説明

開先加工方法、制御プログラム、演算プログラム、制御システム及びプラズマ加工装置

【課題】本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、プラズマアークにより開先形状部を形成する場合に、残材を製品予定部に並べる作業を必要とせずに安定した形状及び表面を有する開先形状部を容易に形成可能な開先加工方法、制御プログラム、演算プログラム、制御システム、プラズマ加工装置を提供する
【解決手段】トーチ2と、加工位置保持機構10と、傾斜機構と、移動機構とを備えたプラズマ加工装置1を制御する制御システム20であって、開先形状部を形成する場合に、2回目以降の加工が、該加工による加工空間の領域内に前回の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工し、かつ、最後の加工による加工空間が前記他方側の面に到達するように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被加工材にプラズマアークによる加工をして開先形状部を形成するための開先加工方法、制御プログラム、演算プログラム、制御システム及びプラズマ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼鈑等の被加工材にY開先形状部等の開先形状部を形成する場合、機械加工機、プラズマ加工機、レーザ加工機等、種々の加工機による加工が行なわれている(例えば、特許文献1参照。)。
例えば、プラズマ加工機を用いてプラズマアークにより開先形状部を形成する場合、被加工材に対して傾斜させたトーチを開先形状部の開先面又はルート面に対応する方向に傾斜させてプラズマアークを噴射しながら移動する加工を開先形状部に対応する面の回数だけ行って開先形状部を形成し、残材が毎回の加工ごとに被加工材から取り除かれるようになっている。
【0003】
上記開先加工方法により開先形状部を形成する場合、残材が除去されて開先形状部が露出したままで2回目以降の加工を行なうと、プラズマアークが製品予定部側に曲がって開先形状部を得ることが困難となるため、製品予定部に残材を隣接配置してプラズマアークが製品予定部側に引かれて曲がるのを防止してから2回目以降の加工を行なうのが一般的である。
【特許文献1】特開平6−122083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この場合2回目以降の加工を行なう際の製品予定部に残材を並べて配置する際には製品予定部と残材との相対的な位置関係を適正に調整する必要があり、この調整作業がコストの増大を招くという問題があった。
また、製品予定部から分離された残材は、熱歪により変形するために製品予定部と正確に隣接させることは容易ではなく、製品予定部と残材との間に空間が形成されると、2回目以降の加工に際してプラズマアークが製品予定部と残材の間の空間をまたいで形成されるために、プラズマアークが不安定となってドロスが生成されるなど開先形状部の表面が粗くなり、又開先形状部が丸くなるという問題があった。
また、その結果として、プラズマアークにより開先形状部を形成する場合、熱歪の影響が小さくなるような形状及び加工経路を考慮することが必要とされ、多くの手間が必要になるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、プラズマアークにより開先形状部を形成する場合に、残材を製品予定部に並べる作業を必要とせずに安定した形状及び表面を有する開先形状部を容易に形成可能な開先加工方法、制御プログラム、演算プログラム、制御システム、プラズマ加工装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載された発明は、被加工材に対して傾斜させたトーチからプラズマアークを噴射させながら前記被加工材と相対移動して、前記被加工材の一方の面に開口し他方側の面に伸びる加工空間を形成する加工を前記トーチの傾斜角度を変えて複数回行なうことにより開先形状部を形成する開先加工方法であって、少なくとも2回目以降のいずれかの加工による加工空間の領域内に前回以前の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工し、かつ、最後の加工による加工空間が前記他方側の面に到達するように加工することを特徴とする。
【0007】
請求項7に記載された発明は、被加工材が載置可能とされる定盤と、プラズマアークが噴射可能とされたトーチと、前記トーチの前記被加工材に対する加工位置を保持する加工位置保持機構と、前記トーチを前記被加工材に対して所定の傾斜角度に傾斜させる傾斜機構と、前記トーチを前記定盤に対して相対移動する移動機構とを備え、前記プラズマアークの噴射条件と、前記加工位置保持機構による加工位置と、前記傾斜機構による傾斜角度と、前記移動機構による相対移動速度とを制御可能に構成されたプラズマ加工装置を制御する制御プログラムであって、前記トーチを傾斜させて、前記プラズマアークを噴射させながら前記被加工材と相対移動して前記被加工材の一方の面に開口し他方の面側に伸びる加工空間を、前記傾斜角度を変えて複数回加工することにより開先形状部を形成する場合に、少なくとも2回目以降のいずれかの加工による加工空間は、該加工空間の領域内に前回以前の加工による加工空間の加工先端部が形成され、かつ最後の加工による加工空間が、前記他方側の面に到達するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の開先加工方法であって、2回目以降の加工による加工空間の領域内に前回の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工することを特徴とする。
【0009】
請求項8に記載された発明は、請求項7記載の制御プログラムであって、2回目以降の加工による加工空間の領域内に前回の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工することを特徴とする。
【0010】
請求項9に記載された発明は、制御システムであって、請求項7又は請求項8に記載の制御プログラムを備えることを特徴とする。
請求項10に記載された発明は、プラズマ加工装置であって、請求項9に記載の制御システムを備えることを特徴とする。
【0011】
この発明に係る開先加工方法、制御プログラム、制御システム、プラズマ加工装置によれば、2回目以降の加工のいずれかを加工する際に、該加工による加工空間の領域内に前回以前の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工される。その結果、プラズマアークによる加工空間を形成する予定部にプラズマアークを乱す開口部が形成されて加工中のプラズマアークが側方に露出することがなくプラズマアークの乱れに起因して開先形状部の表面が粗くなることが抑制される。
また、プラズマアークを乱す開口部が形成されることがないため残材を製品予定部に並べて位置決めする作業が不要とされるとともに最後の加工により残材が製品予定部から分離されるので、人手による作業が軽減し生産性が向上する。
また、2回目以降の加工による加工空間の領域内に前回の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工することにより、プラズマアークの乱れをより確実に抑制することができる。
【0012】
この明細書において、加工空間とは、トーチから噴射されたプラズマアークにより加工された被加工材の一方の面に開口し他方側に伸びる途中に加工先端部が形成される孔、被加工材の一方の面から他方の面に到達する孔、及びこれら孔がトーチと被加工材が相対的に移動して被加工材の面方向に延びて形成された溝及び切断部を含む概念である。
【0013】
請求項3に記載された発明は、請求項2記載の開先加工方法であって、前記傾斜角度を変える回数をN(Nは、2以上の自然数)とした場合に、M(Mは、N−1以下の自然数)回目の加工による前記加工空間の加工先端部は、前記被加工材の他方側の面に至る途中に位置するとともにM+1回目の加工による加工空間の領域内となるように形成され、かつ、M=N−1であるN回目の加工による加工空間は、前記他方側の面まで到達するように加工することを特徴とする。
【0014】
この発明に係る開先加工方法によれば、被加工材に開先形状部を形成する場合に、M+1回目の加工による加工空間の領域内にM回目の加工による加工空間の加工先端部が形成されるのでプラズマアークを乱す開口部が形成されることがないため残材を製品予定部に並べて位置決めする作業が不要とされるとともにN回目の加工により残材が製品予定部から分離されるので人手による作業が軽減し生産性が向上する。
また、M+1回目の加工をする際のプラズマアークが、M回目に形成された加工空間をまたぐことに起因するプラズマアークの不安定が抑制され、正確な開先形状部を得るとともに開先形状部の表面が粗くなることが抑制される。
【0015】
請求項4に記載された発明は、請求項3記載の開先加工方法であって、N=2で、前記開先形状部が表Y開先形状部の場合に、前記トーチを前記被加工材の製品予定部の開先面に対応する傾斜角度に傾斜して1回目の加工をし、次いで、前記トーチを前記製品予定部のルート面に対応する傾斜角度に傾斜して2回目の加工をすることを特徴とする。
【0016】
この発明に係る開先加工方法によれば、表面が粗くなるのを抑制して正確な表Y開先形状部を容易に形成することができる。
【0017】
請求項5に記載された発明は、請求項3記載の開先加工方法であって、N=2で、前記開先形状部が裏Y開先形状部の場合に、前記トーチを前記被加工材の製品予定部のルート面に対応する傾斜角度に傾斜して1回目の加工をし、次いで、前記トーチを前記製品予定部の開先面に沿う傾斜角度に傾斜して2回目の加工をすることを特徴とする。
【0018】
この発明に係る開先加工方法によれば、表面が粗くなるのを抑制して正確な裏Y開先形状部を容易に形成することができる。
【0019】
請求項6に記載された発明は、請求項3記載の開先加工方法であって、N=3で、前記開先形状部がX開先形状部の場合に、前記トーチを前記被加工材の製品予定部に形成する第1の開先面に対応する第1の傾斜角度に傾斜して1回目の加工をし、次いで、前記トーチを前記製品予定部のルート面に対応する第2の傾斜角度に傾斜して2回目の加工をし、次いで、前記トーチを前記製品予定部の第2の開先面に対応する第3の傾斜角度に傾斜して3回目の加工をすることを特徴とする。
【0020】
この発明に係る開先加工方法によれば、表面が粗くなるのを抑制して正確なX開先形状部を容易に形成することができる。
【0021】
請求項11に記載された発明は、演算プログラムであって、被加工材が載置可能とされる定盤と、プラズマアークが噴射可能とされたトーチと、前記トーチの前記被加工材に対する加工位置を保持する加工位置保持機構と、前記トーチを前記被加工材に対して所定の傾斜角度に傾斜させる傾斜機構と、前記トーチを前記定盤に対して相対移動する移動機構とを備え、前記プラズマアークの噴射条件と、前記加工位置保持機構による加工位置と、前記傾斜機構による傾斜角度と、前記移動機構による相対移動速度とを制御可能に構成されたプラズマ加工装置により、前記トーチを傾斜させて、前記プラズマアークを噴射させながら前記被加工材と相対移動して前記被加工材の一方の面に開口し他方の面側に伸びる加工空間を、前記傾斜角度を変えて複数回加工することにより開先形状部を形成する場合に、少なくとも2回目以降のいずれかの加工による加工空間の領域内に前回以前の加工による加工空間の加工先端部が形成され、かつ最後の加工による加工空間が前記他方側の面に到達するための、前記噴射条件と前記相対移動速度の少なくとも一方を演算することを特徴とする。
【0022】
この発明に係る演算プログラムによれば、プラズマ加工装置において本発明に係る開先加工方法により加工する際に、噴射条件、相対移動速度のうちそのプラズマ加工装置に必要とされるものを演算して制御プログラム、加工データとして反映することができる。
その結果、プラズマ加工装置において本発明を実施するための制御プログラム、加工データを、プラズマ加工装置の外(例えば、ワークステーション)において容易に作成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る、制御プログラム、演算プログラム、制御システム、プラズマ加工装置によれば、開先加工において製品予定部に対して残材を並べて位置調整する作業を不必要とすることができる。
また、開先形状部の表面が粗くなるのを抑制して、安定した表面及び形状を備えた開先形状部を容易に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照し、この発明の一実施形態について説明する。
図1は、この発明の一実施形態を示す図であり、符号1は加工装置(プラズマ加工装置)を、符号2はトーチを、符号20は制御装置(制御システム)を示している。
加工装置1は、トーチ2と、定盤3と、トーチ2を保持するとともにトーチ2を所定の角度に保持してトーチ2に傾斜角度を付与するトーチ保持部材(加工位置保持機構)10と、トーチ2をトーチ保持部材10とともに加工装置1の定盤上でX軸方向(走行方向)及びY軸方向(横行方向)に移動させる移動機構16と、トーチ保持部材10に保持したトーチ2のトーチ軸線O1をY軸方向及びX軸方向に回動させる傾斜機構15と、制御システム20とを備えている。
【0025】
この実施の形態では、トーチ2は定盤3の上方に位置され、トーチ2の軸線(以下、トーチ軸線という)O1方向にプラズマアークを噴射して鋼板等の被加工材に加工空間を加工するようになっている。
トーチ2のトーチ軸線O1と被加工材Wの加工面との交点には加工点Pが形成され、加工空間の加工面における略中心に位置する。また、この加工点Pは、トーチ2が移動する経路、すなわち加工軌跡上に形成されるものである。
【0026】
トーチ2は、ノズル内に配置された電極の周囲に作動ガス(例えば、高純度の酸素ガス等)を供給しながら電極とノズルとの間で放電させてパイロットアークを形成し、形成されたパイロットアークを作動ガスによりノズルから被加工材に向けて噴射して被加工材と接触させることにより電極と被加工材との間にプラズマアークを形成し、このプラズマアークの熱によって被加工材を溶融して作動ガスにより燃焼を促進するとともに、噴射の圧力によって溶融物を排除して被加工材に加工空間を形成するようになっている。なお、パイロットアークは、プラズマアークが形成された後に停止される。
【0027】
定盤3は、トーチ2により加工する被加工材を載置するためのものであって、定盤上面には、走行方向(以下、X軸方向という)に台車が移動するためのレールが配置されるとともに、この台車に配置された後述するトーチ保持部材10が横行方向(以下、Y軸方向という)に移動可能とされており、定盤3の上面は、X軸とY軸とから構成されたXY面に沿う平坦な面とされている。
【0028】
トーチ保持部材10は、図2に示すように、鉛直方向に伸びる第1のアーム12Aと、第2のアーム12Bと、第3のアーム12Cと、それぞれZ軸と直交する第1シャフト13Aと、第2シャフト13Bと、第3シャフト13Cとを備えており、第2のアーム12Bは、第1のアーム12Aの先端側に配置され第1シャフト13Aの廻りに回動自在とされ、第3のアーム12Cは、第2のアーム12Bの先端側に配置され第2シャフトの廻りに回動自在とされており、第3のアーム12Cの先端側に設けられた第3シャフト13Cを介してトーチ2が設けられている。
【0029】
また、第1シャフト13Aと第2シャフト13B、第2シャフト13Bと第3シャフト13Cは、それぞれタイミングベルト14A、14Bで接続されており、第2のアーム12Bが第1シャフト13A廻りに回動された場合に、第1のアーム12Aと第3のアーム12C、第2のアーム12Bとトーチ軸線O1とが互いに平行を保って回動するようになっている。
また、トーチ2は、定盤3に鉛直とされ上記加工点Pを通過する軸線O2廻りに回動可能とされている。
その結果、トーチ2の傾斜角度が変化しても、加工面における加工点Pとトーチ2の先端との相対位置が維持されるようになっている。
【0030】
傾斜機構15は、A軸モータ15Aと、B軸モータ15Bとを備え、A軸モータ15Aは、第1シャフト13Aに接続され、第1シャフト13A廻りに第2のアーム12Bを回動してトーチ2のトーチ軸線O1に傾斜角度Sを付与するようになっている。
また、B軸モータ15Bは、軸線O2廻りにトーチ2を回動させてトーチ軸線O1のXY平面における方向を制御するようになっている。
かかるA軸モータ15A及びB軸モータ15Bの回動角度を組み合わせることにより、平面視定盤3上の任意の方向において、トーチ軸線O1を任意の傾斜角度Sに傾けることができるようになっている。
【0031】
なお、傾斜角度とはトーチ2が定盤3に対して相対移動する場合に、この相対移動する方向と直交する面におけるトーチ軸線O1が被加工材Wの加工面と交差する角度をいう。換言すると、加工軌跡の法線方向(接線と直交する方向)の面におけるトーチ軸線O1が加工面と交差する角度をいう。
【0032】
移動機構16は、トーチ保持部材10が配置された台車を走行方向(X軸方向)に移動させるX軸方向移動機構16Xと、台車上でトーチ保持部材10を横行方向(Y軸方向)に移動させるY軸方向移動機構16Yとを備えており、演算部22からドライバ26に出力されたX軸方向制御信号、Y軸方向制御信号に基づいて、トーチ2とともにトーチ保持部材10を、X軸方向、及びY軸方向に駆動してトーチ2を所定のXY座標位置に移動させるようになっている。
【0033】
また、移動機構16は、トーチ保持部材10を高さ方向(Z軸方向)に移動可能とするZ軸方向移動機構16Zを備えており、Z軸方向移動機構16Zは、図示しない部材によってトーチ保持部材10に接続されていて、必要に応じてトーチ保持部材10の高さを変更し、トーチ2の先端と被加工材との間隔を調整することができるようになっている。
【0034】
制御システム20は、入力部21と、演算部22と、データベース24と、ドライバ26と、図示しないハードディスクに格納され、例えば、図3に示すような手順の動作を制御可能な制御プログラムとを備えている。
その結果、制御システム20は、入力部21から入力される開先形状部に関するデータに基づいて、加工位置保持機構10による加工点P、傾斜機構15によるトーチ2の傾斜角度、移動機構16によるトーチ2の移動速度Vと、トーチ2から噴射されるプラズマアークの噴射条件(例えば、電流、ガス種、ガス圧力、ガス流量、トーチ高さ等)とを制御して、被加工材Wに所望の加工空間Hを形成することができるようになっている。
【0035】
入力部21は、開先形状部に関するデータを演算部22に入力するためのものであり、開先形状部に関するデータとして、例えば、被加工材Wの材質、厚さt、トーチ2の加工軌跡(開先形状部を平面視した形状)Tに関するデータ、この加工軌跡のトーチ2の移動方向と直交する断面における開先形状部の形状Dに関するデータ等が入力されるようになっている。
【0036】
加工軌跡Tに関するデータ、開先形状部の形状Dに関するデータは、例えば、座標データとして与えられ、加工点Pは、加工するべき開先面の傾斜(又はトーチ軸線O1の傾斜角度Sにより変化するため、加工軌跡Tに関するデータは、例えば、加工面と直交して定義されるルート面により表されることが好適である。
【0037】
演算部22は、入力された開先形状部の形状Dに関するデータに基づいて、1回目からN(Nは、2以上の自然数)回目まで傾斜角度を変えて加工空間を形成する場合の加工条件を算出するようになっている。
この場合、M(Mは、N−1以下の自然数)回目の加工による加工空間Hの加工先端部は、被加工材Wの他方側(加工面の反対側)の面に至る途中に位置するとともにM+1回目の加工による加工空間HM+1の領域内に形成されるように算出されるようになっている。
【0038】
上記M回目の加工を行なうための加工条件として、開先形状部の形状Dに関するデータに基づくM回目の加工における傾斜角度Sと、加工面から加工空間Hの加工先端部までの加工空間Hに沿う方向の加工長さLが算出され、算出された傾斜角度Sと、加工長さLと、被加工材Wの材質を、データベース24と照合してプラズマアークの噴射条件、トーチの移動速度Vを取得するようになっている。
なお、N回目に加工される加工空間H(HM+1、M=N−1)は、その加工先端部が被加工材Wの他方側の面に到達するように加工長さLが算出されるようになっている。
【0039】
データベース24には、トーチ2により形成される加工空間の加工長さLが、プラズマプラズマアークの噴射条件及びトーチ2のトーチの移動速度Vに対応する数値データとして格納されている。
【0040】
また、演算部22は、入力された開先形状部に関するデータに基づいて、M回目に形成するべき加工空間Hを加工する際のトーチ2のトーチ軸線O1が、所定の傾斜角度Sを向くとともに加工点Pが加工軌跡Tに沿って移動するための、傾斜機構15のA軸モータ15A及びB軸モータ15Bの回動角度、トーチ保持部材10、移動機構16を算出し、これらを駆動するための制御信号をドライバ26に出力するようになっている。
【0041】
ドライバ26は、トーチ2をX軸方向に移動させて加工点PのX座標位置を制御するX軸方向移動機構16X、Y軸方向に移動させて加工点PのY座標位置を制御するY軸方向移動機構16Y、Z軸方向に移動させて加工点PのZ座標位置を制御するZ軸方向移動機構16Z、A軸モータ15A、B軸モータ15Bに駆動電力を供給するようになっている。
【0042】
この実施形態において、ドライバ26は、演算部22から出力された加工軌跡Tに沿った加工点Pの所要通過点の間におけるXY座標位置と、A軸モータ15A及びB軸モータ15Bの回動角度が定義された駆動指令信号に基づいて、X軸方向移動機構16Xと、Y軸方向移動機構16Yと、A軸モータ15Aと、B軸モータ15Bとを駆動して、トーチ軸線O1が所定の方向において所定の傾斜角度を維持し、かつ加工軌跡Tに沿って移動するようになっている。
また、加工軌跡T上の所要通過点における加工点PでのA軸モータ15A及びB軸モータ15Bの回動角度は直線補間により制御可能とされている。
なお、Z軸方向移動機構16Zは、例えば、人手により入力された指示信号により駆動されてもよい。
【0043】
図3は、この実施形態の制御システム20における制御プログラムの一例の動作手順を示すフローである。
以下、フローによる動作手順について説明する。
1)開先形状部に関するデータとして、被加工材Wの材質、厚さt、トーチ2の加工軌跡Tに関するデータ、開先形状部の断面形状Dに関するデータを入力部21から入力する(S1)。
2)演算部22は、入力部21から入力された開先形状部の断面形状Dに関するデータに基づいてトーチ2の傾斜角度S1からSを算出するとともに、被加工材Wの厚さt、傾斜角度SからN回目に加工される加工空間Hの加工先端部が被加工材Wの他方側の面に到達する加工長さLを算出する(S2)。
3)N回目に加工する加工空間Hを加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチの移動速度Vを、被加工材Wの材質、加工長さLをデータベース24と照合して取得する(S3)。
なお、ここで取得したプラズマアークの噴射条件、トーチの移動速度Vに関する加工データは図示しない記憶部に格納される。
4)次に、1回目からM回目の加工に関する加工条件を演算の繰り返しにより算出するために、例えば、M=N−1と設定する(S4)。Nは、開先形状部の断面形状Dに関するデータに基づいて自動的に算出可能であり、例えば、Y開先加工ではN=2、X開先加工ではN=3とされる。なお、Nを入力部21から入力する構成としてもよい。
5)次に、M回目の加工による加工空間Hの加工先端部が、被加工材Wの他方側の面に至る途中に位置するとともにM+1回目の加工による加工空間HM+1の領域内に形成されるように加工空間Hの加工長さLを算出する(S5)。
6)M回目に加工する加工空間Hを加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチの移動速度Vを、被加工材Wの材質、加工長さLをデータベース24と照合して取得する(S6)。
なお、ここで取得したプラズマアークの噴射条件、トーチの移動速度Vに関する加工データは図示しない記憶部に格納される。
7)M>1の場合には、Mから1を減じ(S8)て、上記5)に移行して5)、6)を繰り返し(S7)、M=1の場合には、開先形状部の加工に移行する(S7)。
8)M=1を設定し、加工空間Hの加工に移行する(S9)。
9)プラズマアークにより加工された加工空間Hによって被加工材Wの製品予定部に開先面、ルート面が形成可能とされるM回目の加工に対応する加工点Pの位置を、加工軌跡T及び傾斜角度Sに基づいて算出する(S10)。
10)加工空間Hを加工する。
この場合、トーチ2のトーチ軸線O1を被加工材Wの加工面に対して傾斜角度Sに傾斜させるとともに加工点Pの位置を加工軌跡Tの所要通過点に合わせ、記憶部に格納されたプラズマアークの噴射条件によりプラズマアークを噴射しながら、トーチ2を加工軌跡Tに沿って移動速度Vで移動させる(S11)。
11)MがN未満の場合(S12)には、Mに1を加算(S13)して、上記10)、11)を繰り返し、M=Nである場合(S12)には、加工を終了する。
【0044】
上記実施の形態に係る加工装置1によれば、被加工材Wに開先形状部を形成する場合に、N回目の加工が完了するまで製品予定部と残材とが分離されることがないので、2回目以降の加工をする場合に、残材を製品予定部に対して並べるとともに位置決め調整する作業が不必要とされ、かかる調整作業に関するコストを削減することができる。
また、製品予定部と残材との相対的な位置が正確に維持されるので安定した形状及び表面を有する開先形状部を容易に得ることができる。
また、開先形状部を形成する場合に熱歪の影響が小さくなるような形状及び加工経路を考慮する必要がなくなり開先形状部の形成にかかる検討時間を低減することができる。
【0045】
また、M回目に加工される加工空間の加工先端部をM+1回目に加工される加工空間の領域内に位置するので、M+1回目の加工をする際にM回目までに形成された加工空間をプラズマアークがまたいで形成されることが防止され、その結果、プラズマアークが不安定となって製品予定部に曲がることが抑制され表面が粗くなることが抑制された安定した開先形状部を容易に形成することができる。
【0046】
次に、上記実施形態に係る加工装置1を用いて、表Y開先形状部、裏Y開先形状部、X開先形状部を形成する手順について説明する。
【0047】
(第1実施例)
被加工材Wの製品予定部W1に表Y開先形状部を形成する手順を、図4を参照して説明する。表Y開先形状部は、N=2とされ、以下の1)から3)は、トーチ2が移動開始するまでに制御システム20において行なわれるものである。また、図4(A)は加工前の被加工材W及び製品予定部W1を示す図である。
1)まず、入力部21から、被加工材Wの材質、図4(A)、(B)、(C)に示すような厚さt、製品予定部W1のルート面R11を平面視して定義されるトーチ2の加工軌跡Tに関するデータ、開先形状部の断面形状Dに関するデータが入力され、これらデータに基づいてトーチ2の傾斜角度S11(Sに相当)、傾斜角度S12(Sに相当)を算出するとともに、被加工材Wの厚さt、傾斜角度S12に基づいて2回目に加工される加工空間Y12(Hに相当)の加工先端部が被加工材Wの加工面と反対(他方)側の面に到達する加工長さL12(Lに相当)を算出する。
2)被加工材Wの材質、加工長さ加工長さL12をデータベース24と照合して、2回目に加工する加工空間Y12を加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチの移動速度V12を取得して図示しない記憶部に記憶する。
3)次に、1回目の加工により形成する加工空間Y11(Hに相当)の加工先端部が、被加工材Wの反対側の面に至る途中に位置するとともに加工空間Y12の領域内に形成されるように加工空間Y11の加工長さL11を算出し、加工空間Y11を加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチ2の移動速度V11、被加工材Wの材質、加工長さL11を、データベース24と照合して取得し、図示しない記憶部に記憶する。
4)次いで、プラズマアークを噴射しながらトーチ2を移動させることにより、加工空間Y11、加工空間Y12をこの順に加工する。
このとき、図4(B)に示すように、加工空間Y11を加工する際の加工点P11(Pに相当)の位置を、加工空間Y11が製品予定部W1の開先面K11に対応するように、加工軌跡T及び傾斜角度S11に基づいて算出する。
その後トーチ2は傾斜角度S11に傾斜させるとともに記憶部に格納されたプラズマアークの噴射条件によりプラズマアークを噴射しながら、加工点P11を加工軌跡Tに沿って移動速度V11で移動して加工空間Y11を加工する。
5)次いで、図4(C)に示すように、加工空間Y12を加工する際の加工点P12(Pに相当)の位置を、加工空間Y12が製品予定部W1のルート面R11に対応するように、加工軌跡T及び傾斜角度S12に基づいて算出する。
その後トーチ2を傾斜角度S12に傾斜させるとともに記憶部に格納されたプラズマアークの噴射条件によりプラズマアークを噴射しながら、加工点P12を加工軌跡Tに沿って移動速度V12で移動して加工空間Y11を加工して、製品予定部W1に表開先形状部が形成される。
上記手順により、表面が粗くなることが抑制され安定した開先形状部を有する表Y開先形状部を形成することができる。
【0048】
(第2実施例)
被加工材Wの製品予定部W2に裏Y開先形状部を形成する手順を、図5を参照して説明する。裏Y開先形状部は、N=2とされ、以下の1)から3)は、トーチ2が移動開始するまでに制御システム20において行なわれるものである。また、図5(A)は加工前の被加工材W及び製品予定部W2を示す図である。
1)まず、入力部21から、被加工材Wの材質、図5(A)、(B)、(C)に示すような厚さt、製品予定部W2のルート面R21を平面視して定義されるトーチ2の加工軌跡Tに関するデータ、開先形状部の断面形状Dに関するデータが入力され、これらデータに基づいてトーチ2の傾斜角度S21(Sに相当)、傾斜角度S22(Sに相当)を算出するとともに、被加工材Wの厚さt、傾斜角度S22に基づいて2回目に加工される加工空間Y22(Hに相当)の加工先端部が被加工材Wの加工面と反対(他方)側の面に到達する加工長さL22(Lに相当)を算出する。
2)被加工材Wの材質、加工長さ加工長さL22をデータベース24と照合して、2回目に加工する加工空間Y22を加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチの移動速度V22を取得して図示しない記憶部に記憶する。
3)次に、1回目の加工により形成する加工空間Y21(Hに相当)の加工先端部が、被加工材Wの反対側の面に至る途中に位置するとともに加工空間Y22の領域内に形成されるように加工空間Y21の加工長さL21を算出し、加工空間Y21を加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチ2の移動速度V21、被加工材Wの材質、加工長さL21を、データベース24と照合して取得し、図示しない記憶部に記憶する。
4)次いで、プラズマアークを噴射しながらトーチ2を移動させることにより、加工空間Y21、加工空間Y22をこの順に加工する。
このとき、図5(B)に示すように、加工空間Y21を加工する際の加工点P21(Pに相当)の位置を、加工空間Y21が製品予定部W2のルート面R21に対応するように、加工軌跡T及び傾斜角度S21に基づいて算出する。
その後トーチ2は傾斜角度S21に傾斜させるとともに記憶部に格納されたプラズマアークの噴射条件によりプラズマアークを噴射しながら、加工点P21を加工軌跡Tに沿って移動速度V21で移動して加工空間Y21を加工する。
5)次いで、図5(C)に示すように、加工空間Y22を加工する際の加工点P22(Pに相当)の位置を、加工空間Y22が製品予定部W2の開先面K21に対応するように、加工軌跡T及び傾斜角度S22に基づいて算出する。
その後トーチ2を傾斜角度S22に傾斜させるとともに記憶部に格納されたプラズマアークの噴射条件によりプラズマアークを噴射しながら、加工点P22を加工軌跡Tに沿って移動速度V22で移動して加工空間Y22を加工して、製品予定部W2に裏開先形状部が形成される。
上記手順により、表面が粗くなることが抑制され安定した開先形状部を有する裏Y開先形状部を形成することができる。
【0049】
(第3実施例)
被加工材Wの製品予定部W3にX開先形状部を形成する手順を、図6を参照して説明する。X開先形状部は、N=3とされ、以下の1)から4)は、トーチ2が移動開始するまでに制御システム20において行なわれるものである。また、図6(A)は加工前の被加工材W及び製品予定部W3を示す図である。
1)まず、入力部21から、被加工材Wの材質、図6(A)、(B)、(C)、(D)に示すような厚さt、製品予定部W3のルート面R31を平面視して定義されるトーチ2の加工軌跡Tに関するデータ、開先形状部の断面形状Dに関するデータが入力され、これらデータに基づいてトーチ2の傾斜角度S31(Sに相当)、傾斜角度S32(Sに相当)、傾斜角度S33(Sに相当)を算出するとともに、被加工材Wの厚さt、傾斜角度S32に基づいて3回目に加工される加工空間X(Hに相当)の加工先端部が被加工材Wの加工面と反対(他方)側の面に到達する加工長さL33(Lに相当)を算出する。
2)被加工材Wの材質、加工長さ加工長さL33をデータベース24と照合して、3回目に加工する加工空間Xを加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチの移動速度V33を取得して図示しない記憶部に記憶する。
3)次に、2回目の加工により形成する加工空間X(Hに相当)の加工先端部が、被加工材Wの反対側の面に至る途中に位置するとともに加工空間Xの領域内に形成されるように加工空間Xの加工長さL32を算出し、加工空間Xを加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチ2の移動速度V32、被加工材Wの材質、加工長さL32を、データベース24と照合して取得し、図示しない記憶部に記憶する。
4)次に、1回目の加工により形成する加工空間X(Hに相当)の加工先端部が、被加工材Wの反対側の面に至る途中に位置するとともに加工空間Xの領域内に形成されるように加工空間Xの加工長さL31を算出し、加工空間Xを加工するためのプラズマアークの噴射条件、トーチ2の移動速度V31、被加工材Wの材質、加工長さL31を、データベース24と照合して取得し、図示しない記憶部に記憶する。
5)次いで、プラズマアークを噴射しながらトーチ2を移動させることにより、加工空間X、加工空間X、加工空間Xをこの順に加工する。
このとき、図6(B)に示すように、加工空間Xを加工する際の加工点P31(Pに相当)の位置を、加工空間Xが製品予定部W3の第1の開先面K31に対応するように、加工軌跡T及び傾斜角度S31に基づいて算出する。
その後トーチ2は傾斜角度S31に傾斜させるとともに記憶部に格納されたプラズマアークの噴射条件によりプラズマアークを噴射しながら、加工点P31を加工軌跡Tに沿って移動速度V31で移動して加工空間Xを加工する。
6)次に、図6(C)に示すように、加工空間Xを加工する際の加工点P32(Pに相当)の位置を、加工空間Xが製品予定部W3のルート面R31に対応するように、加工軌跡T及び傾斜角度S32に基づいて算出する。
その後トーチ2は傾斜角度S32に傾斜させるとともに記憶部に格納されたプラズマアークの噴射条件によりプラズマアークを噴射しながら、加工点P32を加工軌跡Tに沿って移動速度V32で移動して加工空間Xを加工する。
7)次いで、図5(D)に示すように、加工空間Xを加工する際の加工点P33(Pに相当)の位置を、加工空間Xが製品予定部W3の第2の開先面K32に対応するように、加工軌跡T及び傾斜角度S33に基づいて算出する。
その後トーチ2を傾斜角度S33に傾斜させるとともに記憶部に格納されたプラズマアークの噴射条件によりプラズマアークを噴射しながら、加工点P33を加工軌跡Tに沿って移動速度V33で移動して加工空間Xを加工して、製品予定部W3にX開先形状部が形成される。
上記手順により、表面が粗くなることが抑制され安定した開先形状部を有するX開先形状部を形成することができる。
【0050】
なお、この発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能であり、例えば、上記実施の形態においては、開先形状部が表Y開先形状部、裏Y開先形状部、X開先形状部である場合について説明したが、その他の開先形状部の加工に用いてよいことはいうまでもない。
【0051】
また、上記実施の形態においては、開先形状部を加工する際に、2回目以降の加工における加工空間の領域に前回の加工空間の加工先端部が形成される場合について説明したが、すべての回の加工における加工空間の領域に前回の加工における加工先端部が形成されていることは必要とされず、選択した回の加工に関してのみ、その回の加工における加工空間の領域に前回の加工空間の加工先端部が形成される構成としてもよいし、今回の加工空間の領域に前々回以前の加工先端部のみが形成される構成としてもよい。
【0052】
例えば、X開先形状部を加工する際に、まず、トーチ2を製品予定部のルート面に対応する傾斜角度に傾斜して1回目の加工をして、次にトーチを製品予定部の第1の開先面(上側の開先面)に対応する傾斜角度に傾斜して2回目の加工をし、次いで第2の開先面(下側の開先面)に対応する傾斜角度に傾斜して3回目の加工をする場合に、1回目の加工による加工先端部を3回目の加工空間の領域内に形成するとともに、2回目の加工空間が3回目の加工の加工空間に接触しないようにX開先形状部を加工してもよい。
かかる構成を採用することにより、種々の開先形状部の加工に柔軟に対応することができる。
【0053】
例えば、上記実施の形態においては、制御プログラムが、開先形状部に関するデータ等に基づいて、トーチ2の移動速度Vと、トーチ2から噴射されるプラズマアークの噴射条件を演算する部分(S1からS8に相当)と、プラズマ加工装置1における加工工程(S9からS13)とを備える場合について説明したが、例えば、トーチ2から噴射されるプラズマアークの噴射条件を演算する部分のみを備えた制御プログラムとしてもよい。
また、制御プログラムの上記以外の構成とすることが可能であることはいうまでもない。
【0054】
また、上記実施の形態においては、開先形状部に関するデータ等に基づいて、プラズマアークの噴射条件と、トーチ2の移動速度Vの双方を制御する場合について説明したが、対象となるプラズマ加工装置によりそのうちいずれか一方のみを制御する構成としてもよい。
【0055】
また、開先形状部に関するデータ等に基づいて、トーチ2の移動速度Vとトーチ2から噴射されるプラズマアークの噴射条件のうち必要とされる条件を演算(S1からS8に相当)する演算プログラムも本発明に含まれることはいうまでもない。
また、上記実施の形態に係る制御プログラムを、例えば、ワークステーションのように加工装置1から分離された別の装置において作成して、その後、加工装置1に読み込ませて加工する場合の制御プログラムも本発明に含まれることはいうまでもない。
【0056】
また、上記実施の形態においては、開先形状部を形成するための制御プログラムが予め制御システム20のハードディスクに格納されている場合について説明したが、制御プログラムを読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された制御システム20に読み込ませ、実行することにより上記実施形態にかかる動作をさせることも可能である。また、「読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、揮発性メモリ(RAM)、CD−ROM等の可搬媒体、制御システム20に内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0057】
また、上記実施の形態においては、固定された定盤3に対してトーチ2が移動する加工装置1について説明したが、定盤3が移動し、又は定盤3とトーチ2の双方が移動可能な加工装置に対しても適用可能であることはいうまでもない。
【0058】
また、上記実施の形態においては、トーチ保持部材10が第1のアーム12Aから第3のアーム12Cを備える構成の場合について説明したが、例えば、互いに並行なリンクを組み合わせて構成される立体パンタグラフ、その他の周知の保持構造を用いてもよい。
また、Z軸方向移動機構16Zの駆動は、例えば、トーチ2の先端と被加工材である鋼板との高さを一定に維持するために用いるが、手動によってトーチ2の高さを移動させることも可能である。
【0059】
また、開先形状部については加工軌跡Tが平面視して直線である場合のほか、例えば、円形等の曲線形状を含む加工軌跡Tに対しても適用可能であり、かかる場合、トーチ2が通過する加工軌跡がトーチ2側に凸形状か凹形状かに基づいて、その位置での移動速度Vを補正する構成としてもよい。
また、上記実施の形態においては、被加工材の断面における開先形状部が一定の場合について説明したが、加工軌跡T上の位置により傾斜角度Sが変化する開先形状部に対して適用することを妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るプラズマ加工装置の構成の概略を示す図である。
【図2】本発明に係るトーチ保持部材の構成を示す図であり、(A)は正面図を、(B)は側面図を示している。
【図3】本発明に係る制御システムの動作手順の概略を示すフロー図である。
【図4】本発明に係る表Y開先形状部を形成する手順を示す図であり、(A)は加工が行なわれる前の被加工材を、(B)は開先面を加工する工程を、(C)はルート面を加工する工程を示している。
【図5】本発明に係る裏Y開先形状部を形成する手順を示す図であり、(A)は加工が行なわれる前の被加工材を、(B)はルート面を加工する工程を、(C)は開先面を加工する工程を示している。
【図6】本発明に係るX開先形状部を形成する手順を示す図であり、(A)は加工が行なわれる前の被加工材を、(B)は第1の開先面を加工する工程を、(C)はルート面を加工する工程を、(D)は第2の開先面を加工する工程を示している。
【符号の説明】
【0061】
、HM+1、H、Y11、Y12、Y21、Y22、X、X、X 加工空間
、VM+1、V、V11、V12、V21、V22、V31、V32、V33 トーチの移動速度
P、P、P11、P12、P21、P22、P31、P32、P33 加工点
、S11、S12、S21、S22、S31、S32、S33 傾斜角度
W 被加工材
W1、W2、W3 製品予定部
R11、R21、R31 ルート面
K11、K21 開先面
K31 第1の開先面
K32 第2の開先面
O1 トーチ軸線
1 加工装置(プラズマ加工装置)
2 トーチ
3 定盤
10 トーチ保持部材(加工位置保持機構)
15 傾斜機構
16 移動機構
20 制御システム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材に対して傾斜させたトーチからプラズマアークを噴射させながら前記被加工材と相対移動して、前記被加工材の一方の面に開口し他方側の面に伸びる加工空間を形成する加工を前記トーチの傾斜角度を変えて複数回行なうことにより開先形状部を形成する開先加工方法であって、
少なくとも2回目以降のいずれかの加工による加工空間の領域内に前回以前の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工し、かつ、最後の加工による加工空間が前記他方側の面に到達するように加工することを特徴とする開先加工方法。
【請求項2】
請求項1記載の開先加工方法であって、
2回目以降の加工による加工空間の領域内に前回の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工することを特徴とする開先加工方法。
【請求項3】
請求項2記載の開先加工方法であって、
前記傾斜角度を変える回数をN(Nは、2以上の自然数)とした場合に、
M(Mは、N−1以下の自然数)回目の加工による前記加工空間の加工先端部は、前記被加工材の他方側の面に至る途中に位置するとともにM+1回目の加工による加工空間の領域内となるように形成され、
かつ、M=N−1であるN回目の加工による加工空間は、前記他方側の面まで到達するように加工することを特徴とする開先加工方法。
【請求項4】
請求項3記載の開先加工方法であって、
N=2で、前記開先形状部が表Y開先形状部の場合に、
前記トーチを前記被加工材の製品予定部の開先面に対応する傾斜角度に傾斜して1回目の加工をし、
次いで、前記トーチを前記製品予定部のルート面に対応する傾斜角度に傾斜して2回目の加工をすることを特徴とする開先加工方法。
【請求項5】
請求項3記載の開先加工方法であって、
N=2で、前記開先形状部が裏Y開先形状部の場合に、
前記トーチを前記被加工材の製品予定部のルート面に対応する傾斜角度に傾斜して1回目の加工をし、
次いで、前記トーチを前記製品予定部の開先面に沿う傾斜角度に傾斜して2回目の加工をすることを特徴とする開先加工方法。
【請求項6】
請求項3記載の開先加工方法であって、
N=3で、前記開先形状部がX開先形状部の場合に、
前記トーチを前記被加工材の製品予定部に形成する第1の開先面に対応する第1の傾斜角度に傾斜して1回目の加工をし、
次いで、前記トーチを前記製品予定部のルート面に対応する第2の傾斜角度に傾斜して2回目の加工をし、
次いで、前記トーチを前記製品予定部の第2の開先面に対応する第3の傾斜角度に傾斜して3回目の加工をすることを特徴とする開先加工方法。
【請求項7】
被加工材が載置可能とされる定盤と、
プラズマアークが噴射可能とされたトーチと、
前記トーチの前記被加工材に対する加工位置を保持する加工位置保持機構と、
前記トーチを前記被加工材に対して所定の傾斜角度に傾斜させる傾斜機構と、
前記トーチを前記定盤に対して相対移動する移動機構とを備え、
前記プラズマアークの噴射条件と、前記加工位置保持機構による加工位置と、前記傾斜機構による傾斜角度と、前記移動機構による相対移動速度とを制御可能に構成されたプラズマ加工装置を制御する制御プログラムであって、
前記トーチを傾斜させて、前記プラズマアークを噴射させながら前記被加工材と相対移動して前記被加工材の一方の面に開口し他方の面側に伸びる加工空間を、前記傾斜角度を変えて複数回加工することにより開先形状部を形成する場合に、
少なくとも2回目以降のいずれかの加工による加工空間は、該加工空間の領域内に前回以前の加工による加工空間の加工先端部が形成され、かつ最後の加工による加工空間が、前記他方側の面に到達するように構成されていることを特徴とする制御プログラム。
【請求項8】
請求項7記載の制御プログラムであって、
2回目以降の加工による加工空間の領域内に前回の加工による加工空間の加工先端部が形成されるように加工することを特徴とする制御プログラム。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の制御プログラムを備えることを特徴とする制御システム。
【請求項10】
請求項9に記載の制御システムを備えることを特徴とするプラズマ加工装置。
【請求項11】
被加工材が載置可能とされる定盤と、
プラズマアークが噴射可能とされたトーチと、
前記トーチの前記被加工材に対する加工位置を保持する加工位置保持機構と、
前記トーチを前記被加工材に対して所定の傾斜角度に傾斜させる傾斜機構と、
前記トーチを前記定盤に対して相対移動する移動機構とを備え、
前記プラズマアークの噴射条件と、前記加工位置保持機構による加工位置と、前記傾斜機構による傾斜角度と、前記移動機構による相対移動速度とを制御可能に構成されたプラズマ加工装置により、前記トーチを傾斜させて、前記プラズマアークを噴射させながら前記被加工材と相対移動して前記被加工材の一方の面に開口し他方の面側に伸びる加工空間を、前記傾斜角度を変えて複数回加工することにより開先形状部を形成する場合に、
少なくとも2回目以降のいずれかの加工による加工空間の領域内に前回以前の加工による加工空間の加工先端部が形成され、かつ最後の加工による加工空間が前記他方側の面に到達するための、前記噴射条件と前記相対移動速度の少なくとも一方を演算することを特徴とする演算プログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−241147(P2009−241147A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93483(P2008−93483)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000150981)日酸TANAKA株式会社 (33)
【Fターム(参考)】