説明

開先形状

【課題】ルート部にルートギャップがあっても、アーク、ワイヤ及びビームが裏面側に突き抜けたり回り込んだりするようなことが防止され、高品位で安定した裏波溶接が行える開先形状を提供する。
【解決手段】一対の被溶接材料2の端面3同士を突き合わせるように対向配置してなるルート部4を有し、ルート部4を、突き合わせ方向Cに垂直な厚さ方向Tのうち一方を向く表面から溶接するとともに他方を向く裏面5Bに裏波ビードを形成する裏波溶接に用いられる開先形状であって、ルート部4には、突き合わせ方向Cに対向する端面3同士の間にルートギャップ6が形成され、端面3同士のうち一端面3Aが、厚さ方向Tの表面から裏面5B側に向かうに従い漸次突き合わせ方向Cの他端面3B側に向かい傾斜して形成され、ルート部4を表面側から見て、ルートギャップ6を通して、一端面3Aが当該ルート部4の内底面をなすように配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接やビーム溶接などを用いた金属同士の突き合わせ溶接において、突き合わせ方向に垂直な厚さ方向を向く表裏面のうち表面から裏波溶接を行う際に、溶接のアークやワイヤ、又は、レーザなどのビームが裏面側へ突き抜けることを防止して、高品位な裏波ビードを形成できる開先形状に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼などの金属同士の突き合わせ溶接には、高密度エネルギーのアーク溶接法や、レーザビーム、電子ビームなどを用いたビーム溶接法が使われており、これら金属同士の対向する領域のうち、ルート部と言われる開先の底部を互いに突き合わせて溶接することが多い。図6は、従来の開先形状の一例であり、符号100は溶接する金属である板又は管などの被溶接材料、符号101は被溶接材料の厚さ、符号102は開先のルート部、符号103はルート部102の厚さ方向T(図6における上下方向)に沿う長さ(ルートフェース)、符号104はルート部102において突き合わせ方向C(図6における左右方向)に対向する被溶接材料の端面同士の間隔(ルートギャップ)、を示している。
【0003】
そして、高密度のエネルギーで溶接するがために、ルート部102におけるルートギャップ104は、できる限り0mmに近づけ狭くすることが求められており、これによって、適切な裏波溶接(図6において厚さ方向Tを向く表裏面のうち一方を向く表面105Aからルート部102を溶接して、他方を向く裏面105Bに溶接ビードを形成する)を行うようにしている。
具体的に、アーク溶接法の場合、ルートギャップ104が0.3mmを超えると、溶接のアークやワイヤが裏面105B側に突き抜け、溶接が安定して持続できなくなる。また、レーザなどのビーム溶接法の場合、ルートギャップ104が0.2mmを超えると、ビームが裏面105B側に突き抜け、溶接が困難となる。
【0004】
例えば、下記特許文献1〜5には、被溶接材料の対向する端面同士を突き合わせて、開先のルート部で嵌合させる種々の形状が提案されている。これらに共通して言えるのは、いずれもルートギャップ104を可及的0mmに近づけ、芯ずれや食違い(表面105Aの目違い)を抑制することを目的としていることである。具体的に、例えば下記特許文献2の段落0037には、開先合わせ後のがたつき(ルートギャップ)を、大きいものでも0.2mmに抑えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−226259号公報
【特許文献2】特開2004−268052号公報
【特許文献3】特許第3959794号公報
【特許文献4】特許第2611398号公報
【特許文献5】実開昭61−12587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の開先形状では、下記の課題があった。
すなわち、ルート部102のルートギャップ104を0mmにすることは、被溶接材料100の端面加工精度や突き合わせ精度等により実際には困難であり、該ルートギャップ104が0.2mmを超えた場合に、溶接を精度よく行うことができなかった。
詳しくは、アーク溶接法又はビーム溶接法において、ルートギャップ104が少なくとも0.2mm〜0.3mm開いた場合に溶接が不安定となり、ビード形状の不良や溶接欠陥が発生することがあった。
【0007】
具体的に、0.9mm〜1.6mmの細径のワイヤを用いたマグ溶接やミグ溶接などのアーク溶接法の場合、ルートギャップ104が0.3mmを超えると、アークがルート部102から裏面105B側に回ったりワイヤが裏面105Bに突き抜けたりして、溶接アークが途切れ安定した溶接が持続できなくなり、ビード形状の不良や溶け込み不良などの溶接欠陥が生じていた。
また、レーザなどのビーム溶接法の場合、ルートギャップ104が0.2mmを超えると、レーザビームがルート部102を溶かさずに裏面105B側に突き抜けてしまい、溶接が持続できなかった。
また、裏面105B側に突き抜けたアークやビームなどにより、銅等からなる裏当て金106が損傷してしまうことがあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ルート部にルートギャップがあっても、アーク、ワイヤ及びビームが裏面側に突き抜けたり回り込んだりするようなことが防止され、高品位で安定した裏波溶接が行える開先形状を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、一対の被溶接材料の端面同士を突き合わせるように対向配置してなるルート部を有し、前記ルート部を、突き合わせ方向に垂直な厚さ方向のうち一方を向く表面から溶接するとともに他方を向く裏面に裏波ビードを形成する裏波溶接に用いられる開先形状であって、前記ルート部には、前記突き合わせ方向に対向する前記端面同士の間にルートギャップが形成され、前記端面同士のうち一端面が、前記厚さ方向の表面から裏面側に向かうに従い漸次前記突き合わせ方向の他端面側に向かい傾斜して形成され、前記ルート部を前記表面側から見て、前記ルートギャップを通して、前記一端面が当該ルート部の内底面をなすように配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の開先形状によれば、ルート部には、突き合わせ方向に対向する被溶接材料の端面同士の間にルートギャップが形成されており、このルート部を厚さ方向の表面側から見て、前記ルートギャップを通して、前記端面同士のうち一端面が当該ルート部の内底面をなすように配置されている。これにより、下記の作用効果を奏することになる。
すなわち、ルート部を、厚さ方向の表面側から裏波溶接する際、アーク溶接法におけるアークやワイヤ、及び、ビーム溶接法におけるビームは、当該ルート部の内底面をなすように配置された一端面に当てられて、裏面側に突き抜けたり回り込んだりするようなことが確実に防止される。
【0011】
これにより、アーク溶接法においては、溶接アークやワイヤが裏面側に直接突き抜けて溶接が途切れてしまうようなことが防止され、ビーム溶接法においては、レーザビームが裏面側に突き抜けて溶接が持続できなくなるようなことが防止されて、安定した裏波溶接が持続可能である。
また、ルートギャップを設けた状態で安定して溶接できるので、従来のようにルートギャップをできる限り0mmに近づけるような調整は必要なく、よって被溶接材料を溶接台などに設置する作業が簡単であるとともに作業時間が短縮でき、かつ、溶接機械などによる自動化が容易である。
【0012】
そして、このように作業性が向上して生産性が高められつつも、裏波ビードの形状不良や溶け込み不良などの溶接欠陥が確実に防止されて、高品位な裏波ビードを形成することができる。
さらに、アーク、ワイヤ及びビームが裏面側に突き抜けないので、銅等からなる裏当て金が損傷するようなことが防止されて、部品交換の頻度が少なくなり、作業能率がより向上するとともに、設備費用が削減される。
【0013】
また、本発明の開先形状において、前記ルートギャップは、0.2mmを超えて0.5mm以下であることとしてもよい。
【0014】
この場合、ルートギャップが0.2mmを超えて設定されているので、裏波溶接する際、ルート部を裏面まで確実に溶融できるとともに、裏波ビードを高品位に形成できる。また、ルートギャップが0.5mm以下に設定されているので、ルートギャップ内にアークが潜り込んでしまうことがなく、よって溶接電流・溶接電圧に変動が生じるようなことが抑制されて、高品位で安定した裏波溶接が行える。
【0015】
また、本発明の開先形状において、前記一端面が前記突き合わせ方向の他端面側に向けて突出する突出量が、0.5mm以上であることとしてもよい。
【0016】
この場合、前記一端面がルート部の内底面をなすように確実に配置されて、前述の効果が精度よく得られる。
【0017】
また、本発明の開先形状において、前記一端面が、前記他端面における前記突き合わせ方向の一端面側の先端から、前記突き合わせ方向の他端面側に向けて突出する被り量が、1.0mm以上であることとしてもよい。
【0018】
この場合、前記一端面が突き合わせ方向の他端面側に向けて十分に突出することになるとともに溶接時の熱容量が確保されて、当該一端面が溶接により溶け落ちてしまうようなことが防止される。よって、前述の効果が確実に得られることになる。
すなわち、前記被り量が1.0mm未満の場合には、前記一端面が容易に溶け落ちる可能性があり、ルートギャップを通して裏当て金に直接アークやビームが照射されて、溶接不良となったり裏当て金が損傷したりするおそれがある。
【発明の効果】
【0019】
本発明の開先形状によれば、ルート部にルートギャップがあっても、アーク、ワイヤ及びビームが裏面側に突き抜けたり回り込んだりするようなことが防止され、高品位で安定した裏波溶接が行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る開先形状を示す側断面図である。
【図2】図1の開先形状のルート部を拡大して示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る開先形状の変形例を示す側断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る開先形状の変形例を示す側断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る開先形状の変形例を示す側断面図である。
【図6】従来の開先形状を示す側断面図である。
【図7】本発明の実施例及び比較例の熱伝導解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る開先形状1について、図1及び図2を参照して説明する。
本実施形態の開先形状1は、鋼等の金属からなり、板状又は管状をなす被溶接材料2の対向する端面3同士を溶接するための、開先継ぎ手の構造である。この開先形状1は、一対の被溶接材料2の端面3同士を突き合わせるように対向配置してなるルート部4を有し、該ルート部4を、突き合わせ方向C(図1における左右方向)に垂直な厚さ方向T(図1における上下方向)のうち一方(図1における上方)を向く表面5Aから溶接するとともに他方(図1における下方)を向く裏面5Bに裏波ビードを形成する裏波溶接に用いられる。
【0022】
図示される開先形状1は、自動化された溶接によく用いられる所謂U形開先であって、ルート部4よりも厚さ方向Tの一方側(図1の上側)に位置する部位において対向する被溶接材料2同士の間の距離が、該ルート部4において対向する端面3同士の間の距離よりも大きくなっている。この開先形状1は、開先底部に位置するルート部4において被溶接材料2同士が最も接近して配置されており、該ルート部4において突き合わせ方向Cに対向する端面3同士の間に隙間が設けられることによって、ルートギャップ6が形成されている。
【0023】
また特に図示しないが、被溶接材料2は、溶接台等に着脱可能にクランプ固定されており、このように被溶接材料2が固定された状態で、ルート部4の突き合わせ方向Cに沿うルートギャップ6が、0.2mmを超えて0.5mm以下となっている。また、ルート部4の厚さ方向Tに沿う長さ7(ルートフェース)は、例えば1.8mm程度となっており、被溶接材料2の厚さ8に対して十分に小さく設定されている。
【0024】
また、ルート部4において突き合わせ方向Cに対向する端面3同士のうち、一端面3A(図1において右側に位置する端面3)は、厚さ方向Tの表面5Aから裏面5B側に向かうに従い漸次突き合わせ方向Cに沿う他端面3B(図1において左側に位置する端面3)側に向かい傾斜して形成されている。また、前記端面3同士のうち他端面3Bは、厚さ方向Tの表面5Aから裏面5B側に向かうに従い漸次突き合わせ方向Cに沿う一端面3Aから離間する向きに向かい傾斜して形成されている。
このように、開先形状1は、突き合わせ方向Cに垂直な仮想平面(不図示)に関して、左右非対称(非面対称)となっている。
【0025】
本実施形態では、図2に示される側断面視において、一端面3Aと他端面3Bとが互いに平行となっており、これにより、ルート部4の上端におけるルートギャップ6と下端におけるルートギャップ6とが互いに同一の値となっている。
【0026】
また、一端面3Aが、突き合わせ方向Cに沿って他端面3B側(図2における左側)に向けて突出する突出量9は、0.5mm以上となっている。好ましくは、突出量9は、1.2mm以上である。本実施形態では、一端面3Aが突き合わせ方向Cに対して傾斜する傾斜角θが、45°となっており、従って突出量9がルートフェース7と同一の値(1.8mm程度)となっている。尚、傾斜角θは、30°〜60°の範囲内に設定されることが好ましい。
【0027】
また、他端面3Bが、突き合わせ方向Cに沿って一端面3Aから離間する向き(図2における左側)に向けて後退する後退量10は、0.5mm以上となっている。本実施形態においては、他端面3Bと一端面3Aとが平行であるから、後退量10は突出量9と同一の値(1.8mm程度)である。
【0028】
また、一端面3Aが、他端面3Bにおける突き合わせ方向Cの一端面3A側(図2における右側)の先端11から、突き合わせ方向Cの他端面3B側に向けて突出する被り量12は、1.0mm以上となっている。つまり、一端面3Aと他端面3Bとが突き合わせ方向Cに互いに被さり合う長さが、前記被り量12である。本実施形態においては、被り量12が、1.3mm〜1.6mm程度となっている。
【0029】
そして、ルート部4を表面5A側から見て、ルートギャップ6を通して、一端面3Aが当該ルート部4の内底面をなすように配置されている。すなわち、表面5Aを正面に見て、ルート部4のルートギャップ6は、凹状をなすように形成されているとともに、該ルートギャップ6の表面5A側(図2における上側)を向く底面(内底面)をなすように、一端面3Aが位置しているのである。
【0030】
つまり、この開先形状1は、開先の端面3同士の間にルートギャップ6が設けられていながらも、該ルートギャップ6は厚さ方向Tに沿って直進して形成されてはおらず、厚さ方向Tに対して傾斜して延びているため、ルート部4を表面5A側から見たときに、一端面3Aに遮られて、ルートギャップ6の裏面5B側(図2における下側)に位置する裏当て金(不図示)等が目視できない状態となっている。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の開先形状1によれば、ルート部4には、突き合わせ方向Cに対向する被溶接材料2の端面3同士の間にルートギャップ6が形成されており、このルート部4を厚さ方向Tの表面5A側から見て、ルートギャップ6を通して、裏面5B側の裏当て金等を目視することはできず、代わりに端面3同士のうち一端面3Aが当該ルート部4の内底面をなすように配置されている。これにより、下記の作用効果を奏することになる。
すなわち、ルート部4を、厚さ方向Tの表面5A側から裏波溶接する際、アーク溶接法におけるアークやワイヤ、及び、ビーム溶接法におけるビームは、当該ルート部4の内底面をなすように配置された一端面3Aに当てられて、裏面5B側に突き抜けたり回り込んだりするようなことが確実に防止される。
【0032】
これにより、アーク溶接法においては、溶接アークやワイヤが裏面5B側に直接突き抜けて溶接が途切れてしまうようなことが防止され、ビーム溶接法においては、レーザビームが裏面5B側に突き抜けて溶接が持続できなくなるようなことが防止されて、安定した裏波溶接が持続可能である。
また、ルートギャップ6を設けた状態で安定して溶接できるので、従来のようにルートギャップ6をできる限り0mmに近づけるような調整は必要なく、よって被溶接材料2を溶接台などに設置する作業が簡単であるとともに作業時間が短縮でき、かつ、溶接機械などによる自動化が容易である。
【0033】
そして、このように作業性が向上して生産性が高められつつも、裏波ビードの形状不良や溶け込み不良などの溶接欠陥が確実に防止されて、高品位な裏波ビードを形成することができる。
さらに、アーク、ワイヤ及びビームが裏面5B側に突き抜けないので、銅等からなる裏当て金が損傷するようなことが防止されて、部品交換の頻度が少なくなり、作業能率がより向上するとともに、設備費用が削減される。
【0034】
また、ルートギャップ6が、0.2mmを超えて0.5mm以下であるので、下記の効果を奏する。
すなわち、ルートギャップ6が0.2mmを超えて設定されているので、裏波溶接する際、ルート部4を裏面5Bまで確実に溶融できるとともに、裏波ビードを精度よく高品位に形成できる。また、ルートギャップ6が0.5mm以下に設定されているので、ルートギャップ6内にアークが潜り込んでしまうことがなく、よって溶接電流・溶接電圧に変動が生じるようなことが抑制されて、高品位で安定した裏波溶接が行える。
【0035】
また、一端面3Aが突き合わせ方向Cの他端面3B側に向けて突出する突出量9が、0.5mm以上であるので、一端面3Aがルート部4の内底面をなすように確実に配置されて、前述の効果が精度よく得られる。尚、突出量9が、1.2mm以上である場合には、被り量12を確保でき、溶接アークやワイヤ、レーザビームの前述の突き抜け等がより確実に防止され、好ましい。
【0036】
また、一端面3Aが、他端面3Bにおける突き合わせ方向Cの一端面3A側の先端11から、突き合わせ方向Cの他端面3B側に向けて突出する被り量12が、1.0mm以上であるので、一端面3Aが突き合わせ方向Cの他端面3B側に向けて十分に突出することになるとともに溶接時の熱容量が確保されて、当該一端面3Aが溶接により溶け落ちてしまうようなことが防止される。よって、前述の効果が確実に得られることになる。
すなわち、被り量12が1.0mm未満の場合には、一端面3Aが容易に溶け落ちる可能性があり、ルートギャップ6を通して裏当て金に直接アークやビームが照射されて、溶接不良となったり裏当て金が損傷したりするおそれがある。
【0037】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、例えば下記に示すように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
【0038】
すなわち、前述の実施形態では、開先形状1がU形開先であることとしたが、これに限定されるものではなく、それ以外のV形開先等であっても構わない。
また、ルート部4が開先底部に位置しているとしたが、ルート部4は、開先の厚さ方向Tに沿う中央部に位置していても構わない。
【0039】
また、ルート部4において対向する端面3同士のうち、図1の右側に一端面3Aが配置され、左側に他端面3Bが配置されているとしたが、これらの位置関係が逆であってもよい。
【0040】
また、前述の実施形態においては、ルート部4の厚さ(ルートフェース7)が2mm弱と比較的薄く設定されているために、一端面3Aの溶け落ちやアーク・ビーム等の突き抜けを防止する目的で、傾斜角θは30°〜60°が好ましいと説明したが、特にビーム溶接法においては、ルートフェース7を10mm程度に確保することがあり、このような場合は、傾斜角θは前述の数値範囲に限定されず、より広範囲に設定可能である。
【0041】
また、前述の実施形態では、ルートギャップ6が0.2mmを超えて0.5mm以下であると説明したが、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、ルートギャップ6が設けられていさえすれば(つまり対向する端面3A、3B同士の距離が0mmを超えていれば)常に効果を奏するものであるから、ルートギャップ6の範囲は前述のものに限定されない。ただし、ルートギャップ6が前述の範囲内である場合には、顕著な効果を奏する。
【0042】
また、図1及び図2に示される開先の側断面視において、一端面3A及び他端面3Bは、直線状に延びて形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば曲線状や、段階的に向きが変わる折れ線状等に形成されていても構わない。
【0043】
また、前述の実施形態では、一端面3Aと他端面3Bとが互いに平行となっており、ルート部4の上端及び下端におけるルートギャップ6が互いに同一の値となっていることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、一端面3Aと他端面3Bとは、互いに非平行であっても構わない。そして、ルートギャップ6が、厚さ方向Tの表面5Aから裏面5B側に向かうに従い漸次増大又は縮小するように形成されていてもよい。
【0044】
ここで、図3〜図5に示されるものは、本発明の開先形状1に用いられるルート部4の変形例である。
図3に示す例では、ルート部4において対向する端面3同士のうち、この側断面視における一端面3Aの上部が、厚さ方向Tに沿って延びており、一端面3Aの下部が、厚さ方向Tに対して傾斜して延びている。また、他端面3Bの上部が、前記一端面3Aの上部に対応するように厚さ方向Tに沿って延び、他端面3Bの下部が、前記一端面3Aの下部に対応するように厚さ方向Tに対して傾斜して延びている。
この場合、ルート部4を表面5A側から見て、ルートギャップ6を通して、一端面3Aの下部が当該ルート部4の内底面をなすように配置されて、前述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0045】
また、図4に示す例では、ルート部4において対向する端面3同士のうち、この側断面視における一端面3Aの上部が、厚さ方向Tに対して傾斜して延びており、一端面3Aの下部が、厚さ方向Tに沿って延びている。また、他端面3Bの上部が、前記一端面3Aの上部に対応するように厚さ方向Tに対して傾斜して延び、他端面3Bの下部が、前記一端面3Aの下部に対応するように厚さ方向Tに沿って延びている。
この場合、ルート部4を表面5A側から見て、ルートギャップ6を通して、一端面3Aの上部が当該ルート部4の内底面をなすように配置されて、前述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0046】
また、図5に示す例では、この側断面視において、ルート部4の一端面3A及び他端面3Bが、厚さ方向Tに対して互いに異なる傾斜で延びている。詳しくは、一端面3Aにおける厚さ方向Tに沿う単位長さあたりの突き合わせ方向C(図5における左側)への変位量が、他端面3Bにおける前記変位量よりも大きくなっている。そして、一端面3Aの裏面5B側の端部(下端部)と、他端面3Bの裏面5B側の端部とが、互いに当接して配置されている。
この場合、被溶接材料2同士を突き合わせ方向Cに接近させ、対向する端面3同士を互いに当接させることにより、ルートギャップ6が所定の値に精度よく決まりやすくなり、溶接前の位置決めがより簡単であるとともに、裏波溶接が安定する。
【0047】
その他、本発明の前述の実施形態及び変形例で説明した構成要素を、適宜組み合わせても構わない。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述の構成要素を周知の構成要素に置き換えることも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0049】
下記表1の実施例1〜4は、本実施形態で説明した開先形状1において、ルートギャップ6を種々に設定した場合のアーク溶接法による裏波溶接の結果(評価)を示すものである。尚、この裏波溶接には、図1及び図2に示される開先形状1を用いた。また、ルートフェース7は1.8mm、突出量9は1.8mm、傾斜角θは45°とした。
そして、実施例1においては、ルートギャップ6を0mmに設定した。
実施例2においては、ルートギャップ6を0.3mmに設定した。
実施例3においては、ルートギャップ6を0.5mmに設定した。
実施例4においては、ルートギャップ6を0.7mmに設定した。
また、各実施例における溶接電流、溶接電圧の値は、表1に示す通りである。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の結果からわかるように、本発明の開先形状1においては、ルートギャップ6が0.7mmに及ぶ場合であっても(すなわち、従来では溶接困難と言われた0.2mmに対して3倍以上のルートギャップ6が設けられていたとしても)、アークがほぼ安定することが確認された。
さらに、ルートギャップ6が0.5mm以下に設定された実施例1〜3においては、アークがより安定して潜り込み現象も生じず、溶接電流、溶接電圧の値もほぼ安定して、良好に裏波溶接できることが確認された。
【0052】
また、図7は、本発明の開先形状(実施例5)及び従来の開先形状(比較例1)の熱伝導解析結果を示すものである。具体的には、実施例5として図1及び図2に示される開先形状1を用い、比較例1として図6に示される開先形状を用いて、非定常熱伝導解析を行い、温度分布をFEM解析したものである。
【0053】
解析にあたり、開先形状については下記の設定とした。
実施例5の開先形状1は、図1における被溶接材料2の厚さ8:12mm、ルートフェース7:1.8mm、図2における突出量9:1.8mm、ルートギャップ6:0.05mm、被り量12:1.75mmとした。
また、比較例1の開先形状は、図6における被溶接材料100の厚さ101:12mm、ルートフェース103:1.8mm、ルートギャップ104:0.05mmとした。
【0054】
尚、被溶接材料2、100の材質は互いに同一(鋼管STPG370)とした。また、ルートギャップ6、104を0.05mmとしたのは、比較例1のルートギャップ104を0.2mm以下に設定しないと現実的に溶接が困難となり、実施例5との対比ができないためである。
【0055】
また、溶接条件については下記の設定とした。
被溶接材料2、100の表面5A、105A側から開先底部に向けて、ルートギャップ6、104を中央として突き合わせ方向Cの幅が1.5mmの範囲となるように線熱源を与え、非定常での熱伝導解析を行う。
尚、熱源は0.55秒に455Jを一定の勾配で与える。すなわち、455J/0.55秒=827.3Wの熱量を、0.55秒間与えることで計算する。
【0056】
図7は、上記の条件で開先形状に線熱源を付与した後、0.113秒における実施例5及び比較例1の温度分布を示しており、この熱伝導解析結果より、下記のことがわかった。
すなわち、線熱源の付与後0.113秒の時点で、実施例5及び比較例1ともに、ルートギャップ6、104の表面5A、105A側部分の温度が1600℃(溶融温度以上)に達しており、比較例1(図7の上部に示される開先の温度分布)については、ルートギャップ104の裏面105B部分の温度も1600℃に達している。一方、実施例5(図7の下部に示される開先の温度分布)においては、ルートギャップ6の裏面5B部分の温度が650℃〜850℃程度であり、温度が低く抑えられている。
【0057】
つまり、実施例5では、ルートギャップ6における表面5A側部分の熱容量が十分に確保されて一端面3A及び他端面3Bの溶け込みが確実に行われつつ、その一方で、ルートギャップ6の裏面5B側部分における一端面3Aの先鋭部分の溶け落ちが防止されている。具体的に、実施例5では、一端面3Aにおいて他端面3B側を向く先端部が先鋭形状となっているにも係わらず、この先鋭部分の温度上昇が抑えられて、溶け落ちが防止される。そして、この図7に示される状態からさらに線熱源を与えていくことにより、裏波溶接が精度よく行われるようになっている。従って、実施例5の開先形状1によれば、高品位な裏波溶接が連続的に安定して行える。
【0058】
一方、比較例1では、ルートギャップ104全体の温度が上昇しており、このことは、ルート部102の温度上昇がルートギャップ104の設定(間隔)に大きく依存していることを示唆している。仮に、ルートギャップ104が上記0.05mmより広く設定された場合(特に0.2mmを超える場合など)には、ルートギャップ104周りの温度上昇が十分でなくなったり、線熱源が裏当て金106に直接当たって該裏当て金106が損傷したりする可能性がある。
【符号の説明】
【0059】
1 開先形状
2 被溶接材料
3 端面
3A 一端面
3B 他端面
4 ルート部
5A 厚さ方向の一方を向く表面
5B 厚さ方向の他方を向く裏面
6 ルートギャップ
9 一端面の突き合わせ方向に沿う突出量
11 他端面の突き合わせ方向に沿う一端面側の先端
12 一端面と他端面の突き合わせ方向の被り量
C 突き合わせ方向
T 厚さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の被溶接材料の端面同士を突き合わせるように対向配置してなるルート部を有し、前記ルート部を、突き合わせ方向に垂直な厚さ方向のうち一方を向く表面から溶接するとともに他方を向く裏面に裏波ビードを形成する裏波溶接に用いられる開先形状であって、
前記ルート部には、前記突き合わせ方向に対向する前記端面同士の間にルートギャップが形成され、
前記端面同士のうち一端面が、前記厚さ方向の表面から裏面側に向かうに従い漸次前記突き合わせ方向の他端面側に向かい傾斜して形成され、
前記ルート部を前記表面側から見て、
前記ルートギャップを通して、前記一端面が当該ルート部の内底面をなすように配置されていることを特徴とする開先形状。
【請求項2】
請求項1に記載の開先形状であって、
前記ルートギャップは、0.2mmを超えて0.5mm以下であることを特徴とする開先形状。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の開先形状であって、
前記一端面が前記突き合わせ方向の他端面側に向けて突出する突出量が、0.5mm以上であることを特徴とする開先形状。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の開先形状であって、
前記一端面が、前記他端面における前記突き合わせ方向の一端面側の先端から、前記突き合わせ方向の他端面側に向けて突出する被り量が、1.0mm以上であることを特徴とする開先形状。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−187630(P2012−187630A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228491(P2011−228491)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)