説明

間隙水圧測定用調査器具

【課題】土砂の侵入を防止しつつ間隙水圧を容易に測定することができる間隙水圧測定用調査器具を提供することである。
【解決手段】堤防横断構造物の壁の適所を貫通する孔内に配置された本体管(12)と、本体管の堤防横断構造物の壁の内面に位置する第1の側に取り付けられ、中央に開口(16a)が設けられたキャップ(16)と、キャップの開口に先端が装着された計測バルブ(18)と、本体管の内部に配置され、透水性でかつ土砂の透過を防止する材料で形成されたフィルタ(24)とを備え、計測バルブに計測具を挿入することにより、本体管内の水圧を計測するように構成されている間隙水圧測定用調査器具(10)が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防横断構造物(樋門、水門、閘門など)の壁に設置され、堤防横断構造物周囲の間隙水圧の測定などに用いる調査器具に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や用水路の堤防には、取水や内水の排除などを目的として、樋門、水門、閘門などの堤防横断構造物が設置されている。堤防横断構造物は一般的に、図6(a)に示されるように、堤防を横切るように堤防内に構造物を連続して敷設し、河川や用水路の側にゲートを設けることによって形成されており、洪水時にゲートを閉鎖することにより、住宅地などの側が浸水するのを防止している。
【0003】
盛土して堤防を作ると、地盤が沈下する可能性があるが、地盤が沈下すると、堤防横断構造物を形成する壁の外面と地盤との間に隙間が生じ、洪水時などに函軸方向に浸透流の影響を抑制するために遮水工を設けているが、吸い出しなどの影響を受けて隙間が徐々に成長し、堤防決壊の一因となるおそれがある。したがって、堤防横断構造物の壁の適所に、間隙水圧や隙間の有無を点検するための器具を設置し、定期的な点検が実施されることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の点検器具は、点検時に器具の蓋を開けて間隙水や隙間の有無を目視で観察するものであり、正確な間隙水圧を測定することはできなかった。また、間隙水圧が大きい場合には、器具の蓋を開けると土砂が器具を通してカルバート内に流入し、土砂が堆積したり器具周辺の隙間を増大させるおそれもあった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、土砂の侵入を防止しつつ間隙水圧を容易に測定することができる間隙水圧測定用調査器具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1に記載の間隙水圧測定用調査器具は、堤防横断構造物の壁の適所を貫通する孔内に配置された本体管と、前記本体管の前記壁の内面に位置する第1の側に取り付けられ、中央に開口が設けられたキャップと、前記キャップの前記開口に先端が装着された計測バルブと、前記本体管の内部に配置され、透水性でかつ土砂の透過を防止する材料で形成されたフィルタとを備え、前記計測バルブに計測具を挿入することにより、本体管内の水圧を計測するように構成されていることを特徴とするものである。
【0007】
本願請求項2に記載の間隙水圧測定用調査器具は、前記請求項1の器具において、前記フィルタが、プラスチック製の三次元立体網目構造を有する土木用排水材で形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本願請求項3に記載の間隙水圧測定用調査器具は、前記請求項1又は2の器具において、前記フィルタが、不織布で被覆されていることを特徴とするものである。
【0009】
本願請求項4に記載の間隙水圧測定用調査器具は、前記請求項1から請求項3までのいずれか1項の器具において、前記フィルタが、前記本体管の長さ方向に沿って複数の部分に分割されていることを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項5に記載の間隙水圧測定用調査器具は、前記請求項1から請求項4までのいずれか1項の器具において、前記本体管の前記壁の外面に位置する第2の側に、前記第1の側から前記第2の側への流体の流れの一部を阻止し、反対方向への流体の流れを許容する逆止弁が配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フィルタにより土砂の侵入が阻止されるので、計測時に土砂が器具を通して堤防横断構造物内に流入するおそれがない。また、計測に用いる計測具は特殊なものを使用する必要がないので、低コストかつ容易な点検が可能になる。また、フィルタを不織布で被覆することにより、フィルタの耐久時間を長くすることができる。さらに、堤防横断構造物の壁の外面に隙間が生じている場合には、フィルタおよびキャップを取り外すことにより、本体管を通してグラウトを注入することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は本発明の好ましい実施の形態に係る間隙水圧測定用調査器具の長さ方向断面図、図1(b)は図1(a)の線1b−1bに沿って見た図、図1(c)は図1(a)の線1c−1cに沿って見た図である。
【図2】本発明の好ましい実施の形態に係る間隙水圧測定用調査器具の分解斜視図である。
【図3】図3(a)は図1(a)の部分3aの拡大図、図3(b)は図3(a)の線3b−3bに沿って見た図、図3(c)は逆止弁の開放状態を示した図、図3(d)は逆止弁の閉鎖状態を示した図である。
【図4】図1(a)の間隙水圧測定用調査器具が堤防横断構造物の壁に設置されている状態を示した図である。
【図5】図1(a)の間隙水圧測定用調査器具に計測器が取り付けられている状態を示した図である。
【図6】図6(a)は堤防横断構造物を示した概略図、図3(b)は堤防横断構造物の側壁に設置されている状態を示した図、図3(c)は堤防横断構造物の底壁に設置されている状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る間隙水圧測定用調査器具について詳細に説明する。図1(a)は、本発明の好ましい実施の形態に係る間隙水圧測定用調査器具の長さ方向断面図、図2は、間隙水圧測定用調査器具の構成要素をそれぞれ示した分解斜視図である。図1(a)において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る間隙水圧測定用調査器具は、本体管12を備えている。
【0014】
本体管12は、両端が開放した円筒形の管状部材によって形成されている。本体管12の長さは、設置しようとする堤防横断構造物の壁厚にほぼ等しくなるように選定されている。好ましくは、本体管12は、ステンレス鋼で形成されている。
【0015】
本体管12の一方の側(すなわち、堤防横断構造物の外面に位置する側)には、間隙水圧測定用調査器具10を堤防横断構造物の外面に固定するための固定板14が取り付けられている。固定板14は、図1(b)に示されるように、中央に本体管12の内径よりも小さな開口14aが設けられ、周囲に固定板14(すなわち、間隙水圧測定用調査器具10)を堤防横断構造物の外面に固定する締結具(例えば、ボルト)を通すための複数の締結具用孔14bが設けられている。
【0016】
本体管12の他方の側(すなわち、堤防横断構造物の内面に位置する側)には、キャップ16が取り付けられている。図1(c)は、図1(a)の線1c−1cから見た図であり、キャップ16を明瞭に示すため、後述する計測バルブ18および保護キャップ20が取り外された状態で図示されている。キャップ16は、円筒形の周壁16aおよび周壁16aの一端に配置された端壁16bによって形成された凹部空間16cを有しており、端壁16bの中央に開口16dが設けられている。キャップ16の凹部空間16cには、計測バルブ18が収容されており、計測バルブ18の先端がキャップ16の開口16dに装着されている。計測バルブ18は、市販のものを使用してよく、不使用時には閉鎖しているが、後述する計測器の先端を計測バルブ18に挿入すると、弁が開放して本体管12内の圧力を計測することができるようになっている。キャップ16は、周壁16aの外面に設けられた雄ねじ(図示せず)を本体管12の内面に設けられた雌ねじ(図示せず)にねじ込むことによって、本体管12の他方の側に取り付けられているが、他の方法によって取り付けてもよい。
【0017】
キャップ16の凹部空間16cは通常、保護キャップ20によって閉鎖されており、使用時(すなわち、計測時など)に取り外して計測器の挿入などの作業を行うようになっている。保護キャップ20は、その周壁外面に設けられた雄ねじ(図示せず)をキャップ16の凹部空間16cの内壁に設けられた雌ねじ(図示せず)にねじ込むことによって、キャップ16に取り付けられているが、他の方法によって取り付けてもよい。
【0018】
なお、本体管12の他方の側には、間隙水圧測定用調査器具10を堤防横断構造物の内面に固定するためのフランジ12aが設けられており、フランジ12aを締結具でボックスカルバートの内面に固定するようになっている。
【0019】
本体管12の一方の側から所定距離内側の箇所には、逆止弁22が配置されている。逆止弁22は、本体管12の一方の側から他方の側への流体の流れの一部を阻止する(図3(c)参照)が、他方の側から一方の側への流体の流れは許容する(図3(d)参照)ようになっている。図3(a)〜図3(d)には、逆止弁22を本体管12の内部の適所に取り付けるためのベース22aと、開口を部分的に覆うように端部がベース22aに取り付けられたゴム製プレート22bと、ゴム製プレート22bの一方の側において開口が位置する部分に取り付けられたステンレス製プレート22c1と、ゴム製プレート22bの一方の側においてベース22aに隣接した箇所に、ステンレス製プレート22c1と間隔を隔てて取り付けられたステンレス製プレート22c2とを有する逆止弁22(弁蓋に相当するゴム製プレート22bおよびステンレス製プレート22c1が弁開口の全体を覆っていない(部分22dが開放している)ため、弁の閉鎖時であっても、本体管12の一方の側から他方の側への流体の流れの一部が許容される)が図示されているが、他の一般的な型式の逆止弁22を使用してよい。なお、図示されている逆止弁22の閉鎖時の隙間(部分22d)の大きさは、単なる例示的なものにすぎず、図示された形態に限定されるものではない。
【0020】
本体管12のキャップ16と逆止弁22との間には、フィルタ24が配置されている。フィルタ24は、透水性でかつ土砂の透過を防止する材料で形成されている。好ましくは、フィルタ24としては、プラスチック製の三次元立体網目構造を有する土木用排水材が用いられる。このような土木用排水材の例としては、例えば、新光ナイロン株式会社から商品名「ヘチマロン」として販売されているものがあげられるが、同様の効果を有するものであれば、他の排水材を用いてもよい。
【0021】
好ましくは、フィルタ24は、不織布24aで周面が被覆されている。不織布24aとしては、ポリエステル合成繊維、ポリプロピレンなどの公知の材料が用いられる。フィルタ24を不織布24aで被覆することにより、フィルタ24の過度の目詰まりを防止することができる。
【0022】
また、好ましくは、フィルタ24は、3つの部分に分割されている。すなわち、図1(a)および図2に示されるように、本体管12の一方の側から、第1フィルタ241 、第2フィルタ242 、第3フィルタ243 の3つの部分に分割されている。第1フィルタ241 と第2フィルタ242 の長さが第3フィルタ243 の長さよりも短いものとして図示されているが、これは、土砂が堤防横断構造物の壁の外面の側から流入することを考慮したものであるが、このような形態に限定されるものではない。また、好ましくは、第1フィルタ241 と第2フィルタ242 との間、および第2フィルタ242 と第3フィルタ243 との間に、フィルタ241 〜243 の過度の目詰まりを防止するため、不織布製の板24bが配置されている。また、同様に、フィルタ241 〜243 の過度の目詰まりを防止するため、第1フィルタ241 の第2フィルタ242 と反対側の端部、および第3フィルタ243 の第2フィルタ242 と反対側の端部にも、不織布製の板24cが配置されている。
【0023】
なお、図1において参照符号26、28は、水膨張ゴム、共回り防止具を表している。水膨張ゴム26は、本体管12とコンクリート穴との隙間に空隙があった場合の漏水を防ぐ役割を果たす。共回り防止具28は、コンクリート打設時に本体管12が回転しないようにするためのものである。
【0024】
次に、以上のように構成された間隙水圧測定用調査器具10の使用について説明する。間隙水圧測定用調査器具10は、堤防横断構造物の壁の適所を貫通する孔内に配置されている(図6(b)に示されるように、堤防横断構造物の側壁に配置してもよく、図6(c)に示されるように、堤防横断構造物の底壁に配置してもよい)。図4は、堤防横断構造物の壁に配置された間隙水圧測定用調査器具10を示した断面図(図の右側が堤防の地盤、図の左側が堤防横断構造物の内側である)である。通常時は、逆止弁22により、土砂流の大部分が本体管12内に流入しないようになっている。間隙水圧を計測しようとする場合には、保護キャップ20を外し、計測バルブ18に計測器を挿入する(図5参照)。すると、計測バルブ18が開放するため、本体管12内の圧力を計測することができる。なお、このようにして計測される圧力は、厳密には地盤内の間隙水圧ではないが、本体管12内に流入する一部の土砂流の圧力を計測することによって、地盤内の間隙水圧を推測することができる。計測器自体は、公知の通常の型式のものを使用してよい。計測が終了すると、計測器を抜き、再び保護キャップ20を装着する。
【0025】
なお,計測器によって計測されたデータを、任意の通信回線網を介してサーバに送信し、サーバでこれらのデータを集中的に管理して、例えば地震水害警報の発令等に際して活用するように構成してもよい。
【0026】
また、堤防横断構造物の外面に隙間が生じた場合には、本体管12内の構成部品(キャップ16、フィルタ24など)を取り外し、このようにして形成された本体管12を通してグラウトを注入することによって、隙間の補修作業に利用することもできる。
【0027】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0028】
たとえば、前記実施の形態では、フィルタ24が3つの部分に分割されているが、単一のフィルタを使用してもよく、2つ又は4つ以上に分割してもよい。また、たとえば、キャップ16の形状も例示的なものにすぎず、図示した以外の形状を採用してもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 間隙水圧測定用調査器具
12 本体管
12a フランジ
14 固定板
14a 開口
14b 締結具用孔
16 キャップ
16a 周壁
16b 端壁
16c 凹部空間
16d 開口
18 計測バルブ
20 保護キャップ
22 逆止弁
24 フィルタ
241 第1フィルタ
242 第2フィルタ
243 第3フィルタ
24a、24b、24c 不織布
26 水膨張ゴム
28 共回り防止具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙水圧測定用調査器具であって、
堤防横断構造物の壁の適所を貫通する孔内に配置された本体管と、
前記本体管の前記壁の内面に位置する第1の側に取り付けられ、中央に開口が設けられたキャップと、
前記キャップの前記開口に先端が装着された計測バルブと、
前記本体管の内部に配置され、透水性でかつ土砂の透過を防止する材料で形成されたフィルタとを備え、
前記計測バルブに計測具を挿入することにより、本体管内の水圧を計測するように構成されていることを特徴とする器具。
【請求項2】
前記フィルタが、プラスチック製の三次元立体網目構造を有する土木用排水材で形成されていることを特徴とする請求項1に記載された間隙水圧測定用調査器具。
【請求項3】
前記フィルタが、不織布で被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された間隙水圧測定用調査器具。
【請求項4】
前記フィルタが、前記本体管の長さ方向に沿って複数の部分に分割されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された間隙水圧測定用調査器具。
【請求項5】
前記本体管の前記ボックスカルバート壁の外面に位置する第2の側に、前記第1の側から前記第2の側への流体の流れの一部を阻止し、反対方向への流体の流れを許容する逆止弁が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された間隙水圧測定用調査器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60731(P2013−60731A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199079(P2011−199079)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(504338829)財団法人建設技術研究所 (7)
【出願人】(591091087)株式会社建設技術研究所 (18)
【出願人】(500174328)中大実業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】