説明

長繊維不織布の製造方法

【課題】表面均一性に優れ、特に銀付き調人工皮革に用いた場合の折れしわの品位の高い長繊維不織布を提供すること。
【解決手段】長繊維不織布の製造方法であって、紡糸直後の長繊維が2種以上の繊維に分割可能な構造を有し、少なくとも1種の繊維が熱収縮性を有する繊維であり、該長繊維を紡糸した直後にネット上に捕集し積層した後に、進行方向に揺動する揺動型ニードル機で交絡し、次いで機械的分割、熱水収縮する工程を行うことを特徴とする。さらには、紡糸、積層、交絡、分割、収縮の各工程を一旦巻き取ることなく連続して順に行うことや、該長繊維の分割後の繊度が0.5〜0.001dtexであること、該長繊維を構成するポリマーがポリエステルとポリアミドであることなどが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維不織布の製造方法に関し、さらに詳しくは人工皮革等に最適な表面均一性に優れた長繊維不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は同じく繊維から構成された織編物とは異なり、縦横斜めの方向による強伸度や物性の違いが少なく、等方性に優れた材料であり、生産性も高いことから広く産業に用いられている。しかしたとえば人工皮革のような高強度、高品質の最終製品を得るためには不織布の高密度化が必要とされるが、繊維配列がランダムであるために機械的に均一に高密度化することは織編物と比較して困難である。
【0003】
そこで従来は繊維を短繊維とし予め捲縮を与えることによって交絡密度を高めたり、あるいは交絡後に水中にて繊維を収縮させ、不織布を高密度化する方法がとられていた。(例えば特許文献1)しかし短繊維不織布と異なり長繊維不織布の場合には、表面に存在する繊維が短い距離ではなく長い距離にわたって連続しているために、その一本の繊維に発生した乱れが表面全体や内部にまで悪影響を及ぼすという問題があった。
【0004】
そして特に人工皮革のようにその表面に平滑な銀面を付与した場合には、繊維が表面に露出している製品のように内部の乱れをごまかすことができず、折り曲げた際のしわの品位が非常に低くなるという問題があった。
【特許文献1】国際公開第99/23289号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の有する問題点を背景になされたもので、その目的は表面均一性に優れ、特に銀付き調人工皮革に用いた場合の折れしわの品位の高い長繊維不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の製造方法は、長繊維不織布の製造方法であって、紡糸直後の長繊維が2種以上の繊維に分割可能な構造を有し、少なくとも1種の繊維が熱収縮性を有する繊維であり、該長繊維を紡糸した直後にネット上に捕集し積層した後に、進行方向に揺動する揺動型ニードル機で交絡し、次いで機械的分割、熱水収縮する工程を行うことを特徴とする。さらには、紡糸、積層、交絡、分割、収縮の各工程を一旦巻き取ることなく連続して順に行うことや、該長繊維の分割後の繊度が0.5〜0.001dtexであること、該長繊維を構成するポリマーがポリエステルとポリアミドであることなどが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面均一性に優れ、特に銀付き調人工皮革に用いた場合の折れしわの品位の高い長繊維不織布が得られる製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明は長繊維不織布の製造方法であって、紡糸直後の長繊維が2種以上の繊維に分割可能な構造を有し、少なくとも1種の繊維が熱収縮性を有する繊維であることを必須とする。
【0009】
本発明で用いられる長繊維としては、従来の人工皮革あるいは合成皮革として用いられている繊維であり、合成繊維が好ましい。ここで長繊維とは、短繊維のように数cmでカットされることなく、長い繊維状の形態を保っていることをいい、ポリマーを紡糸した後にカットを行わず、充分に連続した繊維であることをいう。
【0010】
長繊維を構成する2種以上の繊維としては、例えばナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−12などのポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらを主成分とする共重合ポリエステル等のポリエステル繊維などが挙げられる。本願で用いられる長繊維はこれらの2種以上の繊維からなるものであり、かつ分割可能な例えば貼り合せ構造を有する繊維である。
【0011】
そして少なくとも1種の繊維が熱収縮性を有することが必要である。このような熱収縮性を有する繊維を用いることによって不織布をより高密度化することができる。熱収縮性を有する繊維の具体例としては例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートまたはこれらを主成分とする共重合ポリエステルを含むことが好ましい。熱収縮性を付与するには紡糸時の延伸倍率や延伸温度を調節するなどの手法を採ることができ、特には紡糸直後のエジェクター延伸の温度、圧力を調整する手段をとることが好ましい。
【0012】
そしてこのような長繊維の中でも、特に長繊維を構成するポリマーがポリエステルと、ポリアミドであることが好ましい。また、長繊維が剥離分割型複合繊維で、該繊維分割後に極細繊維となることが好ましい。2種以上のポリマーで構成された剥離分割型複合繊維において分割後の各繊維の熱収縮率が異なる場合には、収縮時にその繊維間空隙を減少させることができさらに好ましい。
【0013】
高品質な不織布とするためには分割後の繊維が極細繊維であることが好ましく、繊維の繊度は0.5〜0.001dtexであることが好ましく、さらには0.3〜0.08dtexであることが好ましい。繊度が大きすぎる場合には不織布やそれから得られる人工皮革等の風合いが硬くなり好ましくない。
【0014】
またこれらの繊維は単独ではなく数種の繊維が混合したものでも構わない。また長繊維ばかりではなく、短繊維を一部に含むものであることも好ましい。短繊維を含有することによってさまざまな風合いをとることができる。
【0015】
本発明の製造方法は、そのようにしてポリマーを紡糸して得た長繊維を直接ネット上に捕集し積層するものである。紡糸した繊維は強度と繊度を適切にするために延伸を行うが、エジェクターによる延伸を行うことが好ましい。またネット上に短繊維を予め配置し、短繊維と長繊維からなる繊維集合体としても好ましい。短繊維と異なり長繊維不織布では捲縮、カットの工程が不要であるために連続した工程とすることが可能である。
【0016】
繊維集合体の目付けをコントロールするためにはネットは移動しながら捕集するが、目付けはこのネットスピードと紡出繊維量によって決定される。この工程での目付けとしては20〜60g/mの範囲であることが好ましい。多すぎると次の積層工程においてばらつきが発生し易くなり、少なすぎると軽すぎて風による影響を受けやすいばかりでなく、積層スピードを上昇させる必要が生じるので積層が乱れ繊維集合体が不均一になる傾向にある。次の積層工程では繊維集合体を均一にするために、クロスレイヤーを採用することが好ましい。
【0017】
通常、長繊維不織布の製造方法では、繊維の紡出スピードと後の工程のラインスピードを調整するために、繊維集合体の捕集工程や積層工程で一旦巻き取られるが、本願の製造方法では巻き取らずに連続して工程を通過することも好ましい態様である。この段階の繊維集合体は交絡もほとんど無く、途中の工程の風によってさえ不均一になることからもわかるように、非常にデリケートなものである。また短繊維が繊維の移動によってその不均一性が緩和されるのに対し、長繊維からなる不織布はその一本の繊維の乱れが不織布全体に影響を及ぼすという、短繊維不織布と長繊維不織布との違いも存在する。本発明の製造方法では、巻き取り、巻き出しの工程を無くす態様により、さらに長繊維不織布の品質を向上させることができる。
【0018】
次いで本発明の製造方法では、積層された繊維集合体を進行方向に揺動する揺動型ニードル機で交絡することを必須とする。ここで揺動型ニードル機とは、ニードル針の進入位置と抜針位置が一致するようにニードル針が進行方向に移動するものである。
【0019】
紡糸後、ネット上に捕集された繊維集合体の積層体は、目付けが小さく微小な力、例えば工程内の風やニードルロッカに入る際の表裏の剪断力などで各層の繊維集合体の重ね合わせ位置がずれやすいが、本発明では揺動型ニードル機を用いることによりそのずれを減少させることができた。ことにニードル針の進入と抜針を行う運動1ストローク当たりの繊維集合体の進行方向へのマシン速度が大きい場合に本発明の効果は顕著である。従来の短繊維からなる不織布の場合には、繊維長が短いためにニードル針1ストローク当たりの繊維集合体の進行距離の影響は問題とならなかったが、本発明の長繊維不織布では、長髪を櫛で流したようにマシン方向に繊維が揃えられ配向される点が大きく改良されるため、特に人工皮革とした場合に縦方向の内折り曲げ、外折り曲げでの大きなしわの発生を防止することが可能となった。さらに交絡後の繊維集合体の縦方向の強伸度と、横方向の強伸度の値を同等にすることができる。
【0020】
本発明では次いで機械的分割を行う。この機械的分割処理は、一連の連続したラインの中に設置された機械的分割機によって行うことが好ましく、交絡された繊維集合体を構成する繊維を分割させるものである。ここで機械的分割とは、振動、叩く、剪断などの機械的な力を不織布にかけることにより長繊維を分割する手法である。ここでも巻き取ることなく一連の工程として処理することが好ましいが、そのためには、有機溶剤、あるいは有機化合物による分割促進を行わないことが好ましい。このような分割促進工程を省くことによって防爆装置、溶剤回収装置などの設備が不要になる。張り合わせ繊維の種類、製法により分割のしやすさに差が生じるが、基本的には叩くことを基本として振動、剪断を組み合わせた分割機を採用することが品質的にも好ましい。
【0021】
繊維が分割された繊維集合体はその後連続して熱水収縮する工程を通過する。不織布の場合、織編物等と異なり外力による変形が大きいため、ここでも巻き取ることなく連続して熱水収縮工程に投入することが必要である。特に本願発明では熱収縮する繊維を用いており、長繊維のわずかな乱れもその収縮工程にて強調されるが、本願発明の製造方法ではその乱れを極めて小さくすることができる。
【0022】
好ましい態様として、長繊維不織布を水中にて浸漬遊泳させる場合には、浸漬時に水の浮力を利用して不織布を遊泳させることによって不織布の収縮を全方向にわたって均一に行わせることができる。熱水収縮工程の水の温度は50〜95℃の範囲であることが、不織布を高密度化処理するには好ましく、特に65〜75℃の範囲であることが好ましい。温度が低すぎる場合には収縮が発現しにくく、高温の場合には水が大量に蒸発するためエネルギーロスが大きくなる傾向にある。また処理時間としては30〜60秒程度であることが適当である。
【0023】
不織布の収縮率は、15〜60%であることが好ましい。さらに好ましくは30〜45%である。収縮率が少なすぎる場合は不織布が低密度となり、高品質の人工皮革等をえることができない。また収縮率が高すぎる場合には曲げ等に対する繊維の自由度が失われ、例えば人工皮革とした場合に硬すぎるものとなる。また、不織布が等方性を得るためには縦方向と横方向の収縮率の差は80%以内であることが好ましい。これらの収縮率は、不織布中の収縮繊維の収縮率、構成比率や、交絡度、また収縮工程での温度条件、張力などによって調節することができる。収縮後の不織布の見掛け密度としては0.2〜0.5g/cmであることが好ましく、さらには0.22〜0.45g/cmであることが好ましい。
【0024】
水中に浸漬遊泳させる場合には、長繊維不織布をその状態のまま水透過性の支持体上に捕獲することが好ましい。収縮の完了した不織布は水中で浮力が働いているが、そのまま支持体により水中から引き出すことにより縦横方向、特に製造工程のマシン方向である縦方向の荷重をほぼゼロにすることができるのである。水透過性の支持体としては、過剰な水を下に透過させ不織布を支持し移動させることができるものであれば良く、例えばネットコンベア等の網状の金属又は合成樹脂などでできたベルト等が好適に用いられる。さらに支持体上では不織布を冷却することが好ましい。たとえば30度以下の低温の水を吹きかけることによって速やかに冷却することができる。このようにすることにより不織布の支持体上での伸縮を抑え、支持体上での新たな応力の発生を抑えることができる。また不織布温度が低下するために後の工程での応力の影響を最小限度に抑えることができる。
【0025】
さらには、熱水収縮工程後に、水分除去を連続して行う製造方法であることが好ましい。そのため不織布を捕獲する支持体は水透過性であることが好ましい。このように不織布内の水分を除去することによって不織布重量を低くして工程での張力は軽減することができる。水分除去の方法としては、マングルで絞る方法も使用できるが、脱水効率を高め、不織布の柔らかい風合いを保つためには減圧脱水であることが好ましい。このとき支持体に通気性の高い物を用いることにより不織布の厚さ方向の空気流量を増加させ、より脱水を進めることができる。脱水後の不織布は軽量となるので容易に次の工程に少ない張力で移動させることができる。完全に水分除去するためには脱水後に加熱乾燥を行うことが好ましい。
【0026】
ちなみに水中の不織布は、そのまま水中から引き出した場合、水を含むために不織布繊維重量の5〜8倍もの重量となっている。特にその水の水温が高温である場合には、不織布と水の集合体の温度がなかなか低下しないために、ほんのわずかの張力によっても不織布が伸びる現象が発生し、得られる不織布は方向によって強伸度などの物性が大きく異なったものとなる。例えば幅1.4m、300g/mの繊維目付けの不織布の場合、水から1mの高さまで引き出した時に不織布最上部にかかる荷重は、300g/m×1.4m×1m×6=2520gにも達し、これは不織布1mあたり1.8kg重もの荷重に相当する。
【0027】
このような製造方法によって得られた長繊維不織布は交絡工程での針穴のずれが発生しないために驚くほど均一性が向上し、そのために風合いの優れたものとなる。また、縦横方向への異方性がなく等方性に優れた高品質の不織布となり、製造時のマシン方向である縦方向の繊維配向や縦の繊維密度斑の増長を防止することができ、特に人工皮革等に好適に用いることができる。
【0028】
不織布を人工皮革に加工するには従来公知の方法を用いれば良く、例えば有機溶剤に溶解されたポリウレタンなどの高分子弾性体溶液、あるいは水に分散されたポリウレタンなどの高分子弾性体水分散液などを不織布に含浸し、湿式あるいは乾式に凝固しまたはせずに乾燥し、繊維と高分子弾性体からなる人工皮革用基材と成すことができる。この基材は乾燥後表面を起毛し、染色によりスウェード調人工皮革に、あるいは表面に高分子弾性体の着色膜等を形成し銀付調人工皮革とすることができる。
【0029】
このようにして得られた人工皮革は等方性に優れた非常に品質の高いものであり、特に銀付調の人工皮革とした場合には、横方向はもちろん縦方向の内折り曲げ、外折り曲げの両方に対しても大きな皺が発生せず、表面で細かく分散した微細な皺のみが発生し、折り曲げを解除した場合にもその皺跡が残らない高品質のものが得られる。得られた人工皮革は、スポーツシューズ、婦人・紳士靴などの靴用途、競技用の各種ボール用途、家具、車両、内装材、インテリア材などの産業資材用途、手帳・ノート等の装丁用途、衣料用途などに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。
なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0031】
(1)収縮率
収縮前の面積をSとする。収縮後の面積をSとする。収縮率は次の計算で求める。
収縮率(%)=(S−S)×100/S
【0032】
(2)柔軟度
繊維配向や密度斑の度合いを、縦方向、横方向の柔軟度により評価した。
柔軟度試験片25mm×90mmを準備し、長手方向の下部の20mmを保持具で垂直方向に保持し、保持具より20mmの高さの位置にあるUゲージの測定部に試験片のもう一方の片端の先端から20mmの位置の中央部があたるように、試験片を曲げながら保持具をスライドさせて固定し、固定してから5分後の応力を記録計より読み取り、幅1cm当たりの応力に換算して柔軟度とした。単位はg/cmで表す。
【0033】
[実施例1]
(長繊維不織布の作成)
120℃で乾燥したナイロン−6(m−クレゾール中の極限粘度1.1)をエクストルーダーに供給し溶融した。別途160℃で乾燥したポリエチレンテレフタレート(o−クロロフェノール中の極限粘度0.64)を、前述とは別個のエクストルーダーにて溶融した。
【0034】
引き続き、ナイロン−6混合体溶融流は導管ポリマー温度250℃で、ポリエチレンテレフタレート溶融流は300℃で、275℃に保温されたスピンブロックへ導入し、中空形成吐出孔を格子状配列で有する矩形の紡糸口金を用いて両重合体溶融流を合流させ複合し2g/分・孔の量で吐出し、空気圧力0.35MPa(吐出量と複合繊維繊度から換算した紡速で約4860m/分)にて高速牽引した(エジェクター延伸)。
【0035】
牽引された複合繊維は、−30kVで高電圧印加処理し、空気流とともに分散板に衝突させ開繊し、16分割の多層貼合せ型断面をもつ剥離分割型複合繊維(親糸繊度4.4dtex)からなるウェブとしてネットコンベア上に幅1mで補集しウェブとした。引き続き、捕集したウェブは100℃に加熱された上下一対のエンボスカレンダーロールに通し熱接着を行った熱接着ウェブとした。
【0036】
その後巻き取ることなく捕集した熱接着ウェブをクロスレーヤーで170cmの巾となるように重ね合わせた後、1バーブの針を装着した揺動型ニードル機にて、ピッチ3mm、ストローク数1200回/分、ペネレイト数1200本/cmの条件にて、針の進入時と抜針時の不織布上における針の相対位置がずれないように揺動させ交絡処理を行った。次いで打撃式揉み機にて剥離分割処理を行い目付210g/m、幅170cmの収縮前極細繊維集合体を得た。
【0037】
次いでこの繊維集合体を70℃の熱水中に60秒間、浸漬遊泳させて収縮させ、幅190cmのネットコンベア上に捕集して熱水から引き出した。この時の収縮はタテ方向が収縮前の長さ100に対し79、ヨコ方向が収縮前の長さ100に対し76であり、面積収縮率は40%であった。また、この時点での含水率は460%であった。
【0038】
次いで、ネットコンベア上で13℃の冷水を噴きかけ冷却し、その後ネットコンベアの裏面側に位置するスリット式減圧脱水機で水分を除去し、含水率120%として熱風乾燥機で乾燥し長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布は、目付け350g/m、厚さ1.0mm、見掛け密度0.35g/cm、幅129cmであり、縦横斜め方向の異方性のない等方性に優れた高密度の充実感のある不織布であった。
【0039】
断面を電子顕微鏡で観察したところ、縦方向、横方向から観察した不織布断面はほぼ同じであり、繊維の切断面と繊維側面とがランダムに存在するものであった。また、縦方向の強伸度は破断強度185N/cm、破断伸度95%、横方向の強伸度は破断強度177N/cm、破断伸度107%と均一なものであった。また紡糸から一連の連続したラインで製造したため、従来の分断されたラインで製造する方法と比べて、短時間で生産できるだけでなく、品質的にも長繊維が一部引っ張られることによる繊維の乱れがなく、風合いの優れた長繊維不織布であった。
【0040】
(人工皮革用基体の作成)
得られた長繊維不織布は巻き取ることなく連続して、感熱凝固型水系ポリウレタンの9%分散液(感熱凝固温度60℃)を含浸させ、表面の余分な分散液を掻き落として、感熱凝固ボックスにて凝固を行った。感熱凝固ボックスは繊維集合体の布道が無い最下部に水槽を有し、その水槽中に深さ200mmの位置にある2本のパイプから0.29MPa(3kgf/cm)の加圧スチームを供給していた。各パイプには孔が存在しており、その各孔より熱水中に水面に対して平行にスチームが供給され、感熱凝固ボックス中は、この下部に設置された水槽中の沸騰水によって上部の雰囲気温度を92℃、相対湿度を99%にコントロールしていた。また、感熱凝固ボックスの出口は97℃の熱水でシールされており、このシール部分の熱水槽には含浸不織布が通過するように布道が設定されていた。分散液を含浸した長繊維不織布は、雰囲気温度を92℃、相対湿度を99%の凝固ボックスに1分間曝してポリウレタンの凝固を行い、次いでその出口をシールしている97℃の熱水槽の中を1分通過させた。感熱ボックス中で凝固しているために熱水槽中にはポリウレタンの溶け出しは見られなかった。また基材上に色ムラは無く、斑点上の欠点も見られなかった。その後、冷却してからマングルロールで絞り、110℃の熱風乾燥機で乾燥させて厚さ1.0mm、見掛け密度0.45g/cmの人工皮革基体を得た。得られた人工皮革基体の繊維:ポリウレタンの比率は重量で100:30であり、かつ電子顕微鏡により断面を観察したところポリウレタンは繊維複合体の厚さ方向に均一に分布されたものであった。
【0041】
(人工皮革の作成)
一方、離型紙(リンテック社製R53)上に、ポリウレタンの33%水分散液100部に増粘剤、および着色剤5部を攪拌しながら添加し粘度を8000mPa・sに調整した調合液を目付け90g/mでコートし、温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥した。さらにその表面に、水分散型ポリウレタン系接着剤(45%濃度)100部に、着色剤(ブラック)5部、および増粘剤を混合して粘度を5000mPa・sに調整した調合液を目付け150g/mでコートした。次いで、温度90℃で2分乾燥後、先に得られた人工皮革基体を重ね合わせ、温度110℃の加熱シリンダー表面上で0.6mmの間隙のロールに通過させ圧着した。その後、温度60℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取り人工皮革を得た。
【0042】
得られた人工皮革は、縦方向の柔軟度0.87g/cm、横方向の柔軟度0.81g/cmであり、縦方向の強伸度は破断強度192N/cm、破断伸度90%、横方向の強伸度は破断強度183N/cm、破断伸度104%と均一なものであった。縦、横方向共に、表面を内に曲げても大きな折れシワが発生しないものであった。
【0043】
この人工皮革を用いてサッカーシューズ、およびサッカーボールを作成した。サッカーシューズは着用した場合につま先部分に大きなシワが発生することなく小さなシワとなり天然皮革のシワに酷似していた。また、サッカーボールは空気を抜き、半球状に折りたたみ、1ケ月後空気を入れて球状に戻したがシワ跡が残っていなかった。
【0044】
[比較例1]
(長繊維不織布の作成)
交絡処理時に、揺動型ニードル機を用いる代わりに従来型の同じ位置でニードル針が往復運動を行うニードル機にて、ピッチ3mm、ストローク数1200回/分、ペネレイト数1200本/cmの条件にて、交絡処理を行う以外は、実施例1同様の条件にて、長繊維不織布を作成した。得られた長繊維不織布は、目付け350g/m、厚さ1.0mm、見掛け密度0.35g/cm、幅129cmであり、高密度の充実感のある不織布であった。
【0045】
しかし断面を電子顕微鏡で観察したところ、縦方向から観察した不織布断面は繊維の切断面の存在が圧倒的に多く、繊維側面の数はまばらであった。一方、横方向から観察した不織布断面は、逆に繊維の切断面の数はまばらであり、繊維側面の数が圧倒的に多かった。また、縦方向の強伸度は破断強度212N/cm、破断伸度76%、であるにもかかわらず横方向の強伸度は破断強度154N/cm、破断伸度129%と不均一なものであった。
【0046】
(人工皮革用基体の作成)
得られた長繊維不織布を用い、その他は実施例1と同様にして、人工皮革用の基体を作成し、厚さ1.0mm、見掛け密度0.45g/cmの人工皮革基体を得た。得られた人工皮革基体の繊維:ポリウレタンの比率は重量で100:30であった。
【0047】
(人工皮革の作成)
得られた人工皮革用基体を用い、その他は実施例1と同様にして銀付き人工皮革を得た。
得られた人工皮革は、縦方向の柔軟度1.21g/cm、横方向の柔軟度0.76g/cmであり、縦方向の強伸度は破断強度219N/cm、破断伸度74%、横方向の強伸度は破断強度161N/cm、破断伸度127%であった。
【0048】
断面を電子顕微鏡で観察したところ、縦方向から観察した不織布断面は繊維の切断面の存在が圧倒的に多く、繊維側面の数はまばらであった。また、表面を内にして横方向に曲げても大きな折れしわは発生しなかったが、同じく表面を内にして縦方向に曲げた場合大きな折れしわが発生するものであった。
【0049】
この人工皮革を用いてサッカーシューズ、およびサッカーボールを作成した。サッカーシューズは着用した場合につま先部分に大きなシワが発生し、小さなシワが少なく天然皮革との違いが明白なものであった。また、サッカーボールは空気を抜き、半球状に折りたたみ、1ケ月後空気を入れて球状に戻したがシワ跡が残り、商品価値の低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維不織布の製造方法であって、紡糸直後の長繊維が2種以上の繊維に分割可能な構造を有し、少なくとも1種の繊維が熱収縮性を有する繊維であり、該長繊維を紡糸した直後にネット上に捕集し積層した後に、進行方向に揺動する揺動型ニードル機で交絡し、次いで機械的分割、熱水収縮する工程を行うことを特徴とする長繊維不織布の製造方法。
【請求項2】
紡糸、積層、交絡、分割、収縮の各工程を一旦巻き取ることなく連続して順に行う請求項1記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項3】
該長繊維の分割後の繊度が0.5〜0.001dtexである請求項1または2記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項4】
該長繊維を構成するポリマーが、ポリエステルとポリアミドである請求項1〜3のいずれか1項記載の長繊維不織布の製造方法。
【請求項5】
収縮する工程後の不織布の密度が0.2〜0.5g/cmである請求項1〜4のいずれか1項記載の長繊維不織布の製造方法。

【公開番号】特開2006−299463(P2006−299463A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123207(P2005−123207)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】