説明

関節炎予防改善用物質

【課題】関節リウマチ、変形性膝関節症、腱鞘炎、肩関節周囲炎、屈腱炎または股関節炎である、関節炎症関連疾患または障害を改善するための物質及び組成物の提供。
【解決手段】関節炎の予防または改善作用を有する物質としてラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属およびワイセラ属に属する消炎性乳酸菌の破砕物を含み、かつ、抗炎症作用を有する既存の物質としてグルコサミンもしくはその塩、および、コンドロイチンもしくはその塩を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節炎予防改善用物質、具体的には消炎性乳酸菌の破砕物、あるいは消炎性乳酸菌とその破砕物、から本質的になる物質、ならびに該物質を含有してなる組成物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の乳酸菌株やビフィズス菌株の菌体やその発酵乳が炎症の改善、例えばアレルギーの抑制、炎症性腸疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患の改善に有効であることが報告されている(例えば、特許文献1〜12、非特許文献1)。乳酸菌摂取によるヒトでの関節炎改善作用について検証され報告されているが、実用に耐える活性ないしは有用性を示し、実際に応用されている例は少ない。例えば、乳酸菌摂取によるヒトでの有効性を示す文献では、乳酸菌の摂取量が多量であるもの、また、プラセボ対照、二重盲検、実験計画が不備な条件で評価されたものが多い(例えば非特許文献2および3)。さらに、乳酸菌摂取では関節炎は改善されないという報告もある(例えば非特許文献4)。これらを勘案すると、乳酸菌の関節炎改善効果は菌株特異的で選抜が必要であるか、そのままでは活性の発現が微弱である可能性が推察される。
【0003】
一方、近年は、食習慣の変化や運動不足、加齢に伴う筋力の低下や関節の炎症などのために、ロコモティブシンドロームが増加している。ロコモティブシンドロームの進行から寝たきりに移行する確率は高く、大きな社会問題となっている。これらの主要な疾患として変形性関節症および関節リウマチがある。しかしながら、既存のステロイドは言をまたず、非ステロイド系の抗炎症剤においても小腸障害のような副作用が大きな問題となっている(非特許文献5、特許文献10、13、14)。このような関節炎症を予防または治療するために、乳酸菌などの安全な免疫調節素材を活用し、経口摂取可能な実用的用量範囲内で有効な関節炎症を改善するための手段が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-269906号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/093313号パンフレット
【特許文献3】特表2006-519014号公報
【特許文献4】特表2005-537236号公報
【特許文献5】特表2005-536197号公報
【特許文献6】国際公開WO2008/105540号パンフレット
【特許文献7】特開2009-142266号公報
【特許文献8】特表2008-530034号公報
【特許文献9】特開2009-57346号公報
【特許文献10】特開2004-091433号公報
【特許文献11】特表2005-536197号公報
【特許文献12】特開2007-269737号公報
【特許文献13】特開2007-210993号公報
【特許文献14】特開2007-238581号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Int.Arch.Aller.Immunol. 54:236-245, 2011
【非特許文献2】Inflamm.BowelDis. 15(5):760-768, 2009
【非特許文献3】British J.Rheumatol. 37(3):274-281, 1998
【非特許文献4】Scand. J. Rheumatol. 32(4):211-215, 2003
【非特許文献5】日薬理誌 133:203-205, 2009年(日本)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乳酸菌やビフィズス菌に属する特定の細菌に関する炎症抑制効果は、それらに関する公開特許公報や学術論文など、特定の菌種・菌株において知られているが、消炎性の乳酸菌を選抜して応用し、より活性の高い乳酸菌素材を活用する視点での検討はきわめて少なく、経口投与(もしくは、摂取)での安全性の面から、依然として乳酸菌やビフィズス菌の抗炎症効果、特に関節炎に関する予防・治療効果への期待は大きい。これまでに、関節炎の改善に向けた乳酸菌の加工技術の開発の例はほとんどないし、また、乳酸菌と既存の抗炎症成分との相乗作用の利用について検討した例もほとんどない。
【0007】
このような状況のなかで、本発明者らは、消炎性乳酸菌体の加工や他の既存の抗炎症成分との相乗作用の利用による関節炎の改善作用の増強を目的に研究を実施してきた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、消炎性乳酸菌体の加工による関節炎の予防または改善作用を増強する物質、ならびに、該物質を含有する関節炎の予防・改善のための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、偶然にも乳酸菌の菌体を破砕することによって、被験者において関節炎の抑制、改善もしくは予防作用が有意に発現または増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
従って、本発明は以下のとおりである。
【0011】
(1) 下記の特性(a)および(b)を有する、かつ、被験者における関節炎の予防または改善作用を有する物質。
(a) 該物質が、消炎性乳酸菌を破砕して得られるものであり、破砕前の該乳酸菌に対して菌体破砕物を約5〜100質量%の割合で含む
(b) 該物質が、被験者においてIL-6の発現レベルを低減する作用を有する
(2) 上記破砕前の該乳酸菌に対して菌体破砕物が約20〜100質量%の割合で含む、上記(1)に記載の物質。
(3) 上記破砕物における菌体の各々の平均長径または表面積が破砕前の0〜90%である、上記(1)または(2)に記載の物質。
(4) 上記物質が、上記被験者におけるIL-6の発現レベルを、上記破砕物の使用前と比較して50%以下に低減する作用を有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の物質。
(5) 上記消炎性乳酸菌が、非消炎性対照物質摂取による関節炎モデル動物の脾臓組織での発現レベルを1としたとき、消炎性乳酸菌摂取による関節炎モデル動物の脾臓組織でのAdam15、Stat3およびCd40lgの発現レベルが、次の少なくとも1つの条件、すなわち
Adam15の発現:0.7未満
Stat3の発現:1.3以上
Cd40lgの発現:0.7未満
を満たす乳酸菌である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の物質。
【0012】
(6) 上記破砕物がさらに、上記被験者におけるFGF-basicの発現レベルを、該破砕物の使用前と比較して、低減させる作用をもつ、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の物質。
(7) 上記破砕物が、物理的破砕、薬品処理または酵素溶解により得られる、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の物質。
(8) 上記消炎性乳酸菌が、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属およびワイセラ属に属する細菌からなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の物質。
(9) 上記ラクトバチルス属に属する細菌が、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ガリナーラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルッキ サブスピーシーズ ブルガリカス、およびラクトバチルス・ジョンソニーからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(8)に記載の物質。
(10) 上記ビフィドバクテリウムに属する細菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーべ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム、およびビフィドバクテリウム・マグナムからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(8)に記載の物質。
【0013】
(11) 上記エンテロコッカスに属する細菌が、エンテロコッカス・フェカリス、およびエンテロコッカス・フェシウムからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(8)に記載の物質。
(12) ストレプトコッカス属に属する細菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ダイアセチラクチス、およびストレプトコッカス・フェカリスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(8)に記載の物質。
(13) ロイコノストック属に属する細菌が、ロイコノストック・メゼンテロイデス、およびロイコノストック・ラクティスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(8)に記載の物質。
(14) ラクトコッカス属に属する細菌が、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、およびラクトコッカス・ラフィノラクティスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(8)に記載の物質。
(15) ペディオコッカス属に属する細菌が、ペディオコッカス・ペントサセウス、およびペディオコッカス・ダムノサスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(8)に記載の物質。
【0014】
(16) ワイセラ属に属する細菌が、ワイセラ・チバリア、ワイセラ・コンフューザ、ワイセラ・ハロトレランス、ワイセラ・ヘレニカ、ワイセラ・カンドレリ、ワイセラ・キムチイ、ワイセラ・コレエンシス、ワイセラ・ミノール、ワイセラ・パラメセンテロイデス、ワイセラ・ソリ、ワイセラ・タイランデンシス、およびワイセラ・ビリデスセンスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、上記(8)に記載の物質。
(17) 上記(1)〜(16)のいずれかに記載の物質を含む、関節炎の予防または改善のための組成物。
(18) 抗炎症作用を有する既存の物質の少なくとも1種をさらに含む、上記(17)に記載の組成物。
(19) 上記抗炎症作用を有する既存の物質が、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン、脂肪酸、アミノ酸、またはそれらの塩、あるいはそれらの組み合わせ物である、上記(18)に記載の組成物。
(20) 上記組み合わせ物が、グルコサミンもしくはその塩、および、コンドロイチンもしくはその塩である、上記(19)に記載の組成物。
【0015】
(21) 上記関節炎が、関節リウマチ、変形性膝関節症、腱鞘炎、肩関節周囲炎、屈腱炎または股関節炎である、上記(1)〜(20)のいずれかに記載の物質または組成物。
(22) 上記(1)〜(16)のいずれかに記載の物質または上記(17)〜(21)のいずれかに記載の組成物を有効成分として含有する製品。
(23) 飲食品、飼料または医薬品である、上記(22)に記載の製品。
(24) 上記(1)〜(16)のいずれかに記載の物質または上記(17)〜(21)のいずれかに記載の組成物を飲食品、飼料または医薬品に配合することを含む、関節炎症関連疾患または障害を改善するための製品の製造方法。
(25) 上記(1)〜(16)のいずれかに記載の物質と、抗炎症作用を有する既存の物質の少なくとも1種とを配合することを含む、関節炎の予防または改善効果を増強するための方法。
【0016】
(26) 上記抗炎症作用を有する既存の物質が、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン、脂肪酸、アミノ酸、またはそれらの塩、あるいはそれらの組み合わせ物である、上記(25)に記載の方法。
【0017】
(27) 上記組み合わせ物が、グルコサミンもしくはその塩、および、コンドロイチンもしくはその塩である、上記(26)に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記のとおり、消炎性乳酸菌を破砕処理にかけて得られた菌体破砕物が、炎症、とりわけ関節炎の改善作用を増強する。この菌体破砕物を含有する物質は、安全性が高いうえに、炎症性サイトカイン、滑膜増殖因子などの炎症関連サイトカインを低減させることにより、また、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞の活性化を抑制することにより、自己免疫疾患の一種である関節リウマチ等の関節炎などの症状を、乳酸菌の菌体摂取と比べて有意に改善することができるという作用効果を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】乳酸菌の破砕処理前のインタクトの菌体(A)および破砕処理後の菌体(B)の電子顕微鏡写真を示す。破砕処理後、菌体が分断されて小さくなっていることがわかる。
【図2】アジュバント誘導関節炎ラットモデルにおける異なる炎症性乳酸菌の炎症抑制効果の違いを示すグラフである。炎症抑制効果は、ラットの左右後肢足蹠体積の減少を指標にして評価した。
【図3】アジュバント誘導関節炎ラットモデルにおける異なる炎症性乳酸菌の破砕による増強された炎症抑制効果を示すグラフである。菌体破砕物は「crushed」として表示されている。炎症抑制効果は、ラットの左右後肢足蹠体積の減少を指標にして評価した。
【図4】アジュバント誘導関節炎ラッとモデルにおけるLactobacillus acidophilus CL-92株の菌体破砕物(「crushed」)と既存の関節保護素材(グルコサミン(GlcNH2)および/またはコンドロイチン(Cdn))との相乗的炎症抑制効果を示すグラフである。炎症抑制効果は、ラットの左右後肢足蹠体積の減少を指標にして評価した。
【図5】アジュバント誘導関節炎ラットモデルにおけるLactobacillus gasseri CP2305株の菌体破砕物(「crushed」)と既存の関節保護素材(グルコサミン(GlcNH2)および/またはコンドロイチン(Cdn))との相乗的炎症抑制効果を示すグラフである。
【図6】リウマチ様関節炎マウスモデルにおけるLactobacillus acidophilus CL-92株の菌体摂取による経時的な炎症抑制効果を示すグラフである。炎症抑制効果は、ラットの左右後肢足蹠肥厚のサイズを指標にして評価した。
【図7】リウマチ様関節炎モデルにおける実験終了時の血漿FGF-basicならびに血漿IL-6濃度に及ぼすLactobacillus acidophilus CL-92株の菌体摂取の炎症抑制効果を示すグラフである。
【図8】リウマチ様関節炎ラットモデルにおける血漿IL-6濃度の経時変化に及ぼすLactobacillus acidophilus CL-92株の菌体摂取の効果の程度を示すグラフである。
【図9】リウマチ様関節炎ラットモデルにおけるLactobacillusrhamnosus SP1株の菌体摂取の効果の程度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
1.消炎性乳酸菌の破砕物
本発明は、消炎性乳酸菌の菌体を破砕することによって、乳酸菌の関節炎改善作用を発現または増強することができるという知見に基づいている。
【0022】
したがって、本発明は、その第1の態様において、下記の特性(a)および(b)を有する、かつ、被験者における関節炎の予防または改善作用を有する物質(この「予防または改善作用を有する物質」という用語は、「予防または改善剤」とも称することができる。)を提供する。
(a) 該物質が、消炎性乳酸菌を破砕して得られるものであり、破砕前の該乳酸菌に対して菌体破砕物を約5〜100質量%の割合で含む
(b) 該物質が、被験者においてIL-6の発現レベルを低減する作用を有する
【0023】
上記破砕前の該乳酸菌に対して菌体破砕物は、関節炎の改善のための有効割合として、約5〜100質量%、約8〜100質量%、約10〜100質量%、約15〜100質量%、約20〜100質量%、約30〜100質量%または約40〜100質量%、好ましくは約50〜100質量%または約60〜100質量%、さらに好ましくは約70〜100質量%、約80〜100質量%、または約90〜100質量%の割合で含む。改善効果は、菌体破砕物の割合が大きくなるほど高くなる傾向にあり、最も好ましい菌体破砕物の割合は約90〜100質量%である。
【0024】
本明細書で使用される「消炎性乳酸菌」という用語は、本発明では、炎症、とりわけ関節炎の抑制効果もしくは改善効果を示す乳酸菌であり、関節炎モデル動物(例えばラット、マウスなど)に乳酸菌(株)を投与し、炎症や免疫系に関わる因子の発現レベルを、例えば血中、関節滑液などの体液や、脾臓、パイエル板、関節などの組織で測定することによって消炎性乳酸菌を選抜することができる。具体的には、本発明で使用可能な消炎性乳酸菌は、非消炎性対照物質摂取による関節炎モデル動物の脾臓組織での発現レベルを1としたとき、消炎性乳酸菌摂取による関節炎モデル動物の脾臓組織でのAdam15(組織メタロプロテアーゼ)、Stat3(転写因子)及びCd40lg(Cd40リガンド)の発現レベルが、次の少なくとも1つの条件を満たす乳酸菌である。
【0025】
Adam15の発現:0.7未満(抑制)
(Adam15の発現は、好ましくは0.5未満、さらに好ましくは、0.25未満である。)
Stat3の発現:1.3以上(亢進)
(Stat3の発現は、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは、1.75以上である。)
Cd40lgの発現:0.7未満(抑制)
(Cd40lgの発現は、好ましくは0.5未満、さらに好ましくは、0.25未満である。)
【0026】
関節炎モデル動物の作製については、フロイントコンプリートアジュバントを、例えばラット、マウスなどの動物の後肢の足蹠皮内に注射することによってアジュバント関節炎を有するモデル動物を作ることができる。また、関節リウマチモデル動物は、動物においてIL-1Ra遺伝子を欠損またはノックアウトすることによって作製しうる(R. Horai et al, (2000). Development of chronic inflammatory arthropathy resembling rheumatoid arthritis in interleukin 1 receptor antagonist-deficient mice. J. Exp. Med , 191:313-320)。
【0027】
非消炎性対照物質は、消炎性がないことが判っている物質であればいずれでもよく、例えば、モデル動物の餌、非消炎性乳酸菌などが挙げられる。
【0028】
乳酸菌は、発酵によって糖類から乳酸を産生する細菌であり、その多くが高い安全性を有している。本発明で使用可能な消炎性乳酸菌は、上で定義した条件を満たすものであり、以下のものに限定されないが、例えばラクトバチルス(Lactobacillus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ワイセラ(Weissella)属などに属する細菌を包含する。本発明においてはまた、乳酸菌の菌体破砕物が関節炎改善作用を示すものであれば、当技術分野で公知の乳酸菌株を使用することができる。なお、動物への投与または摂取を考慮して、動物において安全性が確認されている菌株であることが好ましい。
【0029】
以下に、本発明で使用可能な消炎性乳酸菌の具体例を示す。
【0030】
ラクトバチルス属に属する乳酸菌は、グラム陽性桿菌であり、このような乳酸菌として、例えば、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・アシドフィラス、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ガリナーラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルッキ サブスピーシーズ ブルガリカス、およびラクトバチルス・ジョンソニーなどが挙げられる。
【0031】
ビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌は、グラム陽性の偏性嫌気性桿菌でありビフィズス菌とも称され、このような乳酸菌として、例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム、およびビフィドバクテリウム・マグナムなどが挙げられる。
【0032】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌は、グラム陽性球菌であり、このような乳酸菌としては、例えば、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・ヒラエ、およびエンテロコッカス・フェシウムが挙げられる。
【0033】
ストレプトコッカス属に属する細菌の中にはヨーグルトなどの発酵乳の生産を可能にする乳酸菌が知られており、このような乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ダイアセチラクチス、ストレプトコッカス・フェカリスなどが挙げられる。
【0034】
ロイコノストック属に属する乳酸菌は、グラム陽性球菌であり、植物発酵製品から単離可能であり、このような乳酸菌としては、例えば、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・ラクティスなどが挙げられる。
【0035】
ラクトコッカス属に属する乳酸菌は、グラム陽性球菌であり、発酵乳製品の製造に使用され、このような乳酸菌としては、例えば、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ラクトコッカス・クレモリスなどが挙げられる。
【0036】
ペディオコッカス属に属する乳酸菌は、グラム陽性球菌であり、植物発酵製品から単離可能であり、このような乳酸菌としては、ペディオコッカス・ペントサセウス、およびペディオコッカス・ダムノサスなどが挙げられる。
【0037】
ワイセラ属に属する乳酸菌としては、ワイセラ・チバリア、ワイセラ・コンフューザ、ワイセラ・ハロトレランス、ワイセラ・ヘレニカ、ワイセラ・カンドレリ、ワイセラ・キムチイ、ワイセラ・コレエンシス、ワイセラ・ミノール、ワイセラ・パラメセンテロイデス、ワイセラ・ソリ、ワイセラ・タイランデンシス、ワイセラ・ビリデスセンスなどが挙げられる。
【0038】
上で例示した乳酸菌種の特定の株は、天然からの単離株、寄託株、保存株、市販株などのいずれであってもよい。
【0039】
本明細書で使用される「関節炎改善作用」または「関節炎の改善作用」という用語は、関節の痛みを抑制もしくは軽減する作用、または、関節炎を改善する作用を意味し、具体的には、血中の炎症性サイトカイン低減作用、滑膜異常増殖抑制作用、並びに軟骨組織の回復による関節組織の機能正常化を意図している。関節炎症改善作用は、痛みや腫れの自覚に加え、例えば、炎症性サイトカイン(IL-6、FGF-basic、TNF-α、VEGF、IL-1など)、抑制サイトカイン(IL-10、TGF-βなど)、炎症関連指標(MAPキナーゼ、組織メタロプロテアーゼ(Adam-15)、プロスタグランディンなど)などを測定することによって判定することができる。
【0040】
本発明の破砕物は、後述の実施例で示されるように、(i) 血中もしくは関節滑液中の関節炎症性サイトカインIL-6の発現、さらにはFGF-basic(b-FGFとも称する。)の発現を、被験者における該破砕物の使用前と比較して、低減させる作用をもつ、ならびに/あるいは、(ii) 本発明の破砕物は、脾臓組織中の転写因子Stat3の発現を、被験者における該破砕物の使用前と比較して、上昇させる作用をもつ、ならびに/あるいは、(iii) 本発明の破砕物は、脾臓組織中のAdam-15、Cd40lgなどの遺伝子の発現、パイエル板中のIl-22、Il22ra1などの遺伝子の発現を、被験者における該破砕物の使用前と比較して、抑制させる作用をもつ。
【0041】
上記被験者におけるIL-6の発現のレベルは、破砕物の使用前と比較して通常50%以下、好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下に低減することができる。また、上記被験者におけるFGF-basicの発現のレベルは、破砕物の使用前と比較して通常40%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下に低減することができる。
【0042】
IL-6は、関節リウマチなどの関節炎症関連疾患をもつ患者の血液や関節滑液に過剰に存在し(Hirano, T. et al., Eur. J. Immunol., 1988; 18:1797-1801)、関節炎の発症や症状の悪化を招く原因物質のひとつである。IL-6の働きを抑制する抗IL-6受容体抗体が関節リウマチの治療薬として我国で承認されている。FGF-basicもまた、関節破壊を招く滑膜細胞増殖に関わる重要な因子のひとつであり、この働きを抑制することで関節炎を改善することに導くことができると考えられる。本発明の破砕物は、IL-6およびFGF-basicの発現を著明に抑制する作用を有しているため、関節炎症関連疾患の改善効果を有している。このような改善効果は、本発明の破砕物と、抗炎症作用を有する既存の物質(例えば、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン、脂肪酸、アミノ酸、またはそれらの塩、あるいはそれらの組み合わせ物)と組み合わせることによってさらに増強されうる。
【0043】
本発明の破砕物の投与または摂取後のAdam-15、Stat3、Cd40lg、Il-22、およびIl22ra1の発現レベルについては、上記と同様であり、すなわち、該破砕物の使用前の発現レベルを1としたとき、Adam-15の発現レベルは、0.7未満、好ましくは0.5未満、さらに好ましくは、0.25未満であり、Stat3の発現レベルは、1.3以上、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは、1.75以上であり、Cd40lgの発現レベルは、0.7未満、好ましくは0.5未満、さらに好ましくは、0.25未満であり、Il-22およびIl22ra1の発現レベルは、0.7未満、好ましくは0.6未満、さらに好ましくは0.5未満である。
【0044】
ある特定の乳酸菌の菌体破砕物が関節炎改善作用を有するか否かは、乳酸菌の菌体破砕物を調製し、それを実験動物などの対象動物(例えば関節炎モデル動物(例えばマウスやラット))に経口投与または摂取し、対象動物において上記の指標を測定することによって、関節炎改善作用を有するか否かを判定することができる。
【0045】
従って、本発明においては、このような評価方法により菌体の破砕物が関節炎改善作用を有すると評価された乳酸菌であれば、任意の乳酸菌を用いることができる。そのような関節炎改善作用を有する好ましい乳酸菌としては、以下のものに限定されないが、例えば、ラクトバチルス・アミロボラスCP1563株(FERM BP-11255;国際寄託日2010年5月25日)、バイオリソースセンター(日本国茨城県つくば市高野台3-1-1)から入手可能な登録番号JCM1029、JCM1032、JCM1126などのラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ガセリCP2305株(FERM BP-11331(受領番号FERM ABP-11331);国際寄託日2007年9月11日))、バイオリソースセンターから入手可能な登録番号JCM1017、JCM1019、JCM1025,JCM1131などのラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィラスCL-92株(FERM BP-4981;国際寄託日1994年3月3日)、バイオリソースセンターから入手可能な登録番号JCM1021,JCM1039,JCM1132などのラクトバチルス・アシドフィラス、ラクトバチルス・カゼイSP1株(日本人の糞便からの分離株;図2参照)などのラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサスSP1株などのラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・パラカゼイSP1(日本人の糞便からの分離株;図2参照)などのラクトバチルス・パラカゼイ、バイオリソースセンターから入手可能な登録番号JCM1030,JCM1185,JCM2009などのラクトバチルス・クリスパタス、バイオリソースセンターから入手可能な登録番号JCM1036、JCM2011、JCM8782などのラクトバチルス・ガリナーラム、バイオリソースセンターから入手可能な登録番号JCM1022、JCM2012、JCM2122などのラクトバチルス・ジョンソニー、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータムSP1株(日本人の糞便からの分離株;図2参照)などのビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム、ビフィドバクテリウム・ロンガムSP1株(日本人の糞便からの分離株;図2参照)などのビフィドバクテリウム・ロンガムなどが挙げられる。
【0046】
なお、上記乳酸菌株のいくつかはヒトの腸管由来の乳酸菌である。「FERM BP-」で表示された上記の菌株は、後述する実施例において、破砕菌体が関節炎改善作用を有することが確認されており、独立行政法人産業技術総合研究所の特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)にブダペスト条約の規定に基づき国際寄託されている。
【0047】
また本発明においては、上述した具体的な菌株の変異株または派生株も、関節炎改善作用を有する限り使用することができる。そのような変異株または派生株は、培養親株に、ニトロソウレア誘導体(例えばN-メチル-N-ニトロソウレア、N-エチル-N-ニトロソウレア)、ニトロソグアニジン、ニロソアミンなどの変異原、紫外線、X線、γ線などの高エネルギー線などを使用してコロニーを回収し、純粋培養したのち、上記の評価方法を用いて関節炎改善作用を保持しているか否かを確認することができる。
【0048】
消炎性乳酸菌は、乳酸菌の培養に通常用いられる培地を使用して、適当な条件下で培養することにより調製することができる。培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、乳酸菌の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよく、当業者であれば使用する菌株に適切な公知の培地を適宜選ぶことができる。
【0049】
炭素源としては、例えばラクトース、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、廃糖蜜などを使用することができ、窒素源としてはカゼインの加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物を使用することができる。また無機塩類としては、リン酸塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどを用いることができる。乳酸菌の培養に適した培地としては、例えばMRS液体培地、GAM培地、BL培地、Briggs Liver Broth、獣乳、脱脂乳、乳性ホエーなどが挙げられる。好ましくは、滅菌されたMRS培地を使用することができる。天然培地としては、トマトジュース、ニンジンジュース、その他野菜ジュース、あるいはリンゴ、パイナップル、ブドウ果汁などを使用することができる。
【0050】
また乳酸菌の培養は、20℃から50℃、好ましくは25℃から42℃、より好ましくは約37℃において、嫌気条件下で行う。温度条件は、恒温槽、マントルヒーター、ジャケットなどにより調整することができる。また、嫌気条件下とは、乳酸菌が増殖可能な程度の低酸素環境下のことであり、例えば嫌気チャンバー、嫌気ボックスまたは脱酸素剤を入れた密閉容器若しくは袋などを使用することにより、あるいは単に培養容器を密閉することにより、嫌気条件とすることができる。培養の形式は、静置培養、振とう培養、タンク培養などである。また、培養時間は3時間から96時間とすることができる。培養開始時の培地のpHは4.0〜8.0に維持することが好ましい。
【0051】
乳酸菌の具体的な調製例を以下に簡単に説明する。
【0052】
例えば消炎性乳酸菌としてラクトバチルス・アミロボラスCP1563株、ラクトバチルス・ガセリCP2305株、ラクトバチルス・アシドフィラスCL-92株などのラクトバチルス属の乳酸菌を用いる場合には、食品グレードの乳酸菌用培地に乳酸菌を植菌し、約37℃で一晩(約18時間)かけて培養を行うことができる。
【0053】
培養後、得られる乳酸菌培養物をそのまま使用してもよいし、さらに必要に応じて遠心分離などによる粗精製および/または濾過等による固液分離や滅菌操作を行ってもよい。好ましくは、遠心分離を行って、乳酸菌の菌体のみを回収する。なお、本発明において使用する乳酸菌は、湿潤菌体であってもまたは乾燥菌体(例えば凍結乾燥など)であってもよい。
【0054】
本発明においては、消炎性乳酸菌の菌体破砕物を、関節炎の予防または改善のための有効成分として使用する。
【0055】
本明細書において使用する「破砕物」という用語は、損傷された菌体を意味し、破砕、細砕、磨砕などによって損傷された菌体を含む。乳酸菌の破砕物には、破砕方法に拘らず、例えば、菌体の損傷後に得られる水可溶性画分、有機溶媒可溶性画分、有機溶媒または水難溶性画分、ならびに、有機溶媒または水不溶性画分が含まれうる。
【0056】
乳酸菌を単に凍結乾燥などの手法で乾燥した粉末乾燥物は、菌体の破砕の程度は非常に小さく(破砕菌体の割合、0.01質量%未満)、そのような乾燥物は、本発明の菌体破砕物を含有する物質に該当しない。本発明で使用可能な破砕物を得るためには、乳酸菌を実際に破砕工程に供することが必要である。
【0057】
菌体の破砕は、当技術分野で公知の方法および機器を使用して、非限定的に、例えば物理的破砕、酵素溶解処理、薬品処理、あるいは自己溶解処理などによって行うことができる。
【0058】
物理的破砕は、湿式(菌体懸濁液の状態で処理)または乾式(菌体粉末の状態で処理)のいずれで行ってもよく、ホモゲナイザー、ボールミル、ビーズミル、遊星ミル等を使用した撹拌により、ジェットミル、フレンチプレス、細胞破砕機等を使用した圧力により、あるいはフィルター濾過により、菌体の損傷を行うことができる。
【0059】
酵素溶解処理は、例えばリゾチームなどの酵素を用いて、乳酸菌の細胞壁を破壊することによって行われる。
【0060】
薬品処理は、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ダイズリン脂質などの界面活性剤を使用して、乳酸菌の細胞構造を破壊することによって行われる。
【0061】
自己溶解処理は、一部の乳酸菌自身の酵素により菌体を溶解することによって行われる。
【0062】
本発明においては、他の試薬または成分を添加する必要がないため物理的破砕が好ましい。
【0063】
例えば撹拌による物理的破砕を行う場合には、菌体懸濁液または菌体粉末を、50〜10,000rpm、好ましくは100〜1,000rpmにて撹拌を行う。
【0064】
破砕物を調製するための具体的な方法は、例えば、乳酸菌の懸濁液を、公知のダイノミル細胞破砕機(DYNO-MILL破砕装置など)において、ガラスビーズを使用して、周速10.0〜20.0m/s(例えば約14.0m/s)、処理流速0.1〜10L/10min(例えば約1L/10min)にて、破砕槽温度10〜30℃(例えば約15℃)で1〜7回(例えば3〜5回)処理することによって、菌体を破砕する。また例えば、乳酸菌の懸濁液を、公知の湿式ジェットミル細胞破砕機(JN20 ナノジェットパルなど)において、吐出圧力50〜1000Mpa(例えば270MPa)、処理流速50〜1000(例えば300ml/min)にて、1〜30回(例えば10回)処理することによって、菌体を破砕する。また、公知の乾式遊星ミル細胞破砕機(GOT5 ギャラクシー5など)において、乳酸菌の菌体粉末を各種ボール(例えばジルコニア製10mmボール、ジルコニア製5mmボール、アルミナ製1mmボール)共存下で、回転数50〜10,000rpm(例えば190rpm)で30分〜20時間(例えば5時間)処理することによって、菌体を破砕することも可能である。乳酸菌の菌体粉末を公知の乾式ジェットミル細胞破砕機(ジェットOマイザーなど)において、供給速度0.01〜10000g/min(例えば0.5g/min)、吐出圧力1〜1000kg/cm2(例えば6kg/cm2)の圧力にて、1〜10回(例えば1回)処理することによって、菌体を破砕してもよい。
【0065】
本発明においては、乳酸菌破砕物は、菌体に穴が開く程度でも効果を発揮するが、菌体の各々の平均長径または表面積が破砕処理前の90%以下となるように調製することが望ましい。例えば溶解処理により菌体を破砕する場合には、菌体の平均長径または表面積は0%となることもある。従って、菌体の平均長径または表面積が破砕前の0〜90%、好ましくは0〜80%、さらに好ましくは0〜70%、例えば20〜70%またはそれ以下、10〜50%またはそれ以下、となるように乳酸菌を破砕する。
【0066】
破砕に供される乳酸菌は、そのほぼすべて(すなわち90%以上)が破砕されることが好ましいが、しかし、破砕前の乳酸菌と比べて関節炎の改善効果が有意(p<0.05、好ましくはp<0.03)である限り、本発明の物質には、破砕されない乳酸菌が、破砕前菌数の約95%未満、約90%未満、約80%未満、約70%未満または約60%未満、好ましくは約50%未満または約40%未満、さらに好ましくは約30%未満、20%未満、10%未満または約5%未満の割合で含まれていてもよい。例えば、湿式ジェットミルでは、破砕されない乳酸菌はほぼゼロ(0%)であるし、乾式ジェットミルでは、破砕されない乳酸菌は約80〜約90%である。
【0067】
また、所望により、乳酸菌の菌体および/または菌体破砕物にさらなる処理を行ってもよい。そのような処理の例を以下に記載する。
【0068】
乳酸菌の菌体および/または菌体破砕物を適当な溶媒に懸濁または希釈することによって、懸濁物または希釈物として調製することができる。使用することができる溶媒としては、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。
【0069】
乳酸菌の菌体および/または菌体破砕物を滅菌処理によって、滅菌処理物として調製することができる。乳酸菌の菌体および/または菌体破砕物を滅菌処理するには、例えば、濾過滅菌、放射性殺菌、過熱式殺菌、加圧式殺菌などの公知の滅菌処理を行うことができる。
【0070】
また、乳酸菌の菌体および/または菌体破砕物を加熱処理することにより、加熱処理物として調製することができる。加熱処理物を調製するには、乳酸菌の菌体および/または菌体破砕物を、一定時間、例えば約10分〜1時間(例えば約10〜20分)にわたり、高温処理(例えば80〜150℃)することができる。
【0071】
さらに乳酸菌の菌体破砕物(菌体を一部混入していてもよい。)を乾燥して粉状物または粒状物とすることができる。具体的な乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、噴霧乾燥、ドラム乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などが挙げられ、これらの乾燥手段を単独でまたは組み合わせて使用できる。その際、必要に応じて通常用いられる賦形剤を添加してもよい。
【0072】
さらに、乳酸菌の菌体破砕物から、公知の分離・精製法を用いて、関節炎改善作用を有する成分または画分を精製することによって、そのような成分を同定することができる。そのような分離・精製法としては、塩沈殿および有機溶媒沈殿などの溶解性を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーのような電荷の差を利用する方法、アフィニティクロマトグラフィーのような特異的結合を利用する方法、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなどの疎水性を利用する方法などが挙げられ、これらの方法の1種を、または2種以上を組み合わせて使用することができる。このようにして精製された関節炎改善作用を有する成分または画分は、本発明の消炎性乳酸菌の破砕物を含んでなる物質に含有させることができる。
【0073】
2.組成物
上記の手法で得られた、かつ、関節炎の予防または改善作用を有する本発明の上記物質は、単独であるいは他の成分と共に、関節炎の予防または改善のための組成物の形態にすることができる。
【0074】
そのような組成物は、例えば、飲食品、飼料、もしくは、医薬品などに添加することができる。
【0075】
本発明の物質または組成物を被継続的に摂取すると、関節炎の予防または改善効果や、関節炎関連疾患または障害の予防または改善効果が期待される。
【0076】
本発明の関節炎予防・改善用物質は、有効成分として上述した消炎性乳酸菌の菌体破砕物を含むものであるが、1種の乳酸菌の菌体破砕物を含んでもよいし、複数の異なる乳酸菌の菌体破砕物、さらには異なる破砕処理を行った複数の菌体破砕物を組み合わせて含んでもよい。
【0077】
また本発明の関節炎予防・改善用組成物には、有効成分である乳酸菌の菌体破砕物に加えて、目的とする作用を増強する限り、後述する添加剤、他の既知(公知)の抗炎症作用を有する既存の物質、例えば関節機能保護素材、などを1つまたは複数組み合わせて添加してもよい。
【0078】
抗炎症作用を有する既存の物質として、以下の者に限定されないが、例えば、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン、ω3脂肪酸(例えばエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など)、共役脂肪酸(例えば共役リノール酸(CLA)など)、アミノ酸(例えばセリン、スレオニンなど)、それらの塩などが挙げられる。
【0079】
本明細書で使用される「塩」には、有機または無機の酸または塩基との塩であり、医薬上許容可能な塩である。例えば、塩には、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、スルホン酸塩(例えばp-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩など)、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)などが含まれる。
【0080】
本発明の実施形態によれば、抗炎症作用を有する既存の物質としてグルコサミン、コンドロイチン、それらの塩、またはそれらの組み合わせ物が挙げられる。
【0081】
本発明の物質または組成物を含有する、医薬品や機能性食品などの製品の形態は特に制限されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤、吸入剤などの経口剤、坐剤などの経腸製剤、などの剤型としてもよい。これらのうちでは、経口剤とするのが好ましい。なお、液剤、懸濁剤などの液体製剤は、服用直前に水または他の適当な媒体に溶解または懸濁する形であってもよく、また錠剤、顆粒剤の場合には周知の方法でその表面をコーティングしてもよい。さらに、本発明の関節炎改善用組成物は、当技術分野で公知の技術を使用して、徐放性製剤、遅延放出製剤または即時放出製剤などの放出が制御された製剤の形態としてもよい。
【0082】
このような剤型の関節炎予防・改善用製品には、上述した成分に、通常用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、滑沢剤、保存剤、界面活性剤、甘味料、矯味剤、芳香剤、酸味料、着色剤などの添加剤が、剤型に応じて配合され、そのような製品は常法に従って製造されうる。
【0083】
本発明の組成物を医薬品とする場合には、薬学的に許容される担体または添加剤を配合することができる。そのような薬学的に許容される担体および添加剤の例として、水、薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加剤として許容される界面活性剤などの他、リポソームなどの人工細胞構造物などが挙げられる。
【0084】
本発明の組成物は、上で例示したような添加剤や他の炎症改善素材などを含む場合、有効成分である乳酸菌の菌体破砕物の含有量は、その剤型により異なるが、破砕処理前の乳酸菌の量として、通常は、0.0001〜99質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜75質量%の範囲であり、有効成分の望ましい摂取量を摂取できるように、1日当たりの投与量が管理できる形にするのが望ましい。また、本発明の組成物に含まれる乳酸菌の菌体破砕物は、破砕前の乳酸菌数として、約107個/g〜約1012個/g、好ましくは約108個/g〜約1012個/gである。
【0085】
本発明の組成物に添加または配合することができる他の関節炎改善素材としては、限定されるものではないが、上記の関節機能改善素材(ヒアルロン酸、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン、それらの塩など)、消炎性脂肪酸(DHA、EPA、CLAなど)などが挙げられる。また、それらの配合率は、例えば、基本的に菌体破砕物重量2〜9、例えば3に対して、1とするのが好ましいが、条件によって変更することができる。
【0086】
さらに、本発明の物質または組成物は、医薬品、飲食品、もしくは飼料の製造のために、それらの製造に通常用いられる種々の添加剤やその他種々の物質と混合することができる。
【0087】
このような物質や添加剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、各種油脂(例えば、大豆油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油などの植物油、牛脂、イワシ油などの動物油脂)、生薬(例えばロイヤルゼリー、人参など)、アミノ酸(例えばグルタミン、システイン、ロイシン、アルギニンなど)、多価アルコール(例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、糖アルコール、例としてソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、マンニトールなど)、天然高分子(例えばアラビアガム、寒天、水溶性コーンファイバー、ゼラチン、キサンタンガム、カゼイン、グルテンまたはグルテン加水分解物、レシチン、澱粉、デキストリンなど)、ビタミン(例えばビタミンC、ビタミンB群など)、ミネラル(例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄など)、食物繊維(例えばマンナン、ペクチン、ヘミセルロースなど)、界面活性剤(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなど)、精製水、賦形剤(例えばブドウ糖、コーンスターチ、乳糖、デキストリンなど)、安定剤、pH調製剤、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、酸味料、着色料および香料などが挙げられる。
【0088】
また、本発明の物質または組成物は、飲食品または飼料の製造のために、機能性成分もしくは添加剤、例えば、各種有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、カテキン類、キサンチン誘導体、フラクトオリゴ糖などの難消化性オリゴ糖、ポリビニルピロリドン、抗炎症性ペプチド、動物飼料などの成分や添加剤の1種類以上と配合することができる。
【0089】
これらの成分や添加剤の配合量は、添加剤の種類と所望すべき摂取量に応じて適宜決められるが、有効成分である乳酸菌の菌体破砕物の含有量は、その剤型により異なるが、破砕処理前の乳酸菌の量として、通常は、0.0001〜99質量%、好ましくは0.001〜80質量%、より好ましくは0.001〜75質量%の範囲となるよう配合することが望ましい。
【0090】
本発明の物質または組成物を投与または摂取する被験者は、脊椎動物、具体的には、哺乳動物、例えばヒト、霊長類(サル、チンパンジーなど)、家畜動物(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ニワトリなど)、ペット用動物(イヌ、ネコなど)、実験動物(マウス、ラットなど)、競技用動物(ウマなど)、その他、爬虫類、鳥類(ニワトリなど)などである。特に、関節炎症が疑われる被験者、既に関節炎を発症するヒト、関節に損傷を受けたヒト、遺伝的若しくは環境的要因により免疫機能異常、例えば自己免疫疾患となるリスクの高いヒトまたは以前にもしくは現在そのような異常や疾患を患っていた/患っているヒトが被験者として好ましい。自己免疫疾患の好ましい例は、関節リウマチ、膠原病などである。
【0091】
本発明の物質または組成物を含む医薬品又は機能性飲食品の投与量または摂取量は、被験者の年齢および体重、投与・摂取回数、症状の重篤度などにより異なり、目的とする作用を達成できるように担当医の裁量によって広範囲に変更することができる。例えば、経口的に投与または摂取する場合には、該医薬品または機能性飲食品に含まれる乳酸菌の菌体破砕物を、破砕処理前の乳酸菌の量に換算して、被験者に、体重1kgあたり、通常約106個〜約1012個、好ましくは約107個〜約1011個投与または摂取することが望ましい。乳酸菌の菌体破砕物の含有割合は特に限定されず、目的の製品の製造の容易性や好ましい一日投与量等に合わせて適宜調節すればよい。本発明の関節炎予防・改善用物質は安全性の高いものであるため、その投与量または摂取量をさらに増やすこともできる。1日当たりの投与量または摂取量は、1回で投与または摂取してもよいが、数回に分けて投与または摂取してもよい。また、その投与または摂取の頻度も、特に限定されず、投与または摂取の経路、被験者の年齢および体重、関節炎の重篤度、関節炎に起因する疾患または障害の発症の有無、目的とする効果(治療、予防など)などの種々の条件に応じて適宜選択することが可能である。
【0092】
本発明の物質または組成物を含む医薬品、機能性飲食品などの製品の投与・摂取経路は、経口投与もしくは摂取、または直腸内などの非経口投与が挙げられる。そのような製品は、特に経口的に投与または摂取することが好ましい。
【0093】
本発明の物質または組成物は、被験者の関節炎症関連疾患または障害の予防および改善作用を有する。具体的には、本発明の物質または組成物は、被験者における炎症性サイトカインや滑膜増殖因子、炎症メディエーターを低減させ、ならびに/あるいは、抑制系サイトカインを上昇させることにより、関節炎症疾患を改善する作用を有する。従って、本発明の関節炎予防・改善作用を有する物質または組成物は、関節炎症関連疾患または障害に対して、優れた予防、改善および治療効果を示すし、また、安全性が高く長期間の継続的投与/摂取が可能である。そのため、本発明の組成物は、飲食品および飼料としても使用できる。
【0094】
上述したように、本発明の関節炎予防・改善作用を示す物質または組成物は、それを添加した機能性飲食品や機能性飼料として、関節炎症関連疾患または障害の予防または治療のために用いることができるのみならず、本発明の物質または組成物を添加した医薬品として使用することもできる。
【0095】
本明細書において使用される「関節炎症関連疾患または障害」という用語は、免疫の高進に起因する関節の疾患、障害、症状または症候群を指す。関節炎症関連疾患または障害には、例えば限定されるものではないが、変形性関節症(例えば変形性膝関節症)、関節リウマチ、腱鞘炎、肩関節周囲炎、屈腱炎、股関節炎、ロコモティブシンドロームなどが含まれる。
【0096】
また本発明において、関節炎症関連疾患または障害の「予防または治療」とは、動物やヒトなどの被験者において、関節炎症関連疾患または障害の発症の予防、関節炎症関連疾患または障害の発症後(病的状態)の治療を意味するが、関節炎症関連疾患または障害の発症を遅延または抑制することも意味する。また、関節炎症関連疾患または障害に起因して発症する疾患または障害の発症を防止することも含まれる。例えば、予防目的で本発明の関節炎予防・改善作用を有する物質または組成物を含有する製品を使用する場合、関節炎症関連疾患・障害の素因となる遺伝的要因、環境的要因もしくは他の異常を有する被験者、または以前に関節炎症関連疾患または障害の発症履歴のある被験者に、投与または摂取させることが好ましい。
【0097】
本発明の物質または組成物を含む上記のような製品により治療または予防の対象となる関節炎症関連疾患または障害は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよい。
【0098】
本発明の関節炎予防・改善用医薬品は、他の医薬、治療または予防法等と併用してもよい。このような他の医薬は、本発明の関節炎改善組成物と共に一製剤を成していてもよいし、また、別々の製剤であって同時にまたは間隔を空けて投与してもよい。
【0099】
上述したように、本発明の物質または組成物を含む関節炎予防・改善用食品または飼料は、関節炎改善作用を有するうえに、食経験のある乳酸菌から製造される物質を含むものであり、安全性が高い。さらに、様々な飲食品や動物飼料に添加しても飲食品や飼料自体の風味を阻害しないため、種々の飲食品や飼料に添加して継続的に被験者に摂取することができ、被験者における関節炎の予防または改善が期待される。
【0100】
本発明に関わる飲食品は、上述した関節炎の予防・改善作用のある乳酸菌破砕物を有効成分として含む物質を含有する。本明細書において、「飲食品」という用語には飲料および食品の両方が包含される。本発明の上記物質または組成物を含有する飲食品には、関節炎改善作用により健康増進を図る健康飲食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品などの他、本発明の関節炎予防・改善作用を有する物質または組成物を配合できる、全ての飲食品が含まれる。
【0101】
本発明の上記物質を含有する飲食品として、機能性飲食品はとりわけ好ましい。本明細書中で使用する「機能性飲食品」という用語は、生体に対して一定の機能性を有する飲食品を意味し、例えば、特定保健用飲食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)および栄養機能飲食品を含む保健機能飲食品、特別用途飲食品、栄養補助飲食品、健康補助飲食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセルおよび液剤などの各種剤形のもの)および美容飲食品(例えばダイエット飲食品)などのいわゆる健康飲食品全般を包含する。本発明の機能性飲食品はまた、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康飲食品を包含する。
【0102】
飲食品の具体例としては、経管経腸栄養剤などの流動食、錠菓、錠剤、チュアブル錠、錠剤、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤およびドリンク剤などの製剤形態の健康飲食品および栄養補助飲食品;緑茶、ウーロン茶および紅茶などの茶飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、野菜飲料、果汁飲料、醗酵野菜飲料、醗酵果汁飲料、発酵乳飲料(ヨーグルトなど)、乳酸菌飲料、乳飲料(コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など)、粉末飲料、ココア飲料、牛乳並びに精製水などの飲料;バター、ジャム、ふりかけおよびマーガリンなどのスプレッド類;マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、ヨーグルト、スープまたはソース類、菓子(例えば、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)などが挙げられる。
【0103】
本発明に関わる飲食品は、本発明の上記物質または組成物のほかに、その飲食品の製造に用いられる他の食品素材、例えば、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、食物繊維、種々の添加剤(例えば呈味成分、甘味料、有機酸などの酸味料、安定剤、フレーバー)などを配合して、常法に従って製造することができる。
【0104】
本発明の飲食品において、本発明の物質の配合量は、飲食品の形態や求められる食味または食感を考慮して、当業者が適宜定めることができる。添加される本発明の物質中の、破砕されない上記消炎性乳酸菌が、破砕前菌数の約95%未満、約90%未満、約80%未満、約70%未満、または約60%未満、好ましくは約50%未満または約40%未満、さらに好ましくは約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満または約2%未満の割合で含まれうる。
【0105】
本発明の物質は安全性の高いものであるため、飲食品におけるその配合量をさらに増やすこともできる。該物質の望ましい摂取量を飲食できるよう、1日当たりの摂取量が管理できる形にするのが好ましい。このように本発明の飲食品を、本発明の物質の望ましい摂取量を管理できる形態で飲食することにより、該飲食品を用いた関節炎関連疾患または障害に対する予防方法および改善方法が提供される。
【0106】
本発明の物質または組成物は、当業者が利用可能である任意の適切な方法によって、飲食品に含有させればよい。例えば、該物質または組成物を、液体状、ゲル状、固体状、粉末状または顆粒状に調製した後、それを飲食品に配合することができる。あるいは本発明の物質または組成物を、飲食品の原料中に直接混合または溶解してもよい。本発明の物質または組成物は、飲食品に塗布、被覆、浸透または吹き付けてもよい。本発明の物質または組成物は、飲食品中に均一に分散させてもよいし、偏在させてもよい。本発明の物質または組成物を封入したカプセルなどを調剤してもよい。本発明の物質または組成物を、可食フィルムや食用コーティング剤などで包み込んでもよい。また本発明の物質または組成物に適切な賦形剤等を加えた後、錠剤などの形状に成形してもよい。本発明の物質または組成物を含有させた飲食品はさらに加工してもよく、そのような加工品も本発明の範囲に包含される。
【0107】
本発明に関わる飲食品の製造においては、飲食品に慣用的に使用されるような各種添加物を使用してもよい。添加物としては、限定するものではないが、発色剤(亜硝酸ナトリウム等)、着色料(クチナシ色素、赤102等)、香料(オレンジ香料等)、甘味料(ステビア、アステルパーム等)、保存料(酢酸ナトリウム、ソルビン酸等)、乳化剤(コンドロイチン硫酸ナトリウム、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)、酸化防止剤(EDTA二ナトリウム、ビタミンC等)、pH調整剤(クエン酸等)、化学調味料(イノシン酸ナトリウム等)、増粘剤(キサンタンガム等)、膨張剤(炭酸カルシウム等)、消泡剤(リン酸カルシウム)等、結着剤(ポリリン酸ナトリウム等)、栄養強化剤(カルシウム強化剤、ビタミンA等)、賦形剤(水溶性デキストリン等)等が挙げられる。さらに、オタネニンジンエキス、エゾウコギエキス、ユーカリエキス、杜仲茶エキス等の機能性素材をさらに添加してもよい。
【0108】
本発明に関わる飲食品は、上述したとおり、関節炎の予防または改善作用を有するため、関節炎症関連疾患または障害に対して優れた予防および改善作用を奏するうえに、安全性が高く副作用の心配がない。また、本発明の物質は、様々な飲食品に添加してもその飲食品の風味を阻害しないため、得られる飲食品は長期間の継続的摂取が容易であり、関節炎症関連疾患または障害に対する優れた予防および改善作用が期待される。
【0109】
さらに本発明の物質または組成物は、上で説明したように、ヒト用の飲食品のみならず、家畜、競走馬、ペットなどの飼料にも配合することができる。飼料は、被験者がヒト以外であることを除き飲食品とほぼ等しいことから、上記の飲食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【0110】
(実施例)
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0111】
[実施例1]
乳酸菌ラクトバチルス・アミロボラスCP1563株(FERM BP-11255)およびラクトバチルス・ガセリCP2305株(FERM BP-11331(受領番号FERM ABP-11331))およびラクトバチルス・アシドフィラスCL-92株(FERM BP-4981)を以下のとおり調製した。
【0112】
ラクトバチルス・アミロボラスCP1563株、ラクトバチルス・ガセリCP2305株、ラクトバチルス・アシドフィラスCL-92株はヒトの糞便より採取し、単離した。16SrDNA塩基配列解析および表現形質の観察により、菌種を同定した。
【0113】
なお、ここで得られた菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所の特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1、つくばセンター中央第6)に寄託され、それぞれ受託番号FERM BP-11255、FERM BP-11331(受領番号FERM ABP-11331)およびFERM BP-4981が付与されている。
【0114】
乳酸菌を自家処方による食品グレードの乳酸菌培地を用いて、37℃、18時間培養し、遠心分離により集菌した。脱イオン水を用いて洗浄・集菌後、適量の水に再懸濁し、90℃達温殺菌した。殺菌後の懸濁液を、以下の条件でダイノミル破砕した。
【0115】
使用機器:DYNO-MILL破砕装置(Multi-lab0.6L、シンマルエンタープライゼス社)
周速:14.0m/s
処理流速:1L/10min
処理回数:5回
破砕槽温度:15℃
使用ガラスビーズ:直径0.5mm 0.4L
【0116】
上記破砕処理により、乳酸菌懸濁液中の菌体の平均長径が処理前の68%に縮小した(2.77μ→1.89μm)。破砕処理前および破砕処理後の菌体の顕微鏡写真をそれぞれ図1のAおよびBに示す。図1Bに示されるように、破砕処理によって、完全に分断された菌体が得られた。破砕後、懸濁液を凍結乾燥し、破砕乳酸菌凍結乾燥粉末を得た。菌体を破砕しない場合(A;インタクト(対照))は、殺菌後の液をそのまま凍結乾燥し、非破砕乳酸菌凍結乾燥粉末を得た。対照としての凍結乾燥粉末のインタクトな菌体の割合は、99.99%以上である。
【0117】
[実施例2]
以下の通り、乳酸菌凍結乾燥粉末(非破砕)のラット・アジュバント関節炎に対する発症予防効果を検討した。これらの被験物質については、各乳酸菌凍結乾燥粉末(非破砕)はアジュバント感作日の2週前より試験終了日(day 21)まで連続で混餌にて摂食させた(3%(w/w))。
【0118】
被験物質およびその調製方法
各種乳酸菌は前述のとおり調製し、常法によって凍結乾燥した。飼料は市販MF飼料に混合し、(オリエンタル酵母)し、自由摂食させた。グルコサミン(ミヤコ化学株式会社製)およびコンドロイチン(マルハ株式会社製)は重量比で1%混餌することによって自由摂食させた。
【0119】
アジュバントの調製
感作に使用するフロインドコンプリートアジュバント(FCA)は、M. tuberculosis H37Ra(和光純薬)を適当量秤りとり、メノウ乳鉢で微粉末にした後、流動パラフィン(和光純薬)を少しずつ加えて懸濁し、6 mg/mlの懸濁液を作製した。調製はアジュバント感作日に行った。
【0120】
実験動物
日本SLC(株)より8週齢にて購入した雌性Wistar系ラット(SPF)を14日間予備飼育して実験に供した。ラットは予備飼育期間および実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%の飼育室(照明時間8時〜18時)で飼育した。
【0121】
ラットは2〜3匹/ケージとし、すべての群に固形飼料(MF、オリエンタル酵母)と滅菌脱イオン水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0122】
関節炎の誘発
ラットをイソフルラン麻酔下に固定台に固定し、作製したアジュバントの0.1 mlを右後肢の足蹠皮内に注射し関節炎を誘発した。なお、誘発日をday 0(0日目)とした。
【0123】
投与経路および群構成
投与方法:3%混餌にて自由摂食
投与期間: day -14 〜 21
動物数:10匹/群
【0124】
群構成
【表1】

【0125】
観察および検査項目
一般状態:毎日1回症状を観察し、記録用紙に記入した。
【0126】
体重:体重計にて体重を測定した。体重測定日はday 0、5、9、14、19および21とした。
【0127】
関節炎スコア:感作部位の右後肢を除く右前肢、左前肢および左後肢の発赤、腫脹および強直の程度を肉眼的に観察し、以下に示す基準に従った0〜4点のスコアを付け、最高12点の合計で評価した。観察日はday 0、5、9、14、19および21とした。
【0128】
0:nil(症状無し)
1:mild(軽症)
2:moderate(中度の症状)
3:moderately-severe(やや重症)
4:severe(重症)
【0129】
足容積:右後肢および左後肢の容積は足容積測定装置(MK−101P、室町機械)を使用して測定した。測定日は関節炎スコア観察と同日とした。
【0130】
評価
評価は安定しており、パラメトリック解析が可能な感作後肢の肥厚をプライマリーエンドポイントとした。反復測定後、摂取最終日でのデータを群間比較した。
【0131】
統計解析
day21における足容積を箱ひげ図で示し、各群の統計的有意性を検定するため、SPSS ver12を用いて分散分析を実施後、総当たりの多重比較検定(Tukey法)を行い群間差を検出した。p<0.05の場合を有意差とした。
【0132】
結果および考察
感作後肢容積
day21における感作後肢(右肢)容積の測定結果を一例として図2に示した。これは乳酸菌凍結乾燥粉末(非破砕)のラット・アジュバント関節炎に対する発症予防効果を比較検討した結果の例である。
【0133】
いずれの乳酸菌投与においても感作後肢(右肢)容積を有意に抑制し、関節炎抑制効果自体は得られるが、その効率には差が認められる。特に、Lactobacillus gasseri CP2305株、Lactobacillus amylovorus CP1563株、Lactobacillus acidophilus CL-92株の改善効果が高いことが明らかとなった。これにより、これらを含む消炎効果の高い乳酸菌を選抜することで、望ましい関節炎改善効果が得られることが立証された。
【0134】
[実施例3]
本実施例では、アジュバント関節炎ラットに投与する乳酸菌の破砕効果を検証した例を示す。実施例1に記載の菌体破砕法によって調製したLactobacillus acidophilus CL-92株、Lactobacillus gasseri CP2305株およびLactobacillus amylovorus CP1563株の破砕物を各々の非破砕菌体の投与の場合を例として比較した(図3)。
【0135】
Lactobacillus acidophilus CL-92株、Lactobacillus gasseri CP2305株では破砕と非破砕間での有意差が認められ(p<0.05)、破砕処理が有効であることが示される。
【0136】
[実施例4]
本実施例では、アジュバント関節炎ラットに投与する破砕乳酸菌と、グルコサミン(GlnNH2)またはグルコサミン(GlnNH2)+コンドロイチン(Cdn)との相乗効果(正の交互作用)をLactobacillus acidophilus CL-92株(実験1:図4)およびLactobacillus gasseri CP2305株(実験2:図5)を例として記載した。
【0137】
Lactobacillus acidophilus CL-92株の検討の場合、他素材の添加によって、明らかな交互作用が得られ、関節炎改善作用の寄与率ではLactobacillus acidophilus CL-92株の破砕菌体が高いものの、この効果をエンハンスする効果がグルコサミンならびにコンドロイチンにあることが示された。
【0138】
一方、Lactobacillus gasseri CP2305株についても全く同様の結果が得られ、絶対的な効果としてはLactobacillus acidophilus CL-92株同等もしくはそれ以上であった。
【0139】
[実施例5]
消炎性乳酸菌の関節リウマチに対する効果の検証
東京大学農学生命科学研究科(東京、日本)にて繁殖したIL-1Ra KO 雌マウスを関節リウマチのモデルとして6週齢より以下の通り、乳酸菌凍結乾燥粉末のラット・アジュバント関節炎に対する発症予防効果の高かったLactobacillus acidophilus CL-92株を例として関節リウマチに対する改善効果の検証を行った。この実施例では、実施例3および4で乳酸菌の破砕効果が確認された消炎性乳酸菌の菌体(非破砕)を使用したが、菌体破砕物を使用するときには、菌体自体を使用した場合に優る炎症抑制効果が得られることは明らかである。また、図3に示した結果を考慮すると、Lactobacillus gasseri CP2305株およびLactobacillus amylovorus CP1563株ならびにそれらの破砕物でもまた関節リウマチに対する改善効果が得られることは明らかである。なお、この実験で使用したIL-1Ra KO 雌マウスは、IL-1受容体の内因性アンタゴニストを欠損させることで炎症を生じ、リウマチ様の関節炎を自然発生することが知られている。
【0140】
IL-1受容体アンタゴニストはリウマチ治療薬として、アナキンラなどの薬剤の開発が進められてきている。
【0141】
被験物質およびその調製方法
乳酸菌は前述のとおり調製し、常法によって凍結乾燥した。飼料はアジュバント関節炎実験同様、市販MF飼料に菌体を3%混合(オリエンタル酵母)し、自由摂食させた。
【0142】
実験動物
東京大学農学生命科学研究科にて自家繁殖したIL-1Ra KOマウスを6週齢より24週齢まで実験食を与え、実験期間を通して室温24±3℃、相対湿度55±15%の飼育室(照明時間8時〜18時)で飼育した。
【0143】
マウスは5匹/ケージとし、すべての群に実験飼料と滅菌脱イオン水をそれぞれ自由に摂取させた。
【0144】
群構成
【表2】

【0145】
観察および検査項目
一般状態:6週齢より24週齢まで1週毎症状を観察し、記録用紙に記入した。
【0146】
関節炎スコア:感作部位の右後肢を除く右前肢、左前肢および左後肢の発赤、腫脹および強直の程度を肉眼的に観察し、以下に示す基準に従った0〜4点のスコアを付け、最高12点の合計で評価した。観察日は6週齢より24週齢まで1週毎とした。
【0147】
0:nil
1:mild
2:moderate
3:moderately-severe
4:severe
【0148】
足蹠肥厚:右後肢および左後肢足蹠肥厚はシックネスゲージを使用して測定した。測定日は関節炎スコア観察と同日とした。
【0149】
評価
左右後肢足蹠肥厚の平均値をプライマリーエンドポイントとした。
【0150】
統計解析
反復測定分散分析(SPSSver12)にて群間比較した。
【0151】
結果および考察
感作後肢容積
試験期間における後肢足蹠肥厚(左右平均)測定結果を図6に示した。Lactobacillus acidophilus CL-92株凍結乾燥粉末の関節リウマチに対する発症予防効果を検討した結果、Lactobacillus acidophilus CL-92株投与において、左右後肢足蹠肥厚の変化を有意に抑制(p=0.003)し、強いリウマチ様関節炎抑制効果が得られた。これにより、関節リウマチに対しても消炎効果が高いことが立証された。
【0152】
解剖時血漿サイトカインの発現差
Mouse Cytokine Twenty-PlexAntibody Beads Kit(Invitrogen)および剖検時に得られた血漿を用いて、炎症性サイトカインの発現に及ぼすLactobacillus acidophilus CL-92株凍結乾燥粉末の影響を測定した。その結果、対照物質(非消炎性)と対比して、統計的有意性(p)(それぞれ、0.00012、0.0369)をもってFGF-basicおよびIL-6の発現の著明な抑制が観察された(図7AおよびB)。これらのサイトカイン類は、関節滑膜の増殖の促進ならびに炎症の促進に関連しており、足蹠肥厚の抑制に関係した。
【0153】
血漿サイトカインの経時変化
炎症抑制効果の発現を裏付けるため、血漿中IL-6の経時変化を調べた。図8に示す通り、8週、12週、16週および20週における血漿中のIL-6を測定した。Lactobacillus acidophilus CL-92株投与において、IL-6の誘導は完全に押さえられことが明らかとなった。IL-6受容体に対する抗体トシリズマブ(tocilizumab)は医薬として開発されており、リウマチ治療に重要な役割を果たすことから、乳酸菌の新たな可能性を示す作用であると考えられる。
【0154】
脾臓のDNAアレイ解析
各群の平均に近い5匹のマウス脾臓についてDNAアレイ解析を実施した。DNAアレイは、Op ArrayTM MouseV4.0(Operon Biotecnologies製)を使用し、単色法にて比較解析を行った。その結果、Stat3の著明な亢進が見られたことから、Il-10シグナルなどによる炎症に関わるエフェクター細胞の活性の抑制が考えられる。その他、Mapk1、Traf2、Casp2、Nfatc3など炎症、自己免疫疾患関連遺伝子の発現抑制が確認された。
【0155】
さらに樹状細胞やマクロファージなど抗原提示細胞の活性化の抑制が示唆された(表4)。Vegfの産生が抑制され、組織メタロプロテアーゼ(メタルジディン:Adam-15)の抑制が見られることから、関節リウマチの抑制が裏付けられる。また、Th活性化に関わるCd40lgの発現が抑制され、炎症のシグナルの抑制が示唆される。
【0156】
パイエル板のDNAアレイ解析
脾臓に準じ、同マウス個体5匹のパイエル板(PP)のDNAアレイ解析を行った。DNAアレイは、上記と同様の手順で解析を行った。その結果、自然免疫系の活性化に関わる遺伝子の発現の抑制が確認された。また、IGHA、IGHV、IL-4などの発現が亢進し、IgA産生の促進が生じていた。分泌されたIgAは、腸管や他の粘膜組織に侵入したウイルス、細菌、細菌毒素、アレルゲンなどの有害物質を排除する働きをもつ。また、Defcr5の発現亢進にみられるようにDefensinの産生も亢進している。これらの結果から、粘膜面での防御機能が著しく高まっていることがわかる。
【0157】
さらに、Il22およびIL22ra1の発現抑制がかかることから、炎症誘起に関与するTh17の抑制が生じている可能性が示された(表3)。
【0158】
【表3】

【0159】
[実施例6]
関節リウマチモデルマウスでの関節炎抑制効果の高い乳酸菌の選抜
アジュバント関節炎抑制効果が一般的なLactobacillusrhamnosus SP1株(非破砕)と強い効果を示したLactobacillus acidophilus CL-92株(非破砕)との比較を例に、実施例5に記載したよう手順で、消炎性乳酸菌の選抜のための比較試験を、関節リウマチモデルマウスを用いて行った。
【0160】
図9および図6(前掲)に左右後肢足蹠肥厚の平均値の推移を示す。アジュバント関節炎のスクリーニングにおいて示されたとおり、Lactobacillus acidophilus CL-92株の優位性が示された。また、統計解析でみると、群間差ならびに変化パターンともLactobacillus acidophilus CL-92株の優位性が明らかであり(表4:混合モデルによる反復測定分散分析結果)、消炎性の高い乳酸菌を選抜する必要性が関節リウマチモデルの場合にも示唆された。
【0161】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明により、消炎性乳酸菌破砕物を含有する関節炎症改善作用を有する物質、それを含む組成物、およびその用途が提供される。本発明の物質および組成物は、関節炎症、特に膝関節を中心とした症状を改善、軽減、抑制または正常化することができるため、様々な関節炎症性疾患または障害の予防または治療に使用することができる。従って、本発明は、医薬品、飲食品、畜産、ペット産業などの分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特性(a)および(b)を有する、かつ、被験者における関節炎の予防または改善作用を有する物質。
(a) 該物質が、消炎性乳酸菌を破砕して得られるものであり、破砕前の該乳酸菌に対して菌体破砕物を約5〜100質量%の割合で含む
(b) 該物質が、被験者においてIL-6の発現レベルを低減する作用を有する
【請求項2】
前記破砕前の該乳酸菌に対して菌体破砕物が約20〜100質量%の割合で含む、請求項1に記載の物質。
【請求項3】
前記破砕物における菌体の各々の平均長径または表面積が破砕前の0〜90%である、請求項1または2に記載の物質。
【請求項4】
前記物質が、前記被験者におけるIL-6の発現レベルを、前記破砕物の使用前と比較して50%以下に低減する作用を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の物質。
【請求項5】
前記消炎性乳酸菌が、非消炎性対照物質摂取による関節炎モデル動物の脾臓組織での発現レベルを1としたとき、消炎性乳酸菌摂取による関節炎モデル動物の脾臓組織でのAdam15、Stat3およびCd40lgの発現レベルが、次の少なくとも1つの条件、すなわち
Adam15の発現:0.7未満
Stat3の発現:1.3以上
Cd40lgの発現:0.7未満
を満たす乳酸菌である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の物質。
【請求項6】
前記破砕物がさらに、前記被験者におけるFGF-basicの発現レベルを、該破砕物の使用前と比較して、低減させる作用をもつ、請求項1〜5のいずれか一項に記載の物質。
【請求項7】
前記破砕物が、物理的破砕、薬品処理または酵素溶解により得られる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の物質。
【請求項8】
前記消炎性乳酸菌が、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属およびワイセラ属に属する細菌からなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の物質。
【請求項9】
前記ラクトバチルス属に属する細菌が、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ガリナーラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・デルブルッキ サブスピーシーズ ブルガリカス、およびラクトバチルス・ジョンソニーからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項8に記載の物質。
【請求項10】
前記ビフィドバクテリウムに属する細菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーべ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ラクティス、ビフィドバクテリウム・カテニュラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラータム、およびビフィドバクテリウム・マグナムからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項8に記載の物質。
【請求項11】
前記エンテロコッカスに属する細菌が、エンテロコッカス・フェカリス、およびエンテロコッカス・フェシウムからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項8に記載の物質。
【請求項12】
ストレプトコッカス属に属する細菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ダイアセチラクチス、およびストレプトコッカス・フェカリスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項8に記載の物質。
【請求項13】
ロイコノストック属に属する細菌が、ロイコノストック・メゼンテロイデス、およびロイコノストック・ラクティスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項8に記載の物質。
【請求項14】
ラクトコッカス属に属する細菌が、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、およびラクトコッカス・ラフィノラクティスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項8に記載の物質。
【請求項15】
ペディオコッカス属に属する細菌が、ペディオコッカス・ペントサセウス、およびペディオコッカス・ダムノサスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項8に記載の物質。
【請求項16】
ワイセラ属に属する細菌が、ワイセラ・チバリア、ワイセラ・コンフューザ、ワイセラ・ハロトレランス、ワイセラ・ヘレニカ、ワイセラ・カンドレリ、ワイセラ・キムチイ、ワイセラ・コレエンシス、ワイセラ・ミノール、ワイセラ・パラメセンテロイデス、ワイセラ・ソリ、ワイセラ・タイランデンシス、およびワイセラ・ビリデスセンスからなる群より選択される少なくとも1種の細菌である、請求項8に記載の物質。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の物質を含む、関節炎の予防または改善のための組成物。
【請求項18】
抗炎症作用を有する既存の物質の少なくとも1種をさらに含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記抗炎症作用を有する既存の物質が、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン、脂肪酸、アミノ酸、またはそれらの塩、あるいはそれらの組み合わせ物である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記組み合わせ物が、グルコサミンもしくはその塩、および、コンドロイチンもしくはその塩である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記関節炎が、関節リウマチ、変形性膝関節症、腱鞘炎、肩周囲関節炎、屈腱炎または股関節炎である、請求項1〜20のいずれか一項に記載の物質または組成物。
【請求項22】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の物質または請求項17〜21のいずれか一項に記載の組成物を有効成分として含有する製品。
【請求項23】
飲食品、飼料または医薬品である、請求項22に記載の製品。
【請求項24】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の物質または請求項17〜21のいずれか一項に記載の組成物を飲食品、飼料または医薬品に配合することを含む、関節炎症関連疾患または障害を改善するための製品の製造方法。
【請求項25】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の物質と、抗炎症作用を有する既存の物質の少なくとも1種とを配合することを含む、関節炎の予防または改善効果を増強するための方法。
【請求項26】
前記抗炎症作用を有する既存の物質が、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン、脂肪酸、アミノ酸、またはそれらの塩、あるいはそれらの組み合わせ物である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記組み合わせ物が、グルコサミンもしくはその塩、および、コンドロイチンもしくはその塩である、請求項26に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−158568(P2012−158568A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20765(P2011−20765)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】