説明

関心対象のポリペプチドを産生するライブラリークローンの選択に適した発現クローニング法

本発明は、関心対象の組換ポリペプチドを産生する方法であって:a)1又は2以上の関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドライブラリーを提供する工程であって、前記ライブラリーが、少なくともi)選択マーカーをコードするポリヌクレオチド、ii)真菌の複製開始配列、好ましくは自律複製配列(ARS)、及びiii)真菌細胞由来のプロモーター、ライブラリーのクローニング対象となるクローニング部位、及び転写ターミネーターを、この順に含んでなるポリヌクレオチドを、要素として含んでなる発現クローニングベクターにおいて調製される工程;b)前記ライブラリーで、親糸状菌宿主細胞の変異体を形質転換する工程であり、前記変異体における非相同組換の頻度が、親と比べ低下している工程;c)工程(b)で得られた形質転換宿主細胞を、ポリヌクレオチドライブラリーの発現に適した条件下で培養する工程;並びにd)関心対象のポリペプチドを産生する形質転換宿主細胞を選択する工程:を含んでなる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列表を含んでなる。
本発明は、関心対象のポリペプチドを産生するライブラリークローンの選択に適した発現クローニング法に関する。
【背景技術】
【0002】
関心対象のポリヌクレオチド配列のライブラリーを酵母において構築する方法が、幾つか発表されている。かかる方法では、酵母内でライブラリーをスクリーニングした後、選択されたポリヌクレオチドで、産業上関連する糸状菌宿主細胞を形質転換する。
【0003】
しかし、酵母又は細菌におけるスクリーニングにより同定されたポリヌクレオチド配列は、産生に関わる糸状菌細胞に形質転換しても発現できず、或いは低レベルでしか発現しない場合が多い。これは幾つかの理由によるものと考えられる。例えば、コドン使用頻度、mRNAレベルの調節、転位装置(translocation apparatus)、翻訳後修飾機構(例えばシステイン橋、グリコシル化パターン及びアシル化パターン)等の差異が挙げられる。
【0004】
A. Aleksenko及びA.J. Clutterbuckの論文(Fungal Genetics and Biology, 21:373-387 (1997))は、遺伝子クローニング及び発現試験における自律複製ベクター又は自律複製配列(ARS)の使用を開示する。AMA1(アスペルギルスにおける自己保持(autonomous maintenance in Aspergillus))は、議論されるプラスミドレプリケーター要素の1つである。これは、MATE1(可動性アスペルギルス形質転換エンハンサー(mobile Aspergillus transformation enhancer))と呼ばれるゲノムリピート配列の2つの逆方向コピーが、0.3kbの中央スペーサーにより隔てられてなる。AMA1は、再編成、多量体化又は染色体組込を殆ど伴うことなく、プラスミド複製を促進する。AMA1系プラスミドは、糸状菌での遺伝子クローニング及びライブラリー作製において、2つの利点を有する。第1の利点は、高い形質転換頻度であり、これによってライブラリーのサイズは何れも増大する。第2の利点として、適度に安定且つ標準的な遺伝子発現環境を提供することにより、形質転換体の特性が均一となると考えられる(WO00/24883;Novozymes社)。
【0005】
WO94/11523及びWO01/51646は、完全障害(impaired)共通コザック配列又は「損傷(crippled)」共通コザック配列を含んでなる発現ベクターを開示する。
WO03/070956は、AMA1配列及び損傷翻訳開始配列を含んでなる発現クローニング用クローニングベクターを開示する。
糸状菌における発現クローニング自体が、現在では本技術分野における標準的な方法論の一部であるが、かかる方法の使用は産業と深く関連するため、効率、性能又は経済性の僅かな改善が、大きな関心の的となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
糸状菌宿主細胞において、関心対象の特性を有するポリペプチドについて、ポリヌクレオチドライブラリーをスクリーニングし、得られたポリペプチドを迅速且つ容易に特徴決定できるようにすることが望ましい。今般、発現宿主細胞への形質転換後の発現ベクターのコピー数の変動を低減することにより、WO03/070956に開示の方法を更に改善した。これは、本発明によれば、宿主細胞のゲノムへの発現プラスミドの非相同組換の頻度を低減することにより達成された。
【0007】
本発明の一態様は、関心対象の組換ポリペプチドを産生する方法であって:
a)1又は2以上の関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドライブラリーを提供する工程であって、前記ライブラリーが、少なくとも
i)選択マーカーをコードするポリヌクレオチド、
ii)真菌の複製開始配列、好ましくは自律複製配列(ARS)、及び
iii)真菌細胞由来のプロモーター、ライブラリーのクローニング対象となるクローニング部位、及び転写ターミネーターを、この順に含んでなるポリヌクレオチド
を、要素として含んでなる発現クローニングベクターにおいて調製される工程:
b)前記ライブラリーで、親糸状菌宿主細胞の変異体を形質転換する工程であり、前記変異体における非相同組換の頻度が、親と比べ低下している工程;
c)工程(b)で得られた形質転換宿主細胞を、ポリヌクレオチドライブラリーの発現に適した条件下で培養する工程;並びに
d)関心対象のポリペプチドを産生する形質転換宿主細胞を選択する工程:を含んでなる方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明によれば、発現クローニング法の使用に際し生じ得る問題点の一つとして、発現ベクターへのライブラリーの形質転換後の発現レベルのばらつきが、個々のクローンの結果の比較を困難とし、結果として選択プロセスの妨げとなっていることが分かった。かかる発現レベルのばらつきには、幾つかの要因が関わっているものと考えられる。これまでは、上述した発現ベクターの構成要素の改善により、例えばAMA1配列のベクターへの導入や、障害「共通」コザック配列の使用等により、この問題に対処してきた。本発明によれば、発現宿主細胞における非相同組換頻度を低減することにより、大幅な改善が得されることが明らかになった。
【0009】
従って、一態様によれば、本発明は、関心対象の組換ポリペプチドを産生する方法であって:
a)1又は2以上の関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドライブラリーを提供する工程であって、前記ライブラリーが、少なくとも
i)選択マーカーをコードするポリヌクレオチド、
ii)真菌の複製開始配列、好ましくは自律複製配列(ARS)、及び
iii)真菌細胞由来のプロモーター、ライブラリーのクローニング対象となるクローニング部位、及び転写ターミネーターを、この順に含んでなるポリヌクレオチド
を、要素として含んでなる発現クローニングベクターにおいて調製される工程:
b)前記ライブラリーで、親糸状菌宿主細胞の変異体を形質転換する工程であり、前記変異体における非相同組換の頻度が、親と比べ低下している工程;
c)工程(b)で得られた形質転換宿主細胞を、ポリヌクレオチドライブラリーの発現に適した条件下で培養する工程;並びに
d)関心対象のポリペプチドを産生する形質転換宿主細胞を選択する工程:を含んでなる方法に関する。
【0010】
形質転換宿主細胞の選択後、関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、工程(d)の宿主細胞から単離してもよい。かかる単離は、変異を同定するとともに、他の変種からの相互汚染が生じていないことを確認するべく、この変種遺伝子を引き続きクリーンな宿主細胞に再度形質転換する目的で行われる。
【0011】
本発明の産生方法において、細胞の培養は、本技術分野で公知の方法を使用し、ポリペプチドの産生に適した栄養培地内で、且つ、選択マーカーの多コピーを選択し得る条件下で培養される。例えば、かかる細胞の培養は、24、96、384又は1536ウェルマイクロタイタープレートにおいて、振盪フラスコ培養により、又は小規模又は大規模発酵(連続発酵、バッチ発酵、流加発酵、又は固体発酵を含んでなる)により、好適な培地内で、且つ、ポリペプチドの発現及び/又は単離を可能にする条件下で実行される実験室用又は産業用発酵槽において実施し得る。この培養は、本技術分野において公知の手法を用い、炭素及び窒素源並びに無機塩を含有する好適な栄養培地において行われる。好適な培地は、供給業者から入手し得るか、或いは公開された組成(例えばアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)のカタログ)に従い調製し得る。
【0012】
関心対象のポリペプチドが栄養培地へ分泌される場合、このポリペプチドは培地から直接回収すればよい。ポリペプチドが分泌されない場合は、細胞溶解液から回収し得る。
【0013】
前記ポリペプチドは、前記ポリペプチドに適した本技術分野で公知の方法を用いて検出することができる。かかる検出法としては、特異抗体の使用、酵素産物の形成、又は酵素基質の消失が挙げられる。前記ポリペプチドは、本技術分野で公知の方法により回収することができる。例えば、前記ポリペプチドは常法により、栄養培地から回収することができる。常法としては遠心分離、濾過、抽出、噴霧乾燥、蒸発又は沈殿が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
前記ポリペプチドは、本技術分野において公知の様々な手法により精製することができる。かかる手法としては、クロマトグラフィー(例えばイオン交換、アフィニティ、疎水性、クロマトフォーカシング、サイズ排除等)、電気泳動法(例えば分取的等電点電気泳動等)、差分溶解度法(例えば硫酸アンモニウム沈殿等)、SDS−PAGE、又は抽出(例えば、Protein Purification, J.-C. Janson及びLars Ryden編集, VCH Publishers, ニューヨーク, 1989等参照)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
非相同組換
真核細胞において、組換によるゲノムへの組込みは、相同組換(homologous recombination:HR)及び非相同組換(non-homologous recombination:NHR)という、異なる2つの経路により生じ得る。酵母で優先される経路はHRであるが、糸状菌では殆どの組込事象がNHRにより生じる。WO02/052026は、ゲノムへのDNA配列の標的化効率が改善されたサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)の変異体を開示する。この変異体は、NHRに関与するKU70を欠損している。KU70欠損哺乳類細胞が単離されている(Pierceら、Genes and Development, 15: 3237-3242 (2001))が、かかる変異体は、相同性に基づく標的化組込の増大という同じ表現型を示さない。糸状菌では、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)KU70の変異体が、ゲノムへの標的化組込効率の改善を示した(WO2005/095624)。酵母の研究から、NHR経路に関与している可能性がある遺伝子として、KU70、KU80、RAD50、MRE11、XRS2、LIG4及びSIR4が同定されている(van den Boschら、Biol. Chem., 383: 873-892 (2002)、及びAllenら、Mol. Cancer Res., 1: 913-920 (2003))。WO02/052026の23頁の表2も参照のこと。糸状菌において、かかる遺伝子の機能同等物も同定されている。WO2005/095624には、アスペルギルス・ニガー由来のKU70及びKU80ホモログであるhdfA及びhdfBが開示されており、Ishibashi, K.、Suzuki, K.、Ando, Y.、Takakura, C.及びInoue, H.の論文(PNAS, USA. 103(40): 14871-14876 (2006))には、ニューロスポラ属(Neurospora)におけるMUS−53(LIG4ホモログ)が開示されている。
【0016】
特に、本発明に係る宿主糸状菌細胞は、非相同組換頻度を低減する変異体である。NHRに関与する成分には、酵母KU70、KU80、RAD50、MREII、XRS2、LIG4又はSIR4又は関連成分の、糸状菌における機能同等物を含んでなる。
【0017】
遺伝子の命名法は生物間で異なるので、本明細書において、機能同等物又はそれらの機能及び/又は機能断片は何れも、(量的にではなく、機能的に)酵母遺伝子KU70、KU80、RAD50、MREII、XRS2、LIG4、又はSIR4の少なくとも1つの機能を発揮し得るものと定義される。かかる遺伝子の中には、糸状菌において、特に上述のアスペルギルス属(hdfA及びhdfB)及びニューロスポラ属(MUS−53)において、既にその機能同等物が同定されているものがある。すなわち、一実施態様によれば、前記変異糸状菌宿主は、KU70、KU80、RAD50、MRE11、XRS2、LIG4及びSIR4からなる群より選択される、NHR経路に関与する酵母遺伝子の1つの機能同等物である、その内在性遺伝子の少なくとも1つについて、その発現が減少又は欠落しているか、又はかかる遺伝子を欠損している。これには、同じ遺伝子の変種であって、失活又は低活性のタンパク質を生じるものも含まれる。より特定すると、これらの遺伝子は、KU70及びKU80からなる群、特にアスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・ニガー由来の機能同等物から選択される。一実施態様によれば、これらの遺伝子は、hdfA及びhdfB又はそれらのホモログである。
【0018】
好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号14と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%、更に最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。最も好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号14のヌクレオチド配列を含んでなる。別の最も好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号14のヌクレオチド配列からなる。
【0019】
別の好ましい態様によれば、KU80同等物は、配列番号15と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%、更に最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。最も好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号15のヌクレオチド配列を含んでなる。別の最も好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号15のヌクレオチド配列からなる。
【0020】
別の好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号16と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%、更に最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。最も好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号16のヌクレオチド配列を含んでなる。別の最も好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号16のヌクレオチド配列からなる。
【0021】
別の好ましい態様によれば、KU80同等物は、配列番号17と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%、更に最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。最も好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号17のヌクレオチド配列を含んでなる。別の最も好ましい態様によれば、KU70同等物は、配列番号17のヌクレオチド配列からなる。
【0022】
本発明によれば、上記ライブラリーは発現クローニングベクターへクローニングされ、続いて変異糸状菌に形質転換され、かかる変異体のNHR経路に関与する内在性遺伝子の少なくとも1つが修飾される結果、前記変異体における非相同組換頻度は、親糸状菌と比べて減少する。今般、かかるNHR頻度の減少が、発現クローンの安定性を著しく改善するとともに、発現レベルをより均一化する結果、関心対象のクローンの選択がより確実になることが示された。用語「修飾」は、本明細書において、遺伝子又はそれらの転写又は翻訳に必要な調節要素における1又は2以上のヌクレオチドの導入、置換又は除去、更にはNHR経路に関与した少なくとも1個の内在性遺伝子の遺伝子破壊、遺伝子変換、遺伝子欠失、又はランダム又は特異的変異誘発として規定されている。このような(単数又は複数の)遺伝子の欠失は、部分的であっても完全であってもよい。この修飾は、NHR経路に関与した少なくとも1種の内在性遺伝子の発現の減少又は排除を生じる。
【0023】
好ましい態様によれば、この修飾によって、KU70、KU80、RAD50、MREII、XRS2、LIG4、又はSIR4からなる群より選択される遺伝子又はそれらの機能同等物の少なくとも1種の発現の低下又は消滅が起こる。かかる修飾によって、欠損糸状菌宿主細胞が生じる。
【0024】
用語「欠損」は、本明細書において、親の糸状菌株と比べ、同一条件下で培養した場合に、NHR経路に関与した遺伝子産物を検出可能な量産生しないか、あるいは、親の糸状菌株と比べ、同一条件下で培養した場合に、好ましくは少なくとも25%未満、より好ましくは少なくとも50%未満、更により好ましくは少なくとも75%未満、及び最も好ましくは少なくとも95%未満を産生する、糸状菌の変異株として定義される。本発明の糸状菌変異株により産生された遺伝子産物のレベルは、本明細書に説明された方法又は本技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。
【0025】
「欠損」糸状菌変異株は、例えば、挿入、破壊、交換又は欠失などの、本技術分野において周知の方法を使用する、NHR経路に関与した遺伝子の発現の減少又は排除により構築することができる。修飾又は失活されるべき遺伝子の部分としては、例えば、コード領域又はコード領域の発現に必要な調節要素が挙げられる。そのような遺伝子の調節配列又は制御配列の例は、プロモーター配列又はそれらの機能部分、すなわち遺伝子の発現に影響を及ぼすのに十分である部分であってもよい。可能な修飾のための他の制御配列は、リーダー、プロペプチド配列、シグナル配列、転写ターミネーター、及び転写活性化因子を含んでなるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
前記糸状菌変異株は、NHR経路に関与した少なくとも1種の遺伝子の発現を排除又は減少するための、遺伝子欠失技術により構築することができる。遺伝子欠失技術は、(単数又は複数の)遺伝子の部分的又は完全な除去が可能であり、これによりそれらの発現を排除する。そのような方法において、(単数又は複数の)遺伝子の欠失は、該遺伝子にフランキングする5’領域及び3’領域を隣接して含むように構築されているプラスミドを使用する相同組換により実現することができる。所与のDNA配列の発現をダウンレギュレーションするための好ましい戦略は、野生型DNA配列の欠失及び/又はその発現産物は機能的でない修飾されたDNA配列による交換を含んでなる。この欠失及び交換は好ましくは、EP 0 357 127 B1に開示された遺伝子交換技術により実行される。
【0027】
前記糸状菌変異株は、遺伝子内の1個又は複数のヌクレオチド又はそれらの転写又は翻訳に必要なそれらの調節要素の導入、置換、及び/又は除去によっても構築することができる。例えば、停止コドンの導入、開始コドンの除去、又はオープンリーディングフレームのフレーム−シフトを生じるように、ヌクレオチドを挿入又は除去してもよい。このような修飾は、本技術分野で公知の方法に従い、部位特異的突然変異誘発又はPCR突然変異誘発により実現することができる。例えば、Botstein及びShortle, Science, 229: 4719 (1985);Loら, Proceedings of the National Academy of Sciences USA, 81: 2285 (1985);Higuchiら, Nucleic Acids Research, 16: 7351 (1988);Shimada, Meth. Mol. Biol., 57: 157 (1996);Hoら, Gene, 77: 61 (1989);Hortonら, Gene, 77: 61 (1989);並びに、Sarkar及びSommer, BioTechniques, 8: 404 (1990)を参照。
【0028】
前記糸状菌変異株は、相同な領域の複製を作出しかつ複製された領域の間にベクターDNAを取込む、遺伝子に相同な核酸断片を含んでなる組込みプラスミドを、関心対象の遺伝子へ挿入することによる、遺伝子破壊技術によっても構築することができる。そのような遺伝子破壊は、挿入されたベクターが該遺伝子のプロモーターをコード領域から隔てるか、又はコード配列を中断し、その結果、非機能遺伝子産物を生じる場合に、遺伝子発現を排除することができる。破壊する構築体は、単純に該遺伝子に相同な5’領域及び3’領域に付随された選択マーカー遺伝子であってもよい。この選択マーカーは、破壊された遺伝子を含んでなる形質転換体の同定を可能にする。
【0029】
前記糸状菌変異株は、遺伝子変換プロセスによっても構築することができる(例えば、Iglesias及びTrautner, Molecular General Genetics, 189: 73-76 (1983)を参照)。例えばこの遺伝子変換法において、本(単数又は複数の)遺伝子に対応するヌクレオチド配列が、インビトロにおいて変異され、欠損したヌクレオチド配列を作出し、これは次に親糸状菌株に形質転換され、欠損遺伝子を作出する。相同組換により、欠損ヌクレオチド配列は、内在性遺伝子を交換する。欠損遺伝子又は遺伝子断片も、該欠損遺伝子を含んでなる形質転換体の選択に使用することができるマーカーを同じく含むことが望ましいことがある。
【0030】
前記糸状菌変異株は、該遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を使用する、確立されたアンチセンス技術により構築することもできる(Parish及びStoker, FEMS Microbiology Letters, 154: 151-157 (1997))。より詳細には、糸状菌株による遺伝子の発現は、その株において転写されかつその株において産生されたmRNAにハイブリダイズ可能な、該遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列の導入により、減少又は排除することができる。従って、相補的アンチセンスヌクレオチド配列がmRNAへハイブリダイズすることが可能な条件下で、翻訳されたタンパク質の量は、減少又は排除される。
【0031】
前記糸状菌変異株は、化学変異誘発(例えば、Hopwood, The Isolation of Mutants in Methods in Microbiology (J.R. Norris及びD.W. Ribbons編集) pp 363-433, Academic Press, ニューヨーク, 1970を参照)、及び遺伝子転位(例えば、Youngmanら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80: 2305-2309 (1983) を参照)を含んでなるが、これらに限定されるものではない、本技術分野において周知の方法を使用する、ランダム又は特異的変異誘発により更に構築することもできる。この遺伝子の修飾は、親株に変異誘発を施し、かつその遺伝子の発現が減少又は排除されている変異株をスクリーニングすることにより、実行することができる。変異誘発は特異的であっても、ランダムであってもよく、これは例えば、好適な物理的又は化学的変異誘発物質の使用、好適なオリゴヌクレオチドの使用、又はDNA配列へのPCR突然変異誘発により、実行することができる。更に本変異誘発は、これらの変異誘発法のいずれかの組合せの使用により、実行することができる。
【0032】
本目的に適した物理的又は化学的変異誘発物質の例としては、紫外線(UV)照射、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、N−メチル−N’−ニトロソグアニジン(NTG)、O−メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、メタンスルホン酸エチル(EMS)、亜硫酸水素ナトリウム、ギ酸、及びヌクレオチドアナログが挙げられる。このような物質が使用される場合、変異誘発は典型的には、好適な条件下、選択された変異誘発物質の存在下での、変異誘発されるべき親株のインキュベーション、及び遺伝子の低下した発現又は非発現を示す変異体の選択により、実行される。
【0033】
組換頻度の決定
NHR/HRの比が、野生型と比べ、変異体において変化したかどうかを決定するために、組換頻度の決定を使用することができる。NHR効率は、実施例4に説明された、あるいはWO2005/095624の6〜7頁に開示されたように本質的に決定することができる。
【0034】
ライブラリー
本発明のライブラリーは、該糸状菌宿主細胞に対し原性であるか又は異種であってもよい、関心対象のポリペプチドをコードしている。関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、関心対象のポリペプチドを産生することが可能である任意の生物を起源としてよく、これは多細胞生物及び微生物、例えば細菌及び真菌を含んでなる。該ポリヌクレオチドの起源は、合成されてもよく、このことはこのライブラリーは、例えば同じポリペプチドをコードしているコドン最適化された変種で構成されるか、又はこのライブラリーは、本技術分野において公知のシャッフリング技術により得られた変種を含んでなることができることを意味する。
【0035】
真菌の複製開始配列
本明細書において使用される用語「真菌の複製開始配列」は、通常DNA−ベクターの構造再編成又は宿主細胞ゲノムへの組込みを伴わずに、糸状菌宿主細胞において、染色体外分子、例えば、プラスミド等のDNAベクターの自律複製を支援することが可能である核酸配列と定義される。この複製開始配列は、それが真菌細胞において複製開始活性を媒介することが可能である限りは、任意の起源であってもよい。例えば複製開始配列は、プラスミドにアスペルギルス属における複製能を付与するヒト起源のテロメアであってもよい(Aleksenko及びIvanova, Mol.Gen. Genet. 260: 159-164 (1998))。好ましくは、この複製開始配列は、糸状菌細胞、より好ましくはアスペルギルス属、フサリウム属(Fusarium)又はアルテナリア属(Alternaria)の株、更により好ましくはA.ニジュランス(Aspergillus nidulans)、A.オリザエ、A.ニガー、フサリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)又はアルテナリア・アルテナータ(Alternaria altenata)の株から得られる。
【0036】
真菌の複製開始配列は、本技術分野において周知の方法により同定することができる。例えばこの配列は、糸状菌細胞における自律複製の能力の指標である、酵母における自律複製を維持することが可能な配列(Balance及びTurner, Gene, 36: 321-331 (1985))として、問題の生物に由来するゲノム断片において同定することができる。所与の配列の真菌における複製開始活性は、企図されたプラスミドレプリケーターによる真菌の形質転換、及び不規則な形態を有するコロニーの選択によって決定することもでき、これは次に、プラスミド上に認められた遺伝子に関する選択時の選択培地上での増殖の欠乏につながる分節型(sectorial)プラスミドの喪失を示す(Gemsら, Gene, 98: 61-67 (1991))。AMA1は、この方法で単離された。複製開始配列を単離する別の方法は、天然のプラスミドを単離することである(例えば、アルテナリア・アルテナータについてTsugeらにより明らかにされたもの、Genetics, 146: 111-120 (1997))。
【0037】
真菌の複製開始配列の例は、例えば、Cullen, D.ら(Nucleic Acids Res., 15: 9163-9175 (1987))及びGems, D.ら, Gene, 98: 61-67 (1991))により各々明らかにされた、アスペルギルス・ニジュランスのANS1配列及びAMA1配列を含んでなるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
好ましい実施態様は、工程(ii)の真菌の複製開始配列は、配列番号1又は配列番号2に示された核酸配列を含んでなる(これらの配列に関する更なる詳細については、WO00/24883の配列番号1及び2を参照のこと)か、又はそれらの機能性誘導体であり、好ましくはこの機能性誘導体は、配列番号1又は配列番号2と少なくとも80%同一である、本発明の第一の態様の方法に関連している。
用語「複製開始活性」は、その通常の意味で本明細書において使用され、すなわちその配列は、真菌細胞におけるプラスミド又はDNAベクターなどの染色体外分子の自律複製を支援することが可能であることを示す。
【0039】
本明細書において用語「プラスミドの構造再編成を伴わずに」は、プラスミドの一部が、欠失されるか、又は別のプラスミドの部分へ挿入されることがなく、いずれの宿主ゲノムDNAもプラスミドへ挿入されないことを意味するように使用される。本発明の方法において使用される複製開始配列は、配列番号1又は配列番号2の核酸配列と少なくとも50%の同一性を有するヌクレオチド配列であり、かつ真菌細胞における複製を開始することが可能であるか;又は、(a)又は(b)の部分配列であり、ここでこの部分配列は、真菌細胞における複製を開始することが可能である。
【0040】
好ましい実施態様によれば、本ヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号2に示された核酸配列に対する同一性が、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、更により好ましくは少なくとも70%、更により好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも90%、及び最も好ましくは少なくとも97%同一度を有する(以後「相同ポリヌクレオチド」)。相同ポリヌクレオチドは、真菌細胞における複製開始活性を有する、配列番号1又は配列番号2の部分配列も包含している。
ふたつのアミノ酸配列の間の関連は、パラメータ「同一性」により説明される。
【0041】
本発明の目的に関して、ふたつのアミノ酸配列のアラインメントは、EMBOSSパッケージ(http://emboss.org)バージョン2.8.0のNeedleプログラムを使用し、決定される。このNeedleプログラムは、Needleman, S. B.及びWunsch, C. D.の論文(J. Mol. Biol., 48: 443-453 (1970))に説明された大域アラインメントアルゴリズムを履行する。使用される置換マトリックスはBLOSUM62であり、ギャップオープニングペナルティは10であり、ギャップイクステンションペナルティは0.5である。
【0042】
アミノ酸配列(「発明配列」)と異なるアミノ酸配列(「外来配列」)の間の同一度は、いずれが最短であっても、「発明配列」の長さ又は「外来配列」の長さにより除算された、これらふたつの配列のアラインメントで完全にマッチした数として計算される。この結果は、同一率(%)として表される。
【0043】
完全なマッチは、「発明配列」及び「外来配列」が、その重複の同じ位置に同じアミノ酸残基を有する場合に生じる。配列の長さは、その配列中のアミノ酸残基の数である。
【0044】
本発明の目的に関して、ふたつのヌクレオチド配列の間の同一度は、Wilbur-Lipman法(Wilbur及びLipman, Proceedings of the National Academy of Science USA, 80: 726-730 (1983))により、LASERGENE(商標)MEGALIGN(商標)ソフトウェア(DNASTAR社, マジソン, WI)を用い、同一性テーブル及び以下の複数のアラインメントパラメータで決定される:ギャップペナルティ10、及びギャップレングスペナルティ10。ペアワイズアラインメントパラメータは、Kタプル=3、ギャップペナルティ=3、及びウィンドウ=20である。
【0045】
複製開始活性を有する核酸配列を単離又はクローニングするために使用される技術は、本技術分野において公知であり、かつゲノムDNA又はcDNAからの単離を含んでなる。このようなDNAからのクローニングは、例えば共有された構造特徴を伴うクローニングされたDNA断片を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を基にした方法を使用することにより、実行することができる(例えば、Innisらの「PCR: A Guide to Methods and Application」, Academic Press, ニューヨーク, 1990を参照)。リガーゼ連鎖反応(LCR)等の他の核酸増幅手法を使用してもよい。
【0046】
好ましい実施態様によれば、複製開始配列は、配列番号1又は配列番号2に示された核酸配列、又はそれらの各機能部分配列を有する。例えば配列番号1の機能部分配列は、5’及び/又は3’末端から1又は2以上のヌクレオチドが欠失されていること以外は、配列番号1又は配列番号2により包含される核酸配列である。好ましくは、部分配列は、少なくとも100個のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも1000個のヌクレオチド、及び最も好ましくは少なくとも2000個のヌクレオチドを含んでなる。より好ましい実施態様によれば、配列番号1の部分配列は、少なくとも配列番号2に示された核酸配列を含んでなる。
【0047】
不能とされた翻訳イニシエーター配列
本明細書において用語「翻訳イニシエーター配列」は、ポリペプチドをコードする核酸配列のオープンリーディングフレームのイニシエーター又は開始コドンのすぐ上流の10個のヌクレオチドとして定義される。このイニシエーターコドンは、アミノ酸メチオニンをコードしている、いわゆる「開始」コドンである。典型的なイニシエーターコドンはATGであるが、GTG等の任意の機能性開始コドンであってもよい。RNAにおいてウラシル(ウリジン)Uは、デオキシヌクレオチドチミン(チミジン)Tと交換されることは本技術分野において周知である。
【0048】
特定の本発明の実施態様によれば、先に説明された方法は、発現ベクター上に含まれたマーカー遺伝子の翻訳開始起始部位(translation initiation start site)として下記配列を使用することにより、更に改善することができ:
N YNN ATG YNN (配列番号3)
ここで、−3位の「Y」はピリミジン(シチジン又はチミジン/ウリジン)であり、「N」は任意のヌクレオチドであり、かつこの数値指定は、マーカーの開始コドン「ATG」(太字)内の最初のヌクレオチドに対するものである。
【0049】
本明細書において用語「不能とされた翻訳イニシエーター配列」は、ポリペプチドをコードする核酸配列のオープンリーディングフレームのイニシエーターコドンのすぐ上流の10個のヌクレオチドと定義され、ここでこのイニシエーター配列は、−3位にTを、並びに−1位、−2位及び−4位の1又は2以上にTを含んでなる。
【0050】
従って本発明の好ましい実施態様によれば、配列番号3の配列は、−3位にチミジン(ウリジン)を含み;更により好ましくは、配列番号3の配列は、−1、−2及び−4位にもう1つのチミジン(ウリジン)を更に含む。
【0051】
本明細書において用語「機能的に連結される」は、制御配列、例えば不能とされた翻訳イニシエーター配列が、制御配列がコード配列によりコードされたポリペプチドの産生を指示するように、コード配列に対する位置に適切に配置されている構成と定義される。
【0052】
本明細書において用語「コード配列」は、適切な制御配列の制御下に配置された場合にポリペプチドに翻訳されるようにmRNAに転写されている核酸配列と定義される。このコード配列の境界は一般に、mRNAの5’末端のオープンリーディングフレームの始まりに位置した開始コドン及びmRNAのオープンリーディングフレームの3’末端に位置した停止コドンにより決定される。コード配列としては、ゲノムDNA、cDNA、半合成、合成及び組換核酸配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
不能とされた翻訳配列は、選択マーカーをコードしている遺伝子の非効率な翻訳を生じる。選択マーカーをコードしている遺伝子に機能的に連結された不能とされた翻訳イニシエーター配列を含んでなる第二のポリヌクレオチドへ物理的に連結された、関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを収容している真菌宿主細胞は、選択マーカーの多コピーについて選択される条件下で培養される場合、ベクターへクローニングされたポリペプチド−コードするポリヌクレオチドのコピー数も増加される。
【0054】
本明細書において用語「選択マーカー」は、形質転換された細胞の選択を容易にする、殺生物又はウイルス耐性、重金属に対する抵抗、栄養要求株に対する原栄養などを提供する産物の遺伝子と定義される。糸状菌宿主細胞において使用するための選択マーカーは、amdS(アセトアミダーゼ)、argB(オルニチンカルバモイル基転移酵素)、bar(ホスフィノトリシンアセチル基転移酵素)、hygB(ヒグロマイシンリン酸転移酵素)、niaD(硝酸還元酵素)、pyrG(オロチジン−5’−リン酸脱炭酸酵素)、sC(硫酸アデニル転移酵素)、trpC(アントラニル酸合成酵素)、更にはそれらの同等物を含んでなるが、これらに限定されるものではない。アスペルギルス属細胞において使用するのに好ましいのは、アスペルギルス・ニジュランス又はアスペルギルス・オリザエのamdS遺伝子及びpyrG遺伝子、並びにストレプトマイセス・ヒグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)のbar遺伝子である。これらの選択マーカーの機能性誘導体、特に低下した活性又は低下した安定性を有するそれらの機能性誘導体も、本発明において興味深く、これにより選択物質(類)の濃度を増大することなく、発現ベクターのより高いコピー数の選択が可能である。
【0055】
従って好ましい実施態様は、工程(i)の選択マーカーが、amdS、argB、bar、hygB、niaD、pyrG、sC、及びtrpCからなるマーカーの群より選択され;好ましくは工程(i)の選択マーカーは、pyrG又はそれらの機能性誘導体であり、より好ましくは工程(i)の選択マーカーは、1又は2以上のアミノ酸の置換を含んでなるpyrGの機能性誘導体であり、最も好ましくはこの誘導体は、アミノ酸置換T102Nを含んでなる、第一の態様の方法である。
【0056】
本明細書において用語「コピー数」は、ゲノム1個あたりの、細胞内に含まれた遺伝子の分子の数と定義される。遺伝子のコピー数を決定する方法は、本技術分野において公知であり、かつサザン分析、定量的PCR、又はリアルタイムPCRを含んでなる。
【0057】
本真菌宿主細胞は好ましくは、発現クローニングベクターの少なくとも2個のコピー、より好ましくは少なくとも10個のコピー、更により好ましくは少なくとも100個のコピー、最も好ましくは少なくとも500個のコピー、及び更に最も好ましくは少なくとも1000個のコピーを含んでなる。
【0058】
ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
関心対象のポリペプチドは、関心対象の糸状菌宿主細胞に対し原性(native)であってもよく、異種であってもよい。本明細書において用語「異種ポリペプチド」は、真菌細胞に対して原性でないポリペプチド、原性配列を変更するように修飾が生じた原性ポリペプチド、又は組換DNA技術による真菌細胞の操作の結果としてその発現が定量的に変更された原性ポリペプチドと定義される。関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、多細胞生物並びに微生物、例えば細菌及び真菌を含んでなる、関心対象のポリペプチドの生成が可能な任意の生物を起源とすることができる。あるいはこのポリヌクレオチドは、合成により作製されたポリヌクレオチド、例えばコドン最適化されたポリヌクレオチド又はシャッフルされたポリヌクレオチドであってもよい。
【0059】
本発明の好ましい実施態様は、関心対象の1又は2以上のポリペプチドを産生することが可能な工程(a)の生物は、真核生物であり、好ましくはこの真核生物は、真菌、最も好ましくは糸状菌である、第一の態様の方法に関連している。
【0060】
用語「ポリペプチド」は、コードされた生成物の特定の長さを示すことは意味せず、従ってペプチド、オリゴペプチド、及びタンパク質を包含している。好ましくは、関心対象のポリペプチドは、酵素、酵素変種、又はそれらの機能性誘導体であり、より好ましくはこの酵素又は酵素変種は、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、脱離酵素、異性化酵素又はリガーゼであり;並びに、最も好ましくはこの酵素又は酵素変種は、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、シクロデキストリングリコシル基転移酵素、デオキシリボヌクレアーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、インベルターゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、マンノシダーゼ、ムタナーゼ、オキシダーゼ、ペクチン分解酵素、ペルオキシダーゼ、フィターゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、タンパク質分解酵素、リボヌクレアーゼ、トランスグルタミナーゼ、又はキシラナーゼである。
【0061】
好ましくは、前記ポリペプチドは、ホルモン又はホルモン変種又はそれらの機能性誘導体、受容体又は受容体変種又はそれらの機能性誘導体、抗体又は抗体変種又はそれらの機能性誘導体、又はレポーターである。
【0062】
好ましい実施態様によれば、前記ポリペプチドは、細胞外に分泌される。より好ましい実施態様によれば、前記ポリペプチドは、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、脱離酵素、異性化酵素又はリガーゼである。更により好ましい実施態様によれば、前記ポリペプチドは、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、シクロデキストリングリコシル基転移酵素、デオキシリボヌクレアーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、インベルターゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、マンノシダーゼ、ムタナーゼ、オキシダーゼ、ペクチン分解酵素、ペルオキシダーゼ、ホスホリパーゼ、フィターゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、タンパク質分解酵素、リボヌクレアーゼ、トランスグルタミナーゼ、又はキシラナーゼである。
【0063】
関心対象のポリペプチドをコードする核酸配列は、原核生物、真核生物又は他の由来源のいずれから得られたものでもよい。本発明の目的に関して、本明細書において所定の由来源との関係で使用される用語「から得る」は、そのポリペプチドが、その由来源により産生されるか、又はその由来源由来の遺伝子が挿入された細胞により産生されることを意味するものとする。
【0064】
関心対象のポリペプチドをコードする核酸配列の合成、単離又はクローニングに使用される技術は、本技術分野において公知であり、かつゲノムDNAからの単離、cDNAからの調製、又はそれらの組合せを含んでなる。そのようなゲノムDNAからの核酸配列のクローニングは、例えば、周知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用することにより、実行することができる。例えば、Innisらの「PCR Protocols: A Guide to Methods and Application」(Academic Press, ニューヨーク, 1990)を参照のこと。本クローニング手法は、ポリペプチドをコードする核酸配列を含んでなる所望の核酸断片の切り出し及び単離、この断片のベクター分子への挿入、並びにこの組換ベクターの核酸配列の多コピー又はクローンが複製される変異体真菌細胞への取込みに関与している。この核酸配列は、ゲノム、cDNA、RNA、半合成、合成起源、又はそれらの組合せであってもよい。
【0065】
本発明の方法において、前記ポリペプチドは、別のポリペプチドが該ポリペプチド又はそれらの断片のN−末端又はC−末端で融合されている、融合ポリペプチド又はハイブリッドポリペプチドも含むことができる。融合ポリペプチドは、1つのポリペプチドをコードする核酸配列(又はそれらの一部)を、別のポリペプチドをコードする核酸配列(又はそれらの一部)へ融合することにより産生される。融合ポリペプチドを産生する技術は、本技術分野において公知であり、かつ該ポリペプチドをコードしているコード配列のライゲーションを含み、その結果これらはインフレームであり、かつこの融合されたポリペプチドの発現は、同じプロモーター(類)及びターミネーターの制御下にある。ハイブリッドポリペプチドは、1種又は複数が該変異体真菌細胞に対し異種である、少なくとも2種の異なるポリペプチドから得られた部分的又は完全ポリペプチド配列の組合せを含んでなることができる。
【0066】
一旦本発明の方法に従い関心対象のポリペプチドを産生する形質転換宿主細胞が選択された場合、このコードするポリヌクレオチドは、選択された形質転換宿主細胞から単離することができ、かつ更に最適化された発現システムをデザインすることができる。
【0067】
従って、好ましい実施態様は、工程(d)に続けて、関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、工程(d)で選択された形質転換宿主細胞から単離される第一の態様の方法に関連している。
【0068】
核酸構築体
本発明は、関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる核酸構築体にも関する。これらのポリヌクレオチドは、好適な宿主細胞において、該制御配列と適合性のある条件下でコード配列の発現を指示する1又は2以上の制御配列に機能的に連結されている。発現は、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾、及び分泌を含んでなるが、これらに限定されるものではない、ポリペプチドの産生に関連した任意の工程を含んでなることが理解されるであろう。
【0069】
本明細書において「核酸構築体」は、天然の遺伝子から単離されるか、合成的に作出されるか、又はそうでなければ天然に存在しないような様式で組合せられかつ並置された核酸のセグメントを含んでなるように修飾された、1本鎖又は2本鎖のいずれかの核酸分子として定義される。核酸構築体が関心対象のポリペプチドをコードしている第二のポリヌクレオチド及びその発現に必要な制御配列全てを含んでなる場合、用語核酸構築体は、用語発現ベクターと同義である。
【0070】
ポリペプチドをコードしている単離されたポリヌクレオチドは、ポリペプチドの発現を提供するように、様々な方法で更に操作することができる。核酸配列のベクターへの挿入前の核酸配列の操作は、発現ベクターに応じて望ましいか又は必要なことがある。組換DNA法を利用し核酸配列を修飾する技術は、本技術分野において周知である。
【0071】
本発明の方法において、核酸配列は、1種又は複数の原性の制御配列を含んでなるか、又は1種又は複数の原性の制御配列は、宿主細胞においてコード配列の発現を改善するために該核酸配列に対し外来である1又は2以上の制御配列と交換されてよい。
【0072】
本明細書において用語「制御配列」は、関心対象のポリペプチドの発現に必要な又は有利である全ての成分を含んでなるように定義される。各制御配列は、ポリペプチドをコードする核酸配列に対し原性又は外来であってもよい。そのような制御配列は、リーダー、ポリアデニル化配列、プロペプチド配列、本発明の不能とされた翻訳イニシエーター配列、シグナルペプチド配列、及び転写ターミネーターを含んでなるが、これらに限定されるものではない。これらの制御配列は最低でも、翻訳イニシエーター配列、並びに転写及び翻訳停止シグナルを含んでなる。これらの制御配列は、制御配列の、ポリペプチドをコードする核酸配列のコード領域との連結を促進する、特異的制限部位又はクローニング部位を導入する目的のために、リンカーを備えてよい。
【0073】
前記制御配列は、適切なプロモーター配列、核酸配列の発現のために宿主細胞により認識された核酸配列であってもよい。プロモーター配列は、ポリペプチドの発現を媒介する転写制御配列を含んでなる。本プロモーターは、変異型、切断型、及びハイブリッドプロモーターを含んでなる、選択された宿主細胞において転写活性を示す任意の核酸配列であってもよく、その宿主細胞と同種又は異種のいずれかの細胞外又は細胞内ポリペプチドをコードしている遺伝子から得ることができる。
【0074】
糸状菌宿主細胞における本発明の核酸構築体の転写を指示するために適したプロモーターの例は、アスペルギルス・オリザエ・TAKAアミラーゼ、リゾムコール・ミエハイ(Rhizomucor miehei)・アスパラギン酸プロテイナーゼ、アスペルギルス・ニガー・中性α-アミラーゼ、アスペルギルス・ニガー・酸安定性α-アミラーゼ、アスペルギルス・ニガー又はアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)・グルコアミラーゼ(glaA)、リゾムコール・ミエハイ(Rhizomucor miehei)・リパーゼ、アスペルギルス・オリザエ・アルカリプロテアーゼ、アスペルギルス・オリザエ・トリオースリン酸イソメラーゼ、アスペルギルス・ニジュランス・アセトアミダーゼ、フサリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)・アミログルコシダーゼ、フサリウム・オキスポラム・トリプシン様プロテアーゼの遺伝子から得られるプロモーター(WO96/00787)、更にはNA2−tpiプロモーター(アスペルギルス・ニガー・中性α-アミラーゼ遺伝子とアスペルギルス・オリザエ・トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子からのプロモーターのハイブリッド);並びに、それらの変異型、切断型、及びハイブリッドプロモーターである。
【0075】
第一の態様の特定の実施態様によれば、工程(iii)のプロモーターは、WO89/01969に開示されたアスペルギルス・ニガー由来の中性アミラーゼコード遺伝子(NA2)からのプロモーターである。別の特定の実施態様によれば、プロモーターは、NA2−tpiプロモーター(アスペルギルス・ニガー・中性α−アミラーゼをコードしている遺伝子からのプロモーターとアスペルギルス・オリザエ・トリオースリン酸イソメラーゼ(tpi)プロモーターからの非翻訳リーダーのハイブリッド)である。
【0076】
前記制御配列は、転写を終結するために宿主細胞により認識される配列である、好適な転写ターミネーター配列であってもよい。このターミネーター配列は、前記ポリペプチドをコードする核酸配列の3’末端に機能的に連結される。選択された宿主細胞において機能する任意のターミネーターを、本発明に使用することができる。
【0077】
糸状菌宿主細胞にとって好ましいターミネーターは、アスペルギルス・オリザエ・TAKAアミラーゼ、アスペルギルス・ニガー・グルコアミラーゼ、アスペルギルス・ニジュランス・アントラニル酸合成酵素、アスペルギルス・ニガー・α-グルコシダーゼ、及びフサリウム・オキスポラム・トリプシン様プロテアーゼの遺伝子から得られる。
【0078】
好ましい実施態様は、工程(iii)の転写ターミネーターが、アスペルギルス・ニガーのグルコアミラーゼコード遺伝子(AMG)由来のターミネーターである、第一の態様の方法に関連している(Boel,E.;Hjort,I.;Svensson,B.;Norris,F.;Norris,K.E.;Fiil,N.P.、「アスペルギルス・ニガー由来のグルコアミラーゼG1及びG2は、2種の異なるが密接に関連したmRNAから合成される」、EMBO J. 3:1097 (1984))。
【0079】
前記制御配列は、宿主細胞による翻訳に重要であるmRNAの非翻訳領域である、好適なリーダー配列であってもよい。このリーダー配列は、前記ポリペプチドをコードする核酸配列の5’末端に機能的に連結される。選択された宿主細胞において機能する任意のリーダー配列を、本発明において使用することができる。
糸状菌宿主細胞について好ましいリーダーは、アスペルギルス・オリザエ・TAKAアミラーゼ及びアスペルギルス・ニジュランス・トリオースリン酸イソメラーゼの遺伝子から得られる。
【0080】
好ましい実施態様は、本プロモーターが、工程(iii)のクローニング−部位の上流で、アスペルギルス・ニジュランスからのトリオースリン酸イソメラーゼ(tpiA)のリーダーペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結される、第一の態様の方法に関する(Mcknight G.L.、O’Hara P.J.、Parker M.L.、「アスペルギルス・ニジュランス由来のトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子のヌクレオチド配列:イントロンの示差的喪失に関する意味」、Cell 46:143-147(1986))。
【0081】
前記制御配列は、核酸配列の3’末端に機能的に連結され、かつ転写時に宿主細胞により転写されたmRNAへポリアデノシン残基を付加するためのシグナルとして認識される配列である、ポリアデニル化配列であってもよい。選択された宿主細胞において機能する任意のポリアデニル化配列を、本発明において使用することができる。
【0082】
糸状菌宿主細胞にとって好ましいポリアデニル化配列は、アスペルギルス・オリザエ・TAKAアミラーゼ、アスペルギルス・ニガー・グルコアミラーゼ、アスペルギルス・ニジュランス・アントラニル酸合成酵素、フサリウム・オキスポラム・トリプシン様プロテアーゼ、及びアスペルギルス・ニガー・α-グルコシダーゼの遺伝子から得られる。
【0083】
前記制御配列は、ポリペプチドのアミノ末端に連結されたアミノ酸配列をコードし、かつコードされたポリペプチドを細胞の分泌経路へと指示する、シグナルペプチドコード領域であってもよい。核酸配列のコード配列の5’側は、分泌されたポリペプチドをコードしているコード領域のセグメントを伴う、翻訳リーディングフレームに天然に連結されたシグナルペプチドコード領域を本来含むことができる。あるいは、本コード配列の5’側は、コード配列に対し外来であるシグナルペプチドコード領域を含んでなる。外来シグナルペプチドコード領域は、本コード配列がシグナルペプチドコード領域を天然に含まない場合に、必要である。あるいは外来シグナルペプチドコード領域は、ポリペプチドの分泌を増強するために、天然のシグナルペプチドコード領域と簡単に置き換わることができる。しかし発現されたポリペプチドを選択された宿主細胞の分泌経路へ指示する任意のシグナルペプチドコード領域を、本発明において使用することができる。
【0084】
糸状菌宿主細胞のための有効シグナルペプチドコード領域は、アスペルギルス・オリザエ・TAKAアミラーゼ、アスペルギルス・ニガー・中性アミラーゼ、アスペルギルス・ニガー・グルコアミラーゼ、リゾムコール・ミエハイ・アスパラギン酸プロテイナーゼ、フミコラ・インソレンス(Humicola insolens)・セルラーゼ、及びフミコラ・ラヌギノーサ(Humicola lanuginose)・リパーゼの遺伝子から得られたシグナルペプチドコード領域である。
【0085】
前記制御配列は、ポリペプチドのアミノ末端に位置したアミノ酸配列をコードしているプロペプチドコード領域であることもできる。得られるポリペプチドは、プロ酵素又はプロポリペプチド(又は場合によってはザイモゲン)として公知である。プロポリペプチドは一般に、不活性であり、かつプロポリペプチドからのプロペプチドの触媒的又は自己触媒的切断により、成熟型活性ポリペプチドへ転換することができる。プロペプチドコード領域は、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)・アルカリプロテアーゼ(aprE)、バシラス・サブチリス・中性プロテアーゼ(nprT)、サッカロミセス・セレビシアエ・α-因子、リゾムコール・ミエハイ・アスパラギン酸プロテイナーゼ、及びミセリオフトーラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila)・ラッカーゼ(WO95/33836)の遺伝子から得ることができる。
【0086】
シグナルペプチド領域及びプロペプチド領域の両方がポリペプチドのアミノ末端に存在する場合、プロペプチド領域は、ポリペプチドのアミノ末端の隣に位置し、かつシグナルペプチド領域は、プロペプチド領域のアミノ末端の隣に位置する。
【0087】
発現ベクター
先に説明された様々な核酸配列及び制御配列は一緒に、そのような制限部位でプロモーター及び/又はポリペプチドをコードする核酸配列の挿入又は置換を可能にするために、1又は2以上の都合の良い制限部位を含み得る組換発現ベクターを作出することができる。あるいは、核酸配列は、核酸配列又は不能とされた翻訳イニシエーター配列を含んでなる核酸構築体及び/又は配列を、発現に適したベクターに挿入することにより、発現されてよい。発現ベクターの作出において、このコード配列は、コード配列が本発明の不能とされた翻訳イニシエーター配列及び1又は2以上の適当な発現のための制御配列と機能的に連結されるように、ベクター内に配置される。
【0088】
本組換発現ベクターは、好都合なことに組換DNA手法が施され、かつ核酸配列の発現をもたらすことができる、任意のベクター(例えばプラスミド又はウイルス)であってもよい。ベクターの選択は典型的には、それにベクターが導入される宿主細胞とベクターの適合性によって決まる。ベクターとしては、線状プラスミド及び閉環プラスミドが挙げられる。
【0089】
本ベクターは、自律複製ベクター、すなわち染色体外実体として存在するベクターであってもよく、その複製は染色体複製とは無関係であり、例えばプラスミド、染色体外要素、ミニ染色体又は人工染色体などである。ベクターは、自己複製を確実にするために、任意の手段を含んでよい。
本発明のベクターは、先に説明されたように形質転換された細胞の容易な選択を可能にする1又は2以上の選択マーカーも含む。
【0090】
自律複製について、本ベクターは更に、ベクターが問題の宿主細胞において自律的に複製することを可能にする、複製起点を含んでなる。特定の実施態様によれば、ARSは、先に説明されたようなAMA−1配列である。
【0091】
本発明の組換発現ベクターの構築のために先に説明された要素を連結するために使用される手法は、当業者に周知である(例えば、Sambrookら、1989, 前掲を参照のこと)。
【0092】
宿主細胞
本宿主細胞は、本発明の方法に有用な任意の真菌細胞である。本明細書において使用される「真菌」は、子嚢菌門(Ascomycota)、担子菌門(Basidiomycota)、ツボカビ門(Chytridiomycota)、及び接合菌門(Zygomycota)(Hawksworthらにより定義、「Ainsworth and Bisby’s Dictionary of The Fungi」、第8版、1995, CAB International, University Press, ケンブリッジ, 英国)に加え、卵菌門(Oomycota)(Hawksworthら, 1995, 前掲, 171頁に列記)及び全ての栄養胞子形成菌(Hawksworthら, 1995, 前掲)を含んでなる。
【0093】
好ましい実施態様によれば、真菌宿主細胞は、糸状菌細胞である。「糸状菌」は、下位分類真菌門(Eumycota)及び卵菌門の糸状形状全てを含んでなる(Hawksworthらにより定義された, 1995, 前掲)。糸状菌は、キチン、セルロース、グルカン、キトサン、マンナン、及び他の複合糖質(complex polysaccharide)で構成される菌糸壁により特徴付けられる。栄養生長は、菌糸伸長により、炭素異化作用は、偏性好気性である。対照的に、サッカロミセス・セレビシアエ等の酵母による栄養生長は、単細胞葉状体の出芽によって行われ、炭素異化作用は発酵性であってもよい。
【0094】
好ましい実施態様によれば、糸状菌宿主細胞は、限定されるものではないが、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、コプリナス属(Coprinus)、フサリウム属(Fusarium)、フミコラ属(Humicola)、ムコール属(Mucor)、マイセリオプソラ属(Myceliopthora)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)又はトリコデルマ属(Trichoderma)の種の細胞である。
【0095】
より好ましい実施態様によれば、糸状菌宿主細胞は、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・フォエチダス(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・ジャポニカス(Aspergillus japonicus)、アスペルギルス・ニジュランス、アスペルギルス・ニガー又はアスペルギルス・オリザエの細胞である。特定の実施態様によれば、アスペルギルス宿主細胞は、アスペルギルス・オリザエ又はアスペルギルス・ニガーである。別の最も好ましい実施態様によれば、糸状菌宿主細胞は、フサリウム・バクトリジオイデス(Fusarium bactriodioides)、フサリウム・セレアリス(Fusarium cerealis)、フサリウム・クロックウェレンズ(Fusarium crookwellense)、フサリウム・カルモラム(Fusarium culmorum)、フサリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)、フサリウム・グラミナム(Fusarium graminum)、フサリウム・ヘテロスポラム(Fusarium heterosporum)、フサリウム・ネグンジ(Fusarium negundi)、フサリウム・オキスポラム、フサリウム・レチキュラタム(Fusarium reticulatum)、フサリウム・ロセウム(Fusarium roseum)、フサリウム・サムブシウム(Fusarium sambucinum)、フサリウム・サルコクロウム(Fusarium sarcochroum)、フサリウム・スポロトリキオイデス(Fusarium sporotrichioides)、フサリウム・スルフレウム(Fusarium sulphureum)、フサリウム・トルロスム(Fusarium torulosum)、フサリウム・トリコテシオイデス(Fusarium trichothecioides)、又はフサリウム・ベネナタムの細胞である。特定の実施態様によれば、フサリウム属宿主細胞は、フサリウム・オキスポラムである。別の最も好ましい実施態様によれば、糸状菌宿主細胞は、フミコラ・インソレンス(Humicola insolens)、フミコラ・ラヌギノーサ(Humicola lanuginose)、ムコール・ミエハイ(Mucor miehei)、ミセリオフトーラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、ペニシリウム・プルプロゲナム(Penicillium purpurogenum)、チエラビア・テルレストリス(Thielavia terrestris)、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、又はトリコデルマ・ビリディ(Trichoderma viride)の細胞である。特定の実施態様によれば、宿主細胞は、トリコデルマ・リーセイである。
【0096】
最も好ましい実施態様によれば、フサリウム・ベネナタム細胞は、フサリウム・ベネナタムA3/5であり、これは当初フサリウム・グラミネアラムATCC20334として寄託され、かつ最近Yoder及びChristiansonの論文(Fungal Genetics and Biology, 23: 62-80 (1998))、並びにO’Donnellらの論文(Fungal Genetics and Biology, 23: 57-67 (1998))によりフサリウム・ベネナタムとして再分類され;加えて、それらがそれにより現在公知である種名に関わらず、フサリウム・ベネナタムの分類学上の同等物である。別の好ましい実施態様によれば、フサリウム・ベネナタム細胞は、WO97/26330に開示されたように、フサリウム・ベネナタムA3/5又はフサリウム・ベネナタムATCC20334の形態学的変異体である。
【0097】
真菌細胞は、それ自身公知の方法でのプロトプラスト形成、プロトプラストの形質転換、及び細胞壁の再生に関連したプロセスにより、形質転換され得る。アスペルギルス属宿主細胞の形質転換に好適な手法は、EP 238 023及びYeltonら, Proceedings of the National Academy of Sciences USA, 81: 1470-1474 (1984)に開示されている。フザリウム属の種を形質転換する好適な方法は、Malardierら, Gene, 78: 147-156 (1989)及びWO96/00787に開示されている。
本発明は、下記の実施例により更に説明される。
【実施例】
【0098】
材料及び方法
菌株
アスペルギルス・オリザエNBRC4177:発酵研究所(大阪)(大阪府大阪市淀川区十三浜町2丁目17−25、日本)から入手可能
アスペルギルス・オリザエJal355(amy-、alp-、NpI-、CPA-、KA-、pyrG)は、WO98/01470に開示のとおり、pyrG遺伝子が失活されたA.オリザエA1560の誘導体であり;形質転換プロトコールはWO00/24883に開示されている。
アスペルギルス・オリザエPFjo218(amy-、alp-、NpI-、CPA-、KA-、pyrG-、ku70-)は、実施例1に記載のとおりである。
アスペルギルス・オリザエPFjo220(amy-、alp-、NpI-、CPA-、KA-、pyrG-、ku70::PyrG)は、実施例1に記載のとおりである。
【0099】
プラスミド:
pENI2344は、WO2003/070956に実施例1に記載のとおりである。
pENI2155は、WO2003/070956に実施例1に記載のとおりである。
pIC19Hは、Marshらの論文(Gene, 32:481-485 (1984))に実施例1に記載のとおりである。
pJaL554は、特許WO2001068864、実施例8に実施例1に記載のとおりである。
pJaL925は、実施例4に実施例1に記載のとおりである。
pJaL575は、実施例1に実施例1に記載のとおりである。
pDV8は、特許WO0168864、実施例8に実施例1に記載のとおりである。
【0100】
遺伝子:
pyrG:この遺伝子は、ウリジンの生合成に関連した酵素である、オロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼをコードしている。
wA:この遺伝子は、胞子(分生子)色形成に関連した酵素である、ポリケチド合成酵素をコードしている。wA遺伝子の破壊は、白色の胞子色をもたらす。
【0101】
アスペルギルス・オリザエJaL355及びPFjo218の形質転換
16〜20時間齢の培養物を、Miraクロスで収集し、0.6MMgSO4で洗浄した。この菌糸を、10ml MgSO4、10mM NaH2PO4、pH5.8、50〜100mgグルカネックスを含んでなる、100mlプラスチックチューブに移した。BSA 12mgを添加し、この溶液を37℃で2時間、弱く振盪しながらインキュベーションした。プロトプラストを、Miraクロスを通して収集し、ST(0.6Mソルビトール、100mMトリス−Cl、pH7.0)5mlを、プロトプラストの上側に層として添加した。2500rpmで15分間遠心分離した後、境界面のプロトプラストを収集し、新たなチューブに移した。STC(1.2Mソルビトール、10mMトリス−Cl、pH7.5、10Mm CaCl2)の2容量を添加し、引き続き2500rpmで5分間遠心分離した。このプロトプラストを、STC 5mlで2回洗浄し、最後にSTC中に再浮遊させた。
【0102】
DNA約1〜4μgを、プロトプラスト100μlに添加し、引き続き60%PEG 4000の300μlを添加した。このプロトプラストを、室温で20分間インキュベーションし、引き続きソルビトール1.2mlで希釈し、2500rpmで10分間遠心分離した。この形質転換体を、ソルビトール100μl中に再浮遊させ、選択培地上に播種した(WO00/24883)。
【0103】
PCR増幅:
PCR増幅は全て、1.5mM MgCl2を含有するExpand High Fidelity緩衝液中、Expand High Fidelity PCR System(Roche社)1.75単位、DNA約1μg、dNTP各々250μM、及び先に説明した2種のプライマー各々10pmolを含有する、容量50μLで行った。
【0104】
増幅は、MJ Research PCT-220 DNA Engine Dyad(商標)Peltierサーマルサイクラーにおいて実行し、かつサイクルは、94℃で2分間、引き続き94℃で30秒、55℃で1分間、及び72℃で1.5分間を25サイクル、引き続き72℃で5分間の伸長時間からなった。
【0105】
リパーゼアッセイ:
リパーゼ活性についてアッセイされる形質転換体は、1×Vogel培地及び2%マルトースを含有する96ウェルマイクロタイタープレートに接種した(Methods in Enzymology, 17巻, 84頁)。34℃で4日間増殖した後、培養ブロスを、リパーゼ基質としてp−ニトロフェニル吉草酸(pnp−吉草酸)を用い、リパーゼ活性についてアッセイした。
【0106】
各ウェルからの培地のアリコート10μlを、リパーゼ基質0.018%p−ニトロフェニル吉草酸、0.1%Triton X(商標)−100、10mM CaCl2、50mMトリス(pH7.5)の200μlを含有するマイクロタイターウェルに添加した。リパーゼ活性は、標準の酵素学的プロトコール(例えば、Enzyme Kinetics, Paul C.Engel編集, 1981, Chapman and Hall社)を用い、キネチックマイクロプレートリーダー(Molecular Device社, サニーベール CA)を用い、5分間にわたり15秒間隔で、分光光度法でアッセイした。簡単に述べると、生成物形成は、基質転換の初速度の間に測定し、かつ5分間にわたり15秒毎の405nmでの吸光度から算出された曲線の勾配として定義する。形質転換体の各群に関して、平均値及び相対標準偏差を算出した。
【0107】
ゲノムDNA調製:
真菌菌糸(10ml YPD中で2日間増殖した後収集した)を、即時真空で乾燥し、菌糸を破砕した。溶解緩衝液1mlを添加し(溶解緩衝液:100mM EDTA、10mMトリス−pH8.0、1%TritonX 100、500mMグアニジウム−HCl、200mM NaCl)、混合し、RNAseA(10mg/ml)2μlを添加し、37℃で30分間インキュベーションした。プロテイナーゼK(20mg/ml)5μlを添加した。混合し、50℃で2時間インキュベーションした。20,000gで10分間遠心した。この上清をプラスミドスピンカップ(QIAprep(登録商標)Miniprepキット、Qiagen社より入手)に、キットプロトコールに従い加えた。100μl中にゲノムDNAを溶出した。
【0108】
実施例1
KU70欠失アスペルギルス・オリザエ株の構築
プライマー:
【表1】

【0109】
pDV8中の単独の制限エンドヌクレアーゼ部位BamHI及びBglIIを、各制限エンドヌクレアーゼによる切断を2回連続するラウンドにより除去し、フリー突出端を、クレノウポリメラーゼ及び4種のデオキシリボヌクレオチドによる処理により調製し(filled out)、ライゲーションし、プラスミドpJaL504を生じた。
【0110】
pJaL504から、2514bp断片を、プライマー172450及び172449(配列番号11及び12)を使うPCRにより増幅し、ベクターpCR(登録商標)4Blunt−TOPOにクローニングし、プラスミドpJaL575を生じた。
【0111】
pPFJo118は、プロモーターの余分なコピー(extra copy)が隣接したA.オリザエpyrG遺伝子を含んでなる1185bp HindIII−Asp718断片が、同じ部位にクローニングされた、pUC19(GenBank/EMBL寄託番号L09137)からなった(下記のpyrG+リピート配列の配列を参照)。KU70 3’側フランキング領域の1kbを、プライマー#315及び#316により、PCR増幅し、かつBD In-Fusion(商標)クローニングキット(BD Biosciences Clontech社)により、EcoRIで開環したpPFJo118へクローニングし、pPFJo209を生じた。KU70 5’側フランキング領域の1kbを、プライマー#313及び#314により、PCR増幅し、pCR(登録商標)4Blunt−TOPO(登録商標)ベクターへ挿入した(Initrogen社の配列決定用Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキットを使用する)。これより、KU70 5’末端をEcoRIで切断し、クレノウ断片を用い平滑化し(室温で30分間)、最後に正にKU70 5’末端断片について説明したように、HindIIIで開環し平滑化したpPFJo209へクローニングした。これは、pPFJo210プラスミドを生じた。pPFJo210を、NdeIで開環し、平滑化し、同じく平滑化されたHSV−tkカウンター選択カセットを含んでなるpJaL575由来のEcoRI−EcoRI断片へライゲーションし、これは最終のKU70欠損構築体pPFJo247を生じた。
【0112】
約40部(40×100μl)のJaL355を、BstXIで線状化したpPFJo247により形質転換した。形質転換体をヌクレオシドアナログ5−フルオロ−2’−デオキシウリジン(FDU)を含有するショ糖培地上で選択し、これはHSV−tkカセットからの発現は、FDUの存在下では細胞にとって致命的であるので、単独の交差のみ生じた形質転換体の除外(de-selection)を可能にする。19種の形質転換体が、形質転換後に出現し、かつこれらは全て、新たなショ糖+FDUプレート上で、37℃で10日間インキュベーションした後、再度単離した。これらの形質転換体から、ゲノムDNAを単離し、欠損のために使用したフランクの外側のゲノム領域中の1つのプライマー(#340)及びフランク間のpyrGマーカー中のプライマー(#126)を使用し、予備的PCRスクリーニングを行った。このPCRスクリーニングから、10種の形質転換体が、1114bpの右PCRバンドを生じ、かつこれらの10種の形質転換体は、サザンブロット解析により制御された。サザンブロットに関して、ゲノムDNAは、「材料及び方法」に説明したように調製した。ゲノムDNAは、XhoI−PvuI及びXhoI−BglIIにより消化し、プローブとしてKU70 3’末端を使用した場合に、正確なKU70欠損株について各々5417bp及び3448bpのバンドにハイブリダイズしているサザンブロット上のバンドを生じた(プライマー#315及び316を用いてPCR増幅し、1002bp生成物を生じた)。野生型ゲノムDNAは、各々4659bp及び2142bpのバンドを生じた。試験した10種の形質転換体は全て、正確に破壊されたことが証明された。形質転換体#JaL355/pPFJo247−19を選択し、PFJo220と称した。pyrG遺伝子がループから外れた(looped out)株を選択するために、この形質転換体を傾斜培地上に画線し、そこから胞子溶液(spore solution)を用いて洗浄し、粘稠な胞子浮遊液を5−FOA−プレート(5−フルオロオロチン酸を含有する)上に蒔き、ku70欠失及びpyrG-株が残留した。1つのそのような株を単離し、PFJo218と称した。
【0113】
実施例2
JaL355及びPFjo218におけるリパーゼの発現
アスペルギルス属株Jal355及びPfjo218は両方とも、説明されたようにpENI2344により形質転換した。pENI2344は、WO2003/070956(実施例2)に詳細に開示されており、かつレポーター遺伝子としてリパーゼ遺伝子を、及び選択マーカーとしてpyrGを含んでなる。pENI2344上のpyrG遺伝子は、点突然変異T102Nを含み、コピー数の増大を生じた。
【0114】
各株由来の11種の形質転換体を、200μl培地(1×vogel、2%マルトース)に接種した。34℃で4日間増殖した後、この接種材料をプレートに移し、37℃で3日間増殖し、各株の11種の形質転換体を、200μlの酵母ペプトン+2%マルトース中に接種し、34℃で4日間増殖した。
【0115】
10μl培地を、先に説明されかつWO2003070956に開示されたように、リパーゼ基質pnp−吉草酸を用いて、アッセイした。結果は、11種の独立したJaL355アスペルギルス形質転換体のリパーゼ発現レベル間の相対標準偏差34%を示した。11種の独立したPFjo218形質転換体のリパーゼ発現レベルの相対標準偏差は、わずかに18%であった。これは、ku70遺伝子の欠損/失活によって、発現レベルが均一になることを示しており、このことは遺伝子変種ライブラリーのスクリーニングにおいて望ましい。
【0116】
実施例3
JaL355及びPFjo218におけるリパーゼの発現
アスペルギルス・オリザエ株JaL355及びPFjo218は両方とも、リパーゼレポーター遺伝子を含んでなるプラスミドpENI2155により形質転換した。
【0117】
プラスミドpENI2155は、pyrG遺伝子の上流に不能とされたコザック領域を含み、WO2003/070956(実施例1)に開示されたように構築される。このプラスミドは、pyrG遺伝子が野生型であること以外は、基本的にpENI2344と同じである。この構築体に関する詳細は、WO2003/070956(実施例1)に認めることができる。
【0118】
各株由来の約10種の形質転換体を、200μl培地(2%マルトース+YP)に接種した。34℃で4日間増殖した後、この培養培地をリパーゼ活性についてpnp−吉草酸を用いアッセイした。この接種材料は、プレートへ移し、37℃で3日間増殖した。
【0119】
合計14日増殖した後に、リパーゼアッセイの2回目を繰り返した。各株由来の約10種の形質転換体を、200μlの酵母ペプトン+2%マルトースに接種し、34℃で3日間増殖した。34℃で4日間増殖した後、この培養培地をリパーゼ活性についてpnp−吉草酸を用いアッセイした(WO2003070956)。この接種材料は、プレートへ移し、37℃で3日間増殖した。
【0120】
最後に、合計21日増殖した後に、リパーゼアッセイの3回目を繰り返した。各株由来の約10種の形質転換体を、200μlの酵母ペプトン+2%マルトースに接種し、34℃で4日間増殖した。34℃で4日間増殖した後、この培養培地をリパーゼ活性についてpnp−吉草酸を用いアッセイした(WO2003070956)。
【0121】
結果:
リパーゼアッセイからの発現データを、下記表に示している。ku70欠失株を使用した場合に、低い相対標準偏差が存在することは、明らかである。変種ライブラリーをスクリーニングする場合には、発現レベルにおけるこの低い相対標準偏差が望ましい。
【0122】
【表2】

【0123】
実施例4
KU70欠失株におけるNHR/HR頻度の決定
相同組換に関するKU70株バックグラウンドの挙動を試験するために、異なる容易に選択可能な標的を、試験ケースとして選択することができる。標的としては以下が挙げられる。wA−破壊された場合に、雪白色スポットを生じる;adeB−破壊された場合に、赤色菌糸体を生じる;及び、niaD−唯一の窒素由来源として硝酸を含んでなるプレート上での増殖不能を生じるのに対し、全ての株は、唯一の窒素由来源としての亜硝酸の上で増殖した。wAに関する結果は、下記表に示している。
【0124】
A. アスペルギルス・オリザエwA欠損プラスミドpJaL925の構築
プラスミドpJaL901は、pIC19H内にwA遺伝子をコードしているA.オリザエNBRC4177由来の4658bp BgllI断片(配列番号13)を含んでなる。プラスミドpJaL901を、Asp718及びSnaBIで消化し、かつ5501bp断片を精製した。pJaL554由来のpyrG選択マーカーに隣接したリピート配列を、2027bp Asp718−SmaI断片として精製した。これら2種の断片はライゲーションし、プラスミドpJaL925を生じた。これによりpyrG遺伝子は、wA遺伝子のコード部分1861bp Asp718−SnaBIと交換し、従ってpyrG遺伝子は、wAの5’末端の685bp断片及びwA.の3’の2105bp断片に隣接している。
【0125】
B. JaL355及びPFJo218のpJaL925による形質転換
JaL355及びPFJo218は、先に説明されたように、pJaL925により形質転換した。下記の表に示された結果は、KU70欠失株におけるNHRの減少を明確に示す。
【0126】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心対象の組換ポリペプチドを産生する方法であって:
a)1又は2以上の関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドライブラリーを提供する工程であって、前記ライブラリーが、少なくとも
i)選択マーカーをコードするポリヌクレオチド、
ii)真菌の複製開始配列、好ましくは自律複製配列(ARS)、及び
iii)真菌細胞由来のプロモーター、ライブラリーのクローニング対象となるクローニング部位、及び転写ターミネーターを、この順に含んでなるポリヌクレオチド
を、要素として含んでなる発現クローニングベクターにおいて調製される工程:
b)前記ライブラリーで、親糸状菌宿主細胞の変異体を形質転換する工程であり、前記変異体における非相同組換の頻度が、親と比べ低下している工程;
c)工程(b)で得られた形質転換宿主細胞を、ポリヌクレオチドライブラリーの発現に適した条件下で培養する工程;並びに
d)関心対象のポリペプチドを産生する形質転換宿主細胞を選択する工程:を含んでなる方法。
【請求項2】
前記変異糸状菌宿主細胞が、ku70、ku80、rad50、mre11、xrs2、lig4、sir4、又はそれらの機能同等物からなる群より選択される遺伝子座において修飾されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝子座が、ku70又はku80、又はそれらの機能同等物である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ARSが、AMA1配列又はそれらの機能性誘導体である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
マーカー−コード配列の翻訳開始起始点が、下記配列を含み:
N YNN ATG (ATGは太字)
ここで−3位の「Y」はチミジン(ウリジン)であり、「N」は任意のヌクレオチドであり、前記数値は、マーカーの開始コドン「ATG」(太字)の最初のヌクレオチドを基準に表示される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記配列が、−1、−2、及び−4位の1又は2以上において、チミジン(ウリジン)を更に含んでなる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
工程(i)の選択マーカーが、amdS、argB、bar、hygB、niaD、pyrG、sC、及びtrpCからなるマーカーの群より選択される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
工程(i)の選択マーカーが、pyrG又はその機能性誘導体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
工程(i)の選択マーカーが、1又は2以上のアミノ酸の置換を含んでなるpyrGの機能性誘導体であり、好ましくは、前記誘導体がアミノ酸置換T102Nを含んでなる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
工程(ii)の真菌複製開始配列が、配列番号1又は配列番号2に記載の核酸配列を含んでなるか、又はそれらの機能性誘導体であり、好ましくは、前記誘導体が配列番号1又は配列番号2と少なくとも80%同一である、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
工程(iii)のプロモーターが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来の中性アミラーゼコード遺伝子(NA2)のプロモーターである、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記プロモーターが、NA2tpiプロモーターである、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
工程(iii)の転写ターミネーターが、アスペルギルス・ニガー由来のグルコアミラーゼコード遺伝子(AMG)からのターミネーターである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記糸状菌宿主細胞が、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、コプリナス属(Coprinus)、フサリウム属(Fusarium)、フミコラ属(Humicola)、ムコール属(Mucor)、マイセリオプソラ属(Myceliopthora)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)又はトリコデルマ属(Trichoderma)である、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)、コプリナス・シネレウス(Coprinus cinereus)、フサリウム・オキスポラム(Fusarium oxysporum)、又はトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)の種である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
関心対象のポリペプチドが、酵素、酵素変種、又はそれらの機能性誘導体である、請求項1〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記酵素又は酵素変種が、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、脱離酵素、異性化酵素又はリガーゼである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記酵素又は酵素変種が、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、シクロデキストリングリコシル基転移酵素、デオキシリボヌクレアーゼ、エステラーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼ、インベルターゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、マンノシダーゼ、ムタナーゼ、オキシダーゼ、ペクチン分解酵素、ペルオキシダーゼ、フィターゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、タンパク質分解酵素、リボヌクレアーゼ、トランスグルタミナーゼ、又はキシラナーゼである、請求項16又は17記載の方法。
【請求項19】
関心対象のポリペプチドが、ホルモン又はホルモン変種又はそれらの機能性誘導体、受容体又は受容体変種又はそれらの機能性誘導体、抗体又は抗体変種又はそれらの機能性誘導体、又はレポーターである、請求項1〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
関心対象のポリペプチドが、異種ポリペプチドである、請求項1〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記糸状菌宿主細胞が、アスペルギルス・オリザエ又はアスペルギルス・ニガーから選択される、請求項14記載の方法。
【請求項22】
工程(d)の後、関心対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、工程(d)の選択された形質転換宿主細胞から単離される、請求項1〜21のいずれか一項記載の方法。

【公表番号】特表2010−525830(P2010−525830A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506930(P2010−506930)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055638
【国際公開番号】WO2008/138835
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】