説明

長短複合紡績糸及びその製造方法

【課題】強撚が施されていなくとも抱合力に優れている長短複合紡績糸と、該長短複合紡績糸を安定に製造できる方法とを提供することを目的とする。
【解決手段】芯部にマルチフィラメントを配し、鞘部に短繊維群を配した長短複合紡績糸であって、撚り係数が3.5〜4.5であり、抱合力回数が250〜450回である長短複合紡績糸。芯部にマルチフィラメントを配し、鞘部に短繊維群を配した長短複合紡績糸の製造方法であって、リング精紡機によりマルチフィラメントと短繊維束とを共通のフロントローラーに供給して長短複合紡績糸を製造する方法において、セカンドローラーとフロントローラーとの間のドラフト比(D)を0.96≦D<1.00に設定して短繊維束をフロントローラーへ供給して両者を重ね合わせた後、撚り係数を3.5〜4.5として加撚する長短複合紡績糸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長短複合紡績糸及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの化学繊維・合成繊維が生産され天然繊維と共にそれぞれの繊維特性を生かして種々の分野に使用されている。しかしながら、各繊維の特性はある特定の条件では満足されるものの、他の条件のもとではその特性が逆に欠点となることがしばしばある。このために、これらの各繊維を必要に応じて複合、交織あるいは混紡し、特性の短所を補完して所望の用途に供するようにしている。
【0003】
綿、羊毛、化合繊短繊維のような短繊維と化合繊マルチフィラメントとを紡績工程の最終工程である精紡工程において、紡出、加撚して得られる長短複合紡績糸もその一例としてあげられ、その製造方法は各種各様のものが知られている。
【0004】
例えば、古くからの技術として、マルチフィラメントを紡績用繊維と混合紡出するに際し、マルチフィラメントの供給通路中に張力変動装置を設け、該マルチフィラメントの張力を変動しながら加撚紡出するコアヤーンの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、マルチフィラメントがフロントローラーにニップされる直前に部分的に開繊され、当該開繊部に紡績用繊維が入り込み、該マルチフィラメントと紡績用繊維束との絡みが促進されて、優れた摩擦抵抗力を有するコアヤーンが得られる。
【0005】
しかしながら、この方法では、マルチフィラメントの張力が変動するため、コアヤーンのカバリング状態に斑が発生しやすいという問題があった。そこで、マルチフィラメントのフロントローラーへの給糸張力を特定の条件とし、マルチフィラメントのフロントローラー出口付近における応力緩和の発生を均一なものとすることで、カバリング状態に斑のない長短複合紡績糸を得る方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公昭40−8743号公報
【特許文献2】特開平10−195721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の長短複合紡績糸は、リング精紡機により、マルチフィラメントと短繊維束とが並行に重なりあった状態でフロントローラーから紡出された直後、加撚して得られるものである。このため、この長短複合紡績糸においては、マルチフィラメントと短繊維群とが分離しやすく、紡績仕上げ時及び/又は製織時に受ける摩擦、撚りなどの外力により短繊維が容易に切断するという問題がある。この問題を解決するには、一般に長短複合紡績糸の抱合力を上げてやればよい。上記長短複合紡績糸の抱合力は、加撚の強弱のみによって決定されるので、加撚を強くする、すなわち強撚を施しさえすれば係る問題を容易に解決できる。しかしながら、強撚を施すと、織編物の風合いが硬くなるという新たな問題が発生する。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決し、強撚が施されていなくとも抱合力に優れている長短複合紡績糸と、該長短複合紡績糸を安定に製造できる方法とを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討の結果、マルチフィラメントと短繊維束とを絡ませた状態で加撚すれば、強撚を施すことなく、抱合力に優れた長短複合紡績糸が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、第一の発明は、芯部にマルチフィラメントを配し、鞘部に短繊維群を配した長短複合紡績糸であって、下記式(1)で示される撚り係数が3.5〜4.5であり、抱合力回数が250〜450回であることを特徴とする長短複合紡績糸を要旨とするものである。
【0010】
【数1】

そして、第二の発明は、芯部にマルチフィラメントを配し、鞘部に短繊維群を配した長短複合紡績糸の製造方法であって、リング精紡機によりマルチフィラメントと短繊維束とを共通のフロントローラーに供給して長短複合紡績糸を製造する方法において、セカンドローラーとフロントローラーとの間のドラフト比(D)を0.96≦D<1.00に設定して短繊維束をフロントローラーへ供給して両者を重ね合わせた後、下記式(1)で示される撚り係数を3.5〜4.5として加撚することを特徴とする長短複合紡績糸の製造方法を要旨とするものである。
【0011】
【数2】

【発明の効果】
【0012】
本発明の長短複合紡績糸は、抱合力に優れているため、紡績仕上げ時及び/又は製織時に摩擦、撚りなどの外力を受けても短繊維が切断し難い。また、本発明の長短複合紡績糸に施されている撚りが強撚ではないため、該長短複合紡績糸を用いれば、ソフト感を有する織編物を得ることができる。
【0013】
さらに、本発明の長短複合紡績糸の製造方法によれば、強撚を施さなくとも優れた抱合力を有する長短複合紡績糸を安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の長短複合紡績糸は、芯部にマルチフィラメントを配し、鞘部に短繊維群を配した芯鞘構造を有する糸である。
【0016】
本発明に用いられるマルチフィラメントは、例えば、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリルなどの熱可塑性合成繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、アセテートなどの化学繊維のフィラメントなどであり、無撚、有撚、あるいは加工糸など種々の形態のものを使用することができる。なお、マルチフィラメントの単糸繊度、フィラメント数などは、長短複合紡績糸の用途などにより適宜選択することができる。
【0017】
一方、短繊維群は、例えば、綿、羊毛などの天然繊維、又は芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、アセテートなどの化学・合成繊維からなる短繊維、あるいはこれらを混合したものなどから構成される繊維群であり、単糸繊度、繊維長はどのようなものであっても特に限定されるものではない。
【0018】
本発明の長短複合紡績糸は、下記式(1)で示される撚り係数が3.5〜4.5であることが必要であり、3.8〜4.2が好ましい。
【0019】
【数3】

撚り係数が3.5未満であると、短繊維が素抜けて製織編性に支障をきたすだけでなく、織編物にした際ピリングが発生して品位が損なわれることになる。一方、4.5を越えると、長短複合紡績糸が緻密になりすぎるため織編物の風合いが硬くなる。
【0020】
また、本発明の長短複合紡績糸は、抱合力回数が250〜450回であることが必要であり、300〜400回が好ましい。抱合力回数とは、長短複合紡績糸の抱合力を定量的に表す指標となるものである。本発明にいう抱合力回数とは、具体的には、抱合力試験機を用いて以下の方法により測定される、短繊維群が切断されて芯部のマルチフィラメントが露出するに至るまでの摩擦回数のことである。すなわち、経糸抱合力試験機(蛭田理研(株)製、型番:INSECT No0072)に、紡績糸試験の場合に準じて長短複合紡績糸を仕掛け、摩擦板の回転数を100rpm、荷重を50gとし、長短複合紡績糸鞘部の短繊維群が切断されて同糸芯部のマルチフィラメントが露出するまでの回数を10本の長短複合紡績糸に対して測定し、その平均値を抱合力回数とする。
【0021】
抱合力が高い程、マルチフィラメントと短繊維群とがしっかりと密着するため、長短複合紡績糸が外力を受けても短繊維が切断し難くなる傾向にある。
【0022】
抱合力回数が250回未満であると、マルチフィラメントと短繊維群とが分離して、短繊維が紡績仕上げ時及び/又は製織編時に受ける摩擦、撚りなどの外力により容易に切断する。一方、450回を超えると、長短複合紡績糸が緻密になりすぎるため織編物の風合いが硬くなる。
【0023】
次に本発明の長短複合紡績糸の製造方法について説明する。
【0024】
図1は、本発明の長短複合紡績糸の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【0025】
図1に示すリング精紡機に供給された粗糸1は、バックローラー2、2′、エプロン3、3′及びセカンドローラー4、4′を介して、所定の倍率にドラフトされ短繊維束8となる。そして、短繊維束8は、弛緩した状態でフロントローラー5、5′に供給される。
【0026】
一方、マルチフィラメント6はプレスローラー7、7′を介して、フロントローラー5、5′に供給される。
【0027】
そして、該フロントローラーにおいて、マルチフィラメント6と短繊維束8とは、芯部にマルチフィラメント6が、鞘部に短繊維束8が配されるように重ね合わされる。つまり、短繊維束8が弛緩した状態であるのに対し、マルチフィラメント6は突っ張った状態であるため、必然的に芯部にマルチフィラメント6が、鞘部に短繊維束8が配されるのである。なお、マルチフィラメント6の張力は、0.1〜0.2cN/dtexであることが好ましい。0.1cN/dtex未満であると、マルチフィラメント6と短繊維束8とが交撚状、あるいは芯部と鞘部が逆転する場合があるので好ましくない。一方、0.2cN/dtexを超えると、マルチフィラメント6と短繊維束8との絡みつきに支障をきたす場合があるので好ましくない。
【0028】
マルチフィラメント6と短繊維束8とは、上記のように重ね合わされた後、スネルワイヤーガイド9を通過して、スピンドル11とリングトラベラ10とにより下記式(1)で示される撚り係数3.5〜4.5の加撚が施されて、本発明の長短複合紡績糸12となる。
【0029】
【数4】

本発明においては、セカンドローラーとフロントローラーとの間のドラフト比(D)を0.96≦D<1.00に設定する必要がある。これにより、短繊維束が弛緩した状態でフロントローラーに供給される。その結果、短繊維束の糸道が左右に振られるのと同時に該短繊維束が開繊され、マルチフィラメントと短繊維束との絡みつきが促進される。
【0030】
本発明におけるセカンドローラーとフロントローラーとの間のドラフト比(D)とは、いわゆる機械ドラフトを指し、下記式(2)で算出される。
【0031】
【数5】

ドラフト比が0.96未満であると、短繊維束の糸道が左右に大きく振れすぎて長短複合紡績糸のカバリング状態に斑が発生したり、極端な場合、マルチフィラメントと短繊維束とを重ね合わせることができなくなる。一方、1.00以上であると、短繊維束が弛緩せずに突っ張った状態となるため、マルチフィラメントと短繊維束との絡みつきが促進されない。
【0032】
なお、本発明では、カバリング状態と絡みつきの度合いとを考慮して、ドラフト比の上限は、0.99とするのが好ましい。
【0033】
本発明においては、このようにマルチフィラメントと短繊維束とを絡ませた状態で加撚を施すので、強撚を施さなくとも、抱合力に優れた長短複合紡績糸を得ることができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例、比較例における長短複合紡績糸の抱合力回数は、既述の方法により測定した。
【0035】
(実施例1)
粗糸1として綿粗糸180gr/30ydを図1に示すリング精紡機に供給し、粗糸1をバックローラー2、2′エプロン3、3′及びセカンドローラー4、4′を介して、57.6倍にドラフトして短繊維束8とした後、該短繊維束8を弛緩した状態でフロントローラー5、5′に供給した。セカンドローラー4、4′の表面速度は10.39m/分であり、フロントローラー5、5′の表面速度は、セカンドローラー4、4′とフロントローラー5、5′との間のドラフト比が0.97となるように、10.08m/分に設定した。一方、マルチフィラメント6としてナイロン6マルチフィラメント44dtex/48fを同リング精紡機に供給し、プレスローラー7、7′を介して、フロントローラー5、5′に供給した。そして、該フロントローラーにおいてマルチフィラメント6と短繊維束8とを重ね合わせた後、スピンドル回転数11000rpmで、撚り係数が3.9の加撚を施し、50番手(英式綿番手)の芯鞘構造を有する本発明の長短複合紡績糸12を得た。
【0036】
得られた長短複合紡績糸の抱合力回数を測定したところ、363.7回であった。
【0037】
(比較例1)
フロントローラー5、5′の表面速度を10.39m/分へ変更することで、セカンドローラー4、4′とフロントローラー5、5′との間のドラフト比を1.00としたこと、及び撚り係数を3.9にすべくスピンドル回転数を11300rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様に行ない、比較用の長短複合紡績糸を得た。
【0038】
得られた長短複合紡績糸の抱合力回数を測定したところ、135.9回であった。
【0039】
(比較例2)
フロントローラー5、5′の表面速度を9.87m/分へ変更することで、セカンドローラー4、4′とフロントローラー5、5′との間のドラフト比を0.95としたこと、及び撚り係数を3.9にすべくスピンドル回転数を10800rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様に行ない、比較用の長短複合紡績糸の採取を試みた。しかしながら、採取開始から、短繊維束の糸道の振れが大きすぎて長短複合紡績糸のカバリング状態に斑が発生し、しばらくすると、短繊維束の糸道がフロントローラーから外れ、マルチフィラメントと短繊維束とを重ね合わせることができなくなったため、採取を中止した。
【0040】
以上の結果から明らかなように、本発明の長短複合紡績糸は、抱合力に優れているため、紡績仕上げ時及び/又は製織時に受ける摩擦、撚りなどの外力による短繊維の切断を防止しうるものであった。
【0041】
対して、比較例1では、撚り係数が実施例1と同じ3.9であるにもかかわらず、抱合力に乏しい結果となった。これは、セカンドローラーとフロントローラーとの間のドラフト比を1.00に設定したため、短繊維束が弛緩せずに突っ張った状態でフロントローラーに供給され、マルチフィラメントと短繊維束との絡みつきが促進されなかったことによるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の長短複合紡績糸の製造方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1 粗糸
2、2′ バックローラー
3、3′ エプロン
4、4′ セカンドローラー
5、5′ フロントローラー
6 マルチフィラメント
7、7′ プレスローラー
8 短繊維束
9 スネルワイヤーガイド
10 リングトラベラ
11 スピンドル
12 長短複合紡績糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部にマルチフィラメントを配し、鞘部に短繊維群を配した長短複合紡績糸であって、下記式(1)で示される撚り係数が3.5〜4.5であり、抱合力回数が250〜450回であることを特徴とする長短複合紡績糸。
【数1】

【請求項2】
芯部にマルチフィラメントを配し、鞘部に短繊維群を配した長短複合紡績糸の製造方法であって、リング精紡機によりマルチフィラメントと短繊維束とを共通のフロントローラーに供給して長短複合紡績糸を製造する方法において、セカンドローラーとフロントローラーとの間のドラフト比(D)を0.96≦D<1.00に設定して短繊維束をフロントローラーへ供給して両者を重ね合わせた後、下記式(1)で示される撚り係数を3.5〜4.5として加撚することを特徴とする長短複合紡績糸の製造方法。
【数2】


【図1】
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【公開番号】特開2006−161227(P2006−161227A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356801(P2004−356801)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】