100が概略的に示されており、負極102と、正極104と、負極102と正極104の間の隔離板106とを有する。電池は、積層などの形で、適切に配置された隔離板と共に複数の正極および複数の負極を備えることができる。電極と接触する電解質は、逆極性の電極間の隔離板を通るイオン伝導性を生み出す。電池は、一般に、負極102および正極104にそれぞれ関連付けられた集電体108、110を備える。
【0042】
(添加剤)
電解質自体または電解質への添加剤の選択が、電池のサイクル安定性にさらに影響を及ぼすことがある。特に、電解質自体の選択および/または添加剤の含有は、サイクル安定性を改善することができ、安定性のこの改善は、コーティングされた正極材料と組み合わせて相乗効果的な改良を提供することができる。本明細書で述べるように、電解質添加剤のこれらの選択は、エネルギー密度、他の容量パラメータ、およびサイクルに関して優れた特性を有する電気活性材料の包含と組み合わせて、非常に良い性能特性をもたらすことができる。特に、電解質は、経時的な化学的変化に対する耐性の面でも、セル内での電気化学反応に起因する化学的劣化に対する耐性の面でも安定であるべきである。さらに、所望の添加剤または電解質組成物が、サイクル中に電気活性材料をさらに安定させることができる。
【0043】
リチウムイオン電池の電解質に関するいくつかの一般的なリチウム塩は上述した。代替の電解質の種類は、参照により本明細書に援用するTsujiokaらに付与された「Electrolyte for Electrochemical Device」という名称の米国特許第6,783,896号明細書(「‘896号特許」)に記載されている。これらの代替の電解質はまた、使用し得る電解質添加剤としても記載されている。特に、‘896号特許での代替の電解質は、リチウムベース電解質を形成するための以下の構造式を有するリチウム塩として生成されたイオン金属錯体である。
【0044】
【化1】

【0045】
ここで、aは1〜3の数であり、bは1〜3の数であり、p=b/aであり、mは1〜4の数であり、nは1〜8の数であり、qは0または1であり、Mは、周期表の13〜15族から選択される遷移金属または元素であり、Aa+は金属イオン、オニウムイオン、または水素イオンであり、Rは有機基であり、Rはハロゲンまたは有機基であり、XとXは、別個にO、S、またはNRであり、Rはハロゲンまたは有機基である。R、R、およびRに適した有機基は、‘896号特許にさらに論じられている。‘896号特許において、式中でAa+をA2+と誤って記載しているという明らかな誤植があることに留意されたい。特に興味深い組成物は、Aa+がLiであり、R基がハロゲン原子であり、XおよびXがO原子である組成式によって表される。‘896号特許は、電解質として、または電解質ブレンド中で、LiBF(リチウムジフルオロ(オキサレート)ホウ酸塩)を例示している。
【0046】
ハロゲンを含まない金属錯体に基づくアニオンを有する他のリチウム塩は、参照により本明細書に援用するTsujiokaらに付与された「Electrolyte for Electrochemical Device」という名称の米国特許第6,787,267号明細書(‘267号特許)にさらに記載されている。‘267号特許は、以下の構造式によって表される電解質を記載している。
【0047】
【化2】

【0048】
上の構造式(1)に関して使用したのと同じ表記が、構造式(2)でも使用されている。この種類における興味深い1つの化合物は、LiB(C、すなわちリチウムビス(オキサレート)ホウ酸塩である。リチウムビス(オキサレート)ホウ酸塩と、ラクトンを含む溶媒との組合せが、参照により本明細書に援用するKoikeらに付与された「Electrolyte」という名称の米国特許第6,787,268号明細書にさらに記載されている。
【0049】
セルを安定させるためのスピロ環式炭化水素に基づく電解質添加剤は、参照により本明細書に援用するAmineらに付与された「Long Life Lithium Batteries with Stabilized Electrodes」という名称の米国特許第7,507,503号明細書(「‘503特許」)に記載されている。これらの炭化水素は、少なくとも1つの酸素原子および少なくとも1つのアルケニルまたはアルキニル基を含有する。特に興味深いスピロ環式添加剤は、以下の構造式によって表される組成物を含む。
【0050】
【化3】

【0051】
ここで、X、X、X、およびXは、別個にOまたはCRである。ただし、YがOのときXはOでなく、YがOのときXはOでなく、YがOのときXはOでなく、YがOのときXはOでない。Y、Y、Y、およびYは、別個にOまたはCRであり、RとRは、別個に、置換または非置換の二価アルケニルまたはアルキニル基であり、RとRは、別個に、H、F、Cl、または非置換アルキル、アルケニル、もしくはアルキニル基である。‘503号特許は、例えば従来のリチウム塩を含めた様々なリチウム塩と共にそれらの添加剤を使用することを記載している。さらに、‘503号特許は、リチウム金属塩として、または電解質中の別のリチウム塩を補助する添加剤として、リチウム(キレート)ホウ酸塩またはリチウム(キレート)リン酸塩の使用を教示する。具体的には、‘503号特許は、電解質中で約0.0005〜約15重量パーセントの濃度のLi[(CB]、Li(C)BF、またはLiPFを記載している。‘503号特許は、これらの添加剤が化学的な腐食から電極を保護することを推測している。具体的には、‘503号特許において、添加剤が電極上に被膜を形成し、これが、活性材料中のMn+2やFe+2などリチウム以外の金属イオンが電解質中に溶解するのを防止することが示されている。
【0052】
第1の電解質添加剤としてのリチウム(キレート)ホウ酸塩と、オルガノアミン、アルケン、アリル化合物、またはそれらの混合物である第2の添加剤との組合せが、参照により本明細書に援用するAmineらの「Long Life Lithium Batteries With Stabilized Electrodes」という名称の米国特許出願公開第2005/0019670号明細書に記載されている。少なくとも1つの酸素原子および少なくとも1つのアリル、アルケニル、またはアルキニル基を含む炭化水素電解質添加剤が、参照により本明細書に援用するAmineらの「Long Life Lithium Batteries With Stabilized Electrodes」という名称の米国特許出願公開第2006/0147809号明細書に記載されている。一般に0.1〜10重量パーセントの濃度での電解質中の不飽和炭化水素に基づくリチウムイオンセル用のガス抑制添加剤が、参照により本明細書に援用するHyungらの「Lithium Based Electrochemical Cell Systems」という名称の米国特許出願公開第2004/00151951号明細書に記載されている。ヘテロホウ酸塩クラスタアニオンを含むリチウム塩を含む添加剤が、参照により本明細書に援用するChenらの「Electrolytes, Cells and Methods of Forming Passivation Layers」という名称の米国特許出願公開第2008/0026297号明細書に記載されている。
【0053】
したがって、サイクル改良添加剤は、リチウム塩または他の組成物であることがある。リチウム塩は、一般に、電解質のためのすべてのリチウムイオンを供給することができ、または安定化リチウム塩を従来のリチウム塩と組み合わせることができる。一般に、電解質が、上の構造式(1)と(2)に対応するリチウム塩を含むリチウム塩のブレンドを含む場合、総計のリチウム塩は、上の構造式(1)と(2)に対応するリチウム塩を約0.0005〜約15重量パーセント、さらなる実施形態では約0.01〜約12重量パーセント含むことができる。上の構造式(3)によって表される添加剤などリチウム塩でない安定化添加剤に関しては、電解質は、約0.0005〜約20重量パーセント、さらなる実施形態では約0.01〜約15重量パーセント、追加の実施形態では約0.1〜約10重量パーセントの添加剤を含むことができる。上記の明示した範囲に含まれる他の範囲の添加剤濃度が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0054】
(正極活性材料)
正極活性材料は、リチウムインターカレーション金属酸化物組成物を含む。いくつかの実施形態では、リチウム金属酸化物組成物は、一般に層状複合構造を形成すると考えられるリチウムリッチ組成物を含むことができる。正極活性組成物は、現実の放電条件下で、リチウムイオン電池セルにおいて驚くほど高い比容量および高いタップ密度を示すことができる。所望の電極活性材料は、本明細書で述べる合成手法を使用して合成することができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、組成物は、組成式Li1+xNiαMnβCoγδ2−zによって表すことができ、ここで、xは約0.05〜約0.25の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0.05〜約0.4の範囲内であり、δは約0〜約0.1の範囲内であり、zは約0〜約0.1の範囲内であり、Mは、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、またはそれらの組合せである。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータ値が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。フッ素は、サイクル安定性、および材料の安全性の改善に寄与することができるドーパントである。z=0である実施形態では、この組成式は、Li1+xNiαMnβCoγδとなる。さらなる実施形態では、パラメータは、xが約0.05〜約0.25の範囲内であり、αが約0.1〜約0.4の範囲内であり、βが約0.4〜約0.65の範囲内であり、γが約0.05〜約0.3の範囲内であり、δが約0〜約0.1の範囲内であるという範囲を有する。
【0056】
Kangとその共同研究者が、組成式Li1+xNiαMnβCoγM’δO2−z(ここで、M’=Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、またはTiであり、xが約0〜0.3の間であり、αが約0.2〜0.6の間であり、βが約0.2〜0.6の間であり、γが約0〜0.3の間であり、δが約0〜0.15の間であり、zが約0〜0.2の間である)を有する二次電池で使用するための組成物を示している。これらの金属範囲およびフッ素は、電池容量、および形成される層状構造の電気化学サイクル中の安定性を改善するものとして提案された。参照により本明細書に援用するKangらの「Layered cathode materials for lithium ion rechargeable batteries」という名称の米国特許第7,205,072号明細書(‘072特許)を参照されたい。‘072号特許は、室温で10サイクル後にカソード材料の容量が250mAh/g(ミリアンペア時間/グラム)未満であることを報告しており、これは明記されていない速度におけるものであり、性能値を高めるには低いと考えられる。酸素をフッ素で置き換えた場合、多価金属の酸化状態は、フッ素を含まない組成物の酸化状態に比べて低くなることに留意されたい。
【0057】
適切なコーティングが、フッ素ドーパントを使用せずにサイクル特性の所望の改良を実現することが判明しているが、いくつかの実施形態ではフッ素ドーパントを有することが望ましいことがある。さらに、いくつかの実施形態では、組成物をより単純にし、それでも性能を改良するように、上の組成式でδ=0とすることが望ましい。これらの実施形態に関して、δ=0と共にz=0である場合、組成式は、上で概説したパラメータを用いてLi1+xNiαMnβCoγと単純化され、この組成式での組成物は非常に望ましい特性を実現することが判明している。
【0058】
本明細書で述べる材料のいくつかの実施形態に関して、Thackeryとその共同研究者は、LiM’O組成物がLiMO成分と共に層状構造内に構造的に組み込まれたいくつかのリチウムリッチ金属酸化物組成物に関する複合結晶構造を提案している。電極材料は、LiM’O・(1−a)LiMOと2成分表記で表すことができ、ここでMは、平均原子価が+3の1つまたは複数の金属元素であり、少なくとも1つの元素がMnイオンまたはNiであり、M’は、平均原子価が+4の金属元素であり、0<a<1である。例えば、Mは、Ni+2、Co+3、およびMn+4の組合せでよい。これらの組成物に関する全体の組成式は、Li1+xM’2x1−3xと書くことができる。これらの材料から形成される電池は、対応するLiMO組成物を用いて形成された電池に比べて高い電圧および高い容量でサイクルすることが観察されている。これらの材料は、Thackeryらに付与された「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号明細書、およびThackeryらに付与された「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,677,082号明細書にさらに記載されており、どちらも参照により本明細書に援用する。Thackeryは、Mn、Ti、およびZrがM’に関して特に興味深いものであり、MnおよびNiがMに関して特に興味深いものであると認識した。
【0059】
いくつかの具体的な層状構造の構造は、参照により本明細書に援用するThackeryらの「Comments on the structural complexity of lithium−rich Li1+x1−x electrodes (M=Mn,Ni,Co) for lithium batteries」,Electrochemistry Communications 8 (2006), 1531−1538にさらに記載されている。この論文で報告されている研究では、組成式Li1+x[Mn0.5Ni0.51−xおよびLi1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.3331−xを有する組成物を調べている。この論文はまた、層状材料の構造的な複雑さを述べている。以下の実施例は、組成式Li1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.3331−xを有する材料の性能に基づく。これらの材料は、以下に述べるように合成され、コーティングで改質される。合成手法およびコーティングは、容量およびサイクル特性に関して材料の優れた性能を提供する。セル構成および電解質添加剤に関する手法と共に、これらの改良された活性材料特性が、本明細書で説明する電池性能の改良をもたらす。
【0060】
また、本願と同時係属中のVenkatachalamらの「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願第12/246,814号明細書(‘814出願)、および本願と同時係属中のLopezらの「Positive Electrode Material for High Specific Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/332,735号明細書(‘735号出願)に記載されている合成手法を使用して、Li1+xNiαMnβCoγδ2−z/2組成物に関して高い比容量が得られた。上記のどちらの特許出願も参照により本明細書に援用する。特に、Li[Li0.2Ni0.175Co0.10Mn0.525]Oに関して驚くほど良い結果が得られている。‘735号出願に記載されている炭酸塩共沈プロセスは、組成物中にコバルトを有し、良好なタップ密度と共に高い比容量性能を示す所望のリチウムリッチ金属酸化物材料を与えた。本願と同時係属中のこれらの特許出願はまた、性能およびサイクルを改良するためにコーティングの効果的な使用を説明している。Kangらに付与された‘072特許では、例えばLi1.2Ni0.15Mn0.55Co0.10を含めた様々な具体的な組成物が検査された。これは、‘735号出願および‘814号出願の実施例で検査された組成物と同様であるが、‘735号出願および‘814号出願において、驚くほど改良された性能が記載されている。
【0061】
正極活性材料の性能は、多くの因子によって影響を受ける。平均粒径と粒径分布が、正極活性材料を特徴付ける2つの基本的な特性であり、これらの特性は、材料の速度性能およびタップ密度に影響を及ぼす。電池は固定体積を有するので、したがって、これらの電池の正極で使用される材料は、その材料の比容量を望ましく高い値で維持することができる場合には、高いタップ密度を有することが望ましい。このとき、より多くの充電可能な材料が正極に存在することにより、電池の総容量をより高くすることができる。
【0062】
(合成方法)
本明細書で述べる合成手法は、サイクル時の比容量の改良、非常に優れたサイクル性能、および高いタップ密度を有する層状リチウムリッチカソード活性材料を形成するために使用することができる。合成方法は、組成式Li1+xNiαMnβCoγδを有する組成物の合成に適合されており、ここで、xは約0.05〜約0.25の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0.05〜約0.4の範囲内であり、δは約0〜約0.1の範囲内であり、Mは、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、またはそれらの組合せである。この合成手法は、商業規模への拡張にも適している。具体的には、共沈プロセスまたはゾルゲルプロセスを使用して、所望の結果を伴う所望のリチウムリッチ正極材料を合成することができる。特に、水酸化物共沈手法および炭酸塩共沈手法が、非常に望ましい特性を有する活性材料を生み出している。
【0063】
水酸化物共沈プロセスでは、純水などの水性溶媒中に金属塩が所望のモル比で溶解される。適した金属塩としては、例えば、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、およびそれらの組合せが挙げられる。溶液の濃度は、一般に0.1M〜2Mの間で選択される。金属塩の相対モル量は、生成物材料に関する所望の組成式に基づいて選択することができる。次いで、例えば水酸化リチウムおよび/または水酸化アンモニウムの添加によって溶液のpHを調節することができ、所望の量の金属元素を含む金属水酸化物を沈殿させる。一般に、pHは、沈殿を行うために約10〜約12pH単位の間の値に調節することができる。水酸化物の沈殿を促進するために、溶液を加熱して撹拌することができる。次いで、沈殿した金属水酸化物を溶液から分離させて、洗浄し、乾燥させて粉末を形成し、その後さらなる処理を行うことができる。例えば、乾燥は、オーブン内で約110℃で約4〜約12時間行うことができる。
【0064】
次いで、収集された金属水酸化物粉末に熱処理を施して、水をなくして、水酸化物組成物を対応する酸化物組成物に変換することができる。一般に、熱処理は、オーブンや炉などの中で行うことができる。熱処理は、不活性雰囲気中で、または酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。いくつかの実施形態では、水酸化物を酸化物に変換するために、少なくとも約300℃、いくつかの実施形態では約350℃〜約1000℃の温度に材料を加熱することができる。熱処理は、一般に、少なくとも約15分間、さらなる実施形態では約30分〜24時間以上、追加の実施形態では約45分〜約15時間行うことができる。生成物材料の結晶性を改良するために、さらなる熱処理を行うことができる。結晶性生成物を形成するためのこの焼成ステップは、一般に、少なくとも約650℃、いくつかの実施形態では約700℃〜約1200℃、さらなる実施形態では約750℃〜約1100℃の温度で行う。粉末の構造的特性を改良するための焼成ステップは、一般に、少なくとも約15分、さらなる実施形態では約20分〜約30時間以上、他の実施形態では約30分〜約24時間行うことができる。所望の材料を生み出すために、加熱ステップは、望みであれば適切な温度勾配と組み合わせることができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の温度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0065】
炭酸塩共沈プロセスでは、純水などの水性溶媒中に金属塩が所望のモル比で溶解される。適した金属塩としては、例えば、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、およびそれらの組合せが挙げられる。溶液の濃度は、一般に1M〜3Mの間で選択される。金属塩の相対モル量は、生成物材料に関する所望の組成式に基づいて選択することができる。次いで、例えばNaCO、および任意選択で水酸化アンモニウムの添加によって、溶液のpHを調節することができ、所望の量の金属元素を含む金属炭酸塩を沈殿させる。一般に、pHは、約6.0〜約9.0の間の値に調節することができる。炭酸塩の沈殿を促進するように、溶液を加熱して撹拌することができる。次いで、沈殿した金属炭酸塩を溶液から分離させて、洗浄し、乾燥させて粉末を形成し、その後さらなる処理を行うことができる。例えば、乾燥は、オーブン内で約110℃で約4〜約12時間行うことができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲のプロセスパラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0066】
次いで、収集された金属炭酸塩粉末に熱処理を施して二酸化炭素をなくして、炭酸塩組成物を対応する酸化物組成物に変換することができる。一般に、熱処理は、オーブンや炉などの中で行うことができる。熱処理は、不活性雰囲気中で、または酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。いくつかの実施形態では、炭酸塩を酸化物に変換するために、少なくとも約350℃、いくつかの実施形態では約400℃〜約800℃の温度に材料を加熱することができる。熱処理は、一般に、少なくとも約15分間、さらなる実施形態では約30分〜24時間以上、追加の実施形態では約45分〜約15時間行うことができる。生成物材料の結晶性を改良するために、さらなる熱処理を行うことができる。結晶性生成物を形成するためのこの焼成ステップは、一般に、少なくとも約650℃、いくつかの実施形態では約700℃〜約1200℃、さらなる実施形態では約700℃〜約1100℃の温度で行う。粉末の構造的特性を改良するための焼成ステップは、一般に、少なくとも約15分、さらなる実施形態では約20分〜約30時間以上、他の実施形態では約1時間〜約36時間行うことができる。所望の材料を生み出すために、加熱ステップは、望みであれば適切な温度勾配と組み合わせることができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の温度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0067】
どちらの共沈プロセスでも、プロセス中の1つまたは複数の選択されたステップで材料にリチウム元素を混入することができる。例えば、沈殿ステップを行う前または行った後に、水和リチウム塩の添加によって溶液中にリチウム塩を混入することができる。この手法では、他の金属と同様に、沈殿した材料にリチウム種を混入する。また、リチウムの特性により、生成物組成物の最終的な特性に悪影響を及ぼすことなく、固相反応でリチウム元素を材料に混入することもできる。したがって、例えば、LiOH・HO、LiOH、LiCO、またはそれらの組合せなど一般に粉末としての適量のリチウム源を、沈殿した金属水酸化物または炭酸塩と混合させることができる。次いで、粉末混合物を加熱ステップに通して酸化物を生成し、次いで結晶性の正極材料を生成する。
【0068】
効果的な共沈およびゾルゲルプロセスによるリチウムリッチ層状金属酸化物正極材料の合成は、Venkatachalamらの「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願第12/246,814号明細書(‘814出願)、およびLopezらの「Positive Electrode Material for High Specific Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/332,735号明細書(‘735出願)にさらに記載されており、どちらも参照により本明細書に援用する。‘814号出願および‘735号出願における実施例は、Li1.2Ni0.175Co0.10Mn0.525の組成を対象としているが、説明されているプロセスを、リチウムリッチ層状錯体金属酸化物に関する他の化学量論に一般化することができる。以下の実施例は、Li1.07Ni0.31Co0.31Mn0.31の組成を含む。
【0069】
(コーティングおよびコーティングを形成するための方法)
不活性無機コーティングが、本明細書で述べるリチウムリッチ層状正極活性材料の性能を大幅に改良することが判明している。特に、金属フッ化物でコーティングしたリチウム金属酸化物から形成される電池のサイクル特性は、コーティングなしの材料よりも大幅に良いことが判明している。さらに、金属フッ化物コーティングでは、フッ化物コーティングによって電池の全体容量も所望の特性を示し、電池の初回のサイクルの不可逆容量損失が減少される。前述したように、電池の初回のサイクルでの不可逆容量損失は、新しい電池の電荷容量とその初回の放電容量の差である。初回のサイクルでの不可逆容量損失の大部分は、一般に正極材料に起因する。
【0070】
また、他の不活性無機コーティングが、いくつかの正極活性材料を安定させるために提案されている。具体的には、金属酸化物または金属リン酸塩コーティングの使用が、参照により本明細書に援用するAminらの「Long Life Lithium Batteries With Stabilized Electrodes」という名称の米国特許出願公開第2006/0147809号(‘809号出願)に記載されている。具体的には、スピネルまたはオリビン結晶構造を有する活性材料に関して、‘809号出願は、ZrO、TiO、WO、Al、MgO、SiO、AlPO、Al(OH)、またはそれらの混合物を含むコーティングを特に説明する。水酸化物を沈殿させ、生成物を焼成し、すなわち熱処理して酸化物を生成することによって、金属酸化物を形成することができる。あるいは、ゾルゲルプロセスを使用して、酸化物コーティングを合成することができる。コーティング対象の材料の粉末と接触させたリン酸塩の沈殿によって、金属リン酸塩コーティングを形成することができる。
【0071】
金属フッ化物コーティングは、本明細書で説明する高容量リチウムリッチ組成物の性能の予期せぬ改良を提供することができる。一般に、選択された金属フッ化物およびメタロイドフッ化物をコーティングに使用することができる。同様に、金属および/またはメタロイド元素の組合せを有するコーティングを使用することもできる。金属/メタロイドフッ化物コーティングは、リチウム二次電池用の正極活性材料の性能を安定させるために提案されている。フッ化物コーティングに適した金属およびメタロイド元素としては、例えば、Al、Bi、Ga、Ge、In、Mg、Pb、Si、Sn、Ti、Tl、Zn、Zr、またはそれらの組合せが挙げられる。フッ化アルミニウムは、手頃な価格であり、環境に優しいと考えられるので、望ましいコーティング材料となりえる。金属フッ化物コーティングは、参照により本明細書に援用するSunらの「Cathode Active Materials Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930号パンフレット(‘930号PCT出願)に一般に記載されている。‘930号PCT出願は、LiF、ZnF、またはAlFでコーティングされたLiCoOに関する結果を与えている。‘930号PCT出願は、具体的には、以下のフッ化物組成物に言及している。CsF、KF、LiF、NaF、RbF、TiF、AgF、AgF、BaF、CaF、CuF、CdF、FeF、HgF、Hg2F、MnF、MgF、NiF、PbF、SnF、SrF、XeF、ZnF、AlF、BF、BiF、CeF、CrF、DyF、EuF、GaF、GdF、FeF、HoF、InF、LaF、LuF、MnF、NdF、VOF、PrF、SbF、ScF、SmF、TbF、TiF、TmF、YF、YbF、TlF、CeF、GeF、HfF、SiF、SnF、TiF、VF、ZrF、NbF、SbF、TaF、BiF、MoF、ReF、SF、およびWF
【0072】
LiNi1/3Co1/3Mn1/3のサイクル性能に対するAlFコーティングの効果は、Sunらの論文“AlF−Coating to Improve High Voltage Cycling Performance of Li[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O Cathode Materials for Lithium Secondary Batteries,”J. of the Electrochemical Society, 154 (3), A168−A172 (2007)にさらに記載されている。また、LiNi0.8Co0.1Mn0.1のサイクル性能に対するAlFコーティングの効果は、参照により本明細書に援用するWooらの論文「Significant Improvement of Electrochemical Performance of AlF−Coated Li[Ni0.8Co0.1Mn0.1]O Cathode Materials」,J. of the Electrochemical Society, 154 (11) A1005−A1009 (2007)にさらに記載されている。不可逆容量損失の減少は、参照により本明細書に援用するWuらの「High Capacity, Surface−Modified Layered Li[Li(1−x)/3Mn(2−x)/3Nix/3Cox/3]O Cathodes with Low Irreversible Capacity Loss」,Electrochemical and Solid State Letters, 9 (5) A221−A224 (2006)に、Alコーティングについて言及されている。
【0073】
金属/メタロイドフッ化物コーティングは、以下の実施例で実証されるようにリチウムイオン二次電池用のリチウムリッチ層状組成物の性能を大幅に改良することができることが判明している。このコーティングは電池の容量を改良する。しかし、コーティング自体は電気化学的に活性ではない。試料に加えられるコーティングの量による比容量の損失が、コーティングを追加する利益がその電気化学的不活性によって相殺される水準を超えるとき、電池容量の減少を予想することができる。一般に、コーティングの量は、コーティングにより得られる有益な安定性と、コーティング材料の重量による比容量の損失との均衡を図るように選択することができる。コーティング材料は、一般には、材料の高い比容量に直接は寄与しない。一般に、コーティング材料の量は、約0.01モルパーセント〜約10モルパーセント、さらなる実施形態では約0.1モルパーセント〜約7モルパーセント、追加の実施形態では約0.2モルパーセント〜約5モルパーセント、他の実施形態では約0.5モルパーセントから約4モルパーセントの範囲である。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング材料が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。コーティングなしの材料の容量を改良するためにAlFでコーティングした金属酸化物材料で有効なAlFの量は、コーティングなしの材料の粒径および表面積に関係付けられる。特に、一般に、より大きい表面積の粉末に関しては、より小さい表面積の粉末へのコーティングと同等の効果を実現するために、より高いモルパーセントの金属フッ化物コーティングを使用することがある。
【0074】
フッ化物コーティングは、溶液ベースの沈殿手法を使用して塗布することができる。正極材料の粉末を、水性溶媒など適切な溶媒中に混合することができる。所望の金属/メタロイドの可溶性組成物を溶媒中に溶解することができる。次いで、NHFを分散液/溶液に徐々に添加して、金属フッ化物を沈殿させることができる。コーティング反応物の総量は、所望の量のコーティングを形成するように選択することができ、コーティング反応物の割合は、コーティング材料の化学量論に基づくことができる。コーティングプロセスを促進するために、コーティングプロセス中に約20分〜約48時間にわたって、水溶液に関して例えば約60℃〜約100℃の範囲内の適当な温度まで、コーティング混合物を加熱することができる。コーティングされた電気活性材料を溶液から除去した後、材料を乾燥させ、約20分〜約48時間にわたって約250℃から約600℃へ徐々に加熱して、コーティングされた材料の形成を完了する。加熱は、窒素雰囲気、または実質的に酸素を含まない他の雰囲気中で行うことができる。
【0075】
(電池性能)
本明細書で説明するように形成された電池は、改良された正極材料活性材料の合成と共に安定化手法の組合せから、相乗効果的な性能改良を示した。具体的には、本明細書で述べる合成手法は、容量の改良および優れたサイクル特性を有するリチウムリッチ正極活性材料の製造に有用である。無機コーティングが、正極材料をさらに安定させることができる。さらに、電解質添加剤も、材料に対する他の改良との相乗効果でサイクルを改良する。相乗効果的な改良に基づいて、以前には実現可能でなかった性能が、セルの深い放電で、リチウムイオン電池の長期サイクルにわたって実現されている。本明細書で述べる正極活性材料による性能改良という結果は、中電流用途のための現実的な放電条件下で得られている。
【0076】
正極活性組成物に関して、および/または全体的なセル性能について、セルの性能を述べることができる。セル性能は、アノード材料および電池構成、ならびに正極材料の性能に応じて決まることがある。本明細書で述べるリチウムリッチ層状金属酸化物正極材料は、高い比容量および高い比エネルギーを提供する。本明細書で述べる合成手法を使用すると、正極材料は、容量の増加およびエネルギー性能の向上を提供する良好な結晶性を有し、高いタップ密度を実現することができる。また、これらのリチウムリッチ材料は、比較的良好なサイクル特性も有する。
【0077】
リチウムリッチ正極材料上の無機コーティングがいくつかの利点を提供することが判明している。特に、これらのコーティングは、驚くべきことに、コーティングが不活性であっても比容量の増加および比エネルギー性能の向上をもたらす。さらに、コーティングは、初回の電池サイクルに関して、初回のサイクルでの不可逆容量損失を減少させることができる。さらに、コーティングは、セルのサイクル性能も大幅に改良する。
【0078】
この不可逆容量損失は、新しい電池の電荷容量と初回の放電容量の差である。この初回のサイクルでの不可逆容量損失を補償するために、余剰の電気活性材料が負極に含まれ、それにより、その損失した容量は戻らないにせよ、ある負極材料が実質的に消耗されるまで電池の寿命の大半にわたって、選択された電位まで完全に電池を充電することができる。初回のサイクルでの不可逆容量損失の大部分は、一般に正極材料に起因する。さらに、本明細書で述べるコーティングされた正極活性材料では、正極材料は、電池の初回の充電および放電後の不可逆容量損失の割合が低く、したがって、それに対応して、望みであれば負極材料を減少させることができる。したがって、これは、電池のサイクル性能に寄与しない余剰の負極材料を電池内にあまり含める必要がないので、より良い電池性能を提供する。
【0079】
一般に、電池性能を評価するために様々な同様の試験手順を使用することができる。本明細書で述べる性能値の評価に関して、具体的な試験手順を説明する。以下の実施例で、試験手順をより詳細に説明する。具体的には、室温で、または他の選択された温度で、4.2ボルトと2.5ボルトの間で電池をサイクルさせることができる。最初の3回のサイクルに関しては、不可逆容量損失を確立するために、電池をC/10の速度で放電する。次いで、電池をC/3、C/2、または他の選択された値でサイクルさせ、これは、中電流用途に関して適当な試験速度である。ここでも、表記C/xは、選択された電圧最小値までx時間で電池を完全に放電するような速度で電池が放電されることを示唆する。電池容量は、放電速度に大きく左右され、放電速度が高まるにつれて容量が損失される。
【0080】
いくつかの実施形態では、正極活性材料は、4.2Vから2.5Vに放電される放電速度C/3での5回目のサイクル時に、比容量が少なくとも約150ミリアンペア時間/グラム(mAh/g)であり、追加実施形態では少なくとも約155mAh/gである。コーティングされた電気活性材料に関する初回のサイクルでの不可逆容量損失は、同等の性能のコーティングなしの材料に比べて少なくとも約25%減少させることができる。以下に述べるように測定された材料のタップ密度は、少なくとも約1.8g/mLでよい。体積を一定とすると、高いタップ密度が、電池の高い全体容量をもたらす。さらなる範囲の比容量およびタップ損失、ならびに不可逆容量損失の減少が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0081】
一般に、タップ密度は、定められたタッピング条件下で得られる見掛けの粉末密度である。見掛けの粉末密度は、粉末の個々の粒子がどれだけ密に詰まっているかに応じて決まる。見掛けの密度は、固体の真の密度によってだけでなく、粒径分布、粒子形状、および凝集性によっても影響を及ぼされる。一般に、一定の寸法では、より高いタップ密度は、電極内へのより多量の活性材料の組込みを可能にし、したがってそれに対応して電極はより大きい容量を有する。本明細書での正極活性材料は、比較的高いタップ密度を有し、それにより、セルの体積当たりの性能値が一般に特に望ましい値を示す。
【0082】
一般に、電池性能は、電池の設計特性に応じて決まる。例えば、以下の実施例で説明する円筒形セルは円筒形鋼缶内に組み立てられ、この円筒形鋼缶は、電池の重量を増す大きな一因となる。電池は、箔ポーチなどの内部に、例えばプリズム形状、例えば概して平行六面体形状に組み立てることができる。箔ポーチは、ポリマーおよび/または金属箔などを備えることができる。パッケージング材料を重量低減できる可能性により、電池の比容量および比エネルギーは、金属缶を用いた円筒形セル設計よりも箔セル設計で大きくすることができる。さらに、プリズム電池は、金属および/またはプラスチックから形成されるハードケースを用いて構成することもできる。以下の実施例で述べる電池に関して、ポーチ筐体を備えるプリズムセルにおいて使用する場合、比エネルギーは、実施例で報告する円筒形電池について得られた175Wh/kgに対して、200Wh/kg近くになると予想される。高エネルギー正極材料を組み込むポーチセルは、参照により本明細書に援用する本願と同時係属中のBuckleyらの「High Energy Lithium Ion Secondary Batteries」という名称の米国特許出願第12/403521号明細書にさらに記載されている。また、プリズムセルは一般にそれらの形状により、円筒形セルに比べてスペースをあまり無駄にせずにある体積に詰めることができる。
【0083】
United States Advanced Battery Consortium(USABC)は、電気自動車に使用される電池に関する1組の目標値を定めている。これらの目標値を表1に提示する。
【0084】
【表1】

【0085】
セル性能に関して、最初の不可逆変化が性能値に影響を及ぼさないように、数サイクル後に電流、エネルギー、および電力容量を測定することができる。しかし、数サイクル後には、より多数回のサイクルで見られる大幅な性能の低下は生じていない。便宜上、長期サイクルとは無関係のセル性能については、一般に放電速度C/3でのサイクル5を参照する。いくつかの実施形態では、電池は、サイクル5に関して、4.2Vから2.5Vへの放電で放電速度C/3で、室温での放電比エネルギーが少なくとも約175Wh/kg、さらなる実施形態では少なくとも約180Wh/kg、他の実施形態では約185〜約200Wh/kgになることがある。さらに、電池は、サイクル5に関して、4.2Vから2.5Vへの放電で放電速度C/3で、室温での放電エネルギー密度が少なくとも約400Wh/L、さらなる実施形態では少なくとも約420Wh/L、他の実施形態では約430〜約480Wh/Lになることがある。電力密度に関して、電池は、少なくとも1500W/L、さらなる実施形態では少なくとも約1800W/L、他の実施形態では約2200〜約2400W/Lを有することができる。電力密度は、30秒にわたる80%の放電深度で測定する。いくつかの実施形態では、電力パックは、約128リットル以下の体積で、少なくとも約40kWhの電力を提供することができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の比エネルギー、エネルギー密度、および電力密度が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0086】
一般に、電池のサイクル性能は、サイクル中の放電深度に非常に大きく左右される。特に、より低いパーセンテージの放電深度でサイクルすることによって、大幅に改良されたサイクルを実現することができる。放電深度は、設計された充電電圧に基づくセルの能力に関係付けられる。したがって、より低い充電電圧を有する電池の設計は、サイクル性能を改良することができるが、そのとき、それに対応して容量、エネルギー密度、電力密度など様々な性能特性が低くなる。本明細書で述べる電池は、4.2Vと2.5Vの間でのサイクルを行い、これは、本明細書で述べる放電速度、すなわちC/2以下で少なくとも約97%の放電深度を表す。
【0087】
本明細書で述べる性能を改良された電池は、5回目のサイクルから1000回目のサイクルまで4.2Vから2.5VへC/2の放電で、1000サイクル後にサイクル5に対して少なくとも約70%の容量、さらなる実施形態では1100サイクル後に少なくとも約70%の容量、追加の実施形態では1200サイクル後に少なくとも約70%容量、他の実施形態では1000サイクル後に約80%〜約85%の容量となる室温サイクルを示す。45℃でのサイクルに関して、電池は、5回目のサイクルから1000回目のサイクルまで4.2Vから2.5VへC/2の放電で、1000サイクル後にサイクル5に対して少なくとも約70%の容量、さらなる実施形態では1100サイクル後に少なくとも約70%の容量、さらなる実施形態では約72%〜約80%の容量になるサイクルを示す。一般にパルス操作に関して、室温での電池のインピーダンスは、20%以上の電池充電状態で、30秒にわたって1Cパルスで充電または放電されるときに45m−ohm未満にすることができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のサイクル性能が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【実施例】
【0088】
(実施例1〜3−正極材料の合成および予備試験)
実施例1〜3で試験したコインセル電池はすべて、ここで概説する手順に従って製造したコインセル電池を使用して実施した。リチウム金属酸化物(LMO)粉末を、アセチレンブラック(Timcal, Ltd, Switzerland)からのSuper P(商標))および黒鉛(Timcal, LtdからのKS 6(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を生成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデンPVDF(株式会社クレハ(日本)からのKF1300(商標))をN−メチル−ピロリドンNMP(Honeywell − Riedel−de−Haen)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。ドクターブレードコーティングプロセスを使用して、アルミニウム箔集電体上にスラリを塗布して湿潤薄膜を形成した。
【0089】
NMPを除去するために、湿潤薄膜を設けられたアルミニウム箔集電体を真空オーブン内で110℃で約2時間にわたって乾燥させることによって、正極構造を形成した。正極と箔集電体を薄板圧延機のローラの間で圧延して、所望の厚さを有する正極構造を得た。上記のプロセスを使用して生成された、LMO:アセチレンブラック:黒鉛:PVDFの比が80:5:5:10である正極組成物の一例を以下に示す。
【0090】
コインセル電池を作製するために、アルゴンを充填したグローブボックス内に正極を配置した。厚さ125ミクロンのリチウム箔(FMC箔)を負極として使用した。電解質は、(Ferro Corp., Ohio USAからの)体積比1:1:1でのエチレン炭酸塩、ジエチル炭酸塩、およびジメチル炭酸塩の混合物中にLiPF塩を溶解させることによって生成したLiPFの1M溶液とした。電解質で浸漬された3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性隔離板(Celgard, LLC, NC, USAからの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。次いで、圧着プロセスを使用して、電極を2032コインセルハードウェア(宝泉株式会社、日本)内部に封止し、コインセル電池を作製した。得られたコインセル電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充放電曲線およびサイクル安定性を得た。
【0091】
(実施例1−Li[Li0.07Ni0.31Co0.31Mn0.31]Oを生成するための金属酢酸塩とLiOHの反応)
この実施例は、水酸化物共沈プロセスを使用した活性正極材料の生成を実証する。
【0092】
化学量論量の酢酸ニッケル(Ni(CHCOO)・xHO)、酢酸コバルト(Co(CHCOO)・xHO)、および酢酸マンガン(Mn(CHCOO)・xHO)を蒸留水中に溶解して、金属酢酸塩溶液を生成した。それとは別に、LiOHの水溶液を調製した。2つの溶液を反応容器に徐々に加えて、金属水酸化物沈殿物を生成した。反応混合物を撹拌し、反応混合物の温度を室温〜80℃の間で保った。反応混合物のpHは約10〜12とした。一般に、水性金属硫酸塩溶液は濃度1M〜3Mであり、水性LiOH溶液は濃度1M〜4Mであった。金属水酸化物沈殿物を濾過し、蒸留水で数回洗浄して、110℃で約16時間乾燥させて、金属水酸化物粉末を生成した。水酸化リチウムを加えてpHを調節した。洗浄した沈殿物は有意な量のリチウムを含まないと予想される。
【0093】
適量のLiOH粉末を、乾燥させた金属水酸化物粉末と混ぜ合わせ、ジャーミル(Jar Mill)、二重遊星形混合機、または乾燥粉末混合機によって完全に混合して、均質な粉末混合物を生成した。均質化した粉末を空気中で400℃で8時間焼成し、その後、さらなる混合ステップを行って、生成された粉末をさらに均質化した。均質化した粉末を、再び空気中で900℃で12時間焼成して、組成式Li[Li0.07Ni0.31Co0.31Mn0.31]Oでほぼ表されるリチウム複合酸化物粉末(LMO)を生成した。
【0094】
LMO粉末構造をX線回折によって測定した。粉末のX線回折パターンを図2に示す。このLMO粉末を使用して、上に概説した手順に従ってコインセルを作製した。そのコインセルを試験した。比容量に対する電圧のプロットを図3に示す。カソード材料は、放電比容量が176mAh/gであった。
【0095】
(実施例2−Li[Li0.07Ni0.31Co0.31Mn0.31]Oを生成するための金属硫酸塩とNaOH/NHOHの反応)
この実施例は、金属硫酸塩開始材料と、水酸化ナトリウムと水酸化アンモニウムの混合物として提供される塩基とに基づく共沈プロセスを実証する。
【0096】
乾燥させた沈殿物の生成によるこの実施例での処理は、酸素を含まない雰囲気中で行った。化学量論量の金属硫酸塩(NiSO・xHO、CoSO・xHO、およびMnSO・xHO)を蒸留水中に溶解し、金属硫酸塩水溶液を生成した。それとは別に、NaOHとNHOHの混合物を含む水溶液を調製した。2つの溶液を反応容器に徐々に加えて、金属水酸化物沈殿物を生成した。沈殿ステップ中、反応混合物を撹拌し、反応混合物の温度を室温〜80℃の間で保った。反応混合物のpHは約10〜12とした。水性金属硫酸塩溶液は濃度1M〜3Mであり、水性NaOH/NHOH溶液は、NaOH濃度が1M〜3M、NHOH濃度が0.2〜2Mであった。金属水酸化物沈殿物を濾過し、蒸留水で数回洗浄して、110℃で約16時間乾燥させて、金属水酸化物粉末を生成した。
【0097】
適切な化学量論量のLiOH粉末を、乾燥させた金属水酸化物粉末と混ぜ合わせ、ジャーミル、二重遊星形混合機、または乾燥粉末混合機によって完全に混合して、均質な粉末混合物を生成した。均質化した粉末を空気中で500℃で10時間焼成し、その後、さらなる混合ステップを行って、生成された粉末をさらに均質化した。均質化した粉末を、再び空気中で900℃で12時間焼成して、リチウム複合酸化物粉末(LMO)を生成した。生成物の組成は、化学量論がLi[Li0.07Ni0.31Co0.31Mn0.31]Oであった。
【0098】
LMO粉末構造をX線回折によって測定した。粉末のX線回折パターンを図4に示す。このLMO粉末を使用して、上に概説した手順に従ってコインセルを作製した。作製したコインセルを試験した。サイクル寿命に対する比容量のプロットを図5に示す。また、図5は、以下の実施例で説明するようにAlFでコーティングした活性粉末に関するデータも含む。最初の3回のサイクルは、放電速度0.1Cで測定した。その後のサイクルは、放電速度0.33Cで測定した。
【0099】
(実施例3−AlFでコーティングした金属酸化物材料の生成)
この実施例は、フッ化アルミニウムでコーティングした粒子の形成を実証し、対応するコーティングなしの材料と比較したこれらの材料の比容量の評価を示す。
【0100】
上述した実施例で調製した金属酸化物粒子を、溶液法を使用して、フッ化アルミニウム(AlF)の薄層でコーティングすることができる。選択した量のフッ化アルミニウムコーティングに対して、適量の硝酸アルミニウムの飽和溶液を水性溶媒中で調製した。次いで、金属酸化物粒子を硝酸アルミニウム溶液中に添加して混合物を生成した。混合物を、均質になるように所定の時間にわたって良く混合した。混合の長さは、混合物の体積に応じて決まる。均質化後、均質化した混合物に化学量論量のフッ化アンモニウムを添加して、各粒子の表面上にフッ化アルミニウム沈殿物を生成した。沈殿の完了後、混合物を80℃で5時間撹拌した。次いで、混合物を濾過し、得られた固体を繰り返し洗浄して、反応していない材料を除去した。この固体を窒素雰囲気中で400℃で5時間焼成して、AlFでコーティングした金属酸化物材料を生成した。
【0101】
具体的には、実施例2で合成したリチウム金属酸化物(LMO)粒子を、この実施例で説明したプロセスを使用して、3モル%のフッ化アルミニウムでコーティングした。次いで、フッ化アルミニウムでコーティングしたLMOを使用して、上に概説した手順に従ってコインセルを作製した。コインセルのサイクル寿命に対する比容量を図5に示す。また、図5は、実施例2のコーティングなしのLMOから作製されたコインセルからのデータも含む。最初の3回のサイクルは、放電速度0.1Cで測定した。その後のサイクルは、放電速度0.33Cで測定した。コーティングした試料は、特にサイクル時にかなり大きな放電容量を有していた。
【0102】
(実施例4−市販の型式での円筒形セル)
この実施例は、本明細書で述べるように、安定化と共に、層状リチウムリッチ金属酸化物組成物の非常に優れたサイクル性能を実証する。
【0103】
組成式Li[Li0.07Ni0.31Co0.31Mn0.31]Oによってほぼ表される粉末組成物を、炭酸塩共沈プロセスを使用して生成した。リチウム金属酸化物(LMO)粉末を、アセチレンブラック(Timcal, Ltd, Switzerland)からのSuper P(商標))および黒鉛(Timcal, LtdからのKS 6(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を生成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデン(PVDF)をN−メチル−ピロリドン(NMP)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。市販の塗布器を使用して、アルミニウム箔集電体上にスラリを塗布して湿潤薄膜を形成した。
【0104】
NMPを除去するために、湿潤薄膜電極を設けられたアルミニウム箔集電体を乾燥させることによって、正極構造を形成した。正極と箔集電体を薄板圧延機のローラの間で圧延して、箔集電体に関連して所望の厚さを有する正極を得た。本明細書で述べる結果に対応する、上記のプロセスを使用して生成された正極組成物の一例は、LMO:アセチレンブラック:黒鉛:PVDFの比が95:2:1:2であった。
【0105】
円筒形電池を製造するために、アルゴンを充填したグローブボックス内に正極構造を配置した。黒鉛とバインダのブレンドを負極として使用し、負極組成物を銅箔集電体上にコーティングした。ポリマーバインダは、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロースのブレンドとした。負極組成物は、黒鉛:SBR:CMCの重量比を97.5:1.2:1.2とした。電解質は、(Ferro Corp., Ohio USAからの)体積比1:1:1でのエチレン炭酸塩、ジエチル炭酸塩、およびジメチル炭酸塩の混合物中にLiPF塩を溶解させることによって生成したLiPFの1M溶液とした。電解質にさらに安定化添加剤を含めた。電解質で浸漬された3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性隔離板(Celgard, LLC, NC, USAからの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。正極−隔離板−負極を備える電極積層を圧延し、26700サイズ(26mm×70mm)の円筒形セル用にサイズ設定した缶内に配置した。次いで、電極を封止して、完全な26700電池を形成した。得られた円筒形電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充放電曲線およびサイクル安定性を得た。
【0106】
第1の組の測定では、電池の放電特性を試験した。特に、円筒形電池は、2.5V〜4.2Vの電圧範囲内で、それぞれ放電速度1/3C、1C、2C、および3Cでサイクルした。5回目の放電サイクルに関する放電容量に対する放電電圧のプロットを図6に示す。セルは、1/3Cの比較的低い放電速度でいくぶん大きい容量を示し、1C、2C、および3Cの放電速度では放電容量はほぼ等しかった。
【0107】
また、セルの性能を異なる温度で試験した。図7を参照すると、1組の電池をそれぞれ−20℃、0℃、22℃、および45℃で放電した。5回目の放電サイクルに関する容量の関数として電圧をプロットする。より低温では容量が減少したが、電池の容量は低温でも適当なものであった。−20℃の温度で、電池は、室温での容量の76%を維持した。
【0108】
室温での円筒形電池のサイクル安定性を試験するために、電池を、0.5Cの速度で充電し、2.5V〜4.2Vの電圧範囲内でそれぞれ(a)0.33C、(b)0.5C、および(c)1Cで放電した。この電圧範囲は、放電深度に関して100%に近い容量を表す。3つの放電速度に関して、サイクル数に対する放電容量のプロットを図8に示す。また、各速度を3回ずつ試験した。電池は、室温で0.33C、0.5C、および1Cの放電速度で、約900サイクルまで良好な放電容量を維持した。さらに、電池を、2.5V〜4.2Vの電圧範囲内で0.5C充電/放電速度で45℃で試験した。サイクル数に対する放電容量のプロットを図9に示す。電池は、45℃で約1100サイクルまで良好な放電容量を維持した。
【0109】
一般に、1組の試験でのサイクル性能は、4.2Vの充電電圧での上限に基づいていた。すなわち、セルの初期充電を4.2Vまで行い、次いでセルをこの充電電圧上限までサイクルする。しかし、材料は、より高い電圧に充電することができる能力を有する。したがって、セルを4.2Vに充電したとき、活性材料は、4.2Vの電圧に最初に達したときでも最大限の容量ではない。図10を参照すると、電池を23℃で充電速度C/2で充電したときの充電時間に対して、充電された容量のパーセンテージおよび充電電圧が記録されている。容量のパーセントは、4.2Vの電圧に達したときに約90%であった。
【0110】
これらのセルに関して、セルの寿命の終わり近くでのセルの放電中の容量も検査した。始めにセルを4.2Vまで充電した後、セルを20%の充電状態まで放電した。すなわち電池を80%消耗した。次いで、電池を23℃で30秒間、2.1Vの一定の電位で放電した。時間の関数としての放電電流のプロットを図11に示す。
【0111】
また、最初に4.2Vに充電し、次いで20%の充電状態まで放電した電池に関して、2.1Vよりも大きい電圧を維持するセルに基づいて、設定時間フレームで利用可能な最大電流を評価した。10秒の放電パルスでは、2.1Vよりも上に維持しながら、放電中に供給電流は49Aであった。30秒の放電パルスでは、2.1Vよりも高い電圧に維持しながら、電池の供給放電電流は35Aであった。電流供給能力測定から電池の比出力を計算した。具体的には、供給電流に、放電パルス中の平均電圧を乗算する。例えば、30秒のパルスに関して、比出力を以下のように計算した。(35A×2.2V)/94.5g=800W/kg。10秒のパルスに関して、比出力は1100W/kgであった。さらに、瞬時の放電では、比出力は1250W/kgであった。
【0112】
さらなるパルス試験を行うために、電池を4.2Vに充電し、次いで1、5、10、18、および30秒のパルスで23℃で1Cパルス試験にかけた。このパルス試験では、4.2Vへの初期充電に対応する90%の初期充電状態から始めて、DC抵抗を充電状態の関数として評価した。電池の充電状態に対するDC放電/充電抵抗のプロットを、5つの異なるパルス時間に関してそれぞれ図12(放電)および図13(充電)に示す。詳細な1Cパルス試験データを以下の表2に概説する。
【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
さらに、電池を、釘刺し試験、圧壊試験、およびホットボックス試験を含めた誤用試験にかけた。ホットボックス試験では、電池を150℃のホットボックス内に3時間保った。これらの誤用試験から、発火または爆発は観察されなかった。誤用された電池の写真を図14に示す。
【0116】
電池の全体的な性能を表3にまとめる。
【0117】
【表4】

【0118】
United States Advanced Battery Consortium(USABC)は、電気自動車に使用される電池に関する1組の目標値を定めている。これを表4での実施例3の電池の性能と比較する。
【0119】
【表5】

【0120】
上述した実施形態は、限定としてではなく例示として意図したものである。さらなる実施形態は特許請求の範囲に記載する。さらに、特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく形態および詳細に変更を加えることができることを当業者は理解されよう。上記文献の参照による援用は、本明細書における明示的な開示に反する主題は組み込まないように限定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、前記負極と前記正極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む非水性電解質とを備える電池であって、前記負極が黒鉛を備え、前記正極がリチウムインターカレーション組成物を備え、前記電池が、サイクル5に関して、4.2Vから2.5Vへの放電で放電速度C/3で、室温での放電比エネルギーが少なくとも約175Wh/kgであり、かつ5回目のサイクルから1000回目のサイクルまで4.2Vから2.5VへC/2の放電で、1000サイクル後にサイクル5に対して少なくとも約70%の容量となるサイクル寿命を有する電池。
【請求項2】
前記正極に関する前記リチウムインターカレーション組成物が、リチウムリッチ層状リチウム金属酸化物を含む請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記リチウムインターカレーション組成物が、組成式Li1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.3331−xによってほぼ表され、ここでxは約0.05〜0.3の間である請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記リチウムインターカレーション組成物が、組成式Li1.2Ni0.15Mn0.55Co0.10によってほぼ表される請求項1に記載の電池。
【請求項5】
前記正極の前記リチウムインターカレーション組成物が、金属フッ化物を含むコーティングを有する請求項1に記載の電池。
【請求項6】
前記電解質が安定化添加剤を含む請求項1に記載の電池。
【請求項7】
さらに円筒形金属ケースを備える請求項1に記載の電池。
【請求項8】
箔ケースおよびプリズム形状を有する請求項1に記載の電池。
【請求項9】
サイクル5に関して、4.2Vから2.5Vへの放電で放電速度C/3で、室温での放電比エネルギーが少なくとも約195Wh/kgである請求項8に記載の電池。
【請求項10】
5回目のサイクルから1100回目のサイクルまで4.2Vから2.5VへC/2の放電で、1100サイクル後にサイクル5に対して少なくとも約70%の容量となるサイクル寿命を有する請求項1に記載の電池。
【請求項11】
4.2Vから2.5Vへの放電で、サイクル5に関して、C/3の放電速度で少なくとも約425Wh/Lの室温エネルギー密度を有する請求項1に記載の電池。
【請求項12】
負極と、正極と、前記負極と前記正極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む非水性電解質とを備える電池であって、前記負極が黒鉛を備え、前記正極がリチウムインターカレーション組成物を備え、前記リチウムインターカレーション組成物が、リチウムリッチ層状リチウム金属酸化物を含み、前記電池が、サイクル5に関して、4.2Vから2.5Vへの放電で放電速度C/3で、室温での放電比エネルギーが少なくとも約175Wh/kgであり、かつ5回目のサイクルから600回目のサイクルまで4.2Vから2.5VへC/2の放電で、600サイクル後にサイクル5に対して少なくとも約70%の容量となるサイクル寿命を有する電池。
【請求項13】
前記リチウムリッチ層状金属酸化物組成物が、組成式Li1+xNiαMnβCoγによって表され、ここでxは約0.05〜約0.25の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0.05〜約0.4の範囲内である請求項12に記載の電池。
【請求項14】
前記リチウムリッチ層状金属酸化物組成物が、組成式Li1+x[Mn0.333Ni0.333Co0.3331−xによってほぼ表され、ここでxは約0.05〜0.3の間である請求項12に記載の電池。
【請求項15】
前記正極の前記リチウムリッチ層状金属酸化物組成物が、金属フッ化物を含むコーティングを有し、前記電解質が安定化添加剤を含む請求項12に記載の電池。
【請求項16】
5回目のサイクルから850回目のサイクルまで4.2Vから2.5VへC/2の放電で、850サイクル後にサイクル5に対して少なくとも約70%の容量となるサイクル寿命を有する請求項12に記載の電池。
【請求項17】
電動機と、前記電動機によって駆動される車軸に取り付けられた車輪を備えるドライブトレインと、座席を備える車室と、制御機構とを備える電気自動車であって、前記車室が、前記ドライブトレインによって少なくとも一部支持され、電力パックが複数のリチウムイオン電池を備え、前記電力パックが、少なくとも約40kWhの電力と、約128リットル以下の体積と、5回目のサイクルから1000回目のサイクルまで4.2Vから2.5VへC/2の放電で、1000サイクル後にサイクル5に対して少なくとも約70%の容量となる室温サイクル寿命とを提供する電気自動車。
【請求項18】
前記複数のリチウムイオン電池が、円筒形の26700セルを備える請求項17に記載の電気自動車。
【請求項19】
前記複数のリチウムイオン電池が、ポリマーポーチケースを有するプリズム形状の電池を備える請求項17に記載の電気自動車。
【請求項20】
前記複数のリチウムイオン電池が、組成式Li1+xNiαMnβCoγによって表される活性組成物を含む正極を備え、ここでxは約0.05〜約0.25の範囲内であり、αは約0.1〜約0.4の範囲内であり、βは約0.3〜約0.65の範囲内であり、γは約0.05〜約0.4の範囲内である請求項17に記載の電気自動車。
【請求項21】
前記正極の活性組成物が、金属フッ化物を含むコーティングを有し、前記複数のリチウムイオン電池が電解質を備え、前記電解質が安定化添加剤を含む請求項20に記載の電気自動車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公表番号】特表2013−500554(P2013−500554A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521777(P2012−521777)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/042868
【国際公開番号】WO2011/011582
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(510275367)エンビア・システムズ・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】ENVIA SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】