説明

長短複合紡績糸及び布帛

【課題】厚さが薄いにもかかわらず、ソフト性と共に吸放湿性に優れ、かつ積極的な保温性をも布帛に付与しうる紡績糸と、この紡績糸を用いてなる布帛とを提供する。
【解決手段】太陽光選択吸収型ポリエステル繊維を含む芯部と、溶剤紡糸セルロース繊維を含む鞘部とからなる長短複合紡績糸であって、紡績糸中に占める前記太陽光選択吸収型ポリエステル繊維の質量比率が15〜60質量%であり、紡績糸中に占める前記溶剤紡糸セルロース繊維の質量比率が40〜85質量%であり、かつ撚係数が3.5〜4.5である長短複合紡績糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の繊維からなる長短複合紡績糸に関するものであり、詳しくは、布帛に積極的な保温性と優れた風合いとを付与しうる、新規な長短複合紡績糸、並びにそれを用いた布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに様々な保温素材が提案されている。例えば、特許文献1には、中空繊維を使用した3層構造編地が提案されている。
【特許文献1】特許3880320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の編地では、編地内に空気層を形成することにより保温力が具現できるものの、蓄熱性の点で劣り、また3層構造を呈しているため肉厚感が発現し、肌着分野には適用し難いという課題がある。
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消するものであり、厚さが薄いにもかかわらず、ソフト性と共に吸放湿性に優れ、かつ積極的な保温性をも布帛に付与しうる紡績糸と、この紡績糸を用いてなる布帛とを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、このような課題を解決するものであって、太陽光選択吸収型ポリエステル繊維を含む芯部と、溶剤紡糸セルロース繊維を含む鞘部とからなる長短複合紡績糸であって、紡績糸中に占める前記太陽光選択吸収型ポリエステル繊維の質量比率が15〜60質量%であり、紡績糸中に占める前記溶剤紡糸セルロース繊維の質量比率が40〜85質量%であり、かつ撚係数が3.5〜4.5であることを特徴とする長短複合紡績糸を要旨とし、さらに、かかる長短複合紡績糸を用いてなる布帛を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、厚さが薄いにもかかわらず、ソフト性と共に吸放湿性に優れ、かつ積極的な保温性をも布帛に付与しうる紡績糸と、この紡績糸を用いてなる布帛とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の長短複合紡績糸は、特定の繊維を用いてなるものである。すなわち、本発明の長短複合紡績糸は、太陽光選択吸収型ポリエステル繊維を含む芯部と、溶剤紡糸セルロース繊維を含む鞘部とからなる長短複合紡績糸である。
【0009】
本発明における太陽光吸収型ポリエステル繊維とは、光吸収熱変換機能を有する遷移金属炭化物微粒子を練り込んだ繊維形成性ポリマーから形成される長繊維糸条をいう。また、光吸収熱変換機能とは、可視光線、近赤外線などの光エネルギーを吸収し、そのエネルギーを熱エネルギーに転換、放射する機能をいう。
【0010】
本発明における繊維形成性ポリマーとしては、ナイロン6やナイロン66で代表されるポリアミド系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンで代表されるポリオレフィン系ポリマーの他、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマーなどが使用できる。本発明では、これらのポリマーをホモポリマーとしては勿論、必要に応じてコポリマーとして使用してもよい。
【0011】
本発明における太陽光選択吸収型ポリエステル繊維の糸条形態としては、フラット糸、仮撚加工糸及び混繊糸のいずれも採用可能であるが、水分拡散性や伸縮性の観点から、仮撚加工糸が好ましく採用できる。これは、一般に仮撚加工糸はバルキー性に優れることから、糸条内の繊維間隙を広げることができるためである。
【0012】
糸条の仮撚加工には、市販の仮撚機械を用いることができ、仮撚条件としても一般の条件が準用できる。例えば、繊維形成性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを採用した場合、撚数T(t/m)としては3000/D≦T≦3500/D(D:供給糸のトータル繊度(dtex))が好ましく、ヒーター温度としては180〜220℃が好ましい。このとき、使用するヒーターの数としては、特に限定されず、加工糸の糸質を勘案して適宜決定すればよい。
【0013】
また、太陽光選択吸収型ポリエステル繊維のトータル繊度としては、特に限定されるものでないが、布帛の厚み、目付けを考慮し、33〜167dtxが好ましい。
【0014】
一方、本発明における溶剤紡糸セルロース繊維とは、特定の溶剤にパルプを溶解して得た紡糸原液を、特定の手段で紡糸して得られたものである。具体的には、N−メチルモルフォリン−N−オキサイド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピペリジン−N−オキサイド、ジメチルアセトアミドといった溶剤にパルプを溶解し、濾過して不純物を除去した後、得られた紡糸原液を乾式紡糸又は湿式紡糸することにより、当該繊維を得ることができる。
【0015】
本発明では、最終的に得られる布帛の風合いを考慮し、溶剤紡糸セルロース繊維の単糸繊度を1.0〜4.0dtexとするのが好ましい。そして、布帛の風合い及び最終的に得られる紡績糸の工程通過性を考慮し、かかる溶剤紡糸セルロース繊維は、短繊維束の状態で用いるのが好ましい。したがって、繊維を紡糸した後は、所定の長さに繊維を切断する。なお、好ましい単繊維長は、30.0〜60.0mmである。
【0016】
本発明の長短複合紡績糸は、上記の太陽光選択吸収型ポリエステル繊維と溶剤紡糸セルロース繊維とを用いた紡績糸である。本発明の紡績糸は、所謂芯鞘構造を呈するものであり、布帛の風合いと保温性とを考慮し、太陽光選択吸収型ポリエステル繊維のみを用いて芯部を、かつ溶剤紡糸セルロース繊維のみを用いて鞘部を形成することが最も好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、芯・鞘部共に他の繊維を含有させてもよい。
【0017】
ここで、他の繊維としては、綿、麻、羊毛などの天然繊維、レーヨン、ポリノジックなどの再生繊維、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリウレタンなどの合成繊維があげられる。
【0018】
ただし、本発明では、布帛の風合いと保温性とを考慮し、紡績糸中に占める前記太陽光選択吸収型ポリエステル繊維の質量比率が15〜60質量%であり、かつ紡績糸中に占める前記溶剤紡糸セルロース繊維の質量比率が40〜85質量%である必要がある。太陽光選択吸収型ポリエステル繊維の質量比率が15質量%未満(又は溶剤紡糸セルロース繊維の質量比率が85質量%を超える)になると、布帛が十分な保温性を発揮できなくなる。一方、太陽光選択吸収型ポリエステル繊維の質量比率が60質量%を超える(又は溶剤紡糸セルロース繊維の質量比率が40質量%未満になる)と、布帛に十分なソフト性及び吸放湿性を付与できなくなる。
【0019】
また、紡績糸の撚係数としては、3.5〜4.5であることが必要である。撚係数とは、A=T/N(ただし、A:撚係数、T:撚数(t/2.54cm)、N:太さ(英式綿番手))なる式で算出されるものであり、撚係数が3.5未満になると、芯部と鞘部とが剥離してしまい、撚係数が4.5を超えると、糸が粗硬になったり布帛に斜向が生じたりする。
【0020】
さらに、紡績糸の太さとしては、特に限定されるものでないが、布帛の厚み、目付けを考慮し、30〜60番手(英式綿番手)が好ましい。
【0021】
本発明の紡績糸は、以上のような構成を有するものであり、単独糸の他、2本双糸、3本双糸又は他の任意の糸条と混合して使用される。
【0022】
本発明では、かかる紡績糸を用いて、積極的な保温性と優れた風合いとを具備する、新規な布帛を得ることができる。なお、ここでいう布帛とは、よこ編み、たて編み、織物、不織布を指し、布帛となした後、必要に応じ、染色や付帯加工する。本発明の布帛は、特に肌着衣料に適している。
【0023】
次に、本発明の紡績糸を得るための手段について説明する。
【0024】
本発明の紡績糸は、基本的にリング紡績法に準じて作製することが可能である。具体的には、リング精紡機内のバックローラーに、まず溶剤紡糸セルロース繊維を含む繊維束を供給し、次いで、該繊維束をドラフトしながらフロントローラーに供給すると共に、太陽光選択吸収型ポリエステル繊維を含む糸条を同時にフロントローラーへ供給し、ここで両者を重ね合わせた後、撚係数3.5〜4.5で加撚する。
【実施例】
【0025】
次に本発明を実施例により具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
まず、太陽光選択吸収型ポリエステル繊維から構成されるウーリー加工糸56dtex24fと、単糸繊度1.3dtx、単繊維長38mmの溶剤紡糸セルロース繊維から構成される粗糸とを用意した。次に、リング精紡機にこれら2本の糸を導入し、芯部に太陽光選択吸収型ポリエステル繊維を、鞘部に溶剤紡糸セルロース繊維を配してなる、太さ40番手(英式綿番手)、撚係数3.9、芯鞘質量比40/60の長短複合紡績糸を作製した。
【0027】
次いで、上記長短複合紡績糸を用いて、(株)福原精機製ダブルニット機「LPJ−H型(商品名)」(釜系76cm、針密度24ゲージ)にて、スムース編地を編成した。編成後、公知法に準じて精錬、染色、仕上セットし、本発明の布帛を得た。
【0028】
(比較例1)
太陽光選択吸収型ポリエステル繊維から構成されるウーリー加工糸56dtex24fに代えて、ポリエチレンテレフタレートポリマーのみを用いた繊維から構成されるウーリー加工糸56dtex24fを用いる以外は、実施例1と同様にして紡績糸及布帛を得た。
【0029】
(比較例2)
ポリエチレンテレフタレートポリマーのみを用いた繊維から構成されるウーリー加工糸167dtx48fを用意し、以降は実施例1と同様に行い、布帛を得た。
【0030】
上記で得られた3つの布帛につき、風合い、吸湿性及び保温性を相対評価した。なお、風合い及び吸湿性は、官能評価により行い、保温性は、室温20℃、湿度65%で恒温恒湿に保たれた室内において、サーモビュアJTG−4200(日本電子(株)製、赤外線センサー)を用いて、エネルギー源として写真用100W白色光源を照射したときの布帛の表面温度を測定した。
【0031】
これによると、実施例1にかかる布帛は、上記3性能とも全て他の布帛よりも優れていた。それに対し、比較例1にかかる編地は、風合い、吸湿性は優れていたものの、保温性の点で実施例1にかかる布帛より劣り、比較例1にかかる布帛は、3性能とも全て実施例1に比べ劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光選択吸収型ポリエステル繊維を含む芯部と、溶剤紡糸セルロース繊維を含む鞘部とからなる長短複合紡績糸であって、紡績糸中に占める前記太陽光選択吸収型ポリエステル繊維の質量比率が15〜60質量%であり、紡績糸中に占める前記溶剤紡糸セルロース繊維の質量比率が40〜85質量%であり、かつ撚係数が3.5〜4.5であることを特徴とする長短複合紡績糸。
【請求項2】
請求項1記載の長短複合紡績糸を用いてなる布帛。


【公開番号】特開2009−150008(P2009−150008A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327240(P2007−327240)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】