説明

間葉系幹細胞の増殖促進剤

【課題】間葉系幹細胞をより効率的に増殖させるための技術を提供すること。
【解決手段】タクロリムスを含む培地中で間葉系幹細胞を培養することを含む、間葉系幹細胞の製造方法。タクロリムスを含む、間葉系幹細胞の増殖促進剤。間葉系幹細胞及びタクロリムスを含む、間葉系幹細胞培養物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の増殖促進剤、間葉系幹細胞の増殖方法及び間葉系幹細胞の培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、哺乳類の骨髄等に存在し、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞等に分化する幹細胞として知られている。間葉系幹細胞は、その多分化能故に、多くの組織の再生医療のための移植材料として注目されている。すなわち、間葉系幹細胞を用いて、従来の治療方法では再生しなかった、疾病や障害により失った組織を再生し、機能を回復させる「細胞移植による再生医療」である。具体的には、例えば、下肢虚血(ビュルガー病)患者に対する骨髄間葉系幹細胞の移植、歯周病患部への骨髄間葉系幹細胞の移植、変形性関節症患者に対する骨髄間葉系幹細胞の移植等の治療が開始または計画されている。
【0003】
しかしながら、間葉系幹細胞のポピュレーションは、極めて小さく、ひとつの個体から採取できる量は僅かである。また、間葉系幹細胞は、通常FCS等の血清を含む培地中で接着培養することにより増殖するが、間葉系幹細胞の増殖のスピードは比較的緩やかである。従って、大量の間葉系幹細胞が必要な再生医療を実施するのに十分な数の間葉系幹細胞を培養するためには、長期間間葉系幹細胞を培養する必要がある。
【0004】
一方、タクロリムスは、ストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)の培養物から単離・精製された公知の免疫抑制剤である(特許文献1)。タクロリムスは、臓器移植または骨髄移植を行った患者の拒絶反応を抑制する医薬として使用されている。また、タクロリムスはアトピー性皮膚炎治療薬、関節リウマチ治療薬等としても用いられている。
【0005】
特許文献2には、タクロリムスが軟骨誘導作用を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−277321号公報
【特許文献2】特開2004−254655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、間葉系幹細胞をより効率的に増殖させるための技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、免疫抑制剤として使用されているタクロリムスが、間葉系幹細胞の増殖を促進する効果を有することを見出し、更に検討を重ね、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]タクロリムスを含む培地中で間葉系幹細胞を培養することを含む、間葉系幹細胞の製造方法。
[2]該培地中のタクロリムス濃度が0.1〜10nMである、[1]記載の製造方法。
[3]該培地中のタクロリムス濃度が0.1〜40nMである、[1]記載の製造方法。
[4]該培地中のタクロリムス濃度が20〜40nMである、[3]記載の製造方法。
[5]間葉系幹細胞がヒト間葉系幹細胞である、[1]記載の製造方法。
[6]タクロリムスを含む、間葉系幹細胞の増殖促進剤。
[7]間葉系幹細胞及びタクロリムスを含む、間葉系幹細胞培養物。
[8]培養物中のタクロリムス濃度が0.1〜10nMである、[7]記載の培養物。
[9]該培養物中のタクロリムス濃度が0.1〜40nMである、[7]記載の培養物。
[10]該培養物中のタクロリムス濃度が20〜40nMである、[9]記載の培養物。
[11]間葉系幹細胞がヒト間葉系幹細胞である、[7]記載の培養物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、間葉系幹細胞を効率的に増殖することができる。従って、本発明は、間葉系幹細胞を用いた再生医療において、間葉系幹細胞の大量かつ安定的な供給に資する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ラット骨髄(BM)又は脂肪組織(AT)由来間葉系幹細胞の増殖へのFK506の効果を示す。
【図2】ヒト骨髄(BM)又は脂肪組織(AT)由来間葉系幹細胞の増殖へのFK506の効果を示す。
【図3】ヒト骨髄(BM)又は脂肪組織(AT)由来間葉系幹細胞の増殖へのタクロリムス(FK506)の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.間葉系幹細胞の製造方法
本発明の間葉系幹細胞の製造方法は、タクロリムスを含む培地中で間葉系幹細胞を培養することを特徴とする。本発明の製造方法においては、タクロリムスを含む培地中で間葉系幹細胞を培養することにより、既存の間葉系幹細胞から新たな間葉系幹細胞を製造する。従って、本発明の製造方法は、間葉系幹細胞の増殖方法、あるいは間葉系幹細胞の増殖促進方法でもある。タクロリムスを用いることによって、間葉系幹細胞の増殖が増強されるため、本発明の製造方法によれば、高い効率で、間葉系幹細胞を製造することができる。タクロリムスを含む培地中で間葉系幹細胞を培養することにより、間葉系幹細胞を間葉系幹細胞としての能力を保持したまま、高い効率で増殖させることが可能となる。本明細書において、間葉系幹細胞としての能力を保持したままの間葉系幹細胞の増殖を「増幅」という。
【0013】
「間葉系幹細胞」とは、未分化の状態で増殖し、骨芽細胞、軟骨芽細胞及び脂肪芽細胞の全て又はいくつかへの分化が可能な幹細胞又はその前駆細胞の集団を広義に意味する。
【0014】
本発明の製造方法において用いられる間葉系幹細胞は、脊椎動物由来の細胞であれば特に限定されない。該脊椎動物としては、例えば、哺乳動物、鳥、魚、両生類および爬虫類が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来る。鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、オーストリッチ、エミュ、ダチョウ、ホロホロ鳥、ハト等を挙げることができる。脊椎動物は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはげっ歯類(ラット等)又は霊長類(ヒト等)である。
【0015】
生体においては、間葉系幹細胞は骨髄、末梢血、臍帯血、脂肪組織中に低頻度で存在する。間葉系幹細胞は、これらの組織から公知の方法で単離又は精製することが出来る。「単離または精製」とは、天然に存在する状態とは異なる状態に人為的に置かれること、例えば、天然に存在する状態から、目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。例えば、ヒト間葉系幹細胞は、パーコールグラディエント法により骨髄液から単離することができる(Hum. Cell, vol.10, p.45-50, 1997)。或いは、骨髄穿刺後の造血幹細胞等の培養、継代によりヒト間葉系幹細胞を単離することができる(Journal of Autoimmunity, 30 (2008) 163-171)。
【0016】
生体から単離された間葉系幹細胞は、本発明の製造方法に供される前に、適切な培地中で接着培養されていてもよい。培地としては、例えばDMEM、EMEM、RPMI-1640、F-12、α-MEM、MSC growing medium (Bio Whittaker)等が用いられる。培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃である。CO2濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%である。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%である。高い分化能を維持するため、培養は2〜5継代以上はしないことが好ましい。
【0017】
タクロリムス(化合物名:17−アリル−1,14−ジヒドロキシ−12−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル)−1−メチルビニル]−23,25−ジメトキシ−13,19,21,27−テトラメチル−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ[22.3.1.04,9]オクタコス−18−エン−2,3,10,16−テトラオン)は、下式
【0018】
【化1】

【0019】
で表される構造を有する公知の免疫抑制剤である。タクロリムスは、例えば、特開昭62−277321号公報に記載の方法に従って、ストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)の培養物から単離・精製することにより取得することができる。また、タクロリムスは、和光純薬等から市販されているので、これらの市販品を本発明に使用することもできる。
【0020】
培地中に含まれるタクロリムスの濃度は、間葉系幹細胞の増殖を促進しうる濃度であれば特に限定されないが、通常0.001〜1000nM、好ましくは0.01〜100nMの範囲内である。培地中のタクロリムス濃度が低すぎると間葉系幹細胞の増殖を促進するのに十分ではなくなる可能性があり、一方タクロリムス濃度が高すぎると、逆に間葉系幹細胞の増殖を阻害してしまう可能性がある。間葉系幹細胞の種差に応じて、より高い細胞増殖促進活性を奏するよう、至適なタクロリムス濃度を適宜調整することができる。例えば、ヒト間葉系幹細胞を培養する場合には、培地中に含まれるタクロリムスの濃度は、好ましくは0.1〜10nMである。ラット間葉系幹細胞を培養する場合には、培地中に含まれるタクロリムスの濃度は、好ましくは10〜80nMである。
【0021】
更なる態様において、ヒト間葉系幹細胞を培養する場合には、培地中に含まれるタクロリムスの濃度は、好ましくは0.1〜40nMであり、より好ましくは20〜40nMである。
【0022】
本発明の製造方法において用いられる培地の基礎培地は、間葉系幹細胞の維持又は培養に一般的に使用されているものを用いることができ、特に限定されないが、例えばDMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、M−199等が挙げられる。また、間葉系幹細胞培養用等に改変された培地を用いてもよく、上記基礎培地の混合物を用いてもよい。
【0023】
本発明の製造方法において用いられる培地は血清を含んでいてもよい。血清としては、哺乳動物由来の血清であれば特に限定されないが、好ましくは上記哺乳動物由来の血清(例えばウシ胎児血清、ヒト血清等)である。また血清の代替添加物(例えばKnockout Serum Replacement (KSR)(Invitrogen社製)等)を用いてもよい。血清の濃度は特に限定されないが、通常、0.1〜30(v/v)%の範囲である。
【0024】
本発明の製造方法において用いられる培地は、自体公知の添加物を含むことができる。添加物としては、特に限定されないが、例えば成長因子(例えばインスリン等)、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d−ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられる。当該添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法によれば、タクロリムスを含む培地中で間葉系幹細胞を培養することにより、間葉系幹細胞が増殖し、既存の間葉系幹細胞から新たな間葉系幹細胞を製造する。従って、本発明の製造方法において用いられる培地は、好ましくは間葉系幹細胞の分化を誘導する因子(例えば、デキサメタゾンなどのグルココルチコイド、トランスフォーミング成長因子−βファミリーと呼ばれる因子、例えば骨形態形成タンパク質(望ましくはBMP−2あるいはBMP−4)、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、インヒビンAあるいは軟骨形成刺激活性因子(CSA)、I型コラーゲン(とりわけゲル形態にあるもの)などのコラーゲン性細胞外基質、およびレチノイン酸などのビタミンA類似体)を、間葉系幹細胞の分化(例えば軟骨への分化)を誘導する濃度では含まない。より好ましくは、該培地は、間葉系幹細胞の分化を誘導する因子を含まない。
【0026】
本発明の製造方法における、その他の細胞培養条件は、細胞培養技術において通常用いられている培養条件を用いることができる。例えば、培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃が例示される。CO濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%が例示される。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%が例示される。
【0027】
本発明の製造方法において、間葉系幹細胞の継代間隔、希釈率は、培養条件や動物種差により適宜設定されるが、通常、2〜10日間隔で、1/2〜1/10倍希釈で細胞が継代される。
【0028】
本発明の製造方法を用いれば、間葉系幹細胞としての能力を維持した状態で、効率的に、間葉系幹細胞を増殖させ、新たな間葉系幹細胞を得ることが可能であるので、間葉系幹細胞を用いた再生医療において、間葉系幹細胞の大量かつ安定的な供給に資する。
【0029】
上述のように、タクロリムスを含む培地中で間葉系幹細胞を培養することにより、間葉系幹細胞が増殖する。従って、本発明は、上記培養操作により得られる、間葉系幹細胞及びタクロリムスを含む、間葉系幹細胞培養物をも提供する。
【0030】
培養物とは、組織や細胞を培養することにより得られる結果物をいう。
【0031】
本発明の培養物に関連する各用語の定義及び態様は、上記本発明の製造方法について記載したものと同一である。
【0032】
本発明の培養物は、このましくは上述の本発明の製造方法において記載して詳述したタクロリムスを含む培地を含有する。
【0033】
該培地は、好ましくは間葉系幹細胞の分化を誘導する因子(例えば、デキサメタゾンなどのグルココルチコイド、トランスフォーミング成長因子−βファミリーと呼ばれる因子、例えば骨形態形成タンパク質(望ましくはBMP−2あるいはBMP−4)、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、インヒビンAあるいは軟骨形成刺激活性因子(CSA)、I型コラーゲン(とりわけゲル形態にあるもの)などのコラーゲン性細胞外基質、およびレチノイン酸などのビタミンA類似体)を、間葉系幹細胞の分化(例えば軟骨への分化)を誘導する濃度では含まない。より好ましくは、該培地は、間葉系幹細胞の分化を誘導する因子を含まない。
【0034】
好ましい態様において、本発明の培養物は、ヒト間葉系幹細胞及び0.1〜10nMのタクロリムスを含有する。
【0035】
他の好ましい態様において、本発明の培養物は、ラット間葉系幹細胞及び10〜80nMのタクロリムスを含有する。
【0036】
また、本発明は、タクロリムスを含む、間葉系幹細胞の増殖促進剤に関する。本発明の剤を含む培地を用いて、上記本発明の製造方法により間葉系幹細胞を培養することにより、間葉系幹細胞の増殖効率が飛躍的に上昇する。また、本発明の剤を、従来行われている間葉系幹細胞の培養培地に添加することにより、間葉系幹細胞の増殖効率が飛躍的に上昇する。
【0037】
本発明の剤は、タクロリムスのみからなっていてもよいが、更に生理学的に許容される担体(例えば、生理的な等張液(生理食塩水、上述の基礎培地、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)を含む等張液等)、賦形剤、防腐剤、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、結合剤、溶解補助剤、非イオン性界面活性剤、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、保存剤、酸化防止剤、上述の添加物など)を含む組成物として提供することもできる。
【0038】
本発明の剤に含まれるタクロリムスの含有量は、本発明の剤が本発明の製造方法に用いられる培地に添加されるなどして用いられた場合に、該培地中のタクロリムス濃度が、間葉系幹細胞の増殖を促進するのに十分な濃度含まれるように構成されていることが好ましい。
【0039】
本発明の剤は、等張な水溶液、あるいは粉末等の状態で、上記本発明の製造方法に用いる培地に添加されるなどして用いられる。あるいは本発明の剤は、上記本発明の製造方法に用いられる培地であってもよい。
【0040】
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0041】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
Luc Tgラットの脂肪組織(AT)及び骨髄(BM)から間葉系幹細胞(MSCs)を単離した。
得られた間葉系幹細胞を20%血清含有DMEM(通常培地)に分散し、Nunc社製の6穴プレートに播種し(AT−MSCs:6.6×10個/ml、BM−MSCs:2.5×10個/ml)、37℃、5%COにて培養した。24時間後に、表示した濃度(10、20、40、又は80nM)のFK506(タクロリムス)(和光純薬)を含む、又は含まない前記通常培地に交換し、IVISにて輝度を測定した(Day0)。引き続き間葉系幹細胞を培養し、毎日IVISにて輝度を測定した。Day0の輝度の値を100%としたときの相対値として、各測定日における細胞数を算出した。
【0043】
FK506の添加により、間葉系幹細胞の増殖が促進した(図1)。
【0044】
[実施例2]
ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(AT−MSCs)(継代数6)、及びヒト骨髄由来間葉系幹細胞(BM−MSCs)(継代数6)を、10%血清含有α−MEM(GIBCO)(通常培地)に分散し、Nunc社製の6穴プレートに播種し(2.0×10個/ml)、37℃、5%COにて培養した。24時間後に、各ウェルの細胞をトリプシン(GIBCO)で剥がした。この時点(Day0)で得られた細胞の数を100%とした。得られた細胞を、表示した濃度(0.1、1、10、又は100nM)のFK506(タクロリムス)を含む、又は含まない前記通常培地を入れた新たなプレートに移し、引き続き培養した。24時間毎に、細胞をトリプシンで剥がし、細胞数を測定し、Day0での細胞数に対する相対値を算出した。
【0045】
0.1〜10nMのFK506の添加により、間葉系幹細胞の増殖が促進した(図2)。一方、100nMのFK506の添加では、細胞数はFK506を添加しなかったときとほぼ同等であった。従って、ヒト間葉系幹細胞の増殖を促進するためのFK506の適切な濃度は、0.1〜10nMの範囲であることが示唆された。
【0046】
[実施例3]
Cambrex社(日本代理店TaKaRa社)から購入したヒトBM−MSCsとヒトAT−MSCsをnunc社製の6穴細胞皿に播種した。尚、使用した培養液は10%血清含有α−MEM(GIBCO社)である。培養液とは別にタクロリムス(アステラス社)を指定濃度になるように添加した。タクロリムス(アステラス社)は、終濃度0nM、10nM、20nM、40nM、80nM、又は100nMで使用した。1〜3日培養後、TaKaRa社製のPBS(−)で各6穴培養皿を3回洗浄し(室温)、GIBCO社製のトリプシン溶液にて各細胞を培養皿より剥離し、アシスト社製の15mL遠心チューブに細胞を回収した。室温・1000rpm・5分間の遠心操作により、遠心チューブの底に細胞を沈め、アスピレーターにて上澄み液を破棄した。指で弾いて細胞塊を解し、培養液を加えて数回ピペット操作にて更に細胞を解し、血球計算盤で細胞数を測定した。
【0047】
10〜40nMのタクロリムスの添加により、間葉系幹細胞の増殖が促進した(図3)。特に、20nM及び40nMにおいて、間葉系幹細胞の増殖が顕著に促進された。一方、80nM及び100nMのFK506の添加では、細胞数はFK506を添加しなかったときとほぼ同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によると、間葉系幹細胞を効率的に増殖することができる。従って、本発明は、間葉系幹細胞を用いた再生医療において、間葉系幹細胞の大量かつ安定的な供給に資する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タクロリムスを含む培地中で間葉系幹細胞を培養することを含む、間葉系幹細胞の製造方法。
【請求項2】
該培地中のタクロリムス濃度が0.1〜10nMである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
該培地中のタクロリムス濃度が0.1〜40nMである、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
該培地中のタクロリムス濃度が20〜40nMである、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
間葉系幹細胞がヒト間葉系幹細胞である、請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
タクロリムスを含む、間葉系幹細胞の増殖促進剤。
【請求項7】
間葉系幹細胞及びタクロリムスを含む、間葉系幹細胞培養物。
【請求項8】
培養物中のタクロリムス濃度が0.1〜10nMである、請求項7記載の培養物。
【請求項9】
該培養物中のタクロリムス濃度が0.1〜40nMである、請求項7記載の培養物。
【請求項10】
該培養物中のタクロリムス濃度が20〜40nMである、請求項9記載の培養物。
【請求項11】
間葉系幹細胞がヒト間葉系幹細胞である、請求項7記載の培養物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−210201(P2012−210201A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183149(P2011−183149)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【Fターム(参考)】