説明

長短複合糸およびそれを用いてなる布帛

【課題】優れた吸水性・抗ピル性を有し軽量性に優れた中空型長短複合糸を提供する。
【解決手段】芯部に中空型フィラメントを有し鞘部に合成繊維・半合成繊維および/または天然繊維の短繊維を有するとともに、実質的に無撚の長短複合糸であり、芯部の中空型フィラメントが紡績糸全体の15〜60重量%を占め、鞘部の短繊維が紡績糸全体の40〜85重量%を占め、次式による長短複合糸の中空保持率80%以上であることを特徴とする長短複合糸。(紡績前の中空フィラメントの中空率−紡績後の中空フィラメントの中空率)/紡績前の中空フィラメントの中空率×100=中空保持率(%)。この長短複合糸を用いて、ハリコシのすぐれた風合いを有する布帛を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯部に中空型フィラメントを有し、鞘部に短繊維を有するとともに、実質的に無撚であることを特徴とする長短複合糸およびそれを用いてなる布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィラメントと短繊維からなる長短複合糸に関しては数々の研究・開発が行われており、その中で軽量化やハリ・コシの特徴を持った、衣料用長短複合糸は多数提案、生産、販売されている。
【0003】
また、長短複合糸において吸水性や軽量感をもたせ快適な着用感を狙いうために、中空部を形成するために、一旦芯鞘複合繊維で布帛を製造し、布帛等の加工後に化学処理などで芯部を溶出して中空部を有する繊維からなる長短複合糸および布帛を得ようとするものが提案されている。これは、長短複合化する際に紡績工程での撚りやローラニップ等により中空部が破壊してしまうという問題を回避する手段である。
【0004】
しかしながら、同時にこれらの機能をもった糸および布帛を得るには繊維自身の改質が必要であり、原料となる繊維製造おいて特別なポリマを用いたりする必要がある。すなわち、原糸原綿の生産においては、紡糸難易度があがり、生産性が低下したり、品種切り替え時の清掃等が念入り行うことが必要になったり、紡績等での次工程においても別品種に混入すること懸念せねばならなくなるといった問題がある。また、フィラメントと短繊維の長短複合糸では、芯成分と鞘成分との絡合性、拘束性に欠け、鞘成分と芯成分が分離したいわゆるヌードヤーンの発生、また後の織編物工程通過時の摩擦によるネップの発生等の品質低下するなどの問題があった。
【0005】
そこで、従来の長短複合糸は上記のような問題を防ぐために、紡績糸の撚りを通常対比高めに設定して、芯成分のフィラメントと鞘成分の短繊維を強く拘束させている。しかし、このような方法によると短繊維成分の収束が強くなるために、ソフトな風合いが得られにくく、芯部に中空型形状のものを用いると、その中空部が潰れてしまうことがあった。
【0006】
これらの問題を解決するために、特開平11−323688号公報(特許文献1)には、工程通過時に中糸の中空を保つために、芯糸を繊維断面形状を井型とし、その断面剛性により工程通過後にも中空を保つ長短複合糸が提案されている。しかしながら同時に、繊維自体の剛性高まってしまうことから、布帛としたときの風合いが粗硬化してしまう欠点があった。
【0007】
また、特開平7−278982号公報(特許文献2)には、中空フィラメントと短繊維よりなる長短複合糸において、中空繊維の亀裂や割れ、繰り返し摩耗によるフィブリル化してなる白化現象を解決するために、中空率10〜40%、沸水収縮率8%以上の中空フィラメント糸と短繊維束を用い、混合重量比が芯/鞘≦1.5とし、糸形成後沸水処理する内容が記載されている。
【0008】
しかしながら、加撚していることから、これらの問題が生じ、フィラメントの沸水収縮率やの規制や、さらにはヌードヤーン発生を抑えるために、必ず沸水処理(おそらく、通常紡績で行われているヨリ止めセットと推定される)が必要であることから製造に関しては、これらに随時注意を払らわなければならず、チェックも容易に行え難いものであった。
【0009】
また、特開平11−61558号公報(特許文献3)には、芯に中空率10〜40%のポリエステル糸条を用い、鞘に0.3デニール以下のポリエステル短繊維を用いて、軽量でハリ・コシ等の特徴を有し、衣料とした時に着用快適性を得ようとしたものが提案されている。しかしながら鞘の短繊維および長繊維は改質したポリマを用い、後加工により溶融させ芯成分を抜いて中空化するものであり、後加工を必要とし、使用される繊維も改質したポリマが必要であるため、製造においては手間がかかるものであった。同様に、特開平6−49730号公報(特許文献4)には、芯にC字状のヨコ断面形状を有した鞘部分と、融解・分解除去成分からなる芯成分からなるFY糸を用い、鞘に綿を用いたコアヤーンを織編物とし、この織編物を処理し、融解・分解除去成分を除去し、速乾性を有した布帛を得ようとしるものであり、これも後加工を必要とし、使用される繊維も改質したポリマが必要であるため、製造においては手間がかかるものであった
また、特開2003−55848号公報(特許文献5)には抗ピル性をもった長短複合糸を得ようと鞘成分に改質ポリマを使用した短繊維を用いたものが提案されているが、改質ポリマを有することや、中空繊維であるため、工程通過においてデリケートな面があり、生産性に欠けるものであった。
【特許文献1】特開平11−323688号公報
【特許文献2】特開平7−278982号公報
【特許文献3】特開平11−61558号公報
【特許文献4】特開平6−49730号公報
【特許文献5】特開2003−55848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】

そこで本発明は、上述のような従来技術では得られなかった、優れた吸水性・抗ピル性を有し軽量性に優れ、従来にないハリコシのすぐれた風合いを有する布帛を得ることができる中空型長短複合糸およびそれを用いた布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するため本発明は、次の構成を有する。すなわち、
(1)芯部に中空型フィラメントを有し鞘部に短繊維を有するとともに、実質的に無撚であることを特徴とする長短複合糸。
【0012】
(2)芯部の中空型フィラメントが紡績糸全体の15〜60重量%を占め、鞘部の短繊維が紡績糸全体の40〜85重量%を占めることを特徴とする前記(1)に記載の長短複合糸。
【0013】
(3)次式による中空保持率80%以上であることを特徴とする長短複合糸。
【0014】
(紡績前の中空フィラメントの中空率−紡績後の中空フィラメントの中空率)/紡績前の中空フィラメントの中空率×100=中空保持率(%)
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の長短複合糸を用い、かつ次式による中空保持率80%以上であることを特徴とする布帛。
(織製または編成前の中空フィラメントの中空率−織製または編成後の中空フィラメントの中空率)/織製または編成前の中空フィラメントの中空率×100=中空保持率(%)
【発明の効果】
【0015】
本発明により、優れた吸水性・抗ピル性を有し軽量性に優れ、従来にないハリコシのすぐれた風合いを有する布帛を得ることができる長短複合糸およびそれを用いた布帛を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明の長短複合糸の糸構造について説明する。
【0018】
本発明の長短複合糸においては、中空型繊維フィラメントを芯部に、短繊維を鞘部に有した長短複合糸であり、さらには優れたカバリング性と軽量性および、膨らみ感を得るために、紡績糸自体が実質的に無撚りであることが重要である。
【0019】
すなわち、実質的に無撚り構造糸であれば、実撚り糸のような短繊維成分による芯部のフィラメント成分への強い拘束力や、芯部のフィラメントに付与される実撚りによって、前述の中空型繊維フィラメントの中空形状を破壊することがなく、優れた軽量性や吸水性、および膨らみ感といった風合いを十分に発揮することができる。
【0020】
ここで、本発明における実質的に無撚り構造糸とは、撚りのトルクの作用による撚り戻りの発生がない、もしくはきわめて小さい状態のものであることをいい、短繊維成分の平均繊維長をLsとした場合、4.0T/Ls以下の実撚りがかかっているものまたは無撚状のものである。撚り数が4.0T/Ls以下の場合には、撚りのトルクの作用による撚り戻りの発生がないので、実質的に無撚り構造糸ということができる。
【0021】
撚り数の測定方法については、検撚機を用いて測定することができる。すなわち、糸の両端をつかみ初荷重をかけ解撚する方法を用いるものであるが、本発明の長短複合糸は、この方法では解撚できないか、撚り数が4.0T/Ls以下とするものである。
さらに、実撚り構造糸の場合には、芯部のフィラメントを鞘部の短繊維により十分に被覆し、また、しごきなどによる短繊維成分の脱落を防ぐために、撚り数を通常対比高めに設定する必要がある。しかし、この場合には芯部のフィラメントを拘束する力が高くなり過ぎて、中空繊維の中空部が失われてしまい、また、芯部のフィラメントにも実撚りが付与されるために捲縮発現性が低下し、十分な膨らみ感が得られなくなるので、本発明が目的とする優れた風合いを得る手段としてはふさわしくない。
【0022】
また、本発明の長短複合糸においては、鞘部の短繊維成分が長短複合糸全体に占める混率が40〜85重量%の範囲にあることが好ましく、さらには50〜70重量%の範囲にあることがより好ましい。短繊維成分の混率が40重量%より小さい場合には、短繊維の繊維本数が少なくなるため、十分な被覆性が得られず、逆に85重量%よりも大きい場合には、短繊維成分の物性の影響が支配的となり、通常繊維との有意差が小さくなり、したがって、短繊維による被覆性と前述のような優れた性能を兼ね備えた長短複合糸を得るためには、短繊維成分の混率が50〜70重量%の範囲にあることがより好ましい。
【0023】
次に、本発明の長短複合糸に用いる中空型繊維のフィラメントについて説明する。
【0024】
本発明の長短複合糸に用いる中空型フィラメントの断面形状は、丸断面、扁平断面、三角断面、マルチローバル断面、X型断面、その他の異形断面であってもよいが、中空型断面である必要がある。
【0025】
ここでいう中空型断面とは、図1に示すように繊維断面の中央部に空間を有する繊維のことを言い、その中空部が繊維の中心または図2のように繊維の中心点と中空部の中心点をずらしたものでも良い。その中空率は10容積%〜70容積%の範囲にすることが好ましい。10容積%以下にすると十分な軽量性が得られないし、70容積%を超えると繊維の肉厚が極端に薄くなり、十分な繊維強度が得られにくくなるため好ましくない。
【0026】
また、中空部の断面形状は、丸型の他、楕円型、三角型、四角型などの多角形型、星型など本来の機能を喪失しない限り適宜選択でき、中空部の数も1つに限らず、多数設けることも好適なことである。図3にその一例を示す。
これら中空型フィラメントは直接紡糸によっても製造できるが、芯鞘型複合繊維として製造した後に芯部を溶出させることにより、中空部の断面形状がシャープな中空型フィラメントを得ることができる。
【0027】
中空フィラメントの繊度は適宜選択しうるが、本発明の長短複合糸を得るには、単糸繊度を5dtex以下とするのが好ましい。フィラメントの構成本数についても、特に限定されるものでなく、モノフィラメントでも本来の機能を喪失しないかぎり用いてもよいが、長短複合糸の生産性や、フィラメントと短繊維の絡み合いを考慮すると、複数本とすることが好ましい。特に10本以上とすることが好ましいが、単糸繊度や、得ようとする長短複合糸の番手を考慮し、トータル繊度や単糸繊度を設定する必要がある。
【0028】
繊維の素材は、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリプロピレンなどの合成繊維を適宜選択しうる。中でもポリエステルは、安定性に優れた糸物性が得られやすいことから好ましい素材である。
【0029】
次に、本発明の長短複合糸に用いる短繊維について説明する。
【0030】
上記の短繊維として用いる繊維素材は特に限定されず、綿、ウール、麻などの天然繊維、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリプロピレンなどの合成繊維であってもよいし、レーヨントリアセテート、などの半合成繊維であってもよく、これらを2種以上混ぜ合わせても良い。
【0031】
また上記の短繊維を合成繊維または半合成繊維を用いる場合、断面形状は特に限定されず、丸であっても、多角形、H型、中空などの異形断面であっても良い。また、短繊維の繊度についても特に限定されないが、紡積性を考慮すると0.6〜5デシテックスの範囲内にすることが好ましい。繊維長については各種紡績方法に応じた繊維長とするのがよいが、空気精紡を用いる場合は、その紡績原理を考慮すると25mm〜51mm程度が好適に使用でき、さらには30mm〜44mmの範囲内とするのがさらに好ましい。
【0032】
以上のような構成により、本発明の長短複合糸は次式による中空保持率を80%以上とすることができる。
【0033】
(紡績前の中空フィラメントの中空率−紡績後の中空フィラメントの中空率)/紡績前の中空フィラメントの中空率×100=中空保持率(%)
従来の、中空繊維を芯糸にして撚りをかける長短複合糸の製造方法では、80%という中空保持率は達成し得ないものである。
【0034】
本発明の長短複合糸は、公知の方法で製織、編成等して布帛とすることができる。本発明の長短複合糸により、優れた吸水性・抗ピル性を有し軽量性に優れ、従来にないハリコシのすぐれた風合いを有する布帛を得ることができる。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、他の糸と交織、交編することももちろん可能である。
【0035】
なお、本発明の布帛は、本発明の長短複合糸を用いたことにより、次式による中空保持率を80%以上とすることができる。
(織製または編成前の中空フィラメントの中空率−織製または編成後の中空フィラメントの中空率)/織製または編成前の中空フィラメントの中空率×100=中空保持率(%)
ここで、織製または編成前の中空フィラメントの中空率とは、紡績糸の中空フィラメントの中空率と同義である。
次に、本発明の長短複合糸を製造する方法について説明する。
【0036】
まず、中空型フィラメントおよび短繊維をそれぞれ準備する。それぞれの繊維の製造方法は公知の方法によればよい。次にこれら繊維を紡績し、紡績糸とする。
【0037】
紡績方法としては、できあがる長短複合糸が実質的に無撚りとなる方法であれば特に限定されないのであるが、空気流の作用により短繊維成分を結束させて紡績糸を形成する汎用の空気精紡機において、適当なフィードローラと糸道ガイドなどの長繊維用の設備を介して、フィラメントを糸形成部手前で短繊維束の中心部に供給することにより得る方法を好ましく用いることができる。特に好ましいのは、ムラタボルテックススピナー(村田機械社製:以下MVSと記す)を用いる方法があげられる。空気流の作用を利用する紡績方法は各種、提案、開発、利用されているが、本発明の長短複合糸を得るにはカバー率が良いことが好ましく、MVSを用いた紡績方法はこれを最も達成しうる紡績方法の一つである。
【0038】
また、その他の方法としては、次のような方法がある。まず、短繊維成分に好ましくは120℃以下の低い融点を有する低融点繊維をある一定比率混ぜて、リング精紡機を用いる長短複合糸の一般的な製造方法によって実撚り構造の長短複合糸を得る。次に、ホットローラー、または非接触式の熱板を有するリング撚糸機にこの長短複合糸を仕掛けて、精紡機とは逆方向の同じ撚り数の撚りを与えて、撚りを完全に戻しながら、ホットローラー、または熱板によって低融点繊維を周りの短繊維やフィラメントに融着させて無撚り長短複合糸を得ることもできる。この方法の場合、混ぜる低融点繊維の混率や与える撚り数、およびホットローラー、または熱板の温度設定値などは、得られる長短複合糸の風合いが損なわれないように適正な設計を行うことが重要である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。
【0040】
(紡績糸評価測定方法)
(1)紡績糸の中空保持率
紡績前のフィラメント(n=5)の断面写真をSEM(倍率×500)で撮影し、繊維の断面積(中空部を含む全断面積)Aおよびその繊維の中空部の断面積Bを求め、次式よりフィラメント中空率Cをその平均で示した。
(A−B)/A×100=フィラメント中空率C(%)
同じく、紡績後の糸断面のSEM(倍率×500)で撮影し、紡績糸を構成している中空フィラメントの断面積Dおよびそのフィラメント中空部の断面積Eを5点分求め、次式より紡績後の中空率Fをその平均で示した。
(D−E)/D×100=紡績後のフィラメント中空率F(%)
紡績後の中空保持率を下記式で求めた。
(C−F)/C×100=紡績後の中空保持率(%)
(2)被覆性評価
評価は得られた紡績糸の側面を25倍の顕微鏡で観察し、糸長1m当たりに芯部のフィラメントが表層部から確認できる箇所の数により判断した。
判定基準は、×:10カ所以上またはヌードヤーンの発生、△:5〜9カ所、○:1〜5カ所、◎:0カ所の4段階評価で行った。
【0041】
(布帛評価測定方法)
(1)織製・編成後の中空保持率
織製または編成前の糸(n=5)の断面写真をSEM(倍率×500)で撮影し、構成している中空フィラメントの断面積(中空部を含む全断面積)イおよびその繊維の中空部の断面積ロを求め、次式よりフィラメント中空率ハをその平均で示した。
(イ−ロ)/イ×100=フィラメント中空率ハ(%)
同じく、織製または編成前後の糸断面のSEM(倍率×500)で撮影し、紡績糸を構成しているフィラメント1本の断面積ニおよびそのフィラメント中空部の断面積ホを5点分求め、次式より紡績後の中空率ヘをその平均で示した。
(ニ−ホ)/ニ×100=紡績後のフィラメント中空率ヘ(%)
紡績後の中空保持率を下記式で求めた。
(ハ−ヘ)/ハ×100=織製・編成後の中空保持率(%)
(2)防シワ性
試料:直径9.6cm円形を準備し、50mlのプラスチック製ビーカーを準備し、ビーカーの上部にサンプルを載せ、荷重500gのおもり(押圧面積43g/cm2)、にてビーカー内に押し込むように投入し、時間10分間荷重をかけ除重し、直後、1時間後、24時間後の状態を「外観判定横光線」を用いてシワの状態で判別した。
【0042】
(3)ピリング性
JIS L−1076(1992) ICI法を用い、処理時間 織物10時間 編物5時間で処理し級判別した。
【0043】
(4)曲げ剛性
KES法により曲げ強さ・ヒステリシス幅をKES FB−2試験機で測定した。
【0044】
(5)寸法変化率
JIS L−1096(1999)に準じて測定した。
【0045】
(6)速乾性
サンプルサイズ40cm×40cmを準備し、水中へ5分沈めた後、家庭用洗濯機で30秒脱水をかけ、温度20℃ 湿度65%RH下の条件で5分ごとの重量を求め、下記式にてその含水率(%)を求め、含水率が2%以下になった時間を乾燥時間(分)を速乾性とした。
【0046】
(7)官能評価
長短複合糸を経糸と緯糸の両方に使用して平織り組織の織物を製織し、得られた生機をオープンソーパーで95℃でリラックス熱処理し、乾燥後、乾熱180℃で中間セットし、120℃で染色した。その後160℃の乾熱でピンテンター方式により仕上セットを行った。
【0047】
得られた布帛について、ハリコシ感、軽量感、触感につき10人のモニターにより官能試験を実施し、その判定結果の平均を評価結果とした。
【0048】
なお、評価の判定基準は、×:全く感じない、△:ほとんど感じない、○:感じる、◎:強く感じるの4段階評価で行い、×=0点、△=1点、○=2点、◎=3点と点数に置き換え、その平均点をもとめ、0.0〜0.9点を×、1.0〜1.5点を△、1.6〜2.5点を○、2.5点以上を◎として最終的な評価結果とした。
【0049】
(実施例1)
長短複合糸の短繊維としてポリエチレンテレフタレート短繊維(T403、1.45dtex×38mm、東レ製)を使用し、通常の紡績方式を経て1.0g/mの太さのスライバーを作成した。また、中空フィラメントとして“ボデイジョイ”(素材:ポリエチレンテレフタレート44dtex−12F、東レ製)を用いた。
【0050】
スライバーをMVSに仕掛け、フィラメント用のフィードローラ装置と糸道ガイドを介して、前述の中空型フィラメントをフロントトップローラー〜セカンドトップローラ間から短繊維束の幅方向中心位置に供給し、綿方式の番手で30’sの長短複合糸を得た。被覆性に優れ、糸切れの発生も少なく、加工後の中空部破損もなく、紡績性は良好であった。
得られた長短複合糸をヨコ糸として、タテ糸をポリエチレンテレフタレートFYとし、通常の織機を用いて、織組織を3/1ツイルとし、織密度283g/mの織物を得た。得られた布帛について、各評価を行った結果、表1に示すように、加工後の中空部破損もなく、図6に示す通り、防しわ性に優れ、風合いも軽量感に優れたものであった。得られた布帛断面のSEM写真を、図4および糸の断面を図5に示す。
【0051】
(実施例2)
長短複合糸の短繊維として実施例1と同じスライバーを作成した。また、中空フィラメントとして“ファリーロ”(素材:ナイロン6、28dtex−12F、東レ製)を用いた。
【0052】
スライバーをMVSに仕掛け、フィラメント用のフィードローラ装置と糸道ガイドを介して、前述の中空型フィラメントをフロントトップローラー〜セカンドトップローラ間から短繊維束の幅方向中心位置に供給し、綿方式の番手で30’sの長短複合糸を得た。被覆性に優れ、加工後の中空部破損もなく、糸切れの発生も少なく紡績性は良好であった。
得られた長短複合糸をについて、実施例と同じ方法を用いて、織密度279g/mの織物を得た。各評価を行った結果、図6に示す通り、防しわ性に優れ、表1に示すように、風合いも軽量感に優れ良好なものであった。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同じポリエステル短繊維を用い、通常の紡績方式を経て0.35g/mの太さの粗糸を作成しリング精紡機に仕掛けた。一方、実施例1と同じ中空型フィラメントをフロントトップローラー〜セカンドトップローラー間から短繊維束の中心位置に、フィラメント用のフィードローラー装置と糸道ガイドを介して供給し、リング精紡機のドラフト率を40倍、撚り数を27.8T/2.54cmに設定して、綿方式の番手で30’sの長短複合糸を得た。
得られた長短複合糸は紡績性に優れたものであったが、被覆性が実施例1と対比すると劣り、実撚りによる中空型フィラメントへの拘束力が強いために、中空部が破損していた。実施例1と同様に、緯糸として、織密度296g/mの織物を得たが、充分な中空率を保持できないために、吸水性に劣り、官能評価でも良好な風合いを得ることができなかった。
【0054】
(比較例2)
実施例1と同じポリエステル短繊維を用い、通常の紡績方式を経て0.35g/mの太さの粗糸を作成しリング精紡機に仕掛けた。一方、実施例2と同じ中空型フィラメントをフロントトップローラー〜セカンドトップローラー間から短繊維束の中心位置に、フィラメント用のフィードローラー装置と糸道ガイドを介して供給し、リング精紡機のドラフト率を40倍、撚り数を27.8T/2.54cmに設定して、綿方式の番手で30’sの長短複合糸を得た。
得られた長短複合糸は紡績性に優れたものであったが、被覆性が実施例2と対比すると劣り、実撚りによる中空型フィラメントへの拘束力が強いために、中空部が破損していた。実施例1と同様に、緯糸として、織密度296g/mの織物を得たが、充分な中空率を保持できないために、吸水性に劣り、官能評価でも良好な風合いを得ることができなかった。
【0055】
(比較例3)
実施例1と同じスライバーを用い、フィラメントを供給せずにMVSに掛け30sの紡績糸を得た。実施例1と同じように、織密度287g/mの織物を得て、各評価を行ったが、中心部に中空フィラメントを用いてないために、充分な軽量性が得れず、図6のように防シワ性に欠け、風合いもハリコシには欠けるものであった。
【0056】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】同心部に中空部を有する繊維断面の一例の模式図である。
【図2】偏心部に中空部を有する繊維断面の一例の模式図である。
【図3】その他使用できる繊維断面の一例の模式図である。
【図4】本発明で、得られた長短複合糸を使用した布帛の断面SEM写真である。
【図5】本発明で、得られた長短複合糸の断面のSEM写真である。
【図6】防シワ試験での布帛状態を撮影した写真である。
【符号の説明】
【0058】
1:繊維中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部に中空型フィラメントを有し、鞘部に短繊維を有するとともに、実質的に無撚であることを特徴とする長短複合糸。
【請求項2】
芯部の中空型フィラメントが全体の15〜60重量%を占め、鞘部の短繊維が全体の40〜85重量%を占めることを特徴とする請求項1に記載の長短複合糸。
【請求項3】
次式による中空保持率が80%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の長短複合糸。
(紡績前の中空フィラメントの中空率−紡績後の中空フィラメントの中空率)/紡績前の中空フィラメントの中空率×100=中空保持率(%)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の長短複合糸を用い、かつ次式による中空保持率が80%以上であることを特徴とする布帛。
(織製または編成前の中空フィラメントの中空率−織製または編成後の中空フィラメントの中空率)/織製または編成前の中空フィラメントの中空率×100=中空保持率(%)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−204878(P2007−204878A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25408(P2006−25408)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】