説明

関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法、並びにその利用

【課題】本発明は、新たな関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法、並びにその利用を提供する。
【解決手段】本発明において、体内時計遺伝子の発現量の異常は、関節リウマチを発症させる原因となるc-fos遺伝子およびWee1キナーゼの発現に影響を与え、その結果、関節リウマチを発症させることを明らかにした。この知見を基づき、生体から分離した試料を用いて、体内時計遺伝子の発現を評価し、その体内時計遺伝子の発現を指標として関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性を判定する方法を確立した。本発明によれば、関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性を、簡便かつ客観的に判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法、並びにその利用に関するものであって、特に、関節リウマチの発症に関連する遺伝子の発現量を測定することにより関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性を判定する方法、並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(rheumatoid arthritis、以下「RA」ともいう)は、多発するびらん性関節炎を主な特徴とするが、同時に多臓器を障害する原因不明の全身性炎症疾患である。RAは寛解と増悪とを繰り返しながら慢性に進行し、無治療で放置すると関節の破壊や変形を来し、やがて運動器の機能障害を呈してくる。
【0003】
RAの原因である関節炎と関節破壊の様相、特にそれらの病理過程は、種々の研究を通じて次第に明らかになりつつあるが、RAは生活環境を含めた多数の原因因子が重なり合ってはじめて疾患へと発展・増悪する疾患である。そのため、疾患の正しい解明と適切な診断や治療とを行うには、多因子相互作用の本体そのものが明らかにされなければならない。
【0004】
このような状況下において、近年、本発明者らは、RAの発症病因・病態を研究する中で、RAの病態の主軸にc-fos遺伝子の過剰活性化による関節滑膜細胞やTリンパ球の過剰活性化があることを明らかにした。具体的には、RAでは、c-fos遺伝子の発現が過剰であるため、p21waf1/cip1が低下して細胞は強く増殖することを明らかにした(非特許文献1を参照)。
【0005】
これとは別に、本発明者らは、c-fos遺伝子発現細胞を長い間培養していると、次第に4倍体の核をもつ細胞が増加し、その原因は、Wee1キナーゼの亢進であることを明らかにしている。
【0006】
一般に、細胞分裂開始の引き金は、mitosis promoting factor(以下、「MPF」ともいう)分子によって引かれる。MPFはサイクリンBとcdc2分子とからなる複合体である。MPFは、cdc2分子の15番目のチロシンがリン酸化されると不活性型となり、脱リン酸化されると活性型となって細胞分裂が始まる。上記Wee1キナーゼは、cdc2分子の15番目のチロシンをリン酸化するものである。
【0007】
また、上記c-fos遺伝子については、リンパ球などの増殖性細胞において、G1前期にimmediate early geneとしてごく短時間だけ一過的に転写されることが以前から知られている。しかし、なぜc-fos遺伝子がこの時期にだけ一過的に増減するのか、その生理学的な意義については不明であった。
【0008】
近年、本発明者らは、細胞分裂のG1前期にc-Fosタンパク質がwee1遺伝子のプロモーターに作用してWee1キナーゼの発現量を一過的に増加させる直接の転写シグナル経路が存在することを明らかにした(非特許文献2を参照)。これにより、c-fos遺伝子は、細胞を増殖に向かわせると同時に、Wee1キナーゼの発現量を増加させて細胞分裂を一過的に阻止することを明らかとなった。つまり、生体では、このようなメカニズムを有することにより、細胞がG1前期からS期にあって盛んにDNAを合成している時に、誤って細胞が分裂を起こさないように制御されているのである。
【0009】
しかし、RAではその病態として、上述したようにc-fos遺伝子が持続的に過剰発現している。したがって、c-fos遺伝子の発現の亢進に連動してwee-lキナーゼの発現も亢進することとなる。この結果、c-fos遺伝子の過剰発現の効果で細胞が過剰増殖するのに対して、Wee1キナーゼの発現活性化の効果によって細胞分裂が阻止されるという矛盾した、いわば腫瘍様の病態がRAにおいて見られることを本発明者はこれまでに独自に導き出しているのである。
【0010】
また、RAの病態には、ホルモン分泌異常が関与していることが知られている。その1つとして、視床下部−下垂体−副腎軸異常が挙げられる。これに関連して、本発明者らは、RA関節滑膜において、Urocortin(非特許文献3を参照)やACTH(非特許文献4を参照)が過剰発現されることを報告している。こういった事実は、RAの増悪因子として体内ホルモンバランスの異常が作用する可能性を示すものである。しかし、体内ホルモンバランスの異常のみがRAに特有の滑膜増殖や骨軟骨破壊を導くものではない。
【0011】
例えば、RAの滑膜病変の進行には関節滑膜の慢性炎症が必須であるが、その際、c-fos遺伝子やc-myc遺伝子といった癌原遺伝子が活性化され、炎症の遷延化に関与することが知られている。(非特許文献5を参照)。
【0012】
さらに、本発明者らは、c-fos遺伝子を過剰発現させたH2-c-fos遺伝子導入マウスにおいて実験的関節炎が重症化し、滑膜間葉系細胞にのみによる関節破壊が誘導されることを見出している(非特許文献6および7を参照)。
【0013】
また、本発明者らは、RA滑膜細胞においてc-fos遺伝子が転写因子activator protein-1(AP-1)として機能した結果、細胞因子調節因子であるWee1キナーゼの発現を直接制御することを明らかにしている(非特許文献8)。
【0014】
ところで、上述のWee1キナーゼは、体内時計遺伝子であるCry1遺伝子およびcry2遺伝子をノックアウトしたマウス(Cry1/2遺伝子ノックアウトマウス、以下「Cry1/2KOマウス」ともいう)では、過剰に発現していることが知られている(非特許文献9および10を参照)。
【0015】
上記体内時計遺伝子とは、体内時計を制御する遺伝子の総称である。体内時計は生物が地球の自転により起こる昼夜変化に適応するために獲得した基本形質であり、ヒトを含む哺乳類において特に発達している。体内時計のセンターは視床下部の小神経核である視交叉上核であるが、一方で皮膚をはじめ肝、腸管、腎などの臓器が個々に時計遺伝子を発現し、24時間周期の機能的変動を行う。
【0016】
生体リズムの研究は近年、時計遺伝子が相次いで報告されたため急速に進展している。上記Cry1遺伝子およびcry2遺伝子は、転写抑制因子として働く時計遺伝子である。Cry1遺伝子およびcry2遺伝子以外の時計遺伝子としては、現在までにClock遺伝子、BMAL1遺伝子、Per1遺伝子、Per2遺伝子、Per3遺伝子、およびカゼインキナーゼ遺伝子が報告されている。これらの遺伝子群は、互いにその発現を調節しながら作用して体内ホルモンの分泌や代謝に日内リズムをもたらす。
【0017】
上記Cry1/2KOマウスでは、さらに、暗環境(暗闇)においても活動と睡眠とを細切れに繰り返し、睡眠障害に基づく機能異常を表現する。視交叉上核からの時間シグナルは、神経系の特性を生かして視床下部の内分泌・自律神経系の諸核に出力される。また、脳からのびる交感神経・副交感神経は、直接また間接的に副腎を介して諸臓器に分布する細胞の時間シグナルを調節する。
【非特許文献1】Hikasa M, Yamamoto E, Kawasaki H, Komai K, Shiozawa K, Hashiramoto A, Miura Y, Shiozawa S. p21 is down-regulated in conjunction with up-regulation of c-Fos in the lymphocytes of rheumatoid arthritis patients. Biochem Biophys Res Commun 304:143-147, 2003.
【非特許文献2】Kawasaki H, Komai K, Ouyang Z, Murata M, Hikasa M, Ohgiri M, Shiozawa S. c-Fos/activator protein-1 transactivates wee 1 kinase at G1/S to inhibit premature mitosis in antigen-specific Th1 cells. EMBO J 20:4618-4627, 2001.
【非特許文献3】Kohno M, Kawahito Y, Tsubouchi Y, Hashiramoto A, 他8名Urocortin expression in synovium of patients with rheumatoid arthritis and osteoarthritis: relation to inflammatory activity. J Clin Endocrinol Metab. 2001 Sep;86(9):4344-52.
【非特許文献4】Miyazaki S, Yoshikawa T, Hashiramoto A, 他6名ACTH expression in synovium of patients with rheumatoid arthritis and Lewis rat with adjuvant arthritis. Mod Rheumatol 2002;12: 202-212.
【非特許文献5】Hashiramoto A, Sano H, 他8名C-myc antisense oligodeoxynucleotides can induce apoptosis and down-regulate Fas expression in rheumatoid synoviocytes. Arthritis Rheum. 1999 May;42(5):954-62.
【非特許文献6】Shiozawa S,他3名. Studies on the contribution of c-fos/AP-1 to arthritic joint destruction. J Clin Invest. 1997 Mar 15;99(6):1210-6.
【非特許文献7】Shiozawa S, Tanaka Y, Fujita T, Tokuhisa T. Destructive arthritis without lymphocyte infiltration in H2-c-fos transgenic mice. J Immunol 148:3100-3104, 1992.
【非特許文献8】Kawasaki H, Komai K, Nakamura M, Yamamoto E, Ouyang Z, Nakashima T, Morisawa T, Hashiramoto A, 他4名. Human wee1 kinase is directly transactivated by and increased in association with c-Fos/AP-1: rheumatoid synovial cells overexpressing these genes go into aberrant mitosis. Oncogene. 2003 Oct9;22(44):6839-44.
【非特許文献9】Okamura H, 他7名 Photic induction of mPer1 and mPer2 in cry-deficient mice lacking a biological clock.Science. 1999 Dec 24;286(5449):2531-4.
【非特許文献10】Matsuo T et al. Control mechanism of the circadian clock for timing of cell division in vivo. Science 302:255-259, 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
RAにおいて、その本体が不明な症状として、古くから、RA患者に特有の性格が知られている。この特有の性格については、これまで多くの心理学的・精神医学的分析が多くなされてきたが、その本体は未だ解明されていない。上記「RA患者に特有の性格」とは、疑り深く頑固で容易に妥協しないといった類のものである。
【0019】
ところで、上述したように、RAでは、Wee1キナーゼの過剰発現が見られる。このWee1キナーゼの過剰発現は、上述したようにRAにおける腫瘍様の病態を呈するのに寄与するが、RA患者に対して、その他どのような影響を及ぼすものであるかについては、全く知られていない。
【0020】
一方、上記Cry1/2KOマウスは、上述した特徴をもつことから、視交叉上核という神経核レベルの異常を起点に、睡眠障害と全身性に伝播される行動・ホルモン異常、さらに細胞周期調節因子(Wee1キナーゼ)異常を具現するモデルマウスと捉えることができる。
【0021】
本発明者らは、上記2つの知見、すなわち、(1)RAにおけるWee1キナーゼの過剰発現と、(2)睡眠障害をもつCry1/2KOマウスにおけるWee1キナーゼの過剰発現とから、RAにおいて、Wee1キナーゼが過剰発現することにより、睡眠異常という病態が現れることに起因して、上記のRA患者に特有の性格が形成される可能性があることを独自に考え出した。しかしながら、これまで、RA患者における不眠は、疼痛によるものと考えられており、RAと睡眠異常との関係を分子生物学的手法を用いて、生化学的に解析した研究例は全くない。
【0022】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、RAと睡眠異常との関係を生化学的に明らかにし、その知見を基づいて、新たな関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法、並びにその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、Cry1/2KOマウスは滑膜増殖を起こしやすい表現型を示し、重度の関節炎を発症するとともに、睡眠異常を引き起こすWee1キナーゼの活性上昇が見られることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、産業上有用な以下の発明を包含する。
【0024】
(1)生体から分離した試料を用いて、体内時計遺伝子の発現を評価する工程を含むことを特徴とする関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法。
【0025】
(2)体内時計遺伝子が、Cry1遺伝子、Cry2遺伝子、Clock遺伝子、BMAL1遺伝子、Per1遺伝子、Per2遺伝子、Per3遺伝子、およびカゼインキナーゼ遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子であることを特徴とする(1)に記載の関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法。
【0026】
(3)Wee1キナーゼの発現量を測定する工程をさらに含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法。
【0027】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法を実施するために用いるキットであって、体内時計遺伝子の発現量を測定するために用いるプライマー、プローブ、および抗体のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定キット。
【0028】
(5)さらに、Wee1キナーゼの発現量を測定するために用いるプライマー、プローブ、および抗体のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする(4)に記載の関節リウマチの発症またはその可能性の判定キット。
【0029】
(6)体内時計遺伝子に異常が見られ、Wee1キナーゼの発現量が過剰に上昇していることを特徴とする関節リウマチ発症モデル動物。
【0030】
(7)上記体内時計遺伝子の異常が、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子の破壊であることを特徴とする(6)に記載の関節リウマチ発症モデル動物。
【0031】
(8)Wee1キナーゼの発現量が過剰に上昇するように体内時計遺伝子を操作する工程を含むことを特徴とする関節リウマチ発症モデル動物の製造方法。
【0032】
(9)上記体内時計遺伝子の操作が、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子の破壊であることを特徴とする(8)に記載の関節リウマチ発症モデル動物の製造方法。
【0033】
(10)(6)または(7)に記載の関節リウマチ発症モデル動物に、被験化合物を投与する工程と、当該被験化合物を投与された関節リウマチ発症モデル動物における関節リウマチのマーカーを測定する工程とを含むことを特徴とする関節リウマチの治療薬剤のスクリーニング方法。
【0034】
(11)上記被験化合物が、Wee1キナーゼの発現を阻害することが期待される化合物またはWee1キナーゼの活性を阻害することが期待される化合物であることを特徴とする(10)に記載の関節リウマチの治療薬剤のスクリーニング方法。
【0035】
(12)睡眠障害を改善する物質を含有することを特徴とする関節リウマチの治療薬剤。
【0036】
(13)Wee1キナーゼの発現量を抑制することを特徴とする(12)に記載の関節リウマチの治療薬剤。
【発明の効果】
【0037】
本発明にかかる関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法は、以上のように、体内時計遺伝子の発現量を指標とするものである。それゆえ、簡便に、かつ客観的に関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性を判定できるという効果を奏する。
【0038】
また、本発明にかかる関節リウマチ発症モデル動物は、体内時計遺伝子が操作されることにより、Wee1キナーゼの発現量およびc-fos遺伝子の発現量が上昇しているため、関節リウマチを発症している。それゆえ、新たな関節リウマチの治療薬剤や、治療方法の開発に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明者らは、関節リウマチ(rheumatoid arthritis、以下「RA」ともいう)患者に見られる不眠症状は、疼痛によるものだけではなく、体内時計の異常により引き起こされることを独自に見出した。具体的には、本発明者らは、これまでに、RA患者では、c-fos遺伝子の過剰活性化により、Wee1キナーゼの発現が上昇することにより、関節滑膜細胞やTリンパ球が過剰活性化されることを見出していた。しかし、このWee1キナーゼの過剰発現が、RA患者において、そのほかにどのような症状を引き起こしているかについては全く知られていなかった。
【0040】
そこで、c-fos遺伝子の過剰活性化以外の方法で、Wee1キナーゼの過剰発現を誘導した実験動物を用いて、RAを発症するかを検証した。c-fos遺伝子の過剰活性化以外の方法として、本発明者らは、体内時計遺伝子であるCry1遺伝子およびCry2遺伝子を破壊する方法を用いた。
【0041】
マウスにおいて、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子を破壊すると、Wee1キナーゼが過剰発現し、睡眠障害を引き起こすことは知られていたが、RAを発症するか否かについては全く検討もなされていなかった。
【0042】
上記の検証の結果、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子を破壊したマウスにおいて、RAが発症されることが分かった。こうして、本発明者らは、これまで全く予測もされていなかった体内時計異常とRA発症との相関を明らかにし、本発明を完成させるに至った。
【0043】
以下、本発明の実施形態について、説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
<1.RAの発症またはその可能性の判定方法>
本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法は、生体から分離した試料を用いて、体内時計遺伝子の発現を評価する工程を含んでいればよく、その他の具体的な工程や、使用する器具および装置は特に限定されるものではない。
【0045】
本明細書において、上記体内時計遺伝子とは、体内時計を制御する遺伝子を意味する。また、上記「体内時計」とは、生物が地球の自転により起こる昼夜変化に適応するために獲得した基本形質を意味する。体内時計のセンターは視床下部の小神経核である視交叉上核である。一方で、皮膚をはじめ肝、腸管、腎などの臓器では個々に体内時計遺伝子が発現し、それら遺伝子が互いにその発現を調節しながら作用して体内ホルモンの分泌や代謝に日内リズムをもたらす。その結果として、生体内では、24時間周期の機能的変動が起こる。このような体内時計が正常でなくなると、睡眠障害等の症状が現れる。逆に言えば、睡眠障害がある場合、当該生物では、体内時計に異常がある可能性があると判断することができる。
【0046】
本発明において、上記体内時計遺伝子は特に限定されるものではなく、Cry1遺伝子、Cry2遺伝子、Clock遺伝子、BMAL1遺伝子、Per1遺伝子、Per2遺伝子、Per3遺伝子、およびカゼインキナーゼ遺伝子等を挙げることができる。本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法においては、上記例示したような体内時計遺伝子から、少なくとも1つ以上の遺伝子の発現量を測定すればよい。
【0047】
上記Cry1遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号NP_031797やNP_004066に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号NM_007771に登録されている塩基配列の584番目から2404番目までの塩基配列をオープンリーディングフレーム(以下、「ORF」ともいう)として有する遺伝子や、NCBIアクセッション番号NM_004075に登録されている塩基配列の587番目から2347番目までの塩基配列をORFとして有する遺伝子を例示することができる。
【0048】
また、上記Cry2遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号NP_034093やNP_066940に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号NM_009963に登録されている塩基配列の6番目から1784番目までの塩基配列をORFとして有する遺伝子や、NCBIアクセッション番号NM_021117に登録されている塩基配列の14番目から1795番目までの塩基配列をORFとして有する遺伝子を例示することができる。
【0049】
上記Clock遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号NP_031741やNP_004889に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号NM_007715に登録されている塩基配列の389番目から2956番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子や、NCBIアクセッション番号NM_004898に登録されている塩基配列の339番目から2879番目までの塩基配列をORFとして有する遺伝子を例示することができる。
【0050】
上記BMAL1遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号BAA19935に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号AB000812に登録されている塩基配列の41番目から1921番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子を例示することができる。
【0051】
上記Per1遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号NP_035195やNP_002607に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号NM_011065に登録されている塩基配列の226番目から4101番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子や、NCBIアクセッション番号NM_002616に登録されている塩基配列の188番目から4060番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子を例示することができる。
【0052】
上記Per2遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号NP_035196やNP_073728に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号NM_011066に登録されている塩基配列の145番目から3918番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子や、NCBIアクセッション番号NM_022817に登録されている塩基配列の123番目から3890番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子を例示することができる。
【0053】
上記Per3遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号NP_035197やNP_058515に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号NM_011067に登録されている塩基配列の358番目から3699番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子や、NCBIアクセッション番号NM_016831に登録されている塩基配列の176番目から3781番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子を例示することができる。
【0054】
上記カゼインキナーゼ遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号NP_001310に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号NM_001319に登録されている塩基配列の54番目から1301番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子を例示することができる。
【0055】
本発明にかかる体内時計遺伝子は、上記例示したものに限定されるものではなく、上記例示した遺伝子とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件でハイブリダイズし、かつ、上記例示した遺伝子の翻訳産物と同様の機能を有する翻訳産物を生じる遺伝子であってもよい。
【0056】
上記「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の具体的な例として、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、及び20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。また、上記ハイブリダイゼーションは、J.Sambrook et al. Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができ、特に限定されるものではない。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(ハイブリダイズし難くなる)。
【0057】
上記のような条件でハイブリダイズする遺伝子としては、一般的には、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在する遺伝子が挙げられる。
【0058】
本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法においては、上記のような体内時計遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子の発現を評価する工程を含んでいればよい。
【0059】
本明細書において、「X遺伝子の発現を評価する」とは、以下の(i)〜(v)の全てを含む意味である。
(i)X遺伝子の発現量を測定する。
(ii)X遺伝子の翻訳産物であるタンパク質の発現量を測定する。
(iii)X遺伝子の翻訳産物であるタンパク質に由来する活性量を測定する。
(iv)X遺伝子の変異の有無を調べる。
(v)X遺伝子の有無を調べる。
【0060】
以下、本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法について、より詳細に説明するが、本明細書において、「遺伝子の発現量」とは、当該遺伝子の転写量、すなわち、mRNA量を意味するだけではなく、当該遺伝子の翻訳産物であるタンパク質量をも含む意味で用いている。逆に、「タンパク質の発現量」についても、当該タンパク質の発現量に加えて、当該タンパク質をコードする遺伝子の発現量、すなわち、mRNA量をも含む意味で用いている。
【0061】
体内時計遺伝子の発現を評価する方法として、体内時計遺伝子の発現量を測定する方法を用いる場合、上記体内時計遺伝子の発現量の測定方法は、特に限定されるものではない。具体的には、上記体内時計遺伝子の発現量の測定方法は、mRNAレベルで当該体内時計遺伝子の発現量を測定する方法であっても、また、タンパク質レベルで上記体内時計遺伝子の発現量の測定する方法であっても、さらにその両方を測定する方法であってもよい。より具体的には、(A)体内時計遺伝子のmRNA(cDNA)を定量することにより、当該体内時計遺伝子の発現量を測定する方法、(B)体内時計遺伝子の翻訳産物であるタンパク質を定量することにより、当該体内時計遺伝子の発現量を測定する方法のいずれをも用いることができる。また、上記(A)および(B)の両方の方法で上記体内時計遺伝子の発現量を測定してもよい。そうすることにより、上記体内時計遺伝子の発現量をより正確に測定することができる。以下、上記(A)および(B)の方法について説明する。
【0062】
(A)mRNA(cDNA)を用いる方法
mRNAを利用する場合、例えば、被験者から採取した試料より抽出したmRNAまたは全RNAを用いて、ノザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイを用いた方法などにより当該体内時計遺伝子のmRNAを定量することができる。さらには、RT−PCR法等の遺伝子増幅技術を利用することができる。RT−PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニター法を用いることにより、本発明の遺伝子の発現について、より定量的な解析を行うことが可能である。
【0063】
上記PCR遺伝子増幅モニター法においては、両端に互いの蛍光を打ち消し合うことができる異なる蛍光色素で標識したプライマーを用い、検出対象(DNAもしくはRNAの逆転写産物)にハイブリダイズさせる。PCRが進んでTaqポリメラーゼの5'−3'エクソヌクレアーゼ(exonuclease)活性により上記プライマーが分解されると二つの蛍光色素が離れ、蛍光が検出されるようになる。この蛍光の検出をリアルタイムに行う。上記検出対象についてコピー数の明らかな標準試料についても同時に測定することにより、PCR増幅の直線性のあるサイクル数で目的試料中の検出対象のコピー数を決定する(Holland,P.M.et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7276-7280;Livak,K.J.et al.,1995,PCR Methods and Applications 4(6):357-362;Heid,C.A.et al.,Genome Research 6:986-994;Gibson,E.M.U.et al.,1996,Genome Research 6:995-1001を参照)。これにより、検出対象を定量することができる。PCR増幅モニター法においては、例えば、ABI PRISM7700(PEバイオシステムズ社)を用いることができる。
【0064】
上記プライマーは、特に限定されるものではなく、当該体内時計遺伝子のcDNAの塩基配列を利用して、従来公知の方法で設計すればよい。
【0065】
上記試料からmRNAまたは全RNAを抽出する方法は、特に限定されるものではなく、上記体内時計遺伝子を発現する生物学的試料(例えば、細胞、組織、生物個体等)などから、従来公知の方法を用いてmRNAまたは全RNAを抽出することができる。上記生物学的試料としては、具体的には、胸腺、肝、脾、および四肢関節周囲軟部組織を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
また、上記RT−PCRに用いるプライマーや、ノザンハイブリダイゼーション法やドットブロット法に用いるプローブを蛍光色素などにより標識する場合、その標識方法は特に限定されるものではない。例えば、DNAポリメラーゼIを用いるニックトランスレーション法、ポリヌクレオチドキナーゼを用いる末端標識法、クレノーフラグメントによるフィルイン末端標識法(Berger SL,Kimmel AR.(1987)Guide to Molecular Cloning Techniques,Method in Enzymology,Academic Press;Hames BD,Higgins SJ(1985)Genes Probes:A Practical Approach.IRL Press;Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T.(1989)Molecular Cloning:a Laboratory Manual,2nd Edn.Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照)、RNAポリメラーゼを用いる転写による標識法(Melton DA,Krieg,PA,Rebagkiati MR,Maniatis T,Zinn K,Green MR.(1984)Nucleic Acid Res.,12,7035−7056を参照)、放射性同位体を用いない修飾ヌクレオチドをDNAに取り込ませる方法(Krick a LJ.(1992)Nonisotopic DNA Probing Techniques.Academic Pressを参照)などを用いることができる。
【0067】
(B)タンパク質を用いる方法
被験者から採取した試料より抽出したタンパク質を用いる場合、分析対象となる体内時計遺伝子の翻訳産物であるタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、ウェスタンブロット法やELISA法などの従来公知の免疫化学的手法により当該タンパク質を定量することができる。また、分析対象となるタンパク質の活性を測定することにより、当該タンパク質を定量することができる。さらに、本発明はこれに限定されず、従来公知のあらゆる手法を用いて、当該タンパク質を定量することができる。このように、体内時計遺伝子の翻訳産物であるタンパク質を定量することで、上記体内時計遺伝子の発現量を測定することができる。
【0068】
また、試料からタンパク質を抽出する方法は、特に限定されるものではなく、上記タンパク質を含有する生物学的試料(例えば、細胞、組織、生物個体等)などから、当該タンパク質が分解されない条件下で、従来公知の緩衝液および装置、キット等を用いてタンパク質を抽出することができる。上記生物学的試料としては、具体的には、胸腺、肝、脾、四肢関節周囲軟部組織、末梢血リンパ球、および胸腺もしくは脾より採取したリンパ球を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
上記抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。また、上記抗体の取得方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ポリクローナル抗体は、抗原を感作した哺乳動物 の血液を取り出し、この血液から公知の方法により血清を分離することにより取得することができる。また、ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。さらに、必要に応じてこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離してもよい。
【0070】
また、モノクローナル抗体は、例えば、抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞などと細胞融合させて得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収することにより取得することができる。
【0071】
本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法においては、上記(A)および/または(B)に例示したような方法で、被験者における体内時計遺伝子の発現量を測定する。その後、その発現量を、同様の方法で測定した健常者の発現量と比較する。両者の間で有意な相違が見られた場合、当該被験者は、体内時計に異常がある可能性があると判定する。上述したように、体内時計の異常は、睡眠障害を引き起こし、RAを発症する可能性を示唆するものである。
【0072】
より具体的にいえば、上記体内時計遺伝子がCry1遺伝子またはCry2遺伝子である場合、これら遺伝子の発現量が健常者と比較して低下していれば、RAを発症している、もしくは将来発症する可能性が高いと判定することができる。また、上記体内時計遺伝子がPer1遺伝子、Per2遺伝子、またはPer3遺伝子である場合、これら遺伝子の発現量が健常者と比較して低下していれば、RAを発症している、もしくは将来発症する可能性が高いと判定することができる。さらに上記体内時計遺伝子がClock遺伝子またはBMAL1遺伝子である場合、これら遺伝子の発現量が健常者と比較して上昇していれば、RAを発症している、もしくは将来発症する可能性が高いと判定することができる。
【0073】
すなわち、本発明によれば、RAおよびRAの睡眠障害を現在発症しているか、もしくは将来的にRAおよびRAの睡眠障害を発症する可能性があると判定することができる。
【0074】
また、本発明では、体内時計遺伝子の発現を評価する方法として、体内時計遺伝子の変異の有無を調べる方法を用いることもできる。この場合の体内時計遺伝子の変異は、ゲノムDNA、mRNA(cDNA)、または翻訳産物であるタンパク質を用いて、従来公知の方法により調べることができる。
【0075】
具体的には、ゲノムDNAを用いる場合、例えば、アリル特異的オリゴヌクレオチドプローブ法、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(Oligonucleotide Ligation Assay)法、PCR−SSCP法、PCR−CFLP法、PCR−HPFA法、インベーダー法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、プライマーオリゴベースエクステンション(Primer Oligo Base Extension)法、タイリング・アレイ法、および変性勾配ゲル電気泳動法などを用いて変異の有無を調べることができる。上記ゲノムDNAは、常法により人体の全ての細胞より得ることが可能であるが、例えば、毛髪、各臓器、末梢リンパ球、滑膜細胞などから得ることができる。また、得られた細胞を培養し、増殖したものから得ることもできる。さらに、末梢血から得ることも可能である。
【0076】
得られたゲノムは、そのまま用いてもよいし、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法およびSDA(Strand Displacement Amplification)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅して用いてもよい。
【0077】
また、mRNAを用いる場合、例えば、被験者の細胞より抽出したmRNAから逆転写反応によってcDNAを作製し、上記遺伝子の領域を増幅後、増幅断片の塩基配列を直接シークエンスすることにより、またはDNAチップを用いることにより、あるいはRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法を用いることにより、体内時計遺伝子の変異の有無を決定することができる。
【0078】
また、被験者の細胞より調製したタンパク質を用いる場合、通常のタンパク質のシークエンス方法に準ずればよく、例えば、正常型もしくは変異型の体内時計タンパク質のみを認識する抗体を作製し、ELISA法で検出する方法、タンパク質を単離し、直接または必要に応じ、酵素等で切断し、プロテインシークエンサーを利用して変異を検出する方法、アミノ酸の等電点の変異を検出する方法および質量分析により質量の差を検出する方法が挙げられる。
【0079】
このように、体内時計遺伝子の発現を評価する方法として、体内時計遺伝子の変異の有無を調べる方法を用いる場合、体内時計遺伝子における変異が検出されれば、RAおよびRAの睡眠障害を現在発症しているか、もしくは将来的にRAおよびRAの睡眠障害を発症する可能性があると判定することができる。この場合、さらに、翻訳産物であるタンパク質の定量や活性を評価することにより、健常者と比較して、体内時計遺伝子の発現に異常がないか調べることが好ましい。これにより、判定精度をより高めることができる。
【0080】
例えば、Cry1遺伝子、Cry2遺伝子、Per1遺伝子、Per2遺伝子、またはPer3遺伝子に変異が検出され、その結果、これら遺伝子の発現量が健常者と比較して低下していれば、RAを発症している、もしくは将来発症する可能性が高いと判定することができる。また、Clock遺伝子またはBMAL1遺伝子に変異があり、その結果、これら遺伝子の発現量が健常者と比較して上昇していれば、RAを発症している、もしくは将来発症する可能性が高いと判定することができる。
【0081】
また、本発明では、体内時計遺伝子の発現を評価する方法として、体内時計遺伝子の有無を調べる方法を用いることもできる。具体的には、被験者のゲノムDNA上に、体内時計遺伝子が存在するかを従来公知の方法により調べることで、体内時計遺伝子の有無を調べることができる。体内時計遺伝子の欠損は、睡眠障害を引き起こし、RAを発症する可能性を示唆するものである。
【0082】
より具体的にいえば、Cry1遺伝子、Cry2遺伝子、Per1遺伝子、Per2遺伝子、またはPer3遺伝子が欠損している場合、RAおよびRAの睡眠障害を発症している、もしくは将来発症する可能性が高いと判定することができる。
【0083】
本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法は、さらに、Wee1キナーゼの発現量を測定する工程を含むことが好ましい。これにより、より精度よく、RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性を判定することができる。より具体的には、被験者において測定したWee1キナーゼの発現量を、同様の方法で測定した健常者におけるWee1キナーゼの発現量と比較する。その結果、両者の間で有意な相違が見られた場合、具体的には、被験者においてWee1キナーゼの発現量の上昇が見られた場合、当該被験者は、RAおよびRAの睡眠障害を現在発症しているか、もしくは将来的にRAおよびRAの睡眠障害を発症する可能性があると判定することができる。
【0084】
上記「Wee1キナーゼの発現量」には、Wee1キナーゼをコードするwee1遺伝子の転写レベルでの発現量、すなわちwee1遺伝子のmRNA量、およびWee1キナーゼのタンパク質レベルでの発現量、すなわちWee1キナーゼのタンパク質量の両方の意味が含まれる。つまり、上記「Wee1キナーゼの発現量を測定する」とは、Wee1キナーゼの転写レベルでの発現量およびタンパク質レベルでの発現量のいずれを測定するものであってもよい。また、転写レベルでの発現量およびタンパク質レベルの両方の発現量を測定するものであってもよい。これにより、Wee1キナーゼの発現量をより精度よく測定することができる。
【0085】
Wee1キナーゼの発現量を測定する方法は、特に限定されるものではなく、上述した体内時計遺伝子の発現量を測定する方法と同様の方法を用いることができる。
【0086】
また、上記wee1遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号NP_033542やNP_003381に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。より具体的には、NCBIアクセッション番号NM_009516に登録されている塩基配列の311番目から2251番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子や、NCBIアクセッション番号NM_003390に登録されている塩基配列の1142番目から3082番目までの塩基配列をORFとして有している遺伝子を例示することができる。
【0087】
さらに、本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法は、c-fos遺伝子の発現量を測定する工程を含むことが好ましい。これにより、さらに高精度にRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性を判定することができる。より具体的には、被験者において測定したc-fos遺伝子の発現量を、同様の方法で測定した健常者におけるc-fos遺伝子の発現量と比較する。その結果、両者の間で有意な相違が見られた場合、具体的には、被験者においてc-fos遺伝子の発現量の上昇が見られた場合、当該被験者は、RAおよびRAの睡眠障害を現在発症しているか、もしくは将来的にRAおよびRAの睡眠障害を発症する可能性があると判定することができる。
【0088】
上記「c-fos遺伝子の発現量」には、c-fos遺伝子の転写レベルでの発現量、すなわちc-fos遺伝子のmRNA量、およびc-fos遺伝子の翻訳産物であるタンパク質の発現量、すなわちc-fos遺伝子タンパク質の量の両方の意味が含まれる。つまり、上記「c-fos遺伝子の発現量を測定する」とは、c-fos遺伝子の転写レベルでの発現量およびタンパク質レベルでの発現量のいずれを測定するものであってもよい。また、転写レベルでの発現量およびタンパク質レベルの両方の発現量を測定するものであってもよい。これにより、c-fos遺伝子の発現量をより精度よく測定することができる。
【0089】
c-fos遺伝子の発現量を測定する方法は、特に限定されるものではなく、上述した体内時計遺伝子の発現量を測定する方法と同様の方法を用いることができる。
【0090】
また、上記c-fos遺伝子としては、例えば、NCBIアクセション番号CAA24756に登録されているアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0091】
本発明において、上記被験者は、特に限定されるものではないが、自覚症状として、睡眠障害、例えば、不眠を訴えている者や、関節炎を疑わせる症状を有する者であることが好ましい。さらに、本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法が適用される試料は、人体等の生体から分離された試料であればよく、上記例示されたものに限定されるものではない。
【0092】
<2.RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定キット>
本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定キット(換言すれば、RAの診断キット)は、上記体内時計遺伝子の発現量を測定するための試薬を少なくとも含んでいればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。上記体内時計遺伝子の発現量を測定するための試薬としては、例えば、プライマー、プローブ、および抗体などを挙げることができる。これらの試薬は、単独で含まれてもよく、また、複数の組み合わせで含まれていてもよい。さらに、上記判定キットは、上記例示する試薬に加えて、その他の試薬を組み合わせることによっても得ることができる。
【0093】
具体的には、mRNA(cDNA)または全RNAを用いて上記体内時計遺伝子の発現量を測定するキットとしては、上記体内時計遺伝子のcDNAの一部の領域を増幅できるように設計されたプライマーおよび/または上記体内時計遺伝子のmRNAに結合できるように設計されたプローブを含み、定量的RT−PCR法やノザンブロット法に用いられる試薬など、体内時計遺伝子の発現量を測定するために必要な試薬を1つ以上組み合わせたキットが挙げられる。なお、かかる試薬は、採用される検出方法に応じて適宜選択採用されるが、例えば、dATP、dUTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素等を挙げることができる。さらに、定量的RT−PCR法やノザンブロット法に用いることが可能な適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
【0094】
上記プライマーやプローブは、特に限定されるものではない。具体的には、上記プライマーは、上記体内時計遺伝子のcDNAの一部の領域を増幅できるものであればよい。また、上記プローブは、上記体内時計遺伝子のmRNAに結合できるように設計されたものであればよい。
【0095】
さらに、タンパク質レベルで上記体内時計遺伝子の発現量を測定するキットとしては、例えば体内時計遺伝子の翻訳産物であるタンパク質を認識する抗体を含むキットなどが挙げられる。
【0096】
また、上記判定キットには、Wee1キナーゼおよび/またはc-fos遺伝子の発現量を測定するために用いるプライマーや、プローブ、抗体が含まれることが好ましい。上記構成によれば、より精度よく、RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性を判定することができる。
【0097】
上述した判定キットを使用することにより、上記<1.RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法>の項で述べたように、RAの診断(発症または発症可能性の判定)を客観的かつ簡便に行うことができる
また、本発明にかかるRAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定キットが適用される被験者は、特に限定されるものではないが、自覚症状として、睡眠障害、例えば、不眠を訴えている者や、関節炎を疑わせる症状を有する者であることが好ましい。
【0098】
<3.RA発症モデル動物およびその製造方法>
本発明にかかるRA発症モデル動物は、体内時計遺伝子に異常が見られ、Wee1キナーゼの発現量が過剰に上昇し、RAを発症しているモデル動物である。
【0099】
本明細書において、「モデル動物」とは、ヒトの疾患に対する予防法または治療法を開発するために用いられる実験動物をいい、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、サル、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、イヌなどの非ヒト哺乳動物、およびその他の脊椎動物が挙げられる。
【0100】
上記体内時計遺伝子の異常とは、当該体内時計遺伝子の発現量の異常をもたらす体内時計遺伝子の異常であって、その原因は特に限定されるものではない。具体的には、体内時計遺伝子が破壊されることにより、体内時計遺伝子の発現量に異常が見られるモデル動物、いわゆる体内時計遺伝子のノックアウトモデル動物や、体内時計遺伝子に変異が導入された結果、体内時計遺伝子の発現量に異常が見られるモデル動物の変異体などが挙げられる。上記変異は、体内時計遺伝子の発現量を低下させる変異であっても、上昇させる変異であってもよい。
【0101】
上記変異とは、遺伝子の置換、欠失、挿入、あるいは付加を示すものである。本発明においては、当該体内時計遺伝子の翻訳産物であるタンパク質のアミノ酸配列に変異を導入するものであることが好ましい。また、別の形態としては、当該体内時計遺伝子の転写調節領域を変異させることにより、当該体内時計遺伝子の発現そのものを調節するものであってもよい。
【0102】
本発明にかかるRA発症モデル動物では、さらに、c-fos遺伝子の発現量が過剰に上昇していることが好ましい。このようなモデル動物では、Wee1キナーゼの過剰発現により細胞分裂が抑制され、かつc-fos遺伝子の発現量が過剰に上昇することにより細胞増殖が活性化されるので、モデル動物にRAを発症させることができる。
【0103】
上記体内時計遺伝子は特に限定されるものではなく、具体的には、上記<1.RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法>の項で例示したものを同様に挙げることができる。その中でも、上記体内時計遺伝子は、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子であって、上記体内時計遺伝子の異常は、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子の破壊であることが好ましい。すなわち、本発明にかかるRA発症モデル動物は、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子がともに破壊されたノックアウトモデル動物(以下、「cry1/2KOモデル動物」ともいう)であることが好ましい。
【0104】
後述の実施例においても実証しているように、cry1/2KOモデル動物では、c-fos遺伝子およびwee1遺伝子の発現が上昇する。つまり、c-fos遺伝子の発現の上昇により細胞増殖が活性化され、wee1遺伝子の発現の上昇により細胞分裂が抑制されるので、RAが発症する。
【0105】
上記体内時計遺伝子が、Per1遺伝子、Per2遺伝子、またはPer3遺伝子である場合、当該体内時計遺伝子の異常は、Per1遺伝子、Per2遺伝子、またはPer3遺伝子の発現を低下させる異常であることが好ましい。
【0106】
これによれば、wee1遺伝子の発現の上昇させることができ、その結果、当該モデル動物において、RAを発症させることができる。
【0107】
上記体内時計遺伝子がClock遺伝子またはBMAL1遺伝子である場合、上記体内時計遺伝子の異常は、Clock遺伝子またはBMAL1遺伝子が過剰発現する異常であることが好ましい。
【0108】
Clock遺伝子またはBMAL1遺伝子の過剰発現は、上記wee1遺伝子を活性化し、発現量を増加させることができる。これにより、当該モデル動物において、RAを発症させることができる。
【0109】
このようなRA発症モデル動物は、体内時計の異常に伴い、睡眠障害を起こしている。したがって、上記RA発症モデル動物を用いることにより、RA患者に対する睡眠改善治療がRAの病態に及ぼす影響を評価することができ、新たなRAの治療方法の開発に用いることができる。
【0110】
本発明にかかるRA発症モデル動物の製造方法は、Wee1キナーゼの発現量が過剰に上昇するようにモデル動物の体内時計遺伝子を操作する工程を含んでいればよく、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については、特に限定されるものではない。
【0111】
本明細書において、「モデル動物の遺伝子を操作する」とは、従来公知の遺伝子操作技術を用いて、モデル動物の遺伝子を操作するものであって、特に限定されるものではない。具体的には、モデル動物の遺伝子の遺伝子を破壊したり、当該遺伝子に変異を導入したり、さらには、当該モデル動物に外来遺伝子を導入したり、モデル動物を交雑したりすることをすべて包含する意味である。
【0112】
本発明において、モデル動物に特定の遺伝子を導入する方法としては、例えば、遺伝子と卵を混合してリン酸カルシウムで処理する方法;位相差顕微鏡下で前核期卵の核に、微小ピペットで遺伝子を直接導入する方法(マイクロインジェクション法、米国特許第4873191号);胚性幹細胞(ES細胞)を使用する方法;レトロウィルスベクターに遺伝子を挿入し、卵に感染させる方法;精子を介して遺伝子を卵に導入する精子ベクター法等を挙げることができる。上記精子ベクター法とは、精子に外来遺伝子を付着またはエレクトロポレーション等の方法で精子細胞内に取り込ませた後に、卵子に受精させることにより、外来遺伝子を導入する遺伝子組換え法である(M.LavitranoetらCell,57,717,1989を参照)。
【0113】
また、本発明にかかるRA発症モデル動物の製造方法において、モデル動物の体内時計遺伝子を破壊する場合の方法としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞ともいう)を用いて相同組換えを行い、一方の対立遺伝子を改変・破壊した胚性幹細胞を選別することにより、ノックアウト動物を製造する方法を用いることができる。より具体的には、受精卵に遺伝子を操作した胚性幹細胞を注入して、胚性幹細胞由来の細胞と胚由来の細胞が混ざったキメラ動物を得る。このキメラ動物と正常マウスとを交配することにより、一方の対立遺伝子の全てが改変・破壊されたヘテロ接合体を得ることができる。さらに、ヘテロ接合体同士を交配することにより、ホモ接合体を得ることができる。本発明にかかるRA発症モデル動物は、これらヘテロ接合体と、ホモ接合体とのいずれをも含むものである。
【0114】
上記用語「キメラ」とは、2個以上の受精卵に基づいた体細胞で形成される単一個体をいう。また、用語「相同組換え」とは、遺伝子組換え機構で塩基配列が同じ、または非常に類似している2つの遺伝子間で起こる組換えのことをいう。相同組換えを起こした細胞の選別は、従来公知の方法およびそれらの変法を用いて容易に行うことができる。例えば、挿入遺伝子の一部、および挿入が期待される領域の一部の配列をもとに設計したプライマーを用いて、PCRを行い、増幅産物が生じた場合には、その細胞で相同組換えを起こしていると判定することができる。また、胚性幹細胞で発現している遺伝子に相同組み換えを起こさせる場合には、導入遺伝子にネオマイシン耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を結合させておき、そのマーカー遺伝子を用いて相同組換えが起こった細胞を選択することができる。
【0115】
以上のように、本発明にかかるRA発症モデル動物の製造方法によれば、Wee1キナーゼの発現量が上昇するように、モデル動物の体内時計遺伝子を操作することにより、RAを発症したモデル動物を製造することができる。
【0116】
このようにして得られるRA発症モデル動物は、RAの治療薬剤のスクリーニングやRAの研究に利用することができる。したがって、抗RA薬の候補物質をスクリーニングするスクリーニング方法であって、RAのモデル動物に被験化合物を与える過程と、上記<1.RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法>の項に記載の判定方法により、上記モデル動物のRAが治癒または改善されたか否かを診断する過程と、上記モデル動物のRAが治癒または改善していることを指標として、上記被験化合物が抗RA薬の候補化合物であると判定する過程と、を備えるスクリーニング方法も本発明に含まれる。
【0117】
<4.RAの治療薬剤のスクリーニング方法>
本発明にかかるRAの治療薬剤のスクリーニング方法について、以下より詳細に説明する。
【0118】
本発明にかかるRAの治療薬剤のスクリーニング方法は、本発明にかかるRA発症モデル動物に被験化合物を投与する工程と、当該被験化合物を投与されたRA発症モデル動物におけるRAのマーカーを測定する工程とを含んでいればよい。つまり、上記RAの治療薬剤のスクリーニング方法によれば、RA発症モデル動物に被験化合物を投与し、当該被験化合物を投与されたRA発症モデル動物において、RAが治癒または改善していることを指標として、上記被験物質が抗RA薬の候補化合物であると判定することができる。
【0119】
上記被験化合物は、特に限定されるものではないが、Wee1キナーゼの発現を阻害することが期待される化合物またはWee1キナーゼの活性を阻害することが期待される化合物であることが好ましい。また、上記被験化合物は、睡眠を誘導する薬剤などのように、睡眠障害の治療に用いることができる薬剤であってもよい。
【0120】
このような被験化合物を本発明にかかるRA発症モデル動物に投与する方法は、特に限定されるものではなく、その被験化合物の物性等に応じて、それに適した方法を従来公知のものから選択して用いればよい。
【0121】
また、上記RAのマーカーとは、RAの診断や治療において、RAの発症や進行を判定するために用いられるマーカーを意味する。本発明において、上記RAのマーカーは、特に限定されるものではないが、例えば、上述した体内時計遺伝子、wee1遺伝子、またはc-fos遺伝子を挙げることができる。また、本発明においては、IL−1、IL−6、またはTNF−αのような炎症性サイトカインや、リウマトイド因子(以下、「RF」という)、抗ガラクトース欠損IgG抗体などをRAのマーカーとして用いることができる。
【0122】
上記RAのマーカーの測定方法は、特に限定されるものではなく、測定するRAのマーカーに種類に応じて、適宜従来公知の方法から選択することが好ましい。例えば、上述した体内時計遺伝子、wee1遺伝子、またはc-fos遺伝子をRAのマーカーとする場合、それら遺伝子の発現量は、<1.RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法>の項で述べた方法を用いて測定することができる。
【0123】
<5.RAの治療薬剤および治療方法>
本発明にかかるRAの治療薬剤は、睡眠障害を改善する物質を含有するものであればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。特に、Wee1キナーゼの発現量を抑制するものであることが好ましい。上記構成によれば、RA患者において、c-fos遺伝子の過剰発現により細胞が過剰増殖した場合であっても、細胞分裂が阻止されることがなく、RAにおける腫瘍様の病態の進行を抑制することができる。
【0124】
上記睡眠障害を改善する物質としては、睡眠導入薬を挙げることができる。より具体的には、ジアゼパム剤や、メラトニンとビタミンB12とを含む配合剤などを挙げることができる。
【0125】
また、本発明にかかるRAの治療薬剤は、<4.RAの治療薬剤のスクリーニング方法>の項で述べた方法を用いることにより、候補化合物から選抜することにより取得することができる。
【0126】
ところで、臨床適用のための治療薬剤の投与条件は、本明細書に記載したRAのモデル動物系を用いて決定することができる。すなわち、上記モデル動物を用いて投与量、投与間隔、投与ルートを含む投与条件を検討し、適切な予防または治療効果を得られる条件を決定することができる。このような治療薬剤は、RAに対する予防または治療のための医薬となる。
【0127】
また、治療薬剤は、薬学的に許容できる所望の担体と組み合わせて組成物とすることができる。担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、植物油、乳化剤、懸濁剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、徐放剤、他のタンパク質(BSAなど)、トランスフェクション試薬(リポフェクション試薬、リポソーム等を含む)等が挙げられる。さらに、使用可能な担体としては、グルコース、ラクトース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンのり、マグネシウムトリシリケート、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、ばれいしょデンプン、尿素などが挙げられる。
【0128】
製剤化する場合の剤型は制限されず、たとえば溶液(注射剤)、粉体、マイクロカプセル、錠剤などであってよい。投与は全身または局所的に行い得るが、全身投与による副作用や効果の低下がある場合には、局所投与することが好ましい。例えば本治療薬剤を徐放剤と組み合わせ、RAを呈する疾患部位を標的とするドラッグデリバリーにより効果的に治療を行うことが可能と考えられる。
【0129】
また、患者への投与は、特に限定されるものではなく、有効成分の性質に応じて、経口的に、または非経口的に行うことができる。経口的に投与する剤型としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、または懸濁剤等を選択することができる。非経口的な投与としては、例えば、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、もしくは脳室内への投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、非経口的に投与する剤型としては、例えば、注射剤、座薬、塗り薬等を挙げることができる。上記注射剤としては、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。投与は全身的または局所的にされ得るが、全身投与による副作用が問題となる場合には病変部位への局所投与が好ましい。投与量、投与方法は、治療薬剤の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0130】
また、本発明の治療薬剤は一般的に、総組成物の重量で0.1〜90%の治療薬物を含む。非経口投与では、1日当たり体重1kg当たり、0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜300mg、より好ましくは0.01mg〜100mgである。しかし、疾患状態、体重、及び治療に対する患者の個々反応、治療薬剤が投与される組成物の種類、および投与形態、病気の経過の段階または投与の間隔に依存して、これら投与速度は適宜調整する。したがって、上述した最小投与量より少なく使うことがときには適量であり、一方、他の場合には治療効果を得るために上限を越える必要がある。投与は1回〜数回に分けて行うことができ、1日あたり1〜5回投与することができる。
【0131】
対象となる個体は、例えばヒト、およびマウス、ラット、ウサギ、サルなどの非ヒト哺乳動物、およびその他の脊椎動物が挙げられる。非ヒト哺乳動物への適用は、ヒトRAに対する予防法または治療法を開発するためのモデルとする上でも有用である。これにより、例えばRAおよびRAの睡眠障害の発症を予防する新たな治療プロトコルを開発することができる。したがって、本発明には、本発明にかかる治療薬剤を、RA患者に睡眠障害を緩和する薬剤を投与することにより、Wee1キナーゼの発現を抑制することにより、RAを予防または治療するRAおよびRAの睡眠障害の予防または治療の方法が含まれる。
【0132】
なお本発明は、以上例示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術範囲に含まれる。
【実施例】
【0133】
本発明について、実施例および図1〜3に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0134】
〔実施例1:体内時計の破壊による関節炎の発症〕
7〜8週齢のマウス(野生型マウス、並びに、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子を破壊したマウス(以下、「Cry-/-マウス」ともいう))の腹腔内に関節炎惹起モノクローナル抗体カクテル(Chondrex社、商品コードNo.62200)を5mg投与し、四肢関節の腫脹を1〜4点のスコア化することにより関節炎の発症を評価した。観察は、関節炎カクテル投与後、4〜5週間後まで行った。
【0135】
野生型マウス、およびCry-/-マウスにおいて、関節炎の発症を比較したところ、Cry-/-マウスにやや強い関節炎誘導の傾向が見られた。すなわち、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子を破壊したマウスでは、関節炎を発症することが分かった。
【0136】
〔実施例2:関節炎におけるc-Fosタンパク質およびWee1キナーゼタンパク質の発現の上昇〕
関節炎発症後のマウスを屠殺し、肝臓より抽出したタンパク質におけるc-Fosタンパク質およびWee1キナーゼの発現量を、各タンパク質に対して特異的な抗体を用いて、ウェスタンブロット法により評価した。その結果、Cry-/-マウスにおいては、c-Fosタンパク質およびWee1キナーゼの発現が有意に強く誘導された。すなわち、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子を破壊したマウスでは、RAに見られるのと同様の現象が起こることが分かった。
【0137】
〔実施例3:体内時計の破壊による炎症性サイトカインの上昇〕
関節炎発症後のマウスを屠殺し、単離した脾細胞を抗CD3抗体(2μg/ml)および抗CD28抗体(5μg/ml)を用いて24時間刺激培養した。その後、培養上清を回収し、ELISA法により培養上清中のTNF−αを測定した。
【0138】
その結果、免疫の有無に関わらず、Cry-/-マウスの血清TNF−α値が有意に高かった。RAでは、TNF−αが上昇することから、本実施例の結果からも、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子を破壊したマウスでは、RAに見られるのと同様の現象が起こることが分かった。
【0139】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上のように、本発明では、体内時計遺伝子の発現量を指標として、RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性を判定することができる。それゆえ、RAおよびRAの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法や判定キットに代表される診断医療の分野だけでなく、保健医学分野に広く利用することができる。さらに、本発明では、上記体内時計遺伝子を用いてRA発症モデル動物を製造することができる。このようなRA発症モデル動物は、RAの治療薬剤や治療方法の開発に用いることができる。それゆえ、本発明は、製薬分野をはじめ、生命科学分野の産業に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の実施形態にかかるRA発症モデル動物における関節炎の発症を調べた結果を示す図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるRA発症モデル動物におけるc-Fosタンパク質およびWee1キナーゼタンパク質の発現を調べた結果を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるRA発症モデル動物における炎症性サイトカインを測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から分離した試料を用いて、体内時計遺伝子の発現を評価する工程を含むことを特徴とする関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法。
【請求項2】
体内時計遺伝子が、Cry1遺伝子、Cry2遺伝子、Clock遺伝子、BMAL1遺伝子、Per1遺伝子、Per2遺伝子、Per3遺伝子、およびカゼインキナーゼ遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法。
【請求項3】
Wee1キナーゼの発現量を測定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定方法を実施するために用いるキットであって、
体内時計遺伝子の発現量を測定するために用いるプライマー、プローブ、および抗体のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする関節リウマチおよび関節リウマチの睡眠障害の発症または発症可能性の判定キット。
【請求項5】
さらに、Wee1キナーゼの発現量を測定するために用いるプライマー、プローブ、および抗体のうち、少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項4に記載の関節リウマチの発症またはその可能性の判定キット。
【請求項6】
体内時計遺伝子に異常が見られ、Wee1キナーゼの発現量が過剰に上昇していることを特徴とする関節リウマチ発症モデル動物。
【請求項7】
上記体内時計遺伝子の異常が、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子の破壊であることを特徴とする請求項6に記載の関節リウマチ発症モデル動物。
【請求項8】
Wee1キナーゼの発現量が過剰に上昇するように体内時計遺伝子を操作する工程を含むことを特徴とする関節リウマチ発症モデル動物の製造方法。
【請求項9】
上記体内時計遺伝子の操作が、Cry1遺伝子およびCry2遺伝子の破壊であることを特徴とする請求項8に記載の関節リウマチ発症モデル動物の製造方法。
【請求項10】
請求項6または7に記載の関節リウマチ発症モデル動物に、被験化合物を投与する工程と、
当該被験化合物を投与された関節リウマチ発症モデル動物における関節リウマチのマーカーを測定する工程とを含むことを特徴とする関節リウマチの治療薬剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
上記被験化合物が、Wee1キナーゼの発現を阻害することが期待される化合物またはWee1キナーゼの活性を阻害することが期待される化合物であることを特徴とする請求項10に記載の関節リウマチの治療薬剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
睡眠障害を改善する物質を含有することを特徴とする関節リウマチの治療薬剤。
【請求項13】
Wee1キナーゼの発現量を抑制することを特徴とする請求項12に記載の関節リウマチの治療薬剤。



【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−174952(P2007−174952A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375979(P2005−375979)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(504156706)株式会社膠原病研究所 (13)
【Fターム(参考)】