説明

長短複合紡績糸およびそれを用いてなる布帛

【課題】良好なピーチスキンタッチ調の表面感を有し、ハリ・コシ感や触感にも優れた布帛を提供することを可能にする新規な長短複合紡績糸と、該長短複合紡績糸を使用して得られる良好なピーチスキンタッチ調の表面感、良好なハリ・コシ感と触感を有する織編物・布帛を提供すること。
【解決手段】芯部に中空型フィラメント繊維、鞘部に溶剤紡糸セルロース系短繊維を有してなり、実質的に無撚であることを特徴とする長短複合紡績糸と該長短複合紡績糸を用いて形成された布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーチスキンタッチ調の表面感を有し、ハリコシ感や触感に優れた布帛を得ることを可能にする長短複合紡績糸と該長短複合紡績糸を用いた織編物等の布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピーチスキンタッチ調の表面感を得ること等をねらいとした複合紡績糸としてさまざまなものが提案されている。
【0003】
たとえば、軽量で嵩高性に富み、保温性に優れるとともに平面や屈曲などの摩擦に対しても、白化現象の生じにくい、複合紡績糸として、中空率10〜40%、沸水収縮率8%以上の中空フィラメント糸と短繊維束とが重ね合わされて加撚してなる芯鞘構造の複合紡績糸であって、芯部の中空フィラメント糸と鞘部の短繊維束との混用重量比が芯/鞘≦1.5であり、糸形成後、沸水処理されてなる複合紡績糸が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の提案では、加撚していることから、フィラメントの沸水収縮率の規制や、さらにはヌードヤーン発生を抑えるために、必ず沸水処理が必要であることから、製造に関しては生産管理などが難しいものであった。
【0005】
また、ピーチスキン調の表面外観を有し、防皺性にすぐれ、洗濯収縮が少なく、ソフトな風合と肌触りの良好な織編物として、単繊維デニールが3d以下で、平均繊維長が64mm以内の溶剤紡糸セルロース系短繊維(a)とポリエステル系短繊維(b)により芯鞘複合紡績糸の鞘部と芯部をそれぞれ構成し、その混用重量比を0.7≦(a)/(b)≦3.0としてなる芯鞘複合紡績糸よりなる織編物であって、その表面にフィブリルを有する芯鞘複合紡績糸織編物が提案されている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、このものはハリ、コシ感やピリング性で劣るものであった。
また、フィブリル化する特性を応用した独特のピーチスキン調の表面感を有する外観を有し、洗濯後の寸法安定性にも優れ、ソフトで肌触が良好な、衣料用の複合紡績糸として、溶剤紡糸セルロース繊維の紡績糸を芯糸に用い、一本または複数本のフィラメント糸を鞘糸として用い、フィラメント糸の少なくとも一本が、紡績撚方向とは逆方向に配置されている溶剤紡糸セルロース繊維を用いた複合紡績糸が提案されている(特許文献3)。
【0007】
しかしながら、このものはハリ、コシ感や、風合いの点ではいまだ改良の余地があると判断されるものであった。
【特許文献1】特開平7−278982号公報
【特許文献2】特開平9−143836号公報
【特許文献3】特開平11−172544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、良好なピーチスキンタッチ調の表面感を有し、ハリ・コシ感や触感にも優れた布帛を提供することを可能にする新規な長短複合紡績糸と、該長短複合紡績糸を使用して得られる良好なピーチスキンタッチ調の表面感、良好なハリ・コシ感と触感を有する織編物・布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明の長短複合紡績糸は、以下の(1)の構成からなる。
(1)芯部に中空型フィラメント繊維、鞘部に溶剤紡糸セルロース系短繊維を有してなり、実質的に無撚であることを特徴とする長短複合紡績糸。
【0010】
また、かかる本発明の長短複合紡績糸において、好ましくは、以下の(2)〜(4)のいずれかの構成を有するものである。
【0011】
(2)芯部の中空型フィラメント繊維が紡績糸全体の15〜60重量%を占め、鞘部の溶剤紡糸セルロース系短繊維が紡績糸全体の40〜85重量%を占めることを特徴とする上記(1)記載の長短複合紡績糸。
【0012】
(3)鞘部に位置する溶剤紡糸セルロース系短繊維は、繊維軸方向に沿って1〜10μmの繊維直径で剥離分繊したフィブリルを有することを特徴する上記(1)または(2)記載の長短複合紡績糸。
【0013】
(4)次式による紡績工程中空保持率80%以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の長短複合紡績糸。
紡績工程中空保持率(%)={(紡績前の中空フィラメントの中空率−紡績後の中空フィラメントの中空率)/紡績前の中空フィラメントの中空率}×100
【0014】
また、上述した目的を達成する本発明の布帛は、以下の(5)〜(7)のいずれかの構成を有するものである。
【0015】
(5)表面にフィブリルを有している上記(1)〜(4)のいずれかに記載の長短複合紡績糸が用いられてなり、ピーチスキンタッチ調を有することを特徴とする布帛。
【0016】
(6)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の長短複合紡績糸を用い、かつ次式による製編織工程中空保持率が80%以上であることを特徴とする布帛。
製編織工程中空保持率(%)={(織製または編成前の中空フィラメントの中空率−織製または編成後の中空フィラメントの中空率)/織製または編成前の中空フィラメントの中空率}×100
【0017】
(7)織製または編成後の布帛中に存在する中空フィラメントの中空率が、5〜50%であることを特徴とする上記(5)または(6)記載の布帛。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フィブリル化によるピーチスキンタッチ調の表面感を有し、ハリコシ感や触感にすぐれた布帛得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の長短複合紡績糸と織編物などについて詳細に説明する。
本発明の長短複合紡績糸は、芯部に中空型フィラメント繊維、鞘部に溶剤紡糸セルロース系短繊維を有してなり、実質的に無撚であることを特徴とする。
【0020】
すなわち、本発明の長短複合紡績糸においては、中空型繊維フィラメントを芯部に、溶剤紡糸セルロース系短繊維を鞘部に有した長短複合紡績糸であり、さらには優れたカバリング性と軽量性および、膨らみ感を得るために、紡績糸自体が実質的に無撚りであることが重要である。
【0021】
すなわち、実質的に無撚り構造糸であれば、実撚り糸のような溶剤紡糸セルロース系短繊維成分による芯部のフィラメント成分への強い拘束力や、芯部のフィラメントに付与される実撚りによって、前述の中空型繊維フィラメントの中空形状を破壊することがなく、優れた軽量性や吸水性、および膨らみ感といった風合いを十分に発揮することができる。
【0022】
ここで、本発明における実質的に無撚り構造糸とは、撚りのトルクの作用による撚り戻りの発生がないか、もしくはきわめて小さい状態のものであることをいい、溶剤紡糸セルロース系短繊維成分の平均繊維長をLsとした場合、4.0T/Ls以下の実撚りがかかっているものまたは無撚状のものを言うものである。撚り数が4.0T/Ls以下の場合には、撚りのトルクの作用による撚り戻りの発生がないので、実質的に無撚り構造糸ということができるものである。
【0023】
ちなみに、実撚り構造糸の場合は、芯部のフィラメントを鞘部の溶剤紡糸セルロース系短繊維により十分に被覆し、また、しごきなどによる溶剤紡糸セルロース系短繊維成分の脱落を防ぐために、撚り数を通常の場合と対比して高めに設定する必要があり、そして、その場合には芯部のフィラメントを拘束する力が高くなり過ぎて、中空繊維の中空部が失われてしまい、また、芯部のフィラメントにも実撚りが付与されるために捲縮発現性が低下し、十分な膨らみ感が得られなくなるので、優れた風合いを得ることは難しく本発明では採用され得ないのである。
【0024】
また、本発明の長短複合紡績糸においては、鞘部の溶剤紡糸セルロース系短繊維成分が長短複合紡績糸全体に占める混率は40〜85重量%の範囲にあることが好ましく、さらには50〜70重量%の範囲にあることがより好ましい。溶剤紡糸セルロース系短繊維成分の混率が40重量%より小さい場合には、溶剤紡糸セルロース系短繊維の繊維本数が少なくなるため、十分な被覆性が得られず、逆に85重量%よりも大きい場合には、溶剤紡糸セルロース系短繊維成分の物性の影響が支配的となり、通常繊維との有意差が小さくなり、したがって、溶剤紡糸セルロース系短繊維による被覆性と前述のような優れた性能を兼ね備えた長短複合紡績糸を得るためには、溶剤紡糸セルロース系短繊維成分の混率が50〜70重量%の範囲にあることがより好ましい。
【0025】
次に、本発明の長短複合紡績糸に用いる中空型繊維のフィラメントについて説明する。
本発明の長短複合紡績糸に用いる中空型フィラメント繊維の断面形状は、丸断面、扁平断面、三角断面、マルチローバル断面、X型断面、その他の異形断面であってもよいが、中空型断面である必要がある。
【0026】
ここでいう中空型断面とは、繊維断面の中央部に空間を有する繊維のことを言い、その中空部が、繊維の中心部と該中空部の中心点とが一致する態様のものでもよいし、あるいは繊維の中心点と中空部の中心点をずらしたものでもよい。
【0027】
その中空率は、繊維強度やハリ・コシ感を良好なものにするために、10容積%〜70容積%の範囲にすることが好ましい。中空率が10容積%未満となると十分な軽量性が得られ難くなるため、また、70容積%を超えると繊維の肉厚が極端に薄くなり、十分な繊維強度やハリ・コシが得られにくくなるため、それぞれ用途によっては好ましくないものとなる。
【0028】
また、中空部の断面形状は、丸型の他、楕円型、三角型、四角型などの多角形型、星型など中空構造に基づく本来の機能が喪失されない範囲で適宜に設定することができる。中空部の数も1つに限らず、多数設けることも好適なことである。これら中空型フィラメント繊維は直接紡糸によっても製造できるが、芯鞘型複合繊維として製造した後に芯部を溶出させることにより、中空部の断面形状がシャープな中空型フィラメント繊維を得ることもできる。中空型フィラメント繊維の素材は、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリプロピレンなどの各種の合成繊維を、所望の用途等に合わせて適宜に用いることができる。中でもポリエステルは、機械的な安定性や熱的な安定性に優れた糸物性が得られることから好ましい素材である。
【0029】
次に、本発明の長短複合紡績糸に用いる溶剤紡糸セルロース系短繊維について説明する。
【0030】
本発明において、該短繊維は、長短複合紡績糸の鞘部を構成するものであり、かつ溶剤紡糸セルロース系短繊維からなるものを用いる。溶剤紡糸セルロース系短繊維を用いる理由は、フィブリル化がしやすく、布帛中において良好なピーチスキンタッチ調を実現しやすいからである。
【0031】
該溶剤紡糸セルロース系短繊維の断面形状は、特に限定されず、丸であっても、多角形、H型、中空などの異形断面であってもよい。また、溶剤紡糸セルロース系短繊維の繊度についても特に限定されないが、紡積性を考慮すると0.6〜5デシテックスの範囲内にすることが好ましい。繊維長については各種紡績方法に応じた繊維長とするのがよいが、空気精紡を用いる場合は、その紡績原理を考慮すると25mm〜51mm程度が好適に使用でき、さらには30mm〜44mmの範囲内とするのが最も好ましい。
【0032】
本発明の長短複合紡績糸において、好ましくは、芯部の中空型フィラメント繊維が紡績糸全体の15〜60重量%を占め、鞘部の溶剤紡糸セルロース系短繊維が紡績糸全体の40〜85重量%を占めることである。
【0033】
本発明の長短複合紡績糸において、鞘部に位置する溶剤紡糸セルロース系短繊維は、繊維軸方向に沿って1〜10μmの繊維直径で剥離分繊したフィブリルを有することが好ましい。ここで、剥離分繊したフィブリルの繊維直径とは、乾燥状態のもので、繊維軸にある枝毛状の結晶繊維幅をいい、また、剥離分繊とは主にμm単位の幅で繊維軸に沿って分繊化した状態であることをいう。上述した剥離分繊したフィブリルの繊維直径は、より好ましくは、2〜5μmである。
【0034】
本発明の長短複合紡績糸は、好ましくは、次式による紡績工程中空保持率が80%以上であるものである。
紡績工程中空保持率(%)={(紡績前の中空フィラメントの中空率−紡績後の中空フィラメントの中空率)/紡績前の中空フィラメントの中空率}×100
【0035】
本発明の長短複合紡績糸は、製編織されて織物、編物などの布帛とされることが実際的な使用態様である。そのようにして本発明により得られる布帛は、次式による製編織工程中空保持率が80%以上であるものである。
製編織工程中空保持率(%)={(織製または編成前の中空フィラメントの中空率−織製または編成後の中空フィラメントの中空率)/織製または編成前の中空フィラメントの中空率}×100
【0036】
上述したような糸構成としたことにより、本発明の長短複合紡績糸は、上述の紡績工程中空保持率と、製編織工程中空保持率の双方を実現できるものであり、従来の、中空繊維を芯糸にして撚りをかける長短複合紡績糸の製造方法では、80%以上という中空保持率は、紡績工程中あるいは製織・編成工程のいずれでも達成し得ないものである。
【0037】
本発明の長短複合紡績糸を用いて布帛とするには、従来から布帛化する方法として知られている方法で製織、編成等して行うことができ、特別なことは必要ない。注意する点としては、無撚の効果が失われてしまうような加撚作用やしごくような物理的作用を紡績工程や布帛化工程で与えることがないようにすべき点である。
【0038】
本発明の長短複合紡績糸により、優れた吸水性・抗ピル性を有し軽量性に優れ、従来にないハリコシの優れた風合いを有する布帛を得ることができる。
【0039】
本発明により得られる該織物、編物等の布帛は、該織物・編物もしくは布帛の表面にフィブリルを有していることによりピーチスキンタッチ調を有するものである。
【0040】
本発明の長短複合紡績糸を使用すれば、紡績工程中あるいは製織・編成工程のいずれでも高い中空保持率を得ることができるため、結果的に、織製または編成後における該織物や編物中での中空フィラメントの中空率が、概して5%以上、好ましくは5〜50%であるという非常に高い中空率での最終製品(布帛)を得ることができることになる。
【0041】
なお、本発明の効果が損なわれない範囲で、他の糸と交織、交編することももちろん可能である。
【0042】
なお、本発明の布帛は、本発明の長短複合紡績糸を用いたことにより、上述した式による中空保持率を80%以上とすることができるのである。
【0043】
次に、本発明の長短複合紡績糸を製造する方法の1例について具体的に説明する。
まず、中空型フィラメント繊維および溶剤紡糸セルロース系短繊維をそれぞれ準備する。それぞれの繊維の製造方法は公知の方法によればよい。次に、これら繊維を紡績し、紡績糸とする。
【0044】
紡績方法としては、できあがる長短複合紡績糸が実質的に無撚りとなる方法であれば特に限定されないのであるが、空気流の作用により溶剤紡糸セルロース系短繊維成分を結束させて紡績糸を形成する汎用の空気精紡機において、適当なフィードローラと糸道ガイドなどの長繊維用の設備を介して、フィラメントを糸形成部手前で溶剤紡糸セルロース系短繊維束の中心部に供給することにより得る方法を好ましく用いることができる。
【0045】
特に好ましいのは、“ムラタ・ボルテックス・スピナー”(村田機械社製:以下、MVSと記す)を用いる方法である。空気流の作用を利用する紡績方法は、各種のものが、提案、開発、利用されているが、本発明の長短複合紡績糸を得るにはカバー率が良いことが必須であり、MVSを用いた紡績方法はこれを最も達成しうる紡績方法の一つである。
【0046】
また、その他の方法としては、次のような方法がある。まず、溶剤紡糸セルロース系短繊維成分に、好ましくは120℃以下の低い融点を有する低融点繊維をある一定比率で混ぜて、リング精紡機を用いる長短複合紡績糸の一般的な製造方法によって実撚り構造の長短複合紡績糸を得る。次に、ホットローラー、または非接触式の熱板を有するリング撚糸機にこの長短複合紡績糸を仕掛けて、精紡機とは逆撚り方向での同じ撚り数の撚りを与えて、撚りを完全に戻しながら、ホットローラー、または熱板によって前述した低融点繊維を周りの短繊維やフィラメントに融着させて無撚り長短複合紡績糸を得ることができる。該方法の場合、混ぜる低融点繊維の混率や与える撚り数およびホットローラー、または熱板の温度設定値などを得られる長短複合紡績糸の風合いを損なわないように適正に設定することが重要である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。
〔紡績糸評価測定方法〕
(1)紡績工程中空保持率
紡績前のフィラメント(n=10)の断面写真をSEM(倍率×500倍)で撮影し、繊維の断面積(中空部を含む全断面積)Aおよびその繊維の中空部の断面積Bを求め、次式よりフィラメント中空率Cをその平均で示した。
{(A−B)/A}×100=フィラメント中空率C(%)
【0048】
同じく、紡績後の糸断面のSEM(倍率×500倍)で撮影し、紡績糸を構成している中空フィラメントの断面積Dおよびそのフィラメント中空部の断面積Eを5点分求め、次式より紡績後の中空率Fをその平均で示した。
{(D−E)/D}×100=紡績後のフィラメント中空率F(%)
【0049】
紡績後の中空保持率を下記式で求めた。
{(C−F)/C}×100=紡績工程中空保持率(%)
【0050】
(2)被覆性評価
評価は得られた長短複合紡績糸の側面を25倍の顕微鏡で観察し、糸長1m当たりに芯部のフィラメントが表層部から確認できる箇所の数により判断した。
判定基準は、×:10カ所以上またはヌードヤーンの発生、△:5〜9カ所、○:1〜5カ所、◎:0カ所の4段階評価で行った。
【0051】
〔布帛評価測定方法〕
(1)製編織工程中空保持率
織製または編成前の糸(n=10)の断面写真をSEM(倍率×500倍)で撮影し、構成している中空フィラメントの断面積(中空部を含む全断面積)イおよびその繊維の中空部の断面積ロを求め、次式よりフィラメント中空率ハをその平均で示した。
{(イ−ロ)/イ}×100=フィラメント中空率ハ(%)
【0052】
同じく、織製または編成後の糸断面のSEM(倍率×500倍)で撮影し、紡績糸を構成しているフィラメント1本の断面積ニおよびそのフィラメント中空部の断面積ホを5点分求め、次式より紡績後の中空率ヘをその平均で示した。
{(ニ−ホ)/ニ}×100=紡績後のフィラメント中空率ヘ(%)
【0053】
製織・編成後の中空保持率を下記式で求めた。
{(ハ−ヘ)/ハ}×100=製編織工程中空保持率(%)
【0054】
(2)防シワ性
試料:直径9.6cm円形を準備し、50mlのプラスチック製ビーカーを準備し、ビーカーの上部にサンプルを載せ、荷重500gのおもり(押圧面積43g/cm2 )にてビーカー内に押し込むように投入し、時間10分間荷重をかけ除重し、直後、1時間後、24時間後の状態を「外観判定横光線」を用いてシワの状態で判別した。
【0055】
(3)ピリング性
JIS L−1076(1992)のICI法を用い、処理時間は、織物は10時間、編物5時間で処理し級判別した。
【0056】
(4)曲げ剛性
KES法により曲げ強さ・ヒステリシス幅をKES FB−2試験機で測定した。
【0057】
(5)寸法変化率
JIS L−1096(1999)に準じて測定した。
【0058】
(6)速乾性
サンプルサイズ40cm×40cmを準備し、水中へ5分沈めた後、家庭用洗濯機で30秒脱水をかけ、温度20℃、湿度65%RH下の条件で5分ごとの重量を求め、下記式にてその含水率(%)を求め、含水率が2%以下になった時間を乾燥時間(分)を速乾性とした。
【0059】
(7)官能評価
長短複合紡績糸を経糸と緯糸の両方に使用して平織組織の織物を製織し、得られた生機をオープンソーパーで95℃でリラックス熱処理し、乾燥後、乾熱180℃で中間セットし、120℃で染色し、その後160℃の乾熱でピンテンター方式により仕上セットを行った。
【0060】
得られた布帛について、ハリコシ感、軽量感、触感、表面感(特にピーチスキンタッチ)につき10人のモニターにより官能試験を実施し、その判定結果の平均を評価結果とした。
【0061】
なお、評価の判定基準は、×:全く感じない、△:ほとんど感じない、○:感じる、◎:強く感じるの4段階評価で行い、×=0点、△=1点、○=2点、◎=3点と点数に置き換え、その平均点を求め、0.0〜0.9点を×、1.0〜1.5点を△、1.6〜2.5点を○、2.6点以上を◎、として評価した。
【0062】
実施例1
長短複合紡績糸の短繊維として改質セルロース系短繊維(“リヨセル”、1.3dtex×40mm:LENZING社製)を使用し、通常の紡績方式を経て1.0g/mの太さのスライバーを作成した。また、中空フィラメントとして“ボデイジョイ”糸(素材:ポリエチレンテレフタレート44dtex−12フィラメント、東レ製)を用いた。
【0063】
スライバーをMVS精紡機に仕掛け、フィラメント用のフィードローラ装置と糸道ガイドを介して、前述の中空型フィラメントをフロントトップローラー〜セカンドトップローラ間から短繊維束の幅方向中心位置に供給し、綿方式の番手で30’sの長短複合紡績糸を得た。被覆性に優れ、糸切れの発生も少なく、加工後の中空部破損もなく、紡績性は良好であった。
【0064】
得られた長短複合紡績糸をヨコ糸として、タテ糸をポリエチレンテレフタレートフィラメント糸とし、通常の織機を用いて、織組織を3/1ツイルとし、織目付283g/m2 の織物を得た。得られた布帛について、各評価を行った結果、表1に示すように、加工後の中空部破損もなく防しわ性に優れ、風合いも軽量感に優れたものであった。
【0065】
実施例2
長短複合紡績糸の短繊維として実施例1と同じスライバーを作成した。また、中空フィラメントとして“ファリーロ”(素材:ナイロン6繊維、28dtex−12フィラメント、東レ製)を用いた。
【0066】
スライバーをMVS精紡機に仕掛け、フィラメント用のフィードローラ装置と糸道ガイドを介して、前述の中空型フィラメントをフロントトップローラー〜セカンドトップローラ間から短繊維束の幅方向中心位置に供給し、綿方式の番手で30’sの長短複合紡績糸を得た。被覆性に優れ、加工後の中空部破損もなく、糸切れの発生も少なく紡績性は良好であった。
【0067】
得られた長短複合紡績糸を、実施例と同じ方法を用いて、織目付279g/m2 の織物を得た。各評価を行った結果、防しわ性に優れ、表1に示すように風合いも軽量感に優れ良好なものであった。
【0068】
比較例1
実施例1と同じ短繊維を用い、通常の紡績方式を経て0.35g/mの太さの粗糸を作成しリング精紡機に仕掛けた。一方、実施例1と同じ中空型フィラメントをフロントトップローラー〜セカンドトップローラー間から短繊維束の中心位置に、フィラメント用のフィードローラー装置と糸道ガイドを介して供給し、リング精紡機のドラフト率を40倍、撚り数を27.8T/2.54cmに設定して、綿方式の番手で30’sの長短複合紡績糸を得た。
【0069】
得られた長短複合紡績糸は紡績性に優れたものであったが、被覆性が実施例1と対比すると劣り、実撚りによる中空型フィラメントへの拘束力が強いために、中空部が破損していた。実施例1と同様に、緯糸として、織目付296g/m2 の織物を得たが、十分な中空率を保持できないために、吸水性に劣り、官能評価でも良好な風合いを得ることができなかった。
【0070】
比較例2
実施例1と同じ短繊維を用い、通常の紡績方式を経て0.35g/mの太さの粗糸を作成しリング精紡機に仕掛けた。一方、実施例2と同じ中空型フィラメントをフロントトップローラー〜セカンドトップローラー間から短繊維束の中心位置に、フィラメント用のフィードローラー装置と糸道ガイドを介して供給し、リング精紡機のドラフト率を40倍、撚り数を27.8T/2.54cmに設定して、綿方式の番手で30’sの長短複合紡績糸を得た。
【0071】
得られた長短複合紡績糸は紡績性に優れたものであったが、被覆性が実施例2と対比すると劣り、実撚りによる中空型フィラメントへの拘束力が強いために、中空部が破損していた。実施例1と同様に、緯糸として、織目付296g/m2 の織物を得たが、十分な中空率を保持できないために、吸水性に劣り、官能評価でも良好な風合いを得ることができなかった。
【0072】
比較例3
実施例1と同じスライバーを用い、フィラメントを供給せずにMVS精紡機に掛け30sの紡績糸を得た。実施例1と同じように、織目付287g/m2 の織物を得て、各評価を行ったが、中心部に中空フィラメントを用いてないために、十分な軽量性が得れず、防シワ性に欠け、風合いもハリコシには欠けるものであった。
【0073】
比較例4
長短複合紡績糸の短繊維としてポリエチレンテレフタレート短繊維(T403、1.45dtex×38mm:東レ製)を使用した以外は実施例1と同様にして、綿方式の番手で30’sの長短複合紡績糸を得た。得られた長短複合紡績糸は被覆性に優れ、糸切れの発生も少なく、加工後の中空部破損もなく紡績性は良好であった。
【0074】
得られた長短複合紡績糸をヨコ糸として、タテ糸をポリエチレンテレフタレートフィラメント糸とし、通常の織機を用いて、織組織を3/1ツイルとし、織目付283g/m2 の織物を得た。得られた布帛について、各評価を行った結果、表1に示すように、加工後の中空部破損もなく、防しわ性に優れ、風合いも軽量感に優れたものであったが触感に劣るものであった。
【0075】
比較例5
長短複合紡績糸の短繊維としてビスコース法レーヨン短繊維(1.7dtex×38mm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、綿方式の番手で30’sの長短複合紡績糸を得た。得られた長短複合紡績糸は被覆性に優れ、糸切れの発生も少なく、加工後の中空部破損もなく紡績性は良好であった。
【0076】
得られた長短複合紡績糸を実施例1と同様に、織目付290g/m2 の織物を得た。得られた布帛について、各評価を行った結果、表1に示すように、加工後の中空部破損もなく、防しわ性に優れ、風合いも軽量感に優れたものであったが、ビスコース法レーヨン短繊維を用いたためにピーチスキンタッチ調の表面感が得られなかった。
【0077】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部に中空型フィラメント繊維、鞘部に溶剤紡糸セルロース系短繊維を有してなり、実質的に無撚であることを特徴とする長短複合紡績糸。
【請求項2】
芯部の中空型フィラメント繊維が紡績糸全体の15〜60重量%を占め、鞘部の溶剤紡糸セルロース系短繊維が紡績糸全体の40〜85重量%を占めることを特徴とする請求項1に記載の長短複合紡績糸。
【請求項3】
鞘部に位置する溶剤紡糸セルロース系短繊維は、繊維軸方向に沿って1〜10μmの繊維直径で剥離分繊したフィブリルを有することを特徴する請求項1または2に記載の長短複合紡績糸。
【請求項4】
次式による紡績工程中空保持率80%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長短複合紡績糸。
紡績工程中空保持率(%)={(紡績前の中空フィラメントの中空率−紡績後の中空フィラメントの中空率)/紡績前の中空フィラメントの中空率}×100
【請求項5】
表面にフィブリルを有している請求項1〜4のいずれかに記載の長短複合紡績糸が用いられてなり、ピーチスキンタッチ調を有すること特徴とする布帛。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の長短複合紡績糸を用い、かつ次式による製編織工程中空保持率が80%以上であることを特徴とする布帛。
製編織工程中空保持率(%)={(織製または編成前の中空フィラメントの中空率−織製または編成後の中空フィラメントの中空率)/織製または編成前の中空フィラメントの中空率}×100
【請求項7】
織製または編成後の布帛中に存在する中空フィラメントの中空率が、5〜50%であることを特徴とする請求項5または6記載の布帛。

【公開番号】特開2007−231477(P2007−231477A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56676(P2006−56676)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(506072815)丸一繊維株式会社 (6)
【出願人】(593069897)モリリン株式会社 (29)
【Fターム(参考)】