説明

開始剤系II

本発明は、(a)0.02〜7重量%の過酸化物化合物、(b)0.005〜3重量%の有機ヒドラジン誘導体、及び(c)1〜1000ppmの遷移金属イオン(ただし、上記の量は、合計量、すなわちモノマー、非水性媒体及び開始剤系の全量に基づく)を少なくとも含む、非水性媒体中での不飽和モノマーの重合用開始剤系に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和モノマー、好ましくはアクリレート及びその誘導体を非水性溶媒中で重合するための開始剤系に関する。また、本発明は、重合方法及びある種の混合物の開始剤系としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和モノマーの重合は、工業化学では基本的な反応形式の1つであり、非常に多数の中間体及び最終生成物の製造に使用されている。一般に、モノマーは適当な溶媒に溶解され、ラジカル反応の場合、対応するラジカル開始剤により重合が開始される。
【0003】
そのような反応は、従来技術から知られている。通常、モノマーを溶解するための溶媒として水が使用される。これに関しては、そのような反応の他の一般的な事項を記載しているEP-A-778 290 の開示を参照できる。
【0004】
非水性系での重合反応も広く知られている。しかしながら、重合中にしばしば温度の問題が生じる。例えばアクリル酸の重合では、重合反応の発熱量は、系を250℃又はそれ以上の温度に加熱するのに十分である。比較的そうではないステアリルアクリレートの場合でも、系は50℃を超える温度に加熱される。しばしば急激であり、外部冷却では十分急速に発散することができない高温により、反応混合物の望ましくない激しい沸騰が生じる。反応条件の均一性が失われると、重合方法の再現性が比較的悪くなり、異なるモノマーが高い頻度で共重合される。工業的規模でこの問題を解決するために、実際には、これまでモノマーを連続的に補充し、同時に、反応温度を制御してきた。これには、時間がかかり、かつ必要となる装置の点で経費がかかる。従って、上記の不都合を避けることができるような方法で重合反応を開始できるようにすることが要求されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、反応混合物中に存在する成分、例えばモノマー及び/又は溶媒の沸点を超えて反応混合物を加熱する発熱を回避でき、反応を簡単に実施できるように、モノマーの重合を非水性溶媒中で実施できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、ある種の開始剤系を使用することにより解決できることが分かった。
すなわち、本発明は、(a)0.02〜7重量%の過酸化物化合物、(b)0.005〜3重量%の有機ヒドラジン誘導体、及び(c)2〜1000ppmの遷移金属イオンを少なくとも含む、非水性媒体中での不飽和モノマーの重合用開始剤系に関する。ここで、上記の量は、モノマー、溶媒及び開始剤系を含む系全体に基づく。
【0007】
原理上、類似の系が、従来技術、例えばEP 0 550 087 から既に知られている。しかし、この公開公報は、発泡性・硬化性ポリエステル組成物を記載するが、この組成物は、液体不飽和ポリエステル樹脂に加えて、樹脂用発泡剤としてのモノ置換スルホニルヒドラジン、及び有機過酸化物硬化剤の主促進剤としての少なくとも1種の有機金属塩をも含まなければならない。本発明とは対照的に、EP 0 550 087 の教示は、低分子量モノマーから出発しておらず、不飽和液体ポリエステル樹脂、すなわちポリマーを反応に用いている。加えて、この公開公報は、モノマーをまず溶解し、次いで反応させる溶液重合を開示していない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の開始剤系は、まず第1に、過酸化物化合物(a)を含まなければならない。過酸化物化合物は、反応中に、ラジカルを発生し、ラジカルが既知の方法で実際の重合反応を開始させる。適当な過酸化物は、例えば、飽和脂肪族ヒドロパーオキシド、オレフィンヒドロパーオキシド、アリールアルキルヒドロパーオキシド、脂環式及び複素環式有機分子のヒドロパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、ヒドロキシアルキルパーオキシド、ポリアルキレンパーオキシド、パーオキシアセタール、メチルヒドロパーオキシド、エチルヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、二量体ベンズアルデヒドパーオキシド、二量体ベンゾフェノンパーオキシド、二量体アセトンパーオキシド、及びメチルエチルケトンヒドロパーオキシドである。中でも、メチルエチルケトンパーオキシド及び特にクメンヒドロパーオキシドが、成分(a)としてとりわけ好ましい。
【0009】
過酸化物化合物(a)は、混合物全体に基づき、0.02〜7重量%、好ましくは0.1〜1重量%の量で存在する。
【0010】
上記過酸化物は、通常純物質としては得られず、種々の処方で市販されていることが、当業者には知られている。過酸化物は、適当な有機溶媒に溶解され、濃縮された製剤として市販される。好ましく使用される過酸化物は、上記のアルキルオキシパーオキシド、特にクメンヒドロパーオキシドであり、好ましい化合物は、15℃以上、好ましくは20〜25℃で活性化され、実際の重合反応を開始させるものである。
【0011】
成分(a)の外、開始剤系は、有機ヒドラジン誘導体を0.005〜3重量%の量で含まなければならない。成分(b)は、重合促進剤として作用する。本発明において好ましい有機ヒドラジン誘導体は、式:R−NH−NH−CO−R(式中、Rはアルキル、シクロアルキル、アリール、アルケニル又はシクロアルケニルを表し、Rは水素、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、カルボニル、アミノ基又は硫黄置換アリール基を表す。)で示される化合物である。
【0012】
他の特に適している化合物は、式:RSO−NH−NH(式中、RはC1−12アルキル、C5−6シクロアルキル、C7−10アリールアルキル、フェニル、ナフチル又は置換フェニル基から成る群から選択される炭化水素基であってよい。)で示される化合物である。Rが、場合により塩素又はC1−12アルキルで置換されていてよい、C2−4アルキル、ベンジル又はフェニル基であるスルホニルヒドラジドが特に有利である。
【0013】
適当なスルホニルヒドラジドの例は、メタンスルホニルヒドラジド、メタンスルホニルヒドラジド、プロパンスルホニルヒドラジド、N-ブタンスルホニルヒドラジド、sec-ブタンスルホニルヒドラジド、tert-ブタンスルホニルヒドラジド、イソブタンスルホニルヒドラジド、ペンタンスルホニルヒドラジド、ヘキサンスルホニルヒドラジド、ヘプタンスルホニルヒドラジド、オクタンスルホニルヒドラジド、ノナンスルホニルヒドラジド、デカンスルホニルヒドラジド、ドデカノールスルホニルヒドラジド、シクロペンタンスルホニルヒドラジド、シクロヘキサンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ナフタレンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、エチルベンジルスルホニルヒドラジド、ジメチルベンゼンスルホニルヒドラジド、ブチルベンゼンスルホニルヒドラジド、ヘキシルベンゼンスルホニルヒドラジド、オクチルベンゼンスルホニルヒドラジド、デシルベンゼンスルホニルヒドラジド、エトキシベンゼンスルホニルヒドラジド、及び当業者に既知のこの種の他の化合物である。本発明によれば、アセチルフェニルヒドラジド又はトルエンスルホン酸ヒドラジドが、開始剤系の成分(b)として特に好ましい。
【0014】
成分(b)は、好ましくは、開始剤系中に0.03〜0.3重量%の量で存在する。
【0015】
1〜1000ppmの量の遷移金属イオンが、別の必須成分(c)として使用される。好ましいイオンは、銅、バナジウム、モリブデン、コバルト又は鉄から生じる。特に好ましい形態において、イオンは、有機アニオンの形、好ましくは有機酸の塩の形で使用される。適当な有機酸は、2〜20個の炭素原子を含み、酢酸、プロピオン酸、2−エチルヘキサン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ナフタル酸から成る群から選択される。そのような塩とアセトアセトンとの錯体も適している。
【0016】
最も好ましい形態においては、成分(c)として銅塩を、好ましくはナフテン酸銅の形で使用する。成分(c)は、好ましくは3〜15ppmの量で使用される。
【0017】
本発明の重合反応に適した非水性溶媒は、好ましくは液体炭化水素、特に液体芳香族炭化水素、とりわけトルエン又はキシレンである。しかしながら、これら溶媒と他の炭化水素との混合物、例えばExsson からSolvessoTM として販売されている溶媒も、本発明のために使用することができる。
【0018】
本発明の反応は、ある種の不飽和モノマーのラジカル重合である。モノマーは、好ましくは、アクリル酸及びその誘導体並びにスチレンからなる群から選択される。アクリル酸及びその誘導体の群は、メタクリル酸、メタクリレート及び他の同種の化合物も包含する。ポリ不飽和モノマーも使用することができるが、本発明の開始剤系は、モノ不飽和モノマーの重合に使用するのが特に好ましい。
【0019】
本発明の技術的範囲は、上記EP-A-0 550 087 の場合のような不飽和樹脂の使用は包含しない。
【0020】
当業者に知られているように、実際の重合は、最初にモノマーを非水性溶媒に溶解し、次いで、開始剤系を添加することにより、実施される。本発明によれば、トルエンを、モノマー及び開始剤系の両方に添加してよく、そうすると、複雑で費用のかかる補充の必要がなくなる。本発明の開始剤系の特有の性質により、温度は、重合反応の開始時に、高々80℃又はそれ以下、好ましくは70℃以下にしか上昇しない。いずれにせよ、温度は、使用する溶媒及びモノマーの沸点未満に保たれ、他の場合には発生する蒸気を凝縮するための複雑な還流冷却を行う必要はない。
【0021】
上記の開始剤系、及び該開始剤系を用いた不飽和モノマーの重合方法に関連して、本発明は、非水性溶媒中での不飽和モノマーの重合反応開始のための、上記のような成分(a)、(b)及び(c)の混合物の使用にも関する。
【0022】
本発明の方法によれば、簡単で再現性のある方法で、不飽和モノマーのポリマーを製造することができる。先に記載した不利益は、通常生じない。
【0023】
本発明により製造された、特にアクリル酸及びその誘導体に基づくポリマーは、広範囲の産業用途に適している。このようなポリマーは、油田及び鉱業分野でのプロセス化学品として使用することができる。
【実施例】
【0024】
アクリル酸ベヘニル(Acrylate 22-45、Cognis 製)500gを65℃で溶融し、生じた溶融物にトルエン120gを加えた。混合物を、窒素のゆるやかな気流を流しながら、35℃に冷却した。アセチルフェニルヒドラジン1.3g、クメンヒドロパーオキシド(CUHP-80;クメン中80%;Peroxid-Chemie 製)3.8g、及び"Soligen Kupfer 8"(Borchers 製。揮発油に溶解したナフテン酸銅、銅含量8%)のトルエン中1%溶液0.4gを、攪拌しながら、順次添加した。混合物の温度は、数分で約70℃に上昇した。温度上昇が止まった後、混合物を80℃に加熱し、その温度でさらに1時間保った。次いで、混合物を冷却し、通常の方法でポリマーを得た。
【0025】
得られたポリマー溶液は、DGF Einheitsmethode C-IV 3a (52) により測定して32℃のライザー融点、及びRVT スピンドル4を用い、50℃、20rpmで測定して600mPas のブルックフィールド粘度を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)0.02〜7重量%の過酸化物化合物、
(b)0.005〜3重量%の有機ヒドラジン誘導体、及び
(c)1〜1000ppmの遷移金属イオン
(ただし、上記の量は、モノマー、非水性媒体及び開始剤系を含む混合物全体に基づく)
を少なくとも含む、非水性媒体中での不飽和モノマーの重合用開始剤系。
【請求項2】
過酸化物化合物が、メチルエチルケトンパーオキシド及びクメンヒドロパーオキシドからなる群から選択される請求項1に記載の開始剤系。
【請求項3】
成分(a)が、0.1〜1重量%の量で存在する請求項1または2に記載の開始剤系。
【請求項4】
成分(b)が、アセチルフェニルヒドラジド又はトルエンスルホン酸ヒドラジドから選択される請求項1〜3のいずれかに記載の開始剤系。
【請求項5】
成分(b)が、0.03〜0.3重量%の量で存在する請求項1〜4のいずれかに記載の開始剤系。
【請求項6】
成分(c)が、銅、バナジウム、モリブデン、コバルト及び鉄のイオンから選択される請求項1〜5のいずれかに記載の開始剤系。
【請求項7】
成分(c)として銅イオンが選択される請求項1〜6のいずれかに記載の開始剤系。
【請求項8】
非水性媒体として、芳香族炭化水素、好ましくはトルエン又はキシレンを使用する請求項1〜7のいずれかに記載の開始剤系。
【請求項9】
モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの誘導体を使用する請求項1〜8のいずれかに記載の開始剤系。
【請求項10】
不飽和モノマーの重合方法であって、モノマーを非水性媒体に溶解し、温度を80℃未満、好ましくは70℃未満に上昇し、請求項1に記載の開始剤系を添加して反応を開始することを特徴とする重合方法。
【請求項11】
非水性媒体中での不飽和モノマーの重合反応を開始するための、請求項1に記載の開始剤系の使用。

【公表番号】特表2006−526038(P2006−526038A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505334(P2006−505334)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004591
【国際公開番号】WO2004/099263
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(302039841)コグニス・ドイッチュランド・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト (7)
【Fターム(参考)】