説明

関節炎関連遺伝子及びこれの関節炎検査等への利用

本発明は、関節炎、特にリウマチ性関節炎の発症に関与する因子の解明を第一の目的とし、さらに、見出した因子をターゲットとした関節炎治療薬のスクリーニング方法、関節炎治療薬ならびに検査薬を提供することを課題とする。 ミッドカイン遺伝子ノックアウトマウスでは関節炎の発症が野性型マウスに比較して有意に少なかった。また、関節リウマチ患者のほとんどの例では血清中および滑膜液中のミッドカインレベルが高値であった。このことからミッドカイン発現と関節リウマチとの間に強い相関があることが示された。ミッドカイン遺伝子欠損マウスへのミッドカインの投与により、抗体誘導性関節炎の頻度が高まった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、関節炎、とりわけリウマチ性関節炎に関連する因子、ミッドカインタンパク質およびこれをコードした遺伝子に関する。また、本発明はミッドカインを基にした関節炎の検査方法ならびに検査薬に関する。さらに、本発明はミッドカインをターゲットとした関節炎治療用薬剤のスクリーニング方法、および関節炎治療用組成物に関する。
【背景技術】
慢性関節リウマチ(RA)は多発性の関節痛と関節腫脹を主症状とする原因不明の破壊性、進行性の炎症性疾患である。当初は滑膜炎であるが、炎症が軽快と増悪を繰り返して、関節軟骨や骨組織が破壊され、関節の変形と機能障害を生じる。RAは一般的によく知られており、患者数も多い疾患にもかかわらず、病態も病因も解明されていない。診断についても、確定診断を行うためにはアメリカリウマチ学会診断基準(1987年、アメリカリウマチ学会)を4つ以上満たす必要がある。
RAの病因については様々な因子が提唱されている。遺伝子異常、環境因子、感染などが有名で、それらの総合的な影響により、RAは発症、形成されるといわれている。RAの発生機序には種々のサイトカインが関与している。それらの主な役割はリンパ球の活性化、炎症性白血球の移動および破骨細胞の分化にある(Feldmann M.et al.,Annu Rev Immunol 14:397−440,1996)。ケモカインは白血球の移動に関与し、NF−κB活性化受容体リガンド(RANKL)およびM−CSFは破骨細胞の分化に関与する(Yasuda H.et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95:3597−602,1998;Wiktor−Jedrzejczak W.et al.,Proc Natl Acad Sci USA 87:4828−32,1990)。インターロイキン6(IL−6)は主としてリンパ球活性化の段階に作用する(Ishihara K.et al.,Cytokine Growth Factor Rev 13:357−68,2002;Oshima S.et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95:8222−6,1998)。IL−1およびTNF−αはケモカイン合成を誘導し、滑膜細胞および破骨細胞を活性化する(Feldmann M.et al.,Annu Rev Immunol 14:397−440,1996;Feldmann M.et al.,Prog Growth Factor Res 4:247−55,1992;Ji H.et al.,J Exp Med 196:77−85,2002)。さらに、TNF−αはRANKLとは異なる経路によって破骨細胞の分化を誘導することが報告されている(Kobayashi K.et al.,J Exp Med 191:275−86,2000)。IL−17およびIL−18はIL−1およびTNF−αと類似した役割を果たす(Yamamura M.et al.,Arthritis Rheum 44:275−85,2001)。
上記の通りRAは多因子が関与するため、治療は画一的でなく、治療薬の効果も個人差が大きい。RAの治療の目的は、RAの炎症を鎮静化させ、患者の生活の質を維持、向上させることである。そのため、薬物療法、理学療法、生活指導が行われ、関節破壊が著しいときには、膝、股関節などの人工関節置換術が行われる。
RAの治療は薬物療法を基本とし、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)、副腎皮質ステロイドの3種類の薬剤が用いられる。現在は、DMARDsを中心としてNSAIDsおよびステロイドを補助的に用いるという考え方が一般的となっている。
NSAIDsはあくまで対症療法であり、疼痛の緩和を目的とする。RAは長期投与が必要となることが多く、副作用が必ずしも少なくないことから、NSAIDsの服用量は、疼痛の程度に応じて減量する必要がある。
DMARDsは、炎症自体を抑える作用はもたないが、RAの免疫異常を修飾することによってRAの活動性をコントロールする薬剤である。近年、DMARDsの寛解導入作用と関節保護作用が明らかになり、早期からの導入が進められている。特に炎症反応が強く、関節の破壊・変形が進行する症例に適応される。しかし、遅効姓であるため、速効性のあるNSAIDsと組み含わせて用いられることが多い。DMARDsは、効果に個体差が大きいこと、連用しているうちにRAの活動性が亢進してくるエスケープ現象がみられること、副作用が多いこと、効果発現が遅いことなどの特徴があり、使用には注意を要する。特に、血液障害、腎障害、間質性肺炎などの生命に関わる重篤な副作用も少なくない。
ステロイド薬は最も強い抗炎症作用を有する薬剤であるが、長期投与による副作用が問題となるため、安易なステロイド使用は控えるべきであるとされている。少量投与でもステロイドは早期から骨粗鬆症をはじめとする種々の重大な副作用をきたすとの報告も多い。
OICを行っても疾患の活動性、疼痛がコントロールできない場合、手術治療の適応となる。手術は、滑膜切除術、人工関節置換術、関節固定術などが行われる。
最近、TNF−αに対するモノクローナル抗体、ならびにTNF−α受容体およびIL−1受容体に対する拮抗物質がRAに対する治療薬として登場し、有望な成績を上げているが(Weinblatt ME.et al.,Arthritis Rheum 48:35−45,2003;Bresnihan B.et al.,Arthritis Rheum 41:2196−204,1998)、症例によっては副作用、特に感染症が生じている(Slifman NR.et al.,Arthritis Rheum 48:319−24,2003;Wood KL.et al.,Am J Respir Crit Care Med 167:1279−82,2003)。
【発明の開示】
本発明は、関節炎、特にリウマチ性関節炎の発症に関与する因子の解明を第一の目的とし、さらに、見出した因子をターゲットとした関節炎治療薬のスクリーニング方法、関節炎治療薬ならびに検査薬を提供することを課題とする。
本発明者らは、遺伝的背景の異なるマウス間で、リウマチ性関節炎のモデルである抗体による関節炎の発症に差があるかを系統的に調べた。そして、意外にもミッドカイン遺伝子ノックアウトマウスでは関節炎の発症が野性型マウスに比較して有意に少ないことを発見した。ミッドカインは、ヘパリン結合性増殖因子であり、細胞の増殖、移動、生存を促進する成長因子であり(Muramatsu T.,Wiley Encyclopedia Mol.2086−2088,2002;Muramatsu T.,J.Biochem.132:359−371,2002)、その遺伝子はマウスおよびヒトにおいてクローニングされている(特開平9−95454)。ミッドカインは好中球、マクロファージを炎症刺激部位に誘導し、炎症反応の一翼を担う(Takada T.et al.,J.Biochem.122:453−458,1997;Horiba et al.,J.Clin.Invest.105:489−495,2000)。ミッドカインがリウマチ発症に関与すると考え、さらに患者におけるMKの発現レベルを検討したところ、関節リウマチ患者のほとんどの例では血清中および滑膜液中のミッドカインレベルが高値であり、このことからミッドカイン発現と関節リウマチとの間に強い相関があることが示された。ミッドカインは患者の滑膜内のマクロファージ様細胞および線維芽細胞様細胞で発現されていた。ミッドカイン遺伝子欠損マウスへのミッドカインの投与により、抗体誘導性関節炎の頻度が高まった。疾患モデルにおける炎症性白血球の滑膜への移動は、ミッドカイン欠損マウスでは抑制された。さらに、ミッドカインはマクロファージからの破骨細胞の分化を促進することを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものであり、以下の通りである。
〔1a〕関節炎発生に関連する因子であって、下記(a)から(c)のいずれかからなる関節炎関連因子。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(c)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、関節炎誘導活性を有するポリペプチドをコードしたDNA。
〔1b〕関節炎発生に関連する因子であって、下記(a)または(b)のいずれかからなる関節炎関連因子。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、関節炎誘導活性を有するポリペプチド。
〔2〕被検者より採取した試料中のミッドカイン遺伝子の発現を測定する工程を含む、関節炎の検査方法。
〔3〕抗ミッドカイン抗体を含む、関節炎検査用試薬。
〔4a〕下記(a)および(b)工程を含む、関節炎の治療または予防のため薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ミッドカインに被検物質を接触させる工程
(b)前記ミッドカインと被検物質との結合を検出する工程
〔4b〕下記(a)、(b)および(c)工程を含む、関節炎の治療または予防のため薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ミッドカイン遺伝子が発現している細胞に被検物質を接触させる工程
(b)被検物質接触後にミッドカイン遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検物質と接触させていない対照細胞のミッドカイン発現レベルに比べてミッドカイン遺伝子の発現レベルを低下させた被検物質を選択する工程
〔4c〕下記(a)、(b)および(c)工程を含む、関節炎の治療または予防のため薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ミッドカイン遺伝子のプロモータ領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に被検物質を接触させる工程
(b)被検物質接触後にレポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる被検物質を選択する工程
〔5〕ミッドカイン遺伝子の発現を抑制し得るオリゴヌクレオチドを有効成分とする関節炎予防または治療用組成物。
〔6〕抗ミッドカイン抗体を有効成分とする、関節炎予防または治療用組成物。
【図面の簡単な説明】
図1は、RA患者由来の標本におけるMK発現レベルを示す図である。A、RA患者(n=55)またはOA(骨関節炎)患者(n=18)由来の滑膜液中のMKに関する酵素イムノアッセイ。破線はカットオフレベル332pg/mlを示し、これはOA患者における最も高いMK値に対応する。RA患者を、リウマトイド因子に関して強陽性の例[RF(++)](n=26)、この因子に関して中等度に陽性の例[RF(+)](n=11)およびRFに関して陰性の例[RE(−)](n=18)に分類した。B、RA患者の血清中のMKに関する酵素イムノアッセイ。破線はカットオフレベル600pg/mlを示しており、これは過去の研究で設定されたものである(Muramatsu H.et al.,J Biochem 119:1171−5,1996;Ikematsu S.et al,Brit J Cancer 83:701−6,2000)。RA患者をRE(++)(n=51)、RE(+)(n=37)およびRE(−)(n=32)患者に分類した。
図2はRA患者の炎症性滑膜におけるMK発現を示す写真である。A、抗マクロファージ(CD68)抗体および抗MK抗体による組織切片の二重染色。抗MK抗体による赤血球染色が対照染色(抗MK抗体を用いずに、すなわち抗MK抗体を吸収して行った染色)で観察され、これは非特異的であった。滑膜はある女性患者(62歳、ステージ4、グレード5)から得た。a.c.:関節腔、b.v.:血管、バー:200μm。B、滑膜由来の線維芽細胞様細胞またはマクロファージ様細胞を2ウェルチェンバースライド上で増殖させ、抗MK抗体によって染色した。バー:100μm。
図3は、Mdk−/−では抗体媒介性関節炎が抑制された結果を示す写真である。A、抗II型コラーゲン抗体の注入から7日後のWT(野生型)またはMdk−/−の肢の代表的な写真。B、抗体注入後第0、2、5および7日の時点でHE(ヘマトキシリン−エオジン)または抗MK抗体により染色した前肢関節の切片。MK発現は滑膜細胞、特に関節腔内壁の細胞(矢印)で観察された。図中Bは骨、Sは滑膜細胞。矢印はMdk−/−における滑膜細胞を示す。バー;200μm。枠で囲んだ領域を以下に示した2枚の写真で拡大している。
図4は抗体誘発性関節炎における血清サイトカインレベルおよび浸潤白血球数を示す図である。A、WTにおける血清MKレベル。B、WTまたはMdk−/−における血清TNF−αレベル。C、WTまたはMdk−/−の滑膜内のマクロファージ数。D、WTまたはMdk−/−の滑膜内の好中球数。好中球およびマクロファージの数はランダムに選択した3つの視野(400倍)について算定し、その平均値を示している。第2日〜第7日は抗体投与後の日数を表す。*p<0.05。黒のバー、WT;白抜きバー、Mdk−/−。
図5はMKがマクロファージから破骨細胞への分化を促進することを示す図および写真である。A、RA患者(女性、62歳、ステージ4、グレード5)の滑膜由来のマクロファージ様細胞を諸因子とともに培養し、TRAP染色を行った。MKは単独で、またはM−CSFおよびRANKLとの併用下で、ヒトマクロファージ様細胞からのTRAP陽性細胞の分化を促進した。B、ヒトマクロファージ様細胞からの破骨細胞の分化はMK単独で、またはそれとRANKLおよびM−CSFとの併用下で促進された。多核性TRAP陽性細胞を破骨細胞とみなした。C、諸因子とともに培養することによって滑膜のマクロファージ様細胞から分化したTRAP陽性細胞の代表的な写真。バー:50μm。D、RANKLによる、またはRANKLおよびM−CSFによるマウスマクロファージからの破骨細胞の分化はMKにより増強された。「50」および「100」は濃度をng/ml単位で示したものである。*、p<0.05;**、p<0.01。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の第一の側面として、関節炎発生関連因子が提供される。上述したように従来、ミッドカインは細胞の増殖や分化に関与し、ヒト癌の発生にも関与することから注目されているが、本願発明者らは、ミッドカインの新たな機能として、関節炎の発生・誘導に関与することを見出した。すなわち、本発明の関節炎発生に関連する因子はミッドカイン遺伝子またはミッドカインポリペプチドである。
関節炎関連因子としてのミッドカイン遺伝子は、好適には、配列番号:1に示すヒトミッドカイン遺伝子を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、ミッドカイン遺伝子と同等に関節炎を発生・誘導し得るタンパク質をコードした類似のDNAも「関節炎関連因子」としてのミッドカイン遺伝子に含まれる。配列番号1に記載のDNAと機能的に同等な配列は、同種由来の変異体や異種由来のミッドカイン遺伝子ホモログ、又はこうした天然に得られる遺伝子を人工的に合成若しくは改変したものなどが含まれる。例えば、既に報告されているマウスミッドカイン遺伝子(Kadomatu,K.,et al.,Biochem.Biophy.Res.Commun.,151,1312(1988))は配列番号1に記載のDNAと機能的に同等な配列の一例であり、本発明の関節炎関連因子としてのミッドカイン遺伝子に含まれる。
このような配列番号1に記載のDNAと機能的に同等の配列は、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNAや、配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ関節炎誘導活性を有するポリペプチドをコードしたDNAを挙げることかできる。
上記配列番号:1に記載のヒト由来のミッドカイン遺伝子の調製は、ヒトcDNAライブラリーより配列番号:1に記載された配列またはその一部と相同性の高い配列を保持するクローンを選択し、選択されたクローンより回収することにより実施することができる。ミッドカイン遺伝子を得るためのヒトcDNAライブラリーは、たとえば、ヒトの腎臓、ヒトの胎児の腎臓、脳、結合組織又はこれらの培養細胞由来トータルRNAに基づき構築されたものを用いることができる。また、天然から取得する以外に、配列番号:1に記載の配列に基づいてDNA合成器により合成してもよい。
また、配列番号1に記載のDNAと機能的に同等の配列の調製は、ヒト以外の哺乳動物細胞(例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ブタ、ウシ)由来のcDNAライブラリーより配列番号:1記載の配列またはその一部とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするクローンを選択することにより実施することができる。ハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。例えば、ハイブリダイゼーションの条件として、好ましくは、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られると期待される。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
また、配列番号1に記載のDNAと機能的に同等の配列の調製は、上述のように天然に存在するものから選抜する方法の他に、配列番号:1に記載の配列からなるDNAを適宜、遺伝子工学的に改変して調製することもできる。
関節炎関連因子としてのミッドカインポリペプチドは、好ましくは、配列番号2に示すヒトミッドカインポリペプチドを挙げることができるが、これに限定されるものではなく、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、関節炎誘導活性を有するポリペプチドを含めることができる。
上記ミッドカインと機能的に同等なポリペプチドは、通常、ミッドカインとアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、BLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)などによって決定することができる。
配列番号:2に示すミッドカインのアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなり、該ポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドもまた本発明に含まれる。変異するアミノ酸数は、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、より好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内)であり、さらに好ましくは2アミノ酸以内である。これら変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えば、アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
配列番号:2に示すミッドカインの調製は、配列番号:1記載のMK遺伝子配列を発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のMKタンパクを公知の方法で精製し、この精製MKタンパクを感作抗原として用いればよい。またはミッドカインを発現している細胞から細胞破砕液を調製し、後述する抗ミッドカイン抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーなどにより単離してもよい。
一方、ミッドカインと機能的に同等なポリペプチドを調製するためには、当業者によく知られた方法としてポリペプチドに変異を導入する方法がある。例えば、部位特異的変異誘発法(Gotoh,T.et al.(1995)Gene 152,271−275、Zoller,MJ,and Smith,M.(1983)Methods Enzymol.100,468−500、Kramer,W.et al.(1984)Nucleic Acids Res.12,9441−9456、Kramer W,and Fritz HJ(1987)Methods.Enzymol.154,350−367、Kunkel,TA(1985)Proc Natl Acad Sci USA.82,488−492、Kunkel(1988)Methods Enzymol.85,2763−2766)などを用いて、配列番号:1に示す配列に変異を導入し、これを上記と同様に発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させて、形質転換体から回収することにより、ミッドカインと機能的に同等なポリペプチドを調製してもよい。
上記関節炎関連因子は、関節炎を発生、誘導し得る活性を保持しているため、例えば、関節炎モデル動物を作製する際の関節炎誘導剤として利用し得る。また、上記ミッドカインは、炎症性白血球などの炎症細胞の移動や破骨細胞の増殖等のようなリウマチ性関節炎で見られる現象を誘導し得ることから、特に、リウマチ性関節炎を誘導するための試薬として研究分野等で利用することができる。
本発明の第二の側面として、被検者より採取した試料中のミッドカイン遺伝子の発現を測定する工程を含む関節炎の検査方法が提供される。
ミッドカインは後述の実施例でも説明するように、関節炎を誘発し得るTNF−αとは異なる側面から関節炎の発生に関与することが予想される。従って、患者における関節炎の発生原因を調査し、患者に対して適切な処理を行うためには、関節炎の検査としてミッドカイン遺伝子の発現を測定することが有用となる。
被検者より採取される試料としては、例えば、血液または滑膜組織などを用いることができる。
ミッドカイン遺伝子発現の測定における第一の態様として、翻訳産物であるミッドカインタンパク質を測定する。先ず、上述した被検者の試料よりタンパク質試料を調製する。次いで、該タンパク質試料からミッドカインタンパク質量を測定する。測定されたタンパク質量を健常者などのミッドカイン発現量に基づいた対照値などと比較する。この比較の結果、被検者のミッドカインタンパク質が対照に比べて有意に上昇している場合には、関節炎発症原因としてミッドカインが関与している可能性または関節炎を発症し得る素因が予測できる。
上記ミッドカインタンパク質の測定は、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、並びにミッドカインタンパク質に対する抗体を用いた、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、および免疫蛍光法を例示することができる。
また、ミッドカイン遺伝子の発現を測定するための別の方法としては、転写産物であるミッドカインmRNAまたはcDNAを測定する。先ず、上記被検者試料からトータルRNA試料を調製する。トータルRNAの調製は、当業者に周知の方法で行うことができる。例えば、トータルRNA調製用のキット”Isogen”(ニッポンジーン社)を用いて実施することができる。次いで、該トータルRNA試料に含まれるミッドカインmRNA量を測定する。測定されたRNAの量を対照と比較する。
別の態様としては、被検者試料からcDNA試料を調製する。cDNA試料の調製は、上述したトータルRNAを鋳型として、逆転写酵素を用いてcDNAの合成を行うことで実施し得る。次いで、該cDNA試料に含まれるミッドカインcDNA量を測定する。測定されたcDNAの量を対照と比較する。
これらmRNAやcDNAを基に遺伝子発現を測定する方法としては、当業者に周知の方法、例えばノーザンブロッティング法、RT−PCR法、DNAアレイ法等を挙げることができる。例えば、DNAアレイ法においては、被検者から調製したRNAを鋳型としてcDNA試料を調製し、ミッドカイン遺伝子(例えば、配列番号:1)の一部配列を含むオリゴヌクレオチドが固定された基板と接触させ、該cDNA試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出することにより、該cDNA試料に含まれるミッドカイン遺伝子の発現量が測定される。ヌクレオチドプローブと該cDNAとのハイブリダイズの強度の検出は、cDNA試料を標識した物質の種類に応じて当業者において適宜行うことができる。例えば、cDNAが蛍光物質によって標識されている場合、スキャナーによって蛍光シグナルを読み取ることによって強度すなわち遺伝子発現を検出することができる。
上記検査方法によれば、個別の患者において関節炎の発症にミッドカインが関与しているか否かを判定することができる。特に、リウマチ性関節炎の場合には、患者の多数においてミッドカイン遺伝子の発現が上昇し、ミッドカインが関節炎発生に関与していることが示唆されている。そのため、本検査方法は関節炎、特にリウマチ性関節炎の原因因子の特定に有用である。
本発明の第三の側面として、関節炎の検査方法に用いるための検査薬が提供される。このような検査薬としては、上記検査方法に使用し得るミッドカイン遺伝子の一部配列を含むオリゴヌクレオチドを主成分とする検査薬(オリゴヌクレオチドプローブが固定された基板を含む)や、抗ミッドカイン抗体を含む検査薬が挙げられる。これら抗体やオリゴヌクレオチドは、検査方法に応じて、標識が付加されていてもよい。
上記検査薬としての抗ミッドカイン抗体は、例えば、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、ミッドカインを検出し得る抗体であればよい。例えば、ポリクローナル抗体であれば、既に本願発明者らにより開発されている抗体を用いてもよい(Muramatsu H.et al.,Dev.Biol.159:392−402,1993)。モノクローナル抗体もまた既に開発されており(特開2002−085058)、これを好適に利用することができる。
ミッドカインに対する特異抗体の作製は、公知の方法に準じて実施することができる。モノクローナル抗体は、例えば、配列番号:2に示したヒトミッドカインポリペプチド全体を感作抗原として、または抗原性を保持し得る長さを有する一部配列を感作抗原として用いて作製してもよい。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には、ケーラーとミルスタインの方法(Kohler G.& C.Milstein,Nature 256:495−497,1975)に準じて、以下のようにして作製できる。すなわち、上述したMKタンパク質またはその一部を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法に従って免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナル抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般には、齧歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を免疫動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBSや生理食塩水等で適量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、免疫動物に14〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。このようにして免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後、免疫動物から免疫細胞(好ましくは、脾細胞など)を取り出し、細胞融合に付す。
上記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられ、こうしたミエローマ細胞は、例えばP3(P3x63Ag8,653)(Kearny J.F.et al.,J.Immunol.123:1548−1550,1979)、P3x63Ag8U.1(Yelton D.E.et al.,Current Topics in Microbiology 81:1−7,1978)、NS−1(Kohler G.& Milstein,C.,Eur.J.Immunol.6:511−519,1976)、SP2/0(Shulman M.et al.,Nature,276:269−270,1978)、FO(de St.Groth S.F.& Scheidegger D.J.Immunol.Methods,35:1−21,1980)、S194(Trowbridge I.S.,J.Exp.Med.148:313−323,1978)、R210(Galre G.et al.,Nature,277:131−133,1979)、等が好適である。
上記免疫細砲とミエローマ細胞の細胞融合は、基本的には、公知の方法、例えば、ミルステインらの方法(Galfre G.& Milstein C.,Methods Enzymol.73:3−46,1981)等に準じて行うことができる。具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス等が使用され、さらに、融合効率を高めるため、ジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することができる。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して、免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。細胞融合に用いる培養液としては、例えば、ミエローマ細胞株に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補助液を併用することもできる。
細胞融合は、免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を上記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を、通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を遂次添加し、遠心して、上清を除去する操作を繰り返すことにより、ハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去される。
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日から数週間継続する。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマスクリーニング及び単一クローニングが行われ、モノクローナル抗体を産生する細胞が調製される。このようにモノクローナル抗体は、ポリクローナル抗体のように他の免疫グロブリンが混在していないハイブリドーマ培養により生成されるため、精製が容易であり、また特異性が高い。
上記本発明の検査薬によれば、特異的にミッドカインタンパク質やmRNAなどのミッドカイン遺伝子産物を検出することができることから、患者試料を基に患者におけるミッドカイン遺伝子の発現を検出することが可能となる。そのため、本発明の検査薬は、患者における関節炎の発症にミッドカイン遺伝子の発現が関与しているか否かを判定するために大いに役立つ。
本発明の第四の側面として、関節炎の治療または予防のため薬剤の候補化合物のスクリーニング方法が提供される。関節炎の発症機序には、TNF−αとは異なる側面からミッドカインが関与していることが予想されている。特に、TNF−αに対する抗体を用いた治療が必ずしもすべての患者に対して有効ではないことから、更に新たな標的となる原因因子に対する薬剤が要望される。また、リウマチ性関節炎患者の多数の場合において、ミッドカインの発現が亢進していることからも、ミッドカインを標的とし、この活性を抑制する薬剤またはこの遺伝子の発現を抑制する薬剤は関節炎の治療または予防のための薬剤の重要な候補化合物となることが期待される。
本発明の関節炎の治療または予防のため薬剤の候補化合物のスクリーニング方法における第一の態様は、(a)ミッドカインとこれに結合する化合物を含むと予想される被検試料とを接触させ、(b)該ポリペプチドと被検試料との結合活性を検出し、そして本発明のポリペプチドに結合する活性を有する化合物を選択することが含まれる。
スクリーニングに用いられるミッドカインポリペプチドは、組換えポリペプチドであっても、天然由来のポリペプチドであっても、あるいは部分ペプチドであってもよい。ミッドカインポリペプチド形態は、例えば、精製したポリペプチドとして、担体に結合させた形態として、他のポリペプチドとの融合ポリペプチドとして、後述する被検試料に接触させることができる。被検試料としては特に制限はなく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製ポリペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物が挙げられる。
ミッドカインポリペプチドと被検物質との結合を解析する方法としては、例えば、免疫沈降法(Harlow,E.and Lane,D.:Antibodies,pp.511−552,Cold Spring Harbor Laboratory publications,New York(1988))、ウエストウエスタンブロッティング法(Skolnik,E.Y.et al.,Cell(1991)65,83−90)、2−ハイブリッドシステム(Fields,S.and Sternglanz,R.,Trends.Genet.(1994)10,286−292、Dalton S,and Treisman R(1992)Characterization of SAP−1,a protein recruited by serum response factor to the c−fos serum response element.Cell 68,597−612、「MATCHMARKER Two−Hybrid System」,「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」,「MATCHMAKER One−Hybrid System」(いずれもクロンテック社製)、アフィニティークロマトグラフィーを用いた解析方法などが挙げられる。これら方法は、被検物質がポリペプチドである場合に、該ポリペプチドとミッドカインとの結合を検出する際に有効である。
上記各方法の概要は次の通りである。免疫沈降法では、ミッドカインポリペプチドと、被検物質とを接触させる。その後、抗ミッドカイン抗体を添加し、ミッドカインと抗体との免疫複合体を形成、沈降させる。被検物質がミッドカインと結合する場合には、被検物質は免疫複合体とともに沈降する。沈降した免疫複合体をSDS−PAGE等により解析することにより、被検物質がミッドカインに結合しているか否かを移動度に基づき検出、さらには被検物質の分子量の予測も行うことができる。
ウエストウエスタンブロッティング法では、被検物質であるポリペプチドを発現していることが予想される細胞、組織よりcDNAライブラリーを作製し、このライブラリーの各クローンを発現させ、発現産物であるポリペプチドをフィルターに固定する。このフィルターに、精製して標識したミッドカインポリペプチドを接触させる。ミッドカインの標識に基づいて、ミッドカインと結合したポリペプチドを発現するクローンが検出される。
2−ハイブリッドシステムでは、ミッドカインまたはその部分ペプチドをSRF DNA結合領域またはGAL4 DNA結合領域と融合させて酵母細胞の中で発現させる。一方、被検物質であるポリペプチドを発現している細胞より、VP16またはGAL4転写活性化領域と融合する形で発現するようなcDNAライブラリーを作製し、これを上記酵母細胞に導入し、被検物質を発現、ミッドカインと接触させる。酵母細胞内で被検物質とミッドカインとは結合するとレポーター遺伝子が活性化される。このレポーター遺伝子の発現に基づいて、被検物質とミッドカインとの結合が検出される。なお、2−ハイブリッドシステムにおいて用いられるレポーター遺伝子は、例えば、HIS3遺伝子の他、Ade2遺伝子、LacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、PAI−1(Plasminogen activator inhibitor type1)遺伝子等が挙げられるが、これらに制限されない。2−ハイブリッド法によるスクリーニングは、酵母の他、哺乳動物細胞などを使って行うこともできる。
アフィニティークロマトグラフィーを用いた検出方法としては、例えば、ミッドカインを固定した担体と被検物質であるポリペプチドを接触させる。接触後、担体を洗浄し、担体上に結合している物質を解析する。なお、このアフィニティークロマトグラフィーはバッチ法で行うこともできる。
また、被検物質が低分子化合物などの場合には、例えば、固定したミッドカインに、合成化合物、天然物バンク、もしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーを作用させ、本発明のポリペプチドに結合する分子をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニング方法(Wrighton NC;Farrell FX;Chang R;Kashyap AK;Barbone FP;Mulcahy LS;Johnson DL;Barrett RW;Jolliffe LK;Dower WJ.,Small peptides as potent mimetics of the protein hormone erythropoietin,Science(UNITED STATES)Jul 26 1996,273 p458−64、Verdine GL.,The combinatorial chemistry of nature.Nature(ENGLAND)Nov 7 1996,384 p11−13、Hogan JC Jr.,Directed combinatorial chemistry.Nature(ENGLAND)Nov 7 1996,384 p17−9)が当業者に公知である。
また、被検物質がポリペプチド、低分子化合物のいずれにおいても、ミッドカインと被検物質との結合を検出又は測定する手段として表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは、ミッドカインと被検物質との間の相互作用を微量のポリペプチドを用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である(例えばBIAcore、Pharmacia製)。したがって、BIAcore等のバイオセンサーを用いることにより本発明のポリペプチドと被検物質との結合を評価することが可能である。
本発明のスクリーニングおいて、ミッドカインとの結合が検出された物質は、ミッドカインの活性を調節するための薬剤の候補となる。この中でもミッドカインの活性を抑制し得る物質は関節炎、特にリウマチ性関節炎の予防または治療薬に応用し得る。なお、上記スクリーニング方法により選択された物質が、ミッドカインの活性を阻害し得るか否かは、後述する実施例に示した、炎症性白血球などの炎症細胞の滑膜への移動、関節炎の誘導などに基づいて簡便に解析することができる。すなわち、ミッドカインは炎症細胞を滑膜へ移動させる活性を有するが、この活性を阻害するか否かによりミッドカイン活性を阻害し得る物質をさらにスクリーニングすることができる。または、実施例に示した抗体カクテルを用いた関節炎誘導の際に、スクリーニングで選択された物質を投与することにより、関節炎の発症が抑制されるか否かに基づいて、解析することもできる。
関節炎の治療または予防のため薬剤の候補化合物のスクリーニング方法における第二の態様は、ミッドカイン遺伝子が発現している細胞に被検物質を接触させ、被検物質接触後にミッドカイン遺伝子の発現レベルを測定し、ここで被検物質と接触させていない対照細胞のミッドカイン発現レベルに比べてミッドカイン遺伝子の発現レベルを低下させた被検物質を選択するものである。このスクリーニング方法によれば、ミッドカイン遺伝子の発現を抑制し得る化合物を選択することができる。
ミッドカイン遺伝子が発現している細胞としては、特に限定はなく、内在ミッドカイン遺伝子が発現している細胞系、または発現ベクターにミッドカイン遺伝子を連結して外来より導入されたミッドカイン遺伝子が発現している細胞系のいずれでもよい。被検物質は上記第一の態様と同様である。
上記被検物質とミッドカイン遺伝子が発現している細胞とを接触させる。接触は、被検物質が低分子化合物のような場合には、細胞の培養液中に添加することにより行うことができる。また、被検物質が、ポリペプチドなどの場合には被検物質であるポリペプチドをコードしたDNAを発現ベクターに載せて、細胞内に導入することにより、被検物質をミッドカイン遺伝子に接触させる。
接触後、ミッドカイン遺伝子の発現を測定する。ミッドカイン遺伝子の発現は、上述した検査方法と同様に、ミッドカインタンパク質またはミッドカインmRNAを測定することにより行うことができる。
被検物質存在下のミッドカイン遺伝子の発現レベルが、被検物質非存在下の対照ミッドカイン遺伝子発現レベルと比較して、低下しているものを「関節炎の治療または予防のため薬剤の候補化合物」として選択する。
上記方法では、ミッドカイン遺伝子の発現を検出するために、ミッドカインタンパク質またはミッドカインmRNAを抗体やオリゴヌクレオチドを用いて検出する工程が必要となるが、この工程を簡略化するために、ミッドカイン遺伝子のプロモータ領域にレポーター遺伝子を接続させ、レポーター遺伝子の発現を直接モニターする系を構築してもよい。すなわち、スクリーニング方法の第三の態様は、ミッドカイン遺伝子のプロモータ領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に被検物質を接触させ、被検物質接触後にレポーター遺伝子の発現レベルを測定し、レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる被検物質を選択することから構成される。
ミッドカイン遺伝子のプロモータ領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを調製する。ここで「機能的に結合した」とは、ミッドカイン遺伝子のプロモータ領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、ミッドカイン遺伝子のプロモータ領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。
次いで、上記細胞または上記細胞抽出液に被検化合物を接触させる。次いで、該細胞または該細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−グルクロニド(X−Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
被検物質存在下における上記レポーター遺伝子の発現レベルが対照の被検物質非存在下の発現レベルと比較して低下している場合には、その物質を候補物質として選択する。
上記スクリーニングにおいて選択された物質は、ミッドカインの発現を抑制することにより関節炎を予防または治療するための薬剤となり得る。特に、ミッドカインはリウマチ患者の多くで発現が亢進していることから、本スクリーニングで選択された物質はリウマチ性関節炎の予防・治療薬の有力な候補物質となる。
本発明の第五の側面として、ミッドカイン遺伝子の発現を抑制し得るヌクレオチドを有効成分とする関節炎予防または治療用組成物が提供される。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、本発明のポリペプチドの産生細胞に作用して、該ポリペプチドをコードするDNA又はmRNAに結合することにより、その転写又は翻訳を阻害、またはmRNAの分解を促進することにより、本発明のポリペプチドの発現を抑制する。実施例においてミッドカイン遺伝子のノックアウトマウスを用いた解析結果では、ミッドカイン遺伝子の発現を阻止・抑制することにより関節炎の発生が著しく抑制された。従って、ミッドカインの発現を抑制し得るヌクレオチドまたはその誘導体は、関節炎の予防または治療用の薬剤として有用となる。
ミッドカイン遺伝子の発現を抑制し得るヌクレオチドの第一の態様としては、ミッドカイン遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、配列番号:1の塩基配列中のいずれかの箇所にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは配列番号:1の塩基配列中の連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。さらに好ましくは、連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドが翻訳開始コドンを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的となるミッドカインDNA又はmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドが全て相補配列であるもののみならず、オリゴヌクレオチドと配列番号:1に示される塩基配列に特異的にハイブリダイズできる限り、1又は複数個のヌクレオチドのミスマッチが存在しているものも含まれる。
ミッドカイン遺伝子発現を抑制し得るアンチセンスオリゴヌクレオチドの分子設計については、例えば、ミッドカインmRNAの一次配列を基に、最小のエネルギーを持つ二次構造をコンピュータープログラムで予測する。この予測される二次構造に基づいて、塩基対を作らないループ部分をアンチセンスオリゴヌクレオチド配列候補として選択することができる。一例を示せば、ヒトミッドカインのmRNA(GenBank Accession No.M69148:Tsutsui J.et al.Biochem.Biophys.Res.Commun.,176:792−797,1991)の二次構造予測をコンピュータ解析により行うと、(ヒトMK mRNA配列の塩基番号15番目から32番目に基づく)(配列番号:3)、および5’末端近傍でループを作らない配列に対応するアンチセンスDNA、(ヒトMK mRNA配列の塩基番号1番目から18番目に基づく)(配列番号:4)を設計することができる。

しかし、本発明のオリゴヌクレオチドは上記具体的に示された配列に限定されるものではく、配列番号:1の配列に基づいて、適宜設計することができる。そして、設計されたアンチセンスオリゴヌクレオチド配列がMKの発現抑制活性を有するか否かの判定は、次の通り行うことができる。アンチセンスオリゴヌクレオチド配列を持つ物質を、ミッドカインを合成分泌している細胞に投与し、培養液中に分泌されるMKを免疫生化学的に定量する。ミッドカインの免疫生化学的定量法としては酵素免疫法(Muramatsu,H.et al.:J.Biochem.,119:1171−1175,1996)あるいはSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後のウェスタンブロッティング(Muramatsu,H.et al.:Dev.Biol.,159;392−402,1993)そしてデンシトメーターによる定量がある。この定量によりミッドカイン遺伝子産物の産生を低下させ得るアンチセンスオリゴヌクレオチドはミッドカインの遺伝子発現を抑制し得るものとして選択することができる。
また上記「オリゴヌクレオチド」という用語は、DNAおよびRNAのデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチド構造のような天然に存在するオリゴマーの核酸部分、ならびに天然に存在する核酸に結合する能力のある人工アナログの両方を包含する。人工アナログとしては、例えばメチルホスホネート型又はエチルホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾体、ホスホロチオエート修飾体又はホスホロアミデート修飾体、モルホリノ修飾体、逆向きチミジン修飾体等が挙げられる。したがって、上記設計されたオリゴヌクレオチドは必要に応じて、これらいずれかにより修飾されてもよい。こうした修飾体は既に開発されており、既に開発されている修飾体を本発明の関節炎治療薬に応用してもよい。例えば、モルホリノ修飾体は特開2003−210170に、ホスホロチオエート修飾体は特開2002−142778に、逆向きチミジン修飾体は特開2003−210171に開示されている。
これら修飾体のうちホスホジエステル結合したオリゴヌクレオチドは、血清でまたは細胞内部でヌクレアーゼの作用を特に受けやすい。そのため本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの好適な態様としては、ヌクレアーゼ抵抗性であるホスホロチオエート結合あるいはメチロホスホネート結合したアナログなどである(Stein et al.,Cancer Research 48:2659,1998)。
なお、このようなオリゴヌクレオチドの人工アナログは、当業者らに周知の方法、例えば、市販の機械およびPerkin−Elmer/Applieds Biosystem(Foster City,CA)より入手できる試薬を用いる方法によって調製することができる。
本発明の他の態様において、このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドそのものの形態でなくともよく、例えば、発現ベクターなどに搭載させた発現構築物として標的細胞を感染させた後にアンチセンスRNA分子として生成させてもよい。
上記アンチセンスオリゴヌクレオチドは標的となるmRNAとハイブリッドを形成して、相応する遺伝子産物の発現を多重機構で阻害する。「翻訳停止」状態では、標的mRNAのタンパク質への翻訳が阻止される(Haeuptle et al.,Nucl.Acids.Res.14:1427,1986)。ホスホジエステルDNAまたはホスホロチオエートDNAオリゴヌクレオチドなどの場合では、標的となるRNA配列がそのDNAオリゴマーにハイブリダイズするとすぐに、細胞内RNase Hがその標的RNA配列を消化することができる(Walder & Walder,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.85:5011,1988)。
「翻訳停止」状態におけるさらなる作用機構としては、ある種のオリゴヌクレオチドは、目的の遺伝子を含む二本鎖の標準的なゲノムDNAとともに「トリップレクス」すなわち三重らせん構造を形成することが可能で、それによってRNAポリメラーゼによる転写が妨げられることも明らかになっている(Giovannangeli et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.90:10013,1993)。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは患者の患部に直接適用するか、又は血管内に投与するなどして結果的に患部に到達し得るように患者に適用する。さらには、持続性、膜透過性を高めるアンチセンス封入素材を用いることもできる。例えば、リポソーム、ポリ−L−リジン、リピッド、コレステロール、リポフェクチン又はこれらの誘導体が挙げられる。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体の投与量は、患者の状態に応じて適宜調整し、好ましい量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲で投与することができる。
ミッドカイン遺伝子の発現を抑制するヌクレオチドの第二の態様としては、ミッドカイン遺伝子を標的としたdsRNAである。
「ミッドカイン遺伝子を標的としたdsRNA」とは、ミッドカイン遺伝子の発現をRNA干渉(RNAi)により抑制し得るdsRNAを意味する。ミッドカイン遺伝子発現をRNAi干渉で抑制するためのdsRNAは、一方の鎖は少なくともミッドカインmRNAと相補する配列を備える。発現抑制し得る部位であれば、ミッドカインmRNAのいずれの領域において相補関係を有してもよい。また、この相補性は、RNAiを誘導しミッドカイン遺伝子発現を抑制し得る限り、完全である必要はなく、標的配列との間で数塩基程度のミスマッチを有しても良い。
dsRNAは、人工的に合成されたdsRNAそのもの、あるいは発現ベクターにより哺乳動物細胞内で発現させたdsRNAの双方の形態を採用することができる。
dsRNAを人工的に合成し、哺乳動物細胞に導入する場合、発現ベクターからdsRNAを発現させる場合のいずれの場合にも、長鎖dsRNAによる哺乳動物細胞への細胞毒性を考慮する必要がある。そのため、人工的に合成したdsRNA(以下「合成dsRNA」という)、発現により結果生成されるdsRNAのいずれも、鎖長は例えば19〜30塩基対とすることがよいが、これよりも長いdsRNAであっても細胞毒性を与えないものであれば用いることができる。
上記ミッドカインmRNAを標的としたdsRNAは、生体内でミッドカインmRNAと対合し、生体内の酵素によりミッドカインmRNAの切断を誘導する。そのため、ミッドカインのmRNAからタンパク質への翻訳を阻害し、結果としてミッドカインの発現を抑制し、関節炎発症を抑制することが可能となる。
本発明の第六の側面として、抗ミッドカイン抗体を有効成分とする、関節炎予防または治療用組成物が提供される。
ミッドカインの作用を抑え得る既に開発されている抗ミッドカイン抗体(Muramatsu H.et al.,Dev.Biol.159:392−402,1993)を本発明の関節炎治療・予防用に応用してもよい。また、ヒトミッドカインに対するモノクローナル抗体も開発されており(特開2002−085058)、これを応用してもよい。しかし、本発明の抗体はこれら既に報告されている抗体に限定されるものではなく、上記検査方法において説明した抗ミッドカイン抗体の作製方法により作製された抗ミッドカインポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いることもできる。
また、治療剤に使用するミッドカイン抗体は組み換え型抗体や改変抗体を用いることも有効である。組み換え型抗体としては、例えば、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んでこれを宿主に導入し、遺伝子組み換え技術を用いて産生させた組み換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C.A.K.& Larrick J.W.,THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES,Published in the United Kingdom MACMILLAN PUBLISHERS LTD,1990)。改変抗体としては、例えばキメラ抗体、ヒト型化抗体が使用できる。キメラ抗体は、ヒト抗体以外の抗体V領域をコードするDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとを連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し、産生させることにより得ることができる(EP 125023,PCT WO96/02576)。
本発明で使用される抗体は、ミッドカインに結合しミッドカインの活性を阻害するかぎり、抗体の断片や修飾物であってもよい。例えば、抗体の断片として、Fab、F(ab’)、FvまたはH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェイン Fv(scFv)が挙げられる。
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
57BL/6バックグランドの6−8週令の野生型およびミッドカイン遺伝子ノックアウトマウスを使用した。ミッドカイン遺伝子ノックアウトマウスは既に報告されている方法に従って創生された(Nakamura et al.,Gene to Cells,3:811−822,1998)。このMKノックマウスおよび対照の野生型マウスにおいて関節炎の誘導を試みた。両マウスに8mgの抗コラーゲンモノクローナル抗体カクテル(岩井化学)を注射し、2日後同様に皮下注射した。さらに二日後500μg/mlのリポ多糖を100μl腹腔内注射した。操作の詳細はTeroto K.らの報告(J.lmmunol,148:2108,1992)に従った。最初の注射から7日目に関節のいずれかが腫れ、発赤すれば関節炎発症(+)、そのような現象が起こらない時は発症(−)と判定した。

上記ミッドカイン遺伝子ノックアウトマウスと対照の野生型マウスで、抗体による関節炎の発症を比較すると、ノックアウトマウスでは著しく低下していた(表1)。ノックアウトマウスと野生型マウスの間では、ミッドカインの存在の有無のみが異なるので、ミッドカインの発現を抑えるか、作用を抑えれば、リウマチの治療が可能になることが示唆された。
〔実施例2〕 RA患者からの標本におけるMKレベルの上昇
患者から得た試料を用いてMK発現とRAとの相関を調べた。本実施例では患者試料として、RAまたは変形性関節症(OA)の患者から滑膜液および血清の試料を採取した。滑膜液はRA患者およびOA患者の膝関節から治療プログラムの一環として吸引した。患者は全例、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology)(旧米国リウマチ協会(American Rheumatism Association))による1987年のRA基準を満たした。患者は全例、非ステロイド性抗炎症薬および疾患修飾性抗リウマチ薬による治療を受けていた。RA患者145例の平均年齢は63.1歳であった(17〜85歳の範囲);OA患者18例の平均年齢は67.2歳であった(54〜78歳の範囲)。ほとんどのRA患者に対してLarsenのグレード分類およびステージ分類(米国リウマチ学会)を行った。各グレードの患者数は以下の通りである:グレード1、10;グレード2、24;グレード3、27;グレード4、41;グレード5、49。各ステージの患者数は以下の通りである:ステージ1、23;ステージ2、34;ステージ3、42;ステージ4、52。標本(手術標本を含む)を採取した患者の全例から、名古屋大学審査委員会により承認されたインフォームドコンセント文書への記載および署名を得た。
MK濃度は報告されている方法の通り、上記患者由来の滑膜液および血清の固相酵素免疫アッセイによって測定した(Muramatsu H.et al.,J Biochem 119:1171−5,1996)。すなわち、アフィニティー精製したウサギ抗ヒトMK抗体(Muramatsu H.et al.,J Biochem 119:1171−5,1996)をマイクロタイタープレートの壁に吸着させた後に、MKを含む試料溶液をウェルに添加した。続いて、ビオチン化抗ヒトMK抗体を添加し、吸着したビオチン標識抗体を、アビジン標識したβ−ガラクトシダーゼおよびその蛍光性基質を利用して酵素的に定量した。RA患者の血清中のリウマトイド因子(RF)を製造者(栄研化学、東京、日本)の指示に従って測定した。
大半の例において、RA患者からの滑膜液中のMK値は高値であり(図1A)、一方、OA患者で認められたMK値は低値に過ぎなかった。OA患者(332pg/ml)で測定された最も高いMK値をカットオフレベルとした場合、RA患者の85.4%はこれよりも高値を示した。MKレベルはRA患者におけるRFの血清レベルと相関した(相関係数、0.683;p<0.001)。患者を高レベルのRF例[RF(++)]、中等度レベルのRF例[RF(+)]およびRFを認めない例[RF(−)]に分類したところ、RF(+)またはRF(++)の患者は全例、カットオフ値を上回る値を示した。さらにRF(−)の患者18例中10例も高値を示した。RF(++)、RF(+)およびRF(−)の患者に関する平均MK値はそれぞれ9,670、7,590および1,240pg/mlであった。
RA患者では血清MK値も高値であった。正常ヒト被検者における血清MK値は600pg/mlに達しなかった(Muramatsu H.et al.,J Biochem 119:1171−5,1996;Ikematsu S.et al,Brit J Cancer 83:701−6,2000)。この値をカットオフ値として用いると、RA患者の91.6%が高値を示した(図1B)。血清MK値もRFレベルと相関したが(相関係数0.744;p<0.001)、これはC反応性タンパク質レベル、赤血球沈降速度、疾患のステージ、グレード、期間または持続期間とは相関しなかった。RF(++)患者は全例高値を示し、RF(+)患者の94.6%が陽性であった(図1B)。さらにRF(−)患者の71.9%も陽性であった(図1B)。RF(++)、RF(+)およびRF(−)の患者に関する平均MK値はそれぞれ9,790、5,240および854pg/mlであった。血清MKレベルは同じ患者の滑膜液中のMKレベルとよく相関した(相関係数、0.623;p=0.002)。血清のゲル濾過によってMK免疫反応性は低分子量画分に溶出されたため、抗MK抗体がRFと交差反応した可能性はないと判断した(非提示データ)。
本発明者らは次にMK上昇の由来について患者骨膜組織を用いて検討した。外科手術前にステロイド投与を受けていなかった女性RA患者(60〜65歳、ステージ4、グレード5)から滑膜組織を外科的に採取した。滑膜組織を直ちに氷上で冷却し、10%ホルマリン溶液(和光ケミカル、東京、日本)中で7日間固定した。脱水後に組織をパラフィン中に包埋し、長軸全体にわたり3μm厚の切片として切り出した。連続切片をスライドにマウントし、一晩乾燥させた後に気密容器内に保存した。切片を0.1%Triton X−100 PBS溶液にて15分間室温で処理し、3%BSA PBS溶液で30分間ブロックした上で、ウサギ抗ヒトMK抗体(Muramatsu H.et al.,J Biochem 119:1171−5,1996)および/またはマウスモノクローナル抗体抗CD68(マクロファージのマーカー)(Neomaekers,Fremont,CA)により40℃で一晩かけて染色し、その後にAlexa Fluor 594ヤギ抗ウサギIgGおよび/またはAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgG(Molecular Probes,Eugene,OR)により室温で1時間染色した。続いて、蛍光顕微鏡Axioskop 2 plus(ZEISS,Germany)を用いて標本を観察した。
RA患者の滑膜は主としてマクロファージ様細胞および線維芽細胞様細胞から構成されていた(図2A)。抗MK抗体は関節腔に面した細胞を強く染色し、これらの細胞は抗CD68抗体(マクロファージのマーカー)によっても染色される(図2A)。滑膜内の他の細胞は抗MK抗体によって中程度に染色される。本発明者らは全例がステージ4およびグレード5である患者4例の試料を染色し、本質的には同一の結果であることを確認した。
さらに、本発明者らは滑膜からマクロファージ様細胞および線維芽細胞様細胞を単離し、細胞レベルでのMKの発現を確認した。
マクロファージ様細胞および線維芽細胞様細胞の分離は、滑膜組織から以前に記載された方法に従って行った(Takayanagi H.et al.,Biochem Biophys Res Commun 240:279−86,1997)。抗ヒトCD14モノクローナル抗体をコーティングしたビーズおよびカラム(Miltenyi Biotec,Auburn,CA)を製造者の指示に従って用いて、MACSシステムにより、CD14+細胞を浮遊細胞から分離した。CD−14+細胞は抗CD68抗体による染色および形態によってマクロファージ様細胞として同定された。CD−14コーティングビーズのカラムを通過した細胞を培養し、0.125%トリプシンおよび0.01%EDTAを用いて2ウェルチェンバースライド(Nalge Nunc International Corp.,Naperville,Illinois)上に継代した。付着細胞を形態に基づいて線維芽細胞様細胞とみなした。分離した細胞の培養に用いた培地は、10%ウシ胎仔血清を加えたダルベッコ変法最小必須培地であった。
上記滑膜から単離した細胞の免疫染色の前処理として、細胞を4%パラホルムアルデヒドにより室温で20分間固定してPBSで洗浄し、0.1%Triton X−100 PBS溶液で9分間処理してPBSで洗浄した上で1%正常ヤギ血清により20分間処理した。続いて細胞をウサギ抗ヒトMK抗体と反応させた。フルオレセインイソチオシアネートで標識したヤギ抗ウサギIgG(Sigma,St.Lois,MO)を二次抗体として用い、標本をレーザー共焦点画像化システムMRC1024(日本バイオラッド、東京、日本)により観察した。
滑膜から単離したマクロファージ様細胞および線維芽細胞様細胞を用いた実験でも、上記免疫組織化学染色の結果(図2A)と一致する結果が得られた。すなわち、滑膜から単離されたマクロファージ様細胞および線維芽細胞様細胞の両方がMKを発現していることが確認された(図2B)。
〔実施例3〕 MK欠損マウスにおける抗体誘発性関節炎の抑制
RA患者の標本におけるMKの高発現はRAの発生機序と関係することが示唆されたため、本発明者らはこの可能性についてさらに検討した。
RAの代表的な実験モデルは抗体誘発性関節炎であり、これは抗II型コラーゲン抗体の注入後にLPS注入を行うことによって誘発される(Terato K.et al.,J Immunol 148:2103−8,1992)。本発明者らは抗体誘発性関節炎がMK遺伝子欠損マウス(Mdk−/−)で起こるか否かを調べた。
なお、ミッドカイン遺伝子(Mdk)が欠損したマウスの作出については以前に報告があり(Nakamura E.et al.,Genes Cells 3:811−22,1998)、その方法に従って実施した。ヘテロ接合性変異マウス(Mdk+/−)をC57BL/6マウスと7〜8回戻し交雑させた後に相互に交配させた。このようにして得られたWTまたはMdk−/−を1回同系交配させ、雄の子孫をWTまたはMdk−/−として実験に用いた。各実験におけるWTおよびMdk−/−の週齢には1週を上回る差がないようにした。ddY系統のマウスは日本SLC(静岡、日本)から購入した。これらの実験に用いたマウスはすべて6〜8週齢であり、名古屋大学医学部の実験動物施設で滅菌した食餌、水および床敷きを与えた上で飼育および維持を行った。実験はすべて名古屋大学の動物倫理委員会による承認を得た。
マウスへの関節炎の誘導は以前報告された方法に従って行った(Terato K.et al.,J Immunol 148:2103−8,1992)。各マウスに対して、抗II型コラーゲン抗体を含む関節炎誘発性モノクローナル抗体カクテル(岩井化学薬品、東京、日本)8mgを投与した。注射は腹腔内に2日間連続して行った。第4日に500μg/ml LPS溶液(PBS中)100μlを腹腔内注射した。各肢について関節炎の重症度を0〜4の尺度で判定した:0=正常;1=後肢関節または前肢関節の軽度であるが明確な発赤および腫脹;2=後肢関節または前肢関節の中程度の発赤および腫脹;3=肢全体の発赤および腫脹;4=複数の関節に生じた肢の極度の炎症(Terato K.et al.,J Immunol 148:2103−8,1992)。四肢に関して得た値を合計した。ポンプ試験では、ヒトMK生理食塩水溶液(1mg/ml)またはヒト血清アルブミン(和光純薬工業、大阪、日本)生理食塩水溶液(1mg/ml)を、浸透ポンプ(Alza Corporation,Palo Alto,California)を用いてMdk−/−に注入した。腹部皮下に植え込んだポンプから7日間をかけて計90μlを連続注入した。ヒトMKは酵母内で産生されたものであり(Ikematsu S.et al.,Brit J Cancer 83:701−6,2000)、セルシグナルズ社(横浜、日本)のS.Sakuma博士より寄贈された。全マウスの血清中のMKレベル(Muramatsu H.et al.,J Biochem 119:1171−5,1996)およびTNF−αレベル(Biosource International,Inc.,Camarillo,California)を測定した。
WTの場合には、抗体投与後第5日および第6日に関節の急激な腫脹が起こり、第7日にはほとんどのマウスが顕著な関節炎を発症した(表2、図3A)。しかし、ほとんどのMdk−/−では第7日(表2、図3A)にもそれ以後にも関節炎は認められなかった。第7日の平均関節炎スコアはWTでは8.3であり、Mdk−/−では0.7であった。
さらに、上記Mdk−/−マウスおよびWTマウスの関節組織の組織学的および免疫組織化学的な検査を行った。
マウスの前肢関節を摘出し、10%ホルマリン溶液(和光ケミカル、東京、日本)中で7日間固定した上で、0.5mol/lのEDTAにより脱灰処理を行った(Takahashi N.et al.,Endocrinology 122:1373−82,1988)。脱水後に組織をパラフィン中に包埋し、長軸全体にわたり3μm厚の切片として切り出した。連続切片をスライドにマウントし、一晩乾燥させた後に気密容器内に保存した。切片はヘマトキシリンおよびエオジンで染色した。同じく、切片を0.3%H PBS溶液により室温で30分間処理し、1%BSA PBS溶液で20分間ブロックした上で、一次抗体としてウサギ抗マウスMK抗体、ラット抗マウスマクロファージ(F4/80抗原)抗体(Serotec,Raleigh,NC)またはラット抗マウス好中球(Serotec)抗体により4℃で一晩染色し、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識したアフィニティー精製ヤギ抗ウサギIgG、または西洋ワサビペルオキシダーゼで標識したアフィニティー精製ヤギ抗ラットIgG(Jackson ImmunoResearch Labortories,West Grobe,PA)を二次抗体として用いた。染色したものをジアミノベンチジン四塩酸(American Pharmacia Biotech、東京、日本)によって可視化した。なお、ウサギ抗マウスMK抗体は以前の記載の通りに調製した(Muramatsu H.et al.,Dev Biol 159:392−402,1993)。
なお、統計分析は、動物モデルおよび培養細胞に関する統計的比較はStudentのt検定によって行った。
上記組織学的および免疫組織化学的な検査により、WTでは第5日および第7日に滑膜の増殖が認められ(図3B中の矢印)、第7日には関節腔の増大および滑膜液の蓄積が認められた(図3B)。Mdk−/−の場合には第5日および第7日の滑膜はWTのものよりもはるかに薄かった(図3B中の矢印)。Mdk−/−では第7日に関節腔の増大は観察されなかった(図3B)。免疫組織化学染色により、WTの滑膜内の細胞は第2日の方が第0日よりも抗MKによって強く染色された(図3B)。染色は第5日および第7日にはさらに強くなり、これは特に関節腔に面した細胞で顕著であった。血清の固相酵素免疫アッセイにより、関節炎の発生過程ではMK含量が次第に増加することが確認された(図4A)。
分析の次の段階として、本発明者らは関節炎発症に関するMdk−/−とWTとの間の違いが実際にMdkの有無に起因することを立証することを試みた。WTはC57BL/6マウスであり、Mdk−/−はC57BL/6マウスに対して戻し交雑を7〜8回行ったものであるが、その起源は129/SVマウスにある。このため、129/SVマウス由来の少量の遺伝子がMdk−/−を関節炎誘発に対して抵抗性を付与したと考えることもできなくはない。しかし、C57BL/6マウスは関節炎誘発に対して比較的抵抗性が高く、関節炎を誘発するには高用量の抗体を必要とするため、その可能性は低い。本発明者らは、同一条件下では129/SVマウス5匹すべてがC57BL/6マウスと同じく関節炎を発症することを確認した。さらに、浸透ポンプによってMdk−/−の腹膜にMKを与えると、ヒト血清アルブミンを与えた場合よりも関節炎発症の頻度は高かった(表2)。この実験により、MKが関節炎の発症に重要な因子であることが明確に立証された。

〔実施例4〕MKは炎症細胞の移動と破骨細胞の分化の両方を増強する
本発明者らは抗体誘発性関節炎の発生機序におけるMKの役割について検討した。まず、炎症を誘導する因子として、TNF−αの血清レベルを比較したところ、WTとMdk−/−との間に差はみられなかった(図4B)。したがって、MKはTNF−αとは異なる側面から関節炎の発生機序に関与している。本発明者らは、マクロファージおよび好中球の滑膜への移動はMdk−/−の方がWTよりも少ないことを見いだした(図4C、D)。すなわち、Mdk−/−における炎症性白血球の移動の低下は、虚血後の新生内膜形成(Horiba M.et al.,J Clin Invest 105:489−95,2000)および腎炎(Sato W.et al.,J Immunol 167:3463−9,2001)の場合と同じように、これらのマウスで関節炎が軽減される理由の一つである。
破骨細胞は骨破壊において中心的な役割を果たすため(Redlich K.et al.,J Clin Invest 110:1419−27,2002)、本発明者らはMKが破骨細胞の分化を促進するか否かを検討した。これまでにM−CSFおよびRANKLの組み合わせ(単独では不可)が、マクロファージからの破骨細胞の分化を誘導することが知られている(Yasuda H.et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95:3597−602,1998;Takeshita S.et al.,J Bone Miner Res 15:1477−88,2000)。本発明者らはRA患者の滑膜由来のマクロファージ様細胞をMKまたは他のサイトカインとともに培養した。破骨細胞の分化については、これらの細胞で発現されるTRAPの染色によって評価した。
より詳細には、破骨細胞の分化実験は次のように行った。単離したCD14+細胞(106個/ウェル)を2ウェルチェンバースライド(Nalge Nunc International Corp.)上に播種し、10%ウシ胎仔血清を加えたダルベッコ変法最小必須培地中にて、組換えヒトM−CSF(Chemicon International,Inc.,Temecula,Canada)および/またはRANKL(50ng/ml;PeproTech EC,Ltd.,London,U.K.)および/またはヒトMKの存在下(100ng/ml)または非存在下で3週間培養した。培地は3日毎に交換した。
M−CSF依存性骨髄マクロファージを雄性ddYマウスの全骨髄から調製し、これらの細胞の破骨細胞への分化を刺激する組換えマウスMCSF(10ng/ml)(R&D Biosystems Inc.,Minneapolis,MINN)とともに2日間培養した(Takeshita S.et al.,J Bone Miner Res 15:1477−88,2000;Takayanagi H.et al.,Nature 408:600−5,2000)。続いて、細胞を以下の因子の存在下または非存在下で3日間培養した;マウスM−CSF(10〜50ng/ml)、RANKL(100ng/ml)およびヒトMK。
ヒトおよびマウスの破骨細胞は酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)染色によって同定した(Takahashi N.et al.,Endocrinology 122:1373−82,1988)。ウェルの全領域内のTRAP陽性細胞を算定した。各実験において4つのウェルを算定し、その平均値を示した。3つの独立した実験における結果には再現性があった。
MKは100ng/mlでTRAP陽性細胞の数を有意に増加させた(図5A)。以前に報告されているように、RANKLおよびM−CSFは単独ではTRP陽性細胞を増加させないが、これらを組み合わることによりTRAP陽性細胞を増加させた。M−CSFおよびRANKLの組合せにMKを添加すると、M−CSFおよびRANKLのみを添加した場合よりも分化を促すように思われたが、その違いは有意に達するほど大きくはなかった。
完全に分化した破骨細胞は多核性であるため、本発明者らは次に、核の数が4個以上のTRAP陽性細胞を算定することによってMKの効果を評価し、同じ結論に達した(図5B)。MKによる破骨細胞への分化誘導活性の強さはこのTRAPアッセイの方が強く示された。TRAP染色の写真を図5Cに示している。
本発明者らはまた、マウス骨髄マクロファージを標的細胞として用いて、MKの破骨細胞誘導活性についても検討した。この樹立系において、MKは単独では破骨細胞の分化を誘導しなかった(図5D)。すなわち、ヒト滑膜内では前駆細胞がすでに何らかの分化段階に達している可能性がある。以前に報告されているように、M−CSFまたはRANKLは単独では分化を誘導しない(Takayanagi H.et al.,Biochem Biophys Res Commun 240:279−86,1997;Takeshita S.et al.,J Bone Miner Res 15:1477−88,2000)。MKおよびRANKLの組み合わせは分化を誘導し、その誘導のレベルはRANKLおよびM−CSFによるものと同程度であった。MK、M−CSFおよびRANKLの添加はM−CSFとRANKLの組み合わせよりも破骨細胞の分化を増強するように思われるが、その差は統計学的に有意ではなかった。
実施例の考察:RAの発生機序には種々のサイトカインがさまざまな役割を果たしている(Feldmann M.et al.,Annu Rev Immunol 14:397−440,1996)。本発明者らは、MKがこの過程において炎症性白血球の移動および破骨細胞の分化の両方に役割を果たしていることを見いだした。インビトロ試験により、MKが直接的作用およびケモカイン誘導の両方を介して炎症性白血球の移動を増強することが示された(Horiba M.et al.,J Clin Invest 105:489−95,2000;Sato W.et al.,J Immunol 167:3463−9,2001;Takada T.et al.,J Biochem 122:453−8,1997)。破骨細胞の分化を促進する活性は骨破壊との関連から重要である。MKがRANKLと協同的に作用する活性はM−CSFのものと同程度に強かった。MKのこの活性スペクトルは他のサイトカインには認められない。
Mdk−/−において抗体誘発性関節炎が事実上生じなかったことは、RAの発生機序にMKが必須な役割を果たすことを意味する。実験モデルにおける本疾患に対する抵抗性はIL−1欠損マウスで認められるレベルである(Ji H.et al.,J Exp Med 196:77−85,2002)。これに対して、TNF−α欠損マウスは実験的関節炎を時に発症する(Ji H.et al.,J Exp Med 196:77−85,2002)。IL−6欠損マウスではコラーゲン誘導性関節炎の発症が著しく抑制されるが(Ohshima S.et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95:8222−6,1998)、免疫複合体誘導性関節炎については抑制されない(Ji H.et al.,J Exp Med 196:77−85,2002)。これはIL−6が主にリンパ球活性化に関与しているためと考えられる。本発明者らは本研究で抗体誘発性モデルを用いたが、これはこのモデルでは抗体産生の影響を除外できるためである。
MKとRAとの密接な相関関係は、RA患者の滑膜内および血清中のMK値が高いことからも裏づけられる。RA患者の90%以上で血清MKレベルの上昇が認められた。RAに伴うこうした高頻度の上昇はIL−6レベルに関して観察されているが、IL−1レベルおよびTNF−αレベルについては観察されていない(Danis VA.et al.,Ann Rheum Dis 51:946−50,1992)。早期RAの診断には多数の要因の判定を要するため、RA患者の標本におけるMK発現レベルの高さは、MKレベルをRAのスクリーニングに利用しうる。
MKが関節炎の発生機序に決定的な役割を果たすことに一致して、MKはRA患者および関節炎の発症過程にあるマウスのいずれの滑膜内にも検出された。本発明者らは以前に、RA患者の滑膜内におけるMK発現を報告しているが、その際にMK発現を伴う細胞は同定されなかった(Takada T.et al.,J Biochem 122:453−8,1997)。本研究により、滑膜内のマクロファージ様細胞および線維芽細胞様細胞の両方におけるMK発現が明らかになった。すなわち、MKは適切な時期および場所に存在して、関節炎の発生機序に関係する2種類の活性を発揮する。さらに、活性化リンパ球によって分泌されるMKも関節炎の発症に寄与する可能性がある(Callebaut C.et al.,Virology 281:248−64,2001)。
TNF−αおよびIL−1に加えて、IL−6もRAの治療法の有望な標的となりつつある(Choy EH.et al.,Arthritis Rheum 46:3143−50,2002)。本願における知見は、MKが治療的応用のもう一つの候補であることを示唆する。重要な点の一つは、MKがRA発生機序の2つの異なる段階で決定的な役割を果たすことである。RAの抗サイトカイン療法における問題の一つは、奏功しない患者が存在することである。TNF−α、IL−1およびIL−6と比較したMKの作用機序の違いは、奏功する患者集団の違いを生む可能性がある。指摘すべきもう一つの点は、MKが主として妊娠中期に発現され、成人では限定された領域でしか発現されないことである(Kadomatsu K.et al.,J Cell Biol 110:607−16,1990;Tsutsui J.et al.,Cancer Res 53:1281−5,1993)。成人におけるMKの限定的な発現は重大な副作用を避けるのに役立つと思われる。
最近、MKと約45%の配列同一性を有するプレイオトロフィンがRA患者の滑膜内で誘導されることが見いだされ(Pufe T.et al.,Arthritis Rheum 48:660−7,2003)、このことからプレイオトロフィンもRAの発生機序に寄与することが示唆されている。MKおよびプレイオトロフィンは多くの系で類似した機能を示すが(Muramatsu T.J Biochem 132:359−71,2002;Kurtz A.et al.,Crit Rev Oncog 6:151−77,1995)、関節炎発症に関するMdk−/−の明らかな表現型からみて、この2つの因子はこの過程で異なる役割を果たすと考えられる。実際に、滑膜由来の細胞に対するプレイオトロフィンのインビトロ活性は増殖の賦活である(Pufe T.et al.,Arthritis Rheum 48:660−7,2003)。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、関節炎発症に関与する因子としてミッドカインが新たに同定された。ミッドカインは、RA患者において有意に発現が高く、また、関節炎の実験動物モデルでも同様にミッドカインの高発現が観察された。したがって。本発明の関節炎関連因子は、関節炎の発生を研究するための試薬としてまたは、関節炎モデルを作製する際の試薬として有用となる。
また、本発明の関節炎の検査方法は、RA患者を多面的に診断する手段として有用となる。特に、抗TNF−α抗体などで治療効果が認められない患者の診断さらにはその後の処理方法を検討する上で重要な検査方法になる可能性がある。
本発明のスクリーニング方法により得られる物質および関節炎の治療薬は、関節炎患者、特にリウマチ性関節炎患者においてミッドカインの発現が有意に高いこと、およびミッドカインノックアウト動物では関節炎の発生が著しく低減されていることを考慮すると、有望な治療薬となることが期待される。
【配列表】





【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節炎発生に関連する因子であって、下記(a)から(c)のいずれかに記載の関節炎関連因子。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA。
(c)配列番号:1に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、関節炎誘導活性を有するポリペプチドをコードしたDNA。
【請求項2】
関節炎発生に関連する因子であって、下記(a)または(b)のいずれかに記載の関節炎関連因子。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、関節炎誘導活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
関節炎がリウマチ性関節炎である、請求項1または2に記載の関節炎関連因子。
【請求項4】
被検者より採取した試料中のミッドカイン遺伝子の発現を測定する工程を含む、関節炎の検査方法。
【請求項5】
被検者より採取した試料が血液又は滑膜組織である、請求項4記載の検査方法。
【請求項6】
ミッドカイン遺伝子発現の測定がミッドカイン蛋白質またはミッドカインをコードしたmRNAを基に測定される、請求項4又は5記載の検査方法。
【請求項7】
抗ミッドカイン抗体を含む、関節炎検査用試薬。
【請求項8】
下記(a)および(b)工程を含む、関節炎の治療または予防用薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ミッドカインに被検物質を接触させる工程
(b)前記ミッドカインと被検物質との結合を検出する工程
【請求項9】
下記(a)、(b)および(c)工程を含む、関節炎の治療または予防用薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ミッドカイン遺伝子が発現している細胞に被検物質を接触させる工程
(b)被検物質接触後にミッドカイン遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検物質と接触させていない対照細胞のミッドカイン発現レベルに比べてミッドカイン遺伝子の発現レベルを低下させた被検物質を選択する工程
【請求項10】
下記(a)、(b)および(c)工程を含む、関節炎の治療または予防用薬剤の候補化合物のスクリーニング方法。
(a)ミッドカイン遺伝子のプロモータ領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に被検物質を接触させる工程
(b)被検物質接触後にレポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる被検物質を選択する工程
【請求項11】
関節炎がリウマチ性関節炎である、請求項8から10のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
ミッドカイン遺伝子の発現を抑制し得るオリゴヌクレオチドを有効成分とする関節炎予防または治療用組成物。
【請求項13】
ミッドカイン遺伝子の発現を抑制するオリゴヌクレオチドがミッドカイン遺伝子を標的とするdsRNAである、請求項12記載の関節炎予防または治療用組成物。
【請求項14】
ミッドカイン遺伝子の発現を抑制し得るオリゴヌクレオチドがミッドカイン遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項13記載の関節炎予防または治療用組成物。
【請求項15】
抗ミッドカイン抗体を有効成分とする、関節炎予防または治療用組成物。
【請求項16】
関節炎がリウマチ性関節炎である、請求項12から15のいずれかに記載の関節炎予防または治療用組成物。

【国際公開番号】WO2004/085642
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504126(P2005−504126)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004352
【国際出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(591038945)
【Fターム(参考)】