説明

長鎖(メタ)アクリレート系エマルションおよびその製造方法

【課題】長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート系共重合体を含有するエマルションおよびその製造方法を提供することである。
【解決手段】炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、極性モノマーと、を含むモノマー混合物を、水性媒体中で乳化重合して得られる共重合体を含有する長鎖(メタ)アクリレート系エマルションである。また、前記モノマー混合物を、界面活性剤を添加した水性媒体に分散させて分散液(A)を得る工程と、この分散液(A)に保護コロイドを添加して分散液(B)を得る工程と、この分散液(B)に重合開始剤を添加し、前記モノマー混合物の乳化重合を行う工程と、を含む長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート系共重合体を含有するエマルションおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート系共重合体は、側鎖結晶性ポリマーとして一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。側鎖結晶性ポリマーは、長鎖アルキル基として炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー単位として含有しており、この長鎖アルキル基に起因する融点を有している。側鎖結晶性ポリマーは、この融点以上の温度に加熱されると流動性を示して粘着性を発現し、融点未満の温度に冷却されると結晶化して粘着力が低下する性質を有しているので、粘着用途等に使用されている。
【0003】
しかし、特許文献1に記載されているような従来の側鎖結晶性ポリマーは、溶液重合法によって製造されている。環境に対する影響や安全性等を考慮すると、側鎖結晶性ポリマーの水系化を図るのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−251923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート系共重合体を含有するエマルションおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、極性モノマーと、を含むモノマー混合物を、水性媒体中で乳化重合して得られる共重合体を含有することを特徴とする長鎖(メタ)アクリレート系エマルション。
(2)前記水性媒体が、水である前記(1)記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルション。
(3)炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートおよび極性モノマーを含むモノマー混合物を、界面活性剤を添加した水性媒体に分散させて分散液(A)を得る工程と、この分散液(A)に保護コロイドを添加して分散液(B)を得る工程と、この分散液(B)に重合開始剤を添加し、前記モノマー混合物の乳化重合を行う工程と、を含むことを特徴とする長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
(4)前記界面活性剤のHLB値が、14〜18である前記(3)記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
(5)前記界面活性剤の添加量が、モノマー混合物100重量部に対して固形分換算で5〜15重量部である前記(3)または(4)記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
(6)前記水性媒体が、水である前記(3)〜(5)のいずれかに記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
(7)前記モノマー混合物を攪拌手段によって攪拌状態とし、この攪拌状態のモノマー混合物に前記水性媒体を添加して前記分散液(A)を得る前記(3)〜(6)のいずれかに記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
(8)前記保護コロイドの添加量が、モノマー混合物100重量部に対して固形分換算で1〜9重量部である前記(3)〜(7)のいずれかに記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上述した側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマーの混合物を水性媒体中で乳化重合して共重合体とし、この共重合体を含有する水系のエマルションとするので、溶液重合法によって製造されている従来の側鎖結晶性ポリマーよりも低公害であり、それゆえ環境に対する影響が少なく、火災や取扱い性等に対する安全性に優れ、かつ省資源化にも対応することができるという効果がある。しかも、水性媒体に水を採用すれば、無溶剤化を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の長鎖(メタ)アクリレート系エマルション(以下、「エマルション」と言うことがある。)は、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、極性モノマーと、を含むモノマー混合物を、水性媒体中で乳化重合して得られる共重合体を含有する水系のエマルションである。
【0009】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばセチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数16〜22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0010】
炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
極性モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有エチレン不飽和単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有エチレン不飽和単量体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
上述した各モノマーを含むモノマー混合物は、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートを30〜70重量部、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを29〜70重量部、極性モノマーを1〜10重量部の割合で含有するのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0013】
水性媒体としては、例えば水、水と水溶性有機溶剤との混合媒体等が挙げられ、無溶剤化を図る上で、水単独であるのが好ましい。水と水溶性有機溶剤との混合媒体を用いる場合には、環境に対する影響や安全性等の上で、水の含有量を水溶性有機溶剤の含有量よりも多くするのが好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール;アセトン等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
ここで、モノマー混合物に含まれる各モノマーのうち、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは疎水性であり、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートおよび極性モノマーはいずれも親水性である。このような特定の疎水性モノマーと親水性モノマーとが組み合わされたモノマー混合物は、水性媒体中で乳化重合し難い傾向にある。本発明では、次のような工程を経ることによって、このモノマー混合物を水性媒体中で乳化重合する。
【0015】
まず、上述したモノマー混合物を、界面活性剤を添加した水性媒体に分散させて分散液(A)を得る。界面活性剤としては、例えばアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、反応性界面活性剤等が挙げられ、特にノニオン系界面活性剤が好適である。
【0016】
ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
界面活性剤のHLB値としては、14〜18であるのが好ましい。HLB値は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値である。HLB値があまり小さいか、または大きいと、乳化重合後に分離するおそれがある。
【0018】
また、HLB値で説明したのと同じ理由から、界面活性剤の曇点としては、70℃以上であるのが好ましい。
【0019】
界面活性剤の添加量としては、モノマー混合物100重量部に対して固形分換算で5〜15重量部であるのが好ましい。界面活性剤の添加量があまり少ないか、または多いと、乳化重合後に分離するおそれがある。界面活性剤は、単独で添加してもよいし、予め水性媒体等で溶解または希釈した溶液としてから添加してもよい。
【0020】
上述した界面活性剤が添加される水性媒体の割合は、モノマー混合物100重量部に対して50〜400重量部であるのが好ましく、100〜300重量部であるのがより好ましい。水性媒体の割合があまり少ないと粘度が上昇して取扱い性が低下し、またあまり多いと生産性が低下するので好ましくない。水性媒体は、その全量を一括添加してもよいし、複数回に分割して添加してもよい。
【0021】
分散液(A)は、モノマー混合物を攪拌手段によって攪拌状態とし、この攪拌状態のモノマー混合物に水性媒体を添加して得るのが好ましく、水性媒体を添加した後、攪拌下50〜80℃の加温状態とし、この状態を10分〜60分程度保持することによって得るのがより好ましい。これにより、分散液(A)を簡単に得ることができる。得られる分散液(A)は、通常、乳化状態である。
【0022】
攪拌手段としては、例えば攪拌機等が挙げられるが、モノマー混合物を攪拌状態にできる限りこれに限定されるものではない。また、攪拌速度についても、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0023】
得られた分散液(A)に、保護コロイドを添加して分散液(B)を得る。保護コロイドとしては、例えば部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;グアーガム等の天然多糖類等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
保護コロイドの添加量としては、モノマー混合物100重量部に対して固形分換算で1〜9重量部であるのが好ましい。保護コロイドの添加量があまり少ないか、または多いと、乳化重合後に分離するおそれがある。保護コロイドは、単独で添加してもよいし、予め水性媒体等で溶解または希釈した溶液としてから添加してもよい。
【0025】
この分散液(B)に重合開始剤を添加し、モノマー混合物の乳化重合を行う。重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;過塩素酸化合物;過ホウ酸化合物;ベンゾイルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ターシャリーハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物;4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物類;過硫酸カリウム−チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素−アスコルビン酸等の過酸化物と還元性化合物との組み合わせからなるレドックス系開始剤等が挙げられる。
【0026】
重合開始剤の添加量としては、モノマー混合物100重量部に対して0.05〜2重量部であるのが好ましく、0.05〜1重量部であるのがより好ましい。重合開始剤の添加量があまり少ないと、重合速度が遅くなり、重合終了までに要する時間が長くなるので好ましくない。また、重合開始剤の添加量があまり多いと、重合速度が速くなりすぎ、発生する反応熱が大きくなり、反応温度の制御が困難になるので好ましくない。
【0027】
重合開始剤は、単独で添加してもよいし、予め水性媒体等で溶解または希釈した溶液としてから添加してもよい。重合開始剤の添加速度としては、モノマー混合物を乳化重合できる限り特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0028】
乳化重合は、攪拌下50〜80℃の加温状態とし、この状態を2時間〜6時間程度保持することによって行うのが好ましい。また、乳化重合は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。なお、上述した分散液(A),(B)を得る各工程においても、不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0029】
乳化重合によって得られる共重合体は、水性媒体中を粒子状に分散した水系のエマルションの形態で得られる。このエマルションの平均粒子径としては、200〜1000nm程度であるが、これに限定されるものではない。エマルションの固形分濃度としては、20〜66重量%であるのが好ましく、25〜50重量%であるのがより好ましい。固形分濃度があまり低いと生産性が低下し、またあまり高いと粘度が上昇して取扱い性が低下するので好ましくない。
【0030】
エマルションに含有されている共重合体は、融点未満の温度で結晶化し、かつ融点以上の温度で相転移して流動性を示す側鎖結晶性ポリマーである。したがって、この共重合体を含有する本発明の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションは、粘着用途等に好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの使用形態としては、例えば被着体等に直接塗布するか、または噴霧した後に乾燥処理をして皮膜状の形態で使用することができる。また、本発明の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションを基材フィルムの片面または両面に塗布して乾燥処理をすれば、テープ状の形態で使用することができ、さらに離型フィルム上に塗布して乾燥処理をすれば、基材レスのフィルム状ないしシート状の形態で使用することができる。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明で「部」は重量部を意味する。
【実施例】
【0033】
実施例において、長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造に使用した材料は、次の通りである。
・界面活性剤(1):HLB値13.3、曇点45〜55℃の日油(株)製の「ノニオンNS−210」を用いた。
・界面活性剤(2):HLB値14.1、曇点70〜85℃の日油(株)製の「ノニオンNS−212」を用いた。
・界面活性剤(3):HLB値15.0、曇点85〜100℃の日油(株)製の「ノニオンNS−215」を用いた。
・界面活性剤(4):HLB値16.0、曇点100<℃の日油(株)製の「ノニオンNS−220」を用いた。
・界面活性剤(5):HLB値17.1、曇点100<℃の日油(株)製の「ノニオンNS−230」を用いた。
・界面活性剤(6):HLB値18.7、曇点100<℃の日油(株)製の「ノニオンNS−270」を用いた。
なお、界面活性剤(1)〜(6)はいずれも、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルからなるノニオン系界面活性剤である。
【0034】
・水性媒体:イオン交換水
・保護コロイド:ケン化度88%の部分ケン化ポリビニルアルコールであるクラレ(株)製の「PVA224」を用いた。
・重合開始剤:過硫酸カリウムを用いた。
【0035】
<長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造>
まず、ベヘニルアクリレートを45部、メチルアクリレートを50部、およびアクリル酸を5部の割合でそれぞれ混合し、モノマー混合物を得た。ついで、このモノマー混合物を、攪拌機およびガス導入管を備えたセパラブルフラスコに加え、ガス導入管から窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気下にするとともに、攪拌機によって回転数120rpmで攪拌し、攪拌状態にした。なお、攪拌機には、略矩形平板状の攪拌羽根を先端に備えたシャフト付の攪拌機を用いた。
【0036】
ついで、この攪拌状態のモノマー混合物に、予め界面活性剤を溶解させた水性媒体を添加した。水性媒体は、モノマー混合物100部に対して220部を全量とし、このうちの120部を攪拌状態のモノマー混合物に加えた。水性媒体に溶解させた界面活性剤の種類および添加量は、表1に示す通りである。なお、表1中の界面活性剤の添加量は、モノマー混合物100部に対して固形分換算した値である。
【0037】
水性媒体を添加した後、攪拌下70℃の加温状態とし、この状態を30分間保持することによって分散液(A)を得た。得られた分散液(A)は、乳化状態であった。
【0038】
ついで、この分散液(A)に保護コロイドを添加し、攪拌下70℃の加温状態とし、この状態を1時間保持することによって分散液(B)を得た。なお、保護コロイドは、予め水性媒体で溶解した溶液としてから添加した。保護コロイドの溶解に用いた水性媒体は、上述した全量のうちの90部を用いた。保護コロイドの添加量は、表1に示す通りである。表1中の保護コロイドの添加量は、モノマー混合物100部に対して固形分換算した値である。
【0039】
得られた分散液(B)に重合開始剤を添加し、攪拌下70℃の加温状態とし、この状態を4時間保持することによって乳化重合を行い、エマルションを得た(表1中の試料No.1〜13)。なお、重合開始剤の添加量は、モノマー混合物100部に対して0.3部とした。重合開始剤は、予め水性媒体で溶解した溶液とし、これを1分間かけて分散液(B)に滴下した。重合開始剤の溶解に用いた水性媒体は、上述した全量のうち残りの10部を用いた。
【0040】
<評価>
得られたエマルションについて、融点および放置安定性を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表1に併せて示す。
【0041】
(融点)
乳化重合しているか否かを、融点から判定した。すなわち、予め上述したモノマー混合物を溶液重合し、得られた共重合体の融点を測定した。そして、この溶液重合によって得られた共重合体の融点と、上述した乳化重合によって得られた共重合体の融点とを対比し、両融点の差が±5℃の範囲内であれば、所定量の共重合体として乳化重合していると判定した。
【0042】
融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態となる温度を意味する。融点の測定は、示差熱走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の測定条件で行った。なお、溶液重合は、上述したモノマー混合物を酢酸エチル230部に加え、55℃で4時間撹拌して行った。
【0043】
(放置安定性)
エマルションを23℃の雰囲気温度に1週間放置した後の状態を、目視観察して評価した。
【0044】
【表1】

【0045】
上述したモノマー混合物を溶液重合して得た共重合体の融点は、57℃であった。表1から明らかなように、試料No.1〜13はいずれも、溶液重合によって得られた共重合体の融点との差が±5℃の範囲内なので、乳化重合しているのがわかる。したがって、試料No.1〜13はいずれも、水性媒体中で乳化重合して得られた共重合体を含有する長鎖(メタ)アクリレート系エマルションであると言える。
【0046】
試料No.1〜13のうち、界面活性剤のHLB値が14〜18であり、界面活性剤の添加量がモノマー混合物100部に対して固形分換算で5〜15部であり、保護コロイドの添加量がモノマー混合物100部に対して固形分換算で1〜9部である試料No.2〜5,8,9,12は、放置安定性が良好であった。これら試料No.2〜5,8,9,12は、23℃の雰囲気温度に6ヶ月間放置した後にも、安定な状態を維持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと、
炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、
極性モノマーと、
を含むモノマー混合物を、水性媒体中で乳化重合して得られる共重合体を含有することを特徴とする長鎖(メタ)アクリレート系エマルション。
【請求項2】
前記水性媒体が、水である請求項1記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルション。
【請求項3】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートおよび極性モノマーを含むモノマー混合物を、界面活性剤を添加した水性媒体に分散させて分散液(A)を得る工程と、
この分散液(A)に保護コロイドを添加して分散液(B)を得る工程と、
この分散液(B)に重合開始剤を添加し、前記モノマー混合物の乳化重合を行う工程と、
を含むことを特徴とする長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤のHLB値が、14〜18である請求項3記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
【請求項5】
前記界面活性剤の添加量が、モノマー混合物100重量部に対して固形分換算で5〜15重量部である請求項3または4記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
【請求項6】
前記水性媒体が、水である請求項3〜5のいずれかに記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
【請求項7】
前記モノマー混合物を攪拌手段によって攪拌状態とし、この攪拌状態のモノマー混合物に前記水性媒体を添加して前記分散液(A)を得る請求項3〜6のいずれかに記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。
【請求項8】
前記保護コロイドの添加量が、モノマー混合物100重量部に対して固形分換算で1〜9重量部である請求項3〜7のいずれかに記載の長鎖(メタ)アクリレート系エマルションの製造方法。

【公開番号】特開2012−172063(P2012−172063A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35513(P2011−35513)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】