説明

閉鎖系空間用の水回収装置

【課題】核シェルターや宇宙ステーション内などの閉鎖系空間において、簡易な構成で被処理水を処理することができる水回収装置を提供する。
【解決手段】閉鎖系空間内で排出された排水、人体排出水や空気中の水蒸気を凝縮させた水などの被処理水を硬度成分粗取り装置1、軟化装置2、有機物分解用の電解装置3及び触媒分解装置4で処理し、この処理水を電気透析装置5で粗脱塩処理して脱塩水、アルカリ溶液及び酸溶液を製造する。この電透析脱塩水を更に電気再生式脱塩装置6で脱塩して生産水を得る。アルカリ溶液は硬度成分粗取り装置1へ送られ、硬度成分析出に利用される。酸溶液は生産水のpH調整や軟化装置の再生剤として利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖系空間で生じる尿、生活排水などの排水を処理して水を回収する水回収装置に関するものである。詳しくは、本発明は、核シェルター、災害避難所、宇宙ステーションまたは月・火星ミッションの有人宇宙船、月面基地などの閉鎖系空間にて用いるのに好適な水回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
閉鎖系空間で生じる排水から水を回収する方法として、特開2006−095526にパーベーパレーションによる方法が記載されている。しかしながら、尿、生活排水などの排水にはアンモニア等の揮発性成分が含まれていることがあり、回収水にこの揮発成分が混入するおそれがある。また、排水が硬度成分を含んでいると、パーベーパレーション膜にスケール障害がおこる。また、排水がタンパクなどの有機物を含んでいると、ファウリングが起こったりして膜蒸留性能が低下する。なお、パーベーパレーション法はエネルギー消費量が大きい。
【0003】
特開2010−119963には、閉鎖系空間で生じた排水を生物処理した後、膜分離処理し、次いで蒸留又は凍結して水を回収する方法が記載されている。しかしながら、生物処理法では、運転条件が適正値を外れると微生物が失活し易い。微生物は、失活してしまうと元に戻らない。また、活性汚泥は、有機物の1/3〜1/2を汚泥としてしまうため、汚泥という貴重な水を含んだ廃棄物が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−095526
【特許文献2】特開2010−119963
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、高回収率にて、また、低消費エネルギーにて、安定して水を回収することができる閉鎖系空間用水回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の閉鎖系空間用の水回収装置は、閉鎖系空間内で生じた排水にアルカリを添加して、硬度成分を析出させて分離する硬度成分粗取り装置と、該硬度成分粗取り装置からの水中の有機成分を分解する有機成分分解装置と、該有機成分分解装置からの水を脱塩処理する脱塩装置とを有するものである。
【0007】
本発明装置は、前記硬度成分粗取り装置からの水をさらに硬度成分除去処理する軟化装置を備え、該軟化装置の処理水が前記有機成分分解装置に供給されるように構成されてもよい。
【0008】
本発明装置は、前記有機成分分解装置からの水を電気透析して脱塩水、酸及びアルカリを生じさせる電気透析装置を備えており、該電気透析装置からの脱塩水が前記脱塩装置に供給されるように構成されてもよい。
【0009】
本発明装置は、該電気透析装置で生じたアルカリを前記硬度成分粗取り装置にて前記排水に添加するように構成されてもよい。
【0010】
本発明装置は、前記硬度成分粗取り装置は、硬度成分を遠心分離、晶析操作又は膜分離にて分離するように構成されてもよい。
【0011】
上記の有機成分分解装置は、導電性ダイアモンドを電極とするダイアモンド電極電解装置であってもよい。白金電極などの一般工業電解向けの電極を使用した電解装置では、尿素など有機物種によって分解できないものもあるが、ダイアモンド電極電解装置を用いることにより、尿素も分解可能となる。
【0012】
本発明装置では、上記有機成分分解装置として、ダイアモンド電極電解装置と、触媒分解装置とを備えてもよい。
【0013】
本発明装置は、前記電気透析装置で生じた酸を吸収液とするアンモニア吸収装置を備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、閉鎖系空間で生じた排水にアルカリを添加して硬度成分を析出させて粗取りする。これにより、後段の各機器におけるスケール障害が防止(制御を含む。)される。
【0015】
なお、好ましくは、このアルカリとして、後段の電気透析装置で生じたものを用いる。
【0016】
この硬度成分を粗取りした水をさらに脱塩処理することにより、後段機器におけるスケール障害が防止される。
【0017】
本発明では、上記のようにして硬度成分が除去された水を有機成分分解装置にて処理し、有機物や尿素その他の窒素化合物を分解処理する。この分解処理により生じた有機酸、アンモニア、無機イオンなどを脱塩装置で分離する。この脱塩装置としては、3室式の電気透析装置が好適である。この3室式の電気透析装置は、陽極と陰極の間に酸室、アニオン交換膜、脱塩室、カチオン交換膜、バイポーラ膜、酸室、アニオン交換膜、脱塩室カチオン交換膜を繰り返し配列した構造を有する。ここで生じたアルカリは前述したように、硬度成分粗取り装置に用いることができる。また、酸は被処理水から発生するアンモニアの吸収や処理水のpH調整に用いることができる。なお、電気透析で生じた酸、アルカリは軟化装置の再生に用いることもできる。さらには、析出させたスケールを溶解するのに用いることもできる。
【0018】
有機成分を分解する装置として、導電性ダイアモンド電極を有する電解装置を用いてもよい。この電解装置での電解で生じた次亜塩素酸を利用して、タンパク等の有機物や尿素を触媒存在下で分解し、後段のイオン除去工程で除去できる有機酸、アンモニア等のイオンに変換することができる。なお、このダイアモンド電極による電解工程でアンモニアの一部が分解されNガスとなる。
【0019】
上記の各処理が施された水を電気再生式脱塩装置あるいは逆浸透膜装置へ導入して更に脱塩することにより、飲用できる水が得られる。また、このときに生じる濃縮水を電気透析装置入口に返送して再度処理することができる。
【0020】
また、濃縮水を酸、アルカリの状態にし、酸、アルカリ液とすることにより、液状態が維持され、閉鎖系空間外への排出が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係る水回収装置のブロック図である。
【図2】実施の形態に係る水回収装置のブロック図である。
【図3】電気透析装置の模式的な断面図である。
【図4】電気再生式脱塩装置の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は第1の実施の形態に係る閉鎖系空間向け排水処理装置のブロック図である。
【0024】
この排水処理装置は、宇宙ステーション等で使用した排水または人体排出水、空気中の水蒸気を凝縮させた水等の被処理水にアルカリを添加して硬度成分を析出させて粗取りする硬度成分粗取り装置1と、硬度成分粗取り装置1からの水をイオン交換処理する軟化装置2と、該軟化装置2からの水中の有機物や尿素その他の窒素化合物を分解するダイアモンド電極電解装置3と、残留有機成分を触媒と接触させて分解する触媒分解装置4と、触媒分解装置4からの水を電気透析処理して酸、アルカリを生成させつつ粗脱塩水を製造する電気透析装置5と、この粗脱塩水を更に脱塩する電気再生式脱塩装置6とを具備するものである。
【0025】
硬度成分粗取り装置1では、電気透析装置5からのアルカリを添加して硬度成分を析出させ、この析出した硬度成分を遠心分離、晶析装置又は膜分離により除去するものが好適である。該軟化装置2としては、Na形の強酸性カチオン交換樹脂、もしくは弱酸性カチオン交換樹脂を備えたものが好適である。
【0026】
この実施の形態においては、硬度成分粗取り装置1及び軟化装置2において硬度成分を除去するため、電気透析装置5や電気再生式脱塩装置6のイオン交換膜の目詰まりが防止される。また、イオン交換膜をファウリングさせるたんぱく質などの有機物はダイアモンド電極電解装置3及び触媒分解装置4で分解される。
【0027】
該電気透析装置5で造られた酸は、最終脱塩水のpH調整や、アルカリに調整された液から発生するアンモニアの吸収に利用することができる。また、アルカリは被処理水のpHを高くして硬度成分析出させるために使用される。この実施の形態においては、電気透析装置5で生じたアルカリを硬度成分粗取り装置1に添加して硬度成分の凝集、晶析に利用しているので、専用のアルカリ源が不要である。
【0028】
この実施の形態においては、電気透析装置5や電気再生式脱塩装置6で除去できない尿素をダイアモンド電極電解装置3及び触媒分解装置4でアンモニアと炭酸に分解している。
【0029】
この実施の形態における不純物除去の反応機構の詳細は次の通りである。
【0030】
硬度成分粗取り装置1におけるアルカリ添加による硬度成分除去反応は次の通りである。
【0031】
CaX、MgX、YPO、YCO、NHX + YOH
→ CaCO+ Mg(OH) + NHMgPO
ここで
X:Cl、SO2−などの陰イオン
Y:Na、NHなどの陽イオン
【0032】
イオン交換による軟化反応は次の通りである。
CaX、MgX + R−Na → R=Ca、R=Mg + NaX
ここで
R−:イオン交換樹脂交換基
【0033】
ダイアモンド電極電解、触媒分解では以下の反応により有機物、尿素が分解される。
【0034】
有機物 →(酸化)→ 有機酸、CO
尿素 → NH +CO2−
2NH + 3HClO → N + 3HO + 3HCl
この反応で生じた次亜塩素酸を利用して、タンパク等の有機物や尿素を分解し、後段のイオン除去工程で除去可能な有機酸、アンモニア等のイオンに交換することができる。
【0035】
なお、触媒分解装置4の触媒としては、Pt、Ru、Ni、Coなどを用いることができるが、これに限定されない。触媒分解装置4の操作温度は常温〜350℃程度が好適である。
【0036】
電気透析装置では次の反応が進行する。
XY → HX(酸) + YOH(アルカリ)
【0037】
なお、3室式の電気透析装置での反応を図3に模式的に図示する。この3室式の電気透析装置は、陽極と陰極の間に酸室、アニオン交換膜、脱塩室、カチオン交換膜、バイポーラ膜、酸室、アニオン交換膜、脱塩室カチオン交換膜を繰り返し配列した構造を有する。図3の通り、被処理水中の陰イオンX及び陽イオンYがアニオン膜又はカチオン膜を透過して陽極室又は陰極室に移動し、脱塩水が生産される。前述の通り、電気透析により生じたアルカリ溶液は硬度成分粗取り装置1へ送られ、硬度成分析出に利用される。酸溶液は生産水のpH調整や軟化装置の再生剤として利用される。なお、電解で発生する酸性ガス及びアルカリ性ガスの吸収装置を具備する場合、この電気透析装置5で生じた酸溶液及びアルカリ溶液を利用することができる。
【0038】
電気再生式脱塩装置では、図4に模式的に示すように、脱塩室に導入された被処理水中の陰イオンX及び陽イオンYがアニオン膜又はカチオン膜を透過して濃縮室又は電極室に移動することにより、脱塩室から脱塩された生産水が取り出される。濃縮水は電気透析装置5の流入側に返送される。脱塩室及び濃縮室にはイオン交換樹脂が充填され、電極室には導電体が充填されている。
【0039】
これらのダイアモンド電極電界装置、触媒分解装置、電気透析装置、電気再生式脱塩装置などからは、化学反応により水素、酸素、塩素などのガスが発生するが、脱気膜や遠心分離などで、適宜、気液分離することが好ましい。
【0040】
図2は別の実施の形態に係る排水処理装置のブロック図である。
【0041】
この実施の形態は、図1の水回収装置において、電気再生式脱塩装置の代わりに逆浸透膜装置7を設置したものであり、その他の構成は図1と同一であり、同一符号は同一装置を示している。
【0042】
この実施の形態では、電気透析装置5で粗脱塩した被処理水を逆浸透膜装置7で更に脱塩する。この逆浸透膜装置7に導入される被処理水は、前段の各装置1〜4で予め処理され、スケール原因となる硬度成分やファウリング原因となるタンパクなど有機物は除去されているため、逆浸透膜の目詰まりが防止される。
【0043】
逆浸透膜装置7の濃縮水は図1の実施の形態と同様に、電気透析装置5の入口へ戻される。
【0044】
なお、アンモニアの除去率向上のため、電気透析装置5で生成した酸を逆浸透膜装置7への流入水に添加し、そのpHを弱酸性に調整しても良い。
【0045】
上記図1,2の水回収装置によれば、簡単な構成により生活排水や人体排出水から不純物を取り除くことができるため、宇宙ステーションなどの閉鎖系空間における生命維持装置に適している。
【0046】
本発明の閉鎖系空間において、被処理水の発生の水源となる主なものは尿、空気中の水蒸気、生活排水である。これらの水質は異なるため、本発明の水回収装置で処理するに当たり、必要に応じてそれぞれの水種を単独で処理しても良いし、それらを予め混合して処理しても良い。また、処理工程の途中から特定の水種の被処理水を合流させることも可能である。これらの処理方法は処理効率を考慮して決めることが望ましい。
【0047】
一般的に前記被処理水のうち、スケール成分は尿に最も多く含まれるため、第一段階での硬度成分の除去は尿のみを処理対象とし、有機成分分解工程前に空気中の水蒸気の凝縮水を合流させて処理することにより、各工程における被処理水の水量を無駄に増やすこともなく、効率的に処理できるので望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、スケール発生による目詰まり、有機物によるファウリング等を懸念することなく、また、蒸発のような多量のエネルギーを消費することなく、人間の生命維持に不可欠な水を再利用することが出来、核シェルターや宇宙などの閉鎖系空間において人間の長期滞在が可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 硬度成分粗取り装置
2 軟化装置
3 ダイアモンド電極電解装置
4 触媒分解装置
5 電気透析装置
6 電気再生式脱塩装置
7 逆浸透膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖系空間内で生じた排水にアルカリを添加して、硬度成分を析出させて分離する硬度成分粗取り装置と、
該硬度成分粗取り装置からの水中の有機成分を分解する有機成分分解装置と、
該有機成分分解装置からの水を脱塩処理する脱塩装置と
を有する閉鎖系空間用の水回収装置。
【請求項2】
請求項1において、前記硬度成分粗取り装置からの水をさらに硬度成分除去処理する軟化装置を備え、該軟化装置の処理水が前記有機成分分解装置に供給されることを特徴とする水回収装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記有機成分分解装置からの水を電気透析して脱塩水、酸及びアルカリを生じさせる電気透析装置を備えており、該電気透析装置からの脱塩水が前記脱塩装置に供給されることを特徴とする水回収装置。
【請求項4】
請求項3において、該電気透析装置で生じたアルカリを前記硬度成分粗取り装置にて前記排水に添加することを特徴とする水回収装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記硬度成分粗取り装置は、硬度成分を遠心分離、晶析操作又は膜分離により分離することを特徴とする水回収装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
該有機成分分解装置が導電性ダイアモンドを電極とするダイアモンド電極電解装置であることを特徴とする水回収装置。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記有機成分分解装置として、ダイアモンド電極電解装置と、触媒分解装置とを備えたことを特徴とする水回収装置。
【請求項8】
請求項3において、前記電気透析装置で生じた酸を吸収液とするアンモニア吸収装置を備えたことを特徴とする水回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−75259(P2013−75259A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216442(P2011−216442)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】