説明

開閉式ドーム

【課題】開閉式ドームにおいて、オルクスの直径及びドーム全体の幾何学的形状を、構造の安定性を保ちつつ連続的に変化させることが可能な構造を提供する。
【解決手段】ラメラ状に、部分曲面の中心軸の回りに等角度に配置された複数の三次元多折はさみ要素と、部分曲面の頂点を通り中心軸に対して斜めに交差する各同一平面上にある各ピン交点と、最内周の各ピン交点と接続された各ポストと、各ポストと各ポストより1つ外周に位置する各ピン交点とを接続するダイアゴナル・ケーブルと、各ポストと接続された各ピン交点とより外周方向の各ピン交点とを接続するジグザグ・ケーブルと、最内周の隣接する各ピン交点間を接続する第1のフープ・ケーブルと、同周上の隣接する各ポスト間を接続する第2のフープ・ケーブルとを含み、フープ・ケーブル及びジグザグ・ケーブルの長さを調整することで天窓の開閉及びドームの幾何学的形状の変更を行う開閉式ドーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頂部に円形の天窓を有する開閉式ドームの構造に関し、より詳細には、その円形の天窓の直径及びドーム全体の幾何学的形状を連続的に変化させることが可能な開閉式ドームの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
開閉式のドームは、柱の無い広い空間を実現することが可能で、しかも、天窓を開閉することによって、天候の変化に対応し、内部の採光状態を調整し、あるいは内部の換気を行うことが可能なので、近年、その構造に関して様々な提案が行われている。
【0003】
部分球面上にあるはさみ要素群(Scissors Elements)をラメラ状に配置し、各交点をはさみピンでつなげた構造体は、一種の不安定構造体で、理論上、部材に歪エネルギーを蓄えることなく、その幾何学的形状を変化させることができる。この様なはさみ要素群を用いて構成された開閉式ドームの構造が開発されている。
【0004】
本発明の発明者は、三次元多折はさみ要素から構成される開閉式ドームにおいて、オルクス(円形天窓)の直径及びドーム全体の幾何学的形状を、構造の安定性を保ちつつ連続的に変化させることが可能で、しかも、上記三次元多折はさみ要素の製作が比較的容易な構造を特許文献1や特許文献2において提案した。
【0005】
その主構造体は、ある部分球面上に「三次元多折はさみ要素」(3−DMASE)をその球面の中心軸の回りで等角度に配置し、ラメラ状に構成して得られる。三次元多折はさみ要素のピン交点は、前記球面の頂点を通り前記中心軸に対して斜めに交差する各同一平面上にあり、且つ、各要素上で互いに隣接するピン交点は、前記中心軸の回りで成す角度がそれぞれ等しくなるように配置されている。さらに各ピン交点の回転軸(ピボット軸)は、前記部分球面の法線方向に一致している。しかし、形状変化の過程中において、各ピン交点のピボット軸と三次元多折はさみ要素のピン用穴軸の間に微小な角度変化が生じ、この角度変化を吸収するために、要素部材にルーズ・ホールを設けるかあるいは自動調心ころ軸受けなどを埋め込んでいる。このようにして得られる構造体は、一種の可変構造体で、要素の弾性変形を伴うことなくその剛体移動のみによって構造全体の形状、特に頂部の天窓直径を大きく変化させることが出来る。この可変構造体の形状を連続的に変化させる駆動方法且つ大スパンが可能となるような構造システムの構築に向けて、特許文献1では、主構造体の内周と外周にそれぞれ伸縮ロッドを設けて、三次元多折はさみ部材が主に軸力伝達機構となる構造システムを提案した。
【0006】
しかしながら、内周リングを構成する直線状の伸縮ロッドは伸縮率が5〜6倍と高くしかも大きな圧縮軸力を受けるため、ロッドの製作技術や座屈耐力に困難な問題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−81165号公報
【特許文献2】特許第4224833号公報
【特許文献3】米国特許第3139957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の様なこれまでの開閉式ドームの問題点に鑑み成されたもので、本発明の目的は、三次元多折はさみ要素から構成される開閉式ドームにおいて、オルクスの直径及びドーム全体の幾何学的形状を、構造の安定性を保ちつつ連続的に変化させることが可能で、しかも、上記三次元多折はさみ要素の製作が比較的容易な構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態においては、ドームの基本形状を構成する軸対称状の部分曲面の上に構成された頂部の天窓の開閉が可能な開閉式ドームにおいて、ラメラ状に、前記部分曲面の中心軸の回りに等角度に配置された複数の三次元多折はさみ要素と、前記三次元多折はさみ要素同士が接続され、前記部分曲面の頂点を通り前記中心軸に対して斜めに交差する各同一平面上にある各ピン交点と、最内周に位置する前記各ピン交点とその一端が接続された各ポストと、前記各ポストの他端と前記各ポストより1つ外周に位置する前記各ピン交点とを接続するダイアゴナル・ケーブルと、前記各ポストと接続された前記各ピン交点がより外周方向の前記各ピン交点と形成する四角形の対角頂点を接続するように配置されるジグザグ・ケーブルと、最内周に位置し隣接する前記各ピン交点間を接続する第1のフープ・ケーブルと、前記各ポストの一端に接続され、同周上の隣接する前記各ポスト間を接続する第2のフープ・ケーブルとを含み、前記各ピン交点は、前記三次元多折はさみ要素上において互いに隣接する前記各ピン交点の間で、前記中心軸の回りでなす角度がそれぞれ等しくなるように配置され、前記各ピン交点の回転軸が、前記部分曲面の法線方向に一致するように構成され、前記第1及び第2のフープ・ケーブルと前記ジグザグ・ケーブルの長さを調整することによって、前記天窓の開閉及びドームの幾何学的形状の変更を行うことを特徴とする。
【0010】
本発明の他の実施形態においては、ドームの基本形状を構成する軸対称状の部分曲面の上に構成された頂部の天窓の開閉が可能な開閉式ドームにおいて、ラメラ状に、前記部分曲面の中心軸の回りに等角度に配置された複数の三次元多折はさみ要素と、前記三次元多折はさみ要素同士が接続され、前記部分曲面の頂点を通り前記中心軸に対して斜めに交差する各同一平面上にある各ピン交点と、最内周及び最内周より1つ外周に位置する前記各ピン交点と一端が接続された各ポストと、前記各ポストの他端と前記各ポストより1つ外周に位置する前記各ピン交点とを接続するダイアゴナル・ケーブルと、前記各ポストと接続された最内周より1つ外周に位置する前記各ピン交点がより外周方向の前記ピン交点と形成する四角形の対角頂点を接続するように配置されるジグザグ・ケーブルと、最内周に位置し隣接する前記各ピン交点間を接続する第1のフープ・ケーブルと、前記各ポストの一端に接続され、同周上の隣接する前記各ポスト間を接続する第2のフープ・ケーブルとを含み、前記各ピン交点は、前記三次元多折はさみ要素上において互いに隣接する前記各ピン交点の間で、前記中心軸の回りでなす角度がそれぞれ等しくなるように配置され、前記各ピン交点の回転軸が、前記部分曲面の法線方向に一致するように構成され、前記第1及び第2のフープ・ケーブルと前記ジグザグ・ケーブルの長さを調整することによって、前記天窓の開閉及びドームの幾何学的形状の変更を行うことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の一実施形態においては、前記部分曲面の最外周に位置する前記各ピン交点間を接続して配置される外周ケーブルをさらに含むことを特徴とする。
【0012】
また、前記ジグザグ・ケーブルは、前記三次元多折はさみ要素と協働してはさみトラス状の圧縮リングを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の開閉式ドームによれば、常に力学的合理性を保ちながら、すなわち強度と剛性に優れつつ、連続的に形状が変化する構造体が得られる。三次元多折はさみ要素の各ピン交点の回転軸を、ドームの基本形状を構成する軸対称状の部分曲面(典型的には部分球面)の法線方向に一致させているので、その加工が極めて容易である。従って、部材間の応力伝達がスムーズに行われ、構造体としての強度に優れている。
【0014】
また、本発明の開閉式ドームにおいては、可撓性引張材の長さと張力を制御しながら、構造全体の形状変化を与えようとするものであり、現代の緊張工法を発展し適用することにより、大型の開閉式ドームの建築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る開閉式ドームの構造を示した概要図である。
【図2】図1の開閉式ドームについての、x−x’の断面における断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る開閉式ドームのピン交点の配置を示す断面図及び伏図である。
【図4】図1の開閉式ドームにおけるジグザグ・ケーブルの配置を示す概要図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る開閉式ドームの構造を示した概要図である。
【図6】図5の開閉式ドームについての、x−x’の断面における断面図である。
【図7】図5の開閉式ドームにおけるジグザグ・ケーブルの配置を示す概要図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る開閉式ドームの基準状態におけるピン交点の位置を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る開閉式ドームにおいて、基準状態からの並進量と回転量の増分を表すtが、t=0、t=−0.25、t=0.3の場合における開閉式ドームの形状を示す概要図である。
【図10】本発明の実施形態に係る開閉式ドームに係る可変長ケーブルのtに対する長さの変化の一例を示したグラフである。
【図11】本発明の実施形態に係る開閉式ドームのモデルを試作し、開閉動作を行った際の、オルクスが開かれた状態の図である。
【図12】本発明の実施形態に係る開閉式ドームのモデルを試作し、開閉動作を行った際の、オルクスがやや開かれた状態の図である。
【図13】本発明の実施形態に係る開閉式ドームのモデルを試作し、開閉動作を行った際のオルクスが閉じられた図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る開閉式ドームの構造を示した概要図であり、図2は、そのx−x’の断面における断面図である。また、図3は本発明の一実施形態に係る開閉式ドームのピン交点の配置を示す断面図及び伏図である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る開閉式ドーム100は、三次元多折はさみ要素110、ポスト120、第1のフープ・ケーブル130、第2のフープ・ケーブル135、ジグザグ・ケーブル140、ダイアゴナル・ケーブル150、外周ケーブル160、オルクス170を含む。
【0018】
三次元多折はさみ要素110は、図3に示す様に、ドームの基本形状を構成する部分球面S上に、この部分球面Sの中心軸Zの回りで等角度に、ラメラ状に配置される。なお、三次元多折はさみ要素110の構造の詳細については、特許第4224833号公報(特許文献2)を参照されたい。
【0019】
各三次元多折はさみ要素110は、図2に示すように、上記部分球面Sの上にある各部材(通常、直線部材、但し、基本形状に沿った曲線部材等でも良い)a−b、b−c、c−d、d−e、e−fなどを、直列に接合することによって構成されている。各三次元多折はさみ要素110は、各接合部において、このピンを共有する状態で他の三次元多折はさみ要素110と交差している。
【0020】
本発明に基づく開閉式ドームでは、その基本形状において、各ピン交点の回転軸が上記部分球面の法線方向、すなわち球の中心方向に一致する様に構成される。
【0021】
また、本発明に基づく開閉式ドームでは、この三次元多折はさみ要素110のピン交点の配置の幾何学的条件を決定する方法として、「平面カット法」が適用される。すなわち、図3に示すように、ドームの基本形状を構成する部分球面Sの上に、三次元多折はさみ要素110のピン交点(例えばa、b、c、d、e、f)を、各ピン交点が、部分球面Sの頂点Tを通り部分球面Sの中心軸Zに対して斜めに交差する各同一平面P上にあり、且つ、各三次元多折はさみ要素110上で互いに隣接するピン交点の間で、中心軸Zの回りで成す角度がそれぞれ等しくなる様に配置する。
【0022】
即ち、部分球面Sの上に、各三次元多折はさみ要素110のピン交点を次の様に配置する。
【0023】
部分球面Sを、部分球面Sの頂点を通り前記中心軸zに対して斜めに交差する平面Pで切断する。
【0024】
各三次元はさみ要素110上のピン交点を、部分球面Sと前記平面Pとが交差する部分に形成される円Q(図3(b)では楕円として現れる)の上に、周方向に順次、等角度で配置する。
【0025】
すなわち、図3(b)においては、
θab=θbc=θcd=θde=θef・・・
である。
ドーム形状を上記の部分球面S(基本形状)から任意に変形させた状態において、各ピン交点a、b、c、d、e、fは、上記の部分球面Sとはわずかに異なる軸対称曲面上にある。ドーム形状の変形の過程で、各ピン交点において、ピンと各部材との間に微小な角度変化が生じるが、各部材側にルーズ・ホールを設けるか、あるいは、自動調心玉軸受、自動調心ころ軸受等を埋め込むことにより、この角度変化を吸収することができる。
【0026】
ポスト120は、三次元多折はさみ要素110の最内周にあるピン交点と一端が接続され、固定荷重(自重)の向きへとその他端が延びている。ポスト120には、座屈耐力のある材料が用いられる。
【0027】
第1のフープ・ケーブル130は、最内周に位置し周方向に隣接する各ピン交点間を接続する。すなわち、図2においては、ピン交点fと円周方向に隣接するピン交点とを順次接続する。
【0028】
第2のフープ・ケーブル135は、各ポスト120の一端に接続され、同周上の隣接する前記各ポスト120間を接続する。すなわち、図2においては、第2のフープ・ケーブル135は、ピン交点fに接続されたポスト120の端部gに接続され、同周上の隣接する各ポスト120間を接続する。
【0029】
ジグザグ・ケーブル140は、各ポスト120と接続された各ピン交点がより外周方向の各ピン交点と形成する四角形の対角頂点を接続するように配置される。すなわち、図1及び図2においては、ジグザグ・ケーブル140は、ポスト120と接続されたピン交点f、ピン交点fより外周方向にあるピン交点e、e、d1で形成する四角形においてピン交点fと対角頂点に位置するピン交点dとピン交点fとの間を接続する。
【0030】
ジグザグ・ケーブル140は、それぞれの折曲がり個所にプーリー(滑車)を取り付け、1本の長尺な可撓性引張材(ケーブル材)をジグザグ状に配置する。すなわち、図4に示すように、例えば、ジグザグ・ケーブル140は、eを起点として、eより外周にあるd、eより内周にあるf、eと同周上のe、eより内周にあるf、eより外周にあるd、eと同周上のe、eより外周にあるd、eより内周にあるfを順に通るようなジグザグ状に配置され、最終的に、eに接続される。
【0031】
なお、ここでは、ジグザグ・ケーブル140として、1本の長尺な可撓性引張材(ケーブル材)をジグザグ状に配置する例を示したが、これに限られず、複数の引張材を使用して、図4におけるdとf、dとf、dとfといった、上記で説明した四角形の対角頂点を各引張材が接続するよう配置してもよい。
【0032】
ダイアゴナル・ケーブル150は、各ポスト120の他端と各ポスト120より1つ外周に位置する前記各ピン交点とを接続する。すなわち、図2においては、ダイアゴナル・ケーブル150は、ポスト120の端部gと、ポスト120より1つ外周に位置するピン交点eとを接続する。
【0033】
第1のフープ・ケーブル130及び第2のフープ・ケーブル135の長さと張力を調整することによって、H方向に対する水平力が与えられる。すると、ダイアゴナル・ケーブル150には引張力が、ポスト120には圧縮力が生ずる。ポスト120は突き上げられて、固定荷重(自重)の向きと反対の力が作用する。ダイアゴナル・ケーブル150の引張力によって、ドーム周方向に縮む作用が生ずる。この作用に対してジグザグ・ケーブル140を配置して、三次元多折はさみ要素110と協働してはさみトラス状の圧縮リングを形成し、自己釣合型の構造体を得る。内周上部の節点fを通る第1のフープ・ケーブル130は風荷重の揚力に対して抵抗する。
【0034】
外周ケーブル160はドーム裾部において外周方向に広がろうとする作用に対して抵抗し、ドーム形状を安定させる。なお、必ずしも外周ケーブル160でなくとも、外周方向に広がろうとする作用に対して抵抗する手段であれば、本発明に対して適用可能である。
【0035】
上記各ケーブルは、代表的にはワイヤである。各ケーブルの長さや張力をコンピュータなどで制御し、調整することにより、ドーム100のオルクス170の開閉動作を行うことが可能である。なお、上記各ケーブルは、ピン交点やポスト120との間においては、例えば滑車を介して接続されるが、これに限定されず、ケーブルの長さや張力を調節可能にピン交点やポスト120と接続されればよい。
【0036】
図5は、本発明の他の実施形態に係る開閉式ドームの構造を示した概要図であり、図6は、そのx−x’の断面における断面図である。図1及び図2を用いて説明した上述の実施形態と重複する説明については省略する。
【0037】
本発明の他の実施形態に係る開閉式ドーム200は、三次元多折はさみ要素210、ポスト220、第1のフープ・ケーブル230、第2のフープ・ケーブル235、ジグザグ・ケーブル240、ダイアゴナル・ケーブル250、外周ケーブル260、オルクス270を含む。
【0038】
ポスト220は、三次元多折はさみ要素210の最内周及び最内周より1つ外周にあるピン交点と一端が接続され、固定荷重(自重)の向きへとその他端が延びている。ポスト220には、座屈耐力のある材料が用いられる。
【0039】
第1のフープ・ケーブル230は、最内周に位置し隣接する前記各ピン交点間を接続する。第2のフープ・ケーブル235は、各ポスト220の一端に接続され、同周上の隣接する前記各ポスト220間を接続する。すなわち、図6においては、第2のフープ・ケーブル235は、ピン交点fに接続されたポスト220の端部hと同周上の隣接する各ポスト220間とを接続し、ピン交点eに接続されたポスト220の端部gと同周上の隣接する各ポスト220間とを接続する。
【0040】
ジグザグ・ケーブル240は、最内周より1つ外周に位置する前記各ピン交点がより外周方向の前記ピン交点と形成する四角形の対角頂点を接続するように配置される。すなわち、図5及び図6においては、ジグザグ・ケーブル240は、ポスト220と接続されたピン交点e、ピン交点eより外周方向にあるピン交点d、d、cで形成する四角形においてピン交点eと対角頂点に位置するピン交点cとピン交点eとの間を接続する。
【0041】
ジグザグ・ケーブル240は、前述したジグザグ・ケーブル140と同様に、それぞれの折曲がり個所にプーリー(滑車)を取り付け、1本の長尺な可撓性引張材(ケーブル材)をジグザグ状に配置する。すなわち、図7に示すように、例えば、ジグザグ・ケーブル240は、dを起点として、dより外周にあるc、dより内周にあるe、dと同周上のd、dより内周にあるe、dより外周にあるc、dと同周上のd、dより外周にあるc、dより内周にあるeを順に通るようなジグザグ状に配置され、最終的に、dに接続される。
【0042】
なお、ここでは、ジグザグ・ケーブル240として、1本の長尺な可撓性引張材(ケーブル材)をジグザグ状に配置する例を示したが、これに限られず、複数の引張材を使用して、図7におけるcとe、cとe、cとeといった、上記で説明した四角形の対角頂点を各引張材が接続するよう配置してもよい。
【0043】
ダイアゴナル・ケーブル250は、各ポスト220の他端と各ポスト220より1つ外周に位置する前記各ピン交点とを接続する。すなわち、図6においては、ダイアゴナル・ケーブル250は、ポスト220の端部hと、より1つ外周に位置するピン交点eとを接続し、ポスト220の端部gと、より1つ外周に位置するピン交点dとを接続する。
【0044】
第1のフープ・ケーブル230及び第2のフープ・ケーブル235の長さと張力を調整することによって、H方向に対する水平力が与えられる。すると、ダイアゴナル・ケーブル250には引張力が、ポスト220には圧縮力が生ずる。ポスト220は突き上げられて、固定荷重(自重)の向きと反対の力が作用する。ダイアゴナル・ケーブル250の引張力によって、ドーム周方向に縮む作用が生ずる。この作用に対してジグザグ・ケーブル240を配置して、三次元多折はさみ要素210と協働してはさみトラス状の圧縮リングを形成し、自己釣合型の構造体を得る。内周上部の節点fを通る第1のフープ・ケーブル230は風荷重の揚力に対して抵抗する。
【0045】
この実施形態においては、ポスト220を、最内周に位置するピン交点に加えて、最内周より1つ外周にあるピン交点にも接続し、各ポストに第2のフープ・ケーブル235、ダイアゴナル・ケーブル250を接続し、その作用に対してジグザグ・ケーブル240を配置することにより、最内周にのみポスト220を設置する前述の実施形態に比べて、より安定した自己釣合型の構造体を得ることが出来、オルクス270の直径の大きさをより安定した状態で変化させ、ドームの全体形状を安定して変化することが可能となる。
【0046】
三次元多折はさみ要素210、外周ケーブル260及びオルクス270については、上述した三次元多折はさみ要素110、外周ケーブル160及びオルクス170についての説明と同様である。
【実施例】
【0047】
以下において、本発明の実施形態に係る開閉式ドームの構造モデルの形状変化シミュレーションを行うための数値計算について述べる。
【0048】
図8は、基準状態におけるピン交点の位置を示す図である。
【0049】
図8に示すように、ドームの基本形状を構成する部分球面Sの上に、三次元多折はさみ要素110のピン交点(例えば1、2、3、・・、i、(i+1)、・・n)を、次のように配置する。
【0050】
部分球面Sを、部分球面Sの頂点を通り前記中心軸zに対して斜めに交差する平面Pで切断する。
【0051】
各三次元はさみ要素110上のピン交点を、部分球面Sと前記平面Pとが交差する部分に形成される円Q(図8(b)では楕円として現れる)の上に、周方向に順次、等角度で配置する。
【0052】
すなわち、図8(b)においては、
θ12=θ23=θi(i+1)=・・・θ(n−1)n
である。
【0053】
前述した平面カット法によって決定されるピン交点iの可変中における空間座標は、基準状態からの並進量と回転量の増分を表すtを用いると、次式(数1)で与えられる。尚、t=0の状態を便宜上、「基準状態」とする。
【数1】

【0054】
可変中のピン回転軸の角度変化量は、以下の方法により求められる。
【0055】
ピン交点は、円Qの周上にあるだけでなく、曲率半径がrの球面上Sにある。可変中の球Sの中心点P’の座標値(Px、Py、Pz)は、次式(数2)で与えられる。
【数2】

【0056】
基準状態、すなわちt=0の状態では、Px=Py=Pz=0である。3次元多折はさみ要素の球中心座標の内、Px、Pyは各要素毎に異なっているが、Pzは共通の値を有する。従って、交点iにおけるピン回転軸の角度変化ηはこの中心点からy=tanθxまでの垂線の長さhを曲率半径rで除した値のsin−1に等しい。
すなわち、次式(数3)の通りである。
【数3】

【0057】

【0058】

【0059】
まず、t=0(基準状態)のとき、ポスト220はxy平面に対して垂直、それぞれの長さはLp1=C(Z−Z)、Lp2=C(Z−Z)で与えられるものとする。ここに、C及びCは定数とし、ともに2.5としたときにはLp1=0.1414、Lp2=0.1186となる。このとき、ダイアゴナル・ケーブル250の長さはそれぞれLd1=0.1652、Ld2=0.1656となる。開閉式ドーム200の形状変化の過程において、ポスト220とダイアゴナル・ケーブル250の長さを固定すると、第1のフープ・ケーブル230、第2のフープ・ケーブル235、ジグザグ・ケーブル240及び外周ケーブル260の長さは変化する。
【0060】
図9は、本発明の実施形態に係る開閉式ドームのt=−0.25、t=0、t=0.3の場合における、概要図であり、図10はポスト220とダイアゴナル・ケーブル250の長さを固定した場合の可変長ケーブルのtに対する変化の一例を示したグラフである。Lは外周ケーブル260の長さ、L3−5はジグザグ・ケーブル240の長さ、L及びLは第2のフープ・ケーブル235の長さ、そしてLは第1のフープ・ケーブルの長さを示す。
【0061】
図11から図13は、本発明の実施形態に係る開閉式ドームのモデルを試作し、開閉動作を行った図である。図11から図13において、図11はオルクスが最も開かれた状態であり、図13ではオルクスが閉じられた状態である。この試作において、可変長ケーブルの長さを変化させることにより、安定してオルクスの開閉及び開閉式ドームの形状を変化することができることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
100、200・・・開閉式ドーム
110、210・・・三次元多折はさみ要素、
120、220・・・ポスト
130、230・・・第1のフープ・ケーブル
135、235・・・第2のフープ・ケーブル
140、240・・・ジグザグ・ケーブル
150、250・・・ダイアゴナル・ケーブル
160、260・・・外周ケーブル
170、270・・・オルクス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドームの基本形状を構成する軸対称状の部分曲面の上に構成された頂部の天窓の開閉が可能な開閉式ドームにおいて、
ラメラ状に、前記部分曲面の中心軸の回りに等角度に配置された複数の三次元多折はさみ要素と、
前記三次元多折はさみ要素同士が接続され、前記部分曲面の頂点を通り前記中心軸に対して斜めに交差する各同一平面上にある各ピン交点と、
最内周に位置する前記各ピン交点とその一端が接続された各ポストと、
前記各ポストの他端と前記各ポストより1つ外周に位置する前記各ピン交点とを接続するダイアゴナル・ケーブルと、
前記各ポストと接続された前記各ピン交点がより外周方向の前記各ピン交点と形成する四角形の対角頂点を接続するように配置されるジグザグ・ケーブルと、
最内周に位置し隣接する前記各ピン交点間を接続する第1のフープ・ケーブルと、
前記各ポストの一端に接続され、同周上の隣接する前記各ポスト間を接続する第2のフープ・ケーブルと
を含み、
前記各ピン交点は、前記三次元多折はさみ要素上において互いに隣接する前記各ピン交点の間で、前記中心軸の回りでなす角度がそれぞれ等しくなるように配置され、
前記各ピン交点の回転軸が、前記部分曲面の法線方向に一致するように構成され、
前記第1及び第2のフープ・ケーブルと前記ジグザグ・ケーブルの長さを調整することによって、前記天窓の開閉及びドームの幾何学的形状の変更を行うことを特徴とする開閉式ドーム。
【請求項2】
ドームの基本形状を構成する軸対称状の部分曲面の上に構成された頂部の天窓の開閉が可能な開閉式ドームにおいて、
ラメラ状に、前記部分曲面の中心軸の回りに等角度に配置された複数の三次元多折はさみ要素と、
前記三次元多折はさみ要素同士が接続され、前記部分曲面の頂点を通り前記中心軸に対して斜めに交差する各同一平面上にある各ピン交点と、
最内周及び最内周より1つ外周に位置する前記各ピン交点と一端が接続された各ポストと、
前記各ポストの他端と前記各ポストより1つ外周に位置する前記各ピン交点とを接続するダイアゴナル・ケーブルと、
前記各ポストと接続された最内周より1つ外周に位置する前記各ピン交点がより外周方向の前記ピン交点と形成する四角形の対角頂点を接続するように配置されるジグザグ・ケーブルと、
最内周に位置し隣接する前記各ピン交点間を接続する第1のフープ・ケーブルと、
前記各ポストの一端に接続され、同周上の隣接する前記各ポスト間を接続する第2のフープ・ケーブルと
を含み、
前記各ピン交点は、前記三次元多折はさみ要素上において互いに隣接する前記各ピン交点の間で、前記中心軸の回りでなす角度がそれぞれ等しくなるように配置され、
前記各ピン交点の回転軸が、前記部分曲面の法線方向に一致するように構成され、
前記第1及び第2のフープ・ケーブルと前記ジグザグ・ケーブルの長さを調整することによって、前記天窓の開閉及びドームの幾何学的形状の変更を行うことを特徴とする開閉式ドーム。
【請求項3】
前記部分曲面の最外周に位置する前記各ピン交点間を接続して配置される外周ケーブルをさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の開閉式ドーム。
【請求項4】
前記ジグザグ・ケーブルは、前記三次元多折はさみ要素と協働してはさみトラス状の圧縮リングを形成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の開閉式ドーム。

【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−7380(P2012−7380A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144143(P2010−144143)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)