説明

長繊維ろ過装置の逆洗方法および長繊維ろ過装置の逆洗装置

【課題】殺菌剤の添加量を低減し、効率よく長繊維ろ材の洗浄を行うことができる長繊維ろ過装置の逆洗方法を提供する。
【解決手段】ろ過塔70と、ろ過塔70内部に設けられた支持体74と、支持体74に下端を固定されるとともに、その上端を自由端とした長繊維束72とを有する、長繊維束72により被処理水中の懸濁物質を捕捉する長繊維ろ過装置12の逆洗方法であって、水を含む洗浄水により逆洗を行う第一逆洗工程と、第一逆洗工程の後に、水および殺菌剤を含む殺菌剤含有水により逆洗を行う第二逆洗工程と、を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理水等の原水中の懸濁物質等を除去するための長繊維ろ過装置の逆洗方法および逆洗装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、下水処理施設等の各種処理工程において、原水中の懸濁物質(SS)等を除去するためのろ過処理として、長繊維束をろ過材として用いたろ過処理が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1および特許文献2には、ろ過装置内部の下方部に支持体を設け、当該支持体の上部に長繊維束の下端を固定するとともに、その上端を自由端としたろ過体を形成し、長繊維束の上端から下端に向かって下降流で原水を通水して、長繊維束内の空隙部により原水中の懸濁物質等を捕捉するろ過装置が記載されている。
【0004】
この長繊維束を用いた長繊維ろ材は比表面積が大きく、ろ過抵抗が小さいため、高速かつ高能力のろ過を行うことができるろ材として注目され、特に浄水処理における粗ろ過や下水の三次処理等に利用されている。
【0005】
このような長繊維ろ材を用いたろ過装置において長時間ろ過を行うと、原水中の懸濁物質等がろ材に堆積してろ過性能が劣化(特にろ過抵抗が増大)するため、ろ材に対してろ過方向と逆の方向に洗浄水等の洗浄液を通過させて堆積した懸濁物質等を除去する、いわゆる逆洗という洗浄が行われる。
【0006】
長繊維ろ材は、その一端が支持体に固定されているので高速に逆洗を行うことができ、その洗浄時間(逆洗時間)が短時間で済むという特徴がある。しかし、継続してろ過を行うと、長繊維ろ材内には微生物に由来する付着物やその他有機物や金属等が付着し始める。この付着物等は上記のような通常の逆洗を行っても除去が困難である。
【0007】
そこで、このような微生物由来の付着物等を効果的に除去または付着防止するために一般に殺菌洗浄が行われる。この殺菌洗浄には、例えば特許文献3のように、逆洗用の洗浄水(逆洗水)に塩素系殺菌剤等の殺菌剤を添加して逆洗を行うものがある。この場合、通常、逆洗後の排水(逆洗排水)中の残留塩素濃度が0.5〜数mg/Lとなるように殺菌剤の添加量が調整される。
【0008】
このように従来の技術では、逆洗時に殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系殺菌剤を添加する場合、逆洗排水中の残留塩素濃度が0.5mg/L以上となるように添加量を制御していた。しかし、この条件で逆洗を行う場合、長繊維ろ材が捕捉した懸濁物質や微生物等により塩素が消費されるため、多量の次亜塩素酸ナトリウム等を添加しなければならない問題があった。また多量に次亜塩素酸ナトリウム等を添加すると、逆洗排水中の残留塩素濃度が増加するため、長繊維ろ過装置の前段側が生物処理装置である場合、逆洗排水を前段の生物処理槽に戻すと、生物処理に悪影響を及ぼす場合もあった。
【0009】
また、従来のように逆洗排水中の残留塩素が0.5mg/L程度になるように次亜塩素酸ナトリウム等を添加しても付着物等を除去しきれず、初期のろ過抵抗が上昇する場合があった。さらに、原水によっては逆洗排水中の残留塩素が1.5mg/L以上となるように次亜塩素酸ナトリウム等を添加しても、付着物等を除去しきれず、初期のろ過抵抗が上昇してしまい、通水が困難になる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−315110号公報
【特許文献2】特開平1−304011号公報
【特許文献3】特開2006−175342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、殺菌剤の添加量を低減し、効率よく長繊維ろ材の洗浄を行うことができる長繊維ろ過装置の逆洗方法および逆洗装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ろ過塔と、前記ろ過塔内部に設けられた支持体と、前記支持体に下端を固定されるとともに、その上端を自由端とした長繊維束とを有する、長繊維束により被処理水中の懸濁物質を捕捉する長繊維ろ過装置の逆洗方法であって、水を含む洗浄水により逆洗を行う第一逆洗工程と、前記第一逆洗工程の後に、水および殺菌剤を含む殺菌剤含有水により逆洗を行う第二逆洗工程と、を含む長繊維ろ過装置の逆洗方法である。
【0013】
また、前記長繊維ろ過装置の逆洗方法において、前記第一逆洗工程における洗浄時間が、前記第一逆洗工程における洗浄時間および前記第二逆洗工程における洗浄時間を合わせた全洗浄時間の10〜30%の範囲であることが好ましい。
【0014】
また、前記長繊維ろ過装置の逆洗方法において、前記殺菌剤が塩素系殺菌剤であり、前記第二逆洗工程における逆洗排水中の残留塩素濃度が0.5〜10mg/Lの範囲になるように前記殺菌剤の添加量を制御することが好ましい。さらに好ましくは、前記第二逆洗工程における逆洗排水中の残留塩素濃度が1.5〜5mg/Lの範囲になるように前記殺菌剤の添加量を制御するのがよい。
【0015】
また、前記長繊維ろ過装置の逆洗方法において、前記第二逆洗工程の後に、前記長繊維束と殺菌剤とを所定の時間接触させる浸漬工程を含むことが好ましい。
【0016】
また、前記長繊維ろ過装置の逆洗方法において、前記長繊維ろ過装置により処理する被処理水が、生物処理を行う生物処理工程と、前記生物処理工程で処理した水を固液分離する固液分離工程とを少なくとも含む生物処理で処理した生物処理水であり、前記長繊維ろ過装置で発生する逆洗排水を前記生物処理工程および前記生物処理工程の上流側の少なくとも1つに返送する返送工程を含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明は、ろ過塔と、前記ろ過塔内部に設けられた支持体と、前記支持体に下端を固定されるとともに、その上端を自由端とした長繊維束とを有する、長繊維束により被処理水中の懸濁物質を捕捉する長繊維ろ過装置の逆洗装置であって、前記ろ過塔内部に水を含む洗浄水を導入する逆洗水導入手段と、前記ろ過塔内部に水および殺菌剤を含む殺菌剤含有水を導入する殺菌剤含有水導入手段と、前記洗浄水により逆洗を行った後に、前記殺菌剤含有水により逆洗を行うように制御する洗浄制御手段と、を有する長繊維ろ過装置の逆洗装置である。
【0018】
また、前記長繊維ろ過装置の逆洗装置において、前記洗浄制御手段は、前記洗浄水による洗浄時間が、前記洗浄水による洗浄時間および前記殺菌剤含有水による洗浄時間を合わせた全洗浄時間の10〜30%の範囲となるように制御することが好ましい。
【0019】
また、前記長繊維ろ過装置の逆洗装置において、前記殺菌剤が塩素系殺菌剤であり、前記殺菌剤含有水による洗浄により発生する逆洗排水中の残留塩素濃度が0.5〜10mg/Lの範囲になるように前記殺菌剤の添加量を制御する殺菌剤添加量制御手段を有することが好ましい。さらに好ましくは、前記殺菌剤含有水による洗浄により発生する逆洗排水中の残留塩素濃度が1.5〜5mg/Lの範囲になるように前記殺菌剤の添加量を制御する殺菌剤添加量制御手段を有するのがよい。
【0020】
また、前記長繊維ろ過装置の逆洗装置において、前記殺菌剤含有水による洗浄の後に前記長繊維束と殺菌剤とを所定の時間接触させる浸漬手段を有することが好ましい。
【0021】
また、前記長繊維ろ過装置の逆洗装置において、前記長繊維ろ過装置により処理する被処理水が、生物処理を行う生物処理槽と、前記生物処理槽で処理した水を固液分離する固液分離装置とを少なくとも有する生物処理装置で処理した生物処理水であり、前記長繊維ろ過装置で発生する逆洗排水を前記生物処理槽および前記生物処理槽の上流側の少なくとも1つに返送する返送手段を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、長繊維ろ過装置の逆洗において、洗浄水により逆洗を行った後に、殺菌剤含有水により逆洗を行うことにより、殺菌剤の添加量を低減し、効率よく長繊維ろ材の洗浄を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るろ過システムの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る水処理システムの一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施例における全逆洗時間に対する経過時間と逆洗排水SSとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0025】
本発明の実施形態に係るろ過システムの一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。ろ過システム1は、原水槽10と、長繊維ろ過装置12と、処理水槽14と、逆洗排水槽16と、殺菌剤貯槽18とを備える。
【0026】
図1のろ過システム1において、原水槽10には配管52が接続され、原水槽10と長繊維ろ過装置12の上方部とがポンプ28、バルブ38を介して配管54により、長繊維ろ過装置12の下方部と処理水槽14とがバルブ42を介して配管56により、処理水槽14と長繊維ろ過装置12の下方部とがポンプ30、バルブ46を介して配管64により、長繊維ろ過装置12の上方部と逆洗排水槽16とがバルブ40を介して配管58により接続され、処理水槽14にはポンプ34、バルブ44を介して配管62が接続され、逆洗排水槽16にはポンプ32を介して配管60が接続されている。長繊維ろ過装置12の下方部には気体供給装置としてブロワ20がバルブ50を介して配管68により接続されている。配管64のバルブ46の下流側には殺菌剤貯槽18がポンプ36、バルブ48を介して配管66により接続されている。配管58のバルブ40の上流側および逆洗排水槽16には殺菌剤濃度測定装置24,26がそれぞれ設置されている。殺菌剤濃度測定装置24はポンプ36と電気的接続手段等により接続されている。長繊維ろ過装置12には圧力測定装置として差圧計22が設置されている。長繊維ろ過装置12は、ろ過塔70と、ろ過塔70内部の下方部に設けられた支持体74と、長繊維ろ材として、支持体74に下端を固定されるとともに、その上端を自由端とした1つまたは複数の長繊維束72とを有する。通常は、長繊維束72はろ過塔70内に充満するように充填される。
【0027】
ろ過システム1の動作について、図1を参照して説明する。
【0028】
(i)ろ過工程
被処理水である原水は配管52を通して原水槽10に供給、貯留される。バルブ38,42が開状態、バルブ40,44,46,48,50が閉状態とされて、ポンプ28が運転されることにより、原水は配管54を通して長繊維ろ過装置12のろ過塔70内部に上方部から供給される。当初、水中で全体的にほぼ直立した状態となっていた長繊維束72は、自重および原水の水流により屈曲して、その高さが縮んだ状態となる。ろ過塔70の上方部から流入された原水は、ろ過塔70の上方部から下方部に向かって、すなわち長繊維束72の上端から下端に向かって下降流で通過し、長繊維束72の空隙部等により原水中の懸濁物質等が捕捉される。清澄となった処理水はろ過塔70の下方部から流出され、配管56を通って処理水槽14に流入される。処理水槽14の水位が所定の高さより高くなった場合は、バルブ44が開状態とされ、ポンプ34が運転されることにより、処理水は処理水槽14から配管62を通して排出される。処理水槽14の水位が所定の高さより低くなった場合は、ポンプ34が停止され、バルブ44が閉状態とされればよい。
【0029】
原水の通水中において、長繊維束72は上述のように高さ方向に縮んだ状態となるが、長繊維束72の上方部に比べて下方部がより屈曲している状態となるため、下方部において長繊維束72が密に充填され、その結果、原水中の懸濁物質等は長繊維束72の高さ方向全体の空隙部、表面等に効果的に捕捉される。
【0030】
長繊維束72を構成する長繊維の材質としては、アクリル系、ポリエステル系、ポリプロピレン系、ポリアミド系、ポリアクリルアミド系、ケブラー等の合成繊維;綿、羊毛等の天然繊維などが挙げられ、これらの混合繊維であってもよい。強度が高い等の点から合成繊維が好ましく、加工性が良いとされているポリエステル系合成繊維が好ましい。
【0031】
(ii)逆洗工程
原水の通水を続けていくと、長繊維束72の空隙部等に懸濁物質等が捕捉され、次第にろ過抵抗が増加していく。ろ過抵抗が予め設定された値以上になった場合、あるいは処理水の水質が予め設定された値より悪化した場合には、原水の通水を停止し、長繊維束72に対してろ過方向と逆の方向に水を含む洗浄水等を通過させて堆積した懸濁物質等を除去、洗浄する、いわゆる逆洗を行う。
【0032】
例えば、差圧計22により測定される差圧が予め設定された値以上になった等の場合、バルブ38,42,44が閉状態とされ、ポンプ28,34が停止される。バルブ40,46,50が開状態とされ、ブロワ20、ポンプ30が運転されることにより、ろ過塔70の下方部より、配管68を通して供給される空気等の気体とともに、水を含む洗浄水として処理水槽14中の処理水が配管64を通して供給され、長繊維束72に対してろ過方向と逆の方向に気体および洗浄水が通過して堆積した懸濁物質等が除去、洗浄される(第一逆洗工程)。洗浄水はろ過塔70の上方部から流出され、逆洗排水として、配管58を通して逆洗排水槽16に流入される。この場合、ポンプ30が逆洗水導入手段として機能する。洗浄水として原水がろ過塔70の下方部より供給(図示せず)されてもよい。この場合、ポンプ28が逆洗水導入手段として機能する。
【0033】
第一逆洗工程が予め設定された時間(この第一逆洗工程における洗浄水による洗浄時間を「第一洗浄時間」と呼ぶ)行われた後、バルブ48が開状態とされ、ポンプ36が運転されることにより、殺菌剤貯槽18から殺菌剤が配管66を通して配管64の処理水に供給されて水および殺菌剤を含む殺菌剤含有水がろ過塔70の下方部より配管64を通して、配管68を通して供給される空気等の気体とともに供給され、長繊維束72に対してろ過方向と逆の方向に気体および殺菌剤含有水が通過して殺菌処理される(第二逆洗工程)。図示しない洗浄制御手段により、洗浄水による第一逆洗工程の後に、殺菌剤含有水による第二逆洗工程が行われるように制御される。殺菌剤含有水はろ過塔70の上方部から流出され、逆洗排水として、配管58を通して逆洗排水槽16に流入される。この場合、ポンプ30およびポンプ36が殺菌剤含有水導入手段として機能する。洗浄水として原水がろ過塔70の下方部より供給される場合には、ポンプ28およびポンプ36が殺菌剤含有水導入手段として機能する。
【0034】
第二逆洗工程において、殺菌剤濃度測定装置24により測定される配管58における逆洗排水中の残留殺菌剤の濃度が予め設定された範囲内(この第二逆洗工程における逆洗排水中の残留殺菌剤濃度の設定範囲を「第一設定範囲」と呼ぶ)になるように、図示しない殺菌剤添加量制御手段等によってポンプ36の流量等が調整されることにより、殺菌剤の添加量が制御される。
【0035】
逆洗排水槽16の水位が所定の高さより高くなった場合は、ポンプ32が運転されることにより、逆洗排水は逆洗排水槽16から配管60を通して排出される。逆洗排水槽16の水位が所定の高さより低くなった場合は、ポンプ32が停止されればよい。
【0036】
第二逆洗工程が予め設定された時間(この第二逆洗工程における殺菌剤含有水による洗浄時間を「第二洗浄時間」と呼ぶ)行われた後、バルブ40,46,48,50が閉状態とされ、ポンプ30,36、ブロワ20が停止される。
【0037】
第二逆洗工程が終了したら、必要に応じて、ろ過工程に戻ればよい。
【0038】
本実施形態では、長繊維ろ材に捕捉された懸濁物質等の大部分を洗浄水による逆洗(第一逆洗工程)により排出した後から逆洗水への殺菌剤の添加を開始する。長繊維ろ材に捕捉された懸濁物質等は、通常の洗浄水による逆洗による物理的な洗浄で大部分が除去されるため、それらを洗浄水による逆洗により排出した後から逆洗水への殺菌剤の添加を開始することで、殺菌剤の添加量を大幅に削減でき、効率よく長繊維ろ材の殺菌を行うことができる。
【0039】
本実施形態において、第一逆洗工程における洗浄時間(第一洗浄時間)は、第一逆洗工程における洗浄時間(第一洗浄時間)および第二逆洗工程における洗浄時間(第二洗浄時間)を合わせた全洗浄時間の10〜30%の範囲であることが好ましい。逆洗工程で使用する逆洗水の水量は、通常、ろ過層体積(本実施形態においては、充填された長繊維ろ材の長さ×ろ過面積)の8倍〜10倍量程度であり、逆洗水の線速度(LV)は、45〜100m/h程度である。そして、後述する図3に示すように、第一逆洗工程において逆洗水全使用量の10〜30vol%を使用した時点で長繊維ろ材に捕捉された懸濁物質等の5〜8割が除去される。通常、逆洗水量の設定は逆洗工程中に変えないため、第一洗浄時間が、全洗浄時間の10〜30%の範囲であれば、長繊維ろ材に捕捉された懸濁物質等の5〜8割が除去されるので、そのタイミングで殺菌剤を添加して第二逆洗工程を行うのがよい。洗浄時間の制御は、図示しない洗浄制御手段により行われる。
【0040】
殺菌剤としては、特に制限はないが、殺菌性等の点から、通常、塩素系殺菌剤が用いられる。塩素系殺菌剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、液体塩素、さらし粉、クロラミンT等が挙げられ、殺菌性、汎用性等の点から次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0041】
殺菌剤として塩素系殺菌剤を用いる場合、第二逆洗工程における配管58の逆洗排水中の残留塩素濃度(第一設定範囲)が0.5〜10mg/Lの範囲になるように塩素系殺菌剤の添加量を制御することが好ましく、1.5〜5mg/Lの範囲になるように塩素系殺菌剤の添加量を制御することがより好ましい。第二逆洗工程における逆洗排水中の残留塩素濃度が0.5mg/L未満では、長繊維ろ材の殺菌が十分行われない可能性があり、10mg/Lを超えると、逆洗排水の排水先に影響を及ぼす可能性がある。
【0042】
ろ過塔70の上方部と支持体74下方部との間の差圧の設定値としては、1〜1.5mAq(0.1〜0.15kgf/cmまたは9.8〜14.7×10−3MPa)の範囲であることが好ましい。差圧は、図1に示すように、差圧計22を設けることにより、測定することができる。その他には、ろ過塔70への原水流入のための配管54および処理水流出のための配管56に圧力測定装置として圧力計を取り付けて制御部で差分を読み取る方法や、ろ過塔70として重力型ろ過池を用いた場合には長繊維束72の上部から1〜1.5m程度の付近にレベルスイッチを取り付けてろ過抵抗を読み取る(重力型ではろ過抵抗が高くなるとろ過池内の水位が高くなる)方法等が挙げられる。
【0043】
本実施形態において、第二逆洗工程の後に、長繊維束72と殺菌剤とを所定の時間接触させる以下の浸漬工程を行うことが好ましい。第二逆洗工程終了後にすぐにろ過工程に戻らずに、長繊維ろ材と殺菌剤との接触時間を長くし、殺菌効果を高める浸漬工程を設けると洗浄、殺菌がさらに効果的になる。
【0044】
(iii)浸漬工程
例えば、ろ過継続時間が予め設定した値の30%以上減少した場合に浸漬工程が行われる。第二逆洗工程が予め設定された時間(第二洗浄時間)行われた後、ポンプ30が停止され、バルブ40,46が閉状態とされ、ブロワ20により空気撹拌されながら殺菌剤濃度測定装置24により測定される逆洗排水中の残留殺菌剤の濃度が予め設定された範囲内(この浸漬工程における逆洗排水中の残留殺菌剤濃度の設定範囲を「第二設定範囲」と呼ぶ)になるように、図示しない殺菌剤添加量制御手段によってポンプ36の流量等が調整されることにより、殺菌剤の添加量が制御される。殺菌剤濃度測定装置24により測定される逆洗排水中の残留殺菌剤の濃度が第二設定範囲内に到達したら、バルブ48が閉状態とされ、ポンプ36が停止され、予め設定された浸漬時間の間、ブロワ20により空気撹拌されながら長繊維束72が殺菌剤含有水に浸漬され、殺菌剤に接触される。この場合、ろ過塔70が浸漬手段として機能する。予め設定された浸漬時間が経過したら、バルブ50が閉状態とされ、ブロワ20が停止される。
【0045】
浸漬工程が終了したら、必要に応じて、ろ過工程に戻ればよい。
【0046】
殺菌剤として塩素系殺菌剤を用いる場合、浸漬工程における配管58の逆洗排水中の残留塩素濃度(第二設定範囲)が1.5〜15mg/Lの範囲になるように塩素系殺菌剤の添加量を制御することが好ましい。浸漬工程における逆洗排水中の残留塩素濃度が1.5mg/L未満では、長繊維ろ材の殺菌が十分行われない可能性があり、15mg/Lを超えると、逆洗排水の排水先に影響を及ぼす可能性がある。
【0047】
浸漬工程における浸漬時間は、15分から60分の範囲が好ましい。15分より短いと長繊維ろ材との接触時間が短いため効果が低くなる場合があり、60分を超えると逆洗時間が長くなり、一日に処理できる水量が減少する場合がある。
【0048】
本実施形態に係る長繊維ろ過装置は、上水道水、下水処理水、河川水、湖沼水、凝集沈殿上澄み水、各種工程中間水、各種回収水、各種廃水等の原水中の懸濁物質等を除去するために用いることができ、特に、生物処理による下水処理水等の生物処理水中の懸濁物質等を除去するために好適に用いることができる。
【0049】
図2は、本実施形態に係るろ過システムを生物処理装置で処理した生物処理水の処理に用いる場合の水処理システムの一例を示す概略図である。
【0050】
水処理システム3は、ろ過システム1の前段側に生物処理装置5を備える。生物処理装置5は、沈砂池78と、最初沈殿池80と、生物処理を行う生物処理槽82と、生物処理槽で処理した水を固液分離する固液分離装置として最終沈殿池84とを備える。
【0051】
生物処理装置5において、下水等の被処理水は、沈砂池78において土砂等が沈殿により分離され、最初沈殿池80において沈砂池78で除去されなかった浮遊物等が沈殿により分離された後、生物処理槽82において活性汚泥により生物処理が行われて汚れが分解され(生物処理工程)、最終沈殿池84において活性汚泥が沈殿により分離される(固液分離工程)。得られた生物処理水は、被処理水としてろ過システム1に送られ、長繊維ろ材によるろ過処理が行われる。ろ過システム1においてろ過処理が行われた処理水は、滅菌池76において消毒された後、河川や海等に放流される。
【0052】
本実施形態に係る水処理システム3において、長繊維ろ過装置12で発生する逆洗排水を生物処理槽82で行われる生物処理工程および生物処理槽82、すなわち生物処理工程の上流側の少なくとも1つに返送する返送工程を含んでもよい。図2の例では、生物処理槽82の上流側である沈砂池78に逆洗排水が返送されているが、最初沈殿池80に返送されてもよいし、生物処理槽82に返送されてもよい。これらの場合、ポンプ32が返送手段として機能する。
【0053】
本実施形態では、逆洗排水槽16内の逆洗排水の残留殺菌剤濃度を低濃度に維持することができるため、逆洗排水を生物処理に戻すことができる。また、殺菌剤の添加量を削減することができるため、生物処理に戻す逆洗排水の殺菌剤の濃度が低くなり、生物処理が安定する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
図1に示すろ過システムを用いて、ろ過実験を行った。原水槽(800L)に下水二次処理水を溜め、ろ過速度1,000m/dayにて、ろ過層が1mになるように長繊維ろ材を充填したろ過塔(φ280mm×2,000mm)に通水した。ろ過抵抗が1,000mmに達したら、ろ材が捕捉した懸濁物質等を逆洗によって排出した。逆洗水の流量はLV 100m/h、逆洗空気の流量はLV 400m/hで固定し、空気および水逆洗を4分間行った後に、水逆洗を2分間行った。逆洗中は残留塩素計にて残留塩素濃度を測定し、所定の濃度になるように次亜塩素酸ナトリウム注入ポンプの吐出量をコントロールした。逆洗工程で使用した逆洗水の水量は、ろ過層体積(充填した長繊維ろ材の長さ1m×ろ過面積0.0615m)の10倍程度であった。
【0056】
<実施例1〜3、比較例1>
一般的な下水処理水を原水として用い、二ヶ月間通水した。水質はSS:1.5mg/L、BOD:5mg/L、T−N:6mg/L、NO−N:5mg/L、NH−N:1mg/Lであった。24時間連続通水するか、ろ過抵抗1,000mmに達したら逆洗を行った。
【0057】
表1に逆洗条件および実験結果を示す。比較例1は逆洗開始直後から、逆洗排水ライン中の残留塩素が1.5mg/Lになるように殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加した条件である。実施例1では、全洗浄時間の30%経過後(ろ過層体積の三倍量程度の逆洗水および逆洗空気で洗浄した後)から、殺菌剤として次亜塩素酸ナトリウムを逆洗排水ライン中の残留塩素として1.5mg/Lになるように添加した。実施例1を基本条件とし、残留塩素として0.5mg/Lになるように添加した条件が実施例2であり、次亜塩素酸ナトリウムを全洗浄時間の10%経過後(ろ過層体積の一倍量程度の逆洗水および逆洗空気で洗浄した後)に添加した条件が実施例3である。
【0058】
【表1】

【0059】
[結果]
比較例1では、二ヵ月後のろ過抵抗は通水初期とほぼ変わらなかったが、次亜塩素酸ナトリウム添加量および逆洗排水槽内の残留塩素濃度が高かった。これに対して、実施例1では、二ヵ月後のろ過抵抗は比較例1と同等であり、次亜塩素酸ナトリウム添加量および逆洗排水槽内の残留塩素濃度が比較例1よりも大幅に減った。実施例2では、次亜塩素酸ナトリウム添加量および逆洗排水槽内の残留塩素濃度は非常に低かったが、二ヵ月後のろ過抵抗が上昇した。実施例3では、二ヵ月後のろ過抵抗は比較例1と同等であり、次亜塩素酸ナトリウム添加量および残留塩素濃度は比較例1よりやや低かった。
【0060】
実施例2および実施例3は、全洗浄時間の30%経過後(ろ過層体積の三倍量程度の逆洗水および逆洗空気で洗浄した後)から次亜塩素酸ナトリウムを添加したことで次亜塩素酸ナトリウムの使用量が減少した。また、次亜塩素酸ナトリウム添加前に排出されたSSにより残留塩素が消費されるため、逆洗排水槽内の残留塩素濃度が大幅に減少した。実施例3では全洗浄時間の10%経過後(ろ過層体積の一倍量程度の逆洗水および逆洗空気で逆洗した後)から次亜塩素酸ナトリウムの添加を開始したため、次亜塩素酸ナトリウムの使用量および逆洗排水槽内の残留塩素濃度は大幅には下がらなかった。実施例2では残留塩素濃度0.5mg/Lで添加量を制御したため、通水二ヵ月後にはろ過抵抗が上昇した。
【0061】
図3に全逆洗時間に対する経過時間(%)と逆洗排水SS(mg/L)との関係を示す。図3のグラフの面積は、逆洗により排出されるSS量に比例している。全逆洗時間に対して30%の時間が経過すると、捕捉したSSの大部分(80%程度)が排出されることがわかる。また、全逆洗時間に対して10%の時間が経過すると、捕捉したSSの50%程度が排出されることがわかる。
【0062】
<実施例4,5、比較例2>
ろ過抵抗が上がりやすいとされている下水処理水を原水として二ヶ月間通水した。水質はSS:3.5mg/L、BOD:22mg/L、T−N:24mg/L、NO−N:2mg/L、NH−N:22mg/Lであった。48時間連続通水を行うか、ろ過抵抗が1,000mmに達したら逆洗を行った。
【0063】
表2に逆洗条件および結果を示す。実験は、比較例1と同様の条件とした比較例2、実施例1と同様の条件とした実施例4、実施例4を基本条件とし、一週間に一回、浸漬工程として残留塩素濃度が2mg/L程度になるように次亜塩素酸ナトリウムを追加注入し、空気撹拌しながら30分間浸漬する実施例5を行った。
【0064】
【表2】

【0065】
[結果]
比較例2では、逆洗開始直後から次亜塩素酸ナトリウムを添加したため、次亜塩素酸ナトリウム使用量が多かった。実施例4および実施例5では、比較例2と比べて、次亜塩素酸ナトリウム使用量が大幅に減った。比較例2および実施例4では、浸漬工程が無いため、二ヵ月後のろ過継続時間が減少した。実施例5では、浸漬工程を設けたため、二ヵ月後のろ過継続時間はそれほど減少しなかった。また、実施例5では、浸漬工程で次亜塩素酸ナトリウムを追加注入したので、実施例4に比べて次亜塩素酸ナトリウム使用量がわずかに増えた。
【符号の説明】
【0066】
1 ろ過システム、3 水処理システム、5 生物処理装置、10 原水槽、12 長繊維ろ過装置、14 処理水槽、16 逆洗排水槽、18 殺菌剤貯槽、20 ブロワ、22 差圧計、24,26 殺菌剤濃度測定装置、28,30,32,34,36 ポンプ、38,40,42,44,46,48,50 バルブ、52,54,56,58,60,62,64,66,68 配管、70 ろ過塔、72 長繊維束、74 支持体、76 滅菌池、78 沈砂池、80 最初沈殿池、82 生物処理槽、84 最終沈殿池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過塔と、前記ろ過塔内部に設けられた支持体と、前記支持体に下端を固定されるとともに、その上端を自由端とした長繊維束とを有する、長繊維束により被処理水中の懸濁物質を捕捉する長繊維ろ過装置の逆洗方法であって、
水を含む洗浄水により逆洗を行う第一逆洗工程と、
前記第一逆洗工程の後に、水および殺菌剤を含む殺菌剤含有水により逆洗を行う第二逆洗工程と、
を含むことを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗方法。
【請求項2】
請求項1に記載の長繊維ろ過装置の逆洗方法であって、
前記第一逆洗工程における洗浄時間が、前記第一逆洗工程における洗浄時間および前記第二逆洗工程における洗浄時間を合わせた全洗浄時間の10〜30%の範囲であることを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の長繊維ろ過装置の逆洗方法であって、
前記殺菌剤が塩素系殺菌剤であり、前記第二逆洗工程における逆洗排水中の残留塩素濃度が0.5〜10mg/Lの範囲になるように前記殺菌剤の添加量を制御することを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のろ過装置の逆洗方法であって、
前記第二逆洗工程の後に、前記長繊維束と殺菌剤とを所定の時間接触させる浸漬工程を含むことを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のろ過装置の逆洗方法であって、
前記長繊維ろ過装置により処理する被処理水が、生物処理を行う生物処理工程と、前記生物処理工程で処理した水を固液分離する固液分離工程とを少なくとも含む生物処理で処理した生物処理水であり、
前記長繊維ろ過装置で発生する逆洗排水を前記生物処理工程および前記生物処理工程の上流側の少なくとも1つに返送する返送工程を含むことを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗方法。
【請求項6】
ろ過塔と、前記ろ過塔内部に設けられた支持体と、前記支持体に下端を固定されるとともに、その上端を自由端とした長繊維束とを有する、長繊維束により被処理水中の懸濁物質を捕捉する長繊維ろ過装置の逆洗装置であって、
前記ろ過塔内部に水を含む洗浄水を導入する逆洗水導入手段と、
前記ろ過塔内部に水および殺菌剤を含む殺菌剤含有水を導入する殺菌剤含有水導入手段と、
前記洗浄水により逆洗を行った後に、前記殺菌剤含有水により逆洗を行うように制御する洗浄制御手段と、
を有することを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗装置。
【請求項7】
請求項6に記載の長繊維ろ過装置の逆洗装置であって、
前記洗浄制御手段は、前記洗浄水による洗浄時間が、前記洗浄水による洗浄時間および前記殺菌剤含有水による洗浄時間を合わせた全洗浄時間の10〜30%の範囲となるように制御することを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の長繊維ろ過装置の逆洗装置であって、
前記殺菌剤が塩素系殺菌剤であり、
前記殺菌剤含有水による洗浄により発生する逆洗排水中の残留塩素濃度が0.5〜10mg/Lの範囲になるように前記殺菌剤の添加量を制御する殺菌剤添加量制御手段を有することを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載のろ過装置の逆洗装置であって、
前記殺菌剤含有水による洗浄の後に前記長繊維束と殺菌剤とを所定の時間接触させる浸漬手段を有することを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗装置。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載のろ過装置の逆洗装置であって、
前記長繊維ろ過装置により処理する被処理水が、生物処理を行う生物処理槽と、前記生物処理槽で処理した水を固液分離する固液分離装置とを少なくとも有する生物処理装置で処理した生物処理水であり、
前記長繊維ろ過装置で発生する逆洗排水を前記生物処理槽および前記生物処理槽の上流側の少なくとも1つに返送する返送手段を有することを特徴とする長繊維ろ過装置の逆洗装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−629(P2013−629A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131902(P2011−131902)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)