説明

長繊維不織布の製造方法

【課題】 油剤を用いずに、良好なニードルパンチを施すことができる長繊維不織布の製造方法を提供する。
【解決手段】 この長繊維不織布の製造方法は、水を飽充させた長繊維ウェブに、ニードルパンチを施すというものである。すなわち、水を長繊維ウェブに飽充させることによって、油剤を使用せずに、ニードルパンチを施せるのである。長繊維ウェブを構成する長繊維としては、従来公知の長繊維を使用でき、特に熱可塑性長繊維を使用するのが好ましい。水の飽充量は、長繊維ウェブ100質量部に対して、30質量部以上であるのが、好ましい。水は水道水を用いることができるが、若干量の親水剤が含有されている水を使用してもよい。長繊維として熱可塑性長繊維を使用した場合、ニードルパンチの後に、加熱及び加圧してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維に油剤を付与せずに、ニードルパンチを施して長繊維不織布を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニードルパンチを施して長繊維不織布を製造することは、従来より、知られている。ニードルパンチは、長繊維が集積されてなる長繊維ウェブに、刺付き針(ニードル針)を何回も刺し通すことによって、長繊維相互間を絡合させる方法である。そして、この絡合によって、所定の引張強力等の物性を持つ長繊維不織布が得られるのである。
【0003】
ニードルパンチを施す場合、長繊維表面に油剤を付与し、長繊維表面の摩擦係数を低下させなければならないということが技術常識であった。なぜなら、油剤を付与せず、長繊維表面の摩擦係数を低下させずに、ニードルパンチを施すと、刺付き針(ニードル針)と長繊維との摩擦によって、長繊維が切断してしまうからである。
【0004】
このため、長繊維表面に付与する油剤として、どのようなものが好適であるかが、種々検討されている。たとえば、繊維/繊維間静摩擦係数(F/Fμs)が0. 35〜0. 45であり、かつ繊維/金属間動摩擦係数(F/Mμd)が0. 20〜0. 30である油剤を、長繊維表面に付与することが提案されている(特許文献1)。具体的には、液状炭化水素油、液状脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレン変性脂肪酸エステルよりなる群(A群)から選ばれた化合物と、アルキルホスフェート塩、ポリオキシアルキレンアルキルホスフェート塩及び脂肪酸塩よりなる群(B群)から選ばれた化合物との混合物を、油剤とすることが提案されている。
【0005】
しかしながら、長繊維に油剤を付与して長繊維不織布を製造すると、この長繊維不織布に熱エンボス加工を施しても、長繊維相互間の融着が不十分になるということがあった。この理由は、長繊維表面に油剤が付着しているため、長繊維を溶融又は軟化させて加圧しても、油剤が長繊維相互間の融着を阻害するからである。
【0006】
【特許文献1】特開2002−69821(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者は、油剤を用いずに、ニードルパンチを施す方法を検討していたところ、長繊維ウェブに水を飽充させて、ニードルパンチを施せば、長繊維の切断が殆ど起こらずに、良好に長繊維相互間を絡合しうることを見出した。本発明は、このような発見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、表面に油剤が付与されていない長繊維で構成された長繊維ウェブに、水を飽充させた後、ニードルパンチを施すことを特徴とする長繊維不織布の製造方法に関するものである。
【0009】
本発明で用いる長繊維ウェブとは、ニードルパンチを施す前の長繊維集積体のことを意味している。したがって、溶融紡糸した長繊維を単に集積しただけの状態であるものの他、長繊維を集積した後、部分的に加熱加圧を施して、長繊維相互間を融着したもの等を含むものである。また、本発明の課題から明らかなように、長繊維ウェブを構成する長繊維表面には、油剤が付与されていないものである。
【0010】
長繊維ウェブを構成する長繊維としては、従来公知のものが用いられ、ポリエステル系長繊維、ポリオレフィン系長繊維、ポリアミド系長繊維、レーヨン系長繊維等を用いることができる。特に、ニードルパンチ前又はニードルパンチ後に、加熱(及び所望により加圧)して、長繊維相互間を熱融着させる場合には、ポリエステル系長繊維やポリオレフィン系長繊維等の熱可塑性長繊維を用いるのが好ましい。また、この場合には、芯成分が高融点熱可塑性重合体で、鞘成分が低融点熱可塑性重合体よりなる芯鞘型複合長繊維を用いるのが好ましい。このような芯鞘型複合長繊維の場合、加熱によって、鞘成分のみが融着成分となり、芯成分は当初の繊維状態を維持したままであるので、良好な風合いを持つ長繊維不織布が得られるからである。また、同様の理由で、低融点熱可塑性重合体と高融点熱可塑性重合体とよりなるサイドバイサイド型複合長繊維を用いるのも、好ましい。
【0011】
長繊維ウェブに水を飽充するには、水中に長繊維ウェブを浸漬すればよい。また、水の飽充量を調整するには、浸漬後にパッディングローラー等で、長繊維ウェブを絞ればよい。水の飽充量は任意であるが、一般的に、長繊維ウェブ100質量部に対して、水が30質量部以上飽充されているのが好ましく、特に水150〜200質量部程度を飽充するのが最適である。
【0012】
本発明で使用する水は、水道水で差し支えないが、熱可塑性長繊維に対する親水性を向上させるために、若干量の親水剤を添加してもよい。添加量としては、水中に0.3質量%以下程度含有させればよく、好ましくは0.01質量%以下がよい。親水剤としては、繊維製品に親水性を与えるために従来使用されているものであれば、どのようなものでも使用しうる。具体的には、ポリオキシアルキレンエーテルや、これとポリエステルの共重合物等が用いられる。
【0013】
長繊維ウェブに水を飽充させた後、ニードルパンチを施す。ニードルパンチは、従来公知の方法で施せばよい。また、ニードル針も従来公知のものが使用でき、パンチ密度も任意に設定することができる。すなわち、従来、長繊維に油剤を付与して行っていた方法と、同一の方法でニードルパンチを施すことができるのである。
【0014】
ニードルパンチを施して、長繊維相互間を絡合させる。その後、飽充されている水を脱水・乾燥すれば、所定の引張強力等の物性を持つ長繊維不織布を得られるのである。また、本発明において、長繊維として熱可塑性長繊維を用いた場合、ニードルパンチを施した後、次のような融着工程を適用するのが好ましい。すなわち、水を脱水・乾燥した後、加熱された一対の凹凸ロール、加熱された凹凸ロールと平滑ロール、又は加熱された一対の平滑ロール間を通して、加熱及び加圧して、熱可塑性長繊維相互間を融着させるのが好ましい。この融着によって、より引張強力の高い長繊維不織布が得られるのである。特に、加熱された一対の凹凸ロール間又は加熱された凹凸ロールと平滑ロール間を通すと、部分的に加熱及び加圧され、引張強力が高く、しかも風合いの良好な長繊維不織布が得られる。この際、更に、上記した芯鞘型複合長繊維やサイドバイサイド型複合長繊維を用いれば、より風合いの良好な長繊維不織布が得られる。
【0015】
以上のようにして得られた長繊維不織布は、カーペット用一次基布等の従来公知の各種用途に用いることができる。各種用途としては、衣料用、衛生材料用、産業用等の用途が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る長繊維不織布の製造方法においては、ニードルパンチを施す前に、長繊維表面に油剤を付与する必要がない。そして、油剤の付与に代えて、水を長繊維ウェブに飽充するだけで、ニードルパンチによる長繊維相互間の絡合が、長繊維の切断を伴うことがなく良好に行える。したがって、ニードルパンチ長繊維不織布を合理的に製造しうるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る方法で得られた長繊維不織布には、油剤が付与されていないので、絡合している長繊維相互間が滑りにくくなっている。したがって、油剤を付与して得られた長繊維不織布に比べて、引張強力が高くなるという格別顕著な効果を奏する。更に、長繊維として熱可塑性長繊維を使用した場合、加熱(及び所望により加圧)によって、熱可塑性長繊維相互間を融着すると、その融着が長繊維表面に付着している油剤によって阻害されることがない。したがって、油剤が付与されている長繊維不織布に比べて、長繊維相互間の融着をより強固に行うことができ、高引張強力の長繊維不織布が得られるという効果を奏する。
【0018】
更に、油剤が付与されていないことにより、長繊維が単一成分の熱可塑性樹脂よりなる場合には、長繊維不織布の使用後に、加熱溶融することによって、熱可塑性樹脂を回収することができる。つまり、本発明に係る方法で得られた長繊維不織布は、リサイクルにも適する場合がある。したがって、環境にやさしいという効果も奏する。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明は、長繊維表面に油剤を施さなくても、長繊維ウェブに水を飽充させることによって、良好にニードルパンチを施せるという発見に基づくものとして、解釈されるべきである。なお、実施例における各特性値は、以下のようにして求めた。
【0020】
(1)ポリエステルの極限粘度[η];フェノールと四塩化エタンとの等質量比の混合溶媒100ccに試料0.5gを溶解し、測定した。
【0021】
(2)融点(℃);パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
【0022】
(3)長繊維不織布の引張強力(N/5cm幅);合繊長繊維不織布試験法(JIS L 1906)に準じて、東洋ボールドウイン社製テンシロンRTM−500型を用いて、幅50mm、長さ200mmの試験片を、把持間隔100mm、引張速度100mm/分の条件で測定し、試料10点の平均値を求め、引張強力とした。なお、引張強力については、長繊維不織布のMD方向(機械方向)、CD方向(MD方向に直交する方向)共に求めた。
【0023】
(4)5%伸長時の応力(N/5cm幅):上記の引張強力測定法に準じ、測定を行ってS−S曲線を求め、5%伸長時の応力を求めた。なお、5%伸長時の応力も、試料10点の平均値を求めたものであり、長繊維不織布のMD方向(機械方向)、CD方向(MD方向に直交する方向)の両者について求めた。
【0024】
[長繊維ウェブの準備]
芯成分として融点が260℃で極限粘度[η]が0.68のポリエチレンテレフタレート、鞘成分としてテレフタル酸/イソフタル酸のモル比が92/8である融点が235℃の共重合ポリエステルを準備した。そして、芯成分:鞘成分=1:1の割合で、公知の複合溶融紡糸装置(孔数160、孔径0.35mm)を用い、紡糸温度285℃で溶融紡糸した。そして、エアーサッカーにて紡糸速度4500mm/分で延伸して、3.3デシテックスの芯鞘型複合長繊維を得た。この芯鞘型複合長繊維を、金網ネット上に堆積・捕集して集積させ、目付100g/m2の長繊維ウェブ(前駆体)を得た。この長繊維ウェブ(前駆体)を、160℃に加熱された凹凸ロールとフラットロールからなるエンボス装置に通して、部分的に長繊維相互間が融着した長繊維ウェブを得た。この長繊維ウェブの融着区域の面積率は、15%であった。そして、この長繊維ウェブの引張強力は、MD方向が102.5N/5cmで、CD方向が50.3N/5cmであった。
【0025】
実施例1
上記の長繊維ウェブを水中に浸漬した後、パッディングして、水を200g/m2飽充させた。この後、ニードルパンチ加工機(ニードル針:フォスターニードル社製、ピンチブレード40番)にて、パンチ密度40回/cm2の条件でニードルパンチを行った後、170℃の熱風乾燥機内で5分間乾燥して、長繊維不織布を得た。
【0026】
実施例2
実施例1で得られた長繊維不織布を、一対のフラットロールからなるカレンダー装置に通した。一対のフラットロールは、両ロール共に210℃に加熱し、ロール間距離(クリアランス)は0.38mmに設定し、処理速度は3m/minの条件とした。これにより、長繊維相互間が全面的に融着した長繊維不織布を得た。
【0027】
実施例3
実施例1で得られた長繊維不織布を、一対のフラットロールからなるカレンダー装置に通した。一方のフラットロールは210℃に加熱し、他方のフラットロールは60℃に加熱し、ロール間距離(クリアランス)は0.38mmに設定し、処理速度は3m/minの条件とした。これにより、長繊維相互間が部分的に融着した長繊維不織布を得た。
【0028】
比較例1
上記の長繊維ウェブに水を飽充させることなく、直接、実施例1で使用したニードルパンチ加工機に通し、パンチ密度40回/cm2の条件でニードルパンチを行って、長繊維不織布を得た。
【0029】
比較例2
比較例1で得られた長繊維不織布を、実施例2と同一の条件でカレンダー装置に通し、長繊維相互間が全面的に融着した長繊維不織布を得た。
【0030】
比較例3
上記の長繊維ウェブを、シリコーン系油剤を0.067質量%含有するシリコーン系水溶液中に浸漬した後、パッディングして、シリコーン系水溶液を150g/m2含浸した。この後、170℃の熱風乾燥機内で5分間乾燥して、長繊維表面にシリコーン系油剤を付与した。シリコーン系油剤の付与量は0.1g/m2であり、長繊維質量に対して0.1質量%のシリコーン系油剤が付与された。この後、実施例1で使用したニードルパンチ加工機に通し、パンチ密度40回/cm2の条件でニードルパンチを行って、長繊維不織布を得た。
【0031】
比較例4
比較例3で得られた長繊維不織布を、実施例2と同一の条件でカレンダー装置に通し、長繊維相互間が全面的に融着した長繊維不織布を得た。
【0032】
実施例1〜3及び比較例1〜4に係る方法で得られた長繊維不織布の引張強力(N/5cm幅)及び5%伸長時の応力(N/5cm幅)を、前記した方法で測定した。その結果は表1に示したとおりであった。

【0033】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
目 付 引張強力 5%伸長時の応力
(g/m2) (N/5cm幅) (N/5cm幅)
━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━
MD CD MD CD
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 112 233.5 144.8 10.1 5.4
実施例2 112 320.6 164.5 69.2 22.4
実施例3 112 312.2 151.0 30.9 7.5
比較例1 113 127.0 84.5 43.2 20.8
比較例2 113 148.3 106.4 85.4 49.5
比較例3 109 120.2 55.3 7.3 1.2
比較例4 109 131.6 57.7 7.7 1.6
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0034】
表1の結果から明らかなように、長繊維ウェブに水を飽充させてニードルパンチを施した実施例1に係る長繊維不織布は、水を飽充させずにニードルパンチした比較例1に係る長繊維不織布に比べて、引張強力が二倍程度高くなっている。これは、後者の長繊維不織布は、ニードルパンチを施したときに、長繊維の切断が起こっているからである。また、実施例1に係る長繊維不織布をカレンダー装置に通して、長繊維相互間を融着させた実施例2に係る長繊維不織布は、比較例1に係る長繊維不織布に同様の処理をした比較例2に係る長繊維不織布に比べて、引張強力が高くなっている。これも、後者の長繊維不織布には、繊維の切断が生じているためである。
【0035】
シリコーン系油剤を付与して得られた比較例3に係る長繊維不織布は、実施例1に係る長繊維不織布に比べて、引張強力が低くなっている。この理由は、両長繊維不織布には繊維の切断は見られないが、比較例3に係る長繊維不織布は、長繊維相互間がシリコーン系油剤の存在のため、滑りやすくなっているからである。すなわち、両長繊維不織布の絡合の程度及び繊維の切断の程度は、同等なのであるが、比較例3に係る長繊維不織布は長繊維の絡合点で滑りやすいために、引張強力が低くなるのである。
【0036】
また、実施例1と実施例2に係る長繊維不織布を対比すれば、長繊維相互間の融着によって、引張強力(MD方向)は約1.4倍高くなっている。これに対して、比較例3と比較例4に係る長繊維不織布を対比すれば、長繊維相互間を融着させても、引張強力(MD方向)は約1.1倍程度しか高くならない。これは、長繊維表面に付着している油剤によって、長繊維相互間の融着が阻害されていることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に油剤が付与されていない長繊維で構成された長繊維ウェブに、水を飽充させた後、ニードルパンチを施すことを特徴とする長繊維不織布の製造方法。
【請求項2】
長繊維ウェブ100質量部に対して、水を30質量部以上飽充する請求項1記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項3】
水中に0.3質量%以下の親水剤が含有されている請求項1記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項4】
長繊維ウェブを構成する長繊維が、熱可塑性長繊維である請求項1記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項5】
ニードルパンチを施した後、加熱及び加圧して、長繊維相互間を融着する請求項1記載の長繊維不織布の製造方法。

【公開番号】特開2006−183158(P2006−183158A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375712(P2004−375712)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】