説明

間葉系幹細胞の使用

本発明は、被験者における全身性炎症反応症候群(SIRS)の治療のための、間葉系幹細胞(MSC)の使用に関する。本発明は、SIRSの治療のための組成物、使用および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
全身性炎症反応症候群(SIRS)は、特定の感染源を持たない全身の炎症状態である。それは、外傷、外科手術、副腎不全、肺塞栓、心筋梗塞、出血、アナフィラキシー、薬物過剰摂取、免疫不全および熱傷を含むがそれらに限定されない、多数の要因によって起こりうる。以下に記載するように、SIRSには4つの主要な診断症状が存在するが、これらのうち任意の2つが存在すれば診断には十分である(例えば、Nystrom (1998) Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 41, Suppl. A, 1-7参照)。
【0002】
i)1分間あたり90回を超える心拍数;
ii)36℃以下または38℃以上の体温;
iii)1分間あたり20回を超える呼吸数(多呼吸);および
vi)4000細胞/mm3以下または12000細胞/mm3以上の白血球数、または10%以上の未熟好中球の存在。
【0003】
SIRSは、補体系および凝固経路に影響を及ぼす急性期免疫原性タンパク質の広範な活性化を引き起こし、それが次に血管系ならびに内臓に損傷を引き起こす。続いて様々な神経内分泌拮抗調節系が活性化され、それがしばしば問題を悪化させる。
【0004】
敗血症はSIRSの特定の形態であり、集中治療室における死亡の最も一般的な原因である。それは疑わしい感染または検出された感染によって引き起こされる。それは、内因性の炎症誘発性サイトカイン(pro-inflammatory cytokines)のネットワークの異常な活性化および不均衡を特徴とし、しばしば広範な炎症および血液凝固を引き起こし、それは発赤、熱、腫れ、痛み、臓器機能不全または臓器不全を引き起こしうる。敗血症の間の血液凝固はまた、手足および生命維持に不可欠な臓器への血流の低下を引き起こし、臓器不全または壊疽の発症を引き起こしうる。
【0005】
SIRSのように、敗血症はしばしば全身で見られる急性炎症をもたらし、そのため頻繁に発熱および白血球増加症(白血球数の上昇)を伴う。現代の敗血症の理論は、感染に対する宿主の免疫反応がSIRSを引き起こし、それがひいては上述の症状を呈するというものである。感染および敗血症後の、組織かん流および酸素供給は、敗血症性ショックの誘発を減少しうる。敗血症性ショックと診断されるためには、患者において感染および難治性低血圧の兆候がなくてはならない。
【0006】
SIRS、敗血症および敗血症性ショックは重度の医学的症状である。迅速かつ積極的治療を用いても、これらの疾患は多臓器不全症候群に進行する可能性が高く、死に至ることさえありうる。
【0007】
現在までのほとんどの治療方法は、前炎症性メディエーター(pro-inflammatory mediator)を標的としていたが、それらは、大規模な多施設臨床試験において試験された際、患者の生存率の改善が見られなかった。例えばTNFαおよびIL-1βなどの単一のサイトカインを遮断するように企図された治療は、おそらくこれらの炎症性サイトカインの早期の一過的な動態のために、限られた効果しか示さなかった。近年、国際的な救命医療および感染症専門医ら(international critical care and infectious disease experts)は、SIRS、敗血症または敗血症性ショックを患う患者に与えられる治療を改善するための管理指針を示した(Dellinger, 2004)。これらの指針は、複雑な診断および治療の決定を単純な「必要不可欠な」作業に変えることを目的とし、治療の中でも特に、広域抗生物質、ステロイドおよびドロトレコギンアルファ(Drotrecogin Alfa)(活性型)の投与を提案する。
【0008】
しかし、敗血症による死亡率は依然として30%〜50%のままであり、一方、敗血症性ショックによる死亡率は更に高く50%〜60%であることが報告されている。毎年約750,000件の新たな敗血症の症例が報告され、これらのうち少なくとも210,000件が死に至る。治療法がより積極的になるにつれて、SIRS、敗血症および敗血症性ショックの発症率は増加する可能性があり、そのためにこれらの疾患のための新たな信頼性のある治療が必要とされる。
【発明の概要】
【0009】
間葉系幹細胞(MSC)、特にヒト脂肪組織由来間質幹細胞(hASC)の投与は、重度の内毒素血症および敗血症の2つのin vivoモデルにおいて死亡を防ぐことが見いだされ、MSCがSIRS、敗血症および敗血症性ショックの治療に有用でありうるという証拠を提供する。MSCは様々な炎症性サイトカインおよびケモカインの全身レベルの低下、および様々な標的器官への白血球浸潤の阻害を含む、様々なレベルでSIRSの重要な側面を調節するために機能することが見いだされた。
【0010】
従って、本発明は、被験者における全身性炎症反応症候群(SIRS)の治療に使用するための、間葉系幹細胞(MSC)を含有する組成物を提供する。
【0011】
本発明はまた、被験者における全身性炎症反応症候群(SIRS)を治療するための医薬の製造における、間葉系幹細胞(MSC)の使用を提供する。
【0012】
本発明はまた、被験者に間葉系幹細胞(MSC)を投与することを含む、被験者における全身性炎症反応症候群(SIRS)を治療する方法を提供する。
【0013】
本発明のこれらおよび他の態様は、下記においてより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】細胞によって発現され、免疫蛍光染色によって測定されるマーカーにより定義される細胞特性評価を示す。免疫陽性細胞の頻度は下記のように示される: -、5%以下;+/-、6〜15%;+、16〜50%;++、51〜85%;および+++、86〜100%。Pは継代数である。
【図2】脂肪組織由来間質幹細胞の間接免疫蛍光解析を示す。青色はDAPI染色された核を示す。(A)CD90;(B)c-Kit;および(C)ビメンチン。
【図3A】脂肪吸引サンプルから単離された細胞から得られた表面マーカープロファイル(CD3、CD9、CD10、CD11b、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD28、CD29、CD31、CD34、CD36、CD38、CD44、CD45、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49eおよびCD49f)の蛍光イムノサイトメトリー解析を示す。
【図3B】脂肪吸引サンプルから単離された細胞から得られた表面マーカープロファイル(CD50、CD51、CD54、CD55、CD56、CD58、CD59、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD90、CD95、CD102、CD104、CD105、CD106、CD133、CD166、グリコホリン(glycoforina)、β2 ミクログロブリン、HLA I、HLA IIおよびNGFR)の蛍光イムノサイトメトリー解析を示す。
【図4】ヒト脂肪組織から単離された間葉系幹細胞におけるIDOの発現に対する、前炎症性試薬とのインキュベーションの影響を示す。A)RT-PCRによる検出。B)ウェスタンブロットによる検出。IL-1、インターロイキン1;TNF-α、腫瘍壊死因子-アルファ;LPS、リポ多糖類;IFN-γ、インターフェロン-ガンマ;C-、陰性対照;C+、陽性対照;n.i.、IFN-γによって誘導されていない細胞。GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)を、RT-PCRのローディング対照として用いる。
【図5】ASCによって発現される表面マーカープロファイルの蛍光イムノサイトメトリー解析を示す。アイソタイプ対照(陰性対照)を灰色の網掛けで示す。
【図6】IFNγの分泌およびPBMCの増殖に対する、hASCの刺激の影響を示す。
【図7】LPSまたはCLPに対するhASCの反応を示す:(A)細胞の生存を12時間ごとに測定した;(B)肝臓、腸および肺におけるサイトカインおよびケモカインレベル;(C)腹腔に浸潤している炎症細胞の濃度;(D)タンパク質抽出物中のMPO活性の測定によって決定される、標的器官への好中球浸潤。n=10匹のマウス/群。LPS単独またはCLP単独での対照と比較して、*p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において用いる場合、下記の用語および語句は、下記の意味を有するものとする。他に定義されない限り、本明細書において用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に通常理解されているものと同じ意味を有する。
【0016】
冠詞「a」および「an」は、1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)のその冠詞の文法的対象を指す。例として、「an element」は1つの要素(element)または2つ以上の要素(element)を意味する。
【0017】
「約」という用語は、値に関して用いられる場合、値±10%に関連する。
【0018】
「脂肪組織(adipose tissue)」とは任意の脂肪組織を意味する。脂肪組織は、例えば、皮下、大網/内臓、乳房、性腺、もしくは他の脂肪組織部位に由来する、褐色または白色の脂肪組織でありうる。好ましくは、脂肪組織は皮下白色脂肪組織である。脂肪組織は、初代細胞培養または不死化細胞系を含みうる。脂肪組織は、脂肪組織を有する任意の生物に由来しうる。いくつかの実施形態では、脂肪組織は哺乳動物由来であり、更なる実施形態では、脂肪組織はヒト由来である。都合の良い脂肪組織源は脂肪吸引手術由来である。しかし、脂肪組織源および脂肪組織の単離方法のいずれも本発明にとって重要ではないことが理解されるであろう。本明細書に記載される細胞が被験者への自家移植のために要求される場合、脂肪組織はその被験者から単離されるであろう。
【0019】
「脂肪組織由来間質幹細胞(ASC)」は、脂肪組織、通常はヒト脂肪組織に由来するMSC(hASC)を指す。
【0020】
「構成的に」という用語は、いずれの特異的な誘導も受けない遺伝子の発現を意味することが理解される。
【0021】
「培養(culture)」という用語は、細胞、生命体、多細胞体、または組織の培地中での増殖を指す。「培養する(culturing)」という用語は、このような増殖を実現する任意の方法を指し、複数のステップを含みうる。「更に培養する(further culturing)」という用語は、細胞、生命体、多細胞体、または組織を特定の成長段階まで培養し、その後、別の培養方法を用いて、上記の細胞、生命体、多細胞体、または組織を他の成長段階に至らせることを指す。「細胞培養」は、in vitroでの細胞の増殖を指す。このような培養では、細胞は増殖するが、それ自体では組織を構築しない。「組織培養」は、その構造および機能を保つための、in vitroでの組織、例えば、器官原基もしくは成熟した器官の外植片の維持または成長を指す。「単層培養」は、主として互いにおよび底質に付着しながら、細胞が適切な培地中で増殖する培養を指す。更に、「懸濁培養」は、細胞が適切な培地中で懸濁されながら増殖する培養を指す。同様に、「連続流動培養」は、細胞増殖、例えば、生存能力を維持するための、新鮮培地の連続流の中での細胞または外植片の培養を指す。「馴化培地」という用語は、培養細胞と接触した期間後に生じる、例えば、培養細胞/組織を含まない上清を指し、培地は、細胞によって産生され培養物中に分泌される特定のパラクリン因子および/またはオートクリン因子を含有するように変化している。「コンフルエント培養」は、全ての細胞が接触して、培養容器の表面全体が覆われている細胞培養であり、細胞がまたそれらの最大密度に達したことを意味するが、コンフルエントは必ずしも分裂が停止することまたは集団のサイズが増加しないことを意味しない。
【0022】
「培養培地」または「培地」という用語は、当技術分野において認められており、一般的に、生きた細胞の培養に使用される任意の物質または調製物を指す。細胞培養に関して用いられる場合、「培地」という用語は、細胞を取り巻く環境の成分を含む。培地は、固体、液体、気体、または相および物質の混合物でありうる。培地は、液体増殖培地ならびに細胞増殖を維持しない液体培地を含む。培地はまた、寒天、アガロース、ゼラチンおよびコラーゲン基質などのゲル状培地を含む。典型的な気体培地は、ペトリ皿または他の固形担体もしくは半固形担体上で増殖している細胞が曝される気相を含む。「培地」という用語はまた、たとえそれがまだ細胞と接触していないとしても、細胞培養における使用を目的とする物質を指す。言い換えると、細菌培養のために調製された栄養豊富な液体は培地である。同様に、水または他の液体と混合した際、細胞培養に適するようになる粉末混合物は、「粉末培地」と呼ばれうる。「規定培地」は、化学的に規定された(通常精製された)成分で作られる培地を指す。「規定培地」は、酵母エキスおよびビーフブロスなどの特性の明らかでない生物抽出物を含まない。「富栄養培地」は、特定の種のほとんどまたは全ての生存形態の成長を支持するように作られた培地を含む。富栄養培地はしばしば、複雑な生物抽出物を含む。「高密度培養の増殖に適した培地」は、他の条件(温度および酸素移動速度など)がこのような増殖を可能にする場合、細胞培養物のOD600が3以上に達することを可能にする任意の培地である。「基礎培地」という用語は、特別な栄養素補給を必要としない多くの種類の微生物の増殖を促進する培地を指す。ほとんどの基礎培地は、通常、4つの基本的な化学物質群:アミノ酸、炭水化物、無機塩類、およびビタミンを含有する。基礎培地は通常、より複雑な培地の基礎となり、例えば、血清、バッファー、増殖因子、脂質などの補給物が加えられる。基礎培地の例は、イーグル基礎培地、最少必須培地、ダルベッコ改変イーグル培地、199培地、栄養混合物Ham’s F-10およびHam’s F-12、マッコイ5A、ダルベッコMEM/F-I 2、RPMI 1640、ならびにイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)を含むが、それらに限定されない。
【0023】
「含む、包含する、含有する(compriseおよびcomprising)」という用語は、更なる要素が含まれうるという包括的な、広い意味で用いられる。
【0024】
「含む(including)」という用語は、本明細書において「含むが、それらに限定されない」という意味に用いられる。「含む(including)」および「含むが、それらに限定されない」は、同じ意味で用いられる。
【0025】
「マーカー」は、その存在、濃度、活性、またはリン酸化状態が検出でき、細胞の表現型を同定するために使用できる生体分子を指す。
【0026】
「間葉系幹細胞(MSC)」は多能性幹細胞である、すなわち、それらは多数の異なる種類の細胞を生じさせることができる細胞である。この用語は、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、または筋細胞の少なくとも1つに分化することができる細胞を指す。MSCは任意の種類の組織から単離されうる。通常、MSCは、骨髄、脂肪組織、臍帯、または末梢血から単離される。本発明において用いるMSCは、いくつかの実施形態では、骨髄(BM-MSC)または脂肪組織(ASC)から単離されうる。本発明の好ましい態様では、MSCは吸引脂肪から得られ、それ自体は脂肪組織から得られる。
【0027】
本発明の方法によって治療される「患者」、「被験者」または「宿主」は、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかを意味しうる。
【0028】
「医薬組成物」という用語は、治療における使用を目的とした組成物を指す。本発明の組成物は、SIRS、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックおよび敗血症様症状の治療における使用を目的とした医薬組成物である。本発明の組成物は、MSCに加えて、非細胞成分を含有しうる。このような非細胞成分の例は、限定するものではないが、細胞培養培地を含み、それは1種以上のタンパク質、アミノ酸、核酸、ヌクレオチド、補酵素、抗酸化物質および金属を含みうる。
【0029】
「製薬上許容される」という語句は、本明細書では、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴わずにヒトおよび動物の組織と接触して使用するために適した、妥当な利益/リスク比に見合う、化合物、物質、組成物、および/または剤形を指すために用いられる。
【0030】
「製薬上許容される担体」という語句は、本明細書において用いる場合、例えば液体もしくは固体の増量剤、希釈剤、賦形剤、または、ある器官もしくは体の一部から別の器官もしくは体の一部への対象化合物の運搬もしくは輸送に関与する溶媒封入材料などの、製薬上許容される物質、組成物あるいはベヒクルを意味する。それぞれの担体は、製剤の他の成分と適合するという意味で「許容され」なければならず、患者に有害であってはならない。
【0031】
「表現型」という用語は、例えばサイズ、形態、タンパク質発現などの、細胞の観察可能な特性を指す。
【0032】
「前駆細胞」という用語は、それ自身より更に分化した子孫を生じる能力を有する細胞を指す。例えば、その用語は、未分化細胞または最終分化に達しない程度に分化した細胞を指してもよく、それらは増殖でき、分化したもしくは分化可能な娘細胞を次に生じさせることができる多数の母細胞を生じる能力を有する、より多くの前駆細胞を生み出すことができる。1つの実施形態では、前駆細胞という用語は、汎用の母細胞を指し、その子孫は、分化によって、例えば、胚細胞および胚組織の多様化の進行において起こるような、完全に個別の性質を獲得することによって、しばしば種々の方向へ特殊化する。細胞分化は、通常、多くの細胞分裂を通して生じる複雑な過程である。分化した細胞は、それ自身が多能性細胞に由来する多能性細胞から生じうる。これらの多能性細胞のそれぞれは幹細胞と考えられるが、それぞれが生じさせることのできる細胞の種類の範囲はかなり異なりうる。いくつかの分化した細胞もまた、より大きな発生能を有する細胞を生じさせる能力を有する。このような能力は生来のものであってもよく、または様々な因子を用いた処理によって人為的に誘導されうる。この定義によれば、幹細胞はまた、前駆細胞、ならびに最終分化した細胞により近い前駆細胞でもありうる。
【0033】
「増殖」は、細胞数の増加を指す。「増殖する(Proliferating)」および「増殖(proliferation)」は、有糸分裂中の細胞を指す。
【0034】
「全身性炎症反応症候群」(または「SIRS」)という用語は、本明細書では、その通常の意味に従って、感染源を持たない全身の炎症状態を指すために用いられる。SIRSには4つの主要な診断症状が存在するが、これらのうち任意の2つで診断には十分である(例えば、Nystrom (1998) Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 41, Suppl. A, 1-7参照)。
【0035】
「敗血症」という用語は、疑わしい感染または証明された感染によって引き起こされるSIRSの一形態を指す(例えば、Nystrom (1998) Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 41, Suppl. A, 1-7参照)。敗血症に至る感染は、ウイルス、真菌、原生動物または細菌によって起こりうる。
【0036】
「重症敗血症」という用語は、臓器機能不全、低かん流または低血圧を伴う敗血症を指す(例えば、Nystrom (1998) Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 41, Suppl. A, 1-7参照)。
【0037】
「敗血症性ショック」という用語は、かん流障害の存在に加えて、液体による適切な蘇生にもかかわらず生じる低血圧(難治性低血圧)を伴う敗血症を指す(例えば、Nystrom (1998) Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 41, Suppl. A, 1-7参照)。
【0038】
「敗血症様症状」という用語は、患者が敗血症あるいは敗血症性ショックに類似した症状を示すが、炎症性メディエーターのカスケードおよび/または血行動態パラメーターの変化は、主にもしくは最初は感染因子によって引き起こされない状態を指す。例えば、敗血症様症状は、急性もしくは慢性肝不全の患者(Wasmuth HEら、J Hepatol. 2005 Feb;42(2): 195-201参照)、心停止後の蘇生後疾患に苦しむ患者(Adrie Cら、Curr Opin Crit Care. 2004 Jun;10(3):208-12参照)、癌化学療法後の敗血症様症状に苦しむ患者(Tsuji E ら、Int J Cancer. 2003 Nov 1;107(2):303-8参照)、組換えTNF-αを用いた単離肢温熱かん流(hyperthermic isolated limb perfusion)もしくは同様の治療を受けている患者(Zwaveling JHら、Crit Care Med. 1996 May;24(5):765-70参照)、または新生児における敗血症様疾患(Griffin MPら、Pediatr Res. 2003 Jun;53(6):920-6参照)において見られうる。
【0039】
本明細書において用いる場合、「溶液」という用語は、本発明において用いるMSCがその中で生存可能な、製薬上許容される担体または希釈剤を含む。
【0040】
MSC集団に関して「実質的に純粋な」という用語は、細胞数にして少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%がMSCである細胞集団を指す。言い換えると、MSC集団に関して「実質的に純粋な」という用語は、系列拘束された細胞数にして約20%未満、約10%未満、または約5%未満を含む細胞集団を指す。
【0041】
「支持体」は、本明細書において用いられる場合、脂肪組織由来間質幹細胞の増殖のための基盤もしくは基質として機能しうる、任意の装置または物質を指す。
【0042】
「治療薬(Therapeutic agent)」または「治療薬(therapeutic)」は、宿主に望ましい生物学的効果を持つことができる物質を指す。化学療法薬および遺伝毒性物質は、生物学的物質とは対照的に、化学物質由来のものであり、それぞれ特有の作用機序によって治療効果をもたらすことが一般的に知られている治療薬の例である。生物由来の治療薬の例として、増殖因子、ホルモン、およびサイトカインが挙げられる。様々な治療薬が当技術分野において知られており、それらの効果によって同定されうる。ある治療薬は、細胞増殖および分化を調節することができる。例として、化学療法ヌクレオチド、薬物、ホルモン、非特異的(非抗体)タンパク質、オリゴヌクレオチド(例えば、標的核酸配列(例えばmRNA配列)に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド)、ペプチド、およびペプチド模倣薬が挙げられる。
【0043】
本発明の組成物は、実質的に純粋なMSCまたはその子孫の集団を含有しうる。本発明の組成物はまた、細胞培養成分、例えば、1種以上のアミノ酸、金属および補酵素因子を含む培養培地を含有しうる。組成物は、わずかな他の間質細胞集団を含みうる。組成物はまた、特定の状況下で、例えば、移植、連続培養における増殖、または生体材料もしくは組成物としての使用において、MSCの増殖および生存を支持しうる他の非細胞成分を含みうる。
【0044】
本発明の組成物は、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の細胞がMSCである細胞集団を含有しうる。言い換えると、いくつかの実施形態では、組成物中の細胞の少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%は、MSCである。
【0045】
本発明の組成物は、数、重量、もしくは組成物の体積のいずれかで計算して、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のMSCを含有しうる。
【0046】
MSCは、マーカーCD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90およびCD105の1つ以上(例えば2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、または10以上)を有意なレベルで発現しうる。
【0047】
MSCは、マーカーCD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の1つ以上(例えば2以上、3以上または4以上)を発現しうる。「発現(expressed)」という用語は、細胞内でのマーカーの存在を表すために用いる。発現していると見なされるためには、マーカーは検出可能なレベルで存在しなければならない。「検出可能なレベル」とは、マーカーが、PCR、ブロッティングまたはFACS解析などの標準的な実験室的手法の1つを用いて検出されうることを意味する。MSC集団の表現型表面マーカー解析は、当技術分野において既知の任意の方法によって実施されうる。例として、限定はされないが、この表現型解析は、個々の細胞の染色によって実施されうる。このような染色は抗体の使用によって実現されうる。これは、標識抗体を用いた直接染色、または細胞マーカーに特異的な一次抗体に対する標識二次抗体を用いた間接染色でありうる。抗体結合は、当技術分野において既知の任意の方法によって検出されうる。抗体結合はまた、フローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡検査またはラジオグラフィーによっても検出されうる。
【0048】
あるいは、または加えて、30回のPCRサイクル後に発現が十分検出されうる場合、それは細胞あたり少なくとも約100コピーの細胞内での発現レベルに相当し、遺伝子は本発明の集団の細胞によって発現されると見なされる。「発現する(express)」および「発現(expression)」という用語は、同様の意味を有する。この閾値以下の発現レベルでは、マーカーは発現していないと見なされる。本発明の成体幹細胞におけるマーカーの発現レベルと、例えば胚性幹細胞のような他の細胞における同一マーカーの発現レベルとの比較は、好ましくは同一種から単離した2つの細胞型を比較することによって実施しうる。好ましくはこの種は哺乳動物であり、より好ましくはこの種はヒトである。このような比較は、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)実験を用いて都合良く実施されうる。
【0049】
本発明において用いられるMSC細胞集団はまた、その細胞が特定の選択されたマーカーを検出可能なレベルで発現しないことを特徴としうる。本明細書において定義されるように、これらのマーカーは陰性マーカーと言われる。いくつかの実施形態では、単離された成体幹細胞集団の少なくとも約70%の細胞がマーカーの検出可能な発現を示さない場合、本発明の幹細胞集団はマーカーを発現しないと見なされる。他の実施形態では、幹細胞集団の細胞の少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約95%または少なくとも約97%または少なくとも約98%または少なくとも約99%または100%は、マーカーのいかなる検出可能な発現も示さない。この場合も、検出可能な発現の欠如は、RT-PCR実験の使用によって、またはFACSを用いて証明されうる。
【0050】
本発明の組成物は、従って、マーカーCD34、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106およびCD133の1つ以上(例えば2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、もしくは10以上)を有意なレベルで発現しないMSCを(細胞数、または組成物の重量もしくは体積にして)少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%含有しうる。
【0051】
本発明の組成物は、従って、マーカーCD11b、CD11c、CD14、CD31、CD34、CD45、CD133およびHLAIIの1つ以上(例えば2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、もしくは8以上)を有意なレベルで発現しないMSCを(細胞数、または組成物の重量もしくは体積にして)少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%含有しうる。
【0052】
本発明の組成物は、マーカーc-Kit、ビメンチンおよびCD90の1つ以上(例えば2以上、または3つ全部)を有意なレベルで発現するMSCを(細胞数、または組成物の重量もしくは体積にして)少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%含有しうる。1つの好ましい実施形態では、本発明の組成物は、c-Kit、ビメンチンおよびCD90を有意なレベルで発現する95%以上の細胞を含有する。
【0053】
本発明の組成物は、マーカーCD34、VIII因子、α-アクチン、デスミン、S-100およびケラチンの1つ以上(例えば2以上、3以上、4以上、5以上または6つ全部)を有意なレベルで発現しないMSCを(細胞数、または組成物の重量もしくは体積にして)少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、あるいは少なくとも約99%含有しうる。
【0054】
本発明の組成物におけるMSCの濃度は、少なくとも約1×104細胞/mL、少なくとも約1×105細胞/mL、少なくとも約1×106細胞/mL、少なくとも約10×106細胞/mL、または少なくとも約40×106細胞/mLでありうる。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物中のMSCの少なくとも約40%(例えば少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%)は、それらの増殖能力、移動能力、生存能力、治療効果および免疫調節特性の1つ以上を向上させるために、予備刺激される。いくつかの実施形態では、予備刺激は、MSCをサイトカインと接触させることによって達成されうる。本発明のいくつかの実施形態では、予備刺激は、MSCをIFN-γと接触させることによって達成されうる。
【0056】
本発明のある実施形態では、MSCは、0.1〜100 ng/mlの濃度のIFN-γを用いて予備刺激されうる。更なる実施形態では、MSCは、0.5〜85 ng/ml、1〜70 ng/ml、1.5〜50 ng/ml、2.5〜40 ng/ml、または3〜30 ng/mlの濃度のIFN-γを用いて予備刺激されうる。予備刺激は、約12時間以上の刺激時間にわたって行われうる。予備刺激は、約13時間以上、約18時間以上、約24時間以上、約48時間以上、または約72時間以上の刺激時間にわたって行われうる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態では、MSCは以下を特徴としうる:
a)抗原提示細胞(APC)に特異的なマーカーを発現せず、
b)インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現せず、かつ
c)インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)による刺激に応じてIDOを発現する。
【0058】
本発明において有用なMSCは、T細胞の活性化を阻害する能力を有する。T細胞の活性化は、サイトカインの分泌およびT細胞の増殖によって測定されうる。例えば、本発明のMSCは、好ましくは、不適合なPBMCと共培養された際、増殖またはIFN-γの分泌を誘導しない。本発明のMSCはまた、スーパー抗原SEBでの刺激による、IFN-γの分泌およびPBMCの増殖を阻害しうる。
【0059】
実施例において詳述するように、本発明に係るMSC(この場合、hASC)による治療によって、内毒素血症のマウスモデルにおいて内毒素注入および盲腸穿孔に起因する死亡が用量依存的に予防できることが見いだされ(図7A)、またこのモデルにおいて、無気力、下痢、群居性、および立毛を含む敗血症の臨床兆候が軽減されることが見いだされた(データは示さない)。敗血症性ショックの病因は、組織損傷、多臓器不全、および死を引き起こしうる、圧倒的な炎症反応ならびに免疫反応を特徴とする。敗血症の動物へのhASCの投与によって、敗血症の際の主要な罹患器官における炎症性メディエーターのレベルが低下し、IL-10が上昇した(図7B)。よって、本発明に従って使用するMSCは、主要な器官における、TNFα、IL-6、IL-1β、IL-12、IFNγ、ランテス(Rantes)およびMIP-2のうち1種、2種、3種、4種、5種、6種または7種全てを含む炎症性メディエーターを減少させる。本発明に従って使用するMSCはまた、好ましくは、敗血症の際の主要な器官におけるIL-10のレベルを有意に上昇させる。また、MSCによる治療によって、腹腔、肺、肝臓および腸への炎症細胞の浸潤が有意に減少する(図7Cおよび7D参照)。
【0060】
実施例の結果から、hASCが、この疾患に特徴的な炎症反応の増悪を下方制御することによって、内毒素血症による死からマウスを救うことが示される。内毒素血症による死からのマウスの救出は、投与される細胞数の増加と共に増加する。この実施例では、1,000,000細胞/マウスの投与で、60%のマウスが生存し、対照的に、細胞を投与しなかったマウスは全く生存しなかった。マウスに注入される細胞数が増加した場合、生存率は増加しうる。これらの実施例から、MSC、特にhASCが、SIRS、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックおよび敗血症様症状の治療に有用でありうる証拠が提供される。
【0061】
本発明の組成物は、MSCの子孫を含みうる。このような子孫は、MSCの次の世代、ならびにMSCの分化を誘導することによって作製される系列拘束された細胞を含みうる。このような分化はin vitroにおいて誘導されうる。子孫細胞は親集団から任意の数の継代後に入手されうることが、理解されるであろう。しかし、ある実施形態では、子孫細胞は、親集団から約2代、約3代、約4代、約5代、約6代、約7代、約8代、約9代、または約10代目の継代後に入手されうる。
【0062】
本発明の組成物は、無菌状態で提供され、ウイルス、細菌および他の病原体を含まないものである。本発明の組成物は、発熱物質を含まない調製物として提供されうる。
【0063】
1つの実施形態では、本発明の組成物は、全身投与(例えば直腸内投与、経鼻投与、口腔投与、膣内投与、埋め込み型リザーバーを介したまたは吸入による投与)のために調製されうる。別の実施形態では、本発明の組成物は、局所投与のために調製されうる。本発明の組成物は、非経口経路によって投与されうる。組成物は、皮下、皮内、静脈内、筋内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内、リンパ管内および頭蓋内経路によって投与されうる。
【0064】
1つの実施形態では、本発明において用いられるMSCは、治療される被験者に対して自己でありうる。更なる実施形態では、本発明において用いられるMSCは、治療される被験者に対して同種異系または異種でありうる。以前の研究では、同種異系の骨髄由来間質幹細胞および脂肪組織由来間質細胞は、in vitroにおいて同種リンパ球と接触させた場合、リンパ球免疫反応を引き起こさないことが示された。従って、ドナーに由来する同種の脂肪組織由来間質幹細胞は、理論的には、MHC不適合に関わらず、任意の患者の治療のために使用されうる。同種の幹細胞を用いる実施形態では、補助的治療が必要とされうる。例えば、移植片対宿主病(GVHD)を予防するため、治療前、治療の間および/または治療後に、既知の方法に従って、免疫抑制剤が投与されうる。投与前に、細胞もまた、被験者から細胞に対する、またはその逆の免疫反応を抑制するために、当技術分野において公知の方法に従って改変されうる。
【0065】
1つの実施形態では、本発明の組成物は、治療される被験者の1以上の標的部位に、組成物を注入または移植することによって投与されうる。更なる実施形態では、本発明の組成物は、注入または移植による被験者への組成物の導入を容易にする送達デバイスに入れてもよい。1つの実施形態では、送達デバイスはカテーテルを含みうる。更なる実施形態では、送達デバイスは注射器を含みうる。
【0066】
本発明の組成物は通常、製薬上許容される担体および/または希釈剤を含有する。このような担体および希釈剤の例は、当技術分野においてよく知られており、以下を含みうる:乳糖、ブドウ糖およびショ糖などの糖;トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび座薬ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張食塩液;リンガー溶液;エチルアルコール;pH緩衝液;ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ酸無水物(polyanhydrides);ならびに医薬製剤に使用される他の非毒性適合物質。
【0067】
本発明の組成物は、無菌であり、容易に注射可能である程度に流体でありうる。加えて、組成物は、製造および保存の条件下で安定であり、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸およびチメロサールの使用によって、細菌および真菌などの微生物の汚染から保護されうる。
【0068】
1つの実施形態では、本発明の医薬組成物は、下記より選択される治療薬のような、1種以上(または2種以上、または3種以上、例えば1種、2種、3種、4種もしくは5種)の更なる治療薬を含有しうる:非ステロイド性抗炎症薬、オピエート作動薬またはサリチル酸塩などの鎮痛剤;駆虫薬(antihelmintic)、抗嫌気性菌薬、抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、抗真菌性抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質、β-ラクタム系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、キノロン系抗生物質、スルホンアミド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、抗マイコバクテリア薬、抗結核性抗マイコバクテリア薬、抗原虫薬、抗マラリア性抗原虫薬、抗ウイルス薬、抗レトロウイルス薬、殺疥癬虫薬、抗炎症薬、コルチコステロイド抗炎症薬、鎮痒薬/局所麻酔薬、局所性抗感染薬、抗真菌性局所性抗感染薬、抗ウイルス性局所性抗感染薬などの抗感染薬;酸性化剤、アルカリ化剤、利尿薬、炭酸脱水酵素阻害剤利尿薬、ループ利尿薬、浸透圧性利尿薬、カリウム保持性利尿薬、チアジド系利尿薬、電解質補給物、および尿酸排泄薬などの電解質物質および腎臓作用薬;膵酵素および血栓溶解酵素などの酵素;止痢剤、制吐薬、胃腸抗炎症薬、サリチル酸系胃腸抗炎症薬、制酸抗潰瘍薬、胃酸ポンプ阻害薬抗潰瘍薬、胃粘膜性抗潰瘍薬、H2遮断薬抗潰瘍薬、コレステロール胆石溶解薬、消化薬、吐剤、下剤および便軟化剤、および運動促進薬などの胃腸薬;吸入麻酔薬、ハロゲン化吸入麻酔薬、静脈麻酔薬、バルビツレート系静脈麻酔薬、ベンゾジアゼピン系静脈麻酔薬、およびオピエート作動薬静脈麻酔薬などの全身麻酔薬;妊娠中絶薬、副腎物質、コルチコステロイド副腎物質、アンドロゲン、抗アンドロゲン薬などのホルモンまたはホルモン修飾因子;免疫グロブリン、免疫抑制剤、トキソイド、およびワクチンなどの免疫生物学的薬物;アミド型局所麻酔薬およびエステル型局所麻酔薬などの局所麻酔薬;抗痛風抗炎症薬、コルチコステロイド抗炎症薬、金化合物抗炎症薬、免疫抑制抗炎症薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、サリチル酸系抗炎症薬などの筋骨格薬(musculoskeletal agent);ミネラル;ならびにビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、およびビタミンKなどのビタミン。
【0069】
他の実施形態では、更なる治療薬は、細胞増殖もしくは細胞活性化に作用する増殖因子または他の分子でありうる。更なる実施形態では、増殖因子は最終分化を誘導しうる。他の実施形態では、増殖因子は、天然の増殖因子の変異型または断片でありうる。このような変異型を作製する方法は、当技術分野において周知であり、例えば、突然変異誘発と、その結果生じる変異型を必要とされる機能性についてアッセイすることによる、保存的アミノ酸変化の作製を含みうる。
【0070】
1つの実施形態では、MSCは、1種以上(または2種以上、または3種以上、例えば1種、2種、3種、4種もしくは5種)の更なる治療薬と併用して被験者に投与されうる。いくつかの実施形態では、MSCおよび1種以上の更なる治療薬は、被験者に同時に投与されうる。他の実施形態では、MSCおよび1種以上の更なる治療薬は、被験者に順に投与されうる。1種以上の更なる治療薬は、MSCの投与前または投与後に投与されうる。
【0071】
MSCおよび任意の更なる治療薬の投与量は、患者の症状、年齢および体重、治療または予防される疾患の性質および重症度、投与経路、ならびに更なる治療薬の剤形によって異なる。本発明の組成物は、単回投与または分割投与で投与されうる。MSCsおよび任意の更なる治療薬の適切な投与量は、既知の技術によって決定されうる。
【0072】
所定の患者において最も効果的な治療をもたらすであろう、任意の特定の薬剤の正確な投与時期および投与量は、薬剤の活性、薬物動態、およびバイオアベイラビリティー、患者の生理的状態(年齢、性別、疾患の種類および段階、全身状態、既定の投与量および薬物の種類に対する反応性)、投与経路などに依存する。本明細書に示される情報は、例えば、最適な投与時期および/または投与量の決定など、治療を最適化するために使用されうるが、これは被験者の観察ならびに投与量および/または時期の調整などの慣用の実験しか必要としない。被験者が治療されている間、被験者の健康は、24時間の間の所定の時点で1以上の関連した指標を測定することによって観察されうる。投与量、投与時期および剤形を含む治療計画は、このような観察の結果に従って最適化されうる。
【0073】
治療は、至適用量に満たない、より少ない投与量で開始されうる。その後、投与量は、最適な治療効果が得られるまで少しずつ増加されうる。
【0074】
いくつかの治療薬の併用は、異なる成分の効果の開始および持続時間が相補的(complimentary)でありうるため、任意の個々の成分に必要な投与量を減少させうる。このような併用療法では、異なる活性薬剤は、共にまたは別々に、同時にまたはその日のうちの異なる時間に送達されうる。
【0075】
本発明の組成物を調製する方法は限定されず、任意の方法で調製された本発明の組成物が本発明の範囲内に含まれることは、当業者にとって明白である。1つの実施形態では、本発明は、本発明の組成物を調製する方法を提供し、それは:(a)被験者からMSCを採取すること;(b)酵素処理によって細胞懸濁液を得ること;(c)細胞懸濁液を沈殿させ、細胞を培養培地に再懸濁すること;(d)少なくとも約10日間、細胞を培養すること;および(g)少なくとも2代の継代培養の間、細胞を増殖させること、を含む。
【0076】
本発明において使用するためのMSCは、本発明の組成物を導入するべき被験者の末梢血、骨髄または脂肪組織から単離されうる。しかし、MSCはまた、被験者と同一のまたは異なる種の任意の生物からも単離されうる。MSCを有するあらゆる生物が潜在的な候補でありうる。1つの実施形態では、生物は哺乳動物であってもよく、他の実施形態では、生物はヒトである。
【0077】
1つの好ましい実施形態では、脂肪由来MSCは、基本的にZukら、2001によって記載されたとおりに得られる。この方法に従って、脂肪組織から吸引脂肪が得られ、細胞はそれらに由来する。この方法の過程で、細胞は、好ましくはPBSを用いて、汚染残屑および赤血球を除去するために、好ましくは洗浄されうる。細胞は、好ましくは、PBS中のコラゲナーゼによって消化される(例えば、37℃で30分間、0.075%コラゲナーゼ;I型、Invitrogen, Carlsbad, CA)。残存する赤血球を除去するために、消化されたサンプルは(例えば10%ウシ胎仔血清によって)洗浄され、160 mmol/L ClNH4で処理され、最後にDMEM完全培地(10%FBS、2 mmol/Lグルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM)に懸濁されうる。細胞は40-μmナイロンメッシュを通してろ過されうる。このようにして単離された細胞は、組織培養フラスコに播種され(好ましくは2〜3×104細胞/cm2)、37℃、5%CO2で、3〜4日ごとに培養培地を交換しながら増殖されうる。細胞は、好ましくは、培養物が90%コンフルエントに達した時点で新たな培養フラスコに継代される(1,000細胞/cm2)。
【0078】
ある実施形態では、細胞は、少なくとも約15日間、少なくとも約20日間、少なくとも約25日間、または少なくとも約30日間培養されうる。培養下での細胞の増殖は、細胞集団における細胞表現型の均一性を向上させうる。
【0079】
ある実施形態では、細胞は、培養下で少なくとも3代の継代培養の間増殖される、すなわち、「少なくとも3代継代される」。他の実施形態では、細胞は、少なくとも4代、少なくとも5代、少なくとも6代、少なくとも7代、少なくとも8代、少なくとも9代、または少なくとも10代継代される。細胞は、細胞表現型の均一性が改善され、分化能力が維持されるならば、培養下で無制限に増殖されうる。
【0080】
細胞は、幹細胞の培養のために当技術分野において知られている任意の技術によって培養されうる。様々な培養技術、ならびにそれらのスケールアップの議論は、Freshney, R.I., 「動物細胞の培養:基本技術のマニュアル(Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique)」第4版、Wiley-Liss 2000で見られる。ある実施形態では、細胞は、単層培養によって培養される。組織培養においてMSCを支持できる任意の培地が使用されうる。MSCの増殖を支持するであろう培地処方は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、アルファ改変最少必須培地(αMEM)、およびRoswell Park Memorial Institute培地1640(RPMI培地1640)を含むが、それらに限定されない。通常、間質細胞の増殖を支持するために、0〜20%のウシ胎仔血清(FBS)を上記の培地に添加する。しかし、間質細胞および軟骨細胞に必要なFBS中の増殖因子、サイトカインおよびホルモンが同定され、適切な濃度で増殖培地に供給されるならば、規定培地を使用してもよい。本発明の方法に有用な培地は、抗生物質、間質細胞のための細胞分裂促進化合物または分化誘導化合物を含むがそれらに限定されない、1種以上の目的とする化合物を含有しうる。本発明の細胞は、加湿インキュベーター中、31℃〜37℃の温度で増殖されうる。二酸化炭素含量は2%〜10%に維持され、酸素含量は1%〜22%に維持されうる。細胞は、最大約4週間までこの環境で維持されうる。
【0081】
培地に添加されうる抗生物質は、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含むが、それらに限定されない。化学的に規定された培養培地中のペニシリンの濃度は、約10〜約200ユニット/mlでありうる。化学的に規定された培養培地中のストレプトマイシンの濃度は、約10〜約200μg/mlでありうる。
【0082】
1つの実施形態では、本発明のMSCは、プラスミド、ウイルスもしくは別のベクター法を用いて、目的とする核酸により安定にまたは一過的にトランスフェクトまたは形質導入されうる。目的とする核酸は、修復されるべき組織の種類、例えば腸壁または膣壁に見られる細胞外マトリックス成分の産生を促進する遺伝子産物をコードするものを含むが、それに限定されない。
【0083】
間質幹細胞に調節遺伝子を運ぶウイルスベクターの形質導入は、(例えば塩化セシウムバンド形成によって)精製されたアデノウイルス、レトロウイルスまたはアデノ随伴ウイルスを含むがそれらに限定されないウイルスベクターによって、約10:1〜2000:1の感染多重度(ウイルスユニット:細胞)で実施されうる。細胞は、血清を含有しないあるいは血清を含有する培地中、ポリエチレンイミンもしくはリポフェクトアミン(商標)などの陽イオン界面活性剤の非存在下または存在下で、約1時間〜約24時間、ウイルスに曝露されうる(Byk T.ら、(1998) Human Gene Therapy 9:2493-2502; Sommer B.ら、(1999) Calcif. Tissue Int. 64:45-49)。
【0084】
幹細胞へのベクターまたはプラスミドの移入に適した他の方法は、例えば米国特許第5,578,475号;5,627,175号;5,705,308号;5,744,335号;5,976,567号;6,020,202号;および6,051,429号に記載されるものなどの、脂質/DNA複合体を含む。適切な試薬としては、リポフェクトアミン、ポリカチオン性脂質2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキシ-アミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)(ケミカルアブストラクト登録名):N-[2-(2,5-ビス[(3-アミノプロピル)アミノ]-1--オキシペンチル}アミノ)エチル]-N,N-ジメチル-2,3-ビス(9-オクタデセニルオキシ)-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート)の3:1(w/w)のリポソーム製剤、および膜ろ過水中の中性脂質ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)が挙げられる。典型的なものは、製剤リポフェクトアミン2000(商標)(Gibco/Life Technologiesから入手可能, ♯11668019)である。他の試薬としては、FuGENE(商標)6トランスフェクション試薬(非リポソーム型の脂質および他の化合物の80%エタノール中での混合物、Roche Diagnostics Corp.から入手可能, ♯1814443);ならびにLipoTAXI(商標)トランスフェクション試薬(Invitrogen Corp.からの脂質製剤, ♯204110)が挙げられる。幹細胞のトランスフェクションは、例えば、M.L. RoachおよびJ.D. McNeish (2002) Methods in Mol. Biol. 185:1に記載されるように、エレクトロポレーションによって実施されうる。安定した遺伝子変化を有する幹細胞の作製に適したウイルスベクター系は、アデノウイルスおよびレトロウイルスに基づき、市販のウイルスコンポーネントを用いて作製されうる。
【0085】
調節遺伝子をMSCに運ぶプラスミドベクターのトランスフェクションは、単層培養におけるリン酸カルシウムDNA沈殿もしくは陽イオン界面活性剤法(リポフェクトアミン(商標)、DOTAP)の使用によって、または三次元培養におけるプラスミドDNAベクターの直接的な生体適合性ポリマーへの取り込み(Bonadio J.ら、(1999) Nat. Med. 5:753-759)によって達成されうる。
【0086】
これらの遺伝子によってコードされる機能タンパク質の追跡および検出のために、ウイルスまたはプラスミドDNAベクターは、緑色蛍光タンパク質またはβ-ガラクトシダーゼ酵素などの容易に検出可能なマーカー遺伝子を含有してもよく、両者は組織化学的手法によって追跡されうる。
【0087】
本発明は、以下の実施例によって更に説明される。これらの実施例は説明の目的でのみ提供され、限定することを意図しない。
【実施例】
【0088】
1. 材料および方法‐細胞調製
1.1 間葉系幹細胞(MSC)
ヒト脂肪由来MSC(hASC)は、基本的に記載されるように得(Zukら、2001)、基本的にWO2006/037649に記載されるように調製した。簡潔には、ヒト脂肪組織から得た吸引脂肪をPBSで2回洗浄して汚染残屑および赤血球を除去し、37℃で30分間、PBS中の0.075%コラゲナーゼ(I型、Invitrogen, Carlsbad, CA)によって消化した。消化されたサンプルを10%ウシ胎仔血清(FBS)で洗浄し、160 mmol/L ClNH4で処理して残存する赤血球を除去し、DMEM完全培地(10%FBS、2 mmol/Lグルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM)に懸濁し、40-μmナイロンメッシュを通してろ過した。細胞を組織培養フラスコ上に播種し(2〜3×104細胞/cm2)、37℃、5%CO2で、3〜4日ごとに培養培地を交換しながら増殖させた。培養物が90%コンフルエントに達した時点で細胞を新たな培養フラスコに継代した(1,000細胞/cm2)。分裂回数6〜9回の合計6つの異なるサンプルを本研究に使用した。
【0089】
1.1.1 インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)によるインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の誘導
ヒト脂肪組織からMSCを単離し(ASC)、組織培養プレートに10,000細胞/cm2の密度で播種し、前述の細胞増殖のための条件下で48時間インキュベートした。図4に示すように、細胞の一部に下記の炎症性刺激を加えた。
【0090】
・インターロイキン-1(IL-1):3 ng/ml
・インターフェロン-ガンマ(IFN-γ):3 ng/ml
・腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α):5 ng/ml
・リポ多糖類(LPS):100 ng/ml
細胞を、対応する刺激の存在下で30分から48時間にわたる期間インキュベートし、その後、トリプシン消化によって採取し、プロテアーゼ阻害剤を含有するRIPAバッファー(50 mM Tris-HCl pH 7.4、150 mM NaCl、1 mM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオリド)、1 mM EDTA (エチレンジアミン四酢酸)、5μg/mlアプロチニン、5μg/mlロイペプチン、1%Triton x-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)に溶解した。細胞溶解物を、IDO特異的モノクローナル抗体(Upstate cell signaling solutionsからのマウスモノクローナルIgG、clone 10.1)を用いたウェスタンブロット解析に供した。処理された細胞からRNAを単離し、IDO cDNA(GenBank受入番号M34455(GI:185790))に特異的なプライマーを用いた逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって解析した。
【0091】
フォワード:5' GGATTCTTCCTGGTCTCTCTATTGG 3'
リバース:5' CGGACTGAGGGATTTGACTCTAATG 3'
1.1.2 均一性の改善した吸引脂肪からの幹細胞の調製
細胞を、24ウェルプレート中のカバーガラス上に低密度で、10%FBSを加えたDMEM中に播種した。細胞をPBSで洗浄し、-20℃で10分間、アセトンで固定した。α-アクチンの染色のためには、細胞を室温で10分間、4%パラホルムアルデヒドで固定した。4%ヤギ血清および0.1%Triton X-100を含有するPBSでブロッキングした後、細胞を、示した希釈の下記の細胞マーカーに対する一次抗体と共に、4℃で一晩インキュベートした:(i)α-アクチン;Dako, Glostrup, Denmark;1/50;(ii)ビメンチン;Sigma, St. Louis, USA;1/200;(iii)CD 90;CYMBUS, Biotechnology LTD, Chandlers Ford, Hants, UK;1/50;(iv)VIII因子;Dako;1/100;(v)CD 34;Chemicon, CA, USA;1/100;(vi)c-Kit;Chemicon;1/100;(vii)デスミン;Dako;1/100;(viii)サイトケラチン; Dako;1/100および(ix)S-100;Dako;1/50。その後、細胞を、適切なフルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲート二次抗体またはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)コンジュゲート二次抗体(Sigma;1/50)と共に、室温で45分間インキュベートした。4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で核を対比染色し、細胞をMobiglow (MoBiTec, Gottingen, Germany)に載せ、落射蛍光顕微鏡 Eclipse TE300(Nikon, Tokyo, Japan)を用いて観察した。いずれの場合も、免疫陽性細胞の数を測定し、染色された核の数と比較した。無作為に選択した視野を、Spotlカメラ(Diagnostic Instruments Inc., Tampa, FL, USA)を介してコンピューター(MacIntosh G3; Apple Computer Ink., Cupertino, Ca, USA)にエクスポートした。様々な抗体を用いた免疫染色の陽性対照として、ヒト大動脈平滑筋細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、およびヒト滑膜繊維芽細胞を用いた。
【0092】
継代1代目で、高い割合(90〜95%)の脂肪由来間質幹細胞が、間葉系細胞骨格細胞(mesenchymal cytoskeletal cells)のマーカーであるビメンチンを発現した(図1)。ビメンチンの発現は、継代9代目まで(9代目を含む)同じレベルに維持された。他のマーカーのレベルは、時間と共に低下した。例えば、継代1代目のLPA由来細胞の17%に見られたα-アクチンは、継代7代目ではもはや検出できなかった。内皮細胞のマーカーであるフォンヴィレブランド因子(VIII因子)、およびこれも内皮細胞の表面上に見られるCD34は、継代1〜3代目でのみ検出された(それぞれ7%および12%の免疫陽性細胞)。一方、細胞増殖のマーカーであるc-Kit(CD 117)の発現は、時間と共に増加し、継代4代目以降99%の免疫陽性細胞であった(図2)。初期には約80%のLPA由来細胞で発現された、繊維芽細胞マーカーであるCD90は、継代6代目からは99%の細胞で見られた。神経外胚葉マーカーであるS100または外胚葉マーカーであるケラチンの発現は、常にいずれのLPA由来細胞においても観察されなかった。継代数が増加すると共に観察されるマーカーの変化は、得られる細胞調製物の均一性の増加を示す。
【0093】
細胞増殖を定量するために、細胞を24ウェルプレートに5×103細胞/cm2の濃度で播種した。細胞が底質に接着した後(3時間)、培養培地を1%抗生物質と0.5%、2%、5%、または10%FBSを添加したDMEMと交換した。各バッチの血清を試験するための陽性対照として、ヒト脂肪由来間質幹細胞も培養し、それらの増殖速度を測定した。培地を2日に1回交換した。24時間間隔で、細胞を1%グルタルアルデヒドで固定し、クリスタルバイオレットによる核染色、および595 nmでの吸光度の測定によって、ウェル当たりの細胞数を決定した。標準曲線を作成して、ウェル当たりの細胞数と595 nmでの吸光度との関係を確立した(r2=0.99)。
【0094】
より標準化された主観性の少ない方法で細胞を解析するために、細胞を蛍光活性化セルソーター(FACS)解析にも供した。通常、フローサイトメトリー解析では、蛍光マーカーと直接的に(共有結合により)または間接的に(二次蛍光標識抗体)結合した抗体による表面抗原の検出が可能である。一方、上述の免疫組織化学解析は、細胞の透過化およびそれに続く抗体結合を必要とする。そのため、後者は、標的タンパク質および抗体に応じて個々に最適化されたプロトコールを必要とする。更に、細胞膜の透過化のため、内部で発現するマーカータンパク質と外部で発現するマーカータンパク質とを識別することができない。
【0095】
表面抗原の検出のためのイムノサイトメトリーに用いられるプロトコールは標準化され、適切な陰性対照しか必要としない。更に、FACS解析は、陽性細胞の割合および発現レベルの評価を可能にする。これらの評価は、免疫組織化学を使用した単に主観的性質のものであり、試験によって異なる可能性があるが、これはFACS解析では起こらない。
【0096】
このような細胞の免疫表現型解析は、新たに単離された細胞において、ならびに培養期間後に、例えば、培養7日後、培養4週間後、および培養3ヶ月後に実施されうる。異なる時点での表面マーカーの解析は、培養期間にわたる表現型の均一性の評価を可能にする。この解析の例、および健康なドナー3名から得られた培養0〜3ヶ月のサンプルから得られた表現型を示すデータは、2005年2月25日に出願された米国特許出願第11/065,461号に詳細に記載され、それは参照により本明細書に組み入れられる。
【0097】
上述の方法による単離後、患者の一人に由来する脂肪由来間質幹細胞を一連の表面マーカーの有無によって解析した。これを行うために、下記の表面マーカーの発現をフローサイトメトリーによって測定した。
【0098】
インテグリン:CD11b、CD18、CD29、CD49a、CD49b、CD49d、CD49e、CD49f、CD51、CD61、CD104。
【0099】
造血マーカー:CD3、CD9、CD10、CD13、CD16、CD14、CD19、CD28、CD34、CD38、CD45、CD90、CD133、グリコホリン(glycoforine)。
【0100】
増殖因子受容体:CD105、NGFR。
【0101】
細胞外マトリックス受容体:CD15、CD31、CD44、CD50、CD54、CD62E、CD62L、CD62P、CD102、CD106、CD146、CD166。
【0102】
その他:CD36、CD55、CD56、CD58、CD59、CD95、HLA-I、HLA-II、β2-ミクログロブリン。
【0103】
解析する細胞を、トリプシンによる穏やかな消化によって回収し、PBSで洗浄し、解析する表面マーカーのそれぞれに対するフルオレセイン(FITC)またはフィコエリトリン(PE)標識抗体マーカーと共に4℃で30分間インキュベートした。細胞マーカーを洗浄し、Epics-XL サイトメーター(Coulter)を用いて速やかに解析した。対照として、細胞を、FITCまたはPEで標識した対応するアイソタイプ(isotopes)の非特異的抗体で染色した。表面マーカーの発現プロファイルの解析から(図3A/3B)、どのマーカーが細胞集団を定義するかを決定し、細胞集団を同定して他の種類の細胞と識別することを可能にするために用いた基準は、以下の通りであった。
【0104】
1. 2005年2月25日に出願された米国特許出願第11/065,461号(参照により本明細書に組み入れられる)での健常なドナーの脂肪由来間質幹細胞を用いて行われた実験において、培養の間にサンプルによって、または経時的に変動するマーカーを切り捨てる。
【0105】
2. 生物学的関連性に応じてマーカーを選択し、特定の細胞種に特徴的なマーカー(例えば、CD3はリンパ球だけに限定されるマーカーである)を切り捨てる。
【0106】
これらの基準を適用して、多能性幹細胞集団は、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90およびCD105の発現について陽性であり;CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106およびCD133の発現を欠如すると特徴付けられる。
【0107】
1.2 末梢血単核細胞(PBMC)
PBMCは、フィコール‐ハイパック勾配での密度沈降法(室温で20分間、2000 rpm)によって、健常なボランティアの全血に由来する軟膜(buffy coat)検体から単離した。勾配界面から回収した細胞を、RPMI 1640完全培地(8%ヒトAB血清、2 mM L-グルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよび1% 2-メルカプトエタノールを補給したRPMI 1640培地)で2回洗浄し、直ちに培養または更なる精製に用いた。T細胞を単離するために、抗CD8、抗CD14、抗CD19、抗CD20および抗CD56 mAb(すべてCoulter Immunotechより)と共に4℃で1時間インキュベートし、その後抗マウスIgGでコートした磁気ビーズと共に4℃で1時間インキュベートすることによって、PBMCから接着細胞を枯渇させた。ビーズに結合した細胞を、磁気装置を用いてPBMCから除去した。細胞の刺激を最小限に抑えるために、全ての精製ステップを血清の非存在下で行った。T細胞の純度は、フローサイトメトリーによって評価して、>96%であった。CD4+ T細胞は、CD4分離キット(Miltenyi Biotec)を用いて全PBMCから陰性選択によって単離し、94〜98%の純度を有するCD4+ 細胞集団を得た。
【0108】
1.3 細胞培養
CD4+ T細胞(5×104)および様々な数の単球、DCまたは全PBMCのいずれかを、スーパー抗原であるブドウ球菌エンテロトキシンE(SEB, 1 ng/ml, Sigma)の存在下または非存在下、かつ示された数のhASCの存在下または非存在下で、平底96ウェルプレート(Corning, Corning, NY)において培養した。培養72〜96時間後、Roche Diagnostics GmbH(Mannheim, Germany)からの細胞増殖アッセイ(BrdU)を用いて、細胞増殖を評価した。培養上清中のサイトカイン含量は下記のような特異的サンドイッチELISAによって測定した。いくつかの培養は、TGFβ(10μg/mL)もしくはIL-10(10 μg/mL)に対する中和抗体、インドメタシン(20μmol/L)または組換えTNFα(20 ng/mL)もしくはIFNγ(200 ng/mL)(すべてBD Pharmingen, San Jose, CA and R&D Systems, Minneapolis, MNより)の存在下で行った。抑制反応の細胞接触依存性を決定するために、SEB刺激PBMC(105)をTranswellシステム(Millipore, 0.4μm細孔)の上部インサートに入れ、放射線照射した(30 Gy)第三のPBMC(5×104)の非存在下または存在下でhASC(2x104)を下部ウェルに入れた。4日目に、上部区画のPBMCの増殖反応を測定した。hASC培養物から上清を調製するために、hASC(105)を、25-cm2フラスコ中で、24時間TNFα(20 ng/mL)、IFNγ(200 ng/mL)もしくはその両方によって、または4日間同種異系のPBMC(2x106)によって刺激した。上清を採取し、0.22μmフィルターでろ過し、SEB活性化PBMC培養物に加えた。
【0109】
hASCの存在下で生じるT細胞の抑制能力を測定するために、4日後のSEB活性化ASC-PBMC培養物から、磁気ビーズ標識抗CD3モノクローナル抗体(Miltenyi Biotec)を用いた陽性免疫磁気選択によって、T細胞を単離した。Lymphoprep(Nycomed Pharma AS)を用いた密度勾配遠心分離法によって生存細胞を回収し、IL-2(20 U/mL)を添加したRPMI完全培地中で2日間休ませ、二次培養において抗CD3 Abs(5 μg/mL)で刺激されたT細胞に様々な比率で加えた。
【0110】
1.4 MSCの性状解析
継代培養1〜25代目の細胞を用いて細胞の性状解析を行った。脂肪組織由来の細胞を、蛍光マーカーで標識した抗体を用いたフローサイトメトリーによって(すなわち、蛍光イムノサイトメトリーによって)、下記を含む一連の表面マーカーの有無について解析した。
【0111】
-抗原提示細胞(APC)のマーカー:CD11b、CD11c、CD14、CD45、およびHLAII。
【0112】
-内皮細胞のマーカー:CD31。
【0113】
-その他のマーカー:CD9、CD34、CD90、CD44、CD54、CD105およびCD133。
【0114】
フローサイトメトリーアッセイに使用された抗体は下記の通りである:
- CD9:クローンMM2/57マウスIgG2b - FITC標識抗体(Serotec);
- CD11b:クローンICRF44マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec);
- CD11c:クローンBU15マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec);
- CD14:クローンUCHM1マウスIgG2a - FITC標識抗体(Serotec);
- CD31:クローンWM59マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec);
- CD34:クローンQBEND 10マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec);
- CD44:クローンF10-44-2マウスIgG2a - FITC標識抗体(Serotec);
- CD45:クローンF10-89-4マウスIgG2a - FITC標識抗体(Serotec);
- CD54:クローン15.2マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec);
- CD90:クローンF15-42-1マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec);
- CD105:クローンSN6マウスIgG1 - FITC標識抗体(Serotec);および
- 抗ヒトHLAクラスII DP, DQ, DR:クローンWR18マウスIgG2a - FITC標識抗体(Serotec);
- CD133:クローン293C3マウスIgG2b - PE標識抗体(Miltenyi Biotec)。
【0115】
解析した細胞(図5)は、CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105について陽性であり、CD11b、CD11c、CD14、CD31、CD34、CD45、CD133およびHLAIIについて陰性であった。細胞は、内皮細胞系列またはAPC系列に特異的な試験されたマーカー全て(CD11b、CD11c、CD14、CD45、およびHLAII)について陰性であった。
【0116】
1.5 サイトカインおよびホルモンの定量
結腸粘膜におけるサイトカイン定量のために、0.5 mmol/L DTT、ならびにフェニルメチルスルホニルフルオリド、ペプスタチンおよびロイペプチンを含有する10 μg/mLのプロテイナーゼ阻害剤の混合物(Sigma)を含む50 mmol/L Tris-HCl, pH 7.4中で結腸断片(50 mg組織/mL)をホモジェナイズすることによって、タンパク質抽出物を分離した。サンプルを30,000gで20分間遠心分離し、サイトカイン定量まで−80℃で保存した。血清、結腸タンパク質抽出物および培養上清中のサイトカイン、ケモカインならびにHGFレベルは、BD Pharmingen(San Diego, CA)およびR&D Systems(Minneapolis, MN)の捕捉/ビオチン化検出Absを製造業者の推奨に従って用いた特異的サンドイッチELISAによって測定した。培養上清中のPGE2およびHGFレベルは、競合的酵素免疫測定キット(Cayman Chemical, Ann Arbor, MI)を用いて測定した。刺激されたMLN細胞におけるサイトカインの細胞内解析のために、106細胞/mlを、モネンシンの存在下でPMA(10 ng/mL)とイオノマイシン(20 ng/mL)によって8時間刺激した。細胞を30分間4℃でPerCP-抗CD4 mAbsによって染色し、洗浄し、Cytofix/Cytoperm(Becton Dickinson)を用いて固定/サポニン透過化し、0.5μg/サンプルのFITC-およびPE-コンジュゲート抗サイトカイン特異mAbs(BD Pharmingen)で染色し、FACScaliburフローサイトメーターで解析した。単球/マクロファージとT細胞源とを区別するために、細胞内サイトカイン解析は、もっぱらPerCP標識されたCD4 T細胞集団で行った。
【0117】
1.6ミエロペルオキシダーゼアッセイ
結腸への好中球浸潤は、以前に記載されたように(Burasら(2005) Nature Reviews: Drug Discovery 4(10), 854 - 865)ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を測定することによって観察した。簡潔には、結腸断片を、0.5%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを含むリン酸バッファー(50 mmol/L, pH 6.0)中に50 mg/mLでホモジェナイズした。サンプルを3回凍結融解し、30,000gで20分間遠心分離した。上清を、0.167 mg/mL o-ジアニシジン(Sigma)および0.0005% H2O2を含む50 mmol/Lリン酸バッファーpH 6.0からなるアッセイバッファーで1:30に希釈し、比色反応を、分光光度計(Beckman Instruments, Irvine, CA)において450 nmで1〜3分間測定した。湿組織のグラムあたりのMPO活性は、下記のように計算した:MPO活性(U/g湿組織)=(A450) (13.5)/組織重量 (g)、式中A450は、反応開始後1〜3分の間の450nm光の吸光度の変化である。係数13.5は、1U MPO活性が1μmol 過酸化物/分を還元する酵素の量を表すように、実験的に決定した。
【0118】
1.7 統計解析
全ての結果は、n回の実験または群あたりのマウスの平均±SDとして表される。統計的有意性についてノンパラメトリックデータを比較するために、全ての臨床結果および細胞培養実験にマンホイットニーのU検定を適用した。体重の変化は、ウイルコクソンの符号付順位和検定(Wilcoxon matched-pair signed-rank test)を用いて比較した。生存率は、カプラン・マイヤーログランク検定によって分析した。P<0.05を有意と見なした。
【0119】
2. 実施例1−hASCは強力な免疫調節活性を示す
本研究では、サイトカイン分泌およびT細胞増殖によって測定されるような、hASCのT細胞活性化を阻害する能力を試験した。hASCは、不適合なPBMCと共培養した場合、増殖またはIFN-γの分泌を誘導しなかった(データは示さない)。更に、hASCは、スーパー抗原SEBで刺激されたPBMCの増殖およびIFN-γの分泌を有意に阻害した(図6)。この阻害効果は、共培養に加えられたhASCの数と直接相関し(図6)、SEBの濃度とは無関係であった(データは示さない)。
【0120】
3. 実施例2−LPSおよびCLP(盲腸結紮穿刺)によるSIRSの誘導
内毒素血症を引き起こすために、Balb/cマウスにLPS(400 μg/マウス)を腹腔内注射した。LPS注射の30分後、マウスに培地またはhASC(示された場合105〜106細胞)を腹腔内処理した。生存、および逆立った被毛、無気力、下痢の出現、体重減少を含む他の臨床兆候について、12時間ごとにマウスを観察した。一部の動物をLPS注射後の様々な時間で屠殺し、心穿刺によって血液サンプルを採取し、腹腔滲出液、肝臓、肺および小腸を採取した。組織検体を、タンパク質抽出およびサイトカイン定量、ならびにMPO活性測定のために、液体窒素で速やかに冷凍した。腹腔懸濁液を5分間1800gで遠心分離し、腹腔細胞を数え、PBS/3 mmol/L EDTA培地中で3×106細胞/mLに調整した。様々な腹腔亜集団での生存細胞の数を、フローサイトメトリー(FACScan; BD Biosciences, Mountain View, CA)によって測定した。簡潔には、腹腔リンパ球、マクロファージ、および好中球を、それらの異なる前方散乱および側方散乱特性に従ってゲート制御して数えた。
【0121】
高用量のLPSによって誘導される内毒素血症のモデルに加えて、ヒト敗血症の最も信頼できる実験モデルであり、重症敗血症の新たな任意の治療法にとって重要な前臨床試験であると考えられるため、腹膜炎のCLPモデルを使用した。
【0122】
hASCによる治療は、内毒素注入および盲腸穿孔に起因する死亡を用量依存的に予防し(図7A)、無気力、下痢、群居性、および立毛を含む敗血症の臨床兆候を軽減した(データは示さない)。敗血症性ショックの病因は、組織損傷、多臓器不全、および死を引き起こしうる、圧倒的な炎症反応ならびに免疫反応を特徴とする。敗血症の動物へのhASCの投与によって、敗血症の際の主要な罹患器官において、炎症性メディエーター(TNFα、IL-6、IL-1β、IL-12、IFNγ、ランテス(Rantes)およびMIP-2)のレベルが低下し、IL-10が上昇した(図7B)。最後に、hASCによる治療によって、腹腔、肺、肝臓および腸への炎症細胞の浸潤が低下した(図7Cおよび7D)。これらの結果から、hASCが、この疾患に特徴的な炎症反応の増悪を下方制御することによって、内毒素血症による死からマウスを救うことが示される。
【0123】
これらの実施例は、MSC、特にhASCが、SIRS、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックおよび敗血症様症状の治療に有用でありうる証拠を提供する。
【0124】
現在までのSIRS、敗血症および敗血症性ショックに対するほとんどの治療方法は、前炎症性メディエーター(pro-inflammatory mediator)を標的としていたが、臨床試験での大きな成功は証明されていない。例えばTNFαまたはIL-1βなどの単一のサイトカインを遮断するように企図された治療は、これらの炎症性サイトカインの早期の一過的な動態プロファイルのために、限られた効果しか示さなかった。間葉系幹細胞(MSC)、特にヒト脂肪組織由来間質幹細胞(hASC)の投与が、重度の内毒素血症および敗血症の2つのin vivoモデルにおいて死亡を防ぐことが見いだされ、MSCがSIRS、敗血症および敗血症性ショックの治療に有用でありうるという証拠を提供する。MSCは様々な炎症性サイトカインおよびケモカインの全身レベルの低下、および様々な標的器官への白血球浸潤の阻害を含む様々のレベルでSIRSの重要な側面を調節するために機能することが見いだされた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における全身性炎症反応症候群(SIRS)の治療に使用するための、間葉系幹細胞(MSC)を含有する組成物。
【請求項2】
被験者における全身性炎症反応症候群(SIRS)を治療するための医薬の製造における、間葉系幹細胞(MSC)の使用。
【請求項3】
被験者に間葉系幹細胞(MSC)を投与することを含む、被験者における全身性炎症反応症候群(SIRS)を治療する方法。
【請求項4】
SIRSが、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックもしくは敗血症様症状である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項5】
敗血症、重症敗血症、もしくは敗血症性ショックが、ウイルス、真菌、もしくは原生動物に起因する、請求項4に記載の組成物、使用または方法。
【請求項6】
敗血症、重症敗血症、もしくは敗血症性ショックが細菌に起因する、請求項4に記載の組成物、使用または方法。
【請求項7】
MSCが脂肪組織由来間質幹細胞(ASC)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項8】
MSCが骨髄幹細胞(BM-MSC)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項9】
MSCの少なくとも約50%が、CD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90およびCD105の1つ以上のマーカーを発現する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項10】
MSCの少なくとも約50%が、マーカーCD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90およびCD105を発現する、請求項9に記載の組成物、使用または方法。
【請求項11】
MSCの少なくとも約50%が、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106およびCD133の1つ以上のマーカーを発現しない、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項12】
MSCの少なくとも約50%が、マーカーCD11b、CD14、CD15、CD16、CD31、CD34、CD45、CD49f、CD102、CD104、CD106およびCD133を発現しない、請求項11に記載の組成物、使用または方法。
【請求項13】
MSCが:
a)抗原提示細胞(APC)に特異的なマーカーを発現せず;
b)インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を構成的に発現せず;かつ
c)インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)による刺激に応じてIDOを発現する、
ことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項14】
MSCが、製薬上許容される担体および/または希釈剤中で投与される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項15】
MSCを全身投与する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項16】
MSCを、直腸内投与、経鼻投与、口腔投与、膣内投与、埋め込み型リザーバーを介してもしくは吸入によって投与する、請求項15に記載の組成物、使用または方法。
【請求項17】
MSCを局所投与する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項18】
MSCを注入もしくは移植によって投与する、請求項17に記載の組成物、使用または方法。
【請求項19】
MSCを、皮下、皮内、静脈内、筋内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病巣内、もしくは頭蓋内経路を介して投与する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項20】
MSCが、治療される被験者に対して自己のもの(autologous)である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項21】
MSCが、治療される被験者に対して同種異系のもの(allogeneic)である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項22】
治療前、治療の間もしくは治療後に、被験者に免疫抑制剤を投与する、請求項21に記載の組成物、使用または方法。
【請求項23】
免疫反応を抑制するためにMSCを前処理する、請求項21または22に記載の組成物、使用または方法。
【請求項24】
MSCを、1種以上の更なる治療薬と併用して投与する、請求項1〜23のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項25】
MSCおよび1種以上の更なる治療薬を被験者に同時に投与する、請求項24に記載の組成物、使用または方法。
【請求項26】
MSCおよび1種以上の更なる治療薬を被験者に順に投与する、請求項24に記載の組成物、使用または方法。
【請求項27】
MSCを、1種以上の更なる治療薬の前に被験者に投与する、請求項26に記載の組成物、使用または方法。
【請求項28】
MSCを、1種以上の更なる治療薬の後に被験者に投与する、請求項26に記載の組成物、使用または方法。
【請求項29】
1種以上の更なる治療薬が、鎮痛剤、抗感染薬、電解質物質もしくは腎臓作用薬、酵素、胃腸薬、全身麻酔薬、ホルモンまたはホルモン修飾因子、免疫生物学的薬物、局所麻酔薬、筋骨格薬(musculoskeletal agent)、増殖因子、または細胞増殖もしくは細胞活性化に作用する、もしくは最終分化を誘導する他の分子、およびこれらの断片または変異型からなる群より選択される、請求項24〜28のいずれか1項に記載の組成物、使用または方法。
【請求項30】
被験者における全身性炎症反応症候群(SIRS)の治療に使用するための、請求項1〜29のいずれか1項に記載の組成物を含むカテーテルまたは注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−529957(P2011−529957A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521655(P2011−521655)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006597
【国際公開番号】WO2010/015929
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(510308964)セレリックス エスエー (2)
【出願人】(511031906)
【Fターム(参考)】