説明

長期保存安定性チーズ製品

【課題】常温において、保存安定性に優れ、かつ、組織の柔軟性が長期間維持されてなる、チーズ製品の提供。
【解決手段】常温で保存安定性及び組織の柔軟性が維持されてなる、チーズ製品であって、ナチュラルチーズと、トレハロースと、結晶セルロース及び/又は加工澱粉とを含んでなる、チーズ製品。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、常温において、保存安定性に優れ、かつ、組織の柔軟性が長期間維持されてなる、チーズ製品に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズは、古来より、家畜の乳から水分を除去し、乳成分を濃縮させ、保存性を高めた食品である。チーズには加工方法の違い等により、様々なものに分類されるが、加熱処理されていないナチュラルチーズと、 ナチュラルチーズを加熱したプロセスチーズに大別される。プロセスチーズはそれ自体、加熱、溶融された加工チーズであり、保存安定性に優れるものである。 しかしながら、プロセスチーズは、加熱溶融加工を経て得られる製品であることにも起因するが、経時的にその組織が硬くなるという特性を有する。この結果、常温で保存すると、加工時よりも組織が硬くなり、好ましい食感が維持できないことが見られる。特に、現代の需用者の嗜好は、硬いものより柔らかいものを好む傾向にあり、経時的に硬化したチーズは疎遠される。
【0003】
特許第3243453号(特許文献1)においては、原料チーズに、澱粉を添加することにより、常温において長期保存安定性に優れ、餅様の食感を維持し、油ちょう等の加熱安定性に優れたチーズが得られることが提案されている。また、特許第3308914号「特開2000−106821」(特許文献2)では、低温においても良好な展延性及び可塑性を有し、且つ、耐熱保形性を有するので、餃子、焼売、春巻きの皮の様に他の食材を包み込んで加熱調理可能で、さらにフードミキサー等を用いて畜産又は水産練り製品の原料、パン生地、麺類の生地に容易に練り込み可能なチ−ズが提案されている。
【0004】
しかしながら、今尚、常温において、保存安定性に優れ、かつ、組織の柔軟性が長期間維持されてなる、チーズ製品の提供が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3243453号
【特許文献2】特許第3308914号
【発明の概要】
【0006】
本発明者等は、本発明時において、ナチュラルチーズに、トレハロースと、結晶セルロース及び/又は加工澱粉とを配合することにより、常温において、保存安定性に優れ、かつ、組織の柔軟性が長期間維持されてなる、チーズ製品を提供することができる、との知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
従って、本発明は、トレハロースと、結晶セルロース及び/又は加工澱粉を配合することにより、常温において長期保存することができると共に、チーズ製品の食感と風味を維持し、かつ、柔らかい食感を有した、チーズ製品及びその製造方法の提供を目的とするものである。
【0007】
よって、本発明によるチーズ製品は、常温で保存安定性及び組織の柔軟性が維持されてなるものであって、
ナチュラルチーズと、トレハロースと、結晶セルロース及び/又は加工澱粉とを含んでなるものである。
また、本発明による好ましいチーズ製品は、常温で保存安定性及び組織の柔軟性が維持されてなるものであって、
ナチュラルチーズと、結晶セルロースと、及び加工澱粉とを含んでなるものである。
【発明の具体的説明】
【0008】
1.定義
本発明におけるチーズ製品は、プロセスチーズ、チーズフード、乳又は乳製品を主要原料とする食品を意味する。
1)プロセスチーズ
「プロセスチーズ」とは、公正競争規約によれば、乳等省令第2条第18項に規定するプロセスチーズであって、乳等省令別表二(三)(4)の成分規格に合致するものをいう。なお、当該プロセスチーズには、次の各号に掲げものを添加することができるものとする。
(1) 食品衛生法で認められている添加物
(2) 脂肪量の調整のためのクリーム、バター及びバターオイル
(3) 香り、味、栄養成分、機能性及び物性を付与する目的の食品(添加量は製品の固形分重量の1/6以内とする。ただし、前号以外の乳等の添加量は製品中の乳糖含量が5%を超えない範囲とする。)
【0009】
2)ナチュラルチーズ
「ナチュラルチーズ」とは、公正競争規約によれば、食品衛生法(昭和22年法律第233号)の規定に基づく乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年厚生省令第52号。以下「乳等省令」という。)第2条第17項に規定するナチュラルチーズをいう。なお、当該ナチュラルチーズには、香り及び味を付与する目的で、乳に由来しない風味物質を添加することができるものとする。
【0010】
3)チーズフード
「チーズフード」とは、公正競争規約によれば、乳等省令第7条第2項第4号にいう乳又は乳製品を主要原料とする食品であって、一種以上のナチュラルチーズ又はプロセスチーズを粉砕し、混合し、加熱溶融し、乳化してつくられるもので、製品中のチーズ分の重量が51%以上のものをいう。なお、当該チーズフードには、次の各号に掲げるものを添加することができるものとする。
(1) 食品衛生法で認められている添加物
(2) 香り、味、栄養成分、機能性及び物性を付与する目的の食品(添加量は製品の固形分重量の1/6以内とする。)
(3) 乳に由来しない脂肪、蛋白質又は炭水化物(添加量は製品重量の10%以内とする。)
【0011】
4)乳又は乳製品を主要原料とする食品
「乳又は乳製品を主要原料とする食品」とは、乳等省令第7条第2項第4号に
記載されているものであって、「チーズフード」の定義に当てはまらないものをいう。
【0012】
5)水分活性
「水分活性(Water Activity)」とは、微生物の生育や酵素活性に必要な水分を表し、微生物の生育や酵素活性と水との関係を表すものである。微生物の繁殖には水が不可欠であるが、微生物は結合水を利用することができず、微生物の繁殖に利用できる水は自由水だけとなる。自由水の量が低ければ微生物は増殖することはできなくなり、自由水が多くなれば微生物は増殖しやすくなる。1950年代、W.J.Scottによって、この自由水の量を水分活性(Aw)という単位で表すことが、食品学分野に導入された。水分活性(Aw)は、食品を入れた密閉容器内の水蒸気圧(P)とその温度における純水の蒸気圧(P)の比〔下記式(I)〕で定義される。
Aw(水分活性)=P/P(I)
【0013】
2.チーズ製品
本発明によるチーズ製品は、ナチュラルチーズに、トレハロースと、結晶セルロース及び/又は加工澱粉とを含んでなる。特に、本発明にあっては、結晶セルロースと、加工澱粉の混合物が好ましくは用いられる。
【0014】
ナチュラルチーズ
原料としてのナチュラルチーズ(非熟成又は熟成のいずれであってもよい)の種類は特に限定されず、また、一種又は二種以上のものを使用することができる。ナチュラルチーズの具体例としては、クリーム、モッツァレラ、フェタ、カッテージ、フロマージュブラン、リコッタ、マスカルポーネ等のフレッシュタイプチーズ;カマンベール、ブリー等の白かびタイプチーズ;ブルー、ロックフォール、ブルードブレス、ゴルゴンゾーラ、スチルトン等の青かびタイプチーズ;ポンレベック、リヴァロ、リンバーガー、タレッジオ等のウォッシュタイプチーズ;サントモール、ピラミッド、セル・シュール・シェール等のシェーブルタイプチーズ;ゴーダ、アムステルダム、エダムソフト、ミモレットマイルド、サムソー、マリボー、クリームハバティ、ポールサリュー、ベルパエーゼ、ステッペン、モントレージャック、ペッパージャック等のセミハードタイプチーズ;チェダー、エダムハード、クローブ、スプリンツ、エメンタール、グリュエール、ラクレット、アッペンツェル、パルミジャーノ・レッジャーノ、グラナ・パダーノ、ペコリーノ・ロマーノ、プロポローネ、コンテ等のハードタイプチーズ等が挙げられる。
【0015】
ナチュラルチーズの添加量は、チーズ製品の全質量に対して、20質量%以上97質量%以下、好ましくは下限値が25質量%以上であり上限値が95質量%以下であり、より好ましくは下限値が30質量%以上であり上限値が93質 量%以下である。
【0016】
トレハロース
トレハロースは、2分子のD−グルコースが1,1-グリコシド結合してできた二糖類である。トレハロースは、市販品を用いることができ、例えば、商品名トレハ(登録商標:林原商事株式会社)として入手可能である。
【0017】
トレハロースの添加量は、チーズ製品の全質量に対して、0.1質量%以上15質量%以下、好ましくは下限値が0.2質量%以上であり上限値が12質量%以下であり、より好ましくは下限値が0.2質量%以上であり上限値が8質量%以下である。
【0018】
結晶セルロース
結晶セルロースは、繊維性植物の非結晶部分を除去して純粋な結晶部分だけを取り出して精製した物質である。白色の粉末状で、水不溶性であり、無味無臭で、化学的に不活性である。結晶セルロースは、市販品を使用することができ、例えば、セオラス(登録商標:旭化成ケミカルズ社)等が挙げられる。
【0019】
結晶セルロースの添加量は、チーズ製品の全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは下限値が0.2質量%以上であり上限値が8質量%以下であり、より好ましくは下限値が0.2質量%以上であり上限値が5質量%以下である。
【0020】
加工澱粉
加工澱粉は、原料澱粉を、官能基を付与する誘導体、分解物、物理的処理した物が挙げられる。原料澱粉としては、馬鈴薯澱粉、とうもろこし澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、緑豆澱粉等が挙げられる。誘導体としたものとして、例えば、ヒドロキシプロピル澱粉、カルボキシメチル澱粉、カチオン澱粉、酢酸澱粉等のエーテル化澱粉;オクテニルコハク酸澱粉、リン酸澱粉等のエステル化澱粉;ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉等のエーテル化とエステル化の両処理を行った澱粉;グリセロール澱粉等の架橋澱粉;グラフト化澱粉;白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティシュガム等の焙焼澱粉;マルトデキストリン等の酵素変性澱粉、可溶性澱粉等の酸化・酸処理澱粉;アセチル化酸化澱粉等のアセチル化と酸化の両処理を行った澱粉;未変性アルファ化澱粉、変性アルファ化澱粉等のアルファ化澱粉;粒状澱粉;ヒドロキシアルキルグアーガム、カチオングアーガム、カルボキシメチルグアーガム等のエーテル化澱粉等が挙げられる。
【0021】
加工澱粉の添加量は、チーズ製品の全質量に対して、0.3質量%以上40質量%以下、好ましくは下限値が0.5質量%以上であり上限値が30質量%以下であり、より好ましくは下限値が0.8質量%以上であり上限値が25質量%以下である。
【0022】
その他の剤
本発明の好ましい態様によれば、溶融塩を添加してなるものであってよい。
溶融塩としては、通常のチーズの製造に用いられている溶融塩であれば、いずれのものも用いることができ、クエン酸塩、モノリン酸塩、ジリン酸塩又はポリリン酸塩等を例示することができる。溶融塩の添加量は、原料チーズの全質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下、好ましくは下限値が0.5質量%以上であり上限値が4質量%以下であり、より好ましくは下限値が1.0質量%以上であり上限値が3.0質量%以下である。
【0023】
食品添加剤
食品添加剤は、食品衛生法で定めるものを添加することが可能である。食品添加剤は、油脂、食品添加物、および/または食品素材そのものが挙げられる。これにより、消費者の嗜好に合致させたチーズ製品を提供することができる。油脂は植物油脂(好ましくはサラダオイル)、動物油脂(好ましくはバター、バターオイル)が挙げられる。食品添加物、食品素材の具体例としては、一般調味料(糖蜜、塩、砂糖、醤油、グルタミン酸、イノシン酸、コハク酸、アミノ酸、アスパルテーム、HVP、魚介エキス等)、香料、着色料、安定剤、乳化剤、酸味料(梅酢、よね酢、米酢、ポン酢、スダチ酢等)、日持ち向上剤(酢酸Na、グリシン等)、保存料(ソルビン酸K、ポリリジン、しらこたんぱく抽出物、ペクチン分解物等)、酵素(アミラーゼ、カタラーゼ、プロテアーゼ等)、食品素材(肉製品、魚介製品、ニンニク、唐辛子、しょうが、ネギ等、アーモンド等のナッツ類、黒糖、ココア、チョコレート、天然果実等)およびこれらの混合物の群から選択されるものが挙げられる。
【0024】
用途
本発明によるチーズ製品はそのまま食品として利用されてよく、又は、他の食品の原料として利用されてもよい。
【0025】
製造方法
ナチュラルチーズと、トレハロースと、結晶セルロース及び/又は加工澱粉とを用意し、また、溶融塩、食品添加剤等をも用意する。
これら原料を混合し、80℃乃至90℃程度の温度で加熱し、チーズを十分溶解する。その後、加工容器、加工チューブ等に充填し、そのままあるいは乾燥を伴って、所望のチーズ製品として得ることができる。必要に応じて、スモーキング工程を経て、スモークすることもできる。
【実施例】
【0026】
本発明の実施態様を以下の例に従って説明するが、本発明の範囲はこの例に限定して解釈されるものではない。
【0027】
実施例1
チョッパーで粉砕したオランダ産ゴーダチーズ1.0kgと国産チェダーチーズ1.0kgを乳化釜に投入し、これに重曹12g、溶融塩(JOHA(登録商標) Cnew SE:BKギューリニジャパン社)40g、水170gを加え、さらにトレハロース(林原商事社)40g(原料チーズに対して2%)、結晶セルロース(セオラスRC-N81:旭化成ケミカルズ社)20g(原料チーズに対して1%)、加工澱粉(白鱗(登録商標)L:グリコ栄養食品社)100g(原料チーズに対して5%)を添加した後、直蒸気および間接加熱により85℃まで加温し、その後10分間保持した。このチーズをケーシング(Visko Teepak社)に充填し、冷蔵庫内で冷却および乾燥した。この製品の水分は36%、水分活性は0.930であった。これを25、30、35および40℃で保存し、官能評価および物性値で経時変化を測定した。
【0028】
実施例2
実施例1において、トレハロース、結晶セルロース、加工澱粉の添加をトレハロース、結晶セルロースの添加にした以外は同一条件で実験を行った。この製品の水分は36.1%、水分活性は0.931であった。
【0029】
実施例3
実施例1において、トレハロース、結晶セルロース、加工澱粉の添加をトレハロース、加工澱粉の添加にした以外は同一条件で実験を行った。この製品の水分は36%、水分活性は0.928であった。
【0030】
実施例4
実施例1において、トレハロース、結晶セルロース、加工澱粉の添加を結晶セルロース、加工澱粉の添加にした以外は同一条件で実験を行った。この製品の水分は35.5%、水分活性は0.926であった。
【0031】
比較例
実施例1において、トレハロース、結晶セルロース、加工澱粉の添加をトレハロースの添加にした以外は同一条件で実験を行った。この製品の水分は35.8%、水分活性は0.928であった。
【0032】
評価試験
実施例と比較例により調整した複数のサンプルを用意し、下記の評価試験を行った。
【0033】
1.官能(嗜好)性評価試験
20歳代から50歳代までのパネラー50名(男35名、女子15名)がサンプルを試食し、下記の手法で評価した。
五段階評価の平均値
下記の各評価項目の評価値を集計しその平均値をとった。下記の評価値の評価5の人数を評価項目毎に表1に記載した。また、5点評価平均値の結果を表2に記載した。サンプルは40℃で10日間経過(加速度試験)したものである。
【0034】
評価項目
1.総合評価
2.味評価
3.食感評価
4.外観評価
【0035】
評価値
評価5:非常に良好と感じた
評価4:良好と感じた
評価3:普通と感じた(良くも悪くもない)
評価2:悪いと感じた
評価1:非常に悪いと感じた
【表1】

【表2】

【0036】
2.心証評価試験
試食後、パネラーの意見を聞き、集計したものは以下の表3乃至表7に記載した通りであった。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0037】
3.専門パネラーによる評価
熟練した3人の評価者(現在迄、プロセスチーズの開発に、約20年、約10年、約7年間、従事した者を選出した)がサンプルをそれぞれ4gずつ食し、食感の各項目(硬さ、もろさ、ざらつき)について5段階の評価を行った。その結果は、下記表8に記載した通りであった。サンプルは各温度で20日間経過(加速度試験)したもので評価した。
評価値
評価5:非常に良好と感じた
評価4:良好と感じた
評価3:普通と感じた(良くも悪くもない)
評価2:悪いと感じた
評価1:非常に悪いと感じた
物性の評価(歪み変化測定
チーズを3×3×3mmの立方体に切り出し、レオナーII(山電製)を用い、25℃においてプランジャー:厚さ1mmのカッター刃裏を用いて、測定速度:1.0mm/秒で破断変形(mm)の値を測定した。サンプルは各温度で20日間経過(加速度試験)したもので評価した。加速度試験前のサンプルのデータを『1』とし、所定の経過日数のデータの変化率を算出した。『1』を下回る値は初発よりも脆くなっていることを示す。その結果は、下記表8に記載した通りであった。
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で保存安定性及び組織の柔軟性が維持されてなる、チーズ製品であって、
ナチュラルチーズと、トレハロースと、結晶セルロース及び/又は加工澱粉とを含んでなる、チーズ製品。
【請求項2】
常温で保存安定性及び組織の柔軟性が維持されてなる、チーズ製品であって、
ナチュラルチーズと、結晶セルロースと、及び加工澱粉とを含んでなる、チーズ製品。

【公開番号】特開2011−103847(P2011−103847A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264913(P2009−264913)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(592135063)株式会社なとり (7)
【Fターム(参考)】