説明

間葉幹細胞の無血清増殖のための細胞培養環境

多能性表現型を維持させながら、間葉幹細胞の増殖を促進するための組成物および方法を開示する。間葉幹細胞増殖のための無血清細胞培養システムおよびキットおよび使用方法を提供する。方法は、種々の障害または疾患、特に心血管系、骨または軟骨の障害または疾患を治療するための増殖させた間葉幹細胞の使用も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性表現型を維持させながら、間葉幹細胞の増殖をもたらす無血清細胞培養システム、および増殖させた間葉幹細胞集団を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉幹細胞(MSC)は、成人組織に存在しており、分離し、培養で増殖させ、in vitroおよびin vivoで特性を評価することができる細胞の集団を構成する(例えば、非特許文献1参照)。MSCは、骨芽細胞、軟骨細胞、内皮細胞および神経細胞を含む複数の細胞系統に分化することができ、内皮、神経、平滑筋、骨格筋芽および心筋細胞の表現型特性を発現することができる(例えば、非特許文献2および非特許文献1参照)。近年、MSCは、損傷または罹患組織の修復を含む一連の治療に用いることができる可能性があるため、多大な実験的および臨床的関心を集めている(例えば、非特許文献3および非特許文献4参照)。
【0003】
一般的に、MSCは、培養中に剥離し、死ぬので、無血清環境中では非常にうまくいかない。これらMSCは最小限の血清(例えば、<1%)によりin vitroで付着状態を維持することができるが、そのような環境はMSCの増殖および成長にほとんど刺激を与えない。MSC増殖のための無血清細胞培養環境が記載されている(例えば非特許文献5および特許文献1)が、現行の工業的な標準では依然として大量の血清を含んでいる。
【0004】
MSCの増殖のために無血清環境が望ましいことに加えて、無血清培地および培養システムは細胞治療の分野で大きな有用性を有する。細胞増殖のために高度に規定された環境を作ることは質の目的のために非常に重要であり、血清レベルは一般的に非常に不十分にしか規定されていない(例えば、特許文献1参照)。さらに、血清の存在下で培養した細胞の投与を受ける患者における牛海綿状脳症(BSE)汚染のリスクが存在する。そのようなリスクは、動物血清の存在下で培養した細胞を含む治療をFDAが許可しないという可能性を生じさせる。
【0005】
前述の理由のために、MSCの増殖のための新たな無血清細胞培養システムの開発が望ましい。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5908782号明細書
【特許文献2】国際公開第99/14313号パンフレット
【特許文献3】国際公開第99/32536号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/56376号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0036980号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0062882号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2003/0113813号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2003/0113812号明細書
【特許文献9】米国特許第4789601号明細書
【特許文献10】米国特許第4822741号明細書
【特許文献11】米国特許第4839280号明細書
【特許文献12】米国特許第6037141号明細書
【特許文献13】米国特許第6048723号明細書
【特許文献14】米国特許第6218178号明細書
【特許文献15】米国特許第6057150号明細書
【特許文献16】米国特許第6107081号明細書
【特許文献17】米国特許第4851521号明細書
【特許文献18】米国特許第5451613号明細書
【特許文献19】米国特許第6479064号明細書
【特許文献20】米国特許第6040138号明細書
【特許文献21】米国特許第5800992号明細書
【特許文献22】米国特許第6020135号明細書
【特許文献23】米国特許第6344316号明細書
【特許文献24】米国特許第6033860号明細書
【特許文献25】米国特許第5143854号明細書
【特許文献26】米国特許第5445934号明細書
【特許文献27】米国特許第5744305号明細書
【特許文献28】米国特許第5677195号明細書
【特許文献29】米国特許第6040193号明細書
【特許文献30】米国特許第5424186号明細書
【特許文献31】米国特許第6329143号明細書
【特許文献32】米国特許第6309831号明細書
【特許文献33】米国特許出願公開第2004/0063206号明細書
【非特許文献1】Pittenger and Martin (2004) Circ. Res. 95:9-20
【非特許文献2】Kassem et al. (2004) Basic Clin. Pharmacol. Toxicol. 95:209-214
【非特許文献3】Baksh et al. (2004) J. Cell. Mol. Med. 8:301-316
【非特許文献4】Barry and Murphy (2004) Int. J. Biochem. Cell Bio. 36:568-584
【非特許文献5】Lennon et al. (1995) Exp. Cell Res. 219:211-222
【非特許文献6】Chen et al. (2000) Advanced Materials 12:455-457
【非特許文献7】Garbassi et al., (1994) Polymer Surfaces, from Physics to Technology (Wiley, Chichester)
【非特許文献8】Inagaki (1996) Plasma Surface Modification and Plasma Polymerization (Technomic Publishing Company, Lancaster)
【非特許文献9】Pittenger et al. (1999) Science 284:5411 143
【非特許文献10】Fodor et al. (1991) Science 251:767-77
【非特許文献11】Waymouth(1984) "Preparation and Use of Serum-free Culture Media," in Cell Culture Methods for Molecular and Cell Biology, Vol. 1, Methods for Preparation of Media, Supplements, and Substrata for Serum-Free Animal Cell Culture, eds. Barnes et al. (Alan R. Liss), pp. 23-68
【非特許文献12】Doyle et al. (1995) Cell & Tissue Culture: Laboratory Procedures (John Wiley & Sons, Chichester)
【非特許文献13】Ballen et al. (2001) Transplantation 7::635-645
【非特許文献14】Itskovich-Eldor et al. (2000) Mol.Med. 6:88
【非特許文献15】Mahoney and Saltzman (2001) Nature Biotech 19:934
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
多能性表現型を維持させながら、間葉幹細胞(MSC)増殖を促進するための構成物および方法を提供する。構成物は、無血清細胞培養培地および2次元または3次元細胞培養表面を含むMSCの増殖用の無血清細胞培養システムを含む。本発明の無血清細胞培養システムでは、少なくとも1つの不溶性基質タンパク質が細胞培養表面からもたらされる。1つの実施形態において、細胞培養表面は、少なくとも1つの不溶性基質タンパク質に結合する細胞接着抵抗性(CAR)物質に結合した細胞培養支持体を含む。本発明で使用するための不溶性基質タンパク質は、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸(HA)、ビトロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVIなどのコラーゲンタンパク質、またはそのいずれかの組合せなどの細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を含む。1つの実施形態において、細胞培養表面は、少なくとも1つの不溶性基質タンパク質、例えば、少なくとも1つのECMタンパク質に結合する細胞接着抵抗性(CAR)物質に結合した細胞培養支持体を含む。無血清細胞培養培地は、可溶性MSC成長促進因子の混合物を含む溶液である。構成物は、MSCの増殖に適する無血清細胞培養培地および2次元または3次元細胞培養表面を含むキットをさらに含む。
【0008】
本発明の方法は、MSCの増殖を促進するためのこれらの無血清細胞培養システムの使用を含む。さらなる方法は、心血管系、筋肉、靭帯、骨、腱、軟骨、神経系、血液、免疫系、肝臓もしくは膵臓の様々な障害または疾患を治療するために、細胞移植あるいは組織を工学処理するためのこれらの無血清細胞培養システムおよび増殖させたMSCの使用を含む。さらなる方法は、MSCが一次吸引液中に存在する非MSCと共培養されるように、骨髄全体からの一次吸引液中のMSCの増殖を促進するためのこれらの無血清細胞培養システムの使用を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、これら細胞の多能性表現型を維持させながら、間葉幹細胞(MSC)の増殖を促進するための組成物および方法に関する。MSCの増殖のための無血清細胞培養システムを提供する。これらの細胞培養システムは、無血清細胞培養培地および2次元または3次元細胞培養表面を含む。無血清細胞培養培地は、可溶性MSC成長促進および自己再生因子の混合物を含む溶液である。本発明の無血清細胞培養システムにおいて、細胞培養表面から少なくとも1つの不溶性基質タンパク質がもたらされる。1つの実施形態において、細胞培養表面は、少なくとも1つの不溶性基質タンパク質に結合する細胞接着抵抗性(CAR)物質に結合した細胞培養支持体を含む。不溶性基質タンパク質は、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸(HA)、ビトロネクチン、もしくはコラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVIなどのコラーゲンタンパク質、またはそのいずれかの組合せなどの細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を含むが、これらに限定されない。本発明の他の構成物は、MSCの増殖に適する、本発明の無血清細胞培養システムを含むキットを含む。
【0010】
本発明の方法は、MSCの増殖を促進し、組織を工学処理するためのこれらの無血清細胞培養システムの使用を対象とする。本発明の増殖させたMSCは、特に、心血管系、筋肉、靭帯、骨、腱、軟骨、神経系、血液、免疫系、肝臓もしくは膵臓の様々な障害または疾患を治療するために用いることができる。
【0011】
「間葉」という用語は、骨髄、内皮細胞、内皮前駆細胞、心筋細胞、星状細胞、ニューロン、軟骨細胞、骨芽細胞、膵細胞、肝細胞および間葉由来の他の細胞のような細胞を意味することを意図する。本明細書で用いる「間葉幹細胞」または「MSC」という用語は、間葉系の細胞を生じさせる細胞を指す。
【0012】
「増殖させた」という用語は、結果として生じた細胞集団がサイトカインの混合物を含む培地組成物中での幹細胞のex vivo培養から得られ、出ていく(培養した)細胞の数が、入ってくる(培養していない)細胞の数を超えることを意味することを意図する。「増殖させた」という用語は、細胞起源のメカニズムまたは理論によって解釈または限定すべきでなく、de novo培養で新たに生ずる細胞を含んでいてよい。
【0013】
本発明の無血清細胞培養システムは、無血清細胞培養培地および細胞培養表面を含む。1つの実施形態において、少なくとも1つの不溶性基質タンパク質が細胞培養表面からもたらされる。これは、不溶性基質タンパク質が細胞培養表面に結合、吸着、連結、付着または何らかの方法で結合していることを意味する。適切な不溶性基質タンパク質は、本明細書に開示されるECMタンパク質を含む。そのような1つの実施形態において、細胞培養表面からもたらされる不溶性基質タンパク質は、コラーゲンIとフィブロネクチンとの組合せである。他の実施形態において、細胞培養表面は、少なくとも1つの不溶性基質タンパク質に結合する、細胞接着抵抗性材料に結合されている細胞培養支持体を含む。細胞培養支持体は、固体または多孔性の、ポリマー、金属、ガラス、セラミック、またはその組合せであってよい。この細胞培養表面および無血清細胞培養培地の存在下でのMSCの培養は、意外にもそれらの多能性表現型を維持させながら、これらの細胞の増殖をもたらす。
【0014】
本明細書で用いるように、細胞接着抵抗性(CAR)という用語は、表面上に存在するとき、細胞、細胞表面上の認められるタンパク質またはポリペプチドの非特異的結合(接着)を妨げ、抑制しまたは低減する物質を指す。CAR物質は、哺乳類細胞の接着に対して、また微生物に対しても抵抗性を有する。CAR物質は、時として非付着性物質、不活性コーティング、低親和力試薬または非接着性コーティングを指す。
【0015】
CAR物質が結合する細胞培養支持体は、2次元または3次元の固体または多孔質であってよく、天然ポリマー、合成ポリマー、ヒドロゲル、金属、セラミックおよび無機もしくは有機複合材料などを含む様々な物質のいずれかにより構成されていてよい。細胞培養支持体は、例えば、溶媒キャスティング、圧縮成形、フィラメント延伸、メッシング、リーチング、製織およびコーティングなどの方法を用いて成形することができる。
【0016】
適切なポリマーおよびヒドロゲルの具体例は、コラーゲン、グルコサミノグルカン(GAG)ベース材料、アルギン酸塩、ヒアルロン酸塩、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリオルトエステルおよびポリ酸無水物などのポリ(α−エステル)およびそれらのコポリマー、セルロースエーテル、セルロース、セルロースエステル、フッ素化ポリエチレン、フェノール、ポリ−4−メチルペンテン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリベンゾオキサゾール、ポリカーボネート、ポリシアノアリールエーテル、ポリエステルカーボネート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリフルオロオレフィン、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリオキサジアゾール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリチオエーテル、ポリトリアゾール、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、再生セルロース、尿素ホルムアルデヒドまたはこれらの物質のコポリマーもしくは物理的混合物を含むが、これらに限定されない。
【0017】
さらなる具体例は、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(オルトエステル)、ポリセバシン酸ポリマー(PSA)、乳酸グリコール酸コポリマー(PLGA)、乳酸セバシン酸コポリマー(PLSA)、グリコール酸セバシン酸コポリマー(PGSA)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(ポリHEMA)またはポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドコポリマーなどのヒドロゲル、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などの合成ポリマーを含む。PHAsおよびそれらの生産は、例えば、特許文献2、特許文献3および特許文献4に記載されている。天然由来および合成ポリマー材料(例えば、PGAおよびPLGA)を含むハイブリッド材料も用いることができる。そのような材料の非限定的な例は、非特許文献6に開示されている。
【0018】
本発明において有用な他のポリマーは、カプロラクトン、カーボネート、アミド、アミノ酸、オルトエステル、アセタール、シアノアクリレートおよび分解性ウレタンのポリマーもしくはコポリマー、ならびに直鎖もしくは分枝、置換もしくは非置換アルカニル、ハロアルキル、チオアルキル、アミノアルキル、アルケニルまたは芳香族ヒドロキシカルボン酸もしくはジカルボン酸とこれらとのコポリマーなどである。さらに、リシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシンおよびシステインまたはそれらのエナンチオマーなどの反応性側鎖基を有する生物学的に重要なアミノ酸は、前述の材料のいずれかとのコポリマーに含まれてもよい。
【0019】
1つの実施形態において、ポリマー表面は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ乳酸およびセルロースからなる群から選択される。ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーンポリマーも用いられる。
【0020】
無機複合材料は、例えば、リン酸カルシウムセラミックス、生体ガラス、生体活性ガラスセラミックス、詳細には、カルシウムヒドロキシアパタイトとケイ素安定化リン酸三カルシウムとを組み合わせた複合材料などである。中でも、好ましい細胞培養支持体は、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリフルオロエチレンもしくはポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクチド、セルロース、ガラスまたはセラミックである。
【0021】
その多くが当業者に知られている任意の適切なCAR物質を、細胞培養支持体に結合させることができる。一般的なCAR物質は、ヒアルロン酸(HA)もしくはその誘導体、アルギン酸(AA)もしくはその誘導体、ポリ−HEMA、ポリエチレングリコール(PEG)、グリムもしくはその誘導体、ポリプロピルアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミドまたはこれらの化合物の組合せなどを含む。1つの実施形態において、CAR物質はHAである。
【0022】
ある実施形態において、プロテオグリカン、ビグリカン、グリコサミノグリカンまたはMatrigel(商標)の1つまたは複数をCAR物質に結合させることができる。
【0023】
他の実施形態において、タンパク質または他の物質をCAR物質に共有結合または非共有結合により結合させることができるが、好ましくは共有結合により結合させる。タンパク質または他の物質は、例えば、ECMタンパク質または多価陽イオン性ポリマーを含む。本発明に用いるためのECMタンパク質は、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸(HA)、ビトロネクチン、またはコラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンVおよびコラーゲンVIなどのコラーゲンタンパク質、またはそのいずれかの組合せを含んでいてよい。種々の型の共有結合が形成され得る。その一部は、すべてが参照により本明細書に組み込まれている、同時継続の同一出願人による特許文献5、特許文献6、特許文献7および特許文献8により詳細に述べられている。これらの願書は、CAR物質およびECMタンパク質が結合した細胞培養支持体を含む表面を調製し、使用する他の態様も開示している。
【0024】
1つの実施形態において、本明細書に開示するような1つもしくは複数のECMタンパク質および/または1つもしくは複数の多価陽イオン性ポリマーがCAR物質に結合している。1つの実施形態において、コラーゲンIとフィブロネクチンの混合物がCAR物質に結合している。
【0025】
ECMタンパク質は、ペプチドもしくはタンパク質の断片またはその組合せを含む、天然に存在するポリペプチド(タンパク質)、組換えポリペプチドまたは合成もしくは半合成ポリペプチドの形態であってよい。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では同義で用いる。
【0026】
ECMタンパク質などのポリペプチドをクローニング、発現および精製する方法は、合成または半合成ポリペプチドを生成させる方法と同様に、通常の方法である。ECMタンパク質は、商業的供給源からも入手することができる。
【0027】
ECMタンパク質または多価陽イオン性ポリマーは、共有または非共有結合(例えば、静電力、イオンもしくは水素結合、親水性もしくは疎水性相互作用、ファンデルワールス力等により受動的に吸着)によりCAR物質に結合させることができる。好ましい実施形態において、結合は共有結合である。特許文献6、特許文献7および特許文献8は、CAR表面への分子のそのような共有結合を記載している。
【0028】
CAR物質が細胞培養支持体に結合し、ECMタンパク質、多価陽イオン性ポリマーまたは同様なものがCAR物質に結合している表面を調製する方法は、特許文献6、特許文献7および特許文献8に詳細に記載されている。簡単に述べると、CAR物質を細胞培養支持体に結合させる1つの方法は、細胞培養支持体を酸化プラズマで処理する段階、およびCAR物質を処理済み細胞培養支持体に結合させる段階を含む。CAR物質を細胞培養支持体に結合させる他の方法は、細胞培養支持体を酸化プラズマで処理する段階、処理済み細胞培養支持体をアミノ基を有する多価陽イオン性ポリマー(PEI、PDL、ポリ−L−リシン(PLL)、ポリ−L−オルニチン(PLO)、ポリ−D−オルニチン(PDO)、ポリ(ビニルアミン)(PVA)またはポリ(アリルアラニン)(PAA)など、1つの実施形態においてPEIまたはPDL)に曝露させて中間層を形成させる段階、およびCAR物質を中間層に結合させる段階を含む。ECMまたは多価陽イオン性ポリアミノ酸をCAR物質に結合させる方法は、従来の方法である。これらは、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム酸化および還元的アミノ化、EDC/NHSカルボジイミドカップリング等を含む。
【0029】
本発明はまた、培養における柔軟な基質の使用に関する。例えば、Flexcell International Corporation製のFlexercell培養システムは、培養細胞に引張、圧縮またはせん断応力を加えることができる。例えば、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13および特許文献14を参照のこと。特許文献15は、細胞外マトリックスタンパク質を被覆し、培養細胞で覆うことができる弾性膜への2軸ひずみの適用を開示している。特許文献16は、弾性ストリップを含む1方向細胞伸長装置が、細胞を培養し、伸長させる細胞外マトリックスで覆われている他のシステムを開示している。柔軟な基質は、容易かつ制御された方法で変形させることができ、また、従来の細胞培養基質と同様に、細胞接着および成長を支持する。ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)などのシリコーンは、非常に柔軟であるだけでなく、細胞培養の顕微鏡的観察を可能にする光学的透明性も備えているので、この適用例にも特に適している。
【0030】
本発明の他の態様は、(a)CAR物質を細胞培養支持体に結合させ、(b)CAR物質に、コラーゲンIおよびフィブリネクチン、またはその生物学的に活性な断片もしくは変異型、ならびに場合によって、1つもしくは複数の他のECMタンパク質(またはECMタンパク質の生物学的に活性な断片もしくは変異型)および/または1つもしくは複数の多価陽イオン性ポリマーに結合させることを含む、本発明の上の細胞培養表面を調製する方法である。本明細書に開示するECMタンパク質もしくは多価陽イオン性ポリマーのいずれか、またはその他のものを用いてもよい。
【0031】
1つの実施形態において、細胞培養支持体を酸化プラズマで処理し、CAR物質を処理済み細胞培養支持体に結合させることによって、CAR物質を細胞培養支持体に結合させる。他の実施形態において、細胞培養支持体を酸化プラズマで処理し、処理済み細胞培養支持体をアミノ基を有する多価陽イオン性ポリマーに曝露させて中間層を形成させ、CAR物質を中間層に結合させることによって、CAR物質を細胞培養支持体に結合させる。好ましくは、多価陽イオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)またはポリ−D−リシン(PDL)である。
【0032】
1つの実施形態において、HAなどのCAR物質は、重合した窒素含有表面に直接結合される。そのような表面の具体例は、アンモニアプラズマ処理ポリマーおよびPrimaria(商標)処理ポリスチレン(PS)表面ならびにポリ−D−リシン被覆表面である。本発明における使用に適する重合基質としては、ポリスチレンが好ましいが、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリラクチド、セルロース等を含む。
【0033】
HAは、中間ポリアミン層、例えば、ポリエチレンイミン、ポリ−D−リシンまたはポリ−L−リシンに直接固定化されるか、あるいは中間層に結合させたHAを用いてポリマーに直接結合される。
【0034】
プラズマ法の使用は当業者によく知られている(例えば、非特許文献7および非特許文献8参照)。本発明においては、プラズマ処理方法は、窒素をポリマー材料の表面に取り込ませて、反応性アミンまたは他の窒素含有基を生じさせることができる、直接ならびに遠隔プラズマ処理方法を含むいずれの方法であってもよい。適切なプラズマ処理の具体例は、窒素、酸化窒素、二酸化窒素または気相のアンモニアなどの反応性ガスを単独または空気、アルゴンもしくは他の不活性ガスと混合して用いるものであり、アルゴンもしくは他の不活性ガスを用いる処理に先行もしくは後続してもよい。プラズマは、場合によっては全処理時間にわたって持続させ、あるいは場合によってはパルスで加える。好ましくは、プラズマガスはアンモニアであり、処理は、1〜400W、好ましくは10〜150Wの電力量と、10mtorrから10tonの圧力と、1秒から1時間、好ましくは10秒から30分の処理時間とを用いて実施される。
【0035】
プラズマ処理ポリスチレンは、例えば、処理チャンバーを0.3mTorrの基準圧(base pressure)までポンプで排気し、200mTorrのアルゴン雰囲気を確立し、60秒間のアルゴンプラズマ処理を施した後、95Wで120秒間の375mTorrのNHプラズマ処理を施すことによって調製することができる。他の適切な処理は、当業者に公知であろう。被覆すべき表面のプラズマ処理の後に、プラズマ処理表面は、カルボジイミドなどの縮合剤、例えば、水溶液中のエチルジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)または有機溶媒中のジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の存在下で、HAもしくはその誘導体またはアルギン酸(アルギン酸塩;AA)を含む水溶液に曝露させることができる。「曝露する」または「曝露」という用語は、本明細書で用いるように、例えば、これらに制限されないが、ピペッティング、注加、噴霧、滴下、浸漬、ディッピング、注入等によって液体と固体との間で行われるあらゆる種類の接触を含むことを意図する。
【0036】
HAは、β−1,4−グルクロネート−β−1,3−N−アセチルグルコサミンの反復単位からなる陰イオン性多糖である。本明細書に記載した方法を用いてアミンを含む表面にHAを共有結合させるのに利用することができる反応性−COO基がHAのすべての反復単位に存在する。この方法で、EDCなどの縮合剤は、HAに存在する−COO基を活性化して、反応性エステル中間体(エステル(o−アシルイソ尿素)中間体)を生成させる。この中間体は、非常に不安定で、加水分解を受けて、活性化エステル中間体が分解することとなり、イソ尿素を生成し、−COO基が再生される。この反応性エステル中間体を安定化し、反応収率を高くするために、EDCによって促進される反応を増強させることができる分子も存在すべきである。そのような安定化化合物は、一般的にN−ヒドロキシスクシンイミドおよびそのアリールまたは複素環式誘導体の部類から選択される。好ましいN−ヒドロキシスクシンイミド類は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)またはヒドロキシベンゾトリアゾール水和物を含むが、これらに限定されない。特定の理論に束縛されることを意図するものでないが、アミンを含むポリマー表面へのHAの結合は、(例えば、)EDCとNHSが結合して、アミンに結合することができるカルボキシル基を有する活性エステル多糖が生成するというメカニズムによって起こると考えられる。結合が起こるとき、NHSが放出される。このようにしてEDCと反応することができ、反応性中間エステル安定化化合物として機能する当技術分野で知られている他の化合物も本発明において有効である。このようにしてプラズマ処理ポリスチレンに共有結合させたHAは、NIH3T3および骨芽細胞MC3T3細胞ならびにMSCのおよび種々の初代および幹細胞を含む多種類の細胞のいずれかの付着を妨げる。
【0037】
本発明に用いることができるHAの適切な誘導体は、当業者に公知であろうし、及び、例えば、特許文献17に記載されている。これらは、脂肪族、アル脂肪族(araliphatic)、脂環式および複素環式系列のアルコールとHAとの部分エステル、ならびにそのような部分エステルと無機または有機塩基との塩などを含む。アルギン酸の同様な誘導体も有用である。さらに、アミンおよび他の窒素含有基を有する表面を生成させるための他のプラズマ処理方法も適切であり、当業者に公知である。
【0038】
無血清細胞培養システムに使用するための細胞培養表面は、シート、スライド、培養皿、培養フラスコ、バッグ、培養ビンまたはマルチウエル皿を含む標準組織培養皿または二次元表面を含むが、これらに限定されない。あるいは、これらに制限されないが、発泡材、ヒドロゲルまたは繊維メッシュを含むマイクロキャリヤまたは3次元(3−D)足場などの3次元細胞培養表面を、3次元細胞培養、組織または臓器を発生させるために用いてもよい。本明細書では「3次元足場」は、細胞培養のために非常に高い表面積対容積比を備えた3−D多孔性鋳型を指す。これらの足場は、最初の細胞付着および増殖のために、あるいはその後のin vitroまたはin vivoでの組織形成のために用いることができる。本発明による3−D足場は、基材(下に述べる)、CAR層、および本明細書で開示するECMsなどのそれに結合する1つまたは複数の不溶性基質タンパク質、ならびに場合によって、細胞付着、成長、移動および/または分化を促進または増強する他の物質を含む。1つの実施形態において、足場をMSCで播種し、in vivo状況をより厳密に模倣する構造環境で細胞の成長および分化を可能にするために、本明細書で下に述べる無血清細胞培養培地と接触させる。それにより得られる細胞は、足場から分離することができ、あるいは足場とともに、または足場を含めずに哺乳類、好ましくはヒト患者の体内の適切な位置に移植することができる。しかし、この技術の使用は、ネコ、イヌ、ウマ等のヒト以外の哺乳類に容易に転換することができよう。
【0039】
3−D足場の形状および寸法は、置換または補足する器官ならびに構築物を生成させるために用いる足場材料の種類に基づいて決定する。例えば、ポリマーの足場を心臓組織の置換または補足のために用いる場合、ポリマーの足場の寸法は、ポリマーの足場の幅および長さによって異なる可能性がある。当業者は、ポリマーの足場のサイズおよび寸法が置換または補足する器官の部位に基づいて決定されることを認識している。さらに、医療用具、体外装置ならびに人工関節、チューブ、縫合糸、ステント、整形外科用機器、血管グラフト、膜、フィルム、バイオセンサーまたはミクロ粒子を含む他の適切な材料が本発明の細胞培養支持体表面を構成してよい。
【0040】
1つの実施形態は、1つまたは複数の不溶性基質タンパク質、例えば、本明細書で開示するECMsが共有結合または非共有結合するCAR表面を含む3−D足場材料または他の適切な材料を用いて組織工学的に処理した構築物を形成する方法を含む。本明細書で開示する無血清細胞培養培地と組合わされたそのような足場は、in vivo対応物と類似した成人組織の成分を形成するためにさらなる培養MSCのin vitroでの成熟、発育および分化を支持する。
【0041】
組織工学的に処理された構築物は、1つの実施形態において、本明細書で下に述べる無血清細胞培養培地の存在下で細胞が沈着し、培養され、細胞が成長し、付着する基質として本明細書で開示する足場材料を用いて構築される。足場は、最適な細胞間相互作用を可能にし、それにより、細胞表現型および組織微小環境のより自然な形成を可能にする。足場はまた、MSCが活発に成長し、増殖し、分化し続けて、必要な場合、さらなる培養細胞集団の成長、増殖および分化を支持することもできる組織工学的に処理された構築物を形成することも可能にする。
【0042】
1つの実施形態において、足場は、生体適合性であり、細胞付着およびその後の組織の成長の助けとなる。他の表面特性は、機械的強度または熱的特性などの足場の他の特性を変化させずに、意図する適用分野に適合するように改質することができる。有用な表面改質は、例えば、化学基の官能性、表面電荷、疎水性、親水性および濡れ性の変化などを含むこともある。CAR表面技術は、3−D足場の表面に容易に適用することができる。そのような表面改質は、当技術分野でよく知られている。
【0043】
滅菌は、足場に細胞を播種する前に行う。熱処理によりデバイスが変形するので、特に材料が熱滅菌処理に必要な温度より低い融点を有する場合に、熱滅菌はしばしば実際的でない。例えば、低温エチレンオキシドガス、蒸気過酸化水素処理を、滅菌に用いることができる。
【0044】
本発明の3−D足場は、本明細書で上記に開示したポリマー材料などの構築のための適切な基材を含む。ポリマーマトリックスは、本明細書で下に述べる無血清培養培地から栄養素が沈着細胞集団に到達するが、培養細胞が細孔を経て移動することを妨げることを可能にする、制御された細孔構造を有するように製造することができる。in vitro細胞付着および細胞生存度は、走査型電子顕微鏡、組織学および放射性同位元素を用いた定量的評価を用いて評価することができる。
【0045】
ポリマーマトリックスは、あらゆる数の全体的システム、幾何構造または空間的制限を満たすあらゆる数の所望の構造に成形することができる。ポリマーマトリックスは、種々の大きさの患者の器官に適合する種々の大きさに成形することができる。したがって、組織工学的に処理された構築物は、平坦、管状または複雑な幾何構造のものであってよい。構築物の形状は、その意図した用途によって決定される。構築物は、器官の罹患または損傷した部分を修復、補足または置換するために移植することができる。
【0046】
1つの実施形態において、足場基材は、一般的に水に不溶性または難溶性であるが、過剰な水の存在下で平衡サイズまで膨潤することができる架橋ポリマー網目構造からなるヒドロゲルである。例えば、MSCをヒドロゲルに配置させ、ヒドロゲルを器官内の所望の位置に注入することができる。ヒドロゲル組成物は、これらに制限されないが、例えば、ポリ(エステル)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミド)、ポリ(エステル−アミド)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(酸無水物)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(チオエステル)、多糖およびそれらの組み合わせを含むことができる。
【0047】
さらに、組成物は、例えば、ポリ(α−ヒドロキシ)酸およびポリ(β−ヒドロキシ)酸などのポリ(ヒドロキシ)酸を含むことができる。そのようなポリ(ヒドロキシ)酸としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸、ポリ酪酸、ポリ吉草酸、そのコポリマーおよびそれらの組合せを含む。ヒドロゲルの特有の特性および放出制御薬物送達などの分野におけるそれらの潜在的な適用のため、様々な種類のヒドロゲルが合成され、特徴付けられている。本発明のマトリックス材料は、従来の発泡体またはスポンジ材料およびいわゆるヒドロゲルスポンジ(例えば、特許文献18参照)を包含する。
【0048】
本発明による本明細書で開示する無血清細胞培養培地の存在下で足場材料上に成長した間葉幹細胞は、多層で成長し、in vivoで認められる生理的状態に類似した細胞構造を形成してもよい。足場は、異なる種類の細胞の増殖および多数の異なる組織の形成を支持することができる。具体例は、腎臓、心臓、皮膚、肝臓、膵臓、副腎および神経組織、ならびに胃腸管および尿生殖管および循環系の組織を含むが、これらに限定されない。
【0049】
上述の足場上で成長または増殖させた細胞は、様々な適用分野において、単独または足場と組み合わせて用いることができる。例えば、足場および細胞を対象に移植することができる。インプラントは、例えば、天然の心血管組織を置換または補足することによって心血管障害を有する対象を治療することにより、既存の組織を置換または補足するために用いることができる。対象は、移植後に心血管障害の改善についてモニターすることができる。3次元生体適合性足場を、本発明の血管系を促進する増殖させたMSCと接触させ、次いで、標的部位(例えば、器官内)で宿主組織と、あるいは移植前に器官の組織を足場上で成長させるところで接触させることができる。移植片は、標的部位内で成長し、増殖して、器官の欠乏した機能の代わりとなり、またはそれを補足することができる。構築物は、宿主における1つの位置に加えられることができ、あるいは、複数の構築物を構築し、宿主における複数の部位に加えることができる。
【0050】
本明細書で用いるように「標的部位」という用語は、置換または補足を必要とする宿主または器官における領域を指す。標的部位は、器官または宿主における1つの領域であっても、あるいは器官または宿主における複数の領域であってもよい。いくつかの実施形態において、補足または置換は、正常な器官と同じ生理的反応をもたらす。
【0051】
他の実施形態において、足場は、天然の脱細胞化器官の一部を用いて作ることができる。器官から全細胞および組織内容を除去することによって、器官の一部を脱細胞化することができる(例えば、特許文献19参照)。本明細書で用いる「脱細胞化された」または「脱細胞化」という用語は、細胞および組織内容が除去され、完全な細胞基礎構造が残されている生体構造(例えば、器官または器官の一部)を指す。脱細胞化の方法は、分化組織(specialized tissue)を除去し、結合組織の複雑な3次元網目構造を残す。結合組織の基礎構造は、主としてコラーゲンからなる。脱細胞化構造は、種々の細胞集団を注入することができるマトリックス材料を提供する。脱細胞化生体構造は、硬質またはそれらの形状を変化させる能力を有する半硬質であってよい。脱細胞化生体構造の培養および構築は、例えば、全部を参照により本明細書に組み込まれている特許文献19に記載されているように実施することができる。
【0052】
2次元および3次元細胞培養表面は、本明細書に開示する無血清培養培地の存在下でMSCを播種し、培養することができる基質として機能する。このようにして、播種されたMSCは、定義されたサイトカインカクテルを含む無血清細胞培養培地とそれらを接触させることによってex vivoで増殖させることができる。1つの実施形態において、定義された組合せは、脳由来神経栄養因子(BDNF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、骨形態形成タンパク質2(BMP−2)、骨形態形成タンパク質4(BMP−4)、ディックコプフ1(dickkopf1)(DKK−1)、上皮成長因子(EGF)、エリトロポエチン(EPO)、フィブロネクチン、Flt−3/Flk−2リガンド、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インスリン様成長因子(IGF−1)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、白血病抑制因子(LIF)、血小板由来内皮細胞成長因子(PD−ECGF)、幹細胞因子(SCF)、間質細胞由来因子1−α(SDF1−α)、トランスフォーミング成長因子β(TGF−β)、トロンボスポンジンおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む群からの少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、少なくとも7種、少なくとも8種、少なくとも9種、少なくとも10種、少なくとも11種、少なくとも12種、少なくとも13種、少なくとも14種または少なくとも15種のサイトカインを含む。WNTシグナリング・アゴニストは、(2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム(BIO)ならびにWNT−1、WNT−2、WNT−2b、WNT−3、WNT−3a、WNT−4、WNT−5a、WNT−5b、WNT−6、WNT−7a、WNT−7b、WNT−8a、WNT−8b、WNT−9a、WNT−9b、WNT−10a、WNT−10b、WNT−11およびWNT−16などのWNTタンパク質を含むが、これらに限定されない。1つの実施形態では、WNTタンパク質はWNT−3aである。
【0053】
1つの実施形態において、定義されたサイトカインカクテルは、「G2」と呼ばれ、フィブロネクチン、SDF−1α、IL−6、SCF、IL−5、BDNF、PD−ECGF、IL−11、IL−3、EPO、Flt−3/Flk−2リガンド、BMP−4、トロンボスポンジン、IGF−1およびbFGFの組合せを含む。
【0054】
他の実施形態において、定義されたサイトカインカクテルは、「C6」と呼ばれ、BDNF、bFGF、BIO、BMP−2、BMP−4、DKK−1、EGF、EPO、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、G−CSF、IGF−1、IL−11、IL−3、IL−5、IL−6、LIF、PD−ECGF、SCF、SDF−1αおよびWNT−3aの組合せを含む。
【0055】
他の実施形態において、定義されたサイトカインカクテルは、「D3」と呼ばれ、bFGF、BMP−2、EGF、EPO、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IGF−1、IL−11、IL−5およびWNT−3aの組合せを含む。
【0056】
他の実施形態において、定義されたサイトカインカクテルは、「C2」と呼ばれ、bFGF、BIO、BMP−2、BMP−4、EGF、EPO、Flt−3/Flk−2リガンド、IGF−1、IL−11、IL−5およびWNT−3aの組合せを含む。
【0057】
他の実施形態において、定義されたサイトカインカクテルは、「G5」と呼ばれ、bFGF、BMP−4、DKK−1、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−6、PD−ECGF、SDF−1αおよびWNT−3aの組合せを含む。
【0058】
他の実施形態において、定義されたサイトカインカクテルは、「G7」と呼ばれ、bFGF、BMP−2、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−11、LIFおよびWNT−3aの組合せを含む。
【0059】
他の実施形態において、定義されたサイトカインカクテルは、「G4」と呼ばれ、bFGF、BMP−2、EGF、IL−11、PD−ECGFおよびWNT−3aの組合せを含む。
【0060】
他の実施形態において、定義されたサイトカインカクテルは、「C8」と呼ばれ、bFGF、BMP−2、EGF、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−11、IL−5、LIF、PD−ECGFおよびWNT−3aの組合せを含む。
【0061】
他の実施形態において、サイトカインカクテルは、WNTシグナリング・アゴニスト、TGF−βおよびEGFからなる群から選択される少なくとも成長因子と共にbFGFを含む。他の実施形態において、サイトカインカクテルは、bFGF、TGF−βおよびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と組み合わされたWNTシグナリング・アゴニストを含む。他の実施形態において、サイトカインカクテルは、bFGF、WNTシグナリング・アゴニストおよびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と組み合わされたTGF−βを含む。他の実施形態において、サイトカインカクテルは、bFGF、WNTシグナリング・アゴニストおよびTGF−βからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と組み合わされたEGFを含む。他の実施形態において、サイトカインカクテルは、bFGF、TGF−β、EGFおよびWNTシグナリング・アゴニストからなる群から選択される少なくとも2つの成長因子を含む。これらの実施形態の一部において、WNTシグナリング・アゴニストはWNT−3aであり、これらの実施形態の他のものにおいて、WNTシグナリング・アゴニストはBIOである。
【0062】
1つの実施形態において、bFGF、TGF−β、EGFおよびWNTシグナリング・アゴニストからなる群から選択される少なくとも2つの成長因子を含む培地組成に他の因子の添加により複雑性(complexity)を加えることは、MSCの増殖を促進する。例えば、bFGF、TGF−β、EGFおよびWNTシグナリング・アゴニストの組合せを含む培地によりMSCの増殖がもたらされるが、BMPs、可溶性ECMsおよび他のサイトカインならびに因子などの他のシグナリング分子を添加することにより、MSCの増殖をさらに促進することができる。
【0063】
成長因子のG2組合せは、市販の血清含有培地と同様またはそれより十分に速やかなMSCの増殖を可能にする。詳細には、この増殖は、10日目以上の血清含有培地と比較したとき、血清含有培地を上回るであろう。さらに、G2培地中で増殖したMSCは依然として多能性であり、骨および脂肪に分化することが示された。これは、増殖中の培養物から血清を除去することができ、細胞が著しく変化しておらず、また増殖させた細胞を種々の治療適用に用いることを妨げるような特定の分化表現型に変化していなかったという証拠であるので、これらのMSCが多能性表現型を維持する能力は重要である。
【0064】
MSCの増殖に適する無血清培地を提供するために、定義されたサイトカインの組合せを無血清基本培地に加える。MSCの培養に適する任意の無血清栄養培地を用いてもよい。1つの実施形態において、基本培地は、非特許文献5に記載されているように、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、MCDB−201(Sigma−Aldrich(St.Louis、MO))、アスコルビン酸2−リン酸、デキサメタゾン、リノール酸−ウシ血清アルブミン、インスリン、トランスフェリンおよび亜セレン酸ナトリウムを含む。さらなる実施形態において、基本培地は60:40のDMEM対MCDB−201の比を含み、アスコルビン酸2−リン酸の濃度は1×10−4Mであり、デキサメタゾンの濃度は1×10−9Mであり、リノール酸−ウシ血清アルブミンは約0.1%の量で存在し、インスリンは約5μ/mLの量で存在し、トランスフェリンは約5μg/mLの量で存在し、亜セレン酸ナトリウムは約5μg/mLの量で存在する(本明細書の下記表2参照)。多種類の基本培地を用いることができ、ウシアルブミンの代わりのヒトアルブミン、またはヒトインスリンなどのヒトまたは他の動物由来成分を用いることができよう。非動物由来成分を動物由来成分の代わりに用いることができることは、当分野で知られており、これらの成分のいくつかは、例えば、Cambrex Biosciences(Baltimore、MD)またはSigma−Aldrich(St.Louis、MO)から商業的に入手可能である。
【0065】
無血清培地中のサイトカインの最終濃度は、約1フェムトグラム(fg)/mlから約1ピコグラム(pg)/mlまで約1ナノグラム(ng)/mlまで約1マイクログラム(μg)/mlまで約1ミリグラム(mg)/mlまでの範囲であり得る。いくつかの実施形態において、サイトカインのいずれか1つの濃度は約1pg/ml、約5pg/ml、約10pg/ml、約15pg/ml、約20pg/ml、約25pg/ml、約30pg/ml、約35pg/ml、約40pg/ml、約45pg/ml、約50pg/ml、約55pg/ml、約60pg/ml、約65pg/ml、約70pg/ml、約75pg/ml、約80pg/ml、約85pg/ml、約90pg/ml、約95pg/ml、約100pg/ml、約110pg/ml、約120pg/ml、約130pg/ml、約140pg/ml、約150pg/ml、約160pg/ml、約170pg/ml、約180pg/ml、約190pg/ml、約200pg/ml、約210pg/ml、約220pg/ml、約230pg/ml、約240pg/ml、約250pg/ml、約260pg/ml、約270pg/ml、約280pg/ml、約290pg/ml、約300pg/ml、約310pg/ml、約320pg/ml、約330pg/ml、約340pg/ml、約350pg/ml、約360pg/ml、約370pg/ml、約380pg/ml、約390pg/ml、約400pg/ml、約410pg/ml、約420pg/ml、約430pg/ml、約440pg/ml、約450pg/ml、約460pg/ml、約470pg/ml、約480pg/ml、約490pg/ml、約500pg/ml、約510pg/ml、約520pg/ml、約530pg/ml、約540pg/ml、約550pg/ml、約560pg/ml、約570pg/ml、約580pg/ml、約590pg/ml、約600pg/ml、約610pg/ml、約620pg/ml、約630pg/ml、約640pg/ml、約650pg/ml、約660pg/ml、約670pg/ml、約680pg/ml、約690pg/ml、約700pg/ml、約710pg/ml、約720pg/ml、約730pg/ml、約740pg/ml、約750pg/ml、約760pg/ml、約770pg/ml、約780pg/ml、約790pg/ml、約800pg/ml、約810pg/ml、約820pg/ml、約830pg/ml、約840pg/ml、約850pg/ml、約860pg/ml、約870pg/ml、約880pg/ml、約890pg/ml、約900pg/ml、約910pg/ml、約920pg/ml、約930pg/ml、約940pg/ml、約950pg/ml、約960pg/ml、約970pg/ml、約980pg/ml、約990pg/ml、約1ng/ml、約1.5ng/ml、約2ng/ml、約2.5ng/ml、約3ng/ml、約3.5ng/ml、約4ng/ml、約4.5ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約15ng/ml、約20ng/ml、約25ng/ml、約30ng/ml、約35ng/ml、約40ng/ml、約45ng/ml、約50ng/ml、約55ng/ml、約60ng/ml、約65ng/ml、約70ng/ml、約75ng/ml、約80ng/ml、約85ng/ml、約90ng/ml、約95ng/ml、約100ng/ml、約110ng/ml、約120ng/ml、約130ng/ml、約140ng/ml、約150ng/ml、約160ng/ml、約170ng/ml、約180ng/ml、約190ng/ml、約200ng/ml、約210ng/ml、約220ng/ml、約230ng/ml、約240ng/ml、約250ng/ml、約260ng/ml、約270ng/ml、約280ng/ml、約290ng/ml、約300ng/ml、約310ng/ml、約320ng/ml、約330ng/ml、約340ng/ml、約350ng/ml、約360ng/ml、約370ng/ml、約380ng/ml、約390ng/ml、約400ng/ml、約410ng/ml、約420ng/ml、約430ng/ml、約440ng/ml、約450ng/ml、約460ng/ml、約470ng/ml、約480ng/ml、約490ng/ml、約500ng/ml、約510ng/ml、約520ng/ml、約530ng/ml、約540ng/ml、約550ng/ml、約560ng/ml、約570ng/ml、約580ng/ml、約590ng/ml、約600ng/ml、約610ng/ml、約620ng/ml、約630ng/ml、約640ng/ml、約650ng/ml、約660ng/ml、約670ng/ml、約680ng/ml、約690ng/ml、約700ng/ml、約710ng/ml、約720ng/ml、約730ng/ml、約740ng/ml、約750ng/ml、約760ng/ml、約770ng/ml、約780ng/ml、約790ng/ml、約800ng/ml、約810ng/ml、約820ng/ml、約830ng/ml、約840ng/ml、約850ng/ml、約860ng/ml、約870ng/ml、約880ng/ml、約890ng/ml、約900ng/ml、約910ng/ml、約920ng/ml、約930ng/ml、約940ng/ml、約950ng/ml、約960ng/ml、約970ng/ml、約980ng/ml、約990ng/ml、または約1000ng/mlであり得る。
【0066】
1つの実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約500ng/mlの濃度のBDNFを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pg/mlから約500ng/mlの濃度のbFGFを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pMから1μMの濃度のBIOを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約500ng/mlの濃度のBMP−2を含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約500ng/mlの濃度のBMP−4を含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約10μg/mlの濃度のDKK−1を含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約100ng/mlの濃度のEGFを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約0.0001単位/mlから約50単位/mlの濃度のエリトロポエチンを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約100μg/mlの濃度のフィブロネクチンを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pg/mlから約100ng/mlの濃度のFlt−3/Flk−2リガンドを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pg/mlから約100ng/mlの濃度のG−CSFを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約500ng/mlまでの濃度のIGF−1を含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pg/mlから約100ng/mlまでの濃度のIL−11を含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pg/mlから約100ng/mlの濃度のIL−3を含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pg/mlから約100ng/mlの濃度のIL−5を含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pg/mlから約100ng/mlの濃度のIL−6を含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約100ng/mlの濃度のLIFを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約500ng/mlの濃度のPD−ECGFを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約100ng/mlの濃度のSCFを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1pg/mlから約100ng/mlの濃度のSDF−1αを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10fg/mlから約100ng/mlの濃度のTGF−βを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約1μg/mlの濃度のトロンボスポンジンを含む。他の実施形態において、無血清細胞培養培地は、約10pg/mlから約500ng/mlの濃度のWNT−3aを含む。
【0067】
1つの実施形態において、無血清細胞培養培地は、約1ng/mlの量のBDNF、約2.5ng/mlの量のbFGF、約0.5ng/mlの量のBMP−4、約0.05U/mlgの量のエリトロポエチン、約10ngの量のフィブロネクチン、約5ng/mlの量のFlt−3/Flk−2リガンド、約2.5ng/mlの量のIGF−1、約0.1ng/mlの量のIL−11、約1ng/mlの量のIL−3、約0.1ng/mlの量のIL−5、約0.2ng/mlの量のIL−6、約2ng/mlの量のPD−ECGF、約2ng/mlの量のSCF、約3ng/mlの量のSDF−1αおよび約10ng/mlの量のトロンボスポンジンを含む。
【0068】
当業者は、本発明に用いるためのサイトカインを、上記の具体例の最終濃度を得るために基本培地に加える前に、濃縮し、場合によって、凍結乾燥することができることを認識するであろう。当業者はまた、培養に加える重量はサイトカイン製剤の生物学的比活性に依存することを認識するであろう。サイトカインの生物学的力価を測定するバイオアッセイは、当技術分野でよく知られている。したがって、生物学的活性が重量に相関している場合、該アッセイにより定義される生物学的「単位」を用いる。
【0069】
本発明の無血清細胞培養システムを用いて増殖させたMSCの集団は、関心のある細胞表面マーカーを発現する細胞を含む。「細胞表面マーカー」または「マーカー」という用語は、特異的抗体を用いて検出することができる、細胞の表面に発現するタンパク質を意味することを意図する。例えば、本発明の増殖させたMSCは、CD166、CD44、CD105およびCD29などの市販のMSCについて報告されたマーカーを発現する。本発明の増殖させたMSCは、これらの細胞マーカーの組合せも発現することができ、CD73、CD90、CD106、CD146またはそのいずれかの組合せを発現することができる。場合によって、細胞表面マーカーの発現は、成熟血球および造血幹細胞などの非間葉細胞集団を定義する。例えば、CD3、CD14、CD19、CD34、CD42a、CD45およびこれらのマーカーのいずれかの組合せである。
【0070】
「実質的に含まない」という用語は、集団内の細胞の5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満において関心のあるマーカーが発現されることを意味することを意図する。例えば、1つの実施形態において、増殖細胞集団は、T細胞(CD3抗原を発現する)、B細胞(CD19抗原を発現する)または成熟顆粒球、NKリンパ球またはマクロファージ(CD16抗原を発現する)を実質的に含まない。
【0071】
「実質的な部分(substantial proportion)」という用語は、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%までの細胞が関心のあるマーカーを発現することを意味することを意図する。逆に、「実質的に減少した」という用語は、少なくとも10%未満、少なくとも5%未満または少なくとも1%未満の細胞が関心のあるマーカーを発現することを意味することを意図する。
【0072】
当業者は、高い細胞表面発現を有する細胞はフローサイトメトリソーティング、抗体パンニング等の手段により検出し、分離することができることを認識している。一般的にフローサイトメトリ分析において、当業者は最初に蛍光の検出閾値を設定しなければならない。閾値を設定するに際して、陰性対照試料集団を記録し、所望の前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)に従って、ゲートを関心のある集団の周りに設定する。次いで、97%以上の細胞が蛍光を発しないように検出閾値を調節する。検出閾値を設定したならば、関心のある細胞集団の蛍光を記録する。タンパク質か、遺伝子かを問わず、細胞が問題のマーカーを発現した場合、細胞は「発現について陽性」とみなされる。遺伝子発現プロファイル、FACS等の発現を測定するために任意の方法を用いることができる。「」という用語は細胞が関心のアルマーカーの発現について陽性であることを示す。「」という用語は細胞が問題のマーカーの発現の検出可能なレベルを有さないことを示す。
【0073】
種々の系統を検出するために用いる抗体は、異なる蛍光色素に結合させてもよい。これらは、例えば、フィコエリトリンおよびアロフィコシアニンなどのフィコビリタンパク質、フルオレセインおよびテキサスレッドなどである。死細胞も死細胞中に選択的に蓄積する色素(例えば、ヨウ化プロピジウムおよび7−アミノアクチノマイシンD)を用いて検出することができる。
【0074】
これらの増殖させたMSCは、自己再生能力によって特徴づけられる。さらに、該細胞は、多分化発生にかかわる能力によって特徴づけられる。「多分化発生(multilineage development)」とは、細胞が間葉由来の細胞型に分化することができることを意味する。これらの細胞は、限られた自己再生能力を有し、骨、軟骨、脂肪、腱、筋肉および骨髄間質などの種々の間葉組織への約束された発達に制限される(例えば、非特許文献9参照)。
【0075】
幹細胞機能は、in vitroおよびin vivo法を用いて分析することができる。in vitro試験は、造血幹細胞と同様に、MSCを半固体培地で培養することを含む。コロニー形成アッセイに加えて、MSCは、骨、脂肪および軟骨などの特定の経路にそれらを下達する因子の存在下でこれらの細胞を培養することによって多分化能について試験することができる。増殖させたMSCを分化させるための培地は、当技術分野でよく知られており(例えば、非特許文献1参照)、Cambrex(Baltimore、MD)、Stem Cell Technologies(Vancouver、B.C.、Canada)およびR&D Systems(Minneapolis、MN)などのいくつかの供給元により市販され、入手できる。増殖細胞は、骨、脂肪または筋肉表現型のために7〜30日間の間これらの培地を含む培養皿などの表面上で、あるいは軟骨表現型への分化のためにチューブまたはフラスコの底部におけるペレット状のどちらかで培養される。骨についてはアルカリホスファターゼ酵素、オステオカルシンまたはオステオポンチン、脂肪細胞系に分化するMSCにおける脂質蓄積についてはオイルレッドO染色などの機能に関する試験、組織特異的試験を行う。
【0076】
本発明の増殖させたMSCは、遺伝子発現プロファイルに基づいて分析することができる。このようにして、多分化拘束能(multilineage commitment potential)を検討することができる。本明細書で用いるように、「発現プロファイル」は、遺伝子発現産物の相対的存在量の測定に対応する1つまたは複数の値を含む。そのような値は、RNAレベルまたはタンパク質の存在量の測定値を含んでもよい。したがって、発現プロファイルは、遺伝子の転写状態または翻訳状態の測定を表わす値を含むことができる(特許文献20、特許文献21、特許文献22、特許文献23、特許文献24参照)。
【0077】
試料の転写状態は、試料中に存在するRNA種、特にmRNAの同一性および相対的存在量を含む。好ましくは、試料中のすべての構成RNA種の実質的な画分を測定するが、試料の転写状態を特徴付ける少なくとも十分な画分を測定する。転写状態は、いくつかの既存の遺伝子発現技術のいずれかにより転写物の存在量を測定することによって都合よく測定することができる。翻訳状態は、試料中の構成タンパク質種の同一性および相対的存在量を含む。当業者に知られているように、転写状態および翻訳状態は関連している。
【0078】
本発明の1つの実施形態において、マイクロアレイを用いて、発現プロファイルに含まれる値を測定することができる。マイクロアレイは、異なる実験間で再現性があるため、この目的のために特によく適している。DNAマイクロアレイは、多数の遺伝子の発現レベルを同時測定するための1つの方法を提供する。各アレイは、細胞培養支持体に結合した捕捉プローブの複写パターン(reproducible pattern)からなっている。標識RNAまたはDNAをアレイ上の相補的プローブとハイブリッド形成させ、次いで、レーザー走査により検出する。アレイ上の各プローブのハイブリッド形成強度は測定され、相対的遺伝子発現レベルを表わす定量的な値に変換される(例えば、特許文献20、特許文献21および特許文献22、特許文献24および特許文献23参照)。高密度オリゴヌクレオチドアレイは、試料中の多数のRNAの遺伝子発現プロファイルの測定に特に有用である。
【0079】
「アレイ」は、細胞培養支持体または基質に結合したペプチドまたは核酸プローブを含む細胞培養支持体または基質を意味することを意図する。アレイは一般的に、異なる既知の位置にある基質の表面に結合した複数の異なる核酸またはペプチド捕捉プローブを含む。「マイクロアレイ」または口語的に「チップ」とも記述されるこれらのアレイは、当技術分野で、例えば、特許文献25、特許文献26、特許文献27、特許文献28、特許文献29、特許文献30、特許文献31、および特許文献32ならびに非特許文献10に記述されている。
【0080】
本発明の方法は、サイトカインカクテルおよび基本培地を含む、本明細書で上記に開示した無血清細胞培養培地を含む無血清細胞培養システムにおいて幹細胞源からのMSCを培養または増殖させることを含む。細胞培養の方法は当技術分野でよく知られている(例えば、非特許文献11参照)。「細胞培養」という用語は、多能性表現型を維持しながら人工的in vitro環境において細胞を増殖または維持することを意味することを意図する。「細胞培養」という用語は一般的用語であり、個々の細胞の培養だけでなく、組織、器官系または生物体全体の培養も含むように用いることができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、幹細胞源由来の細胞を本明細書で述べた2次元または3次元細胞培養表面上に播種し、本発明の無血清細胞培養培地と接触させる。培地は最初にサイトカインカクテルならびに基本培地を含んでいてもよく、あるいはサイトカインカクテルを後に添加することができる。次いで、細胞を、サイトカインカクテルおよび細胞培養支持体を含む無血清細胞培養培地とともに細胞の成長に適する温度(いくつかの実施形態で約37℃)で少なくとも約24時間、少なくとも約48時間、少なくとも約72時間、少なくとも約96時間、少なくとも約120時間、少なくとも約144時間、少なくとも約168時間、少なくとも約192時間またはより長い時間インキュベートする。細胞は、これらに限定されないが、非接着性細胞をデカントした後の遠心分離、接着性細胞のトリプシン処理または細胞培養支持体の表面からの細胞のかき落としを含む当技術分野で知られている任意の既知の方法で収集することができる。
【0082】
培養に用いるMSCは、臍帯、臍帯血、胎盤、胚幹細胞、脂肪組織、骨髄または他の組織特異的間葉などの任意の幹細胞源由来の細胞を含むことができる。これらの試料は、生鮮、凍結または冷蔵されたものであってよい。細胞を凍結する方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、非特許文献12参照)。
【0083】
培養前の幹細胞の低温保存または本明細書で開示する増殖細胞の低温保存は、既知の方法に従って行うことができる。例えば、細胞は、例えば、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含み、5〜10%グリセロールを含む、または含まない培養培地などの「凍結培地」に例えば、約1〜2×10細胞/mlの密度で懸濁してもよい。細胞をガラスまたはプラスチックバイアルに分配し、次いで、シールし、プログラム式または受動冷凍装置の冷凍室に移す。最適冷凍速度は、経験的に決定することができる。例えば、融解熱により約−1℃/分の温度変化を与える冷凍プログラムを用いてもよい。細胞を含むバイアルが−80℃に達したならば、それらを液体窒素貯蔵場所に移すことができる。低温保存細胞は、数年間保存することができる。
【0084】
いくつかの実施形態において、いずれかの幹細胞源から新たに分離した細胞を低温保存して細胞のバンクを構成させ、必要に応じて、その一部を解凍により取り出し、本発明の増殖細胞を得るために用いてもよい。解凍は、急速に、例えば、バイアルを液体窒素から37℃の水浴に移すことにより行ってもよい。バイアルの解凍された内容物を直ちに栄養培地などの適切な培地を含む培養容器に無菌条件下で移すことができる。培養中、細胞増殖を検出するために細胞を毎日、例えば、倒立顕微鏡を用いて検査し、適切な密度に達したならば、速やかに継代培養してもよい。
【0085】
細胞を必要に応じて細胞バンクから取り出し、下に述べるように、in vitroで、例えば3次元足場培養として、またはin vivoで、例えば組織の再構成もしくは修復が必要な部位への細胞の直接投与により、新たな幹細胞もしくは組織の生産に用いることができる。本明細書で述べるように、本発明の増殖させたMSCは、細胞が最初に当該対象自身の骨髄または他の組織から分離された対象における組織を再構成または修復するために用いることができる(すなわち、自己由来細胞)。あるいは、本明細書で開示する増殖させたMSCは、あらゆる対象における組織を再構成または修復するための遍在ドナー細胞として用いることができる(すなわち、異種細胞)。
【0086】
骨髄からMSCを分離する方法は、十分に確立されている。培養の前に、非間葉系細胞の大部分を陰性または陽性選択により幹細胞源から除去することができる。例えば、多数の系統に拘束された細胞(lineage−committed cell)を選択的磁気ビーズ分離により除去することができる。いくつかの実施形態において、少なくとも約80%、通常少なくとも約70%の分化細胞を培養の前に除去する。これらの組織からの単核細胞を、密度勾配遠心分離により収集し、組織培養容器中で培養してもよい。さらに、骨髄吸引液を組織培養プレート上に播種してもよい。1〜3日後に非接着細胞を除去することができる。接着性の紡錘状線維芽細胞様MSCは保持され、増殖される。数時間から数日後に、非接着細胞を洗い落とすと、MSCが残る。MSCは臍帯血、胎盤および脂肪組織から得ることができると報告されている。
【0087】
培養されたMSCは、当技術分野で知られている方法を用いてさらに分離することができる。一般的に、MSCを細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体と接触させ、陽性または陰性として選択する。そのような選択の手法は、当技術分野でよく知られており、免疫磁気ビーズ、補体媒介性溶解、固体マトリックスに結合させた抗体による「パニング」による分別、凝集法、磁気活性化細胞分別(MACS)または蛍光活性化細胞分別(FACS)を含む。
【0088】
本発明の増殖させたMSCは、疾患および傷害の治療および改善における広い適用を有する。本発明の増殖させたMSCは、組織の修復、再構成および再生ならびに遺伝子送達を含む多くの治療適用分野に有用である。本発明の増殖させたMSCは、系統に拘束されたおよび拘束されない細胞を含むことができ、したがって、両細胞型は、いくつかの実施形態において同時に複数の治療目標を達成するために一緒に用いることができる。例えば、いくつかの実施形態において、本発明の増殖させたMSCは、本明細書で上記に述べたように、幹細胞移植物として直接用いることができ、あるいは懸濁液中または細胞培養支持足場上での幹細胞移植片の形で用いることができる。
【0089】
本発明の増殖させたMSCは、投与前に担体媒体中に入れることができる。注入の場合、本発明の増殖させたMSCは、該細胞が発生および分化に適切な部位を見いだしうる骨髄中などの他の都合のよい部位に導入してもよいが、生理的に許容できる媒体に入れて、静脈内を含む血管内に投与することができる。通常、少なくとも約1×10細胞/kg、少なくとも約5×10細胞/kg、少なくとも約1×10細胞/kg、少なくとも約2×10細胞/kg、少なくとも約3×10細胞/kg、少なくとも約4×10細胞/kg、少なくとも約5×10細胞/kg、少なくとも約6×10細胞/kg、少なくとも約7×10細胞/kg、少なくとも約8×10細胞/kg、少なくとも約9×10細胞/kg、少なくとも約10×10細胞/kg、またはそれ以上が投与されるであろう。例えば、非特許文献13参照。MSCは、注射、カテーテル法等の任意の方法により導入することができる。所望の場合、さらなる薬剤または成長因子を同時投与することができる。関心のある薬剤は、5−フルオロウラシルならびにIL−2、IL−3、G−CSF、M−CSF、GM−CSF、IFNγなどのサイトカイン、およびエリトロポエチンを含む成長因子などを含む。さらに、MSCは、コラーゲン、マトリゲル(Matrigel:商標)と共に、単独または他のヒドロゲルと共に注射することができる。
【0090】
投与するMSCは、本明細書で述べた細胞と関心のあるさらなる細胞との混合物も含んでいてよい。関心のあるさらなる細胞は、これらに制限されないが、分化肝細胞、分化心筋、分化膵細胞等を含む。本明細書で上記に開示したように、本発明の増殖させたMSCを3次元足場、ヒドロゲルに、または担体を用いずに播種したとき、これらの組合せは特に有用である。
【0091】
1つの実施形態において、本発明の増殖させたMSC集団は、心臓、膵臓、肝臓、脂肪組織、骨、軟骨、内皮、神経、星状細胞、真皮等の損傷または罹患した間葉組織を修復または再構成するために用いることができる。増殖させたMSCが損傷の部位に移動するか、または置かれたならば、それらは分化して、新たな組織を形成し、器官の機能を補うことができる。いくつかの実施形態において、該細胞は、血管新生を促進し、したがって、酸素化および組織からの廃物除去を改善するために用いる。これらの実施形態において、本発明の増殖させたMSCは、心不全におけるような虚血性心臓または脳卒中におけるような虚血性神経などの分化組織および器官の機能を増大させるために用いることができる。したがって、本発明の増殖させたMSCは、細胞の機能または器官の機能が低下している疾患において有用である。
【0092】
「損傷器官を補うこと」または「器官の機能を補うこと」は、最適の能力以下で働いている器官の機能を増大、促進または改善することを意味することを意図している。この語は、器官がその対象のために生理的に許容できる能力で働くような機能の増加を指すために用いる。例えば、小児の器官、例えば、腎臓または心臓の生理的に許容できる能力は、成人または高齢患者の生理的に許容できる能力と異なっているであろう。器官全体または器官の一部を補うことができる。補うことにより、非損傷または非罹患器官と同じ生理学的反応を有する器官を生じさせることが好ましい。1つの実施形態において、器官がその自然の能力の少なくとも約10%で機能しているとき、器官の能力を補う。
【0093】
本発明の増殖させたMSC集団は、本明細書で上に述べたように、該細胞を移植手術する前に組織を工学的に処理した構築物と接触させることによって移植に用いることができる。次いで、これらの細胞を含む構築物を、そのような移植片を必要とする宿主に移植する。本発明の細胞は、骨および軟骨の発生を促進し、それにより、組織の再生および修復を促進するために特に有用である。これらの細胞は、移植片対宿主疾患に関連する適用分野にも用いてもよい。本発明の増殖させたMSCは、血管系促進幹細胞としても有用である可能性がある。「血管新生促進」または「血管系促進」は、新たな血管の成長(脈管形成)を促進すること、または既存の血管からの成長(血管新生)を誘導すること、またはその組合せを意味することを意図する。
【0094】
「分化細胞」は、限定された組織の発達を約束されている細胞を意味することを意図する。いくつかの実施形態において、本発明の増殖細胞は、系統に拘束されたおよび拘束されないMSCを含んでいてよい。したがって、ある組織工学的に処理した構築物において、MSCは、両分化組織を生じさせ、血管系促進幹細胞の源として機能する可能性がある。さらに、ある組織工学的に処理した構築物において、MSCは、両分化組織を生じさせ、心血管促進幹細胞の源として機能する可能性がある。さらに、ある組織工学的に処理した構築物において、MSCは、両分化組織を生じさせ、骨および軟骨促進幹細胞の源として機能する可能性がある。他の実施形態において、分化組織の源は、意図された移植片レシピエントまたは他のドナーの細胞または組織を含んでいてもよい。細胞または組織源を、移植の前に分化させてもよい。例えば、膵β細胞を、例えば、非特許文献14に詳述されているように、胚様体形成について記載された条件を用いて分化させることができる。
【0095】
1つの特定の実施形態において、血管系促進幹細胞は、VEGFおよびbFGFなどの血管形成成長因子と接触させてもよい。これらの幹細胞は、組織工学的に処理した構築物を損傷器官に移植する前に、足場に播種する前または後に血管形成成長因子と接触させてもよい。いくつかの実施形態において、サイトカイン含浸ポリマーは、VEGFおよびbFGFなどの血管形成成長因子を徐々に放出することができる。他の実施形態において、足場は、播種された細胞の増殖および増殖を推進するように条件付けることができる(例えば、特許文献33参照)。他の実施形態において、マイクロスフェアまたはマイクロキャリヤを血管系促進幹細胞と接触させ、標的部位に配置することができる。マイクロスフェアを用いた足場は当技術分野で知られている(例えば、非特許文献15参照)。
【0096】
1つの特定の実施形態において、心血管または骨および軟骨促進幹細胞を、BDNF、bFGF、BMP−2、BMP−4、DKK−1、EGF、EPO、フィブロネクチン、Flt−3/Flk−2リガンド、G−CSF、IGF−1、IL−11、IL−3、IL−5、IL−6、LIF、PD−ECGF、SCF、SDF1−α、TGF−β、トロンボスポンジン、ならびに、これらに限定されないが、BIOおよびWNTタンパク質、WNT−1、WNT−2、ENT−2b、WNT−3、WNT−3a、WNT−4、WNT−5a、WNT−5b、WNT−6、WNT−7a、WNT−7b、WNT−8a、WNT−8b、WNT−9a、WNT−9b、WNT−10a、WNT−10b、WNT−11およびWNT−16を含むWNTシグナリング・アゴニストなどの成長因子と接触させることができる。1つの実施形態において、WNTタンパク質はWNT−3aである。
【0097】
本発明の増殖したMSCは、必要とする患者における遺伝子治療にも用いることができる。いくつかの実施形態において、特に一時的遺伝子発現が必要な場合、または細胞の成熟および分裂によって遺伝子導入が促進される場合、より成熟した、系統に拘束された細胞が有用である。例えば、あるレトロウイルスベクターは、遺伝子が組み込まれるために細胞が周期活動することを必要とする。新規かつ治療用遺伝子を送達するために幹細胞および前駆細胞を導入する方法は、当技術分野で知られている。
【0098】
本発明の他の態様は、本発明の無血清細胞培養培地が提供されることを含む、MSCの付着、生存および/または増殖を促進するのに有用なキットである。そのようなキットは、本明細書で述べる無血清細胞培養培地および細胞培養表面を含み、細胞を培養するのに適する1つまたは複数の他の成分または試薬を含めることができる。1つの実施形態において、無血清細胞培養培地は、本明細書で述べるサイトカインカクテルのいずれか、例えば、下記の表1に示すカクテル、および基本培地、例えば、下記の表2に示す基本培地、およびEMCタンパク質に結合するCARに結合した細胞培養支持体を含む細胞培養表面を含む。いくつかの実施形態において、ECMはコラーゲンIとフィブロネクチンの混合物である。他の実施形態において、キットはこれらの成分を含み、また培養中の細胞の増殖を測定するための1つまたは複数の試薬も含む。そのようなキットは、当業者に明らかであろう多くの用途を有する。例えば、それらは細胞治療の方法に用いるためのMSCを増殖させるために用いることができる。そのようなキットは、例えば、高スループット薬物試験に商業的に使用されることもある。
【0099】
以下の実施例は、例示のために示すものであって、限定のためのものではない。
【実施例】
【0100】
これらの実施例のために、培養培地中の種々のサイトカインの濃度を表1に示し、基本培地の組成を表2に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
実施例1:種々の無血清培地におけるMSCの発現
MSCならびに完全増殖培地は、Cambrex Biosciences(Baltimore、MD)から購入した。製造業者の指示に従って、凍結細胞を解凍し、培養した。約90%の密集度に達した後、MSCをPBSで1回洗浄し、トリプシン/EDTAを用いて培養表面から除去し、製造業者の5000細胞/cmの推奨播種密度に相当する、1600細胞/ウエル(96ウエルプレートの場合)の密度、または50000細胞/ウエル(6ウエルプレートの場合)の密度で再培養した。
【0104】
6または7日目に、細胞をPBSで1回洗浄し、15分間4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、次いで、製造業者(Molecular Probes、Eugene、Oregon)の示唆に従ってDAPIを用いて染色した。96ウエル実験では、Molecular DevicesのDiscovery−1高含量スクリーニングシステムを用いてウエル当たり1つの像を4倍の倍率で撮影した。Metamorph画像解析ソフトウエア(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いて細胞核の計数を行った。DAPI染色細胞核の数は、ウエル当たりの総細胞数と直接的に対応する。6ウエルプレートについては、細胞の計数をトリパンブルー排除法を用いて行い、また血球計を用いた手作業による計数を行った。複数のドナー(MSCの異なる標本)を無血清条件で試験し、一方、対照として製造業者の標準血清含有培地を用いて細胞を組織培養ポリスチレン(TCPS)プレート上でも培養した。
【0105】
いくつかの無血清増殖条件を6ウエルプレート方式(約10cm)にスケールアップし、7日間培養した。次いで、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン/EDTAを用いて6ウエルプレートから除去した。次いで、製造業者の仕様に従って細胞を2種類の密度で96ウエルプレートに再播種した。脂肪細胞を形成するように誘導したMSCを7000細胞/ウエルで播種し、Stem Cell Technologies(Vancouver、B.C.、Canada)脂肪生成培地補給物中で培養した。骨芽細胞を形成するように誘導したMSCをCambrex Biosciences(Baltimore、MD)骨生成培地補給物を用いて1000細胞/ウエルで播種した。誘導後2〜3週目に、細胞をPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定した。固定した細胞を脂肪細胞についてはオイルレッドO(Sigma−Aldrich(St.Louis、MO))で、アルカリホスファターゼ/骨芽細胞についてはBCIP/NBT(Sigma−Aldrich(St.Louis、MO))で染色した。染色細胞のウエル当たり複数の部位の明視野像を10倍で撮影した。Metamorph画像解析ソフトウエア(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いて分化の割合を測定して、閾値画像解析により総染色面積を計算した。
【0106】
最初の実験では、コラーゲンI(Col1、Sigma−Aldrich)/フィブロネクチン(FN、BD Biosciences)細胞接着抵抗性(CAR)表面修飾96ウエル上のG2培地中のMSCの無血清培地増殖を比較した。MSCをCAR表面上のG2無血清培地中で7日間増殖させ、細胞核数を、組織培養ポリスチレン(TCPS)96ウエルプレート上製造業者の推奨血清含有培地中で増殖させたMSCと比較した。G2−CAR表面無血清環境中で増殖させたMSCは、製造業者の推奨血清含有増殖条件と7日間まで同等であった(図1参照)。
【0107】
実施例2:G2増殖させたMSCの分化能および表面マーカーの特性評価
CAR Col1/FN表面上、本発明の無血清培地中で増殖させたMSCは多能性を7日間保持していた。簡単に述べると、本発明の培養環境中で増殖させたMSCを無血清培地から取り出し、(製造業者の示唆に従い)脂肪生成(脂肪)または骨生成(骨)誘導培地中で培養した。本発明の無血清環境中で増殖させたMSCは、脂肪生成(図2参照)および骨生成(図3参照)系統の両方に分化することができた。これらの結果は、本発明の無血清環境が工業標準血清含有培地(Cambrex)と少なくとも同様に増殖させたMSCの幹細胞の多能性を維持する助けとなることを示している。これは、これらの細胞は特定の系統にコミットされず、したがって、これらのMSCは様々な研究または臨床適用に依然として用いることができることを示している。
【0108】
無血清環境中で7日間培養したMSCは、血清含有培地中で増殖させたCambrex細胞集団と等価性を示す細胞表面マーカーを保持している。さらに、無血清環境中で培養したMSCは、CD45マーカー発現を欠いており、これらの細胞は造血系に分化しないことが示唆された。
【0109】
実施例3:培地および細胞表面の条件の比較
3種類の培地(G2、G2成長因子/サイトカインを含まない基本培地および血清含有完全培地)中で培養したMSCはすべて、TCPS表面と比較してCol1/FN CAR表面上でより良好に増殖した(図4参照)。また、G2無血清培地中で培養したMSCは、血清含有培地中で培養したMSCと同等なレベルに増殖させる。
【0110】
実施例4:培地の最適化
MSCの増殖を支持する培地組成を特定した。G2無血清培地をこの最適化実験の対照とした。60の異なる組成中、30因子を含む96ウエルプレートを用いてスクリーニングプレートを調製した。1600個のMSCを各ウエル中で7日間インキュベートした。各スクリーニングの繰返しから得られた平均生存細胞数に基づいて、最良の培地組成を選択した。
【0111】
サイトカインスクリーニングの最良のウエル「適合(hits)」は、それぞれC6、D3、C2およびG5であった。
【0112】
C6ウエルは、サイトカインBDNF、bFGF、BIO、BMP−2、BMP−4、DKK−1、EGF、EPO、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flt−2リガンド、G−CSF、IGF−1、IL−11、IL−3、IL−5、IL−6、LIF、PD−ECGF、SCF、SDF−1αおよびWNT−3aを含んでいた。
【0113】
D3ウエルは、サイトカインbFGF、BMP−2、EGF、EPO、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IGF−1、IL−11、IL−5およびWNT−3aを含んでいた。
【0114】
C2ウエルは、サイトカインbFGF、BIO、BMP−2、BMP−4、EGF、EPO、Flt−3/Flk−2リガンド、IGF−1、IL−11、IL−5およびWNT−3aを含んでいた。
【0115】
G5ウエルは、サイトカインbFGF、BMP−4、DKK−1、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−6、PD−ECGF、SDF−1αおよびWNT−3aを含んでいた。
【0116】
ウエルC6、D3、C2およびG5のサイトカイン組成物は、以後それぞれ「C6」、「D3」、「C2」および「G5」と呼ぶ。
【0117】
培地組成物C6、D3、C2およびG5はすべてG2無血清培地対照および10%血清含有完全培地より性能が優れていた(図5参照)。これらの無血清培地組成物は、それぞれ22、11、11、10種の成長因子/サイトカイン添加物を含む。さらに、無血清培地G2およびD3は両者とも血清含有完全培地と同様またはより良好な性能を示し、以前に公表された無血清MSC増殖培地(例えば、非特許文献5、特許文献1参照)より有意に優れた性能を示した。
【0118】
これらの無血清培地組成物のうちの3つ(D3、C2およびG5)を、MSCが多能性を保持していたことを確認するために用いた。MSCを3つの無血清培地のうちの1つの培地中で7日間培養した。増殖させたMSCを無血清培地から取り出し、次いで、(製造業者の示唆に従い)脂肪生成(脂肪)または骨生成(骨)誘導培地中で培養した。MSCは、3種類すべての無血清培地中で多能性を保持しており、脂肪生成および骨生成系統の両方に分化し、各々製造業者の推奨血清含有完全培地対照と同等であった(図6Aおよび図6B)。
【0119】
さらなる培地の最適化を行ったところ、このサイトカインスクリーニングによる最良ウエル「適合」は、それぞれG7、G4およびC8であった。
【0120】
G7ウエルは、サイトカインbFGF、BMP−2、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−11、LIFおよびWNT−3aを含んでいた。
【0121】
G4ウエルは、サイトカインbFGF、BMP−2、EGF、IL−11、PD−ECGFおよびWNT−3aを含んでいた。
【0122】
C8ウエルは、サイトカインbFGF、BMP−2、EGF、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−11、IL−5、LIF、PD−ECGFおよびWNT−3aを含んでいた。
【0123】
ウエルG7、G4およびC8のサイトカイン組成物は、以後それぞれ「G7」、「G4」および「C8」と呼ぶ。培地組成物G7、G4およびC8はすべて血清含有培地と同様またはより良好にMSCを増殖させた(図7参照)。
【0124】
種々の培地組成を用いてさらなる最適化データを収集した。1つの実験で、MSCを、1)G4無血清培地組成物、2)G4+TGF−β、3)基本培地中bFGFのみ、4)基本培地中EGFのみ、5)基本培地中TGF−βのみ、6)基本培地単独および7)血清含有培地で培養した。G4中で培養したMSCは、血清含有培地と同様またはより良好に増殖したが、G4+TGF−β中で培養したMSCは、他の培地組成よりはるかに優れた性能を示し、血清含有培地対照のほぼ3倍であった(図8参照)。さらに、単一の因子では、MSCの増殖を促進したが、MSCの増殖に血清と同様な性能を示さなかった。しかし、これらの因子(例えば、G4)の相乗作用的な組合せは、MSCを単一の因子より大きく増殖させ、TGF−βの添加は、増殖を実質的に増大させた。これらの因子相乗作用は、コラーゲン1+フィブロネクチン表面と組み合わせて、これまでに確立されたあらゆるものより実質的に優れた性能を示す無血清環境を含む。
【0125】
G4+TGF−β無血清培地をスケールアップし、6ウエルCol1/FN CARプレートにおけるMSCの増殖に用いた。MSCをウエル当たり50000で6ウエルプレートに播種した(n=3)。血清含有完全培地中の細胞を6ウエルTCPSプレートに播種した。密集状態で、すべての細胞を除去し、トリパンブルー排除法および血球計計数法を用いて細胞数を測定した。第2ラウンドの増殖のために、細胞を同じ条件下で、ウエル当たり50000で再培養した。上記と同様に細胞数を再び測定した。第1ラウンドの増殖後(約6日)、無血清条件で増殖させたMSCは、製造業者の推奨血清含有培地対照より優れた性能を示した。第2ラウンドの増殖後(約6日)、MSCは、無血清培地中で血清含有培地対照と比較して高い速度で増殖し続けた。G4+TGFbは、第1および第2ラウンドでそれぞれ5.4および6.5倍の増殖をもたらし、通常の培地は、第1および第2ラウンドでそれぞれ3.5および3.1倍の増殖をもたらした。
【0126】
他の実験において、基本培地ならびにWNT−3a、bFGFおよびTGF−βを含む無血清培地を、同じ組成を含むが、EGF、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、BMP−2、BMP−4、IL−11およびPD−ECGFを含む1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたは7つのサイトカインを加えた培地組成物と培養中のMSCを増殖させるそれらの能力について比較した。基本培地ならびにWNT−3a、bFGFおよびTGF−βを含む無血清培地への1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたは7つの成長因子の添加は、MSC増殖に対して正の効果を示した。特に、無血清培地に既に存在していた3つの成長因子へのEGFの添加は、EGFを含まなかった組成物よりMSC増殖の約20%の増加をもたらし、EGFに加えて両BMPsもさらに増殖を増大した。さらに、WNT−3a、bFGFおよびTGF−βへの7つのサイトカインすべての添加は、最良の増殖をもたらし、無血清環境への複雑さの増大により、MSC増殖をさらに増大させる可能性があることが示された。しかし、WNT−3a、bFGF、EGFおよびTGF−βの間の相乗作用は、コラーゲン1+フィブロネクチン表面上のMSCの無血清増殖に最大の効果を有することが見いだされた。
【0127】
他の実験において、基本培地含む無血清培地を、基本培地とWNT−3a、BIO、bFGF、EGFおよびTGF−βの種々の組合せを含む培地と、培養中のMSCを増殖させるそれらの能力について比較した(図9参照)。具体的には、試験した組合せは、基本培地単独(成長因子なし)、TCPS上のCambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地、基本培地+bFGF+TGF−β、基本培地+WNT−3a+bFGF、基本培地+bFGF+EGF、基本培地+WNT−3a+TGF−β、基本培地+WNT−3a+EGF、基本培地+EGF+TGF−β、基本培地+WNT−3a、基本培地+bFGF+EGF+TGF−β、基本培地+WNT−3a+bFGF+EGF+TGF−βおよび基本培地+bFGF+EGF+TGF−β+BIOであった。すべての条件は基本培地より優れた性能を示したが、最大のMSC増殖をもたらした成長因子の組合せは、基本培地+EGF+TGF−β、基本培地+bFGF+TGF−β、基本培地+bFGF+EGF+TGF−β、基本培地+WNT−3a+bFGF+EGF+TGF−βおよび基本培地+bFGF+EGF+TGF−β+BIOであった。
本明細書で言及したすべての刊行物および特許出願明細書は、本発明が属する技術分野の技術者の水準を示唆している。すべての刊行物および特許出願明細書は、各個別の刊行物および特許出願明細書が参照により具体的かつ個別に組み込まれた場合と同じ程度に参照により本明細書に組み込まれている。
【0128】
前記の発明は、理解を明確にする目的のために例示および実施例によりある程度詳細に記述したが、ある種の変更および修正は添付した特許請求の範囲内で実施することができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明のG2無血清培養システムおよびコラーゲン1+フィブロネクチン表面(BDT環境)における総間葉幹細胞(MSC)増殖の時間的推移と組織培養プラスチック上のCambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地中での増殖との比較を示す図である。
【図2】G2無血清培養培地およびコラーゲン1+フィブロネクチン表面(BDT環境)において増殖させた、または組織培養プラスチック上のCambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地中で増殖させたMSCの脂肪細胞分化能を示す図である。
【図3】G2無血清培養培地およびコラーゲン1+フィブロネクチン表面(BDT環境)において増殖させた、または組織培養プラスチック上のCambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地において増殖させたMSCの骨分化能を示す図である。
【図4】組織培養ポリスチレン(TCPS)または細胞接着抵抗性(CAR)表面上で、成長因子の存在下または非存在下の無血清基本培地(BDTM)中での培養後のhMSCの数の比較を示す図である。
【図5】G2培地および組織培養プラスチック上の血清含有培地(10% FBS CM)と比較した、C6、D3、C2およびG5と表示したMSC増殖用の種々の無血清組成物ならびにコラーゲン1+フィブロネクチン表面の比較を示す図である。
【図6A】D3、C2およびG5無血清培養用培地およびコラーゲン1/フィブロネクチン表面で増殖させた、または組織培養プラスチック上のCambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地(10%FBS CM)中で増殖させたMSCの脂肪細胞分化能を示す図である。
【図6B】D3、C2およびG5無血清培養用培地およびコラーゲン1/フィブロネクチン表面で増殖させた、または組織培養プラスチック上のCambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地(10%FBS CM)中で増殖させたMSCの骨分化能を示す図である。
【図7】Cambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地(10%FBS CM)中の増殖と比較したG7、G4およびC8と表示したMSC増殖用のさらに改良された無血清組成物の比較を示す図である。
【図8】基本培地および組織培養プラスチック上のCambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地(10%FBS CM)と比較したG4無血清培地、G4+TGFβ、FGFのみ、EGFのみおよびTGFβのみを含む種々の培養条件ならびにコラーゲン1/フィブロネクチン表面におけるMSCの増殖の比較を示す図である。
【図9】基本培地のみおよび組織培養プラスチック(TCPS)上のCambrex Biosciences(Baltimore、MD)血清含有培地と比較した、選択される成長因子の組合せを基本培地に加えた種々の培養条件でのMSCの増殖の比較を示す図である。成長因子の組合せは、bFGF+TGF−β、WNT−3a+bFGF、bFGF+EGF、WNT−3a+TGF−β、WNT−3a+EGF、EGF+TGF−β、WNT−3a単独、bFGF+EGF+TGF−β、WNT−3a+bFGF+EGF+TGF−βおよびbFGF+EGF+TGF−β+BIOであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉幹細胞の接着および増殖を促進する無血清細胞培養培地および細胞培養表面を含む無血清細胞培養システムであって、前記細胞培養表面から少なくとも1つの不溶性基質タンパク質がもたらされ、前記無血清細胞培養培地が
a)bFGFを、WNTシグナリング・アゴニスト、TGF−βおよびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と共に含む培地、
b)WNTシグナリング・アゴニストを、bFGF、TGF−βおよびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と共に含む培地、
c)TGF−βを、bFGF、WNTシグナリング・アゴニストおよびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と共に含む培地、
d)EGFを、bFGF、WNTシグナリング・アゴニストおよびTGF−βからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と共に含む培地、
e)フィブロネクチン、SDF−1α、IL−6、SCF、IL−5、BDNF、PD−ECGF、IL−11、IL−3、EPO、Flt−3/Flk−2リガンド、BMP−4、トロンボスポンジン、IGF−1およびbFGFを含む培地、
f)BDNF、bFGF、BIO、BMP−2、BMP−4、DKK−1、EGF、EPO、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、G−CSF、IGF−1、IL−11、IL−3、IL−5、IL−6、LIF、PD−ECGF、SCF、SDF−1αおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
g)bFGF、BMP−2、EGF、EPO、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IGF−1、IL−11、IL−5およびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
h)bFGF、BIO、BMP−2、BMP−4、EGF、EPO、Flt−3/Flk−2リガンド、IGF−1、IL−11、IL−5およびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
i)bFGF、BMP−4、DKK−1、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−6、PD−ECGF、SDF−1αおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
j)bFGF、BMP−2、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−11、LIFおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
k)bFGF、BMP−2、EGF、IL−11、PD−ECGFおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
l)bFGF、BMP−2、EGF、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−11、IL−5、LIF、PD−ECGFおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地
からなる群から選択されることを特徴とする無血清細胞培養システム。
【請求項2】
前記WNTシグナリング・アゴニストがBIOまたはWNT−3aであることを特徴とする請求項1に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項3】
前記不溶性基質タンパク質が細胞外マトリックスタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項4】
前記細胞外マトリックスタンパク質がフィブロネクチン、ラミニン、HA、ビトロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVIまたはそのいずれかの組合せであることを特徴とする請求項3に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項5】
前記細胞外マトリックスタンパク質がコラーゲンIとフィブロネクチンとの組合せであることを特徴とする請求項4に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項6】
前記WNTシグナリング・アゴニストがBIOまたはWNT−3aであり、前記細胞培養表面が細胞接着抵抗性物質に結合している細胞培養支持体を含むことを特徴とする請求項5に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項7】
請求項1に記載の細胞培養システムを用いることを特徴とする間葉幹細胞の集団を増殖させる方法。
【請求項8】
前記WNTシグナリング・アゴニストがBIOまたはWNT−3aであり、前記細胞培養表面が細胞接着抵抗性物質に結合している細胞培養支持体を含み、前記不溶性基質タンパク質がコラーゲンIとフィブロネクチンとの組合せであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法により生成されることを特徴とする、血清に曝露されたことのない間葉幹細胞の増殖させた集団。
【請求項10】
請求項9に記載の集団をそれを必要とする患者に投与することを含み、その集団は心血管、骨または軟骨組織を再構成するのに有効な量で投与することを特徴とする間葉幹細胞の増殖させた集団を移植する方法。
【請求項11】
請求項1に記載の無血清細胞培養システムを含むことを特徴とするキット。
【請求項12】
前記WNTシグナリング・アゴニストがBIOまたはWNT−3aであり、前記細胞培養表面が細胞接着抵抗性物質に結合している細胞培養支持体を含み、前記不溶性基質タンパク質がコラーゲンIとフィブロネクチンとの組合せであることを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項13】
無血清細胞培養培地および細胞培養表面を含む無血清細胞培養システムであって、前記細胞培養表面が間葉幹細胞の接着および増殖を促進し、細胞接着抵抗性物質に結合している細胞培養支持体を含み、前記細胞培養表面から少なくとも1つの不溶性基質タンパク質がもたらされることを特徴とする無血清細胞培養システム。
【請求項14】
前記不溶性基質タンパク質が細胞外マトリックスタンパク質であることを特徴とする請求項13に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項15】
前記細胞外マトリックスタンパク質がフィブロネクチン、ラミニン、HA、ビトロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVIまたはそのいずれかの組合せであることを特徴とする請求項14に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項16】
前記細胞外マトリックスタンパク質がコラーゲンIとフィブロネクチンとの組合せであることを特徴とする請求項15に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項17】
前記無血清細胞培養培地が
a)bFGFを、WNTシグナリング・アゴニスト、TGF−βおよびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と共に含む培地、
b)WNTシグナリング・アゴニストを、bFGF、TGF−βおよびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と共に含む培地、
c)TGF−βを、bFGF、WNTシグナリング・アゴニストおよびEGFからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と共に含む培地、
d)EGFを、bFGF、WNTシグナリング・アゴニストおよびTGF−βからなる群から選択される少なくとも1つの成長因子と共に含む培地、
e)フィブロネクチン、SDF−1α、IL−6、SCF、IL−5、BDNF、PD−ECGF、IL−11、IL−3、EPO、Flt−3/Flk−2リガンド、BMP−4、トロンボスポンジン、IGF−1およびbFGFを含む培地、
f)BDNF、bFGF、BIO、BMP−2、BMP−4、DKK−1、EGF、EPO、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、G−CSF、IGF−1、IL−11、IL−3、IL−5、IL−6、LIF、PD−ECGF、SCF、SDF−1αおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
g)bFGF、BMP−2、EGF、EPO、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IGF−1、IL−11、IL−5およびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
h)bFGF、BIO、BMP−2、BMP−4、EGF、EPO、Flt−3/Flk−2リガンド、IGF−1、IL−11、IL−5およびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
i)bFGF、BMP−4、DKK−1、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−6、PD−ECGF、SDF−1αおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
j)bFGF、BMP−2、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−11、LIFおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
k)bFGF、BMP−2、EGF、IL−11、PD−ECGFおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地、
l)bFGF、BMP−2、EGF、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、Flt−3/Flk−2リガンド、IL−11、IL−5、LIF、PD−ECGFおよびWNTシグナリング・アゴニストを含む培地
からなる群から選択されることを特徴とする請求項13に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項18】
前記WNTシグナリング・アゴニストがBIOまたはWNT−3aであることを特徴とする請求項17に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項19】
前記不溶性基質タンパク質が細胞外マトリックスタンパク質であり、前記細胞外マトリックスタンパク質がフィブロネクチン、ラミニン、HA、ビトロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVIまたはそのいずれかの組合せであることを特徴とする請求項17に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項20】
前記細胞外マトリックスタンパク質がコラーゲンIとフィブロネクチンの組合せであることを特徴とする請求項19に記載の無血清細胞培養システム。
【請求項21】
請求項13に記載の細胞培養システムを用いることを特徴とする間葉幹細胞の集団を増殖させる方法。
【請求項22】
前記不溶性基質タンパク質がコラーゲンIとフィブロネクチンとの組合せであることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法により生成されることを特徴とする、血清に曝露されたことのない間葉幹細胞の増殖させた集団。
【請求項24】
請求項23に記載の集団をそれを必要とする患者に投与することを含み、その集団を心血管、骨または軟骨組織を再構成するのに有効な量で投与することを特徴とする間葉幹細胞の増殖させた集団を移植する方法。
【請求項25】
請求項13に記載の無血清細胞培養システムを含むことを特徴とするキット。
【請求項26】
前記不溶性基質タンパク質がコラーゲンIとフィブロネクチンとの組合せであることを特徴とする請求項25に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−536935(P2007−536935A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513332(P2007−513332)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/016551
【国際公開番号】WO2005/113751
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】