説明

関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物

【課題】関節リウマチに対する治療効果(炎症抑制効果)に優れ、患者等への体力的、精神的及び経済的な負担を低減させ得る、関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物を提供する。
【解決手段】本発明の関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物は、有効成分として水素含有水を含むことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性を有する機能性水、特に関節リウマチの治療効果(炎症抑制効果)を有する機能性水に関するものである。具体的には、水素含有水を含む関節リウマチの治療及び/又は予防用の医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、関節リウマチ治療法としては、ステロイドホルモンの投与や、TNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)阻害剤としての抗体医薬の投与が行われている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、ステロイドホルモンは、長期の使用によって関節骨組織の破壊を引き起こし、患者の短命化につながるという問題があった。また、抗体療法は、TNF-αが腫瘍細胞壊死因子であるため、その機能を阻害する結果、悪性腫瘍の発生が危惧され、しかも医療費が高額であるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】1240904497161_0et al., Anti-TNF Antibody Therapy in Rheumatoid Arthritis and the Risk of Serious Infections and Malignancies, JAMA (the Journal of the American Medical Association), vol. 295, p. 2275-2285, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、関節リウマチに対する治療効果(炎症抑制効果)に優れ、患者等への体力的、精神的及び経済的な負担を低減させ得る、関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、従来公知であった水素含有水について改めてその医学的効果に着目したところ、関節リウマチに対する有効な治療効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)水素含有水を含むことを特徴とする、関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物。
上記(1)の医薬組成物は、例えば、関節リウマチ発症部位の滑膜細胞におけるインターロイキン-8の産生を抑制し得るものが挙げられる。
上記(1)の医薬組成物において、前記関節リウマチとしては、例えば、ヒト関節リウマチが挙げられる。
上記(1)記載の医薬組成物は、例えば、前記水素含有水の含有水素量が0.350ppm以上であるものや、前記水素含有水の酸化還元電位が-300mV以下であるものが挙げられる。
【0007】
(2)水素含有水を含むことを特徴とする、滑膜細胞におけるインターロイキン-8の産生抑制剤。
上記(2)記載の抑制剤において、前記滑膜細胞としては、例えば、関節リウマチ発症部位の滑膜細胞が挙げられる。
上記(2)記載の抑制剤において、前記関節リウマチとしては、例えば、ヒト関節リウマチが挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、関節リウマチに対する治療効果(炎症抑制効果)に優れ、患者等への体力的、精神的及び経済的な負担を低減させ得る、関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物を提供することができる。本発明の医薬組成物に用いられる水素含有水は、関節リウマチに対する治療効果、特にインターロイキン-8(IL-8)産生促進の顕著な抑制による優れた炎症抑制効果を有し、かつ、患者等への副作用が実質的に無く、しかも安価なものである点で、極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ヒト関節リウマチ患者由来滑膜細胞株の炎症因子IL-8産生に与える水素含有水の影響を評価した結果を示すグラフである。横軸は、当該滑膜細胞株を刺激したTNF-α濃度(μg/ml)、縦軸は、TNF-α刺激した当該滑膜細胞株からのインターロイキン-8(IL-8)生産量(生産濃度;pg/10,000 cells)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。

1.本発明の概要
関節リウマチの治療法としては、前述したように、ステロイドホルモンの投与や、TNF-α阻害剤としての抗体医薬の投与が行われているが、前者は、長期の使用によって関節骨組織の破壊を引き起こし、患者の短命化につながるという問題があり、後者は、TNF-αが腫瘍細胞壊死因子であるため、その機能を阻害する結果、悪性腫瘍の発生が危惧され、しかも医療費が高額であるという問題があった。
【0011】
ところで、水素含有水そのものは、従来より公知であり、その用途としては、例えば、耐糖能改善効果に伴う用途、すなわち糖尿病治療用途などが知られている。しかしながら、水素含有水が、関節リウマチの炎症を抑制し得る効果を有することを生理学的データ等の裏付けをもって示した先行技術(公知文献等)は見当たらない。
本発明者は、ヒト関節リウマチ患者由来の滑膜細胞株(MH7)に、関節リウマチの原因となるTNF-αを刺激すると炎症因子であるインターロイキン-8(IL-8)の産生が増大する(促進される)細胞培養実験系を構築し、この培養系に水素含有水を加えて培養したところ、各TNF-α濃度での刺激後の滑膜細胞株(MH7)は、いずれも、対照(水素含有水を加えなかったもの)と比較して、IL-8産生量が顕著に低減した。すなわち、本発明者は、水素含有水が、TNF-αを作用させたヒト関節リウマチ患者由来滑膜細胞においてIL-8産生促進を顕著に抑制するという、極めて優れた効果を有することを見出し、本発明を完成した。

2.医薬組成物
本発明の関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物は、前述したように、有効成分として水素含有水を含むことを特徴とするものであり、好ましくは、ヒト関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物である。
【0012】
本発明の医薬組成物に使用される水素含有水は、水素を含むものであり、水素溶存水、すなわち原水に水素が溶解している水溶液を意味する。ここで、原水とは、水道水、精製水、蒸留水、天然水、活性炭処理水、イオン交換水、純水、超純水など、公知のすべての水を意味する。また、原水に溶解している水素は、分子状水素であってもよいし原子状水素であってもよく、限定はされない。なお、原水が既に水素を含んだものである場合は、そのまま水素含有水として用いることができる。
【0013】
水素含有水の含有水素量は、常温常圧下(例えば25℃,1気圧下)で溶存可能な量には限定されず、飽和濃度を超える量であってもよいし、様々な圧力及び温度条件下で溶存可能な範囲の量であってもよい。具体的には、例えば、0.350ppm以上の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.450ppm以上の範囲である。上記含有水素量は、例えば、0.350〜1.50ppm、0.350〜1.33ppm、0.350〜1.00ppm、0.350〜0.500ppm、又は0.350〜0.450ppmの範囲であってもよい。含有水素量が上記範囲である場合、本発明の医薬組成物による関節リウマチの治療及び/又は予防作用が効果的に発揮される。
【0014】
水素含有水の酸化還元電位は、特に限定はされず、上記含有水素量と同様に、任意に設定することができるが、例えば-300mV以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは-350mV以下の範囲である。また、上記酸化還元電位は、例えば、-300〜-750mV、-300〜-700mV、-300〜-650mV、-300〜-605mV、又は-350〜-605mVの範囲であってもよい。酸化還元電位が上記範囲である場合、本発明の医薬組成物による関節リウマチの治療及び/又は予防作用が効果的に発揮される。
【0015】
水素含有水は、上述のように原水に水素が溶解しているものであればよく、その他の溶液物性については限定はされない。例えば、水素含有水が、酸性、中性及びアルカリ性のいずれであるかは、特に限定はされない。
【0016】
水素含有水の調製方法は、限定はされず、原水に水素を溶解させることができる公知のすべての方法を適用することができ、例えば原水に水素ガスをバブリングする方法等により製造することができる。
【0017】
本発明の医薬組成物は、上述した水素含有水のみからなるものであってもよいし、水素含有水以外に他の成分を含むものであってもよい。他の成分としては、当該医薬組成物の用法(使用形態)に応じて必要とされる製薬上の各種成分が挙げられ、例えば、薬学的に許容し得る各種担体や、各種ビタミン類、アミノ酸及び還元剤等が好ましく挙げられる。当該他の成分は、本発明の医薬組成物により発揮される治療及び予防効果が損なわれない範囲で適宜含有することができる。
【0018】
本発明の医薬組成物中、有効成分である水素含有水の配合割合は、限定はされず、関節リウマチの治療及び予防作用が効果的に発揮され得るよう、適宜設定することができる。
【0019】
本発明の医薬組成物は、ヒト又は非ヒト哺乳動物に対し、種々の投与経路、具体的には、経口又は非経口(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与)で投与することができる。従って、医薬組成物として、水素含有水を単独で用いることも可能であるが、投与経路に応じて慣用される方法により薬学的に許容し得る担体を用いて適当な剤形に製剤化することができる。
【0020】
好ましい剤形としては、液状である水素含有水を含有しうる剤形であれば限定はされず、経口剤では、例えば、シロップ剤及びカプセル剤等が好ましく挙げられ、非経口剤では、例えば、注射剤(点滴剤を含む)等が好ましく挙げられる。注射剤として使用する場合は、水素を生理食塩水に溶解させることが好ましい。
【0021】
これら製剤の製剤化に用い得る担体としては、例えば、通常用いられる賦形剤、着色剤、及び矯味矯臭剤のほか、必要に応じ、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、及び無痛化剤等が挙げられ、医薬品製剤の原料として用いることができる公知の成分を配合して、常法により製剤化することが可能である。
【0022】
本発明の医薬組成物に使用可能な無毒性の成分としては、例えば、大豆油、牛脂、及び合成グリセライド等の動植物油;流動パラフィン、スクワラン、及び固形パラフィン等の炭化水素;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルセルロース等の水溶性高分子;エタノール、及びイソプロパノール等の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、及びポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);グルコース、及びショ糖等の糖;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩;精製水等が挙げられ、いずれもその塩またはその水和物であってもよい。
【0023】
本発明の医薬組成物を非経口投与(例えば注射投与)する場合、その有効な投与量は、例えば、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、塩の種類、及び疾患の具体的な種類等に応じて異なり、限定はされないが、例えば、成人の場合は体重60kgの人で1日あたり200〜1,000mlを、それぞれ1回で又は複数回に分けて投与することができる。
【0024】
本発明の医薬組成物を経口投与する場合、その投与形態及び有効な投与量は、投与対象、投与経路、製剤の性質、患者の状態、及び医師の判断等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば、成人の場合は体重60kgの人で1日あたり300〜3,000ml、好ましくは500〜3,000mlを、それぞれ1回で又は複数回に分けて投与することができる。投与経路の効率が異なることを考慮すれば、必要とされる投与量は適宜広範に設定することができる。
【0025】
本発明の医薬組成物について、関節リウマチの治療及び予防効果の確認方法は、特に限定はされないが、例えば、関節リウマチ発症部位の滑膜細胞におけるIL-8の産生抑制を確認する方法等が好ましい。
【0026】
また本発明は、当該医薬組成物を患者に投与する、すなわち前述した水素含有水を患者に投与することを含む、関節リウマチ(好ましくはヒト関節リウマチ)の治療及び/又は予防方法を含むものである。さらに本発明は、関節リウマチ(好ましくはヒト関節リウマチ)の治療及び/又は予防用の水素含有水を含むものである。さらに本発明は、関節リウマチ(好ましくはヒト関節リウマチ)を治療及び/又は予防するための薬剤の製造のための水素含有水の使用を含むものである。
【0027】
また本発明は、水素含有水を含むことを特徴とする、滑膜細胞おけるIL-8の産生抑制剤を提供するものである。ここで、滑膜細胞としては、関節リウマチ発症部位の滑膜細胞が好ましく、より好ましくはヒト関節リウマチ発症部位の滑膜細胞であり、また、ヒト関節リウマチ患者由来の滑膜細胞であってもよい。当該抑制剤の詳細については、前述した本発明の医薬組成物と同様の説明が適用できる。
【0028】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
ヒト関節リウマチ患者由来滑膜細胞株MH7におけるTNF-α刺激下での炎症因子IL-8産生に対する、水素含有水の影響を調べるため、以下の手順で実験を行った。

1.試料細胞株の培養
ヒト関節リウマチ患者由来滑膜細胞株MH7を、75 cm2組織培養フラスコを用いて、37℃、95%Air及び5%CO2雰囲気のインキュベーター中で培養した。
【0030】
培養液には、10%牛胎児血清及び抗生剤(ペニシリン,ストレプトマイシン)を添加したRPMI-1640培地を用い、培養液は、週2〜3回交換した。細胞の継代は、トリプシン処理で細胞を回収し、同培地を用いて行った。
2.前処理(各TNF-α濃度による刺激)
上記1.で培養した培養細胞株MH7を、0.1〜0.5μg/ml濃度のTNF-αで刺激し、培養液を回収した。
3.培養(水素含有水の添加)
上記2.の前処理後の培養細胞株MH7について、上記1.で用いた培養液に代えて、当該培養液に水素含有水(含有水素量:0.350〜0.450ppm,酸化還元電位:-300〜-605mV)を加えた培養液を用い、37℃、95%Air及び5%CO2雰囲気のインキュベーター中で培養した。
【0031】
なお、上記1.で用いた培養液のまま交換せずに培養を継続した細胞株を、対照とした。
4.IL-8産生量(濃度)の測定
培養液中のIL-8量の測定は、IL-8に対する特異抗体ELISAキットを用い、当該キットに付属のマニュアル等に基づいて行った。その結果を図1に示した。
5.考察
図1に示す結果より、0.1、0.2及び0.5μg/mlの各濃度のTNF-αでの刺激によって増産したIL-8産生促進は、いずれも水素含有水存在下での培養により有意かつ顕著に抑制された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有水を含むことを特徴とする、関節リウマチの治療及び/又は予防用医薬組成物。
【請求項2】
関節リウマチ発症部位の滑膜細胞におけるインターロイキン-8の産生を抑制し得るものである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記関節リウマチがヒト関節リウマチである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記水素含有水の含有水素量が0.350ppm以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記水素含有水の酸化還元電位が-300mV以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
水素含有水を含むことを特徴とする、滑膜細胞におけるインターロイキン-8の産生抑制剤。
【請求項7】
前記滑膜細胞が関節リウマチ発症部位の滑膜細胞である、請求項6記載の抑制剤。
【請求項8】
前記関節リウマチがヒト関節リウマチである、請求項7記載の抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−260797(P2010−260797A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110590(P2009−110590)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】