説明

長繊維不織布およびその製造方法

【課題】
本発明の課題はこれまで脂肪族ポリエステルを主成分とした長繊維ではなしえなかった高強度かつ高伸度である長繊維不織布を提供するものである。
【解決手段】
本発明はかかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、不織布目付が10〜400g/mの範囲であり、脂肪族ポリエステルにポリアミドがブレンドされた1〜10デシテックスの繊度の繊維を有する、熱接着により一体化されたことを特徴とする長繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルを主成分とした高強力且つ高伸度である長繊維不織布およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自然資源を原料とした生分解性ポリマーの研究が活発となっている。中でも力学特性やコスト等の面から注目を集めているのが脂肪族ポリエステルの一種であるポリ乳酸(以下、PLAとする。)である。しかしながら、このPLAでさえ力学的特性が問題視されており、高強力が必要とされる防草シート等の農業資材あるいはワイパー、フィルター等の工業資材への参入、製品展開拡大の障害となっている。そこでPLAあるいはPLAを主成分とする生分解性ポリマーで構成された不織布の力学的特性の向上については、種々の検討がなされている。
例えば、L−乳酸単位またはD−乳酸単位を80モル%以上含有するポリ乳酸重合体を特定の条件で製造することにより優れた強度が得られるとされている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、実施例に示されている強度についても十分なものではない。
【0004】
また、生分解性バインダーによる被膜を形成されてなるポリ乳酸系長繊維不織布が提案されている(特許文献2)。しかしながら、被膜を形成させるために生分解性水溶性エマルジョンを含浸するため、含浸、乾燥工程によるコストアップが問題となり、また実施例に示されている強度も十分ではない。このようにPLAあるいはPLAを主成分とし生分解性で構成された不織布の力学的特性の向上については限界があり、十分な強度を発現させることは困難な状況にあった。また、その一方で脂肪族ポリエステルを主成分とし非生分解性であるポリアミドがブレンドされた海島構造を有する樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。しかしながら、実施例に記載されているフィラメントは、PLA単成分に比べて耐熱性は向上されているものの、重要物性である強度は全く向上していない。
上記したように、PLA、あるいはPLAを主成分としながら、十分な力学的特性を発現させることは困難な状況であった。
【特許文献1】特開2001−20170号公報
【特許文献2】特開2004−44017号公報
【特許文献3】特開2003−238775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は前記した問題点を解消し、生分解性のポリマーを主成分としながら、高強力かつ高伸度である長繊維不織布を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.不織布目付が10〜400g/mの範囲であり、脂肪族ポリエステルとポリアミドを含むポリマーからなる単繊維繊度1〜10デシテックスの繊維を含む、熱接着により一体化されたことを特徴とする長繊維不織布。
2.下記式(I)の関係を満足することを特徴とする前記1記載の長繊維不織布。
200≧Y×Z/X≧80・・・・・・(I)
ただし、X:不織布目付(g/m)、Y:不織布の引張強力(N/5cm)、Z:不織布の引張伸度(%)
3.前記脂肪族ポリエステル/ポリアミドの重量比率が55/45〜95/5であることを特徴とする前記1または2に記載の長繊維不織布。
4.前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸、前記ポリアミドがナイロン6であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の長繊維不織布。
5.ポリ乳酸とナイロン6を含むポリマーを220〜260℃の温度で1〜10デシテックスの単繊維繊度となるように溶融紡糸し、口金から押出された糸条群をエジェクターで吸引して、該エジェクターから噴射された糸条群を下方に配設された捕集装置でネット上に捕集し、不織布目付が10〜400g/mの範囲となるように形成されたウェブを110〜160℃の温度に加熱したエンボスロールによって熱接着させて一体化することを特徴とするスパンボンド不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の長繊維不織布は、脂肪族ポリエステルを主成分としながら、高強力且つ高伸度であるものであり、より強度が必要とされる土木資材、農業資材あるいは工業資材等の分野に幅広く利用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明における長繊維不織布とは、スパンボンドやメルトブロー法などの長繊維不織布を指す。中でも、得られる不織布の引張強力や製造コストなどの点からスパンボンド法が好ましいものである。
【0010】
本発明の長繊維不織布は、脂肪族ポリエステルとポリアミドを含むポリマーからなる繊維を含むものである。脂肪族ポリエステルとポリアミドは、いわゆるポリマーブレンドないしポリマーアロイにより混合されていることが好ましい。ここで、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートバリレート、あるいはこれらのブレンド物、共重合体、変性物等を用いることができる。
【0011】
脂肪族ポリエステルの中でも紡糸性、力学的特性が良好であり、かつ比較的価格も低いポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸としては、L−乳酸および/またはD−乳酸を主成分とするポリエステルであることが好ましい。ポリ乳酸の分子量は、5万以上、好ましくは10万以上、さらに好ましくは20万以上がよい。分子量5万未満では強度等の繊維物性が低下し、製品品位、物性が低下することがある。
【0012】
また本発明の脂肪族ポリエステルは、分子鎖末端のカルボキシル基の一部、またはすべてが末端封鎖剤により末端封鎖されてなるものが好ましい。脂肪族ポリエステルの分子鎖末端のカルボキシル基の一部、またはすべてが末端封鎖されることにより、加水分解によるフィラメント、さらにはシートの強度低下が抑制される。末端封鎖剤の添加により脂肪族ポリエステルのカルボキシル基末端濃度を、0〜20当量/tonとすることが好ましく、0〜15当量/tonとすることがより好ましく、0〜10当量/tonとすることがさらに好ましい。ここで脂肪族ポリエステルのカルボキシルキ末端濃度は、精秤したサンプルをo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めることができる。
【0013】
本発明にて用いられる脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤としては、何ら制限されるものではないが、カルボジイミド化合物や、イソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物が好ましいものである。これら末端封鎖剤の添加量は、脂肪族ポリエステルに対して、0.05〜10wt%が好ましい範囲であり、0.1〜7wt%がさらに好ましい範囲である。
本発明にて脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤として用いられるカルボジイミド化合物としては、特に限定されるものではないが、モノカルボジイミド化合物が用いられる場合は、5%重量減少温度(以下、T5%と示す)が170℃以上のモノカルボジイミド化合物であることが好ましく、T5%が190℃以上のモノカルボジイミド化合物であることがより好ましい。モノカルボジイミド化合物のT5%が170℃未満の場合、モノカルボジイミド化合物が紡糸時に分解および/または気化し、糸切れの増加や製品品位の悪化が発生する傾向であり好ましくない方向である。さらにはモノカルボジイミド化合物が脂肪族ポリエステルのカルボキシル基末端に有効に反応、作用せず十分な耐加水分解性の向上効果を得られない傾向もあり好ましくない。なお、ここで5%重量減少温度とは、MACSCIENCE社製“TG−DTA2000S”TG−DTA測定機により、試料重量10mg程度、窒素雰囲気中にて昇温速度10℃/分として測定した時の、測定開始前の試料重量に対して重量が5%減量したときの温度として求めた温度である。
【0014】
本発明において末端封鎖剤として用いることのできるモノカルボジイミド化合物の例としては、例えば、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジ−tert.−ブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。末端封鎖剤として用いられるモノカルボジイミド化合物は、1種の単独使用であっても複数種の混合物であってもよいが、耐熱性および反応性や脂肪族ポリエステルとの親和性の点でN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICと記す)が好ましく、複数種のモノカルボジイミド化合物を併用する場合は、末端封鎖剤として用いるモノカルボジイミド化合物の総量のうち50%以上がTICであることが好ましい。
モノカルボジイミド化合物により末端カルボキシル基を封鎖する方法としては、脂肪族ポリエステルの溶融状態でモノカルボジイミド化合物を末端封鎖剤として適量反応させることで得ることができるが、脂肪族ポリエステルの高重合度化、残存低分子量物の抑制などの観点から、ポリマーの重合反応終了後にモノカルボジイミド化合物を添加、反応させることが好ましい。上記したモノカルボジイミド化合物と脂肪族ポリエステルとの混合、反応としては、例えば、重縮合反応終了直後の溶融状態の脂肪族ポリエステルにモノカルボジイミド化合物を添加し攪拌・反応させる方法、脂肪族ポリエステルのチップにモノカルボジイミド化合物を添加、混合した後に反応缶あるいはエクストルーダなどで混練、反応させる方法、エクストルーダで脂肪族ポリエステルに液状のモノカルボジイミド化合物を連続的に添加し、混練、反応させる方法、モノカルボジイミド化合物を高濃度含有させた脂肪族ポリエステルのマスターチップと脂肪族ポリエステルのホモチップとを混合したブレンドチップをエクストルーダなどで混練、反応させる方法などにより行うことができる。
本発明において加水分解抑制剤として用いられるカルボジイミド化合物は、特に限定されるものではないが、ポリカルボジイミド化合物が用いられる場合は、[化1]
【0015】
【化1】

【0016】
で表される4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、および[化2]
【0017】
【化2】

【0018】
で表されるイソホロンジイソシアネート、および、[化3]
【0019】
【化3】

【0020】
で表されるテトラメチルキシリレンジイソシアネートの少なくとも1種に由来し、分子中に2以上のカルボジイミド基を有し、かつそのイソシアネート末端がカルボン酸で封止されてなるポリカルボジイミド化合物であることが好ましい。
ポリカルボジイミド化合物は、上記式1で表される4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、HMDIと略記)、または、上記式2で表されるイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記)、または、上記式3で表されるテトラメチルキシリレンジイソシアネート(以下、TMXDIと略記)のいずれか1種に由来するカルボジイミド、もしくは上記化合物の2種混合物、又は3種混合物のいずれかの混合物に由来するカルボジイミドで、分子中に2以上のカルボジイミド基、好ましくは5以上のカルボジイミド基を有するものを主成分とする。なお、ポリカルボジイミド中のカルボジイミド基の上限は20である。このようなカルボジイミドは、HMDI、またはIPDI、またはTMXDI又は上記化合物の2種混合物、または3種混合物を原料とする脱二酸化炭素反応を伴うカルボジイミド化反応により製造することができる。なお、この中でも、得られた繊維の力学的特性が優れているという点で、HMDIを50重量%以上用いたカルボジイミドが好ましく、HMDIを80重量%以上用いたカルボジイミドがより好ましい。
【0021】
また、本発明にて使用されるポリカルボジイミド化合物としては、脂肪族ポリエステル樹脂中に未反応のポリカルボジイミド化合物が存在しても、熱安定性に優れるために、フィラメント化する際の紡糸性悪化や刺激性ガスの発生を抑えることができることから、イソシアネート末端がカルボン酸を用いて末端を封止されたものであることが必要である。好ましく用いられるカルボン酸はモノカルボン酸であり、例えばシクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、無水トリメリット酸、2−ナフトエ酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、2−フル酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、メタクリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ケイ皮酸、グリセリン酸、アセト酢酸、ベンジル酸、アントラニル酸等が挙げられ、この中で最も好ましいのはシクロヘキサンカルボン酸である。
【0022】
なお、未反応のポリカルボジイミド化合物の熱劣化によって生じる熱分解ガスの発生量を減じるため、ポリカルボジイミド化合物の添加量を、カルボジイミド基当量として脂肪族ポリエステルのトータルカルボキシル基末端量の2倍当量以下にすることが好ましい。ポリカルボジイミド化合物の添加量は、より好ましくはトータルカルボキシル基末端量の1.5倍当量以下であり、さらに好ましくは1.2倍当量以下である。
【0023】
本発明にて脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤として用いられるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物とは、下記[化4]で表されるものである。
【0024】
【化4】

【0025】
(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジルエーテル若しくはグリシジルエステルであり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基等の官能基)
本発明において末端封鎖剤として用いられるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物としては、上記[化4]で表される化合物であれば特に限定されるものではないが、上記[化4]のR〜Rのうち、いずれか一つがグリシジル基、残る二つがアリル基であるジアリルモノグリシジルイソシアヌレートや、上記[化4]のR〜Rのうち、いずれか二つがグリシジル基、残る一つがアリル基であるモノアリルジグリシジルイソシアヌレートや、上記[化4]のR〜Rの全てがグリシジル基であるトリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレートなどが好ましく用いられる。なお、前記脂肪族ポリエステルに結晶核剤や艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、親水剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0026】
本発明において脂肪族ポリエステルとポリマーブレンドないしポリマーアロイを構成するポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−10、ナイロン12やこれらの共重合体およびその変性物を単独または混合して用いることができる。なかでもナイロン6は融点が約220℃とポリ乳酸の融点約170℃に対し融点差が少ないため、ポリマーへの親和性が高く、複合紡糸した場合の紡糸性も良好であり、好ましい。またブレンドされたポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を含有させても良いし、ブレンドされたポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていても良い。
【0027】
ここで、ブレンドされる脂肪族ポリエステル/ポリアミドの重量比率は、55/45〜95/5の範囲が好ましく、さらに好ましくは60/40〜90/10である。ポリアミドの重量比率が45/100を超える場合は、脂肪族ポリエステルがその生分解性を発揮できないことがあるため好ましくなく、また5/100未満の場合は不織布の強伸度が低いものとなることがあり、好ましくない。
【0028】
本発明における脂肪族ポリエステルとポリアミドとのポリマーブレンドないしポリマーアロイからなる繊維は、多数の島成分を含有する海島繊維であり、サイドバイサイド型や多層積層型、多葉型複合、放射状張り合わせ構造等の構成ではない。該海島繊維におけるポリアミドの島数は10島以上がよく、より好ましくは20島以上、さらに好ましくは30島以上である。島数が、10島以上であればポリアミドの強伸度特性を充分に活かせるため好ましい。また紡糸性の観点から、島(ドメイン)である該ポリアミドが海(マトリックス)である脂肪族ポリエステルの中に島の直径が数十nmレベルであり、かつ均一に微分散されていることが好ましい。従って、ポリマーの混練過程はかかる微分散の均一性を達成するために非常に重要であり、かかる観点から混練押出機や静止混練機等によって高混練することが好ましい。なお、単純なチップブレンドでは混練が不足するため、数十nmレベルで島を分散させることは困難である。
【0029】
具体的には、組み合わせるポリマー種類にもよるが、混練押出機を用いる場合には、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練機を用いる場合は、分割数は100万以上とすることが好ましい。
【0030】
島ドメインを微分散させるためには、島ドメインが円形であることが好ましいが、島ドメインを円形に近づけるためには、ポリマー種類の組み合わせの選択が重要となる。島成分ポリマーと海成分ポリマーとは互いに非相溶であることが好ましいが、単なる非相溶ポリマー同士の組み合わせでは島成分ポリマーが充分超微分散化し難い。このため、組み合わせるポリマーの相溶性を最適化することが好ましいが、このための指標の一つが溶解度パラメーター(SP値)である。ここで、SP値(MJ/m1/2とは(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、SP値が近いもの同士では相溶性が良いポリマーアロイが得られる可能性がある。種々のポリマーのSP値は公知であるが、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。海成分と島成分の2つのポリマーのSP値の差が1〜9(MJ/m1/2であると、ポリマー同士の適度な非相溶性を実現でき、島成分の円形化と超微分散化とを両立させやすく、好ましい。例えば、ポリ乳酸とナイロン6とはSP値の差が2(MJ/m1/2程度であり好ましい例として挙げられ、ポリエチレンとナイロン6とはSP値の差は11(MJ/m1/2程度であり好ましい方ではない例として挙げられる。
【0031】
さらに、ポリマーの溶融粘度も重要である。島成分を形成するポリマーの溶融粘度を海成分を形成するポリマーのものに比べて低く設定すると、剪断力による島成分ポリマーの変形が起こりやすいため、島成分ポリマーの微分散化が進みやすく、繊維を超極細化するという観点からは好ましい。ただし、島成分ポリマーを過度に低粘度にすると海化しやすくなり、繊維全体における島成分の比率を高くできないことがあるため、島成分ポリマーの溶融粘度は海成分ポリマーの溶融粘度の1/10以上とすることが好ましい。
【0032】
次に、本発明の長繊維不織布について詳細に記述する。
【0033】
本発明における長繊維不織布を構成するフィラメントは、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1〜5.0wt%含有することが好ましい。脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1wt%以上含有することにより、フィラメント表面の摩擦抵抗が小さくなり、エンボスロールからの不織布の剥離性が向上し、安定した不織布の搬送が可能となり好ましいものである。また含有量を5.0wt%以下とすることにより、紡糸性の悪化も発生しにくい傾向であり好ましい。より好ましい含有量の範囲は0.3〜4.0wt%、さらに好ましい範囲は0.5〜2.0wt%である。なお、本発明においては、脂肪族ビスアミドまたはアルキル置換型の脂肪族モノアミドをそれぞれ単独で用いてもよいし、両者を併用して含有するものでもよい。
本発明において用いられる脂肪族ビスアミドは特に制限されるものではないが、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、および芳香族系脂肪酸ビスアミド等であり、例えばメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスバルミチン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
本発明において用いられるアルキル置換型の脂肪族モノアミドとしては、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置換した構造の化合物を示し、N−ラウリルラウリル酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
【0034】
脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを、紡糸するための原料となる樹脂に添加する方法は何ら制限されるものではないが、予め原料樹脂と添加する物質を加熱溶融混合したマスターチップを作製し、これを紡糸の際に原料樹脂に必要量添加して、添加物質量を調整する方法が最も好ましい。
【0035】
本発明の長繊維不織布の目付は10〜400g/mであり、より好ましくは13〜300g/mである。不織布の目付が10g/m未満の場合、ウェブの破断が発生しやすい傾向となるため好ましくない。不織布の目付が400g/mを超える場合は、捕集性に劣り、捕集時に繊維が吹き流れ、ウェブのムラが生じやすい傾向となり、また熱接着が十分に行えない傾向となるため好ましくない。
【0036】
また、本発明における不織布は、不織布の目付と不織布の引張強力、不織布の引張伸度が次式(I)を満たす関係にあることが好ましい。ここでいう不織布の目付は、本発明の不織布をJIS L1906(2000年度版)の5.2に準じて測定した値とし、また引張強力及び引張伸度の値は、本発明の不織布をJIS L1906(2000年度版)の5.3.1に準じ、縦方向、横方向の引張強力をそれぞれ測定し、いずれか値の大きい方をその不織布の引張強力とし、また該引張強力における引張伸度を測定する。
200≧Y×Z/X≧80・・・・・・(I)
ただし、X:不織布目付(g/m)、Y:不織布の引張強力(N/5cm)、Z:不織布の引張伸度(%)
前記式(I)において、より好ましい範囲は195≧Y×Z/X≧85、さらに好ましい範囲は190≧Y×Z/X≧90である。Y×Z/X≦200を満たさない場合は、不織布の強度は十分であるが、風合いが硬くなる傾向であり好ましくない。Y×Z/X≧80を満たさない場合は、不織布の強度が不十分となるため好ましくない。
本発明の不織布を構成する長繊維の単繊維繊度は1〜10デシテックス(以下dtex)の範囲であることが重要であり、より好ましくは1〜8dtex、さらに好ましくは1〜6dtexである。繊度が1dtex未満になると操業時の紡糸性が不安定となる、すなわち、例えば糸切れが増加傾向となるため好ましくない。また10dtexを超える場合は、溶融紡糸時に冷却固化する際、冷却性に劣るものとなり、繊維間の融着による開繊性不良やウェブのムラが発生する傾向となり、またウェブの風合いも硬くなるため好ましくない。
【0037】
長繊維の繊度の測定法としては、不織布の横断面をTEMあるいはSEMで倍率500倍で観察し、同一横断面内で無作為に抽出した50本以上の単繊維直径を測定する。測定は、TEMあるいはSEMによる不織布の横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて単繊維直径および繊度を求めるものであり、これを3ヶ所以上で行い、少なくとも合計150本以上の単繊維の直径を測定することで求められるものである。ポリマーブレンドないしポリマーアロイ繊維が異形断面の場合、まず単繊維の断面積を測定し、その面積を仮に断面が円の場合の面積とする。その面積から直径を算出することによって単繊維直径を求めるものである。単繊維繊度の平均値は、以下のようにして求める。まず、単繊維直径をμm単位で小数点の一桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入する。その単繊維直径から単繊維繊度を算出し、単純な平均値を求め、小数点以下を四捨五入した値を繊度とした。
【0038】
なお、該繊維の断面形状は何ら制限されるものではなく、丸形、中空丸形、あるいはX形、Y形、多葉形等の異形、等が好ましく使用されるが、製造の簡便な点から丸形形状が最も好ましいものである。
【0039】
本発明の長繊維不織布を得る方法としては特に限定されるものではないが製造コストからスパンボンド法により得られる長繊維不織布が好ましい。
スパンボンド法による長繊維不織布の製造方法としては、特に限定されるものではないが、脂肪族ポリエステル樹脂にポリアミド樹脂がブレンドされた樹脂を押出機で溶融し、1〜10dtexの繊度となるように口金から溶融押出された糸条群をエジェクターにて吸引し、該エジェクターから紡速1000〜6000m/minで延伸噴射し、下方に配設された捕集装置でネット上に捕集した後、不織布目付が10〜400g/mのウェブを形成し、エンボスロールで連続的に熱接着を施すことにより一体化されたシートを得る方法が好ましい。該スパンボンド法の製造方法において、本発明の長繊維不織布を安定して得る、また効果を発現させるためには以下の条件が採用されるものである。すなわち、脂肪族ポリエステルとしてポリ乳酸を、ポリアミドとしてナイロン6を使用し、これらが均一ブレンドされたポリマーを採用する。溶融の際の温度は220〜260℃とすることが好ましく、さらに好ましくは225℃から255℃、最も好ましくは230℃から250℃がよい。220℃未満で紡糸するとナイロン6の融点に対し低いものとなり、紡糸の安定性に劣るものとなり好ましくない。また紡糸温度が260℃を超えるとポリ乳酸の分解により、紡糸の安定性に劣るものとなり好ましくない。またエンボスロールの熱接着部分(長繊維間を点状に融着させる部分)は、ウェブの全表面積に対するウェブ内の熱接着部分が6〜30%となるものであることが好ましい。さらに好ましくは8〜25%である。6%未満であるとシートの形状が保てず、十分な強度が得られないことがあるため好ましくない。また30%を超えるとシートの風合いは硬くなり、柔軟性、嵩高性が損なわれることがあるため好ましくない。またエンボスロールの彫刻の形状については、熱接着部分が前記した範囲であれば丸型、楕円型、菱形など任意の形状で構わないものである。さらにエンボスロールの加熱温度については、110〜160℃がよく、より好ましくは115〜155℃、さらに好ましくは120〜150℃である。エンボスロールの温度が110℃未満の場合は、不織布を構成する繊維同士が接着せず強度が低いものとなるため好ましくない。またエンボスロールの温度が160℃を超える場合は、シートの接着は十分となるがPLAの融点に近いため、シート風合いが硬くなる傾向となり、好ましくない。
【0040】
本発明にて得られる長繊維不織布の使用用途は、何ら制限されるものではないが、機械的強度が優れることから土木資材、農業資材、生活資材、工業資材に好ましく用いられる。具体的には土木資材としては、ドレーン水排水用シート、盛土補強用シート、土砂の流出を防ぐためのセパレーションシート、土嚢袋、等が好ましい使用例である。農業資材としては、ベタガケシート、マルチシート、遮光シート、遮水シート、防風シート、植林した幼木の樹皮を保護するための保護シート、雑草の繁茂を防ぐための防草シート、植生シート、幼木を育てるためのポット、木の植え替え作業用の根巻きシート、根域を制限するための防根シート等が好ましい使用例である。また生活資材としては、家庭用のワイピングクロス、水切り袋、換気扇カバーフィルター、花のラッピング材、等が具体例として挙げられる。またさらに工業資材としては、工業用ワイピングクロス、ダスト捕集用フィルター材、等が好ましい使用例である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また実施例で用いた評価法とその測定条件について以下に説明する。
(1)ポリマーの溶融粘度
東洋精機製作所(株)製キャピラログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
(2)融点
Perkin Elmaer DSC−7を用いて2nd runでポリマーの溶融を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
(3)紡糸安定性
口金下より紡糸状態を観察し、紡糸開始から3時間の間での糸切れ発生回数が0〜1回である場合を◎、2〜3回を○、4〜5回を△、6回以上を×とした。
(3)繊度(dtex):
長繊維の繊度の測定法としては、不織布の横断面をTEMあるいはSEMで倍率500倍で観察し、同一横断面内で無作為に抽出した50本以上の単繊維直径を測定する。測定は、TEMあるいはSEMによる不織布の横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて単繊維直径および繊度を求めるものであり、これを3ヶ所以上で行い、少なくとも合計150本以上の単繊維の直径を測定することで求められるものである。ポリマーアロイ繊維が異形断面の場合、まず単繊維の断面積を測定し、その面積を仮に断面が円の場合の面積とする。その面積から直径を算出することによって単繊維直径を求めるものである。単繊維繊度の平均値は、以下のようにして求める。まず、単繊維直径をμm単位で小数点の一桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入する。その単繊維直径から単繊維繊度を算出し、単純な平均値を求め、小数点以下を四捨五入した値を繊度とした。
(4)目付(g/m):
JIS L1906(2000年度版)の5.2に準じて、縦方向50cm×横方向50cmの試料を3点採取、各試料の重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点第一位を四捨五入して、不織布の目付:X(g/m)とした。
(5)引張強力、引張伸度
JIS L1906(2000年度版)の5.3.1に準じ、サンプルサイズ5cm×30cm、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件でシート縦方向、横方向ともそれぞれ3点ずつの引張試験を行い、サンプルが破断した時の強力を引張強力、また最大荷重時のサンプルの伸びを1mm単位まで測定し、この伸び率(元の長さに対する伸びた長さ)を引張伸度とし、シート縦方向、横方向それぞれの平均値について小数点以下第一位を四捨五入して算出した。この時、縦方向、横方向の引張強力のうち、値の大きい方をその不織布の引張強力:Yとし、またYに対応する引張伸度をZとした。これらY、Zの値と前記(4)で測定した目付:Xとの関係を、前述の式(I)に適合するものか検証した。
(実施例1)
溶融粘度570poise(240℃、剪断速度2432sec−1の条件での値)、融点220℃のナイロン6(以下、N6)(20重量%)、と重量平均分子量12万、溶融粘度300poise(240℃、剪断速度2432sec−1の条件での値)、融点170℃のポリ乳酸(PLA)(光学純度99.5%以上)(80重量%)とを2軸押出混練機にて240℃で混練してポリマーアロイチップを得た。ここでPLAの重量平均分子量は、以下の方法を用いて求めた。すなわち、試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とし、これをWaters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)Waters2690を用いて、25℃で測定し、ポリスチレン換算で求めた。各試料につき3点の測定を行い、その平均値を重量平均分子量とした。
【0042】
上記ポリマーアロイチップを用いて、以下に示すスパンボンド法により不織布を得た。すなわち、ポリマーアロイチップを押出機にて紡糸温度240℃で溶融し、孔の形状が丸形であり、孔径が0.3mm、孔数が3200ホールである矩形口金から紡出した後、矩形エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し、熱圧着部(凸部)の面積率が16%であるエンボスロール及びフラットロールを使用して、温度135℃、線圧40kg/cmの条件で熱接着し、単繊維繊度1.8dtex、目付50g/mの不織布を得た。
(実施例2)
単繊維繊度2.0dtex、目付110g/mとなるように吐出量とネットコンベアーの移動速度を調整した以外は、実施例1と同様の条件で実施し、不織布を製造した。
(実施例3)
溶融粘度570poise(240℃、剪断速度2432sec−1の条件での値)、融点220℃のN6(40重量%)、と重量平均分子量12万、溶融粘度300poise(240℃、剪断速度2432sec−1の条件での値)、融点170℃のポリ乳酸(PLA)(光学純度99.5%以上)(60重量%)とを2軸押出混練機にて240℃で混練してポリマーアロイチップを得た。
【0043】
上記ポリマーアロイチップにエチレンビスステアリン酸アミドを0.5wt%添加し、紡糸温度を245℃とした以外は実施例1と同様の条件で不織布を製造し、単繊維繊度1.8dtex、目付50g/mの不織布を得た。
(実施例4)
実施例1と同様にして得たPLA/N6の重量比率が80/20のポリマーアロイチップにエチレンビスステアリン酸アミドを0.5wt%添加、さらにTICをポリ(L−乳酸)の含有量に対して1wt%添加し、紡糸温度を240℃、熱接着時のエンボスロールの温度を160℃とし、単繊維繊度が3.0dtex、目付が80g/mとなるように吐出量とネットコンベアーの移動速度を調整した以外は、実施例1と同様の条件で不織布を製造した。
(実施例5)
実施例3と同様にして得たPLA/N6=60/40のポリマーアロイチップを用い、紡糸温度235℃、熱接着時のエンボスロールの温度を130℃とした以外は、実施例1と同様の条件で不織布を製造し、単繊維繊度1.8dtex、目付50g/mの不織布を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
得られた長繊維不織布の特性は表1に示したとおりであるが、実施例1〜5の不織布は紡糸性も良好であり、またいずれも前記式(I)の関係を満たしており、良好な引張強度、引張伸度を有していた。
(比較例1)
実施例1記載のポリ乳酸樹脂を単成分で押出機により溶融し、紡糸温度を225℃、エンボスロールの温度を135℃とした以外は実施例1と同様の条件で不織布を製造し、単繊維繊度1.8dtex、目付50g/mのポリ乳酸単成分不織布を得た。
(比較例2)
比較例1と同様にポリ乳酸樹脂を単成分で使用した以外は、実施例2と同様の条件で不織布を製造し、単繊維繊度2.0dtex、目付50g/mである不織布を得た。
得られた長繊維不織布の特性は表1に示したとおりであるが、比較例1、2は、前記式(I)を満足できず強力が大幅に低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】芯鞘型繊維の一形状である多様形状を示す概略図である。
【符号の説明】
【0047】
1 芯鞘型繊維における芯成分
2 芯鞘型繊維における鞘成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布目付が10〜400g/mの範囲であり、脂肪族ポリエステルとポリアミドを含むポリマーからなる単繊維繊度1〜10デシテックスの繊維を含む、熱接着により一体化されたことを特徴とする長繊維不織布。
【請求項2】
下記式(I)の関係を満足することを特徴とする請求項1記載の長繊維不織布。
200≧Y×Z/X≧80・・・・・・(I)
ただし、X:不織布目付(g/m)、Y:不織布の引張強力(N/5cm)、Z:不織布の引張伸度(%)
【請求項3】
前記脂肪族ポリエステル/ポリアミドの重量比率が55/45〜95/5であることを特徴とする請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸、前記ポリアミドがナイロン6であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維不織布。
【請求項5】
ポリ乳酸とナイロン6を含むポリマーを220〜260℃の温度で1〜10デシテックスの単繊維繊度となるように溶融紡糸し、口金から押出された糸条群をエジェクターで吸引して、該エジェクターから噴射された糸条群を下方に配設された捕集装置でネット上に捕集し、不織布目付が10〜400g/mの範囲となるように形成されたウェブを110〜160℃の温度に加熱したエンボスロールによって熱接着させて一体化することを特徴とするスパンボンド不織布の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−277774(P2007−277774A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108417(P2006−108417)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】