説明

間充織間質細胞集団、ならびにそれを単離および使用する方法

本発明は、血小板溶解産物添加培地で細胞を培養することによって作製した間充織間質細胞、およびこれらの細胞を用いて神経障害および腎関連障害を処置する方法に関する。一局面において、本発明は間充織間質細胞の集団を提供し、この集団は、(a)骨髄を提供する工程;(b)前記骨髄を、組織培養皿の培養培地で2〜10日間培養する工程;(c)非接着細胞を除去する工程;(d)接着細胞を、血小板溶解産物添加培地で9〜20日間培養する工程;および(e)前記接着細胞を前記組織培養皿から取り出す工程;
によって生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、間充織間質細胞(mesenchymal stromal cell)集団、これらの細胞集団を単離する方法、ならびに限定されるものではないが脳卒中、急性腎不全、移植関連急性腎不全、移植片対宿主疾患、慢性腎不全、および創傷治癒を含む臓器機能不全、多臓器不全、脳機能不全、および腎機能不全を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中または脳血管障害(CVA)は、血液供給の欠如による脳機能の急激な喪失の臨床用語である。この脳の血流障害の原因は、血栓症、塞栓症、または出血であり得る。脳卒中は、医学的な緊急事態であり、西洋諸国では死因の第3位である。脳卒中は、今世紀の半ばまでには死因の第1位になると予想されている。この脳卒中の因子には、加齢、脳卒中または虚血性発作の既往歴、高血圧、糖尿病、糖尿病性高コレステロール(mellitus high cholesterol)、喫煙、および心房細動を伴う心不整脈が含まれる。したがって、脳卒中の処置を提供することが強く求められている。
【0003】
多臓器不全(MOF)も、依然として未解決の大きな医学的問題である。MOFは、敗血症の殆どの重症患者、特に大きな外科手術または外傷の後に敗血症を発症した患者に発症する。MOFはまた、高齢患者、糖尿病、心血管疾患、および免疫防御が正常に機能しない患者に高頻度で発症し重症化する。MOFは、ショック、急性腎不全(ARF)、漏洩細胞膜、肺、肝臓、心臓、血管、および他の器官の機能不全によって特徴付けられる。MOFによる死亡率は、挿管および補助喚起、昇圧薬および抗生物質の投与、ステロイド、血液透析、および非経口栄養を含む最も積極的な形態の治療の利用にもかかわらず、100%に達する。これらの患者の多くは、手術創傷または外傷の治癒が大幅に阻害され、感染すると、これらの創傷は、反復性感染、病的状態、および死のさらなる一因となる。
【0004】
ARFは、数時間または数日以内の腎臓の排泄機能の急激な低下として定義され、「尿毒症毒素」の蓄積が起こり、そして重要なことに、カリウム、水素、および他のイオンの血中レベルが上昇し、これらのすべてが、出血、発作、心不整脈または心停止、および場合によっては、肺うっ血や低酸素摂取量を伴う、容量過負荷などの生命を脅かす多臓器合併症の原因となる。ARFの最も一般的な原因は、尿細管細胞および糸球体後(postglomerular)血管内皮細胞の傷害をもたらす腎臓の虚血性傷害である。この虚血性型のARFの主な病因には、出血、血栓事象、ショック、敗血症、心血管の大手術、および動脈狭窄などから生じる血管内容量の減少が含まれる。腎毒性型のARFは、放射線造影剤、何度も頻繁に使用された薬剤、例えば、化学療法剤、抗生物質、およびシクロスポリンなどの特定の免疫抑制剤などによって引き起こされ得る。すべての型のARFについて最もリスクが高い患者には、糖尿病患者、腎臓、肝臓、心血管疾患の患者、高齢患者、骨髄移植のレシピエント、および癌または他の消耗性疾患の患者が含まれる。
【0005】
ARFの虚血性型および腎毒性型の両方は、尿細管細胞および微小血管内皮細胞の機能不全および死をもたらす。亜致死性傷害尿細管細胞は、脱分化し、それらの極性を喪失し、ビメンチン、間葉細胞マーカー、およびPax−2、すなわち胎児腎臓の間葉細胞と上皮細胞の分化転換プロセスでのみ通常は発現される転写因子を発現する。傷害内皮細胞も、特徴的な変化を示す。
【0006】
腎臓は、たとえ重度の急性傷害の後でも、顕著な自己再生能力を有し、後にほぼ正常な機能の回復を果たす。傷害ネフロン分節の再生は、生き残った尿細管細胞および内皮細胞の遊走、増殖、および再分化の結果であると考えられている。しかし、生き残った尿細管細胞および内皮細胞の自己再生能力は、重度のARFを上回ることがある。他の原因を一切伴わないARF、すなわちMOFを伴わないで発症したARFの患者は、50%を超える死亡率を有し続けている。この予後不良は、集中治療支援、血液透析、ならびに心房性ナトリウム利尿ペプチド、インスリン様成長因子I(IGF−I)、より生体適合性の高い透析膜、連続血液透析、および他の治療介入の最近の利用にもかかわらず改善されていない。腎臓の自己防御および重度の傷害後の自己再生能力を改善することが緊急に求められている。
【0007】
別の急性型の腎不全、初期移植片機能不全(EGD)とも呼ばれる移植関連急性腎不全(TA−ARF)は、主に死体ドナーから移植を受ける患者で腎移植時に一般に発症するが、TA−ARFは、生体血縁ドナーの腎臓が移植される患者でも起こり得る。近年実施された腎移植の最大50%が、死体ドナーを利用している。顕著なTA−ARFを発症した腎レシピエントは、移植片機能が回復するまで血液透析処置を受ける必要がある。TA−ARFのリスクは、高齢のドナーおよびレシピエント、マージナルグラフト(marginal graft)の質、レシピエントにおける顕著な並存疾患および以前の移植、ならびに「冷たい虚血時間(cold ischemia time)」としても知られる、死体ドナーからのドナー腎臓の摘出とレシピエントへの移植との間の長い時間で増加する。初期移植片機能不全またはTA−ARFは、TA−ARFによって引き起こされる腎機能における進行性の不可逆的な喪失による加速度的な移植片の喪失、および腎移植片の早期喪失をもたらす急性拒絶反応の出現の増加を含め、重大な長期的結果を有する。したがって、TA−ARFまたはEGDによる初期移植片機能不全の処置を提供することが強く求められている。
【0008】
慢性腎不全(CRF)または慢性腎疾患(CKD)は、ネフロンの進行性の喪失およびその後の腎機能の喪失であり、末期腎不全(ESRD)をもたらし、末期腎不全となると患者の生存は、透析支援または腎移植に依存する。ネフロン、すなわち糸球体、細尿管、および微小血管系の進行性の喪失は、糸球体および腎間質で最も顕著に出現する自己永続的な線維形成プロセス、炎症プロセス、および硬化プロセスから生じると思われる。ネフロンの喪失は、糖尿病性ネフロパシー、糸球体腎炎(glomerulonephritide)、多くの尿蛋白障害(proteinuric disorder)、高血圧、血管炎、炎症、および他の腎臓の傷害によって最も一般的に引き起こされる。現在利用可能な治療の形態、例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬、他の抗高血圧薬および抗炎症薬、例えば、ステロイドおよびシクロスポリンなど、脂質低下薬、およびオメガ3脂肪酸の投与、低タンパク質の食事、ならびに、特に糖尿病での、最適な体重、血圧および血糖値の管理などは、上記状態の腎機能の慢性的な喪失を有意に遅延し、時には停止することができる。ESRDの発症は、一部の従順な患者では防止することができ、他の患者でも遅延することができる。これらの成功にもかかわらず、慢性透析または移植を必要とするESRDの患者数の年間増加率は、6%のままであり、継続的に増大する医療および経済的負担を示している。従来の治療に応答しない患者、すなわち腎機能が引き続き低下する患者を処置するために、CRFまたはCKD、従ってESRDの効果的な処置のための新規な介入の開発が緊急に求められている。幹細胞処置は、腎臓における線維形成プロセスを停止/逆転させるために提供される。
【0009】
まとめると、脳卒中、ARF、自然腎自体の確立されたARFまたはMOFの一部としての処置、および移植された腎臓のARF、および一般的な臓器不全の処置に現在利用されている治療は、この大きな患者群における罹患率および死亡率の有意な改善に成功していない。結果として、MOF、腎機能不全、および臓器不全の改善された処置が緊急に求められている。
【0010】
動物での非常に有望な臨床前研究および2、3の初期臨床試験では、ある特定の器官、例えば、心臓、微小血管、脳、脊髄、および肝臓などの修復または保護のために骨髄由来造血間質細胞を投与する。これらの処置は、一般に、造血間質細胞(HSC)または間充織間質細胞(MSC)のいずれかの骨髄幹細胞の1つの集団のみを使用し、得られた結果は、実験的な脳卒中、脊髄傷害、および心筋梗塞で非常に有望である。心筋梗塞または冠動脈疾患のヒトへの幹細胞の冠動脈内投与は、有意な有害事象、例えば、急性心筋梗塞、他の合併症、および死などを引き起こすことが最近報告された。幹細胞の末梢投与または傷害心筋への直接注入は、動物試験および第1相試験の両方でより好ましい結果を示した。MSCは、十分な造血の再構築を加速するために癌、白血病、骨形成不全症、およびフルラー症候群の処置における骨髄移植と同時に、または患者が初めに骨髄移植を受けてから2、3週間後に患者に注入された。骨形成不全症およびフルラー症候群の有効な処置が、MSCを用いて示された。重要なことに、骨髄における造血の維持において生理学的に協働することが知られている、HSCとMSCの混合物の投与は、上に列記した腎障害、MOF、または創傷治癒のいずれの処置にも今日まで(下記参照)利用されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、骨髄から単離された間充織間質細胞、およびこれらの間充織間質細胞を作製する方法を包含する。骨髄を、組織培養皿で2〜10日間培養する。この期間の後、非接着細胞を除去し、残っている接着細胞を、血小板溶解産物(PL)添加培地でさらに9〜20日間培養する。一部の実施形態では、細胞が80〜90%コンフルエンスに達したら、細胞を組織培養皿から取り出す。これらの細胞は、85〜95%が間充織間質細胞(MSC)である。次いで、細胞を、約5%血清アルブミンおよび10%DMSOを含む生理学的に許容される溶液に懸濁し、1分に付き1℃の温度低下の速度で凍結する。
【0012】
本発明はまた、血小板溶解産物添加培養培地で培養された間充織間質細胞であって、この間充織間質細胞の集団が、ウシ胎仔血清添加培養培地で培養された間充織間質細胞よりも高い程度でPickle 1を発現する、間充織間質細胞も包含する。一部の実施形態では、本発明の間充織間質細胞は、ウシ胎仔血清添加培養培地で培養された間充織間質細胞よりも免疫原性が低い。
【0013】
本発明はまた、抗原CD105、CD90、CD73、およびMHC Iを表面に発現する間充織間質細胞も包含する。一部の実施形態では、本発明の間充織間質細胞は、その表面にCD45、CD34、およびCD14からなる群から選択されるタンパク質を発現しない。
【0014】
本発明はまた、PL添加培地で培養された本発明のMSCを使用する方法も提供する。これらの方法は、神経障害、炎症性障害、または腎障害の処置のために被験体に本発明のMSCを投与することを含む。これらの障害には、脳卒中、急性腎不全、移植関連急性腎不全、移植片対宿主疾患、慢性腎不全、および創傷治癒が含まれる。MSCは、凍結している場合には段階的に解凍し、DMSOをMSCから希釈する。MSCは、一般的には大腿動脈によって動脈内から副腎大動脈に投与する。細胞を投与するために使用されるカテーテルは、一般的には、被験体の血管の損傷を最小限にするために比較的小さい。また、本発明のMSCは、大動脈の圧力よりも50%高い圧力で投与する。MSCは、被験体の体重1kg当たり約10〜1010の細胞の用量で投与する。好ましくは、MSCは、被験体の体重1kg当たり約10〜10の細胞の用量で投与する。これらのMSCの用量は、5%血清アルブミンを含む40mLを超える生理学的に許容される担体に懸濁する。この容量および血清アルブミンが、被験体に副作用をもたらし得る、MSCが投与されたときのMSCの凝集を防止する。これらの細胞は、1秒当たり細胞約1mLの速度でカテーテルによって投与する。治療効果を得るために、1回または複数回のMSCの投与を用いる。
【0015】
本発明はまた、骨髄を提供する工程;骨髄を組織培養皿の培養培地で2〜10日間培養する工程;非接着細胞を除去する工程;接着細胞を、血小板溶解産物添加培地で9〜20日間培養する工程;および接着細胞を組織培養皿から取り出す工程;を含む間充織間質細胞の集団を単離する方法も包含する。特定の実施形態では、この間充織間質細胞は、哺乳動物の間充織間質細胞である。一部の実施形態では、哺乳動物の間充織間質細胞は、ヒトの間充織間質細胞である。一部の特定の実施形態では、血小板溶解産物は、培養培地1ml当たり血小板溶解産物約20μlの割合で培養培地に存在する。他の特定の実施形態では、血小板溶解産物は、プールされた血小板濃縮物または遠心分離後にプールされたバフィーコートからなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、ウシ胎仔血清(FCS)または血小板溶解産物(PL)が添加され、同じ密度でプレーティングされた培地における着色されたMSCコロニー形成単位−線維芽細胞(CFU−F)の写真である。
【図2】図2は、ウシ胎仔血清(FCS)または血小板溶解産物(PL)が添加された培地で増殖されたMSCの累積細胞数を示すグラフである。
【図3】図3は、PL添加培地で培養されたMSCにおける脂肪酸代謝に関与する遺伝子のダウンレギュレーションを示す棒グラフである。
【図4】図4は、様々な比率のエフェクター(E)、放射線照射活性化因子(A)、および/またはPLで生成されたMSC(M)の存在下でのKi−67+CD3+細胞の相対パーセンテージを示す棒グラフである。
【図5】図5は、FCS添加培地で培養されたMSCと比較した場合のPL添加培地で培養されたMSCにおけるMHC II化合物のダウンレギュレーションを示す棒グラフである。
【図6】図6は、FCS添加培地で培養されたMSCと比較した場合のPL添加培地で培養されたMSCにおける細胞接着および細胞外マトリックスに関連した遺伝子のダウンレギュレーションを示す棒グラフである。
【図7】図7は、化学的にシミュレートされた虚血事象の後に異なる培地で回収された(rescue)腎細胞の相対生存率を示す棒グラフである。3人の異なるドナー由来のMSCを用いて馴化培地を作製した。
【図8】図8である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、神経学的病変または腎病変を処置するためにそれらの使用に有利な固有の特性を有する間充織間質細胞(MSC)を提供する。本発明はまた、脳卒中および腎病変を処置するためにそれらの使用に有利な固有の特性を有するMSCを作製する方法も提供する。本発明はまた、脳卒中および腎病変を処置するためにそれらの使用に有利な固有の特性を有するMSCを使用する方法も提供する。
【0018】
血小板溶解産物(PL)添加培地で培養された間充織間質細胞
本発明は、神経学的病変または腎病変の処置での使用を特に有利にする固有の特性を有する間充織間質細胞(MSC)を提供する。本発明のMSCは、以下に詳細に記載されるように、血小板溶解産物(PL)を含む培地で増殖される。PL添加培地でのMSCの培養は、ウシ胎仔血清(FCS)添加培地で増殖されたMSCよりも虚血再灌流損傷を防ぐMSCを作製する。
【0019】
PL添加培地で培養された本発明のMSCは、(i)抗原CD105、CD90、CD73、およびMHC Iの表面発現を伴うが、造血マーカーCD45、CD34、およびCD14が欠如し;(ii)PLで増殖した後も多能性3系統(骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞)の分化能を維持するが、脂肪生成分化が遅延し、誘導に長い時間がかかる、集団を構成する。この脂肪生成/脂質合成能の低下は、マウスでの慢性腎損傷の処置のためのMSCの動脈内注射が、脂肪細胞の形成を明らかにしたため、好ましい特性である(Kunter U、Rong S、Boor Pら、Mesenchymal stromal cells prevent progressive experimental renal failure but maldifferentiate into glomerular adipocytes.J Am Soc Nephrol、2007年6月;18(6):1754−64)。これらの結果は、以下に詳細に記載されるように、脂肪酸の代謝に関与する遺伝子のダウンレギュレーションを明らかにするPLで生成された細胞の遺伝子発現プロフィールに反映されている。
【0020】
PL添加培地で培養された本発明のMSCは、アネルギーを誘導することなくT細胞の活性化を阻害することによって免疫調節作用をすることが示された。in vitroにおいて、PL添加培地で培養されていない、減少する量のMSCが混合リンパ球培養物(MLC)反応に添加された場合、この効果がMLCで希薄化して、最終的にT細胞の活性化がもたらされる。この活性化プロセスは、以下に詳細に示されるように、PLで生成されたMSCが第3者としてMLCで使用された場合は観察されない。我々は、PL添加培地で培養された本発明のMSCは、免疫原性が低く、FCS添加培地で増殖するMSCは、強い抗原として作用し得る、または少なくともT細胞刺激におけるアジュバント機能を有すると結論付けた。この結果も、以下に示されるように、MSCによる免疫刺激の減少を実証するMHC II化合物のダウンレギュレーションを示す差次的遺伝子発現に反映されている。
【0021】
さらに、PL添加培地で培養された本発明のMSCは、FCS添加培地で培養されたMSCと比較すると、細胞周期(例えば、サイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼ)およびDNAの複製およびプリン代謝に関与する遺伝子のアップレギュレーションを示す。他方、細胞接着/細胞外マトリックス(ECM)−受容体相互作用、分化/発生、TGF−βシグナル伝達、およびTSP−1誘導アポトーシスで機能的に活性な遺伝子は、FCS添加培地で培養されたMSCと比較すると、PL添加培地で培養された本発明のMSCでダウンレギュレートされることが示され得、迅速な成長および加速度的な増殖の結果を同様に裏づける。
【0022】
PL添加培地で培養された本発明のMSCが、動脈内投与されると、局所炎症の阻害、アポトーシス、および損傷した細胞の修復に必要な成長因子の送達によって低酸素組織の再生の改善がもたらされる。低酸素細胞は、ケモカイン受容体4(CXCR4)を運搬するMSCを引きつけるSDF1(間質細胞由来因子1)を分泌する。PL添加培地で培養された本発明のMSCは、CNS損傷の再生治療で特に良好な候補である。本発明のMSCは、FCS添加培地で培養されたMSCと比較すると、神経再生に関与する遺伝子Prickle 1を8倍高く発現する。マウスPrickle 1およびPrickle 2は、有糸分裂後のニューロンで発現され、神経突起伸長を促進する(Okuda H、Miyata S、Mori Y、Tohyama M、FEBS Lett.2007年10月、2;581(24):4754−60)。さらに、MAG(ミエリン関連糖タンパク質)は、PL添加培地で培養された本発明のMSCで13倍低い量で発現される。MAGは、細胞膜糖タンパク質であり、神経再生中に髄鞘形成に関与し得る。中枢神経損傷後の回復の欠如は、MAGを含むミエリン阻害剤によって部分的に引き起こされる。MAGは、試験した殆どのニューロンの神経突起伸長阻害剤として作用するが、未成熟後根神経節ニューロンにおける神経突起伸長を刺激する(Vyas AA、Patel HV、Fromholt SE、Heffer−Lauc M、Vyas KA、Dang J、Schachner M、Schnaar RL、Gangliosides are functional nerve cell ligands for myelin−associated glycoprotein(MAG),an inhibitor of nerve regeneration.Proc Natl Acad Sci USA、2002;99(12):8412−7)。これらの差次的に制御される遺伝子は、ニューロン損傷の再生においてPL培養hMSCの使用を好むであろう。
【0023】
加えて、RAR応答性(TIG1)(レチノイド酸(RA)受容体応答性1遺伝子は、PL添加培地で培養された本発明のMSCで12倍高い発現を示す)(Liangら、The quantitative trait gene latexin influences the size of the hematopoietic stromal cell population in mice.Nature Genetics 2007;39(2):178−188)、ケラチン18(PL添加培地で培養された本発明のMSCで9倍高い発現)(Buhler H、Schaller G、Transfection of keratin 18 gene in human breast cancer cells causes induction of adhesion proteins and dramatic regression of malignancy in vitro and in vivo.Mol Cancer Res.2005;3(7):365−71)、CRBP1(細胞内レチノール結合タンパク質1、PL添加培地で培養された本発明のMSCで5.7倍高い発現)(Roberts D、Williams SJ、Cvetkovic D、Weinstein JK、Godwin AK、Johnson SW、Hamilton TC、Decreased expression of retinol−binding proteins is associated with malignant transformation of the ovarian surface epithelium.DNA Cell Biol.2002;21(l):ll−9.)、およびPrickle 1の発現は、PL添加培地で培養された本発明のMSCの腫瘍形成表現型が少ないことを示唆する。
【0024】
さらに、我々は、PL添加培地で増殖されたMSCが、FCS添加培地で増殖されたMSCよりも虚血再灌流損傷を防ぐ証拠を以下に示す。
【0025】
間充織間質細胞を作製する方法
本発明の間充織間質細胞(MSC)を、ウシ胎仔血清(FCS)ではなく血小板溶解産物(PL)を添加した培地で培養する。本発明のMSCを作製する方法の一実施形態では、MSCの開始材料は、健常なドナーから単離した骨髄である。好ましくは、これらのドナーは哺乳動物である。より好ましくは、これらの哺乳動物はヒトである。本発明のMSCを作製する方法の一実施形態では、骨髄を2〜10日の間、組織培養フラスコで培養してから、非接着細胞をフラスコから洗い流す。任意選択で、非接着細胞の洗い流しの前の骨髄細胞の培養日数は、2〜3日である。好ましくは、骨髄は、血小板溶解産物(PL)含有培地で培養する。例えば、骨髄300μlを、T75または他の適切な組織培養皿のPL添加培地15mlで培養する。
【0026】
非接着細胞を洗い流したら、接着細胞を同様に、血小板溶解産物(PL)が添加された培地で培養する。血小板は、必要とする患者に臨床で以前から広く利用されている十分に特徴付けられたヒト生成物である。血小板は、様々な因子、例えば、PDGF−BB、TGF−b、IGF−1、およびVEGFを産生することが知られている。本発明のMSCを作製する方法の一実施形態では、PLの最適化された調製を使用する。このPLの最適化された調製は、少なくとも10人のドナー(サイトカイン濃度の差をなくすため)から得た、3×10血小板/mlの最小濃度のプールされた多血小板血漿(PRP)からなる。
【0027】
本発明のMSCを作製する方法の好適な実施形態では、PLは、ヒトに使用するように設計された、プールされた血小板濃縮物(5人のドナーからプールされた、University Clinic UKE Hamburg−Eppendorfの血液バンクからのTK5Fとして作製された)または200×gで20分間の遠心分離後の7〜13のプールされたバフィーコートから調製した。好ましくは、PRPは、少量に等分し、−80℃で凍結し、使用の直前に解凍した。PL含有培地は、細胞供給の度に新しく調製した。好適な実施形態では、培地は、5IU ヘパリン/ml培地(供給元:Ratiopharm)および5%の新しく解凍されたPLが添加された基本培地としてαMEMを含んでいた。本発明のMSCを作製する方法は、血小板濃度および遠心分離の力が他とは異なるPLを調製する方法を使用する。このPLの組成は、以下に詳細に記載する。
【0028】
本発明のMSCを作製する方法の一実施形態では、接着細胞を、低酸素条件下で、約5%CO、37℃で、PL添加培地で培養する。好ましくは、低酸素条件は、5%Oの大気である。状況によっては、低酸素培養条件が、MSCのより迅速な増殖を可能にする。これにより、細胞を90〜95%コンフルエンスまで増殖させるのに必要な日数を短縮できる。一般に、これは、増殖時間を3日間短縮する。本発明のMSCを作製する方法の別の実施形態では、接着細胞を、正常条件、すなわちO濃度が大気Oと同じ約20.9%で、約5%CO、37℃で、PL添加培地で培養する。好ましくは、接着細胞は、9〜12日間培養し、4日毎にPL添加培地を供給する。本発明のMSCを作製する方法の一実施形態では、接着細胞を、90〜95%コンフルエンスまで増殖させる。好ましくは、このコンフルエンスの濃度まで達したら、細胞をトリプシン処理してプレートから分離する。
【0029】
特定の実施形態では、プレートから分離した細胞の集団は、85〜95%がMSCである。他の実施形態では、MSCは、分離細胞集団の95%を超える。
【0030】
本発明のMSCを作製する方法の別の実施形態では、細胞を、組織培養皿から分離してから凍結する。凍結は、生理学的に許容される担体、20%血清アルブミン、および10%DMSOで段階的に行う。解凍も、同様に段階的に行う。好ましくは、解凍する際に、本発明の凍結MSCを4:1に希釈してDMSOを除去する。MSCが動脈内投与される場合は、DMSOを細胞から希釈する。MSCが静脈内投与される場合は、DMSOを細胞から希釈することは重要ではない。この場合、本発明の凍結MSCを37℃で急速に解凍し、希釈または洗浄を一切行わずに静脈内投与する。任意選択で、細胞を、造血間質細胞(HSC)の移植に適切な任意のプロトコルに従って投与する。好ましくは、血清アルブミンは、ヒト血清アルブミンである。
【0031】
本発明のMSCを作製する方法の別の実施形態では、細胞を、10〜10の細胞を含む、生理学的に許容される担体および血清アルブミン(HSA)の50mLのアリコートに凍結する。本発明のMSCを作製する方法の別の実施形態では、細胞を、被験体の体重1kg当たり10〜10の細胞を含む、生理学的に許容される担体および血清アルブミン(HSA)の50mLのアリコートに凍結する。これらの実施形態の一態様では、治療量が構築されたら、治療量に適切な数の細胞を解凍するために適切な数のクライオバイアルを解凍する。好ましくは、DMSOが解凍された細胞から希釈されたら、選択された数のクライオバイアルを、5%血清アルブミンを含む滅菌輸液バッグに入れる。バッグに入れると、MSCは、凝集せず、MSCを室温で少なくとも6時間保存しても、生存率は95%を超えたままである。これは、手術室で患者に本発明のMSCを投与するための十分な時間を提供する。任意選択で、生理学的に許容される担体は、プラズマライト(plasmalyte)である。好ましくは、血清アルブミンは、ヒト血清アルブミンである。好ましくは、アルブミンは、5%w/vの濃度で存在する。本発明の10〜10の細胞MSCを、40mLを超える生理学的担体に懸濁することは、MSCの生物活性にとって極めて重要である。細胞がもっと少ない容量に懸濁されると、細胞が凝集しやすい。凝集したMSCの哺乳動物被験体への投与は、心筋梗塞を引き起こす。したがって、本発明の方法に従って非凝集MSCを投与することが極めて重要である。アルブミンは、MSCの凝集を防止し、被験体に投与される際に細胞が通過するプラスチック容器に細胞が接着するのも防止するため、アルブミンの存在も極めて重要である。
【0032】
本発明のMSCを作製する方法の別の実施形態では、閉じた系を、正常なドナーの骨髄からの本発明のMSCの生成および増殖のために使用する。この閉じた系は、機能的に閉じた系でex vivoで細胞を増殖させるデバイスである。特定の一実施形態では、閉じた系は:1.好ましくは圧縮されたバイオリアクター(小さいユニット内)と同様に形成されるが増殖表面が延長された中心増殖ユニット;2.細胞を供給するための、(例えば、ユニットとバッグとの間の溶接管によって)増殖ユニットに滅菌連結され得る培地バッグ;および3.自動的に培地の交換、ガスの供給、および温度測定を行う電子デバイスを備えている。
【0033】
従来のフラスコ組織培養と比較した閉じた系の利点は、機能的に閉じた系の構造、すなわち細胞インプットおよび培地バッグが系に滅菌溶接されていることである。これは、外部病原体での汚染のリスクを最小限にし、従って臨床適用に非常に適切であり得る。さらに、この系は、一貫して小さい細胞培養容量であるが、増殖領域を維持した圧縮型に形成することができる。小さい容量により、細胞が互いに直接的に相互作用して、骨髄ニッチのin vivoの状態により類似した培養環境を形成することができる。また、閉じた系は、培地および全増殖プロセスのコストを削減する。
【0034】
閉じた系の構造は、少量の培地を含む複数の繊維内で細胞が増殖される2つの側面を含み得る。一部の実施形態では、培養培地は、成長の刺激のために成長因子を含み、そして高価な添加物を含まない培地が繊維の外側を通る。繊維は、潜在的に成長を阻害する代謝産物は絶えず除去するが、重要な成長促進因子を増殖区画内に維持するナノ細孔を備えるように設計されている。
【0035】
本発明のMSCを作製する方法の特定の実施形態では、閉じた系を、動物タンパク質、例えば、ウシ胎仔血清(FCS)などを一切含まないMSCの増殖用培地と共に使用する。FCSは、FCS増殖細胞のin vivoでの適用の後の悪影響、例えば、抗FCS抗体の形成、アナフィラキシーまたはアルツス様免疫反応、または細胞噴門形成術(cellular cardioplasty)後の不整脈に関係している。FCSは、望ましくない動物異種抗原、ウイルス、プリオン、および人畜共通伝染病汚染を細胞調製に導入して、新しい代替案が必要となることがある。
【0036】
間充織間質細胞を使用する方法
本発明のMSCは、限定されるものではないが、脳卒中、多臓器不全(MOF)、自然腎の急性腎不全(ARF)、多臓器不全における自然腎のARF、移植された腎臓のARF、腎機能不全、臓器機能不全、および当業者に公知の状態を指す創傷修復を含む状態を処置または改善するために使用する。これらの状態の記述は、参照によりその全容が本明細書に組み入れられる、Barry M.BrennerおよびFloyd C.Rector,Jr.、The Kidney、WB Saunders Co.、Philadelphia、最終版、2001年などの医学のテキストで見ることができる。
【0037】
脳卒中または脳血管障害(CVA)は、血液供給の欠如による脳機能の急激な喪失の臨床用語である。この脳の灌流障害の原因は、血栓症、塞栓症、または出血であり得る。脳卒中は、医学的な緊急事態であり、西洋諸国では死因の第3位である。脳卒中は、今世紀の半ばまでには死因の第1位になると予想されている。この脳卒中の因子には、加齢、脳卒中または虚血性発作の既往歴、高血圧、糖尿病、糖尿病性高コレステロール、喫煙、および心房細動を伴う心不整脈が含まれる。したがって、脳卒中患者の処置を提供することが強く求められている。
【0038】
ARFは、数時間または数日以内の腎臓の排泄機能の急激な低下として定義される。重度のARFでは、尿の排出が、全くないか、ごく僅かである。この機能の急激な喪失の結果として、血清クレアチニン値および血中尿素窒素値の上昇として定義される高窒素血症を発症する。血清クレアチニン値および血中尿素窒素値を測定する。これらの値が、それらの正常濃度の約10倍まで上昇すると、これは、血中の尿毒症性毒素の平行蓄積による尿毒症の症状の発症に相当する。尿毒症性毒素の蓄積は、腸からの出血、脳に最も重度の影響を与える神経の症状を引き起こし、処置しなければ、昏睡、発作、および死をもたらす。正常な血清クレアチニン値は、約1.0mg/dLであり、正常な血中尿素窒素値は、約20mg/dLである。加えて、酸性値(水素イオン)およびカリウム値が、急速に危険なレベルまで上昇し、心不整脈が起き、心停止および死をもたらす可能性もある。尿が排出されずに流体の摂取が続くと、患者は、流体過負荷となり、循環の閉塞、肺水腫、および血液酸素化の低下が起こり、これにより同様に患者の生命が危険に曝される。当業者であれば、これらの身体および検査所見の異常を理解し、これらの所見に基づいて必要な治療を行う。
【0039】
MOFは、腎臓、肺、肝臓、および心臓の機能が、通常は同時または連続的に損なわれ、ARFの処置に利用される従来の治療にもかかわらず、死亡率が100%もの高さとなる状態である。これらの患者は、肺が成人呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症し、結果として不十分な酸素摂取量となりCOが消失するため、挿管および人工呼吸器による補助を必要とする場合が多い。MOF患者はまた、通常はショック状態にあり心不全を起こしているため、適切な血圧を維持するべく血行力学的補助、昇圧薬、および場合によっては大動脈内バルーンポンプに依存する。出血および精神機能を損なう毒素の蓄積をもたらす肝不全の専用の治療は存在しない。患者は、出血を防止または停止するために輸血および凝固因子を必要とし得る。MOF患者は、医師が患者の評価に基づいて必要と判断した場合は、幹細胞治療が施される。
【0040】
初期移植片機能不全(EGD)または移植関連急性腎不全(TA−ARF)は、移植から2、3日の間、移植された腎臓に悪影響を及ぼすARFである。TA−ARFが重度であればあるほど、上記のように、自然腎がARFである患者と同様の合併症を患者が発症する可能性が高い。TA−ARFの重症度は、その後の数年間の拒絶反応(複数可)によって促進される移植片喪失の決定因子でもある。これらは、本発明の幹細胞でのTA−ARFの迅速な処置のための2つの強力な指標である。
【0041】
慢性腎不全(CRF)または慢性腎疾患(CKD)は、ネフロンの進行性の喪失およびその後の腎機能の喪失であり、末期腎疾患(ESRD)をもたらし、末期腎疾患となると患者の生存は、透析支援または腎移植に依存する。本発明の幹細胞治療の必要性は、上述の身体および検査所見の異常を基に決定される。
【0042】
本発明のMSCの使用方法の一部の実施形態では、本発明のMSCを、当業者が従来の治療が失敗したと判断したときに、それを必要とする患者に投与する。従来の治療には、血液透析、抗生物質、血圧薬、輸血、静脈栄養、および、場合によっては、ICUにおける人工呼吸器での呼吸が含まれる。血液透析は、尿毒症性毒素を除去するため、高窒素血症を改善するため、高い酸性値およびカリウム値を正常に戻すため、および過剰な流体を排除するために使用される。本発明のMSCの使用方法の別の実施形態では、本発明のMSCを一次治療として投与する。本発明のMSCの使用方法は、従来の治療が失敗した後の治療に限定されるものではなく、損傷の発生時に直ちに、または従来の治療と共に用いても良い。
【0043】
特定の実施形態では、本発明のMSCを、被験体に1回投与する。この1回の用量は、一実施形態では十分な処置である。他の実施形態では、本発明のMSCを、治療効果を得るために2、3、4、5、6、7、8、9、または10回投与する。
【0044】
幹細胞を必要とする患者に送達される幹細胞の治療効果についての患者のモニタリングおよびさらなる処置の評価は、当業者に公知の技術によって達成される。例えば、腎機能は、血中クレアチニン値およびBUN値の決定、血清電解物、腎臓の血流量(超音波法)、クレアチニンおよびイヌリンクリアランス、および尿排出量の測定によってモニタリングする。ARFの治療に対する肯定的な応答には、排泄腎機能の回復、尿排出量、血液化学、および電解物の正常化、器官の修復、および生存が含まれる。MOFでは、肯定的な応答には、血圧の改善、および1つまたはすべての器官の機能の改善が含まれる。
【0045】
他の実施形態では、本発明のMSCを、MSC集団の「可塑性」により、慢性腎不全を含む慢性腎の症状を有する被験体の死んだまたは機能不全腎細胞を効果的に再集団化させるために使用する。用語「可塑性」は、明確な幹細胞集団を起源とする細胞の表現型の広い分化能を指す。MSCの可塑性には、ある器官に由来する幹細胞の別の器官の細胞型への分化が含まれ得る。「分化転換」は、ある胚芽細胞層に由来する完全に分化した細胞が、別の胚芽細胞層に由来する細胞型へ分化する能力を指す。
【0046】
最近まで、幹細胞は、その多能性を徐々に喪失し、従って器官形成中のその分化能を喪失すると考えられていた。体細胞の分化能は、それぞれの幹細胞が由来する器官の細胞型に制限されると思われていた。この分化プロセスは、一方向性かつ不可逆性と思われていた。しかし、近年の研究により、体性幹細胞が、その分化能の一部を維持することが示された。例えば、造血間質細胞は、筋肉、ニューロン、肝臓、心筋細胞、および腎臓に分化転換できる可能性がある。無傷の組織ではなく損傷した組織を起源とするなお不明確なシグナルが、分化転換シグナルとして機能する可能性がある。
【0047】
特定の実施形態では、治療有効用量のMSCを患者に送達する。処置の有効用量は、処置を受ける患者の体重によって決まり、例えば、脳卒中の重症度または段階、腎臓または他の臓器の機能不全、例えば、ARFの重症度、治療が開始されるARFの段階、およびMOFの同時存在または非存在に基づいてさらに変更することができる。本発明のMSCの使用方法の一部の実施形態では、レシピエントの体重1kg当たり約1×10〜約1×1010のMSCの治療用量で投与する。好ましくは、レシピエントの体重1kg当たり約1×10〜約1×10のMSCの治療用量で投与する。より好ましくは、レシピエントの体重1kg当たり約7×10〜約5×1010のMSCの治療用量で投与する。より好ましくは、レシピエントの体重1kg当たり約1×10〜約1×10のMSCの治療用量で投与する。より好ましくは、レシピエントの体重1kg当たり約7×10〜約5×10のMSCの治療用量で投与する。より好ましくは、レシピエントの体重1kg当たり約2×10のMSCの治療用量で投与する。使用する細胞数は、レシピエントの体重および状態、投与の回数または頻度、および当業者に公知の他の変数によって決まる。例えば、治療用量は、1回または複数回の治療の投与であり得る。
【0048】
幹細胞の治療用量は、注射に適した溶液で投与する。溶液は、細胞およびレシピエントに生物学的および生理学的に適合した溶液、例えば、緩衝生理食塩溶液、プラズマライト、または当業者に公知の他の適当な賦形剤である。
【0049】
特定の実施形態では、本発明のMSCは、1秒当たり、MSCを溶解した生理学的に適合した溶液約0.5〜1.5mLの速度で被験体に投与する。好ましくは、本発明のMSCは、1秒当たり約0.83〜1.0mLの速度で被験体に投与する。より好ましくは、MSCを、生理学的に適合した溶液約50mLに懸濁し、約1〜3分の間に被験体に完全に注射する。より好ましくは、MSCを溶解した生理学的に適合した溶液50mLを、約1分で完全に注射する。
【0050】
他の実施形態では、MSCを、大動脈瘤の修復などのリスクの高い外科手術を受ける予定の外傷または外科患者に使用する。予防としてこれらの患者に本発明のMSCを投与すために、大手術の前にMSCを収集して調製する。感染傷および非治癒創傷、術後のMOFの発症を含め、結果が悪い場合は、本発明の方法に従って調製された、凍結保存された患者自身のMSCを解凍して、上に詳述したように投与することができる。移植された腎臓に悪影響を及ぼしている重度のARFの患者は、移植された腎臓のドナーからの、本発明の方法に従って調製されたMSC(同種異系)、またはレシピエントからの細胞(自家)で処置することができる。本発明の方法に従って調製された同種異系MSCまたは自家MSCは、TA−ARFの患者の緊急処置選択肢であり、自然腎のARFの患者で説明したものと同じ理由である。
【0051】
特定の実施形態では、本発明のMSCを、静脈内注入(大静脈などの大きな中心静脈)または動脈内注入(大腿静脈から副腎大動脈へ)によって患者に投与する。好ましくは、本発明のMSCは、副腎大動脈から投与する。特定の実施形態では、本発明のMSCを、鼠径部の大腿動脈内に挿入されたカテーテルを介して投与する。好ましくは、カテーテルは、12〜18ゲージ針と同じ直径を有する。より好ましくは、カテーテルは、15ゲージ針と同じ直径を有する。この直径は、MSC投与の最中に被験体の皮膚および血管の損傷を最小限にするために比較的小さい。好ましくは、本発明のMSCは、被験体の大動脈の圧力よりも約50%高い圧力で投与する。より好ましくは、本発明のMSCは、約120〜160psiの圧力で投与する。投与圧力によって生成されるせん断応力は、本発明のMSCを損傷しない。一般に、本発明のMSCの少なくとも95%が、被験体に注入されても生存する。さらに、MSCは、通常は、約5%HSAを含む生理学的に許容される担体に懸濁する。HSAは、細胞の濃度と共に、MSCがカテーテルまたはシリンジに付着するのを防止し、同時に、MSCが被験体に投与されたときのMSCの高い生存率(すなわち、95%超)を保証する。カテーテルは、副腎大動脈内に挿入して、腎動脈の約20cm上の位置まで送る。好ましくは、血液を吸引して血管内の配置を検証し、カテーテルをフラッシュする。より好ましくは、カテーテルの位置は、X線撮影または音を用いた方法によって確認する。好ましくは、この方法は、経胸壁心エコー法(TEE)である。次いで、本発明のMSCを、大腿カテーテルに接続されたシリンジに移す。次いで、生理学的に適合した溶液に懸濁されたMSCを、約1〜3分間に渡って患者に注入する。好ましくは、本発明のMSCの注入後、大腿カテーテルを生理食塩水でフラッシュする。任意選択で、被験体の足の脈拍を、本発明のMSCの投与の前、最中、および後でモニタリングする。脈拍は、投与中にMSCが凝集しないことを確実にするためにモニタリングする。MSCの凝集は、MSCが投与されている被験体の足の小さい脈拍の減少または喪失をもたらす。
【実施例】
【0052】
実施例1.血小板溶解産物の調製
血小板溶解産物(PL)含有MSC増殖培地を、FCSの代替として開発した。多血小板血漿(PRP)から単離したPLを、以下の表1に示されているように、炎症性および抗炎症性サイトカインならびに様々なマイトジェン因子がPL中に含まれていることを示すためにHuman 27−plex(BIO−RADから)またはELISAを用いて分析した。Human−plex法は、不希釈PLの濃度[pg/ml]で表し、ELISAでは、PLを1×10/mlの血小板濃度まで希釈し、培地で5%(従って、値を少なくとも20倍しなければならない)として使用した。<:検出限界よりも低い。背景が黒の値は、抗炎症性サイトカインであり、背景がグレーのセルは、炎症性サイトカインである。
【0053】
【表1】

【0054】
MSCの効果的な増殖のために、PLの最適化された調製が必要であった。プロトコルには、3×109の血小板/mlの最小濃度で、少なくとも10人のドナー(サイトカイン濃度の差をなくすため)からPRPをプールすることが含まれる。
【0055】
PLは、ヒトに使用するように設計された、プールされた血小板濃縮物(5人のドナーからプールされた、University Clinic UKE Hamburg−Eppendorfの血液バンクからのTK5Fとして調製)または200×gで20分間遠心分離された後の7〜13のプールされたバフィーコートから調製した。多血小板血漿(PRP)を、少量に等分し、−80℃で凍結し、PLを得て、使用の直前に解凍した。PL含有培地は、細胞供給の度に新しく調製した。培地は、5IU ヘパリン/ml培地(供給元:Ratiopharm)および5%の新しく解凍されたPLが添加された基本培地としてαMEMを含んでいた(表2)。
【0056】
実施例2.血小板溶解産物添加培地での間充織間質細胞の作製
骨髄を、非動員健常ドナーから収集した。様々なドナーから単離した骨髄に由来する白血球(WBC)濃度およびCFU−Fは様々であった。これを、以下の表3に要約した。
【0057】
【表3】

【0058】
骨髄を受け取ったら、サンプルを取り出し、感染因子の試験のために送った。試験には、ヒト免疫不全ウイルス1型および2型(HIV I/II)、ヒトT細胞リンパ球好性ウイルスI型およびII型(HTLV I/II)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、梅毒トレポネーマ(梅毒)、およびサイトメガロウイルス(CMV)が含まれる。
【0059】
使用される試薬は、以下の表4に示されている。
【0060】
【表4】

【0061】
全骨髄300μlを、75cmの増殖領域を備えた組織培養フラスコまたはより大きな容器に入れた5%PLを含むαMEM培地15mlにプレーティングし、間充織間質細胞(MSC)が付着できるように6〜10日間培養した。残った非接着細胞をフラスコから洗い流した。5%多血小板血漿を含むαMEM培地をフラスコに添加した。細胞を、70%のコンフルエンスになるまで増殖させた(約3〜4日)。次いで、細胞をトリプシン処理し、Nunc Cell Factory(商標)に再びプレーティングした。細胞を、増殖のために約10〜15日間、4日毎に培地を交換しながらCell Factory(商標)に維持した。
【0062】
細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)での1回目の洗浄によって収集し、トリプシンで処理し、αMEMで洗浄し、次いで速度制御された凍結を用いて10%DMSO、5%ヒト血清アルブミン、およびプラズマライトで凍結保存した。細胞を注入する必要がある場合は、細胞を解凍し、DMSOを用いずに洗浄し、5%ヒト血清アルブミンを含むプラズマライトで所望の濃度に再懸濁した。
【0063】
最終細胞産物は、5%ヒト血清アルブミンを含むプラズマライト50mLに再懸濁された、被験体の体重1kg当たり約10〜10の細胞からなっていた。成長因子、抗体、刺激薬、または他の物質は、製造中のいかなる時点でも産物に一切添加しなかった。最終濃度は、患者に戻される産物の量が一定に維持されるように必要な用量を提供するべく調整した。
【0064】
実施例3.血小板溶解産物添加培地とウシ胎仔血清添加培地でのMSCの増殖の比較
MSCの骨髄(BM)からの単離は、FCS添加培地と比較すると、PL添加培地でより効果的であることが示された。CFU−Fのサイズ(図1)および数(表5)は、培地の添加剤としてPLを用いるとかなり大きかった(図1)。
【0065】
【表5】

【0066】
MSCを、3mlのウェルに付き5×10の単核細胞をプレーティングすることによって単離した。図1は、播種の14日後のFCS添加培地またはPL添加培地の暗く着色されたCFU−Fを示している。図2のグラフに示されているように、PL添加培地のMSCのより効率的な単離の後、これらの細胞が、全培養期間に渡って老化までより迅速に増殖する。
【0067】
また、PL添加培地で培養されたMSCは、FCS添加培地で培養されたMSCと比較すると、脂肪生成性が低い。図3は、FCS添加培地で培養されたMSCと比較した、PL添加培地で培養されたMSCにおける脂肪酸代謝に関与する遺伝子のダウンレギュレーションを示している。
【0068】
MSCは、アネルギーを誘導することなくT細胞の活性化を阻害することによって免疫調節作用をすることが説明された。in vitroにおいて、減少する量のMSCが混合リンパ球培養物(MLC)反応に添加された場合、この効果の希薄化がMLCで示され、最終的にT細胞の活性化がもたらされる。この活性化プロセスは、PLで生成されたMSCが第3者としてMLCで使用された場合は観察されない。図4は、PL添加培地で培養されたMSCが、たとえ少ない数でも、in vitroで免疫調節性ではないことを示している(p値:(*)4×10−6;(**)0,013;(***)1.9×10−5;E:エフェクター;A:放射線照射活性化因子;M:MSC)。したがって、MSCは、PL増殖の後に免疫原性が低く、FCSは、強い抗原として作用する、または少なくともT細胞刺激におけるアジュバント機能を有すると思われる。この結果も、図5に示されているように、MSCによる免疫刺激の減少を実証するMHC II化合物のダウンレギュレーションを示す差次的遺伝子発現に反映されている。
【0069】
FCSで生成されたMSCと比較したPLで生成されたMSCの差次的遺伝子発現解析からの追加のデータが、細胞周期(例えば、サイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼ)およびDNAの複製およびプリン代謝に関与する遺伝子のアップレギュレーションを示した。他方、細胞接着/細胞外マトリックス(ECM)−受容体相互作用(図6)、分化/発生、TGF−βシグナル伝達、およびトロンボスポンジン誘導アポトーシスで機能的に活性な遺伝子は、PLで生成されたMSCでダウンレギュレートされることが示され得、迅速な成長および加速度的な増殖の結果を同様に裏づけた。
【0070】
さらに、我々は、PL添加培地で増殖されたMSCが、FCS添加培地で増殖されたMSCよりも虚血再灌流損傷を防ぐ証拠を示す。ヒト腎近位尿細管細胞(HK−2)が、アンチマイシンA、2−デオキシクルコース(2−deoxyclucose)、およびカルシウムイオノフォアA23187とのインキュベーションによってアポトーシス事象が強制的に開始された(Lee HT、Emala CW 2002、J Am Soc Nephrol 13、2753−2761;Xie J、Guo Q 2006、J Am Soc Nephrol 17、3336−3346)。この処置は、虚血事象を化学的に模している。再灌流は、αMEM+10%FCSまたはαMEM+5%PLのいずれかで増殖されたMSCのコンフルエント層で24時間インキュベートされた馴化培地からなる回収培地(rescue media)でHK−2細胞を再供給することによってシミュレートした。
【0071】
得られた結果は、PL含有培地で増殖されたMSCからの上清が、FCS添加培地で増殖されたMSCからの上清よりも、化学的にシミュレートされた虚血/再灌流の後にHK−2細胞死をより効果的に低減することを示している(図7)。
【0072】
アポトーシス細胞に結合するアネキシンVを検出する同時FACS(parallel FACS)アッセイが同様の結果を示した。生細胞(=アネキシンV陰性)の割合は、MSC馴化PL培地で回収したHK−2細胞で最も高かった(MSC馴化FCS培地の78.0%と比較して85.7%、図8)。したがって、PL−MSCは、FCS−MSC馴化培地と比較すると、虚血事象の後に腎再尿管細胞の死を防止する因子をより高い程度で含み、かつ/または細胞死を促進する因子をあまり含まないと思われる。したがって、PLは、虚血性傷害の臨床処置のためにMSCを増殖させる選択肢の追加であると思われる。
【0073】
実施例4.ヒト間充織間質細胞(hMSC)の凍結保存プロトコル
間充織間質細胞を、蒸気相液体窒素(LN2、<−150℃)での長期保存のために、10%の最終濃度で、DMSO溶液で凍結保存した。長期保存中のhMSCの生存性および機能性が実証され、現在は、連続LN2貯蔵庫に保存されている産物に有効期限が認められない。
【0074】
hMSCをヒト骨髄から得た。
【0075】
必要な試薬、標準品、培地、および特殊な用品:
ジメチルスルホキシド(DMSO) Protide Pharmaceuticals
ヒト血清アルブミン25% NDC 0053−7680−32
プラズマライトA
クライオバイアル
取り出しピン
針なし20ccシリンジ
針なし30ccシリンジ
18ゲージブラント充填針
アルコール製剤
ベタダイン製剤
アイスバケット
10ml血清用ピペット
25ml血清用ピペット
250ml円錐管
クライオグローブ 。
【0076】
器具:
ピペット
生物学的安全キャビネット(BSC)
速度制御冷凍庫(CRF)
在庫システムを備えたLN2保存冷凍庫
遠心分離機 。
【0077】
A.hMSC産物を凍結するために必要なクライオバイアルの数の計算
1.凍結混合物の計算:所定量の細胞を凍結するために必要なクライオバイアルの数を計算した。細胞を15×10/mlで保存する。したがって、存在する細胞数をこの数で除して、凍結させる細胞および培地の容量を求めた。
例えば、3.71×10=24.7ml 。
【0078】
2.クライオバイアルの数の計算:所定量の細胞と培地に必要なバイアルの数を計算した。クライオバイアルの容量は、1mlまたは4mlであった。したがって、上で計算した量を、必要なクライオバイアルの数で除した。
例えば: 24ml=6、4mlクライオバイアル 。
【0079】
B.全凍結容量の計算
全凍結容量は、容量が10%のDMSO、容量が20%のアルブミン、および残りの容量(70%)のプラズマライトからなっていた。
例えば: 全凍結容量=24ml
DMSO=2.4ml
アルブミン=4.8ml
プラズマライト=16.8ml 。
【0080】
C.凍結混合物の調製
1.アイスバケットを提供した。
2.所望の容量のDMSOを適切なサイズのシリンジで得た。
3.同量のプラズマライトを得た。
a.例えば、DMSO6ml、プラズマライト6ml
4.DMSOおよびプラズマライトを「凍結混合物」管に添加した。
5.溶液を混合し、氷上に置いて少なくとも10分間冷やした。
6.アルブミンを氷上に置いた。
【0081】
D.凍結のためのサンプルの調製
1.最終産物を、250ml円錐管で、600×g(約1600rpm)で5分間連続して遠心分離した。
2.25ml血清用ピペットで細胞ペレットの1インチ上の上清を取り出した。細胞ペレットは乱さなかった。
3.上清を取り出して、「Sup」と書かれたラベルが貼られた滅菌250ml円錐管に入れた。
4.細胞と上清の両方を氷上に置いた。
【0082】
E.凍結
1.凍結混合物になお必要なプラズマライトの量を計算し、所望の容量を得た。
a.例えば、DMSOの容量と既に添加したプラズマライトの容量とアルブミンの容量と細胞ペレットの容量の合計から全凍結容量を減じた値が、必要なプラズマライトの量に等しい。
2.アルブミンバッグに、取り出しピンを無菌的に刺して、所望の容量のアルブミンを取り出した。
3.アルブミンおよびプラズマライトを「凍結混合物」管に添加して混合した。
4.10ml血清用ピペットを用いて、冷蔵凍結混合物を滅菌的に取り出して、再懸濁された細胞に徐々に添加した。凍結混合物を添加しながら、細胞を渦流によって軽く混合した。凍結混合物を産物に添加したら、凍結を15分以内に開始した。遅れが予想される場合は、産物混合物を氷上に戻した。どんな状況であっても、混合物は、30分以上未凍結のままとはしなかった。
5.細胞混合物が入った管に蓋をして、管を数回逆さにして内容物を混合した。
6.10ml血清用ピペットを用いて、凍結容量を滅菌的に取り出して、適当な容量を、ラベルが付いた各クライオバイアルに分注した。1.8mlバイアルには、細胞混合物1mlを入れた。4.5mlのバイアルには、細胞混合物4mlを入れた。
7.次いで、クライオバイアルを直ちに氷上に置き、そして速度制御冷凍庫を用いて−80℃に凍結させた。
【0083】
F.プロトコルに従って凍結された後に解凍されたMSCの予想範囲:
1.解凍産物の生存率≧70%
2.滅菌試験=陰性
3.分化=脂肪生成、骨形成、および軟骨形成の増加
4.フローサイトメトリー
a.CD105(≧95%)
b.CD73(≧95%)
c.CD90(≧95%)
d.CD34(<2%)
e.CD45(<2%)
f.HLA−DR(<2%)
5.エンドトキシン<5.0EU/kg
6.マイコプラズマ=陰性 。
【0084】
実施例5.ヒト間充織間質細胞(hMSC)の解凍プロトコル
保存ヒト間充織間質細胞(hMSC)を、細胞凍結保護物質としてDMSOを用いて凍結保存する。解凍の際に、DMSOが、突然の流体移動および細胞死をもたらす高張環境を形成する。この影響を制限するために、産物を、DMSOの望ましくない影響を緩和する高張液で洗浄した。処理が確実に行われて汚染および二次汚染が防止されるように解凍後の産物放出試験を行った。
【0085】
必要な試薬、標準品、培地、および特殊な用品:
ヒト血清アルブミン(HSA)25% NDC 52769−451−05
プラズマライトA
トリパンブルー
300mlトランスファーパック
15ml円錐管
50ml円錐管
250ml円錐管
150mlトランスファーパック
滅菌トランスファーピペット
1.5エッペンドルフ管
Red Top Vacutainer Tubeまたは同等物
10ccシリンジ
20ccシリンジ
30ccシリンジ
60ccシリンジ
5ml血清用ピペット
10ml血清用ピペット
アイスバケット
ブラント先端針
200〜1000μl滅菌チップ
クライオグローブ
バイオハザードバッグ
ヨウ素
アルコールワイプ 。
【0086】
器具:
生物学的安全キャビネット(BSC)
遠心分離機
滅菌連結デバイス
顕微鏡、光学
温度計
水槽
血球計算板
ピペット
Freezerworksを備えたコンピューター
Ambient Shipper 。
【0087】
A.洗浄液の調製
1.注入に必要な細胞用量をレシピエントの体重に基づいて計算した。レシピエントの体重に基づいた注入に必要な細胞数を、1kg当たりの細胞用量にレシピエントの体重(kg)を乗じて必要な細胞数を求めた。
2.次いで、計算した細胞用量を達成するために必要なクライオバイアルの数を決定した。
a.細胞混合物1mlは、15×10の細胞を含む。
3.次いで、すべての必要なクライオバイアルを解凍するのに必要な洗浄液の容量を計算した:
以下の例の場合、以下に列記するすべての数値は、100kgの患者に対してのものである。
(1)7×10の細胞の用量の場合=解凍産物約7mlおよび洗浄液108mlを使用した;
(2)2×10の細胞の用量の場合=解凍産物約19mlおよび洗浄液156mlを使用した;
(3)5×10の細胞の用量の場合=解凍産物約46mlおよび洗浄液264mlを使用した;
b.洗浄液=容量の20%が保存アルブミン(25%ヒト、USP、12.5g/50ml)、80%がプラズマライト
4.雌端部を、300mlトランスファーパックに滅菌接続した。
5.滅菌技術を用いて、計算した容量のプラズマライトを取り出してトランスファーパックに入れた。
6.計算した容量のアルブミンを取り出して、このアルブミンをプラズマライトに添加した。
7.バッグを十分に混合し、氷上の管に入れ、溶液を少なくとも10分間冷やした。
【0088】
B.解凍および洗浄
1.hMSCを含むクライオバイアルの外側を70%アルコールで拭き、氷の入ったバケットに入れた。
2.各バイアルを一度に解凍した。
3.バイアルを70%アルコールでしっかりと拭き、生物学的安全キャビネットに入れた。
4.5ml血清用ピペットを用いて、解凍産物を取り出して、「解凍された洗浄済み産物」と書かれたラベルが貼られた管に入れた。
5.適切なサイズの血清用ピペットを用いて、必要な量の洗浄液を取り出した(バイアルの容量の4倍)。
a.洗浄液を、解凍産物にゆっくりと滴下した。細胞が正常な浸透圧条件に順応するように、産物を軽くすすぎながら洗浄液を細胞に徐々に導入した。軽くかき混ぜながら洗浄液をゆっくりと添加することで、解凍中に細胞膜が浸透圧衝撃によって破裂するのを防止する。
b.洗浄液1mlを使用してクライオバイアルをすすいだ。
c.このすすぎ液を産物円錐管に添加した。
6.円錐管を氷上に置き、次のバイアルを回収した。
7.ステップ1〜5を残りのすべてのバイアルに対して繰り返した。
a.用量が多い場合は、半分に分けて、解凍した容量の半分を250ml円錐管に入れ、残りの半分を別の250ml円錐管に入れた。
8.解凍された洗浄済み産物の管を、ゆっくりと休みを入れて500gで5分間、遠心分離した。
9.血清用ピペットを用いて上清(細胞ペレットから約1インチ)をゆっくりと取り出した。
10.細胞ペレットを、洗浄液5mlに再懸濁した。
a.用量が多い場合
(1)細胞ペレットを残りの上清に再懸濁した。
(2)細胞ペレットを混合した。
(3)洗浄液5mlを用いて、細胞ペレットが除去された円錐管をすすぎ、洗浄液を産物に添加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)骨髄を提供する工程;
(b)前記骨髄を、組織培養皿の培養培地で2〜10日間培養する工程;
(c)非接着細胞を除去する工程;
(d)接着細胞を、血小板溶解産物添加培地で9〜20日間培養する工程;および
(e)前記接着細胞を前記組織培養皿から取り出す工程;
によって生成される、間充織間質細胞の集団。
【請求項2】
前記間充織間質細胞の集団が、哺乳動物の間充織間質細胞の集団である、請求項1に記載の集団。
【請求項3】
前記哺乳動物の間充織間質細胞の集団が、ヒトの間充織間質細胞の集団である、請求項2に記載の集団。
【請求項4】
前記血小板溶解産物が、培養培地1ml当たり血小板溶解産物約20μlの割合で前記培養培地に存在する、請求項1に記載の集団。
【請求項5】
前記血小板溶解産物が、プールされた血小板濃縮物または遠心分離後にプールされたバフィーコートからなる、請求項1に記載の集団。
【請求項6】
間充織間質細胞の集団であって、前記間充織間質細胞の集団が、血小板溶解産物添加培養培地で培養されたものであり、前記間充織間質細胞の集団が、ウシ胎仔血清添加培養培地で培養された間充織間質細胞よりも高い程度でPickle 1を発現する、集団。
【請求項7】
血小板溶解産物で培養された前記間充織間質細胞の集団が、ウシ胎仔血清添加培養培地で培養された間充織間質細胞よりも免疫原性が低い、請求項6に記載の集団。
【請求項8】
間充織間質細胞の集団であって、前記集団が、その表面に抗原CD105、CD90、CD73、およびMHC Iを発現する、集団。
【請求項9】
前記集団が、その表面にCD45、CD34、およびCD14からなる群から選択されるタンパク質を発現しない、請求項8に記載の集団。
【請求項10】
間充織間質細胞の集団を治療有効用量投与することによって、必要とする被験体の神経障害、炎症性障害、または腎障害を処置する方法であって、前記間充織間質細胞の集団は:
(a)骨髄を提供する工程;
(b)前記骨髄を組織培養皿の培養培地で2〜10日間培養する工程;
(c)非接着細胞を除去する工程;
(d)接着細胞を、血小板溶解産物添加培地で9〜20日間培養する工程;および
(e)前記接着細胞を前記組織培養皿から取り出す工程;を含む方法によって単離される、方法。
【請求項11】
前記障害が神経障害である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記神経障害が脳卒中である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記障害が炎症性障害である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記炎症性障害が多臓器不全である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記障害が腎障害である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記腎障害が、急性腎不全、慢性腎不全、および慢性腎疾患からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
間充織間質細胞の集団を単離する方法であって、前記方法は:
(a)骨髄を提供する工程;
(b)前記骨髄を組織培養皿の培養培地で2〜10日間培養する工程;
(c)非接着細胞を除去する工程;
(d)接着細胞を、血小板溶解産物添加培地で9〜20日間培養する工程;および
(e)前記接着細胞を前記組織培養皿から取り出し、それによって間充織間質細胞の集団を単離する工程を含む、方法。
【請求項18】
前記間充織間質細胞の集団が、哺乳動物の間充織間質細胞の集団である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記哺乳動物の間充織間質細胞の集団が、ヒトの間充織間質細胞の集団である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記血小板溶解産物が、培養培地1ml当たり血小板溶解産物約20μlの割合で前記培養培地に存在する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記血小板溶解産物が、プールされた血小板濃縮物または遠心分離後にプールされたバフィーコートで構成されている、請求項17に記載の集団。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−529706(P2011−529706A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522168(P2011−522168)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/052733
【国際公開番号】WO2010/017216
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(511031065)アローキュア インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】