説明

門脈圧亢進症の予防及び/又は治療

【課題】門脈圧亢進症と関連した疾患又は合併症、特に出血性合併症に対する予防及び/又は治療に用いる医薬の提供。
【解決手段】ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害剤(但し、シルデナフィル及びバルデナフィルを除く。)を有効成分として含む医薬組成物が経口投与される形態であり、単一投与量が、kg体重当たり、0.01〜10mgである医薬組成物。ホスホジエステラーゼ5の阻害剤が、門脈圧を顕著に低下させることができ、門脈直径を増大させ、また門脈血流量を顕著に増加させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、門脈圧亢進症(門脈領域の高血圧)及びこの病態と結びついた疾患又は合併症の予防及び/又は治療に対する新規投薬に関する。
【背景技術】
【0002】
門脈圧亢進症(門脈高血圧症、即ち、門脈領域の高血圧症)は特に、上部胃腸管からの出血を起こす原因となる。肝臓血流が妨げられ、血液が"迂回した循環"を捜すために起こり、出血としては、多くの場合"食道静脈瘤"、即ち食道に形成された静脈瘤、からの出血を伴う。門脈圧亢進症に伴う他の厄介な合併症としては、静脈瘤底からの出血がある。更に、門脈圧亢進症に伴う、重篤な又は生命を危うくする合併症が知られている(肝性脳症、肝脾症候群、肝肺症候群、腹水、自発性細菌性腹膜炎、肝臓を通過する血流低下による代謝疾患)。
急性出血合併症は、医薬(例えば、バソプレッシン及びその類縁体、ソマトスタチン及びその類縁体、アンギオテンシン−2−受容体−拮抗剤)及び/又は内視鏡的処置法(バルーン方式タンポン挿入、硬化法、静脈瘤バンド法、アクリル樹脂注射法、TIPS(経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術))により治療される。一次又は二次予防は医薬(非心選択性β−遮断薬;硝酸塩)、内視鏡(硬化法、静脈瘤バンド法、TIPS)又は手術(シャント手術)によって従来行われた。β−遮断薬又は硝酸塩の投与などの医薬による予防により、心拍数、末梢血管の抵抗性、及び体血圧の減少による門脈圧の減少がみられた。
(以上参照文献;非特許文献1、2)。
【0003】
硝酸塩の例を考察すると、G.Garcia-Tsao:"門脈圧亢進症"Current Opinion in Gastroenterology,2003,19,p.250-258;及びR.Wiest及びR.J.Groszmann:"肝硬変及び門脈圧亢進症における一酸化窒素のパラドックス:過度、不充分"Hepatology35,No.2,2002,pp.478-491,から明らかな様に、血管拡張薬として通常作用する薬剤のジレンマが分かる:即ち、末梢血管抵抗性及び体血圧の低下が、肝臓に向かう血液の鬱血を増加させる、従ってそれにより病況が悪化することもある。
即ち、医薬が一般的血液循環を増加させ又は血管拡張を引き起こしたとしても、その医薬が肝臓を通過する血流量を増加の効果をもち、及び/又は門脈圧亢進症に対する活性をもつ、ということを自動的に意味することにはならない。β−遮断薬、バソプレッシン及びその類縁体、ソマトスタチン及びその類縁体のような確立した医薬は、肝臓に向う動脈血流量を減少させることで、門脈圧を低下させる。しかしながら、それによって、既に疾患に冒され減少している肝臓への全(門脈)血流量は、さらに減少し悪化する。従って、門脈圧のみを、多かれ少なかれ、選択的に減少させる物質が永年にわたって探索されてきた。特に、肝臓への動脈還流を大きく変えることなく、肝臓への門脈血流量を増加させるような治療を可能にすることが望まれてきた。
【0004】
医薬治療の問題に加えて、門脈圧亢進症は非常に複雑な病態であり、病因は様々であり、病理解剖学的に定義された肝硬変の病態と同等と見なすことはできない。門脈圧亢進症は、肝硬変そのものではなく、肝硬変の結果かも知れないが、全く異なる原因にも依るであろう。それを以下のリストにまとめる:
(1)肝前性
門脈領域の血栓
動静脈瘻
顕著に肥大した膵臓を伴う各疾患(肝臓への血流量増加)
【0005】
(2)肝内性
a)類洞前性:
住血吸虫病(ビルハチア病)
類肉腫症及び他の肉芽腫症
初期胆汁性肝硬変(真性肝硬変に変わる前)
骨髄増殖性症候群、例えば、慢性骨髄性白血病、骨髄繊維様変性
リンパ性全身症
膠原病(例えば、全身性狼瘡性紅斑、強皮症)
先天性肝線維症
他の起源による肝線維症
M.Osler(遺伝性動静脈疾患、特に肝における)
"特発性門脈圧亢進症"(明確な起源のない門脈圧亢進症(PH))
b)類洞性:
肝硬変
結節性再生性過形成
毒性による肝障害
重篤な経過を伴う肝炎
c)後類洞性:
肝硬変
毒性による肝障害
肝静脈閉塞症(VOD)
結節性再生性過形成
重篤な経過を伴う肝炎
【0006】
(3)肝炎後性:
右側心不全
三尖弁閉鎖不全
狭窄型心膜炎
バッド・キアリ症候群(肝静脈血栓)
肝静脈疾患
肝静脈圧迫(例えば、癌による)
【0007】
【非特許文献1】S.Chung,J. Gastroenterol.Hapatol.2002,17:355-360
【非特許文献2】G.Mc.Cormack及びP.A.Mc.Cormick, Drugs1999,57:327-335
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
門脈圧亢進症に対する予防及び治療の従来の概念は、充分な成功を収めていない。現在に至るまで、門脈圧亢進症の出血性合併症やその他の無数の疾患あるいは医学的合併症については、治療も予防も満足に行うことができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の目的は、門脈圧亢進症、及びこれと結びついた又は関係する、疾患あるいは合併症の一次及び/又は二次予防、及び/又は治療の可能性を広げ、改善することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明により、まったく新しい生化学又は薬学的出発点が確立され、これによって、門脈圧亢進症、及びこれに伴う又は関係する、疾患あるいは合併症の予防、及び/又は治療の可能性が提供されている。
この新しい出発点及び改善された治療可能性を根拠として、ホスホジエステラーゼ5の阻害剤が、門脈圧を顕著に低下させることができ、門脈直径を増大させ、また門脈血流量を顕著に増加させたことは、驚くべき発見であった。
ホスホジエステラーゼ5(PDE5)(現在のところ、ヒトに対し11種のホスホジエステラーゼが知られている)に特異的な阻害剤は、それ自体既知であるが、本発明で指摘されたことを目的とするのではなく、異なる事由で研究されてきた。
【0011】
指摘された最も有名な分野は勃起不全(MED、インポテンス)(WO94/28902A参照)であり、またこの目的のために開発された、最も有名な薬物は化合物シルデナフィル(Sildenafil、INN)(この目的のための、これ及び他のPDE5阻害剤については、U.Gresser及びC.H.Gleiter、Eur.J.Med.Res.2002,435-446を参照されたい)。cGMP−ホスホジエステラーゼー阻害活性を有するチナゾリン類は、例えば、J.Med.Chem.1993,36:3765ff.及びJ.Med.Chem.1994,37:2106ffに記載されている。WO02/060449Aは、硝酸塩と組み合わせたPDE5阻害剤からなる、医薬用処方(プリゾロ[4,3−d]ピリミジン及び硝酸塩又はチエノピリミジン及び硝酸塩)を記載している。医薬用処方は薬剤の調整のために記載され、これらは以下に記載する様々な一連の疾患の治療に対し可能であると主張されている:狭心症、高血圧症、肺高血圧症、鬱血性心不全(CHF)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺性心、右側心機能不全、動脈硬化症、心臓血管の通路低下状態、末梢血管疾患、発作、気管支炎、アレルギー性喘息、慢性喘息、アレルギー性鼻炎、緑内障、(過敏性腸症候群)、過敏性小腸症候群、がん、腎機能不全、及び肝硬変。WO02/060449Aに記載された疾患に提案されている医薬の調製のために、またさらに勃起不全のために、また女性性器疾患のために、WO02/062343A2は、少なくとも1つのPDE5阻害剤、及び少なくとも一つのエンドセリン受容体拮抗剤からなる、医薬用処方を記載している。EP1097711A2は、肺性高血圧症の治療のために、特異的PDE5阻害剤、例えばシルデナフィルの使用を記載している。H.A.Ghofrani他(Pulmologie 56, 665-672(2002))はシルデナフィルを肺性高血圧症及び、恐らく心機能不全初期症状の治療のために記載している。
【0012】
更に、N.Garcia Jr.他は、Digestive Disease Week2001,AbstractA-391において、またI.Colle他はDigestive Disease Week2003,AbstractNo.S1553レポートにおいて、夫々、ラットにおけるシルデナフィルの全身的又は内臓の又は門脈の血行動態への効果についての動物実験研究を報告している。この物質を投与する上で、高投与量(Garcia他の場合、0.1、1及び10mg/kg体重、及びColle等の場合、0.01−10mg/kg体重)で、静脈注射又は動脈注射(上位腸間膜動脈)という、非常に人工的な条件が選択された。動脈管抵抗性は非常に短時間内(5分以内にはっきりと)に減少した;門脈圧についてはGarcia他とColle他の指摘は矛楯している。人工的な動物実験の結果から、非生理学的で、短時間内の効果であり、又一般的な効果であることを示唆している、即ち、シルデナフィルの非選択的血管拡張効果はラットの経管内投与の結果としてである。
【0013】
しかしながら、単独で又は他の門脈圧亢進症に対する薬剤との併用、特に心拍数又は肝臓への動脈血流量を減少させる作用を有するβ−遮断剤又はバソプレッシン(Vasopressin)又はテルリプレッシン(Terlipressin)のようなバソプレッシンの類縁体、ソマトスタチン(Somatostatin)又はオクトレオチド(Octreotid)のようなソマトスタチン類縁体のような物資、との併用によって、門脈圧亢進症の一次又は二次予防、及び/又は、特に出血性合併症の治療を目的として、PDE5阻害剤が特に有効であるということは、上記の文献において充分に検討されなかったし、本発明により見出された、門脈圧の顕著な減少、及び門脈血流量の顕著な増加に関する特定の結果を示唆するような、既報の文献に基づく仮説的な指摘も行われてない。本発明により、Garcia他及びColle他による動物実験とは異なる、ヒトに関する質的、量的に異なる効果が得られた。
【0014】
本発明は、門脈圧亢進症、及び門脈圧亢進症に関連する疾病状態又は危険性に対する、一次予防又は二次予防、及び/又は治療を目的として、PDE5阻害剤の使用を提供することである。特に、これらの疾病は、次のような疾病である:門脈圧亢進症の出血性合併症、特に、食道静脈瘤の出血を伴う疾患、静脈瘤底及び/又は門脈圧亢進症性胃疾患;更に肝腎症候群、肝肺症候群、肝性脳疾患、自発性細菌性腹膜炎及び腹水等である。
更に、門脈圧の減少及び/又は門脈血流量の増加によって制御でき、またそれによって回避できる、疾病又は疾病状態の予防及び/又は治療を目的として、PDE5阻害剤又はPDE5阻害剤を含む医薬組成物を使用することが示されている。従って、門脈圧の減少及び/又は門脈血流量の増加により、肝臓を通過する血流量が改善されることによって、更なる疾患又は疾患状態は回避され又は緩和され又は治癒されることが目論まれる。そのような疾患としては、肝臓と関係した代謝又は血液循環の障害で特徴づけられる疾病又は疾病状態がある、例えば解毒障害、医薬の分解/異化低下又は障害、物質分解の悪化、肝臓の周りの迂回循環形成、免疫又は防御欠損症、脾内鬱血及び、白血球減少症、血小板減少症、血液凝固因子合成障害、脳機能障害その他の後遺症などである。
【0015】
内因性毒性物質又は医薬、薬剤、及び/又はアルコール又は同様の、特に毒性物質を消費することで危険に曝されている健常者肝臓においても、門脈血流量増加へのPDE5阻害剤の効果は役立つ。ある物質が肝臓で代謝される際、特に、既に述べた様に外から加えられた物質の場合、及び、典型的には、他の内因性物質又は外因性物質の場合、その代謝は、門脈自体の血圧増加を伴わずに、門脈に向かう血流量増加に由来した肝臓を通過する血流量増加によって強く影響を受ける。この様にして、肝臓における内因性物質又は外部より加えられた物質の代謝的な異化が促進される。
【0016】
上記の考え方に対応して、本発明は、更に薬物代謝に影響を与える為に、組み合わせによる投薬又は組み合わせによる調合、を提供するが、ここで次のものが、同一又は別々な申請書により、組み合わされる:
−あるPDE5阻害剤、及び
−その代謝が影響を受ける物質で、医薬、薬剤又はエチルアルコールのような毒性物質からなるグループから選択された物質。
また本発明のこの側面に於いては、物質代謝に影響を与えることによって、門脈血流量を増加させ、それによって、肝臓を通過する血液流を増加させるという実利を得る。外部から加えられる物質との組み合わせについては、外部からの物質の投与は、PDE5阻害剤又はPDE5阻害剤を含む医薬組成物の投与と同時、その後又はその前でもよい。
【0017】
特に、腹水の場合は、PDE5阻害剤と、利尿薬、例えばフロセミド(ループ利尿薬の例として)又はスピロノラクトン(アルドステロン拮抗剤)等、との組み合わせは、予防又は治癒効果を促進する上で特に適している。
門脈圧、門脈直径、及び門脈血流量の測定は、既知の方法、例えば非侵襲的にドップラー超音波法(例えば、A.Albillos他、J.Hepatol.27,496-504(1997)を参照)又は侵襲的に肝静脈圧勾配測定(HVPG)(J.P.Tasu他,Clin.Radiol.57,746-752(2002)を参照)又は閉塞肝静脈圧法(WHVP)により行われる。
PDE5阻害剤として、PDE5阻害剤は例えば上記文献から既知であり、また他のホスホジエステラーゼと比較して、特にPDE5への選択性があるため、本発明に従う使用のためには、以下の物質が適切である:シルデナフィル(INN)、即ち、1−{[3−(6,7−ジヒドロ−1−メチル−7−オキソ−3−プロピル−1H−ピラゾロ−[4,3−d]ピリミジン−5−イル)−4−エトキシフェニル]スルフォニル}−4−メチルー(3,4−メチレンジオキシフェニル)−12,12a−ジヒドロ−6H−ピラジノ[1,2:1,2]−ピリド[5,4−b]インドール−1,4(2H,3H)−ジオン及びバルデナフィル(Vardenafil、構造については、上記のU.Gresser及びC.H.Gleiter参照のこと)。このカテゴリーの物質としては、これら物質の修飾体及び類似体も含まれるが、これらは当業者には知られており、またPDE5の阻害作用によるとされている。
【0018】
本発明の枠組内で観察された様に、PDE5阻害剤が、門脈圧亢進症に関連した血管に対して、非常に高い選択的効果を有し、このことが、この薬剤が驚異的に成功する上で、重要性を持つ:肝臓に供給する動脈血管の血管抵抗性は変わらず又は増加さえするけれども(また対応して、肝臓への動脈血流量は不変又は減少するが)、門脈血流量は顕著に増加する。特に、肝臓への生理学的な動脈及び門脈血流量は相補的であるので−即ち、門脈血流量が上昇すると動脈血流量は減少し、逆もまた行われる−此の相補性があるので、効果が選択的であれば、驚くべき標的への有効性をもたらすと考えられる。
その組み合わせ効果は、好ましくは互いに補完的であるので、本発明に記載された使用に従い、PDE5阻害剤と、門脈圧亢進症に対する、他の薬物との組み合わせによる共通又は別々の処方(組み合わせ投薬)により、実利ある様に組み合わせが行われる。
【0019】
動脈管抵抗を相乗的に増加させ、従って、小腸及び肝臓への動脈血供給を減少させるために(参照:肝臓を通過する血流量の生理学的相補性)、組み合わせの薬物は、特に、テルリプレッシン、ソマトスタチン、及びオクトレオチドのようなソマトスタチンの類縁体等々の、バソプレッシン及びその類縁体から成る群から選ぶことができる。あるいは、心拍数を減少させる薬剤、特にβ―遮断薬、は使用可能である。既述の様に、特に硝酸塩/有機硝酸塩の場合に起こる、逆転効果又は逆転の危険性を避けるために、PDE5阻害剤及び硝酸塩/有機硝酸塩との組み合わせ、及び/又はエンドセリン受容体拮抗剤なしの組み合わせは、要求と指示によっては時代遅れであろう。
ヒト患者への投与に適切な形で用いられるために、PDE5阻害剤は、薬学的に許容された担体及び/又は希釈物及び/又は添加剤と共に薬物として混ぜることができる。薬物又は組成物は固体でも、半固体でも、ゼラチン状又はヒドロゲル状、液体又は同様な粘性物でも構わない、また例えば、液体、懸濁物、粉末、錠剤、ピル、カプセル、持続的投与量放出型、その他でも構わない。患者への投与にふさわしい形体で供されるために、組成物は、治療上有効量のPDE5阻害剤、及び適切量の担体又は媒体からなる。
【0020】
そのような処方は、以下の物質を単独で又は組み合わせて行われる:デンプン、セルローズ及びセルローズ類縁体、グルコース、ラクトース、サッカロース、ゼラチン、シリカゲル、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアリン酸塩、滑石、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール又は他のアルコール、及びその他;水、塩溶液、及びデキストロース水溶液及びグリセロール溶液、及び/又は、動植物又はピーナツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油、その他の油のような合成のパラフィン油を含む油類である。
投与形態は、例えば経口、非経口、特に注射、経皮的、経鼻又は吸入のような典型的投与法でも構わない。特に、急性出血に対しては、PDE5阻害剤及び、β−拮抗剤又はバソプレッシン又はソマトスタチン又はその誘導体のような、心拍数又は、肝臓を通過する動脈血流量を減少させる、薬物とを好ましくは組み合わせた静脈内注射(i.v.)が検討される。
【0021】
投与のために、適切量のPDE5阻害剤、及びオプションとしての既述の組み合わせ治療薬が、上記の組成物、処方又は考案物に適切量含まれ、又既述の疾患又は疾患状態の予防又は治療の為に有効なヒトへの投与量にも含まれる。例えば、全量に対する適切量は、少なくとも0.0001wt.%であり、通常は0.01から20wt.%、好ましくは0.01から10wt.%である。投与量は少なくとも0.0001mg/kg患者体重であり、即ち、0.0001から1000mg/kgの範囲であり、好ましくは、0.01から100mg/kgであり、特に好ましくは、0.1から20mg/kgが適切であり、ここで夫々の投与は単一投与であり、既報の様に局所的又は全身的投与であり、一日又は一週間当たり一回又は数回の投与であり、オプションとして、デポ又は低速放出処方の場合は、更に少数回の投与である。
【0022】
投与方法及び投与量により、PDE5阻害剤の効果は異なるということが永らく観察されてきた。
驚いたことに、PDE5阻害剤又はPDE5阻害剤を含む医薬用組成を経口的に投与した場合、又、特に、投与量が低いか又はかなり低い場合、即ち、PDE5阻害剤を0.01から10mg/kg体重の投与、及び特にPDE5阻害剤を0.1から1.5mg/kg投与の場合、門脈圧亢進症に対する特に選択的な効果が観察できた。比較をしてみると、経口投与による場合のPDE5阻害剤の血清中最高濃度は、0.01mg/kg体重のPDE5阻害剤を注射又は輸液導入(i.v.,i.a.又はi.m.)した場合の血清中濃度に比べ顕著に低い。上記の投与量を経口投与した場合にPDE5阻害剤が示す特に効果的な活性は、肝臓による"初回通過"効果に基づくと考えられる。もし投与形態として注射が考慮されるならば、投与濃度は対応して低レベル、即ち、0.01mg/kg体重に調整されることが好ましい。
【0023】
同様に、実利的な投与量は、標的血管(例えば、門脈血流量の増加及び同時に不変又は増加する抵抗性(抵抗性指数Riで定義される)で決められる)への選択的効果がはっきりと保証される様な範囲である、例えば、経口投与の場合は、1.5以下(更に好ましくは1.0以下)mg/kg体重、注射又は吸入の場合は0.01以下(更に好ましくは0.005以下)mg/kg体重、及び輸液の場合は、0.005以下(更に好ましくは0.001以下)mg/kg体重/分である。
【0024】
本発明による組み合わせ投薬又は組み合わせ調合による、組み合わせ治療薬又は代謝的に分解される外部から加える物質の場合、当業者は、適用症例及び要求に応じて、夫々の組み合わせ薬物又は外部から加えた物質に共通な、既述の投与法、投与組成物及び投与量を選ぶことができる。
従って、PDE5投与法とは別に、適切な薬学的許容担体、稀釈物、添加物その他及び、オプションとしての組み合わせ投薬又は組み合わせ調合による組み合わせ薬剤の適切な処方が考慮される。
医薬の製造又は組み合わせ投薬、及び予防及び/又は治療に対する医学的使用は、当業者には上述の記載から直ちに明らかとなる。
【0025】
上述の特定の指示分野において、PDE5阻害剤が顕著な効果を有することは、以下の結果による:
【0026】
門脈圧亢進症、出血性合併症、その他:
試験研究に於いて、部分的に、門脈及び膵静脈直径を測定し顕著な増加をみた。門脈及び膵静脈における血液の最高流速は僅かだけ減少した。肝臓を通過する動脈血流抵抗は殆ど変化がないか又は増加さえした。反対に、肝臓を通過する門脈血流量は顕著に増加した(部分的とは約30%である)。
この様に、血圧減少及び門脈循環における流速の増加により、門脈系と静脈血管系の間の側副形成が抑制され、又それにより食道静脈瘤及び/又は静脈瘤底形成が抑制され又はPDE5阻害剤投与による門脈圧の減少により、出血又は出血の再発が避けられる。
迅速な生理的応答、及びPDE5阻害剤投与即時又は即後の"門脈圧の減少"効果の発生により、急性出血性合併症の治療もまた可能である。
【0027】
肝腎症候群:
この疾患は、腎臓そのものは正常であるが、調節機能不全による腎機能の低下を示す。ボリューム投与、アルブミン又はテルリプレッシンの投与のような、従来の治療は十分でない。
本発明によると、PDE5阻害剤の使用により肝臓を通過する血液流は増加し、門脈からの血液が体循環に供給される事が期待され、それにより肝腎症候群の改善が期待できる。
肝肺症候群:
この疾患は門脈圧亢進症と動脈血酸素亜飽和が関係する。消化不良及び行動の減退がその症状である。この場合、肺動脈の分枝と肺静脈の間の短絡結合が生ずる。従って、肺において酸素不足血液は、最早酸素を補給できない。
本発明による、門脈圧の減少及び、その門脈圧亢進症に対する陽性結果によって、肝肺症候群の改善が同様に期待できる。
【0028】
肝性脳障害:
この疾患も又、門脈圧亢進症と結びついた、非炎症性脳障害又は脳機能障害を伴う、疾患状態である。門脈血流量の減少により、特に、同時に側副血行が存在する場合、胃腸管からの血液の解毒が不充分である。この場合にもまた、肝臓を通過する血流量の目立った改善によって、肝臓の周りの血流量が低下し、それにより血液の解毒が進むので、顕著な陽性効果が期待できる。
【0029】
門脈圧の減少及び/又は門脈血流量の上昇により改善される、更なる疾患、疾患状態
又は状況:
同様に、肝臓を通過する血流量が改善されることによって防止又は治癒できる、様々の疾患、疾患状態がある。その理由は、血流量の変化、及び肝臓の代謝機能不全又は、門脈圧亢進と結びついた、肝臓の周りの迂回循環形成が、このような疾患の原因だからである。従って、このような更なる疾患又は疾患状態の中には、次のような疾患がある:解毒機能障害、医薬の分解/異化の低下又は障害、物質分解の悪化、肝臓周囲の迂回循環形成、防御又は免疫欠損、血液凝固因子合成障害、脳機能障害、脾臓における鬱血及びその後の白血球減少症、血小板減少症、その他のような疾患。
門脈圧の低下及び/又は門脈血流量の上昇により、上記の病態又は同様な疾患は、改善されることが期待できる。
【0030】
更なる組み合わせ概念:
もし門脈血流量の増加に伴って肝臓を通過する血流量が増加するならば、正常肝においても肝臓での薬物代謝はその影響を受けると予想される。この様に代謝が影響を受ける薬物としては、内因性毒性物質及び医薬、薬剤又はエチルアルコールのような毒物のような外から加えられた物質がある。この様にして、ヒトに対するこれらの物質による負の効果が、制御されるか又は除去される。更に、PDE5阻害剤と他の治療薬との組み合わせ投薬において、この組み合わせ薬剤の薬物動態に特異的に影響を与えることが可能である。
このような更なる組み合わせ投薬又は組み合わせ調合は、組み合わせた治療物質と関係するが、門脈圧亢進症とは全く異なる疾患の治療概念に、有効に拡張でき、又門脈圧亢進症の存在又は危険性とは独立して拡張できる。
【0031】
腹水及び自発性細菌性腹膜炎:
門脈系の血圧低下により、腹水の病態の改善が期待できる。
【実施例】
【0032】
以下、例示のPDE5阻害剤を使用して、代表的実施例により本発明を説明する。
実施例1
10人のボランティアにより、肝臓を通過する血流量のベースラインを朝食前に一般的超音波又はドップラー超音波法により測定した。次ぎに、各人に100mgシルデナフィルを経口投与した。この薬物投与後、平均90分後に測定を繰り返した。測定パラメーターと結果を下表にまとめる。
【表1】

n=10(門脈血流量の場合n=5)
【0033】
この結果は、動脈圧の僅かな減少及び門脈及び脾静脈の直径の顕著な増加を示す。門脈及び脾静脈中の血液の最高流速は、実際上、減少せず、又総肝動脈及び腹腔動脈の動脈管の抵抗値は殆ど変わらない。他方、門脈への血液流入量は32.5%増加した。このことから、例示のホスホジエステラーゼ5阻害剤の有効量の投与によって、門脈の血圧減少が起こると結論づけた。
【0034】
実施例2
更なる研究に於いて、16人の健常者ボランティア、及び15人の門脈圧亢進症患者(起源:ChildA状態の肝硬変)が以下の治療を受けた:空腹状態(絶食10時間)のボランティア及び患者共に、第1に、横臥状態で心拍数及び血圧測定し、次ぎに、ドップラー超音波により肝血行動態を測定した。
ドップラー超音波:
門脈圧は、3.5MHz横断型探触子の付いたSiemensからのElegra装置を使って得た値から導かれる(K.Haag他、Am.J.Roentgenol1999;172:631-635)。各測定は全3回行った。全3回測定の平均値を用いた。測定は静止呼息の位置で行った。血流速測定及び血流容積測定の際は、超音波角度を60°以下で行った。血管が縦方向ルートで表示されるように、横断面を選んだ。
【0035】
以下の測定ポイントと測定を設定した:
門脈:
静脈交会から右及び左門脈主要幹分肢までの横断面における、肝十二指腸間膜のルートの画像。
門脈直径測定。
門脈内及び肝内主要幹内血流量測定。
門脈、脾静脈、及び腸間膜静脈における血流容積の測定は、ドップラー超音波法により、装置のオプションを用いて行われ、以下の公式で計算した:
血流量=π*d/4*Vmax/2*60
ここで、dはcmで表され、Vmaxはcm/sで表される。
脾静脈:
胃中上部横断面の画像、直径及び血流量測定。
上腸間膜静脈:
静脈洞交会からのルートを経る画像、血管、直径、および血流量。
【0036】
腹腔動脈、脾動脈、総肝動脈:
胃中上部の横断画像、分肢の数センチメーター下の測定、Pourcelot指数の決定(Ri=(Vmax[sys]−Vmax[dist])/Vmax[sys])。
総肝動脈において、該当する幹の狭窄を除くために(ここで血流の方向変化が起こる)、血流方向を特に記録した。
医薬の投与:
各ボランティアは10mgバルデナフィルを経口的に摂取した。1時間後、横臥状態で血圧及び心拍数を測定し、バルデナフィルの濃度測定のために10ml血清を採取し、肝血行動態の新しい測定を(上記、最初の測定同様に)ドップラー超音波により測定した。
バルデナフィル効果消滅後の肝血行動態の最終検査は、医薬投与後少なくとも24時間経過後行った。
【0037】
結果:
経口投与前(V)、投与1時間後(N)及び最終検査(A)の血行動態を図1〜3に示す。門脈直径は患者において僅かながら増加している(図1)。
健常ボランティアでは一定のままであった。PDE5阻害剤により、ボランティアの場合、門脈血流量は驚く程増加し、患者の場合より顕著に増加した(図2)、その一方、肝臓を通過する動脈血流量は増加しなかった(図3);肝動脈及び腹腔動脈のRi値の増加が見られる。それに反して、腸間膜動脈のRi値は影響を受けなかった。
図4は、10mgバルデナフィル経口投与後の、個々の患者(門脈圧亢進症の起源:肝硬変)の連続測定の例である。実質上全ての患者と同じ様に、門脈における血流速増加(cm/sec)とりわけ、門脈血流量(1/min)は15分後に既にはっきりと検知できる。効果は20−30分後に最も目立ち、更に少なくとも1時間持続する。
【0038】
実施例3
実施例2に述べた研究と一致して、バルデナフィルの経口投与の効果を、もともと肝硬変に帰因する病理学的側副又は迂回循環を有する二人の患者について調べた。ここで、10mgバルデナフィル単一経口投与前及び後に、門脈−体迂回循環の流量をドップラー超音波により測定した;胃冠状静脈及び食道瘤を持つ患者に一度、また再切開した臍静脈を持つ患者に他の機会。
その結果、門脈の全血流量は増加し、胃冠状静脈又は臍静脈における血流量は約30%減少した。
この結果により、動脈血流量は変わらず、門脈血流量が増加するために、門脈圧が減少し、またその結果として、迂回循環が除去されるという、極めて好ましい効果が明示された。迂回循環を通した血流量が減少することで、静脈瘤出血及び他の合併症の危険性が低下し、また迂回循環に帰因する疾患又は疾患状態が減少する。
【0039】
実施例4
慢性C型肝炎による肝硬変の患者において、門脈圧と等しい閉塞肝静脈圧を非浸潤的に測定した。このために、X−線監視下に、バルーンカテーテルを、内頚静脈を経由して、小肝静脈に挿入した。その後、カテーテルのチップが小静脈のルーメン内に自由に置かれている時、負荷のない肝静脈圧が測定できる。バルーンが広げられた時(この小肝静脈の直径は数mmである)、門脈圧に相当する鬱血圧がカテーテルのチップに記録される。テスト患者の場合医薬経口投与前の門脈圧は31mmHgであった。10mgバルデナフィル投与10分後には既に門脈圧は減少傾向を示し、投与25分後には、26mmHgであった。この様に、肝臓血行動態の間接的な測定から得られた結論が正しいと、直接的な門脈圧測定で確認できた:PDE5阻害剤により、門脈圧亢進症の患者の門脈圧は減少する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】経口投与前(V)、投与1時間後(N)及び最終検査(A)の血行動態を示す図である。
【図2】経口投与前(V)、投与1時間後(N)及び最終検査(A)の血行動態を示す図である。
【図3】経口投与前(V)、投与1時間後(N)及び最終検査(A)の血行動態抵抗指数を示す図である。
【図4】10mgバルデナフィル後患者WJの時間経過を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害剤(但し、シルデナフィル及びバルデナフィルを除く。)を有効成分として含む門脈圧亢進症を治療するための薬剤又は医薬組成物。
【請求項2】
ヒトの治療のための請求項に記載の薬剤又は医薬組成物。
【請求項3】
前記PDE5阻害剤又は前記PDE5阻害剤を含む医薬組成物が経口投与される形態である請求項1又は2に記載の薬剤又は医薬組成物。
【請求項4】
経口投与におけるPDE5阻害剤の単一投与量が、kg体重当たり、0.01〜10mgである請求項に記載の薬剤又は医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−195821(P2010−195821A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109855(P2010−109855)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【分割の表示】特願2006−508268(P2006−508268)の分割
【原出願日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(505448660)ウニベルジテートスクリニクム フライブルク (3)
【Fターム(参考)】