説明

長繊維不織布および人工皮革用基材の製造方法

【課題】絡合工程における巾方向の目付を均一化することで、折れしわの品位の高い長繊維不織布を安定して製造することができる長繊維不織布の製造方法を提供する。
【解決手段】 長繊維を紡糸し、前記長繊維をネット上に捕集してウェブを形成するウェブ形成工程と、前記ウェブに融着処理を施す融着処理工程と、前記融着処理を施したウェブを積重して積重ウェブとする積重工程と、前記積重ウェブにニードルパンチ処理を施す絡合工程と、を連続して含む長繊維不織布の製造方法において、絡合工程における積重ウェブ巾方向の中央部のニードルパンチ密度が積重ウェブ巾方向の端部のニードルパンチ密度の1.5倍以上となるニードルパンチ処理を含むことを特徴とする長繊維不織布の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維不織布の製造方法に関し、さらに詳しくは人工皮革等に用いることのでき人工皮革用基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は織編物とは異なり、縦横斜めの方向による強伸度や物性の違いが少なく、等方性に優れた材料であり、生産性も高いことから広く産業に用いられている。しかし、人工皮革のような高強度、高品質の最終製品を得るためには、幅方向、長さ方向の目付の均一性に優れた高密度化された不織布を用いることが不可欠である。
【0003】
そこで、従来、カーディングマシンを用いて予め捲縮を与えた短繊維から低目付けの繊維ウェブを形成して、クロスラッパーを用いて該繊維ウェブを偶数枚数に積重することにより、繊維ウェブの目付け斑を低減して、任意の巾の不織布を製造する方法がとられている。
【0004】
一方で、人工皮革用の不織布として長繊維不織布を用いる場合、当該不織布は、短繊維不織布に比べて、その製造に原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要とせず、強度も高いといった利点がある。しかし、長繊維であるがゆえ製造時の条件設定が適切でないと、人工皮革として利用可能な不織布物性が得られないことがある。
【0005】
例えば、ウェブをクロスラッパー等の設備を用いて積重したウェブにニードルパンチ処理を施す絡合工程においては、積重ウェブの端部の面積収縮率が中央部と比較して大きく目付け斑を生じたりする問題がある。この問題は短繊維に比べ特に顕著である。特に、人工皮革のようにその表面に平滑な銀面を付与した場合には、目付け斑による工程通過時のしわの発生や、繊維が表面に露出している製品のように内部の乱れをごまかすことができず、折り曲げた際のしわ等の外観品位が非常に低くなるという問題があった。
【0006】
そこで、巾方向に均一な絡合を得る方法として、繊維−繊維間の静摩擦係数が0.35〜0.45で、かつ繊維−金属間の静摩擦係数が0.20〜0.30である油剤を付与し、ニードルパンチ処理を施す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、静摩擦係数がこの範囲にあると、繊維の動きやすさと繊維の損傷に対しては有効であるが、打ち込んだ繊維が元に戻ってしまう傾向にあり、人工皮革の基体として利用可能な不織布物性が得られにくく、充分な解決には至っていない。
【特許文献1】特開2002−69821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を背景になされたもので、その目的は、絡合工程における巾方向の目付け斑を防止し、折れしわの品位の高い長繊維不織布さらには、それを用いた人工皮革用基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、下記本発明により解決することができる。
すなわち、本発明は、長繊維を紡糸し、前記長繊維をネット上に捕集してウェブを形成するウェブ形成工程と、
前記ウェブに融着処理を施す融着処理工程と、
前記融着処理を施したウェブを積重して積重ウェブとする積重工程と、
前記積重ウェブにニードルパンチ処理を施す絡合工程と、
を連続して含む長繊維不織布の製造方法において、絡合工程における積重ウェブ巾方向の中央部のニードルパンチ密度が積重ウェブ巾方向の端部のニードルパンチ密度の1.5倍以上となるニードルパンチ処理を含むことを特徴とする長繊維不織布の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、絡合工程における巾方向の目付斑を防止し、折れしわ等の外観品位の高い長繊維不織布を製造することができる長繊維不織布さらには、それを用いた人工皮革用基材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の長繊維不織布の製造方法は、ウェブ形成工程、融着工程、積重工程、および絡合工程をこの順に含み、適宜、その他の工程を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
(ウェブ形成工程)
ウェブ形成工程では、長繊維を紡糸し、前記長繊維をネット上に捕集してウェブを形成する。得られる長繊維不織布の風合いに優れる点、特に人工皮革としたときの風合いと物性のバランスに優れる点で極細繊維発生型長繊維を紡糸し、前記極細繊維発生型長繊維をネット上に捕集してウェブを形成することが好ましい。
ここで、「極細繊維発生型繊維」とは、少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維をいう。このような多成分系複合繊維としては、繊維外周を複数成分が交互に構成するような花弁形状や重畳形状などの剥離分割型複合繊維;繊維断面において繊維外周を主体として構成する海成分ポリマー中に、これとは異なる種類の島成分ポリマーが分布した断面形態の海島型繊維;が挙げられる。これらの中でも、海島型繊維が好ましい。
海島型繊維は、ニードルパンチ処理で代表される繊維絡合処理を行う際に、割れ、折れ、切断などの繊維損傷が極めて少ない。そのため、より細い繊度の複合繊維を不織布構造体の構成繊維として採用することが可能で、その絡合による緻密化度合いをより高めることができるといった利点がある。
【0012】
島成分ポリマーは、表面張力の作用によって、通常は円形かそれに近い形状で分布するが、海成分ポリマーと島成分ポリマーとの比率によっては多角形に変形していることもある。この海島型繊維は、不織布構造体を形成させ、さらに高分子弾性体を含浸させる前または後の適当な段階で海成分ポリマーを抽出または分解して除去される。このことによって、残った島成分ポリマーからなり元の海島型繊維より細い複数本の繊維が集束した繊維束を生成させることができる。このような海島型繊維は、従来公知のチップブレンド(混合紡糸)方式や複合紡糸方式で代表される多成分系複合繊維の紡糸方法を用いて得ることができる。また、剥離分割型複合繊維に比べると、得られる極細繊維の断面形状がより円形に近い形状となり、繊維束として見たときに異方性がより少ない。さらに、個々の極細繊維の繊度、即ち断面積の均一性が高い極細繊維束が得られるという性質を有しており、非常に多くの繊維束を従来にない緻密さで集合させることができる。そして、かかる特性は、人工皮革用基材において、柔軟で膨らみ感がありながら充実感をも兼ね備えた独特の風合いを得る上でも好ましい。
【0013】
本発明で用いられる長繊維としては、従来の人工皮革または合成皮革として用いられている繊維であり、合成繊維が好ましい。ここで、長繊維とは、短繊維のように数cmでカットされることなく、長い繊維状の形態を保っている繊維をいい、ポリマーを紡糸した後にカットを行わず、充分に連続した繊維をいう。
【0014】
極細繊維発生型繊維を構成するポリマーは、本発明においては特に限定されるものではない。例えば、分割可能な貼り合せ構造を有する繊維の場合は、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−12などのポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらを主成分とする共重合ポリエステル等のポリエステル繊維;などが挙げられる。
【0015】
海島型繊維の場合、島成分を構成するポリマーは、本発明においては特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する。)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと称する。)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと称する。)、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;さらにはポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂;など、従来公知の繊維形成能を有する種々のポリマーが好適である。
【0016】
これらの中でもPET、PTT、PBT、またはこれらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮を発現しやすく、加工した人工皮革製品において評価したときの充実感のある風合い及び耐磨耗性、耐光性、あるいは形態安定性などの実用的な性能の点から特に好ましい。また、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細繊維が得られることから、加工した人工皮革製品において評価したときの膨らみ感のある柔らかな風合い、及び立毛調外観であれば滑らかなタッチや帯電防止性能などの実用的な性能の点から特に好ましい。
これら島成分ポリマーは、融点が160℃以上であるのが好ましく、180〜330℃の繊維形成性結晶性樹脂であることがより好ましい。島成分ポリマーの融点が160℃以上であれば、極細繊維の形態安定性を満足いくレベルとすることが可能で、特に人工皮革製品において評価される実用的な性能の点からも好ましい。
【0017】
融点は、示差走査熱量計(以下、DSCと称する。)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃までポリマーを昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したときに観測される吸熱ピークのピークトップ温度を採用する。極細繊維を構成するポリマーには、紡糸段階で着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、抗菌剤その他各種安定剤などが添加されていてもよい。
【0018】
海島型繊維の海成分を構成するポリマーは、海島型繊維を極細繊維束に変成させる必要があるので、採用した島成分ポリマーとは溶剤または分解剤に対する溶解性または分解性を異にする必要がある。すなわち、紡糸安定性の点から島成分ポリマーとは親和性が小さいポリマーであって、かつ紡糸条件下では溶融粘度が島成分ポリマーより小さいポリマーであるか、あるいは表面張力が島成分ポリマーより小さいポリマーであることが好ましい。このような条件を満たす限り、海成分ポリマーは特に限定されるものではない。好ましい具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール系樹脂およびポリエチレンが好ましい。
【0019】
なお、海成分ポリマーの溶融粘度を島成分ポリマーより小さくすることで、後の融着処理工程においてこれらのポリマーの溶融温度まで温度を上げる必要がなくなる。すなわち、融着処理の際に60〜120℃程度の温度範囲になるように調節することが可能となり、ウェブを構成する海島型繊維の断面形状を大きく損なうことなく、その形態を十分に保持することができる。
【0020】
高品質な不織布とするためには繊維が極細繊維であることが好ましい。そして、極細繊維を直接紡糸することも可能であるが、極細繊維発生型繊維を経由して極細繊維とすることが紡糸後の工程での繊維の安定性やウェブおよび不織布の工程通過性の点で好ましい。極細繊維の繊度は0.5〜0.001dtexであることが好ましく、0.3〜0.08dtexであることがより好ましい。繊度を上記範囲とすることで、不織布やそれから得られる人工皮革等の風合いが硬くなることを防ぐことができる。
【0021】
また、これらの繊維は単独ではなく数種の繊維が混合したものでも構わない。さらに、長繊維ばかりではなく、本発明の効果を損なわない限り、短繊維を一部に含むものであってもよい。短繊維を含有することによってさまざまな風合いをとることができる。
【0022】
極細繊維発生型繊維の紡糸およびウェブ形成には、例えば、多数のノズル孔が、所定のパターンで配置された複合紡糸用口金を用いることが好ましい。そして、溶融状態の海島型繊維を個々のノズル孔からコンベヤベルト状の移動式のネット上に連続的に吐出させる。このとき冷却装置により、繊維を実質的に冷却固化させながら、エアジェットノズルのような吸引装置を用いて高速気流を作用させることが好ましい。また、ネットの繊維捕集面とは反対面側に吸引装置を設け、吐出される海島型繊維を吸引しながら繊維捕集面上に捕集・堆積させることが好ましい。このようにして、海島型繊維のウェブがネット上に形成される。なお、ウェブの目付けはネットの駆動速度と紡出繊維量によって決定されるので、適宜調整することが好ましい。
【0023】
なお、複合紡糸用口金のノズル孔のパターンとしては、種々のものを使用することができる。同心円状のパターンを採用する場合、1つの口金に対して作用させる吸引装置は一般的にはノズル状で1つとなる。このため、吸引の際に多数の海島型繊維が同心円の中心点に集束されてしまう。また、一般的には複数の口金を直線状に並べて所望の紡糸量を得ているので、隣接する口金から吐出される海島型繊維の束との間はそのまま捕集したのでは繊維が殆ど存在することはない。そのため、ウェブの地合いを均一な状態へと調節するには開繊の重要性が極めて高くなる。これに対し、並列状のパターンを採用すれば、吸引装置は口金に対向した直線的なスリット状であるため、吸引の際に集束されてしまう海島型繊維は基本的には口金において並列に配置された列間のみに留まる。従って、仮にそのまま捕集したとしても同心円状のパターンを採用した場合に比べるとより均一な地合いでウェブが得られるので、この点においては同心円状のパターンに比べると並列状のパターンの方がより好ましい実施態様である。
【0024】
(融着処理工程)
融着処理工程は、ネット上に形成されたウェブに融着処理を施して、形態安定性を付与する工程である。ここでいう融着とは、融着処理後のウェブが絡合工程で繊維が移動して容易に絡合が可能となる程度に繊維が融着している状態をいう。
融着処理としては、種々の手段を採用することができるが、熱プレス処理が好ましい。熱プレス処理することによりその後の積重、絡合の各工程でのウェブの形態変化をより抑制することが可能となる。
【0025】
熱プレス処理としては、例えば、カレンダーロールを使用し、所定の圧力と温度をかけて処理する方法を採用することができる。熱プレス処理する温度は、極細繊維発生型長繊維の少なくとも1成分(表面に存在する少なくとも1成分)の融点より10℃以上低いことが好ましい。特に海島型繊維の場合、海成分を構成する成分の融点より10℃以上低いことが好ましい。10℃以上低いと、ウェブの良好な形態安定性を維持しながら、積重後のウェブを絡合する際の絡合不良や針穴の形成を防ぎ、高品位な不織布とすることができる。熱プレス処理する温度の下限は、前記融着処理が可能であれば特に限定はしないが、極細繊維発生型長繊維の少なくとも1成分の融点より150℃低い温度であれば融着し易い点で好ましい。熱プレス後のウェブの目付けとしては、20〜60g/mの範囲であることが好ましい。20〜60g/mの範囲にあることで、次の積重工程において良好な形態保持性を維持させることができる。
【0026】
(積重工程)
積重工程はウェブを積み重ねて積重ウェブとする工程である。当該積重工程では積重ウェブの形態を均一にするために、クロスラッパーを採用することが好ましい。積重枚数としては、目付けムラの低減と良好な生産性を考慮して、5〜100枚程度とすることが好ましい。積重時の雰囲気としては、0〜40℃の温度で50〜90%の相対湿度とすることが好ましい。
【0027】
(絡合工程)
絡合工程は、積重ウェブに絡合処理を施す工程である。当該絡合処理には、ニードルパンチを用いる。
積重ウェブをニードルパンチ絡合処理によって3次元的に絡合させて長繊維不織布とする際に、積重ウェブは絡合が進行することによって工程の流れ方向や巾方向(絡合処理の進行方向に対して直角の方向)に収縮するが、工程中のテンションや、ニードルマシンの出口に設置してあるプレスロールの影響で、巾方向の中央部の収縮より、巾方向の端部の収縮が大きく、長繊維不織布とした場合に中央部に比べ端部の目付が高くなるという問題がある。本発明においては、絡合工程における積重ウェブ巾方向の中央部のニードルパンチ密度が積重ウェブ巾方向端部のニードルパンチ密度の1.5倍以上となるニードルパンチ処理を含むことが重要である。1.5倍未満の場合、長繊維不織布の巾方向の中央部の目付けに対し、巾方向の端部の目付けが高くなり、その後の人工皮革用基材にするための後工程で目付け斑による工程通過性が低下し、しわが発生易い。また人工皮革に仕上げた時の折れしわ等の外観品位に劣る。
そして、絡合工程における積重ウェブ巾方向の中央部のニードルパンチ密度が積重ウェブ巾方向端部のニードルパンチ密度の2倍以上となるニードルパンチ処理することが、目付け斑を低減する点で好ましい。上限は特に限定せず、ニードルボードの進行方向の長さを短くして、予め端部のみニードルパンチ処理をした後に中央部をニードルパンチ処理することも可能である。なお、本発明のニードルパンチ密度とは、積重ウェブ1cmあたりのニードルの合計通過回数をいいP/cmで表す。
本発明のパンチ密度の比率を1.5倍以上にするために例えば、ニードルマシンのニードルボード巾方向中央部の針本数をニードルボード端部の針本数の1.5倍以上とする絡合工程を含むことで、絡合処理後の巾方向の目付け斑を減少することができる。
本発明では、上記特定の絡合工程を行うことで長繊維不織布巾方向の目付け斑が減少し、後の絡合工程で通常の絡合方法(中央部と端部の絡合密度が同じ)を採用しても巾方向の目付け斑は抑制される。
特に、絡合工程における積重ウェブ巾方向の中央部のニードルパンチ密度が積重ウェブ巾方向端部のニードルパンチ密度の1.5倍以上となるニードルパンチ処理は、該ニードルパンチを含む複数のニードルパンチ処理を行う場合、積重ウェブを最初に絡合させる時に行うことがより効果的であり、積重ウェブを10%以上面積収縮させながら、好ましくは20%以上面積収縮をさせながら同時に行うことが最も効果的である。
ここでいう端部とは、積重ウェブの巾方向における両端部分をいい、例えば、絡合処理前後の積重ウェブの絡合処理による面積収縮率が30%以上収縮する場合であれば、両端から巾方向に70cm以内の部分を含み、面積収縮率が20%以上収縮する場合であれば、両端から巾方向に50cm以内の部分を含み、面積収縮率が10%以上収縮する場合であれば、両端から巾方向に40cm以内の部分を含む。そして積重ウェブの中央部とは文字通り巾方向の中央部をいう。
前記の通り巾方向の針本数の調整方法は、絡合処理の面積収縮が大きいほど中央部の針本数を端部に対して多くする必要があり、積重ウッブの巾が広いほど中央部の針本数の多い部分を広く設定する必要がある。ここで、ニードルボード上の巾方向の針本数は、端部から中央部にかけて直線的に変化させてもよく、曲線的に変化させてもよい。またニードルのストローク回数を端部と中央部と変化させてもニードルパンチ密度が前記範囲内であればかまわない。
ニードルパンチの条件としては、特に限定しないがニードルのバーブが積重ウェブの両表面まで貫通するな条件でかつ端部のニードルパンチ数が400〜8000パンチ/cmの条件が好ましく、特に、1000〜4000パンチ/cmの高パンチ数の条件で特に顕著な効果を発現する。ニードルのバーブは特に限定しないが、1バーブから9バーブまでを適宜使用可能である。ニードルパンチの処理方向は、最終製品の感性、物性等必要に応じて片面からのみ行っても構わないが、積重ウェブの両面から行うのが天然皮革様の緻密な外観を得る点で好ましい。
上記のようなニードルパンチ処理によって得られる長繊維不織布は、天然皮革様の充実感ある風合いおよび機械強度に優れる人工皮革の製造に好適である。
【0028】
本発明の製造方法に係る各工程は、ウェブを巻き取ることなく連続して設けられることが好ましい。
例えば、長繊維不織布の製造方法では、繊維の紡出スピードと後の工程のラインスピードを調整するために、熱プレス後のウェブで一旦巻き取ることも可能であるが、本発明の製造方法では巻き取らずに連続して積重工程等を通過する。融着処理後のウェブは、絡合工程で繊維が移動して容易に絡合が可能となる程度に繊維が融着しているのみとなっている。従って、一旦巻き取ったり、巻き出したりする際のウェブ耳部の繊維のもつれ等に起因して、ウェブの破れに起因する目付け斑やテンション変動による走行位置のズレが生じて均一な積重状態を得ることが困難となる。これに対し、本発明の製造方法では、途中での巻き取り、巻き出しの工程を無くすことにより、品質(特に、折れしわの品位)の高い長繊維不織布を安定して製造することができる。
【0029】
短繊維を経由する方法に対し、本発明が採用する製造方法は、紡糸から繊維ウェブ形成が途切れることのない1つのまとまった工程となっている。そのため、設備においても非常にコンパクトで簡潔であり、生産速度やコストに優れる。また、工業的な実施において極めて重要な安定生産性の点においても有利である。すなわち、従来のような種々の工程、設備が組み合わさることによる複合的な課題を生じ難いという大きな利点がある。さらに、構成繊維が連続性の高い長繊維であることから、得られる長繊維不織布、それを用いた人工皮革用基材や人工皮革において、繊維間の絡合や高分子弾性体による拘束のみに頼っていた短繊維経由の不織布構造体に比べると、形態安定性、即ち人工皮革用基材や人工皮革の機械的強度や表面摩擦耐久性、銀面調の場合の接着剥離強力などの物性面において優れた特性を発揮し得る。
【0030】
本発明の製造方法で得られた長繊維不織布は、幅方向、長さ方向の目付の均一性と等方性に優れた非常に品質の高いものとなる。特に、スエード調人工皮革に用いた場合の立毛の均一性や銀付き調人工皮革に用いた場合の折れしわの品位が高く、スポーツシューズ、婦人・紳士靴などの靴用途、競技用の各種ボール用途、家具、車両、内装材、インテリア材などの産業資材用途、手帳・ノート等の装丁用途、衣料用途などに好ましく用いることができる。
【0031】
本発明の製造方法で得られた長繊維不織布は、高分子弾性体付与工程、極細繊維発生型繊維を用いた場合には極細化処理工程等を経て人工皮革用基材となる。
高分子弾性体付与工程では、極細繊維発生型繊維の極細繊維処理の前および/または後のいずれかの段階で高分子弾性体を付与する。付与方法としては、例えば、有機溶剤に溶解されたポリウレタンなどの高分子弾性体溶液、あるいは水に分散されたポリウレタンなどの高分子弾性体水分散液などを長繊維不織布に含浸する。その後、湿式あるいは乾式で凝固し、長繊維不織布に高分子弾性体が付与された弾性体含有長繊維不織布が得られる。
【0032】
極細化処理工程では、長繊維不織布または弾性体含有長繊維不織布から特定のポリマーを選択的に除去する極細化処理を施し、極細繊維発生型長繊維を極細長繊維とする。例えば、極細繊維発生型長繊維に海島型繊維を使用した場合の極細化処理では、海成分に配したポリエチレン、ポリビニルアルコール系樹脂、またはアルカリ易溶性ポリエステルなどの易溶性のポリマーを溶解除去する。また、海成分にポリエチレンを配した極細化処理にあっては、極細繊維発生型長繊維不織布または弾性体含有極細繊維発生型長繊維不織布を80℃の熱トルエン中に浸漬し、ポリエチレンを完全に除去して乾燥すればよい。また、海成分にポリビニルアルコール系樹脂を配した極細化処理にあっては、極細繊維発生型長繊維不織布または弾性体含有極細繊維発生型長繊維不織布を80〜98℃の熱水中に浸漬し、水溶性のポリビニルアルコール樹脂を完全に、または用途に応じて一部除去して乾燥すればよい。このように、海成分の易溶性ポリマーを溶解除去することによって、天然皮革様で充実感のある人工皮革用基材を製造することができる。
なお、人工皮革用基材を製造するにあたっては、上記工程の順序に特に制限はない。また、公知の工程を適宜設けてもよい。
【0033】
上記人工皮革用基材は、乾燥後表面を起毛し、染色によりスエード調人工皮革に、あるいは表面に高分子弾性体の着色膜等を形成し銀付調人工皮革とすることができる。
【0034】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[目付け斑変動の測定方法]
長さ1mの不織布を巾方向に10cm間隔に分割して、短冊状の巾10cm、長さ1mのサンプルを作成し、それぞれの重量を測定し、目付に換算した。それぞれのサンプルから得られた平均目付けW0、最大目付けWAおよび最小目付けWBを測定し下記数式により算出した値を目付変動率(%)とした。
目付斑変動率(%)=〔(WA−WB)/W0〕×100
【実施例1】
【0035】
ウェブ形成工程、融着処理工程、積重工程、および絡合工程の各工程のおける処理を、ウェブを巻き取ることなく連続して以下の通り実施した。
【0036】
ウェブ形成工程
まず、極細繊維発生型長繊維(海島型繊維)の海成分に水溶性熱可塑性のポリビニルアルコール樹脂((PVA)融点200℃)を用い、島成分にイソフタル酸変性量6モル%のポリエチレンテレフタレート樹脂(融点240℃)を用いた。この海島型繊維1本あたりの島数が25島となるような溶融複合紡糸口金を用い、エアジェットノズルで細化しながら、90m/minで移行するネット上に繊度2.50dtexの海島型繊維を捕集しウェブを形成した。なお、紡糸条件は下記の通りである。
・海成分/島成分の質量比:30/70
・温度:250℃
・口金からの単孔吐出量:1.0g/分
・紡糸速度:3700m/分
【0037】
融着処理工程
さらに、下記条件のカレンダーロールを用いて、長繊維からなるウェブを融着し、目付け30g/mのウェブとした。
・温度:70℃
・線圧:70kg/cm
【0038】
積重工程
その後、ウェブ12枚相当分を25℃、相対湿度75%の雰囲気下でクロスラッパーにより積み重ねて2.7m巾の積重ウェブを作製し、これに針折れ防止油剤をスプレー付与した。
【0039】
絡合工程
下記条件にて、積重したウェブの両面から交互に端部(積重ウェブの両端から巾方向にそれぞれ10cm中央に入った部分)が1500P/cm、中央部(2400P/cmで、両端から巾方向にそれぞれ60cm中央に入った部分)で2400P/cmのニードルパンチ密度になるように直線的に針本数を増加させたニードルボードからなるニードルマシンを用いて積重ウェブの絡合と同時に面積収縮を行い、面積収縮率28%の長繊維不織布を得た。
得られた長繊維不織布の巾方向の目付斑変動率は±2%以内であり、両端の目付け斑を切断する必要の無いものであった。
・針先端からバーブまでの距離:3mm
・スロートデプス:0.04mm(6バーブ針)
・針深度:8mm
【0040】
上記絡合後、長繊維不織布に水(長繊維不織布中のPVAに対し30質量%の量)を付与し、張力がかからない状態で下記条件にて熱処理を行った。当該熱処理により収縮を生じさせ、不織布の見かけの繊維密度を向上させて、緻密化された長繊維不織布を得た。
・相対湿度:95%
・温度:70℃
・時間:3分間
【0041】
この緻密化処理による面積収縮率は45%であった。次いで、緻密化された長繊維不織布を熱ロールでプレスし、目付け740g/m、見かけ密度0.50g/cmの平滑面を有する長繊維不織布を得た。
【0042】
該不織布に水系ポリウレタンエマルジョンとしてスーパーフレックスE−4800(第一工業製薬株式会社製)を含浸付与し、150℃で乾燥およびキュアリングを施し、樹脂繊維比率R/F=6/94の弾性体含有長繊維不織布を得た(高分子弾性体付与工程)。
【0043】
ついで、95℃の熱水中でPVAを溶解除去し、弾性体含有長繊維不織布の長繊維を極細繊維とした厚み1.3mmの人工皮革用基材を得た(極細化処理工程)。
人工皮革用基材における極細繊維の単繊度は0.1デシテックスであった。得られた人工皮革用基材の片面をサンドペーパーでバフィングして0.5mm研削した結果、巾方向の目付変動に起因する研削斑は皆無であった。
【0044】
得られた人工皮革用基材の研削面とは反対面に、離型紙上で形成した厚さ50μmのポリウレタン皮膜を二液型ウレタン系接着剤により接着し、乾燥および架橋反応を十分に行った。その後、離型紙を剥ぎ取って、銀付き調人工皮革を得た。
得られた銀付き調人工皮革は、反発感のないやわらかさと腰の有る風合いを兼ね備えると共に、どの部位においても緻密な折り曲げしわ外観を有する均一なシートであった。
【実施例2】
【0045】
ウェブ形成工程、融着処理工程、積重工程、および絡合工程の各工程のおける処理を、ウェブを巻き取ることなく連続して以下の通り実施した。
【0046】
ウェブ形成工程
まず、極細繊維発生型長繊維(海島型繊維)の海成分にポリエチレン樹脂(融点105℃)を用い、島成分にイソフタル酸変性量6モル%のポリエチレンテレフタレート樹脂(融点240℃)を用いた。この海島型繊維1本あたりの島数が12島となるような溶融複合紡糸口金を用い、エアジェットノズルで細化しながら、90m/minで移行するネット上に繊度2.6dtexの海島型繊維を捕集しウェブを形成した。なお、紡糸条件は下記の通りである。
・海成分/島成分の質量比:25/75
・温度:290℃
・口金からの単孔吐出量:1.2g/分
・紡糸速度:4100m/分
【0047】
融着処理工程
さらに、下記条件のカレンダーロールを用いて、長繊維からなるウェブを融着し、目付け36g/mのウェブとした。
・温度:70℃
・線圧:70kg/cm
【0048】
積重工程
実施例1と同様の処理を行った。
【0049】
絡合工程
下記条件にて、積重したウェブの両面から交互に端部(積重ウェブの両端から巾方向にそれぞれ10cm中央に入った部分)が800P/cm、中央部(1500P/cmで、両端から巾方向にそれぞれ30cm中央に入った所)で1500P/cmのニードルパンチ密度になるように直線的に針本数を増加させたニードルボードからなるニードルマシンを用いて積重ウェブの絡合と同時に面積収縮を行い、面積収縮率12%の長繊維不織布を得た。
得られた長繊維不織布の巾方向の目付斑変動率は±2%以内であり、両端の目付け斑を切断する必要の無いものであった。
・針先端からバーブまでの距離:3mm
・スロートデプス:0.04mm(6バーブ針)
・針深度:8mm
【0050】
上記絡合後、長繊維不織布を熱水中で収縮を生じさせ、不織布の見かけの繊維密度を向上させて、緻密化された長繊維不織布を得た。
・温度:70℃
・時間:2分間
【0051】
この緻密化処理による面積収縮率は50%であった。次いで、緻密化された長繊維不織布を熱ロールでプレスし、目付け1000g/m、見かけ密度0.50g/cmの平滑面を有する長繊維不織布を得た。
【0052】
得られた不織布構造体に、高分子弾性体液としてポリエーテル系ポリウレタンを主体と
するポリウレタン組成物13部、ジメチルホルムアミド(以下DMFと称す)87部の組
成液を含浸し(高分子弾性体付与工程)、水中で湿式凝固させ、さらに水洗することでDMFを除去した後、海島型繊維中の低密度ポリエチレンを加熱したトルエン中で抽出除去し、次いで熱水浴中でトルエンを共沸させつつ除去し(極細化処理工程)、乾燥することで、ナイロン6の極細長繊維が集束した極細繊維束からなる不織布構造体の内部にポリウレタンが含有された厚さ約1.3mmの本発明の人工皮革用基材を得た。
人工皮革用基材における極細繊維の単繊度は0.10デシテックスであった。得られた人工皮革用基材の片面をサンドペーパーでバフィングして0.5mm研削した結果、巾方向の目付け変動に起因する研削斑は皆無であった。
【0053】
得られた人工皮革用基材の研削面とは反対面に、離型紙上で形成した厚さ50μmのポリウレタン皮膜を二液型ウレタン系接着剤により接着し、乾燥および架橋反応を十分に行った。その後、離型紙を剥ぎ取って、銀付き調人工皮革を得た。
得られた銀付き調人工皮革は、反発感のないやわらかさと腰の有る風合いを兼ね備えると共に、どの部位においても緻密な折り曲げしわ外観を有する均一なシートであった。
【0054】
(比較例1)
絡合工程で、巾方向のどの部位においても同じパンチ密度となるようにニードルパンチ密度を2400P/cmに固定し、パンチ数を変化しない以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を作製した。
【0055】
絡合後の不織布は端から40cmの部分で平均目付けに対して5%以上高く、特に端から20cmの部分においては平均目付に対して10%以上高く、巾方向に均一な不織布を得ることができなかった。
【0056】
得られた不織布を用いて実施例1と同様な方法で、人工皮革用基材を作製し、得られた人工皮革用基材の片面をサンドペーパーでバフィングして0.5mm研削した。研削後の人工皮革用基材は、巾方向の目付け斑に起因する研削斑がいたるところに発生しており、均一な研削状態が得られていなかった。
【0057】
得られた人工皮革用基材から実施例1と同様にして銀付き調人工皮革を得た。得られた銀付き調人工皮革は、反発感のないやわらかさと腰の有る風合いを兼ね備えてはいるが、バフィング時の研削斑の部位においては折れしわが大きく、不均一なシートであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維を紡糸し、前記長繊維をネット上に捕集してウェブを形成するウェブ形成工程と、
前記ウェブに融着処理を施す融着処理工程と、
前記融着処理を施したウェブを積重して積重ウェブとする積重工程と、
前記積重ウェブにニードルパンチ処理を施す絡合工程と、
を連続して含む長繊維不織布の製造方法において、絡合工程における積重ウェブ巾方向の中央部のニードルパンチ密度が積重ウェブ巾方向の端部のニードルパンチ密度の1.5倍以上となるニードルパンチ処理を含むことを特徴とする長繊維不織布の製造方法。
【請求項2】
前記絡合工程における前積重ウェブの面積収縮率が20%以上である請求項1に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項3】
前記長繊維が極細繊維発生型長繊維である請求項1または2に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項4】
前記融着処理工程における融着処理が熱プレス処理であって、その処理温度が前記極細繊維発生型長繊維の少なくとも1成分の融点より10℃以上低いことを特徴とする請求項3に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項5】
前記極細繊維発生型長繊維を構成するポリマーの一成分がポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とするである請求項3または4に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項6】
前記極細繊維発生型長繊維を構成するポリマーの一成分がポリエチレンであることを特徴とする請求項3または4に記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の各工程と極細繊維発生型長繊維の極細化処理工程とを含む人工皮革用基材の製造方法。
【請求項8】
極細繊維発生型繊維の極細化処理工程の前および/または後に高分子弾性体を付与する工程を含む請求項7に記載の人工皮革用基材の製造方法。

【公開番号】特開2008−297673(P2008−297673A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146779(P2007−146779)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】